説明

自律的に光制御する積層体およびそれを用いた窓

非イオン性の両親媒性官能基を有し、水溶性である多糖類誘導体を水と両親媒性物質とからなる水性媒体に溶解した等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、等方性水溶液を直視可能な基板で積層した積層体もしくはこの積層体を含む窓において、高耐候性であり、等方性水溶液に均一に溶解する非イオン性もしくはイオン性のベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体からなる紫外線吸収剤を等方性水溶液に適量添加する。等方性水溶液は透明であり、光の照射により白濁し、かつ、安定的な可逆変化を示し、長期間に渡り太陽光線に曝される積層体の耐候性が飛躍的に向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、太陽エネルギー等の加温による温度変化で、内包された等方性水溶液が透明状態と白濁状態とに可逆変化する積層体およびそれを用いた窓に関する。
【背景技術】
近年、省エネルギー、快適性等の面から太陽光線を制御できる調光ガラスが注目されてきている。以下に、建築物、車両等の窓に使用する窓ガラスに関して主に述べるが、本発明の積層体は窓に限定されることなく、広く利用可能である。
本発明者は、太陽の直射光線が窓に照射していることに注目してきた。太陽の日射の有無と季節の温度差を有効に利用することで、気温が高い夏期において日射によってその日射を自然に白濁遮蔽する画期的な自律応答型の調光積層体の開発に成功した。具体的には、例えば、米国特許5615040(特開平6−255016号に対応)、太陽エネルギー学会誌、太陽エネルギー、Vol.27、No.5(2001)、pp14−20に記した。その基本構造は、一対の基板間に等方性水溶液を内包した積層体である。この等方性水溶液は、水溶性の多糖類誘導体、両親媒性物質、水等からなる。その原理は、温度に依存して安定的に可逆変化するゾル−ゲル相転移である。低温では分子が均一に溶解して等方性水溶液(ゾル状態)となり、高温では溶存分子が集まって凝集状態(ゲル状態)をとって相転移する。ゲル状態では、溶媒と微小凝集体との密度差による光散乱により白濁して約80%も遮光した。この積層体を窓に施工すると、冬期は積層体の温度が上がらず透明状態を維持して日向となり、夏期は直達日射の加温白濁によりその日射を約80%もカットする省エネ調光窓ガラスとなった。この積層体は、前記の文献にも記されているように下記の基本条件をほぼ満たすことができた。
1)透明−白濁の相転移が可逆的であること。
2)可逆変化がむらなく繰返し可能なこと。
3)耐候性があること。
この積層体は、本発明者により既に窓ガラスとして試験施工されてきたが、日射を常に受ける窓ガラスとして広く普及させるために、さらに耐候性を向上させることが必要あることが分かった。事実、良好な封止構造をもって組立てた積層体を東京地区での屋上で暴露試験をした結果、5mm厚のフロートガラスでも約3年で既に白濁開始温度の上昇が見られることがあった。そこで、本発明者はこの等方性水溶液に紫外線吸収剤を添加する方法を鋭意検討した結果、前記1)および2)の特徴を有し、さらに3)の条件をも十分に満たす画期的な高耐候性を示す積層体を開発するに至った。
窓ガラスは、少なくとも10年、さらに20年、30年と長期間に渡って使用できる高耐候性が求められる。また、可能な限り軽量でかつ厚みが薄いことが、躯体への負荷、窓枠への適合性にとって好ましいばかりでなく、製造、輸送、施工等にも有利である。本発明者は、既にガラス基板に紫外線カット機能をもたせる方法も検討してきたが、着色、重量増大、特殊加工等の問題点があり、一般化には不適であった。そこで、本発明者は等方性水溶液自身の耐候性を飛躍的に向上させるために、各種紫外線吸収剤に焦点を当てて詳細に検討を行った。
従来は、前記した文献で本発明者が記したように、耐候性の向上のために等方性水溶液に溶解する紫外線吸収剤(ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、サリチル酸エステル誘導体等)を添加すればよいと一般論を記した程度であり、また特許公報には、水溶性の紫外線吸収剤として、住友化学のSumisorb・110S(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸)を例示したのみであった。そこで、紫外線吸収剤を含まない等方性水溶液と住友化学のSumisorb・110Sを添加した等方性水溶液からなる2種類の積層体を試作して、実施例に記したように、紫外線照射試験をしたところ、共に50時間から100時間程度で気泡の発生が観察され、回復不可能なむらとなった。
【発明の開示】
本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、非イオン性の両親媒性官能基を有し、水溶性である多糖類誘導体を水と両親媒性物質とからなる水性媒体に溶解した等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、等方性水溶液を直視可能な基板で積層した積層体もしくはこの積層体を含む窓において、高耐候性であり、等方性水溶液に均一に溶解する非イオン性もしくはイオン性のベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体からなる紫外線吸収剤を等方性水溶液に適量添加することを要旨とするものである。これによって、等方性水溶液は透明であり、光の照射により白濁し、かつ、安定的な可逆変化を示し、長期間に渡り太陽光線に曝される積層体の耐候性が飛躍的に向上されるということが見出されたのである。
すなわち、本発明は、非イオン性の両親媒性官能基を有し、水溶性である、重量平均分子量約10,000〜約200,000の多糖類誘導体100重量部を、前記多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450となる量の水と約60〜約5,000の分子量を有する両親媒性物質とからなる水性媒体約100〜約2,000重量部に溶解した等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、前記水溶液を直視可能な基板で積層した積層体において、両親媒性物質に対する20℃での溶解度が1g以上である非イオン性のベンゾフェノン誘導体およびベンゾトリアゾール誘導体並びに水に対する20℃での溶解度が1g以上である、イオン性官能基が鎖状部を介して結合したベンゼン環を有するイオン性のベンゾフェノン誘導体およびベンゾトリアゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を前記等方性水溶液100重量部に対して0.01〜10重量部添加されている積層体を提供する。
本発明は、また、非イオン性の両親媒性官能基を有し、水溶性である、重量平均分子量約10,000〜約200,000の多糖類誘導体100重量部を、前記多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450となる量の水と約60〜約5,000の分子量を有する両親媒性物質とからなる水性媒体約100〜約2,000重量部に溶解した等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、前記水溶液を直視可能な基板で積層した積層体を含む窓において、両親媒性物質に対する20℃での溶解度が1g以上である非イオン性のベンゾフェノン誘導体およびベンゾトリアゾール誘導体並びに水に対する20℃での溶解度が1g以上である、イオン性官能基が鎖状部を介して結合したベンゼン環を有するイオン性のベンゾフェノン誘導体およびベンゾトリアゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を前記等方性水溶液100重量部に対して0.01〜10重量部添加されている窓を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係る積層体の一例を示す断面図である。
図2は、気体層を追加配置した本発明の積層体の一例を示す断面図である。
図3は、組成の異なる等方性水溶液の層を有する本発明の積層体の一例を示す断面図である。
図4は、透明状態−白濁状態をとる本発明積層体の透過率変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
前記した特許公報等に述べられているように、本発明に用いる水溶液は、非イオン性の両親媒性官能基を付加した水溶性の多糖類誘導体(以下、両親媒性多糖類誘導体と記す)と両親媒性物質および水を基本組成とし、温度変化で透明状態と白濁状態とに安定的に可逆変化する等方性水溶液である。
本発明者は、水と共に等方性水溶液に含まれる両親媒性物質にも溶媒作用があることに着目した。そして、良好な紫外線吸収性能をもちかつそれ自体が高い光安定性をもつベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体を選択し、水、両親媒性物質、両親媒性多糖類誘導体との親和性の関係を詳細に検討した。その結果、等方性水溶液にむらなく均一に溶解するベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体とがあることを見出し、等方性水溶液の耐候性を飛躍的に向上させることに成功したものである。その一つは、室温で液状の両親媒性物質に対する20℃での溶解度が1g以上、好ましくは3g以上である非イオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体である。好適には、分子量約400のポリオキシプロピレントリメチロールプロパン(以下、TP400と記す)に対する20℃での溶解度が1g以上、好ましくは3g以上である非イオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体である。
もう一つは、紫外線吸収剤自体の光安定性を確保するために、イオン性官能基がベンゼン環に直接結合することなく、鎖状部を介して結合し、かつ、水に対する20℃での溶解度が1g以上、好ましくは3g以上であるイオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体である。ここで、鎖状部とは、ベンゼン環とイオン性官能基との間に挿入された官能基(例えば、メチレン基、エチレン基、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、エーテル基、エステル基等)である。なお、非イオン性のベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体とイオン性のベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体とを混合使用してもよい。
次に、本発明に有用な非イオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体に関して述べる。非イオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体は、一般に、ベンゼン環による強い疎水性により水との親和性が乏しいが、TP400に1g以上溶解するベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体は、TP400の溶媒効果により、さらに両親媒性多糖類誘導体の両親媒性官能基との相互作用により、等方性水溶液に安定的に溶存しえることが分かった。その結果、等方性水溶液に溶存している両親媒性多糖類誘導体が、紫外線から保護され、等方性水溶液の耐候性が飛躍的に高まることが見出された。その等方性水溶液の調製法としては、TP400にベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体を加温溶解してから、水と、必要に応じて添加剤とを加えて混合し、最後に両親媒性多糖類誘導体を加えて十分に撹拌することにより均一な等方性水溶液を得る方法がある。
例えば、紫外線吸収剤の代表例としては、完全に透明状態の等方性水溶液を与える2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノン(以下、UV−106と記す)と2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(以下、UV−7011と記す)がある。また、両親媒性多糖類誘導体としてはヒドロキシプロピルセルロース(ヒドロキシプロピル基:62.4%、2%水溶液粘度:8.5cps/20℃、重量平均分子量:約60,000、以下、HPCと記す)を、そして両親媒性物質としてはTP400を代表例として挙げることができる。
本発明者が行った実験によれば、TP400/100重量部にUV−106/6重量部を加えて加温溶解し、20℃の室温に戻しても完全に透明な溶液を得た。この溶液/25重量部に水/87重量部を加え、室温で撹拌混合したところUV−106の分離(TP400と水は室温で均一混合する)により乳白濁状態となった。しかし、驚くべきことに、さらにHPC/50重量部を添加して十分に混合撹拌した結果は、乳白濁は全く消えて完全に透明な等方性水溶液となった。このUV−106を添加した等方性水溶液は、加温で十分な白濁をもって均一な遮光状態となり、かつ、安定した可逆変化をもって高い耐候性を示した。次に、HPC/TP400/UV−7011/水の組成が重量部で50/50/1.3/87である混合液を調製した。UV−106と同様に、TP400とUV−7011の混合で完全に透明な溶液、水の添加で乳白濁状態、最後にHPCを加えると完全に透明な等方性水溶液となった。この等方性水溶液も加温により十分な白濁をもって均一な遮光状態となり、かつ、安定した可逆変化をもって高い耐候性を示した。
本発明の積層体の主用途となる窓を考慮すると、水のように完全に無色透明な状態を得るのが好ましい。そこで、完全に透明な状態の等方性水溶液となり得るベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体に関し、さらに鋭意検討した。なお、その添加量は、等方性水溶液に対して0.01重量%から10重量%程度でよく、好ましくは0.1重量%から5重量%程度でよい。これより少ないと効果が不十分となり、多くても耐候性がさらに向上するわけではない。
そこで、非イオン性のベンゾフェノン誘導体が、水のように完全に透明な状態で等方性水溶液に混和するためには、下記一般式1で表されるように、分子内水素結合に寄与するRまたはRの水酸基以外に水酸基等の親水性官能基をR〜R10としてもたせて、このベンゾフェノン誘導体が水、両親媒性物質、両親媒性多糖類誘導体に対しより高い親和性を示し、全ての溶存物質間の相互作用が良好な親水性−疎水性バランスをもつようにすることが、安定的な可逆変化と水のように透明な等方性水溶液を得るのに非常に重要であることが見出された。例えば、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基、糖残基等の官能基を付加させるとよい。

具体的には、一般式1中、RおよびRはそれぞれ水素原子または水酸基を表し、RおよびRのうちの少なくとも1個は水酸基であり、R〜R10はそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基(例えば、特開平7−109447号公報)またはO−(R11−A基(式中、Aは保護基を有していない糖残基(例えば、グルコース、ガラククトース等の単糖類、トレハロース、マルトース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類から1個の水酸基を除いた残基)を表し、R11は直接結合(nは0)を表すかまたは炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のアルキレンオキサイド基(nは1〜6の整数)を表す)(例えば、特開平6−87879号公報、特開平6−135985号公報)を表し、R〜R10のうちの少なくとも1個は水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基である。
さらに、好ましくは、R〜R10として存在する水酸基は、各ベンゼン環にそれぞれ1個までであることが黄色化を防止するのによく、具体的には、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4′−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2′,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、UV−106、2,4−ジヒドロキシ−4′−メトキシベンゾフェノン等がある。ポリエチレンオキサイド基は、エチレンオキサイド単位の数の増大とともに親水性が増し、その数は2〜100でよく、好ましくは5〜30程度がよく、具体的には、例えば、2−ヒドロキシ−4−ポリエチレンオキサイドベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ポリエチレンオキサイド−4′−メトキシベンゾフェノン等がある。前記一般式1の化合物としては、例えば、下記一般式2で表されるものがある。

(上式中、RおよびRはそれぞれ水素原子、水酸基または炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、Aはグルコース残基、トレハロース残基またはマルトース残基を表し、R11は炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のアルキレンオキサイド基を表し、nは1または2であり、好ましくは、水溶性、工業性等の観点からアルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基であり、アルキレン基はメチレン基、エチレン基であり、アルキレンオキサイド基はエチンオキサイド基、プロピンオキサイド基である)
次に、非イオン性のベンゾトリアゾール誘導体は、水のように透明な状態で等方性水溶液に混和するためには、下記一般式3で表されるように、分子内水素結合に寄与するRの水酸基以外に水酸基等の親水性官能基をR〜Rとしてもたせて、このベンゾトリアゾール誘導体が水、両親媒性物質、両親媒性多糖類誘導体に対しより高い親和性を示し、全ての溶存物質間の相互作用が良好な親水性−疎水性バランスをもつようにすることが、安定的な可逆変化と水のように透明な等方性水溶液を得るのに非常に重要であることが見出された。例えば、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基、糖残基等の官能基を付加させるとよい。

具体的には、一般式3中、Rは水酸基を表し、R〜Rはそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基(式中、Aは保護基を有していない糖残基(例えば、グルコース、ガラククトース等の単糖類、トレハロース、マルトース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類から1個の水酸基を除いた残基)を表し、R11は直接結合(nは0)を表すかまたは炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のアルキレンオキサイド基(nは1〜6の整数)を表す)を表し、R〜Rのうちの少なくとも1個は水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基である。
さらに、好ましくは、R〜Rとして存在する水酸基は1個であることが黄色化を防止するのによく、具体的には、例えば、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)2H−ベンゾトリアゾール等がある。また、ポリエチレンオキサイド基は、エチレンオキサイド単位の数の増大とともに親水性が増し、その数は2〜100でよく、好ましくは3〜30程度がよく、具体的には、例えば、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの4位の水酸基にポリエチレンオキサイド基を付加したもの等がある。さらに、O−(R11−A基は前記したベンゾフェノン誘導体に対して述べたものと同様でよい。なお、本発明に特に効果があるわけではないが、ベンゾトリアゾールのベンゼン環に塩素等のハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基が付加されていてもよい。
次に、イオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体に関して述べる。本発明者の実験によれば、イオン性官能基がベンゼン環に直接結合したベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体は、水のように透明な等方性水溶液を与えたが、これらの紫外線吸収剤は、それ自体の光安定性が劣っており、またその紫外線吸収剤の光劣化により、等方性水溶液は気泡の発生と共に強く黄変して使用不能となった。そこで、さらに鋭意検討した結果、イオン性官能基が鎖状部を介してベンゼン環に結合し、かつ、水に溶解するイオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体が、水のように透明な等方性水溶液を与え、かつ、安定的な可逆変化をもって高耐候性を示すことが見出された。このイオン性官能基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、アンモニウム基等がある。また、水に対する20℃での溶解度が1g以上、好ましくは3g以上であるとよい。
具体的には、前記一般式1中、RおよびRはそれぞれ水素原子または水酸基を表し、RおよびRのうちの少なくとも1個は水酸基であり、R〜R10はそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)または鎖状部を有するイオン性官能基を表し、R〜R10のうちの少なくとも1個は鎖状部を有するイオン性官能基水酸基である化合物である。このイオン性の官能基は等方性水溶液に添加後にイオン解離するが、その等方性水溶液のpHは5〜9であるのがよく、好ましくは6〜8である。鎖状部は、R〜R10に水酸基を介して導入でき、例えば、エチレンオキサイド基等が有用である。
具体的には、例えば、従来から紫外線吸収剤、界面活性剤等の合成に広く利用されている公知の方法である4位の水酸基を修飾させる反応でイオン性の紫外線吸収剤を得ることができ、例えば、下記のNo.1〜6の化合物等を挙げることができ、ここでnの数は特に限定されるものではないが、1〜6程度でよい。
No.1

No.2

No.3

No.4

No.5

No.6

具体例として、ベンゾトリアゾール誘導体であるNo.1の化合物(水に対する20℃での溶解度:3.6g)により説明する。水/87重量部にNo.1化合物/1.3重量部を加えて加温溶解して、20℃の室温に戻しても透明な水溶液を得た。この混合水溶液にTP400/25重量部とHPC/50重量部を順次加えて撹拌混合したところ、水のように透明で均一な等方性水溶液を得た。また、この等方性水溶液は、加温により十分な白濁をもって均一な遮光状態を示し、かつ、安定した可逆変化をもって高い耐候性を示した。
次に、前述した特許公報に詳しく説明されているが、本発明に有用な両親媒性多糖類誘導体と両親媒性物質について説明する。両親媒性多糖類誘導体としては、非イオン性官能基(例えば、ヒドロキシプロピル基等)を付加した多糖類(例えば、セルロース、プルラン、デキストラン等)で水に室温で約25〜約50重量%の高濃度でも均一に溶解して水溶液となり、疎水結合の効果により温度の上昇とともに白濁状態となるものが挙げられる。なかでも、セルロース誘導体は、安定性が高く、重要である。以下においては、特記しない限り、セルロース誘導体を主体として記述するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、両親媒性多糖類誘導体の重量平均分子量が小さいと凝集は小さく、白濁も弱く、大きいと高分子効果により凝集も大きくなりすぎて相分離しやすくなり、不適である。従って、両親媒性多糖類誘導体の重量平均分子量は、約10,000〜約200,000の範囲であってよく、約15,000〜約100,000の範囲であるのが好ましい。また、以下においては、セルロースに付加する官能基の代表例としてヒドロキシプロピル基を選択し、ヒドロキシプロピルセルロースを主体に記述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
両親媒性多糖類誘導体の濃度は、特に高くする必要はなく、高すぎるとかえって疎水結合の効果が不十分となり、相分離は起きないが、白濁遮光は弱くなり、また高粘度となり、無気泡で積層し難くなるので、水に対する両親媒性多糖類誘導体の濃度は約50%以下であるのが好ましい。しかし、水性媒体(水−両親媒性物質の混合体)を溶媒のように見立てると、例えば、HPC75重量%(残りの25重量%は5重量%塩化ナトリウム水溶液)の組成でも、両親媒性物質、例えば、TP400を溶媒として加えていき、全量に対するHPCの割合を約30重量%にすると、約67℃で白濁変化を発現した。このように両親媒性物質の溶媒作用を利用すると、この濃度(水に対する両親媒性多糖類誘導体の割合)は約50重量%以下に限定されるものではない。なお、実用性の立場からは、両親媒性多糖類誘導体の全体割合をおさえて、低粘度化すると生産が容易になる。このように、白濁凝集とその可逆安定性の観点から水(温度シフト剤を含んでいてもよい)の量は、両親媒性多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450重量部であるのがよく、約50〜約300重量部であるのが好ましい。
両親媒性物質は、前記した両親媒性多糖類誘導体の等方性水溶液が白濁凝集したときに相分離を起こすことを防止する働きをする。しかし、両親媒性物質を添加しても、水に対する両親媒性多糖類誘導体からなる濃度が約18重量%以下、より確実には約25重量%以下になると、水の分離がおき易くなる。
この両親媒性物質は、親水性基と疎水性基を併せもち、室温の水に溶解または均一分散する化合物である。親水性基としては、例えば、水酸基、エチレンオキサイド基、エーテル結合部、エステル結合部、アミド基等の非イオン性基がある。疎水性基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基等の低級脂肪族基があり、さらに親水性基がポリエチレンオキサイド基、イオン性基(例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、両性基等)のように親水性が大きい場合は、炭素数の大きい5〜25程度の脂肪族基、芳香族系のベンゼン基、ベンジル基、フェノール基等のように大きいな疎水性をもつ官能基がよい。また、両親媒性物質の分子量は、大きくなりすぎると高分子作用により不可逆変化、不均一性が発現しやすくなる傾向があり、特に大きい分子量が優れた効果を示すわけでもなく、かえって等方性水溶液の粘度が高くなり、作業性を悪くする。よって、その分子量は、オリゴマー領域の約5,000以下であってよく、より好ましくは約3,000以下である。なお、この分子量が小さすぎると、その作用効果が低くなる傾向があり、約60以上であるのが好ましい。
両親媒性物質の具体例としては、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、2,3,4−ペンタントリオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシプロピレンメチルグルコシド(例えば、ユニオン・カーバイト社のGlucamP10)、水酸基価が約100〜約300のエチレンオキサイド基をもつビスフェノールA、水酸基価が約100〜約350のエチレンオキサイド基をもつフェニルグリコール、平均分子量約300〜約800のポリオキシプロピレントリメチロールプロパン、平均分子量が約500〜約5,000であり、それぞれの単位の割合が約50重量%であるポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)トリメチロールプロパン、平均分子量約500〜約3,000のポリオキシプロピレンソルビトール、エチレンオキサイドを付加したポリエーテル変性シリコーンオイル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等がある。
両親媒性物質の量は、等方性水溶液中に存在する水100重量部に対して約0.5〜約800重量部、好ましくは約3〜約600重量部である。2種以上の両親媒性物質を混合使用してもよい。さらに、両親媒性多糖類誘導体100重量部に対して水の量が100重量部以下であっても、両親媒性物質の添加量を増やすことで無色透明な等方性水溶液が得られる。これは、両親媒性物質が溶媒としての作用を示すからであると思われる。このように、両親媒性多糖類誘導体100重量部を基準にすると、水、両親媒性物質および温度シフト剤とからなる水性媒体の量は、約100〜約2,000重量部であるのがよく、好ましくは約150〜約1,800重量部である。
分子が凝集して白濁する開始温度は、温度シフト剤の種類と添加量、水性媒体の組成(水−両親媒性物質の混合割合)、両親媒性多糖類誘導体−水性媒体の割合、両親媒性物質の種類と添加量等により制御できる。温度シフト剤としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、硫酸ナトリウム、2−フェニルフェノールナトリウム、カルボキシメチルセルロース等のイオン性物質があり、また、例えば、フェニルモノグリコール、フェニル−1,4−ジグリコール、ベンジルモノグリコール、フェニルプロピレングリコール、4,4′−ジヒドロキシフェニルエーテル等の非イオン性物質があり、これらを2種以上混合添加してもよい。その添加量は、特に限定されるものではないが、等方性水溶液に対して15重量%以下であるのがよく、好ましくは10重量%以下であってよい。さらに、紫外線吸収剤の添加量の調整によっても白濁開始温度を変えることができる。例えば、前記したUV−106の添加を増やすと白濁開始温度が低温側にシフトした。また、防腐剤、殺菌剤、色素、熱線吸収剤、抗酸化剤等を必要に応じて適量添加してもよい。
次に、本発明に係る積層体の構造に関して述べる。図1、図2および図3は、それぞれ、本発明の積層体の実施例の断面図であって、1は基板、2は等方性水溶液、3−1、3−2は封止剤、4は気体層、5は気体層の封止である。
図1は、本発明の積層体の基本形態を示す図であり、少なくとも一部が透明で等方性水溶液2を直視可能な基板1の間に等方性水溶液2を積層したものである。等方性水溶液2の層厚は、特に限定されるものではないが、0.01〜2mm程度でよい。特に図示していないが、等方性水溶液2および封止剤3−1、3−2の層にスペーサー(例えば、ガラスビーズ、ガラス繊維、金属ワイヤー、点状シリコーンゴム、紐状シリコーンゴム等)を配置してもよい。封止剤3は、透水性を防止する層3−1と基板間を接着固定する層3−2からなる。前者の透水性防止層3−1には、例えば、ホットメルト型ポリイソブチレン系シーラントが有用であり、これは主な樹脂成分がポリイソブチレンであり、ブチルゴム、石油系水添樹脂、ポリブテン等の樹脂と微粉カーボン、微粉タルク、微粉シリカ等の充填剤、紫外線吸収剤等の添加剤を選択混合してなる。その使用性能は、紐状に押出し加工ができて、大気圧程度の加圧で容易に変形して基板に密着する特性をもつ。硬すぎると紐状での押出し加工が困難になり、柔らかすぎると積層体の組立時に紐状のラインが流動変形を起こし、かつ、積層体の熱安定性にも悪い影響があった。具体的には、吉田科学器機の針進入度試験器AP−II型(適用規格:JIS・K2207、ASTM・D5)による20℃の針入度が15〜80mmであってよく、好ましくは20〜50mmがよい。
接着固定層3−2には、1液型シリコーン系シーラント、2液型シリコーン系シーラント、2液型ポリサルファイド系シーラント、2液型イソブチレン系シーラント、2液型ウレタン系シーラント等がある。その性能は、チキソトロピー性をもった高粘性体であり、室温放置で硬化して基板に接着固化する。この接着固定層3−2は高モジュラスのゴム弾性を持つことが好ましく、複層ガラス用のシーラント(例えば、東レ・ダウコーニング・シリコーン社のSE9500等)を利用することもできる。なお、透水性防止層3−1と接着固定層3−2を必要に応じて多段に設けてもよい。その結果、透水性防止層3−1の密着安定性がより増すことができ、過酷な環境下での使用には好ましい。
基板1には、水分を透過し難い材料であれば広く利用できる。例えば、ガラス板、セラミックス板、金属板、プラスチック板、プラスチックフィルム等があり、ガラスとしては市販されている各種ガラスが広く利用できる。これらの材料の組合せ、曲面状での使用であってもよい。また、特殊な形態として、チューブに等方性水溶液を注入した棒状体、それを面状に並べた簾状のものも本発明の積層体に含むものとする。また、基板に凹凸を設けて等方性水溶液2の層厚を変えて模様を浮き出るようにしてもよい。
図2は、図1の積層体にもう1枚基板を設けて気体層4(例えば、空気等の層)を追加配置したものである。その結果、可逆変化する日射遮蔽性に加えて、断熱性をも持つ高機能性の窓、壁面材となる。窓に使用すると、夏期は等方性水溶液2の白濁遮光により冷房負荷が軽減され、冬期は白濁せずに従来ガラスと同様に日射透過すると共に気体層4により従来の複層ガラスと同様に断熱効果をもち暖房負荷の軽減ができる。なお、追加基板をタイル板にすると、夏期は白濁変化により日射反射して壁面の高温化が防止され、冬期は日射熱でタイル壁面が加温されると共に気体層4で断熱もされるので省エネ効果をもった外装用タイルとなる。
図3は、特性の異なる等方性水溶液2−1、2−2、2−3を同一の基板間に内包した積層体である。例えば、等方性水溶液2の層を3分割して上部から白濁開始温度を約30℃、約35℃、約40℃にすると、上部から白濁が開始されて、季節の気温の上昇とともに白濁領域が拡大可変する窓となり、より優れた日射遮蔽効果をもった窓になる。また、ライン状もしくは格子状に配置することで、部分透視性を確保しつつ模様を発現する窓にもなる。この分割をより細かくすることで、連続した諧調変化をもたせることもできる。また、温度シフト剤として無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等)と有機物質(例えば、フェニルモノグリコール、カルボキシメチルセルロース等)を複合的に使用してもよい。さらに、水と混和しない高粘性物質(例えば、シリコーンオイル等)、ゲル物質(例えば、シリコーンゲル等)等を、例えば、等方性水溶液2−1の代わりに置くことで常に透視性をもった窓にすることもできる。必要に応じて、特に図示しないが、図1で説明した透水性防止層3−1に使用した紐状の封止剤を等方性水溶液2−1、2−2、2−3の間に間仕切りとして設けてもよい。さらに、スペーサーを兼ねて棒状の金属、プラスチック等を補助材として追加して間仕切りを補強してもよい。また、シリコーン系の接着剤、密着剤を配した棒状の補助材を使用してもよい。その結果、等方性水溶液が明確に区分された積層体を得ることができる。
本発明の積層体の利用は、窓ガラス、アトリウム、天窓、庇、扉、タイル等の建築材料に留まらずに、野外でも使用できる物品に広く利用でき、広告棟、掲示板等の表示体、さらにテーブル、照明器具、家具、住設機器、生活雑貨、温度を表示する温度計パネル等にも利用できる。特に窓には有用であり、住宅、ビル、店舗、公共建築等の建築物の窓、自動車、電車、船舶、航空機、エネベーター等の運送機の窓等に広く利用できる。当然であるが、本発明の積層体は、室内にある物品の変色等の劣化原因となる紫外線を常にカットする窓ともなる。また、壁面に使用するとその時の気象条件に依存して壁面が変化する。例えば、白濁開始温度の異なる積層体を文字、絵、模様等になるようにマトリックス状に施工することで、日射の有無、気温変化等により自然に可逆変化する新しい広告媒体、案内板とすることができる。
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
以下の実施例においては、両親媒性多糖類誘導体にHPC、両親媒性物質にTP400を主に用いるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。等方性水溶液の製造は、非イオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体の場合は、両親媒性物質に溶解後に水性媒体を添加混合してからHPCを加えて十分に混合撹拌することにより行った。イオン性のベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体の場合は、水に溶解後に両親媒性物質とHPCを順次添加撹拌して調製した。なお、必要に応じて両親媒性物質を複数使用することで、ベンゾフェノン誘導体とベンゾトリアゾール誘導体を等方性水溶液により多く均一に溶解させることもできた。また、積層体の製作に際しては、10cm角の2mm厚と5mm厚フロートガラスを基板1として使用し、中心部に約4gの等方性水溶液2を置き、外周部に2.5mm径の紐状イソブチレンシーラント3−1と室温反応型の2液型シリコーンシーラント3−2を設けて、真空下で対向基板を加圧密着して気泡のない約0.5mm厚の等方性水溶液をもつ積層体とした。また、下記の実施例の積層体は、光耐候性をもって安定的に均一な可逆変化を示した。当然、耐紫外線テストに加えて60℃で5000時間の耐熱テスト、−20℃〜70℃の200回サイクルテスト等においても良好な結果を示した。
耐候性試験の紫外線照射テストは、岩崎電気の超促進耐候性試験機、アイスーパーUVテスターを使用し、強度100mW/cm、ブラックパネル温度63℃で5mm厚基板側から連続照射して目視観察(以下、UVテストと記す)した。透過率の測定は、散乱光の測定に適している日立製作所のU−4000型分光光度計を使用して受光部側に2mm厚基板を向けて行った。下記の透過率は波長500nmで測り、透明・半透明状態は室温で測定(以下、RTと記す)し、白濁状態は十分に加温して飽和白濁させてから測定(以下、HTと記す)した。なお、以下の配合量は全て重量部である。
【実施例1】
UV−106を添加した20℃で透明状態の等方性水溶液を(A)、(B)の2種類調製した。(A)はHPC/TP400/UV−106/水/NaCl:50/25/1.25/87/2であり、(B)はHPC/TP400/UV−106/水:50/25/2.5/87である。(A)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.7%、HT:19.5%であった。白濁開始温度は30℃であった。UVテストでは、200時間の連続照射直後には凝集むらが見られたが気泡の発生は無かった。その凝集むらは室温放置で自然に回復し、白濁開始温度の変動もほとんど無く、良好な白濁遮光状態を維持した。(B)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.6%、HT:13.0%であった。白濁開始温度は41℃であった。UVテストの結果は、(A)と同様であった。以上のように、高い耐候性を確保できた。次に透明な積層体の代表例として、(A)の透明状態と白濁状態の300〜2100nmの透過率(%T)を図4に示した。約400nm以下の紫外線が十分に吸収されているのが分かる。さらに、UVテストの結果を自然光と比較するために、(A)の積層体に対し、自然光による屋外集光式促進暴露試験(米国アリゾナ州のEMMAQUA試験)を半年間おこなった結果、特に変化はなく良好であった。この促進暴露の試験結果は東京での野外暴露の約10年間にあたる。
【実施例2】
2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン(以下、UV−100と記す)、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(以下、UV−7011と記す)、イオン性官能基を有する前記したNo.1の化合物を添加した20℃で透明状態の等方性水溶液を(A)、(B)、(C)の3種類調製した。(A)はHPC/TP400/UV−100/水/NaCl:50/50/1.25/85/1.5であり、(B)はHPC/TP400/UV−7011/水:50/50/1.25/85であり、(C)はHPC/TP400/No.1/水:50/25/1.25/87である。(A)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:89.0%、HT:12.5%であった。白濁開始温度は31℃であった。UVテストの結果は、実施例1と同様に良好であった。(B)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.6%、HT:13.7%であった。白濁開始温度は42℃であった。UVテストの結果は、淡く黄変が起きたが実施例1と同様に良好であった。(C)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:89.0%、HT:14.7%であった。白濁開始温度は48℃であった。UVテストの結果は、実施例1と同様に良好であった。以上のように、高い耐候性を確保できた。
【実施例3】
実施例1および実施例2で使用したUV−106、UV−100、UV−7011、No.1の化合物とUV−7011の4位の水酸基にエチレンオキサイド単位を3個付加したもの(以下、UV−7011G3と記す)を添加した等方性水溶液を(A)〜(H)の7種類調製した。なお、PhGはフェニルモノグリコールであり、PhG−55はポリエチレンオキサイド基をもつ、水酸基価約165のフェニルグリコールであり、BPE−60はビスフェノールAにポリエチレンオキサイド基を付加した、水酸基価約228の物質であり、Ca−2Hは塩化カルシウムの2水和物である。(A)はHPC/TP400/PhG−55/UV−100/水/Ca−2H:50/22.5/10/2.5/86/5.5、(B)はHPC/PhG−55/UV−100/水/Ca−2H:50/15/2/86/10、(C)はHPC/TP400/PhG−55/UV−7011/水/NaCl:50/25/5/1.5/87/2.5、(D)はHPC/PhG−55/UV−7011G3/水/Ca−2H:50/50/1/86/10、(E)はHPC/TP400/No.1/水/Ca−2H:50/25/1/86/5、(F)はHPC/BPE−60/PhG−55/UV−100/水/NaCl:50/20/10/1/87/3.5、(G)はHPC/TP400/PhG/UV−100/水/NaCl:50/24/10/1/87/1.5、(H)はHPC/TP400/PhG−55/UV−100/UV−106/水/Ca−2H:50/22.5/10/1.25/1.25/86/5.5である。(A)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.5%、HT:12.4%であった。白濁開始温度は29℃であった。UVテスト結果は、実施例1と同様に良好であった。(B)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.5%、HT:12.5%であった。白濁開始温度は19℃であった。UVテスト結果は、実施例1と同様に良好であった。(C)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.5%、HT:12.7%であった。白濁開始温度は30℃であった。UVテスト結果は、若干淡く黄変が起きたが実施例1と同様に良好であった。(D)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.3%、HT:18.6%であった。白濁開始温度は37℃であった。UVテスト結果は、実施例1と同様に良好であった。(E)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.4%、HT:13.5%であった。白濁開始温度は31℃であった。UVテスト結果は、実施例1と同様に良好であった。(F)は、15℃〜31℃の間は無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.6%、HT:15.6%であった。なお、15℃以下でも白濁状態を示した。UVテスト結果は、実施例1と同様に良好であった。(G)は、PhGの作用で18℃〜29℃の間は透視性をもって淡い白青色の半透明状態をとり、その透過率はRT:約70%、HT:11.7%であった。強く白濁を開始した温度は29℃であった。なお、18℃以下でも白濁状態を示した。UVテスト結果は、実施例1と同様に良好であった。(H)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.5%、HT:12.1%であった。白濁開始温度は29℃であった。UVテスト結果は、実施例1と同様に良好であった。なお、(F)と(G)の低温域での白濁変化は、UV−100を除いても観察され、安定的な可逆変化も示した。
比較例
紫外線吸収剤を含まない等方性水溶液を(A)、(B)の2種類と住友化学のSumisorb・110S(以下、110Sと記す)を添加した等方性水溶液を(C)、(D)の2種類調製した。(A)はHPC/TP400/水/NaCl:50/25/87/2、(B)はHPC/TP400/水:50/25/87、(C)はHPC/TP400/110S/水:50/25/2.5/87、(D)はHPC/TP400/110S/水:50/25/1.25/87である。(A)は、紫外線吸収剤が無添加であり、その透過率はRT:88.5%、HT:13.7%であった。白濁開始温度は34℃であった。UVテストでは、50時間後には気泡発生がおこり回復不可能な変化を示し、100時間後には大気泡の発生と共に白濁変化もおこり難くなり、回復不可能となった。(B)は、紫外線吸収剤が無添加であり、その透過率はRT:88.5%、HT:13.7%であった。白濁開始温度は46℃であった。UVテスト結果は、(A)と同様であった。(C)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:88.0%、HT:17.2%であった。白濁開始温度は52℃であった。UVテストでは、50時間後には白濁開始温度の上昇を起り62℃となり、100時間後には気泡発生と共に白濁変化もおこり難くなり、回復不可能となった。(D)は、無色透明状態をとり、その透過率はRT:89.1%、HT:18.9%であった。白濁開始温度は49℃であった。UVテスト結果は、(C)と同様であった。以上のように110Sを添加しても若干向上した程度であり、長期間の使用には明らかに問題であった。さらに、UVテストの結果を自然光と比較するために、(A)と(C)の積層体に対し、前記したEMMAQUA試験を半年間行った結果、UVテストの場合と同様に回復不可能となった。
【産業上の利用可能性】
本発明に従い、選択されたベンゾフェノン誘導体またはベンゾトリアゾール誘導体を添加した等方性水溶液を内包した積層体によれば、高い耐候性をもって安定的に均一な可逆変化を維持できるようになった結果、太陽の直射光線に常に曝されかつ長期間に渡って使用されるる窓、庇、タイル等の用途に実用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性の両親媒性官能基を有し、水溶性である、重量平均分子量約10,000〜約200,000の多糖類誘導体100重量部を、前記多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450となる量の水と約60〜約5,000の分子量を有する両親媒性物質とからなる水性媒体約100〜約2,000重量部に溶解した等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、前記水溶液を直視可能な基板で積層した積層体において、両親媒性物質に対する20℃での溶解度が1g以上である非イオン性のベンゾフェノン誘導体およびベンゾトリアゾール誘導体並びに水に対する20℃での溶解度が1g以上である、イオン性官能基が鎖状部を介して結合したベンゼン環を有するイオン性のベンゾフェノン誘導体およびベンゾトリアゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を前記等方性水溶液100重量部に対して0.01〜10重量部添加されている積層体。
【請求項2】
前記非イオン性のベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体の、両親媒性物質である分子量約400のポリオキシプロピレントリメチロールプロパンに対する20℃での溶解度が1g以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記非イオン性のベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体が下記一般式1または3で表される化合物である、請求項1または2に記載の積層体。

(上式中、RおよびRはそれぞれ水素原子または水酸基を表し、RおよびRのうちの少なくとも1個は水酸基であり、R〜R10はそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基(式中、Aは保護基を有していない糖残基(例えば、グルコース、ガラククトース等の単糖類、トレハロース、マルトース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類から1個の水酸基を除いた残基)を表し、R11は直接結合(nは0)を表すかまたは炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のアルキレンオキサイド基(nは1〜6の整数)を表す)を表し、R〜R10のうちの少なくとも1個は水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基である)

(上式中、Rは水酸基を表し、R〜Rはそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基(式中、Aは保護基を有していない糖残基(例えば、グルコース、ガラククトース等の単糖類、トレハロース、マルトース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類から1個の水酸基を除いた残基)を表し、R11は直接結合(nは0)を表すかまたは炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のアルキレンオキサイド基(nは1〜6の整数)を表す)を表し、R〜Rのうちの少なくとも1個は水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基である)
【請求項4】
〜Rのうちの1個およびR〜R10のうちの1個が水酸基であってよい、請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
残りのR〜RおよびR〜R10が水素原子、メトキシ基またはエトキシ基である、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
イオン性官能基がスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基またはアンモニウム基である、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記等方性水溶液にさらに温度シフト剤が添加されている、請求項1〜6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
2種以上の等方性水溶液の層が設けられている、請求項1〜7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
少なくとも片側に追加の基板を配置して気体層が設けられている、請求項1〜8のいずれかに記載の積層体。
【請求項10】
非イオン性の両親媒性官能基を有し、水溶性である、重量平均分子量約10,000〜約200,000の多糖類誘導体100重量部を、前記多糖類誘導体100重量部に対して約25〜約450となる量の水と約60〜約5,000の分子量を有する両親媒性物質とからなる水性媒体約100〜約2,000重量部に溶解した等方性水溶液を、少なくとも一部が透明であり、前記水溶液を直視可能な基板で積層した積層体を含む窓において、両親媒性物質に対する20℃での溶解度が1g以上である非イオン性のベンゾフェノン誘導体およびベンゾトリアゾール誘導体並びに水に対する20℃での溶解度が1g以上である、イオン性官能基が鎖状部を介して結合したベンゼン環を有するイオン性のベンゾフェノン誘導体およびベンゾトリアゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を前記等方性水溶液100重量部に対して0.01〜10重量部添加されている窓。
【請求項11】
前記非イオン性のベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体の、両親媒性物質である分子量約400のポリオキシプロピレントリメチロールプロパンに対する20℃での溶解度が1g以上である、請求項10に記載の窓。
【請求項12】
前記非イオン性のベンゾフェノン誘導体もしくはベンゾトリアゾール誘導体が下記一般式1または3で表される化合物である、請求項10または11に記載の窓。

(上式中、RおよびRはそれぞれ水素原子または水酸基を表し、RおよびRのうちの少なくとも1個は水酸基であり、R〜R10はそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基(式中、Aは保護基を有していない糖残基(例えば、グルコース、ガラククトース等の単糖類、トレハロース、マルトース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類から1個の水酸基を除いた残基)を表し、R11は直接結合(nは0)を表すかまたは炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のアルキレンオキサイド基(nは1〜6の整数)を表す)を表し、R〜R10のうちの少なくとも1個は水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基である)

(上式中、Rは水酸基を表し、R〜Rはそれぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基(式中、Aは保護基を有していない糖残基(例えば、グルコース、ガラククトース等の単糖類、トレハロース、マルトース等の二糖類、マルトトリオース等の三糖類から1個の水酸基を除いた残基)を表し、R11は直接結合(nは0)を表すかまたは炭素数1〜4のアルキレン基または炭素数1〜4のアルキレンオキサイド基(nは1〜6の整数)を表す)を表し、R〜Rのうちの少なくとも1個は水酸基、ポリグリセリン基、ポリエチレンオキサイド基またはO−(R11−A基である)
【請求項13】
〜Rのうちの1個およびR〜R10のうちの1個が水酸基であってよい、請求項10〜12のいずれかに記載の窓。
【請求項14】
残りのR〜RおよびR〜R10が水素原子、メトキシ基またはエトキシ基である、請求項13に記載の窓。
【請求項15】
イオン性官能基がスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基またはアンモニウム基である、請求項10に記載の窓。
【請求項16】
前記等方性水溶液にさらに温度シフト剤が添加されている、請求項10〜15のいずれかに記載の窓。
【請求項17】
2種以上の等方性水溶液の層が設けられている、請求項10〜16のいずれかに記載の窓。
【請求項18】
少なくとも片側に追加の基板を配置して気体層が設けられている、請求項10〜17のいずれかに記載の窓。

【国際公開番号】WO2004/104132
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−572139(P2004−572139)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015413
【国際出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【出願人】(591247754)アフィニティー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】