説明

舶用内燃機関

【課題】筒内アンモニア噴射方式の脱硝システムを備えた舶用内燃機関において、筒内アンモニア噴射方式の脱硝率を向上させる。
【解決手段】燃料を高圧噴射して燃焼させる燃焼室11内に、燃料とは別系統でアンモニア水を高圧噴射する筒内アンモニア噴射方式の脱硝システム30を備えた舶用内燃機関10が、燃焼室11内の圧力を検出する筒内圧力センサ41と、掃気室12内の空気温度を検出する掃気温度センサ42と、クランク角度を検出するクランク角度センサ43と、筒内圧力センサ41、掃気温度センサ42及びクランク角度センサ43から入力される検出値に基づいて筒内ガス温度を算出し、該筒内ガス温度が所定の温度範囲内にある場合にアンモニア水の高圧噴射指令を出力する制御部40とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばガスエンジンやディーゼルエンジン等の舶用内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンやガスタービン等の内燃機関においては、排気ガス中に含まれる窒素化合物(NOx)を除去する脱硝装置が用いられている。脱硝装置の脱硝方法としては、排気ガス通路に設けたチタン・バナジウム系の触媒に還元剤となるアンモニアを供給することによってNOxと反応させ、窒素(N)と水(HO)とに分解するアンモニア選択的触媒還元法(SCR脱硝法)が知られている。
エンジン排ガスのNOx処理システムに適用されている一般的なSCR脱硝法は、燃焼室から排出された排気中に尿素を注入するものであり、分解されて発生するアンモニアとNOxとを反応させて窒素と水とに分解することで高い脱硝率を実現できる。
【0003】
また、下記の特許文献1には、内燃機関の燃焼室に対し、燃料系とは別にアンモニアまたはその化合物の水溶液を高圧噴射する燃焼方法が開示されており、アンモニアの還元効果等により窒素酸化物を低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−148611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃焼室から排出された排気中に尿素を注入する従来のSCR脱硝法は、高い脱硝率を実現できる反面、大きな設置スペースを要する上、ディーゼルエンジンに適用した場合、触媒が舶用重油中の硫黄分に被毒する問題を有している。
一方、内燃機関の燃焼室にアンモニアを噴射する方式(筒内アンモニア噴射方式)の脱硝法は、触媒を用いずにNOxを窒素と水とに分解する方法である。この筒内アンモニア噴射方式は、ボイラ排ガスのNOx低減方法として実績があるものの、ガスエンジンやディーゼルエンジンに適用された実績はない。
【0006】
また、従来の筒内アンモニア噴射方式は、触媒が不要で大きな設置スペースを要しないという利点を有する反面、脱硝率が40%程度と低い。このため、少ないアンモニア噴射量を効率的にNOxと反応させ、脱硝率を向上させることが必要となる。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、筒内アンモニア噴射方式の脱硝システムを備えた舶用内燃機関において、筒内アンモニア噴射方式の脱硝率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る舶用内燃機関は、燃料を高圧噴射して燃焼させる燃焼室内に、燃料とは別系統でアンモニア水を高圧噴射する筒内アンモニア噴射方式の脱硝システムを備えた舶用内燃機関であって、前記燃焼室内の圧力を検出する筒内圧力センサと、掃気室内の空気温度を検出する掃気温度センサと、クランク角度を検出するクランク角度センサと、前記筒内圧力センサ、前記掃気温度センサ及び前記クランク角度センサから入力される検出値に基づいて筒内ガス温度を算出し、該筒内ガス温度が所定の温度範囲内にある場合に前記アンモニア水の高圧噴射指令を出力する制御部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0008】
このような舶用内燃機関によれば、燃焼室内の圧力を検出する筒内圧力センサと、掃気室内の空気温度を検出する掃気温度センサと、クランク角度を検出するクランク角度センサと、筒内圧力センサ、掃気温度センサ及びクランク角度センサから入力される検出値に基づいて筒内ガス温度を算出し、該筒内ガス温度が所定の温度範囲内にある場合にアンモニア水の高圧噴射指令を出力する制御部とを備えているので、筒内ガス温度が所定の温度範囲内にある場合、すなわち、筒内ガス温度がNOxとアンモニアとの反応に最適な温度状況でアンモニア水を高圧噴射することが可能になる。
【0009】
この場合、NOxとアンモニアとの反応に適正な温度は800〜1000℃程度と言われており、従って、アンモニア水を筒内に高圧噴射する好適なタイミングは、筒内ガス温度が800〜1000℃程度の温度状況となる。従って、燃焼室内ガス温度が燃焼行程時に数百℃〜2000℃以上の範囲で温度変化するガスエンジンやディーゼルエンジンにおいては、燃料の燃焼期間中が最も高温となるため、高圧噴射に好適なタイミングは最も温度低下する燃焼行程終了時よりも若干早い燃焼行程終了前の時点となる。
【発明の効果】
【0010】
上述した本発明によれば、筒内ガス温度がNOxとアンモニアとの反応に最適な温度状況でアンモニア水を高圧噴射するので、少ないアンモニア噴射量を効率的にNOxと反応させることができる。この結果、筒内アンモニア噴射方式の脱硝システムを備えた舶用内燃機関においては、筒内アンモニア噴射方式の脱硝率が向上して効率的に脱硝できるという顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る舶用内燃機関の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1の制御部における制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る舶用内燃機関の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示す実施形態の舶用内燃機関10は、たとえばガスエンジンやディーゼル機関等のように燃料を高圧噴射して燃焼させる内燃機関である。舶用内燃機関10の燃焼室11には、燃料とは別系統でアンモニア水を高圧噴射する筒内アンモニア噴射方式の脱硝システム30が設けられている。
【0013】
図示の舶用内燃機関10は、掃気室12を備えた2サイクル機関であり、図示しない燃料タンクと配管で接続された燃料昇圧装置13及び燃料噴射弁14を備えている。この場合の燃料昇圧装置13は、ガス燃料を使用するガスエンジンでは圧縮機となり、軽油等の液体燃料を使用するディーゼルエンジンでは噴射ポンプとなる。
また、図中の符号15は、燃焼室11と接続された静圧排気管であり、この静圧排気管15は、掃気により燃焼室11内から排出された排気ガスを導入して過給機20の排気タービン21に供給する。
【0014】
過給機20は、排気タービン21を駆動源とする圧縮機22が外気を吸入して圧縮する装置である。排気タービン21に供給された高温高圧の排気ガスは、排気タービン21を駆動する仕事をした後、大気へ放出される。
一方、圧縮機22から得られた圧縮空気は、空気密度を増すため空気冷却器23を通過して冷却された後、舶用内燃機関10の燃焼用空気として掃気室12に供給される。
【0015】
脱硝システム30は、燃焼室11内にアンモニア水を高圧噴射するため、図示しないアンモニア水タンクと配管で接続されたアンモニア噴射ポンプ31及びアンモニア噴射弁32を備えている。この脱硝システム30は、後述する制御部40から出力されるアンモニア水の高圧噴射指令を受けて、燃焼室11の内部にアンモニア水を高圧噴射するように構成された筒内アンモニア噴射方式を採用している。
【0016】
本実施形態では、燃料を高圧噴射して燃焼させる燃焼室内11に、燃料とは別系統でアンモニア水を高圧噴射する脱硝システム30を備えた舶用内燃機関10が、燃焼室11内の圧力(筒内圧力)を検出する筒内圧力センサ41と、掃気室12内の空気温度(掃気室空気温度)を検出する掃気温度センサ42と、クランク角度を検出するクランク角度センサ43とを備えている。そして、筒内圧力センサ41、掃気温度センサ42及びクランク角度センサ43の検出値は、いずれも制御部40に入力される。
【0017】
ここで、筒内圧力、掃気室空気温度及びクランク角度を検出するのは、燃焼室11内のガス温度(筒内ガス温度)を直接検出することができないためである。
従って、検出可能な筒内圧力、掃気室空気温度及びクランク角度の検出値に基づいて、周知の状態方程式から筒内ガス温度を算出する。ここで、クランク角度を検出するのは、状態方程式から筒内ガス温度を算出する際に必要となる燃焼室11の容積をクランク角度から算出するためである。
【0018】
従って、制御部40では、筒内圧力センサ41、掃気温度センサ42及びクランク角度センサ43から入力される検出値に基づいて筒内ガス温度を算出し、筒内ガス温度の算出値が所定の温度範囲内にある場合にのみ、脱硝システム30に対してアンモニア水の高圧噴射指令を出力する。この結果、脱硝システム30のアンモニア噴射ポンプ31が作動することになるので、アンモニア噴射弁32から高圧噴射したアンモニア水が燃焼室11内に供給される。
【0019】
図2には、制御部40において、アンモニア水の高圧噴射指令を出力するまでの制御フローが示されている。
最初のステップS1で制御フローがスタート(START)されると、次のステップS2においては、掃気室空気温度、クランク角度、筒内圧力の各検出値を対応する掃気温度センサ42、クランク角度センサ43及び筒内圧力センサ41から取得する。
【0020】
この後、ステップS3においては、掃気室空気温度、クランク角度、筒内圧力の各検出値を用い、状態方程式から筒内ガス温度を算出する。このとき、燃焼室11の容積については、クランク角度との対応から容易に算出することができる。
こうして得られた筒内ガス温度は、次のステップS4において、所定の温度範囲内に入っているか否かを判断する。すなわち、算出した筒内ガス温度が、NOxとアンモニアとの反応に適正な下限値から、反応に適正な上限値までの範囲内に入っているか否かについて判断する。なお、この場合、下限値及び上限値と一致する温度については、所定の温度範囲内に含まれる。
【0021】
ステップS4の判断において、筒内ガス温度が所定の範囲内に入っていると判断されたYESの場合には、次のステップS5に進んでアンモニア水の高圧噴射指令が出力され、アンモニア噴射ポンプ31を作動させる。この結果、燃焼室11内には、アンモニア噴射弁32から高圧噴射したアンモニア水が供給される。なお、この場合の高圧噴射指令は、所定時間出力された後、ステップS6のリターン(RETURN)に進んでステップS2に戻り、同様の制御フローが継続される。
【0022】
しかし、ステップS4の判断において、筒内ガス温度が所定の範囲内に入っていないと判断されたNOの場合には、ステップS5をバイパスしてステップS6に進むので、ステップS2に戻って同様の制御フローが継続される。
なお、上述した制御フローは、舶用内燃機関10の運転開始でスタートし、舶用内燃機関10の運転終了まで継続される。
【0023】
ところで、NOxとアンモニアとの反応に適正な温度は800〜1000℃程度と言われており、従って、アンモニア水を筒内に高圧噴射する好適なタイミングは、筒内ガス温度が800〜1000℃程度の温度状況となる。ディーゼルエンジンや高噴射方式のガスエンジンとなる舶用内燃機関10においては、一般的に燃焼行程の燃焼期間中で燃焼室内ガス温度が2000℃を数百℃上回る高温になり、燃焼行程の終了時点で数百℃程度まで低下すると言われている。このため、本実施形態の舶用内燃機関10では、燃焼行程終了より若干前の時点で筒内ガス温度が800〜1000℃程度となり、従って、燃焼行程終了より若干前の時点がアンモニア水を筒内に高圧噴射する好適なタイミングになる。
【0024】
このように、本実施形態の舶用内燃機関10は、筒内ガス温度が所定の温度範囲内にある場合、すなわち、筒内ガス温度がNOxとアンモニアとの反応に最適な温度状況でアンモニア水を高圧噴射するので、噴射されたアンモニアを効率よくNOxと反応させることができる。この結果、アンモニア噴射量が少なくても、効率的にNOxと反応させて脱硝することができる。すなわち、筒内アンモニア噴射方式の脱硝システム30を備えた舶用内燃機関10は、筒内アンモニア噴射方式の脱硝率向上により、効率的な脱硝を実施することができる。
【0025】
従って、触媒が不要となる筒内アンモニア噴射方式の脱硝システム30を備えた舶用内燃機関10は、大きな設置スペースを必要とせず、しかも、ディーゼルエンジンに適用した場合に問題となっていた被毒を生じることもないので、限られたスペース内に設置する舶用として好適である。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0026】
10 舶用内燃機関
11 燃焼室
12 掃気室
13 燃料昇圧装置
14 燃料噴射弁
15 静圧排気管
20 過給機
30 脱硝システム
31 アンモニア噴射ポンプ
32 アンモニア噴射弁
40 制御部
41 筒内圧力センサ
42 掃気温度センサ
43 クランク角度センサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を高圧噴射して燃焼させる燃焼室内に、燃料とは別系統でアンモニア水を高圧噴射する筒内アンモニア噴射方式の脱硝システムを備えた舶用内燃機関であって、
前記燃焼室内の圧力を検出する筒内圧力センサと、
掃気室内の空気温度を検出する掃気温度センサと、
クランク角度を検出するクランク角度センサと、
前記筒内圧力センサ、前記掃気温度センサ及び前記クランク角度センサから入力される検出値に基づいて筒内ガス温度を算出し、該筒内ガス温度が所定の温度範囲内にある場合に前記アンモニア水の高圧噴射指令を出力する制御部と、
を備えていることを特徴とする舶用内燃機関。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−113153(P2013−113153A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258020(P2011−258020)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】