説明

航法支援装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、航空機等に搭載する航法支援装置に関し、特に地表の障害物等を回避するための航法支援装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来この種の航法支援装置は、図3に示す構成例のごとくレーダ装置から照射されるビームを用いた測的探知等の応用目的の一部分として、地表の障害物、山岳を回避するためのモードを有する航法援助システムであり、レーダ装置301、電波高度計302、及び航法装置303から構成される。これらのシステムから得られる測距データ、位置,姿勢角データ等を用いて、直接障害物や山岳等をビームの到達する範囲内において探知することにより危険を回避するものである。また、こうした装置から得られるデータと、あらかじめ準備した地図データ・ベース304との比較照合を行う比較照合装置305により、地図上の正確な飛行航路を算出し、前方の障害物等の地形回避を行うためのプログラムを有するものもある。
【0003】前者の直接障害物を探知する手法においては、レーダ装置からのビームが、グレージング角(伏角)をもって前方に照射されるものであり、その測距距離はビームのスラント距離にグレージング角度の余弦を乗じたものである。さらに、ビームをアジマス角度方向に走査させることによって側方の有限な角度範囲の測距離が得られる。こうしたデータに姿勢角等の補正を加えることにより、前方の地点における高度情報を算出し、その結果、地形の勾配が急激に増加してきたり、障害物等が直接探知された場合には、飛行高度の変更を表示したり、自動的に飛行制御を行う航法制御装置306を備えるものである。
【0004】後者の地図データ・ベースとの比較照合装置を有する手法においては、電波高度計及び慣性航法装置により得られる高度データ、自己位置、姿勢角データ等をあらかじめデータ・ベース化された地図情報と縮尺、並進、回転等のデータ変換を経てプログラムによりデータの照合を行い、正確な自己位置及び飛行経路を算出するものである。
【0005】また、合成開口レーダ方式を用いることによって斜前方及び側方の画像を合成し、その画像情報とデータ・ベースにある地図情報とを重ね合わせ、画像の相関をとることによって両画像の誤差を最小にするように自己位置の修正を行う方式もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前述の従来航法支援装置のように、レーダ装置を用いる手法は大変高価なものであり、重量、容量等において制限のある飛行体にとって大きな負担となる。また、航空機用のレーダは、多目的の運用を前提としており、比較的プログラム容量の大きな地形回避等のモードは、ソフトウェアの制約においても負荷を増大させる。また、照射ビームを広範囲に走査するにしてもビームの到達範囲内における地形しか把握できない。
【0007】また、地図データ・ベースを使用した地形照合を用いる手法は、いかなる地域においても地形高度の詳細なデータを入手する必要があり、現状では、衛星からの二次元画像データ及び等高線から読み取ったデジタル・マップを利用せざるを得ない。こうしたデータは、分解能において不十分であったり、情報が秘の扱いで管理されているため高解像度な画像データを使用することは極めて困難である。また、合成開口レーダによる画像は複雑な信号処理と、長い処理時間を要する。いずれの方式においても、二次元画像データからの正確な高度情報の抽出は、地形と植生情報の分離、陰影処理、起伏等の算出処理は精密かつ大量のデータ・ベースを用い、多くのソフトウェア上の容量を必要とする。
【0008】そこで、本発明の目的は、地形回避は高度計と慣性航法装置のみを利用し、ビームの前方見通し外の地形を推定することができる航法支援装置を提供することである。
【0009】また本発明の他の目的は簡便な算出方法によって前方の地形まで推定できる航法支援装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の航法支援装置は、上空より地表に対して電波を送信し、その反射信号を受信するまでの時間により飛行高度を測定する電波高度計と、位置,速度等の情報を出力する航法装置と、電波高度計及び航法装置の出力データを記憶するデータ記憶装置と、電波高度計及び航法装置からの現時点データ及び前記データ記憶装置からの過去データを入力とし、地形の特徴を抽出し、現時点の地形を推定する地形推定装置と、地形推定装置出力より、進行方向の地形を予測する地形予測装置と、地形予測装置出力に応じて障害物の回避、飛行高度の変更等の航法制御情報を表示あるいは飛行制御を行う航法制御装置を備えている。
【0011】さらに、上記の地形推定装置は、電波高度計出力の高度情報を所定の長さ単位で量子化する高度量子化器と、航法装置出力の位置情報をこの所定の長さ単位で量子化する位置量子化器と、高度量子化器及び位置量子化器とにより所定の長さ単位で区切られた小領域内に電波高度計出力の高度値が存在する個数を計数する領域数計数器と、所定の長さを変更しながら領域数計数器出力値を収集し、所定長に対する領域数計数器出力値より地形のフラクタル次元を算出するフラクタル次元算出器と、電波高度計出力の高度値と航法装置出力の位置情報とより地形の起伏スペクトル及びパワースペクトルを算出する地形スペクトル算出器と、フラクタル次元算出器出力のフラクタル次元と地形スペクトル算出器出力の起伏スペクトル,パワースペクトルとより地形の相関性を算出する相関算出器とを備えると共に、地形の予測を前記の地形推定装置出力の起伏スペクトル,パワースペクトル及びフラクタル次元の相関性に基づき、自己回避過程(autoregressive process:AR過程)を用いて行ってもいる。
【0012】また、地形のみならず地勢の推定・予測も可能とするように、電波高度計入力信号の信号強度及びドップラ周波数を算出する受信信号処理装置を有し、受信信号強度及びドップラ周波数の分布より、地表の植生等の地勢を推定する地勢推定器も備えてもよい。
【0013】
【実施例】本発明の実施例について、図を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施例を示す図である。同図において、空中線101で受信された地表からの反射信号は、電波高度計102において送信から受信までの時間を算出することにより、高度情報に変換される。一方、航法装置103からは、位置、速度等の情報が出力される。電波高度計102の出力及び航法装置103の、出力は、地形推定装置104を構成する構成要素の1つであるデータ記憶器105に入力される。データ記憶器105の出力は、地形の起伏スペクトル及びパワースペクトルを算出する起伏スペクトル算出器106に入力されるとともに、電波高度計102からの出力は高度情報を所定の単位で量子化する高度量子化器107に、他方航法装置103からの出力は位置情報を所定の単位で量子化する位置量子化器108に入力される。高度量子化器107及び位置量子化器108の出力は、電波高度計102からの出力高度値が、各々の量子化器により区切られた小領域内に存在する数を計数する領域計数器109に入力される。領域計数器109の出力は、上記の量子化単位の長さと領域数とからフラクタル次元を算出するフラクタル次元算出器110に入力される。フラクタル次元算出器110の出力及び前記の起伏スペクトル算出器106の出力は、電波高度計102の出力の高度情報、航法装置103の出力の位置、速度情報と共に、相関算出器111に入力され、地形の相関性が算出される。相関算出結果に基づき、地形予測装置112において、AR過程モデル等により地形の予測が行われ、予測結果に基づき航法制御装置113において、障害回避等の航法制御が実施される。
【0014】図2に本発明による地形推定、予測の概念を示す。A点〜B点は、データ記憶装置に記憶された過去の高度値である。ここで、高度及び位置(距離)を所定の長さΔR単位で量子化する。この時、このΔR単位で区切られたセルにおいて、高度の値を含むセルの数を領域数計数器により計数する(図2のハッチング領域)。次に、ΔRの値を変えて同様に高度の値を含むセルの数を計数する。このΔRに対するセル数の計数値N(ΔR)より、N(ΔR)・ΔRD =C(定数)
なるD(このDをフラクタル次元と呼ぶ)をフラクタル次元算出器により算出する。次に、位置に対する高度の変化より起伏スペクトル及びパワースペクトルをFFT手法等により起伏スペクトル算出器106にて算出する。この起伏スペクトル及びパワースペクトルについて、
【0015】


【0016】の関係となるようnを定める。この結果より、次のAR過程により高度値を次式により予測する。
【0017】


【0018】予測誤差ε(x|x−Δx)=f(x)−f(x|x−Δx)の2乗平均値を最小とする条件より予測値は、
【0019】


【0020】と表される。なお、(1)式におけるan は、(1)式を次のよく知られているYule−Walkerの式を解くことにより容易に算出可能である。
【0021】


【0022】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、飛行中に収集した高度等の飛行データより、地形・地勢を推定、予測することにより、地図のない未知の場所においても地表の障害回避を可能とする、リアルタイム性に優れた小型・簡便で航空機等の飛行体に容易に搭載可能な航法支援装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例による航法支援装置の系統図。
【図2】フラクタル特徴量算出の概念図。
【図3】従来の航法支援装置の例。
【符号の説明】
101 空中線
102,302 電波高度計
103,303 航法装置
104 地形推定装置
105 データ記憶器
106 起伏スペクトル算出器
107 高度量子化器
108 位置量子化器
109 領域計数器
110 フラクタル次元算出器
111 相関算出器
112 地形予測装置
113 航法制御装置
301 レーダ装置
304 地図データベース
305 比較照合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 航空機等の飛行体に搭載し、上空より地表に対して電波を送信し、その反射信号を受信するまでの時間から飛行高度を測定する電波高度計と、位置,速度等の情報を出力する航法装置と、前記電波高度計及び前記航法装置の各出力データを記憶するデータ記憶装置と、前記電波高度計及び前記航法装置からの現時点データ及び前記データ記憶装置からの過去データを入力とし、地形の特徴を抽出し、現時点の地形を推定する地形推定装置と、前記地形推定装置出力より、進行方向の地形を予測する地形予測装置と、前記地形予測装置出力に応じて障害物の回避、飛行高度の変更等の航法制御情報を表示あるいは飛行制御を行う航法制御装置を備え、前記地形推定装置が、前記電波高度計出力の高度情報を所定の長さ単位で量子化する高度量子化器と、前記航法装置出力の位置情報を前記所定の長さ単位で量子化する位置量子化器と、前記高度量子化器及び前記位置量子化器とにより前記所定の長さ単位で区切られた小領域内に前記電波高度計出力の高度値が存在する個数を計数する領域数計数器と、前記所定の長さを変更しながら前記領域数計数器出力値を収集し、前記所定長に対する前記領域数計数器出力値より地形のフラクタル次元を算出するフラクタル次元算出器と、前記電波高度計出力の高度値と前記航法装置出力の位置情報とより地形の起伏スペクトル及びパワースペクトルを算出する地形スペクトル算出器と、前記フラクタル次元算出器出力のフラクタル次元と前記地形スペクトル算出器出力の起伏スペクトル,パワースペクトルとより地形の相関性を算出する相関算出器とを備えることを特徴とする航法支援装置
【請求項2】 航空機等の飛行体に搭載し、上空より地表に対して電波を送信し、その反射信号を受信するまでの時間から飛行高度を測定する電波高度計と、位置,速度等の情報を出力する航法装置と、前記電波高度計及び前記航法装置の各出力データを記憶するデータ記憶装置と、前記電波高度計及び前記航法装置からの現時点データ及び前記データ記憶装置からの過去データを入力とし、地形の特徴を抽出し、現時点の地形を推定する地形推定装置と、前記地形推定装置出力より、進行方向の地形を予測する地形予測装置と、前記地形予測装置出力に応じて障害物の回避、飛行高度の変更等の航法制御情報を表示あるいは飛行制御を行う航法制御装置を備えた航法支援装置において、地形の予測を地形推定装置出力の起伏スペクトル,パワースペクトル及びフラクタル次元の相関性に基づき、自己回帰過程(autoregressiveprocess:AR過程)を用いて行うことを特徴とする航法支援装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【特許番号】第2821400号
【登録日】平成10年(1998)8月28日
【発行日】平成10年(1998)11月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−261365
【出願日】平成7年(1995)10月9日
【公開番号】特開平9−101364
【公開日】平成9年(1997)4月15日
【審査請求日】平成7年(1995)10月9日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(390014306)防衛庁技術研究本部長 (169)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【参考文献】
【文献】特開 平4−126697(JP,A)
【文献】特開 平2−99881(JP,A)