説明

自己流動性水硬性組成物ならびにそれを用いたスラリーおよび硬化物

【課題】流動性、速硬性および作業特性(高流動性、長可使時間)に優れると共に硬化特性(高強度、高耐摩耗性)にも優れた自己流動性水硬性組成物を提供する。
【解決手段】ポルトランドセメントAと、アルミナセメントBと、石膏Cと、を含み、重量比で表したセメント比率B/(A+B)の値が0.4〜0.6であり、かつ、重量比で表した石膏比率C/(A+B+C)の値が0.06より大きく0.45以下の範囲である無機成分Iと、一般式CH2=C(R1)COO(CH2CH2O)nX(式中、R1は、水素原子またはメチル基、Xは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、nは、エチレンオキシドの平均付加モル数を示し、110〜150の数である)で表されるビニル系単量体aの1種以上と、アクリル酸またはメタクリル酸の水溶性塩であるビニル系単量体bの1種以上とを、単量体比率a/bがモル比で2/98〜13/87であるように含有する単量体混合物を重合して得られる重量平均分子量2,000〜500,000の共重合体からなる共重合体成分IIとを含み、無機成分I100重量部に対する共重合体成分IIの配合量が0.03〜0.7重量部である自己流動性水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般建造物等の床下地材等として主に用いられるセルフレベリング材として優れた特性を有する自己流動性水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルフレベリング材は、自己流動性水硬性組成物に水を加えて混練したスラリーであり、自己流動性によるセルフレベリング性を有することから、一般建造物等の床下地を形成するための材料として主に用いられている。したがって、自己流動性水硬性組成物は、スラリーとしたときにセルフレベリング性を確保するための高い流動性を有することが必要である。それに加え、早期開放を可能にする十分な速硬性を有していること、および、施工作業を容易にするために、適度の可使時間が取れることも要求される。更に、硬化後の硬化体の特性、例えば、強度、寸法安定性に優れていることも必要である。
【0003】
セルフレベリング材として使用される自己流動性水硬性組成物には、水硬性成分を主成分とする無機物に、主に施工時におけるスラリー特性を改善するための各種添加剤を添加することにより、上記の要求を満たすための工夫がなされている。
【0004】
これらの各種有機物のうちで重要なものは、流動性を付与するために添加される流動化剤である。また、自己流動性水硬性組成物に対するこれらの複数の要求を同時に満たすためには、適切な無機成分を適切な有機成分と組合わせた組成物とする必要がある。
【0005】
自己流動性水硬性組成物として、例えば、特許文献1には、硬化体特性両面を改善するためのセルフレベリング性セメント組成物として、ポルトランドセメントAと、アルミナセメントBと、石膏Cとで構成され、重量比でB/(A+B)が0.05〜0.4または0.6〜0.9であり、かつ、C/(A+B+C)が0.02〜0.45である無機成分Iと、特定の化学構造を有するビニル系単量体a,bをa/bがモル比で5/95〜15/85であるように含有する単量体混合物を重合して得られる共重合体IIとからなり、無機成分I100重量部に対して共重合体IIを流動化剤として0.1〜9重量部の割合で混合した組成物が記載されている。しかしながら、この組成物では、重量比B/(A+B)が0.4〜0.6の範囲では、凝結遅延性が低下し、十分な可使時間の確保ができなかったため、無機成分組成の自由度が阻害されるという問題があった。また、施工特性、硬化体特性についても、さらなる改良の必要性があった。
【0006】
また、特許文献2には、品質安定性に優れ、長時間流動性保持能力を有すると共に、実用上十分な硬化特性を示し、施工作業性に優れたセメント系のセルフレベリング性組成物を得るための、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸系高分子化合物を主成分とする溶液またはその溶液を乾燥した粉末と、アルミナセメント、ポルトランドセメント、石膏、フライアッシュを含有するセルフレベリング性組成物が記載されている。同様な技術として、特許文献3には、ポリアルキレングリコール鎖を有するポリカルボン酸系高分子化合物を含むアルミナセメント用混和剤が記載されている。
【0007】
しかしながら、これらの従来技術によっては、高い流動性、速硬性、作業特性(高流動性、長可使時間)および硬化特性(高強度、高耐摩耗性)に優れるという複数の要求を同時に満たすような自己流動性水硬性組成物を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開2000−143327号公報
【特許文献2】特開2002−47051号公報
【特許文献3】特開2002−104855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自己流動性水硬性組成物に関する上記現状に鑑み、本発明においては、複数の要求を同時に満たす組成物、すなわち、流動性、速硬性、作業特性(高流動性、長可使時間)に優れていることは勿論、硬化特性(高強度、高耐摩耗性)にも優れた自己流動性水硬性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポルトランドセメントAと、アルミナセメントBと、石膏Cと、を含み、重量比で表したセメント比率B/(A+B)の値が0.4〜0.6であり、かつ、重量比で表した石膏比率C/(A+B+C)の値が0.06より大きく0.45以下の範囲である無機成分Iと、一般式CH2=C(R1)COO(CH2CH2O)nX(式中、R1は、水素原子またはメチル基、Xは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、nは、エチレンオキシドの平均付加モル数を示し、110〜150の数である)で表されるビニル系単量体aの1種以上と、アクリル酸またはメタクリル酸の水溶性塩であるビニル系単量体bの1種以上とを、単量体比率a/bがモル比で2/98〜13/87であるように含有する単量体混合物を重合して得られる重量平均分子量2,000〜500,000の共重合体からなる共重合体成分IIとを含み、無機成分I100重量部に対する共重合体成分IIの配合量が0.03〜0.7重量部であることを特徴とする自己流動性水硬性組成物である。
【0010】
無機成分Iに含まれるアルミナセメントは、潜在的に急硬性を有しており、硬化後は耐化学薬品性に優れた硬化体を与える。本発明では、ポルトランドセメントとアルミナセメントの混合物を使用する。従来、特許文献1の記載のように、等量すなわちポルトランドセメントとアルミナセメント量の配合比を、ポルトランドセメントの重量をA、アルミナセメントの重量をBとして、重量比で示したセメント比率:B/(A+B)=0.5付近では、凝結遅延性が低下し十分な可使時間の確保が困難であると考えられていた。ところが、発明者らが鋭意、研究を重ねた結果、セメント比率と石膏比率のバランスや凝結調整剤等の添加を適切に調整することにより、驚くべきことに、セメント比率が0.5付近の場合であっても、セルフレベリング性に優れかつ適度の可使時間の確保が可能なスラリーを得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
また、本発明は、好ましくは、炭酸リチウム、酒石酸ナトリウム類および重炭酸ナトリウムからなる群より選択される一種以上の凝結調整剤をさらに含む自己流動性水硬性組成物である。より好ましくは、凝結調整剤が、炭酸リチウムである自己流動性水硬性組成物である。また、好ましくは、ビニル系単量体bが、メタクリル酸の水溶性塩であり、より好ましくはメタクリル酸のナトリウム塩である自己流動性水硬性組成物である。
【0012】
また、本発明は、その自己流動性水硬性組成物と水とを混練したスラリーである。
【0013】
また、本発明は、そのスラリーを硬化させた硬化物である。
【0014】
また、本発明は、その硬化物を表層に有するコンクリート床構造体である。
【0015】
また、本発明は、その自己流動性水硬性組成物を、施工現場に設けたミキサーにて水と混練してスラリーを調製し、圧送ポンプによりスラリーを施工箇所へ供給して床面に施工することを特徴とする自己流動性水硬性組成物の施工方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、セルフレベリング性に優れかつ適度の可使時間の確保が可能なスラリーを与えると共に、スラリーを硬化させた硬化体も、施工特性、硬化体特性両面を満足させる点において、従来材料には無かった優れた特性を有するものである。したがって、本発明は、建築分野におけるその利用価値は大であるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、ポルトランドセメントにアルミナセメントおよび石膏を特定比率添加した、本質的に速硬性を有する水硬性成分を主成分とする無機成分Iに、特定の化学構造を有するポリエーテル系流動化剤(共重合体成分II)を添加して流動性を付与したものである。
【0018】
本発明では、ポルトランドセメントAに、潜在的に急硬性を有しており硬化後は耐化学薬品性に優れた硬化体を与えるアルミナセメントBを混合した無機成分Iを使用する。本発明の自己流動性水硬性組成物の、AとBの重量比に基づくセメント比率:B/(A+B)の値は、0.4〜0.6の範囲、好ましくは0.5〜0.6の範囲、または好ましくは0.40〜0.60の範囲、さらに好ましくは0.45〜0.60の範囲である。
【0019】
アルミナセメントは鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネートであり、市販品はその種によらず使用することができる。
【0020】
無機成分Iに含まれるポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントを用いることができる。本発明のより優れた効果を得るためには、早強ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0021】
無機成分Iに含まれる石膏は、無水、半水等の各石膏を1種以上含む混合物として使用できる。石膏も本質的に急硬性であり、硬化後の寸法安定性を保持するのに必要な成分であるが、量が少ないと寸法安定性が低下し、逆に多すぎると耐水性の低下や湿潤条件下での異常膨張を招く恐れがある。そのため、無機成分I内における石膏の存在量は、石膏の重量をCとした場合の石膏比率:C/(A+B+C)の値が0.06より大きく、0.45以下とする必要がある。安定したセルフレベリング性を得るためには、石膏比率は、0.10〜0.45の範囲が好ましく、0.15〜0.30の範囲がより好ましい。さらに好ましい石膏比率の範囲は、0.15〜0.25である。
【0022】
本発明の自己流動性水硬性組成物には、上記の無機成分I以外に、更なる無機質成分として、高炉スラグ粉、フライアッシュ、シリカ粉、石灰石粉等、公知の増量材を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができると共に、低コストで長期材齢での強度を増進させることができる。増量材の添加は、乾燥収縮を抑制により硬化体の耐クラック性を高め、長期材齢強度を高めるだけでなく、流動性が改善されるという好ましい結果を与えるが、過度の添加は逆に発現強度の低下を招くことから、その添加量は、無機成分I100重量部当たり350重量部以下とするのが望ましい。また、その添加量は、好ましくは10〜350重量部、より好ましくは30〜200重量部、さらに好ましくは50〜150重量部、特に好ましくは70〜130重量部とすることができる。
【0023】
自己流動性水硬性組成物において、高炉スラグ粉を添加する場合の添加量は、無機成分I100重量部に対し、好ましくは10〜350重量部、より好ましくは30〜200重量部、さらに好ましくは50〜150重量部、特に好ましくは70〜130重量部とすることができ、少なすぎると収縮が大きくなり、多すぎると強度低下を招くことがある。高炉スラグ粉は、JIS・A−6206−1997に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0024】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、さらに各種骨材を含むことにより、スラリーとした場合の特性をより優れたものとすることができる。
【0025】
細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、アルミナセメントクリンカー粗砕物、廃FCC触媒、石灰石砂などの無機質材、ウレタン砕、EVAフォーム、発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができる。特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、アルミナセメントクリンカー粗砕物、廃FCC触媒などを好ましく用いることができる。
【0026】
細骨材の粒径は、JIS・Z−8801−1:2006で規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。細骨材の粒径は、2mm以下、好ましくは0.075〜1.5mm、より好ましくは0.1〜1mm、さらに好ましくは0.15〜0.60mmとすることができる。
【0027】
また、細骨材の添加量は、無機成分I100重量部当たり30〜600重量部とすることが好ましい。600重量部より多くなると流動性の低下を招くだけでなく、強度発現性が低下する。また、同様な理由から、細骨材の添加量は、好ましくは40〜500重量部、より好ましくは60〜400重量部、さらに好ましくは100〜300重量部、特に好ましくは150〜250重量部の範囲とすることができる。
【0028】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、流動化剤として、共重合体成分IIを含む。共重合体成分IIは、一般式CH2=C(R1)COO(CH2CH2O)nX(式中、R1は、水素原子またはメチル基、Xは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、nは、エチレンオキシドの平均付加モル数を示し、110〜150の数である)で表されるビニル系単量体aの1種以上と、アクリル酸またはメタクリル酸の水溶性塩であるビニル系単量体bの1種以上との混合物を重合して得ることができる。
【0029】
ビニル系単量体aとしては、エチレンオキシドのモル付加数nが110〜150、好ましくは115〜130であるポリオキシエチレン鎖を有するものを選択することにより、表面平滑性、および下地との接着強度に優れた自己流動性水硬性組成物を得ることができる。ビニル系単量体aに属する単量体の例としては、片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコール、例えばメトキシポリエチレングリコール、エトキシポリエチレングリコールまたはプロポキシポリエチレングリコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステル化物や、アクリル酸、メタクリル酸へのエチレンオキシド付加物を挙げることができるが、より好ましい結果を与えるのは前者のエステル化物である。
【0030】
ビニル系単量体bは、アクリル酸またはメタクリル酸、若しくはこれらの水溶性塩であり、水溶性塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の金属塩や、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、モノエタノールアミン塩等を挙げることができる。ビニル系単量体bは、これらの中で特にナトリウム塩であることが好ましい。
【0031】
本発明の共重合体成分IIの共重合体を構成する、ビニル系単量体aと、ビニル系単量体bとの単量体比率a/bは、凝結遅延性および表面平滑性の観点から、モル比で2/98〜13/87、好ましくは3/97〜12/88の範囲である。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他の共重合可能な単量体、例えば、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレンを共重合しても良い。
【0032】
本発明の共重合体成分IIは、上記の単量体混合物を公知の方法、例えば特開平7−223852号公報に開示されている溶液重合法、例えば単量体混合物を水や炭素数1〜4の低級アルコール中、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の重合開始剤の存在下、必要ならば亜硫酸ナトリウムやメルカプトエタノール等を添加し、窒素雰囲気下50〜100℃で0.5〜10時間反応させる等によって重合することにより製造することができる。
【0033】
本発明の共重合体成分IIは、表面平滑性および下地との密着強度の観点から、その重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/標準物質ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算/水系)は、2,000〜500,000が好ましく、5,000〜100,000がより好ましい。
【0034】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、無機成分Iと共重合体成分IIとを含むが、共重合体成分IIの量が少な過ぎると、共重合体成分IIとの混合効果が十分に発現せず、一方、多すぎても添加効果は頭打ちとなるだけでなく、硬化遅延を招き、好ましくない結果に至る場合がある。本発明においては、無機成分I100重量部に対する共重合体成分IIの配合量を0.03〜0.7重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部、より好ましくは0.07〜0.4、さらに好ましくは0.08〜0.3、特に好ましくは0.09〜0.25、さらに特に好ましくは0.1〜0.2とすることにより、望ましい結果を得ることができる。
【0035】
本発明の共重合体成分IIは、液体またはペーストの形態でも使用できるが、予め粉体として、無機成分I等の成分とプレミックスした自己流動性水硬性組成物とすることも可能である。粉体として使用する場合、粉体としての形態や含まれる水分量については特に限定されるものではないが、過度の水分は、水硬性物質との水和反応による固化大粒化や粉体のケーキングを招くことがあり、好ましくない。
【0036】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、さらに各種添加剤、例えば、凝結調整剤、消泡剤、増粘剤、樹脂粉、収縮低減剤等の一般的に用いられる量を添加することができる。
【0037】
凝結調整剤(凝結促進剤および凝結遅延剤)の添加は、その成分、添加量および混合比率を適宜選択することにより、自己流動性水硬性組成物の可使時間を調整することができるため、セルフレベリング材としての使用が非常に容易になる。本発明の自己流動性水硬性組成物は、凝結調整剤として、炭酸リチウム、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)および重炭酸ナトリウムからなる群より選択される一種以上を含むことが好ましい。
【0038】
凝結調整剤のうち、凝結促進剤としては、例えば、凝結促進の性質を有するリチウム塩を用いることができる。リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることができる。凝結促進剤として、特に、炭酸リチウムを用いた場合には、無機成分Iと共重合体成分IIとの最適な組合せにより、より優れた本発明の効果を得ることができる。炭酸リチウムの添加量は、無機成分I100重量部に対して0.001〜5重量部、さらに0.01〜0.5重量部の範囲で添加することが好ましい。
【0039】
凝結調整剤のうち、凝結遅延剤としては、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸類や、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩などを用いることが出来る。オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸およびこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を用いることができる。オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを用いることができる。特に重炭酸ナトリウムや酒石酸ナトリウム類が、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0040】
凝結調整剤の添加量は、凝結促進剤および凝結遅延剤の合計で、無機成分I100重量部に対して0.001〜5重量部、さらに0.1〜2重量部、特に0.30〜1.5重量部の範囲で添加することが好ましい。
【0041】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、および水溶性ポリマー系などを併用して用いることができる。増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。増粘剤の添加量が多くなると、流動性の低下を招く恐れがあるため、無機成分I100重量部中に、好ましくは0.01〜4重量部、より好ましくは0.05〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部、特に好ましくは0.05〜0.5重量部含むことができる。
【0042】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質または植物由来の天然物質など、公知のものを用いることができる。消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、無機成分I100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.05〜1.5重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部、特に好ましくは0.05〜0.5重量部含むことができる。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、消泡効果が認められるために好ましい。
【0043】
増粘剤および消泡剤を併用して用いることは、無機成分Iや細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、自己流動性水硬性組成物の硬化物の特性を向上させるために好ましい。
【0044】
自己流動性水硬性組成物は、無機成分Iおよび共重合体成分IIと、必要に応じて配合する無機成分、細骨材、凝結調整剤、増粘剤、消泡剤、樹脂粉などとを混合機で混合することにより、プレミックス粉体として得ることができる。
【0045】
自己流動性水硬性組成物は、水とを混練してセルフレベリング性を有するスラリー(セルフレベリング材)を製造することができる。その際、水の添加量を調整することにより、流動性、可使時間、材料分離、硬化体の強度などを調整することができる。水の添加量は、無機成分I100重量部に対し、好ましくは40〜160重量部、より好ましくは56〜136重量部、さらに好ましくは72〜120重量部、特に好ましくは88〜112重量部加えて用いることができる。
【0046】
自己流動性水硬性組成物は、公知の方法でセルフレベリング材として施工することができる。施工の一例としては、例えば特開2001−040862号公報などに開示されている。すなわち、その自己流動性水硬性組成物を、施工現場に設けたミキサーにて水と混練してスラリーを調製し、圧送ポンプによりスラリーを施工箇所へ供給して床面に施工することができる。コンクリート等の下地上に施工した後、スラリーを硬化させて、所定の形状の自己流動性水硬性組成物の硬化物および当硬化体を表層に有するコンクリート床構造体を得ることができる。
【0047】
本発明の自己流動性水硬性組成物は、水と混合し、フロー値が、好ましくは190〜260mm、より好ましくは200〜250mm、さらに好ましくは210〜240mmに調整されていることが、施工の容易さおよび平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。また、フロー値が、好ましくは190〜260mm、より好ましくは200〜250mm、さらに好ましくは210〜240mmに調整されていることに加え、水引時間が好ましくは40〜120分の間、さらに好ましくは50〜100分の間、特に好ましくは60〜90分の間に調整されていることが、施工のさらなる容易さ、および平滑性がさらに高く、かつ表面硬度に優れた硬化体表面を得られやすいという理由によりさらに好ましい。本発明の自己流動性水硬性組成物は、セルフレベリング材として用いる場合は、床下地や、工場、倉庫、駐車場、ガソリンスタンド、厨房、マンション等における床仕上げ材に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例1〜6および比較例1〜6により本発明の内容を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
(1)使用原料:各例の実施に当たっては、表1および2に示す原料を使用した。
ポルトランドセメント:早強ポルトランドセメント、ブレーン法比表面積 4,600m2/g
アルミナセメント:カルシウムアルミネート含有率 45重量%、ブレーン法比表面積 3,100m2/g
石膏:II型無水石膏、ブレーン法比表面積 4,000m2/g
高炉スラグ粉:ブレーン法比表面積 4,300m2/g
細骨材:6号珪砂および廃FCC触媒
【0049】
(2)共重合体成分IIの調製
反応容器に水300重量部を仕込み、窒素雰囲気下、75℃で表2記載の単量体混合物60%水溶液600重量部、過硫酸アンモニウムの10重量%水溶液38重量部、および2−メルカプトエタノールの10重量%水溶液20重量部を2時間掛けて滴下した。次いで、過硫酸アンモニウムの10重量%水溶液15重量部を30分で滴下し、更に1時間同温度で熟成を行った後、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和して、供試共重合体を調製した。表2に示すように、実施例に用いたものは、メタノール(EO)120・メタクリル酸エステルとメタクリル酸Naの共重合体であり、EOはエチレンオキシド、EO付加モル数は平均値を表す。
【0050】
(3)表1に示すような割合でポルトランドセメント、アルミナセメント、石膏を配合して、無機成分Iとした。この無機成分I100重量部に対して、表2に示すように、高炉スラグ粉、細骨材、流動化剤、消泡剤、増粘剤および凝結調整剤を添加した。これらに、水104重量部を加え、攪拌混合機で3分間混合してスラリーを調製した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
(4)スラリー特性の評価調製スラリーについては以下の項目について測定を行い、自己流動性水硬性組成物としての特性を評価した。
フロー値:
アクリル樹脂製平板の上に置かれた内径50mm、高さ51mmのアクリル樹脂製パイプに調製直後のスラリーを充填した後、パイプを静かに引き上げて取り去り、平板上に広がったスラリーの長径と短径とを測定し、それらの平均値をフロー値とした。
【0054】
セルフレベリング性(凝結遅延性):
この特性の測定は、底辺30mm、高さ30mmの矩形断面を有し、閉じた一端から150mmの部分に開閉自在の堰を有する全長750mmのアルミ製樋を使用して行った。平板上に置かれた、堰を閉じた状態のアルミ製樋に調製直後のスラリーを充填し、充填直後(経過時間0分とし、「L0」とする)、充填10分後(L10)、20分後(L20)および30分後(L30)に堰を開とし、それぞれの時点における、スラリーの、堰からの流動距離を測定した(SL値)。また、そのときのスラリーの流動速度を測定した(SL流動速度)。これらの測定結果を表3に示す。
【0055】
表面硬度(硬化特性):
130mm×190mmのポリエチレン製型枠に、調製直後のスラリーを10mmの厚さに充填し、水引き時間を測定した。その結果を表3に示す。また、3、4、6時間後および24時間後のショアー硬度を測定し、更に、24時間後の表面粉化、凹凸、気泡跡およびクラックについても評価した。測定結果を表4に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表3の結果から、実施例1〜6にみられるように、本発明の範囲に含まれる成分組成を有する組成物は、セルフレベリング材として十分な初期流動性を有していることはもちろん、調製後30分経過しても十分大きな流動性が維持されていることから、30分以上の可使時間の確保が可能であることがわかる。また、表4に示すように、施工後4時間以内で、その上における軽作業が可能な表面硬度を有する硬化体を与えることがわかる。
【0059】
それに対し、本発明の成分を含まないか、組成範囲を外れる組成物では、流動性が低くセルフレベリング材として使用できないか、硬化速度が大きすぎ十分な可使時間を確保できないか、流動性には優れるが硬化速度が低すぎるかの何れかであり、目的とする特性を具備する自己流動性水硬性組成物材は得ることはできない。
【0060】
即ち、比較例1のものは、石膏比率が低く、本発明の範囲外にあるため、セルフレベリング性即ち経時流動性が劣る。具体的には、表3のSL値がL20およびL30の場合に300mm以下となってしまい、また、流動速度もL20では240秒/200mmと極端に遅くなってしまう。
【0061】
比較例2のものは、石膏比率が高く、本発明の範囲外にあるため、水引時間が140分と長く、表面は粉化し、表面硬度の発現が遅く、劣っている。
【0062】
比較例3のものは、共重合体成分IIの単量体比率a/bが本発明の範囲外になっているため、セルフレベリング性即ち流動保持性が劣る。具体的には、表3のSL値がL30の場合に300mm以下となってしまい、また、流動速度もL20では30秒/200mmと遅く、L30では129秒/200mmと極端に遅くなってしまう。
【0063】
比較例4のものは、共重合体成分IIの単量体比率a/bが本発明の範囲外になっているため、フロー値即ち初期流動性に劣る。
【0064】
比較例5のものは、共重合体成分IIの単量体比率a/bが本発明の範囲外になっているため、フロー値即ち初期流動性に劣り、表面硬度の発現も遅く、劣っている。
【0065】
比較例6のものは、共重合体成分IIの単量体比率a/bが本発明の範囲外になっているため、フロー値即ち初期流動性に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメントAと、アルミナセメントBと、石膏Cと、を含み、重量比で表したセメント比率B/(A+B)の値が0.4〜0.6であり、かつ、重量比で表した石膏比率C/(A+B+C)の値が0.06より大きく0.45以下の範囲である無機成分Iと、
一般式CH2=C(R1)COO(CH2CH2O)nX(式中、R1は、水素原子またはメチル基、Xは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、nは、エチレンオキシドの平均付加モル数を示し、110〜150の数である)で表されるビニル系単量体aの1種以上と、アクリル酸またはメタクリル酸の水溶性塩であるビニル系単量体bの1種以上とを、単量体比率a/bがモル比で2/98〜13/87であるように含有する単量体混合物を重合して得られる重量平均分子量2,000〜500,000の共重合体からなる共重合体成分IIとを含み、
無機成分I100重量部に対する共重合体成分IIの配合量が0.03〜0.7重量部であることを特徴とする自己流動性水硬性組成物。
【請求項2】
炭酸リチウム、酒石酸ナトリウム類および重炭酸ナトリウムからなる群より選択される一種以上の凝結調整剤をさらに含む、請求項1記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項3】
凝結調整剤が、炭酸リチウムである、請求項2記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項4】
ビニル系単量体bが、メタクリル酸の水溶性塩である、請求項1〜3のいずれか1項記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項5】
ビニル系単量体bが、メタクリル酸のナトリウム塩である、請求項1〜3のいずれか1項記載の自己流動性水硬性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の自己流動性水硬性組成物と水とを混練したスラリー。
【請求項7】
請求項6記載のスラリーを硬化させた硬化物。
【請求項8】
請求項7記載の硬化物を表層に有するコンクリート床構造体。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項記載の自己流動性水硬性組成物を、施工現場に設けたミキサーにて水と混練してスラリーを調製し、圧送ポンプによりスラリーを施工箇所へ供給して床面に施工することを特徴とする自己流動性水硬性組成物の施工方法。

【公開番号】特開2009−40666(P2009−40666A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210677(P2007−210677)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】