自己免疫疾患を治療する方法および自己免疫疾患の治療化合物をスクリーニングする方法
本発明は、全身性紅斑性狼瘡のような全身性自己免疫疾患のモデルとして有用であるトランスジェニック動物に関する。そのような動物は、疾患のモデルとして、および疾患を治療または予防する化合物を同定するためのモデルとして有用である。さらに、本発明は、そのような疾患を診断および治療または予防する方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2000年9月27日に出願された米国仮特許出願第60/414830号の恩典に対して権利を有するものである。
【0002】
技術分野
本発明は、全身性紅斑性狼瘡(systemic lupus erythematosus)(SLE)のような全身性自己免疫疾患のモデルとして有用であるトランスジェニック動物、およびその使用法に関する。さらに、本発明は、SLEを診断および治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
全身性紅斑性狼瘡(SLE)は、免疫調節における広範囲の異常によって出現すると考えられている全身性の自己免疫疾患である(Wakelandら(2001)Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)。SLEの病因は、遺伝的要因と環境的要因の双方を含むが、詳しいことはわかっていない(Wakelandら(2001)Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)。SLEは、活性化T細胞とB細胞の存在と共に自己抗体、特に二本鎖DNA(dsDNA)に対する抗体の存在、ならびに皮膚および腎臓を含む多数の組織損傷の関与を特徴とする。IL-4およびIFN-γのような様々なサイトカインが、自己抗体を含む免疫グロブリンの過剰産生の誘導によって全身性自己免疫疾患の発病に関与すると報告されている(Akahoshiら(1999)、Arthritis Rheum. 42:1644〜8;IoannouおよびIsenberg(2000)、Arthritis Rheum. 43:1431〜42;O'Sheaら(2002)、Nature Rev. Immunol. 2:37〜45)。
【0004】
SOCS(サイトカインシグナル伝達抑制因子(suppressor of cytokine signaling))-1は、サイトカイン誘導性の細胞内分子である。SOCS-1は、リン酸化されたヤーヌスキナーゼ(Janus kinase)(JAK)と相互作用して、IFN-γ、IL-4およびIL-2のようなサイトカインシグナル伝達に関する負のフィードバック因子として機能する(Nakaら(1999)、Trends Biochem Sci.24:394〜8;Yasukawaら(2000)、Annu. Rev. Immunol. 18:143〜64;KrebsおよびHilton(2001)、Stem Cells 19:378〜87)。SOCS-1が存在しなければ、これらのサイトカインに対する過剰な反応性が起こる。SOCS-1依存的(SOCS-1-/-)マウスは、脂肪変性および壊死を特徴とする致死性肝障害、重度のリンパ球減少症、ならびに極度に活性化されたリンパ球の多数の臓器への密な浸潤のような複合疾患のために、生後3週間以内に死亡する(Nakaら(1998)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:15577〜82;Starrら(1998)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:14395〜9;Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Alexanderら(1999)、Cell 98:597〜608)。SOCS-1-/-リンパ球によって再構成したRAG2-/-マウスは類似の疾患を発症し、これらの病理学的変化に関するSOCS-1-/-リンパ球の原因的役割を示している(Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。このように、SOCS-1は、おそらくサイトカインに対する過度の反応性を阻害することによって、リンパ球の病理学的な活性化から保護するために必須である。したがって、リンパ球のみでSOCS-1欠損を補正することによって、リンパ球による多数の組織損傷からSOCS-1-/-マウスを救出することができるか否かを決定することは、重要である。
【発明の開示】
【0005】
発明の開示
本発明者らは、最初に、ヒトIgエンハンサー(Eμ)およびマウスIgHプロモーターの制御下で、リンパ様細胞においてSOCS-1を発現するSOCS-1トランスジェニック(Tg)マウス(Eμ-SOCS-1 Tgマウス)を作製した。次に、Eμ-SOCS-1 TgマウスをSOCS-1-/-マウスと交配させて、特異的にリンパ球におけるSOCS-1の発現を回復させた。その結果として、Eμ-SOCS-1-/-マウスの成熟リンパ球は、シグナル伝達性転写因子(signal transducer and activator of transcription)(STAT)の外因性の活性化を可能にして、これを通常のようにダウンレギュレートすることができない特定レベルのSOCS-1のみを発現することを示した。
【0006】
リンパ球におけるSOCS-1導入遺伝子に由来の発現によって、SOCS-1-/-マウスのいくつかの臓器病態の部分的改善が起こり、マウスの早期死亡が予防された。しかし、Eμ-SOCS-1-/-マウスではSOCS-1の回復が不完全であったために、様々な臓器における炎症性の変化の発生を予防することができなかった。
【0007】
次に、リンパ球におけるSOCS-1の異所発現によって、様々なタイプのSOCS-1-/-免疫細胞の自発的活性化が改善されるか否かを調べた(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。結果は、SOCS-1が不十分であるかまたは全く存在しなければ、様々なタイプの免疫細胞の自発的活性化が起こる可能性があること、そして次に細胞がEμ-SOCS-1-/-マウスにおける多臓器疾患の発病に関与する可能性があることを示唆している。
【0008】
CD4+ T細胞およびB細胞はいずれも異常に活性化されたことから、免疫グロブリン(Ig)の血清レベルを測定した。Th1反応に関連したIgアイソタイプであるIgG2a、およびTh2反応の産物であるIgG1/IgEはいずれも、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおいて顕著に上昇した(図4a)。この結果は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおいて、おそらくサイトカインの産生および共刺激分子の発現によるエフェクターCD4+ T細胞とB細胞との相互作用によって起こる可能性があると共に、B細胞におけるIgG1/IgE産生のためのIL-4およびIgG2aのためのIFN-γの過度のシグナル伝達によって起こる可能性がある。この仮説はまた、成体Eμ-SOCS-1-/-マウスのリンパ節および脾臓における胚中心形成によっても支持された(データは示していない)。
【0009】
多数の炎症病変、自然発生リンパ球活性化、およびIgの産生上昇のような、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるこれらの特徴は、マウスの狼瘡モデルを示している(Wakelandら(2001)、Immunity 15:397〜408)。したがって、Eμ-SOCS-1-/-マウスがDNAに対する自己抗体を産生するか否かを調べた。顕著なことに、大量の抗ssDNAおよび抗dsDNAがEμ-SOCS-1-/-マウスの血清中に検出された(図4b)。さらに、糸球体においてメサンギウム細胞が増殖し(図4c)、および大量のIgGがEμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体に沈着し(図4c)、このことは、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける抗DNAを含む自己抗体が、糸球体腎炎の十分な発病原因であることを示唆している。これらの結果は全て、Eμ-SOCS-1-/-マウスが狼瘡様の全身性自己免疫を示すことを示唆している。
【0010】
抗dsDNA抗体および抗ssDNA抗体の双方の有意な上昇はまた、数例の雌性SOCS-1+/-マウスにおいても認められたが、雄性SOCS-1+/-マウスには認められなかった(図5a)。さらに、これらの雌性SOCS-1+/-マウスは、唾液腺において炎症性の変化を示し(図5b)、Eμ-SOCS-1-/-場合と類似の腎臓の病理学的変化を示し(図5cおよび図5d)、ヒトSLEにおいて認められる雌性に偏った発生率に類似している。これらの結果は、SOCS-1が全身性自己免疫疾患の予防にとって肝要であること、そして特に雌性動物では、自己免疫を誘導するために一つのSOCS-1対立遺伝子の欠損で十分であることを示している。
【0011】
本研究において、SOCS-1の不適切な誘導が全身性自己免疫疾患の発症に重要な影響を及ぼすこと証明した。Eμ-SOCS-1-/-マウスの表現型は、ヒトSLEおよびマウス狼瘡の表現型に極めて類似している(Wakelandら(2001)、Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)。類似の表現型はまた、成体SOCS-1/STAT6またはSOCS-1/STAT1二重ノックアウトマウス(データは示していない)および成体SOCS-1+/-マウス(図5)においても認められた。したがって、SOCS-1の不十分な誘導が狼瘡様の全身性自己免疫の発症に関与する可能性がある。
【0012】
SOCS-1-/-CD4+ T細胞は、IL-2のような内因性のサイトカインに対するこれらの細胞の反応性の増強により(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806;Sporriら(2001)、Blood 97:221〜6)、インビボで異常に活性化されることが報告されている(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。しかし、SOCS-1-/-マウスにおけるT細胞活性化に関しては、他の説明も同様に示唆されている。Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるCD4+ T細胞は、他のマウス狼瘡モデルの場合と同様に全身性自己免疫の誘導において主要な役割を果たす可能性がある。本発明の研究によって、異常に活性化されたCD4+ T細胞は、様々なアイソタイプの免疫グロブリンの上昇およびB細胞と共同して抗DNA抗体の産生に関与することが示唆された。本発明者らによる予備的な知見も同様に、CD4+ T細胞に関する本質的な役割を示唆した。しかし、さらなる試験によって、Eμ-SOCS-1-/- DCは、自己免疫を単に誘導するための能力を有しているわけではないことが示唆され、これらの変異体マウスにおける異常に活性化された液性反応は、過剰に活性化されたCD4+ T細胞、ならびにIL-4およびIFN-γのような様々なサイトカインに対するB細胞の過敏性に帰因する可能性がある。
【0013】
狼瘡の感受性遺伝子座の一つが、抗dsDNA抗体の力価に影響を及ぼす近位第16染色体に存在することは注目すべきである(McHughら(2002)、Immunity 16:311〜23)。SOCS-1遺伝子は第16染色体の同じ領域にマッピングされ、マウスにおいて抗DNA抗体の上昇を誘導するためには一つのSOCS-1対立遺伝子の欠失で十分であることが証明されたという事実により(図5)、SOCS-1は、この狼瘡感受性遺伝子座の候補となる可能性がある。このように、そのコード領域またはプロモーター領域における機能的変異によるSOCS-1の作用の減少または不十分な誘導が、ヒトSLEの発病に関与する可能性がある。
【0014】
本発明は、これらの知見の結果としてなされたものであり、以下に関する:
(1)天然のサイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)-1遺伝子を欠損し、誘導的に、リンパ様細胞でSOCS-1を特異的に発現する、ヒト以外の哺乳動物。
(2)マウスである前記(1)記載の哺乳動物。
(3)全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる、前記(1)記載の哺乳動物。
(4)全身性自己免疫疾患が全身性紅斑性狼瘡(SLE)である、前記(1)記載の哺乳動物。
(5)リンパ様細胞におけるSOCS-1の発現が、Igエンハンサーの制御下でIgHプロモーターによって促進される、前記(1)記載の哺乳動物。
(6)SOCS-1対立遺伝子の一つを欠損するヒト以外の哺乳動物。
(7)雌性マウスである前記(6)記載の哺乳動物。
(8)全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる、前記(6)記載の哺乳動物。
(9)全身性の自己免疫疾患がSLEである、前記(8)記載の哺乳動物。
(10)以下の段階を含む、前記(1)〜(9)のいずれか一項記載の哺乳動物を用いて化合物をスクリーニングする方法:
(a)前記(1)〜(9)のいずれか一項記載の哺乳動物に試験化合物を投与する段階;
(b)哺乳動物の病理学的兆候の変化を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下の場合と比較して、哺乳動物の病態を減少させる化合物を選択する段階。
(11)哺乳動物の病理学的兆候が、高γグロブリン血症、自己抗体産生、および糸球体腎炎である、前記(10)記載の方法。
(12)(a)抗二本鎖(ds)DNA抗体もしくは抗一本鎖(ss)DNA抗体の量;(b)メサンギウム細胞の増殖;または(c)異常なIgG沈着が、哺乳動物の病理学的兆候の変化として検出される、前記(10)記載の方法。
(13)前記(10)〜(12)のいずれか一項記載の方法によって単離された化合物。
(14)前記(13)記載の化合物を含む全身性自己免疫疾患のための薬学的組成物。
(15)組成物がSLEに対して用いられる、前記(14)記載の薬学的組成物。
(16)SOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにハイブリダイズする、患者においてSLEを検出するためのプライマーDNA。
(17)SOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにハイブリダイズする、患者においてSLEを検出するためのオリゴヌクレオチド。
(18)前記(16)記載のプライマーDNAまたは前記(17)記載のオリゴヌクレオチドを含む、SLEを試験するための試薬。
(19)SOCS-1またはその調節配列をコードする遺伝子のヌクレオチド配列における変化を検出する、SLEを試験するための方法。
(20)以下の段階を含む、前記(19)記載の方法:
(a)被験者からのDNA試料を調製する段階;
(b)前記(16)記載のDNAプライマーを用いて(a)のDNA試料におけるDNAを増幅する段階;および
(c)(b)において増幅されたDNAのヌクレオチド配列を決定する段階。
(21)以下の段階を含む、前記(19)記載の方法:
(a)被験者からのDNA試料を調製する段階;
(b)前記(16)記載のDNAプライマーを用いて(a)のDNA試料におけるDNAを増幅する段階;
(c)増幅されたDNAを一本鎖DNAに解離する段階;
(d)非変性ゲルにおいて解離された一本鎖DNAを分離する段階;および
(e)ゲル上の分離された一本鎖DNAの移動度に基づいてヌクレオチド配列の変化を決定する段階。
(22)活性成分としてSOCS-1遺伝子を含む薬物。
(23)SLEを治療または予防するために用いられる、前記(22)記載の薬物。
(24)遺伝子がリンパ様細胞において発現されるように投与される、前記(22)または(23)記載の薬物。
(25)被験者にSOCS-1遺伝子を導入する段階を含む、被験者におけるSLEを治療または予防する方法。
【0015】
本発明を実施するための最良の形態
全身性紅斑性狼瘡(SLE)に関しては遺伝的および環境的要因の関与が示唆されているにもかかわらず(Wakelandら(2001)、Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)、詳しいことは依然としてわかっていない。このように、SLEに関与する遺伝子を同定することが当技術分野において必要である。さらに、ヒトは前臨床相において意図的に調べることができないことから、SLEのような全身性自己免疫疾患を分析するための動物モデルは、例えば、全身性自己免疫疾患を治療および/または予防するため、ならびに疾患の発病および誘発物質を研究するために、使用可能な物質のスクリーニングプロトコールにおいて使用される。ヒト疾患に関してより正確なモデルを提供することによって、可能性がある治療物質を、安全性および有効性に関する動物モデルにおいて前臨床的に評価することができる。
【0016】
本発明によって、サイトカインシグナル伝達抑制因子-1(SOCS-1)の不十分な誘導が、狼瘡様の全身性自己免疫の状態を引き起こすまたは悪化させることに関与すると示唆された。そのような遺伝子の活性をアップレギュレートすることを目的とする治療または別の経路を含む治療は、疾患の病態を改善する可能性がある。
【0017】
トランスジェニック動物
本発明は、ヒト全身性自己免疫疾患を模倣するヒト以外のトランスジェニック動物モデルを対象とする。特に、本発明は、ヒト以外のSLE動物モデルを対象とする。そのような動物モデルを、全身性自己免疫疾患のための化合物のスクリーニングに用いることができる。
【0018】
本発明によって、天然のSOCS-1遺伝子を欠損し(すなわち、ホモ接合、二つの欠損対立遺伝子)、同時にリンパ様細胞においてSOCS-1を特異的に発現するように遺伝子をトランスフェクトされた哺乳動物(以降「Eμ-SOCS-1-/-哺乳動物」と呼ぶ)は、多数の炎症性病変、自発的リンパ球活性化、Ig産生の増加、大量の抗ss-DNA抗体および抗ds-DNA抗体、糸球体におけるメサンギウム細胞増殖、ならびに糸球体における大量のIgG沈着のような特徴を示し、すなわち、狼瘡様の全身性自己免疫を示した。
【0019】
このように、本発明は、天然のSOCS-1遺伝子を欠損し、同時に誘導的に、リンパ様細胞でSOCS-1を特異的に発現するヒト以外の哺乳動物(以降「誘導型-SOCS-1-/-哺乳動物」と呼ぶ)を提供する。そのような哺乳動物を、SLEのような全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる。SOCS-1は、誘導型プロモーターの下流にSOCS-1遺伝子を含むベクターを構築してリンパ様細胞にベクターを導入することによって、動物のリンパ様細胞において誘導的に発現させることができる。好ましくは、SOCS-1遺伝子の発現は、トランスジェニック動物のリンパ様細胞において、Igエンハンサーの制御下でIgHプロモーターによって誘導される。
【0020】
誘導型SOCS-1-/-哺乳動物は、最初に、リンパ様細胞においてSOCS-1遺伝子を発現するトランスジェニック哺乳動物(以降、「Tg SOCS-1哺乳動物」と呼ぶ)を得ることによって得てもよい。トランスジェニック哺乳動物を産生する方法は当技術分野で既知である(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:7380〜4(1980))。特に、トランスジェニック哺乳動物は、誘導型プロモーターの下流にSOCS-1遺伝子を含むベクターを構築して、構築されたベクターを哺乳動物の全能性細胞(例えば、受精卵、初期胚細胞、およびES細胞のような培養細胞)に注入することによって調製してもよい。次に、細胞を個体に発達させる。SOCS-1遺伝子の導入は、哺乳動物の尾からDNAを採取して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サザンブロッティング等の特異的ヌクレオチド配列に関する通常の検出法によって遺伝子を検出することによって、確認してもよい。
【0021】
ベクターを形質導入することができる哺乳動物の受精卵は、正常な雄性動物を、排卵誘発剤を処置した雌性動物に交配させることによって採取することができる。受精卵を得るためには、ベクターを一般的にマイクロインジェクションによって雄性前核に形質導入する。構築物の形質導入の成功が予想される卵をインビトロで成長させた後、仮親の卵管に移植して、トランスジェニックキメラ動物を作製する。一般的に、輸精管切断雄性動物と交配させることによって偽妊娠状態にした雌性動物を、仮親動物として用いる。
【0022】
次に、生まれたトランスジェニックキメラ動物におけるSOCS-1遺伝子の組込を調べる。次に、首尾よく遺伝子を有するトランスジェニックキメラ動物を正常な動物と交配させて、F1動物を作製する。交配によって得られたF1動物において、体細胞に遺伝子を有する動物(ヘテロ接合体)は、外来性の遺伝子を生殖細胞に遺伝することができるトランスジェニック動物である。F2ホモ接合動物(「Tg SOCS-1哺乳動物」)は、体細胞において遺伝子を含むように選択された親と交配させることによって得ることができる。
【0023】
次に、Tg SOCS-1哺乳動物をSOCS-1+/-哺乳動物に交配させる。その子孫をSOCS-1+/-哺乳動物とさらに交配させることによって、本発明の誘導型SOCS-1トランスジェニック哺乳動物-/-哺乳動物を得ることができる。
【0024】
さらに、本発明において、SOCS-1は、全身性の自己免疫疾患の予防にとって重要であることが証明され、一つのSOCS-1対立遺伝子の欠損は、特に雌性動物において自己免疫を誘導するために十分であることが示された。すなわち、一つのSOCS-1対立遺伝子を欠損する雌性哺乳動物(以降、「SOCS-1+/-哺乳動物」と呼ぶ;ヘテロ接合動物、すなわち、一つの欠損対立遺伝子と一つの野生型対立遺伝子とを有する)は、抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の有意な上昇、唾液腺の炎症性の変化、および誘導型SOCS-1-/-哺乳動物における変化と類似の腎臓の病理学的変化を示した。このように、本発明は、SOCS-1+/-哺乳動物、好ましくはSLEのような全身性自己免疫疾患の動物モデルとして役立つ雌性動物を提供する。
【0025】
SOCS-1+/-哺乳動物は、以下のように調製してもよい。
【0026】
第一に、相同組換えのためのベクター(ノックアウトベクター)を構築する。詳しく述べると、SOCS-1遺伝子またはその発現調節領域をクローニングして、内因性のSOCS-1遺伝子を不活化するためのノックアウトベクターを構築する。SOCS-1遺伝子またはその発現調節領域を不活化するために、ノックアウトベクターは、その部分の欠失または別の遺伝子の挿入によって改変されている、不活化SOCS-1遺伝子またはその発現調節領域を有する。挿入される好ましい遺伝子には、ネオマイシン耐性遺伝子、薬物耐性遺伝子(例えば、チミジンキナーゼ遺伝子)、毒素遺伝子(例えば、ジフテリア毒素(DT)A遺伝子)のようなマーカー遺伝子またはその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を用いる場合、内因性のSOCS-1遺伝子が首尾よく組換えられる細胞を、G418の存在下で細胞を培養することによって選択することができる。別の遺伝子の挿入部位は限定されず、動物における内因性のSOCS-1遺伝子の発現がベクターとの相同組換えによって抑制できる限り、SOCS-1遺伝子またはその発現調節領域の任意の部位を用いることができる。
【0027】
または、X-ing-over(loxP)配列座を用いて、相同組換えのためのベクターを構築してもよい。loxP配列は、部位特異的リコンビナーゼであるコーゼェズ・リコンビネーション(Causes recombination)(Cre)リコンビナーゼによって認識される配列である(SternbergおよびHamilton(1981)、J. Mol. Biol. 150:467〜86)。Creリコンビナーゼは、二つのloxP配列を認識して、これらの配列間で部位特異的組換えを引き起こし、二つのloxP配列間のヌクレオチド配列を欠失させる。したがって、SOCS-1遺伝子のイントロンにおいて二つまたはそれ以上のloxP配列を含むベクターを構築して、そのベクターを用いて相同組換え細胞を得ることによって、細胞の内因性のSOCS-1遺伝子を、Creリコンビナーゼの一過性の発現によって欠失させることができる。Cre-loxPシステムの代わりに、Flpリコンビナーゼ標的(FRT)配列およびFRT配列を認識するFlpリコンビナーゼも同様に用いてもよい。
【0028】
クローニングしたSOCS-1遺伝子にそのような挿入物を導入することは、通常のDNA組換え技術に従ってインビトロで行ってもよい(Sambrookら(1989)、「Molecular Cloning」、Cold Spring Habor Laboratory Press)。
【0029】
次に、相同組換えのための構築ベクターを哺乳動物細胞に導入して、これを個体に発達させることができる。そのような細胞には、受精卵、初期胚細胞およびES細胞のような培養細胞などの全能性細胞が含まれる。ベクターの細胞への導入は、電気穿孔のような周知の方法によって行ってもよい(Chuら(1987)、Nucleic Acids Res.15:1311〜26)。細胞のいくつかにベクターを導入すると、内因性のSOCS-1遺伝子はベクターで組換えられ、部分的に欠失したSOCS-1遺伝子またはマーカー遺伝子および/またはloxP配列を含む細胞を生成する。
【0030】
組換えに成功した細胞の選択を可能にするために、好ましくはマーカー遺伝子をベクターにおいて利用する。マーカー遺伝子またはloxP配列をSOCS-1遺伝子のイントロン部位に導入して、次に内因性のSOCS-1遺伝子の不活化を確認する場合、細胞においてCreリコンビナーゼを発現させて、loxP配列間の配列を欠失させなければならない。
【0031】
細胞におけるCreリコンビナーゼの発現は、例えば、アデノウイルスベクターのような発現ベクターを用いて、またはCreリコンビナーゼの発現が相特異的プロモーターの下で制御されるトランスジェニック動物と、Cre-loxPシステムを有する動物とを交配させることによって行うことができる。
【0032】
トランスフェクトした細胞から「SOCS-1+/-哺乳動物」を得る残りの段階は、上記のTg SOCS-1哺乳動物を作製する方法と同様に行うことができる。
【0033】
Tg SOCS-1哺乳動物およびSOCS-1+/-哺乳動物はまた、当技術分野で既知の体細胞クローン動物調製法に基づいて体細胞を用いて調製してもよい(Wilmutら(1997)、Nature 385:810〜3;Wakayamaら(1998)、Nature 394:369〜74)。
【0034】
本発明によって、SOCS-1の不十分な誘導は、狼瘡様全身性自己免疫の発生に関与すると示唆され、本発明によって提供される「誘導型SOCS-1-/-」および「SOCS-1+/-」哺乳動物は、SLEのような全身性自己免疫疾患の動物モデルとして有用である。本発明において、「SOCS-1+/-動物」は好ましくは雌性動物である。
【0035】
本発明の動物は、慢性リウマチ(RA);全身性紅斑性狼瘡(SLE);皮膚筋炎;シェーグレン症候群;大動脈炎症候群などの血管炎、ヴェーゲナー肉芽腫症、および結節性多発性関節炎;混合結合組織病;多発筋炎;ベーチェット病;強皮症;スティル病;抗リン脂質抗体症候群等を含む全身性の自己免疫疾患のモデルとして役立つ。
【0036】
動物において天然に存在するSOCS-1遺伝子は、本明細書において、天然のSOCS-1遺伝子または天然の遺伝子と呼ばれ、それが変異体でない場合、遺伝子は野生型であるとも呼ばれる。SOCSタンパク質ファミリーは、STATシグナル伝達経路を阻害するように作用するSOCS-1(Starrら(1997)、Nature 387:917〜21)を含む、サイトカインシグナル伝達の負の調節因子として作用する(Alexander(2002)、Nat. Rev. Immunol. 2:410〜6)。SOCS-1は、高い親和性でJAKに直接結合して、チロシンキナーゼ活性を阻害する(Endoら(1997)、Nature 387:921〜4;Nakaら(1997)、Nature 387:924〜9)。インビトロ実験により、SOCS-1は、IL-2、IL-3、IL-6、およびIFN-γを含む、JAK-STATシグナル伝達経路を用いる多数のサイトカインによる刺激によって誘導されることが示されたが、SOCS-1が過剰発現されると、他の多数のサイトカインによるシグナル伝達を阻害することが証明された(Alexander(2002)、Nat. Rev. Immunol. 2:410〜6)。さらに、SOCS-1は、p38 MAPK経路を通してシグナル伝達を阻害することによって、線維芽細胞のTNF-αを介したアポトーシスを阻害することが示されている(Moritaら(2000)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:5405〜10)。SOCS-1はまた、Toll様受容体4を介したLPSシグナル伝達によって誘導される反応の負の調節に関与することが示されている(Kinjoら(2002)、Immunity 17:583〜91;Nakagawaら(2002)、Immunity 17:677〜87)。
【0037】
「哺乳動物」という用語は、本明細書において、胚および胎児段階を含む、任意の発達段階(世代)の全ての種類の哺乳動物を指すが、トランスジェニック動物という用語を用いる場合には、ヒトを除外するように使用される。好ましいトランスジェニック哺乳動物には、小型哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、アレチネズミ、ハムスターおよびモルモットが含まれ、マウスおよびラットのような齧歯類は特に好ましい。
【0038】
全身性自己免疫疾患に対する化合物のスクリーニング
本発明は、上記の全身性自己免疫疾患に対するヒト以外の哺乳動物モデルを用いて化合物をスクリーニングする方法を提供する。より詳しく述べると、化合物は(1)哺乳動物モデルに試験化合物を投与する段階;(2)哺乳動物の病理学的兆候の変化を検出する段階;および(3)試験化合物の非存在下と比較して哺乳動物の病態を減少させる試験化合物を選択する段階によってスクリーニングすることができる。スクリーニングによって単離された化合物は、全身性の自己免疫疾患、特にSLEの候補物質として役立つ。
【0039】
天然のSOCS-1遺伝子を欠損し、かつ誘導的にリンパ様細胞でSOCS-1を発現するヒト以外の哺乳動物(以降、「誘導型SOCS-1-/-哺乳動物」と呼ぶ)および本発明のSOCS-1対立遺伝子の一つを欠損するヒト以外の哺乳動物(以降、「SOCS-1+/-哺乳動物」と呼ぶ)の双方を、スクリーニング法において用いることができる。
【0040】
誘導型SOCS-1-/-哺乳動物をスクリーニングにおいて用いる場合、検出すべき病理学的兆候には、肝臓、肺および心臓の血管周囲浸潤物;体毛の喪失;体毛の低色素症;湿疹;中等度の浸潤物を有する小潰瘍;CD86を発現する活性化T細胞および/またはB細胞の量;樹状細胞(DC)からの共刺激分子発現;自発的リンパ球活性化;Ig産生増加;自己抗体産生、特に自己一本鎖(ss)DNA抗体および/または自己二本鎖(ds)DNA抗体産生;免疫複合体の腎臓での沈着;糸球体におけるメサンギウム細胞増殖;糸球体におけるIgG沈着;糸球体腎炎;高γグロブリン血症;炎症性皮膚炎;肺および/または心臓の炎症等が含まれる。または、SOCS-1+/-哺乳動物をスクリーニングに用いる場合、検出すべき病理学的兆候には、自己抗体産生、特に自己ss-DNA抗体および/または自己ds-DNA抗体産生;唾液腺における炎症性の変化;腎臓の病理学的変化;糸球体腎炎;抗γグロブリン血症;炎症性皮膚炎;肺および/または心臓の炎症等が含まれる。哺乳動物において検出される好ましい病理学的兆候には、高γグロブリン血症、自己抗体産生および糸球体腎炎が含まれる。病理学的兆候は、本発明において、抗ds-DNAもしくは抗ss-DNAの量を測定することによって、またはメサンギウム細胞増殖もしくは異常なIgG沈着を検出することによって検出してもよい。自己抗体(抗dsDNA抗体または抗ssDNA抗体)産生は、本発明のスクリーニング法において検出すべき最も好ましい病理学的兆候である。哺乳動物モデルにおける自己抗体産生は、哺乳動物モデルから血清を採取すること、および血清中の自己抗体を測定することによって検出することができる。
【0041】
本発明のスクリーニング法において動物モデルに試験化合物を投与することは、経口または非経口投与によって行うことができる。
【0042】
本発明のスクリーニング法において用いられる試験化合物には、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、天然化合物等が含まれるが、これらに限定されない。さらに、コンビナトリアル・ケミストリーによって合成された化合物調製ライブラリの化合物も同様に、試験化合物として用いることができる。さらに、試験化合物がタンパク質またはペプチドである場合、これはそのタンパク質またはペプチドをインビボで発現するベクターの形で投与することができる。
【0043】
全身性自己免疫疾患に対する薬学的組成物
本発明の上記のスクリーニング法によって単離された化合物は、全身性の自己免疫疾患を治療または予防するための薬剤として役立つことが期待される。その部分構造が付加、欠失、挿入および/または置換によって改変されている本発明のスクリーニング法によって単離された化合物も同様に、全身性の自己免疫疾患を治療または予防するために用いることができる化合物に含まれる。
【0044】
化合物によって治療される可能性がある全身性自己免疫疾患には、RA;SLE;皮膚筋炎;シェーグレン症候群;大動脈症候群などの血管炎、ヴェーゲナー肉芽腫症、および結節性多発関節炎;混合結合組織病;多発筋炎;ベーチェット病;強皮症;スティル病;抗リン脂質抗体症候群等が含まれる。これらの疾患において、SLEは、特に好ましい。
【0045】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物を、ヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒおよびチンパンジーのような他の哺乳動物のための薬剤として用いる場合、この化合物を、直接投与するか、または既知の薬学的調製法を用いて製剤化することができる。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤およびマイクロカプセルとして経口投与することができる;または水もしくは他の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤の形で非経口投与することができる。例えば、化合物は、一般的に許容される薬物調製に必要な単位投与剤形で、薬理学的に許容される担体または培地、特に滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、溶剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶媒、保存剤、および結合剤と混合することができる。これらの調製物における活性成分の量によって、表記の範囲内の適した用量を得ることができる。
【0046】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、およびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;蔗糖、乳糖、およびサッカリンのような甘味料;ペパーミント、冬緑油、およびサクランボのような着香料である。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体も同様に上記の成分に含めることができる。注射用滅菌組成物は、注射のために用いられる蒸留水のような溶媒を用いて通常の薬物調製に従って調製することができる。
【0047】
生理食塩液、グルコース溶液、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのようなアジュバントを含む他の等張液を、注射用水溶液として用いることができる。それらは、アルコール、特にエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコールなどの適した溶解剤;ポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤と共に用いることができる。
【0048】
ゴマ油または大豆油は、油性液体として用いることができ、安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコールのような溶解剤と共に用いてもよく;リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛薬;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤;ならびに抗酸化剤と共に調製してもよい。調製された注射剤は適したアンプルに充填される。
【0049】
当業者に周知の方法を用いて、例えば動脈内、静脈内、もしくは皮下注射として、または鼻腔内、気管支内、筋肉内、経皮、もしくは経口投与として、薬学的化合物を患者に投与してもよい。用量は、化合物、投与方法、および患者の体重、年齢、症状等に応じて変化するが、当業者は用量を適切に選択することができる。化合物がDNAによってコードされうる場合、DNAは遺伝子治療のためのベクターに挿入することができる。
【0050】
全身性紅斑性狼瘡の診断
本発明に従って、SOCS-1の異常発現は、ヒトSLEの原因であると示唆された。タンパク質の異常な発現は、タンパク質のコード領域またはプロモーター領域における機能的変異によって引き起こされる可能性がある。したがって、被験者におけるSLEの発症またはそれに対する素因を、SOCS-1遺伝子またはその調節領域における機能的変異を検出することによって診断してもよい。このように、本発明は、被験者のSOCS-1遺伝子または遺伝子の調節配列のヌクレオチド配列における変化を検出する段階を含む、被験者においてSLEに関して試験する(診断する)方法を提供する。
【0051】
本発明に従って機能的変異が検出されるSOCS-1遺伝子の調節領域には、例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列、またはターミネーター配列が含まれる。
【0052】
「機能的変異」という用語は、遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列またはタンパク質の発現レベルのいずれかを、健常者のレベルと比較して変化させるヌクレオチド配列変化を指す。このように、被験者のSOCS-1遺伝子またはその調節領域のヌクレオチド配列に機能的変異が存在する場合、被験者は、SLEの罹患または発症が疑われる。そのようなヌクレオチド配列の変化には、ヌクレオチド配列における一つまたは複数の核酸の付加、欠失、挿入および/または置換が含まれる。本明細書において、「健常者」は、SLEを有しないヒトを示す。
【0053】
機能的変異の検出は、SOCS-1遺伝子またはその調節配列のヌクレオチド配列を決定することによって行うことができる。ヌクレオチド配列を決定する場合、第一に、試験すべき被験者からDNA試料を調製しなければならない。例えば、ゲノムDNA試料は、QIAmpDNA血液キット(QIAGEN)等を用いて末梢血から採取した白血球から調製することができる。次に、DNA試料をプライマー対を用いてPCRによって増幅して、増幅されたDNAのヌクレオチド配列を決定することができる。ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法のようなヌクレオチド配列決定法を本発明の方法において利用してもよい。
【0054】
このように、SLEを検出するためのプライマーも同様に本発明によって提供される。プライマーは、それらがSOCS-1もしくはその調節配列をコードする遺伝子、またはその相補鎖とハイブリダイズして、PCRによって伸長反応を開始するためのプライマーとして役立つ限り、如何なるヌクレオチド配列を有してもよい。プライマーは、エキソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域等の領域であるが、これらに限定されない領域にハイブリダイズしてもよい。本発明のプライマーは、一般的に15量体から100量体であり、好ましくは15量体から40量体、より好ましくは20量体から30量体である。SOCS-1遺伝子またはその調節配列を増幅するために用いることができるそのようなプライマーは、SLEを検出するための試薬として用いることができる。そのような試薬は、PCRによってDNAを増幅するために必要な他の試薬(例えば、ポリメラーゼ等)と組み合わせてもよく、SLEを診断するためのキットとして供給されてもよい。
【0055】
または、本発明の被験者においてSLEの診断は、(1)被験者からのDNA試料を調製する段階;(2)プライマー対を用いてDNA試料におけるSOCS-1またはその調節配列をコードするDNAを増幅する段階;(3)増幅されたDNAを一本鎖(ss)DNAに解離する段階;(4)解離したssDNAを非変性ゲル上で分離する段階;および(5)ゲル上で分離されたssDNAの移動度に基づいてSOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにおけるヌクレオチド配列の変化を決定する段階。
【0056】
そのような方法には、少量のDNA試料について比較的に容易に行うことができ、多数のDNA試料を調べるように適合されているPCR-一本鎖高次構造多型(single strand conformation polymorphism)(SSCP)法が含まれる(Genomics 12(1):139〜46(1992);Oncogene 6(8):1313〜8(1991);PCR Methods Appl. 4(5):275〜82(1995))。PCR-SSCP法は、二本鎖DNAから解離したssDNAのそれぞれが、そのヌクレオチド配列に応じて独自の三次元構造をとるという原理に基づいている。長さが同じであるが異なるヌクレオチド配列を有するssDNAをポリアクリルアミドゲルのような非変性ゲル上で電気泳動する場合、ssDNAのそれぞれは、その三次元構造に従ってゲルの独自の位置に移動する。ssDNAの三次元構造は、一つのヌクレオチド置換によっても変化することが知られている。このように、電気泳動の非変性ゲル上で解離されたssDNAの移動度を決定して、検出された移動度を健常者(SLEを罹患しないことがわかっている)のSOCS-1遺伝子の移動度と比較することによって、DNA断片におけるヌクレオチドの欠失、挿入および付加と共に点突然変異を検出することができる。
【0057】
好ましくは、本方法に従って、SOCS-1をコードするDNAを標識する。DNAの標識は、32P、蛍光色素、ビオチン等の同位元素によって標識されたプライマーまたは基質核酸を用いてPCRを行うことによって実施することができる。または、DNAは、標識されたDNA断片を、増幅されたDNAの末端に連結させることによって、PCR後に標識することができる。次に、標識されたDNAを例えば熱によって解離して、電気泳動を行う。電気泳動は、尿素のような変性剤を含まないゲル上で行う。好ましくは、DNA断片を分離する条件を改善するために、約5〜10%グリセロールを含むポリアクリルアミドゲルを用いる。一般的に電気泳動は、室温、約20℃〜約25℃で行われる。しかし、DNA断片にとって最も適当な温度条件は、DNAの配列に応じて異なる。このように、DNA断片をその温度で適切に分離することができなければ、DNA断片の最も適当な移動度のシフトを生じる温度条件を決定するために、その範囲外の温度を調べてもよい。電気泳動後、DNA断片の移動度を、DNAの標識のために用いられる標識に適合された通常の方法によって検出する。例えば、標識のために同位元素を用いる場合、X線フィルムを用いてオートグラフィーによってDNA断片を検出することが好ましい。または、蛍光色素を用いる場合、DNAの標識はスキャナによって検出してもよい。さらに、移動度の差を検出する場合、異なる移動度のバンドをゲルから切り出して、配列における変異を直接決定してもよい。その上、ゲル上で分離したDNA断片はまた、標識を行わずにエチジウムブロマイドまたは銀染色法によって検出してもよい。
【0058】
本発明の試験法の別の態様は、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(allele specific oligonucleotide)(ASO)ハイブリダイゼーション法を利用する。標的配列に対するプローブのハイブリダイゼーション効率は、プローブのヌクレオチド配列が標的配列のヌクレオチド配列と異なる場合には低下する。そのようなハイブリダイゼーション効率の差を、通常のSOCS-1遺伝子またはその調節領域の長さ全体または一部のヌクレオチド配列を含むプローブを用いて、ヌクレオチド配列の変化を検出するために検出してもよい。好ましくは、本方法において用いられるプローブは、少なくとも15 bpの鎖長を有する。ハイブリダイゼーション効率は、サザンブロッティング、またはプローブと標的配列とのハイブリダイゼーションによって形成された二本鎖DNAのギャップへのインターカレーションによって蛍光が消失する特異的蛍光試薬の特徴を利用する方法によって検出してもよい。
【0059】
または、被験試料におけるSOCS-1遺伝子またはその調節領域のヌクレオチド配列の変化は、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって検出することができる。本方法に従って、第一に、標識されたRNAは、健常者のSOCS-1遺伝子またはその調節領域の標的領域に対応するcDNAから調製される。次に、被験者に由来するDNA試料中の標的領域(SOCS-1遺伝子またはその調節領域の全体または一部)をPCRによって増幅して、増幅されたDNAを標識されたRNAとハイブリダイズさせる。増幅されたDNAと標識されたRNAとの間でヌクレオチド配列が異なる場合、DNAとRNAの異なる部分は、一本鎖構造を形成し、これはリボヌクレアーゼAによって切断することができる。標識によって検出されるより短いRNA断片は、DNA試料のヌクレオチド配列における変化を示す。例えば、ハイブリダイゼーション後、ハイブリッドをリボヌクレアーゼAで処理して、酵素が標識RNAを切断したか否かを決定するためにゲル上で電気泳動を行う。
【0060】
SLEの治療または予防
SOCS-1の不適切な誘導は、SLEを引き起こすと示唆された。したがって、SLEは、SOCS-1の発現がSLEを罹患するかまたはSLEに対する素因を有する被験者において回復する遺伝子増強療法によって治療または予防してもよい。すなわち、SLEは、被験者にSOCS-1遺伝子を導入することによって治療または予防してもよい。このように、本発明は、SOCS-1遺伝子を被験者に導入することを含む、被験者におけるSLEを治療または予防する方法を提供する。さらに、本発明は、活性成分としてSOCS-1遺伝子を含む薬剤を提供する。
【0061】
ヒトの他に、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳動物を本発明の方法によって治療してもよい。被験者の免疫系を刺激するのではなく、治療すべき被験者と同じ起源のSOCS-1タンパク質をコードする遺伝子を用いることが好ましい。
【0062】
SOCS-1遺伝子は、遺伝子治療において通常用いられる発現ベクターに導入した後、被験者に投与してもよい。そのような発現ベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスのようなウイルスを利用するウイルスベクター、または直接投与するための真核細胞の発現ベクター(裸のDNA法)が含まれるが、これらに限定されない。ベクターの投与は、インビボ、インサイチュー、またはエクスビボ法で行ってもよい。以下のような遺伝子治療のための通常のウイルスベクターが、当技術分野で既知であり、本発明に係るSOCS-1遺伝子の投与のために用いることができる。
(1)プラスミド発現ベクター:pVR、pCMV、pCAGG;
(2)複製欠損アデノウイルスベクター:AdEF1、AdMLP;
(3)レトロウイルスベクター:LrEPSN;および
(4)アデノ随伴ウイルスベクター:rAAV-ET、AdCMV。
【0063】
裸のDNA法のためのベクターは、一般的に、複製開始点、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化配列、転写終結配列、および被験者において発現させるタンパク質をコードする外因性の遺伝子を含む。
【0064】
ベクターのプロモーターは、それが下流の遺伝子の発現を指示する限り、被験者と同じ起源のプロモーターに限定されない。例えば、プロモーターは、真核細胞およびウイルスの遺伝子に由来してもよい。誘導型プロモーターを用いる場合、SOCS-1の発現は、誘導のための条件を制御することによって調節することができる。または、組織特異的プロモーターを用いる場合、SOCS-1の発現は、特定の組織に限定され得ない。プロモーターの例には、以下が含まれる:
(1)非特異的プロモーター:β-アクチンプロモーター、α-アクチンプロモーター、チミジンキナーゼプロモーター、メタロチオネインプロモーター、インターフェロンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター;
(2)誘導型プロモーター:ステロイドホルモン受容体プロモーター;および
(3)ウイルスプロモーター:SV40プロモーター(SV40初期プロモーター(Grigby(Wiliamson編))(1982)、「Genetic Engineering」、第3巻、Academic Press、London、83〜141頁);SV40後期プロモーター(GheysenおよびFiers(1982)、J. Mol. Appl. Genet. 1:385〜94)、B型肝炎プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufmanら(1989)、Mol. Cell Biol. 9:946)。
【0065】
プロモーターは、他の発現調節領域を形成するヌクレオチド配列を導入することによって改変してもよい。例えば、ニワトリのβ-アクチンプロモーターの転写効率は、その一部をウサギのβ-グロビン遺伝子のスプライシングアクセプターに改変することによって改善されることが知られている(日本国特許第2824434号)。
【0066】
プロモーターだけでなく、発現ベクターは、ターミネータおよびエンハンサーのような他の配列を含んでもよい。これらの配列はまた、ベクターを導入する被験者と同じ起源に由来する必要はない。
【0067】
SOCS-1遺伝子は、任意の既知の方法に従って上記のベクターに導入してもよい。Sambrookらの「Molecular Cloning」、第2版(Cold Spring Habor Laboratory Press、1989)の5.61〜5.63に記載される通常の方法を、例えば導入のために用いてもよい。
【0068】
裸のDNAベクターは、ベクターをトランスフェクトした皮膚細胞または血液細胞などの細胞を被験者に移植する、エクスビボ法を含む通常の方法によって、被験者に投与してもよい。ベクターによる細胞のトランスフェクションはまた、例えば電気穿孔法によって行うことができる。より詳しく述べると、第一に、ベクターを被験者の筋肉に注射した後、注射部位を挟むように電極対を配置して電圧を加える。または、トランスITインビボ遺伝子輸送システム(TransIT In Vivo Gene Delivery System)(Mirus)等を用いる静脈内投与も同様に、SOCS-1遺伝子を投与するために利用してもよい。
【0069】
さらに、遺伝子は、リポソーム法、または裸のDNA法によるように遺伝子を一過性に発現させるセンダイウイルス(Hemagglutinating Virus of Japan)(HVJ)-リポソーム法によって被験者に導入してもよい。
【0070】
リンパ球におけるSOCS-1の構成的発現は、本発明によるSOCS-1-/-マウスの早期死亡を十分に予防することが証明された。したがって、SLEは、SLEを有するまたはSLEに対する素因を有する被験者のリンパ球のようなリンパ様細胞において、SOCS-1を発現させることによって部分的に治療または予防される可能性がある。リンパ球に限定されるSOCS-1遺伝子のそのような発現は、例えば、Igエンハンサーを用いて行ってもよい。このように、本発明の被験者においてSLEを治療または予防する方法の態様により、SOCS-1遺伝子は被験者のリンパ様細胞において発現される。
【0071】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられるように、単数形「一つ(a)」、「一つ(an)」、および「その(the)」は、「少なくとも一つ」の意味であり、本文が明らかにそうでないことを明記している場合を除き、複数形が含まれる。
【0072】
特に明記していない限り、本明細書において使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実践または試験において、本明細書に記述の方法、装置および材料と類似または同等の方法、装置および材料を用いることができるが、適した方法および材料を以下に記述する。
【0073】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願および出版物も、全ての関連する目的のために参照として本明細書に組み入れられる。
【0074】
以下の実施例は、本発明を説明するために示され、当業者が本発明を作製および使用することを補助するために示される。実施例は、本発明の範囲を如何なるようにも制限すると解釈してはならない。
【0075】
実施例1
方法
(1)Eμ-SOCS-1トランスジェニックマウスの作製
SOCS-1 cDNAを、ヒトIgエンハンサー(hEμ)およびマウスIgHプロモーターを含むpEμIgHベクター(Koikeら(1995)、Int. Immunol. 7:21〜30)のXhoI部位に挿入した。このベクターを直鎖状にして、C57BL/6マウスの受精卵に注入した。創始マウスおよびその子孫を、いくつかの系統を確立するために尾のDNAを用いてPCRによってスクリーニングした。この試験に関して、本発明者らは、B-8と呼ばれる系統から得たトランスジェニックマウスを使用した。
【0076】
(2)SOCS-1-/-マウス
C57BL/6バックグラウンドにおいて戻し交配したSOCS-1-/-マウスおよびSOCS-1/STAT6二重ノックアウト(DKO)は、既に報告された(Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。Eμ-SOCS-1-/-マウスを得るために、Eμ-SOCS-1 TgマウスをC57BL/6バックグラウンドでSOCS-1+/-マウスと交配させて、子孫Eμ-SOCS-1+/-マウスをSOCS-1+/-マウスとさらに交配した。
【0077】
(3)フローサイトメトリー分析
単細胞懸濁液は、既に報告されている通りに調製した(Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806)。細胞を、CD4、CD8、CD62L、CD86、およびB220に対するFITC-、PE-、PerCP、またはAPC-結合抗体(全て、Pharmingenから購入)によって染色して、CellQuestソフトウェアを用いてFACSCalibur(Becton Dickinson)において分析した。
【0078】
(4)ウェスタンブロット分析
リンパ節細胞を、表記の時間に50 ng/ml IFN-γ(Peprotech)によって刺激した。既に記述されているように細胞溶解物をSDS-PAGEにかけた。フィルターに転写した試料を抗体;抗-ホスホ-STAT1(Upstate Biotechnology)および抗STAT1(Transduction Laboratory)によって処理して、既に記述されているように可視化した(Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806)。
【0079】
(5)組織学的分析
ホルマリン固定組織をヘマトキシリン-エオジン(HE)または過ヨウ素酸-シッフ(PAS)によって染色した。腎臓におけるIgG沈着を検出するために、腎臓を液体窒素において急速に凍結して、厚さ2 μmの凍結切片を100%アセトンにおいて15分間固定した。切片を、濃度10 μg/mlのFITC-結合ヤギ抗マウスIgG(ICN Biomedicals、CA)と共に4℃で一晩インキュベートした。
【0080】
(6)樹状細胞とCD4+ T細胞の共培養
DCを得るために、単細胞懸濁液を、Eμ-SOCS-1-/-およびEμ-SOCS-1+/+マウス(H-2b)のコラゲナーゼ注入脾臓から調製した。直径10 cmのプラスチック皿において2時間インキュベートした後、非接着細胞を除去して、接着細胞をさらに一晩培養した。CD11c+細胞を自動MACS(Miltenyi Biotec、Auburn、CA)を用いて単離して、DCとして用いた。BALB/cマウス(H-2d)からのCD4+ T細胞を、放射線照射DCと共に72時間インキュベートして、最後の16時間を[3H]TdRによってパルスした。
【0081】
(7)血清免疫グロブリン
免疫グロブリン血清レベルは、製造元の説明書に従ってELISAによって決定した。用いた抗体は、ALP結合抗IgG1および抗IgG1(Southern Biotechnology)、ビオチン化抗IgG2aおよび抗IgG2a(Pharmingen)、ビオチン化抗IgEおよび抗IgE、ならびにストレプトアビジン結合HRP(Pharmingen)であった。
【0082】
(8)抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の検出
抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の血清レベルは、市販のELISAキット(シバヤギ(Shibayagi))を用いて製造元の説明書に従って測定した。
【0083】
結果
Eμ-SOCS-1 Tgマウスは、胸腺において顕著な量のSOCS-1を発現し(図1aおよび図1b)、脾臓(図1b)および骨髄(データは示していない)ではこれより少ない量を発現した。導入遺伝子の発現は、Eμ-SOCS-1 Tgマウスの肝臓においても検出された(図1b)。Eμ-SOCS-1 Tgマウスは、健常であるように見え、肉眼的な異常を示さなかった(図1d)が、別のリンパ球特異的SOCS-1 Tgマウスの場合にはリンパ球数の軽度の減少を認めた(Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806)(データは示していない)。
【0084】
リンパ球においてSOCS-1の発現を特異的に回復するようにSOCS-1-/-マウスと交配させたEμ-SOCS-1 Tgマウスにおいて、Eμ/IgHプロモーターによって促進されたSOCS-1発現は、内因性のSOCS-1プロモーターの活性化によって誘導される場合より不十分であった。EμSOCS-1-/-マウスからのリンパ節細胞を、SOCS-1の強力な誘発物質であるIFN-γによって刺激すると、STAT活性化は、野生型細胞の場合と同様に明らかに検出可能であり(データは示していない)、野生型細胞(データは示していない)およびEμ-SOCS-1+/+細胞(図1c)と比較して明らかに持続した。これらの結果は、Eμ-SOCS-1-/-マウスの成熟リンパ球が、STATの外因性の活性化を可能にして、これを通常のようにダウンレギュレートすることができない特定レベルのSOCS-1のみを発現することを示している。
【0085】
SOCS-1の作用が不適切であったにもかかわらず(図1c)、Eμ-SOCS-1-/-マウスのほとんどが、3週間より長く生存することができた(図1e)。SOCS-1-/-マウスと比較して、それらは、免疫臓器の構造に部分的改善を示した(データは示していない)。その上、Eμ-SOCS-1-/-マウスは、SOCS-1-/-マウスにおいて認められた致死性肝炎を回避した。しかし、Eμ-SOCS-1-/-マウスは、肝臓、肺、および心臓において血管周囲浸潤物を伴う病理学的な変化を示した(図2b)。それらはまた、体毛の喪失、体毛の低色素症、湿疹、および中等度の浸潤物を有する小潰瘍を伴う皮膚の変化を発症した(図2aおよび図2b)。このように、リンパ球におけるSOCS-1の導入遺伝子に由来の発現によって、SOCS-1-/-マウスのいくつかの臓器病態の部分的改善が起こり、早期死亡が予防された。しかし、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるSOCS-1の不完全な回復は、様々な臓器における炎症性の変化の生成を防止することができなかった。
【0086】
次に、リンパ球におけるSOCS-1の異所発現が、様々なタイプのSOCS-1-/-免疫細胞の自発的な活性化を改善するか否かを調べた(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。Eμ-SOCS-1-/-マウスは、なおも活性化T細胞の割合(図3a)および共刺激分子であるCD86を発現するB細胞の割合(図3b)の有意な増加を示した。さらに、Eμ-SOCS-1-/-マウスの樹状細胞(DC)は、わずかに高いレベルの共刺激分子を発現し(図3c)、Eμ-SOCS-1+/+細胞の場合より同種異系CD4+ T細胞における増殖反応の誘導能が有意により高かった(図3d)。SOCS-1-/-マウスからのDCについても類似の結果を認めた(データは示していない)。これらの結果は、SOCS-1が不十分であるかまたは全く存在しないために、様々なタイプの免疫細胞の自発的な活性化が起こる可能性があり、次に、細胞は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける多臓器疾患の発病に関与する可能性がある。
【0087】
多数の炎症病変、自発的リンパ球活性化およびIgの産生の上昇のようなEμ-SOCS-1-/-マウスにおける特徴は、マウスの狼瘡モデルを示している(Wakelandら(2001)、Immunity 15:397〜408)。したがって、Eμ-SOCS-1-/-マウスを、DNAに対する自己抗体を産生するか否かに関して調べた。特に、大量の抗ss-DNAおよび抗dsDNAがEμ-SOCS-1-/-マウスの血清中に検出された(図4b)。本発明者らはまた、SLEにおいて、免疫複合体の沈着によって損傷を受ける代表的な臓器である腎臓の病理学的変化に関して調べた。メサンギウム細胞増殖は、Eμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体において認められた(図4c)。その上、大量のIgGがEμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体において沈着した(図4c)。これらの結果は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおいて抗DNAを含む自己抗体が、糸球体腎炎の十分な発病原因であることを示唆している。これらの結果は全て、Eμ-SOCS-1-/-マウスが、狼瘡様の全身性自己免疫を示すことを示唆する。
【0088】
Eμ導入遺伝子の自己免疫に対する関与の可能性を除外するために、そして自己抗体産生におけるSOCS-1の不適切な作用の重要性をさらに実証するために、一つのSOCS-1対立遺伝子の欠損による表現型を示すことが報告される成体(>6ヶ月齢)SOCS-1+/-マウスを調べた(Lindemanら(2001)、Genes Dev. 15:1631〜6)。抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の双方の有意な上昇を数例のSOCS-1+/-雌性マウスにおいて認めたが、雄性SOCS-1+/-マウスには認めなかった(図5a)。その上、これらの雌性SOCS-1+/-マウスは、唾液腺における炎症性の変化を示し(図5b)、Eμ-SOCS-1-/-マウスの場合と類似の腎臓の病理学的変化を示した(図5cおよび図5d)。このことは、雌性に偏った発生率がヒトSLEにおいて認められることを示唆する。これらの結果は、SOCS-1が全身性の自己免疫疾患の予防にとって重要であること、そして一つのSOCS-1対立遺伝子の欠損が特に雌性動物において自己免疫を誘導するために十分であることを示している。
【0089】
本発明は、SOCS-1の不適切な誘導が全身性の自己免疫疾患の発生に重要な作用を及ぼすこと証明した。この結果は、サイトカインが全身性の自己免疫疾患の発病において重要な役割を有するというこれまでの知見と一致する(IoannouおよびIsenberg(2000)、Arthritis Rheum. 43:1431〜42;O'Sheaら(2002)、Nature Rev. Immunol. 2:37〜45)。リンパ球におけるSOCS-1の構成的発現は、SOCS-1-/-マウスの早期死亡を予防するために十分であることが判明した(図1e)。しかし、この導入遺伝子は、IFN-γによる刺激の際のSTAT1活性化の通常の終了(図1c)、およびSOCS-1欠損によって引き起こされた様々な疾患に対する保護(図2)にとって不十分である。さらに、成体Eμ-SOCS-1-/-マウスは、SOCS-1-/-マウスには認められないいくつかのさらなる病理学的兆候を示した。特に、それらのマウスは、高ガンマグロブリン血症、自己抗体産生(図4aおよび図4b)、ならびにメサンギウム細胞の増殖および異常なIgG沈着(図4c)を有する糸球体腎炎を伴う全身性自己免疫疾患を自然に発症した。さらに、炎症性皮膚炎(図2aおよび図2b)ならびに肺および心臓の炎症(図2b)を自然に発症することは、これらのマウスが自己免疫を有するという仮説を強める可能性がある。SOCS-1-/-マウスにはこれらの変化がないことは、B細胞数が重度に減少し、それらのマウスが自身の免疫グロブリンを産生できる前に早期に死亡するためである可能性がある(Nakaら(1998)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:15577〜82;Starrら(1998)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:14395〜9)。Eμ-SOCS-1-/-マウスの表現型は、ヒトSLEおよびマウス狼瘡の両者に極めて類似している(Wakelandら(2001)Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)。類似の表現型はまた、成体SOCS-1/STAT6またはSOCS-1/STAT1二重ノックアウトマウス(データは示していない)および成体SOCS-1+/-マウス(図5)においても認められた。したがって、SOCS-1の不十分な誘導は、狼瘡様の全身性自己免疫の発症に関与する可能性がある。
【0090】
既に報告されたように、SOCS-1-/- CD4+ T細胞は、インビボで異常に活性化される(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Nakaら(2001)ら、Immunity 14:535〜45)。これは、おそらくIL-2のような内因性のサイトカインに対するこれらの細胞の反応の増強による(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806;Sporriら(2001)、Blood 97:221〜6)。しかし、SOCS-1-/-マウスにおけるT細胞活性化には他の説明があるかも知れない。例えば、SOCS-1を欠損するDCは、インビボでわずかに活性化されるように思われることから(図3cおよび図3d)、DCは、これらの変異体マウスのCD4+ T細胞の活性化に関与する可能性がある。さらに、SOCS-1は、胸腺において選択的に発現されるために、SOCS-1の不適切な誘導によって、胸腺の選択の変化および自己反応性T細胞の産生が起こる可能性がある(Starrら(1997)、Nature 387:917〜21;Nakaら(1997)、Nature 387:924〜9)。CD4+ CD25+免疫調節T細胞の機能障害もまた、大量のSOCS-1がこのタイプのT細胞において選択的に誘導されることから(McHughら(2002)、Immunity 16:311〜23;Gavinら(2002)、Nat. Immunol.3:33〜41)、T細胞の活性化に関係する可能性がある。いずれにせよ、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるCD4+ T細胞は、他のマウス狼瘡モデルの場合と同様に全身性自己免疫の誘導において主要な役割を有する可能性がある。Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける末梢のCD4+ T細胞は、活性化表現型を示した(図3a)。B細胞と協調して(図3b)、異常に活性化されたCD4+ T細胞は、様々なアイソタイプの免疫グロブリンの増加および抗DNA抗体の産生に関与する可能性があるが(図4a、図4bおよび図5a)、詳しいメカニズムは依然として不明である。また、本発明者らによる予備的な知見では、CD4-/-バックグラウンドのSOCS-1+/-マウスが抗DNA抗体の増加を示さないことから、CD4+ T細胞に関する本質的な役割も示唆された(データは示していない)。しかし、変異体マウスから調製した骨髄由来のDCの養子免疫移入は、同系マウスにおいて自己抗体産生を誘導せず(データは示していない)、Eμ-SOCS-1-/-DCが単独で自己免疫の誘導能を有しないことを示唆している。このように、これらの変異体マウスにおける異常に活性化された液体反応は、過剰に活性化されたCD4+ T細胞ならびにIL-4およびIFN-γのような様々なサイトカインに対するB細胞の過敏性に帰因することができると考えられる。
【0091】
狼瘡感受性遺伝子座の一つは、抗ds-DNA抗体の力価に影響を及ぼす近位の第16染色体に存在することに注目しなければならない(McHughら(2002)、Immunity 16:311〜23)。SOCS-1遺伝子は、第16染色体の同じ領域にマッピングされ、一つのSOCS-1対立遺伝子の欠失は、マウスにおいて抗DNA抗体の上昇を誘導するために十分であることが証明されたという事実から(図5)、SOCS-1は、この狼瘡感受性遺伝子座の候補物質である可能性がある。このように、そのコードまたはプロモーター領域における機能的変異のためにSOCS-1の作用が減少または不十分に誘導されると、ヒトSLEの発病に関与する可能性がある。最近の研究は、肝細胞癌細胞において、SOCS-1発現がSOCS-1プロモーターにおけるCgP島のメチル化の結果として消失することを示した(Yoshikawaら(2001)、Nat. Genet. 28:29〜35;Nagaiら(2001)、J. Hepatol. 34:416〜21)。免疫細胞における類似の後生学的変化もまた、ヒトSLEの発病を説明できる可能性がある。
【0092】
産業上の利用可能性
SOCS-1はJAKの負の調節分子であり、それが欠損すると、適応免疫応答に関与する様々なサイトカインに対する過敏反応性を誘導する。SOCS-1-/-マウスは、異常に活性化されたリンパ球に応じて自然に致死性疾患を発症する。本発明により、リンパ球においてSOCS-1が回復すれば、早期発症致死性疾患からSOCS-1-/-マウスを救出することが示された。しかし、これらの変異体マウスからのリンパ球は、サイトカインシグナル伝達をダウンレギュレートすることができず、マウスは、様々なアイソタイプの免疫グロブリンと抗DNA抗体の血清レベルを増加するというさらなる臨床兆候を示した。さらに、これらの変異体マウスは、メサンギウム細胞の増殖および重度の糸球体IgG沈着を有する糸球体腎炎を自然に発症した。これらの表現型は、全身性の自己免疫疾患である全身性紅斑性狼瘡(SLE)の表現型と類似する。興味深いことに、類似の表現型も同様に、成体SOCS-1+/-マウスにおいて認められた。このように、SOCS-1の不適切な誘導によって誘導された全身性の自己免疫疾患は、過度に活性化されたT細胞とB細胞、および液性免疫関連サイトカインに対するB細胞の過敏性が原因である可能性があり、それらによって自己反応性B細胞による自己抗体産生が起こる可能性がある。これらの知見は、SOCS-1の機能障害が、SLEのような全身性の自己免疫疾患の強力な発病原因である可能性があることを示唆した。
【0093】
これらの結果に基づいて、本発明者らは、SOCS-1またはその調節配列をコードする遺伝子のヌクレオチド配列における変化を検出することによって、SLEが診断される可能性があると考えた。さらに、本発明に従って、SLEは、患者のリンパ様細胞において発現されるSOCS-1遺伝子を投与することによって治療または予防してもよい。さらに、本発明は、SOCS-1対立遺伝子の一つを欠損する哺乳動物、またはSOCS-1遺伝子を欠損し、リンパ様細胞においてSOCS-1を誘導的に発現する哺乳動物を、全身性自己免疫疾患モデルとして提供する。そのような動物モデルは、SLEのような全身性自己免疫疾患を治療する化合物をスクリーニングするために用いることができる。
【0094】
本発明は、詳細に、その特定の態様を参照して記述してきたが、様々な変更および改変を行うことができ、それらも本発明の趣旨および範囲に含まれることは当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】Eμ-SOCS-1-/-マウスの作製を示す。図1(a)は、Eμ-SOCS-1トランスジェニックマウスにおけるSOCS-1の発現を示す。Eμ-SOCS-1トランスジェニックマウスの胸腺におけるSOCS-1の発現の増強は、ウェスタンブロット分析によって検出した。図1(b)は、RT-PCRによって検出した導入遺伝子の発現を示す(肝臓、脾臓、および胸腺)。図1(c)は、Eμ-SOCS-1-/-リンパ節細胞におけるIFN-γに反応したSTAT1の持続的な活性化を示す。Eμ-SOCS-1+/+マウスまたはEμ-SOCS-1-/-マウスからのLN細胞を、表記の時間でIFN-γによって刺激した。これらの細胞を溶解して、チロシンリン酸化STAT1およびSTAT1に対する抗体を用いてウェスタンブロットによって分析した。図1(d)は、SOCS-1-/-マウスと比較してEμ-SOCS-1-/-マウスの生存が改善されたことを示す。図1(e)は、SOCS-1-/-マウスと比較してEμ-SOCS-1-/-マウスの成長が改善されたことを示す。
【図2】Eμ-SOCS-1-/-マウスの肉眼所見と組織学的分析を示す。図2(a)は、成体Eμ-SOCS-1-/-マウスの外観を示す。Eμ-SOCS-1-/-マウスは、対照マウスよりやや小さく、体毛の低色素症、脱毛(頭部)、および湿疹(尾)のような皮膚病変を示した。図2(b)は、Eμ-SOCS-1-/-マウス(4ヶ月齢)の組織学的分析を示す。肝臓、皮膚、肺、および心臓のHE染色により、Eμ-SOCS-1-/-マウスでの単核球の浸潤が明らかとなった。
【図3】Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける免疫細胞の分析を示す。(aおよびb)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるT細胞およびB細胞の活性化の増強を示す。T細胞(a)およびB細胞(b)の活性化状態はそれぞれ、フローサイトメトリーによってCD44およびCD86の発現によって評価した。図3(c)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるDC上での共刺激分子のアップレギュレーションを示す。CD11c+細胞上での表記の共刺激分子の表面発現を、フローサイトメトリーによって分析した。図3(d)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスからのDCの抗原提示活性の増強を示す。同種異系マウスからのCD4+ T細胞を、Eμ-SOCS-1-/-マウスまたは対照マウスからのDCの存在下でインビトロで培養して、CD4+ T細胞の増殖反応を[3H]チミジン取り込みによって決定した。
【図4】Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける狼瘡様の異常を示す。図4(a)は、ELISAによって決定したEμ-SOCS-1-/-マウスの免疫グロブリン血清レベルの増加を示す。図4(b)および(c)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける自己抗体産生の増強を示す。ds-DNAおよびss-DNAに対するIgG抗体の血清レベルをELISAによって測定した。図4(d)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける糸球体腎炎を示す。上のパネルは、Eμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体(PAS染色)において認められたマトリクスおよびメサンギウム増殖の増加を示す。下のパネルは、FITC標識抗マウスIgGによって染色した腎切片を示し、Eμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体にIgGが沈着していることを明らかにしている。
【図5】成体SOCS-1+/-マウスにおける全身性自己免疫を示す。図5(a)は、ELISAによって測定した成体SOCS-1+/-マウスにおける血清中の抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の上昇を示す。図5(b)は、SOCS-1+/-マウスの臓器における病理学的変化を示す。単核球の浸潤は、SOCS-1+/-マウスの顎下線(上のパネル)および腎臓(中段のパネル)に存在した。SOCS-1+/-マウスの腎臓(下のパネル)には、高細胞糸球体を認めた。図5(c)は、SOCS-1+/-マウスの糸球体におけるIgG沈着物を示す。SOCS-1+/+マウスおよびSOCS-1+/-マウスの腎臓を、図4cに記述したように染色した。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2000年9月27日に出願された米国仮特許出願第60/414830号の恩典に対して権利を有するものである。
【0002】
技術分野
本発明は、全身性紅斑性狼瘡(systemic lupus erythematosus)(SLE)のような全身性自己免疫疾患のモデルとして有用であるトランスジェニック動物、およびその使用法に関する。さらに、本発明は、SLEを診断および治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景技術
全身性紅斑性狼瘡(SLE)は、免疫調節における広範囲の異常によって出現すると考えられている全身性の自己免疫疾患である(Wakelandら(2001)Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)。SLEの病因は、遺伝的要因と環境的要因の双方を含むが、詳しいことはわかっていない(Wakelandら(2001)Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)。SLEは、活性化T細胞とB細胞の存在と共に自己抗体、特に二本鎖DNA(dsDNA)に対する抗体の存在、ならびに皮膚および腎臓を含む多数の組織損傷の関与を特徴とする。IL-4およびIFN-γのような様々なサイトカインが、自己抗体を含む免疫グロブリンの過剰産生の誘導によって全身性自己免疫疾患の発病に関与すると報告されている(Akahoshiら(1999)、Arthritis Rheum. 42:1644〜8;IoannouおよびIsenberg(2000)、Arthritis Rheum. 43:1431〜42;O'Sheaら(2002)、Nature Rev. Immunol. 2:37〜45)。
【0004】
SOCS(サイトカインシグナル伝達抑制因子(suppressor of cytokine signaling))-1は、サイトカイン誘導性の細胞内分子である。SOCS-1は、リン酸化されたヤーヌスキナーゼ(Janus kinase)(JAK)と相互作用して、IFN-γ、IL-4およびIL-2のようなサイトカインシグナル伝達に関する負のフィードバック因子として機能する(Nakaら(1999)、Trends Biochem Sci.24:394〜8;Yasukawaら(2000)、Annu. Rev. Immunol. 18:143〜64;KrebsおよびHilton(2001)、Stem Cells 19:378〜87)。SOCS-1が存在しなければ、これらのサイトカインに対する過剰な反応性が起こる。SOCS-1依存的(SOCS-1-/-)マウスは、脂肪変性および壊死を特徴とする致死性肝障害、重度のリンパ球減少症、ならびに極度に活性化されたリンパ球の多数の臓器への密な浸潤のような複合疾患のために、生後3週間以内に死亡する(Nakaら(1998)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:15577〜82;Starrら(1998)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:14395〜9;Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Alexanderら(1999)、Cell 98:597〜608)。SOCS-1-/-リンパ球によって再構成したRAG2-/-マウスは類似の疾患を発症し、これらの病理学的変化に関するSOCS-1-/-リンパ球の原因的役割を示している(Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。このように、SOCS-1は、おそらくサイトカインに対する過度の反応性を阻害することによって、リンパ球の病理学的な活性化から保護するために必須である。したがって、リンパ球のみでSOCS-1欠損を補正することによって、リンパ球による多数の組織損傷からSOCS-1-/-マウスを救出することができるか否かを決定することは、重要である。
【発明の開示】
【0005】
発明の開示
本発明者らは、最初に、ヒトIgエンハンサー(Eμ)およびマウスIgHプロモーターの制御下で、リンパ様細胞においてSOCS-1を発現するSOCS-1トランスジェニック(Tg)マウス(Eμ-SOCS-1 Tgマウス)を作製した。次に、Eμ-SOCS-1 TgマウスをSOCS-1-/-マウスと交配させて、特異的にリンパ球におけるSOCS-1の発現を回復させた。その結果として、Eμ-SOCS-1-/-マウスの成熟リンパ球は、シグナル伝達性転写因子(signal transducer and activator of transcription)(STAT)の外因性の活性化を可能にして、これを通常のようにダウンレギュレートすることができない特定レベルのSOCS-1のみを発現することを示した。
【0006】
リンパ球におけるSOCS-1導入遺伝子に由来の発現によって、SOCS-1-/-マウスのいくつかの臓器病態の部分的改善が起こり、マウスの早期死亡が予防された。しかし、Eμ-SOCS-1-/-マウスではSOCS-1の回復が不完全であったために、様々な臓器における炎症性の変化の発生を予防することができなかった。
【0007】
次に、リンパ球におけるSOCS-1の異所発現によって、様々なタイプのSOCS-1-/-免疫細胞の自発的活性化が改善されるか否かを調べた(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。結果は、SOCS-1が不十分であるかまたは全く存在しなければ、様々なタイプの免疫細胞の自発的活性化が起こる可能性があること、そして次に細胞がEμ-SOCS-1-/-マウスにおける多臓器疾患の発病に関与する可能性があることを示唆している。
【0008】
CD4+ T細胞およびB細胞はいずれも異常に活性化されたことから、免疫グロブリン(Ig)の血清レベルを測定した。Th1反応に関連したIgアイソタイプであるIgG2a、およびTh2反応の産物であるIgG1/IgEはいずれも、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおいて顕著に上昇した(図4a)。この結果は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおいて、おそらくサイトカインの産生および共刺激分子の発現によるエフェクターCD4+ T細胞とB細胞との相互作用によって起こる可能性があると共に、B細胞におけるIgG1/IgE産生のためのIL-4およびIgG2aのためのIFN-γの過度のシグナル伝達によって起こる可能性がある。この仮説はまた、成体Eμ-SOCS-1-/-マウスのリンパ節および脾臓における胚中心形成によっても支持された(データは示していない)。
【0009】
多数の炎症病変、自然発生リンパ球活性化、およびIgの産生上昇のような、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるこれらの特徴は、マウスの狼瘡モデルを示している(Wakelandら(2001)、Immunity 15:397〜408)。したがって、Eμ-SOCS-1-/-マウスがDNAに対する自己抗体を産生するか否かを調べた。顕著なことに、大量の抗ssDNAおよび抗dsDNAがEμ-SOCS-1-/-マウスの血清中に検出された(図4b)。さらに、糸球体においてメサンギウム細胞が増殖し(図4c)、および大量のIgGがEμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体に沈着し(図4c)、このことは、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける抗DNAを含む自己抗体が、糸球体腎炎の十分な発病原因であることを示唆している。これらの結果は全て、Eμ-SOCS-1-/-マウスが狼瘡様の全身性自己免疫を示すことを示唆している。
【0010】
抗dsDNA抗体および抗ssDNA抗体の双方の有意な上昇はまた、数例の雌性SOCS-1+/-マウスにおいても認められたが、雄性SOCS-1+/-マウスには認められなかった(図5a)。さらに、これらの雌性SOCS-1+/-マウスは、唾液腺において炎症性の変化を示し(図5b)、Eμ-SOCS-1-/-場合と類似の腎臓の病理学的変化を示し(図5cおよび図5d)、ヒトSLEにおいて認められる雌性に偏った発生率に類似している。これらの結果は、SOCS-1が全身性自己免疫疾患の予防にとって肝要であること、そして特に雌性動物では、自己免疫を誘導するために一つのSOCS-1対立遺伝子の欠損で十分であることを示している。
【0011】
本研究において、SOCS-1の不適切な誘導が全身性自己免疫疾患の発症に重要な影響を及ぼすこと証明した。Eμ-SOCS-1-/-マウスの表現型は、ヒトSLEおよびマウス狼瘡の表現型に極めて類似している(Wakelandら(2001)、Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)。類似の表現型はまた、成体SOCS-1/STAT6またはSOCS-1/STAT1二重ノックアウトマウス(データは示していない)および成体SOCS-1+/-マウス(図5)においても認められた。したがって、SOCS-1の不十分な誘導が狼瘡様の全身性自己免疫の発症に関与する可能性がある。
【0012】
SOCS-1-/-CD4+ T細胞は、IL-2のような内因性のサイトカインに対するこれらの細胞の反応性の増強により(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806;Sporriら(2001)、Blood 97:221〜6)、インビボで異常に活性化されることが報告されている(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。しかし、SOCS-1-/-マウスにおけるT細胞活性化に関しては、他の説明も同様に示唆されている。Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるCD4+ T細胞は、他のマウス狼瘡モデルの場合と同様に全身性自己免疫の誘導において主要な役割を果たす可能性がある。本発明の研究によって、異常に活性化されたCD4+ T細胞は、様々なアイソタイプの免疫グロブリンの上昇およびB細胞と共同して抗DNA抗体の産生に関与することが示唆された。本発明者らによる予備的な知見も同様に、CD4+ T細胞に関する本質的な役割を示唆した。しかし、さらなる試験によって、Eμ-SOCS-1-/- DCは、自己免疫を単に誘導するための能力を有しているわけではないことが示唆され、これらの変異体マウスにおける異常に活性化された液性反応は、過剰に活性化されたCD4+ T細胞、ならびにIL-4およびIFN-γのような様々なサイトカインに対するB細胞の過敏性に帰因する可能性がある。
【0013】
狼瘡の感受性遺伝子座の一つが、抗dsDNA抗体の力価に影響を及ぼす近位第16染色体に存在することは注目すべきである(McHughら(2002)、Immunity 16:311〜23)。SOCS-1遺伝子は第16染色体の同じ領域にマッピングされ、マウスにおいて抗DNA抗体の上昇を誘導するためには一つのSOCS-1対立遺伝子の欠失で十分であることが証明されたという事実により(図5)、SOCS-1は、この狼瘡感受性遺伝子座の候補となる可能性がある。このように、そのコード領域またはプロモーター領域における機能的変異によるSOCS-1の作用の減少または不十分な誘導が、ヒトSLEの発病に関与する可能性がある。
【0014】
本発明は、これらの知見の結果としてなされたものであり、以下に関する:
(1)天然のサイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)-1遺伝子を欠損し、誘導的に、リンパ様細胞でSOCS-1を特異的に発現する、ヒト以外の哺乳動物。
(2)マウスである前記(1)記載の哺乳動物。
(3)全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる、前記(1)記載の哺乳動物。
(4)全身性自己免疫疾患が全身性紅斑性狼瘡(SLE)である、前記(1)記載の哺乳動物。
(5)リンパ様細胞におけるSOCS-1の発現が、Igエンハンサーの制御下でIgHプロモーターによって促進される、前記(1)記載の哺乳動物。
(6)SOCS-1対立遺伝子の一つを欠損するヒト以外の哺乳動物。
(7)雌性マウスである前記(6)記載の哺乳動物。
(8)全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる、前記(6)記載の哺乳動物。
(9)全身性の自己免疫疾患がSLEである、前記(8)記載の哺乳動物。
(10)以下の段階を含む、前記(1)〜(9)のいずれか一項記載の哺乳動物を用いて化合物をスクリーニングする方法:
(a)前記(1)〜(9)のいずれか一項記載の哺乳動物に試験化合物を投与する段階;
(b)哺乳動物の病理学的兆候の変化を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下の場合と比較して、哺乳動物の病態を減少させる化合物を選択する段階。
(11)哺乳動物の病理学的兆候が、高γグロブリン血症、自己抗体産生、および糸球体腎炎である、前記(10)記載の方法。
(12)(a)抗二本鎖(ds)DNA抗体もしくは抗一本鎖(ss)DNA抗体の量;(b)メサンギウム細胞の増殖;または(c)異常なIgG沈着が、哺乳動物の病理学的兆候の変化として検出される、前記(10)記載の方法。
(13)前記(10)〜(12)のいずれか一項記載の方法によって単離された化合物。
(14)前記(13)記載の化合物を含む全身性自己免疫疾患のための薬学的組成物。
(15)組成物がSLEに対して用いられる、前記(14)記載の薬学的組成物。
(16)SOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにハイブリダイズする、患者においてSLEを検出するためのプライマーDNA。
(17)SOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにハイブリダイズする、患者においてSLEを検出するためのオリゴヌクレオチド。
(18)前記(16)記載のプライマーDNAまたは前記(17)記載のオリゴヌクレオチドを含む、SLEを試験するための試薬。
(19)SOCS-1またはその調節配列をコードする遺伝子のヌクレオチド配列における変化を検出する、SLEを試験するための方法。
(20)以下の段階を含む、前記(19)記載の方法:
(a)被験者からのDNA試料を調製する段階;
(b)前記(16)記載のDNAプライマーを用いて(a)のDNA試料におけるDNAを増幅する段階;および
(c)(b)において増幅されたDNAのヌクレオチド配列を決定する段階。
(21)以下の段階を含む、前記(19)記載の方法:
(a)被験者からのDNA試料を調製する段階;
(b)前記(16)記載のDNAプライマーを用いて(a)のDNA試料におけるDNAを増幅する段階;
(c)増幅されたDNAを一本鎖DNAに解離する段階;
(d)非変性ゲルにおいて解離された一本鎖DNAを分離する段階;および
(e)ゲル上の分離された一本鎖DNAの移動度に基づいてヌクレオチド配列の変化を決定する段階。
(22)活性成分としてSOCS-1遺伝子を含む薬物。
(23)SLEを治療または予防するために用いられる、前記(22)記載の薬物。
(24)遺伝子がリンパ様細胞において発現されるように投与される、前記(22)または(23)記載の薬物。
(25)被験者にSOCS-1遺伝子を導入する段階を含む、被験者におけるSLEを治療または予防する方法。
【0015】
本発明を実施するための最良の形態
全身性紅斑性狼瘡(SLE)に関しては遺伝的および環境的要因の関与が示唆されているにもかかわらず(Wakelandら(2001)、Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)、詳しいことは依然としてわかっていない。このように、SLEに関与する遺伝子を同定することが当技術分野において必要である。さらに、ヒトは前臨床相において意図的に調べることができないことから、SLEのような全身性自己免疫疾患を分析するための動物モデルは、例えば、全身性自己免疫疾患を治療および/または予防するため、ならびに疾患の発病および誘発物質を研究するために、使用可能な物質のスクリーニングプロトコールにおいて使用される。ヒト疾患に関してより正確なモデルを提供することによって、可能性がある治療物質を、安全性および有効性に関する動物モデルにおいて前臨床的に評価することができる。
【0016】
本発明によって、サイトカインシグナル伝達抑制因子-1(SOCS-1)の不十分な誘導が、狼瘡様の全身性自己免疫の状態を引き起こすまたは悪化させることに関与すると示唆された。そのような遺伝子の活性をアップレギュレートすることを目的とする治療または別の経路を含む治療は、疾患の病態を改善する可能性がある。
【0017】
トランスジェニック動物
本発明は、ヒト全身性自己免疫疾患を模倣するヒト以外のトランスジェニック動物モデルを対象とする。特に、本発明は、ヒト以外のSLE動物モデルを対象とする。そのような動物モデルを、全身性自己免疫疾患のための化合物のスクリーニングに用いることができる。
【0018】
本発明によって、天然のSOCS-1遺伝子を欠損し(すなわち、ホモ接合、二つの欠損対立遺伝子)、同時にリンパ様細胞においてSOCS-1を特異的に発現するように遺伝子をトランスフェクトされた哺乳動物(以降「Eμ-SOCS-1-/-哺乳動物」と呼ぶ)は、多数の炎症性病変、自発的リンパ球活性化、Ig産生の増加、大量の抗ss-DNA抗体および抗ds-DNA抗体、糸球体におけるメサンギウム細胞増殖、ならびに糸球体における大量のIgG沈着のような特徴を示し、すなわち、狼瘡様の全身性自己免疫を示した。
【0019】
このように、本発明は、天然のSOCS-1遺伝子を欠損し、同時に誘導的に、リンパ様細胞でSOCS-1を特異的に発現するヒト以外の哺乳動物(以降「誘導型-SOCS-1-/-哺乳動物」と呼ぶ)を提供する。そのような哺乳動物を、SLEのような全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる。SOCS-1は、誘導型プロモーターの下流にSOCS-1遺伝子を含むベクターを構築してリンパ様細胞にベクターを導入することによって、動物のリンパ様細胞において誘導的に発現させることができる。好ましくは、SOCS-1遺伝子の発現は、トランスジェニック動物のリンパ様細胞において、Igエンハンサーの制御下でIgHプロモーターによって誘導される。
【0020】
誘導型SOCS-1-/-哺乳動物は、最初に、リンパ様細胞においてSOCS-1遺伝子を発現するトランスジェニック哺乳動物(以降、「Tg SOCS-1哺乳動物」と呼ぶ)を得ることによって得てもよい。トランスジェニック哺乳動物を産生する方法は当技術分野で既知である(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:7380〜4(1980))。特に、トランスジェニック哺乳動物は、誘導型プロモーターの下流にSOCS-1遺伝子を含むベクターを構築して、構築されたベクターを哺乳動物の全能性細胞(例えば、受精卵、初期胚細胞、およびES細胞のような培養細胞)に注入することによって調製してもよい。次に、細胞を個体に発達させる。SOCS-1遺伝子の導入は、哺乳動物の尾からDNAを採取して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サザンブロッティング等の特異的ヌクレオチド配列に関する通常の検出法によって遺伝子を検出することによって、確認してもよい。
【0021】
ベクターを形質導入することができる哺乳動物の受精卵は、正常な雄性動物を、排卵誘発剤を処置した雌性動物に交配させることによって採取することができる。受精卵を得るためには、ベクターを一般的にマイクロインジェクションによって雄性前核に形質導入する。構築物の形質導入の成功が予想される卵をインビトロで成長させた後、仮親の卵管に移植して、トランスジェニックキメラ動物を作製する。一般的に、輸精管切断雄性動物と交配させることによって偽妊娠状態にした雌性動物を、仮親動物として用いる。
【0022】
次に、生まれたトランスジェニックキメラ動物におけるSOCS-1遺伝子の組込を調べる。次に、首尾よく遺伝子を有するトランスジェニックキメラ動物を正常な動物と交配させて、F1動物を作製する。交配によって得られたF1動物において、体細胞に遺伝子を有する動物(ヘテロ接合体)は、外来性の遺伝子を生殖細胞に遺伝することができるトランスジェニック動物である。F2ホモ接合動物(「Tg SOCS-1哺乳動物」)は、体細胞において遺伝子を含むように選択された親と交配させることによって得ることができる。
【0023】
次に、Tg SOCS-1哺乳動物をSOCS-1+/-哺乳動物に交配させる。その子孫をSOCS-1+/-哺乳動物とさらに交配させることによって、本発明の誘導型SOCS-1トランスジェニック哺乳動物-/-哺乳動物を得ることができる。
【0024】
さらに、本発明において、SOCS-1は、全身性の自己免疫疾患の予防にとって重要であることが証明され、一つのSOCS-1対立遺伝子の欠損は、特に雌性動物において自己免疫を誘導するために十分であることが示された。すなわち、一つのSOCS-1対立遺伝子を欠損する雌性哺乳動物(以降、「SOCS-1+/-哺乳動物」と呼ぶ;ヘテロ接合動物、すなわち、一つの欠損対立遺伝子と一つの野生型対立遺伝子とを有する)は、抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の有意な上昇、唾液腺の炎症性の変化、および誘導型SOCS-1-/-哺乳動物における変化と類似の腎臓の病理学的変化を示した。このように、本発明は、SOCS-1+/-哺乳動物、好ましくはSLEのような全身性自己免疫疾患の動物モデルとして役立つ雌性動物を提供する。
【0025】
SOCS-1+/-哺乳動物は、以下のように調製してもよい。
【0026】
第一に、相同組換えのためのベクター(ノックアウトベクター)を構築する。詳しく述べると、SOCS-1遺伝子またはその発現調節領域をクローニングして、内因性のSOCS-1遺伝子を不活化するためのノックアウトベクターを構築する。SOCS-1遺伝子またはその発現調節領域を不活化するために、ノックアウトベクターは、その部分の欠失または別の遺伝子の挿入によって改変されている、不活化SOCS-1遺伝子またはその発現調節領域を有する。挿入される好ましい遺伝子には、ネオマイシン耐性遺伝子、薬物耐性遺伝子(例えば、チミジンキナーゼ遺伝子)、毒素遺伝子(例えば、ジフテリア毒素(DT)A遺伝子)のようなマーカー遺伝子またはその組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を用いる場合、内因性のSOCS-1遺伝子が首尾よく組換えられる細胞を、G418の存在下で細胞を培養することによって選択することができる。別の遺伝子の挿入部位は限定されず、動物における内因性のSOCS-1遺伝子の発現がベクターとの相同組換えによって抑制できる限り、SOCS-1遺伝子またはその発現調節領域の任意の部位を用いることができる。
【0027】
または、X-ing-over(loxP)配列座を用いて、相同組換えのためのベクターを構築してもよい。loxP配列は、部位特異的リコンビナーゼであるコーゼェズ・リコンビネーション(Causes recombination)(Cre)リコンビナーゼによって認識される配列である(SternbergおよびHamilton(1981)、J. Mol. Biol. 150:467〜86)。Creリコンビナーゼは、二つのloxP配列を認識して、これらの配列間で部位特異的組換えを引き起こし、二つのloxP配列間のヌクレオチド配列を欠失させる。したがって、SOCS-1遺伝子のイントロンにおいて二つまたはそれ以上のloxP配列を含むベクターを構築して、そのベクターを用いて相同組換え細胞を得ることによって、細胞の内因性のSOCS-1遺伝子を、Creリコンビナーゼの一過性の発現によって欠失させることができる。Cre-loxPシステムの代わりに、Flpリコンビナーゼ標的(FRT)配列およびFRT配列を認識するFlpリコンビナーゼも同様に用いてもよい。
【0028】
クローニングしたSOCS-1遺伝子にそのような挿入物を導入することは、通常のDNA組換え技術に従ってインビトロで行ってもよい(Sambrookら(1989)、「Molecular Cloning」、Cold Spring Habor Laboratory Press)。
【0029】
次に、相同組換えのための構築ベクターを哺乳動物細胞に導入して、これを個体に発達させることができる。そのような細胞には、受精卵、初期胚細胞およびES細胞のような培養細胞などの全能性細胞が含まれる。ベクターの細胞への導入は、電気穿孔のような周知の方法によって行ってもよい(Chuら(1987)、Nucleic Acids Res.15:1311〜26)。細胞のいくつかにベクターを導入すると、内因性のSOCS-1遺伝子はベクターで組換えられ、部分的に欠失したSOCS-1遺伝子またはマーカー遺伝子および/またはloxP配列を含む細胞を生成する。
【0030】
組換えに成功した細胞の選択を可能にするために、好ましくはマーカー遺伝子をベクターにおいて利用する。マーカー遺伝子またはloxP配列をSOCS-1遺伝子のイントロン部位に導入して、次に内因性のSOCS-1遺伝子の不活化を確認する場合、細胞においてCreリコンビナーゼを発現させて、loxP配列間の配列を欠失させなければならない。
【0031】
細胞におけるCreリコンビナーゼの発現は、例えば、アデノウイルスベクターのような発現ベクターを用いて、またはCreリコンビナーゼの発現が相特異的プロモーターの下で制御されるトランスジェニック動物と、Cre-loxPシステムを有する動物とを交配させることによって行うことができる。
【0032】
トランスフェクトした細胞から「SOCS-1+/-哺乳動物」を得る残りの段階は、上記のTg SOCS-1哺乳動物を作製する方法と同様に行うことができる。
【0033】
Tg SOCS-1哺乳動物およびSOCS-1+/-哺乳動物はまた、当技術分野で既知の体細胞クローン動物調製法に基づいて体細胞を用いて調製してもよい(Wilmutら(1997)、Nature 385:810〜3;Wakayamaら(1998)、Nature 394:369〜74)。
【0034】
本発明によって、SOCS-1の不十分な誘導は、狼瘡様全身性自己免疫の発生に関与すると示唆され、本発明によって提供される「誘導型SOCS-1-/-」および「SOCS-1+/-」哺乳動物は、SLEのような全身性自己免疫疾患の動物モデルとして有用である。本発明において、「SOCS-1+/-動物」は好ましくは雌性動物である。
【0035】
本発明の動物は、慢性リウマチ(RA);全身性紅斑性狼瘡(SLE);皮膚筋炎;シェーグレン症候群;大動脈炎症候群などの血管炎、ヴェーゲナー肉芽腫症、および結節性多発性関節炎;混合結合組織病;多発筋炎;ベーチェット病;強皮症;スティル病;抗リン脂質抗体症候群等を含む全身性の自己免疫疾患のモデルとして役立つ。
【0036】
動物において天然に存在するSOCS-1遺伝子は、本明細書において、天然のSOCS-1遺伝子または天然の遺伝子と呼ばれ、それが変異体でない場合、遺伝子は野生型であるとも呼ばれる。SOCSタンパク質ファミリーは、STATシグナル伝達経路を阻害するように作用するSOCS-1(Starrら(1997)、Nature 387:917〜21)を含む、サイトカインシグナル伝達の負の調節因子として作用する(Alexander(2002)、Nat. Rev. Immunol. 2:410〜6)。SOCS-1は、高い親和性でJAKに直接結合して、チロシンキナーゼ活性を阻害する(Endoら(1997)、Nature 387:921〜4;Nakaら(1997)、Nature 387:924〜9)。インビトロ実験により、SOCS-1は、IL-2、IL-3、IL-6、およびIFN-γを含む、JAK-STATシグナル伝達経路を用いる多数のサイトカインによる刺激によって誘導されることが示されたが、SOCS-1が過剰発現されると、他の多数のサイトカインによるシグナル伝達を阻害することが証明された(Alexander(2002)、Nat. Rev. Immunol. 2:410〜6)。さらに、SOCS-1は、p38 MAPK経路を通してシグナル伝達を阻害することによって、線維芽細胞のTNF-αを介したアポトーシスを阻害することが示されている(Moritaら(2000)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:5405〜10)。SOCS-1はまた、Toll様受容体4を介したLPSシグナル伝達によって誘導される反応の負の調節に関与することが示されている(Kinjoら(2002)、Immunity 17:583〜91;Nakagawaら(2002)、Immunity 17:677〜87)。
【0037】
「哺乳動物」という用語は、本明細書において、胚および胎児段階を含む、任意の発達段階(世代)の全ての種類の哺乳動物を指すが、トランスジェニック動物という用語を用いる場合には、ヒトを除外するように使用される。好ましいトランスジェニック哺乳動物には、小型哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、アレチネズミ、ハムスターおよびモルモットが含まれ、マウスおよびラットのような齧歯類は特に好ましい。
【0038】
全身性自己免疫疾患に対する化合物のスクリーニング
本発明は、上記の全身性自己免疫疾患に対するヒト以外の哺乳動物モデルを用いて化合物をスクリーニングする方法を提供する。より詳しく述べると、化合物は(1)哺乳動物モデルに試験化合物を投与する段階;(2)哺乳動物の病理学的兆候の変化を検出する段階;および(3)試験化合物の非存在下と比較して哺乳動物の病態を減少させる試験化合物を選択する段階によってスクリーニングすることができる。スクリーニングによって単離された化合物は、全身性の自己免疫疾患、特にSLEの候補物質として役立つ。
【0039】
天然のSOCS-1遺伝子を欠損し、かつ誘導的にリンパ様細胞でSOCS-1を発現するヒト以外の哺乳動物(以降、「誘導型SOCS-1-/-哺乳動物」と呼ぶ)および本発明のSOCS-1対立遺伝子の一つを欠損するヒト以外の哺乳動物(以降、「SOCS-1+/-哺乳動物」と呼ぶ)の双方を、スクリーニング法において用いることができる。
【0040】
誘導型SOCS-1-/-哺乳動物をスクリーニングにおいて用いる場合、検出すべき病理学的兆候には、肝臓、肺および心臓の血管周囲浸潤物;体毛の喪失;体毛の低色素症;湿疹;中等度の浸潤物を有する小潰瘍;CD86を発現する活性化T細胞および/またはB細胞の量;樹状細胞(DC)からの共刺激分子発現;自発的リンパ球活性化;Ig産生増加;自己抗体産生、特に自己一本鎖(ss)DNA抗体および/または自己二本鎖(ds)DNA抗体産生;免疫複合体の腎臓での沈着;糸球体におけるメサンギウム細胞増殖;糸球体におけるIgG沈着;糸球体腎炎;高γグロブリン血症;炎症性皮膚炎;肺および/または心臓の炎症等が含まれる。または、SOCS-1+/-哺乳動物をスクリーニングに用いる場合、検出すべき病理学的兆候には、自己抗体産生、特に自己ss-DNA抗体および/または自己ds-DNA抗体産生;唾液腺における炎症性の変化;腎臓の病理学的変化;糸球体腎炎;抗γグロブリン血症;炎症性皮膚炎;肺および/または心臓の炎症等が含まれる。哺乳動物において検出される好ましい病理学的兆候には、高γグロブリン血症、自己抗体産生および糸球体腎炎が含まれる。病理学的兆候は、本発明において、抗ds-DNAもしくは抗ss-DNAの量を測定することによって、またはメサンギウム細胞増殖もしくは異常なIgG沈着を検出することによって検出してもよい。自己抗体(抗dsDNA抗体または抗ssDNA抗体)産生は、本発明のスクリーニング法において検出すべき最も好ましい病理学的兆候である。哺乳動物モデルにおける自己抗体産生は、哺乳動物モデルから血清を採取すること、および血清中の自己抗体を測定することによって検出することができる。
【0041】
本発明のスクリーニング法において動物モデルに試験化合物を投与することは、経口または非経口投与によって行うことができる。
【0042】
本発明のスクリーニング法において用いられる試験化合物には、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、天然化合物等が含まれるが、これらに限定されない。さらに、コンビナトリアル・ケミストリーによって合成された化合物調製ライブラリの化合物も同様に、試験化合物として用いることができる。さらに、試験化合物がタンパク質またはペプチドである場合、これはそのタンパク質またはペプチドをインビボで発現するベクターの形で投与することができる。
【0043】
全身性自己免疫疾患に対する薬学的組成物
本発明の上記のスクリーニング法によって単離された化合物は、全身性の自己免疫疾患を治療または予防するための薬剤として役立つことが期待される。その部分構造が付加、欠失、挿入および/または置換によって改変されている本発明のスクリーニング法によって単離された化合物も同様に、全身性の自己免疫疾患を治療または予防するために用いることができる化合物に含まれる。
【0044】
化合物によって治療される可能性がある全身性自己免疫疾患には、RA;SLE;皮膚筋炎;シェーグレン症候群;大動脈症候群などの血管炎、ヴェーゲナー肉芽腫症、および結節性多発関節炎;混合結合組織病;多発筋炎;ベーチェット病;強皮症;スティル病;抗リン脂質抗体症候群等が含まれる。これらの疾患において、SLEは、特に好ましい。
【0045】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物を、ヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒおよびチンパンジーのような他の哺乳動物のための薬剤として用いる場合、この化合物を、直接投与するか、または既知の薬学的調製法を用いて製剤化することができる。例えば、必要に応じて、薬物は、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤およびマイクロカプセルとして経口投与することができる;または水もしくは他の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤の形で非経口投与することができる。例えば、化合物は、一般的に許容される薬物調製に必要な単位投与剤形で、薬理学的に許容される担体または培地、特に滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、溶剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、溶媒、保存剤、および結合剤と混合することができる。これらの調製物における活性成分の量によって、表記の範囲内の適した用量を得ることができる。
【0046】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、およびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;蔗糖、乳糖、およびサッカリンのような甘味料;ペパーミント、冬緑油、およびサクランボのような着香料である。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油のような液体担体も同様に上記の成分に含めることができる。注射用滅菌組成物は、注射のために用いられる蒸留水のような溶媒を用いて通常の薬物調製に従って調製することができる。
【0047】
生理食塩液、グルコース溶液、ならびにD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムのようなアジュバントを含む他の等張液を、注射用水溶液として用いることができる。それらは、アルコール、特にエタノール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコールなどの適した溶解剤;ポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤と共に用いることができる。
【0048】
ゴマ油または大豆油は、油性液体として用いることができ、安息香酸ベンジルおよびベンジルアルコールのような溶解剤と共に用いてもよく;リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛薬;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤;ならびに抗酸化剤と共に調製してもよい。調製された注射剤は適したアンプルに充填される。
【0049】
当業者に周知の方法を用いて、例えば動脈内、静脈内、もしくは皮下注射として、または鼻腔内、気管支内、筋肉内、経皮、もしくは経口投与として、薬学的化合物を患者に投与してもよい。用量は、化合物、投与方法、および患者の体重、年齢、症状等に応じて変化するが、当業者は用量を適切に選択することができる。化合物がDNAによってコードされうる場合、DNAは遺伝子治療のためのベクターに挿入することができる。
【0050】
全身性紅斑性狼瘡の診断
本発明に従って、SOCS-1の異常発現は、ヒトSLEの原因であると示唆された。タンパク質の異常な発現は、タンパク質のコード領域またはプロモーター領域における機能的変異によって引き起こされる可能性がある。したがって、被験者におけるSLEの発症またはそれに対する素因を、SOCS-1遺伝子またはその調節領域における機能的変異を検出することによって診断してもよい。このように、本発明は、被験者のSOCS-1遺伝子または遺伝子の調節配列のヌクレオチド配列における変化を検出する段階を含む、被験者においてSLEに関して試験する(診断する)方法を提供する。
【0051】
本発明に従って機能的変異が検出されるSOCS-1遺伝子の調節領域には、例えば、プロモーター配列、エンハンサー配列、またはターミネーター配列が含まれる。
【0052】
「機能的変異」という用語は、遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列またはタンパク質の発現レベルのいずれかを、健常者のレベルと比較して変化させるヌクレオチド配列変化を指す。このように、被験者のSOCS-1遺伝子またはその調節領域のヌクレオチド配列に機能的変異が存在する場合、被験者は、SLEの罹患または発症が疑われる。そのようなヌクレオチド配列の変化には、ヌクレオチド配列における一つまたは複数の核酸の付加、欠失、挿入および/または置換が含まれる。本明細書において、「健常者」は、SLEを有しないヒトを示す。
【0053】
機能的変異の検出は、SOCS-1遺伝子またはその調節配列のヌクレオチド配列を決定することによって行うことができる。ヌクレオチド配列を決定する場合、第一に、試験すべき被験者からDNA試料を調製しなければならない。例えば、ゲノムDNA試料は、QIAmpDNA血液キット(QIAGEN)等を用いて末梢血から採取した白血球から調製することができる。次に、DNA試料をプライマー対を用いてPCRによって増幅して、増幅されたDNAのヌクレオチド配列を決定することができる。ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法のようなヌクレオチド配列決定法を本発明の方法において利用してもよい。
【0054】
このように、SLEを検出するためのプライマーも同様に本発明によって提供される。プライマーは、それらがSOCS-1もしくはその調節配列をコードする遺伝子、またはその相補鎖とハイブリダイズして、PCRによって伸長反応を開始するためのプライマーとして役立つ限り、如何なるヌクレオチド配列を有してもよい。プライマーは、エキソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域等の領域であるが、これらに限定されない領域にハイブリダイズしてもよい。本発明のプライマーは、一般的に15量体から100量体であり、好ましくは15量体から40量体、より好ましくは20量体から30量体である。SOCS-1遺伝子またはその調節配列を増幅するために用いることができるそのようなプライマーは、SLEを検出するための試薬として用いることができる。そのような試薬は、PCRによってDNAを増幅するために必要な他の試薬(例えば、ポリメラーゼ等)と組み合わせてもよく、SLEを診断するためのキットとして供給されてもよい。
【0055】
または、本発明の被験者においてSLEの診断は、(1)被験者からのDNA試料を調製する段階;(2)プライマー対を用いてDNA試料におけるSOCS-1またはその調節配列をコードするDNAを増幅する段階;(3)増幅されたDNAを一本鎖(ss)DNAに解離する段階;(4)解離したssDNAを非変性ゲル上で分離する段階;および(5)ゲル上で分離されたssDNAの移動度に基づいてSOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにおけるヌクレオチド配列の変化を決定する段階。
【0056】
そのような方法には、少量のDNA試料について比較的に容易に行うことができ、多数のDNA試料を調べるように適合されているPCR-一本鎖高次構造多型(single strand conformation polymorphism)(SSCP)法が含まれる(Genomics 12(1):139〜46(1992);Oncogene 6(8):1313〜8(1991);PCR Methods Appl. 4(5):275〜82(1995))。PCR-SSCP法は、二本鎖DNAから解離したssDNAのそれぞれが、そのヌクレオチド配列に応じて独自の三次元構造をとるという原理に基づいている。長さが同じであるが異なるヌクレオチド配列を有するssDNAをポリアクリルアミドゲルのような非変性ゲル上で電気泳動する場合、ssDNAのそれぞれは、その三次元構造に従ってゲルの独自の位置に移動する。ssDNAの三次元構造は、一つのヌクレオチド置換によっても変化することが知られている。このように、電気泳動の非変性ゲル上で解離されたssDNAの移動度を決定して、検出された移動度を健常者(SLEを罹患しないことがわかっている)のSOCS-1遺伝子の移動度と比較することによって、DNA断片におけるヌクレオチドの欠失、挿入および付加と共に点突然変異を検出することができる。
【0057】
好ましくは、本方法に従って、SOCS-1をコードするDNAを標識する。DNAの標識は、32P、蛍光色素、ビオチン等の同位元素によって標識されたプライマーまたは基質核酸を用いてPCRを行うことによって実施することができる。または、DNAは、標識されたDNA断片を、増幅されたDNAの末端に連結させることによって、PCR後に標識することができる。次に、標識されたDNAを例えば熱によって解離して、電気泳動を行う。電気泳動は、尿素のような変性剤を含まないゲル上で行う。好ましくは、DNA断片を分離する条件を改善するために、約5〜10%グリセロールを含むポリアクリルアミドゲルを用いる。一般的に電気泳動は、室温、約20℃〜約25℃で行われる。しかし、DNA断片にとって最も適当な温度条件は、DNAの配列に応じて異なる。このように、DNA断片をその温度で適切に分離することができなければ、DNA断片の最も適当な移動度のシフトを生じる温度条件を決定するために、その範囲外の温度を調べてもよい。電気泳動後、DNA断片の移動度を、DNAの標識のために用いられる標識に適合された通常の方法によって検出する。例えば、標識のために同位元素を用いる場合、X線フィルムを用いてオートグラフィーによってDNA断片を検出することが好ましい。または、蛍光色素を用いる場合、DNAの標識はスキャナによって検出してもよい。さらに、移動度の差を検出する場合、異なる移動度のバンドをゲルから切り出して、配列における変異を直接決定してもよい。その上、ゲル上で分離したDNA断片はまた、標識を行わずにエチジウムブロマイドまたは銀染色法によって検出してもよい。
【0058】
本発明の試験法の別の態様は、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(allele specific oligonucleotide)(ASO)ハイブリダイゼーション法を利用する。標的配列に対するプローブのハイブリダイゼーション効率は、プローブのヌクレオチド配列が標的配列のヌクレオチド配列と異なる場合には低下する。そのようなハイブリダイゼーション効率の差を、通常のSOCS-1遺伝子またはその調節領域の長さ全体または一部のヌクレオチド配列を含むプローブを用いて、ヌクレオチド配列の変化を検出するために検出してもよい。好ましくは、本方法において用いられるプローブは、少なくとも15 bpの鎖長を有する。ハイブリダイゼーション効率は、サザンブロッティング、またはプローブと標的配列とのハイブリダイゼーションによって形成された二本鎖DNAのギャップへのインターカレーションによって蛍光が消失する特異的蛍光試薬の特徴を利用する方法によって検出してもよい。
【0059】
または、被験試料におけるSOCS-1遺伝子またはその調節領域のヌクレオチド配列の変化は、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって検出することができる。本方法に従って、第一に、標識されたRNAは、健常者のSOCS-1遺伝子またはその調節領域の標的領域に対応するcDNAから調製される。次に、被験者に由来するDNA試料中の標的領域(SOCS-1遺伝子またはその調節領域の全体または一部)をPCRによって増幅して、増幅されたDNAを標識されたRNAとハイブリダイズさせる。増幅されたDNAと標識されたRNAとの間でヌクレオチド配列が異なる場合、DNAとRNAの異なる部分は、一本鎖構造を形成し、これはリボヌクレアーゼAによって切断することができる。標識によって検出されるより短いRNA断片は、DNA試料のヌクレオチド配列における変化を示す。例えば、ハイブリダイゼーション後、ハイブリッドをリボヌクレアーゼAで処理して、酵素が標識RNAを切断したか否かを決定するためにゲル上で電気泳動を行う。
【0060】
SLEの治療または予防
SOCS-1の不適切な誘導は、SLEを引き起こすと示唆された。したがって、SLEは、SOCS-1の発現がSLEを罹患するかまたはSLEに対する素因を有する被験者において回復する遺伝子増強療法によって治療または予防してもよい。すなわち、SLEは、被験者にSOCS-1遺伝子を導入することによって治療または予防してもよい。このように、本発明は、SOCS-1遺伝子を被験者に導入することを含む、被験者におけるSLEを治療または予防する方法を提供する。さらに、本発明は、活性成分としてSOCS-1遺伝子を含む薬剤を提供する。
【0061】
ヒトの他に、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳動物を本発明の方法によって治療してもよい。被験者の免疫系を刺激するのではなく、治療すべき被験者と同じ起源のSOCS-1タンパク質をコードする遺伝子を用いることが好ましい。
【0062】
SOCS-1遺伝子は、遺伝子治療において通常用いられる発現ベクターに導入した後、被験者に投与してもよい。そのような発現ベクターには、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスのようなウイルスを利用するウイルスベクター、または直接投与するための真核細胞の発現ベクター(裸のDNA法)が含まれるが、これらに限定されない。ベクターの投与は、インビボ、インサイチュー、またはエクスビボ法で行ってもよい。以下のような遺伝子治療のための通常のウイルスベクターが、当技術分野で既知であり、本発明に係るSOCS-1遺伝子の投与のために用いることができる。
(1)プラスミド発現ベクター:pVR、pCMV、pCAGG;
(2)複製欠損アデノウイルスベクター:AdEF1、AdMLP;
(3)レトロウイルスベクター:LrEPSN;および
(4)アデノ随伴ウイルスベクター:rAAV-ET、AdCMV。
【0063】
裸のDNA法のためのベクターは、一般的に、複製開始点、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化配列、転写終結配列、および被験者において発現させるタンパク質をコードする外因性の遺伝子を含む。
【0064】
ベクターのプロモーターは、それが下流の遺伝子の発現を指示する限り、被験者と同じ起源のプロモーターに限定されない。例えば、プロモーターは、真核細胞およびウイルスの遺伝子に由来してもよい。誘導型プロモーターを用いる場合、SOCS-1の発現は、誘導のための条件を制御することによって調節することができる。または、組織特異的プロモーターを用いる場合、SOCS-1の発現は、特定の組織に限定され得ない。プロモーターの例には、以下が含まれる:
(1)非特異的プロモーター:β-アクチンプロモーター、α-アクチンプロモーター、チミジンキナーゼプロモーター、メタロチオネインプロモーター、インターフェロンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター;
(2)誘導型プロモーター:ステロイドホルモン受容体プロモーター;および
(3)ウイルスプロモーター:SV40プロモーター(SV40初期プロモーター(Grigby(Wiliamson編))(1982)、「Genetic Engineering」、第3巻、Academic Press、London、83〜141頁);SV40後期プロモーター(GheysenおよびFiers(1982)、J. Mol. Appl. Genet. 1:385〜94)、B型肝炎プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufmanら(1989)、Mol. Cell Biol. 9:946)。
【0065】
プロモーターは、他の発現調節領域を形成するヌクレオチド配列を導入することによって改変してもよい。例えば、ニワトリのβ-アクチンプロモーターの転写効率は、その一部をウサギのβ-グロビン遺伝子のスプライシングアクセプターに改変することによって改善されることが知られている(日本国特許第2824434号)。
【0066】
プロモーターだけでなく、発現ベクターは、ターミネータおよびエンハンサーのような他の配列を含んでもよい。これらの配列はまた、ベクターを導入する被験者と同じ起源に由来する必要はない。
【0067】
SOCS-1遺伝子は、任意の既知の方法に従って上記のベクターに導入してもよい。Sambrookらの「Molecular Cloning」、第2版(Cold Spring Habor Laboratory Press、1989)の5.61〜5.63に記載される通常の方法を、例えば導入のために用いてもよい。
【0068】
裸のDNAベクターは、ベクターをトランスフェクトした皮膚細胞または血液細胞などの細胞を被験者に移植する、エクスビボ法を含む通常の方法によって、被験者に投与してもよい。ベクターによる細胞のトランスフェクションはまた、例えば電気穿孔法によって行うことができる。より詳しく述べると、第一に、ベクターを被験者の筋肉に注射した後、注射部位を挟むように電極対を配置して電圧を加える。または、トランスITインビボ遺伝子輸送システム(TransIT In Vivo Gene Delivery System)(Mirus)等を用いる静脈内投与も同様に、SOCS-1遺伝子を投与するために利用してもよい。
【0069】
さらに、遺伝子は、リポソーム法、または裸のDNA法によるように遺伝子を一過性に発現させるセンダイウイルス(Hemagglutinating Virus of Japan)(HVJ)-リポソーム法によって被験者に導入してもよい。
【0070】
リンパ球におけるSOCS-1の構成的発現は、本発明によるSOCS-1-/-マウスの早期死亡を十分に予防することが証明された。したがって、SLEは、SLEを有するまたはSLEに対する素因を有する被験者のリンパ球のようなリンパ様細胞において、SOCS-1を発現させることによって部分的に治療または予防される可能性がある。リンパ球に限定されるSOCS-1遺伝子のそのような発現は、例えば、Igエンハンサーを用いて行ってもよい。このように、本発明の被験者においてSLEを治療または予防する方法の態様により、SOCS-1遺伝子は被験者のリンパ様細胞において発現される。
【0071】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられるように、単数形「一つ(a)」、「一つ(an)」、および「その(the)」は、「少なくとも一つ」の意味であり、本文が明らかにそうでないことを明記している場合を除き、複数形が含まれる。
【0072】
特に明記していない限り、本明細書において使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本発明の実践または試験において、本明細書に記述の方法、装置および材料と類似または同等の方法、装置および材料を用いることができるが、適した方法および材料を以下に記述する。
【0073】
本明細書において引用した全ての特許、特許出願および出版物も、全ての関連する目的のために参照として本明細書に組み入れられる。
【0074】
以下の実施例は、本発明を説明するために示され、当業者が本発明を作製および使用することを補助するために示される。実施例は、本発明の範囲を如何なるようにも制限すると解釈してはならない。
【0075】
実施例1
方法
(1)Eμ-SOCS-1トランスジェニックマウスの作製
SOCS-1 cDNAを、ヒトIgエンハンサー(hEμ)およびマウスIgHプロモーターを含むpEμIgHベクター(Koikeら(1995)、Int. Immunol. 7:21〜30)のXhoI部位に挿入した。このベクターを直鎖状にして、C57BL/6マウスの受精卵に注入した。創始マウスおよびその子孫を、いくつかの系統を確立するために尾のDNAを用いてPCRによってスクリーニングした。この試験に関して、本発明者らは、B-8と呼ばれる系統から得たトランスジェニックマウスを使用した。
【0076】
(2)SOCS-1-/-マウス
C57BL/6バックグラウンドにおいて戻し交配したSOCS-1-/-マウスおよびSOCS-1/STAT6二重ノックアウト(DKO)は、既に報告された(Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。Eμ-SOCS-1-/-マウスを得るために、Eμ-SOCS-1 TgマウスをC57BL/6バックグラウンドでSOCS-1+/-マウスと交配させて、子孫Eμ-SOCS-1+/-マウスをSOCS-1+/-マウスとさらに交配した。
【0077】
(3)フローサイトメトリー分析
単細胞懸濁液は、既に報告されている通りに調製した(Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806)。細胞を、CD4、CD8、CD62L、CD86、およびB220に対するFITC-、PE-、PerCP、またはAPC-結合抗体(全て、Pharmingenから購入)によって染色して、CellQuestソフトウェアを用いてFACSCalibur(Becton Dickinson)において分析した。
【0078】
(4)ウェスタンブロット分析
リンパ節細胞を、表記の時間に50 ng/ml IFN-γ(Peprotech)によって刺激した。既に記述されているように細胞溶解物をSDS-PAGEにかけた。フィルターに転写した試料を抗体;抗-ホスホ-STAT1(Upstate Biotechnology)および抗STAT1(Transduction Laboratory)によって処理して、既に記述されているように可視化した(Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806)。
【0079】
(5)組織学的分析
ホルマリン固定組織をヘマトキシリン-エオジン(HE)または過ヨウ素酸-シッフ(PAS)によって染色した。腎臓におけるIgG沈着を検出するために、腎臓を液体窒素において急速に凍結して、厚さ2 μmの凍結切片を100%アセトンにおいて15分間固定した。切片を、濃度10 μg/mlのFITC-結合ヤギ抗マウスIgG(ICN Biomedicals、CA)と共に4℃で一晩インキュベートした。
【0080】
(6)樹状細胞とCD4+ T細胞の共培養
DCを得るために、単細胞懸濁液を、Eμ-SOCS-1-/-およびEμ-SOCS-1+/+マウス(H-2b)のコラゲナーゼ注入脾臓から調製した。直径10 cmのプラスチック皿において2時間インキュベートした後、非接着細胞を除去して、接着細胞をさらに一晩培養した。CD11c+細胞を自動MACS(Miltenyi Biotec、Auburn、CA)を用いて単離して、DCとして用いた。BALB/cマウス(H-2d)からのCD4+ T細胞を、放射線照射DCと共に72時間インキュベートして、最後の16時間を[3H]TdRによってパルスした。
【0081】
(7)血清免疫グロブリン
免疫グロブリン血清レベルは、製造元の説明書に従ってELISAによって決定した。用いた抗体は、ALP結合抗IgG1および抗IgG1(Southern Biotechnology)、ビオチン化抗IgG2aおよび抗IgG2a(Pharmingen)、ビオチン化抗IgEおよび抗IgE、ならびにストレプトアビジン結合HRP(Pharmingen)であった。
【0082】
(8)抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の検出
抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の血清レベルは、市販のELISAキット(シバヤギ(Shibayagi))を用いて製造元の説明書に従って測定した。
【0083】
結果
Eμ-SOCS-1 Tgマウスは、胸腺において顕著な量のSOCS-1を発現し(図1aおよび図1b)、脾臓(図1b)および骨髄(データは示していない)ではこれより少ない量を発現した。導入遺伝子の発現は、Eμ-SOCS-1 Tgマウスの肝臓においても検出された(図1b)。Eμ-SOCS-1 Tgマウスは、健常であるように見え、肉眼的な異常を示さなかった(図1d)が、別のリンパ球特異的SOCS-1 Tgマウスの場合にはリンパ球数の軽度の減少を認めた(Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806)(データは示していない)。
【0084】
リンパ球においてSOCS-1の発現を特異的に回復するようにSOCS-1-/-マウスと交配させたEμ-SOCS-1 Tgマウスにおいて、Eμ/IgHプロモーターによって促進されたSOCS-1発現は、内因性のSOCS-1プロモーターの活性化によって誘導される場合より不十分であった。EμSOCS-1-/-マウスからのリンパ節細胞を、SOCS-1の強力な誘発物質であるIFN-γによって刺激すると、STAT活性化は、野生型細胞の場合と同様に明らかに検出可能であり(データは示していない)、野生型細胞(データは示していない)およびEμ-SOCS-1+/+細胞(図1c)と比較して明らかに持続した。これらの結果は、Eμ-SOCS-1-/-マウスの成熟リンパ球が、STATの外因性の活性化を可能にして、これを通常のようにダウンレギュレートすることができない特定レベルのSOCS-1のみを発現することを示している。
【0085】
SOCS-1の作用が不適切であったにもかかわらず(図1c)、Eμ-SOCS-1-/-マウスのほとんどが、3週間より長く生存することができた(図1e)。SOCS-1-/-マウスと比較して、それらは、免疫臓器の構造に部分的改善を示した(データは示していない)。その上、Eμ-SOCS-1-/-マウスは、SOCS-1-/-マウスにおいて認められた致死性肝炎を回避した。しかし、Eμ-SOCS-1-/-マウスは、肝臓、肺、および心臓において血管周囲浸潤物を伴う病理学的な変化を示した(図2b)。それらはまた、体毛の喪失、体毛の低色素症、湿疹、および中等度の浸潤物を有する小潰瘍を伴う皮膚の変化を発症した(図2aおよび図2b)。このように、リンパ球におけるSOCS-1の導入遺伝子に由来の発現によって、SOCS-1-/-マウスのいくつかの臓器病態の部分的改善が起こり、早期死亡が予防された。しかし、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるSOCS-1の不完全な回復は、様々な臓器における炎症性の変化の生成を防止することができなかった。
【0086】
次に、リンパ球におけるSOCS-1の異所発現が、様々なタイプのSOCS-1-/-免疫細胞の自発的な活性化を改善するか否かを調べた(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Nakaら(2001)、Immunity 14:535〜45)。Eμ-SOCS-1-/-マウスは、なおも活性化T細胞の割合(図3a)および共刺激分子であるCD86を発現するB細胞の割合(図3b)の有意な増加を示した。さらに、Eμ-SOCS-1-/-マウスの樹状細胞(DC)は、わずかに高いレベルの共刺激分子を発現し(図3c)、Eμ-SOCS-1+/+細胞の場合より同種異系CD4+ T細胞における増殖反応の誘導能が有意により高かった(図3d)。SOCS-1-/-マウスからのDCについても類似の結果を認めた(データは示していない)。これらの結果は、SOCS-1が不十分であるかまたは全く存在しないために、様々なタイプの免疫細胞の自発的な活性化が起こる可能性があり、次に、細胞は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける多臓器疾患の発病に関与する可能性がある。
【0087】
多数の炎症病変、自発的リンパ球活性化およびIgの産生の上昇のようなEμ-SOCS-1-/-マウスにおける特徴は、マウスの狼瘡モデルを示している(Wakelandら(2001)、Immunity 15:397〜408)。したがって、Eμ-SOCS-1-/-マウスを、DNAに対する自己抗体を産生するか否かに関して調べた。特に、大量の抗ss-DNAおよび抗dsDNAがEμ-SOCS-1-/-マウスの血清中に検出された(図4b)。本発明者らはまた、SLEにおいて、免疫複合体の沈着によって損傷を受ける代表的な臓器である腎臓の病理学的変化に関して調べた。メサンギウム細胞増殖は、Eμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体において認められた(図4c)。その上、大量のIgGがEμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体において沈着した(図4c)。これらの結果は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおいて抗DNAを含む自己抗体が、糸球体腎炎の十分な発病原因であることを示唆している。これらの結果は全て、Eμ-SOCS-1-/-マウスが、狼瘡様の全身性自己免疫を示すことを示唆する。
【0088】
Eμ導入遺伝子の自己免疫に対する関与の可能性を除外するために、そして自己抗体産生におけるSOCS-1の不適切な作用の重要性をさらに実証するために、一つのSOCS-1対立遺伝子の欠損による表現型を示すことが報告される成体(>6ヶ月齢)SOCS-1+/-マウスを調べた(Lindemanら(2001)、Genes Dev. 15:1631〜6)。抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の双方の有意な上昇を数例のSOCS-1+/-雌性マウスにおいて認めたが、雄性SOCS-1+/-マウスには認めなかった(図5a)。その上、これらの雌性SOCS-1+/-マウスは、唾液腺における炎症性の変化を示し(図5b)、Eμ-SOCS-1-/-マウスの場合と類似の腎臓の病理学的変化を示した(図5cおよび図5d)。このことは、雌性に偏った発生率がヒトSLEにおいて認められることを示唆する。これらの結果は、SOCS-1が全身性の自己免疫疾患の予防にとって重要であること、そして一つのSOCS-1対立遺伝子の欠損が特に雌性動物において自己免疫を誘導するために十分であることを示している。
【0089】
本発明は、SOCS-1の不適切な誘導が全身性の自己免疫疾患の発生に重要な作用を及ぼすこと証明した。この結果は、サイトカインが全身性の自己免疫疾患の発病において重要な役割を有するというこれまでの知見と一致する(IoannouおよびIsenberg(2000)、Arthritis Rheum. 43:1431〜42;O'Sheaら(2002)、Nature Rev. Immunol. 2:37〜45)。リンパ球におけるSOCS-1の構成的発現は、SOCS-1-/-マウスの早期死亡を予防するために十分であることが判明した(図1e)。しかし、この導入遺伝子は、IFN-γによる刺激の際のSTAT1活性化の通常の終了(図1c)、およびSOCS-1欠損によって引き起こされた様々な疾患に対する保護(図2)にとって不十分である。さらに、成体Eμ-SOCS-1-/-マウスは、SOCS-1-/-マウスには認められないいくつかのさらなる病理学的兆候を示した。特に、それらのマウスは、高ガンマグロブリン血症、自己抗体産生(図4aおよび図4b)、ならびにメサンギウム細胞の増殖および異常なIgG沈着(図4c)を有する糸球体腎炎を伴う全身性自己免疫疾患を自然に発症した。さらに、炎症性皮膚炎(図2aおよび図2b)ならびに肺および心臓の炎症(図2b)を自然に発症することは、これらのマウスが自己免疫を有するという仮説を強める可能性がある。SOCS-1-/-マウスにはこれらの変化がないことは、B細胞数が重度に減少し、それらのマウスが自身の免疫グロブリンを産生できる前に早期に死亡するためである可能性がある(Nakaら(1998)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:15577〜82;Starrら(1998)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:14395〜9)。Eμ-SOCS-1-/-マウスの表現型は、ヒトSLEおよびマウス狼瘡の両者に極めて類似している(Wakelandら(2001)Immunity 15:397〜408;Marrackら(2001)、Nat. Med. 7:899〜905)。類似の表現型はまた、成体SOCS-1/STAT6またはSOCS-1/STAT1二重ノックアウトマウス(データは示していない)および成体SOCS-1+/-マウス(図5)においても認められた。したがって、SOCS-1の不十分な誘導は、狼瘡様の全身性自己免疫の発症に関与する可能性がある。
【0090】
既に報告されたように、SOCS-1-/- CD4+ T細胞は、インビボで異常に活性化される(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Nakaら(2001)ら、Immunity 14:535〜45)。これは、おそらくIL-2のような内因性のサイトカインに対するこれらの細胞の反応の増強による(Marineら(1999)、Cell 98:609〜16;Fujimotoら(2000)、J. Immunol. 165:1799〜806;Sporriら(2001)、Blood 97:221〜6)。しかし、SOCS-1-/-マウスにおけるT細胞活性化には他の説明があるかも知れない。例えば、SOCS-1を欠損するDCは、インビボでわずかに活性化されるように思われることから(図3cおよび図3d)、DCは、これらの変異体マウスのCD4+ T細胞の活性化に関与する可能性がある。さらに、SOCS-1は、胸腺において選択的に発現されるために、SOCS-1の不適切な誘導によって、胸腺の選択の変化および自己反応性T細胞の産生が起こる可能性がある(Starrら(1997)、Nature 387:917〜21;Nakaら(1997)、Nature 387:924〜9)。CD4+ CD25+免疫調節T細胞の機能障害もまた、大量のSOCS-1がこのタイプのT細胞において選択的に誘導されることから(McHughら(2002)、Immunity 16:311〜23;Gavinら(2002)、Nat. Immunol.3:33〜41)、T細胞の活性化に関係する可能性がある。いずれにせよ、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるCD4+ T細胞は、他のマウス狼瘡モデルの場合と同様に全身性自己免疫の誘導において主要な役割を有する可能性がある。Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける末梢のCD4+ T細胞は、活性化表現型を示した(図3a)。B細胞と協調して(図3b)、異常に活性化されたCD4+ T細胞は、様々なアイソタイプの免疫グロブリンの増加および抗DNA抗体の産生に関与する可能性があるが(図4a、図4bおよび図5a)、詳しいメカニズムは依然として不明である。また、本発明者らによる予備的な知見では、CD4-/-バックグラウンドのSOCS-1+/-マウスが抗DNA抗体の増加を示さないことから、CD4+ T細胞に関する本質的な役割も示唆された(データは示していない)。しかし、変異体マウスから調製した骨髄由来のDCの養子免疫移入は、同系マウスにおいて自己抗体産生を誘導せず(データは示していない)、Eμ-SOCS-1-/-DCが単独で自己免疫の誘導能を有しないことを示唆している。このように、これらの変異体マウスにおける異常に活性化された液体反応は、過剰に活性化されたCD4+ T細胞ならびにIL-4およびIFN-γのような様々なサイトカインに対するB細胞の過敏性に帰因することができると考えられる。
【0091】
狼瘡感受性遺伝子座の一つは、抗ds-DNA抗体の力価に影響を及ぼす近位の第16染色体に存在することに注目しなければならない(McHughら(2002)、Immunity 16:311〜23)。SOCS-1遺伝子は、第16染色体の同じ領域にマッピングされ、一つのSOCS-1対立遺伝子の欠失は、マウスにおいて抗DNA抗体の上昇を誘導するために十分であることが証明されたという事実から(図5)、SOCS-1は、この狼瘡感受性遺伝子座の候補物質である可能性がある。このように、そのコードまたはプロモーター領域における機能的変異のためにSOCS-1の作用が減少または不十分に誘導されると、ヒトSLEの発病に関与する可能性がある。最近の研究は、肝細胞癌細胞において、SOCS-1発現がSOCS-1プロモーターにおけるCgP島のメチル化の結果として消失することを示した(Yoshikawaら(2001)、Nat. Genet. 28:29〜35;Nagaiら(2001)、J. Hepatol. 34:416〜21)。免疫細胞における類似の後生学的変化もまた、ヒトSLEの発病を説明できる可能性がある。
【0092】
産業上の利用可能性
SOCS-1はJAKの負の調節分子であり、それが欠損すると、適応免疫応答に関与する様々なサイトカインに対する過敏反応性を誘導する。SOCS-1-/-マウスは、異常に活性化されたリンパ球に応じて自然に致死性疾患を発症する。本発明により、リンパ球においてSOCS-1が回復すれば、早期発症致死性疾患からSOCS-1-/-マウスを救出することが示された。しかし、これらの変異体マウスからのリンパ球は、サイトカインシグナル伝達をダウンレギュレートすることができず、マウスは、様々なアイソタイプの免疫グロブリンと抗DNA抗体の血清レベルを増加するというさらなる臨床兆候を示した。さらに、これらの変異体マウスは、メサンギウム細胞の増殖および重度の糸球体IgG沈着を有する糸球体腎炎を自然に発症した。これらの表現型は、全身性の自己免疫疾患である全身性紅斑性狼瘡(SLE)の表現型と類似する。興味深いことに、類似の表現型も同様に、成体SOCS-1+/-マウスにおいて認められた。このように、SOCS-1の不適切な誘導によって誘導された全身性の自己免疫疾患は、過度に活性化されたT細胞とB細胞、および液性免疫関連サイトカインに対するB細胞の過敏性が原因である可能性があり、それらによって自己反応性B細胞による自己抗体産生が起こる可能性がある。これらの知見は、SOCS-1の機能障害が、SLEのような全身性の自己免疫疾患の強力な発病原因である可能性があることを示唆した。
【0093】
これらの結果に基づいて、本発明者らは、SOCS-1またはその調節配列をコードする遺伝子のヌクレオチド配列における変化を検出することによって、SLEが診断される可能性があると考えた。さらに、本発明に従って、SLEは、患者のリンパ様細胞において発現されるSOCS-1遺伝子を投与することによって治療または予防してもよい。さらに、本発明は、SOCS-1対立遺伝子の一つを欠損する哺乳動物、またはSOCS-1遺伝子を欠損し、リンパ様細胞においてSOCS-1を誘導的に発現する哺乳動物を、全身性自己免疫疾患モデルとして提供する。そのような動物モデルは、SLEのような全身性自己免疫疾患を治療する化合物をスクリーニングするために用いることができる。
【0094】
本発明は、詳細に、その特定の態様を参照して記述してきたが、様々な変更および改変を行うことができ、それらも本発明の趣旨および範囲に含まれることは当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】Eμ-SOCS-1-/-マウスの作製を示す。図1(a)は、Eμ-SOCS-1トランスジェニックマウスにおけるSOCS-1の発現を示す。Eμ-SOCS-1トランスジェニックマウスの胸腺におけるSOCS-1の発現の増強は、ウェスタンブロット分析によって検出した。図1(b)は、RT-PCRによって検出した導入遺伝子の発現を示す(肝臓、脾臓、および胸腺)。図1(c)は、Eμ-SOCS-1-/-リンパ節細胞におけるIFN-γに反応したSTAT1の持続的な活性化を示す。Eμ-SOCS-1+/+マウスまたはEμ-SOCS-1-/-マウスからのLN細胞を、表記の時間でIFN-γによって刺激した。これらの細胞を溶解して、チロシンリン酸化STAT1およびSTAT1に対する抗体を用いてウェスタンブロットによって分析した。図1(d)は、SOCS-1-/-マウスと比較してEμ-SOCS-1-/-マウスの生存が改善されたことを示す。図1(e)は、SOCS-1-/-マウスと比較してEμ-SOCS-1-/-マウスの成長が改善されたことを示す。
【図2】Eμ-SOCS-1-/-マウスの肉眼所見と組織学的分析を示す。図2(a)は、成体Eμ-SOCS-1-/-マウスの外観を示す。Eμ-SOCS-1-/-マウスは、対照マウスよりやや小さく、体毛の低色素症、脱毛(頭部)、および湿疹(尾)のような皮膚病変を示した。図2(b)は、Eμ-SOCS-1-/-マウス(4ヶ月齢)の組織学的分析を示す。肝臓、皮膚、肺、および心臓のHE染色により、Eμ-SOCS-1-/-マウスでの単核球の浸潤が明らかとなった。
【図3】Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける免疫細胞の分析を示す。(aおよびb)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるT細胞およびB細胞の活性化の増強を示す。T細胞(a)およびB細胞(b)の活性化状態はそれぞれ、フローサイトメトリーによってCD44およびCD86の発現によって評価した。図3(c)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおけるDC上での共刺激分子のアップレギュレーションを示す。CD11c+細胞上での表記の共刺激分子の表面発現を、フローサイトメトリーによって分析した。図3(d)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスからのDCの抗原提示活性の増強を示す。同種異系マウスからのCD4+ T細胞を、Eμ-SOCS-1-/-マウスまたは対照マウスからのDCの存在下でインビトロで培養して、CD4+ T細胞の増殖反応を[3H]チミジン取り込みによって決定した。
【図4】Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける狼瘡様の異常を示す。図4(a)は、ELISAによって決定したEμ-SOCS-1-/-マウスの免疫グロブリン血清レベルの増加を示す。図4(b)および(c)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける自己抗体産生の増強を示す。ds-DNAおよびss-DNAに対するIgG抗体の血清レベルをELISAによって測定した。図4(d)は、Eμ-SOCS-1-/-マウスにおける糸球体腎炎を示す。上のパネルは、Eμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体(PAS染色)において認められたマトリクスおよびメサンギウム増殖の増加を示す。下のパネルは、FITC標識抗マウスIgGによって染色した腎切片を示し、Eμ-SOCS-1-/-マウスの糸球体にIgGが沈着していることを明らかにしている。
【図5】成体SOCS-1+/-マウスにおける全身性自己免疫を示す。図5(a)は、ELISAによって測定した成体SOCS-1+/-マウスにおける血清中の抗ds-DNA抗体および抗ss-DNA抗体の上昇を示す。図5(b)は、SOCS-1+/-マウスの臓器における病理学的変化を示す。単核球の浸潤は、SOCS-1+/-マウスの顎下線(上のパネル)および腎臓(中段のパネル)に存在した。SOCS-1+/-マウスの腎臓(下のパネル)には、高細胞糸球体を認めた。図5(c)は、SOCS-1+/-マウスの糸球体におけるIgG沈着物を示す。SOCS-1+/+マウスおよびSOCS-1+/-マウスの腎臓を、図4cに記述したように染色した。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然のサイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)-1遺伝子を欠損し、誘導的に、リンパ様細胞でSOCS-1を特異的に発現する、ヒト以外の哺乳動物。
【請求項2】
マウスである請求項1記載の哺乳動物。
【請求項3】
全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる、請求項1記載の哺乳動物。
【請求項4】
全身性自己免疫疾患が全身性紅斑性狼瘡(SLE)である、請求項1記載の哺乳動物。
【請求項5】
リンパ様細胞におけるSOCS-1の発現が、Igエンハンサーの制御下でIgHプロモーターによって促進される、請求項1記載の哺乳動物。
【請求項6】
SOCS-1対立遺伝子の一つを欠損するヒト以外の哺乳動物。
【請求項7】
雌性マウスである請求項6記載の哺乳動物。
【請求項8】
全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる、請求項6記載の哺乳動物。
【請求項9】
全身性の自己免疫疾患がSLEである、請求項8記載の哺乳動物。
【請求項10】
以下の段階を含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の哺乳動物を用いて化合物をスクリーニングする方法:
(a)請求項1〜9のいずれか一項記載の哺乳動物に試験化合物を投与する段階;
(b)哺乳動物の病理学的兆候の変化を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下の場合と比較して、哺乳動物の病態を減少させる化合物を選択する段階。
【請求項11】
哺乳動物の病理学的兆候が、高γグロブリン血症、自己抗体産生、および糸球体腎炎である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
(a)抗二本鎖(ds)DNA抗体もしくは抗一本鎖(ss)DNA抗体の量;(b)メサンギウム細胞の増殖;または(c)異常なIgG沈着が、哺乳動物の病理学的兆候の変化として検出される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一項記載の方法によって単離された化合物。
【請求項14】
請求項13記載の化合物を含む全身性自己免疫疾患のための薬学的組成物。
【請求項15】
組成物がSLEに対して用いられる、請求項14記載の薬学的組成物。
【請求項16】
SOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにハイブリダイズする、患者においてSLEを検出するためのプライマーDNA。
【請求項17】
SOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにハイブリダイズする、患者においてSLEを検出するためのオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
請求項16記載のプライマーDNAまたは請求項17記載のオリゴヌクレオチドを含む、SLEを試験するための試薬。
【請求項19】
SOCS-1またはその調節配列をコードする遺伝子のヌクレオチド配列における変化を検出する、SLEを試験するための方法。
【請求項20】
以下の段階を含む、請求項19記載の方法:
(a)被験者からのDNA試料を調製する段階;
(b)請求項16記載のDNAプライマーを用いて(a)のDNA試料におけるDNAを増幅する段階;および
(c)(b)において増幅されたDNAのヌクレオチド配列を決定する段階。
【請求項21】
以下の段階を含む、請求項19記載の方法:
(a)被験者からのDNA試料を調製する段階;
(b)請求項16記載のDNAプライマーを用いて(a)のDNA試料におけるDNAを増幅する段階;
(c)増幅されたDNAを一本鎖DNAに解離する段階;
(d)非変性ゲルにおいて解離された一本鎖DNAを分離する段階;および
(e)ゲル上の分離された一本鎖DNAの移動度に基づいてヌクレオチド配列の変化を決定する段階。
【請求項22】
活性成分としてSOCS-1遺伝子を含む薬物。
【請求項23】
SLEを治療または予防するために用いられる、請求項22記載の薬物。
【請求項24】
遺伝子がリンパ様細胞において発現されるように投与される、請求項22または23記載の薬物。
【請求項25】
被験者にSOCS-1遺伝子を導入する段階を含む、被験者におけるSLEを治療または予防する方法。
【請求項1】
天然のサイトカインシグナル伝達抑制因子(SOCS)-1遺伝子を欠損し、誘導的に、リンパ様細胞でSOCS-1を特異的に発現する、ヒト以外の哺乳動物。
【請求項2】
マウスである請求項1記載の哺乳動物。
【請求項3】
全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる、請求項1記載の哺乳動物。
【請求項4】
全身性自己免疫疾患が全身性紅斑性狼瘡(SLE)である、請求項1記載の哺乳動物。
【請求項5】
リンパ様細胞におけるSOCS-1の発現が、Igエンハンサーの制御下でIgHプロモーターによって促進される、請求項1記載の哺乳動物。
【請求項6】
SOCS-1対立遺伝子の一つを欠損するヒト以外の哺乳動物。
【請求項7】
雌性マウスである請求項6記載の哺乳動物。
【請求項8】
全身性の自己免疫疾患モデルとして用いることができる、請求項6記載の哺乳動物。
【請求項9】
全身性の自己免疫疾患がSLEである、請求項8記載の哺乳動物。
【請求項10】
以下の段階を含む、請求項1〜9のいずれか一項記載の哺乳動物を用いて化合物をスクリーニングする方法:
(a)請求項1〜9のいずれか一項記載の哺乳動物に試験化合物を投与する段階;
(b)哺乳動物の病理学的兆候の変化を検出する段階;および
(c)試験化合物の非存在下の場合と比較して、哺乳動物の病態を減少させる化合物を選択する段階。
【請求項11】
哺乳動物の病理学的兆候が、高γグロブリン血症、自己抗体産生、および糸球体腎炎である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
(a)抗二本鎖(ds)DNA抗体もしくは抗一本鎖(ss)DNA抗体の量;(b)メサンギウム細胞の増殖;または(c)異常なIgG沈着が、哺乳動物の病理学的兆候の変化として検出される、請求項10記載の方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一項記載の方法によって単離された化合物。
【請求項14】
請求項13記載の化合物を含む全身性自己免疫疾患のための薬学的組成物。
【請求項15】
組成物がSLEに対して用いられる、請求項14記載の薬学的組成物。
【請求項16】
SOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにハイブリダイズする、患者においてSLEを検出するためのプライマーDNA。
【請求項17】
SOCS-1またはその調節配列をコードするDNAにハイブリダイズする、患者においてSLEを検出するためのオリゴヌクレオチド。
【請求項18】
請求項16記載のプライマーDNAまたは請求項17記載のオリゴヌクレオチドを含む、SLEを試験するための試薬。
【請求項19】
SOCS-1またはその調節配列をコードする遺伝子のヌクレオチド配列における変化を検出する、SLEを試験するための方法。
【請求項20】
以下の段階を含む、請求項19記載の方法:
(a)被験者からのDNA試料を調製する段階;
(b)請求項16記載のDNAプライマーを用いて(a)のDNA試料におけるDNAを増幅する段階;および
(c)(b)において増幅されたDNAのヌクレオチド配列を決定する段階。
【請求項21】
以下の段階を含む、請求項19記載の方法:
(a)被験者からのDNA試料を調製する段階;
(b)請求項16記載のDNAプライマーを用いて(a)のDNA試料におけるDNAを増幅する段階;
(c)増幅されたDNAを一本鎖DNAに解離する段階;
(d)非変性ゲルにおいて解離された一本鎖DNAを分離する段階;および
(e)ゲル上の分離された一本鎖DNAの移動度に基づいてヌクレオチド配列の変化を決定する段階。
【請求項22】
活性成分としてSOCS-1遺伝子を含む薬物。
【請求項23】
SLEを治療または予防するために用いられる、請求項22記載の薬物。
【請求項24】
遺伝子がリンパ様細胞において発現されるように投与される、請求項22または23記載の薬物。
【請求項25】
被験者にSOCS-1遺伝子を導入する段階を含む、被験者におけるSLEを治療または予防する方法。
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【公表番号】特表2006−500063(P2006−500063A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539557(P2004−539557)
【出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012340
【国際公開番号】WO2004/028239
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505092289)
【出願人】(505090632)
【出願人】(000157865)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012340
【国際公開番号】WO2004/028239
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(505092289)
【出願人】(505090632)
【出願人】(000157865)
【Fターム(参考)】
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