説明

舌表面質感撮影システム

【課題】舌表面の光沢成分を十分に除去した色彩と、舌表面の光沢成分を分離して、それらの時間的変化を撮影することのできる舌表面質感撮影システムを提供すること。
【解決手段】
複数の開口部が形成された積分球と、積分球の複数の開口部のいずれかから被験者に直接光が照射されないよう積分球に光を照射する拡散用光源装置と、積分球の複数の開口部のいずれかから被験者に直接光が当たり、舌表面に当たった鏡面反射光がカメラに入射するように光を照射する光沢用光源装置と、積分球の複数の開口部のいずれかから放出される光を撮影するカメラ装置と、光沢用光源装置とカメラ装置に接続され、光沢用光源装置の点灯・消灯を制御し、かつカメラ装置の撮影トリガーを制御し、かつカメラ装置が撮影した画像データを解析処理する情報処理部と、を有する舌表面質感撮影システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舌表面質感の撮影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
和漢診療学において、体の部位である舌の状態を観察することにより健康状態や病状を診断する診断手法(以下「舌診」という。)がある。
【0003】
舌診では舌質と舌苔を観察する。舌質については色沢、水分量と形態運動を、舌苔については色沢と性状を見る。これにより、胃炎、胃がん、胃かいよう、腸炎、虫垂炎、肝臓病、胆のう炎、ひ臓炎等を発見し得ることが知られている。
【0004】
なお、舌診に関し、舌の特徴量として舌の形状、歯痕、裂紋、苔の湿り気、苔のなめらかさ、苔の厚さ、苔の模様を計測する技術が提案されている(例えば下記特許文献1参照)。
【0005】
ところで、全く新しい舌の特徴量として、舌を出し続けた状態における舌状態の時間的変化が有効であるとの提案がある。一般に、人が舌を出し続けると舌の静脈血のうっ滞(血液が循環せずに滞っている状態)が発生し、時間と共に舌色が変化する。また、舌表面の乾燥に伴い光沢量が減少する。
【0006】
この舌表面質感の変化は、血液の性質(粘性)や血管の状態、唾液の性質や分泌量など健康状態に密接に関わっていると考えられている。従って、舌表面質感の時間的変化をみることでより詳しい舌診が可能になると提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−137756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、舌の表面で強く反射する光沢と色彩を同時に計測しており、舌の純粋な色彩変化や、光沢量の時間的変化を分離して計測することができないといった課題がある。
【0009】
なお、光沢部と非光沢部を画像処理の技術によって分離する技術も提案されてはいるが、光沢は舌の動きによって位置や強度が大きく変化するため、撮影方法の改善によって光沢と色彩を分離しなければ安定した舌表面質感の計測はできない。
以上、本発明は、上記課題を鑑み、舌表面の光沢成分と色彩の時間的変化を分離して計測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行ったところ、以下に示す舌表面質感の時間変化撮影システムを完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第一の観点に係る発明は、複数の開口部が形成された積分球と、積分球の複数の開口部のいずれかから被験者に直接光が当たらないように光を照射する拡散用光源装置と、積分球の開口部のいずれかから被験者に直接光が当たり、舌表面に当たった鏡面反射光がカメラに入射するように光を照射する光沢用光源装置と、積分球の複数の開口部のいずれかから放出される光を撮影するカメラ装置と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、舌表面の光沢成分と色彩の時間的変化を分離して計測することができる舌表面撮影システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1に係る舌表面撮影システムを上方から見た概略を示す図である。
【図2】実施形態1に係る舌表面撮影システムを側面から見た概略を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明に係る舌表面の撮影システムについて、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ狭く限定されるものではない。
(実施形態1)
【0015】
図1は、本実施形態にかかる舌表面質感撮影システム(以下「撮影システム」という。)1を上方から見た概略を示す図であり、図2は、本実施形態にかかる撮影システム1を側面から見た概略を示す図である。
【0016】
これらの図で示すように、本撮影システム1は、複数の開口部21、22、23、24が形成された積分球2と、積分球2の複数の開口部21、22、23、24のいずれかから被験者に直接光が照射されないよう積分球2に光を照射する拡散用光源装置3と、積分球の複数の開口部21、22、23、24のいずれかから被験者に直接光が当たり、舌表面に当たった鏡面反射光がカメラに入射するように光を照射する光沢用光源装置4と、積分球の複数の開口部21、22、23、24のいずれかから放出される光を撮影するカメラ装置5と、光沢用光源装置4とカメラ装置5に接続され、光沢用光源装置4の点灯・消灯を制御し、かつカメラ装置5の撮影トリガーを制御し、かつカメラ装置5が撮影した画像データを解析処理する情報処理部6と、を有する。
【0017】
本実施形態において、積分球2は、光を拡散させることのできる物体であり、具体的には、内部が球状にくりぬかれたものである。また、この内壁には、高反射、高拡散の塗料が塗られている。積分球2を用いることで、拡散用光源装置3から照射される光を十分に拡散させることができ、舌の光沢成分を十分に除去することができるようになる。
【0018】
また本実施形態に係る積分球2は、複数の開口部21、22、23、24が形成されている。その開口部は少なくとも、被験者の舌を配置するため、拡散用光源装置3の光を積分球2内に照射するため、光沢用光源装置4の光を積分球内部を通過して被験者の舌表面に照射するため、積分球2から放出される被験者の舌表面の状態を含む光を撮影するため、に用いられる。
【0019】
積分球2の開口部の一つ21は、被験者の舌を配置し、計測することができるようにするための開口部であり、少なくとも被験者の舌を配置できる程度の大きさであることが好ましい。
【0020】
また、本実施形態に係る積分球2の開口部の他の一つ22は、拡散用光源装置3の光を積分球2内に照射するためのものである。なおこの開口部22の位置は限定されるわけではないが、後述の開口部24とは異なる位置に設けておくことが好ましく、積分球の球状の内部空洞の中心をはさんで上記舌を配置する開口部21と積分球の中心と、この開口部22とのなす角が60度以上120度以下、より好ましくは直交する位置にあけられていることが好ましい。このようにすることで舌に直接光を当てないようにし、積分球の内部で何度も繰り返し反射させ、被験者の舌に十分に拡散した光を照射することができるようになる。
【0021】
積分球の開口部の他の一つ23は、光沢用光源装置4の光を積分球2内部を通過して被験者の舌に直接照射するためのものである。なお、この開口部23の位置は限定されるわけではないが、カメラ装置5を配置する開口部24と積分球の中心と、この開口部23とのなす角が10度以上45度以下、より好ましくは20、30、40度の3カ所など複数の位置にあけられていることが好ましい。このようにすることで舌表面に直接照射された光は舌表面で鏡面的に反射し、カメラ装置5が設置された開口部24へその光沢成分を放射することができるようになる。なお、開口部23の大きさは限定されることはないが不必要に大きいと拡散光の光量が減少するため光沢用光源装置4の光を通過させる必要最小限の大きさが好ましい。
【0022】
積分球の開口部の他の一つ24は、積分球から放出される被験者の舌色に関する情報を含む光を撮影するカメラ装置5を配置するために用いられるものである。この開口部24の位置は、舌表面の色彩と光沢を精度良く測定する必要があるため、積分球の球状の内部空洞の中心をはさんで上記舌を配置する開口部21と対向する位置に形成されていることが好ましい。なお、開口部24の大きさは限定されることはないが、不必要に大きいと拡散光の光量が減少するためカメラ装置5で撮影するための必要最小限の大きさが好ましい。
【0023】
また、本実施形態において、カメラ装置5は、舌の表面の色彩と光沢量分布を撮影することのできる装置である。本実施形態に係るカメラ装置5の構成としては、特に限定されないが、時系列的に舌表面の状態変化を撮影することで健康状態を判断することができるよう、時系列の画像データとして取り込めるビデオカメラ装置であることは好ましい一形態である。
【0024】
本実施形態において、情報処理装置6は、光沢用光源装置4の点灯・消灯を瞬時に制御することができるものである。また情報処理装置6は、カメラ装置5の撮影のトリガーを制御できるものである。従って情報処理装置6は光沢用光源装置4を消灯させた状態での撮影と光沢用光源装置4を点灯させた状態での撮影を交互、あるいは一定の比率で混合して切り替えながら撮影することにより、舌表面の光沢を含まない色彩のみの撮影と舌表面の色彩と光沢を共に含んだ状態の撮影を並行して行うことができる。
【0025】
さらに情報処理装置6は、カメラ装置5が撮影取得した舌表面の色彩と光沢を共に含んだ状態の画像データから、舌表面の光沢を含まない色彩のみの画像データを差分演算することにより、光沢成分のみを含む画像データを算出することができる。
【0026】
また、本実施形態において、情報処理装置6はカメラ装置5が撮影取得した色彩情報のみを含む画像データと、情報処理装置6によって算出した光沢情報のみを含む画像データを処理し、舌表面の状態を判定することができるものである。
【0027】
情報処理装置6の例としては、限定されるわけではないが、いわゆるパーソナルコンピュータを用い、舌色を演算し、判定するためのプログラムを格納し、これを実行させることで実現することができる。
【0028】
以上、本実施形態による舌表面撮影システムにより、舌の光沢成分と色彩成分を分離して時間的変化を定量的に計測することが可能となり、健康状態と密接に関わっているとされる血液や血管の状態を診断する指標を得ることができる。特に、本実施形態では、積分球を用いているため、舌表面の光沢成分を十分に除去し、また表面凹凸による陰影も除去可能であるため、安定して舌表面の色彩成分を計測することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…舌表面撮影システム、2…積分球、3…拡散用光源装置、4…光沢用光源装置、5…カメラ装置、6…情報処理装置、21、22、23、24…開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口部が形成された積分球と、
積分球の複数の開口部のいずれかから被験者に直接光が照射されないよう積分球に光を照射する拡散用光源装置と、
積分球の複数の開口部のいずれかから被験者に直接光が当たり、舌表面に当たった鏡面反射光がカメラに入射するように光を照射する光沢用光源装置と、
積分球の複数の開口部のいずれかから放出される光を撮影するカメラ装置と、
光沢用光源装置とカメラ装置に接続され、光沢用光源装置の点灯・消灯を制御し、かつカメラ装置の撮影トリガーを制御し、かつカメラ装置が撮影した画像データを解析処理する情報処理部と、を有する舌表面質感撮影システム。
【請求項2】
前記開口部のいずれかは、被験者の舌を配置するためのものである請求項1記載の舌表面質感撮影システム。






【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−239926(P2011−239926A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114335(P2010−114335)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】