説明

船舶用エンジンの潤滑

【課題】汚染重質燃料油の存在に起因する潤滑油中のアスファルテン沈殿が防止又は抑制する組成物の提供。
【解決手段】エンジンに重質燃料油を補給すると、20〜60の範囲のTBNの組成物であって、多量の、50質量%以上のグループIベースストックを含有する潤滑粘度の油と、それぞれ少量の、組成物1kg当たり40〜90nmolのカルシウムアルキルサリチレートを与える過塩基性金属カルシウムアルキルサリチレート清浄剤、及び組成物の質量に基づいて、0.1〜10質量%の油溶性線状アルキル置換フェノールとを含む組成物によって筒形ピストン船舶用エンジン潤滑が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
この発明は、中速4ストローク圧縮点火(ディーゼル)船舶用エンジン用の筒形ピストン船舶用エンジン潤滑組成物及び該エンジンの潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
船舶用筒形ピストンエンジンは、一般的に沖合走行用の重質燃料油(「HFO」)を使用する。重質燃料油は石油蒸留物の最も重い留分であり、過剰の脂肪族炭化水素(例えばヘプタン)には溶けないが芳香族溶媒(例えばトルエン)に溶ける石油蒸留物の留分として定義されるアスファルテンを15%まで包含する分子の複雑な混合物を含む。アスファルテンは、シリンダ又は燃料ポンプ及びインジェクタを介して汚染物としてエンジン潤滑油に入ることがあり、次いでエンジン内の「ブラックペイント」又は「ブラックスラッジ」という形で現れるアスファルテンの沈殿が起こり得る。ピストン表面上のこのような炭素質沈着物の存在は絶縁層として作用する可能性があり、これはクラックの形成をもたらし、このクラックは次にピストンを通じて伝播する恐れがある。クラックがピストンを通じて進むと、高温燃焼ガスがクランクケースに入る可能性があり、おそらくクランクケースの爆発という結果になるであろう。
従って、筒形ピストンエンジンオイル(「TPEO」)がアスファルテンの沈殿を防止又は抑制することが非常に望ましい。従来技術はこれを行なう方法を記載している。
【0003】
WO 96/26995(‘995)は、ディーゼルエンジン内の「ブラックペイント」を減らすためのヒドロカルビル置換フェノールの使用を開示している。詳細には、‘995は中速4ストロークディーゼルエンジンを潤滑する潤滑油について述べており、該油は当技術分野ではTPEOとしても知られる。‘995は、該油と、当技術分野でHFOとしても知られる、残油含量を伴う燃料油との使用でブラックペイント形成を減らすためにアルキルフェノールを使用することに言及している。‘995はさらに、潤滑油が、標準的又は過塩基性であってよいヒドロカルビル置換アルカリ土類金属フェナート、サリチレート、ナフテナート、スルホナート又はカルボキシラート等の清浄剤を含有し得ることを述べている。
‘995は、潤滑油が、4ストロークエンジンで使うため、清浄剤の量を調整することによって与えられる8〜50のTBN、及び0.5〜10重量%のフェノールを有することにも言及している。その実施例は、カルシウムフェナート清浄剤を含み、かつ可変量の分岐鎖アルキルフェノールを含むか又は含まない30 TBNのTPEOに関する沈降試験について記述している。
しかしながら、‘995は、TPEOを処理して「ブラックペイント」形成を抑制するという経済的側面に関心を持っていない。使用される清浄剤石鹸、すなわち、基本材料以外の清浄剤の量から相当なコストが生じる。今や、清浄剤がサリチレートであるとき、「ブラックペイント」低減性能とサリチレート石鹸及びアルキルフェノールのそれぞれの濃度との間に関係があることが分かる。この関係は、「ブラックペイント」低減性能に如何なる悪影響もなく、石鹸レベルを減らし、かつコストを減らすことができるような関係である。
WO 2010/124859は、アスファルテン沈殿を防止又は抑制するため、潤滑油がグループIIベースストックと、それぞれ少量の過塩基性金属サリチレート清浄剤及びヒンダードフェノール以外のアルキル置換フェノールとを含む、筒形ピストン船舶用エンジンの潤滑について記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明の概要
今や「ブラックペイント」を低減又は排除する試みにおいてサリチレート清浄剤/アルキルフェノール系をTPEOで使用すると、以下のことが認められる。サリチレート石鹸濃度が高いと、アルキルフェノールの添加は実質的に性能に影響を及ぼさない。しかしながら、サリチレート石鹸レベルが低いと、低レベル、例えば‘995で好ましいと述べているレベル(すなわち20重量%)以下及びさらに‘995で一般的と述べられているレベル(すなわち0.5重量%)以下のアルキルフェノールの添加は性能を改善することが認められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1態様は、重質燃料油を補給したときのエンジンの運転中に、その使用においてアスファルテンの取扱いを改善するための、20〜60、例えば、30〜55の範囲のTBNの筒形ピストン船舶用エンジン潤滑油組成物であって、多量の、50質量%以上のグループIベースストックを含有する潤滑粘度の油と、それぞれ少量の、下記:
(A)滴定により決定した場合に組成物1kg当たり40〜90、例えば、50〜85nmolのカルシウムアルキルサリチレートを与える過塩基性カルシウムアルキルサリチレート清浄剤;及び
(b)組成物の質量に基づいて、0.1〜10質量%、例えば0.1から2.0質量%未満まで、例えば1.5質量%までの活性成分の油溶性線状(直鎖)アルキル置換フェノール
とを含むか、又はこれらを混合することによって作られる、組成物である。
【0006】
本発明の第2態様は、多量の潤滑粘度の油を含み、かつ50質量%のグループIベースストックを含有する中速圧縮点火船舶用エンジン用の、20〜60、例えば、30〜55の範囲のTBNの筒形ピストン船舶用潤滑油組成物における、重質燃料油を補給したエンジンの運転中のアスファルテンの取扱い及び該組成物によるその潤滑を改善するための、本発明の第1態様で定義された清浄剤(A)と成分(B)の、本発明の第1態様に記載の量で組み合わせた使用である。
本発明の第3態様は、筒形ピストン中速圧縮点火船舶用エンジンの運転方法であって、
下記工程
(i)エンジンに重質燃料油を補給する工程;及び
(ii)エンジンのクランクケースを本発明の第1態様で定義した組成物で潤滑する工程
を含む方法である。
本発明の第4態様は、中速圧縮点火船舶用エンジンの燃焼チャンバーの表面のその潤滑及びエンジンの運転中にアスファルテンを筒形ピストン船舶用潤滑油組成物中で分散させる方法であって、下記工程
(i)本発明の第1態様で定義した組成物を供給する工程、
(ii)この組成物を燃焼チャンバーに供給する工程、
(iii)重質燃料油を燃焼チャンバーに供給する工程;及び
(iv)この重質燃料油を燃焼チャンバー内で燃焼させる工程
を含む方法である。
【0007】
この明細書中、下記用語及び表現は、使用される場合、以下に帰する意味を有する。
「活性成分」又は「(a.i.)」は希釈剤又は溶媒でない添加材料を表し;
「含む」又はいずれの同義語も記述された特徴、工程、又は整数若しくは成分の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、工程、整数、成分又はその群の存在又は追加を排除せず;「〜から成る」又は「基本的に〜から成る」という表現或いは同義語は「含む」又は同義語に包含されることがあり、「基本的に〜から成る」は、それが適用される組成物の特徴に実質的に影響しない物質を含めることを許容し;
「多量」は、組成物の50質量%以上を意味し;
「少量」は、組成物の50質量%未満を意味し;
「TBN」はASTM D2896により測定された全塩基価を意味する。
さらに本明細書において、使用される場合、
「カルシウム含量」はASTM 4951により測定され;
「リン含量」はASTM D5185により測定されたとおりであり;
「硫酸塩灰分含量」はASTM D874により測定されたとおりであり;
「硫黄含量」はASTM D2622により測定されたとおりであり;
「KV100」はASTM D445により測定された100℃における動粘性率を意味する。
また、当然のことながら、用いられる種々の成分は、必須成分のみならず、最適及び通例の成分も、配合、貯蔵又は使用の条件下で反応することがあり、本発明は、このようないずれの反応の結果として得られるか又は得られた生成物をも提供する。
さらに、当然のことながら、本明細書に記載の量、範囲及び比のいずれの上限と下限も独立に組み合わせてよい。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の詳細な説明
以下、本発明の特徴をさらに詳細に説明する。
潤滑粘度の油
潤滑油は、軽質蒸留物鉱油から重質潤滑油までの粘度の範囲であり得る。一般に、油の粘度は100℃で測定した場合、2〜40mm2/秒の範囲である。
天然油として、動物油及び植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油);液体石油並びにパラフィン型、ナフテン型及び混合パラフィン-ナフテン型の水素化精製され、溶媒処理され、又は酸処理された鉱油が挙げられる。石炭又はシェールに由来する潤滑粘度の油も有用なベースオイルとして役立つ。
合成潤滑油として、炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、例えば重合オレフィン及び共重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレン共重合体、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド及びその誘導体、類似体及び同族体が挙げられる。
【0009】
アルキレンオキシド重合体及び共重合体並びにその末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化等により変性された誘導体が既知の合成潤滑油の別の分類を構成する。これらは、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドの重合により調製されたポリオキシアルキレン重合体、並びにポリオキシアルキレン重合体のアルキルエーテル及びアリールエーテル(例えば、1000の分子量を有するメチル-ポリイソ-プロピレングリコールエーテル又は1000〜1500の分子量を有するポリ-エチレングリコールのジフェニルエーテル);並びにそのモノカルボン酸エステル及びポリカルボン酸エステル、例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3-C8脂肪酸エステル及びC13オキソ酸ジエステルによって例示される。
合成潤滑油の別の適切な分類は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)のエステルを含む。該エステルの具体例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることによって形成された複雑なエステルが挙げられる。
【0010】
合成油として有用なエステルには、C5〜C12モノカルボン酸及びポリオール並びにポリオールエステル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール及びトリペンタエリスリトールから得られるものもある。
シリコンベースの油、例えばポリアルキル-、ポリアリール-、ポリアルコキシ-又はポリアリールオキシシリコーン油及びシリカート油が合成潤滑油の別の有用な分類を構成し;該油としては、ケイ酸テトラエチル、ケイ酸テトライソプロピル、ケイ酸テトラ-(2-エチルヘキシル)、ケイ酸テトラ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)、ケイ酸テトラ-(p-tert-ブチル-フェニル)、ヘキサ-(4-メチル-2-エチルヘキシル)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン及びポリ(メチルフェニル)シロキサンが挙げられる。他の合成潤滑油として、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、デシルホスホン酸のジエチルエステル)及び重合体テトラヒドロフランが挙げられる。
未精製油、精製油及び再精製油を本発明の潤滑油に使用することができる。未精製油は、さらに精製処理せずに天然又は合成源から直接得られたものである。例えば、レトルト操作から直接得られたシェール油;蒸留から直接得られた石油;又はエステル化から直接得られ、さらに処理せずに使用されるエステル油が未精製油である。精製油は、油が1つ以上の特性を改善するために1つ以上の精製工程でさらに処理されること以外は未精製油と同様である。このような多くの精製技術、例えば蒸留、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、ろ過及びパーコレーションが当業者に知られている。再精製油は、精製油を提供するために用いられるプロセスと同様のプロセスによって得られるが、既に運転で使用された油から始まる。このような再精製油は、再生油又は再加工油としても知られ、多くの場合、使用済み添加剤及び油分解生成物を除去するための技術を利用するさらなる加工を受ける。
【0011】
米国石油協会(API)出版物「エンジンオイルライセンシングと認可システム(Engine Oil Licensing and Certification System)」(工業サービス部門、第14版、1996年12月、補遺1、1998年12月)は、グループIベースストックを以下のように分類する。
グループIベースストックは、90パーセント未満の飽和物及び/又は0.03パーセントより多いイオウを含み、表E-1に特定した試験方法を用いて80以上かつ120未満の粘度指数を有する。
ベースストックの分析方法を下表に示す。
【0012】

【0013】
述べたように、本発明の潤滑粘度の油は、50質量%以上の規定ベースストック又はその混合物を含む。好ましくは、それは60質量%以上、例えば70、80又は90質量%以上の規定ベースストック又はその混合物を含む。潤滑粘度の油は、実質的に全て規定ベースストック又はその混合物であってよい。
【0014】
過塩基性カルシウムアルキルサリチレート清浄剤(A)
金属清浄剤は、いわゆる金属「石鹸」、すなわち酸性有機化合物の金属塩をベースとする添加剤であり、界面活性剤と呼ばれることもある。それらは一般に極性頭部と長い疎水性尾部を含む。金属塩基(例えば炭酸塩)ミセルの外層として中和された金属清浄剤を含む過塩基性清浄剤は、酸化物又は水酸化物等の過剰の金属塩基を二酸化炭素等の酸性ガスと反応させることにより大量の金属塩基を含めることによって得られる。
本発明では、(A)は過塩基性カルシウムアルキル置換サリチレートである。
過塩基性清浄剤は、典型的に以下に示す構造を有する。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、Rは線状アルキル基である。ベンゼン環に結合したR基が1つより多く存在してもよい。COO-基は、ヒドロキシル基に対してオルト、メタ又はパラ位であってよく;オルト位が好ましい。R基は、ヒドロキシル基に対してオルト、メタ又はパラ位であってよい。
サリチル酸は、典型的にフェノキシドのカルボキシル化、コルベ・シュミット法によって調製され、その場合、一般的に未カルボキシル化フェノールとの混合物(普通は希釈剤中)で得られるであろう。サリチル酸は、未硫化であるか又は硫化されていてよく、かつ化学的に変性され、及び/又はさらに置換基を含んでよい。アルキルサリチル酸の硫化方法は当業者に周知であり、例えば、US 2007/0027057に記載されている。
アルキル基は、有利には5〜100、好ましくは9〜30、特に14〜24個の炭素原子を含む。
用語「過塩基性」は、一般的に金属部分の当量数と酸部分の当量数の比が1より大きい金属清浄剤を表すために用いられる。用語「低塩基性」は、金属部分と酸部分の当量比が1より大きく、かつ約2までである金属清浄剤を表すために用いられる。
「界面活性剤の過塩基性カルシウム塩」は、油不溶性金属塩の金属カチオンが基本的にカルシウムカチオンである過塩基性清浄剤を意味する。油不溶性金属塩中に少量の他のカチオンが存在してよいが、油不溶性金属塩中のカチオンの典型的に少なくとも80、さらに典型的に少なくとも90、例えば少なくとも95モル%がカルシウムイオンである。カルシウム以外のカチオンは、例えば、過塩基性清浄剤の製造でカチオンがカルシウム以外の金属である界面活性剤塩を使用することから生じ得る。好ましくは、界面活性剤の金属塩もカルシウムである。
炭酸塩化過塩基性金属清浄剤は典型的に非晶質ナノ粒子を含む。さらに、結晶質カルサイト及びバテライト形中にカルボナートを含むナノ粒子材料が開示されている。
清浄剤の塩基性は全塩基価(TBN)として表される。全塩基価は、過塩基性材料の全ての塩基性を中和するのに必要な酸の量である。ASTM規格D2896又は等価手順を用いてTBNを測定することができる。清浄剤は、低TBN(すなわち50未満のTBN)、中TBN(すなわち50〜150のTBN)又は高TBN(すなわち150より高い、例えば150〜500のTBN)を有してよい。
述べたように、組成物1kg当たり40〜90、例えば、50〜85nmolのカルシウムアルキルサリチレートが与えられる(この値は滴定により決定される)。好ましくは、この値は50〜80、さらに好ましくは50〜70nmol/kgの範囲である。
【0017】
線状アルキル置換フェノール(B)
述べたように、フェノールは、組成物の質量の0.1〜10質量%、好ましくは0.1から2.0質量%未満まで、例えば0.1〜1.5質量%を構成する。また、フェノールは、組成物の質量の0.1又は0.25質量%から0.5質量%未満までを構成してよい。フェノールは、0.2又は0.25〜5又は10質量%の範囲で存在してよい。
(B)中のアルキル置換は、例えば9〜30、好ましくは14〜24個の炭素原子を有する直鎖アルキル基による単置換であってよい。
アルキルフェノール(B)の例として、アルキル置換が例えば、2位又は4位にあるアルキルベンゼノールに言及することができる。
本発明の目的では、(A)と(B)を一緒にブレンドすることによって(A)及び(B)を供給してよく、或いは、(A)及び(B)を個々に供給してよい。
【0018】
共添加剤
本発明の潤滑油組成物は、(A)及び(B)とは異なる添加剤を(A)及び(B)に加えてさらに含むことができる。このような追加添加剤としては、例えば、無灰分散剤、他の金属清浄剤、耐摩耗剤、例えば亜鉛ジヒドロカルビルジチオホスファート、酸化防止剤及び解乳化剤が挙げられる。場合によっては、無灰分散剤を供給する必要がない。
必須ではないが、添加剤を含む1以上の添加剤パッケージ又は濃縮物を調製することが望ましく、それによって添加剤(A)及び(B)を同時にベースオイルに添加して潤滑油組成物を形成することができる。溶媒によって及び穏やかに加熱しながら混合することによって添加剤パッケージの潤滑油への溶解を促進することができるが、これは必須ではない。添加剤パッケージは典型的に、所望濃度を与えるのに適した量で添加剤を含み、及び/又は添加剤パッケージを所定量のベース潤滑油と混ぜ合わせるときに最終配合物中で意図した機能を果たすように配合される。従って、本発明の添加剤(A)及び(B)を、少量のベースオイル又は他の適合性溶媒と、他の望ましい添加剤と共に混合して、添加剤パッケージに基づいて、適切な比率で例えば、2.5〜90、好ましくは5〜75、最も好ましくは8〜60質量%の添加剤(残りはベースオイル)を含む添加剤パッケージを形成することができる。
筒形ピストンエンジンオイルとしての最終配合物は典型的に30、好ましくは10〜28、さらに好ましくは12〜24質量%の添加剤パッケージを含み、残りはベースオイルである。筒形ピストンエンジンオイルは、20〜60、例えば、30〜55の組成TBN(ASTM D2896を用いて)を有する。例えば、それは40〜55又は35〜50であってよい。TBNが高い、例えば45〜55の場合、(A)の濃度は、80nmol/kgまでのように高くてよい。TBNがより低い、例えば30〜45未満の場合、(A)の濃度は、70nmol/kgまでのように低くてよい。
【実施例】
【0019】
本発明を下記実施例で例証するが、本発明は如何なる場合もこれらの実施例に限定されない。
成分
下記成分を使用した。
成分(A):3〜6の塩基性度を有する1種以上のカルシウムアルキルサリチレート清浄剤
成分(B):混合2-及び4-(直鎖C16アルキル)ベンゼノール(2:1)
ベースオイルI:溶剤抽出したAPIグループIベースオイル
HFO:重質燃料油(ISO-F-RMK 380)
潤滑油
上記選択成分をブレンドして一連の筒形ピストン船舶用エンジン潤滑油を得た。一部の潤滑油は本発明の実施例であり;他の潤滑油は比較目的の参考例である。試験したそれぞれHFOを含有する場合の潤滑油の組成を下表の表題「結果」に示す。
【0020】
試験
光散乱
アスファルテン凝集、ひいては「ブラックペイント」形成を予測する集束ビーム反射法(「FBRM」)に従って光散乱を利用してアスファルテン分散性(dispersancy)を評価した。
FBRM試験方法は、2005年10月24日〜28日、東京、船舶工学に関する第7回国際シンポジウムで開示され、その会議録中の「種々のベースストックを用いたTPEO適用におけるサリチレート清浄剤の利益(The Benefits of Salicylate Detergents in TPEO Applications with a Variety of Base Stocks)」で公表された。さらなる詳細は2007年5月21日〜24日、ウィーン、CIMAC会議で開示され、その会議録中の「中速船舶用エンジンの潤滑用の新ベース液体の挑戦会議−添加剤アプローチ(Meeting the Challenge of New Base Fluids for the Lubrication of Medium Speed Marine Engines - An Additive Approach)」で公表された。後者の論文では、FBRM法を利用することによって、90%超え又は90%未満の飽和物と、0.03%超え又は0.03%未満のイオウとを含むベースストックに基づいた潤滑系の性能を予測するアスファルテン分散性の定量的結果を得ることができることを開示している。FBRMから得られた相対的性能の予測を船舶用ディーゼルエンジンにおけるエンジン試験によって確認した。
FBRMプローブは光ファイバーケーブルを含み、これを通ってレーザー光が進んでプローブ先端に到達する。その先端で、光学装置がレーザー光を小スポットに集束させる。この光学装置は集束ビームがプローブの窓とサンプルの間の円形通路を走査するように回転する。粒子が窓を流れ過ぎるにつれて、粒子は走査通路と交差し、結果として個々の粒子から逆散乱光が生じる。
【0021】
走査レーザービームは粒子よりずっと速く進み;これは粒子が有効に定常的であることを意味する。集束ビームが粒子の一端に到達すると、逆散乱光の量が増加し;この量は、集束ビームが粒子の他端に到達すると減少するであろう。
この機器は、逆散乱増加の時間を測定する。1つの粒子からの逆散乱の時間に走査速度を掛けると、その結果は距離又はコード長である。コード長は、粒子縁の任意の2つの点間の直線である。これは、コード長寸法(μm)の関数として測定されたコード長(粒子)数のグラフであるコード長分布として表される。測定は実時間で行なわれるので、分布の統計を計算して追跡することができる。FBRMは、典型的に1秒当り何万ものコードを測定するので、ロバストな数×コード長分布をもたらす。この方法は、アスファルテン粒子の粒度分布の絶対的尺度を与える。
集束ビーム反射プローブ(FBRM)、モデルLascentec D600LはMettler Toledo, Leicester, UKにより供給された。この機器を1μm〜1mmの粒径解像度を与えるための構成で使用した。FBRMからのデータはいくつかの方法で提示可能である。研究は、1秒当りの平均カウントをアスファルテン分散性の定量的判定として使用できることを示唆した。この値は、凝集物の平均サイズとレベルの両方の関数である。この出願では、サンプル毎に1秒の測定時間を利用して平均カウント率(全サイズ範囲にわたって)をモニターした。
試験潤滑油配合物を60℃に加熱し、400rpmで撹拌し;温度が60℃に達したとき、FBRMプローブをサンプルに挿入し、15分間測定を行なった。一定分量の重質燃料油(10%w/w)を4枚羽撹拌機を用いて撹拌しながら(400rpmで)潤滑油配合物に導入した。カウント率が平衡値に達したとき(典型的に一晩)、1秒当りの平均カウント値を調べた。
【0022】
結果
光散乱
FBRM試験の結果を下表1、2及び3に要約する。表中、粒子カウントが少ないほど良い性能を示す。
比較例は「Ref」と称し、本発明の実施例は番号のみで示す。
【0023】
表1

【0024】
Ref1、Ref2及びRef3は、高石鹸レベルで、フェノールの存在又は非存在がほとんど性能に影響を及ぼさないことを示す。より低い石鹸レベル(Ref4、1、2;及びRef5、3、4)では、フェノールの非存在は良くない結果を与えるが、フェノールが存在すると80nmol/kg(すなわちRef1、Ref2及びRef3)の結果程度まで性能が回復する。
【0025】
表2

【0026】
Ref6、Ref7、Ref8は、フェノールの非存在下で、石鹸レベルが減少するにつれて性能が低下することを示す。5、6、7は、60nmol/kgという低石鹸レベルで、フェノールの漸進的添加により性能が改善されることを示す。
【0027】
表3
これらの結果は、より高いアスファルテン含量の重質燃料油(それに応じてさらに処理が困難になる)を用いて得られる。
【0028】

【0029】
表2と同様の傾向を示すが、それほど悪化しない。Ref9、Ref10、Ref11は、フェノールの非存在下で、石鹸レベルの減少に伴って性能が低下することを示す。8、9及び10は、60nmol/kgという低石鹸レベルで、フェノールの漸進的添加により性能が部分的に回復することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質燃料油を補給したときのエンジンの運転中に、その使用においてアスファルテンの取扱いを改善するための、20〜60、例えば、30〜55の範囲のTBNの筒形ピストン船舶用エンジン潤滑油組成物であって、多量の、50質量%以上のグループIベースストックを含有する潤滑粘度の油と、それぞれ少量の、下記:
(A)滴定により決定した場合に前記組成物1kg当たり40〜90、例えば、50〜85nmolのカルシウムアルキルサリチレートを与える過塩基性カルシウムアルキルサリチレート清浄剤;及び
(b)前記組成物の質量に基づいて、0.1〜10質量%、例えば0.1から2.0質量%未満まで、例えば0.1〜1.5質量%の活性成分の油溶性線状(直鎖)アルキル置換フェノール
とを含むか又はこれらを混合することによって作られる、前記組成物。
【請求項2】
(A)が、前記組成物1kg当たり50〜80、例えば50〜70nmolのカルシウムアルキルサリチレートを与える、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(B)中のアルキル置換が、9〜30個の炭素原子を含む直鎖アルキル基による単置換である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(B)がアルキルベンゼノールである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ベンゼノール中のアルキル置換が2位又は4位にある、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(B)が前記組成物の質量の0.1質量%、又は0.25質量%から0.5質量%未満までの範囲で存在する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
(B)が前記組成物の質量の0.2質量%、又は0.25質量%から5質量%まで、又は10質量%までの範囲で存在する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
(A)がC9〜C30アルキル置換されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
40〜55、又は35〜50の範囲のTBNを有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
(A)が前記組成物1kg当たり80nmolまでのカルシウムアルキルサリチレートを与える場合に45〜55のTBNを有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
(A)が前記組成物1kg当たり70nmolまでのカルシウムアルキルサリチレートを与える場合に30から45未満までのTBNを有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
重質燃料油含量を伴う、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
筒形ピストン中速圧縮点火船舶用エンジンの運転方法であって、下記工程
(i)エンジンに重質燃料油を補給する工程;及び
(ii)前記エンジンのクランクケースを請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物で潤滑する工程
を含む方法。
【請求項14】
中速圧縮点火船舶用エンジンの燃焼チャンバーの表面のその潤滑及び前記エンジンの運転中にアスファルテンを筒形ピストン船舶用潤滑油組成物中で分散させる方法であって、下記工程
(i)請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物を供給する工程;
(ii)この組成物を燃焼チャンバーに供給する工程;
(iii)重質燃料油を前記燃焼チャンバーに供給する工程;及び
(iv)この重質燃料油を前記燃焼チャンバー内で燃焼させる工程
を含む方法。
【請求項15】
潤滑粘度の油を多量に含み、かつ50質量%以上のグループIベースストックを含有する中速圧縮点火船舶用エンジン用の20〜60、例えば、30〜55の範囲のTBNの筒形ピストン船舶用潤滑油組成物における、重質燃料油を補給した前記エンジンの運転中のアスファルテンの取扱い、及び前記組成物によるその潤滑を改善するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の清浄剤(A)と成分(b)の、請求項1〜12のいずれか1項に記載の量で組み合わせた使用。

【公開番号】特開2013−108081(P2013−108081A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−251928(P2012−251928)
【出願日】平成24年11月16日(2012.11.16)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】