説明

船外機の燃料制御装置

【課題】船外機の様々な使用環境に対しても円滑かつ高精度な減速を可能にし、また減速後のエンジン回転数を安定させることが可能である。
【解決手段】船舶に搭載された船外機1のエンジンの燃料供給量を制御する船外機の燃料制御装置であって、船舶の減速を判断する減速判定手段60cと、エンジン10のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段60aと、エンジン10のエンジン負荷を検出するエンジン負荷検出手段60bと、船舶の減速時に、検出されたエンジン回転数とエンジン負荷に基づき前記エンジンの燃料供給量を制御する制御手段Kとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶の減速時に、船舶に搭載された船外機のエンジンの燃料供給量を制御する船外機の燃料制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両に搭載されるエンジンにおいては、エンジンの制御装置として、吸気管圧力とエンジン回転数とに基づいてエンジンの燃料供給量を制御するものがあり(特許文献1)、このものはエンジン定常運転において吸気管圧力とエンジン吸入空気量との間に相関がある領域ではセンサで検出した吸気管圧力に基づいて燃料噴射量を制御し、相関が失われる領域では、スロットル弁開度とエンジン回転数とに基づいて燃料噴射量を制御している。
【0003】
船舶に搭載された船外機のエンジンでは、船舶の減速時にエンジン回転数だけに基づいて燃料の減量度合いを決定していた(特許文献2)。
【特許文献1】特開平8-121233号公報
【特許文献2】特開平4-179839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、船舶における減速時の燃料の減量補正においては、従来エンジン回転数のみを制御要素として使用しているが、水面を航走する船舶は、船外機のプロペラや船舶の艇体の種類、また減速の仕方により、車両の路面で減速する場合と異なり、減速状態が大きく変化する。このため、要求される最適な燃料補正量が変わり、燃料供給量が多すぎたり、不足になったりして、減速後のエンジン回転が安定しない場合があった。
【0005】
この発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、船外機の様々な使用環境に対しても円滑かつ高精度な減速を可能にし、また減速後のエンジン回転数を安定させることが可能な船外機の燃料制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決し、かつ目的を達成するために、この発明は、以下のように構成されている。
【0007】
請求項1に記載の発明は、船舶に搭載された船外機のエンジンの燃料供給量を制御する船外機の燃料制御装置であって、
前記船舶の減速を判断する減速判定手段と、
前記エンジンのエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記エンジンのエンジン負荷を検出するエンジン負荷検出手段と、
前記船舶の減速時に、検出されたエンジン回転数とエンジン負荷に基づき前記エンジンの燃料供給量を制御する制御手段とを備えることを特徴とする船外機の燃料制御装置である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記制御手段は、前記エンジンの燃料供給量を制御する燃料制御を開始する際に、前記エンジン回転数と前記エンジン負荷に基づき燃料補正量の初期値を設定することを特徴とする請求項1に記載の船外機の燃料制御装置である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記制御手段は、前記設定した燃料補正量の初期値を一定時間毎に除算する演算を行い、燃料補正量の推定値を求めることを特徴とする請求項2に記載の船外機の燃料制御装置である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記制御手段は、前記演算された燃料制御の燃料補正量の推定値と、前記エンジン回転数に基づき補正係数を求め、この補正係数に基づき最終的な燃料供給量を決定することを特徴とする請求項3に記載の船外機の燃料制御装置である。
【発明の効果】
【0011】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0012】
請求項1に記載の発明では、船舶の減速時において、検出されたエンジン回転数とエンジン負荷に基づきエンジンの燃料供給量を制御することで、種々の運転環境においても適切な燃料量となって円滑かつ高精度な減速ができ、また減速後の安定したエンジン回転数が維持できる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、エンジンの燃料供給量を制御する燃料制御を開始する際に、エンジン回転数とエンジン負荷に基づき燃料補正量の初期値を設定することで、エンジンの様々な負荷条件に応じて燃料供給量を算出し、燃料制御に反映することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、設定した燃料補正量の初期値を一定時間毎に除算する演算を行い、燃料補正量の推定値を求めることで、円滑に収束させる燃料制御を行い円滑な減速ができ、また減速後の安定したエンジン回転数が維持できる。
【0015】
請求項4に記載の発明では、演算された燃料制御の燃料補正量の推定値と、エンジン回転数に基づき補正係数を求め、この補正係数に基づき最終的な燃料供給量を決定し、エンジン回転数の下降具合に合わせた燃料制御を行うことで、エンジンの負荷状況に応じて最適な燃料供給ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の船外機の燃料制御装置の実施の形態について説明するが、この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明はこれに限定されない。
【0017】
まず、燃料制御装置が備えられる船外機について説明する。図1は船外機の側面図である。この船外機1は、クランプブラケット2によって船舶の船体20の船尾板20aに取り付けられており、クランプブラケット2には上下のダンパ部材3によって推進ユニット4を弾性支持するスイベルブラケット5がチルト軸6によって上下に回動自在に枢着されている。
【0018】
推進ユニット4はカウリング7とアッパーケース8及びロアーケース9とで構成されるハウジングを有しており、カウリング7内には4サイクルのエンジン10が収納されている。このエンジン10はエキゾーストガイド11によって支持されている。
【0019】
エンジン10にはクランク軸12が縦方向に配置されており、このクランク軸12には、アッパーケース8内を縦方向に縦断するドライブ軸13の上端が連結されている。ドライブ軸13の下端はロアーケース9内に収納された前後進切換機構14に連結されており、前後進切換機構14からはプロペラ軸15が水平後方に延びており、このプロペラ軸15のロアーケース9外へ突出する後端部にはプロペラ16が取り付けられている。
【0020】
次に、燃料制御装置が備えられるエンジン10について説明する。図2はエンジンの全体構成を示す概略図である。エンジン10の気筒には、吸気管30と、排気管40が接続されている。吸気管30には、スロットル弁31、燃料噴射弁32、吸気圧力センサ33が配置されている。スロットル弁31は、運転者の操作レバー34の操作量に応じた開度となる。燃料噴射弁32は、エンジン10の気筒の吸気通路10aに加圧燃料を噴射する。吸気圧力センサ33は、導圧管35に配置され、この導圧管35はスロットル弁31の下流側部分に設けられた吸気管圧力検出用ポート38に連通している。吸気圧力センサ33は導圧管35を介して作用する吸気管30内の圧力(絶対圧力)に応じた電圧信号を発生する。排気管40は、排気通路10bに接続されている。
【0021】
スロットル弁31は操作レバー34に連結された操作機構31aに接続されており、操作レバー34を操作することによりスロットル弁31を動作させることができ、操作機構31aには操作レバー34の位置(開度)に応じた電圧信号を発生するスロットル開度センサ37が設けられている。
【0022】
エンジン10の気筒には、ピストン50が往復動可能に設けられ、このピストン50はピストンロッド51を介してクランク軸12に連結され、ピストン50の往復動によってクランク軸12を回転する。クランク軸12には、フライホイール52が設けられ、このフライホイール52に対向する位置にクランク軸12の回転数に応じたパルス信号を発生するクランク軸センサ53が設けられている。
【0023】
吸気圧力センサ33の電圧信号、スロットル開度センサ37の電圧信号、クランク軸センサ53のパルス信号は、制御部60に入力される。制御部60は、例えばマイクロコンピュータにより構成される。この制御部60には、燃料噴射弁32が接続され、吸気圧力、スロットル弁開度及びエンジン回転数に基づいてエンジン10の燃料噴射量の制御量を算出し、基本の燃料噴射量制御を行う。
【0024】
この実施の形態では、船舶の減速時において、検出されたエンジン回転数とエンジン負荷に基づきエンジンの燃料供給量を制御する。すなわち、検出されたエンジン回転数とエンジン負荷に基づき補正係数を求め、この補正係数に基づきエンジンの燃料補正量を制御する燃料噴射量補正制御を行う。
【0025】
このエンジン10の燃料噴射量補正の算出について、図3に基づいて説明する。図3は制御部の構成を示す図である。この実施例においては、制御部60は、エンジン回転数検出手段60a、エンジン負荷検出手段60b、減速判定手段60c、制御手段Kを備える。制御手段Kは、減速減量用船速推定値マップ値検索手段60d、減速減量用船速推定値減衰処理手段60e、減速減量補正係数マップ値検索手段60f、燃料噴射弁通電時間演算手段60gを有し、船舶の減速時において、船外機1のエンジン10の燃料補正量を制御する。
【0026】
エンジン回転数検出手段60aは、クランク軸センサ53からのパルス信号のパルス間隔に基づいてエンジン回転数(回転速度)を演算し、このエンジン回転数(回転速度)データを減速減量用船速推定値マップ値検索手段60d、減速減量補正係数マップ値検索手段60fへ送る。
【0027】
エンジン負荷検出手段60bは、吸気圧力センサ33からの電圧信号に基づいてエンジン10のエンジン負荷を検出し、このエンジン負荷データを減速減量用船速推定値マップ値検索手段60d、減速減量補正係数マップ値検索手段60fへ送る。
【0028】
減速判定手段60cは、スロットル開度センサ37の電圧信号と、エンジン回転数検出手段60aからのエンジン回転数に基づき、以下の条件a,b,cが全部成立するときに、船舶の減速と判断する。船舶の減速時は、図3において、例えば、操作レバー34を前進の全開位置から全閉位置に、瞬時に、あるいはゆっくりと移動させる操作を行い、スロットル弁31を全開から全閉位置にして減速する。水面を航走する船舶は、船外機1のプロペラの種類、形状や船舶の艇体の種類、また急減速など減速の仕方により、減速状態が大きく変化するため、水中に船速を検知するセンサを設け、このセンサ値から船舶の減速を判断するようにしてもよい。
【0029】
この減速操作によって、
条件a:スロットルレバー34の例えば前進の全開位置から全閉位置へ移動する位置(開度)に応じた電圧信号に基づくスロットルリクエスト値が、減速判定手段60cに記憶された減速判定スロットルリクエスト値と同じか小さいとき、
条件b:減速のエンジン回転数が、減速判定手段60cに記憶された減速判定回転数より大きいとき、
条件c: 減速のエンジン回転数が、減速判定手段60cに記憶された減速判定回転数より大きく、かつ減速判定不成立から成立へ変化した後に減速制限時間が経過するまでを判断する。
【0030】
前記の条件a,b,cが全部成立するときに減速と判断し、いずれか成立しないときには減速と判断しないで、燃料補正制御を行わないで、基本の燃料噴射量制御を行う。
【0031】
すなわち、前記の条件a,b,cのいずれか成立しないときには、減速減量用船速推定値マップ値検索手段60d、減速減量用船速推定値減衰処理手段60e、減速減量補正係数マップ値検索手段60fを作動しないで、燃料噴射弁通電時間演算手段60gにおいて基本の燃料噴射量(燃料噴射弁の噴射時間)が算出される。
【0032】
前記の条件a,b,cが全部成立するときに減速と判断し、減速減量用船速推定値マップ値検索手段60dは、検出されたエンジン回転数と、検出されたエンジン負荷に基づき、図4に示す減速減量用船速推定値マップから減速時に燃料制御を開始する際に、燃料制御の燃料補正量の初期値を設定する。すなわち、図4に示す減速減量用船速推定値マップでは、例えば縦軸にエンジン回転数が250rpm〜6000rpmが、横軸に吸気圧のエンジン負荷が1〜100の数値で表示され、予めエンジン回転数とエンジン負荷に応じた燃料補正量の初期値がマップとして記憶されている。このマップから例えばエンジン回転数が6000rpmで、エンジン負荷が100の場合は燃料補正量の初期値を100に設定する。
【0033】
減速減量用船速推定値減衰処理手段60eは、設定した燃料補正制御の燃料補正量の初期値を一定時間毎に除算する演算を行い、図5に示す燃料補正量の減速減量用船速推定値を求める。例えば、設定された燃料補正制御の燃料補正量の初期値100に1以下の船速減衰係数を掛けることで、一定の割合ずつ、0まで減衰させて、図5に示す燃料補正量の減速減量用船速推定値を求めることができる。
【0034】
減速減量補正係数マップ値検索手段60fは、図6に示す減速減量補正係数マップから、図5に示す燃料補正量の減速減量用船速推定値とエンジン回転数に基づき補正係数を求める。例えば、エンジン回転数が6000rpmで、燃料補正量の減速減量用船速推定値が100の場合は、補正係数が0.00であり、燃料補正量を多くし、燃料噴射量を0にする。また、例えば、エンジン回転数が250rpmで、燃料補正量の減速減量用船速推定値が0の場合は、補正係数が1.00であり、燃料補正しないで基本の燃料噴射量制御を行う。このように、演算された燃料補正制御の燃料補正量の減速減量用船速推定値と、減速する船舶の船外機1のエンジン回転数に基づき補正係数を求め、この補正係数に基づき最終的な燃料補正量を決定し、基本の燃料噴射量から決定した燃料補正量を減量する補正を行い、燃料噴射弁通電時間演算手段60gに指令する。
【0035】
燃料噴射弁通電時間演算手段60gは、燃料噴射弁通電時間演算手段60gからの指令に基づき、燃料噴射弁32を、演算によって求めた燃料噴射弁通電時間駆動してエンジン10の気筒の吸気通路10aに加圧燃料を噴射する。
【0036】
このように、エンジン10の燃料制御装置は、制御部60の制御手段によって船舶の減速時において、船外機1のエンジン10の燃料補正量を制御する。この制御は検出されたエンジン回転数とエンジン負荷に基づき補正係数を求め、この補正係数に基づきエンジンの燃料供給量を制御することで、種々の運転環境においても適切かつ高精度な燃料を供給できる。したがって、円滑かつ高精度な減速ができ、また減速後の安定したエンジン回転数が維持できる。また、減速時に燃料制御を開始する際に、エンジン回転数とエンジン負荷に基づき燃料制御の燃料補正量の初期値を設定するから、エンジン10の様々な負荷条件に応じて燃料補正量を算出し制御に反映することができる。また、設定した燃料補正制御の燃料補正量の初期値を一定時間毎に除算する演算を行い燃料補正量の減速減量用船速推定値を求め、一定の数値まで円滑に収束させる燃料補正を行うことで、円滑な減速ができ、また減速後の安定したエンジン回転数が維持できる。また、演算された燃料制御の燃料補正量の減速減量用船速推定値と、減速する船外機1のエンジン回転数に基づき補正係数を求め、この補正係数に基づき最終的な燃料供給量を決定し、エンジン回転数の下降具合に合わせた燃料補正を行うことで、エンジン10の負荷状況に応じて最適な燃料供給ができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明は、船舶の減速時に、船舶に搭載された船外機のエンジンの燃料供給量を制御する船外機の燃料制御装置に適用でき、船外機の様々な使用環境に対しても円滑かつ高精度な減速を可能にし、また減速後のエンジン回転数を安定させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】船外機の側面図である。
【図2】エンジンの全体構成を示す概略図である。
【図3】制御部の構成を示す図である。
【図4】減速減量用船速推定値マップを示す図である。
【図5】減速減量用船速予測値を求める図である。
【図6】減速減量補正係数マップを示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 船外機
4 推進ユニット
10 エンジン
12 クランク軸
16 プロペラ
20船舶の船体
20a 船尾板
30 吸気管
31 スロットル弁
32 燃料噴射弁
33 吸気圧力センサ
34スロットルレバー 35 導圧管
37 スロットル開度センサ
50 ピストン
52 フライホイール
53 クランク軸センサ
60 制御部
60a エンジン回転数検出手段
60b エンジン負荷検出手段
60c 減速判定手段
60d 減速減量用船速推定値マップ値検索手段
60e 減速減量用船速推定値減衰処理手段
60f 減速減量補正係数マップ値検索手段
60g 燃料噴射弁通電時間演算手段




【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載された船外機のエンジンの燃料供給量を制御する船外機の燃料制御装置であって、
前記船舶の減速を判断する減速判定手段と、
前記エンジンのエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記エンジンのエンジン負荷を検出するエンジン負荷検出手段と、
前記船舶の減速時に、検出されたエンジン回転数とエンジン負荷に基づき前記エンジンの燃料供給量を制御する制御手段とを備えることを特徴とする船外機の燃料制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記エンジンの燃料供給量を制御する燃料制御を開始する際に、前記エンジン回転数と前記エンジン負荷に基づき燃料補正量の初期値を設定することを特徴とする請求項1に記載の船外機の燃料制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記設定した燃料補正量の初期値を一定時間毎に除算する演算を行い、燃料補正量の推定値を求めることを特徴とする請求項2に記載の船外機の燃料制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記演算された燃料制御の燃料補正量の推定値と、前記エンジン回転数に基づき補正係数を求め、この補正係数に基づき最終的な燃料供給量を決定することを特徴とする請求項3に記載の船外機の燃料制御装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−157043(P2008−157043A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343813(P2006−343813)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】