説明

自動車用差動装置

【課題】コンパニオンフランジナットが緩み難く、万一緩みが生じても、コンパニオンフランジナットが回転しない差動装置の提供。
【解決手段】コンパニオンヨークフランジ(9)は回り止めソケット(50)を備え、回り止めソケット(50)の内周面には複数の歯(51)が形成されており、複数の歯(51)が形成された回り止めソケット(50)の内周面はコンパニオンフランジナット(7)の外周面に嵌合する様に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の作動装置に関する。より詳細には、差動装置の入力軸のコンパニオンフランジ取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、差動装置1Jの入力軸3と、プロペラシャフト(推進軸)11との接続部を示している。
図5において、差動装置1Jは、ケーシング2と、入力軸3と、テーパーころ軸受け4、5とを有している。テーパーころ軸受け4、5は、入力軸3の軸方向への移動を抑制しつつ、入力軸3を回転自在に軸支している。
【0003】
入力軸3は、ピニオンギヤ31が段付の軸部32と一体で形成されており、ピニオンギヤ31は、ケーシング2内部側(図5の右側)の端部に配置されている。軸部32において、ピニオンギヤ31の形成された側の反対側(図5の左側)には、スプライン33が形成されている。
スプライン33が形成された側(図5の左側)の先端部には、突出部35が形成されており、突出部35には雄ねじ34を形成されている。
雄ねじ34における基準円の直径は、スプライン33の基準円の直径よりも小さく形成されている。
【0004】
入力軸3には、コンパニオンフランジ6が取り付けられている。
コンパニオンフランジ6は、円筒部61と、円筒部61の一端に形成されたフランジ部62とを有している。円筒部61の内周には、スプライン63が形成されている。
フランジ部61は、図6に示すように、正面形状が概略矩形形状で、4隅に接続ボルト孔64が形成されている。
【0005】
図5において、入力軸3のスプライン33は、コンパニオンフランジ6側のスプライン63と螺合している。入力軸3の雄ねじ34は、コンパニオンフランジナット7と螺合している。
コンパニオンフランジナット7は座付きナットであり、コンパニオンフランジ6を入力軸3に固定するための部材である。コンパニオンフランジナット7の図5において左側の部分には、ナット7の雌ねじ部近傍の一部に、回り止め用のカシメ部71(図8)が設けられている。
コンパニオンフランジ6において、コンパニオンフランジナット7の座面7fと当接する側(図6で示す側)には、円環状のナット座65が形成されている。
【0006】
コンパニオンフランジ6を入力軸3に取付けるに際しては、先ず、コンパニオンフランジ6のスプライン63を、入力軸3のスプライン33に取り付ける。
そして、コンパニオンフランジ6のフランジ部62とは逆側(図5では右側)の端部66を、テーパーころ軸受け4のインナーレースの端面4eに当接させる。
【0007】
端部66がインナーレースの端面4eに当接した状態において、コンパニオンフランジ6のナット座65は、入力軸3のスプライン33が形成された軸部の端面33eよりも、図5において左側へ出っ張った位置にある。
次に、コンパニオンフランジナット7を雄ねじ34に螺合させる。そして、コンパニオンフランジナット7の座面7fが、コンパニオンフランジ6のナット座65に当接するまで、コンパニオンフランジナット7を雄ねじ34に螺合させる。さらに、コンパニオンフランジナット7を所定のトルクで締め付け、コンパニオンフランジナット7に設けたカシメ部71によって、コンパニオンフランジナット7を入力軸3の雄ねじ34にカシメて、固定する。
【0008】
図5および図7を参照して、コンパニオンフランジ6の相手部品取付座6fには、相手部品である十字継ぎ手8における第1のヨーク9Jにおけるフランジ91の座面9fが当接し、ボルトB、ナットN、ワッシャWによって、コンパニオンフランジ6と第1のヨーク9Jとが接続される。
十字継ぎ手8は、第1のヨーク9Jと第2のヨーク10とを有し、第2のヨーク10は、推進軸であるプロペラシャフト11と溶接によって接合されている。
【0009】
図8は、コンパニオンフランジナット7により、コンパニオンフランジ6を入力軸3に取り付けた状態を示している。
ここで、コンパニオンフランジ6と入力軸3との接続部においては、急発進等の様に、非常に大きな負荷が繰り返し作用すると、各接触面に回転ずれが生じ摩耗する。かかるずれや摩耗は、フランジナット7の締結力の低下に繋がる。或いは、カシメ部の変形や摩耗も生じ、コンパニオンフランジナット7によって、コンパニオンフランジ6と入力軸3とを固定する力が低下する。
すなわち、コンパニオンフランジナット7の締結力の低下は、コンパニオンフランジナット7に緩みを生じさせる恐れがある。
【0010】
その他の従来技術としては、車両用終減速機の構造とその組み立て方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
この従来技術(特許文献1)は、トラックやバス等の大型自動車に使用されるもので、ギヤ系のガタの発生を抑え、リダクションピニオン及びギヤの歯当たり調整を容易に行うことを目的としたものであり、上述したような問題点を解決するものではない。
【特許文献1】特開平9−152008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、コンパニオンフランジナットを用いたコンパニオンフランジの差動装置の入力軸への取付け部において、コンパニオンフランジナットが緩み難く、万一緩みが生じても、コンパニオンフランジナットがコンパニオンフランジに対して相対回転しない様な差動装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の自動車用差動装置(100)は、コンパニオンフランジ(6)と、コンパニオンフランジ取付用のコンパニオンフランジナット(7)と、コンパニオンフランジ(6)に固定されて動力を伝達するコンパニオンヨークフランジ(9)とを有し、コンパニオンヨークフランジ(9)は回り止めソケット(50)を備え、回り止めソケット(50)の内周面には複数の歯(51)が形成されており、複数の歯(51)が形成された回り止めソケット(50)の内周面はコンパニオンフランジナット(7)の外周面に嵌合する様に構成されている(請求項1)。
【0013】
前記コンパニオンフランジナット(7)にはゆるみ止め機構(カシメ部71)が設けることが可能である(請求項2)。
【0014】
前記コンパニオンヨークフランジ(9)と回り止めソケット(50)は一体に構成されているのが好ましい(請求項3)。
【0015】
前記コンパニオンヨークフランジ(9)と回り止めソケット(50)は別体に構成することも可能である(請求項4)。
【0016】
前記回り止めソケット(50)の内周面に形成された歯(51)の数は、コンパニオンフランジナット(7)の外周面における角の数以上であるのが好ましい(請求項5)。
【0017】
前記コンパニオンフランジ(6)とコンパニオンフランジナット(7)には、位置合わせ用のマーク(M)が設けられているのが好ましい(請求項6)。
【発明の効果】
【0018】
上述する構成を具備する本発明によれば、コンパニオンヨークフランジ(9)は回り止めソケット(50)を備え、回り止めソケット(50)の内周面には複数の歯(51)が形成されており、複数の歯(51)が形成された回り止めソケット(50)の内周面はコンパニオンフランジナット(7)の外周面に嵌合する様に構成されているので、コンパニオンフランジナット(7)は、コンパニオンヨークフランジ(9)に対して相対回転をしない。そして、コンパニオンヨークフランジ(9)と一体的に接続されているコンパニオンフランジ(6)に対しても、コンパニオンフランジナット(7)は相対回転しない。
そのため、コンパニオンフランジナット(7)は緩み難く、万一緩みが生じても、コンパニオンフランジナット(7)はコンパニオンフランジ(6)に対して相対的に回転することはない。従って、コンパニオンフランジ(6)が、入力軸(3)から脱落することも無い。
【0019】
本発明において、コンパニオンフランジナット(7)にはゆるみ止め機構(カシメ部71)が設ければ(請求項2)、コンパニオンフランジナット(7)には、さらに緩みが生じ難くなる。
なお、ゆるみ止め機構(カシメ部71)は省略することが可能であり、ゆるみ止め機構(カシメ部71)を省略すれば、カシメによるコンパニオンフランジナット7や入力軸3に対して、例えばねじ部分にダメージを与えることが無い。
【0020】
本発明において、コンパニオンヨークフランジ(9)と回り止めソケット(50)とを別体に構成し、別体のソケット(50)をコンパニオンヨークフランジ(9)に固定可能とすれば(請求項4)、使用過程車両にも適用することができる。
【0021】
本発明において、回り止めソケット(50)の内周面に形成された歯(51)の数を、コンパニオンフランジナット(7)の外周面における角の数以上、例えば2倍とすれば(請求項5)、コンパニオンフランジナット(7)の雄ねじ(33)へのねじ込み量の調整が容易となる。雄ねじ(33)へのねじ込み量の調整が容易になれば、テーパーころ軸受け4、5に作用させる与圧の調整を細かく行うことが出来ると共に、ボルト、ナット等でコンパニオンフランジ(6)とヨークフランジ(9)とを接続する際に、コンパニオンフランジ(6)のボルト孔(64)と、ヨークフランジ(9)のボルト孔(94)とを位置合せすることも容易となる。
【0022】
コンパニオンフランジ(6)とコンパニオンフランジナット(7)に、位置合わせ用のマーク(M)を設ければ(請求項6)、コンパニオンフランジナット(7)の雄ねじ(33)へのねじ込み量の調整がさらに容易となる。そして、コンパニオンフランジ(6)のボルト孔(64)と、ヨークフランジ(9)のボルト孔(94)とを位置合せすることが、さらに容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面の図1〜図4を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、本発明の実施形態に係る差動装置は、全体を符号100で示されている。この作動装置100は、図5〜図9で説明した差動装置1Jの構成と同様の構成を有している。しかし、図1〜図4の作動装置100では、コンパニオンヨークフランジ9には、回り止めソケット50が設けられている。
コンパニオンヨークフランジ(ヨークフランジ)9は、図5〜図9を参照した従来技術の説明では、「第1のヨーク」と記載されている。
本発明の実施形態に係る差動装置100の説明において、従来技術と同様な構成については、詳説は省略されている。また、図1〜図4において、図5〜図8で示すのと同様な部材には、同様な符号を付している。
【0024】
図1、図2において、ヨークフランジ9における座面9fの半径方向内方側には、円環状の座グリ面91が形成されている。
ヨークフランジ9の筒状体92の内周部92iには、回り止めソケット部50が形成されている。図1、図2において、回り止めソケット部50は視覚的に把握することを容易にするため、ハッチングを付して表現されている。
【0025】
図1、図2において、ヨークフランジ9にはハッチングは付されておらず、回り止めソケット部50にはハッチングが付されている。しかし、ヨークフランジ9と回り止めソケット部50とは別体に構成されているのではなく、一体として構成されている。ハッチングを付した回り止めソケット部50、ヨークフランジ9に対して、別体で設けられているのではない。
【0026】
なお、図示は省略するが、回り止めソケット部50をヨークフランジ9へとは別体に設け、その回り止めソケット50をヨークフランジ9に嵌合するように構成することも可能である。回り止めソケット部50をヨークフランジ9と別体で設けた場合は、既出荷車両(使用過程車両)の緩み止め対策として使用することも可能である。
【0027】
図2で示す様に、回り止めソケット部50の内周面(半径方向内側)には、コンパニオンフランジナット7の六角形に形成された部分の側面が嵌合するように、連続する12の三角歯51が形成されている。そして、回り止めソケット部50の半径方向内側の領域は嵌合孔52を構成する。
換言すれば、回り止めソケット部50の半径方向内側の領域には、コンパニオンフランジナット7の六角形の部分が嵌合可能な形状の2つの孔が、同心で且つ中心角が相互に30°ずらして配置する様に形成されている。
【0028】
図2では、三角歯51は12個形成されており、その歯数(12個)はナットの側面の数(6面)の2倍となっている。しかし、三角歯51の数は12個に限定されるものではなく、6の倍数であればよい。
但し、三角歯51の数を18個(六角形側面の数の3倍)以上とすると、三角歯51を有する嵌合孔とナット六角部の寸法公差の如何により、嵌合が困難となり、相対回転を阻止できない場合がある。
【0029】
図3は、コンパニオンフランジ6を、コンパニオンフランジナット7によって入力軸3に固定した状態を示している。
図3において、コンパニオンフランジナット7のカシメ部71の真上には、例えば、位置合わせ用の三角形のマーキングMが、ペイントを塗布することによって明示されている。さらに、カシメ部71真上のマーキングMから、時計方向へ30°回転した位置にも、マーキングMが設けられている。
【0030】
上述した構成の差動装置100によれば、ヨークフランジ9と回り止めソケット部50とは一体に構成され、複数の歯51が形成された回り止めソケット50の内周面は、コンパニオンフランジナット7の外周面(六角形の部分の6つの側面)に嵌合する様に構成されているので、コンパニオンフランジナット7は緩み難い。そして、万一緩みが生じても、コンパニオンフランジナット7は、コンパニオンヨークフランジ9に対して相対回転をせず、コンパニオンヨークフランジ9と一体的に接続されているコンパニオンフランジ6に対しても相対回転しない。
そのため、コンパニオンフランジ6が、入力軸3から脱落することが防止されるのである。
【0031】
さらに、コンパニオンフランジナット7にはカシメ部71が設けられているので、より一層、緩みが生じ難くなっている。
ここで、カシメ部71は省略することも可能である。カシメ部71を省略することにより、カシメによるコンパニオンフランジナット7や入力軸3に対して、ダメージを与えてしまうことが防止される。
【0032】
さらに、上述した様に、ヨークフランジ9と回り止めソケット50とを別体に構成することが可能である。回り止めソケット部50をコンパニオンヨークフランジ9に対して固定可能に構成すれば、使用過程車両にも適用することができる。
【0033】
回り止めソケット50の内周面に形成された歯51の数を、コンパニオンフランジナット7の外周面(六角部)における側面の数(6面)以上、例えば六角形ナットにおける側面数の2倍の12個とすれば、コンパニオンフランジナット7を雄ねじ34へねじ込むねじ込み量の調整が容易となる。
雄ねじ34へのねじ込み量の調整が容易になれば、テーパーころ軸受け4、5(図5参照)に作用する与圧の調整を高精度に行うことが出来る。
【0034】
そして、コンパニオンフランジナット7を雄ねじ34へねじ込む量の調整が容易になれば、ボルトB、ワッシャW、ナットNでコンパニオンフランジ6とヨークフランジ9とを接続する際に、コンパニオンフランジ6のボルト孔64と、ヨークフランジ9のボルト孔94とを位置合わせすることも容易となる。
コンパニオンフランジ6とコンパニオンフランジナット7に、位置合わせ用のマークMを設ければ、当該マークMを目印とすることにより、コンパニオンフランジナット7を雄ねじ34へねじ込むねじ込み量を調整することが、さらに容易となり、コンパニオンフランジ6のボルト孔64と、ヨークフランジ9のボルト孔94との位置合わせも、さらに容易となる。
【0035】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
なお、本発明は、コンパニオンフランジとコンパニオンフランジ取付用のコンパニオンフランジナットを有する物であればその他のもの、例えば変速装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態の要部を示す一部断面側面図。
【図2】本発明の実施形態におけるヨークフランジの正面図。
【図3】本発明の実施形態において、コンパニオンフランジをコンパニオンフランジナットによって入力軸に固定した状態を示す図。
【図4】本発明の実施形態において、ヨークフランジの回り止めソケット部によりコンパニオンフランジナットを嵌合した状態を示す図。
【図5】従来技術における差動装置の入力軸回りの動力伝達系を示す断面図。
【図6】コンパニオンフランジ単体を図5の左方から見た図。
【図7】ヨークフランジ単体を図5の右方から見た図。
【図8】コンパニオンフランジをコンパニオンフランジナットで入力軸に取付けた状態を示した図。
【符号の説明】
【0037】
3・・・入力軸
4・・・テーパーころ軸受け
6・・・コンパニオンフランジ
7・・・コンパニオンフランジナット
9・・・ヨークフランジ
32・・・軸部
33・・・スプライン
34・・・雄ねじ
61・・・筒状部
62・・・フランジ部
63・・・スプライン
65・・・座面
71・・・カシメ部
91・・・座グリ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンパニオンフランジと、コンパニオンフランジ取付用のコンパニオンフランジナットと、コンパニオンフランジに固定されて動力を伝達するコンパニオンヨークフランジとを有し、コンパニオンヨークフランジは回り止めソケットを備え、回り止めソケットの内周面には複数の歯を形成されており、複数の歯が形成された回り止めソケットの内周面はコンパニオンフランジナットの外周面に嵌合する様に構成されていることを特徴とする自動車用差動装置。
【請求項2】
コンパニオンフランジナットにはゆるみ止め機構が設けられている請求項1の自動車用差動装置。
【請求項3】
コンパニオンヨークフランジと回り止めソケットは一体に構成されている請求項1、2の何れか1項の自動車用差動装置。
【請求項4】
コンパニオンヨークフランジと回り止めソケットは別体に構成されている請求項1、2の何れか1項の自動車用差動装置。
【請求項5】
回り止めソケットの内周面に形成された歯の数は、コンパニオンフランジナットの外周面における角の数以上である請求項1〜4の何れか1項の自動車用差動装置。
【請求項6】
コンパニオンフランジとコンパニオンフランジナットには、位置合わせ用のマークが設けられている請求項1〜5の何れか1項の自動車用差動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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