説明

自動車車体の補修塗装方法

【課題】マスキングテープを用いた自動車車体の補修塗装作業において、補修塗装が施される部分とその周辺部分との境界部におけるボカシ際を容易に且つ美しく仕上げることができる補修塗装方法を提供すること。
【解決手段】車体表面の補修塗装を必要とする被塗装部分の周囲を養生シートで覆い、被塗装部分と養生シートの境界部分に、片面に粘着剤が付着されたマスキングテープを貼付し、被塗装部分に塗料を吹き付けることにより行われる自動車車体の補修塗装方法であって、マスキングテープの貼付工程において、該マスキングテープの被塗装部分側の一定幅部分を車体表面に対して貼付せず、塗料の吹き付け工程において、マスキングテープの一定幅部分を車体表面から傾斜させて浮かせた状態としつつ、塗料の吹き付けを、被塗装部分側からであって且つマスキングテープの斜め上方から行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車車体の補修塗装方法に関し、より詳しくは、マスキングテープを用いた自動車車体の補修塗装作業において、補修塗装が施される部分とその周辺部分との境界部におけるボカシ際を容易に且つきれいに仕上げることを可能とする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補修塗装においては、補修する箇所だけを塗装すればよいが、補修箇所の色がその周辺の非補修箇所の色と同じにならないと、補修箇所と周辺の色とが微妙に合わなくなり、補修箇所が目立ってしまう。
しかし、車体の塗装面は、直射日光や降雨等の影響によって、年月の経過に伴って若干変色することが多いため、例えば新車に塗装した塗料をそのまま塗装しても色が合わない可能性が高い。また、仮に変色していなくとも、一旦塗装して乾燥した塗料と100%同じ色を調色することは不可能である。
【0003】
そのため、通常、補修塗装においては、99%或いは98%程度に調色した塗料を、「ボカシ」と呼ばれる一種のグラデーション効果を用いた塗装方法によって周辺の色と馴染ませ、見掛け上は100%色が合っているように見せている。
【0004】
このように、自動車の補修塗装は、調色によって100%同じ色が得られない分を塗装技術によってカバーし、旧塗面と100%同じ色であるかのように見せているのが実状である。
【0005】
上記した「ボカシ」という塗装方法は、図10に示すように、例えば補修塗装を行う部分(A)が10cm角の領域である場合には、塗装する部分(A)よりも広い50cm角の領域(B)を露出させるように、その周囲を新聞紙等の養生シート(C)で覆い、領域(B)と養生シート(C)との境界部にマスキングテープ(D)を貼付している。
【0006】
この場合、塗装する部分(塗装が必要な部分)は図中の(A)の部分であるが、実際に塗装をするのはその周辺も含めた領域(B)となり、図11に示すように塗装が行われる。
尚、図10及び図11において、塗装する部分の周辺領域(B)は、実際は着色されている部分であるが、図示の都合上、白色で示している。
【0007】
ところが、図11に示すように、予め想定した周辺領域(B)の大きさと、実際にボカシながら塗装作業していくときに塗装される領域の大きさとが一致しない場合があり、この場合には、図12に示すように、マスキングテープ(D)を剥がした跡のボカシ際に薄っすらと境界線(E)が残ってしまうことがある。
このような境界線が残ってしまうと、境界線を挟んで明確な段差(マスキングテープの厚み分の段差)ができてしまい、後処理でこの段差を解消する必要がある。
【0008】
このように、従来のマスキングテープを用いた補修塗装作業では、ボカシ際の処理を良好に行うことが難しかった。
【0009】
塗装用マスキングテープの改良に関する発明としては、例えば、下記特許文献1及び2に記載された発明が存在している。
特許文献1記載の発明に係るマスキングテープは、片面に粘着剤が付着している一方のテープ材の粘着剤付着面に、該一方のテープ材よりテープ幅の狭い他方のテープ材を貼り付けて、一方のテープ材の幅方向両端部のみに粘着部を形成したものである。
しかしながら、特許文献1記載の発明は、マスキングテープの塗装後の剥がし易さを向上させることを目的とするものであって、上述したような、補修塗装作業におけるボカシ際の処理を良好に行うことを可能とするものではなかった。
【0010】
また、特許文献2記載の発明に係るマスキングテープは、基材の片面に粘着部及び非粘着部を設け、粘着部を折り返し自在となるようにしたものである。
しかしながら、特許文献2記載の発明は、窓枠と窓ガラスの隙間から塗料を流入させることにより、塗装の仕上げを美しくすることを目的とするものであって、上述したような、補修塗装作業におけるボカシ際の処理を良好に行うことを可能とするものではなかった。
【0011】
【特許文献1】特開平10−165861号公報
【特許文献2】実用新案登録第3016664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、マスキングテープを用いた自動車車体の補修塗装作業において、補修塗装が施される部分とその周辺部分との境界部におけるボカシ際を容易に且つ美しく仕上げることができる補修塗装方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、車体表面の補修塗装を必要とする被塗装部分の周囲を養生シートで覆い、前記被塗装部分と前記養生シートの境界部分に、片面に粘着剤が付着されたマスキングテープを貼付し、前記被塗装部分に塗料を吹き付けることにより行われる自動車車体の補修塗装方法であって、前記マスキングテープの貼付工程において、該マスキングテープの前記被塗装部分側の一定幅部分を車体表面に対して貼付せず、前記塗料の吹き付け工程において、前記マスキングテープの一定幅部分を車体表面から傾斜させて浮かせた状態としつつ、前記塗料の吹き付けを、前記被塗装部分側からであって且つ前記マスキングテープの斜め上方から行うことを特徴とする自動車車体の補修塗装方法に関する。
【0014】
請求項2に係る発明は、前記マスキングテープとして、前記片面の幅方向一方側から一定幅部分に粘着剤が付着していない非粘着部を有するマスキングテープを使用し、前記貼付工程において、該マスキングテープの非粘着部を車体に対して貼付しないことを特徴とする請求項1記載の自動車車体の補修塗装方法に関する。
【0015】
請求項3に係る発明は、前記マスキングテープとして、前記片面の幅方向一方側から一定幅部分に紙等の非粘着性シートが貼着されたマスキングテープを使用し、前記貼付工程において、該マスキングテープの非粘着性シートの部分を車体に対して貼付しないことを特徴とする請求項1記載の自動車車体の補修塗装方法に関する。
【0016】
請求項4に係る発明は、前記マスキングテープとして、幅方向一方側から一定幅部分に長さ方向に延びる折り目線を有するマスキングテープを使用し、前記貼付工程において、該マスキングテープを折り目線に沿って谷折りすることにより、前記一定幅部分を車体に貼付しないことを特徴とする請求項1記載の自動車車体の補修塗装方法に関する。
【0017】
請求項5に係る発明は、前記マスキングテープの基材が、和紙又はクレープペーパーからなることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の自動車車体の補修塗装方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によれば、マスキングテープの貼付工程において、該テープの被塗装部分側の一定幅部分を車体に対して貼付せず、塗料の吹き付け工程において、マスキングテープの一定幅部分を車体表面から傾斜させて浮かせた状態としつつ、塗料の吹き付けを、被塗装部分側からであって且つマスキングテープの斜め上方から行うことにより、車体表面とマスキングテープとの間に隙間ができ、塗料を吹き付けた際にこの隙間に塗料が進入する。この隙間への塗料の進入は、浮き上がった部分の角度によって遮られる度合いが異なり、隙間の奥に行くほど徐々に進入量が少なくなるため、隙間部分に微妙なグラデーションが形成される。そのため、マスキングテープを剥がした跡に線が残らず、段差もできないため、後処理を行う必要がなく、綺麗な仕上がりの塗装面が得られる。
【0019】
請求項2に係る発明によれば、マスキングテープとして、片面の幅方向一方側から一定幅部分に粘着剤が付着していない非粘着部を有するマスキングテープを使用し、貼付工程において、該マスキングテープの非粘着部を車体に対して貼付しないことにより、塗料を車体の被塗装部分に対して吹き付けた際に、貼付されていない被粘着部を浮き上がらせて、車体表面との間に適度な隙間を生じさせることができ、この隙間を利用してボカシ際を良好に仕上げることが可能となる。
【0020】
請求項3に係る発明によれば、マスキングテープとして、片面の幅方向一方側から一定幅部分に紙等の非粘着性シートが貼着されたマスキングテープを使用し、貼付工程において、該マスキングテープの非粘着性シートの部分を車体に対して貼付しないことにより、塗料を車体の被塗装部分に対して吹き付けた際に、貼付されていない非粘着シートの部分を浮き上がらせて、車体表面との間に適度な隙間を生じさせることができ、この隙間を利用してボカシ際を良好に仕上げることが可能となる。
【0021】
請求項4に係る発明によれば、マスキングテープとして、幅方向一方側から一定幅部分に長さ方向に延びる折り目線を有するマスキングテープを使用し、貼付工程において、該マスキングテープを折り目線に沿って谷折りすることにより、前記一定幅部分を車体に貼付しないことによって、塗料を車体の被塗装部分に対して吹き付けた際に、谷折りされたテープの一定幅部分を浮き上がらせて、車体表面との間に適度な隙間を生じさせることができ、この隙間を利用してボカシ際を良好に仕上げることが可能となる。
【0022】
請求項5に係る発明によれば、マスキングテープの基材が、軽くて薄い和紙又はクレープペーパーからなることにより、マスキングテープを平坦に貼付した後に、塗料の吹き付けによって、基材を塗料と共に吹き付けられる空気流によって簡単に浮き上がらせることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る自動車車体の補修塗装方法の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
本発明に係る自動車車体の補修塗装方法を説明するに当たって、先ず本発明に係る方法において用いられるマスキングテープについて説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る方法において用いられるマスキングテープの第一実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は(b)図の矢印部分の拡大図である。
第一実施形態のマスキングテープ(1)は、従来のマスキングテープと同様に、基材の片面(2)に粘着剤が付着されており、前記片面を裏面として紙管等からなる芯材(3)の周囲に巻回されている。
【0025】
第一実施形態のマスキングテープ(1)が従来のマスキングテープと異なる点は、片面(2)の幅方向一方側から一定幅部分に粘着剤が付着していない非粘着部(4)を有している点である。つまり、片面(2)の幅方向一方側から一定幅部分が、粘着剤が付着していない非粘着部(4)となっており、それ以外の部分が、粘着剤が付着している粘着部(5)となっている。
【0026】
粘着部(5)は、車体表面に対して養生シートを貼り付けるために用いられる部分であるため、その幅は非粘着部(4)の幅より大きいことが好ましく、具体的には、非粘着部(4)の幅の2倍程度とすることが好ましい。
【0027】
図2は、本発明に係る方法において用いられるマスキングテープの第二実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は(b)図の矢印部分の拡大図である。
第二実施形態のマスキングテープ(1)は、従来のマスキングテープと同様に、基材の片面(2)に粘着剤が付着されており、前記片面を裏面として紙管等からなる芯材(3)の周囲に巻回されている。
【0028】
第二実施形態のマスキングテープ(1)が従来のマスキングテープと異なる点は、全面に粘着剤が塗布されている片面(2)の幅方向一方側から一定幅部分に紙等の非粘着性シートが付着されている点である。つまり、片面(2)の幅方向一方側から一定幅部分に、紙や合成樹脂フィルム等の非粘着性シート(6)が貼着されており、これによって粘着剤(7)が露出した部分と、粘着剤が非粘着性シート(6)により被覆された部分が形成されている。
【0029】
粘着剤(7)が露出した部分は、車体表面に対して養生シートを貼り付けるために用いられる部分であるため、その幅は非粘着性シート(6)により被覆された部分の幅より大きいことが好ましく、具体的には、非粘着性シート(6)により被覆された部分の幅の2倍程度とすることが好ましい。
【0030】
図3は、本発明に係る方法において用いられるマスキングテープの第三実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は(b)図の矢印部分の拡大図である。
第三実施形態のマスキングテープ(1)は、従来のマスキングテープと同様に、基材の片面(2)に粘着剤が付着されており、前記片面を裏面として紙管等からなる芯材(3)の周囲に巻回されている。
【0031】
第三実施形態のマスキングテープ(1)が従来のマスキングテープと異なる点は、全面に粘着剤が付着されている片面(2)の幅方向一方側から一定幅部分に長さ方向に延びる折り目線(8)を有する点であり、マスキングテープ(1)はこの折り目線(8)に沿って谷折りされた状態で車体表面(9)に貼付される(図3(d)参照)。
【0032】
図4は、本発明に係る方法において用いられるマスキングテープの第四実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は(b)図の矢印部分の拡大図である。
第四実施形態のマスキングテープ(1)は、上述した第一実施形態と第三実施形態を組み合わせた形態となっている。
具体的には、第一実施形態のマスキングテープの粘着部(5)と非粘着部(4)との境界線に沿って谷折り用の折り目線(8)を有している。
【0033】
上記した第一乃至第四実施形態のマスキングテープにおける基材と、第二実施形態のマスキングテープにおける非粘着性シート(6)は、和紙又はクレープペーパーとすることが好ましい。
これは、和紙又はクレープペーパーは薄くて軽いため、後述する塗料の吹き付け工程において、塗料と共に吹き付けられる空気流によって車体表面に貼付されない一定幅部分を容易に浮き上がらせることが可能となるためである。
【0034】
以下、上記構成からなるマスキングテープを用いて行われる、本発明に係る自動車車体の補修塗装方法について説明する。
本発明に係る方法では、塗装の準備工程として、図5に示すように、車体表面の補修塗装を必要とする被塗装部分(10)の周囲を新聞紙等の養生シート(11)で覆い、被塗装部分(10)と養生シート(11)の境界部分に、マスキングテープ(1)を貼付することにより養生シート(11)を車体表面に固定する。
【0035】
マスキングテープを貼付する際には、上記第一乃至第四実施形態のいずれかのマスキングテープ(1)を使用する。
このとき、マスキングテープ(1)の被塗装部分(10)側における一定幅部分を車体表面に対して貼付しない。
【0036】
第一実施形態のマスキングテープを使用する場合には、非粘着部(4)を被塗装部分(10)側に配置することにより、一定幅部分を車体表面に対して貼付しないようにする。
第二実施形態のマスキングテープを使用する場合には、非粘着性シート(6)が貼着されている部分を被塗装部分(10)側に配置することにより、一定幅部分を車体表面に対して貼付しないようにする。
第三実施形態のマスキングテープを使用する場合には、折り目線(8)に沿ってマスキングテープを谷折りした状態で、折り目線(8)を挟んだ一方側を被塗装部分(10)側に配置することにより、一定幅部分を車体表面に対して貼付しないようにする。
第四実施形態のマスキングテープを使用する場合には、折り目線(8)に沿ってマスキングテープを谷折りした状態で、折り目線(8)を挟んだ一方側(非粘着部(4)側)を被塗装部分(10)側に配置することにより、一定幅部分を車体表面に対して貼付しないようにする。
【0037】
上記したようにマスキングテープ(1)を車体表面に貼付した後、被塗装部分(10)とその周辺に対してスプレーガン等の塗料噴霧装置を利用して塗料を吹き付ける。
塗料の吹き付けは、被塗装部分(10)側からであって且つマスキングテープ(1)の斜め上方から行われる。
すると、図6に示すように、塗料と共に吹き付けられる空気流によって、車体表面に対して貼付されていないマスキングテープ(1)の一定幅部分(12)が、車体表面から被塗装部分(10)に向けて上向きに傾斜した状態で浮き上がるので、浮き上がった状態において塗料の吹き付けを更に行う。
尚、塗料を吹き付ける前に、被塗装部分(10)側からマスキングテープ(1)に対してエアーブローを行うことにより、予めマスキングテープ(1)の一定幅部分(12)を浮き上がらせておいてもよい。
【0038】
尚、第三実施形態及び第四実施形態のマスキングテープ(1)を使用した場合には、マスキングテープが折り目線(8)に沿って谷折りされているため、塗料が吹き付けられる前から、車体表面に対して貼付されていないマスキングテープ(1)の一定幅部分が、車体表面から被塗装部分(10)に向けて上向きに傾斜した状態で浮き上がっていることになる。
【0039】
このように、塗料の吹き付け工程において、マスキングテープの一定幅部分を車体表面から傾斜させて浮かせることにより、車体表面との間に隙間ができ、塗料を吹き付けた際にこの隙間に塗料が進入する。この隙間への塗料の進入量は、隙間の奥に行くほど徐々に少なくなるため、隙間部分に微妙なグラデーションが形成される。そのため、マスキングテープを剥がした跡に線が残らず、段差もできないため、後処理を行う必要がなく、綺麗な仕上がりの塗装面が得られる。
【0040】
マスキングテープ(1)の浮き上がった部分の傾斜角度(車体表面に対する角度)は、約20〜45°程度が好ましい。傾斜角度が小さすぎると、マスキングテープと車体表面との間に生じる隙間が小さすぎて塗料が進入することができなくなり、マスキングテープの幅方向の他方側端部に沿ってはっきりとした境界線が残ってしまう。逆に傾斜角度が大きすぎると、マスキングテープと車体表面との間に生じる隙間が大きすぎて多量の塗料が隙間に進入し、マスキングテープの貼付されている部分に沿ってはっきりとした境界線が残ってしまう。
【0041】
図7は、上塗りの場合における塗料の吹き付け工程を示す図である。
この場合、マスキングテープ(1)の浮き上がった部分の傾斜角度を小さくし(例えば約20〜30°)、塗料がマスキングテープ(1)の上面にも吹き付けられるようにするとよい。つまり、塗料の吹き付け角度(車体表面に対する角度)が、マスキングテープ(1)の傾斜角度よりも大きくなるようにするとよい。
このようにすると、作業者が技術によりつけるグラデーションと、浮き上がった部分の車体表面との隙間に自然に形成される微妙なグラデーションによって、ボカシ際の塗装が簡単に且つきれいにできる。
【0042】
図8は、サフェーサーの場合におけるサフェーサーの吹き付け工程を示す図である。
この場合、マスキングテープ(1)の浮き上がった部分の傾斜角度を大きくし(例えば約40〜45°)、塗料がマスキングテープ(1)の上面に吹き付けられないようにするとよい。つまり、塗料の吹き付け角度が、マスキングテープ(1)の傾斜角度よりも小さくなるようにするとよい。
このようにすると、浮き上がった部分によりサフェーサーの他の部分への飛散が防止されると同時に、マスキングテープを剥がした跡に段差ができない効果もある。
サフェーサーは、後工程で水研ぎなどの研磨作業が必要となるが、この場合でも段差ができると、それを均すには結構な労力が必要となることから、段差ができないことにより、均しの労力が削減できる効果が得られる。
【0043】
塗料の吹き付け工程が終わると、従来の方法と同様に、マスキングテープを剥がして、養生シートを除去することにより、自動車車体の補修塗装が完了する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明に係る自動車車体の補修塗装方法の実施例及び比較例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
使用済の自動車ドアパネルを2枚用意し、一方のドアパネルに対して上記第一実施形態のマスキングテープ(以下、実施例テープと称す)を使用して補修塗装を行い、他方のドアパネルに対して従来のマスキングテープ(以下、比較例テープと称す)を使用して補修塗装を行った。
先ず、塗装前準備として、ドアパネルの中央部の凡そ幅500mm×高さ300mmを被塗装部分として露出させるように、被塗装部分の周囲を新聞紙とマスキングテープを用いてマスキングした。また、中央部の凡そ100mm×100mmの部分に目印と、足付けのためのペーパー掛けを行った。
実施例テープとしては、粘着部の幅が20mm、非粘着部の幅が10mmのものを使用し、比較例テープとしては、全幅30mmに亘って粘着剤が付着しているものを使用した。また、実施例テープの貼付に当たっては、被塗装部分側に非粘着部が位置するようにし、貼付後、被塗装部分側からエアーブローして非粘着部が若干浮き上がった状態とした。
【0046】
次いで、スプレーガンを用いて被塗装部分に対して塗料を吹き付けることにより、補修塗装を行った。
塗料の吹き付けは、実施例テープ及び比較例テープのいずれに対しても、被塗装部分側からであって且つマスキングテープの斜め上方から行った。
【0047】
補修塗装完了後、実施例テープ及び比較例テープを観察すると、両方ともテープの上面に塗料が少し付着していた。
塗料を乾燥させた後、実施例テープ及び比較例テープを剥がして、ドアパネル表面のマスキングテープ貼付部分の境界線を観察した。
【0048】
図9は、塗料乾燥後のドアパネル表面のマスキングテープ貼付部分の状態を示す図であり、(A)は実施例テープを用いた場合、(B)は比較例テープを用いた場合であり、破線で囲んだ部分がテープが貼付されていた部分である。
実施例テープを用いた場合には、マスキングテープ貼付部分の境界線は薄っすらとミストが掛かっている状態で不明瞭であり、塗料による段差は確認できなかった。
一方、比較例テープを用いた場合には、マスキングテープ貼付部分の境界線が明瞭に現れ、明らかな段差が確認された。この段差は、マスキングテープ上面に塗料が付着していることから、少なくともマスキングテープの厚さ以上はあると推察された。
【0049】
以上の実施例及び比較例により、本発明に係る方法によれば、従来の方法に比べて、補修塗装が施される部分とその周辺部分との境界部を目立たせずに綺麗に処理することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、自動車車体の補修塗装を行う際に、補修塗装が施される部分とその周辺部分との境界部におけるボカシ際を容易に且つきれいに処理するために利用される技術である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る方法において用いられるマスキングテープの第一実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は(b)図の矢印部分の拡大図である。
【図2】本発明に係る方法において用いられるマスキングテープの第二実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は(b)図の矢印部分の拡大図である。
【図3】本発明に係る方法において用いられるマスキングテープの第三実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は(b)図の矢印部分の拡大図、(d)は使用状態を示す図である。
【図4】本発明に係る方法において用いられるマスキングテープの第四実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は(b)図の矢印部分の拡大図である。
【図5】本発明に係る自動車車体の補修塗装方法における塗装の準備工程を示す図である。
【図6】本発明に係る自動車車体の補修塗装方法における塗料の吹き付け工程を示す図である。
【図7】上塗りの場合における塗料の吹き付け工程を示す図である。
【図8】サフェーサーの場合における塗料の吹き付け工程を示す図である。
【図9】実施例及び比較例の塗装後の状態を示す図である。
【図10】従来の自動車車体の補修塗装方法の説明図である。
【図11】従来の自動車車体の補修塗装方法の説明図である。
【図12】従来の自動車車体の補修塗装方法の問題点を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 マスキングテープ
2 基材の片面
4 非粘着部
5 粘着部
6 非粘着性シート
8 折り目線
9 車体表面
10 被塗装部分
11 養生シート
12 一定幅部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体表面の補修塗装を必要とする被塗装部分の周囲を養生シートで覆い、
前記被塗装部分と前記養生シートの境界部分に、片面に粘着剤が付着されたマスキングテープを貼付し、
前記被塗装部分に塗料を吹き付けることにより行われる自動車車体の補修塗装方法であって、
前記マスキングテープの貼付工程において、該マスキングテープの前記被塗装部分側の一定幅部分を車体表面に対して貼付せず、
前記塗料の吹き付け工程において、前記マスキングテープの一定幅部分を車体表面から傾斜させて浮かせた状態としつつ、前記塗料の吹き付けを、前記被塗装部分側からであって且つ前記マスキングテープの斜め上方から行うことを特徴とする自動車車体の補修塗装方法。
【請求項2】
前記マスキングテープとして、前記片面の幅方向一方側から一定幅部分に粘着剤が付着していない非粘着部を有するマスキングテープを使用し、
前記貼付工程において、該マスキングテープの非粘着部を車体に対して貼付しないことを特徴とする請求項1記載の自動車車体の補修塗装方法。
【請求項3】
前記マスキングテープとして、前記片面の幅方向一方側から一定幅部分に紙等の非粘着性シートが貼着されたマスキングテープを使用し、
前記貼付工程において、該マスキングテープの非粘着性シートの部分を車体に対して貼付しないことを特徴とする請求項1記載の自動車車体の補修塗装方法。
【請求項4】
前記マスキングテープとして、幅方向一方側から一定幅部分に長さ方向に延びる折り目線を有するマスキングテープを使用し、
前記貼付工程において、該マスキングテープを折り目線に沿って谷折りすることにより、前記一定幅部分を車体に貼付しないことを特徴とする請求項1記載の自動車車体の補修塗装方法。
【請求項5】
前記マスキングテープの基材が、和紙又はクレープペーパーからなることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の自動車車体の補修塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−100199(P2008−100199A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286602(P2006−286602)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(591128305)株式会社ビック.ツール (13)
【Fターム(参考)】