自己集合性多細胞体、および前記多細胞体を用いて3次元の生物構造体を作製する方法
ティッシュエンジニアリングのための構造体と方法は、複数の生体細胞を含む多細胞体を含む。複数の多細胞体をあるパターンで配列して融合させて、人工組織を形成させることができる。前記配列体は、細胞が前記多細胞体から移動および内殖するのを妨げると共に、細胞が前記多細胞体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含むフィラー体を含むことができる。好適には十分な長さのある接触区域沿いで、隣接し合う多細胞体が直接接触するように、前記多細胞体とフィラー体を印刷するか、または他の方法によって積み重ねることによって、3次元コンストラクトを組み立てることができる。このように多細胞体間を直接接触させることによって、効率的かつ確実な融合を促す。また、隣接し合う多細胞体間の接触面積を増大させることによっても、効率的かつ確実な融合を促す。前記3次元コンストラクトの組み立てを容易にする特徴を有する多細胞体を作製する方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
助成金の記述
本発明は部分的に、全米科学財団の助成金番号第NSF−0526854の下で、米国政府からの援助によって行われたものである。米国政府は、本発明に対してある特定の権利を有する。
【0002】
本発明は、再生医療およびティッシュエンジニアリングの分野、より詳細には、所望の構造体を有する人工組織/臓器の作製に関する。
【背景技術】
【0003】
ティッシュエンジニアリングは、血管を含む移植可能な臓器の慢性的な不足に伴う臓器置換および組織置換への要請の高まりに起因する問題に対して、有望な解決策を提供する。米国では例えば、数千人が、臓器移植の全米待機リストに掲載されている。病変動脈もしくは静脈に代わる置換用血管、または置換用腹部臓器の不足のため、多くは死亡する可能性が高い。移植用の血管および臓器の供給不足の問題を軽減し、最終的には解消する目的で、ティッシュエンジニアリングによって、移植可能な血管、代用血管、臓器、または代用臓器を研究室において高精度、大規模、かつ比較的短期間で構築して増殖させる試みが行われている。
【0004】
人工組織を構築するためのさまざまな方法が試みられ、かつ開発されており、限定的な成果を挙げている。しかし、3次元の血管新生化臓器を組み立てることは、未だ達成されていない。
【0005】
先行技術の解決策は有望であるものの、多くの課題がある。足場の選択、免疫原性、分解速度、分解産物の毒性、宿主の炎症反応、足場の分解による線維組織の形成、および周囲組織との機械的不整合は、人工組織コンストラクトの長期的挙動に影響を及ぼすと共に、そのコンストラクトの主要な生物学的機能を直接妨げる場合がある。例えば、心筋組織には、隣接し合う細胞を密接に相互連結させるギャップ結合を介して同期拍動を確保するために、高い細胞密度が必要になる。心臓のティッシュエンジニアリングの際に足場を用いることは、細胞間結合の低下、ならびに、細胞外マトリックス(ECM、例えばコラーゲンおよびエラスチン)の不適切な沈積および配列と関連しており、足場の生分解と心筋コンストラクトの力発生能力とに影響を及ぼす。脈管のティッシュエンジニアリングでは、ECM関連因子も特に重要である。主にこの理由から、足場を用いてエンジニアリング技術で作製した小径代用血管であって、成人の動脈血管再生の際の本物の血管に匹敵する機械的強度を有する小径代用血管の有望性は、ティッシュエンジニアリングの「聖杯」といわれる場合が多いが、未だ実現されていない。足場を使用すると、インビトロで弾性線維を作製するのが困難になることが多いのに加えて、さらなる問題が生じる。ゲル固有の脆弱性は、ティッシュエンジニアリングで作製した脈管の最終強度の妨げとなる場合がある。これに加えて、残存ポリマー断片の存在が、脈管壁の正常組織構造を壊し、さらには、平滑筋細胞(SMC)の表現型に影響を及ぼすことさえもある。したがって、ティッシュエンジニアリングで作製した脈管移植片の先駆的な臨床的応用において、低圧応用をターゲットとするか、または、まったく足場を用いない方法(シートベースティッシュエンジニアリングという)に依存していたのは驚くことではない。
【0006】
臓器印刷、特に米国特許出願第10/590,446号に記載されている技法は、3次元組織を作製するものとして有望である。臓器印刷は一般に、コンピューターを利用したディスペンサーベースの3次元ティッシュエンジニアリング技術で、機能的な臓器モジュールを構築することと、最終的に臓器全体を層状に構築することとを目的とした技術である。米国特許出願第10/590,446号に記載されている技術では、個々の多細胞集合体を印刷して、ゲルまたはその他の支持マトリックスにする。印刷後に上記の個々の集合体を融合させることによって、最終的な機能的組織が得られる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの態様は、細長い多細胞体である。この多細胞体は、複数の生体細胞と組織培地とを含む。その生体細胞は、互いに凝集し合っている。上記の多細胞体の長さは少なくとも約1000マイクロメートルであり、長さ方向に沿って切断した断面の平均面積は約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である。
【0008】
本発明の別の態様は、細長い人工多細胞体である。この多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。この多細胞体の長さは少なくとも約1000マイクロメートルであり、長さ方向に沿って切断した断面の平均面積は約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である。
【0009】
別の実施形態は、神経が発達していない非軟骨性の細長い多細胞体である。この多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。この多細胞体の長さは少なくとも約1000マイクロメートルであり、長さ方向に沿って切断した断面の平均面積は約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である。
【0010】
本発明のさらなる態様は、管腔のない細長い多細胞体である。この多細胞体は、複数の生体細胞と組織培地とを含む。その生体細胞は、互いに凝集し合っている。この多細胞体のアスペクト比は少なくとも約2である。
【0011】
本発明の1つの態様では、所望の3次元形状の複数の細胞または細胞集合体で作られた多細胞体であって、粘弾性粘稠性を有する多細胞体が説明されている。この多細胞体は、複数の細胞または細胞集合体を含み、その細胞または細胞集合体は凝集し合って、操作および取り扱いがしやすいように粘弾性粘稠性、所望の細胞密度、および十分な完全性を有する、所定の形状のコンストラクトを形成する。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、複数の生体細胞を含む細長い多細胞体を作製する方法である。複数の生体細胞を含む細胞ペーストを細長い形状に成形する。成形したこの細胞ペーストを制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、細長い多細胞体を形成させる。
【0013】
本発明による、複数の生体細胞を含む多細胞体を作製する別の方法は、複数の生体細胞を含む細胞ペーストを3次元形状に保つ器具内で、前記細胞ペーストを成形することを含む。平面上で細胞体が自立するほど十分な凝集力を有する細胞体を作製するのに十分な時間にわたって、成形した前記細胞ペーストを前記3次元形状に保ったまま、前記細胞ペーストを制御環境中でインキュベートする。
【0014】
複数の生体細胞を含む細長い多細胞体を作製する方法も提供する。この方法は、複数の生体細胞を含む細胞ペーストを細長い形状に成形することと、この成形した細胞ペーストを制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、細長い多細胞体を形成させることを含む。本発明のこの態様では、所定の形状で複数の細胞または細胞集合体を含む細長い多細胞体であって、粘弾性粘稠性を有する多細胞体を作製する方法について説明されている。1つの実施形態では、多細胞体を作製する方法は、1)事前に選択した複数の細胞または細胞集合体を含むと共に、所望の細胞密度と粘度を有する細胞ペーストを用意する工程と、2)前記細胞ペーストを操作して所望の形状にする工程と、3)成熟を通じて多細胞体を形成させる工程とを含む。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、所望の3次元の生物学的コンストラクトを構築する目的で、上記の多細胞体と併せて用いるフィラー体について説明されている。このフィラー体は、所定の形状をしたある物質を含み、その物質は、細胞が内殖、移動、および接着するのを妨げ、組織培地に対する透過性を持つ(すなわち、栄養分に対する透過性を持つ)こともできる。フィラー体は、アガロース、寒天、および/またはその他のヒドロゲルのような物質で作られていてもよい。生物学的コンストラクトの構築中に、所定のパターンに従ってフィラー体を用いて、多細胞体がない領域を画定する。
【0016】
本発明の別の態様では、フィラー体を形成する方法が説明されている。一般にこの方法は、事前に選択した、ゲル様状態の好適な材料を調製(例えば操作)して所望の形状にするものである。本発明の方法の1つの実施形態によれば、この製作法は、1)当該材料の粘度を低下させて液体様物質にする工程と、2)その液体様物質を所定の形状に成形する工程と、3)この物質の粘度を向上させて、所望のゲル様フィラーマトリックスユニットの粘度にする工程とをさらに含んでもよい。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態は、神経が発達していない複数の細長い多細胞体を含む3次元構造体である。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで配列されている。
【0018】
本発明のさらなる態様は、ある3次元構造体である。この構造体は、複数の細長い人工多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで配列されている。
【0019】
別の実施形態では、3次元構造体は、複数の細長い多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞と、組織培地とを含む。これらの多細胞体は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで配列されている。
【0020】
さらに別の実施形態では、3次元構造体は、神経が発達していない複数の多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体は、長さが少なくとも約1000マイクロメートルの接触区域沿いで、多細胞体のうちの少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで配列されている。
【0021】
本発明の別の態様では、3次元構造体は、複数の人工多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体は、長さが少なくとも約1000マイクロメートルの接触区域沿いで、多細胞体のうちの少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで配列されている。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態では、3次元構造体は複数の多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞と、組織培地とを含む。これらの多細胞体は、長さが少なくとも約1000マイクロメートルの接触区域沿いで、多細胞体のうちの少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで配列されている。
【0023】
3次元構造体の別の実施形態は、複数の多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。この構造体は、複数の離散したフィラー体も含む。各フィラー体は、細胞が多細胞体からフィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、多細胞体中の細胞がフィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含む。これらの多細胞体とフィラー体は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体または少なくとも1つのフィラー体と接触するパターンで配列されている。
【0024】
本発明の別のさらなる態様は、複数の多細胞体を含む3次元構造体である。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。この構造体は、複数のフィラー体も含む。各フィラー体は、細胞が多細胞体からフィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、多細胞体中の細胞がフィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含む。これらの多細胞体とフィラー体は、多細胞体によって占められておらず、かつフィラー体によって占められていない複数の空間を3次元構造体中に形成するように配置されている。
【0025】
本発明のさらに別の態様は、3次元人工生物組織を作製する方法である。この方法は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触するようなパターンに従って、複数の細長い多細胞体を配列することを含む。各多細胞体は複数の生体細胞を含む。上記の多細胞体の少なくとも1つを少なくとも1つの他の多細胞体と融合させてもよい。
【0026】
3次元人工生物組織を作製する方法の別の実施形態では、各多細胞体が(i)別の多細胞体、または(ii)フィラー体の少なくとも1つと接触するようなパターンに従って、複数の多細胞体と複数のフィラー体を配列する。各多細胞体は複数の生体細胞を含む。各フィラー体は生体適合性物質を含み、この生体適合性物質は、細胞が多細胞体からその生体適合性物質に移動および内殖するのを妨げると共に、多細胞体中の細胞がフィラー体に接着するのを妨げる。上記の多細胞体の少なくとも1つを少なくとも1つの他の多細胞体と融合させてもよい。
【0027】
3次元人工生物組織を作製する方法のさらに別の実施形態では、その方法は、複数の多細胞体を配列して、事前に選択した受容環境中で所定のパターンにするものである。このエンジニアリング法の1つの実施形態によれば、事前に選択したフィラー体と併せて多細胞体を用いてもよい。より詳細には、1つの実施形態では、この方法は、1)所定のパターンに従って、複数のフィラー体と所定どおりに組み合わせて複数の多細胞体を配列し、積み重ねた形または層状のコンストラクトを形成する工程であって、前記多細胞体とフィラー体が接触している工程と、2)成熟のために、事前に選択した制御環境に前記層状コンストラクトを沈積させ、それによって前記多細胞体が互いに融合し合って、融合コンストラクトをもたらすようにする工程と、3)前記融合コンストラクトからフィラー体を取り除いて、所望の生物学的コンストラクトを作製する工程とを含む。
【0028】
本発明の別の実施形態は、少なくとも1つのフィラー体と、互いに凝集し合っている複数の生体細胞とを含む3次元構造体である。この生体細胞は、上記の少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む管状構造体を形成する。上記のフィラー体はコンプライアントな生体適合性物質を含み、この生体適合性物質は、細胞がその物質に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞がその物質に接着するのを妨げる。
【0029】
本発明のさらに別の態様は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む多細胞体を作製するためのモールドである。このモールドは生体適合性基材を有し、この生体適合性基材は、細胞がその基材に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞がその基材に接着するのを妨げる。この基材は、凝集力が比較的小さい複数の細胞を含む組成物を受容して、凝集力が増大して多細胞体が形成される成熟期の間、前記組成物を所望の形状に保つように成形されている。多細胞体の上記の所望の形状の長さは、少なくとも約1000マイクロメートルであり、この形状は、多細胞体中のすべての細胞が、その多細胞体の外側から約250マイクロメートル以下に存在するように形作られている。
【0030】
本発明の別の実施形態は、複数の多細胞体を作製するのに適したモールドを作製するためのツールであり、上記の各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。このツールは、最上部と底部とを有する本体を備える。この本体の底部からは、複数のフィンが伸びている。生体適合性のゲル基材内に溝が形成されるように、上記のフィンのそれぞれの幅は約100マイクロメートル〜約800マイクロメートルの範囲であり、上記のゲル基材は、上記の溝中に配置された生体細胞を細長い多細胞体に形成するように形作られている。上記のフィンは長手方向軸を有し、これらのフィンの少なくとも1つは、別のフィンの長手方向軸から横方向に隔置されている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】本発明の多細胞体の1つの実施形態の斜視図である。
【図1B】表面によって支えられている本発明の多細胞体の拡大斜視図である。
【図1C】表面上で互いに並列して隣接している関係にある複数の本発明の多細胞体の末端の拡大斜視図である。
【図2】人工組織の1つの実施形態を作製するのに適したパターンで配列された複数の多細胞体と複数のフィラー体とを含む3次元コンストラクトの1つの実施形態の斜視図である。
【図3A】図1A、図1B、図1C、および図2に示されている多細胞体を作製する方法の1つの実施形態を示している。
【図3B】図1A、図1B、図1C、および図2に示されている多細胞体を作製する方法の1つの実施形態を示している。
【図3C】図1A、図1B、図1C、および図2に示されている多細胞体を作製する方法の1つの実施形態を示している。
【図3D】図1A、図1B、図1C、および図2に示されている多細胞体を作製する方法の1つの実施形態を示している。
【図4A】図3A〜図3Dに示されている方法で用いるのに適しているモールドの1つの実施形態の斜視図である。
【図4B】前記モールドの上面図である。
【図4C】図4Bの線4C――4Cで前記モールドを切断した場合の断面図である。
【図4D】図4Cに示されているようなモールドの一部の拡大断面図である。
【図5A】図4A〜図4Dに示されているモールドを作製するのに用いることができるツールの1つの実施形態の斜視図である。
【図5B】図5Aに示されているツールの側面図である。
【図5C】図5Bに示されているようなツールの一部の拡大側面図である。
【図6A】図4A〜図4Dに示されているモールドを作製する目的で、図5A〜図5Cに示されているツールを使用する方法の1つの実施形態を示している。
【図6B】図4A〜図4Dに示されているモールドを作製する目的で、図5A〜図5Cに示されているツールを使用する方法の1つの実施形態を示している。
【図6C】図4A〜図4Dに示されているモールドを作製する目的で、図5A〜図5Cに示されているツールを使用する方法の1つの実施形態を示している。
【図7】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図7A】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図8】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図9】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図10】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図11】複数の多細胞体とフィラー体とから3次元コンストラクトを作製するための種々の方法の概略図である。
【図12】複数の多細胞体とフィラー体とから3次元コンストラクトを作製するための種々の方法の概略図である。
【図13】本明細書に記載されている方法に従って、エンジニアリング技術によって作製した2つの管状構造体の写真であり、これらの構造体の外径はそれぞれ1200マイクロメートルと900マイクロメートルである。
【図14】本明細書に記載されている方法に従って、エンジニアリング技術によって作製した別の管状構造体の写真である。
【図15】本明細書に記載されている方法に従って、エンジニアリング技術によって作製した管状構造体であって、その管状構造体の管腔内にあるフィラー体と組み合わされている構造体の1つの実施形態の概略斜視図である。
【図16】球状の多細胞体が融合して、枝分かれした管状構造体が形成される様子を示している写真群である。
【図17】第1の組の多細胞体群が、その第1の組の多細胞体の組成とは異なる細胞型組成を有する第2の組の多細胞体と融合する様子を示している写真群である。
【図18】ゼラチンとフィブリンを含む人工管状構造体を示している写真群である。
【0032】
すべての図面にわたり、対応する参照符号は対応する部分を示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書で言及されているすべての出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0034】
人工組織を作製するための新たな構造体と方法を提供する。本発明の技術は、成熟を通じて所望の人工組織になり得る3次元コンストラクトを組み立てるのに使用できるビルディングブロックとして、新規な多細胞体を使用することを含む。各多細胞体は、その細胞体を単一の物体として取り扱う(例えば持ち上げて動かす)ことができるほど十分に互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体の凝集力は、その生体細胞が、隣接する多細胞体の生体細胞と凝集可能になるほど十分な期間にわたって、その多細胞体が(例えば、作業表面上で、または複数の多細胞体を含む組立体の形で)自立できるほど十分であるのが好適である。自立した多細胞体の形状で、複数の生体細胞を持ち上げて動かすことができると、多種多様な3次元コンストラクトを組み立てるための柔軟性が得られる。例えば、上記の多細胞体は、1つ以上のフィラー体(例えば、細胞が多細胞体からフィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞がフィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含むフィラー体)と併せて用いて、成熟を通じて管状人工組織になり得るコンストラクトを組み立てることができる。また、上記の多細胞体およびフィラー体を用いて、成熟を通じて他の形状を有する人工組織になるコンストラクトを組み立てることもできる。さらに、上記の多細胞体は自立しているので、上記の多細胞体を支持体のゲルまたは足場に包埋する必要がない。むしろ、「大気中での印刷」ができることによって、多細胞体が互いに直接接触し合うような形で、多細胞体を配列しやすくなる。多細胞体間の接触度が向上すると、成熟中に、多細胞体の効率的かつ確実な融合を促すことができる。加えて、フィラー体は、成熟した人工組織の外側および内側(例えば管状構造体の管腔)から簡単に取り外すことができる。
【0035】
上記に加えて、本発明のいくつかの方法では、上記の人工組織用のビルディングブロックとして、細長い多細胞体を用いる。細長い多細胞体はすでに、その多細胞体の長手方向軸沿いで、かなりの長さにわたって互いに凝集し合っているので、多細胞体の融合の確実性が向上しており、この融合を、より短時間で実現させることができる。さらに、細長い多細胞体を、並列して隣接している関係で配列して、かなりの長さを有する接触区域沿いで、多細胞体間を接触させることができる。これにより、隣接し合っている多細胞体を互いに、迅速かつ確実に融合させやすくすることができる。
【0036】
本発明の材料とプロセスを用いて、3次元人工生物組織を作製する方法の概要を示してきたが、以下では、そのプロセスと材料について、さらに詳細に説明していく。
多細胞体
【0037】
多細胞体(本明細書では、中間体細胞ユニットともいう)の1つの実施形態(概して1という符号が付されている)が図1に示されている。この多細胞体1は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。多細胞体1は、所望の3次元(3−D)形状で凝集し合っている複数の細胞を含み、これらの細胞は、ティッシュエンジニアリングまたは臓器工学のようなバイオエンジニアリングプロセスの際に操作および取り扱いがしやすいように、粘弾性粘稠性と十分な完全性を有する。十分な完全性とは、多細胞体が、後に行われる作業の間、その物理的形状(剛性ではなく、粘弾性粘稠性を有する形状)を保持できると共に、その細胞の生命力を維持できることを意味する。
【0038】
多細胞体1は、事前に選択したいずれかの1つ以上の細胞型から構成されていてもよい。一般に、細胞型の選択は、所望の3次元生物組織に応じて変わることになる。例えば、血管タイプの3次元構造体をエンジニアリング技術で作製する目的で多細胞体を用いる場合には、その多細胞体を形成させるのに用いる細胞は有益なことに、脈管組織中に通常存在する1つまたは複数の細胞型(例えば、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞など)を含むことができる。多細胞体を用いて、異なる種類の3次元組織(例えば、腸、肝臓、腎臓など)をエンジニアリング技術で作製する場合には、他の細胞型を用いて多細胞体を形成させてもよい。当業者であれば、エンジニアリング技術で作製する3次元組織の種類に基づき、多細胞体に適した1つまたは複数の細胞型を選択できるであろう。好適な細胞型の非限定例としては、収縮性細胞すなわち筋細胞(例えば、筋芽細胞および心筋細胞を含む横紋筋細胞、ならびに平滑筋細胞)、神経細胞、線維芽細胞、結合組織細胞(骨と軟骨を構成する細胞型、骨形成細胞と軟骨細胞に分化できる細胞、およびリンパ組織を構成する細胞型を含む)、実質細胞、上皮細胞(窩腔および脈管または経路の内張りを形成する内皮細胞、外分泌および内分泌上皮細胞、上皮吸収細胞、角化上皮細胞、ならびに細胞外マトリックス分泌細胞を含む)、肝実質細胞、および未分化細胞(胚細胞、幹細胞、およびその他の前駆細胞など)などが挙げられる。例えば、多細胞体1を形成させる目的で用いる細胞は、生きているヒトまたは動物の被検体から得ることも、初代細胞株として培養することもできる。
【0039】
多細胞体1は、ホモ細胞型であってもヘテロ細胞型であってもよい。ホモ細胞型多細胞体では、複数の生体細胞は、単一の細胞型の複数の生体細胞を含む。ホモ細胞型多細胞体の生体細胞のほぼすべては、単一の細胞型の細胞であり、低レベルの純度に対してある程度の許容性があり、そのホモ細胞型多細胞体を含むコンストラクトの成熟にごくわずかな影響しか及ぼさない異なる細胞型の細胞を比較的少数含む。
【0040】
対照的に、ヘテロ細胞型多細胞体は、2種以上の細胞型の細胞を有意数含む。例えば、多細胞体は、第1の型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞(など)を含むことができ、この第2の細胞型は、第1の細胞型とは異なるものである。多細胞体を用いて脈管組織を作製する場合には、例えば、第1の型の細胞は内皮細胞であることができると共に、第2の型の細胞は平滑筋細胞であることができ、第1の型の細胞は内皮細胞であることができると共に、第2の型の細胞は線維芽細胞であることができ、または、第1の型の細胞は平滑筋細胞であることができると共に、第2の型の細胞は線維芽細胞であることができる。また、ヘテロ細胞型多細胞体は、第1の細胞型の複数の細胞と、第2の細胞型の複数の細胞と、第3の細胞型の複数の細胞とを含むこともでき、この第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれは、第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型とは異なるものである。例えば、人工血管を作製するのに適した多細胞体は、内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞を含むことができる。ヘテロ細胞型細胞体中の生体細胞は、未ソーティングのままであってもよく、または、人工組織用の特定の内部構造体を形成させるための融合プロセス中に、「ソーティング」(例えば自己集合)することもできる。細胞のセルフソーティングは、差次接着仮説(Differential Adhesion Hypothesis)(DAH)の予測と整合する。DAHは、構成細胞間の接着性と凝集性相互作用によって生じる組織表面張力および界面張力の観点で、細胞集団の液体様挙動を説明するものである。一般に、細胞は、細胞の接着力の差異に基づきソーティングすることができる。例えば、ヘテロ細胞型多細胞体の中心部にソーティングされる細胞型は一般に、その多細胞体の外側にソーティングされる細胞よりも接着力が強い(すなわち、表面張力が大きい)。
【0041】
さらに、ヘテロ細胞型多細胞体が、正常な発達過程にある隣接組織である組織から採った細胞からなる場合には、ソーティングの際に、それらの細胞は、生理学的な立体配座を回復させる場合がある。したがって、ヘテロ細胞型多細胞体は、構成細胞の接着特性と凝集特性、および細胞が存在する環境に基づき、ある種の事前に構築された内部構造体を含んでもよい。この内部構造体を用いて、さらに複雑な生物構造体を構築することができる。例えば、単純な収縮管を構築する目的で、筋細胞からなるホモ細胞型多細胞体を用いることができる一方で、血管様構造体を構築する目的で、少なくとも2つの細胞型を用いることができる。例えば、人工血管を構築するのに用いるヘテロ細胞型多細胞体は好適には、(i)内皮細胞および平滑筋細胞、(ii)平滑筋細胞および線維芽細胞、(iii)内皮細胞および線維芽細胞、または(iv)内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞を含むことができる。体内にランダムに分散しているこれらの多種多様な細胞型からなる多細胞体を用いて、3次元の生物構造体を構築することによって、構造体形成の際に、内皮細胞が管の内部構造体(すなわち管腔)を裏打ちし、平滑筋細胞が、内皮細胞を取り囲む層を形成し、線維芽細胞が、平滑筋層を取り囲む外層を形成するように、種々の細胞型をソーティングすることができる。この最適な構造は、多細胞体の組成(例えば、多種多様な細胞型同士の比率)を変えることによって、かつ、多細胞体のサイズによって実現させることができる。別の例として、ヘテロ細胞型多細胞体は、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の細胞と、第3の型の複数の細胞とを含むことができる。このような多細胞体を用いて脈管組織を作製する場合には、例えば、第1の細胞型の細胞は好適には内皮細胞であることができ、第2の細胞型の細胞は好適には平滑筋細胞であることができ、第3の細胞型の細胞は好適には線維芽細胞であることができる。このようなヘテロ細胞型多細胞体でも、細胞のセルフソーティングが起きる場合がある。したがって、これらの多細胞体を用いて、3次元の生物構造体、例えば管状構造体を構築する場合には、構造体の形成の際に、内皮細胞が管の内部構造(すなわち管腔)を裏打ちし、平滑筋細胞が、内皮細胞を実質的に取り囲む層を形成し、線維芽細胞が管状構造体の外層を形成し、この外層が上記の内皮細胞の層と平滑筋細胞の層の両方を実質的に取り囲むように、上記の細胞型をソーティングしてよい。
【0042】
場合によっては、多細胞体1は、複数の細胞に加えて、1種以上の細胞外マトリックス(ECM)成分、または1種以上のECM成分の1種以上の誘導体を含むのが好適である。例えば、多細胞体1は、各種ECMタンパク(例えば、ゼラチン、フィブリノゲン、フィブリン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、および/またはプロテオグリカン)を含んでよい。下にさらに詳細に論じられているように、多細胞体を形成させるのに用いる細胞ペーストに、ECM成分またはECM成分の誘導体を加えることができる。上記の細胞ペーストに加えるECM成分またはECM成分の誘導体は、ヒトまたは動物の供給源から精製することも、当該技術分野において既知の組み換え法によって作製することもできる。あるいは、ECM成分またはECM成分の誘導体を多細胞体中の細胞によって自然に分泌させることも、多細胞体を作製する目的で用いる細胞を、当該技術分野において既知のいずれかの好適な方法によって遺伝子操作して、1種以上のECM成分もしくはECM成分の誘導体、および/または、1種以上の細胞接着分子もしくは細胞−基質接着分子(例えば、セレクチン、インテグリン、免疫グロブリン、およびカドヘリン)の発現レベルを変えることもできる。ECM成分またはECM成分の誘導体は、多細胞体中の細胞の凝集を促すことがある。例えば、好適には、多細胞体を形成する目的で用いる細胞ペーストに、ゼラチンおよび/またはフィブリノゲンを加えることができる。続いて、トロンビンを加えることによって、上記のフィブリノゲンをフィブリンに転換させることができる。
【0043】
上述のように、多細胞体1は場合によっては、組織培地を含むのが好適である。この組織培地は、生理学的な適合性のあるいずれの培地でもあることができ、通常は、当該技術分野において周知のように、含まれる細胞型(単数または複数)に従って選択することになる。この組織培地は例えば、糖およびアミノ酸のような基本栄養素、増殖因子、抗生物質(コンタミを最小限に抑えるためのもの)などを含んでもよい。
【0044】
多細胞体1中の細胞の凝集力は、多細胞体1が3次元形状を保てると同時に、平面上で自立できるほど十分に強力であるのが好適である。図1Bでは例えば、多細胞体1は、平面13上で自立している。多少の変形が(例えば、多細胞体1が表面13と接触する場所で)見られるものの、好適にはその多細胞体の幅の少なくとも半分であり、より好適には幅と同等である高さを保つのに十分な凝集力をこの多細胞体は有する。同様に図1Bに示されているように、例えば、多細胞体1は、その多細胞体と表面13との接触によって多細胞体の底部に形成された平らな外面15によって支えられている。多細胞体1の全重量が表面13によって支えられている場合、多細胞体のわずかな変形が原因で、接触面15の面積A1は、初期接触面積よりも大きいことがある。しかし、接触表面15の面積A1は、支持表面13上の多細胞体1の2次元投影図の面積A2よりも小さいのが好適である(図1B参照)。これは、多細胞体1の一部(例えば、図1Bに示されているような各側部)が、作業面13上の多細胞体1によって支えられることを意味する。同様に、平面13上に、2個以上の多細胞体1を互いに、並列して隣接している関係で配置する場合(図1C)、それらの多細胞体の自立能力は、それらの多細胞体が保っている3次元形状と合わさって、それらの多細胞体の側部の下と作業面上に空間17を形成することができる。
【0045】
また、多細胞体1とフィラー体が互いに積み重なるコンストラクトの形で多細胞体1を組み立てる場合に、多細胞体1が、同等のサイズかつ形状の少なくとも1つの多細胞体またはフィラー体の重量を支えられるほど、多細胞体1中の細胞の凝集力が十分に強力であるのが好適である(図2参照。さらなる詳細は後述されている)。また、多細胞体1を器具(例えばキャピラリーマイクロピペット)によって持ち上げられるほど、多細胞体1中の細胞の凝集力が十分に強力であるのが好適である(図3D参照。さらなる詳細は後述されている)。
【0046】
さらに、多細胞体1は好適には、神経が発達していない(すなわち、実質的に神経がない)ものであることも、非軟骨性であることも、神経が発達しておらず、かつ非軟骨性であることもできる。このような多細胞体は、ヒトの手を加えなくても発生する生物構造体とは異なるので、「人工」多細胞体と称することができる。換言すると、上記の多細胞体は合成のものであり、すなわち、自然発生しないものである。
【0047】
多細胞体1は、本発明の範囲内のさまざまなサイズと形状を有することができる。例えば、図1に示されている多細胞体1は管腔のない細胞体であり、これは、多細胞体を貫通する開放路がないことを意味する。例えば、多細胞体1には、その細胞体内に空間、空洞などが実質的にないのが好適である。これは、図1に示されている多細胞体1と、先行技術による人工血管およびその他の先行技術による管状人工組織との相違点の1つである。
【0048】
図1A〜図1Bに示されている多細胞体1は、酸素および/または栄養分が多細胞体の中心部分に拡散できないことが原因で生じる細胞壊死を制限するように形作られている。例えば、好適には、多細胞体1中のすべての生体細胞が、その多細胞体の外面から約250マイクロメートル以下にくるように、より好適には、多細胞体1中のすべての生体細胞が、その多細胞体の外面から約200マイクロメートル以下にくるように、多細胞体1を形作るのが好適である。多細胞体1の中心部分の細胞が、多細胞体1の外面に近接しているので、その多細胞体の外面にある空間から、その多細胞体の中心部に向かって酸素および/または栄養分を拡散させることによって、その多細胞体中の細胞に酸素および/または栄養分を供給することができる。この多細胞体の1つ以上の部分(例えば中心部)の細胞の壊死が見られる場合もあるが、壊死は限定的である。
【0049】
図1の多細胞体1は、その高さH1および幅W1よりも有意に長い長さL1を有する細長い細胞体である。この多細胞体1の長さL1は、好適には少なくとも約1000マイクロメートル(例えば、約1000マイクロメートル〜約30センチメートルの範囲)であり、より好適には少なくとも約1センチメートル(例えば、約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲)であり、さらに好適には、少なくとも約5センチメートル(例えば、約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲)である。上記の多細胞体の長さL1には理論的上限はない。したがって、十分な量の生体細胞を得る問題、または、長い多細胞体を取り扱う問題などのように、長い多細胞体の作製に関連する実施上の問題を克服したいと考える限りは、本発明の範囲内で、長さが30センチメートル(または、30センチメートルとは異なる任意の長さ)を超える多細胞体を作製することも可能であると認められる。
【0050】
図1に示されている細長い多細胞体1の高さH1および幅W1は、その長さL1よりも有意に短いのが好適である。例えば、長さL1は、幅W1の少なくとも2倍であると共に、高さH1の少なくとも2倍であるのが好適であり、これは、細胞体1のアスペクト比(すなわち、長さと直交する最長寸法に対する長さの比)が少なくとも約2、より好適には少なくとも約10、さらに好適には少なくとも20であることを意味する。上記の多細胞体1の寸法の説明から、アスペクト比も、本発明の範囲内で、20よりも大幅に大きくできることが認められ、例えば、アスペクト比は2000であることができる。
【0051】
図1に示されている多細胞体1は、幅W1が比較的狭く、高さH1が比較的短い。例えば、多細胞体1の長さLに沿って切断した断面の平均面積は、好適には約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲であり、より好適には約31,400平方マイクロメートル〜約250,000平方マイクロメートルの範囲であり、さらに好適には約31,400平方マイクロメートル〜約90,000平方マイクロメートルの範囲である。別の例では、図1に示されている多細胞体1(実質的に円筒形であり、円形の断面を有する)の長さ方向沿いの平均直径は、好適には約100マイクロメートル〜約600マイクロメートルの範囲(約7,850平方マイクロメートル〜約282,600平方マイクロメートルの範囲の平均断面積に対応する)であり、より好適には約200マイクロメートル〜約500マイクロメートルの範囲(約31,400平方マイクロメートル〜約196,250平方マイクロメートルの範囲の平均断面積に対応する)であり、さらに好適には約200マイクロメートル〜約300マイクロメートルの範囲(約31,400平方マイクロメートル〜約70,650平方マイクロメートルの範囲の平均断面積に対応する)である。
【0052】
図1に示されている多細胞体1は実質的に円筒形であり、実質的に円形の断面を有するが、異なるサイズと形状を有する多細胞体も本発明の範囲内である。例えば、多細胞体は、本発明の範囲内で、断面が正方形、長方形、三角形、またはその他の非円形である細長い形状(例えば筒形状)であることができる。同様に、多細胞体は、本発明の範囲内で、概ね球状の形状、細長くない円筒形状、または立方体形状を有することができる。
多細胞体の作製方法
【0053】
本発明の範囲内で、上記の特徴を有する多細胞体を作製するためのさまざまな方法が存在する。例えば、複数の生体細胞を含むか、または所望の細胞密度と粘度を有する細胞ペーストから多細胞体を製作することができる。この細胞ペーストを所望の形状に成形し、成熟(例えばインキュベート)を通じて細胞体を形成させることができる。別の例では、複数の生体細胞を含む細胞ペーストを細長い形状に成形することによって、細長い多細胞体を作製する。この細胞ペーストを制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、細長い多細胞体を形成させる。さらに別の例では、細胞ペーストを3次元形状に保つ器具の中で、複数の生体細胞を含む細胞ペーストを成形することによって多細胞体を作製する。上記のように、平面上で自立するほど十分な凝集力を有する細胞体が作製されるほど十分な時間にわたり、上記の細胞ペーストを3次元形状に保ちながら、制御環境中でインキュベートする。
【0054】
細胞ペーストは好適には、(A)細胞または細胞集合体(本明細書では「事前に選択した」細胞または細胞集合体ともいう)(この細胞または細胞集合体は、単一の細胞型であっても複数の細胞型であってもよい)と細胞培地(本明細書では「事前に選択した」培地ともいう)を(例えば所定の比率で)混合して、細胞懸濁液(本明細書では細胞混合物ともいう)を得て、(B)この細胞混合物を圧縮して、所望の細胞密度と粘度を有する細胞ペーストを作製することによって用意することができる。上記の圧縮作業は、当該細胞ペーストに必要な所望の細胞濃度(密度)、粘度、および稠度を実現させるように、細胞培養から得た特定の細胞懸濁液を濃縮することによるなど、多くの方法によって行ってもよい。例えば、モールド内で成形できるペレット中細胞濃度を実現させるために、細胞培養から得た比較的希薄な細胞懸濁液を所定の時間、遠心分離してもよい。タンジェンシャルフロー濾過(「TFF」)は、細胞を濃縮または圧縮する別の好適な方法である。また、必要とされる押し出し特性を付与する目的で、化合物を細胞懸濁液と組み合わせてもよい。本発明で用いてよい好適な化合物のいくつかの例としては、コラーゲン、ヒドロゲル、マトリゲル、ナノ繊維、自己集合性ナノ繊維、ゼラチン、フィブリノゲンなどが挙げられる。
【0055】
したがって、これらの方法で用いる細胞ペーストは、複数の生体細胞を組織培地と混合し、これらの生体細胞を(例えば遠心分離によって)圧縮することによって作製するのが好適である。1種以上のECM成分、または1種以上のECM成分の1種以上の誘導体を細胞ペースト中に含める場合(さらなる詳細は後述されている)には、細胞ペーストは好適には、1種以上のECM成分または1種以上のECM成分の誘導体を含有する生理学的に許容可能な1種以上のバッファー中に再懸濁させることができ、その結果得られた細胞懸濁液を再度遠心分離して、細胞ペーストを形成させる。
【0056】
さらなる処理のために望ましい、上記の細胞ペーストの細胞密度は、細胞型によって変わる場合がある。細胞間相互作用が細胞ペーストの特性を決定し、細胞密度と細胞間相互作用との関係は、細胞型によって異なることになる。細胞ペーストを成形する前に、細胞間相互作用を高める目的で細胞に前処理を施してもよい。例えば、細胞ペーストを成形する前に、細胞間相互作用を高める目的で、遠心後に遠心チューブ内で細胞をインキュベートしてもよい。
【0057】
さまざまな方法を用いて、本発明による細胞ペーストを成形してよい。例えば、(例えば濃縮/圧縮後に)細胞ペーストを操作するか、手作業で成型するか、またはプレス加工して、所望の形状を実現させてよい。例えば、マイクロピペット(例えばキャピラリーピペット)のような予め形成済みの器具であって、その器具の内面と同じ形になるように細胞ペーストを成形する器具の中に細胞ペーストを取り込んで(例えば吸引して)もよい。このマイクロピペット(例えばキャピラリーピペット)の断面形状は、円形、正方形、長方形、三角形、またはその他の非円形の断面形状であることができる。また、プラスチックモールド、金属モールド、またはゲルモールドのような予め形成済みのモールドに細胞ペーストを沈積させることによって、細胞ペーストを成形してもよい。さらには、遠心鋳造または連続鋳造を用いて細胞ペーストを成形してもよい。
【0058】
上記の方法の1つの例では、成形作業は、成形器具内に細胞ペーストを保持して、その成形器具内で細胞が部分的に互いに凝集し合えるようにすることを含む。例えば、図3Aに示されているように、成形器具51(例えばキャピラリーピペット)の中に細胞ペースト55を吸引して、成熟期間(本明細書ではインキュベート期間ともいう)にわたって、その成形器具内に保持し(図3B)、細胞が少なくとも部分的に互いに凝集し合えるようにすることができる。第1の成形器具51内で細胞を十分に凝集させることができる場合には、1回の成熟工程(例えば1回のインキュベート工程)のみを有するプロセスで、多細胞体1を作製することができる。例えば、この方法は、1つの成形器具51内で細胞ペースト55を成形することと、成形した細胞ペーストを1つの制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、多細胞体1を形成させることを含むのが好適である。この方法の場合、成形器具51(例えばキャピラリーピペット)は好適には、下にさらに詳細に説明されているように、多細胞体を3次元コンストラクト中に自動的に配置する目的で使用できるバイオプリンターの印刷ヘッドまたは類似の装置の一部であることができる。ECM成分またはECM成分の誘導体、例えばゼラチンおよび/またはフィブリノゲンは、多細胞体の総体的な凝集力を促進できるので、このような成分を細胞ペースト中に含めると、1回の成熟工程での多細胞体の作製が容易になる場合がある。しかし、細胞の生存能に影響が及ぶ前に、酸素および/または栄養分に触れる機会を細胞にせいぜい限定的にしか与えないキャピラリーピペットのような成形器具内に細胞を保持できる時間には制限がある。
【0059】
所望の凝集力を実現させるほど十分に長い成熟期間にわたって、成形器具51内に細胞を保持できない場合には、部分的に凝集した細胞ペースト55をその成形器具(例えばキャピラリーピペット)から、栄養分および/または酸素を細胞に供給させる第2の成形器具301(例えばモールド)に移すと同時に、追加的な成熟期間にわたって、細胞をその第2の成形器具内に保持するのが好適である。栄養分および酸素を細胞に供給させる好適な成形器具301の1つの例は、図4A〜図4Dに示されている。この成形器具は、複数の多細胞体(例えば、実質的に同一の多細胞体)を作製するためのモールド301である。モールド301は生体適合性基材303を含み、この基材は、細胞が基材303に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞が基材303に接着するのを妨げる物質で作られている。モールド301は、細胞がモールドに増殖もしくは移動、または接着しないようにするいずれの物質で作られていてもよい。例えば、基材303は好適には、Teflon(登録商標)(PTFE)、ステレンス鋼、ヒアルロン酸、アガロース、アガロース、ポリエチレングリコール、ガラス、金属、プラスチック、またはゲル材(例えばアガロースゲルもしくはその他のヒドロゲル)、および類似の物質で作ることができる。
【0060】
基材303は、比較的凝集力の小さい複数の細胞を含む組成物(例えば第1の成形器具51から得られるもの)を受容するように、かつ、細胞の凝集力が向上して、上記の多細胞体1の特徴のいずれも有する多細胞体のように、成熟期間前の組成物よりも凝集力が大きい多細胞体が形成される成熟期間の間、上記の組成物を所望の3次元形状に保つように成形されている。また、モールド301は、(例えば、組織培地をモールド301の上に分注することによって)組織培地を細胞ペースト55に供給できるように形作られているのが好適である。例えば、図4A〜図4Dに示されているように、基材303には、複数の細長い溝305が形成されている。図4Dに示されているように、各溝の深さD2は、約500マイクロメートル〜約1000マイクロメートルの範囲であるのが好適である。実質的に円形の断面形状を有する細長い円筒形の多細胞体が形成されるように、図示されている実施形態の各溝305の底部は、弓状(例えば半円)の断面形状を有するのが好適である。溝305の幅W5は、モールド301内で作製される多細胞体の幅よりもわずかに広いのが好適である。例えば、溝305の幅W5は、約300マイクロメートル〜約1000マイクロメートルの範囲であるのが好適である。溝305の間の空間は重要ではないが、概して、モールド301内で作製できる多細胞体の数を増やす目的で、溝同士が比較的近くなるように溝が隔置されているのが望ましい。図示されている実施形態では例えば、溝305の間の基材303の各ストライプの幅W4は、約2mmである。
【0061】
本発明の範囲内で好適なモールドを作製するためのさまざまな方法が存在する。例えば、図5A〜図5Cは、上記の多細胞体を作製するのに適したモールドを作製するのに用いることができるツール(概して201という符号が付されている)の1つの実施形態を示している。一般に、ツール201の一部は、部分的に凝集した細胞ペーストを第2の成熟期間にわたって保持するモールド301の一部のネガ型となるように形作られている。例えば、ツール201は、本体203と、本体203から伸びている複数の突起205とを備えるのが好適である。各突起205のサイズと形状は、細胞ペースト55をある形状に保つことになるモールド基材中に凹部すなわち受容区域を形成して、突起205によってモールド内に形成されたその凹部/受容区域内の細胞が、成形済みの細胞ペーストの外側から約300マイクロメートル以下の位置にくるようにするのが好適である。
【0062】
図5A〜図5Cに示されている特定のツール201は、図4A〜図4Bに示されているモールド301を作製するように形作られている。突起205は、本体203の底部207から伸びている複数のフィンとして形作られている。フィン205のそれぞれは、モールド301の溝305の1つのネガ型である。フィン205は長手方向軸209を有し(図5A)、上記の細長い多細胞体1を作製するのに用いることができるモールドを作製するように形作られている。フィン205の少なくとも1つは、別のフィンの長手方向軸209から横方向に隔置されている。これは、ツール201と、ゲル電気泳動を行うためのゲル内にウェルを形成する目的で用いる従来のコームとの相違点の1つである。図示されている実施形態では、すべてのフィン205は実質的に互いに対して平行であり、各フィンは、他のフィンから、その長手方向軸209の横方向に隔置されている。フィン205は、すべてが実質的に互いに同一であるのが好適である。図5Cを参照すると、各フィン205は、本体203から約1.5mmの距離D1だけ伸びているのが好適である。フィン205の遠位末端は、モールド301の溝305の底部の形状に対応する弓状(例えば半円)の断面形状を有する。各フィンの幅W3は約300マイクロメートル〜約1000マイクロメートルであるのが好適である。フィンを分離している距離W2は、約2mmであるのが好適である。突起を細胞培養皿の底部よりも上に保つように、ツール201の縁211が細胞培養皿の周縁上に位置するように形作られているのが好適である。ツール201は、Teflon(登録商標)(PTFE)、ステンレス鋼などのように、モールドが簡単に離れるさまざまな物質で作製することができる。
【0063】
モールド301を作製するためには、図6Aに示されているように、凝固するかまたはゲルとして固まるように作製できる液体223で細胞培養皿221を満たすのが好適である。例えば、この液体はアガロース溶液223であることができる。ツール201を細胞培養皿221の上に配置して(図6B)、縁211が細胞培養皿の周縁225の上にくると共に、突起205(例えばフィン)が、ツール201の底部207から液体223まで及ぶようにする。液体223を固化させて、突起205(例えばフィン)の遠位末端を取り囲む固体基材またはゲル基材を形成させる。続いて、ツール201を細胞培養皿から持ち上げて、新たに作製されたモールド301からツール201を引き離す(図6C)。
【0064】
したがって、第2の成形器具を用いる場合には、部分的に凝集した細胞ペースト55を第1の成形器具51(例えばキャピラリーピペット)から第2の成形器具(例えば、図4A〜図4Dに示されているモールド301)に移すのが好適である。部分的に凝集した細胞ペースト55は、図3Cに示されているように、第1の成形器具51(例えばキャピラリーピペット)によってモールド301の溝305に移すことができる。すなわち、この方法は、部分的に凝集した細胞ペースト55を第2の成形器具301に移すことと、その部分的に凝集した細胞ペーストを第2の成形器具内に保持して、多細胞体1を形成させることとを含む。モールド301を、その中に保持されている細胞ペースト55と共に制御環境中でインキュベートし、細胞ペースト中の細胞が互いにさらに凝集し合うようにして、多細胞体1を形成させる成熟期間の後には、図3Dに示されているように、得られた多細胞体1を器具51’、例えばキャピラリーピペットで持ち上げられるほど、上記の細胞の凝集力は十分に強力になることになる。このキャピラリーピペット51’(モールド301の溝305から持ち上げた成熟した多細胞体1を含んでいる)は好適には、下にさらに詳細に説明されているように、多細胞体を3次元コンストラクト中に自動的に配置する目的で使用できるバイオプリンターまたは類似の装置の印刷ヘッドの一部であることができる。
【0065】
したがって、多細胞体1を作製する方法の1つの例では、成形作業は、細胞ペースト55を第1の成形器具51内に保持して、第1の成形器具内で細胞が部分的に互いに凝集し合えるようにすることと、その部分的に凝集した細胞ペーストを第2の成形器具301に移すことと、その部分的に凝集した細胞ペーストを第2の成形器具内に保持して、多細胞体1を形成させることとを含む。しかし、ゼラチンおよび/またはフィブリノゲンを細胞ペーストに加えるようないくつかの実施形態では、細胞が、第1の成形器具51内で多細胞体を形成させるほど十分に凝集する場合もあり、細胞ペースト55を第2の成形器具301に移して、その細胞ペーストを第2の成形器具内に保持する工程は、不要であることもある。
【0066】
第1の成形器具51としては好適には、キャピラリーピペットを挙げることができ、第2の成形器具としては、上記のモールド301のように、細胞を第2の成形器具に保ったまま、栄養分と酸素を細胞に供給できる器具を挙げることができる。
【0067】
多細胞体の断面形状とサイズは実質的に、その多細胞体を作製する目的で用いる第1の成形器具と任意で第2の成形器具との断面形状とサイズに対応することになり、当業者であれば、上述の断面形状、断面積、直径、および長さを有する多細胞体を作製するのに適した好適な断面形状、断面積、直径、および長さを有する好適な成形器具を選択できるであろう。
【0068】
上述のように、多種多様な細胞型を用いて、本発明の多細胞体を作製してよい。したがって、例えば上で列挙したすべての細胞型を含め、1つ以上の型の細胞または細胞集合体(ヒトおよび動物の体細胞)を出発材料として用いて、細胞ペーストを作製してよい。例えば、平滑筋細胞、内皮細胞、軟骨細胞、間葉幹細胞、筋芽細胞、線維芽細胞、心筋細胞、シュヴァン細胞、肝実質細胞、またはチャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞のような細胞を用いてよい。対象受容者に由来する(例えば生検によって採取した)細胞、または1種以上の樹立細胞株に由来する細胞のサンプルを培養して、多細胞体を製作するのに十分な量の細胞を作製することができる。対象受容者に由来する細胞から作製した多細胞体は、宿主の炎症反応、または、受容者による、移植臓器もしくは移植組織に対するその他の急性もしくは慢性拒絶反応を回避するのに有益である。
【0069】
上述のように、多細胞体はホモ細胞型であることも、ヘテロ細胞型であることもできる。ホモ細胞型多細胞体を作製するためには、細胞ペーストはホモ細胞型、すなわち、単一の細胞型の複数の生体細胞を含むのが好適である。ホモ細胞型多細胞体を作製するのに用いる細胞ペースト中の生体細胞のほぼすべては、単一の細胞型の細胞であることになり、低レベルの純度に対してある程度の許容性があり、当該細胞ペーストから作製したホモ細胞型多細胞体を含むコンストラクトの成熟にごくわずかな影響しか及ぼさない異なる細胞型の細胞を比較的少数含む。例えば、ホモ細胞型多細胞体を作製するための細胞ペーストは、第1の型の細胞を含むのが好適であり、細胞ペースト中の細胞の少なくとも約90パーセントは、その第1の細胞型の細胞である。
【0070】
一方、ヘテロ細胞型多細胞体を作製するためには、細胞ペーストは、2つ以上の細胞型の細胞を有意数含むのが好適である(すなわち、細胞ペーストはヘテロ細胞型となる)。例えば、この細胞ペーストは、第1の型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞を含むことができ、この第2の細胞型は、第1の細胞型とは異なるものである。別の例では、細胞ペーストは、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞を含むことができる。したがって、この細胞ペーストを用いて、ヘテロ細胞型多細胞体を作製してから、そのヘテロ細胞型多細胞体を用いて脈管組織を作製する場合には、細胞ペースト中の複数の生体細胞は好適には、(i)内皮細胞および平滑筋細胞、(ii)平滑筋細胞および線維芽細胞、(iii)内皮細胞および線維芽細胞、または(iv)内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞を含むことができる。上でさらに詳細に論じたように、ヘテロ細胞型細胞ペーストを用いて多細胞体を作製する場合、細胞の接着強度の相違に基づき、成熟および凝集プロセス中に生体細胞を「ソーティング」してよく、生体細胞は、それらの生理学的な立体配座を回復させる場合がある。
【0071】
好適には、複数の生体細胞に加えて、1種以上のECM成分または1種以上のECM成分の1種以上の誘導体(例えば、ゼラチン、フィブリノゲン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、および/またはプロテオグリカン)を細胞ペーストに含めて、上記のように、これらの物質を多細胞体に組み込むことができる。細胞ペーストに加えるECM成分またはECM成分の誘導体は、ヒトまたは動物の供給源から精製することも、当該技術分野において既知の組み換え法によって作製することもできる。ECM成分またはECM成分の誘導体を細胞ペーストに加えると、多細胞体中の細胞の凝集が促進される場合がある。例えば、ゼラチンおよび/またはフィブリノゲンを細胞ペーストに加えることができる。より詳細には、10〜30%のゼラチン溶液と10〜80mg/mlのフィブリノゲン溶液を複数の生体細胞と混合して、ゼラチンとフィブリノゲンを含む細胞懸濁液を形成させることができる。続いて、この細胞懸濁液を(例えば遠心分離によって)圧縮して、細胞ペーストを形成させることができる。次いで、このプロセスによって形成した細胞ペーストを成形し、制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、多細胞体を形成させることができる。(例えば印刷プロセス中に)トロンビンを加えることによって、上記のフィブリノゲンをフィブリンに転換させることができる。例えばゼラチンおよびフィブリノゲンのようなECM成分またはECM成分の誘導体を細胞ペーストに含める場合には、成形工程は、細胞ペーストを1つの成形器具内に保持して、多細胞体を形成させることを含むのが好適であり、インキュベート工程は、この成形した細胞ペーストを1つの制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、多細胞体を形成させることを含むのが好適である。
【0072】
本発明は、複数の細胞または細胞集合体を含む多細胞体であって、所望の3D形状に形成された多細胞体を作製する方法も提供する。本発明の作製法は一般に、1)事前に選択した複数の細胞または細胞集合体を含む細胞ペースト(例えば、所望の細胞密度と粘度を有するもの)を用意する工程と、2)この細胞ペーストを(例えば所望の形状に)成形する工程と、3)成熟を通じて前記多細胞体を形成させる工程とを含む。
【0073】
上記の形成工程は、多細胞体(例えば細胞ユニット)を確実に凝集させる目的で、1つまたは複数の工程を通じて行ってもよい。特定のプロセスでは、初期成熟時に、細胞ペーストを部分的に安定化させるか、または部分的に硬化させて、さらなる作業が行えるほど十分な完全性を有する多細胞体を形成させてもよい。
【0074】
1つの実施形態によれば、上記の形成工程は、2つのサブ工程、すなわち、A)初期成熟のための第1の期間(例えば所定の期間)にわたって、細胞ペーストをマイクロピペット(例えばキャピラリーピペット)のような成形器具内に保持するサブ工程と、B)さらなる成熟のための第2の期間(例えば所定の期間)にわたって、上記の成形した細胞ペーストをモールドのような保持器具に沈積させるサブ工程であって、細胞がそのモールドに増殖もしくは移動、または接着しないようにできる物質から前記保持器具が作られているサブ工程とを含んでもよい。上記の初期成熟は、上記のさらなる成熟プロセスでの作業中に細胞ペーストが無傷の状態を保つのに十分な安定性を細胞ペーストにもたらすことになる。
【0075】
さまざまな方法を用いて、上記のさらなる成熟プロセスを促すことができる。1つの実施形態では、凝集を助長するための期間(細胞型によって決まる場合がある)にわたって、細胞ペーストを約37℃でインキュベートしてよい。この代わりに、またはこれに加えて、接着を助長する因子および/またはイオンを含む細胞培地の存在下で、細胞ペーストを保持してもよい。
【0076】
例えば、円筒形状の細胞ペーストの円筒形を壊すことなくマイクロピペット(例えばキャピラリーピペット)から押し出すことができるほど細胞が接着するまで、その細胞ペーストをマイクロピペット内でインキュベートした後(すなわち初期成熟プロセスの後)、さらなる成熟プロセスで、細胞ペーストをさらにインキュベートして、培地と共に培養してよく、このプロセスによって、所望の形状を保つように促す。
フィラー体
【0077】
本発明は、所望の3次元人工生物組織を形成する目的で、上記の多細胞体と併せて用いることができるフィラー体も提供する。具体的には、本発明は、生物学的コンストラクトを構築するためのビルディングユニットとして、多細胞体と併せて用いるフィラー体(本明細書では「フィラーマトリックスユニット」ともいう)も提供し、このフィラー体を用いて、多細胞体が欠けている所望の3Dバイオコンストラクトの領域を画定する。本発明のフィラー体は、細胞がそのフィラー体に増殖もしくは移動、または接着しないようにできる物質で作られた所定の形状を有するフィラー体であるのが好適である。本発明のフィラー体の材料は、栄養培地(本明細書では、組織培地または細胞培地ともいう)に対する透過性があるのが好適である。例えば、本発明のフィラー体の材料は、アガロース、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、および寒天、もしくはその他のヒドロゲルからなる群から選択された生体適合性ゲル物質、または、ゲル以外の可とう性生体適合性物質であるのが好適である。本発明のフィラー体は好適には、種々の材料または種々の濃度の同じ材料から形成させることができる。例えば、管腔を形成するフィラー体を4%のアガロースで作製できる一方で、所望の3次元人工生物組織を構築するのに用いる残りのフィラー体を2%のアガロースで作製することができる。本発明のフィラー体は、対応する多細胞体(円筒形状を有するのが好ましい)の形状またはサイズに従っていれば、いずれの形状またはサイズを呈してもよい。
【0078】
いくつかの実施形態では、フィラー体は、そのフィラー体と共に所望の3次元人工生物組織を構築するのに用いられる多細胞体の形状とサイズと実質的に同一の形状とサイズを有する。したがって、例えば、本発明のフィラー体は好適には、多細胞体1との関連で上に記した形状のうちのいずれかを有することができる。例えば、フィラー体と多細胞体の双方とも、(図2に示されているように、)実質的に円筒形であると共に、直径が実質的に同一である実質的に円形の断面を有してもよい。
【0079】
多細胞体が互いに融合したときに、所望の3次元人工生物組織が形成されるようなパターンに従って、フィラー体と多細胞体を配列できるならば、フィラー体と多細胞体は異なるサイズおよび/または形状を有することができる。例えば、(図2に示されているように、)本発明のフィラー体は実質的に円筒形であることができ、本発明の多細胞体は実質的に球状であることができる。さらに、本発明のフィラー体と多細胞体は双方とも、細長いと共に、実質的に円筒形であるが、長さが異なっていてもよい。当業者であれば、さまざまなサイズおよび形状のフィラー体と多細胞体を組み合わせて、所望の3次元人工生物組織を形成できる方法が数多く存在することを認識するであろう。
【0080】
好適なゲル様物質を所定の形状に成形することによって、フィラー体を作製するのが好適である。1つの実施形態によれば、この方法は、1)フィラー材料(すなわち、事前に選択したフィラー材料)の粘度を減少(低下)させて液体様物質にする工程と、2)その液体様物質を(例えば、事前に選択した形状に)成形する工程と、3)その物質の粘度を増大(上昇)させ、凝固させてフィラー体(例えば、事前に選択した形状を有するフィラー体)にする工程とをさらに含んでもよい。
【0081】
フィラー材料の直接または間接加熱、加圧、またはフィラー材料の濃度の変更を含め、多くの既知の方法を用いて、フィラー材料の粘度を減少させてよい。さらに、上記の成形工程でも、フィラー材料をプレキャストモールドに沈積させる方法、または、ピペットによって、もしくはピストンの下方向への移動によって、フィラー材料を所望の形状のチャンバーに注入する方法のような多くの方法を用いてもよい。さらに、フィラー材料を直接または間接的に冷却する方法、溶媒を除去もしくは蒸発させるか、溶媒を除去もしくは蒸発可能にする方法、フィラー剤を硬化させる化学作用を可能にする方法、構成成分の濃度を変える方法、または、化学作用もしくはその他の作用によってポリマー物質の架橋を可能にする方法を含め、多くの既知の方法を用いて、フィラー材料の粘度を増大させて、その形状を強固なものにしてもよい。
【0082】
例えば、1つの実施形態によれば、アガロース溶液(元々粉末状態であるアガロースをバッファーおよび水と混合したもの)を加熱してその粘度を低下させ、所望の寸法を有するキャピラリーピペット(すなわちマイクロピペット)の中に(または、ピストンの下方向への移動によって所望の形状のチャンバーの中に)取り込んで(例えば吸引して)もよい。フィラー体の所望の断面形状に応じて、さまざまな断面形状を有するキャピラリーピペットを用いることができる。例えば、長さに沿って切断した断面が実質的に円形であるキャピラリーピペットを用いて、実質的に円筒形であると共に、実質的に円形の断面形状を有するフィラー体を作製することができる。あるいは、長さに沿って切断した断面が実質的に正方形であるキャピラリーピペットを用いて、実質的に筒形であると共に、正方形の断面形状を有するフィラー体を作製することができる。当業者であれば、同様の方式で、上記のような多細胞体を作製する際に用いられるようなキャピラリーピペットを用いて、多種多様な断面形状を有するフィラー体を作製できることを認識するであろう。
【0083】
例えばピペットの外側に強制空気を供給するか、または、冷液の入った容器の中にピペットを入れることによって、ピペット(またはチェンバー)内のアガロース溶液を室温まで冷却して、アガロース溶液が凝固して、所望の形状を有するアガロースゲル、すなわちフィラー体になることができるようにしてもよい。得られたフィラー体は、特定のバイオコンストラクトの構築中に、ピペットまたはチェンバーから押し出してもよい。
【0084】
バイオプリンターまたは類似の装置は、多細胞体とフィラー体との配列体を含む3次元コンストラクトを組み立てるので、フィラー体は好適には、バイオプリンターまたは類似の装置によって作製することができる。例えば、キャピラリーピペットは、バイオプリンターの印刷ヘッドの一部であることができる。3次元コンストラクトにフィラー体が必要な場合には、ゲルとして固まることができる液体の供給源に、キャピラリーピペットを移動させることができる。例えば、液体状態に保つ目的で加熱されているアガロース溶液の供給源に、キャピラリーピペットを移動させることができる。上記の液体をキャピラリーピペットの中に吸引し、その液体を成形してフィラー体の形状にすることができる。続いて、アガロースのゲル化を促進する目的で、キャピラリーピペットを(例えば冷水浴中に浸すことによって)冷やすことができる。
3次元コンストラクト
【0085】
本発明の方法に従って上記の多細胞体とフィラー体を用いて、3次元人工生物組織を作製することができる。簡潔に言うと、各多細胞体が(i)別の多細胞体、または(ii)フィラー体のうちの少なくとも1つと接触するようなパターンに従って、複数の多細胞体と複数のフィラー体を配列する。続いて、その多細胞体を少なくとも1つの他の多細胞体と融合させて、3次元人工生物組織を形成させる。次いで、融合した多細胞体からフィラー体を引き離して、人工組織を得ることができる。
【0086】
本発明の3次元構造体の1つの実施形態(概して101という符号が付されている)は、図2に示されている。この構造体101は、複数の細長い多細胞体1を含み、その各多細胞体は、上記の細長い多細胞体1と同一であるのが好適である。例えば、細長い多細胞体1のそれぞれは、自立する多細胞組織体であって、大気中で印刷することができる多細胞組織体を作製するための上記の方法に従って作製したものであるのが好適である。各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触するパターンで、多細胞体1が配列されている。図1Cを参照するとよく分かるように、かなりの長さを有する接触区域沿いで、多細胞体1の少なくとも1つが別の多細胞体と接触する。図1Cには、2つの多細胞体1が表面13の上で並列して隣接している関係で示されており、図2に示されているパターンでは配列されていないが、2つの多細胞体1の間の接触区域は、多細胞体が互いに並列して隣接している関係にあるパターンで多細胞体が配列されている図1Cに示されている接触区域と実質的に同様であり得ることを理解されたい。例えば、図2の配列では、かなりの長さを有する接触区域全体にわたって、各多細胞体1が少なくとも1つ(例えば2つ)の他の多細胞体と接触する。並列関係にある隣接し合う細長い多細胞体の間の接触区域の長さは、好適には少なくとも約1000マイクロメートル、より好適には少なくとも約1センチメートル、より好適には少なくとも約5センチメートル、さらに好適には約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲である。別の例では、この接触区域の長さは、好適には約1000マイクロメートル〜約30センチメートルの範囲、より好適には約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である。接触区域の長さは、多細胞体1の長さに相当することができる。多細胞体1の長さには理論的上限がないので、十分な量の細胞ペーストを得る必要性のように、長い多細胞体の作製に関連する実施上の問題を克服したいと考える限りは、上記の接触区域の長さは、本発明の範囲内で、30センチメートル(または30センチメートル以外のいずれかの任意の長さ)を超えることができる。図2では、多細胞体1は互いに接触し合っているが、この成熟の初期段階では、多細胞体は互いに凝集し合ってはいない。
【0087】
本発明の構造体は、1つ以上のフィラー体5も含み、その各フィラー体は、上記のフィラー体と同一であるのが好適である。例えば、図2の構造体は複数の離散したフィラー体5を含む。多細胞体と共に、各フィラー体が少なくとも1つの多細胞体または別のフィラー体と接触するようなパターンで、フィラー体5が配列されている。図2における多細胞体1とフィラー体5は、構造体101の中に複数の空間17を形成するように配列されており、これらの空間は、多細胞体1によって占められておらず、かつフィラー体5によっても占められていない。空間17には、組織培地が含まれているのが好適であり、この培地は、多細胞体1およびフィラー体5の最上部の上から流し込むことによって、構造体101に加えることができる。したがって、空間17は、(例えば成熟中に、)栄養分および/または酸素を多細胞体1中の細胞に供給しやすくすることができる。
【0088】
図2に示されている構造体の多細胞体1は、ホモ細胞型細胞体であることも、ヘテロ細胞型細胞体であることも、これらの組み合わせであることもできる。特に、多細胞体1は好適には、上記のいずれの細胞型および細胞型の組み合わせも含むことができる。図示されているように、多細胞体1は、その中に含まれる細胞型が実質的に同一であるのが好適である。しかし、本発明の範囲内で、1つ以上の多細胞体が、その構造体中の他の多細胞体と異なる細胞型の細胞を含むことも可能である。例えば、1つ以上の各多細胞体1中の大半の細胞は好適には、第1の細胞型(例えば、内皮細胞または平滑筋細胞)の細胞であることができ、構造体101の1つ以上の他の各多細胞体中の大半の細胞は、上記の第1の細胞型とは異なる第2の細胞型(例えば、平滑筋細胞または線維芽細胞)の細胞であることができる。多細胞体1は、形状が実質的に均一であるのが好適である。フィラー体も、形状が実質的に均一であるのが好適である。さらに、図2に示されているように、多細胞体1は、フィラー体5の形状と実質的に同一な形状を有する。
【0089】
多細胞体1の少なくともいくつか(例えばすべての多細胞体)は、管様構造体31を形成するように配列されている。少なくとも1つのフィラー体5’が、管様構造体31の内側にあると共に、管様構造体31を形成する多細胞体1に実質的に囲まれている。例えば、図2の多細胞体1は、フィラー体5のうちの1つを取り囲む管様構造体31を形成するように、六角形の配置で配列されている。図2の六角形の配置の各多細胞体1は、少なくとも2つの隣接する細長い多細胞体と、並列して隣接している関係にある。この配列では、管様構造体31の内側にある1つ以上のフィラー体5’は、管腔を形成するフィラー体である。この管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’がこのように称されるのは、細胞が多細胞体1から、管様構造体31を貫通している細長い空間(この空間は、下記の方法に従って構造体を成熟させた後、管腔になる)に移動および内殖するのを防ぐからである。管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’は、成熟中には、そのフィラー体自体の中には管腔を発生させない。一般に、管様構造体の内側にフィラー体があるか否かを問わず、成熟を通じて、複数の生体細胞を含む管状人工組織を作製することができる多細胞体のいずれの配列体も、管様構造体とみなすことができる。この成熟段階では、隣接し合う多細胞体が互いに凝集し合っていないので、管様構造体を形成する2つの隣接し合う多細胞体の間の空間に、物体を押し込むことができることから、管様構造体が管状構造体とは異なるものであり得ることは、上記の内容から明らかである。
【0090】
3次元構造体の別の実施形態(概して201という符号が付されている)は、図7に示されている。指定のない限り、この構造体は、図2に示されていると共に上記されている構造体と実質的に同一であることができる。図7の構造体201は、複数の多細胞体を含み、その各多細胞体は、上記の多細胞体1と同一であることができる。しかし、この構造体201では、構造体201を形成するパターンで配列されている2つの異なる組の多細胞体1’、1’’が存在する。第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞(例えば少なくとも約90パーセントの細胞)は、第1の細胞型の細胞であり、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞(例えば少なくとも約90パーセントの細胞)は、上記の第1の細胞型とは異なる第2の細胞型の細胞である。例えば、第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞は好適には内皮細胞であることができ、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞は好適には平滑筋細胞であることができる。別の例として、第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞は好適には内皮細胞であることができ、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞は線維芽細胞であることができる。さらに別の例として、第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞は好適には平滑筋細胞であることができ、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞は線維芽細胞であることができる。他の細胞型を用いることも可能である。第1の組の多細胞体1’は、管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’を取り囲む六角形の配置(上記の六角形の配置と同様の配置)で配列されている。第2の組の多細胞体1’’は、第1の組の多細胞体1’と、管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’とを取り囲む、上記よりも大きい六角形の配置で配列されている。多細胞体1’と1’’が合わさって、2つの異なる型の細胞を含む管様構造体231を形成する。第1の組の多細胞体1’は、管様構造体231の内層を形成するように配列されており、第2の組の多細胞体1’’は、管様構造体231の外層を形成するように配列されている。したがって、第1の細胞型の細胞(例えば内皮細胞)は、管様構造体231の内側部分の方に集中しており、第2の細胞型の細胞(例えば平滑筋細胞)は、管様構造体231の外側部分の方に集中していて、第1の組の多細胞体1’における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、第2の組の多細胞体1’’における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きくなるように、または、第2の組の多細胞体1’’における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率が、第1の組の多細胞体1’における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率よりも大きくなるようになっている。この配列体は、第1の型の細胞からなる内層と、第2の型の細胞からなる外層とを有する管状人工組織の作製を容易にすることができる。例えば、構造体201を用いて、内皮細胞からなる内層と、平滑筋細胞からなる外層とを有する人工血管を作製することができる。別の例では、複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とをそれぞれ含む第1の組の多細胞体1’が、管様構造体231の内層を形成するように配列されており、線維芽細胞を含む第2の組の多細胞体1’’が、管様構造体231の外層を形成するように配列されている。したがって、内皮細胞は、管様構造体231の内側部分の方に集中しており、平滑筋細胞は、管様構造体231の中央部分の方に集中しており、線維芽細胞は、管様構造体231の外側部分の方に集中していて、第2の組の多細胞体1’’における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、第1の組の多細胞体1’における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率よりも大きくなるようになっている。別の例では、内皮細胞をそれぞれ含む第1の組の多細胞体1’が、管様構造体231の内層を形成するように配置されており、複数の平滑筋細胞と複数の線維芽細胞とをそれぞれ含む第2の組の多細胞体1’’が、管様構造体231の外層を形成するように配列されている。したがって、内皮細胞は、管様構造体231の内側部分の方に集中しており、平滑筋細胞は、管様構造体231の中央部分の方に集中しており、線維芽細胞は、管様構造体231の外側部分の方に集中していて、第1の組の多細胞体1’における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、第2の多細胞体1’’における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する火散るよりも大きくなるようになっている。
【0091】
図7Aは、本発明の別の例の3次元構造体251を示している。この構造体251は、第3の組の多細胞体1’’’も含む点以外は、図7に示されている構造体と実質的に同じである。第3の組の多細胞体1’’’中の大半の細胞は、第1の組の多細胞体1’と第2の組の多細胞体1’’の細胞型の大半を構成する各細胞型とは異なる細胞型の細胞である。第3の組の多細胞体1’’’は、第2の組の多細胞体1’’を取り囲むと共に多細胞体1’’と隣接する概ね六角形の配置で配列されているのが好適である。したがって、第3の組の多細胞体1’’’は、第2の組の多細胞体1’’と、第1の組の多細胞体1’とを取り囲むのが好適である。多細胞体1’、1’’、および1’’’が合わさって、3つの多細胞体層によって形成される管様構造体261を形成するのが好適である。管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’が、管様構造体261を軸方向で貫通している。構造体251を用いて、人工血管を形成する場合には、第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞は内皮細胞であるのが好適であり、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞は平滑筋細胞であるのが好適であり、第3の組の多細胞体1’’’中の大半の細胞は線維芽細胞であるのが好適であり、第3の組の多細胞体1’’’における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、第1の組の多細胞体1’または第2の組の多細胞体1’’における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率よりも大きくなるようになっている。しかし、多細胞体1’、1’’、1’’’の大半の細胞型は、本発明の範囲内で、他の細胞型であることもできる。
【0092】
本発明の別の実施形態の3次元構造体301が図8に示されている。指定のない限り、この構造体301は、上記されていると共に図2に示されている構造体101と実質的に同一である。この実施形態では、図2に示されている構造体101で用いられている細長い円筒形多細胞体1のそれぞれが、実質的に球状の一連の多細胞体11と置き換えられている。球状の多細胞体11は、自立する多細胞体を作製するための上記の方法に従って作製するのが好適である。当然ながら、球状の多細胞体11は、上記の多細胞体1の細長い特徴のいずれも有していないので、球状の多細胞体11の形状は、上記の多細胞体1とは異なる。球状の多細胞体11は、管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’を取り囲む管様構造体331を形成するように配列するのが好適である。球状の多細胞体の融合を容易にする目的で、一連(例えば一列)の多細胞体はそれぞれ、隣接する一連の多細胞体からオフセットさせて、球状の各多細胞体の中心が、隣接する一連の多細胞体中の隣接し合っている球状の多細胞体の中心間の距離の約2分の1の点と軸方向で揃うようにすることができる。これによって、隣接し合っている球状の多細胞体11の接触面積が増大するので、融合を容易にすることができる。図8では、管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’を取り囲む多細胞体11の層は1つのみであるが、図7または図7Aにおける多細胞体1’、1’’、および1’’’を球状の多細胞体11と置き換えることもできる。球状の多細胞体では、細胞型、それぞれ異なる多細胞体における細胞型の組み合わせ、多細胞体中の細胞型の組み合わせに関して、細長い多細胞体と同じ選択肢が得られる。
【0093】
本発明の、図示されていない別の実施形態の3次元構造体では、その構造体は、上記されていると共に図2に示されている構造体101と実質的に同一である。この実施形態では、図2に示されている構造体101で用いられている細長い円筒形の各フィラー体が、実質的に球状の一連のフィラー体と置き換えられている。この球状のフィラー体は、自立するフィラー体を作製するための上記の方法に従って作製するのが好適である。当然ながら、この球状のフィラー体は、上記のフィラー体の細長い特徴のいずれも有していないので、この球状のフィラー体の形状は、上記のフィラー体とは異なる。これらの球状のフィラー体を積み重ねやすくする目的で、一連(例えば一列)のフィラー体はそれぞれ、隣接する一連のフィラー体からオフセットさせて、球状の各フィラー体の中心が、隣接する一連のフィラー体中の隣接し合っている球状のフィラー体の中心間の距離の約2分の1の点と軸方向で揃うようにすることができる。これによって、隣接し合っている球状のフィラー体の接触面積が増大するので、積み重ねやすくすることができる。このような球状のフィラー体では、材料(例えばアガロースなど)に関して、細長いフィラー体と同じ選択肢が得られる。
【0094】
本発明の、図示されていない別の実施形態の3次元構造体では、その構造体は、図8に示されているような細長いフィラー体の少なくともいくつかの代わりに、上記のような球状のフィラー体も含む点以外は、図8に示されている構造体と実質的に同一である。
【0095】
図9は、別の実施形態の3次元構造体(概して401という符号が付されている)の一部を示している。この構造体は、上記の多細胞体1と実質的に同一であることができる細長い多細胞体1と、複数のフィラー体5との配列体であるのが好適である。図9では、多細胞体1とフィラー体5の内側の配列を示す目的で、いくつかの多細胞体1とフィラー体5が取り除かれている。この構造体401では、1つ以上のフィラー体5が、管腔を形成するフィラー体5’となるように配列されている。図示されているように、管腔を形成するフィラー体5’は、細胞が多細胞体から第1の細長い空間411と第2の細長い空間413に内殖するのを防ぐように配列されている。管腔を形成するフィラー体5’は、多細胞体1に実質的に囲まれている。例えば、多細胞体1は、第1の細長い空間411を取り囲む第1の管様構造体431’と、第2の細長い空間413を取り囲む第2の管様構造体431’’とを形成するように配列するのが好適である。管様構造体431’、431’’の全体は示されていないが、これらの管様構造体は、指定のない限り、図2の管様構造体31と同様のものである。
【0096】
一方の管様構造体431’’は、もう一方の管様構造体431’よりも直径が長い。直径が短い方の管様構造体431’を形成する細長い多細胞体1の少なくともいくつかは、管様構造体431’と431’’との交差部441で、直径が長い方の管様構造体を形成する細長い多細胞体1の少なくともといくつかと接触する。さらに、第1の細長い空間の末端を第2の細長い空間に連結するように、管腔を形成する少なくとも1つのフィラー体5’が多細胞体1のギャップ451を貫通していて、管腔を形成するフィラー体5’によって管様構造体431’と431’’に形成される管腔が互いに連結し合うようになっているのが好適である。したがって、この構造体を成熟させることによって、人工血管のような枝分かれした管状人工組織を作製することができる。図9に示されている例では、単一の枝が作られているが、上記の技法を拡張して、直径が多種多様である枝を有する構造体を含め、さらに高次の分岐構造体を作製することができる。また、図9の細長い多細胞体1は、図10の構造体501によって示されているように、球状の多細胞体11と置き換えることができる。さらに、細長い多細胞体1(図9)または球状の多細胞体(図10)によって形成される管様構造体431’、431’’は好適には、図7および図7Aに示されているものと同様の形で、1つ以上の追加的な組の多細胞体を含むように修正することができる。細胞型、それぞれ異なる多細胞体における細胞型の組み合わせ、多細胞体中の細胞型の組み合わせに関して、上記されているものと同じ選択肢が、図9および10に示されている構造体401、501にも適用される。
【0097】
図1Cは、本発明の別の3次元構造体601を示している。この構造体601は必ずしもフィラー体を含んでいるわけではない。その代わりに、一連の細長い多細胞体が、シート様構造体を形成するように、並列して隣接している関係で配列されている。図1Cに示されているシート構造体601には多細胞体1が2つしかないが、これらの多細胞体と並べて、いずれかの数の追加の多細胞体を配置して、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触して、シート構造体601の幅を増大させるようにすることができる。
3次元構造体を作製する方法
【0098】
細長い多細胞体1と球状の多細胞体11を含め、多細胞体を(場合によってはフィラー体5と併せて)用いて、本発明の範囲内で、上記の3次元の生物学的コンストラクトを作製する方法には、多種多様なものがある。例えば、1つの方法は一般に、細長い各多細胞体1が少なくとも1つの他の多細胞体と接触するようなパターンに従って、複数の細長い多細胞体1を配列してから、少なくとも1つ(例えばすべて)の多細胞体1を少なくとも1つの他の多細胞体1に融合させて、所望の3次元人工生物組織を作製することを含む。多細胞体の配列体中にフィラー体を含める必要はない(例えば、図1Cを参照されたい)。しかし、複数の多細胞体(上記の細長い多細胞体1と球状の多細胞体11など)と、1つ以上のフィラー体5を配列して、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体またはフィラー体と接触するようにしてから、それらの多細胞体を融合させて、所望の3次元人工生物組織を形成させることも可能である。
【0099】
多くの方法を用いて、所定のパターンで多細胞体を配列して、所望の3次元構造体を作製してもよい。例えば、多細胞体は、互いにまたはフィラー体と接触するように手作業で配置することも、ピペット、ノズル、もしくは針から押し出すことによって適切な位置に沈積させることも、自動化マシンによって接触させて配置することもできる。図11に示されているように、例えば、1つ以上の器具(好適には、上記の第1の成形器具51、上記のように、多細胞体をモールド301から取り出すキャピラリーピペット51’、および/または、異なる器具を含むことができる)を用いて、多細胞体を持ち上げる(例えば、上記のモールド301から取り出す)。この器具によって、3次元コンストラクト(例えば図1C、図2、図7、図7A、または図8〜図10に示されているようなもの)が組み立てられている組み立て区域(例えばガラス表面)に多細胞体を移すと共に、すでに組み立て区域に移されており、かつ組み立てているコンストラクト中に配置されているいずれかの他の多細胞体といずれかのフィラー体とに対して、多細胞体を適切な位置に分注するか、もしくは他の方法で配置する。
【0100】
多細胞体を所定の位置に配置した後、上記のプロセスを繰り返して、コンストラクトに別の多細胞体またはフィラー体を(例えば、すでにコンストラクト中に配置されている多細胞体と並べて配置することによって、)追加するのが好適である。組み立てているコンストラクトが、1つ以上のフィラー体を含む場合には、別の器具(図示されていないが、成形器具51またはキャピラリーピペット51’と同様のものであってよい)を用いてフィラー体5を持ち上げ(または上記のようにフィラー体を作製し)、そのフィラー体を組み立て区域に移し、フィラー体を必要とするいずれかの時点で、そのフィラー体を所定の位置で、組み立てているコンストラクト中に分注するか、または別の方法で配置するのが好適である。多細胞体を組み立て区域に移すのに用いる器具51、51’は、多細胞体とフィラー体を所望のパターンで配置する目的で使用できるバイオプリンターの印刷ヘッドまたはその他の自動化装置によって運ばれるのが好適である。例えば、1つの好適なバイオプリンターは、米国特許出願公開第20040253365号に開示されており、この特許は参照により本明細書によって組み込まれる。ティッシュエンジニアリングの技術分野に精通した者であれば、多細胞体(およびフィラー体を用いる場合にはフィラー体)を配列して好適なコンストラクトにする目的で用いることができる他の好適なバイオプリンターと類似の装置を熟知しているであろう。フィラー体を組み立て区域に移すのに用いる器具は、バイオプリンターの別のヘッドの一部であるのが好適である。バイオプリンターは、複数のヘッドを有することができ、および/または、多細胞体とフィラー体を移すための各種の器具51、51’を1つ以上のバイオプリンターヘッドに順次的に搭載することができる。バイオプリンターまたは類似の装置を用いて、本発明のコンストラクトを自動的に組み立てるのが望ましいこともあるが、本明細書に記載されている方法は、本発明の範囲内で、手作業で(例えば1つ以上のキャピラリーピペットを用いて)実施することもできる。
【0101】
図11に示されているように、多細胞体1は、1つ以上のフィラー体5の上に配置する(例えば積み重ねる)のが好適である。多細胞体1は、他の多細胞体および/またはフィラー体5に隣接させて配置するのが好適である。したがって、多細胞体1は、いずれのフィラー体5の中にも押し込んだり、または埋め込んだりしない。多細胞体をゲルまたは液体に分散させないので、これは「大気中での印刷」と称することができる。図12に示されている方法は、図11に示されている細長い多細胞体1の代わりに、球状の多細胞体11を用いる点以外は、図11に示されている方法と実質的に同様のものである。図11は、図2に示されているコンストラクトを、図12は、図8に示されているコンストラクトを作製するプロセスを示しているが、本発明の範囲内で、実質的に同じ方法で、図1C、図7、図7A、図8、および図9に示されていると共に上記されているようなコンストラクト(および他の多くのコンストラクト)を作製できることが分かる。
【0102】
コンストラクトを組み立て終えたら、コンストラクトの最上部の上から組織培地を注入するのが好適である。この組織培地は、多細胞体とフィラー体との間の空間17に入って、多細胞体中の細胞を支えることができる。3次元コンストラクト中の多細胞体を互いに融合させて、人工生物組織を作製する。「融合させる」、「融合した」、または「融合」とは、接触している多細胞体の細胞が、細胞表面タンパク同士の相互作用を通じて直接的に、または、それらの細胞とECM成分またはECM成分の誘導体との相互作用を通じて間接的に、互いに接着し合うようになることを意味する。融合後、コンストラクト中に含まれていたすべてのフィラー体を人工組織から引き離す。管様構造体を含むコンストラクトの場合には、例えば、その管の外側にあるすべてのフィラー体を(例えば、管様コンストラクトから形成された管状構造体から剥がすことによって、)取り除くことができる。管腔を形成するフィラー体で、管状構造体の内側にあるフィラー体5’はいずれも、管状構造体の開口端から引き抜くのが好適である。管腔を形成するフィラー体5’は好適には、管腔からフィラー体を引き抜きやすくするために、所望に応じて、可とう性物質で作製することができ、これは、(例えば、人工組織が、枝分かれした管状構造体である場合に)有益であることがある。別の選択肢は、融合後に(例えば温度変化、光、またはその他の刺激によって)溶解させることができる材料から、フィラー体5と、管腔を形成するフィラー体5’を作製することである。
【0103】
本発明はさらに、本発明の多細胞体を用いて、所定の3Dパターンに従って、事前に選択した受容環境中に複数の多細胞体をさらに配列して、細胞ユニットが融合して所望のバイオコンストラクトになるようにすることによって、組織、血管、または臓器のように3D形状を有する生物学的コンストラクトをエンジニアリング技術で作製する別の方法を提供する。融合する2つ以上の多細胞体は、形状とサイズが同一のものであっても、異なるものであってもよいと共に、同じ細胞型を含んでも、異なる細胞型を含んでもよい。数多くの方法で、上記の多細胞体をバイオコンストラクトエンジニアリングに適用してよい。例えば、所望の構造体の上半分と下半分を含む形状の異なる2つの多細胞体を作製してよいと共に、これらの多細胞体を接触させ融合させてもよい。あるいは、複数の多細胞体を組み立て、フィラー体と組み合わせて所望の形状に融合させてもよい。1つの実施形態によれば、多細胞体をフィラー体と共に用いる場合、上記のエンジニアリング法は、A)複数の多細胞体を所定のパターンに従って、複数のフィラー体と所定の通りに組み合わせて配列して、層状コンストラクトを形成させる工程(これにより、多細胞体とフィラー体は接触している)と、B)成熟のために、事前に選択した制御環境中に前記層状コンストラクトを沈積させる工程(これにより、多細胞体が互いに融合しあって、融合したコンストラクトが得られる)と、C)この融合したコンストラクトからフィラー体を取り除いて、所望の生物学的コンストラクトを作製する工程とを含んでもよい。
【0104】
さらに、2つ以上の細胞型を含むバイオコンストラクトが作製されるように、各多細胞体1、11は、2つ以上の細胞型から構成されていてもよい。これらの細胞型は、当該構造体の表面に対する親和性、または細胞間相互作用のようなその他の力に基づいて区別されるものと予想することができる。例えば、平滑筋細胞と内皮細胞との混合物から円筒形の成型多細胞体を作製して、移植可能な血管のような管状構造体を作製してよい。続いて、これらの多細胞体を適切な位置(例えば図2に示されているような位置)に配置し、融合させて管状コンストラクトにする。コンストラクトの管腔を通じてコンストラクトを灌流すると、内皮細胞は、管状コンストラクトの中央の内面に移動する一方で、平滑筋細胞は、コンストラクトの外側を占めるものと予想することができる。別の例として、多細胞体1が、内皮細胞と線維芽細胞との混合物を含む場合には、コンストラクトの管腔を通じてコンストラクトを灌流すると、内皮細胞は、管状コンストラクトの中央の内面に移動する一方で、線維芽細胞はコンストラクトの外側を占めるものと予想することができる。別の例として、多細胞体1が、平滑筋細胞と線維芽細胞との混合物を含む場合には、平滑筋細胞は、管状コンストラクトの中央の内面に移動する一方で、線維芽細胞は外側を占めるものと予想することができる。さらなる例として、多細胞体1が、内皮細胞と平滑筋細胞と線維芽細胞との混合物を含む場合には、コンストラクトの管腔を通じてコンストラクトを灌流すると、内皮細胞は、コンストラクトの内層にソーティングされるものと予想することができ、線維芽細胞は、コンストラクトの外層にソーティングされるものと予想することができ、平滑筋細胞は、内側の内皮層と外側の線維芽細胞層とに挟まれた中間層にソーティングされるものと予想することができる。
3次元の人工管状構造体
【0105】
本発明はさらに、本発明の方法に従ってエンジニアリング技術で作製した管状細胞コンストラクトの例を提供する。図13および図14は、本明細書に記載されているプロセスによって構築した実際の管状バイオコンストラクトを示している。図13は、成熟させてフィラー体を取り除いた後の2つの異なる管状バイオコンストラクトの側部を示している。図14は、すべてのフィラー体を取り除いた後の管状コンストラクトの末端を示している。
【0106】
このようなコンストラクトの1つの実施形態は、図15に概略が示されており、概して801という符号が付されている。3次元管状構造体801は、少なくとも1つのフィラー体5’と、互いに凝集し合っている複数の生体細胞とを含み、これらの生体細胞が、少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む管状構造体801を形成している。フィラー体5’はコンプライアントな生体適合性物質を含み、この生体適合性物質は、細胞がその物質に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞がその物質に接着するのを妨げるものである。また、この生体適合性物質は、栄養分に対する透過性があってもよい。
【0107】
上記の3次元管状構造体の長さは、好適には少なくとも約1000マイクロメートルであり、より好適には少なくとも約5センチメートル(例えば約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲)である。いくつかのケースでは、3次元管状構造体の長さは、約30センチメートル未満であるのが好適である。多細胞体と同様に、3次元管状構造体の長さには理論的上限がないので、長い管状構造体の作製に関連する実施上の問題(例えば、十分な量の細胞を得る問題、当該構造体を作成するのに必要となる場合のある長い多細胞体を取り扱う問題など)を克服したいと考える限りは、本発明の範囲内で、長さが30センチメートル(または、30センチメートルとは異なる任意の長さ)を超える3次元管状構造体を作製することも可能であると認められる。
【0108】
個々の多細胞体のように、上記の3次元管状構造体は、単一の細胞型からなることも、複数の細胞型を含むこともできる。上記の3次元管状構造体は、上記のさまざまな細胞型のいずれかを用いて作製することができる。したがって、例えば、管状構造体は、実質的にホモ細胞型であることができる(すなわち、管状構造体中のほぼすべての生体細胞は、単一の細胞型の細胞であり、低レベルの純度に対してある程度の許容性があり、その管状コンストラクトの成熟にごくわずかな影響しか及ぼさない異なる細胞型の細胞を比較的少数含む)。より具体的には、上記の管状構造体の細胞は好適には、本質的に単一の細胞型の細胞からなることができる。あるいは、上記の管状構造体の細胞は好適には、第1の細胞型の生体細胞を含むことができ、少なくとも約90パーセントの細胞が、上記の第1の細胞型の細胞である。
【0109】
上記の管状構造体は、2つ以上の異なる細胞型を含むヘテロ細胞型であることもできる。管状構造体が脈管管状構造体である場合には、その管状構造体は、通常脈管組織に存在する細胞型(例えば、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞など)を含むのが有益である。1つの例では、管状構造体の細胞は、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞を含み、この第2の細胞型は上記の第1の細胞型とは異なる。別の例では、上記の管状構造体の細胞は、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞とを含む。したがって、脈管管状構造体では、細胞は好適には、(i)内皮細胞および平滑筋細胞、(ii)平滑筋細胞および線維芽細胞、(iii)内皮細胞および線維芽細胞、または(iv)内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞を含むことができる。さらに、脈管管状構造体では、内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞は有益なことに、天然の組織に存在する細胞型の層を模する層を形成することができる。したがって、1つの例では、内皮細胞と平滑筋細胞とを含む脈管管状構造体においては、内皮細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するのが有益であり、平滑筋細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するのが有益である。別の例では、内皮細胞と線維芽細胞とを含む脈管管状構造体においては、内皮細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するのが有益であり、線維芽細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するのが有益である。別の例として、平滑筋細胞と線維芽細胞とを含む脈管管状構造体においては、平滑筋細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するのが有益であり、線維芽細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、平滑筋細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するのが有益である。別の例では、内皮細胞と平滑筋細胞と線維芽細胞とを含む脈管管状構造体においては、内皮細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するのが好適であり、平滑筋細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む第2の層を形成するのが好適であり、線維芽細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、内皮細胞によって形成された内層と、平滑筋細胞によって形成された第2の層とを実質的に取り囲む第3の層を形成するのが好適である。
【0110】
また、枝分かれした3次元管状構造体も本発明の範囲内である。このような構造体の1つの例では、複数の生体細胞が、管腔を形成するフィラー体である1つ以上のフィラー体を実質的に取り囲む枝分かれした管状構造体を形成する。この管腔を形成するフィラー体は、上記の生体細胞が第1および第2の細長い空間に内殖するのを防ぐ目的で配列されており、このケースでは、第1の細長い空間の末端が、第2の細長い空間の側部と隣接している。
【0111】
前記少なくとも1つのフィラー体のコンプライアントな生体適合性物質は、アガロース、寒天、ヒアルロン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される。前記少なくとも1つのフィラー体は、そのフィラー体を管状構造体から引き抜くことによって、管状構造体から引き離すことができるのが好適である。
【実施例】
【0112】
実施例1:ブタ平滑筋細胞を用いた多細胞体の調製およびティッシュエンジニアリング
I.ブタ平滑筋細胞 過去の研究で用いた条件と同じ条件で、ブタ平滑筋細胞(SMC)を増殖させた。その培地組成物は、10%ブタ血清、10%ウシ血清、プロリン50mg/L、アラニン20mg/L、グリシン50mg/L、アスコルビン酸50mg/L、血小板由来増殖因子−BB(PDGF−BB)12μg/L、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)12μg/L、CuSO43.0μg/L、HEPESバッファー0.01M、ならびに、ペニシリンおよびストレプトマイシン1.0×105ユニット/Lを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(低グルコース)であった。ゼラチン(ブタの皮膚由来のゼラチン)をコーティングした10cmのペトリ皿で上記の細胞を増殖させ、37℃、5%CO2にてインキュベートした。そのSMCを継代7代目まで継代培養してから、多細胞体(例えば細胞ユニット)の調製用に用いた。24個の細胞ユニットと4本の管(外径(OD):1.5mm、内径(ID):0.5mm、長さ(L):5cm)を調製するには、18枚のコンフルエントなペトリ(例えば細胞培養)皿が必要であった。
II.アガロースモールド
【0113】
(i)2%アガロース溶液の調製 2gのUltrapure Low Melting Point(LMP)Agaroseを100mlの超純水/バッファー溶液(1:1、v/v)に溶解させた。このバッファー溶液は、PBS、すなわちダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(1×)、またはHBSS、すなわちハンクス平衡塩類溶液(1×)であることができる。温水(80℃超)の入ったビーカーに上記のアガロース溶液を入れ、アガロースが完全に溶解するまでホットプレート上に保った。温度が約36℃超であれば、このアガロース溶液は液体のままである。36℃未満では相転移が起こり、粘度が上昇し、最終的にはアガロースがゲルを形成する。
【0114】
(ii)アガロースモールドの調製 ペトリ皿(直径10cm)に適合するTeflonプリント(すなわちTeflonツール)を用いて、アガロースモールドを形成した(図5A〜図5C)。このアセンブリー(Teflonプリント+ペトリ皿)を水平に保ち、余熱しておいたアガロース約40mlをTeflonプリントの孔を通じてペトリ皿に入れた。すべての気泡を取り除いた後、このアセンブリーを4℃にて少なくとも1時間置いた。アガロースが完全にゲル化した後、Teflonプリントを取り除いたところ、アガロース中に溝が現れた(図4Dの溝305を参照されたい)。このモールドに10mlの培地を加えた。
III.多細胞体の調製
【0115】
コンフルエントなペトリ皿から培地を取り除き、10mlのHBSS+2mMのCaCl2で細胞を洗浄した。0.1%トリプシン1.5mlを均一に播き、表面から細胞を剥がした。このペトリ皿に、5mlの培地+2mMのCaCl2を加えた。この細胞懸濁液を900gにて5分間遠心分離した。培地(すなわち上清)を取り除いた後、細胞ペレットを200μlの培地+2mMのCaCl2に再懸濁させ、数回、吸い上げたり押し出したりして(すなわち、激しくピペッティングして)、細胞クラスターを分解させて、単一の細胞懸濁液を得た。15mlの遠心チューブ内に置いた2mlのエッペンドルフチューブに、この溶液を移した。1300gにて2分間遠心分離することによって、高密度細胞ペーストを形成させた。培地(すなわち上清)を取り除いて、1mlのエッペンドルフピペッターに取り付けられている1mlのチップの中に挿入したキャピラリーチューブ(OD1mm、ID0.5または0.3mm)に細胞ペーストを吸引によって移した。細胞ペーストの入ったキャピラリーチューブを培地+2mMのCaCl2中で15分間、37℃、5%CO2にてインキュベートした。成形した細胞ペーストをキャピラリーチューブからプランジャーによって、培地で満たしたアガロースモールドの溝の中に押し出した(図3C)。このモールドをインキュベーター内に一晩置いた。翌日、成熟した多細胞体を手作業でキャピラリーチューブの中に吸引し(すなわち吸い込み)(図3D)、次に使用するまで培地中に置いた。
IV.ティッシュエンジニアリング
【0116】
2%アガロースの予熱溶液10mlを直径10cmのペトリ皿に沈積させ、均一に広げて、均一な層を形成させた。アガロースゲルを冷蔵庫内で4℃にて調製した。キャピラリーチューブにアガロース溶液を充填し、(冷気を吹き込むことによって、または冷たいPBS溶液を用いて)急冷し、フィラー体を形成させた。管腔を形成するフィラー体の場合には、アガロース濃度は4%で、他のすべてのフィラー体では、アガロース濃度は2%であった。双眼顕微鏡下で、ピストンまたはワイヤを用いてフィラー体をキャピラリーチューブから押し出し、5cmのアガロース棒(すなわちフィラー体)をペトリ皿内部のアガロース層の上に真っ直ぐ置いた。第2のフィラー体を第1のフィラー体に並列させ、9個のフィラー体を沈積して1段目の層が形成されるまで、同様の作業を繰り返した。図11に示されているように、2段目の層を構成する6個のフィラー体を沈積させた。2つの多細胞体を第4および第5の位置に沈積させて、1段目の層の管を形成させた。5個のフィラー体を沈積させると共に、2つの多細胞体を第3および第5の位置に沈積させることによって、3段目の層を形成させた。4段目の層は、4個のフィラー体と、第3および第4の位置の2個の多細胞体から構成させた。5段目の層は、5個のフィラー体から構成させた(図2)。沈積プロセス全体を通じて、少量の培地(加える時点で10μl)をコンストラクトの側部に加えて、材料(アガロースと多細胞体)の脱水を回避した。0.5〜1mlの液体アガロース(37℃<T<40℃)をコンストラクトの周囲および上に注ぎ、コンストラクトの完全性を保った。ゲル化後、コンストラクトが完全に沈むまで培地を加えた。このコンストラクトをインキュベーター内に入れた。48時間後、多細胞体が互いに融合した。アガロースを管状構造体の外面から剥がすと共に、管状構造体の管腔を満たしているフィラー体を管状構造体から引き抜くことによって、アガロースを取り除いた。続いて、さらに成熟させるために、この管をバイオリアクターに移した。この成熟プロセス用には、いずれの市販のバイオリアクターも用いることができる。
実施例2:多細胞体の調製およびティッシュエンジニアリングのための代替的な手順
I.さまざまな型の細胞用の増殖条件
【0117】
10%ウシ胎仔血清(FBS)、抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン100U/mLおよびゲンタマイシン25μg/mL)、ならびにジェネティシン400μg/mlを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、N−カドヘリンでトランスフェクションしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を増殖させた。ゲンタマイシンに加えて、すべての抗生物質をインビトロジェンから購入した。
【0118】
ヒト臍静脈平滑筋細胞(HUSMC)とヒト皮膚線維芽細胞(HSF)をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから購入した(HUSMCはCRL−2481、HSFはCRL−2522)。10%FBS、抗生物質(ペニシリン−ストレプトマイシン100U/mLおよびゲンタマイシン25μg/mL)、内皮細胞増殖助剤(ECGS)20μg/mL、ならびにピルビン酸ナトリウム(NaPy)0.1Mを添加したDMEMとハムF12(比率3:1)中で、HUSMCを増殖させた。20%FBS、抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン100U/mLおよびゲンタマイシン25μg/mL)、グルタミン2mM、NaPy0.1Mを添加したDMEMとハムF12(比率3:1)中で、ヒト皮膚線維芽細胞(HSF)を増殖させた。
【0119】
10%FBS、10%ブタ血清、L−アスコルビン酸、硫酸銅、HEPES、L−プロリン、L−アラニン、L−グリシン、およびペニシリンGを添加した低グルコースDMEM中で、新鮮分離したブタ大動脈平滑筋細胞(PASMC)を増殖させた。
【0120】
0.5%ゼラチン(ブタ皮ゼラチン)をコーティングした皿で、すべての細胞株(CHOを除く)を培養し、5%のCO2を含む加湿雰囲気中にて37℃で維持した。
II.多細胞体の調製
【0121】
細胞培養液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、0.1%トリプシンで10分間処理し、得られた細胞懸濁液を1,500RPMにて5分間、遠心分離した。4mlの細胞型特異的培地中に細胞を再懸濁させ、接着の回復のために、10mlの組織培養用フラスコ内で37℃にて5%のCO2と共に、旋回シェーカーで1時間インキュベートしてから、1,500RPMにて5分間、遠心分離した。続いて、その細胞を200μlの培地中に再懸濁させ、激しくピペッティングし、3,500RPMにて2分間、再度遠心分離した。内径が300μmまたは500μmのキャピラリーチューブに、得られた細胞ペレット(細胞ペースト)を移し、37℃にて5%のCO2と共に15分間インキュベートした。
【0122】
実質的に球状の多細胞体の調製には、HSFまたはCHO細胞を用い、部分的に凝集している細胞ペーストを機械的に押し出し、均等に切断して断片化し、一晩、旋回シェーカーで37℃、5%のCO2にてそれらの断片が集まるようにした。キャピラリーチューブの直径に応じて、この手順によって、所定のサイズと細胞数の均一なスフェロイドが得られた。
【0123】
細長い多細胞体の調製には、PASMC、HUSMC、またはHSFを用い、特異的に調製した非接着性のTeflonまたはアガロースモールドの中に、バイオプリンターを用いて、部分的に凝集している細胞ペーストを機械的に押し出した。前記モールドにて37℃、5%のCO2で一晩成熟させたところ、実施例1に記載されているように、3次元人工組織を作製する目的で、フィラー体と共に沈積させるのに十分な程度に、多細胞体が凝集した。
III.フィラー体の調製
【0124】
アガロース棒を調製する目的で、液体アガロース(温度>40℃)をキャピラリーチューブ(IDが300または500μm)に充填した。管腔を形成するフィラー体の調整では、アガロース濃度は4%に、他のすべてのフィラー体の調整では、アガロース濃度は2%にした。充填したキャピラリーチューブを冷たいPBS(4℃)に浸漬させた。アガロースはキャピラリーチューブに接着しないので、ゼラチン上では、バイオプリンターによって、別の印刷ヘッドを用いて、連続的な棒を簡単に押し出すことができた。
IV.免疫組織化学
【0125】
組織を一晩、4%パラホルムアルデヒド中で固定した。脱水後、パラフィン浸透およびパラフィン包埋のために、組織を処理した。全体的な性状を得るために、5μmの切片をヘマトキシリン−エオシンで染色した。免疫組織化学を得るために、抗切断カスパーゼ−3抗体(マウスおよびヒト切断カスパーゼ−3と反応するウサギ抗切断カスパーゼ−3ポリクローナル抗体の1:50希釈物)、抗平滑筋アクチン抗体(マウス抗ヒト平滑筋アクチン(1A4)の1:400希釈物という抗体と共に、切片をインキュベートした。2次抗体(EnVision+、抗マウス抗体または抗ウサギ抗体とコンジュゲートしたホースラディシュペルオキシダーゼ標識ポリマー)をDAB(3’−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド)を用いて視覚化した。切片をマイヤーヘマトキシリンで対比染色し、顕微鏡(IX70)検査のためにカバースリップで覆った。
V.実質的に球状の多細胞体を用いたティッシュエンジニアリング
【0126】
実質的に球状の多細胞体を組み立てて、所定のトポロジーのカスタマイズ型管状構造体にするために、ビルディングブロックとしてフィラー体(例えばアガロース棒)を用いることに基づき、足場を用いないアプローチを設計した。アガロース棒と、実質的に球状かつ実質的に均一な多細胞体とを層状に沈積させたところ、管の直径、肉厚、および分岐パターンを正確に制御することができた(図10)。
【0127】
このアプローチを用いて、図8に示されているパターンに従って、まず、真っ直ぐな管を手作業で構築した。HSFからなる実質的に球状の多細胞体を用いて、最小の管を組み立てた。その管の直径は900μmで、肉厚は300μmであった(図16A)。組み立てたところ、その実質的な多細胞体が5〜7日のうちに互いに融合し合って、最終的な管状コンストラクトが得られた。この融合プロセスについてさらに詳しく観察するために、緑色または赤色の膜色素で染色したCHO細胞を用いて、実質的に球状の多細胞体を作製してから、図8に示されているスキームに従って、この多細胞体を組み立てた。緑色のスフェロイドと赤色のスフェロイドが交互に融合していることが、図16Bに示されており、はっきりした融合境界が、ほとんど混ざり合うことなく現れており、過去の発見が裏付けられた。
【0128】
本発明は、管の直径および肉厚の柔軟性に加えて、その独自の特長として、枝分かれした大血管構造体を構築する方法を提供する。この目的では、確実に管腔を正確に連結させるために、血管樹の種々の枝を同時に組み立てた。図10のパターンに従って、HSFからなる直径300μmの実質的に球状の多細胞体を用いて、直径の異なる枝を有する、枝分かれした管状構造体(図16C)を構築した。これらの枝の直径は、1.2mm(実線の矢印)と0.9mm(点線の矢印)であった(図16C)。これらの実質的に球状の多細胞体は、5〜7日のうちに互いに融合し合って、融合済みの枝分かれした管状構造体(図16D)が形成された。
VI.細長い多細胞体を用いて、1層および2層状の脈管性管を作製するためのティッシュエンジニアリング
【0129】
スピード、精度、および再現性を向上させると共に、それによって、上記の方法を潜在的な臨床応用に適合させる目的で、上記(図2)と同じ概念的アプローチを保ちながら、特異的に構築した3次元配列装置(すなわちバイオプリンター)をフィラー体(例えばアガロース棒)と細長い多細胞体との沈積用に適合させた。
【0130】
コンピューターを利用したラピッドプロトタイピングバイオプリンティング技術によって、上記(図2)と同じテンプレートに従って、フィラー体(例えばアガロース棒)と細長い多細胞体(例えば多細胞性シリンダー)を制御下で同時に沈積可能にした。垂直に移動する2つの印刷ヘッド(一方は、アガロース棒の調製および押し出し用、もう一方は、多細胞性シリンダーの沈積用)が搭載されているバイオプリンターを用いて、沈積作業を行った。アガロース棒の充填、ゲル化、および押し出しは、全自動サイクル中で行った。まず、充填を行うために、印刷ヘッドに取り付けられているキャピラリーピペット−カートリッジを、加温液体アガロースの入ったバイアルの中に移動させた。次に、アガロースを速やかにゲル化させるために、充填したカートリッジを、PBSの入った冷したバイアルに浸漬させた。最後に、得られたアガロース棒をペトリ皿に押し出した。浸漬スキーム(多細胞性シリンダーの配列作業ともいう)の際に、上記の多細胞性シリンダーの1つをアガロースモールドからキャピラリーピペットに吸い入れた。続いて、このキャピラリーピペットを第2の印刷ヘッドに充填し、アガロース棒と同様に、多細胞性シリンダーを押し出した。図2に示されているデザインに従って、HUSMCからなる単純な真っ直ぐの管を印刷した。コンピューターを利用して2つの印刷ヘッドを移動および調整して、事前にプログラムしたパターンの再現性を確保した。組み立て後、HUSMCからなる多細胞体が2〜4日のうちに融合して、最終的な管状構造体になり、支持アガロース棒を取り除いた。2つの別個の直径(それぞれ外径が1200マイクロメートルと900マイクロメートル)を有する融合済みの管が図13に示されている。
【0131】
次に、大血管系中の脈管と似ている2層状の脈管性管であって、培地と外膜を有する脈管性管を構築した。この管では、図17に示されているパターンに従って、HUSMCシリンダーとHSFシリンダーの両方をビルディングブロックとして用いた。この方法の汎用性を示すために、代わりに、生体内に相当する物がないパターンで、HUSMCとHSFからなる多細胞性シリンダーを沈積させることによって、エンジニアリング技術で管を作製した(図17E)。HUSMCをヘマトキシリン−エオシン(H&E)(図17B、図17F)と、平滑筋アクチン(図17C、図17G)で染色したところ、融合の3日後に、人工コンストラクトにおけるSMCと線維芽細胞の層または領域の間に明確な境界が現れた。カスパーゼ3で染色したところ、管状構造体の壁の中に、アポトーシスを起こした細胞が数個、現れた(図17D、図17H)。図17A〜図17Dに示されている、より複雑な2層状の構造体では、融合に必要な時間が長くなった。
【0132】
これらの1層または2層状の管は、外径が約0.9mm〜約2.5mmの範囲であった。
【0133】
本発明のティッシュエンジニアリング法は、人工コンストラクトを細胞のみから構築し、可能な限り高い細胞密度を実現させる。本物の脈管は、隣接するSMCが重なり合った状態で、比較的細胞密度の高い層をもたらすので、上記の点は重要である。本発明の方法では、多細胞性の3次元スフェロイドまたはシリンダーをビルディングブロックとして用いる。細胞間相互作用による組織の凝集は、液体系を用いた類推によって既に定量化されており、これまで観察された細胞型の中でも、SMCは非常に自己凝集性が高いものの1つであることが報告されている。多細胞性の組み立て体と液体との類推によって、本発明で用いられている発生的形態形成プロセスの一部に対する理解が深まった。本発明での研究で説明されている多細胞性スフェロイドおよびシリンダーの集合または融合は、時間の尺度において、運動性細胞と接着細胞とからなる組織が、高粘性の非圧縮性液体によく似ているという物理的理解(ティッシュエンジニアリングにおいて過去に用いられてきた概念)と整合している。
実施例3:多細胞体および3次元の融合管状構造体の調製の際に、ゼラチンおよび/またはフィブリンを利用すること
【0134】
ヒト大動脈平滑筋細胞(HASMC)をカスケード・バイオロジクスから購入した(C−007−5C)。平滑筋増殖助剤(SMGS)を添加した培地231中で、HASMCを増殖させた。コーティングを施していない細胞培養皿でHASMCを増殖させ、5%のCO2を含む加湿雰囲気中にて37℃で維持した。
【0135】
上の実施例1および2に示されているように、HASMCをトリプシン処理し、組織培地中に再懸濁させ、遠心分離した。遠心分離後、組織培地(すなわち上清)を取り除き、細胞(1枚のコンフルエントなペトリ皿)をまず、フィブリノゲン溶液(0.9%のNaCl中に50mg/ml)100μl中に再懸濁させてから、ゼラチン溶液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に20%)を70μl加えた。この細胞懸濁液を再度遠心分離し、上清を取り除き、細胞ペーストをキャピラリーチューブの中に吸引できるようになるまで、細胞ペレットの入った遠心チューブを37℃(ゼラチンが液体の状態を保つ温度)の水浴中に置いた。続いて、この細胞ペーストをキャピラリーチューブの中に吸引させ、氷冷したPBS溶液中に15分間置いた。この工程中、ゼラチンはゲル化し、第2の成形工程または第2のインキュベート工程の必要性なしに、多細胞体を、即座に印刷できるほど十分に凝集させた。上の実施例1に示されているように、多細胞体をフィラー体と共に、受容表面上に沈積させて、所望の3次元の生物学的構造体(例えば管状構造体)を形成させた。各層を沈積させた後、トロンビン溶液(50U/ml)を加え、フィブリノゲンをフィブリンに転換させた。続いて、上の実施例1に示されているように、多細胞体の成熟と相互融合のために、この3次元構造体をインキュベーター内に置いた。
【0136】
図18は、上記の方法を用いて作製したいくつかの管状構造体であって、沈積から12日後の構造体を示している。図18Aは、上記の方法を用いて作製した管状構造体であって、アガロースフィラー体を取り除く前の構造体を示しており、図18B〜図18Gは、アガロースを取り除いた後の構造体を示している。図18Cと図18Dは、上記の方法を用いて作製した管状構造体であって、多細胞体間の融合の程度を示す目的で、長手方向に切断して開いた構造体を示している。図18E〜図18Gは、上記の方法を用いて作製した管状構造体の横断図である。
【0137】
本発明の具体的な実施形態と関連させながら、本発明について説明してきたが、本発明の方法論は、さらなる修正が可能であることが分かるであろう。本特許出願は、一般に、本発明の原理に従っていると共に、本発明と関連する技術分野内の既知または慣例的な実施態様内に入るような本開示からの逸脱形態、および本明細書でこれまで示してきた本質的な特長に適用できるような本開示からの逸脱形態、および添付の特許請求の範囲に従うような本開示からの逸脱形態を含む本発明のあらゆる変形形態、用途、または適合形態を網羅するように意図されている。
【技術分野】
【0001】
助成金の記述
本発明は部分的に、全米科学財団の助成金番号第NSF−0526854の下で、米国政府からの援助によって行われたものである。米国政府は、本発明に対してある特定の権利を有する。
【0002】
本発明は、再生医療およびティッシュエンジニアリングの分野、より詳細には、所望の構造体を有する人工組織/臓器の作製に関する。
【背景技術】
【0003】
ティッシュエンジニアリングは、血管を含む移植可能な臓器の慢性的な不足に伴う臓器置換および組織置換への要請の高まりに起因する問題に対して、有望な解決策を提供する。米国では例えば、数千人が、臓器移植の全米待機リストに掲載されている。病変動脈もしくは静脈に代わる置換用血管、または置換用腹部臓器の不足のため、多くは死亡する可能性が高い。移植用の血管および臓器の供給不足の問題を軽減し、最終的には解消する目的で、ティッシュエンジニアリングによって、移植可能な血管、代用血管、臓器、または代用臓器を研究室において高精度、大規模、かつ比較的短期間で構築して増殖させる試みが行われている。
【0004】
人工組織を構築するためのさまざまな方法が試みられ、かつ開発されており、限定的な成果を挙げている。しかし、3次元の血管新生化臓器を組み立てることは、未だ達成されていない。
【0005】
先行技術の解決策は有望であるものの、多くの課題がある。足場の選択、免疫原性、分解速度、分解産物の毒性、宿主の炎症反応、足場の分解による線維組織の形成、および周囲組織との機械的不整合は、人工組織コンストラクトの長期的挙動に影響を及ぼすと共に、そのコンストラクトの主要な生物学的機能を直接妨げる場合がある。例えば、心筋組織には、隣接し合う細胞を密接に相互連結させるギャップ結合を介して同期拍動を確保するために、高い細胞密度が必要になる。心臓のティッシュエンジニアリングの際に足場を用いることは、細胞間結合の低下、ならびに、細胞外マトリックス(ECM、例えばコラーゲンおよびエラスチン)の不適切な沈積および配列と関連しており、足場の生分解と心筋コンストラクトの力発生能力とに影響を及ぼす。脈管のティッシュエンジニアリングでは、ECM関連因子も特に重要である。主にこの理由から、足場を用いてエンジニアリング技術で作製した小径代用血管であって、成人の動脈血管再生の際の本物の血管に匹敵する機械的強度を有する小径代用血管の有望性は、ティッシュエンジニアリングの「聖杯」といわれる場合が多いが、未だ実現されていない。足場を使用すると、インビトロで弾性線維を作製するのが困難になることが多いのに加えて、さらなる問題が生じる。ゲル固有の脆弱性は、ティッシュエンジニアリングで作製した脈管の最終強度の妨げとなる場合がある。これに加えて、残存ポリマー断片の存在が、脈管壁の正常組織構造を壊し、さらには、平滑筋細胞(SMC)の表現型に影響を及ぼすことさえもある。したがって、ティッシュエンジニアリングで作製した脈管移植片の先駆的な臨床的応用において、低圧応用をターゲットとするか、または、まったく足場を用いない方法(シートベースティッシュエンジニアリングという)に依存していたのは驚くことではない。
【0006】
臓器印刷、特に米国特許出願第10/590,446号に記載されている技法は、3次元組織を作製するものとして有望である。臓器印刷は一般に、コンピューターを利用したディスペンサーベースの3次元ティッシュエンジニアリング技術で、機能的な臓器モジュールを構築することと、最終的に臓器全体を層状に構築することとを目的とした技術である。米国特許出願第10/590,446号に記載されている技術では、個々の多細胞集合体を印刷して、ゲルまたはその他の支持マトリックスにする。印刷後に上記の個々の集合体を融合させることによって、最終的な機能的組織が得られる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの態様は、細長い多細胞体である。この多細胞体は、複数の生体細胞と組織培地とを含む。その生体細胞は、互いに凝集し合っている。上記の多細胞体の長さは少なくとも約1000マイクロメートルであり、長さ方向に沿って切断した断面の平均面積は約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である。
【0008】
本発明の別の態様は、細長い人工多細胞体である。この多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。この多細胞体の長さは少なくとも約1000マイクロメートルであり、長さ方向に沿って切断した断面の平均面積は約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である。
【0009】
別の実施形態は、神経が発達していない非軟骨性の細長い多細胞体である。この多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。この多細胞体の長さは少なくとも約1000マイクロメートルであり、長さ方向に沿って切断した断面の平均面積は約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である。
【0010】
本発明のさらなる態様は、管腔のない細長い多細胞体である。この多細胞体は、複数の生体細胞と組織培地とを含む。その生体細胞は、互いに凝集し合っている。この多細胞体のアスペクト比は少なくとも約2である。
【0011】
本発明の1つの態様では、所望の3次元形状の複数の細胞または細胞集合体で作られた多細胞体であって、粘弾性粘稠性を有する多細胞体が説明されている。この多細胞体は、複数の細胞または細胞集合体を含み、その細胞または細胞集合体は凝集し合って、操作および取り扱いがしやすいように粘弾性粘稠性、所望の細胞密度、および十分な完全性を有する、所定の形状のコンストラクトを形成する。
【0012】
本発明のさらに別の態様は、複数の生体細胞を含む細長い多細胞体を作製する方法である。複数の生体細胞を含む細胞ペーストを細長い形状に成形する。成形したこの細胞ペーストを制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、細長い多細胞体を形成させる。
【0013】
本発明による、複数の生体細胞を含む多細胞体を作製する別の方法は、複数の生体細胞を含む細胞ペーストを3次元形状に保つ器具内で、前記細胞ペーストを成形することを含む。平面上で細胞体が自立するほど十分な凝集力を有する細胞体を作製するのに十分な時間にわたって、成形した前記細胞ペーストを前記3次元形状に保ったまま、前記細胞ペーストを制御環境中でインキュベートする。
【0014】
複数の生体細胞を含む細長い多細胞体を作製する方法も提供する。この方法は、複数の生体細胞を含む細胞ペーストを細長い形状に成形することと、この成形した細胞ペーストを制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、細長い多細胞体を形成させることを含む。本発明のこの態様では、所定の形状で複数の細胞または細胞集合体を含む細長い多細胞体であって、粘弾性粘稠性を有する多細胞体を作製する方法について説明されている。1つの実施形態では、多細胞体を作製する方法は、1)事前に選択した複数の細胞または細胞集合体を含むと共に、所望の細胞密度と粘度を有する細胞ペーストを用意する工程と、2)前記細胞ペーストを操作して所望の形状にする工程と、3)成熟を通じて多細胞体を形成させる工程とを含む。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、所望の3次元の生物学的コンストラクトを構築する目的で、上記の多細胞体と併せて用いるフィラー体について説明されている。このフィラー体は、所定の形状をしたある物質を含み、その物質は、細胞が内殖、移動、および接着するのを妨げ、組織培地に対する透過性を持つ(すなわち、栄養分に対する透過性を持つ)こともできる。フィラー体は、アガロース、寒天、および/またはその他のヒドロゲルのような物質で作られていてもよい。生物学的コンストラクトの構築中に、所定のパターンに従ってフィラー体を用いて、多細胞体がない領域を画定する。
【0016】
本発明の別の態様では、フィラー体を形成する方法が説明されている。一般にこの方法は、事前に選択した、ゲル様状態の好適な材料を調製(例えば操作)して所望の形状にするものである。本発明の方法の1つの実施形態によれば、この製作法は、1)当該材料の粘度を低下させて液体様物質にする工程と、2)その液体様物質を所定の形状に成形する工程と、3)この物質の粘度を向上させて、所望のゲル様フィラーマトリックスユニットの粘度にする工程とをさらに含んでもよい。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態は、神経が発達していない複数の細長い多細胞体を含む3次元構造体である。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで配列されている。
【0018】
本発明のさらなる態様は、ある3次元構造体である。この構造体は、複数の細長い人工多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで配列されている。
【0019】
別の実施形態では、3次元構造体は、複数の細長い多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞と、組織培地とを含む。これらの多細胞体は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで配列されている。
【0020】
さらに別の実施形態では、3次元構造体は、神経が発達していない複数の多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体は、長さが少なくとも約1000マイクロメートルの接触区域沿いで、多細胞体のうちの少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで配列されている。
【0021】
本発明の別の態様では、3次元構造体は、複数の人工多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体は、長さが少なくとも約1000マイクロメートルの接触区域沿いで、多細胞体のうちの少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで配列されている。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態では、3次元構造体は複数の多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞と、組織培地とを含む。これらの多細胞体は、長さが少なくとも約1000マイクロメートルの接触区域沿いで、多細胞体のうちの少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで配列されている。
【0023】
3次元構造体の別の実施形態は、複数の多細胞体を含む。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。この構造体は、複数の離散したフィラー体も含む。各フィラー体は、細胞が多細胞体からフィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、多細胞体中の細胞がフィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含む。これらの多細胞体とフィラー体は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体または少なくとも1つのフィラー体と接触するパターンで配列されている。
【0024】
本発明の別のさらなる態様は、複数の多細胞体を含む3次元構造体である。各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。この構造体は、複数のフィラー体も含む。各フィラー体は、細胞が多細胞体からフィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、多細胞体中の細胞がフィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含む。これらの多細胞体とフィラー体は、多細胞体によって占められておらず、かつフィラー体によって占められていない複数の空間を3次元構造体中に形成するように配置されている。
【0025】
本発明のさらに別の態様は、3次元人工生物組織を作製する方法である。この方法は、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触するようなパターンに従って、複数の細長い多細胞体を配列することを含む。各多細胞体は複数の生体細胞を含む。上記の多細胞体の少なくとも1つを少なくとも1つの他の多細胞体と融合させてもよい。
【0026】
3次元人工生物組織を作製する方法の別の実施形態では、各多細胞体が(i)別の多細胞体、または(ii)フィラー体の少なくとも1つと接触するようなパターンに従って、複数の多細胞体と複数のフィラー体を配列する。各多細胞体は複数の生体細胞を含む。各フィラー体は生体適合性物質を含み、この生体適合性物質は、細胞が多細胞体からその生体適合性物質に移動および内殖するのを妨げると共に、多細胞体中の細胞がフィラー体に接着するのを妨げる。上記の多細胞体の少なくとも1つを少なくとも1つの他の多細胞体と融合させてもよい。
【0027】
3次元人工生物組織を作製する方法のさらに別の実施形態では、その方法は、複数の多細胞体を配列して、事前に選択した受容環境中で所定のパターンにするものである。このエンジニアリング法の1つの実施形態によれば、事前に選択したフィラー体と併せて多細胞体を用いてもよい。より詳細には、1つの実施形態では、この方法は、1)所定のパターンに従って、複数のフィラー体と所定どおりに組み合わせて複数の多細胞体を配列し、積み重ねた形または層状のコンストラクトを形成する工程であって、前記多細胞体とフィラー体が接触している工程と、2)成熟のために、事前に選択した制御環境に前記層状コンストラクトを沈積させ、それによって前記多細胞体が互いに融合し合って、融合コンストラクトをもたらすようにする工程と、3)前記融合コンストラクトからフィラー体を取り除いて、所望の生物学的コンストラクトを作製する工程とを含む。
【0028】
本発明の別の実施形態は、少なくとも1つのフィラー体と、互いに凝集し合っている複数の生体細胞とを含む3次元構造体である。この生体細胞は、上記の少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む管状構造体を形成する。上記のフィラー体はコンプライアントな生体適合性物質を含み、この生体適合性物質は、細胞がその物質に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞がその物質に接着するのを妨げる。
【0029】
本発明のさらに別の態様は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む多細胞体を作製するためのモールドである。このモールドは生体適合性基材を有し、この生体適合性基材は、細胞がその基材に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞がその基材に接着するのを妨げる。この基材は、凝集力が比較的小さい複数の細胞を含む組成物を受容して、凝集力が増大して多細胞体が形成される成熟期の間、前記組成物を所望の形状に保つように成形されている。多細胞体の上記の所望の形状の長さは、少なくとも約1000マイクロメートルであり、この形状は、多細胞体中のすべての細胞が、その多細胞体の外側から約250マイクロメートル以下に存在するように形作られている。
【0030】
本発明の別の実施形態は、複数の多細胞体を作製するのに適したモールドを作製するためのツールであり、上記の各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。このツールは、最上部と底部とを有する本体を備える。この本体の底部からは、複数のフィンが伸びている。生体適合性のゲル基材内に溝が形成されるように、上記のフィンのそれぞれの幅は約100マイクロメートル〜約800マイクロメートルの範囲であり、上記のゲル基材は、上記の溝中に配置された生体細胞を細長い多細胞体に形成するように形作られている。上記のフィンは長手方向軸を有し、これらのフィンの少なくとも1つは、別のフィンの長手方向軸から横方向に隔置されている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】本発明の多細胞体の1つの実施形態の斜視図である。
【図1B】表面によって支えられている本発明の多細胞体の拡大斜視図である。
【図1C】表面上で互いに並列して隣接している関係にある複数の本発明の多細胞体の末端の拡大斜視図である。
【図2】人工組織の1つの実施形態を作製するのに適したパターンで配列された複数の多細胞体と複数のフィラー体とを含む3次元コンストラクトの1つの実施形態の斜視図である。
【図3A】図1A、図1B、図1C、および図2に示されている多細胞体を作製する方法の1つの実施形態を示している。
【図3B】図1A、図1B、図1C、および図2に示されている多細胞体を作製する方法の1つの実施形態を示している。
【図3C】図1A、図1B、図1C、および図2に示されている多細胞体を作製する方法の1つの実施形態を示している。
【図3D】図1A、図1B、図1C、および図2に示されている多細胞体を作製する方法の1つの実施形態を示している。
【図4A】図3A〜図3Dに示されている方法で用いるのに適しているモールドの1つの実施形態の斜視図である。
【図4B】前記モールドの上面図である。
【図4C】図4Bの線4C――4Cで前記モールドを切断した場合の断面図である。
【図4D】図4Cに示されているようなモールドの一部の拡大断面図である。
【図5A】図4A〜図4Dに示されているモールドを作製するのに用いることができるツールの1つの実施形態の斜視図である。
【図5B】図5Aに示されているツールの側面図である。
【図5C】図5Bに示されているようなツールの一部の拡大側面図である。
【図6A】図4A〜図4Dに示されているモールドを作製する目的で、図5A〜図5Cに示されているツールを使用する方法の1つの実施形態を示している。
【図6B】図4A〜図4Dに示されているモールドを作製する目的で、図5A〜図5Cに示されているツールを使用する方法の1つの実施形態を示している。
【図6C】図4A〜図4Dに示されているモールドを作製する目的で、図5A〜図5Cに示されているツールを使用する方法の1つの実施形態を示している。
【図7】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図7A】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図8】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図9】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図10】複数の多細胞体と複数のフィラー体とから作られた3次元コンストラクトの種々の実施形態の概略斜視図である。
【図11】複数の多細胞体とフィラー体とから3次元コンストラクトを作製するための種々の方法の概略図である。
【図12】複数の多細胞体とフィラー体とから3次元コンストラクトを作製するための種々の方法の概略図である。
【図13】本明細書に記載されている方法に従って、エンジニアリング技術によって作製した2つの管状構造体の写真であり、これらの構造体の外径はそれぞれ1200マイクロメートルと900マイクロメートルである。
【図14】本明細書に記載されている方法に従って、エンジニアリング技術によって作製した別の管状構造体の写真である。
【図15】本明細書に記載されている方法に従って、エンジニアリング技術によって作製した管状構造体であって、その管状構造体の管腔内にあるフィラー体と組み合わされている構造体の1つの実施形態の概略斜視図である。
【図16】球状の多細胞体が融合して、枝分かれした管状構造体が形成される様子を示している写真群である。
【図17】第1の組の多細胞体群が、その第1の組の多細胞体の組成とは異なる細胞型組成を有する第2の組の多細胞体と融合する様子を示している写真群である。
【図18】ゼラチンとフィブリンを含む人工管状構造体を示している写真群である。
【0032】
すべての図面にわたり、対応する参照符号は対応する部分を示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書で言及されているすべての出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0034】
人工組織を作製するための新たな構造体と方法を提供する。本発明の技術は、成熟を通じて所望の人工組織になり得る3次元コンストラクトを組み立てるのに使用できるビルディングブロックとして、新規な多細胞体を使用することを含む。各多細胞体は、その細胞体を単一の物体として取り扱う(例えば持ち上げて動かす)ことができるほど十分に互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。これらの多細胞体の凝集力は、その生体細胞が、隣接する多細胞体の生体細胞と凝集可能になるほど十分な期間にわたって、その多細胞体が(例えば、作業表面上で、または複数の多細胞体を含む組立体の形で)自立できるほど十分であるのが好適である。自立した多細胞体の形状で、複数の生体細胞を持ち上げて動かすことができると、多種多様な3次元コンストラクトを組み立てるための柔軟性が得られる。例えば、上記の多細胞体は、1つ以上のフィラー体(例えば、細胞が多細胞体からフィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞がフィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含むフィラー体)と併せて用いて、成熟を通じて管状人工組織になり得るコンストラクトを組み立てることができる。また、上記の多細胞体およびフィラー体を用いて、成熟を通じて他の形状を有する人工組織になるコンストラクトを組み立てることもできる。さらに、上記の多細胞体は自立しているので、上記の多細胞体を支持体のゲルまたは足場に包埋する必要がない。むしろ、「大気中での印刷」ができることによって、多細胞体が互いに直接接触し合うような形で、多細胞体を配列しやすくなる。多細胞体間の接触度が向上すると、成熟中に、多細胞体の効率的かつ確実な融合を促すことができる。加えて、フィラー体は、成熟した人工組織の外側および内側(例えば管状構造体の管腔)から簡単に取り外すことができる。
【0035】
上記に加えて、本発明のいくつかの方法では、上記の人工組織用のビルディングブロックとして、細長い多細胞体を用いる。細長い多細胞体はすでに、その多細胞体の長手方向軸沿いで、かなりの長さにわたって互いに凝集し合っているので、多細胞体の融合の確実性が向上しており、この融合を、より短時間で実現させることができる。さらに、細長い多細胞体を、並列して隣接している関係で配列して、かなりの長さを有する接触区域沿いで、多細胞体間を接触させることができる。これにより、隣接し合っている多細胞体を互いに、迅速かつ確実に融合させやすくすることができる。
【0036】
本発明の材料とプロセスを用いて、3次元人工生物組織を作製する方法の概要を示してきたが、以下では、そのプロセスと材料について、さらに詳細に説明していく。
多細胞体
【0037】
多細胞体(本明細書では、中間体細胞ユニットともいう)の1つの実施形態(概して1という符号が付されている)が図1に示されている。この多細胞体1は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む。多細胞体1は、所望の3次元(3−D)形状で凝集し合っている複数の細胞を含み、これらの細胞は、ティッシュエンジニアリングまたは臓器工学のようなバイオエンジニアリングプロセスの際に操作および取り扱いがしやすいように、粘弾性粘稠性と十分な完全性を有する。十分な完全性とは、多細胞体が、後に行われる作業の間、その物理的形状(剛性ではなく、粘弾性粘稠性を有する形状)を保持できると共に、その細胞の生命力を維持できることを意味する。
【0038】
多細胞体1は、事前に選択したいずれかの1つ以上の細胞型から構成されていてもよい。一般に、細胞型の選択は、所望の3次元生物組織に応じて変わることになる。例えば、血管タイプの3次元構造体をエンジニアリング技術で作製する目的で多細胞体を用いる場合には、その多細胞体を形成させるのに用いる細胞は有益なことに、脈管組織中に通常存在する1つまたは複数の細胞型(例えば、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞など)を含むことができる。多細胞体を用いて、異なる種類の3次元組織(例えば、腸、肝臓、腎臓など)をエンジニアリング技術で作製する場合には、他の細胞型を用いて多細胞体を形成させてもよい。当業者であれば、エンジニアリング技術で作製する3次元組織の種類に基づき、多細胞体に適した1つまたは複数の細胞型を選択できるであろう。好適な細胞型の非限定例としては、収縮性細胞すなわち筋細胞(例えば、筋芽細胞および心筋細胞を含む横紋筋細胞、ならびに平滑筋細胞)、神経細胞、線維芽細胞、結合組織細胞(骨と軟骨を構成する細胞型、骨形成細胞と軟骨細胞に分化できる細胞、およびリンパ組織を構成する細胞型を含む)、実質細胞、上皮細胞(窩腔および脈管または経路の内張りを形成する内皮細胞、外分泌および内分泌上皮細胞、上皮吸収細胞、角化上皮細胞、ならびに細胞外マトリックス分泌細胞を含む)、肝実質細胞、および未分化細胞(胚細胞、幹細胞、およびその他の前駆細胞など)などが挙げられる。例えば、多細胞体1を形成させる目的で用いる細胞は、生きているヒトまたは動物の被検体から得ることも、初代細胞株として培養することもできる。
【0039】
多細胞体1は、ホモ細胞型であってもヘテロ細胞型であってもよい。ホモ細胞型多細胞体では、複数の生体細胞は、単一の細胞型の複数の生体細胞を含む。ホモ細胞型多細胞体の生体細胞のほぼすべては、単一の細胞型の細胞であり、低レベルの純度に対してある程度の許容性があり、そのホモ細胞型多細胞体を含むコンストラクトの成熟にごくわずかな影響しか及ぼさない異なる細胞型の細胞を比較的少数含む。
【0040】
対照的に、ヘテロ細胞型多細胞体は、2種以上の細胞型の細胞を有意数含む。例えば、多細胞体は、第1の型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞(など)を含むことができ、この第2の細胞型は、第1の細胞型とは異なるものである。多細胞体を用いて脈管組織を作製する場合には、例えば、第1の型の細胞は内皮細胞であることができると共に、第2の型の細胞は平滑筋細胞であることができ、第1の型の細胞は内皮細胞であることができると共に、第2の型の細胞は線維芽細胞であることができ、または、第1の型の細胞は平滑筋細胞であることができると共に、第2の型の細胞は線維芽細胞であることができる。また、ヘテロ細胞型多細胞体は、第1の細胞型の複数の細胞と、第2の細胞型の複数の細胞と、第3の細胞型の複数の細胞とを含むこともでき、この第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれは、第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型とは異なるものである。例えば、人工血管を作製するのに適した多細胞体は、内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞を含むことができる。ヘテロ細胞型細胞体中の生体細胞は、未ソーティングのままであってもよく、または、人工組織用の特定の内部構造体を形成させるための融合プロセス中に、「ソーティング」(例えば自己集合)することもできる。細胞のセルフソーティングは、差次接着仮説(Differential Adhesion Hypothesis)(DAH)の予測と整合する。DAHは、構成細胞間の接着性と凝集性相互作用によって生じる組織表面張力および界面張力の観点で、細胞集団の液体様挙動を説明するものである。一般に、細胞は、細胞の接着力の差異に基づきソーティングすることができる。例えば、ヘテロ細胞型多細胞体の中心部にソーティングされる細胞型は一般に、その多細胞体の外側にソーティングされる細胞よりも接着力が強い(すなわち、表面張力が大きい)。
【0041】
さらに、ヘテロ細胞型多細胞体が、正常な発達過程にある隣接組織である組織から採った細胞からなる場合には、ソーティングの際に、それらの細胞は、生理学的な立体配座を回復させる場合がある。したがって、ヘテロ細胞型多細胞体は、構成細胞の接着特性と凝集特性、および細胞が存在する環境に基づき、ある種の事前に構築された内部構造体を含んでもよい。この内部構造体を用いて、さらに複雑な生物構造体を構築することができる。例えば、単純な収縮管を構築する目的で、筋細胞からなるホモ細胞型多細胞体を用いることができる一方で、血管様構造体を構築する目的で、少なくとも2つの細胞型を用いることができる。例えば、人工血管を構築するのに用いるヘテロ細胞型多細胞体は好適には、(i)内皮細胞および平滑筋細胞、(ii)平滑筋細胞および線維芽細胞、(iii)内皮細胞および線維芽細胞、または(iv)内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞を含むことができる。体内にランダムに分散しているこれらの多種多様な細胞型からなる多細胞体を用いて、3次元の生物構造体を構築することによって、構造体形成の際に、内皮細胞が管の内部構造体(すなわち管腔)を裏打ちし、平滑筋細胞が、内皮細胞を取り囲む層を形成し、線維芽細胞が、平滑筋層を取り囲む外層を形成するように、種々の細胞型をソーティングすることができる。この最適な構造は、多細胞体の組成(例えば、多種多様な細胞型同士の比率)を変えることによって、かつ、多細胞体のサイズによって実現させることができる。別の例として、ヘテロ細胞型多細胞体は、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の細胞と、第3の型の複数の細胞とを含むことができる。このような多細胞体を用いて脈管組織を作製する場合には、例えば、第1の細胞型の細胞は好適には内皮細胞であることができ、第2の細胞型の細胞は好適には平滑筋細胞であることができ、第3の細胞型の細胞は好適には線維芽細胞であることができる。このようなヘテロ細胞型多細胞体でも、細胞のセルフソーティングが起きる場合がある。したがって、これらの多細胞体を用いて、3次元の生物構造体、例えば管状構造体を構築する場合には、構造体の形成の際に、内皮細胞が管の内部構造(すなわち管腔)を裏打ちし、平滑筋細胞が、内皮細胞を実質的に取り囲む層を形成し、線維芽細胞が管状構造体の外層を形成し、この外層が上記の内皮細胞の層と平滑筋細胞の層の両方を実質的に取り囲むように、上記の細胞型をソーティングしてよい。
【0042】
場合によっては、多細胞体1は、複数の細胞に加えて、1種以上の細胞外マトリックス(ECM)成分、または1種以上のECM成分の1種以上の誘導体を含むのが好適である。例えば、多細胞体1は、各種ECMタンパク(例えば、ゼラチン、フィブリノゲン、フィブリン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、および/またはプロテオグリカン)を含んでよい。下にさらに詳細に論じられているように、多細胞体を形成させるのに用いる細胞ペーストに、ECM成分またはECM成分の誘導体を加えることができる。上記の細胞ペーストに加えるECM成分またはECM成分の誘導体は、ヒトまたは動物の供給源から精製することも、当該技術分野において既知の組み換え法によって作製することもできる。あるいは、ECM成分またはECM成分の誘導体を多細胞体中の細胞によって自然に分泌させることも、多細胞体を作製する目的で用いる細胞を、当該技術分野において既知のいずれかの好適な方法によって遺伝子操作して、1種以上のECM成分もしくはECM成分の誘導体、および/または、1種以上の細胞接着分子もしくは細胞−基質接着分子(例えば、セレクチン、インテグリン、免疫グロブリン、およびカドヘリン)の発現レベルを変えることもできる。ECM成分またはECM成分の誘導体は、多細胞体中の細胞の凝集を促すことがある。例えば、好適には、多細胞体を形成する目的で用いる細胞ペーストに、ゼラチンおよび/またはフィブリノゲンを加えることができる。続いて、トロンビンを加えることによって、上記のフィブリノゲンをフィブリンに転換させることができる。
【0043】
上述のように、多細胞体1は場合によっては、組織培地を含むのが好適である。この組織培地は、生理学的な適合性のあるいずれの培地でもあることができ、通常は、当該技術分野において周知のように、含まれる細胞型(単数または複数)に従って選択することになる。この組織培地は例えば、糖およびアミノ酸のような基本栄養素、増殖因子、抗生物質(コンタミを最小限に抑えるためのもの)などを含んでもよい。
【0044】
多細胞体1中の細胞の凝集力は、多細胞体1が3次元形状を保てると同時に、平面上で自立できるほど十分に強力であるのが好適である。図1Bでは例えば、多細胞体1は、平面13上で自立している。多少の変形が(例えば、多細胞体1が表面13と接触する場所で)見られるものの、好適にはその多細胞体の幅の少なくとも半分であり、より好適には幅と同等である高さを保つのに十分な凝集力をこの多細胞体は有する。同様に図1Bに示されているように、例えば、多細胞体1は、その多細胞体と表面13との接触によって多細胞体の底部に形成された平らな外面15によって支えられている。多細胞体1の全重量が表面13によって支えられている場合、多細胞体のわずかな変形が原因で、接触面15の面積A1は、初期接触面積よりも大きいことがある。しかし、接触表面15の面積A1は、支持表面13上の多細胞体1の2次元投影図の面積A2よりも小さいのが好適である(図1B参照)。これは、多細胞体1の一部(例えば、図1Bに示されているような各側部)が、作業面13上の多細胞体1によって支えられることを意味する。同様に、平面13上に、2個以上の多細胞体1を互いに、並列して隣接している関係で配置する場合(図1C)、それらの多細胞体の自立能力は、それらの多細胞体が保っている3次元形状と合わさって、それらの多細胞体の側部の下と作業面上に空間17を形成することができる。
【0045】
また、多細胞体1とフィラー体が互いに積み重なるコンストラクトの形で多細胞体1を組み立てる場合に、多細胞体1が、同等のサイズかつ形状の少なくとも1つの多細胞体またはフィラー体の重量を支えられるほど、多細胞体1中の細胞の凝集力が十分に強力であるのが好適である(図2参照。さらなる詳細は後述されている)。また、多細胞体1を器具(例えばキャピラリーマイクロピペット)によって持ち上げられるほど、多細胞体1中の細胞の凝集力が十分に強力であるのが好適である(図3D参照。さらなる詳細は後述されている)。
【0046】
さらに、多細胞体1は好適には、神経が発達していない(すなわち、実質的に神経がない)ものであることも、非軟骨性であることも、神経が発達しておらず、かつ非軟骨性であることもできる。このような多細胞体は、ヒトの手を加えなくても発生する生物構造体とは異なるので、「人工」多細胞体と称することができる。換言すると、上記の多細胞体は合成のものであり、すなわち、自然発生しないものである。
【0047】
多細胞体1は、本発明の範囲内のさまざまなサイズと形状を有することができる。例えば、図1に示されている多細胞体1は管腔のない細胞体であり、これは、多細胞体を貫通する開放路がないことを意味する。例えば、多細胞体1には、その細胞体内に空間、空洞などが実質的にないのが好適である。これは、図1に示されている多細胞体1と、先行技術による人工血管およびその他の先行技術による管状人工組織との相違点の1つである。
【0048】
図1A〜図1Bに示されている多細胞体1は、酸素および/または栄養分が多細胞体の中心部分に拡散できないことが原因で生じる細胞壊死を制限するように形作られている。例えば、好適には、多細胞体1中のすべての生体細胞が、その多細胞体の外面から約250マイクロメートル以下にくるように、より好適には、多細胞体1中のすべての生体細胞が、その多細胞体の外面から約200マイクロメートル以下にくるように、多細胞体1を形作るのが好適である。多細胞体1の中心部分の細胞が、多細胞体1の外面に近接しているので、その多細胞体の外面にある空間から、その多細胞体の中心部に向かって酸素および/または栄養分を拡散させることによって、その多細胞体中の細胞に酸素および/または栄養分を供給することができる。この多細胞体の1つ以上の部分(例えば中心部)の細胞の壊死が見られる場合もあるが、壊死は限定的である。
【0049】
図1の多細胞体1は、その高さH1および幅W1よりも有意に長い長さL1を有する細長い細胞体である。この多細胞体1の長さL1は、好適には少なくとも約1000マイクロメートル(例えば、約1000マイクロメートル〜約30センチメートルの範囲)であり、より好適には少なくとも約1センチメートル(例えば、約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲)であり、さらに好適には、少なくとも約5センチメートル(例えば、約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲)である。上記の多細胞体の長さL1には理論的上限はない。したがって、十分な量の生体細胞を得る問題、または、長い多細胞体を取り扱う問題などのように、長い多細胞体の作製に関連する実施上の問題を克服したいと考える限りは、本発明の範囲内で、長さが30センチメートル(または、30センチメートルとは異なる任意の長さ)を超える多細胞体を作製することも可能であると認められる。
【0050】
図1に示されている細長い多細胞体1の高さH1および幅W1は、その長さL1よりも有意に短いのが好適である。例えば、長さL1は、幅W1の少なくとも2倍であると共に、高さH1の少なくとも2倍であるのが好適であり、これは、細胞体1のアスペクト比(すなわち、長さと直交する最長寸法に対する長さの比)が少なくとも約2、より好適には少なくとも約10、さらに好適には少なくとも20であることを意味する。上記の多細胞体1の寸法の説明から、アスペクト比も、本発明の範囲内で、20よりも大幅に大きくできることが認められ、例えば、アスペクト比は2000であることができる。
【0051】
図1に示されている多細胞体1は、幅W1が比較的狭く、高さH1が比較的短い。例えば、多細胞体1の長さLに沿って切断した断面の平均面積は、好適には約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲であり、より好適には約31,400平方マイクロメートル〜約250,000平方マイクロメートルの範囲であり、さらに好適には約31,400平方マイクロメートル〜約90,000平方マイクロメートルの範囲である。別の例では、図1に示されている多細胞体1(実質的に円筒形であり、円形の断面を有する)の長さ方向沿いの平均直径は、好適には約100マイクロメートル〜約600マイクロメートルの範囲(約7,850平方マイクロメートル〜約282,600平方マイクロメートルの範囲の平均断面積に対応する)であり、より好適には約200マイクロメートル〜約500マイクロメートルの範囲(約31,400平方マイクロメートル〜約196,250平方マイクロメートルの範囲の平均断面積に対応する)であり、さらに好適には約200マイクロメートル〜約300マイクロメートルの範囲(約31,400平方マイクロメートル〜約70,650平方マイクロメートルの範囲の平均断面積に対応する)である。
【0052】
図1に示されている多細胞体1は実質的に円筒形であり、実質的に円形の断面を有するが、異なるサイズと形状を有する多細胞体も本発明の範囲内である。例えば、多細胞体は、本発明の範囲内で、断面が正方形、長方形、三角形、またはその他の非円形である細長い形状(例えば筒形状)であることができる。同様に、多細胞体は、本発明の範囲内で、概ね球状の形状、細長くない円筒形状、または立方体形状を有することができる。
多細胞体の作製方法
【0053】
本発明の範囲内で、上記の特徴を有する多細胞体を作製するためのさまざまな方法が存在する。例えば、複数の生体細胞を含むか、または所望の細胞密度と粘度を有する細胞ペーストから多細胞体を製作することができる。この細胞ペーストを所望の形状に成形し、成熟(例えばインキュベート)を通じて細胞体を形成させることができる。別の例では、複数の生体細胞を含む細胞ペーストを細長い形状に成形することによって、細長い多細胞体を作製する。この細胞ペーストを制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、細長い多細胞体を形成させる。さらに別の例では、細胞ペーストを3次元形状に保つ器具の中で、複数の生体細胞を含む細胞ペーストを成形することによって多細胞体を作製する。上記のように、平面上で自立するほど十分な凝集力を有する細胞体が作製されるほど十分な時間にわたり、上記の細胞ペーストを3次元形状に保ちながら、制御環境中でインキュベートする。
【0054】
細胞ペーストは好適には、(A)細胞または細胞集合体(本明細書では「事前に選択した」細胞または細胞集合体ともいう)(この細胞または細胞集合体は、単一の細胞型であっても複数の細胞型であってもよい)と細胞培地(本明細書では「事前に選択した」培地ともいう)を(例えば所定の比率で)混合して、細胞懸濁液(本明細書では細胞混合物ともいう)を得て、(B)この細胞混合物を圧縮して、所望の細胞密度と粘度を有する細胞ペーストを作製することによって用意することができる。上記の圧縮作業は、当該細胞ペーストに必要な所望の細胞濃度(密度)、粘度、および稠度を実現させるように、細胞培養から得た特定の細胞懸濁液を濃縮することによるなど、多くの方法によって行ってもよい。例えば、モールド内で成形できるペレット中細胞濃度を実現させるために、細胞培養から得た比較的希薄な細胞懸濁液を所定の時間、遠心分離してもよい。タンジェンシャルフロー濾過(「TFF」)は、細胞を濃縮または圧縮する別の好適な方法である。また、必要とされる押し出し特性を付与する目的で、化合物を細胞懸濁液と組み合わせてもよい。本発明で用いてよい好適な化合物のいくつかの例としては、コラーゲン、ヒドロゲル、マトリゲル、ナノ繊維、自己集合性ナノ繊維、ゼラチン、フィブリノゲンなどが挙げられる。
【0055】
したがって、これらの方法で用いる細胞ペーストは、複数の生体細胞を組織培地と混合し、これらの生体細胞を(例えば遠心分離によって)圧縮することによって作製するのが好適である。1種以上のECM成分、または1種以上のECM成分の1種以上の誘導体を細胞ペースト中に含める場合(さらなる詳細は後述されている)には、細胞ペーストは好適には、1種以上のECM成分または1種以上のECM成分の誘導体を含有する生理学的に許容可能な1種以上のバッファー中に再懸濁させることができ、その結果得られた細胞懸濁液を再度遠心分離して、細胞ペーストを形成させる。
【0056】
さらなる処理のために望ましい、上記の細胞ペーストの細胞密度は、細胞型によって変わる場合がある。細胞間相互作用が細胞ペーストの特性を決定し、細胞密度と細胞間相互作用との関係は、細胞型によって異なることになる。細胞ペーストを成形する前に、細胞間相互作用を高める目的で細胞に前処理を施してもよい。例えば、細胞ペーストを成形する前に、細胞間相互作用を高める目的で、遠心後に遠心チューブ内で細胞をインキュベートしてもよい。
【0057】
さまざまな方法を用いて、本発明による細胞ペーストを成形してよい。例えば、(例えば濃縮/圧縮後に)細胞ペーストを操作するか、手作業で成型するか、またはプレス加工して、所望の形状を実現させてよい。例えば、マイクロピペット(例えばキャピラリーピペット)のような予め形成済みの器具であって、その器具の内面と同じ形になるように細胞ペーストを成形する器具の中に細胞ペーストを取り込んで(例えば吸引して)もよい。このマイクロピペット(例えばキャピラリーピペット)の断面形状は、円形、正方形、長方形、三角形、またはその他の非円形の断面形状であることができる。また、プラスチックモールド、金属モールド、またはゲルモールドのような予め形成済みのモールドに細胞ペーストを沈積させることによって、細胞ペーストを成形してもよい。さらには、遠心鋳造または連続鋳造を用いて細胞ペーストを成形してもよい。
【0058】
上記の方法の1つの例では、成形作業は、成形器具内に細胞ペーストを保持して、その成形器具内で細胞が部分的に互いに凝集し合えるようにすることを含む。例えば、図3Aに示されているように、成形器具51(例えばキャピラリーピペット)の中に細胞ペースト55を吸引して、成熟期間(本明細書ではインキュベート期間ともいう)にわたって、その成形器具内に保持し(図3B)、細胞が少なくとも部分的に互いに凝集し合えるようにすることができる。第1の成形器具51内で細胞を十分に凝集させることができる場合には、1回の成熟工程(例えば1回のインキュベート工程)のみを有するプロセスで、多細胞体1を作製することができる。例えば、この方法は、1つの成形器具51内で細胞ペースト55を成形することと、成形した細胞ペーストを1つの制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、多細胞体1を形成させることを含むのが好適である。この方法の場合、成形器具51(例えばキャピラリーピペット)は好適には、下にさらに詳細に説明されているように、多細胞体を3次元コンストラクト中に自動的に配置する目的で使用できるバイオプリンターの印刷ヘッドまたは類似の装置の一部であることができる。ECM成分またはECM成分の誘導体、例えばゼラチンおよび/またはフィブリノゲンは、多細胞体の総体的な凝集力を促進できるので、このような成分を細胞ペースト中に含めると、1回の成熟工程での多細胞体の作製が容易になる場合がある。しかし、細胞の生存能に影響が及ぶ前に、酸素および/または栄養分に触れる機会を細胞にせいぜい限定的にしか与えないキャピラリーピペットのような成形器具内に細胞を保持できる時間には制限がある。
【0059】
所望の凝集力を実現させるほど十分に長い成熟期間にわたって、成形器具51内に細胞を保持できない場合には、部分的に凝集した細胞ペースト55をその成形器具(例えばキャピラリーピペット)から、栄養分および/または酸素を細胞に供給させる第2の成形器具301(例えばモールド)に移すと同時に、追加的な成熟期間にわたって、細胞をその第2の成形器具内に保持するのが好適である。栄養分および酸素を細胞に供給させる好適な成形器具301の1つの例は、図4A〜図4Dに示されている。この成形器具は、複数の多細胞体(例えば、実質的に同一の多細胞体)を作製するためのモールド301である。モールド301は生体適合性基材303を含み、この基材は、細胞が基材303に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞が基材303に接着するのを妨げる物質で作られている。モールド301は、細胞がモールドに増殖もしくは移動、または接着しないようにするいずれの物質で作られていてもよい。例えば、基材303は好適には、Teflon(登録商標)(PTFE)、ステレンス鋼、ヒアルロン酸、アガロース、アガロース、ポリエチレングリコール、ガラス、金属、プラスチック、またはゲル材(例えばアガロースゲルもしくはその他のヒドロゲル)、および類似の物質で作ることができる。
【0060】
基材303は、比較的凝集力の小さい複数の細胞を含む組成物(例えば第1の成形器具51から得られるもの)を受容するように、かつ、細胞の凝集力が向上して、上記の多細胞体1の特徴のいずれも有する多細胞体のように、成熟期間前の組成物よりも凝集力が大きい多細胞体が形成される成熟期間の間、上記の組成物を所望の3次元形状に保つように成形されている。また、モールド301は、(例えば、組織培地をモールド301の上に分注することによって)組織培地を細胞ペースト55に供給できるように形作られているのが好適である。例えば、図4A〜図4Dに示されているように、基材303には、複数の細長い溝305が形成されている。図4Dに示されているように、各溝の深さD2は、約500マイクロメートル〜約1000マイクロメートルの範囲であるのが好適である。実質的に円形の断面形状を有する細長い円筒形の多細胞体が形成されるように、図示されている実施形態の各溝305の底部は、弓状(例えば半円)の断面形状を有するのが好適である。溝305の幅W5は、モールド301内で作製される多細胞体の幅よりもわずかに広いのが好適である。例えば、溝305の幅W5は、約300マイクロメートル〜約1000マイクロメートルの範囲であるのが好適である。溝305の間の空間は重要ではないが、概して、モールド301内で作製できる多細胞体の数を増やす目的で、溝同士が比較的近くなるように溝が隔置されているのが望ましい。図示されている実施形態では例えば、溝305の間の基材303の各ストライプの幅W4は、約2mmである。
【0061】
本発明の範囲内で好適なモールドを作製するためのさまざまな方法が存在する。例えば、図5A〜図5Cは、上記の多細胞体を作製するのに適したモールドを作製するのに用いることができるツール(概して201という符号が付されている)の1つの実施形態を示している。一般に、ツール201の一部は、部分的に凝集した細胞ペーストを第2の成熟期間にわたって保持するモールド301の一部のネガ型となるように形作られている。例えば、ツール201は、本体203と、本体203から伸びている複数の突起205とを備えるのが好適である。各突起205のサイズと形状は、細胞ペースト55をある形状に保つことになるモールド基材中に凹部すなわち受容区域を形成して、突起205によってモールド内に形成されたその凹部/受容区域内の細胞が、成形済みの細胞ペーストの外側から約300マイクロメートル以下の位置にくるようにするのが好適である。
【0062】
図5A〜図5Cに示されている特定のツール201は、図4A〜図4Bに示されているモールド301を作製するように形作られている。突起205は、本体203の底部207から伸びている複数のフィンとして形作られている。フィン205のそれぞれは、モールド301の溝305の1つのネガ型である。フィン205は長手方向軸209を有し(図5A)、上記の細長い多細胞体1を作製するのに用いることができるモールドを作製するように形作られている。フィン205の少なくとも1つは、別のフィンの長手方向軸209から横方向に隔置されている。これは、ツール201と、ゲル電気泳動を行うためのゲル内にウェルを形成する目的で用いる従来のコームとの相違点の1つである。図示されている実施形態では、すべてのフィン205は実質的に互いに対して平行であり、各フィンは、他のフィンから、その長手方向軸209の横方向に隔置されている。フィン205は、すべてが実質的に互いに同一であるのが好適である。図5Cを参照すると、各フィン205は、本体203から約1.5mmの距離D1だけ伸びているのが好適である。フィン205の遠位末端は、モールド301の溝305の底部の形状に対応する弓状(例えば半円)の断面形状を有する。各フィンの幅W3は約300マイクロメートル〜約1000マイクロメートルであるのが好適である。フィンを分離している距離W2は、約2mmであるのが好適である。突起を細胞培養皿の底部よりも上に保つように、ツール201の縁211が細胞培養皿の周縁上に位置するように形作られているのが好適である。ツール201は、Teflon(登録商標)(PTFE)、ステンレス鋼などのように、モールドが簡単に離れるさまざまな物質で作製することができる。
【0063】
モールド301を作製するためには、図6Aに示されているように、凝固するかまたはゲルとして固まるように作製できる液体223で細胞培養皿221を満たすのが好適である。例えば、この液体はアガロース溶液223であることができる。ツール201を細胞培養皿221の上に配置して(図6B)、縁211が細胞培養皿の周縁225の上にくると共に、突起205(例えばフィン)が、ツール201の底部207から液体223まで及ぶようにする。液体223を固化させて、突起205(例えばフィン)の遠位末端を取り囲む固体基材またはゲル基材を形成させる。続いて、ツール201を細胞培養皿から持ち上げて、新たに作製されたモールド301からツール201を引き離す(図6C)。
【0064】
したがって、第2の成形器具を用いる場合には、部分的に凝集した細胞ペースト55を第1の成形器具51(例えばキャピラリーピペット)から第2の成形器具(例えば、図4A〜図4Dに示されているモールド301)に移すのが好適である。部分的に凝集した細胞ペースト55は、図3Cに示されているように、第1の成形器具51(例えばキャピラリーピペット)によってモールド301の溝305に移すことができる。すなわち、この方法は、部分的に凝集した細胞ペースト55を第2の成形器具301に移すことと、その部分的に凝集した細胞ペーストを第2の成形器具内に保持して、多細胞体1を形成させることとを含む。モールド301を、その中に保持されている細胞ペースト55と共に制御環境中でインキュベートし、細胞ペースト中の細胞が互いにさらに凝集し合うようにして、多細胞体1を形成させる成熟期間の後には、図3Dに示されているように、得られた多細胞体1を器具51’、例えばキャピラリーピペットで持ち上げられるほど、上記の細胞の凝集力は十分に強力になることになる。このキャピラリーピペット51’(モールド301の溝305から持ち上げた成熟した多細胞体1を含んでいる)は好適には、下にさらに詳細に説明されているように、多細胞体を3次元コンストラクト中に自動的に配置する目的で使用できるバイオプリンターまたは類似の装置の印刷ヘッドの一部であることができる。
【0065】
したがって、多細胞体1を作製する方法の1つの例では、成形作業は、細胞ペースト55を第1の成形器具51内に保持して、第1の成形器具内で細胞が部分的に互いに凝集し合えるようにすることと、その部分的に凝集した細胞ペーストを第2の成形器具301に移すことと、その部分的に凝集した細胞ペーストを第2の成形器具内に保持して、多細胞体1を形成させることとを含む。しかし、ゼラチンおよび/またはフィブリノゲンを細胞ペーストに加えるようないくつかの実施形態では、細胞が、第1の成形器具51内で多細胞体を形成させるほど十分に凝集する場合もあり、細胞ペースト55を第2の成形器具301に移して、その細胞ペーストを第2の成形器具内に保持する工程は、不要であることもある。
【0066】
第1の成形器具51としては好適には、キャピラリーピペットを挙げることができ、第2の成形器具としては、上記のモールド301のように、細胞を第2の成形器具に保ったまま、栄養分と酸素を細胞に供給できる器具を挙げることができる。
【0067】
多細胞体の断面形状とサイズは実質的に、その多細胞体を作製する目的で用いる第1の成形器具と任意で第2の成形器具との断面形状とサイズに対応することになり、当業者であれば、上述の断面形状、断面積、直径、および長さを有する多細胞体を作製するのに適した好適な断面形状、断面積、直径、および長さを有する好適な成形器具を選択できるであろう。
【0068】
上述のように、多種多様な細胞型を用いて、本発明の多細胞体を作製してよい。したがって、例えば上で列挙したすべての細胞型を含め、1つ以上の型の細胞または細胞集合体(ヒトおよび動物の体細胞)を出発材料として用いて、細胞ペーストを作製してよい。例えば、平滑筋細胞、内皮細胞、軟骨細胞、間葉幹細胞、筋芽細胞、線維芽細胞、心筋細胞、シュヴァン細胞、肝実質細胞、またはチャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞のような細胞を用いてよい。対象受容者に由来する(例えば生検によって採取した)細胞、または1種以上の樹立細胞株に由来する細胞のサンプルを培養して、多細胞体を製作するのに十分な量の細胞を作製することができる。対象受容者に由来する細胞から作製した多細胞体は、宿主の炎症反応、または、受容者による、移植臓器もしくは移植組織に対するその他の急性もしくは慢性拒絶反応を回避するのに有益である。
【0069】
上述のように、多細胞体はホモ細胞型であることも、ヘテロ細胞型であることもできる。ホモ細胞型多細胞体を作製するためには、細胞ペーストはホモ細胞型、すなわち、単一の細胞型の複数の生体細胞を含むのが好適である。ホモ細胞型多細胞体を作製するのに用いる細胞ペースト中の生体細胞のほぼすべては、単一の細胞型の細胞であることになり、低レベルの純度に対してある程度の許容性があり、当該細胞ペーストから作製したホモ細胞型多細胞体を含むコンストラクトの成熟にごくわずかな影響しか及ぼさない異なる細胞型の細胞を比較的少数含む。例えば、ホモ細胞型多細胞体を作製するための細胞ペーストは、第1の型の細胞を含むのが好適であり、細胞ペースト中の細胞の少なくとも約90パーセントは、その第1の細胞型の細胞である。
【0070】
一方、ヘテロ細胞型多細胞体を作製するためには、細胞ペーストは、2つ以上の細胞型の細胞を有意数含むのが好適である(すなわち、細胞ペーストはヘテロ細胞型となる)。例えば、この細胞ペーストは、第1の型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞を含むことができ、この第2の細胞型は、第1の細胞型とは異なるものである。別の例では、細胞ペーストは、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞を含むことができる。したがって、この細胞ペーストを用いて、ヘテロ細胞型多細胞体を作製してから、そのヘテロ細胞型多細胞体を用いて脈管組織を作製する場合には、細胞ペースト中の複数の生体細胞は好適には、(i)内皮細胞および平滑筋細胞、(ii)平滑筋細胞および線維芽細胞、(iii)内皮細胞および線維芽細胞、または(iv)内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞を含むことができる。上でさらに詳細に論じたように、ヘテロ細胞型細胞ペーストを用いて多細胞体を作製する場合、細胞の接着強度の相違に基づき、成熟および凝集プロセス中に生体細胞を「ソーティング」してよく、生体細胞は、それらの生理学的な立体配座を回復させる場合がある。
【0071】
好適には、複数の生体細胞に加えて、1種以上のECM成分または1種以上のECM成分の1種以上の誘導体(例えば、ゼラチン、フィブリノゲン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、および/またはプロテオグリカン)を細胞ペーストに含めて、上記のように、これらの物質を多細胞体に組み込むことができる。細胞ペーストに加えるECM成分またはECM成分の誘導体は、ヒトまたは動物の供給源から精製することも、当該技術分野において既知の組み換え法によって作製することもできる。ECM成分またはECM成分の誘導体を細胞ペーストに加えると、多細胞体中の細胞の凝集が促進される場合がある。例えば、ゼラチンおよび/またはフィブリノゲンを細胞ペーストに加えることができる。より詳細には、10〜30%のゼラチン溶液と10〜80mg/mlのフィブリノゲン溶液を複数の生体細胞と混合して、ゼラチンとフィブリノゲンを含む細胞懸濁液を形成させることができる。続いて、この細胞懸濁液を(例えば遠心分離によって)圧縮して、細胞ペーストを形成させることができる。次いで、このプロセスによって形成した細胞ペーストを成形し、制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、多細胞体を形成させることができる。(例えば印刷プロセス中に)トロンビンを加えることによって、上記のフィブリノゲンをフィブリンに転換させることができる。例えばゼラチンおよびフィブリノゲンのようなECM成分またはECM成分の誘導体を細胞ペーストに含める場合には、成形工程は、細胞ペーストを1つの成形器具内に保持して、多細胞体を形成させることを含むのが好適であり、インキュベート工程は、この成形した細胞ペーストを1つの制御環境中でインキュベートし、細胞が互いに凝集し合えるようにして、多細胞体を形成させることを含むのが好適である。
【0072】
本発明は、複数の細胞または細胞集合体を含む多細胞体であって、所望の3D形状に形成された多細胞体を作製する方法も提供する。本発明の作製法は一般に、1)事前に選択した複数の細胞または細胞集合体を含む細胞ペースト(例えば、所望の細胞密度と粘度を有するもの)を用意する工程と、2)この細胞ペーストを(例えば所望の形状に)成形する工程と、3)成熟を通じて前記多細胞体を形成させる工程とを含む。
【0073】
上記の形成工程は、多細胞体(例えば細胞ユニット)を確実に凝集させる目的で、1つまたは複数の工程を通じて行ってもよい。特定のプロセスでは、初期成熟時に、細胞ペーストを部分的に安定化させるか、または部分的に硬化させて、さらなる作業が行えるほど十分な完全性を有する多細胞体を形成させてもよい。
【0074】
1つの実施形態によれば、上記の形成工程は、2つのサブ工程、すなわち、A)初期成熟のための第1の期間(例えば所定の期間)にわたって、細胞ペーストをマイクロピペット(例えばキャピラリーピペット)のような成形器具内に保持するサブ工程と、B)さらなる成熟のための第2の期間(例えば所定の期間)にわたって、上記の成形した細胞ペーストをモールドのような保持器具に沈積させるサブ工程であって、細胞がそのモールドに増殖もしくは移動、または接着しないようにできる物質から前記保持器具が作られているサブ工程とを含んでもよい。上記の初期成熟は、上記のさらなる成熟プロセスでの作業中に細胞ペーストが無傷の状態を保つのに十分な安定性を細胞ペーストにもたらすことになる。
【0075】
さまざまな方法を用いて、上記のさらなる成熟プロセスを促すことができる。1つの実施形態では、凝集を助長するための期間(細胞型によって決まる場合がある)にわたって、細胞ペーストを約37℃でインキュベートしてよい。この代わりに、またはこれに加えて、接着を助長する因子および/またはイオンを含む細胞培地の存在下で、細胞ペーストを保持してもよい。
【0076】
例えば、円筒形状の細胞ペーストの円筒形を壊すことなくマイクロピペット(例えばキャピラリーピペット)から押し出すことができるほど細胞が接着するまで、その細胞ペーストをマイクロピペット内でインキュベートした後(すなわち初期成熟プロセスの後)、さらなる成熟プロセスで、細胞ペーストをさらにインキュベートして、培地と共に培養してよく、このプロセスによって、所望の形状を保つように促す。
フィラー体
【0077】
本発明は、所望の3次元人工生物組織を形成する目的で、上記の多細胞体と併せて用いることができるフィラー体も提供する。具体的には、本発明は、生物学的コンストラクトを構築するためのビルディングユニットとして、多細胞体と併せて用いるフィラー体(本明細書では「フィラーマトリックスユニット」ともいう)も提供し、このフィラー体を用いて、多細胞体が欠けている所望の3Dバイオコンストラクトの領域を画定する。本発明のフィラー体は、細胞がそのフィラー体に増殖もしくは移動、または接着しないようにできる物質で作られた所定の形状を有するフィラー体であるのが好適である。本発明のフィラー体の材料は、栄養培地(本明細書では、組織培地または細胞培地ともいう)に対する透過性があるのが好適である。例えば、本発明のフィラー体の材料は、アガロース、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、および寒天、もしくはその他のヒドロゲルからなる群から選択された生体適合性ゲル物質、または、ゲル以外の可とう性生体適合性物質であるのが好適である。本発明のフィラー体は好適には、種々の材料または種々の濃度の同じ材料から形成させることができる。例えば、管腔を形成するフィラー体を4%のアガロースで作製できる一方で、所望の3次元人工生物組織を構築するのに用いる残りのフィラー体を2%のアガロースで作製することができる。本発明のフィラー体は、対応する多細胞体(円筒形状を有するのが好ましい)の形状またはサイズに従っていれば、いずれの形状またはサイズを呈してもよい。
【0078】
いくつかの実施形態では、フィラー体は、そのフィラー体と共に所望の3次元人工生物組織を構築するのに用いられる多細胞体の形状とサイズと実質的に同一の形状とサイズを有する。したがって、例えば、本発明のフィラー体は好適には、多細胞体1との関連で上に記した形状のうちのいずれかを有することができる。例えば、フィラー体と多細胞体の双方とも、(図2に示されているように、)実質的に円筒形であると共に、直径が実質的に同一である実質的に円形の断面を有してもよい。
【0079】
多細胞体が互いに融合したときに、所望の3次元人工生物組織が形成されるようなパターンに従って、フィラー体と多細胞体を配列できるならば、フィラー体と多細胞体は異なるサイズおよび/または形状を有することができる。例えば、(図2に示されているように、)本発明のフィラー体は実質的に円筒形であることができ、本発明の多細胞体は実質的に球状であることができる。さらに、本発明のフィラー体と多細胞体は双方とも、細長いと共に、実質的に円筒形であるが、長さが異なっていてもよい。当業者であれば、さまざまなサイズおよび形状のフィラー体と多細胞体を組み合わせて、所望の3次元人工生物組織を形成できる方法が数多く存在することを認識するであろう。
【0080】
好適なゲル様物質を所定の形状に成形することによって、フィラー体を作製するのが好適である。1つの実施形態によれば、この方法は、1)フィラー材料(すなわち、事前に選択したフィラー材料)の粘度を減少(低下)させて液体様物質にする工程と、2)その液体様物質を(例えば、事前に選択した形状に)成形する工程と、3)その物質の粘度を増大(上昇)させ、凝固させてフィラー体(例えば、事前に選択した形状を有するフィラー体)にする工程とをさらに含んでもよい。
【0081】
フィラー材料の直接または間接加熱、加圧、またはフィラー材料の濃度の変更を含め、多くの既知の方法を用いて、フィラー材料の粘度を減少させてよい。さらに、上記の成形工程でも、フィラー材料をプレキャストモールドに沈積させる方法、または、ピペットによって、もしくはピストンの下方向への移動によって、フィラー材料を所望の形状のチャンバーに注入する方法のような多くの方法を用いてもよい。さらに、フィラー材料を直接または間接的に冷却する方法、溶媒を除去もしくは蒸発させるか、溶媒を除去もしくは蒸発可能にする方法、フィラー剤を硬化させる化学作用を可能にする方法、構成成分の濃度を変える方法、または、化学作用もしくはその他の作用によってポリマー物質の架橋を可能にする方法を含め、多くの既知の方法を用いて、フィラー材料の粘度を増大させて、その形状を強固なものにしてもよい。
【0082】
例えば、1つの実施形態によれば、アガロース溶液(元々粉末状態であるアガロースをバッファーおよび水と混合したもの)を加熱してその粘度を低下させ、所望の寸法を有するキャピラリーピペット(すなわちマイクロピペット)の中に(または、ピストンの下方向への移動によって所望の形状のチャンバーの中に)取り込んで(例えば吸引して)もよい。フィラー体の所望の断面形状に応じて、さまざまな断面形状を有するキャピラリーピペットを用いることができる。例えば、長さに沿って切断した断面が実質的に円形であるキャピラリーピペットを用いて、実質的に円筒形であると共に、実質的に円形の断面形状を有するフィラー体を作製することができる。あるいは、長さに沿って切断した断面が実質的に正方形であるキャピラリーピペットを用いて、実質的に筒形であると共に、正方形の断面形状を有するフィラー体を作製することができる。当業者であれば、同様の方式で、上記のような多細胞体を作製する際に用いられるようなキャピラリーピペットを用いて、多種多様な断面形状を有するフィラー体を作製できることを認識するであろう。
【0083】
例えばピペットの外側に強制空気を供給するか、または、冷液の入った容器の中にピペットを入れることによって、ピペット(またはチェンバー)内のアガロース溶液を室温まで冷却して、アガロース溶液が凝固して、所望の形状を有するアガロースゲル、すなわちフィラー体になることができるようにしてもよい。得られたフィラー体は、特定のバイオコンストラクトの構築中に、ピペットまたはチェンバーから押し出してもよい。
【0084】
バイオプリンターまたは類似の装置は、多細胞体とフィラー体との配列体を含む3次元コンストラクトを組み立てるので、フィラー体は好適には、バイオプリンターまたは類似の装置によって作製することができる。例えば、キャピラリーピペットは、バイオプリンターの印刷ヘッドの一部であることができる。3次元コンストラクトにフィラー体が必要な場合には、ゲルとして固まることができる液体の供給源に、キャピラリーピペットを移動させることができる。例えば、液体状態に保つ目的で加熱されているアガロース溶液の供給源に、キャピラリーピペットを移動させることができる。上記の液体をキャピラリーピペットの中に吸引し、その液体を成形してフィラー体の形状にすることができる。続いて、アガロースのゲル化を促進する目的で、キャピラリーピペットを(例えば冷水浴中に浸すことによって)冷やすことができる。
3次元コンストラクト
【0085】
本発明の方法に従って上記の多細胞体とフィラー体を用いて、3次元人工生物組織を作製することができる。簡潔に言うと、各多細胞体が(i)別の多細胞体、または(ii)フィラー体のうちの少なくとも1つと接触するようなパターンに従って、複数の多細胞体と複数のフィラー体を配列する。続いて、その多細胞体を少なくとも1つの他の多細胞体と融合させて、3次元人工生物組織を形成させる。次いで、融合した多細胞体からフィラー体を引き離して、人工組織を得ることができる。
【0086】
本発明の3次元構造体の1つの実施形態(概して101という符号が付されている)は、図2に示されている。この構造体101は、複数の細長い多細胞体1を含み、その各多細胞体は、上記の細長い多細胞体1と同一であるのが好適である。例えば、細長い多細胞体1のそれぞれは、自立する多細胞組織体であって、大気中で印刷することができる多細胞組織体を作製するための上記の方法に従って作製したものであるのが好適である。各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触するパターンで、多細胞体1が配列されている。図1Cを参照するとよく分かるように、かなりの長さを有する接触区域沿いで、多細胞体1の少なくとも1つが別の多細胞体と接触する。図1Cには、2つの多細胞体1が表面13の上で並列して隣接している関係で示されており、図2に示されているパターンでは配列されていないが、2つの多細胞体1の間の接触区域は、多細胞体が互いに並列して隣接している関係にあるパターンで多細胞体が配列されている図1Cに示されている接触区域と実質的に同様であり得ることを理解されたい。例えば、図2の配列では、かなりの長さを有する接触区域全体にわたって、各多細胞体1が少なくとも1つ(例えば2つ)の他の多細胞体と接触する。並列関係にある隣接し合う細長い多細胞体の間の接触区域の長さは、好適には少なくとも約1000マイクロメートル、より好適には少なくとも約1センチメートル、より好適には少なくとも約5センチメートル、さらに好適には約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲である。別の例では、この接触区域の長さは、好適には約1000マイクロメートル〜約30センチメートルの範囲、より好適には約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である。接触区域の長さは、多細胞体1の長さに相当することができる。多細胞体1の長さには理論的上限がないので、十分な量の細胞ペーストを得る必要性のように、長い多細胞体の作製に関連する実施上の問題を克服したいと考える限りは、上記の接触区域の長さは、本発明の範囲内で、30センチメートル(または30センチメートル以外のいずれかの任意の長さ)を超えることができる。図2では、多細胞体1は互いに接触し合っているが、この成熟の初期段階では、多細胞体は互いに凝集し合ってはいない。
【0087】
本発明の構造体は、1つ以上のフィラー体5も含み、その各フィラー体は、上記のフィラー体と同一であるのが好適である。例えば、図2の構造体は複数の離散したフィラー体5を含む。多細胞体と共に、各フィラー体が少なくとも1つの多細胞体または別のフィラー体と接触するようなパターンで、フィラー体5が配列されている。図2における多細胞体1とフィラー体5は、構造体101の中に複数の空間17を形成するように配列されており、これらの空間は、多細胞体1によって占められておらず、かつフィラー体5によっても占められていない。空間17には、組織培地が含まれているのが好適であり、この培地は、多細胞体1およびフィラー体5の最上部の上から流し込むことによって、構造体101に加えることができる。したがって、空間17は、(例えば成熟中に、)栄養分および/または酸素を多細胞体1中の細胞に供給しやすくすることができる。
【0088】
図2に示されている構造体の多細胞体1は、ホモ細胞型細胞体であることも、ヘテロ細胞型細胞体であることも、これらの組み合わせであることもできる。特に、多細胞体1は好適には、上記のいずれの細胞型および細胞型の組み合わせも含むことができる。図示されているように、多細胞体1は、その中に含まれる細胞型が実質的に同一であるのが好適である。しかし、本発明の範囲内で、1つ以上の多細胞体が、その構造体中の他の多細胞体と異なる細胞型の細胞を含むことも可能である。例えば、1つ以上の各多細胞体1中の大半の細胞は好適には、第1の細胞型(例えば、内皮細胞または平滑筋細胞)の細胞であることができ、構造体101の1つ以上の他の各多細胞体中の大半の細胞は、上記の第1の細胞型とは異なる第2の細胞型(例えば、平滑筋細胞または線維芽細胞)の細胞であることができる。多細胞体1は、形状が実質的に均一であるのが好適である。フィラー体も、形状が実質的に均一であるのが好適である。さらに、図2に示されているように、多細胞体1は、フィラー体5の形状と実質的に同一な形状を有する。
【0089】
多細胞体1の少なくともいくつか(例えばすべての多細胞体)は、管様構造体31を形成するように配列されている。少なくとも1つのフィラー体5’が、管様構造体31の内側にあると共に、管様構造体31を形成する多細胞体1に実質的に囲まれている。例えば、図2の多細胞体1は、フィラー体5のうちの1つを取り囲む管様構造体31を形成するように、六角形の配置で配列されている。図2の六角形の配置の各多細胞体1は、少なくとも2つの隣接する細長い多細胞体と、並列して隣接している関係にある。この配列では、管様構造体31の内側にある1つ以上のフィラー体5’は、管腔を形成するフィラー体である。この管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’がこのように称されるのは、細胞が多細胞体1から、管様構造体31を貫通している細長い空間(この空間は、下記の方法に従って構造体を成熟させた後、管腔になる)に移動および内殖するのを防ぐからである。管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’は、成熟中には、そのフィラー体自体の中には管腔を発生させない。一般に、管様構造体の内側にフィラー体があるか否かを問わず、成熟を通じて、複数の生体細胞を含む管状人工組織を作製することができる多細胞体のいずれの配列体も、管様構造体とみなすことができる。この成熟段階では、隣接し合う多細胞体が互いに凝集し合っていないので、管様構造体を形成する2つの隣接し合う多細胞体の間の空間に、物体を押し込むことができることから、管様構造体が管状構造体とは異なるものであり得ることは、上記の内容から明らかである。
【0090】
3次元構造体の別の実施形態(概して201という符号が付されている)は、図7に示されている。指定のない限り、この構造体は、図2に示されていると共に上記されている構造体と実質的に同一であることができる。図7の構造体201は、複数の多細胞体を含み、その各多細胞体は、上記の多細胞体1と同一であることができる。しかし、この構造体201では、構造体201を形成するパターンで配列されている2つの異なる組の多細胞体1’、1’’が存在する。第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞(例えば少なくとも約90パーセントの細胞)は、第1の細胞型の細胞であり、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞(例えば少なくとも約90パーセントの細胞)は、上記の第1の細胞型とは異なる第2の細胞型の細胞である。例えば、第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞は好適には内皮細胞であることができ、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞は好適には平滑筋細胞であることができる。別の例として、第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞は好適には内皮細胞であることができ、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞は線維芽細胞であることができる。さらに別の例として、第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞は好適には平滑筋細胞であることができ、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞は線維芽細胞であることができる。他の細胞型を用いることも可能である。第1の組の多細胞体1’は、管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’を取り囲む六角形の配置(上記の六角形の配置と同様の配置)で配列されている。第2の組の多細胞体1’’は、第1の組の多細胞体1’と、管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’とを取り囲む、上記よりも大きい六角形の配置で配列されている。多細胞体1’と1’’が合わさって、2つの異なる型の細胞を含む管様構造体231を形成する。第1の組の多細胞体1’は、管様構造体231の内層を形成するように配列されており、第2の組の多細胞体1’’は、管様構造体231の外層を形成するように配列されている。したがって、第1の細胞型の細胞(例えば内皮細胞)は、管様構造体231の内側部分の方に集中しており、第2の細胞型の細胞(例えば平滑筋細胞)は、管様構造体231の外側部分の方に集中していて、第1の組の多細胞体1’における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、第2の組の多細胞体1’’における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きくなるように、または、第2の組の多細胞体1’’における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率が、第1の組の多細胞体1’における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率よりも大きくなるようになっている。この配列体は、第1の型の細胞からなる内層と、第2の型の細胞からなる外層とを有する管状人工組織の作製を容易にすることができる。例えば、構造体201を用いて、内皮細胞からなる内層と、平滑筋細胞からなる外層とを有する人工血管を作製することができる。別の例では、複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とをそれぞれ含む第1の組の多細胞体1’が、管様構造体231の内層を形成するように配列されており、線維芽細胞を含む第2の組の多細胞体1’’が、管様構造体231の外層を形成するように配列されている。したがって、内皮細胞は、管様構造体231の内側部分の方に集中しており、平滑筋細胞は、管様構造体231の中央部分の方に集中しており、線維芽細胞は、管様構造体231の外側部分の方に集中していて、第2の組の多細胞体1’’における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、第1の組の多細胞体1’における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率よりも大きくなるようになっている。別の例では、内皮細胞をそれぞれ含む第1の組の多細胞体1’が、管様構造体231の内層を形成するように配置されており、複数の平滑筋細胞と複数の線維芽細胞とをそれぞれ含む第2の組の多細胞体1’’が、管様構造体231の外層を形成するように配列されている。したがって、内皮細胞は、管様構造体231の内側部分の方に集中しており、平滑筋細胞は、管様構造体231の中央部分の方に集中しており、線維芽細胞は、管様構造体231の外側部分の方に集中していて、第1の組の多細胞体1’における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、第2の多細胞体1’’における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する火散るよりも大きくなるようになっている。
【0091】
図7Aは、本発明の別の例の3次元構造体251を示している。この構造体251は、第3の組の多細胞体1’’’も含む点以外は、図7に示されている構造体と実質的に同じである。第3の組の多細胞体1’’’中の大半の細胞は、第1の組の多細胞体1’と第2の組の多細胞体1’’の細胞型の大半を構成する各細胞型とは異なる細胞型の細胞である。第3の組の多細胞体1’’’は、第2の組の多細胞体1’’を取り囲むと共に多細胞体1’’と隣接する概ね六角形の配置で配列されているのが好適である。したがって、第3の組の多細胞体1’’’は、第2の組の多細胞体1’’と、第1の組の多細胞体1’とを取り囲むのが好適である。多細胞体1’、1’’、および1’’’が合わさって、3つの多細胞体層によって形成される管様構造体261を形成するのが好適である。管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’が、管様構造体261を軸方向で貫通している。構造体251を用いて、人工血管を形成する場合には、第1の組の多細胞体1’中の大半の細胞は内皮細胞であるのが好適であり、第2の組の多細胞体1’’中の大半の細胞は平滑筋細胞であるのが好適であり、第3の組の多細胞体1’’’中の大半の細胞は線維芽細胞であるのが好適であり、第3の組の多細胞体1’’’における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、第1の組の多細胞体1’または第2の組の多細胞体1’’における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率よりも大きくなるようになっている。しかし、多細胞体1’、1’’、1’’’の大半の細胞型は、本発明の範囲内で、他の細胞型であることもできる。
【0092】
本発明の別の実施形態の3次元構造体301が図8に示されている。指定のない限り、この構造体301は、上記されていると共に図2に示されている構造体101と実質的に同一である。この実施形態では、図2に示されている構造体101で用いられている細長い円筒形多細胞体1のそれぞれが、実質的に球状の一連の多細胞体11と置き換えられている。球状の多細胞体11は、自立する多細胞体を作製するための上記の方法に従って作製するのが好適である。当然ながら、球状の多細胞体11は、上記の多細胞体1の細長い特徴のいずれも有していないので、球状の多細胞体11の形状は、上記の多細胞体1とは異なる。球状の多細胞体11は、管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’を取り囲む管様構造体331を形成するように配列するのが好適である。球状の多細胞体の融合を容易にする目的で、一連(例えば一列)の多細胞体はそれぞれ、隣接する一連の多細胞体からオフセットさせて、球状の各多細胞体の中心が、隣接する一連の多細胞体中の隣接し合っている球状の多細胞体の中心間の距離の約2分の1の点と軸方向で揃うようにすることができる。これによって、隣接し合っている球状の多細胞体11の接触面積が増大するので、融合を容易にすることができる。図8では、管腔を形成する1つ以上のフィラー体5’を取り囲む多細胞体11の層は1つのみであるが、図7または図7Aにおける多細胞体1’、1’’、および1’’’を球状の多細胞体11と置き換えることもできる。球状の多細胞体では、細胞型、それぞれ異なる多細胞体における細胞型の組み合わせ、多細胞体中の細胞型の組み合わせに関して、細長い多細胞体と同じ選択肢が得られる。
【0093】
本発明の、図示されていない別の実施形態の3次元構造体では、その構造体は、上記されていると共に図2に示されている構造体101と実質的に同一である。この実施形態では、図2に示されている構造体101で用いられている細長い円筒形の各フィラー体が、実質的に球状の一連のフィラー体と置き換えられている。この球状のフィラー体は、自立するフィラー体を作製するための上記の方法に従って作製するのが好適である。当然ながら、この球状のフィラー体は、上記のフィラー体の細長い特徴のいずれも有していないので、この球状のフィラー体の形状は、上記のフィラー体とは異なる。これらの球状のフィラー体を積み重ねやすくする目的で、一連(例えば一列)のフィラー体はそれぞれ、隣接する一連のフィラー体からオフセットさせて、球状の各フィラー体の中心が、隣接する一連のフィラー体中の隣接し合っている球状のフィラー体の中心間の距離の約2分の1の点と軸方向で揃うようにすることができる。これによって、隣接し合っている球状のフィラー体の接触面積が増大するので、積み重ねやすくすることができる。このような球状のフィラー体では、材料(例えばアガロースなど)に関して、細長いフィラー体と同じ選択肢が得られる。
【0094】
本発明の、図示されていない別の実施形態の3次元構造体では、その構造体は、図8に示されているような細長いフィラー体の少なくともいくつかの代わりに、上記のような球状のフィラー体も含む点以外は、図8に示されている構造体と実質的に同一である。
【0095】
図9は、別の実施形態の3次元構造体(概して401という符号が付されている)の一部を示している。この構造体は、上記の多細胞体1と実質的に同一であることができる細長い多細胞体1と、複数のフィラー体5との配列体であるのが好適である。図9では、多細胞体1とフィラー体5の内側の配列を示す目的で、いくつかの多細胞体1とフィラー体5が取り除かれている。この構造体401では、1つ以上のフィラー体5が、管腔を形成するフィラー体5’となるように配列されている。図示されているように、管腔を形成するフィラー体5’は、細胞が多細胞体から第1の細長い空間411と第2の細長い空間413に内殖するのを防ぐように配列されている。管腔を形成するフィラー体5’は、多細胞体1に実質的に囲まれている。例えば、多細胞体1は、第1の細長い空間411を取り囲む第1の管様構造体431’と、第2の細長い空間413を取り囲む第2の管様構造体431’’とを形成するように配列するのが好適である。管様構造体431’、431’’の全体は示されていないが、これらの管様構造体は、指定のない限り、図2の管様構造体31と同様のものである。
【0096】
一方の管様構造体431’’は、もう一方の管様構造体431’よりも直径が長い。直径が短い方の管様構造体431’を形成する細長い多細胞体1の少なくともいくつかは、管様構造体431’と431’’との交差部441で、直径が長い方の管様構造体を形成する細長い多細胞体1の少なくともといくつかと接触する。さらに、第1の細長い空間の末端を第2の細長い空間に連結するように、管腔を形成する少なくとも1つのフィラー体5’が多細胞体1のギャップ451を貫通していて、管腔を形成するフィラー体5’によって管様構造体431’と431’’に形成される管腔が互いに連結し合うようになっているのが好適である。したがって、この構造体を成熟させることによって、人工血管のような枝分かれした管状人工組織を作製することができる。図9に示されている例では、単一の枝が作られているが、上記の技法を拡張して、直径が多種多様である枝を有する構造体を含め、さらに高次の分岐構造体を作製することができる。また、図9の細長い多細胞体1は、図10の構造体501によって示されているように、球状の多細胞体11と置き換えることができる。さらに、細長い多細胞体1(図9)または球状の多細胞体(図10)によって形成される管様構造体431’、431’’は好適には、図7および図7Aに示されているものと同様の形で、1つ以上の追加的な組の多細胞体を含むように修正することができる。細胞型、それぞれ異なる多細胞体における細胞型の組み合わせ、多細胞体中の細胞型の組み合わせに関して、上記されているものと同じ選択肢が、図9および10に示されている構造体401、501にも適用される。
【0097】
図1Cは、本発明の別の3次元構造体601を示している。この構造体601は必ずしもフィラー体を含んでいるわけではない。その代わりに、一連の細長い多細胞体が、シート様構造体を形成するように、並列して隣接している関係で配列されている。図1Cに示されているシート構造体601には多細胞体1が2つしかないが、これらの多細胞体と並べて、いずれかの数の追加の多細胞体を配置して、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触して、シート構造体601の幅を増大させるようにすることができる。
3次元構造体を作製する方法
【0098】
細長い多細胞体1と球状の多細胞体11を含め、多細胞体を(場合によってはフィラー体5と併せて)用いて、本発明の範囲内で、上記の3次元の生物学的コンストラクトを作製する方法には、多種多様なものがある。例えば、1つの方法は一般に、細長い各多細胞体1が少なくとも1つの他の多細胞体と接触するようなパターンに従って、複数の細長い多細胞体1を配列してから、少なくとも1つ(例えばすべて)の多細胞体1を少なくとも1つの他の多細胞体1に融合させて、所望の3次元人工生物組織を作製することを含む。多細胞体の配列体中にフィラー体を含める必要はない(例えば、図1Cを参照されたい)。しかし、複数の多細胞体(上記の細長い多細胞体1と球状の多細胞体11など)と、1つ以上のフィラー体5を配列して、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体またはフィラー体と接触するようにしてから、それらの多細胞体を融合させて、所望の3次元人工生物組織を形成させることも可能である。
【0099】
多くの方法を用いて、所定のパターンで多細胞体を配列して、所望の3次元構造体を作製してもよい。例えば、多細胞体は、互いにまたはフィラー体と接触するように手作業で配置することも、ピペット、ノズル、もしくは針から押し出すことによって適切な位置に沈積させることも、自動化マシンによって接触させて配置することもできる。図11に示されているように、例えば、1つ以上の器具(好適には、上記の第1の成形器具51、上記のように、多細胞体をモールド301から取り出すキャピラリーピペット51’、および/または、異なる器具を含むことができる)を用いて、多細胞体を持ち上げる(例えば、上記のモールド301から取り出す)。この器具によって、3次元コンストラクト(例えば図1C、図2、図7、図7A、または図8〜図10に示されているようなもの)が組み立てられている組み立て区域(例えばガラス表面)に多細胞体を移すと共に、すでに組み立て区域に移されており、かつ組み立てているコンストラクト中に配置されているいずれかの他の多細胞体といずれかのフィラー体とに対して、多細胞体を適切な位置に分注するか、もしくは他の方法で配置する。
【0100】
多細胞体を所定の位置に配置した後、上記のプロセスを繰り返して、コンストラクトに別の多細胞体またはフィラー体を(例えば、すでにコンストラクト中に配置されている多細胞体と並べて配置することによって、)追加するのが好適である。組み立てているコンストラクトが、1つ以上のフィラー体を含む場合には、別の器具(図示されていないが、成形器具51またはキャピラリーピペット51’と同様のものであってよい)を用いてフィラー体5を持ち上げ(または上記のようにフィラー体を作製し)、そのフィラー体を組み立て区域に移し、フィラー体を必要とするいずれかの時点で、そのフィラー体を所定の位置で、組み立てているコンストラクト中に分注するか、または別の方法で配置するのが好適である。多細胞体を組み立て区域に移すのに用いる器具51、51’は、多細胞体とフィラー体を所望のパターンで配置する目的で使用できるバイオプリンターの印刷ヘッドまたはその他の自動化装置によって運ばれるのが好適である。例えば、1つの好適なバイオプリンターは、米国特許出願公開第20040253365号に開示されており、この特許は参照により本明細書によって組み込まれる。ティッシュエンジニアリングの技術分野に精通した者であれば、多細胞体(およびフィラー体を用いる場合にはフィラー体)を配列して好適なコンストラクトにする目的で用いることができる他の好適なバイオプリンターと類似の装置を熟知しているであろう。フィラー体を組み立て区域に移すのに用いる器具は、バイオプリンターの別のヘッドの一部であるのが好適である。バイオプリンターは、複数のヘッドを有することができ、および/または、多細胞体とフィラー体を移すための各種の器具51、51’を1つ以上のバイオプリンターヘッドに順次的に搭載することができる。バイオプリンターまたは類似の装置を用いて、本発明のコンストラクトを自動的に組み立てるのが望ましいこともあるが、本明細書に記載されている方法は、本発明の範囲内で、手作業で(例えば1つ以上のキャピラリーピペットを用いて)実施することもできる。
【0101】
図11に示されているように、多細胞体1は、1つ以上のフィラー体5の上に配置する(例えば積み重ねる)のが好適である。多細胞体1は、他の多細胞体および/またはフィラー体5に隣接させて配置するのが好適である。したがって、多細胞体1は、いずれのフィラー体5の中にも押し込んだり、または埋め込んだりしない。多細胞体をゲルまたは液体に分散させないので、これは「大気中での印刷」と称することができる。図12に示されている方法は、図11に示されている細長い多細胞体1の代わりに、球状の多細胞体11を用いる点以外は、図11に示されている方法と実質的に同様のものである。図11は、図2に示されているコンストラクトを、図12は、図8に示されているコンストラクトを作製するプロセスを示しているが、本発明の範囲内で、実質的に同じ方法で、図1C、図7、図7A、図8、および図9に示されていると共に上記されているようなコンストラクト(および他の多くのコンストラクト)を作製できることが分かる。
【0102】
コンストラクトを組み立て終えたら、コンストラクトの最上部の上から組織培地を注入するのが好適である。この組織培地は、多細胞体とフィラー体との間の空間17に入って、多細胞体中の細胞を支えることができる。3次元コンストラクト中の多細胞体を互いに融合させて、人工生物組織を作製する。「融合させる」、「融合した」、または「融合」とは、接触している多細胞体の細胞が、細胞表面タンパク同士の相互作用を通じて直接的に、または、それらの細胞とECM成分またはECM成分の誘導体との相互作用を通じて間接的に、互いに接着し合うようになることを意味する。融合後、コンストラクト中に含まれていたすべてのフィラー体を人工組織から引き離す。管様構造体を含むコンストラクトの場合には、例えば、その管の外側にあるすべてのフィラー体を(例えば、管様コンストラクトから形成された管状構造体から剥がすことによって、)取り除くことができる。管腔を形成するフィラー体で、管状構造体の内側にあるフィラー体5’はいずれも、管状構造体の開口端から引き抜くのが好適である。管腔を形成するフィラー体5’は好適には、管腔からフィラー体を引き抜きやすくするために、所望に応じて、可とう性物質で作製することができ、これは、(例えば、人工組織が、枝分かれした管状構造体である場合に)有益であることがある。別の選択肢は、融合後に(例えば温度変化、光、またはその他の刺激によって)溶解させることができる材料から、フィラー体5と、管腔を形成するフィラー体5’を作製することである。
【0103】
本発明はさらに、本発明の多細胞体を用いて、所定の3Dパターンに従って、事前に選択した受容環境中に複数の多細胞体をさらに配列して、細胞ユニットが融合して所望のバイオコンストラクトになるようにすることによって、組織、血管、または臓器のように3D形状を有する生物学的コンストラクトをエンジニアリング技術で作製する別の方法を提供する。融合する2つ以上の多細胞体は、形状とサイズが同一のものであっても、異なるものであってもよいと共に、同じ細胞型を含んでも、異なる細胞型を含んでもよい。数多くの方法で、上記の多細胞体をバイオコンストラクトエンジニアリングに適用してよい。例えば、所望の構造体の上半分と下半分を含む形状の異なる2つの多細胞体を作製してよいと共に、これらの多細胞体を接触させ融合させてもよい。あるいは、複数の多細胞体を組み立て、フィラー体と組み合わせて所望の形状に融合させてもよい。1つの実施形態によれば、多細胞体をフィラー体と共に用いる場合、上記のエンジニアリング法は、A)複数の多細胞体を所定のパターンに従って、複数のフィラー体と所定の通りに組み合わせて配列して、層状コンストラクトを形成させる工程(これにより、多細胞体とフィラー体は接触している)と、B)成熟のために、事前に選択した制御環境中に前記層状コンストラクトを沈積させる工程(これにより、多細胞体が互いに融合しあって、融合したコンストラクトが得られる)と、C)この融合したコンストラクトからフィラー体を取り除いて、所望の生物学的コンストラクトを作製する工程とを含んでもよい。
【0104】
さらに、2つ以上の細胞型を含むバイオコンストラクトが作製されるように、各多細胞体1、11は、2つ以上の細胞型から構成されていてもよい。これらの細胞型は、当該構造体の表面に対する親和性、または細胞間相互作用のようなその他の力に基づいて区別されるものと予想することができる。例えば、平滑筋細胞と内皮細胞との混合物から円筒形の成型多細胞体を作製して、移植可能な血管のような管状構造体を作製してよい。続いて、これらの多細胞体を適切な位置(例えば図2に示されているような位置)に配置し、融合させて管状コンストラクトにする。コンストラクトの管腔を通じてコンストラクトを灌流すると、内皮細胞は、管状コンストラクトの中央の内面に移動する一方で、平滑筋細胞は、コンストラクトの外側を占めるものと予想することができる。別の例として、多細胞体1が、内皮細胞と線維芽細胞との混合物を含む場合には、コンストラクトの管腔を通じてコンストラクトを灌流すると、内皮細胞は、管状コンストラクトの中央の内面に移動する一方で、線維芽細胞はコンストラクトの外側を占めるものと予想することができる。別の例として、多細胞体1が、平滑筋細胞と線維芽細胞との混合物を含む場合には、平滑筋細胞は、管状コンストラクトの中央の内面に移動する一方で、線維芽細胞は外側を占めるものと予想することができる。さらなる例として、多細胞体1が、内皮細胞と平滑筋細胞と線維芽細胞との混合物を含む場合には、コンストラクトの管腔を通じてコンストラクトを灌流すると、内皮細胞は、コンストラクトの内層にソーティングされるものと予想することができ、線維芽細胞は、コンストラクトの外層にソーティングされるものと予想することができ、平滑筋細胞は、内側の内皮層と外側の線維芽細胞層とに挟まれた中間層にソーティングされるものと予想することができる。
3次元の人工管状構造体
【0105】
本発明はさらに、本発明の方法に従ってエンジニアリング技術で作製した管状細胞コンストラクトの例を提供する。図13および図14は、本明細書に記載されているプロセスによって構築した実際の管状バイオコンストラクトを示している。図13は、成熟させてフィラー体を取り除いた後の2つの異なる管状バイオコンストラクトの側部を示している。図14は、すべてのフィラー体を取り除いた後の管状コンストラクトの末端を示している。
【0106】
このようなコンストラクトの1つの実施形態は、図15に概略が示されており、概して801という符号が付されている。3次元管状構造体801は、少なくとも1つのフィラー体5’と、互いに凝集し合っている複数の生体細胞とを含み、これらの生体細胞が、少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む管状構造体801を形成している。フィラー体5’はコンプライアントな生体適合性物質を含み、この生体適合性物質は、細胞がその物質に移動および内殖するのを妨げると共に、細胞がその物質に接着するのを妨げるものである。また、この生体適合性物質は、栄養分に対する透過性があってもよい。
【0107】
上記の3次元管状構造体の長さは、好適には少なくとも約1000マイクロメートルであり、より好適には少なくとも約5センチメートル(例えば約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲)である。いくつかのケースでは、3次元管状構造体の長さは、約30センチメートル未満であるのが好適である。多細胞体と同様に、3次元管状構造体の長さには理論的上限がないので、長い管状構造体の作製に関連する実施上の問題(例えば、十分な量の細胞を得る問題、当該構造体を作成するのに必要となる場合のある長い多細胞体を取り扱う問題など)を克服したいと考える限りは、本発明の範囲内で、長さが30センチメートル(または、30センチメートルとは異なる任意の長さ)を超える3次元管状構造体を作製することも可能であると認められる。
【0108】
個々の多細胞体のように、上記の3次元管状構造体は、単一の細胞型からなることも、複数の細胞型を含むこともできる。上記の3次元管状構造体は、上記のさまざまな細胞型のいずれかを用いて作製することができる。したがって、例えば、管状構造体は、実質的にホモ細胞型であることができる(すなわち、管状構造体中のほぼすべての生体細胞は、単一の細胞型の細胞であり、低レベルの純度に対してある程度の許容性があり、その管状コンストラクトの成熟にごくわずかな影響しか及ぼさない異なる細胞型の細胞を比較的少数含む)。より具体的には、上記の管状構造体の細胞は好適には、本質的に単一の細胞型の細胞からなることができる。あるいは、上記の管状構造体の細胞は好適には、第1の細胞型の生体細胞を含むことができ、少なくとも約90パーセントの細胞が、上記の第1の細胞型の細胞である。
【0109】
上記の管状構造体は、2つ以上の異なる細胞型を含むヘテロ細胞型であることもできる。管状構造体が脈管管状構造体である場合には、その管状構造体は、通常脈管組織に存在する細胞型(例えば、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞など)を含むのが有益である。1つの例では、管状構造体の細胞は、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞を含み、この第2の細胞型は上記の第1の細胞型とは異なる。別の例では、上記の管状構造体の細胞は、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞とを含む。したがって、脈管管状構造体では、細胞は好適には、(i)内皮細胞および平滑筋細胞、(ii)平滑筋細胞および線維芽細胞、(iii)内皮細胞および線維芽細胞、または(iv)内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞を含むことができる。さらに、脈管管状構造体では、内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞は有益なことに、天然の組織に存在する細胞型の層を模する層を形成することができる。したがって、1つの例では、内皮細胞と平滑筋細胞とを含む脈管管状構造体においては、内皮細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するのが有益であり、平滑筋細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するのが有益である。別の例では、内皮細胞と線維芽細胞とを含む脈管管状構造体においては、内皮細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するのが有益であり、線維芽細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するのが有益である。別の例として、平滑筋細胞と線維芽細胞とを含む脈管管状構造体においては、平滑筋細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するのが有益であり、線維芽細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、平滑筋細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するのが有益である。別の例では、内皮細胞と平滑筋細胞と線維芽細胞とを含む脈管管状構造体においては、内皮細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するのが好適であり、平滑筋細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む第2の層を形成するのが好適であり、線維芽細胞は、前記少なくとも1つのフィラー体と、内皮細胞によって形成された内層と、平滑筋細胞によって形成された第2の層とを実質的に取り囲む第3の層を形成するのが好適である。
【0110】
また、枝分かれした3次元管状構造体も本発明の範囲内である。このような構造体の1つの例では、複数の生体細胞が、管腔を形成するフィラー体である1つ以上のフィラー体を実質的に取り囲む枝分かれした管状構造体を形成する。この管腔を形成するフィラー体は、上記の生体細胞が第1および第2の細長い空間に内殖するのを防ぐ目的で配列されており、このケースでは、第1の細長い空間の末端が、第2の細長い空間の側部と隣接している。
【0111】
前記少なくとも1つのフィラー体のコンプライアントな生体適合性物質は、アガロース、寒天、ヒアルロン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される。前記少なくとも1つのフィラー体は、そのフィラー体を管状構造体から引き抜くことによって、管状構造体から引き離すことができるのが好適である。
【実施例】
【0112】
実施例1:ブタ平滑筋細胞を用いた多細胞体の調製およびティッシュエンジニアリング
I.ブタ平滑筋細胞 過去の研究で用いた条件と同じ条件で、ブタ平滑筋細胞(SMC)を増殖させた。その培地組成物は、10%ブタ血清、10%ウシ血清、プロリン50mg/L、アラニン20mg/L、グリシン50mg/L、アスコルビン酸50mg/L、血小板由来増殖因子−BB(PDGF−BB)12μg/L、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)12μg/L、CuSO43.0μg/L、HEPESバッファー0.01M、ならびに、ペニシリンおよびストレプトマイシン1.0×105ユニット/Lを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(低グルコース)であった。ゼラチン(ブタの皮膚由来のゼラチン)をコーティングした10cmのペトリ皿で上記の細胞を増殖させ、37℃、5%CO2にてインキュベートした。そのSMCを継代7代目まで継代培養してから、多細胞体(例えば細胞ユニット)の調製用に用いた。24個の細胞ユニットと4本の管(外径(OD):1.5mm、内径(ID):0.5mm、長さ(L):5cm)を調製するには、18枚のコンフルエントなペトリ(例えば細胞培養)皿が必要であった。
II.アガロースモールド
【0113】
(i)2%アガロース溶液の調製 2gのUltrapure Low Melting Point(LMP)Agaroseを100mlの超純水/バッファー溶液(1:1、v/v)に溶解させた。このバッファー溶液は、PBS、すなわちダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(1×)、またはHBSS、すなわちハンクス平衡塩類溶液(1×)であることができる。温水(80℃超)の入ったビーカーに上記のアガロース溶液を入れ、アガロースが完全に溶解するまでホットプレート上に保った。温度が約36℃超であれば、このアガロース溶液は液体のままである。36℃未満では相転移が起こり、粘度が上昇し、最終的にはアガロースがゲルを形成する。
【0114】
(ii)アガロースモールドの調製 ペトリ皿(直径10cm)に適合するTeflonプリント(すなわちTeflonツール)を用いて、アガロースモールドを形成した(図5A〜図5C)。このアセンブリー(Teflonプリント+ペトリ皿)を水平に保ち、余熱しておいたアガロース約40mlをTeflonプリントの孔を通じてペトリ皿に入れた。すべての気泡を取り除いた後、このアセンブリーを4℃にて少なくとも1時間置いた。アガロースが完全にゲル化した後、Teflonプリントを取り除いたところ、アガロース中に溝が現れた(図4Dの溝305を参照されたい)。このモールドに10mlの培地を加えた。
III.多細胞体の調製
【0115】
コンフルエントなペトリ皿から培地を取り除き、10mlのHBSS+2mMのCaCl2で細胞を洗浄した。0.1%トリプシン1.5mlを均一に播き、表面から細胞を剥がした。このペトリ皿に、5mlの培地+2mMのCaCl2を加えた。この細胞懸濁液を900gにて5分間遠心分離した。培地(すなわち上清)を取り除いた後、細胞ペレットを200μlの培地+2mMのCaCl2に再懸濁させ、数回、吸い上げたり押し出したりして(すなわち、激しくピペッティングして)、細胞クラスターを分解させて、単一の細胞懸濁液を得た。15mlの遠心チューブ内に置いた2mlのエッペンドルフチューブに、この溶液を移した。1300gにて2分間遠心分離することによって、高密度細胞ペーストを形成させた。培地(すなわち上清)を取り除いて、1mlのエッペンドルフピペッターに取り付けられている1mlのチップの中に挿入したキャピラリーチューブ(OD1mm、ID0.5または0.3mm)に細胞ペーストを吸引によって移した。細胞ペーストの入ったキャピラリーチューブを培地+2mMのCaCl2中で15分間、37℃、5%CO2にてインキュベートした。成形した細胞ペーストをキャピラリーチューブからプランジャーによって、培地で満たしたアガロースモールドの溝の中に押し出した(図3C)。このモールドをインキュベーター内に一晩置いた。翌日、成熟した多細胞体を手作業でキャピラリーチューブの中に吸引し(すなわち吸い込み)(図3D)、次に使用するまで培地中に置いた。
IV.ティッシュエンジニアリング
【0116】
2%アガロースの予熱溶液10mlを直径10cmのペトリ皿に沈積させ、均一に広げて、均一な層を形成させた。アガロースゲルを冷蔵庫内で4℃にて調製した。キャピラリーチューブにアガロース溶液を充填し、(冷気を吹き込むことによって、または冷たいPBS溶液を用いて)急冷し、フィラー体を形成させた。管腔を形成するフィラー体の場合には、アガロース濃度は4%で、他のすべてのフィラー体では、アガロース濃度は2%であった。双眼顕微鏡下で、ピストンまたはワイヤを用いてフィラー体をキャピラリーチューブから押し出し、5cmのアガロース棒(すなわちフィラー体)をペトリ皿内部のアガロース層の上に真っ直ぐ置いた。第2のフィラー体を第1のフィラー体に並列させ、9個のフィラー体を沈積して1段目の層が形成されるまで、同様の作業を繰り返した。図11に示されているように、2段目の層を構成する6個のフィラー体を沈積させた。2つの多細胞体を第4および第5の位置に沈積させて、1段目の層の管を形成させた。5個のフィラー体を沈積させると共に、2つの多細胞体を第3および第5の位置に沈積させることによって、3段目の層を形成させた。4段目の層は、4個のフィラー体と、第3および第4の位置の2個の多細胞体から構成させた。5段目の層は、5個のフィラー体から構成させた(図2)。沈積プロセス全体を通じて、少量の培地(加える時点で10μl)をコンストラクトの側部に加えて、材料(アガロースと多細胞体)の脱水を回避した。0.5〜1mlの液体アガロース(37℃<T<40℃)をコンストラクトの周囲および上に注ぎ、コンストラクトの完全性を保った。ゲル化後、コンストラクトが完全に沈むまで培地を加えた。このコンストラクトをインキュベーター内に入れた。48時間後、多細胞体が互いに融合した。アガロースを管状構造体の外面から剥がすと共に、管状構造体の管腔を満たしているフィラー体を管状構造体から引き抜くことによって、アガロースを取り除いた。続いて、さらに成熟させるために、この管をバイオリアクターに移した。この成熟プロセス用には、いずれの市販のバイオリアクターも用いることができる。
実施例2:多細胞体の調製およびティッシュエンジニアリングのための代替的な手順
I.さまざまな型の細胞用の増殖条件
【0117】
10%ウシ胎仔血清(FBS)、抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン100U/mLおよびゲンタマイシン25μg/mL)、ならびにジェネティシン400μg/mlを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、N−カドヘリンでトランスフェクションしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を増殖させた。ゲンタマイシンに加えて、すべての抗生物質をインビトロジェンから購入した。
【0118】
ヒト臍静脈平滑筋細胞(HUSMC)とヒト皮膚線維芽細胞(HSF)をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから購入した(HUSMCはCRL−2481、HSFはCRL−2522)。10%FBS、抗生物質(ペニシリン−ストレプトマイシン100U/mLおよびゲンタマイシン25μg/mL)、内皮細胞増殖助剤(ECGS)20μg/mL、ならびにピルビン酸ナトリウム(NaPy)0.1Mを添加したDMEMとハムF12(比率3:1)中で、HUSMCを増殖させた。20%FBS、抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン100U/mLおよびゲンタマイシン25μg/mL)、グルタミン2mM、NaPy0.1Mを添加したDMEMとハムF12(比率3:1)中で、ヒト皮膚線維芽細胞(HSF)を増殖させた。
【0119】
10%FBS、10%ブタ血清、L−アスコルビン酸、硫酸銅、HEPES、L−プロリン、L−アラニン、L−グリシン、およびペニシリンGを添加した低グルコースDMEM中で、新鮮分離したブタ大動脈平滑筋細胞(PASMC)を増殖させた。
【0120】
0.5%ゼラチン(ブタ皮ゼラチン)をコーティングした皿で、すべての細胞株(CHOを除く)を培養し、5%のCO2を含む加湿雰囲気中にて37℃で維持した。
II.多細胞体の調製
【0121】
細胞培養液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、0.1%トリプシンで10分間処理し、得られた細胞懸濁液を1,500RPMにて5分間、遠心分離した。4mlの細胞型特異的培地中に細胞を再懸濁させ、接着の回復のために、10mlの組織培養用フラスコ内で37℃にて5%のCO2と共に、旋回シェーカーで1時間インキュベートしてから、1,500RPMにて5分間、遠心分離した。続いて、その細胞を200μlの培地中に再懸濁させ、激しくピペッティングし、3,500RPMにて2分間、再度遠心分離した。内径が300μmまたは500μmのキャピラリーチューブに、得られた細胞ペレット(細胞ペースト)を移し、37℃にて5%のCO2と共に15分間インキュベートした。
【0122】
実質的に球状の多細胞体の調製には、HSFまたはCHO細胞を用い、部分的に凝集している細胞ペーストを機械的に押し出し、均等に切断して断片化し、一晩、旋回シェーカーで37℃、5%のCO2にてそれらの断片が集まるようにした。キャピラリーチューブの直径に応じて、この手順によって、所定のサイズと細胞数の均一なスフェロイドが得られた。
【0123】
細長い多細胞体の調製には、PASMC、HUSMC、またはHSFを用い、特異的に調製した非接着性のTeflonまたはアガロースモールドの中に、バイオプリンターを用いて、部分的に凝集している細胞ペーストを機械的に押し出した。前記モールドにて37℃、5%のCO2で一晩成熟させたところ、実施例1に記載されているように、3次元人工組織を作製する目的で、フィラー体と共に沈積させるのに十分な程度に、多細胞体が凝集した。
III.フィラー体の調製
【0124】
アガロース棒を調製する目的で、液体アガロース(温度>40℃)をキャピラリーチューブ(IDが300または500μm)に充填した。管腔を形成するフィラー体の調整では、アガロース濃度は4%に、他のすべてのフィラー体の調整では、アガロース濃度は2%にした。充填したキャピラリーチューブを冷たいPBS(4℃)に浸漬させた。アガロースはキャピラリーチューブに接着しないので、ゼラチン上では、バイオプリンターによって、別の印刷ヘッドを用いて、連続的な棒を簡単に押し出すことができた。
IV.免疫組織化学
【0125】
組織を一晩、4%パラホルムアルデヒド中で固定した。脱水後、パラフィン浸透およびパラフィン包埋のために、組織を処理した。全体的な性状を得るために、5μmの切片をヘマトキシリン−エオシンで染色した。免疫組織化学を得るために、抗切断カスパーゼ−3抗体(マウスおよびヒト切断カスパーゼ−3と反応するウサギ抗切断カスパーゼ−3ポリクローナル抗体の1:50希釈物)、抗平滑筋アクチン抗体(マウス抗ヒト平滑筋アクチン(1A4)の1:400希釈物という抗体と共に、切片をインキュベートした。2次抗体(EnVision+、抗マウス抗体または抗ウサギ抗体とコンジュゲートしたホースラディシュペルオキシダーゼ標識ポリマー)をDAB(3’−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド)を用いて視覚化した。切片をマイヤーヘマトキシリンで対比染色し、顕微鏡(IX70)検査のためにカバースリップで覆った。
V.実質的に球状の多細胞体を用いたティッシュエンジニアリング
【0126】
実質的に球状の多細胞体を組み立てて、所定のトポロジーのカスタマイズ型管状構造体にするために、ビルディングブロックとしてフィラー体(例えばアガロース棒)を用いることに基づき、足場を用いないアプローチを設計した。アガロース棒と、実質的に球状かつ実質的に均一な多細胞体とを層状に沈積させたところ、管の直径、肉厚、および分岐パターンを正確に制御することができた(図10)。
【0127】
このアプローチを用いて、図8に示されているパターンに従って、まず、真っ直ぐな管を手作業で構築した。HSFからなる実質的に球状の多細胞体を用いて、最小の管を組み立てた。その管の直径は900μmで、肉厚は300μmであった(図16A)。組み立てたところ、その実質的な多細胞体が5〜7日のうちに互いに融合し合って、最終的な管状コンストラクトが得られた。この融合プロセスについてさらに詳しく観察するために、緑色または赤色の膜色素で染色したCHO細胞を用いて、実質的に球状の多細胞体を作製してから、図8に示されているスキームに従って、この多細胞体を組み立てた。緑色のスフェロイドと赤色のスフェロイドが交互に融合していることが、図16Bに示されており、はっきりした融合境界が、ほとんど混ざり合うことなく現れており、過去の発見が裏付けられた。
【0128】
本発明は、管の直径および肉厚の柔軟性に加えて、その独自の特長として、枝分かれした大血管構造体を構築する方法を提供する。この目的では、確実に管腔を正確に連結させるために、血管樹の種々の枝を同時に組み立てた。図10のパターンに従って、HSFからなる直径300μmの実質的に球状の多細胞体を用いて、直径の異なる枝を有する、枝分かれした管状構造体(図16C)を構築した。これらの枝の直径は、1.2mm(実線の矢印)と0.9mm(点線の矢印)であった(図16C)。これらの実質的に球状の多細胞体は、5〜7日のうちに互いに融合し合って、融合済みの枝分かれした管状構造体(図16D)が形成された。
VI.細長い多細胞体を用いて、1層および2層状の脈管性管を作製するためのティッシュエンジニアリング
【0129】
スピード、精度、および再現性を向上させると共に、それによって、上記の方法を潜在的な臨床応用に適合させる目的で、上記(図2)と同じ概念的アプローチを保ちながら、特異的に構築した3次元配列装置(すなわちバイオプリンター)をフィラー体(例えばアガロース棒)と細長い多細胞体との沈積用に適合させた。
【0130】
コンピューターを利用したラピッドプロトタイピングバイオプリンティング技術によって、上記(図2)と同じテンプレートに従って、フィラー体(例えばアガロース棒)と細長い多細胞体(例えば多細胞性シリンダー)を制御下で同時に沈積可能にした。垂直に移動する2つの印刷ヘッド(一方は、アガロース棒の調製および押し出し用、もう一方は、多細胞性シリンダーの沈積用)が搭載されているバイオプリンターを用いて、沈積作業を行った。アガロース棒の充填、ゲル化、および押し出しは、全自動サイクル中で行った。まず、充填を行うために、印刷ヘッドに取り付けられているキャピラリーピペット−カートリッジを、加温液体アガロースの入ったバイアルの中に移動させた。次に、アガロースを速やかにゲル化させるために、充填したカートリッジを、PBSの入った冷したバイアルに浸漬させた。最後に、得られたアガロース棒をペトリ皿に押し出した。浸漬スキーム(多細胞性シリンダーの配列作業ともいう)の際に、上記の多細胞性シリンダーの1つをアガロースモールドからキャピラリーピペットに吸い入れた。続いて、このキャピラリーピペットを第2の印刷ヘッドに充填し、アガロース棒と同様に、多細胞性シリンダーを押し出した。図2に示されているデザインに従って、HUSMCからなる単純な真っ直ぐの管を印刷した。コンピューターを利用して2つの印刷ヘッドを移動および調整して、事前にプログラムしたパターンの再現性を確保した。組み立て後、HUSMCからなる多細胞体が2〜4日のうちに融合して、最終的な管状構造体になり、支持アガロース棒を取り除いた。2つの別個の直径(それぞれ外径が1200マイクロメートルと900マイクロメートル)を有する融合済みの管が図13に示されている。
【0131】
次に、大血管系中の脈管と似ている2層状の脈管性管であって、培地と外膜を有する脈管性管を構築した。この管では、図17に示されているパターンに従って、HUSMCシリンダーとHSFシリンダーの両方をビルディングブロックとして用いた。この方法の汎用性を示すために、代わりに、生体内に相当する物がないパターンで、HUSMCとHSFからなる多細胞性シリンダーを沈積させることによって、エンジニアリング技術で管を作製した(図17E)。HUSMCをヘマトキシリン−エオシン(H&E)(図17B、図17F)と、平滑筋アクチン(図17C、図17G)で染色したところ、融合の3日後に、人工コンストラクトにおけるSMCと線維芽細胞の層または領域の間に明確な境界が現れた。カスパーゼ3で染色したところ、管状構造体の壁の中に、アポトーシスを起こした細胞が数個、現れた(図17D、図17H)。図17A〜図17Dに示されている、より複雑な2層状の構造体では、融合に必要な時間が長くなった。
【0132】
これらの1層または2層状の管は、外径が約0.9mm〜約2.5mmの範囲であった。
【0133】
本発明のティッシュエンジニアリング法は、人工コンストラクトを細胞のみから構築し、可能な限り高い細胞密度を実現させる。本物の脈管は、隣接するSMCが重なり合った状態で、比較的細胞密度の高い層をもたらすので、上記の点は重要である。本発明の方法では、多細胞性の3次元スフェロイドまたはシリンダーをビルディングブロックとして用いる。細胞間相互作用による組織の凝集は、液体系を用いた類推によって既に定量化されており、これまで観察された細胞型の中でも、SMCは非常に自己凝集性が高いものの1つであることが報告されている。多細胞性の組み立て体と液体との類推によって、本発明で用いられている発生的形態形成プロセスの一部に対する理解が深まった。本発明での研究で説明されている多細胞性スフェロイドおよびシリンダーの集合または融合は、時間の尺度において、運動性細胞と接着細胞とからなる組織が、高粘性の非圧縮性液体によく似ているという物理的理解(ティッシュエンジニアリングにおいて過去に用いられてきた概念)と整合している。
実施例3:多細胞体および3次元の融合管状構造体の調製の際に、ゼラチンおよび/またはフィブリンを利用すること
【0134】
ヒト大動脈平滑筋細胞(HASMC)をカスケード・バイオロジクスから購入した(C−007−5C)。平滑筋増殖助剤(SMGS)を添加した培地231中で、HASMCを増殖させた。コーティングを施していない細胞培養皿でHASMCを増殖させ、5%のCO2を含む加湿雰囲気中にて37℃で維持した。
【0135】
上の実施例1および2に示されているように、HASMCをトリプシン処理し、組織培地中に再懸濁させ、遠心分離した。遠心分離後、組織培地(すなわち上清)を取り除き、細胞(1枚のコンフルエントなペトリ皿)をまず、フィブリノゲン溶液(0.9%のNaCl中に50mg/ml)100μl中に再懸濁させてから、ゼラチン溶液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に20%)を70μl加えた。この細胞懸濁液を再度遠心分離し、上清を取り除き、細胞ペーストをキャピラリーチューブの中に吸引できるようになるまで、細胞ペレットの入った遠心チューブを37℃(ゼラチンが液体の状態を保つ温度)の水浴中に置いた。続いて、この細胞ペーストをキャピラリーチューブの中に吸引させ、氷冷したPBS溶液中に15分間置いた。この工程中、ゼラチンはゲル化し、第2の成形工程または第2のインキュベート工程の必要性なしに、多細胞体を、即座に印刷できるほど十分に凝集させた。上の実施例1に示されているように、多細胞体をフィラー体と共に、受容表面上に沈積させて、所望の3次元の生物学的構造体(例えば管状構造体)を形成させた。各層を沈積させた後、トロンビン溶液(50U/ml)を加え、フィブリノゲンをフィブリンに転換させた。続いて、上の実施例1に示されているように、多細胞体の成熟と相互融合のために、この3次元構造体をインキュベーター内に置いた。
【0136】
図18は、上記の方法を用いて作製したいくつかの管状構造体であって、沈積から12日後の構造体を示している。図18Aは、上記の方法を用いて作製した管状構造体であって、アガロースフィラー体を取り除く前の構造体を示しており、図18B〜図18Gは、アガロースを取り除いた後の構造体を示している。図18Cと図18Dは、上記の方法を用いて作製した管状構造体であって、多細胞体間の融合の程度を示す目的で、長手方向に切断して開いた構造体を示している。図18E〜図18Gは、上記の方法を用いて作製した管状構造体の横断図である。
【0137】
本発明の具体的な実施形態と関連させながら、本発明について説明してきたが、本発明の方法論は、さらなる修正が可能であることが分かるであろう。本特許出願は、一般に、本発明の原理に従っていると共に、本発明と関連する技術分野内の既知または慣例的な実施態様内に入るような本開示からの逸脱形態、および本明細書でこれまで示してきた本質的な特長に適用できるような本開示からの逸脱形態、および添付の特許請求の範囲に従うような本開示からの逸脱形態を含む本発明のあらゆる変形形態、用途、または適合形態を網羅するように意図されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の生体細胞と組織培地とを含む細長い多細胞体であって、前記細胞が互いに凝集し合っており、前記多細胞体の長さが少なくとも約1000マイクロメートルであり、前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である多細胞体。
【請求項2】
複数の生体細胞を含む細長い人工多細胞体であって、前記細胞が互いに凝集し合っており、前記多細胞体の長さが少なくとも約1000マイクロメートルであり、前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である多細胞体。
【請求項3】
神経が発達していない非軟骨性の細長い多細胞体であって、複数の生体細胞を含み、前記細胞が互いに凝集し合っており、前記多細胞体の長さが少なくとも約1000マイクロメートルであり、前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である多細胞体。
【請求項4】
管腔がない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項5】
管腔がない細長い多細胞体であって、複数の生体細胞と組織培地とを含み、前記細胞が互いに凝集し合っており、前記多細胞体のアスペクト比が少なくとも約2である多細胞体。
【請求項6】
長さが少なくとも約1センチメートルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項7】
長さが少なくとも約5センチメートルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項8】
長さが約30センチメートル未満である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項9】
長さが約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項10】
前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約31,400平方マイクロメートル〜約250,000平方マイクロメートルの範囲である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項11】
前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約31,400平方マイクロメートル〜約90,000平方マイクロメートルの範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項12】
実質的に円筒形であると共に、実質的に円形の断面を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項13】
本質的に単一の細胞型の複数の生体細胞からなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項14】
第1の型の生体細胞を含むと共に、少なくとも約90パーセントの細胞が前記第1の型の細胞である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項15】
前記複数の生体細胞が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項16】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞である、請求項15に記載の多細胞体。
【請求項17】
前記第1の型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項15に記載の多細胞体。
【請求項18】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項15に記載の多細胞体。
【請求項19】
前記複数の生体細胞が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれが、前記第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型と異なる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項20】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第3の細胞型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項19に記載の多細胞体。
【請求項21】
1種以上の細胞外マトリックス成分、または1種以上の細胞外マトリックス成分の1種以上の誘導体をさらに含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項22】
前記1種以上の細胞外マトリックス成分の1種以上の誘導体がゼラチンを含む、請求項21に記載の多細胞体。
【請求項23】
前記1種以上の細胞外マトリックス成分がフィブリノゲンまたはフィブリンを含む、請求項21または22に記載の多細胞体。
【請求項24】
前記多細胞体が平面によって支えられているときに、前記多細胞体が3次元形状を保持できるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力であり、前記3次元形状が幅と高さを含み、その高さが幅の少なくとも約2分の1である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項25】
前記多細胞体が平面によって支えられているときに、前記多細胞体が3次元形状を保持できるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力であり、(i)前記多細胞体が前記平面と接触する接触面を前記多細胞体の底部に含むように、かつ(ii)前記平面上の前記多細胞体の3次元形状の2次元投影図の面積が、前記接触面の面積よりも大きくなるように前記3次元形状が形作られている、請求項1〜24のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項26】
前記多細胞体の上に、その多細胞体と実質的に同一である別の多細胞体があるときに、その多細胞体が前記別の多細胞体の重量を支えられるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である、請求項1〜25のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項27】
前記多細胞体を器具によって持ち上げられるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である、請求項1〜26のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項28】
複数の生体細胞を含む細長い多細胞体を作製する方法であって、
複数の生体細胞を含む細胞ペーストを細長い形状に成形することと、
成形した前記細胞ペーストを制御環境中でインキュベートし、前記細胞が互いに凝集し合えるようにして、細長い多細胞体を形成させることと、
を含む方法。
【請求項29】
複数の生体細胞を含む多細胞体を作製する方法であって、
複数の生体細胞を含む細胞ペーストを3次元形状に保つ器具の中で、前記細胞ペーストを成形することと、
平面上で自立するほど十分な凝集力を有する細胞体を作製するのに十分な時間、成形した前記細胞ペーストを前記3次元形状に保ったまま、前記細胞ペーストを制御環境中でインキュベートすることと、
を含む方法。
【請求項30】
複数の生体細胞を組織培地と混合することによって、前記細胞ペーストを作製することをさらに含む、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記作製工程が、前記生体細胞を圧縮することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記圧縮作業が、前記複数の生体細胞を含む細胞懸濁液を遠心分離することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記成形工程が、前記細胞ペーストを第1の成形器具内に保持して、前記第1の成形器具内で前記細胞が部分的に互いに凝集し合えるようにすることと、部分的に凝集した前記細胞ペーストを第2の成形器具に移すことと、部分的に凝集した前記細胞ペーストを前記第2の成形器具内に保持して、前記多細胞体を形成させることとを含む、請求項28〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記第1の成形器具がキャピラリーピペットを含み、前記第2の成形器具が、前記細胞を前記第2の成形器具内に保持しながら、栄養分と酸素を前記細胞に供給できる器具を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第2の成形器具が、生体適合性物質から作製されたモールドを含み、前記生体適合性物質が、前記物質に前記細胞が移動または内殖するのを妨げると共に、前記物質に前記細胞が接着するのを妨げるものである、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記生体適合性物質が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ステンレス鋼、ヒアルロン酸、アガロース、寒天、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
約10〜約30パーセントのゼラチンを含む溶液と、複数の生体細胞を混合して細胞懸濁液を形成させ、その細胞懸濁液を圧縮して前記細胞ペーストを形成することによって、前記細胞ペーストを作製することをさらに含む、請求項28または29に記載の方法。
【請求項38】
約10〜80mg/mlのフィブリノゲンを含む溶液と、複数の生体細胞を混合して細胞懸濁液を形成させ、その細胞懸濁液を圧縮して前記細胞ペーストを形成することによって、前記細胞ペーストを作製することをさらに含む、請求項28、29、または37に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞ペーストが本質的に単一の細胞型の複数の生体細胞からなる、請求項28〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記細胞ペーストが第1の細胞型の生体細胞を含み、少なくとも約90パーセントの細胞が前記第1の細胞型の細胞である、請求項28〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞ペーストが、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項28〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞ペーストが複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
長さに沿って切断した断面の平均面積が約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
長さに沿って切断した断面の平均面積が約31,400平方マイクロメートル〜約250,000平方マイクロメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
長さに沿って切断した断面の平均面積が約31,400平方マイクロメートル〜約90,000平方マイクロメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
長さが少なくとも約1センチメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを、前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
長さが少なくとも約5センチメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
長さが約30センチメートル未満である細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
長さが約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲である細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
実質的に円形の断面を有する実質的に円筒形の形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形作業が含む、請求項28〜50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
複数の生体細胞と、1種以上の細胞外マトリックス成分または1種以上の細胞外マトリックス成分の1種以上の誘導体とを含む細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
複数の生体細胞とゼラチンとを含む細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
複数の生体細胞とフィブリノゲンとを含む細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項52または53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記細胞ペーストを単一の成形器具内に保持して、前記多細胞体を形成させることを前記成形工程が含む、請求項52〜54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記インキュベート工程が、成形した前記細胞ペーストを単一の制御環境中でインキュベートし、前記細胞が互いに凝集し合えるようにして、前記多細胞体を形成させることを含む、請求項53〜55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
神経が発達していない複数の細長い多細胞体を含む3次元構造体であって、各多細胞体が、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含み、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、前記多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項58】
複数の細長い人工多細胞体を含む3次元構造体であって、各多細胞体が、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含み、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、前記多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項59】
複数の細長い多細胞体を含む3次元構造体であって、各多細胞体が、互いに凝集し合っている複数の生体細胞と、組織培地とを含み、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、前記多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項60】
神経が発達していない複数の多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)
を含む3次元構造体であって、
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項61】
複数の人工多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)
を含む3次元構造体であって、
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項62】
複数の多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞と、組織培地とを含む)
を含む3次元構造体であって、
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項63】
1つ以上のフィラー体をさらに含み、細胞が前記多細胞体から前記フィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を各フィラー体が含み、前記多細胞体と共に、各フィラー体が少なくとも1つの多細胞体または別のフィラー体と接触するようなパターンで、前記フィラー体が配列されている、請求項57または60に記載の3次元構造体。
【請求項64】
複数の多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)と、
複数の離散したフィラー体(各フィラー体は、細胞が前記多細胞体から前記フィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含む)と、
を含む3次元構造体であって、
各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体または少なくとも1つのフィラー体と接触するパターンで、前記多細胞体とフィラー体が配列されている3次元構造体。
【請求項65】
複数の多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)と、
複数のフィラー体(各フィラー体は、細胞が前記多細胞体から前記フィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含む)と、
を含む3次元構造体であって
前記多細胞体によって占められておらず、かつ前記フィラー体によって占められていない複数の空間が前記3次元構造体中に形成されるように、前記多細胞体とフィラー体が配列されている3次元構造体。
【請求項66】
前記3次元構造体中の前記複数の空間の少なくともいくつかが組織培地で満たされている、請求項65に記載の構造体。
【請求項67】
前記多細胞体のそれぞれの長手方向軸に沿って切断した断面の平均面積が、約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である、請求項57〜65のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項68】
前記多細胞体のそれぞれの長さが少なくとも約1000マイクロメートルである、請求項57〜67のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項69】
前記多細胞体のそれぞれの長さが約30センチメートル未満である、請求項57〜68のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項70】
各多細胞体が本質的に単一の細胞型の細胞からなる、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項71】
各多細胞体が第1の型の生体細胞を含み、各多細胞体中の細胞の少なくとも約90パーセントが、前記第1の細胞型の細胞である、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項72】
前記多細胞体の1つ以上が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項73】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞である、請求項72に記載の構造体。
【請求項74】
前記第1の型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項72に記載の構造体。
【請求項75】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項72に記載の構造体。
【請求項76】
前記多細胞体の1つ以上が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞を含み、前記第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれが、前記第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型と異なる、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項77】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第3の細胞型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項76に記載の構造体。
【請求項78】
前記多細胞体の1つ以上のそれぞれの中の細胞の大半が、第1の細胞型の細胞であり、他の1つ以上の多細胞体のそれぞれの中の細胞の大半が、第2の細胞型の細胞であり、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項79】
前記第1の細胞型の細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の細胞が平滑筋細胞である、請求項78に記載の構造体。
【請求項80】
前記多細胞体の形状が実質的に均一である、請求項57〜79のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項81】
前記フィラー体の形状が実質的に均一である、請求項63〜80のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項82】
前記フィラー体と多細胞体の形状が実質的に同一である、請求項63〜81のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項83】
前記フィラー体が細長い形状である、請求項63〜82のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項84】
前記複数の多細胞体の少なくともいくつかが、管様構造体を形成するように配列されており、その管様構造体の内側に、前記フィラー体の少なくとも1つが存在する、請求項63〜83のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項85】
前記多細胞体の少なくともいくつかが、前記管様構造体を形成するように、前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む六角形の配置で配列されている、請求項84に記載の構造体。
【請求項86】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む前記多細胞体のそれぞれが、複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含む、請求項84または85に記載の構造体。
【請求項87】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む前記多細胞体のそれぞれが、複数の線維芽細胞をさらに含む、請求項86に記載の構造体。
【請求項88】
前記多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、前記第1の組の各多細胞体が内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が平滑筋細胞を含み、前記第1の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するように配列されており、前記第2の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む第2の層を形成するように配列されており、前記第1の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、前記第2の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項84または85に記載の構造体。
【請求項89】
前記第2の組における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率が、前記第1の組における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項88に記載の構造体。
【請求項90】
前記多細胞体が第3の組の多細胞体をさらに含み、前記第3の組の各多細胞体が線維芽細胞を含み、前記第3の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された前記内層と、前記第2の組の多細胞体によって形成された前記第2の層とを実質的に取り囲む層を形成するように配列されており、前記第3の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、前記第1の組または前記第2の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項88または89に記載の構造体。
【請求項91】
前記多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、前記第1の組の各多細胞体が、複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含み、前記第2の組の各多細胞体が線維芽細胞を含み、前記第1の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するように配列されており、前記第2の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するように配列されており、前記第2の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、前記第1の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞に対する比率よりも大きい、請求項84または85に記載の構造体。
【請求項92】
前記多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、前記第1の組の各多細胞体が内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が、複数の平滑筋細胞と複数の線維芽細胞とを含み、前記第1の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するように配列されており、前記第2の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するように配列されており、前記第1の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、前記第2の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項84または85に記載の構造体。
【請求項93】
前記1つ以上のフィラー体が、管腔を形成するフィラー体であり、細胞が前記多細胞体から第1および第2の細長い空間に内殖するのを防ぐように、前記管腔を形成するフィラー体が配列されており、前記第1の細長い空間の末端が、前記第2の細長い空間の側部と隣接しており、前記多細胞体が融合して、枝分かれした管状構造体を形成できるように、前記管腔を形成するフィラー体が前記多細胞体に実質的に取り囲まれている、請求項63〜83のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項94】
前記多細胞体のそれぞれが、内皮細胞と平滑筋細胞とを含む、請求項93に記載の構造体。
【請求項95】
前記多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、前記第1の組の各多細胞体が大半の内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が大半の平滑筋細胞を含み、前記第1の組の多細胞体が、前記管腔を形成するフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するように配列されており、前記第2の組の多細胞体が、前記管腔を形成するフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するように配列されている、請求項93に記載の構造体。
【請求項96】
前記複数の多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、
前記第1の組の多細胞体が、長手方向軸を有すると共に、前記第1の細長い空間を取り囲むように、互いに対して概ね平行に配置されており、前記第1の組の多細胞体の長手方向軸が、前記第1の細長い空間と概ね揃っており、
前記第2の組の多細胞体が、長手方向軸を有すると共に、前記第2の細長い空間を取り囲むように、互いに対して概ね平行に配置されており、前記第2の組の多細胞体の長手方向軸が、前記第2の細長い空間と概ね揃っている、
請求項93〜95のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項97】
前記多細胞体の少なくともいくつかが、シートを形成するように配置されている、請求項57〜83のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項98】
前記多細胞体が実質的に円筒形であると共に、実質的に円形の断面を有する、請求項57〜97のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項99】
長さが少なくとも約1センチメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている、請求項57〜98のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項100】
長さが約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている、請求項57〜99のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項101】
前記多細胞体の少なくともいくつかのアスペクト比が約20〜約2000の範囲である、請求項57〜100のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項102】
前記多細胞体のそれぞれの長さが、約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である、請求項57〜101のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項103】
前記多細胞体が平面によって支えられているときに、前記多細胞体が3次元形状を保持できるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力であり、前記3次元形状が幅と高さを含み、その高さが幅の少なくとも約2分の1である、請求項57〜102のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項104】
前記多細胞体が平面によって支えられているときに、前記多細胞体が3次元形状を保持できるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力であり、(i)前記多細胞体が前記平面と接触する接触面を各多細胞体の底部に含むように、かつ(ii)前記平面上の前記多細胞体の3次元形状の2次元投影図の面積が、前記接触面の面積よりも大きくなるように前記3次元形状が形作られている、請求項57〜103のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項105】
前記多細胞体の上に、その多細胞体と実質的に同一である別の多細胞体があるときに、その各多細胞体が前記別の多細胞体の重量を支えられるほど、各多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である、請求項57〜104のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項106】
各多細胞体を器具によって持ち上げられるほど、各多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である、請求項57〜105のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項107】
3次元人工生物組織を作製する方法であって、
各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触するようなパターンに従って、複数の細長い多細胞体を配列すること(各多細胞体は複数の生体細胞を含む)と、
前記多細胞体の少なくとも1つを少なくとも1つの他の多細胞体と融合させることと、
を含む方法。
【請求項108】
前記多細胞体と共に、各フィラー体が、少なくとも1つの多細胞体または別のフィラー体と接触するようなパターンで、1つ以上のフィラー体を配列することをさらに含み、細胞が前記多細胞体から前記フィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を各フィラー体が含む、請求項107に記載の方法。
【請求項109】
3次元人工生物組織を作製する方法であって、
各多細胞体が(i)別の多細胞体、または(ii)フィラー体のうちの少なくとも1つと接触するようなパターンに従って、複数の多細胞体と複数のフィラー体とを配列すること(各多細胞体は複数の生体細胞を含み、各フィラー体は生体適合性物質を含み、その生体適合性物質は、細胞が前記多細胞体からその生体適合性物質に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる)と、
前記多細胞体の少なくとも1つを少なくとも1つの他の多細胞体と融合させることと、
を含む方法。
【請求項110】
前記多細胞体と前記フィラー体を配列して、前記多細胞体によって占められておらず、かつ前記フィラー体によって占められていない複数の空間を有する3次元構造体を形成させることを前記配列工程が含む、請求項108または109に記載の方法。
【請求項111】
前記複数の空間の少なくともいくつかを組織培地で満たすことをさらに含む、請求項110に記載の方法。
【請求項112】
前記配列工程の結果、長さが少なくとも約1000マイクロメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも2つが互いに接触し合う、請求項107〜111のいずれか一項に記載の方法。
【請求項113】
融合した前記多細胞体から前記フィラー体を引き離して、前記人工組織を得ることをさらに含む、請求項108〜112のいずれか一項に記載の方法。
【請求項114】
前記フィラー体の配列工程が、栄養分に対する透過性を持つフィラー体を配列することを含む、請求項108〜113のいずれか一項に記載の方法。
【請求項115】
長手方向軸に沿って切断した断面の平均面積がそれぞれ、約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜114のいずれか一項に記載の方法。
【請求項116】
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項117】
長さが約30センチメートル未満である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜116のいずれか一項に記載の方法。
【請求項118】
本質的に単一の細胞型の細胞からなる多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項119】
前記多細胞体の配列工程が、多細胞体を配列することを含み、その各多細胞体が第1の型の生体細胞を含み、各多細胞体中の細胞の少なくとも約90パーセントが前記第1の細胞型の細胞である、請求項107〜117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項120】
前記多細胞体の配列工程が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含む1つ以上の多細胞体を配列することを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項107〜117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項121】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が平滑筋細胞である、請求項120に記載の方法。
【請求項122】
前記第1の型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項120に記載の方法。
【請求項123】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項120に記載の方法。
【請求項124】
前記多細胞体の1つ以上が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれが、前記第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型と異なる、請求項107〜117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項125】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第3の細胞型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項124に記載の方法。
【請求項126】
実質的に形状が均一である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜121のいずれか一項に記載の方法。
【請求項127】
実質的に形状が均一であるフィラー体を配列することを前記フィラー体の配列工程が含む、請求項108〜126のいずれか一項に記載の方法。
【請求項128】
実質的に形状が同一である多細胞体とフィラー体とを配列することを前記多細胞体とフィラー体の配列工程が含む、請求項108〜127のいずれか一項に記載の方法。
【請求項129】
形状が細長いフィラー体を配列することを前記フィラー体の配列工程が含む、請求項108〜128のいずれか一項に記載の方法。
【請求項130】
前記複数の多細胞体の少なくともいくつかを配列して、管様構造体の内側に前記フィラー体の少なくとも1つを有する管様構造体を形成させることを前記多細胞体とフィラー体の配列工程が含む、請求項108〜129のいずれか一項に記載の方法。
【請求項131】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む六角形の配置で、前記多細胞体の少なくともいくつかを配列して、前記管様構造体を形成させることを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項130に記載の方法。
【請求項132】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む前記多細胞体のそれぞれが、複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含む、請求項130〜131のいずれか一項に記載の方法。
【請求項133】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む前記多細胞体のそれぞれが、複数の線維芽細胞をさらに含む、請求項132に記載の方法。
【請求項134】
第1および第2の組の多細胞体を含む複数の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記第1の組の各多細胞体が内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が平滑筋細胞を含み、前記第1の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成させ、前記第2の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む第2の層を形成させ、前記第1の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、前記第2の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項130〜131のいずれか一項に記載の方法。
【請求項135】
前記第2の組における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率が、前記第1の組における平滑筋細胞の数に対する平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項134に記載の方法。
【請求項136】
第3の組の多細胞体を含む複数の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程がさらに含み、前記第3の組の各多細胞体が線維芽細胞を含み、前記第3の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された前記内層と、前記第2の組の多細胞体によって形成された前記第2の層とを実質的に取り囲む層を形成させ、前記第3の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、前記第1の組または第2の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項134または135に記載の方法。
【請求項137】
第1および第2の組の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記第1の組の各多細胞体が複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含み、前記第2の組の各多細胞体が線維芽細胞を含み、前記第1の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成させ、前記第2の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成させ、第2の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、前記第1の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞に対する比率よりも大きい、請求項130または131に記載の方法。
【請求項138】
第1および第2の組の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記第1の組の各多細胞体が内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が複数の平滑筋細胞と複数の線維芽細胞とを含み、前記第1の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成させ、前記第2の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成させ、前記第1の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、前記第2の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項130または131に記載の方法。
【請求項139】
前記引き離す工程が、前記管様構造体の内側から前記少なくとも1つのフィラー体を引き抜くことを含む、請求項130〜138のいずれか一項に記載の方法。
【請求項140】
管腔を形成するフィラー体である1つ以上のフィラー体を配列することを前記フィラー体の配列工程が含み、前記管腔を形成するフィラー体を配列して、細胞が前記多細胞体から前記第1および第2の細長い空間に内殖するのを防ぎ、前記第1の細長い空間の末端が、前記第2の細長い空間の側部と隣接しており、前記多細胞体が融合して、枝分かれした管状構造体を形成できるように、前記管腔を形成するフィラー体が前記多細胞体に実質的に取り囲まれている、請求項108〜129のいずれか一項に記載の方法。
【請求項141】
前記多細胞体のそれぞれが内皮細胞と平滑筋細胞とを含む、請求項140に記載の方法。
【請求項142】
第1および第2の組の多細胞体を含む複数の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記第1の組の各多細胞体が大半の内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が大半の平滑筋細胞を含み、第1の組の多細胞体を配列して、前記管腔を形成するフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成させ、前記第2の組の多細胞体を配列して、前記管腔を形成するフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成させる、請求項140に記載の方法。
【請求項143】
第1および第2の組の多細胞体を含む複数の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、
前記第1の組の多細胞体が長手方向軸を有すると共に、前記第1の細長い空間を取り囲むように、互いに対して概ね平行に配置されており、前記第1の組の多細胞体の長手方向軸が、前記第1の細長い空間と概ね揃っており、
前記第2の組の多細胞体が長手方向軸を有すると共に、前記第2の細長い空間を取り囲むように、互いに対して概ね平行に配置されており、前記第2の組の多細胞体の長手方向軸が、前記第2の細長い空間と概ね揃っている、
請求項140〜142のいずれか一項に記載の方法。
【請求項144】
前記多細胞体の少なくともいくつかを配列してシートを形成させることを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜129のいずれか一項に記載の方法。
【請求項145】
実質的に円筒形であると共に、実質的に円形の断面を有する多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜144のいずれか一項に記載の方法。
【請求項146】
長さが少なくとも約1センチメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜145のいずれか一項に記載の方法。
【請求項147】
長さが約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項132〜146のいずれか一項に記載の方法。
【請求項148】
アスペクト比が約20〜約2000の範囲である少なくともいくつかの多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜147のいずれか一項に記載の方法。
【請求項149】
それぞれ長さが約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜148のいずれか一項に記載の方法。
【請求項150】
多細胞体が平面上で自立しながら、3次元形状を保持できるほど、多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記3次元形状が幅と高さを含み、その高さが幅の少なくとも50パーセントである、請求項107〜149のいずれか一項に記載の方法。
【請求項151】
多細胞体が平面によって支えられているときに、その多細胞体が3次元形状を保持できるほど、多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、(i)前記多細胞体が前記平面と接触する接触面を前記多細胞体の底部に含むように、かつ(ii)前記平面上の前記多細胞体の3次元形状の2次元投影図の面積が、前記接触面の面積よりも大きくなるように前記3次元形状が形作られている、請求項107〜150のいずれか一項に記載の方法。
【請求項152】
多細胞体の上に、その多細胞体と実質的に同一である別の多細胞体があるときに、その多細胞体が前記別の多細胞体の重量を支えられるほど、多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜151のいずれか一項に記載の方法。
【請求項153】
多細胞体を器具によって持ち上げられるほど、多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜152のいずれか一項に記載の方法。
【請求項154】
前記配列工程が自動化されている、請求項107〜153のいずれか一項に記載の方法。
【請求項155】
少なくとも1つのフィラー体と、互いに凝集し合っている複数の生体細胞とを含む3次元構造体であって、前記細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む管状構造体を形成し、前記フィラー体がコンプライアントな生体適合性物質を含み、その生体適合性物質が、その生体適合性物質に細胞が移動および内殖するのを妨げると共に、その生体適合性物質に細胞が接着するのを妨げる構造体。
【請求項156】
前記生体適合性物質が栄養分に対する透過性を持つ、請求項155に記載の構造体。
【請求項157】
前記管状構造体の長さが少なくとも約1000マイクロメートルである、請求項155または156に記載の構造体。
【請求項158】
前記管状構造体の長さが約30センチメートル未満である、請求項155〜157のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項159】
前記管状構造体の長さが約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲である、請求項155〜158のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項160】
前記複数の生体細胞が本質的に単一の細胞型の細胞からなる、請求項155〜159のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項161】
前記複数の生体細胞が第1の細胞型の生体細胞を含み、少なくとも約90パーセントの細胞が前記第1の細胞型の細胞である、請求項155〜159のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項162】
前記複数の生体細胞が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項155〜159のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項163】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞である、請求項162に記載の構造体。
【請求項164】
前記第1の型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項162に記載の構造体。
【請求項165】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項162に記載の構造体。
【請求項166】
前記複数の生体細胞が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれが、前記第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型と異なる、請求項155〜159のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項167】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第3の細胞型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項166に記載の構造体。
【請求項168】
前記内皮細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成し、前記平滑筋細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成する、請求項163に記載の構造体。
【請求項169】
前記内皮細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成し、前記平滑筋細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む第2の層を形成し、前記線維芽細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記内皮細胞によって形成された内層と、前記平滑筋細胞によって形成された第2の層とを実質的に取り囲む第3の層を形成する、請求項166に記載の構造体。
【請求項170】
前記生体細胞が、管腔を形成するフィラー体である前記フィラー体の1つ以上を実質的に取り囲む枝分かれした管状構造体を形成し、前記生体細胞が第1および第2の細長い空間に内殖するのを防ぐように、前記管腔を形成するフィラー体が配置されており、前記第1の細長い空間の末端が、前記第2の細長い空間の側部と隣接している、請求項155〜168のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項171】
前記コンプライアントな生体適合性物質が、アガロース、寒天、ヒアルロン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項155〜170のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項172】
前記フィラー体を前記管状構造体から引き抜くことによって、前記少なくとも1つのフィラー体を前記管状構造体から引き離すことができる、請求項155〜171のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項173】
互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む多細胞体を作製するためのモールドであって、前記モールドが生体適合性基材を含み、前記生体適合性基材が、その基材に細胞が移動および内殖するのを妨げると共に、その基材に細胞が接着するのを妨げ、凝集力が比較的小さい複数の細胞を含む組成物を受容するように、かつ、前記凝集力が向上して前記多細胞体が形成される成熟期間中に、前記組成物を所望の形状に保つように、前記基材が成形されており、前記多細胞体の前記所望の形状の長さが少なくとも約1000マイクロメートルであり、前記多細胞体中のすべての細胞が、前記多細胞体の外側から約250マイクロメートル以下に存在するように前記所望の形状が形作られるモールド。
【請求項174】
複数の多細胞体を作製するのに適したモールドを作製するためのツール(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)であって、
最上部と底部とを有する本体と、
前記本体の底部から伸びている複数のフィン(生体適合性のゲル基材内に溝が形成されるように、前記フィンのそれぞれの幅が約100マイクロメートル〜約800マイクロメートルの範囲であり、前記ゲル基材は、前記溝中の生体細胞を細長い多細胞体に形成するように形作られ、前記フィンは長手方向軸を有し、前記フィンの少なくとも1つは、別のフィンの長手方向軸から横方向に隔置されている)と、
を備えるツール。
【請求項1】
複数の生体細胞と組織培地とを含む細長い多細胞体であって、前記細胞が互いに凝集し合っており、前記多細胞体の長さが少なくとも約1000マイクロメートルであり、前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である多細胞体。
【請求項2】
複数の生体細胞を含む細長い人工多細胞体であって、前記細胞が互いに凝集し合っており、前記多細胞体の長さが少なくとも約1000マイクロメートルであり、前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である多細胞体。
【請求項3】
神経が発達していない非軟骨性の細長い多細胞体であって、複数の生体細胞を含み、前記細胞が互いに凝集し合っており、前記多細胞体の長さが少なくとも約1000マイクロメートルであり、前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である多細胞体。
【請求項4】
管腔がない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項5】
管腔がない細長い多細胞体であって、複数の生体細胞と組織培地とを含み、前記細胞が互いに凝集し合っており、前記多細胞体のアスペクト比が少なくとも約2である多細胞体。
【請求項6】
長さが少なくとも約1センチメートルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項7】
長さが少なくとも約5センチメートルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項8】
長さが約30センチメートル未満である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項9】
長さが約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項10】
前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約31,400平方マイクロメートル〜約250,000平方マイクロメートルの範囲である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項11】
前記多細胞体の長さに沿って切断した断面の平均面積が約31,400平方マイクロメートル〜約90,000平方マイクロメートルの範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項12】
実質的に円筒形であると共に、実質的に円形の断面を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項13】
本質的に単一の細胞型の複数の生体細胞からなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項14】
第1の型の生体細胞を含むと共に、少なくとも約90パーセントの細胞が前記第1の型の細胞である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項15】
前記複数の生体細胞が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項16】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞である、請求項15に記載の多細胞体。
【請求項17】
前記第1の型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項15に記載の多細胞体。
【請求項18】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項15に記載の多細胞体。
【請求項19】
前記複数の生体細胞が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれが、前記第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型と異なる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項20】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第3の細胞型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項19に記載の多細胞体。
【請求項21】
1種以上の細胞外マトリックス成分、または1種以上の細胞外マトリックス成分の1種以上の誘導体をさらに含む、請求項1〜16のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項22】
前記1種以上の細胞外マトリックス成分の1種以上の誘導体がゼラチンを含む、請求項21に記載の多細胞体。
【請求項23】
前記1種以上の細胞外マトリックス成分がフィブリノゲンまたはフィブリンを含む、請求項21または22に記載の多細胞体。
【請求項24】
前記多細胞体が平面によって支えられているときに、前記多細胞体が3次元形状を保持できるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力であり、前記3次元形状が幅と高さを含み、その高さが幅の少なくとも約2分の1である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項25】
前記多細胞体が平面によって支えられているときに、前記多細胞体が3次元形状を保持できるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力であり、(i)前記多細胞体が前記平面と接触する接触面を前記多細胞体の底部に含むように、かつ(ii)前記平面上の前記多細胞体の3次元形状の2次元投影図の面積が、前記接触面の面積よりも大きくなるように前記3次元形状が形作られている、請求項1〜24のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項26】
前記多細胞体の上に、その多細胞体と実質的に同一である別の多細胞体があるときに、その多細胞体が前記別の多細胞体の重量を支えられるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である、請求項1〜25のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項27】
前記多細胞体を器具によって持ち上げられるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である、請求項1〜26のいずれか一項に記載の多細胞体。
【請求項28】
複数の生体細胞を含む細長い多細胞体を作製する方法であって、
複数の生体細胞を含む細胞ペーストを細長い形状に成形することと、
成形した前記細胞ペーストを制御環境中でインキュベートし、前記細胞が互いに凝集し合えるようにして、細長い多細胞体を形成させることと、
を含む方法。
【請求項29】
複数の生体細胞を含む多細胞体を作製する方法であって、
複数の生体細胞を含む細胞ペーストを3次元形状に保つ器具の中で、前記細胞ペーストを成形することと、
平面上で自立するほど十分な凝集力を有する細胞体を作製するのに十分な時間、成形した前記細胞ペーストを前記3次元形状に保ったまま、前記細胞ペーストを制御環境中でインキュベートすることと、
を含む方法。
【請求項30】
複数の生体細胞を組織培地と混合することによって、前記細胞ペーストを作製することをさらに含む、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記作製工程が、前記生体細胞を圧縮することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記圧縮作業が、前記複数の生体細胞を含む細胞懸濁液を遠心分離することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記成形工程が、前記細胞ペーストを第1の成形器具内に保持して、前記第1の成形器具内で前記細胞が部分的に互いに凝集し合えるようにすることと、部分的に凝集した前記細胞ペーストを第2の成形器具に移すことと、部分的に凝集した前記細胞ペーストを前記第2の成形器具内に保持して、前記多細胞体を形成させることとを含む、請求項28〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記第1の成形器具がキャピラリーピペットを含み、前記第2の成形器具が、前記細胞を前記第2の成形器具内に保持しながら、栄養分と酸素を前記細胞に供給できる器具を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第2の成形器具が、生体適合性物質から作製されたモールドを含み、前記生体適合性物質が、前記物質に前記細胞が移動または内殖するのを妨げると共に、前記物質に前記細胞が接着するのを妨げるものである、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記生体適合性物質が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ステンレス鋼、ヒアルロン酸、アガロース、寒天、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
約10〜約30パーセントのゼラチンを含む溶液と、複数の生体細胞を混合して細胞懸濁液を形成させ、その細胞懸濁液を圧縮して前記細胞ペーストを形成することによって、前記細胞ペーストを作製することをさらに含む、請求項28または29に記載の方法。
【請求項38】
約10〜80mg/mlのフィブリノゲンを含む溶液と、複数の生体細胞を混合して細胞懸濁液を形成させ、その細胞懸濁液を圧縮して前記細胞ペーストを形成することによって、前記細胞ペーストを作製することをさらに含む、請求項28、29、または37に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞ペーストが本質的に単一の細胞型の複数の生体細胞からなる、請求項28〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記細胞ペーストが第1の細胞型の生体細胞を含み、少なくとも約90パーセントの細胞が前記第1の細胞型の細胞である、請求項28〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞ペーストが、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項28〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞ペーストが複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
長さに沿って切断した断面の平均面積が約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
長さに沿って切断した断面の平均面積が約31,400平方マイクロメートル〜約250,000平方マイクロメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
長さに沿って切断した断面の平均面積が約31,400平方マイクロメートル〜約90,000平方マイクロメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
長さが少なくとも約1センチメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを、前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
長さが少なくとも約5センチメートルである細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
長さが約30センチメートル未満である細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
長さが約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲である細長い形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
実質的に円形の断面を有する実質的に円筒形の形状に、前記細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形作業が含む、請求項28〜50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
複数の生体細胞と、1種以上の細胞外マトリックス成分または1種以上の細胞外マトリックス成分の1種以上の誘導体とを含む細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項28〜51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
複数の生体細胞とゼラチンとを含む細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
複数の生体細胞とフィブリノゲンとを含む細胞ペーストを成形することを前記細胞ペーストの成形工程が含む、請求項52または53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記細胞ペーストを単一の成形器具内に保持して、前記多細胞体を形成させることを前記成形工程が含む、請求項52〜54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記インキュベート工程が、成形した前記細胞ペーストを単一の制御環境中でインキュベートし、前記細胞が互いに凝集し合えるようにして、前記多細胞体を形成させることを含む、請求項53〜55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
神経が発達していない複数の細長い多細胞体を含む3次元構造体であって、各多細胞体が、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含み、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、前記多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項58】
複数の細長い人工多細胞体を含む3次元構造体であって、各多細胞体が、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含み、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、前記多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項59】
複数の細長い多細胞体を含む3次元構造体であって、各多細胞体が、互いに凝集し合っている複数の生体細胞と、組織培地とを含み、各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触すると共に、前記多細胞体が互いに凝集し合っていないパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項60】
神経が発達していない複数の多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)
を含む3次元構造体であって、
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項61】
複数の人工多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)
を含む3次元構造体であって、
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項62】
複数の多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞と、組織培地とを含む)
を含む3次元構造体であって、
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている3次元構造体。
【請求項63】
1つ以上のフィラー体をさらに含み、細胞が前記多細胞体から前記フィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を各フィラー体が含み、前記多細胞体と共に、各フィラー体が少なくとも1つの多細胞体または別のフィラー体と接触するようなパターンで、前記フィラー体が配列されている、請求項57または60に記載の3次元構造体。
【請求項64】
複数の多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)と、
複数の離散したフィラー体(各フィラー体は、細胞が前記多細胞体から前記フィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含む)と、
を含む3次元構造体であって、
各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体または少なくとも1つのフィラー体と接触するパターンで、前記多細胞体とフィラー体が配列されている3次元構造体。
【請求項65】
複数の多細胞体(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)と、
複数のフィラー体(各フィラー体は、細胞が前記多細胞体から前記フィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を含む)と、
を含む3次元構造体であって
前記多細胞体によって占められておらず、かつ前記フィラー体によって占められていない複数の空間が前記3次元構造体中に形成されるように、前記多細胞体とフィラー体が配列されている3次元構造体。
【請求項66】
前記3次元構造体中の前記複数の空間の少なくともいくつかが組織培地で満たされている、請求項65に記載の構造体。
【請求項67】
前記多細胞体のそれぞれの長手方向軸に沿って切断した断面の平均面積が、約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である、請求項57〜65のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項68】
前記多細胞体のそれぞれの長さが少なくとも約1000マイクロメートルである、請求項57〜67のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項69】
前記多細胞体のそれぞれの長さが約30センチメートル未満である、請求項57〜68のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項70】
各多細胞体が本質的に単一の細胞型の細胞からなる、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項71】
各多細胞体が第1の型の生体細胞を含み、各多細胞体中の細胞の少なくとも約90パーセントが、前記第1の細胞型の細胞である、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項72】
前記多細胞体の1つ以上が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項73】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞である、請求項72に記載の構造体。
【請求項74】
前記第1の型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項72に記載の構造体。
【請求項75】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項72に記載の構造体。
【請求項76】
前記多細胞体の1つ以上が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞を含み、前記第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれが、前記第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型と異なる、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項77】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第3の細胞型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項76に記載の構造体。
【請求項78】
前記多細胞体の1つ以上のそれぞれの中の細胞の大半が、第1の細胞型の細胞であり、他の1つ以上の多細胞体のそれぞれの中の細胞の大半が、第2の細胞型の細胞であり、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項57〜69のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項79】
前記第1の細胞型の細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の細胞が平滑筋細胞である、請求項78に記載の構造体。
【請求項80】
前記多細胞体の形状が実質的に均一である、請求項57〜79のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項81】
前記フィラー体の形状が実質的に均一である、請求項63〜80のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項82】
前記フィラー体と多細胞体の形状が実質的に同一である、請求項63〜81のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項83】
前記フィラー体が細長い形状である、請求項63〜82のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項84】
前記複数の多細胞体の少なくともいくつかが、管様構造体を形成するように配列されており、その管様構造体の内側に、前記フィラー体の少なくとも1つが存在する、請求項63〜83のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項85】
前記多細胞体の少なくともいくつかが、前記管様構造体を形成するように、前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む六角形の配置で配列されている、請求項84に記載の構造体。
【請求項86】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む前記多細胞体のそれぞれが、複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含む、請求項84または85に記載の構造体。
【請求項87】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む前記多細胞体のそれぞれが、複数の線維芽細胞をさらに含む、請求項86に記載の構造体。
【請求項88】
前記多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、前記第1の組の各多細胞体が内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が平滑筋細胞を含み、前記第1の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するように配列されており、前記第2の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む第2の層を形成するように配列されており、前記第1の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、前記第2の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項84または85に記載の構造体。
【請求項89】
前記第2の組における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率が、前記第1の組における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項88に記載の構造体。
【請求項90】
前記多細胞体が第3の組の多細胞体をさらに含み、前記第3の組の各多細胞体が線維芽細胞を含み、前記第3の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された前記内層と、前記第2の組の多細胞体によって形成された前記第2の層とを実質的に取り囲む層を形成するように配列されており、前記第3の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、前記第1の組または前記第2の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項88または89に記載の構造体。
【請求項91】
前記多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、前記第1の組の各多細胞体が、複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含み、前記第2の組の各多細胞体が線維芽細胞を含み、前記第1の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するように配列されており、前記第2の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するように配列されており、前記第2の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、前記第1の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞に対する比率よりも大きい、請求項84または85に記載の構造体。
【請求項92】
前記多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、前記第1の組の各多細胞体が内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が、複数の平滑筋細胞と複数の線維芽細胞とを含み、前記第1の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するように配列されており、前記第2の組の多細胞体が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するように配列されており、前記第1の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、前記第2の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項84または85に記載の構造体。
【請求項93】
前記1つ以上のフィラー体が、管腔を形成するフィラー体であり、細胞が前記多細胞体から第1および第2の細長い空間に内殖するのを防ぐように、前記管腔を形成するフィラー体が配列されており、前記第1の細長い空間の末端が、前記第2の細長い空間の側部と隣接しており、前記多細胞体が融合して、枝分かれした管状構造体を形成できるように、前記管腔を形成するフィラー体が前記多細胞体に実質的に取り囲まれている、請求項63〜83のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項94】
前記多細胞体のそれぞれが、内皮細胞と平滑筋細胞とを含む、請求項93に記載の構造体。
【請求項95】
前記多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、前記第1の組の各多細胞体が大半の内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が大半の平滑筋細胞を含み、前記第1の組の多細胞体が、前記管腔を形成するフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成するように配列されており、前記第2の組の多細胞体が、前記管腔を形成するフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成するように配列されている、請求項93に記載の構造体。
【請求項96】
前記複数の多細胞体が、第1および第2の組の多細胞体を含み、
前記第1の組の多細胞体が、長手方向軸を有すると共に、前記第1の細長い空間を取り囲むように、互いに対して概ね平行に配置されており、前記第1の組の多細胞体の長手方向軸が、前記第1の細長い空間と概ね揃っており、
前記第2の組の多細胞体が、長手方向軸を有すると共に、前記第2の細長い空間を取り囲むように、互いに対して概ね平行に配置されており、前記第2の組の多細胞体の長手方向軸が、前記第2の細長い空間と概ね揃っている、
請求項93〜95のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項97】
前記多細胞体の少なくともいくつかが、シートを形成するように配置されている、請求項57〜83のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項98】
前記多細胞体が実質的に円筒形であると共に、実質的に円形の断面を有する、請求項57〜97のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項99】
長さが少なくとも約1センチメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている、請求項57〜98のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項100】
長さが約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体が配列されている、請求項57〜99のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項101】
前記多細胞体の少なくともいくつかのアスペクト比が約20〜約2000の範囲である、請求項57〜100のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項102】
前記多細胞体のそれぞれの長さが、約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である、請求項57〜101のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項103】
前記多細胞体が平面によって支えられているときに、前記多細胞体が3次元形状を保持できるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力であり、前記3次元形状が幅と高さを含み、その高さが幅の少なくとも約2分の1である、請求項57〜102のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項104】
前記多細胞体が平面によって支えられているときに、前記多細胞体が3次元形状を保持できるほど、前記多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力であり、(i)前記多細胞体が前記平面と接触する接触面を各多細胞体の底部に含むように、かつ(ii)前記平面上の前記多細胞体の3次元形状の2次元投影図の面積が、前記接触面の面積よりも大きくなるように前記3次元形状が形作られている、請求項57〜103のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項105】
前記多細胞体の上に、その多細胞体と実質的に同一である別の多細胞体があるときに、その各多細胞体が前記別の多細胞体の重量を支えられるほど、各多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である、請求項57〜104のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項106】
各多細胞体を器具によって持ち上げられるほど、各多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である、請求項57〜105のいずれか一項に記載の3次元構造体。
【請求項107】
3次元人工生物組織を作製する方法であって、
各多細胞体が少なくとも1つの他の多細胞体と接触するようなパターンに従って、複数の細長い多細胞体を配列すること(各多細胞体は複数の生体細胞を含む)と、
前記多細胞体の少なくとも1つを少なくとも1つの他の多細胞体と融合させることと、
を含む方法。
【請求項108】
前記多細胞体と共に、各フィラー体が、少なくとも1つの多細胞体または別のフィラー体と接触するようなパターンで、1つ以上のフィラー体を配列することをさらに含み、細胞が前記多細胞体から前記フィラー体に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる生体適合性物質を各フィラー体が含む、請求項107に記載の方法。
【請求項109】
3次元人工生物組織を作製する方法であって、
各多細胞体が(i)別の多細胞体、または(ii)フィラー体のうちの少なくとも1つと接触するようなパターンに従って、複数の多細胞体と複数のフィラー体とを配列すること(各多細胞体は複数の生体細胞を含み、各フィラー体は生体適合性物質を含み、その生体適合性物質は、細胞が前記多細胞体からその生体適合性物質に移動および内殖するのを妨げると共に、前記多細胞体中の細胞が前記フィラー体に接着するのを妨げる)と、
前記多細胞体の少なくとも1つを少なくとも1つの他の多細胞体と融合させることと、
を含む方法。
【請求項110】
前記多細胞体と前記フィラー体を配列して、前記多細胞体によって占められておらず、かつ前記フィラー体によって占められていない複数の空間を有する3次元構造体を形成させることを前記配列工程が含む、請求項108または109に記載の方法。
【請求項111】
前記複数の空間の少なくともいくつかを組織培地で満たすことをさらに含む、請求項110に記載の方法。
【請求項112】
前記配列工程の結果、長さが少なくとも約1000マイクロメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも2つが互いに接触し合う、請求項107〜111のいずれか一項に記載の方法。
【請求項113】
融合した前記多細胞体から前記フィラー体を引き離して、前記人工組織を得ることをさらに含む、請求項108〜112のいずれか一項に記載の方法。
【請求項114】
前記フィラー体の配列工程が、栄養分に対する透過性を持つフィラー体を配列することを含む、請求項108〜113のいずれか一項に記載の方法。
【請求項115】
長手方向軸に沿って切断した断面の平均面積がそれぞれ、約7,850平方マイクロメートル〜約360,000平方マイクロメートルの範囲である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜114のいずれか一項に記載の方法。
【請求項116】
長さが少なくとも約1000マイクロメートルである多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜115のいずれか一項に記載の方法。
【請求項117】
長さが約30センチメートル未満である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜116のいずれか一項に記載の方法。
【請求項118】
本質的に単一の細胞型の細胞からなる多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項119】
前記多細胞体の配列工程が、多細胞体を配列することを含み、その各多細胞体が第1の型の生体細胞を含み、各多細胞体中の細胞の少なくとも約90パーセントが前記第1の細胞型の細胞である、請求項107〜117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項120】
前記多細胞体の配列工程が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含む1つ以上の多細胞体を配列することを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項107〜117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項121】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が平滑筋細胞である、請求項120に記載の方法。
【請求項122】
前記第1の型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項120に記載の方法。
【請求項123】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項120に記載の方法。
【請求項124】
前記多細胞体の1つ以上が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれが、前記第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型と異なる、請求項107〜117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項125】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第3の細胞型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項124に記載の方法。
【請求項126】
実質的に形状が均一である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜121のいずれか一項に記載の方法。
【請求項127】
実質的に形状が均一であるフィラー体を配列することを前記フィラー体の配列工程が含む、請求項108〜126のいずれか一項に記載の方法。
【請求項128】
実質的に形状が同一である多細胞体とフィラー体とを配列することを前記多細胞体とフィラー体の配列工程が含む、請求項108〜127のいずれか一項に記載の方法。
【請求項129】
形状が細長いフィラー体を配列することを前記フィラー体の配列工程が含む、請求項108〜128のいずれか一項に記載の方法。
【請求項130】
前記複数の多細胞体の少なくともいくつかを配列して、管様構造体の内側に前記フィラー体の少なくとも1つを有する管様構造体を形成させることを前記多細胞体とフィラー体の配列工程が含む、請求項108〜129のいずれか一項に記載の方法。
【請求項131】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む六角形の配置で、前記多細胞体の少なくともいくつかを配列して、前記管様構造体を形成させることを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項130に記載の方法。
【請求項132】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む前記多細胞体のそれぞれが、複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含む、請求項130〜131のいずれか一項に記載の方法。
【請求項133】
前記少なくとも1つのフィラー体を取り囲む前記多細胞体のそれぞれが、複数の線維芽細胞をさらに含む、請求項132に記載の方法。
【請求項134】
第1および第2の組の多細胞体を含む複数の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記第1の組の各多細胞体が内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が平滑筋細胞を含み、前記第1の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成させ、前記第2の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む第2の層を形成させ、前記第1の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、前記第2の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項130〜131のいずれか一項に記載の方法。
【請求項135】
前記第2の組における平滑筋細胞の数の平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率が、前記第1の組における平滑筋細胞の数に対する平滑筋細胞でない細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項134に記載の方法。
【請求項136】
第3の組の多細胞体を含む複数の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程がさらに含み、前記第3の組の各多細胞体が線維芽細胞を含み、前記第3の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された前記内層と、前記第2の組の多細胞体によって形成された前記第2の層とを実質的に取り囲む層を形成させ、前記第3の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、前記第1の組または第2の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項134または135に記載の方法。
【請求項137】
第1および第2の組の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記第1の組の各多細胞体が複数の内皮細胞と複数の平滑筋細胞とを含み、前記第2の組の各多細胞体が線維芽細胞を含み、前記第1の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成させ、前記第2の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成させ、第2の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞の数に対する比率が、前記第1の組における線維芽細胞の数の非線維芽細胞に対する比率よりも大きい、請求項130または131に記載の方法。
【請求項138】
第1および第2の組の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記第1の組の各多細胞体が内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が複数の平滑筋細胞と複数の線維芽細胞とを含み、前記第1の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成させ、前記第2の組の多細胞体を配列して、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成させ、前記第1の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率が、前記第2の組における内皮細胞の数の非内皮細胞の数に対する比率よりも大きい、請求項130または131に記載の方法。
【請求項139】
前記引き離す工程が、前記管様構造体の内側から前記少なくとも1つのフィラー体を引き抜くことを含む、請求項130〜138のいずれか一項に記載の方法。
【請求項140】
管腔を形成するフィラー体である1つ以上のフィラー体を配列することを前記フィラー体の配列工程が含み、前記管腔を形成するフィラー体を配列して、細胞が前記多細胞体から前記第1および第2の細長い空間に内殖するのを防ぎ、前記第1の細長い空間の末端が、前記第2の細長い空間の側部と隣接しており、前記多細胞体が融合して、枝分かれした管状構造体を形成できるように、前記管腔を形成するフィラー体が前記多細胞体に実質的に取り囲まれている、請求項108〜129のいずれか一項に記載の方法。
【請求項141】
前記多細胞体のそれぞれが内皮細胞と平滑筋細胞とを含む、請求項140に記載の方法。
【請求項142】
第1および第2の組の多細胞体を含む複数の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記第1の組の各多細胞体が大半の内皮細胞を含み、前記第2の組の各多細胞体が大半の平滑筋細胞を含み、第1の組の多細胞体を配列して、前記管腔を形成するフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成させ、前記第2の組の多細胞体を配列して、前記管腔を形成するフィラー体と、前記第1の組の多細胞体によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成させる、請求項140に記載の方法。
【請求項143】
第1および第2の組の多細胞体を含む複数の多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、
前記第1の組の多細胞体が長手方向軸を有すると共に、前記第1の細長い空間を取り囲むように、互いに対して概ね平行に配置されており、前記第1の組の多細胞体の長手方向軸が、前記第1の細長い空間と概ね揃っており、
前記第2の組の多細胞体が長手方向軸を有すると共に、前記第2の細長い空間を取り囲むように、互いに対して概ね平行に配置されており、前記第2の組の多細胞体の長手方向軸が、前記第2の細長い空間と概ね揃っている、
請求項140〜142のいずれか一項に記載の方法。
【請求項144】
前記多細胞体の少なくともいくつかを配列してシートを形成させることを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜129のいずれか一項に記載の方法。
【請求項145】
実質的に円筒形であると共に、実質的に円形の断面を有する多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜144のいずれか一項に記載の方法。
【請求項146】
長さが少なくとも約1センチメートルである接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜145のいずれか一項に記載の方法。
【請求項147】
長さが約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である接触区域沿いで、前記多細胞体の少なくとも1つが別の多細胞体と接触するパターンで、前記多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項132〜146のいずれか一項に記載の方法。
【請求項148】
アスペクト比が約20〜約2000の範囲である少なくともいくつかの多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜147のいずれか一項に記載の方法。
【請求項149】
それぞれ長さが約1センチメートル〜約30センチメートルの範囲である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜148のいずれか一項に記載の方法。
【請求項150】
多細胞体が平面上で自立しながら、3次元形状を保持できるほど、多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、前記3次元形状が幅と高さを含み、その高さが幅の少なくとも50パーセントである、請求項107〜149のいずれか一項に記載の方法。
【請求項151】
多細胞体が平面によって支えられているときに、その多細胞体が3次元形状を保持できるほど、多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含み、(i)前記多細胞体が前記平面と接触する接触面を前記多細胞体の底部に含むように、かつ(ii)前記平面上の前記多細胞体の3次元形状の2次元投影図の面積が、前記接触面の面積よりも大きくなるように前記3次元形状が形作られている、請求項107〜150のいずれか一項に記載の方法。
【請求項152】
多細胞体の上に、その多細胞体と実質的に同一である別の多細胞体があるときに、その多細胞体が前記別の多細胞体の重量を支えられるほど、多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜151のいずれか一項に記載の方法。
【請求項153】
多細胞体を器具によって持ち上げられるほど、多細胞体中の細胞の凝集力が十分に強力である多細胞体を配列することを前記多細胞体の配列工程が含む、請求項107〜152のいずれか一項に記載の方法。
【請求項154】
前記配列工程が自動化されている、請求項107〜153のいずれか一項に記載の方法。
【請求項155】
少なくとも1つのフィラー体と、互いに凝集し合っている複数の生体細胞とを含む3次元構造体であって、前記細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む管状構造体を形成し、前記フィラー体がコンプライアントな生体適合性物質を含み、その生体適合性物質が、その生体適合性物質に細胞が移動および内殖するのを妨げると共に、その生体適合性物質に細胞が接着するのを妨げる構造体。
【請求項156】
前記生体適合性物質が栄養分に対する透過性を持つ、請求項155に記載の構造体。
【請求項157】
前記管状構造体の長さが少なくとも約1000マイクロメートルである、請求項155または156に記載の構造体。
【請求項158】
前記管状構造体の長さが約30センチメートル未満である、請求項155〜157のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項159】
前記管状構造体の長さが約5センチメートル〜約30センチメートルの範囲である、請求項155〜158のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項160】
前記複数の生体細胞が本質的に単一の細胞型の細胞からなる、請求項155〜159のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項161】
前記複数の生体細胞が第1の細胞型の生体細胞を含み、少なくとも約90パーセントの細胞が前記第1の細胞型の細胞である、請求項155〜159のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項162】
前記複数の生体細胞が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第2の細胞型が前記第1の細胞型と異なる、請求項155〜159のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項163】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞である、請求項162に記載の構造体。
【請求項164】
前記第1の型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項162に記載の構造体。
【請求項165】
前記第1の型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項162に記載の構造体。
【請求項166】
前記複数の生体細胞が、第1の細胞型の複数の生体細胞と、第2の型の複数の生体細胞と、第3の細胞型の複数の生体細胞とを含み、前記第1、第2、および第3の細胞型のそれぞれが、前記第1、第2、および第3の細胞型のうちの他の型と異なる、請求項155〜159のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項167】
前記第1の細胞型の生体細胞が内皮細胞であり、前記第2の細胞型の生体細胞が平滑筋細胞であり、前記第3の細胞型の生体細胞が線維芽細胞である、請求項166に記載の構造体。
【請求項168】
前記内皮細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成し、前記平滑筋細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む層を形成する、請求項163に記載の構造体。
【請求項169】
前記内皮細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体を実質的に取り囲む内層を形成し、前記平滑筋細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記内皮細胞によって形成された内層とを実質的に取り囲む第2の層を形成し、前記線維芽細胞が、前記少なくとも1つのフィラー体と、前記内皮細胞によって形成された内層と、前記平滑筋細胞によって形成された第2の層とを実質的に取り囲む第3の層を形成する、請求項166に記載の構造体。
【請求項170】
前記生体細胞が、管腔を形成するフィラー体である前記フィラー体の1つ以上を実質的に取り囲む枝分かれした管状構造体を形成し、前記生体細胞が第1および第2の細長い空間に内殖するのを防ぐように、前記管腔を形成するフィラー体が配置されており、前記第1の細長い空間の末端が、前記第2の細長い空間の側部と隣接している、請求項155〜168のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項171】
前記コンプライアントな生体適合性物質が、アガロース、寒天、ヒアルロン酸、およびポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項155〜170のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項172】
前記フィラー体を前記管状構造体から引き抜くことによって、前記少なくとも1つのフィラー体を前記管状構造体から引き離すことができる、請求項155〜171のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項173】
互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む多細胞体を作製するためのモールドであって、前記モールドが生体適合性基材を含み、前記生体適合性基材が、その基材に細胞が移動および内殖するのを妨げると共に、その基材に細胞が接着するのを妨げ、凝集力が比較的小さい複数の細胞を含む組成物を受容するように、かつ、前記凝集力が向上して前記多細胞体が形成される成熟期間中に、前記組成物を所望の形状に保つように、前記基材が成形されており、前記多細胞体の前記所望の形状の長さが少なくとも約1000マイクロメートルであり、前記多細胞体中のすべての細胞が、前記多細胞体の外側から約250マイクロメートル以下に存在するように前記所望の形状が形作られるモールド。
【請求項174】
複数の多細胞体を作製するのに適したモールドを作製するためのツール(各多細胞体は、互いに凝集し合っている複数の生体細胞を含む)であって、
最上部と底部とを有する本体と、
前記本体の底部から伸びている複数のフィン(生体適合性のゲル基材内に溝が形成されるように、前記フィンのそれぞれの幅が約100マイクロメートル〜約800マイクロメートルの範囲であり、前記ゲル基材は、前記溝中の生体細胞を細長い多細胞体に形成するように形作られ、前記フィンは長手方向軸を有し、前記フィンの少なくとも1つは、別のフィンの長手方向軸から横方向に隔置されている)と、
を備えるツール。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図7A】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図7A】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2011−525376(P2011−525376A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516626(P2011−516626)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/048530
【国際公開番号】WO2010/008905
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(501305844)ザ・キュレーターズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミズーリ (12)
【氏名又は名称原語表記】THE CURATORS OF THE UNIVERSITY OF MISSOURI
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/048530
【国際公開番号】WO2010/008905
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(501305844)ザ・キュレーターズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミズーリ (12)
【氏名又は名称原語表記】THE CURATORS OF THE UNIVERSITY OF MISSOURI
【Fターム(参考)】
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