説明

自己架橋性バインダ

本発明は、コーティング組成物用の自己架橋性バインダであって、1分子当たり、ケトン型又はアルデヒド型の少なくとも1つのカルボニル基を有する水分散型樹脂成分A、及び、1分子当たり少なくとも2つのヒドラジン基又はヒドラジド基と、少なくとも1つの構造単位
−NR−NR−CHR−CHR−NH−R (I)
(式中、ラジカルR、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素ラジカル、及び1個〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分枝アルキルラジカルから成る群から選択され、R及びRはさらに、6個〜15個の炭素原子を有するアリールラジカル及びアルキルアリールラジカルから成る群から、並びにオキシ基がアルキル鎖中又はアルキル鎖の末端に挿入され得る1個〜10個の炭素原子を有するオキシアルキルラジカルから選択することができ、且つ、Rは、水素ラジカル、直鎖、分枝状又は環状であってもよく且つ1個〜10個の炭素原子を有し得るアルキルラジカル、及び式−(CH−CO−O−X(式中、nは1〜6の整数であり、且つXは多価アルコール又はフェノールの残基である)の残基から成る群から選択される)
とを有する成分Bからなる、コーティング組成物用の自己架橋性バインダ、及びそれを製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己架橋性バインダに関する。本発明はさらに、かかる自己架橋性バインダを製造する方法、及び塗膜を調製するためのその使用方法に関する。
【0002】
自己架橋性ポリウレタン分散物は、とりわけ特許文献1に記載されている。自己架橋性ポリウレタン分散物は、水分散型ケト官能性ポリウレタン樹脂と、アジポジヒドラジド等のポリヒドラジドとの混合物を含む。
【0003】
かかる分散物から調製される塗膜の耐薬品性及び機械的耐性は依然として改善が必要であることが分かっている。他方、カルボニル官能性アクリル分散物と、架橋剤としてジヒドラジドとをベースとした自己架橋性アクリル樹脂(特許文献2に記載されているもの等)は急速な乾燥をもたらすが、良好な耐薬品性を有する無溶剤型塗料、木材塗装におけるそれらの湿潤性は依然として改善が必要であり、且つ赤ワイン及びコーヒーによる耐汚染性はまだ満足すべきものでない。特許文献3から知られているもの等のポリウレタンアクリルハイブリッド系はより良好な木材湿潤性を有するが、それらの乾燥時間は著しく長く、且つこれらの系は通常、凝集溶剤(n−メチルピロリドン)を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第0649865号
【特許文献2】欧州特許第0995780号
【特許文献3】欧州特許第0332326号
【発明の概要】
【0005】
したがって、本発明の目的は、速乾性、並びに改善された耐薬品性及び耐環境性を有する、乾燥の際に自己架橋性を有するコーティングバインダを提供することである。
【0006】
この目的は、請求項1に記載のコーティング組成物用の自己架橋性バインダによって達成された。
【0007】
したがって、本発明は、コーティング組成物用の水分散型自己架橋性バインダであって、1分子当たり、ケトン型又はアルデヒド型の少なくとも1つのカルボニル基を有する、樹脂成分A、及び、1分子当たり、少なくとも2つのヒドラジン基又はヒドラジド基と、以下の式の少なくとも1つの構造単位
−NR−NR−CHR−CHR−NH−R (I)
(式中、ラジカルR、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素ラジカル、及び1個〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分枝アルキルラジカルから成る群から選択され、R及びRは6個〜15個の炭素原子を有するアリールラジカル及びアルキルアリールラジカル、並びに、オキシ基がアルキル鎖中又はアルキル鎖の末端に挿入され得る、1個〜10個の炭素原子を有するオキシアルキルラジカルから成る群から選択することができ、且つ、Rは、水素ラジカル、直鎖、分枝状又は環状であってもよく且つ1個〜10個の炭素原子を有し得るアルキルラジカル、好ましくは分枝しており、多価環状脂肪族ラジカル由来の多価脂肪族ラジカル(それぞれが少なくとも2つの、最大で6つの結合部位を有する)及び式−(CH−CO−O−X(式中、nは1〜6の整数であり、且つXは好ましくは少なくとも2つの、特に好ましくは少なくとも3つの、最大で6つのヒドロキシル基を有する多価アルコール又はフェノールの残基である)の残基から成る群から選択される)
とを有する成分Bからなる、コーティング組成物用の自己架橋性バインダに関する。
【0008】
本発明のさらなる目的は、水中又は少なくとも30%の質量分率の水を含む混合物中に分散される、1分子当たり、ケトン型又はアルデヒド型の少なくとも1つのカルボニル基を有する樹脂成分Aを準備すること、及び、好ましくは樹脂成分Aの水分散物の存在下で、1分子当たり少なくとも2つのヒドラジド基又はヒドラジン基を有する化合物B1と、1分子当たり少なくとも2つの、好ましくは少なくとも3つのアジリジン基を有する多官能性アジリジンB2とを反応させることによって、上記水分散型自己架橋性バインダを製造する方法である。
【0009】
ヒドラジド基とは、構造R−CO−NH−NHの基を意味するものとし、ヒドラジン基とは、構造R−NH−NHの基を意味するものとする(式中、Rは任意の有機残基を表す)。
【0010】
本発明の別の目的は、請求項1に記載の自己架橋性バインダを含むコーティング組成物の調製である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
樹脂成分Aは好ましくは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリアミド、アルキド樹脂、エポキシ樹脂及びビニル型ポリマーから成る群から選択される。樹脂成分Aは水分散される。これは、水相中への成分Aの分散前又は分散中に、成分Aに、又は成分Aが分散される水若しくは水性混合物に乳化剤を添加することにより、既知の方法で達成され得る。少なくとも1つの非イオン性乳化剤及び少なくとも1つのイオン性乳化剤が存在する、少なくとも2つの乳化剤の混合物が好ましい。樹脂成分Aの水分散物を安定化させる別の好ましい方法は、好ましくは樹脂成分Aのポリマー鎖に結合するアニオンの生成を受けて、この成分Aに十分な数の親水性基を与えることであり、これらの親水性基は、オリゴマーオキシエチレン部位に由来する基等の非イオン性であってもよく、又は好ましくは、イオン性若しくはイオノゲン性、つまり、アルカリ性水性溶液中で解離する基であってもよい。
【0012】
樹脂成分Aは、カルボニル基、すなわち、ケトン型若しくはアルデヒド型の含量を特徴とする。樹脂Aに、必要とされるカルボニル官能基、すなわち、上記のアルデヒド基又はケトン基を与える、好適なコモノマー又は他の遊離体(出発原料)を組み込むことによって、樹脂Aを改質しなければならないことは、自明である。本発明において、ケトン型のカルボニル基は>C=O基であり、上記カルボニル基炭素原子の両方の残る結合が炭素原子と結合されるのに対し、アルデヒド型のカルボニル基は、1つの炭素原子及び1つの水素原子と結合するカルボニル基炭素原子を有する。これらのカルボニル基は、一続きの少なくとも2つの隣接する炭素原子によりポリマー主鎖と結合していることが特に好ましい。このことは、樹脂成分Aが好ましくは、
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、波線は、ポリマー主鎖を示すものとし、残基R及びRはいずれの場合にも同じであっても異なっていてもよく、水素、又はあまり好ましくはないが、ハロゲン又は4個までの炭素原子の低級アルキルであってもよく、且つnは少なくとも2の整数である)
の型の構造を含むことを意味する。ポリマー主鎖の一部を形成する炭素原子と、上記式中の括弧内の少なくとも2つの炭素原子との間に、酸素原子又はオキシアルキレン基を挿入することも可能である。好ましい様式では、ポリマー鎖から下垂するカルボニル基が、構造−CH−CH−CO−R(式中、Rは好ましくはメチル又はエチルである)として存在する。
【0015】
成分Aは、少なくとも1つの乳化剤の添加(いわゆる、外部乳化)に際して水若しくは水性相中に分散され得る、1分子当たり少なくとも1つのケトンカルボニル基又はアルデヒドカルボニル基を含有するいずれの樹脂であってもよく、又は成分Aは自己乳化性であり得る。好ましくは、成分Aは、ポリウレタン、ポリウレタン尿素、ビニルポリマー、特に、アルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル及びニトリル等のアクリル酸又はメタクリル酸の誘導体のポリマー又はコポリマー(ここでは、酸自体並びにスチレン及び置換スチレンがコモノマーとして好ましい)、またポリエステル、アルキド樹脂、ポリエステルアミド及びエポキシ樹脂から成る群から選択される。特に好ましくは、ポリウレタン、ビニル型樹脂及びポリウレタン、又は例えば、エステル化によって、アクリル部位によりグラフト化、さもなければ改質されるアルキド樹脂である。また、一方ではポリウレタン及び/又はポリエステル樹脂を含むハイブリッドポリマーが好ましく、他方ではビニル型ポリマーが好ましい。これらは好ましくは、スチレン又はメチルメタクリレート等の1つ又は複数のビニル型モノマーを溶剤としてポリウレタン樹脂又はポリエステル樹脂の形成に使用することによって合成することができる。上記樹脂の形成後、次に混合物を水中に分散させ、樹脂を乳化剤として作用させ、任意にさらなる乳化剤を添加すると、その後、ビニル型モノマーの乳化重合が起こる。本発明の範囲内において、適用の平温で相分離を伴わずに樹脂Aと混和性であり、好ましくは同じ化学種であるが、上記カルボニル基を含有しない他の樹脂A’と共に、1分子当たり少なくとも1つのカルボニル基を有する樹脂Aの混合物を使用することも可能である。「同じ化学種」とは、例えば、樹脂が両方ともエポキシ樹脂型であるか、又は樹脂が両方ともアルキド樹脂であるか、又は樹脂が両方ともポリウレタン樹脂型であることを意味する。
【0016】
疎水性ヒドロキシ官能性樹脂状化合物A1と、親水性酸官能性樹脂状化合物A2とのエステル化反応によって生成されるエステル型縮合生成物を成分Aとして使用することも可能であり、ここでは、各A1及びA2の少なくとも1つの分子がエステル結合を介して互いに結合し、且つ樹脂状化合物A1及びA2の少なくとも一方が少なくとも1つのカルボニル官能性基をさらに含有することが理想的である。そしてまた、かかる樹脂状化合物A1及びA2は、さらにはヒドロキシ官能性基及び酸官能性基を有する、ポリウレタン、ポリエステル、アルキド、エポキシ樹脂、及びビニル型ポリマーから成る群から選択され、また、樹脂状化合物A1及びA2の少なくとも一方がカルボニル官能基を有する。
【0017】
ポリウレタンは、オリゴマー又はポリマーの多ヒドロキシ官能性有機化合物と、多官能性イソシアネートとを反応させることによって、当該技術分野で知られているように生成されるが、任意に低モル質量の有機多官能性ヒドロキシ化合物を含むこともある。本発明において、「多官能性」とは、少なくとも2つの官能性基を有する化合物を指す。当該技術分野で既知のように、自己乳化性ポリウレタンは、反応混合物中に、酸官能性基と、イソシアネート基に対して反応性の少なくとも1つの官能基とを有する化合物を含めることにより生成される。第1の工程において、いわゆる鎖延長剤A’’、すなわち、水と反応するよりも速くイソシアネート基と反応する少なくとも2つの基を有する化合物を含有する水性混合物中に分散される、イソシアネート官能基を有するプレポリマーA’を合成することによって、水分散型ポリウレタンを生成することが好ましいことは当該技術分野においてさらに知られている。平均して、付加重合反応において鎖延長を受け、プレポリマー分子A’の少なくとも2つが鎖延長剤A’’の少なくとも1つと反応することにより、より高いモル質量のポリウレタン(又は、A’’が少なくとも1つの第一級又は第二級アミノ基を含む場合には、ポリウレタン尿素)が形成される。
【0018】
カルボニル官能性基は、ポリウレタン中に、イソシアネート、ポリマー又はオリゴマーの多ヒドロキシ化合物、任意の低モル質量の多官能性ヒドロキシ化合物、又は低モル質量のモノヒドロキシ若しくはモノアミノ官能性化合物において導入される。同様の反応は、異なる化学的特徴を有する樹脂状化合物A、例えば、少なくとも1つのカルボニル基と、モノマー部位同士のポリマー主鎖における結合をもたらす少なくとも1つの基とを含むように常に選択されるカルボニル官能性分子の場合にも用いられる。ビニルポリマーの場合には、これはオレフィン性不飽和アルデヒド若しくはケトンであってもよく、又はエポキシ樹脂の場合には、これは、脂肪族又は芳香族アルデヒド若しくはケトンのジグリシジルエーテル、例えば一例として、ジヒドロキシベンズアルデヒドのジグリシジルエーテル、又はジヒドロキシベンゾフェノンのジグリシジルエーテルであってもよい。
【0019】
1分子当たり、少なくとも2つのヒドラジン基又はヒドラジド基と、上記式Iの少なくとも1つの構造単位とを有する成分Bは好ましくは、樹脂成分Aの水分散物の存在下で、1分子当たり少なくとも2つのヒドラジド基又はヒドラジン基を有する化合物B1と、1分子当たり少なくとも2つのアジリジン基を有する多官能性アジリジンB2とを反応させることによって生成することができる。
【0020】
多官能性アジリジンB2は少なくとも2つのアジリジン基を有し、1分子当たり3つ以上のアジリジン基を有する多官能性アジリジンB2を使用することによってより高い架橋度を実現することができる。
【0021】
本発明の水性自己架橋性バインダを製造するのに使用される方法は、
a)樹脂状化合物Aを調製する工程と、
b)樹脂状化合物Aを水中に分散させる工程と、
c)分散物に、1分子当たり少なくとも2つのアジリジン基、好ましくは1分子当たり少なくとも3つのアジリジン基を有する多官能性アジリジン化合物を添加すると共に、得られた混合物を均質化する工程と、
d)この混合物に、1分子当たり少なくとも2つのヒドラジン基又はヒドラジド基を有するヒドラジン又はヒドラジド官能性化合物を添加する工程とを含む。
【0022】
より高い架橋度を達成するために、この方法では、3つ以上のアジリジン基を有する多官能性アジリジンB2を使用することが好ましい。
【0023】
Aがポリウレタン又はポリウレタン尿素である場合には、第2の工程b)において水に添加される樹脂状化合物がイソシアネート官能性ポリウレタンプレポリマーA’であり、且つ工程b)で、いわゆる鎖延長剤分子A’’が、プレポリマーA’の分散前又は分散中に、プレポリマーA’が分散される水に添加され、A’及びA’’を水性媒体中で反応させて、鎖延長ポリウレタン又はポリウレタン尿素Aを形成することが好ましい。
【0024】
上記樹脂Aが自己乳化性樹脂であれば、好ましくは高剪断の下で、工程b)においてAは水中に十分に分散する。これは、市販の分散機、例えば、翼型攪拌機、インペラ式攪拌機、又はUltra−Turrax(登録商標)を使用することにより既知の方法で達成され得る。
【0025】
樹脂Aが自己乳化性樹脂でなければ、工程b)で使用する水、又は工程b)で分散させる樹脂Aのいずれかに、乳化剤を添加する。通常使用される乳化剤は、親水性部分及び疎水性部分を両方とも有する分子である。これらの分子は、水相と非水相との間の界面層に凝集体を形成し、連続相中で分散液滴を安定化させる。少なくとも1つの非イオン性乳化剤及び少なくとも1つのイオン性乳化剤が存在する、少なくとも2つの乳化剤の混合物が好ましい。
【0026】
工程c)において、1分子当たり少なくとも2つのヒドラジン基又はヒドラジド基を含有する多官能性化合物を、工程b)で形成される、Aの水中分散物に攪拌しながら添加し、それにより均質混合物が形成されることが好ましい。また、この混合工程後に、水性混合物のpHが、6の値を超える、より好ましくは7を超えるように設定されることが好ましい。最適な結果はpHが8.0〜10.5の範囲内にある場合に得られる。
【0027】
第4の工程d)では、多官能性アジリジン化合物を工程c)の混合物に添加する。ここで、「多官能性」とは、1分子当たり少なくとも2つのアジリジン基を有する化合物を意味し、アジリジン基の物質量と、ヒドラジド官能性分子の物質量との比は、好ましくは0.8mol/mol〜1.0mol/mol、特に好ましくは0.9mol/mol〜0.99mol/molの範囲内である。さらに、A中のカルボニル基の物質量と、工程d)を実施して反応を完了させた後に残存するヒドラジド基及びヒドラジン基の物質量との比は、好ましくは1.0mol/mol〜1.5mol/mol、特に好ましくは1.05mol/mol〜1.2mol/molである。
【0028】
樹脂成分A中のカルボニル基に関する物質量、成分B1中のヒドラジド基又はヒドラジン基の物質量と、成分B2中のアジリジン基の物質量との比についての範囲
n(>C=O):n(−NH−NH):n(アジリジン)
は、三官能性アジリジン及び二官能性ヒドラジン又はヒドラジドの場合、これらの基同士のいずれかの反応前に、好ましくは1mol:(1.0mol〜2.2mol):(0.2mol〜1.1mol)である。
【0029】
本発明の自己架橋性バインダは、木材及び木質系材料用のコーティング組成物を調製するのに有利に使用することができる。本発明の自己架橋性バインダはまた、紙及び板紙、並びに皮及び繊維材料等の他の感熱性材料のコーティングに好適である。
【0030】
実施例及び先の文章において、溶液又は混合物に関する、単位「%」又は「cg/g」を伴う物理量は全て、特に明記のない限り、質量分率(溶液又は混合物の質量で除した、溶質又は特定の成分の質量)である。
【0031】
酸価は、DIN EN ISO 3682(DIN 53 402)に従って、被検試料を中和するのに必要な水酸化カリウムの質量mKOHと、この試料の質量m、又は溶液又は分散物の場合には試料中の固形分の質量との比として定義され、その一般的な単位は「mg/g」である。
【0032】
アミン価は、DIN 53 176に従って、検討される試料と同量の酸を中和に費やす水酸化カリウムの質量mKOHと、その試料の質量m、又は溶液又は分散物の場合には試料の固形物の質量との比として定義され、一般的に使用される単位は「mg/g」である。
【実施例】
【0033】
[実施例1] ポリウレタンをベースとした樹脂成分Aの調製
還流凝縮器及び滴下漏斗を備えた3つ口容器に、900gのヒマシ油、156gのジメチロールプロピオン酸、272gの3−アセチルプロパノール、100gのネオペンチルグリコール及び178gのジプロピレングリコールジメチルエーテルを充填し、攪拌しながら均質溶液が得られるまで120℃に加熱した。369gのトルイレンジイソシアネートを徐々に添加し、124℃未満の反応混合物温度を維持した。ジイソシアネートを全て添加し、混合物中のイソシアネート基の質量分率が0.04%未満に下がるまで、115℃〜120℃の温度で攪拌を続けた。その後、632gのイソホロンジイソシアネートを同様に添加し、イソシアネートの質量分率が0.6%未満に再度下がるまで、上記温度で反応混合物を再度攪拌した。59gの完全に脱塩した水を添加することで、温度を約97℃に下げた。わずかな発泡が観測された。その後、52gの25%強度のアンモニア水溶液と59gの水との混合物を添加し、均質に混和した。中和した樹脂溶液を次に、2800gの完全に脱塩した水中に30分間〜45分間分散させた。
【0034】
[実施例2] ヒドラジドの添加
実施例1の樹脂分散物を攪拌しながら、70℃〜80℃の温度に加熱した。176gのアジピン酸ジヒドラジドを添加し、均質混合物が得られるまで、混合物を30分間攪拌した。この混合物を室温まで冷却し、25μmのフリースフィルタ(fleece filter)を通して濾過し、あらゆる沈殿物を除去した。得られた分散物は、73nmの平均粒径、43%の固形分の質量分率、26.6mg/gの酸価、2300mPa・sの動粘度、及び7.7のpH(9gの水で希釈した1gの分散物)を有していた。ヒドラジド基の物質量と、カルボニル基の物質量との比は0.8:1であった。
【0035】
[実施例3] 自己架橋性バインダの調製
800gの実施例2の分散物を容器に充填した。25℃〜30℃の温度で、240gのポリアジリジン(CX 100(登録商標)架橋剤(DSM NeoResins B. V.))を徐々に添加し、45℃未満の温度を維持した。粘度は添加中に著しく上がった。添加の完了後、さらに1時間攪拌を続け、その後、容器を周囲温度で15時間放置した。この間中、粘度は徐々に且つ着実に下がっていった。最後に25μm孔を有するフリースフィルタを通して濾過された微粒子分散物を得た。以下のデータは、得られた分散物において求めたものである。動粘度1200mPa・s、45%の固形分の質量分率、12.2mg/gのアミン価、及び17.7mg/gの酸価。酸価は、周囲温度で1週間貯蔵したところ、29.6mg/g(およそ開始値、実施例2を参照)まで上がった。
【0036】
[実施例4] コーティング試験
実施例2及び実施例3の分散物を使用して、木材基材用の無着色コーティング組成物C2及びC3を配合した。比較例として、アクリルコポリマーをベースとした自己架橋性コーティングバインダ(特許文献2の実施例4に記載;コーティング組成物C1)と共に、商業用自己架橋性ポリウレタン−アクリルハイブリッド樹脂(C4)を使用した。表1に、コーティング剤の組成を列挙する。
【0037】
表1 コーティング組成物
【表1】


以下の添加剤を使用した:
消泡剤:Tego−Foamex805(登録商標)、ポリエーテルシロキサンコポリマー、Degussa AG
溶剤1:等質量分率のブチルグリコール(エチレングリコールモノブチルエーテル)と水との混合物
溶剤2:等質量分率のブチルグリコール(エチレングリコールモノブチルエーテル)とブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)との混合物
増粘剤:Rheolate 278(登録商標)、水溶液中2.5%、ポリエーテル尿素ポリウレタン系増粘剤、Rheox, Inc.(Hightstown, NJ, USA)製
湿潤剤:Additol VXW 6503(登録商標)
【0038】
コーティング組成物は、バインダを混合すること、消泡剤及び溶剤を添加すること、及び高速攪拌しながら10分間混合することによって調製した。次に増粘剤及び湿潤剤を添加し、さらに10分間十分に混合した。その後、さらに水を添加して、流下時間が30秒になるまで(DIN EN ISO 2431に従うDIN 4カップにより)粘度を調節した。このように調製したコーティング組成物をガラス板及び楓板に塗布した。以下の結果が得られた。
【0039】
表2 コーティング性能試験
【表2】

【0040】
指触乾燥時間(Dust-free drying)及び半硬化乾燥時間(tack-free drying)を150μm厚の湿潤膜に関して測定した。振り子硬度(Koenig)を、ガラス板上の150μm湿潤膜に関して測定した。かかる検体は、耐水性及び耐溶剤性を判断するのにも使用した。楓板は200μm湿潤膜で二度コーティングし、DIN 68861/1に従い、列挙した作用物質に対する耐性を室温における3週間の乾燥後に評価した。1=極めて良好から5=不良までの範囲の5つのスケールに関して、経験的根拠(en empirical basis)に基づき木材湿潤を判断した。
【0041】
アクリルコポリマーをベースとした既知の自己架橋性コーティング組成物(コーティング組成物C1)及びウレタンアクリルハイブリッド(コーティング組成物C4)に比べ、本発明のバインダはより速い乾燥時間を示し、より速い硬度進行、並びに耐水性及び耐溶剤性の改善を示す。わずかな差は見られるものの、コーティングされた木材パネル全体における耐性は、従来技術の系と対等なものである。
【0042】
[実施例5] アクリルコポリマーをベースとした樹脂成分Aの調製
表3に詳述するようなモノマー混合物を用いて、カルボン酸及びケトン型カルボニル官能性基を含有するアクリルコポリマーを調製した。
【0043】
表3 カルボニル及びカルボキシル官能性アクリルコポリマーの調製(化学物質の質量(g))
【表3】

1 ラウリル硫酸ナトリウム(30%水溶液、Disponil SDS(登録商標)、Cognis Deutschland GmbH & Co. KG)
2 脂肪アルコールエトキシレートの混合物、Disponil A 1080(登録商標)、Cognis Deutschland GmbH & Co. KG
3 ペルオキソ二硫酸アンモニウム
4 ブチルメルカプトプロピオネート
【0044】
上記に詳述されるように調製したアクリルコポリマー分散物に、18gの完全に脱イオンした水、12gの25%強度のアンモニア水溶液、9gのActicide MBS(登録商標)(殺菌剤、メチル−4−イソチアゾリン及び1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、Thor Specialities Ltd.)、108gのアジピン酸ジヒドラジド、及びさらに111gの完全に脱イオンした水を混和して、均質分散物を形成した。
【0045】
この混合物を4等分に分割し、27gのアジピン酸ジヒドラジドを第4の部分(実施例5.4)に添加し、均質化し、その後、ポリアジリジン(polyazridine)架橋剤CX 100(登録商標)を添加した。
【0046】
表4 自己架橋性バインダの調製
【表4】

【0047】
均質化した混合物をそれぞれ湿潤膜厚150μmでガラス板に塗布した。この膜を標準条件(23℃、50%相対湿度)で1週間乾燥させた。アセトンの液滴を塗膜に塗布すると共に、コーティングが引っ掻き試験において取り去られ得る時間を測定することによって、耐アセトン性を測定した。以下の結果が得られた。
【0048】
表5 コーティング試験結果
【表5】

【0049】
n(>C=O):n(−CO−NH−NH):n(アジリジン)(mol:mol:molで測定)の比は、互いの反応前に混合物中に幾つのカルボニル基、ヒドラジド基(アジピン酸ジヒドラジドに関しては2つ)及びアジリジン基(CX−100(登録商標)1molにつき3つ)が存在するかを示す。1molのヒドラジド基が、1molのアジリジン基との反応毎に費やされる。実施例5.1において、自己架橋性は、アクリルコポリマーのケトンカルボニル基と、アジピン酸ジヒドラジドのヒドラジド基との反応によってしか達成されない。自己架橋度は、特許文献2の教示に従って得られる結果と対等なものである。実施例5.2におけるアジリジンの添加によって、ヒドラジド基の一部(25%)はアジリジンとの反応に費やされ、コポリマー中のカルボニル基との反応のためのヒドラジド基は75%しか残らない。それゆえ、架橋度は下がるが、架橋密度は、最大三官能性の架橋剤の形成によって増大し、これにより、耐溶剤性の総合的なわずかな改善がもたらされる。実施例5.3では、50%のヒドラジド基がアジリジンとの反応で費やされ、これにより、アクリルコポリマー中のカルボニル基との反応のためのヒドラジド基はさらに少なくなる。架橋度の損失を過度に補償する架橋密度の増大に起因して、耐溶剤性の別のわずかな改善が観測され得る。しかしながら、架橋度及び架橋密度の両方に関する最良の値は、実施例に使用される三官能性アジリジンとヒドラジドとの反応を完了させることができるものの、ヒドラゾン構造の形成を受けて、コポリマーと反応する三官能性の鎖延長ヒドラジド架橋剤の形成の下、架橋のために化学量論量のヒドラジド基が依然として残る場合に、実施例5.4において観測される。本実施例に例示され、且つ本発明をもたらした研究の過程で実行された付加的な実験によって裏付けられるように、カルボニル基、ヒドラジド基及びアジリジン基に関する物質量の比についての最適範囲
n(>C=O):n(−CO−NH−NH):n(アジリジン)
は、これらの基同士のいずれかの反応前に、1mol:(1.0mol〜2.2mol):(0.2mol〜1.1mol)、好ましくは1mol:(1.5mol〜2.1mol):(0.5mol〜1.05mol)、特に好ましくは1mol:(1.8mol〜2.05mol):(0.5mol〜1.05mol)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング組成物用の自己架橋性バインダであって、
1分子当たり、ケトン型又はアルデヒド型の少なくとも1つのカルボニル基を有する水分散型樹脂成分A、及び、
1分子当たり少なくとも2つのヒドラジン基又はヒドラジド基と、少なくとも1つの構造単位
−NR−NR−CHR−CHR−NH−R (I)
(式中、ラジカルR、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素ラジカル、及び1個〜10個の炭素原子を有する直鎖又は分枝アルキルラジカルから成る群から選択され、R及びRは6個〜15個の炭素原子を有するアリールラジカル及びアルキルアリールラジカルから成る群から、並びにオキシ基がアルキル鎖中又はアルキル鎖の末端に挿入され得る1個〜10個の炭素原子を有するオキシアルキルラジカルから選択することができ、且つ、Rは、水素ラジカル、直鎖、分枝状又は環状であってもよく且つ1個〜10個の炭素原子を有し得るアルキルラジカル、及び式−(CH−CO−O−X(式中、nは1〜6の整数であり、且つXは多価アルコール又はフェノールの残基である)の残基から成る群から選択される)
とを有する成分B、
からなる、コーティング組成物用の自己架橋性バインダ。
【請求項2】
前記樹脂成分Aが、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリアミド、アルキド樹脂、エポキシ樹脂及びビニルポリマーから成る群から選択される、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項3】
前記ビニルポリマーが、ポリ(メタ)アクリレート、又はアクリル酸若しくはメタクリル酸の誘導体である(メタ)アクリルモノマーに由来の少なくとも30%の質量分率を有するコポリマーである、請求項2に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項4】
前記樹脂成分Aが直鎖ポリマーであり、且つ前記少なくとも1つのカルボニル基が該ポリマー鎖中にある、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項5】
前記樹脂成分Aが、1分子当たり少なくとも1つの分岐点を有するポリマーであり、且つ少なくとも1つの鎖が、該少なくとも1つの鎖を形成する20個以下の原子の鎖長を有し、且つ前記少なくとも1つのカルボニル基が、20個以下の鎖を形成する原子を有する該少なくとも1つの鎖中にある、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの鎖が、少なくとも3個且つ15個以下の鎖を形成する原子を有する、請求項5に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項7】
前記樹脂成分Aが、前記ケトン型又はアルデヒド型の少なくとも1つの鎖ペンダント位のカルボニル基を有するポリウレタンであり、該カルボニル基は少なくとも2つの隣接する炭素原子によって主鎖から分離される、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項8】
前記樹脂成分Aが、前記ケトン型又はアルデヒド型の少なくとも1つの鎖ペンダント位のカルボニル基を有するポリ(メタ)アクリレートであり、該カルボニル基は少なくとも2つの隣接する炭素原子によって主鎖から分離される、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項9】
前記樹脂成分Aが、前記ケトン型又はアルデヒド型の少なくとも1つの鎖ペンダント位のカルボニル基を有するポリエステルであり、該カルボニル基は少なくとも2つの隣接する炭素原子によって主鎖から分離される、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項10】
前記樹脂成分Aが、ヒドロキシ官能性疎水性樹脂状化合物A1と、酸官能性樹脂状化合物A2との反応生成物であり、これらの少なくとも1つが、前記ケトン型又はアルデヒド型の少なくとも1つのカルボニル基を含み、且つ前記ヒドロキシ官能性疎水性樹脂状化合物A1及び前記酸官能性樹脂状化合物A2がエステル結合を介して互いに結合している、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項11】
前記成分Bが式Iの少なくとも2つの構造単位を有する、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項12】
前記樹脂成分Aが、該成分Aを自己乳化性にする、該成分A中の基の存在によって親水性改質され、前記基が、少なくとも3つの連続的なオキシエチレン基、アニオン性基、及びカルボン酸基、スルホン酸基(sulphonic)、リン酸基及びホスホン酸基から成る群から選択される、塩基による中和時に酸アニオンを形成する酸基、並びに、カチオン性基、及び第一級、第二級及び第三級アミンから成る群から選択される、酸による中和時にカチオンを形成する基から成るオリゴマーオキシエチレン部位から成る群から選択されるが、但し、アニオン性基及びカチオン性基は前記成分A中に同時に存在しないものとする、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項13】
前記樹脂成分Aが水分散型ポリウレタンであり、且つ前記親水性改質が、前記ポリマー鎖中における少なくとも3つの連続的なオキシエチレン基の存在によって、又は前記ポリマー鎖中におけるビスヒドロキシアルカン酸の残基の存在によって、又は両方の存在によって達成される、請求項12に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項14】
前記樹脂成分Aが水分散型ポリ(メタ)アクリレートであり、且つ前記親水性改質が、前記ポリマー鎖中における、少なくとも3つの連続的なオキシエチレン基を有するポリ(オキシエチレン)−(メタ)アクリレートの残基の存在によって、又は前記ポリマー鎖中における、酸官能性オレフィン性不飽和モノマーの残基の存在によって、又は両方の存在によって達成される、請求項12に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項15】
有効量の少なくとも1つの乳化剤Cが存在し、及び乳化剤Cが、非イオン性乳化剤、アニオン性乳化剤及び両性イオン性乳化剤、並びに非イオン性乳化剤と、該アニオン性乳化剤及び両性イオン性乳化剤のいずれかとの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載の自己架橋性バインダ。
【請求項16】
請求項1に記載の自己架橋性バインダを製造する方法であって、
a)ケトン型又はアルデヒド型のカルボニル基を有する樹脂状化合物Aを調製する工程と、
b)該樹脂状化合物Aを水中に分散させる工程と、
c)前記分散物に、1分子当たり少なくとも2つのヒドラジン基又はヒドラジド基を有するヒドラジン又はヒドラジド官能性化合物B1を添加すると共に、得られた混合物を均質化する工程と、
d)前記混合物に、1分子当たり少なくとも2つのアジリジン基を有する多官能性アジリジン化合物B2を添加すると共に、1分子当たり少なくとも2つのヒドラジン基又はヒドラジド基と、少なくとも1つの構造単位
−NR−NR−CHR−CHR−NH−R (I)
(式中、R〜Rは請求項1と同様の意味を有する)
とを有する成分Bの形成の下に、前記混合物を反応させる工程とを含む、請求項1に記載の自己架橋性バインダを製造する方法。
【請求項17】
前記樹脂成分A中のカルボニル基に関する物質量と、成分B1中のヒドラジド基又はヒドラジン基の物質量と、成分B2中のアジリジン基の物質量との比についての範囲
n(>C=O):n(−NH−NH):n(アジリジン)
が、これらの基同士のいずれかの反応前に、1mol:(1.0mol〜2.2mol):(0.2mol〜1.1mol)であり、B1は二官能性であり、且つB2は三官能性である、請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2010−534261(P2010−534261A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517404(P2010−517404)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059709
【国際公開番号】WO2009/013336
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(505456584)サイテク サーフェィス スペシャルティーズ オーストリア ゲーエムベーハー (16)
【Fターム(参考)】