説明

自走式エレベータ

【課題】特殊なロープやロープの巻掛け角を増やすことを要することなく、比較的簡易な構造で必要なトラクションを確保できる自走式エレベータの提供。
【解決手段】釣合い錘2に、モータ8a及びこのモータ8aにより駆動されるとともに釣合い錘側ガイドレール7に摺接する駆動ローラ8eを備えた駆動装置8を搭載した自走式エレベータにおいて、釣合い錘2に相対運動が可能なように取付けられるトラクション発生用錘9と、エレベータが加減速するときにトラクション発生用錘9に発生する慣性力を駆動ローラ8eの釣合い錘側ガイドレール7に対する押付け力とする伝達手段10とを備え、エレベータが加減速するときに発生する慣性力を利用し、エレベータを適切に駆動するために必要なトラクションを確保するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣合い錘に駆動装置を搭載した自走式エレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータにあっては、機械室または昇降路内に設置した巻上機のシーブにロープを巻き掛けて、シーブとロープの間の摩擦力により乗かごを昇降させるものの他に、釣合い錘に駆動装置を搭載した自走式エレベータがある。このような方式のエレベータは、一般的に重い重量を有していて設置スペースも必要とする駆動装置を、エレベータとしての機能上において必然的に重量を必要とする釣合い錘に搭載することで、機械室にも昇降路内にも巻上機を設置する必要をなくし、省スペース化や低コスト化が実現できるという利点がある。しかしながら、エレベータを駆動させるための駆動装置自体が、乗かごや釣合い錘とともに上下動するために、トラクションが得られにくいという性質も持っているため、充分なトラクションを安定的に確保することが課題となっていた。
【0003】
このような課題の解決を図るため、従来、樹脂被覆鋼製ロープにより自走式エレベータのトラクションを確保するものや(例えば、特許文献1参照)、転向プーリを用いてロープの巻掛け角を大きくしてトラクションを確保するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許WO2004/080878
【特許文献2】特許第3426352号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した前者のものでは、樹脂で被覆した特殊なロープを必要とし、コストの上昇を招くという問題があった。また、後者のものは、転向プーリーを用いてロープの巻掛け角を増やすものであるが、ロープの曲げ回数が増えたり、逆曲げ箇所が生じたりし、ロープの寿命を低下させる恐れがあった。
【0005】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、特殊なロープやロープの巻掛け角を増やすことを要することなく、比較的簡易な構造で必要なトラクションを確保することのできる自走式エレベータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、昇降路を昇降する乗かご及び釣合い錘と、前記乗かごの昇降を案内するかご側ガイドレールと、前記釣合い錘の昇降を案内する釣合い錘側ガイドレールと、前記釣合い錘に搭載されたモータ、及びこのモータにより駆動されるとともに前記釣合い錘側ガイドレールに摺接する駆動ローラを備えた駆動装置とを有し、エレベータが加減速するときに発生する慣性力を利用してトラクションを発生させることを特徴としている。
【0007】
このように構成した本発明の請求項1に係る発明では、エレベータの昇降のためのトラクションを必要とするのは主にエレベータが加減速するときであることに着目して、加減速時に発生する自然の力である慣性力を利用してトラクションを発生させるものであり、従来のように、特殊なロープやロープの巻掛け角を増やすことを要することがない。
【0008】
本発明の請求項2に係る発明は、前記釣合い錘に相対運動が可能なように取付けられるトラクション発生用錘と、エレベータが加減速するときに前記トラクション発生用錘に発生する慣性力を前記駆動ローラの前記釣合い錘側ガイドレールに対する押付け力とする伝達手段とを備えたことを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明の請求項2に係る発明では、エレベータの加減速に応じてトラクション発生用錘に慣性力が発生し、この慣性力を伝達手段により駆動ローラの釣合い錘側ガイドレールに対する押付け力とする。これによって、エレベータを適切に駆動するために必要なトラクションを確保することができる。
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、前記トラクション発生用錘は、前記釣合い錘の上昇加速及び下降減速に応じてトラクションを発生させるための第1の錘と、前記釣合い錘の下降加速及び上昇減速に応じてトラクションを発生させるための第2の錘とを備えるとともに、前記伝達手段は、一端が前記釣合い錘にピンを介して回動可能に取付けられるとともに、他端に前記駆動ローラが取付けられるアームと、一端が前記第1の錘に接続されるとともに、他端が前記アームの一端に設けられる水平部の一側にスライド部を介して接続される第1のロッドと、一端が前記第2の錘にスライド部を介して接続されるとともに、他端が前記アームの一端に設けられる前記水平部の他側に接続される第2のロッドとを備えることを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明の請求項3に係る発明では、釣合い錘の上昇加速及び下降減速により第1の錘に下方向の慣性力が働く。これに応じて第1のロッドを介してアームにはピンを中心としたモーメントが働き、アームの他端に取付けられている駆動ローラが釣合い錘側ガイドレールに押付けられる。また、釣合い錘の上昇加速及び下降減速により第2の錘にも下方向の慣性力が働くが、第2のロッドの一端は第2の錘にスライド部を介して接続されていることから、第2の錘に働く力が第2のロッドには伝わらずに逃げるようになっており、駆動ローラの釣合い錘側ガイドレールへの押付けを妨げることがない。一方、釣合い錘の下降加速及び上昇減速により第2の錘に上方向の慣性力が働く。これに応じて第2のロッドを介してアームにはピンを中心としたモーメントが働き、アームの他端に取付けられている駆動ローラが釣合い錘側ガイドレールに押付けられる。また、釣合い錘の下降加速及び上昇減速により第1の錘にも上方向の慣性力が働くが、第1のロッドの一端は第1の錘にスライド部を介して接続されていることから、第1の錘に働く力が第1のロッドには伝わらずに逃げるようになっており、駆動ローラの釣合い錘側ガイドレールへの押付けを妨げることがない。これによって、比較的簡易な構造でエレベータを適切に駆動するために必要なトラクションを確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加減速時に発生する自然の力である慣性力を利用してトラクションを発生させるものであり、特殊なロープやロープの巻掛け角を増やすことを要することがなく、かつ、簡易な構造でエレベータを適切に駆動するために必要なトラクションを確保することができる。したがって、コストの上昇やロープの寿命の低下を招くことがない省エネルギーに配慮した自走式エレベータを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る自走式エレベータの実施の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明に係る自走式エレベータの一実施形態を示す全体概略構成図、図2は釣合い錘の上昇加速及び下降減速時の状態を示す本実施形態の要部構成図、図3は釣合い錘の下降加速及び上昇減速時の状態を示す本実施形態の要部構成図である。
【0015】
自走式エレベータは、図1に示すように、昇降路を昇降する乗かご1及び釣合い錘2と、一端が乗かご1、他端が釣合い錘2に接続されるとともに、その中間部がプーリ3、4に巻掛けられるロープ5と、乗かご1の昇降を案内するかご側ガイドレール6と、釣合い錘2の昇降を案内する釣合い錘側ガイドレール7と、釣合い錘2に対となって搭載され、モータ8a、このモータ8aによりプーリ8b、ベルト8c、及びプーリ8dを介して駆動されるとともに、釣合い錘側ガイドレール7に摺接する駆動ローラ8e、及び駆動ローラ8eを制動するブレーキ8fを備えた駆動装置8とを備えている。なお、釣合い錘2は、図2及び図3に示すように、重量調整用錘2aと、この重量調整用錘2aを支持する枠2bとを備えている。
【0016】
そして、本実施形態の自走式エレベータは、エレベータが加減速するときに発生する慣性力を利用してトラクションを発生させるようになっている。即ち、釣合い錘2の枠2bに相対運動が可能なように対となって取付けられるトラクション発生用錘9と、対となって釣合い錘2に設けられ、エレベータが加減速するときにトラクション発生用錘9に発生する慣性力を駆動ローラ8eの釣合い錘側ガイドレール7に対する押付け力とする伝達手段10とを備えている。
【0017】
トラクション発生用錘9は、釣合い錘の上昇加速及び下降減速に応じてトラクションを発生させるための第1の錘9aと、釣合い錘2の下降加速及び上昇減速に応じてトラクションを発生させるための第2の錘9bとを備える。なお、第2の錘9bは、弾性体11を介して枠2bに取付けられている。
【0018】
伝達手段10は、一端が釣合い錘2にピン10aを介して回動可能に取付けられるとともに、他端に駆動ローラ8eが取付けられるアーム10bと、一端が第1の錘9aに接続されるとともに、他端がアーム10bの一端に設けられる水平部10b1の一側にスライド部、例えば長穴10c及びピン10dを介して接続される第1のロッド10eと、一端が第2の錘9bにスライド部、例えば長穴10f及びピン10gを介して接続されるとともに、他端がアーム10bの一端に設けられる水平部10b1の他側にピン10hを介して接続される第2のロッド10iとを備えている。
【0019】
ここで、図2を用いて釣合い錘2の上昇加速及び下降減速時における本実施形態の自走式エレベータの動作を説明する。
【0020】
釣合い錘2の上昇加速及び下降減速により第1の錘9aに下方向の慣性力が働く。これに応じて第1のロッド10eを介してピン10dが押されて、アーム10bにはピン10aを中心としてモーメントが働き、アーム10bの他端に取付けられている駆動ローラ8eが釣合い錘側ガイドレール7に押付けられる。このとき、釣合い錘2の上昇加速及び下降減速により第2の錘9bにも下方向の慣性力が働くが、第2のロッド10iの一端は第2の錘9bに長穴10f及び10gを介して接続されていることから、第2の錘9bに働く力が第2のロッド10iには伝わらずに逃げるようになっており、駆動ローラ8eの釣合い錘側ガイドレール7への押付けを妨げることがない。
【0021】
次に、図3を用いて釣合い錘2の下降加速及び上昇減速時における本実施形態の自走式エレベータの動作を説明する。
【0022】
釣合い錘2の下降加速及び上昇減速により第2の錘9bに上方向の慣性力が働く。これに応じてピン10gを介して第2のロッド10iが上方向に引っ張られる。それとともにピン10hが上方向に引っ張られて、アーム10bにはピン10aを中心としてモーメントが働き、アーム10bの他端に取付けられている駆動ローラ8eが釣合い錘側ガイドレール7に押付けられる。このとき、釣合い錘2の下降加速及び上昇減速により第1の錘9aにも上方向の慣性力が働くが、第1のロッド10eの一端は第1の錘9aに長穴10c及びピン10dを介して接続されていることから、第1の錘9aに働く力が第1のロッド10eには伝わらずに逃げるようになっており、駆動ローラ8eの釣合い錘側ガイドレール7への押付けを妨げることがない。
【0023】
本実施形態によれば、加減速時に発生する自然の力である慣性力を利用してトラクションを発生させるものであり、特殊なロープやロープの巻掛け角を増やすことを要することがなく、かつ、簡易な構造でエレベータを適切に駆動するために必要なトラクションを確保することができる。したがって、コストの上昇やロープの寿命の低下を招くことがない省エネルギーに配慮した自走式エレベータを実現することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、モータ8aからの駆動力をベルト8cで駆動ローラ8eに伝達しているが、チェーンやギアなどで伝達してもよい。また、駆動ローラ8eの回転軸にモータ8aの回転軸を直結してダイレクトドライブの駆動方式をとってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る自走式エレベータの一実施形態を示す全体概略構成図である。
【図2】釣合い錘の上昇加速及び下降減速時の状態を示す本実施形態の要部構成図である。
【図3】釣合い錘の下降加速及び上昇減速時の状態を示す本実施形態の要部構成図である。
【符号の説明】
【0026】
1 乗かご
2 釣合い錘
2a 重量調整用錘
2b 枠
3 プーリ
4 プーリ
5 ロープ
6 かご側ガイドレール
7 釣合い錘側ガイドレール
8 駆動装置
8a モータ
8b プーリ
8c ベルト
8d プーリ
8e 駆動ローラ
8f ブレーキ
9 トラクション発生用錘
9a 第1の錘
9b 第2の錘
10 伝達手段
10a ピン
10b アーム
10b1 水平部
10c 長穴(スライド部)
10d ピン(スライド部)
10e 第1のロッド
10f 長穴(スライド部)
10g ピン(スライド部)
10h ピン
10i 第2のロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路を昇降する乗かご及び釣合い錘と、前記乗かごの昇降を案内するかご側ガイドレールと、前記釣合い錘の昇降を案内する釣合い錘側ガイドレールと、前記釣合い錘に搭載されたモータ、及びこのモータにより駆動されるとともに前記釣合い錘側ガイドレールに摺接する駆動ローラを備えた駆動装置とを有し、エレベータが加減速するとき発生する慣性力を利用してトラクションを発生させることを特徴とする自走式エレベータ。
【請求項2】
前記釣合い錘に相対運動が可能なように取付けられるトラクション発生用錘と、エレベータが加減速するときに前記トラクション発生用錘に発生する慣性力を前記駆動ローラの前記釣合い錘側ガイドレールに対する押付け力とする伝達手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載の自走式エレベータ。
【請求項3】
前記トラクション発生用錘は、前記釣合い錘の上昇加速及び下降減速に応じてトラクションを発生させるための第1の錘と、前記釣合い錘の下降加速及び上昇減速に応じてトラクションを発生させるための第2の錘とを備えるとともに、前記伝達手段は、一端が前記釣合い錘にピンを介して回動可能に取付けられるとともに、他端に前記駆動ローラが取付けられるアームと、一端が前記第1の錘に接続されるとともに、他端が前記アームの一端に設けられる水平部の一側にスライド部を介して接続される第1のロッドと、一端が前記第2の錘にスライド部を介して接続されるとともに、他端が前記アームの一端に設けられる前記水平部の他側に接続される第2のロッドとを備えることを特徴とする請求項2記載の自走式エレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−13218(P2010−13218A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173633(P2008−173633)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】