説明

自己整列性組織成長ガイド体

本発明は、芯および外側スリーブを含み、神経等の損傷組織の再生を促進する、人工組織成長ガイド体に関する。その芯は2つの取付部位で該スリーブに固定されて、芯内に播種される細胞が取付部位の間で機械的張力を生じるようにする。この張力により芯の細胞および繊維が整列され、組織再生のための改良された基材が得られる。成長ガイド体は、外科的に個体に移植され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経等の組織の成長を促し、例えば、個体に外科的に移植されて損傷組織の再生を促し得る、人工ガイド体に関する。
【背景技術】
【0002】
体内の損傷組織は通常、自然の再生プロセスにより修復される。しかし、特定の状況では、損傷組織の再生は、限定されているかまたは全く起こらない。例えば外傷または手術後の、末梢神経系(PNS)または中枢神経系(CNS)における神経の損傷は、しばしば、感応性または機能の永久的な喪失を生じる。
【0003】
CNSおよびPNSの両方において神経組織の再生を促すために人工ガイド体が開発されてきた。コラーゲン(Labradorら (1998) Exp. Neurol. 149 243-252)、ヒアルロナン、またはポリラクトンから作られたチューブが、そのチューブ構造を利用して、神経突起伸長の全体的な誘導をもたらすため、および損傷領域を分離するために用いられてきた。あるいはまた、カーボンフィラメント(Khanら (1991) Brain Res 541 139-145)、ニトロセルロース紙(Houleら (1989) Neurosci Lett 103, 17-23)、コラーゲン(Liuら (1997) Neurosci Res 49 425-432;YoshiiおよびOka, (2001) J. Biomed. Materials Res. 56 400-405)、またはフィブロネクチン(Priestleyら (2002) J. Physiol-Paris 96 123-133)から作られた整列した繊維の束も、細胞レベルでの接触ガイド体を提供するために使用されてきた(Brown, (2000) Bioartificial Implants: Design and Tissue Engineering in Structural Biological Materials, design and structure property relationships (M. Elices編) Pergamon Materials Series Vol. 4 151-160により概説)。
【0004】
人工ガイド体は、例えば、ガイド体の端部が損傷神経の近位および遠位基部に接触するように、神経損傷部位に移植され得る。再生神経は、近位基部からガイド体の近位端部に入って成長し、その後ガイド体を通って、ガイド体の遠位端部に位置する遠位神経基部に接触し、最終的に神経結合を再構築する。
【0005】
神経ガイド体においては、人工材料が単独で使用されるか、または成長因子を添加されて使用され得る(Whitworthら (1995) Eur. J. Neurosci. 7:2220-2225)。成長因子を産生する神経修復細胞(例えば、シュワン細胞)を有するインプラントの播種は、神経再生を促すことが知られている(Rodriguezら (2000) Exp. Neurol. 161 571-584)。
【0006】
人工インプラントは、いくらかの有望な結果をもたらしてきたが、外傷または損傷後のいかなる中枢(CNS)神経系の神経の機能再生もまだ達成されていない。
【発明の開示】
【0007】
本発明者らは、細胞を播種した組織成長用のガイド体(guide)を作製した。このガイド体は、単軸機械的張力がガイド体内部に生じるように構成する。この張力は、組織成長の方向に細胞を自動整列させて、in vivoでの再生組織のための細胞誘導基材を提供する。
【0008】
本発明の一態様は、
その中に配置された1つ以上の張力生成細胞を有する生体高分子基質を含む内部芯(inner core)を備えた組織成長のための組織成長ガイド体であって、
そのガイド体は前記内部芯を取り囲む外鞘(outer sheath)をさらに備え、
前記内部芯は、第1の取付領域および第2の取付領域において該外鞘に固定されており;
その結果、使用の際に、前記基質中の該細胞が、第1の取付領域と第2の取付領域との間で、その芯において機械的張力を生じる、ガイド体、
を提供する。
【0009】
最初、第1および第2の取付領域において前記芯を前記鞘に固定する際には、芯内に張力は存在しない。芯を鞘内に配置すると、芯内の細胞が収縮力を生じ始める。この収縮力は、基質において第1および第2の取付領域の間で張力負荷を生じる。この機械的張力負荷は、主に同軸方向であり、組織再成長の方向と平行にかかる(すなわち、芯を通って縦方向)。第1の取付領域は、好ましくはガイド体の近位(進入)端部にあるかまたはそれに隣接しており、第2の取付領域は、好ましくはガイド体の遠位(出口)端部にあるかまたはそれに隣接している。しかし、一部の実施形態では、例えば、損傷領域に隣接する組織基部との接触を促進するために、外鞘はそれぞれの端部において芯を越えて延びてもよい。
【0010】
周囲基質内の機械的張力の存在は、基質中の細胞を、芯に沿って同軸方向に(すなわち、再成長の方向に)整列させる。芯における張力はまた、基質の繊維を同等の整列に移動させ得る。
【0011】
細胞外基質の整列による細胞レベルの誘導は、細胞移動を最適化し、組織修復ガイド体において有利である(AhmedおよびBrown (1999) Cell. Motil. Cytoskeleton 42 331-343;Priestleyら (2002) J. Physiol. Paris 96 123-133;Wojciak-Stothardら In Vitro Cell Dev. Biol. Anim. 33 110-117)。
【0012】
本明細書に記載する修復に適した組織は、一方の損傷組織端部から他方の端部まで一方向性に(例えば、神経)、または、損傷組織の両端部から二方向性に(例えば、腱、靭帯、半月板、血管、皮膚、消化官および骨等の、非神経組織)、再生または再成長し得る。
【0013】
適切な組織としては、筋肉(特に、神経筋接合部)、血管、腱、靭帯、被膜、半月板、骨、皮膚および神経が挙げられる。一部の好適な実施形態は、神経および神経組織の修復を対象とする。
【0014】
ガイド体の内部芯は、好ましくは線状で(すなわち、他の2方向と比べて1方向のサイズが有意に大きく)、棒状である(すなわち、丸い横断面、例えば、円形または楕円形の横断面を有する)のが都合がよい。ガイド体が移植に適合したものである実施形態では、内部芯は、異なる組織および解剖学的領域を接続するのに適した大きさ(すなわち、直径)および長さを有し得る。例えば、指の神経を接続するのに適した内部芯は、直径が約1 mmであり得る。ヒト神経の修復に適した他の芯は、直径が2〜7 mmであり得る。
【0015】
内部芯の生体高分子基質は、タンパク質ベースの繊維基材、好ましくは自己ゲル化性のものであり、埋め込まれた細胞により生じる力を受けやすく、それにより収縮可能なものであり得る。適切な材料としては、コラーゲン、フィブリン/フィブリノゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ならびにポリラクチド、ポリグリコール酸およびポリカプロラクトン(polycapryolactone)等の生物吸収性高分子が挙げられる。生体高分子基質は、哺乳動物の体において自然には生じず、哺乳動物組織の構成(organization)および肉眼的形態(gross morphology)を示さないことが好ましい。
【0016】
適切なコラーゲン基質は、直径20〜500 nmの絡み合ったコラーゲン小線維の再構築ネットワークから形成されるゲルであってよく、コラーゲン供給源および再構築方法に応じて典型的には90〜99%の間質液を含む。
【0017】
適切なコラーゲン基質としては、Mudera V.C.ら Cell. Motil. Cytoskeleton (2000) 45 1-9に記載されるようにして都合良く調製され得るコラーゲンI型基質が挙げられる。
【0018】
本発明で使用するのに適した細胞は、生体高分子基質に収縮力を加えて、その結果基質内に生じる張力によって整列させる。また、好ましい細胞は、例えば、1つ以上の適切な成長促進因子を産生することにより、基質内での組織成長も促す。例えば、神経組織(すなわち、神経修復細胞)の成長に使用するのに適した細胞は、1つ以上の神経成長促進因子を産生し得る。神経成長促進因子としては、ニューロトロフィン3等のニューロトロフィン、神経成長因子(NGF)、グリア成長因子(GGF)、および脳由来神経栄養因子(BDNF)が挙げられる。生体高分子基質内に播種される細胞は、整列および収縮するが、増殖して構成された組織を形成しないことが好ましい。
【0019】
基質に播種するのに使用するために適切な細胞としては、シュワン細胞、神経線維芽細胞、線維芽細胞、腱細胞(骨芽細胞)、筋芽細胞、平滑筋細胞および内皮細胞等の哺乳動物細胞が挙げられる。神経修復に適した細胞としては、シュワン細胞、神経線維芽細胞およびそれらの混合物が挙げられる(Hall S (2001) J. Hand Surg. 2613 (2) 129-136)。神経修復細胞は、'Neural Cell Culture, a practical approach' CohenおよびWilkin編 221-236 IRL Pressに記載されるように、コラゲナーゼ消化または外植片培養によって成人神経から得ることができる。
【0020】
細胞は、目的の組織(例えば、神経組織)において通常認められない種類または量のポリペプチドを生成しないことが好ましい。例えば、好適な実施形態では、細胞は、異種タンパク質を発現する外来DNAを含まない。
【0021】
一部の実施形態では、張力生成細胞(例えば、線維芽細胞)に加えて、目的の組織に由来する細胞を基質に播種してもよい。例えば、腱細胞、内皮細胞、上皮細胞、分泌管もしくは腺(例えば、脂腺、膵島細胞、副腎皮質細胞)、メラニン細胞、シュワン細胞、または星状細胞が使用できる。このような実施形態では、整列した張力生成細胞を含む芯は、埋め込まれた組織細胞の成長のための誘導基材を形成する。
【0022】
他の実施形態では、基質には、目的の組織に由来する細胞を播種しない。言い換えると、ガイド体内の細胞は、目的の組織に対して異種性である。例えば、基質は、移植前はニューロンを欠いているかもしれない。
【0023】
細胞は、液体生体高分子基質と混合させて、その後その液体基質をゲル状に凝固させることにより、基質中に播種できる。都合良くは、104〜107細胞/mlで、より好ましくは2×105〜106細胞/mlでゲルに播種し得る。
【0024】
外鞘は、芯内の細胞によりもたらされる収縮力に対する抵抗を生じ、それにより芯内の2つの取付領域間で機械的張力を維持する固体材料であることが、好ましい。従って、外鞘材料は、芯において機械的張力をもたらすため、芯の生体高分子基質と比べて堅い。鞘材料は、取付領域外では芯に対する接着性が低いか、または実質的に接着しないことが好ましい。鞘は、芯の端部のみが外部に曝されるように、芯を完全に取り囲んでいることが好ましい。
【0025】
適切な鞘材料は、高い生体適合性を有し(すなわち、体内で有害な反応を起こさず)、好適な実施形態では、使用後の適用部位からの外科的除去の必要を回避するため、in situで吸収性(例えば、生分解性)である。適切な鞘材料の例としては、リン酸塩ガラス、ポリラクトン、ポリグリコン(polyglycone)、ポリカプロラクトン(polycapryolactone)およびヒアルロナン、またはそれらの誘導体が挙げられる。他の適切な材料としては、コラーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、セルロース、キトサン、およびデンプンが挙げられる。適切な非吸収性鞘材料としてはシリコーンが挙げられる。
【0026】
一部の実施形態では、鞘は無孔性である。
【0027】
芯が非タンパク質高分子である場合、鞘の近位端部は、タンパク質凝集材料を含み、進入してくる組織(例えば、再生神経)に由来する細胞プロテアーゼに仲介されて近位端部から芯が選択的に解放されるようにすることができる。
【0028】
外鞘は、第1の取付領域および第2の取付領域において内部芯に固定され、その結果、これらの領域において、鞘に対する芯の移動、特に軸方向または縦方向の移動が妨げられるようにする。収縮力を生成させるために、芯は、第1および第2の取付領域の間では鞘に対して自由に移動できることが好ましい。芯が所定の取付領域外で鞘に接着するのを防ぐため、鞘材料は非接着性であることが好ましい。
【0029】
芯および鞘は、都合の良い任意の方法により取付領域において互いに固定され得るが、当業者は多くの適切な技術を特定することができる。
【0030】
一部の実施形態では、外鞘は、芯(すなわち、生体高分子基質)に、第1および第2の取付領域において機械的に固定され得る。
【0031】
例えば、第1および第2の取付領域において、内部芯との協調的な係合をもたらすように外鞘を成形してもよい。この係合により鞘と芯とがこれらの領域において1つに固定される。外鞘はその内側表面に1つ以上の開口部または突出部を含むことが好ましい。開口部は、鞘の側面を通って外側表面まで延びていてもよいし、外側表面までは延びていない凹部または隙間を形成してもよい。適切な開口部としては、スロット、孔、溝およびアパーチャが挙げられる。例えば、鞘の取付領域は、芯の周りに多孔性のカフ(cuff)を含み得る。
【0032】
芯は、ガイド体作製に際して液体形態で鞘に導入されるときに鞘の開口部または突出部と係合することが好ましい。芯が凝固すると、その係合により芯と鞘が取付領域において1つに固定される。
【0033】
ピン、縫合糸、圧力クリップ(pressure clip)または挿入クランプ等の他の機械的な固定方法も使用できる。
【0034】
一部の実施形態では、外鞘は、第1および第2の取付領域において、例えばフィブリンまたはシアノアクリレート接着剤等の接着剤を用いて芯に化学的に固定され得る。
【0035】
上述したように、一部の実施形態では、ガイド体は、損傷組織の修復を促進するための個体への移植に適合している。
【0036】
外鞘は、例えば、ガイド体と、移植されたガイド体を取り囲む組織との接着の形成を低減または無効にする非接着材料から構成され得る(すなわち、鞘は、周囲の平面(gliding)組織層に対して抗接着性または非接着性である)。外鞘はまた、周囲の細胞または組織の内部芯への内部成長を低減または無効にし得る。
【0037】
鞘はまた、芯を損傷した組織端部に取り付けるための縫合糸または他の取付手段(例えば、のり)の受容に適しているか、および/または適合させられている。
【0038】
移植に適合したガイド体は、in situで吸収性であることが好ましい。ガイド体の安定性(すなわち、吸収率)は、その長さに沿って変動することがより好ましい(例えば、組織が近位から遠位方向に再生する場合、近位(進入)端部と遠位(出口)端部との間でガイド体の吸収率が漸次的に変化し得るが、組織が破損組織の両端から再生する(すなわち、両端が近位である)場合には、ガイド体の端部と中央部との間でガイド体の吸収率が漸次的に変化し得る)。
【0039】
例えば神経修復において、組織が近位から遠位方向に再生する場合、吸収率の漸次的変化は、好ましくはガイド体の近位端部が遠位端部よりも速く吸収されるものである。これにより、再生神経の端部は、ガイド体を通過する際に、延長された誘導を得られる。再生神経によるプロテアーゼを含む細胞因子の分泌は、神経がガイド体の近位端部に進入しその中を通って成長する際に選択的な近位吸収を生じる。
【0040】
第1の取付領域における外鞘の吸収により、神経等の再生組織が芯の近位端部に進入した後、近位端部にて外鞘から芯が解放される。芯は、組織それ自体により近位端部に保持され、そして第1および第2の取付領域の間で予め生じた張力が再生組織に転移して、牽引力を生じる。言い換えると、外鞘は、第1の取付領域において、再生組織が芯の近位端部に進入した後に優先的に再吸収され、それにより芯が再生組織に機械的張力を加えるようにする。
【0041】
組織が多方向に(すなわち、損傷組織の両方の破損端部から)再生する場合、吸収率の漸次的変化は、ガイド体の両端(両方とも事実上の近位端部)がガイド体の中央部よりも速く吸収されるものであることが好ましい。これにより、再生組織端部は、ガイド体を通過しその中で互いと遭遇する際に、延長された誘導を得られる。この優先的な吸収は、再生組織がガイド体に進入しその中を通って成長する際に、再生組織によるプロテアーゼを含む細胞因子の放出によって引き起こされる。
【0042】
第1および第2の取付領域における外鞘の吸収により、再生組織が芯の端部に進入した後に、外鞘から芯が解放される。芯は、再生組織それ自体によりその端部に保持され、そして第1および第2の取付領域の間で予め生じた張力が組織成長の見込まれる面に転移して、牽引力を生じる。言い換えると、第1および第2の取付領域における外鞘は、再生組織が芯の端部に進入した後に優先的に再吸収され、それにより芯が再生組織に機械的張力を加えるようにする。
【0043】
これは、組織、特に神経に対する機械的張力の負荷が成長を加速させることが知られていることから、都合が良い(Smithら (2001) Tiss Eng. 7 131-139)。
【0044】
再生組織がガイド体に進入する際に優先的な近位吸収が自動的に生じ得る一方で、ガイド体の一端または両端をCu++またはZn++溶液等の安定化試薬に浸漬してこれらのイオンの濃度勾配をガイド体にわたって生成させることにより、または、接着タンパク質組成がガイド体の近位端部から遠位端部に向かって徐々に変化する様々な長さの誘導材料からガイド体を構築することにより、タンパク質ベースの鞘を有するガイド体全体にわたって吸収率をさらに制御することもできる。
【0045】
使用の際は、本発明のガイド体を組み立てて、また任意に、例えば細胞を芯内で8〜12時間培養することにより、移植前に芯の張力を生じさせてもよい。次いで、内部芯の端部が損傷組織の近位および遠位基部に接触するように、ガイド体を組織損傷部位に移植すればよい。ガイド体は、例えば外鞘を通してのりまたは縫合糸等の他の固定手段により所定の位置に固定され得る。一部の実施形態では、固定手段は、ガイド体内に含まれてもよい。神経等の再生組織の近位基部は、ガイド体の近位端部から進入し、ガイド体の遠位端部から出て、遠位基部に接触し得る。他の実施形態では、破損基部の両方からの再生組織が、ガイド体の両端から進入してガイド体内で遭遇し、機能的接続を再構築し得る。
【0046】
本明細書に記載するガイド体は、中枢または末梢神経系における神経損傷を含む様々な組織に対する損傷の修復、および形成外科用の移植片の生成のために有用であり得る。
【0047】
本明細書に記載する組織成長ガイド体は線状で、第1および第2の端部を有し得る。組織再成長が一方向である実施形態では、第1の端部は、再生組織の近位進入口として、第2の端部は遠位出口として作用し得る。組織再成長が二方向の実施形態では、第1および第2の端部は両方とも、再生組織の近位進入口として作用し得る。
【0048】
一部の実施形態では、ガイド体は分岐し得る。すなわちガイド体は、3つ以上の端部、例えば第3および第4の端部を含み得る。このような分岐したガイド体は、2つ以上の進入口および/または2つ以上の出口を所有し得る。好適な実施形態は、単一の近位進入口、および2つ以上、例えば3、4または5つの遠位出口を備え得る。これらの実施形態によるガイド体は、その端部のそれぞれに取付領域を含むことにより、芯全体を通じて機械的張力が維持されるようにすることが好ましい。例えば、第1の取付領域は近位進入口に隣接して配置され、第2および第3(またはそれ以上)の取付領域はそれぞれ2つ(またはそれ以上)の遠位出口に配置され得る。
【0049】
他の実施形態では、本発明のガイド体は、組織のin vitro成長のために適合し得る。このようなガイド体内で成長した組織を、例えば、その後個体に移植してもよい。
【0050】
このような実施形態では、生体高分子基質に播種した細胞は、線維芽細胞等の張力生成細胞、およびさらに目的の組織の細胞(または標的組織の細胞に分化する能力を有する前駆体/幹細胞)を含み得る。適切な組織細胞としては、腱細胞、内皮細胞、上皮細胞、分泌管もしくは腺(例えば、脂腺、膵島細胞、副腎皮質細胞)、メラニン細胞、シュワン細胞、または星状細胞が挙げられる。
【0051】
張力生成細胞および標的組織の細胞を播種したガイド体を、バイオリアクター中で、標準的な組織培養条件下(例えば、37℃にて、DMEM+10%ウシ胎仔血清中)で培養して、ガイド体内で標的組織細胞を方向付けて成長させてもよい。
【0052】
ガイド体は、培養培地に浸漬することにより培養してもよく、および/またはガイド体内部に芯内のキャピラリーを用いて培地を直接導入してもよい。
【0053】
これらの実施形態によるガイド体の芯は、栄養培地を芯の中に通すための1つ以上のキャピラリーを含み得る。好ましくは、1つ以上のキャピラリーは、芯の丈に沿って同軸方向に伸びる連続的なチャンネルを形成する。
【0054】
キャピラリーは、極細縫合ワイヤーの導入および除去、可溶性繊維の導入、化学分解性層の導入、またはレーザ等の光学/放射線源での処置等の従来の技術により、製造の際に芯に導入され得る。
【0055】
1つ以上のキャピラリーは、栄養培地の供給源に接続してもよい。キャピラリーを通る培地の流れは、好ましくはポンプにより、例えば、蠕動ポンプを使用して誘導できる。キャピラリーを通る流れは、線形、パルスまたは循環的であり得る。キャピラリーを通って流れる培地は、芯を通って拡散し、埋め込まれた細胞に対して適切な成長条件を提供する。
【0056】
本実施形態による2つ以上の組織成長ガイド体は、例えばルアーシリンジ型接続を用いてガイド体の一端と流体連結管とを接続し、それにより栄養培地が連結管から芯のキャピラリーを通って流れ、うまく流出するようにすることによって、一般的な流量制御型バイオリアクター中でインキュベートしてもよい。
【0057】
組織細胞は、ガイド体内での成長後、ガイド体から単離および/または抽出されて、組織損傷部位への移植を含む様々な目的のために使用され得る。
【0058】
本明細書に記載する組織成長ガイド体は、内部芯を液体形態で外鞘に導入して、鞘が芯を適切な形状に形作ることにより、作製され得る。
【0059】
本発明の一態様は、組織成長用ガイド体の作製方法であって、
外鞘を提供すること、
細胞を液体生体高分子基質に導入すること、
該液体基質を外鞘の内部に導入すること、
該液体基質を固めるかまたは固まるようにさせること、ならびに
該基質を第1および第2の取付領域において鞘に固定すること、
を含む方法、を提供する。
【0060】
その基質は、上述した広範な機械的または化学的技術のいずれか1つにより鞘に固定され得る。
【0061】
鞘および基質は、基質と鞘との協調的な係合によって取付領域において1つに固定されることが好ましい。
【0062】
組織成長用ガイド体の作製方法は、以下:
第1および第2の取付領域において内部芯と協調的に係合するように形作られた外鞘を提供すること、
細胞を液体生体高分子基質に導入すること、
該液体基質を外鞘の内部に導入して、該取付領域において液体基質が該鞘と係合するようにすること、および
該液体基質を固めるかまたは固まるようにさせて、該係合により鞘に対して芯が同軸方向に移動しないようにすること、
を含み得る。
【0063】
外鞘は線状であり得るか、または1つ以上の分岐を有し得る。例えば、外鞘は、二分岐または三分岐でありうる。鞘により形作られる芯は、自然に鞘の形状を取る。
【0064】
基質は、任意の都合の良い技術(例えば、37℃にて5分間でのインキュベーション;タンパク質溶液を含むフィブリノゲンへのトロンビンの添加もしくは活性化(例えば、Ca2+を血漿画分に添加することにより);フィブロネクチン富化タンパク質ゲルの剪断凝集(shear aggregation)(Brownら (1994) Biomaterials 15 457-464;Phillipsら (2003) 印刷中)、または自己固化生分解性高分子への重合触媒の添加)により固化または固体化されて、ガイド体の芯を形成し得る。
【0065】
適切な生体高分子基質、細胞および外鞘は上述している。
【0066】
他の実施形態では、播種した生体高分子基質は非液体(すなわち、ゲル)形態で外鞘に導入された後、第1および第2の取付領域で固定され得る。例えば、基質は、チューブ状の外鞘に挿入するか、または鞘を基質の周りに巻きつけるかもしくは貼り付ければよい(例えば、芯の周りに触媒固化鞘材料(例えば、フィブリン富化材料または自己固化生分解性高分子)を成型することにより)。このようにして鞘は適所に固定され得る。適切な固定材は、鞘に対して芯が軸方向に移動しないようにするものであり、接着剤、ピン、クランプおよび圧力クリップが挙げられる。
【0067】
組織成長ガイド体を作製する方法は、前記基質内の細胞について、第1および第2の取付領域の間で機械的張力を引き起こすか生じるようにさせるさらなるステップを含み得る。
【0068】
機械的張力は、適切な条件下で、例えばペトリ皿に入った標準的な細胞培養培地(DMEM等)にガイド体を入れて、37℃にて8〜12時間インキュベートして、基質内で細胞を培養することにより、芯において生じ得る。細胞培養培地は、任意に、アスコルビン酸塩を補充して、収縮を促してもよい。
【0069】
本発明のガイド体内の細胞は、増殖して基質内で構成された組織を形成しないことが好ましい。
【0070】
機械的張力を生じるための培養条件は、例えば1〜18日間のインキュベーション期間を必要とする、構成された(organised)組織を形成するための細胞増殖の条件とは区別される。ガイド体内の異種性の構成された組織の存在は、再生内因性組織がガイド体を通って進行するのを妨げ得る。
【0071】
一部の好適な実施形態では、その後、ガイド体を、損傷組織を修復するためにヒトまたは動物の体内に移植してもよい。例えば、ガイド体の近位端部を損傷組織の破損端部に付着させ、ガイド体のを損傷神経の遠位基部に付着させてもよい。組織が神経である場合、ガイド体の近位端部を損傷神経の近位基部に付着させ、ガイド体の遠位端部を損傷神経の遠位基部に付着させてもよい。
【0072】
組織成長ガイド体は、任意には、上述した予め張力を生成する工程無しで移植され得る。その後、機械的張力はin situで芯内で生成される。
【0073】
他の好適な実施形態では、生体高分子基質中の1つ以上の組織修復細胞は、上述した線維芽細胞または他の張力生成細胞、さらに目的の組織の細胞(または標的組織細胞に分化する能力を有する前駆体/幹細胞)を含み得る。適切な組織細胞としては、腱細胞、内皮細胞、上皮細胞、分泌管または腺(例えば、脂腺、膵島細胞、副腎皮質細胞)、メラニン細胞、シュワン細胞、および星状細胞が挙げられる。
【0074】
このような実施形態による方法は、張力生成細胞により芯内で機械的張力が生成された後に、上記ガイド体において組織細胞を培養するステップを含み得る。細胞は、上述した栄養培地の添加および適切な条件により培養され得る。
【0075】
培養後、上記芯内の細胞をガイド体から単離および/または抽出して、例えば、標準的技術に従って治療法に使用してもよい。他の実施形態では、培養された組織細胞を含む芯またはガイド体を治療法(例えば、損傷組織の修復のための移植)に直接使用してもよい。
【0076】
本発明の別の態様は、組織損傷、特に神経損傷の修復方法、および本明細書に記載するようにガイド体を個体に移植することを含む個体の組織損傷の修復方法において使用するための、本明細書に記載するようなガイド体を提供する。
【0077】
移植は、ガイド体を、損傷組織の破損端部(例えば、損傷神経の近位および遠位基部)に、例えば縫合糸を使用して、付着または固定することを含み得る。
【0078】
本発明の別の態様は、上述したようにガイド体の近位端部および遠位端部を個体の損傷組織の破損端部(例えば、破損神経の近位および遠位基部のそれぞれ)に付着させることを含む、組織損傷の修復方法を提供する。
【0079】
本発明の別の態様は、上述した組織成長のためのガイド体を含むキット、または上述したような組織成長用のガイド体の作製のためのキットを提供する。キットは、例えば固体または液体形態の生体高分子基質、外鞘、ならびに1つ以上の張力生成細胞および/または目的の組織に由来する細胞を含み得る。
【0080】
適切な生体高分子基質、外鞘および神経修復細胞は上記で述べている。
【0081】
基質は、適切な芯の形状に予め成形された調製済みゲル、または外鞘を用いて適切な芯の形状に成型するための粉末もしくは液体形態のものであり得る。
【0082】
外鞘は、内部芯を取り囲むチューブ、または内部芯をその中に導入することができるチューブの形状のものであり得る。あるいはまた、外鞘は、芯における圧縮応力(pre-stress)の生成および移植の前に、芯に巻きつけるかまたは貼り付ける平坦なシートの形態であり得る。
【0083】
キットは、ガイド体を損傷組織端部に固定するための縫合具またはのり等の1つ以上の追加の構成要素、内部芯に組み込むための追加の成長因子、および使用指示書を含み得る。
【0084】
以下、本発明の態様を、添付の図面および以下の実験例を限定しない例として参照しながら説明する。さらなる態様および実施形態は、当業者には理解されよう。
【0085】
当業者には、本明細書に記載する特徴は、本発明に従って任意の組合せで使用できることが理解されよう。
【0086】
本明細書で言及する全ての文献は、参照により本明細書に組み入れる。
【実施例】
【0087】
実験
材料および方法
in vitro試験のための細胞を播種したコラーゲンゲル
ニューロン成長に対する整列したシュワン細胞の効果を試験するために、培養系においてコラーゲンゲルを作製した。この方法は、本グループにより先に開発した方法(Eastwoodら (1994) Cell Motil Cytoskeleton. 1998;40(1):13-21)であるが、シュワン細胞の一次培養物を使用した方法に従うものである。
【0088】
シュワン細胞の調製
ラットシュワン細胞の一次培養方法を、WigleyおよびHall (1998) Glia 24; 290-303から採用した。簡単に言うと、4匹の雄Fisherラット(150〜200 g, Harlan)をCO2窒息により屠殺した。解剖顕微鏡を使用して、大腿部中部においてそれぞれの坐骨神経を露出させ、総腓骨神経および脛骨神経の主要な枝を全て切り出した。その後、神経を、50μg/mlゲンタマイシン(Sigma)を含むハンクス平衡塩溶水(HBSS、Gibco)中で2回洗浄した。その後、神経上膜および神経周膜を、解剖顕微鏡下で細い鉗子を用いて引き剥がした。個々の神経をMcIlwain組織チョッパーで1×1 mmの切片に切り刻み、10%ウシ胎仔血清(FCS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(GIBCO, Grand Island, NY)(DMEM/FCS)および50μg/mlゲンタマイシンを含む35 mmディッシュ中に入れた。外植片をこの培地に37℃/10%CO2下で4日間浮遊させておいた。解離の18時間前に、コラゲナーゼ/ディスパーゼ(0.1%, Boehringer Mannheim Biochemicals, Indianapolis, IN)を培地に添加し、4日目に、外植片を、炎であぶって狭くした(flame-narrowed)ピペット(0.5〜1 mm口径)に通す緩やかな粉砕により解離させた。その後、細胞を、20 ng/ml GGF-2および10 ng/mlホルスコリン(Sigma)を補充したDMEM/FCS中、ポリリシン/ラミニン被覆された25 cm2組織培養フラスコ上に5×104細胞/mlにてプレーティングし、使用前の最大5日間、培養に戻した。コラーゲンゲルへの取り込み直前に細胞を回収した。細胞単層をCa2+およびMg2+を含まないPBSで洗浄した後に、3 mlの0.125%トリプシン(0.01%w/v EDTA含有PBS中)を使用して細胞をフラスコ表面から分離させた。その後、3 mlのDMEM/FCSを添加して、トリプシンを不活化した。細胞を、炎であぶって狭くしたピペット(0.5〜1 mm口径)を通して粉砕し、1500 rpmにて5分間の遠心分離により回収し、DMEM/FCS中に再懸濁させた。
【0089】
4 mlの2 mg/ml ラット尾部I型コラーゲンを、0.5 ml 10×DMEMと混合し、1M NaOHで中和した後に、0.5 mlシュワン細胞懸濁液を添加した(上述したようにして調製した、成体ラット坐骨神経外植片の一次培養物由来のシュワン細胞と線維芽細胞の混合物;250,000細胞/ml)。この混合物を2つの長方形の型に流し入れ(それぞれに2.5 ml)、5分以内に37℃にてゲルを形成させた。その長方形のゲルをそれらの端部において多孔性メッシュと固定したところ、そのメッシュはゲルの端部と一体化して固定バーを形成した。ゲルが固まったら、型に、50μg/mlアスコルビン酸を補充した7 mlの培地(DMEM、10% FCS、ペニシリン/ストレプトマイシン)を注ぎ足し、37℃にて18時間インキュベートして、収縮および整列させた。
【0090】
新たに間引きした成体SDラット(200 g)からDRGを回収し、全ての神経突起を取り除いた。次いで、DRGを、0.125%コラゲナーゼを含むDMEM中で37℃にて90分間インキュベートした後、コラゲナーゼ溶液を除去し、培養培地中でDRGを粉砕して細胞懸濁液を作った。細胞断片を沈降させ、細胞懸濁液を取り、100 gにて5分間遠心分離にかけ、0.5 ml培養培地に細胞を再懸濁させた。固定した長方形のコラーゲンゲルにシュワン細胞を播種し、上述したように18時間収縮させた。
【0091】
培養培地を、整列したシュワン細胞ゲルから排出させ、そしてゲルの表面に250μlのDRG懸濁液を添加した。7 mlの培養培地(DMEM+10%ウシ胎仔血清)を注ぎ足す前に、ニューロンを接着させるためにゲルを10分間置いて、5%CO2の加湿雰囲気において37℃にて3日間インキュベートした。
【0092】
コラーゲンゲルの免疫染色
3日間のインキュベーションの後、培地を除去し、PBSでゲルを簡単に洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド含有リン酸緩衝液中で20分間固定した。ニューロンのマーカーであるβチューブリンの存在についてゲルを染色した。全ての試薬は、PBS中に調製し、インキュベーションおよび洗浄は全て室温にて行った。簡単に言うと、ゲルを0.1%Triton-X中で10分間インキュベートし、5%ブタ血清を用いてブロックした後、マウス抗βチューブリン(1:400)(Sigma)中で1時間インキュベートした。二次抗体は、TRITCにコンジュゲートした抗マウスIgG(1:100)で、45分間とした。インキュベーションとインキュベーションの間には、ゲルを5 ml PBS中で3×15分間洗浄し、また可視化の前には、ゲルを5 ml PBS中で4℃にて少なくとも24時間保存した。
【0093】
デジタルビデオカメラ(Hammamatsu Orca)に接続した蛍光顕微鏡(Nikon Diaphot)を用いてニューロン成長を可視化した。ゲルの中央領域を表す(整列した収縮シュワン細胞を含む)領域、および各端部における応力遮へいされた(stress-shielded)デルタゾーンから画像をとらえた。約40の画像を、2つのゲルの各ゾーンから取り込み、各軸索経路の角度を、Macintosh G4上でOpenlabソフトウェア(Improvision, UK)を用いて計算した。ゲルの縦軸からの偏角を計算したが、各角度についての度数(軸索の数)を示す。整列ゾーンについては、合計744の軸索を追跡し、デルタゾーンについては766の軸索を追跡した。
【0094】
移植可能な組織ガイド体の構築
シュワン細胞を播種した整列コラーゲンゲルをラットの神経修復部位に送達するために、移植可能な組織ガイド体を開発した。外側構成要素は、シリコーンのチューブから作製した(医療等級;長さ10 mm、外径3.17 mm、内径1.98 mm;VWRから入手)。19G皮下注射針を用いて、シリコンチューブの各端部の周囲に、直径0.5 mm〜1 mmの8つの穴からなる2つの環を作った。それらの穴により、これらの端部領域においてコラーゲンがチューブと一体化することが可能になった。
【0095】
上述したようにしてシュワン細胞を加えてコラーゲンゲルを作製したが、ゲルを型に注ぐ代わりに、ピペットから、穴を開けたシリコーンチューブにゲルを注ぎ込んだ。十分なゲルを使ってチューブの内腔を完全に満たし、そして、穴から流出させることにより端部と一体化させた。2.5 mlのゲルを用いて10本のチューブを満たし、これらを、固まるまで37℃にて5分間ペトリ皿に放置した。その後、充填したチューブを、相互に注意深く分離し、余分なコラーゲンを全て取り除いた後、50μg/mlアスコルビン酸を補充したDMEM+10%FCSを含む培養培地中で一晩インキュベートした。
【0096】
このインキュベーションの間に、ゲルはチューブ内で収縮し、中央部においてはチューブの壁から引き離される一方で、端部においては固定されたままとなった。これにより、チューブの両端に所定の位置で留められ、チューブの中心へと延びる、整列したシュワン細胞を含むコラーゲンの細い糸を得た。
【0097】
ゲルの収縮および固定の完全性(integrity)について、倒立型ステージ位相差顕微鏡を用いて構築物を評価した。例えば、ヘマトキシリンおよびエオシンによりゲルを染色することによりその細胞が示され、同じ構築物からの染色されていない切片の位相差画像によりチューブにおけるその位置が示された。
【0098】
自己整列したコラーゲンデバイスの移植
雌Fisherラット(150〜200 g、Harlan、n=27)を、3つの同等の実験グループにランダムに分け、イソフルラン(isoflourane)を吸入により投与して深麻酔した。
【0099】
解剖顕微鏡を用いて、各動物の大腿部中部において左坐骨神経を露出させ、5 mm切片の神経を切り出した。自己整列したコラーゲンおよびシュワン細胞を含むデバイスを、1グループの動物に移植し、一方、第2のグループには同じ長さの空のシリコーンチューブを移植した。それぞれの基部に、4本の10/0神経上膜縫合糸を用いて、導管(conduit)を正しく取り付けた。最後の実験グループには、基部間に5 mmの間隙を残したままにした(すなわち、デバイスを移植しなかった)。創傷を層状に閉じ、動物を回復させた。
【0100】
各実験グループから3匹の動物を、術後2、4および8週間目に、CO2窒息により屠殺した。神経を再度露出させ、外科部位を含む25 mmの長さの神経を、解剖顕微鏡の下で切り出した。その後、神経および導管または対照を、4%パラホルムアルデヒド中で一晩浸漬固定した。次いで、組織をポリエステルワックスに埋め込み、神経基部を有する移植部位の7μm切片(縦断面)、および移植部位から1 cm離れた遠位基部の7μm切片(横断面)を切リ取った。次いで、抗マウスFITC(Sigma 1:100)で可視化した再生軸索を同定するためにマウスモノクローナル抗200 kD神経フィラメントを用いて、および抗ウサギTRITC(Sigma、1:100希釈)で可視化したシュワン細胞(DAKO、1:200希釈)を同定するためにウサギポリクローナル抗S100を用いて、切片を二重免疫染色した。一次抗体を、4℃にて一晩インキュベートし、二次抗体を室温にて1時間インキュベートした。
【0101】
再生の定量化
移植部位、および遠位基部の近位端部から1 cm離れた部位の両方において再生を定量化した。神経欠損全域の再生を定量化するために、100μm間隔の3つの縦方向の切片を、各動物から無作為に選択し、前述したように免疫染色した。次いで、各切片の基部間領域の正確な中心部のデジタル画像を、Olympus Provis蛍光顕微鏡に接続したZeiss Axiovisionソフトウェアと組み合わせたZeiss AxioCam HRmカメラを用いて取り込んだ。抗神経フィラメント抗体で免疫染色された画像面積を、Zeiss KS-300画像分析ソフトウェアを用いて計算した。
【0102】
また、遠位基部の近位端部から1 cm離れた位置から採取した神経の横断面における神経フィラメント免疫反応性軸索を含むS-100免疫反応性シュワン細胞チューブのパーセンテージを計算することにより、切断部位から離れた部位での再生も定量化した。ボンフェローニ(Bonferoni)の多重比較事後検定と共に一元配置分散分析(ANOVA)を用いて、結果の統計学的分析を行った。
【0103】
結果
整列コラーゲンゲルはin vitroでニューロンを方向付けた
シュワン細胞が播種された長方形のコラーゲンゲルを、端部において18時間にわたり固定し、その後シュワン細胞マーカーS100に対する抗体を用いて免疫染色した。共焦点顕微鏡投射像から、ゲル内のシュワン細胞が、固定されている整列により形成された張力の軸に沿って(すなわち、ゲルの長軸と平行に)整列するようになったことが明らかになった。長方形コラーゲンゲルの各端部における固定バーの存在は、応力遮へいされた三角領域(デルタゾーンと称する)を生じる(Eastwoodら, 1998. Cell Motil Cytoskeleton 40:13-21)。シュワン細胞の突起が、これらのデルタゾーンにおいてはランダムな向きに発達することが観察された。従って、デルタゾーンは、ゲル内の収縮細胞が軸方向に整列していない有用な対照領域を提供した。
【0104】
この整列した基材上に播種されたDRGニューロンは、張力の軸と平行に成長し(すなわち、整列したシュワン細胞と同じ方向に向いて)、その大部分の軸索が10°未満の偏角を示した(図1)。逆に、デルタゾーンでは、DRGニューロンはあらゆる方向に成長した。
【0105】
組織ガイド体によりin vivoでニューロンの成長が改善される
本明細書に記載したようにシリコーン外側チューブを用いて、神経修復用の移植可能な組織ガイド体を開発した。ガイド体を、ラットの末梢神経損傷モデルに移植した。細胞性コラーゲンデバイスを受容したラットにおいて、4および8週間後、ニューロン再生は、空のシリコーンチューブまたは修復無しの場合と比べて、有意に大きかった。図2は、縦断面の免疫蛍光画像の定量化により決定した、修復された神経の遠位基部に存在する神経フィラメントの量を示す。これは、間隙全体のニューロン再生レベルの指標をもたらし、またこれが、各時点において、空のチューブ対照と比べて収縮コラーゲンの存在下でより大きいことを示した。再生のさらなる評価として、遠位基部から1 mm離れた横断面における神経フィラメントについて陽性のニューロンを含むS100陽性シュワン細胞チューブの数の定量化を含めた。切断前に、全てのシュワン細胞チューブはニューロンを含んでいるが、再生軸索によって占拠させるために、その後のウォラー変性によりこれらのチューブは空にしておくことになる。図3は、コラーゲン含有デバイスを受容したラットにおいて、4および8週間後に、空チューブまたは修復無しの対照と比較して、有意に多くのシュワン細胞チューブが再生軸索を含んでいたことを示す。
【0106】
収縮性細胞を播種されたコラーゲンゲルの固定した反対の端部は、本明細書において、整列した細胞構築物の形成を促すことが示される。この基材は、ランダムに整列したデルタゾーンと比べてDRGからの高度に整列したニューロン成長をもたらす誘導のきっかけを、提供する。細胞性コラーゲン基質を含む整列した組織ガイド体の末梢神経損傷部位への移植は、遠位基部において検出される明白なニューロン組織、および修復から離れた神経支配されたビュングナー帯の数の両方の点で、神経成長を増強することが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、DRG軸索が、固定化コラーゲンゲル内で、整列したシュワン細胞と同じ方向を向いていることを示す、蛍光免疫染色実験から得たデータを示す。
【図2】図2は、空チューブと比較した場合の、コラーゲン含有組織ガイド体を移植されたラットの修復神経の遠位基部に存在する神経フィラメントの量を示す免疫蛍光データを示す。
【図3】図3は、2、4および8週間後に、空チューブまたは修復無しの対照と比較した場合の、コラーゲン含有組織ガイド体を移植したラットにおける再生軸索を含むシュワン細胞チューブの数を示す免疫蛍光データを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その中に1つ以上の細胞が置かれている生体高分子基質を含む内部芯を備えた、組織成長ガイド体であって、
前記ガイド体は、前記内部芯を取り囲む外鞘をさらに備え、
前記内部芯は、第1の取付領域および第2の取付領域において前記外鞘に固定されており、
その結果、前記細胞が、第1の取付領域と第2の取付領域との間で、前記芯において機械的張力を生じる、
前記ガイド体。
【請求項2】
前記芯における機械的張力が細胞の整列を引き起こす、請求項1に記載のガイド体。
【請求項3】
前記芯における機械的張力が、前記生体高分子基質の繊維の整列を引き起こす、請求項1または2に記載のガイド体。
【請求項4】
前記生体高分子基質がコラーゲン基質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項5】
損傷組織の修復におけるインプラントとしての使用に適合した、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項6】
前記鞘が、再生組織の進入のための1つ以上の進入口を備えた、請求項5に記載のガイド体。
【請求項7】
神経の再生に適合した、請求項5または6に記載のガイド体。
【請求項8】
前記鞘が、再生神経の進入のための進入口、および再生神経が外へ出るための出口を備えた、請求項7に記載のガイド体。
【請求項9】
進入点を損傷神経の近位端部に隣接した位置に固定し、出口点を損傷神経の遠位端部の位置に固定させるための、1つ以上の固定材を備える、請求項8に記載のガイド体。
【請求項10】
前記芯における機械的張力が、ガイド体内の再生組織に対して牽引力を与える、請求項5〜9のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項11】
前記細胞が、シュワン細胞、神経線維芽細胞、線維芽細胞、腱細胞、星状細胞、骨芽細胞、筋芽細胞、メラニン細胞、平滑筋細胞、分泌管もしくは腺細胞、上皮細胞、および内皮細胞の1つ以上を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項12】
前記細胞が、シュワン細胞および線維芽細胞を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項13】
前記鞘が生体吸収性である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項14】
前記鞘が無孔性である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項15】
前記鞘が、シリコーン、リン酸塩ガラス、ポリラクトン、ポリグリコン、ポリカプロラクトン、ヒアルロナンまたはそれらの誘導体、コラーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、セルロース、キトサン、およびデンプンからなる群より選択される、請求項12〜14のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項16】
前記鞘が、第1および第2の取付領域において前記芯と機械的に固定されている、請求項1〜15のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項17】
前記外鞘が、第1および第2の取付領域において内部芯と協調的に係合するように形作られており、それによって前記鞘に対して前記芯が同軸方向に移動しないようにする、請求項16に記載のガイド体。
【請求項18】
前記鞘が、第1および第2の取付領域において内部芯と協調的に係合する1つ以上の開口部を備える、請求項17に記載のガイド体。
【請求項19】
前記開口部が複数の孔を含む、請求項18に記載のガイド体。
【請求項20】
前記開口部が、前記鞘に1つ以上の穴を含む、請求項18に記載のガイド体。
【請求項21】
前記鞘が、前記第1および第2の取付領域において前記芯と化学的に固定されている、請求項1〜15のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項22】
組織を成長させるためのバイオリアクターとしてのin vitroでの使用に適合した、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガイド体。
【請求項23】
外鞘を提供すること、
細胞を液体生体高分子基質に導入すること、
前記液体基質を前記外鞘の内部に導入すること、
前記液体基質を固めるかまたは固まるようにさせること、ならびに
前記基質を第1および第2の取付領域において前記鞘に固定すること、
を含む、組織成長用のガイド体の作製方法。
【請求項24】
前記外鞘が、第1および第2の取付領域において前記基質と協調的に係合し、この係合により前記鞘に対して芯が同軸方向に移動しないようにする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記基質中の細胞に、第1および第2の取付領域の間で機械的張力を生じさせるかまたは生じるようにする、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記ガイド体をヒトまたは動物の体内に移植することを含む、請求項23〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が、線維芽細胞、および、前記組織の1つ以上の細胞を含む、請求項23〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記組織細胞が、線維芽細胞、および、前記組織の細胞の1つ以上の幹細胞または前駆細胞を含む、請求項23〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
請求項1〜21のいずれか一項に記載のガイド体の第1および第2の端部を、個体の損傷組織の破損端部に接続すること、ならびに前記ガイド体によって前記組織が再生するようにすることを含む、組織損傷を修復する方法。
【請求項30】
前記損傷組織が神経である、請求項29に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−524078(P2006−524078A)
【公表日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506084(P2006−506084)
【出願日】平成16年4月2日(2004.4.2)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001455
【国際公開番号】WO2004/087231
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
Macintosh
【出願人】(505367442)ユーシーエル バイオメディカ ピーエルシー (2)
【Fターム(参考)】