説明

自己消火性不織布

【課題】 本発明は、ポリエステル不織布等の熱可塑性繊維からなる不織布において、燃えないというレベルの不織布を提供することを課題とする。
【解決手段】 不織布に、界面活性剤、水溶性樹脂、親水性樹脂のいずれか少なくとも1種の浸透剤が付着し、かつホウ素化合物が不織布表面および不織布内層部に付着している自己消火性不織布。前記自己消火性不織布が、ホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液と、界面活性剤の水溶液、水溶性樹脂の水溶液、親水性樹脂のエマルションのいずれか少なくとも1種の浸透剤溶液との混合液に、不織布を浸漬後、乾燥させることによって得られたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己消火性不織布に関するものである。すなわち、燃焼特性に関しては、難燃性という評価法での合格というレベルよりも格段に高いレベルでの燃焼特性であって、火元があっても燃えない(着火しない)、あるいは着火しても燃え広がらずに消火する「自己消火性」を有する不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から繊維製品を燃えにくくするために特許文献1に記載のようにリン有機化合物を共重合したポリエステル繊維を用いること等が知られている。ここで得られる繊維製品は、着火性(着火するまでの時間)により難燃性を評価するものであり、着火するまでに時間が長い程、難燃性が高いというものであるが、そもそも燃えないというレベルのものではない。
【0003】
一方、難燃特性ではなく不燃特性を実現するもの(薬剤)として、特定のホウ素化合物の水溶液および特定のホウ素化合物の水溶液を含浸させた繊維構造体が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8−266754号
【特許文献2】特開2005−112700号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献2記載の薬剤をポリエステル不織布に適用して、不燃性不織布を得ようとした。不織布に均一に薬剤が付着するように薬剤を水で希釈した水溶液を含浸させようとしたが、ポリエステル不織布自体が疎水性であるため、薬剤を含む水溶液が不織布内部まで十分に含浸することはできず、燃えないというレベルの不織布を得ることは困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、ポリエステル不織布等の疎水性の繊維からなる不織布においても、燃えないというレベルの不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決できないかを検討したところ、薬剤を含む水溶液をポリエステル不織布に適用する際に、特定の浸透剤を併用することによって、不織布内部にまで薬剤を付着させることができることを見出だし、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、不織布に、界面活性剤、水溶性樹脂、親水性樹脂のいずれか少なくとも1種の浸透剤が付着し、かつホウ素化合物が不織布表面および不織布内層部に付着していることを特徴とする自己消火性不織布を要旨とするものである。
【0008】
次に、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の不織布においては、特に疎水性の繊維によって構成されるものであると、より本発明の効果を奏する。疎水性の繊維では、不燃性の薬剤であるホウ素化合物の水溶液を適用しても、繊維自体がこれを吸水して繊維内部に保持することはない。したがって、ホウ素化合物の水溶液を適用しても、繊維特性に影響はないため、既存の繊維強度を十分に保持することができる。疎水性繊維としては、一般的に熱可塑性繊維を好ましく用いることができる。熱可塑性繊維としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリロニトリル繊維等が挙げられるが、中でもポリエステル繊維を好ましく用いることができる。熱可塑性繊維の中でも、ポリエステル繊維は着火しにくいという性質を有し、また、機械的強度にも優れるからである。また、熱可塑性繊維以外の繊維としては、ビニロン繊維やアラミド繊維等を用いることもできる。
【0010】
不織布を構成する繊維の形態は、短繊維であっても、連続繊維であってもよい。また、不織布の形態は、繊維同士がニードルパンチ処理や水流交絡処理により三次元的に交絡してなるものが挙げられる。また、不織布を構成する繊維が熱可塑性繊維である場合の不織布の形態としては、繊維同士が熱により一部の繊維が溶融して繊維同士を接着しているものが挙げられる。本発明においては、繊維同士がニードルパンチ処理により三次元的に交絡してなる不織布を用いることにより、難燃性のレベルをより向上させることができる。ニードルパンチ処理が施された不織布は、多数の繊維が単に堆積した状態で不織布化したものと比べて、繊維間にある程度の距離が保たれて繊維間空隙が大きく、嵩が高い。このようなニードルパンチ処理が施された不織布は、不織布の内層部における繊維間の空隙にもホウ素化合物を良好に保持して、不織布内層部を構成する繊維に良好にホウ素化合物を付着することとなり、より着火しにくくなるのである。
【0011】
本発明の自己消火性不織布は、上記した不織布にホウ素化合物が付着している。ホウ素化合物の付着量は固形分として30質量%以上であることが好ましい。付着量が多い程、難燃性のレベルが高くなり、不燃性となるが、付着量が多くなるにつれて不織布が有する柔軟性に劣る傾向となるため、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0012】
本発明の自己消火性不織布に付着してなるホウ素化合物とは、不織布にホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液を付与した後、水分を乾燥させることによって不織布に付着させたものである。ホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液とは、いわゆる水ガラスであり、発泡性水ガラスとして知られ、市場にて入手できるトラストライフ社製「ファイアレスB リキッド」(登録商標)を用いればよい。具体的には、熱可塑性繊維によって構成される不織布をホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液に浸漬後、乾燥させることにより所定量のホウ素化合物を付着させる。所定量のホウ素化合物を付着させるには、用いるホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液の濃度や、不織布に水溶液を浸漬、含浸後に、水分を絞る取る際の絞り率を適宜設定することにより、不織布中に付着させるホウ素化合物を調整すればよい。
【0013】
不織布に付着させたホウ素化合物は、100℃前後に加熱されると激しく発泡して発泡スチロール様のガラス発泡体となるものである。すなわち、ホウ素化合物が付着した不織布は、火炎等にさらされて100℃前後に昇温したときに、ホウ素化合物が激しく発泡し、繊維の表面はガラスでできた泡が多数集結したガラス発泡体で覆われることになり、このガラス発泡体が空気を遮断するため、不織布を構成する繊維は酸素が絶たれた状態となり、燃焼することが不可能な状態となるのである。
【0014】
本発明の不織布は、不織布表面および不織布内層部を構成する繊維にもホウ素化合物が付着している。本発明においては、ホウ素化合物が不織布の表面および不織布の内層部に良好に付着させるために、不織布に界面活性剤または水溶性樹脂または親水性樹脂のいずれか少なくとも1種の浸透剤を付着させる。この浸透剤が付着していることによって、不織布が疎水性の繊維からなるものであっても、不織布の内層部に、ホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液が浸透、保持して、ホウ素化合物を良好に付着させることができ、着火しにくい自己消火性の不織布を得ることができる。
【0015】
本発明において用いられる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等の炭化水素系の非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等の炭化水素系の陰イオン性界面活性剤等が挙げられる。水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。親水性樹脂としては、エチレン−酢酸ビニルポリウレタンが挙げられる。
【0016】
浸透剤を不織布に付着させる方法としては、(1)ホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液に不織布を浸漬する前に、浸透剤溶液すなわち界面活性剤の水溶液または水溶性樹脂の水溶液または親水性樹脂のエマルションのいずれかを、不織布に噴霧や浸漬、塗布等により付着させて乾燥させることで付着させる方法、(2)上記した浸透剤溶液とホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液との混合液に、不織布を浸漬後、乾燥させることによって、ホウ素化合物と浸透剤とを同時に付着させてもよい。不織布に付着させる浸透剤の付着量は、固形分として0.01〜25質量%がよい。
【0017】
本発明の自己消火性不織布は、溶接や溶断が行われる各種作業現場において、溶接や溶断の際に発生する火花による火災等を防ぐために用いられる火花防護シートとして好ましく用いることができる。溶接や溶断が行われる作業現場の適宜の場所に、本発明の自己消火性不織布を敷設することによって、飛散した火花を本発明の不織布に接触させることにより、火花が四方八方へ弾き飛ぶことを防ぐことができ、また、不織布に接触した火花は着火することがないため、火災や火傷の原因を即座に解消することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の不織布は、界面活性剤または水溶性樹脂または親水性樹脂のいずれか少なくとも1種の浸透剤が付着していることにより、ホウ素化合物が不織布の表面だけでなく不織布の内層部に付着することができるため、難燃性のレベルが高く、自己消火性を有するものである。
【実施例】
【0019】
次に実施例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
実施例1
スパンボンド法により開繊堆積された単糸繊度3.3デシテックスの多数のポリエチレンテレフタレート連続繊維からなる目付100g/mのウェブにニードルパンチ用処理油剤を固形換算0.5質量%付着するようスプレーにて付与した後、乾燥して得られたウェブを2枚重ね、フォスター(FOSTER)社製のニードルパンチ針(RB−40#)を用いて、針深度10mm、パンチ数70個/cmの条件でニードルパンチ処理を施し、構成繊維同士が互いに三次元的に交絡したニードルパンチ不織布(目付約200g/m2)を得た。
【0021】
得られたニードルパンンチ不織布を、ホウ酸イオン縮合体のナトリウム塩を主成分とする水溶液(トラストライフ社製「ファイアレス B リキッド(登録商標)」)と浸透剤(三洋化成工業社製「サンモリンOT−70」 有効成分70質量%、主成分:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)との混合水溶液(浸透剤は混合水溶液全体の0.1質量%)に浸漬させた後、二本のゴムローラー間に通しながら余分な水溶液を絞り出して、乾燥処理を行い、本発明の自己消火性不織布を得た。得られた不織布に付着したホウ素化合物の付着量は32質量%(固形分)、浸透剤の付着量は0.14質量%(固形分)であった。
【0022】
得られた自己消火性不織布に燃焼テストを行った。すなわち、実施例1の不織布に、市販のガスライターで5秒間炎を当て、炎を取り去った後の不織布の状態を観察したところ、着火したように見えた炎は直ぐに自己消火し、燃え広がらなかった。
【0023】
比較例1
実施例1において浸透剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。ニードルパンチ不織布を、ホウ酸イオン縮合体のナトリウム塩を主成分とする水溶液を浸漬したものの、得られた不織布のホウ素化合物の付着量は21重量%(固形分)であった。
【0024】
得られた比較例1の不織布に実施例1と同様にして燃焼テストを行ったところ、ガスライターの炎を当てている間に燃え広がり、炎を取り去った後にも燃焼し続けた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布に、界面活性剤、水溶性樹脂、親水性樹脂のいずれか少なくとも1種の浸透剤が付着し、かつホウ素化合物が不織布表面および不織布内層部に付着していることを特徴とする自己消火性不織布。
【請求項2】
請求項1記載の自己消火性不織布が、ホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液と、界面活性剤の水溶液、水溶性樹脂の水溶液、親水性樹脂のエマルションのいずれか少なくとも1種の浸透剤溶液との混合液に、不織布を浸漬後、乾燥させることによって得られたものであることを特徴とする請求項1記載の自己消火性不織布。
【請求項3】
請求項1記載の自己消火性不織布が、不織布に、界面活性剤または水溶性樹脂または親水性樹脂のいずれか少なくとも1種の浸透剤を付着させた後、ホウ酸イオン縮重合体塩の水溶液に浸漬し、乾燥させることによって得られたものであることを特徴とする請求項1記載の自己消火性不織布。
【請求項4】
不織布がポリエステル繊維により構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自己消火性不織布。
【請求項5】
不織布を構成する繊維がニードルパンチ処理によって三次元的に交絡していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自己消火性不織布。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の自己消火性不織布からなる溶接あるいは溶断用の火花防護シート。


【公開番号】特開2010−47883(P2010−47883A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215490(P2008−215490)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】