説明

船舶推進機の傾動シリンダ装置

【課題】 船舶推進機の傾動シリンダ装置において、シリンダにロッドガイドを固定するための加工工数と組付工数を簡素化すること。
【解決手段】 ロッド32を摺動可能に収容するシリンダ31にロッドガイド33を設けてなる船舶推進機10の傾動シリンダ装置30において、ロッドガイド33の外周にストッパリング40を収容できる収容溝41を設け、シリンダ31の内周にストッパリング40の線径により浅く、該ストッパリング40を嵌合させる係合溝42を設け、ロッドガイド33の収容溝41からシリンダ31内方側に続く外周にストッパリング40に当接するテーパ状当接部41Aを設けたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機、船内外機等の船舶推進機に設けられ、推進ユニットを水面に対して傾動するトリムシリンダ装置、チルトシリンダ装置の傾動シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の船外機の傾動シリンダ装置は、ロッドを摺動可能に収容するシリンダにロッドガイドを設けるに際し、特許文献1に記載の如く、シリンダの内周とロッドガイドの外周のそれぞれにねじ加工し、ロッドガイドをシリンダにねじ結合していた。
【0003】
尚、油圧シリンダのロッドガイド止め構造として、特許文献2に記載の如く、シリンダに挿入したロッドガイドをシリンダ内方側に押し入れた状態で、シリンダの内周の係合溝にストッパリングを嵌合させ、その後、ロッドを介してロッドガイドをシリンダ外方側に引き上げ、ロッドガイドの外周の当接部をストッパリングに当接させて該ロッドガイドを止めるものがある。
【特許文献1】特開平7-228297
【特許文献2】特開平10-169610
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のロッドガイド固定構造は、シリンダとロッドガイドのねじ加工に工数がかかるし、組付工数もかかる。
【0005】
特許文献2のロッドガイド止め構造は、ロッドガイドを押し入れる工程と引き上げる工程を必要とし、組付工数がかかる。
【0006】
本発明の課題は、船舶推進機の傾動シリンダ装置において、シリンダにロッドガイドを固定するための加工工数と組付工数を簡素化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ロッドを摺動可能に収容するシリンダにロッドガイドを設けてなる船舶推進機の傾動シリンダ装置において、ロッドガイドの外周にストッパリングを収容できる収容溝を設け、シリンダの内周にストッパリングの線径により浅く、該ストッパリングを嵌合させる係合溝を設け、ロッドガイドの収容溝からシリンダ内方側に続く外周にストッパリングに当接するテーパ状当接部を設けたものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記シリンダが前記係合溝に交差する貫通孔を外部から穿設されてなるようにしたものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の発明において更に、前記ロッドガイドの収容溝をロッドガイド外方側に開放してなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1)
(a)ストッパリングを弾性的に縮径させることにより、ロッドガイドの外周の収容溝に収容してシリンダに挿入すると、ストッパリングがシリンダの内周の係合溝に合致したとき、ストッパリングが自らの弾発的復元習性により拡径し、ストッパリングの外周側をシリンダの上記係合溝に嵌合させる。ロッドとロッドガイドをシリンダに組付けるときに、ストッパリングを伴なったロッドガイドをシリンダに挿入するだけでロッドガイドをシリンダに固定でき、加工工数を削減できるし、組付性も向上できる。
【0011】
(b)上述(a)の組付後、ロッドガイドがシリンダから抜け出ようとすると、ロッドガイドの外周のテーパ状当接部がストッパリングの内周側に当たり、これによって拡径せしめられるストッパリングはシリンダの係合溝に押し込み保持され、ロッドガイドの収容溝に落ち込む如くがない。ストッパリングがシリンダの係合溝から脱落することがないから、ロッドガイドを確実に抜け止めするし、ロッドガイドをシリンダに対してセンタリングして両者の径方向のがたつきも防止できる。
【0012】
(請求項2)
(c)シリンダの貫通孔に挿入される縮径工具により係合溝に嵌合しているストッパリングを内径側に加圧縮径させることにより、ストッパリングをロッドガイドの収容溝に再び押し込み、ロッドガイド及びストッパリングをシリンダから取外しできる。
【0013】
(請求項3)
(d)ロッドガイドの外方側に開放されているロッドガイドの収容溝に取出し工具を挿入できる。この取出し工具により、上述(c)でロッドガイドの収容溝に再び押し込まれたストッパリングの縮径状態を維持させつつ、ロッドガイド及びストッパリングをシリンダから容易に取出しできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は船外機を示す側面図、図2はトリム・チルト装置を示し、(A)は正面図、(B)は一部破断して示す側面図、図3はトリムシリンダ装置を示し、(A)は断面図、(B)は要部拡大図、図4はロッドガイド組付工程を示す断面図、図5はトリムシリンダ装置の変形例を示す断面図である。
【実施例】
【0015】
船舶推進機としての船外機10は、図1に示す如く、船体11の船尾板にクランプブラケット12を固定し、クランプブラケット12に枢支したチルト軸を介して、スイベルブラケット13を傾動自在に支持し、スイベルブラケット13に枢支した転舵軸を介して推進ユニット14を転舵自在に支持する。船外機10は、推進ユニット14の上部にエンジンユニット15を搭載し、推進ユニット14の下部のプロペラ16を正逆回転可能にする。
【0016】
船外機10は、クランプブラケット12とスイベルブラケット13の間にトリム・チルト装置17を介装し、スイベルブラケット13を上述の如くに傾動可能にする。トリム・チルト装置17は、図2に示す如く、チルトシリンダ装置20とトリムシリンダ装置30を有し、ポンプユニット18によりチルトシリンダ装置20とトリムシリンダ装置30に作動油を給排し、チルトシリンダ装置20とトリムシリンダ装置30からの作動油をオイルタンク19に貯留する。トリム・チルト装置17は、チルトシリンダ装置20とトリムシリンダ装置30の伸縮により、推進ユニット14をトリム作動又はチルト作動させる。トリム作動は、船体11の航走中に、プロペラ16の推力に抗して推進ユニット14をトリム域内で傾動させ、船体11の航走姿勢を調整する。チルト作動は、船体11の停船中又は陸揚げ時等に、推進ユニット14をその自重に抗してチルト域内で傾動させ、推進ユニット14を水面上に上昇させる。
【0017】
チルトシリンダ装置20は、クランプブラケット12とスイベルブラケット13の幅方向中央に1本のチルトシリンダ21を配置し、このチルトシリンダ21の油室にピストンロッド22を摺動可能に収容すべく、このチルトシリンダ21の開口部21Aに固定的に設けたロッドガイド23にピストンロッド22を貫通支持する。チルトシリンダ21の枢支部24をクランプブラケット12に連結し、ピストンロッド22の先端枢支部25をスイベルブラケット13に連結する。
【0018】
トリムシリンダ装置30は、クランプブラケット12とスイベルブラケット13の幅方向両側に各1本のトリムシリンダ31を配置し、このトリムシリンダ31の油室34にピストンロッド32(ピストン32A)を摺動可能に収容すべく、このトリムシリンダ31の開口部31Aに固定的に設けたロッドガイド33にピストンロッド32を貫通支持する。トリムシリンダ31はチルトシリンダ21の両側部に一体結合され、ピストンロッド32の先端部をスイベルブラケット13に当接可能にする。
【0019】
以下、トリムシリンダ装置30のトリムシリンダ31に対するロッドガイド33の固定構造について説明する。尚、チルトシリンダ装置20のチルトシリンダ21に対するロッドガイド23の固定構造もこれと同一であり、説明を省略する。
【0020】
シリンダ31は、図3に示す如く、開口部31Aの内径を油室34の内径より大径とする(開口部31Aの内径の開口端に面取りが施され、油室34の内径の開口部31A寄り端にも面取りが施される)。ロッドガイド33は、開口部31Aの内径に嵌合する大径部33Aと、油室34の内径に嵌合する小径部33Bを上下に連設するとともに、ロッド32が貫通する孔部33Cを備える。ロッドガイド33は、小径部33Bの外周に設けた環状溝にOリング35を嵌着し、Oリング35をシリンダ31における油室34の内径上部に封着する。ロッドガイド33は、孔部33Cの内周に設けた上下の環状溝にダストシール36、オイルシール37を嵌着し、これらのシール36、37をロッド32の外周に液密に摺接する。
【0021】
ロッドガイド33は、大径部33Aの外周に、C字状ストッパリング40を収容できる環状収容溝41を設ける。収容溝41はストッパリング40の線径より深い溝深さをなし、ストッパリングの横断面の全部を受入れる。
【0022】
シリンダ31は、開口部31Aの内周に、ストッパリング40の線径より浅い溝深さをなし、ストッパリング40を嵌合させる環状係合溝42を設ける。係合溝42はストッパリング40の横断面の外周側半部を受入れる。
【0023】
ロッドガイド33は、大径部33Aの外周であって、収容溝41からシリンダ内方側に続く外周に、シリンダ31の係合溝42に嵌合しているストッパリング40の内周に当接するテーパ状当接部41Aを設ける。
【0024】
シリンダ31へのロッドガイド33の組付手順は以下の如くになる(図4)。
(1)シリンダ31の開口部31Aの外端面にストッパリング装填治具50を載置する。治具50はシリンダ31における開口部31Aの内径と同一内径のストレート状ガイド部52を備えるとともに、ガイド部52の入側にて外方に拡開するテーパ状導入部51を備える。
【0025】
(2)ロッド32及びピストン32Aをシリンダ31の開口部31Aからその油室34に挿入する。
【0026】
(3)シリンダ31の開口部31Aから外方に突出しているロッド32にロッドガイド33の孔部33C(ダストシール36、オイルシール37)を挿着する。このロッドガイド33における大径部33Aの収容溝41にストッパリング40の内周を掛け、ロッドガイド33を治具50の内周に押し込む。このとき、ストッパリング40は、治具50のテーパ状導入部51を通過する際に徐々に弾性的に縮径され、ストレート状ガイド部52に入ったときにはロッドガイド33の収容溝41に完全に収容される。
【0027】
(4)ロッドガイド33を治具50の内周から更にシリンダ31における開口部31Aの内周に押し込む。ロッドガイド33が治具50の内周からシリンダ31の開口部31Aの内周に入るとき、ロッドガイド33の収容溝41に収容されているストッパリング40もそのまま開口部31Aの内周に入る。そして、このストッパリング40がシリンダ31における開口部31Aの内周に設けられている係合溝42に合致するに至ると、ストッパリング40が自らの弾発的復元習性により拡径し、ストッパリング40の外周側半部をその係合溝42に嵌合させる。これにより、ロッドガイド33がシリンダ31に組付けられるものになる。
【0028】
シリンダ31における開口部31Aの内周へのロッドガイド33の押し込み位置は、ロッドガイド33の大径部33Aと小径部33Bの段差面が衝合する、開口部31Aの内径と油室34の内径との段部により規制され、ストッパリング40の係合溝42への嵌合ミスを招くことがない。
【0029】
(5)尚、ロッドガイド33がシリンダ31から矢印Fに示す如くに抜け出ようとするときには、図3(B)に示す如く、ロッドガイド33における大径部33Aの外周のテーパ状当接部41Aがストッパリング40の内周側に当たり、これによって拡径せしめられるストッパリング40がシリンダ31の係合溝42に押し込み保持され、係合溝42からロッドガイド33の収容溝41側に落ち込む如くを生じない。ロッドガイド33はシリンダ31から確実に抜け止めされる。
【0030】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)ストッパリング40を弾性的に縮径させることにより、ロッドガイド33の外周の収容溝41に収容してシリンダ31に挿入すると、ストッパリング40がシリンダ31の内周の係合溝42に合致したとき、ストッパリング40が自らの弾発的復元習性により拡径し、ストッパリング40の外周側をシリンダ31の上記係合溝42に嵌合させる。ロッド32とロッドガイド33をシリンダ31に組付けるときに、ストッパリング40を伴なったロッドガイド33をシリンダ31に挿入するだけでロッドガイド33をシリンダ31に固定でき、加工工数を削減できるし、組付性も向上できる。
【0031】
(b)上述(a)の組付後、ロッドガイド33がシリンダ31から抜け出ようとすると、ロッドガイド33の外周のテーパ状当接部41Aがストッパリング40の内周側に当たり、これによって拡径せしめられるストッパリング40はシリンダ31の係合溝42に押し込み保持され、ロッドガイド33の収容溝41に落ち込む如くがない。ストッパリング40がシリンダ31の係合溝42から脱落することがないから、ロッドガイド33を確実に抜け止めするし、ロッドガイド33をシリンダ31に対してセンタリングして両者の径方向のがたつきも防止できる。
【0032】
図5は、図3の変形例である。即ち、シリンダ31の開口部31Aの周方向複数位置において、前述の係合溝42に交差する複数の貫通孔43を外部から穿設する。
【0033】
シリンダ31の貫通孔43に挿入される縮径工具により係合溝42に嵌合しているストッパリング40を内径側に加圧縮径させることにより、ストッパリング40をロッドガイド33の収容溝41に再び押し込み、ロッドガイド33及びストッパリング40をシリンダ31から取外しできる。
【0034】
更に、ロッドガイド33の大径部33Aに設けた収容溝41を、その全溝深さについて、ロッドガイド33の外方側端面にまで開放する。
【0035】
ロッドガイド33の外方側に開放されているロッドガイド33の収容溝41に取出し工具を挿入できる。この取出し工具により、上述の縮径工具によってロッドガイド33の収容溝41に再び押し込まれたストッパリング40の縮径状態を維持させつつ、ロッドガイド33及びストッパリング40をシリンダ31から容易に取出しできる。このとき、収容溝41の溝深さは、ストッパリング40の線径に取出し工具の工具厚みを加えた深さより大とする。
【0036】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は船外機を示す側面図である。
【図2】図2はトリム・チルト装置を示し、(A)は正面図、(B)は一部破断して示す側面図である。
【図3】図3はトリムシリンダ装置を示し、(A)は断面図、(B)は要部拡大図である。
【図4】図4はロッドガイド組付工程を示す断面図である。
【図5】図5はトリムシリンダ装置の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10 船外機(船舶推進機)
20 チルトシリンダ装置(傾動シリンダ装置)
30 トリムシリンダ装置(傾動シリンダ装置)
31 シリンダ
32 ロッド
33 ロッドガイド
40 ストッパリング
41 収容溝
41A テーパ状当接部
42 係合溝
43 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドを摺動可能に収容するシリンダにロッドガイドを設けてなる船舶推進機の傾動シリンダ装置において、
ロッドガイドの外周にストッパリングを収容できる収容溝を設け、
シリンダの内周にストッパリングの線径により浅く、該ストッパリングを嵌合させる係合溝を設け、
ロッドガイドの収容溝からシリンダ内方側に続く外周にストッパリングに当接するテーパ状当接部を設けたことを特徴とする船舶推進機の傾動シリンダ装置。
【請求項2】
前記シリンダが前記係合溝に交差する貫通孔を外部から穿設されてなる請求項1に記載の船舶推進機の傾動シリンダ装置。
【請求項3】
前記ロッドガイドの収容溝をロッドガイド外方側に開放してなる請求項2に記載の船舶推進機の傾動シリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−322484(P2006−322484A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144695(P2005−144695)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】