説明

船舶用インバータシステム

【課題】特殊な変圧器を用いることなく励磁突入電流を低減し、もって船内に設置する発電機の容量や台数を最適化し、船内省スペース化を可能にする。
【解決手段】船内母線に接続された複数個のインバータによって周波数変換された電圧を、推進用電動機に巻装された複数個の固定子巻線に供給するようにした船舶用インバータシステムにおいて、推進用電動機の固定子巻線およびインバータを2つのグループに分け、推進用電動機の第1グループのそれぞれの固定子巻線と、第1グループのそれぞれのインバータの負荷側を接続し、第1グループのインバータの電源側を、共通の交流リアクトルを介して前記船内母線に接続し、推進用電動機の第2グループのそれぞれの固定子巻線と、第2グループのそれぞれのインバータの負荷側を接続し、第2のグループのインバータの電源側を、一次側と二次側とで電圧位相が30度ずれた共通の三相単巻変圧器を介して前記船内母線に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータから発生する高調波成分が船内母線に流入するのを抑制するようにした船舶用インバータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
交流電動機をインバータにより制御するシステムとして、特許文献1乃至2に開示されたものが挙げられる。
図4は上記特許文献1乃至2に開示された従来のインバータシステムを簡略化したシステム構成図である。
【0003】
図4において、1は船内母線であり、電源側遮断器2を介してディーデル発電機(D/G)やガスタービン発電機(T/G)等の種々の交流発電機3に接続され、電力の供給を受けている。そして、この船内母線1には負荷側遮断器4、交流リアクトル5、インバータ6を介してプロペラ7を駆動する推進電動機8が接続されている。9は推進電動機8の回転速度を検出してインバータ6の制御回路に速度信号を帰還する速度検出器である。
【0004】
インバータ6は、制御回路内に予め設定してある速度設定値と前記速度検出器9から帰還された推進電動機8の実回転速度との偏差に応じて推進電動機8に印加する電圧の大きさや周波数を制御(例えば、VVVF制御)して、推進電動機8の回転速度を制御する。
【0005】
交流リアクトル5はインバータ6から発生する高調波成分が船内母線1に流入するのを抑制する装置である。交流リアクトル5の高調波抑制効果を高める対策の一つとして、インダクタンス(L)を大きくする方法がある。この場合、交流リアクトル5自体の体格(寸法)や電力損失の増大につながるため好ましくない。
【0006】
別の対策として、図5のようなシステムも考えられている。
図5の船舶用インバータシステムが図4の船舶用インバータシステムと異なる点は、交流リアクトル5に替えて三相3巻線変圧器10を適用したこと、インバータとしてマスター側インバータ6Aおよびスレーブ側インバータ6Bを三相3巻線変圧器10の二次巻線、三次巻線に接続したこと、さらに推進電動機としてインバータ6Aおよび6Bに接続される多巻線電動機(図では2巻線電動機)11を適用したことである。なお、11A、11Bは多巻線電動機11の各固定子巻線を意味する。その他の構成は図4と同一なので説明を省略する。
【0007】
図5において、船内母線1は負荷側遮断器4を介して三相3巻線変圧器10の一次巻線(Y結線)に接続され、この三相3巻線変圧器10の二次巻線(Y結線)はマスター側インバータ6Aを介して多巻線型電動機11の一方の固定子巻線11Aに接続される。また、三相3巻線変圧器10の三次巻線(Δ結線)はスレーブ側インバータ6Bを介して多巻線型電動機11の他方の固定子巻線11Bに接続される。
【0008】
図5の構成によると、三相3巻線変圧器10により多巻線型電動機11の固定子巻線11Aに給電するマスター側インバータ6Aの電源系統と、固定子巻線11Bに給電するスレーブ側インバータ6Bの電源系統との位相を30度ずらすことにより、各インバータ6A、6Bから発生する高調波成分の一部を打ち消して高調波歪率を低減させることができる。このようにインバータ6Aおよび6Bの電源位相をずらして高調波抑制を行うことは一般的に知られている。
【0009】
なお、三相3巻線変圧器10を設置する代わりにマスター側インバータ6A、スレーブ側インバータ6Bそれぞれの電源用としてインバータと一対になる単相単巻型変圧器を適用し、一方をΔ−Δ型とし、他方をΔ−Y型とすることも可能である。しかしこの場合、単相単巻型変圧器を2台設けるため、その分設置スペースの増大を招くことから一般的には上述のように三相3巻線変圧器を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−056682号公報
【特許文献2】特許第3352182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図5に示す船舶用インバータシステムの場合、始動時に三相3巻線変圧器10に大きな励磁突入電流が流れるために、船内母線1に接続される交流発電機3にはそれに見合う大きな容量にするとか、交流発電機3の設置台数を増やす等の対策が必要となる。また、三相3巻線変圧器10による船内スペース占有割合が高く、配置等に苦慮しているのが実情である。
【0012】
そこで本発明は上記の課題を解決するために、船内母線に接続される交流発電機の容量増大化や設置台数の増加を招くことなく、船内母線とインバータ間に位置する変圧器の省スペース化を図るようにした船舶用インバータシステムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る船舶用インバータシステムは、船内の発電機から電力を供給される船内母線と、当該船内母線に接続された複数個のインバータによって周波数変換された電圧を、推進用電動機に巻装された複数個の固定子巻線に供給するようにした船舶用インバータシステムにおいて、前記複数個の固定子巻線の半数を第1グループの固定子巻線とし、残り半数の固定子巻線を第2グループの固定子巻線とし、前記複数個のインバータの半数を第1グループのインバータとし、残り半数のインバータを第2グループのインバータとし、前記第1グループのそれぞれの固定子巻線と、前記第1グループのそれぞれのインバータの負荷側を接続し、前記第1グループのインバータの電源側を、共通の交流リアクトルを介して前記船内母線に接続し、前記第2グループのそれぞれの固定子巻線と、前記第2グループのそれぞれのインバータの負荷側を接続し、前記第2のグループのインバータの電源側を、一次側と二次側とで電圧位相が30度ずれた共通の三相単巻変圧器を介して前記船内母線に接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高調波抑制を実現すると共に、特殊な変圧器を用いることなく励磁突入電流を低減することができ、もって船内に設置する発電機の容量や台数を最適化し、船内省スペース化を可能とした船舶用インバータシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態1に係る船舶用インバータシステムの構成図。
【図2】本発明の実施形態2に係る船舶用インバータシステムの構成図。
【図3】本発明の実施形態3に係る船舶用インバータシステムの構成図。
【図4】従来の船舶用インバータシステムの第1例の構成図。
【図5】従来の船舶用インバータシステムの第2例の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、既に説明した図4および5に記載の部品に対応する部品には対応する符号をつけることにより重複する説明を適宜省くものとする。
【0017】
[実施形態1]
図1に示す船舶用インバータシステム構成図を参照して本発明の実施形態1について説明する。
【0018】
(構成)
図1において、本実施形態1の船舶用インバータシステムが図5で示した船舶用インバータシステムと異なる点は、三相3巻線変圧器10に替えて交流リアクトル5および三相単巻変圧器(Δ−Y型)12を適用し、交流リアクトル5の電源側端子を負荷側遮断器4Aを介して船内母線1と接続するとともに負荷側端子をインバータ6Aの電源側端子に接続して第1の電源系統を構成した点、さらに、三相単巻変圧器12の電源側端子を負荷側遮断器4B介して船内母線1と接続するとともに、負荷側端子をインバータ6Bの電源側端子に接続して第2の電源系統を構成した点にある。
【0019】
その他の部品(遮断器2、交流発電機3、インバータ6A、6B、プロペラ7、速度検出器9、多巻線型電動機11)は図4あるいは図5に示した部品と同等の部品である。
【0020】
(作用)
図1において、多巻線型電動機11の一方の固定子巻線11Aに接続されたマスター側インバータ6Aには、負荷側遮断器4Aおよび交流リアクトル5を介して船内母線1から交流電力が供給される。これに対して、多巻線型電動機10の他方の固定子巻線11Bに接続されたスレーブ側インバータ6Bには、負荷側遮断器4BおよびΔ−Y型の三相単巻変圧器12を介して船内母線1から交流電力が供給される。このように、マスター側インバータ6Aとスレーブ側インバータ6Bに供給される交流電力の電圧位相を30度ずらすことによりインバータから発生する高調波成分を抑制する。
【0021】
(効果)
以上述べたように、本実施形態によれば多巻線型電動機の各固定子巻線に給電するインバータ給電系統を2系統用意し、このうちの1系統に三相単巻変圧器(Δ−Y型)12を使用し、他の系統に交流リアクトル5使用することで高調波抑制効果を実現できると共に、変圧器12の容量を半減できることで励磁突入電流を小さくすることが可能となる。また、交流リアクトル5においては、船体のデッドスペースに配置する等船内の省スペース化を図ることができる。
【0022】
[実施形態2]
次に、図2に示すシステム構成図を参照して本発明の実施形態2について説明する。
図2において、本実施形態2が上述の実施形態1と異なる点は、図1に示したシステムから交流リアクトル5を撤去してマスター側インバータ6Aの電源側端子を直接船内母線1に接続するように構成した点にあり、その他の構成は図1と同様である。
【0023】
本実施形態2の場合、交流リアクトル5を撤去したことにより実施形態1に比べて高調波抑制効果は多少劣るものの、交流リアクトル5の撤去に起因する設備費の抑制効果および船内省スペース化の効果は極めて大である。
【0024】
[実施形態3]
前述した実施形態1(図1)および実施形態2(図2)の場合、多巻線型電動機11として2巻線型電動機を用いたが、多巻線電動機としては2巻線型に限定されるものではなく、他の多巻線型電動機を適用してもよい。
【0025】
図3(a)は4巻線型電動機11を適用する場合を、また、図3(b)は6巻線型電動機11を適用する場合のシステム構成図である。なお、図3ではプロペラ7や速度検出器9等は省いてある。図3(a)および(b)の何れのシステムの場合も、推進用電動機11の固定子巻線およびインバータをそれぞれ2つのグループに分けることにより、推進電動機には2系統での電力供給としている。
【0026】
[実施形態4]
前述した実施形態1(図1)および実施形態2(図2)の場合、スレーブ側のインバータ6Bの交流電源装置としての三相単巻変圧器12はΔ−Y型であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、Y−Δ型の三相単巻変圧器12を適用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…船内母線、2…電源側遮断器、3…交流発電機、4A,4B…負荷側遮断器、5…交流リアクトル、6A,6B…インバータ、7…プロペラ、9…速度検出器、11,11,11…多巻線型電動機、12…三相単巻変圧器(Δ−Y型)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船内の発電機から電力を供給される船内母線と、
当該船内母線に接続された複数個のインバータによって周波数変換された電圧を、推進用電動機に巻装された複数個の固定子巻線に供給するようにした船舶用インバータシステムにおいて、
前記複数個の固定子巻線の半数を第1グループの固定子巻線とし、残り半数の固定子巻線を第2グループの固定子巻線とし、前記複数個のインバータの半数を第1グループのインバータとし、残り半数のインバータを第2グループのインバータとし、
前記第1グループのそれぞれの固定子巻線と、前記第1グループのそれぞれのインバータの負荷側を接続し、
前記第1グループのインバータの電源側を、共通の交流リアクトルを介して前記船内母線に接続し、
前記第2グループのそれぞれの固定子巻線と、前記第2グループのそれぞれのインバータの負荷側を接続し、
前記第2のグループのインバータの電源側を、一次側と二次側とで電圧位相が30度ずれた共通の三相単巻変圧器を介して前記船内母線に接続したことを特徴とする船舶用インバータシステム。
【請求項2】
前記多巻線型電動機の固定子巻線数および前記インバータの個数を2個としたことを特徴とする請求項1記載の船舶用インバータシステム。
【請求項3】
前記第1グループのインバータの電源側を前記交流リアクトルを介さずに前記船内母線に接続したことを特徴とする請求項1または2記載の船舶用インバータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−5524(P2013−5524A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132393(P2011−132393)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000195959)西芝電機株式会社 (172)
【Fターム(参考)】