説明

臭い検知装置

【課題】電池を電源とする臭い検知装置において、本質的な所から電力消費の低減を図る。
【解決手段】ヒータと感ガス体を有する金属酸化物半導体ガスセンサを用い、時刻Toで測定スタートスイッチが投入されるとまず高温加熱モードTHに入り、感ガス体を高温加熱するために所定周期で相対的に大きな値のオンデューティの電流パルスPWでヒータを駆動する。その後、被検知対象ガスを検知するために電流パルスPWのオンデューティを低減させて低温加熱モードTLとする。ヒータ電源制御部はさらに、時刻To直後においては低温加熱モードTL下におけるよりもさらに小さなオンデューティで、かつ上記の所定周期よりも短い周期の電流パルスPWでヒータを駆動し、突入電流Ih-sの大きさを抑える。ヒータの熱抵抗の上昇に伴い、電流パルスPWの周期を長くして高温加熱モードTH下における所定周期と相対的に大きな値のオンデューティに近付けて行く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物半導体ガスセンサ(以下、MOSガスセンサと称する)を用いた電池駆動型臭い検知装置に関し、特に電池の消耗を抑制するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電池駆動でMOSガスセンサを用いた簡易的な臭い検知装置として、アルコール・チェッカ,口臭チェッカ等が市販されているが、MOSガスセンサを加熱するヒータでの消費電力が大きいため、これまでは電池の消耗が激しく、大容量の電池が必要になることから、一層の小型化は困難になっていた。
【0003】
電源投入後、MOSガスセンサが安定して測定可能となるまでの時間を短縮することで、結果として消費電力を低減しようとする試みとしては、例えば下記特許文献1に認められるようなものがある。
【特許文献1】国際公開第00/65334号パンフレット
【0004】
この既存発明につき、図3に即してその動作を説明すると、まず、時刻Toにて図示しない測定スタートスイッチが押されることにより、MOSガスセンサのヒータに所定の周期で所定のオンデューティのパルス波形Pwの加熱電力が与えられる。当初は高温加熱モードTHに入り、ヒータを高温加熱して感ガス体表面をクリーニングするために電流パルスPWのオンデューティは大きく、すなわち電流パルス幅は広くなるようにされている。この発明以前では、当該高温モードTHにしておく時間はある一定の時間に定められており、換言すれば測定を開始できるようになるまでに少なくともその時間は待たねばならなかった。これに対し、この特許文献1に開示の発明では、当該高温モード下に入ってからの任意の時点Tsで検出対象ガス、例えば呼気が吹き掛けられると、これによるMOSガスセンサ内の感ガス体の抵抗値変化を検出して平均的なヒータ駆動電流Ihを低めるために電流パルスPWのオンデューティを小さくし(電流パルス幅を狭くして)、低温加熱モードTLに切り替える。その後、予め定めてある一定時間経った所で感ガス体の抵抗値を測定し、被検知対象のガス成分(例えばアルコール成分等)が存在しているか否かを判断する。
【0005】
このようになっているため、確かに測定開始となるべき時間まで、使用者を無為に待たせることもなくなり、その結果、使用者が速やかに呼気を吹き掛けるならば、ヒータ駆動時間も短くなって、総体的な意味では低消費電力となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この特許文献1に開示の発明は、直接的に消費電力の低減を図ったものではない。例えば測定スタートスイッチを押してから使用者が中々呼気を吹き掛けなければ、それは従前の臭い検知装置と同様のことになり、必ずしも低消費電力になるとは言えない。まして図3に示すように、測定スタートスイッチを押した直後の時点Toでは、MOSガスセンサのヒータは冷えているため、平均的なヒータ駆動電圧Vhの方は漸増であっても、ヒータ駆動電流Ihの値は大きな突入電流値Ih-sとなって流れる。これはかなりな電力消費量であり、電池消耗を早める大きな要因の一つとなっていた。
【0007】
本発明はこの点に鑑みてなされたもので、本質的な所から電力消費の低減を図った臭い検知装置を提供せんとするものである。
【0008】
また、この目的を達成した上で、付随的な目的として、より精度の高い検出の行えるような工夫も開示せんとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するため、
ヒータと感ガス体を有するMOSガスセンサを用い、測定スタートスイッチが投入された後にはまず高温加熱モードに入り、感ガス体を高温加熱するために所定周期で相対的に大きな値のオンデューティの電流パルスでヒータを駆動し、その後、感ガス体を介して被検知対象ガスを検知するために当該電流パルスのオンデューティを低減させて低温加熱モードとするようにヒータ電源制御部を構成して成る臭い検知装置であって;
上記のヒータ電源制御部にはさらに、測定スタートスイッチが投入された直後は低温加熱モード下におけるよりもさらに小さなオンデューティで、かつ上記の所定周期よりも短い周期の電流パルスでヒータを駆動し、当該ヒータの熱抵抗の上昇に伴い、当該電流パルスの周期を長くして高温加熱モード下における所定周期と相対的に大きな値のオンデューティに近付けて行く機能を持たせたこと;
を特徴とする臭い検知装置を提案する。
【0010】
本発明では上記のように、ヒータ駆動電力の新たなる制御態様により低消費電力化を図るが、それによる派生的な構成として、次のような構成の臭い検知装置も提案できる。すなわち、上記のヒータ電源制御部はまた、少なくとも上記の低温加熱モード下においてはヒータに印加される電圧の平均値が予め定めた一定の電圧となるように電流パルスのオンデューティ調整を行う臭い検知装置を提案する。これにより検知精度は高まる。また、実際に被検知対象ガスを検知する低温加熱モード下においてのヒータ駆動電圧の安定化が効果的であるが、それ以前の高温加熱モード下においても同様にすることで、より安定な回路動作となる。
【0011】
これに加え、さらに、本発明の特定の態様においては、MOSガスセンサ内部の感ガス体近辺に温度センサを配置して感ガス体の温度を検知し、ヒータ電圧が安定化した時の感ガス体の温度が予め定めた温度となるように、予め定めた一定電圧を補正してヒータに印加することを特徴とする臭い検知装置も提案する。
【0012】
さらにこの場合、ヒータにより加熱を開始する前の感ガス体の温度を検知して初期温度として記憶し、低温加熱モード下において被検知対象ガスに暴露したときの感ガス体の抵抗値を当該被検知ガスの濃度に変換する際の変換補正値としてこの温度情報を用いる臭い検知装置も提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、測定スタートスイッチが投入された直後で、まだヒータの熱抵抗が小さいときには相対的に小さな駆動電力をのみ、ヒータに印加することになる。その結果、従前の装置では問題になっていた、測定スタートスイッチ投入直後の大きな突入電流は生じることがなく、多大な電力消費の問題は根本から解決される。当然、電源として用いた電池寿命を伸ばすことができる。
【0014】
さらに、本発明の特定の態様によれば、ヒータ駆動電圧の安定化や感ガス体の温度に応じた補正も可能なため、測定精度は大いに高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1には本発明を適用した臭い検知装置の回路構成例が概略的に示されている。回路構成自体を静的に見る限り、以下に述べるように、本発明ではヒータ電源制御部11が本発明固有の動作をするように構成されていることを除き、当該回路ブロック構成は先に掲げた特許文献1に認められるような従前の臭い検知装置におけると同様であって良い。
【0016】
以下、動作を追いながら説明すると、まず、電源は電池10であり、被検知対象ガスを検知するのはMOSガスセンサ50である。MOSガスセンサ50は既に説明した通り、周知のものであって良く、内蔵するヒータ51により感ガス体52を加熱し、その状態で被検知対象ガスが吹き掛けられる等、被検知対象ガスに暴露されたときの当該感ガス体22の抵抗値変化を捕らえて被検知対象ガスの存否を検知するか、ないしは予め定めた変換式ないしは変換テーブルにより、抵抗値変化の変化幅に鑑みてその濃度を測定することができる。
【0017】
使用者が測定スタートスイッチ11を押すと、スタートスイッチ検出部21がこれを検出してヒータ電源制御部22が稼働を開始し、トランジスタQ1をスイッチング駆動することにより電池10からの駆動電力をMOSガスセンサ50内のヒータ51に印加する。
【0018】
図2は本発明に即する制御態様を時間軸に沿って示しているが、本発明の場合、ヒータ電源制御部22は時刻Toにおいて上記のように測定スタートスイッチ11が押された旨の情報をスタートスイッチ検出部21から得ると、まずはトランジスタQ1を小さなオンデューティで駆動し、ヒータを駆動する電流パルスPWのパルス幅を小さく、またパルス周期も小さくした状態とする。この当初における電流パルスPWのオンデューティおよびパルス周期は、後述する定常状態における高温加熱モードTH下、及びそれに続く低温加熱モードTL下でのそれらよりも小さなものとなっている。先に述べた従来例におけると同様、低温加熱モードTL下でのオンデューティは高温加熱モードTH下でのオンデューティよりも小さいが、本発明の適用された臭い検知装置では、測定スタートスイッチ11が押された直後の電流パルスのオンデューティは低温加熱モードTL下におけるよりもさらに小さなものとされる。
【0019】
ちなみに、高温加熱モードTH下における電流パルスPWのパルス周期を数ms、オンデューティ(パルス幅)を数百μsとし、一方で低温加熱モードTL下においては、パルス周期は高温加熱モードTH下におけると同じ数msであるが、オンデューティは数十μsと小さく設定した場合には、ヒータ電源制御部22の発するこの時刻To直後の当初の電流パルスPWは周期も数μs以下、オンデューティもmsオーダ未満と、十分に小さくなるように設定する。
【0020】
本発明ではヒータ電源制御部22にこのような機能を持たせた結果、測定スタートスイッチ11が押されたときにMOSガスセンサ50のヒータ21が冷えた状態にあっても、図2に示されているように、時刻To直後の突入電流Ih-sの値は従来に比し、大幅に押さえ込むことができ、電池10の消耗を大いに低減させることができる。
【0021】
その後、ヒータ電源制御部22は、ヒータ51の熱抵抗が上昇するに連れ、高温加熱モードTHに定められている周期及びオンデューティとなるように、電流パルスPWを可変する。突入電流が流れ込む時間は予想できるので、時刻Toから所定時間経過後にはヒータ51の熱抵抗は十分に上がったものと予想して定常状態としての高温加熱モードTHに以降させても良いし、そうではなく、ヒータ電圧検出部23から得られる平均的なヒータ駆動電圧Vhの落ち着き具合を見て判断しても良い。さらにまた、後述のように、本発明の特定の態様において望ましくはMOSガスセンサ近傍もしくはその内部にヒータ温度測定用の温度センサ53を設けた場合には、これから得られる実際の温度情報に基づき、高温加熱モードTH下に定められている周期、オンデューティに電流駆動パルスPWを移行させても良い。さらに、可変態様も連続的ないしは複数段階的に周期及びオンデューティを変えて行くようにしても良いし、最低限、二段階、すなわち最も小さな周期及びオンデューティから定常状態における周期及びオンデューティへ切り替えにしても良い。
【0022】
高温加熱モードTHを予め定めた所定時間とした場合、それを時刻Tsにおいて途過したときか、あるいは既述した特許文献1に開示の発明に認められると同様、被検知対象ガスにMOSガスセンサ50の感ガス体52が時刻Tsにおいて暴露されたことでセンサ電源制御部24によりトランジスタQ2を介して駆動される感ガス体52の抵抗値変化を変換的にセンサ電圧検出部25を介して検知した場合には、ヒータ電源制御部22は電流パルスPWのオンデューティを小さな値にし、ヒータ51を低温で駆動する低温加熱モードTLに入る。
【0023】
この低温加熱モードTLにおいて、センサ電圧検出部が予め不揮発性記憶部26に格納しておいた抵抗変換電圧値との比較において暴露されたガスが被検知対象ガスであったと判断した場合には、表示制御部27を介し、使用者に視覚的な表示部28を介してその旨を通知する。
【0024】
もちろん、単に被検知対象ガスが検知されたか否かだけではなく、不揮発性記憶部26に格納しておくデータを段階的に複数の値で記憶させておくとか、適当なる変換式を用意しておけば、変換検知した抵抗値変化幅の大きさに応じ、検知した被検知対象ガスのガス濃度も表示部28にて表示することができる。
【0025】
本発明ではさらに、望ましくはヒータ電源制御部24はまた、少なくとも上記の低温加熱モードTL下においてはヒータ51に印加される電圧Vhの平均値が予め定めた一定の電圧となるように電流パルスPWのオンデューティ調整を行うように構成する。これにより、実際に被検知対象ガスを検知する低温加熱モードTLにおいてのヒータ駆動電圧Vhの安定化を図ることができ、検知精度を高めることができる。それ以前の高温加熱モードTH下においても同様にすれば、より安定な回路動作となる。
【0026】
さらに、MOSガスセンサ50の内部の感ガス体52の近辺もしくはMOSガスセンサ内部に温度センサ53を配置し、感ガス体52の温度を検知して、ヒータ電圧Vhが安定化した時の感ガス体52の温度が予め定めた温度となるように、予め定めた一定電圧を補正してヒータ51に印加するように図れば、より一層、検知精度は高まる。
【0027】
このようにした場合、ヒータ51により加熱を開始する前の感ガス体52の温度をも検知して初期温度として不揮発性記憶部26に記憶させるようにしておき、低温加熱モードTL下において被検知対象ガスに暴露したときの感ガス体52の抵抗値を被検知ガス濃度に変換する際の変換補正値としてこの温度情報を用いると、これもまた検知精度の向上に繋がる。
【0028】
なお、図2中に示されている電源維持制御部29は、既存の装置でも通常組み込まれているもので、表示部28での表示時間を所定時間にのみ限ることで低消費電力を図るために、あるいはまた測定スタートスイッチ11が押されてから所定時間以内に被検知対象ガスの暴露を検知しなかったときに、各回路部21〜28への電源を断つか、ないしは最小限の電力で稼働するスタンバイ状態に移行させたり、電池10の電源電圧を監視し、電池切れを検出したりするものである。
【0029】
また、最近の回路技術では、不揮発性記憶部26や表示部28は別途なハードウエアとするにしても、上述してきた他の各回路部21〜25,27,29は、実質的には望ましくは定電圧電源部31で駆動されるマイクロコンピュータ30の下にソフトウエア的な処理で稼働する機能回路部として実現できる。もちろん、各回路がそれぞれ個別なディスクリート構成でも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明臭い検知装置の望ましい一実施形態の概略構成図である。
【図2】図1に示した臭い検知装置の動作の説明図である。
【図3】従来例の臭い検知装置の一例における動作の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
10 電池
11 測定スタートスイッチ
21 スタートスイッチ検出部
22 ヒータ電源制御部
23 ヒータ電圧検出部
24 センサ電源制御部
25 センサ電圧検出部
26 不揮発性記憶部
27 表示制御部
28 表示部
30 マイクロコンピュータ
31 定電圧電源部
50 MOSガスセンサ
51 ヒータ
52 感ガス体
53 温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータと感ガス体を有する金属酸化物半導体ガスセンサを用い、測定スタートスイッチが投入された後にはまず高温加熱モードに入り、該感ガス体を高温加熱するために所定周期で相対的に大きな値のオンデューティの電流パルスで該ヒータを駆動し、その後、該感ガス体を介して被検知対象ガスを検知するために該電流パルスのオンデューティを低減させて低温加熱モードとするようにヒータ電源制御部を構成して成る臭い検知装置であって;
上記ヒータ電源制御部にはさらに、上記測定スタートスイッチが投入された直後は上記低温加熱モード下におけるよりもさらに小さなオンデューティで、かつ上記所定周期よりも短い周期の電流パルスで上記ヒータを駆動し、該ヒータの熱抵抗の上昇に伴い、該電流パルスの周期を長くして上記高温加熱モード下における上記所定周期と上記相対的に大きな値のオンデューティに近付けて行く機能を持たせたこと;
を特徴とする臭い検知装置。
【請求項2】
請求項1記載の臭い検知装置であって;
上記ヒータ電源制御部はまた、少なくとも上記低温加熱モード下においては上記ヒータに印加される電圧の平均値が予め定めた一定の電圧となるように上記電流パルスのオンデューティ調整を行うこと;
を特徴とする臭い検知装置。
【請求項3】
請求項1記載の臭い検知装置であって;
上記感ガス体近辺に温度センサを配置して該感ガス体の温度を検知し、上記ヒータの電圧が安定化した時の該感ガス体の温度が予め定めた温度となるように、予め定めた一定電圧を補正して該ヒータに印加すること;
を特徴とする臭い検知装置。
【請求項4】
請求項3記載の臭い検知装置であって;
上記ヒータにより加熱を開始する前の上記感ガス体の温度を検知して初期温度として記憶し、上記低温加熱モード下において上記被検知対象ガスに暴露したときの該感ガス体の抵抗値を該被検知ガスの濃度に変換する際の変換補正値としてこの温度情報を用いること;
を特徴とする臭い検知装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−244236(P2009−244236A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94438(P2008−94438)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000174426)阪神エレクトリック株式会社 (291)
【Fターム(参考)】