説明

船舶用制御システム、及び船舶

【課題】通信系統の2重系において、製造工程やコストの増大を抑止しつつ、適正に断線状態を検出できる船舶用制御システム、及び船舶を提供する。
【解決手段】船体に、メインリモコン側ECU17、サブリモコン側ECU23の2つを設け、サブリモコン側ECU23はメインリモコン側ECU17を介してエンジン側ECU27と通信する。両リモコン側ECU17,23には、ノード相互間で交信する通信状態確認データが格納された格納バッファ34,35,36を設ける。エンジン側ECU27の断線検知部28はシステム起動と同時に判定を開始し、両リモコン側ECU17,23の断線検知部29,30は他のノードから通信状態確認データを受信した時から判定を開始する。メインリモコンデータ格納バッファ34には通信が異常状態を示すデータを初期値として格納する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進装置及びこの船舶推進装置に操作信号を送信するリモコン装置を有する船舶用制御システム、及び、この船舶用制御システムを備えた船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種のものとしては特許文献1に記載されたようなものがある。即ち、この特許文献1には、船舶本体の外部に、内燃機関と進行用のプロペラなどを備えた船外機が設けられ、船舶本体と船外機との接続部分には、船外機を水平方向に回動させるための転舵モータが設けられ、転舵モータと操船席に設けられた船舶推進機作動手段としてのステアリングとが信号の送受信が可能な通信線によって接続されている。
【0003】
一方、この特許文献1に記載の発明において、一対のノード間で通信を行う通信線を二重化し、1本が断線しても、他の1本で正常に通信を行い障害耐性を高めることも考えられる。
【0004】
このような、船舶の通信線が二重化された技術として想定されるものを図6に示す。同図においては、「船舶推進装置」としての船外機に、この船外機のエンジンを制御するエンジン側ECU(Electric Control Unit、電子制御装置)が設けられると共に、この船舶推進装置に操作信号を送信するリモコン装置にリモコン側ECUが設けられたものを示している。
【0005】
そのエンジン側ECUとリモコン側ECUとは、適切な通信を確保すべく、一対のノードが一対の通信線で接続された二重系の通信経路を形成しており、1本が断線しても、他の1本で正常に通信を行いエンジン制御を行える。
【0006】
そして、さらに安全性を確保するため、1本の通信線が断線したらランプを点灯する等の警告を行い、操船者に知らせると共に、2本とも断線したらエンジンを停止(フェール制御)させて推力の発生を抑止させるようにしている。
【0007】
すなわち、この想定されたネットワークにおいては、エンジン側ECUとリモコン側ECUとが断線を検知するようになっており、図7の(a)に示す通り、システムが起動(メインスイッチがON)された後、同図の(b)に示すように、まず、一方の通信線(CAN Ch1)が「正常」状態から「断線」状態となると、タイムアウト判定時間経過後、Ch1エラー情報が、当該の通信線が異常のない状態であることを示す「なし」から当該通信線に異常が発生し通信不能な状態となったことを示す「あり」へ移行する。すると、システムモードが、二重系の通信経路が双方共異常なしであることを示す「正常」モードから、当該二重系の通信経路のうち一方に異常が発生した状態であることを示す「警告」モードとなり、警告ランプを点灯等させることにより、操船者に二重系の通信経路の一方に断線が発生したことを知らせるようになっている。
【0008】
次に、この想定されたネットワークにおいて、二重系の通信経路の一方が断線したのちに他方の通信線(CAN Ch2)が「正常」モードから「断線」モードとなると、図7の(c)に示す通り、タイムアウト判定時間経過後、Ch2エラー情報が、「なし」から「あり」へ移行する。すると、システム状態が、「警告」状態から二重系の通信経路が双方共通信不能であるときの動作モード、即ち、船舶の適切な航行を確保するための動作モードである「フェール」モードとなり、船舶の適切な航行を確保するための制御としてのフェール制御が行われて、スロットルが全閉状態となる。
【特許文献1】特許第2959044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の発明に基づいて想定された上述のネットワークにあっては、エンジン側ECUとリモコン側ECUとの両者共にシステム起動後の通信状態の変化(電気信号の導通状態の変化や、データの送受信状態の変化など)に基づいて断線を検知するようになっているため、図8に示すような問題が生じることが考えられる。
【0010】
すなわち、上述の想定されたネットワークにおいて、図8の(a)及び(b)に示すように、システムが起動(メインスイッチをON)する前から二重系の通信経路のうち一方の通信線(CAN Ch1)が既に断線している状態を考えると、この一方の通信線はシステムが起動(メインスイッチをON)した後は通信状態の変化が起こらないため断線が検知できず、Ch1エラー情報は「なし」のままである。従って、「警告」モードとならないため、操船者は一方の通信線が断線していることを認識できない。
【0011】
そして、上述の想定されたネットワークにおいて、システム起動後に、一方の通信線が断線した二重系の通信経路において更に他方の通信線(CAN Ch2)が「正常」モードから「断線」モードとなった場合を考えると、タイムアウト判定時間経過後、Ch2エラー情報が、「なし」から「あり」へ移行する。すると、各ECUは、1本目が断線されたと判断し、図8の(c)に示すように、「正常」モードから「警告」モードとなり、警告ランプを点灯等させるのみとなる可能性がある。
【0012】
一方、上述の想定されたネットワークにおいて、エンジン側ECUとリモコン側ECUとをシステム起動時の通信状態に基づいて断線の検出を図ろうとした場合を考えると、一の船体にリモコン側ECUを一つ設ける場合とリモコン側ECUを複数設ける場合とでリモコン側ECUの設定を変える必要が生じうる。即ち、前者の場合、リモコン側ECUはエンジン側ECUのみをノードとして通信を行うので、システム起動時のエンジン側ECUとの通信状態のみを判断すればよいが、後者の場合、少なくとも一のリモコン側ECUは複数のノード(例えば他のリモコン側ECU及びエンジン側ECU)とのシステム起動時の通信状態を判断しなければならない。そのため、一の船体にリモコン側ECUを一台設ける場合とリモコン側ECUを複数台設ける場合とで構成を変える必要が生ずるため、同一のECUを一の船体に一台設けるためのリモコン側ECUと一の船体に複数台設けるためのECUとに併用することが難しくなり、製品化における製造工程やコストが増大するという問題がある。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、通信系統の2重系において、製造工程やコストの増大を抑止しつつ、適正に断線状態を検出できる船舶用制御システム、及び船舶を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、船体に推力を付与するエンジンを有する船舶推進装置に設けられ、該船舶推進装置の駆動状態を制御するエンジン側ECUと、前記船体のメインリモコン装置に設けられて、操船者からの操船命令に基づいて形成された命令信号を、前記エンジン側ECUに送信するメインリモコン側ECUと、前記エンジン側ECU、前記メインリモコン側ECUをそれぞれノードとし、該ノード同士を通信可能に接続する通信線とを備えた船舶用制御システムにおいて、前記エンジン側ECU及び前記メインリモコン側ECUには、それぞれ前記ノード相互間で交信することで該ノード相互間の通信の可否を確認するための通信状態確認データが格納された確認データ格納バッファと、前記通信状態確認データの交信時間を監視すると共に、該監視の結果、所定時間内に前記ノード相互間での前記通信状態確認データの交信が確認できなかった場合に該確認できなかった前記ノード相互間を接続する前記通信線を断線と判定する断線検知手段とが設けられ、前記エンジン側ECUの前記断線検知手段は前記船舶用制御システムの起動と同時に前記判定を開始し、前記メインリモコン側ECUの前記断線検知手段は他の前記ノードから前記通信状態確認データを受信した時から前記判定を開始することを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記メインリモコン装置とは別にサブリモコン装置が設けられ、該サブリモコン装置に設けられたサブリモコン側ECUが前記メインリモコン側ECUに通信線にて接続されることにより、前記サブリモコン側ECUが前記メインリモコン側ECUを介して前記エンジン側ECUに接続されたことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記サブリモコン側ECUに設けられた確認データ格納バッファには、初期状態が前記ノード相互間での通信が異常状態であることを示すデータが前記通信状態確認データとして格納され、前記サブリモコン側ECUに設けられた前記断線検知手段は、他の前記ノードから前記通信状態確認データを受信したときに前記確認データ格納バッファに格納された前記通信状態確認データを通信が正常状態であることを示すデータに書き換えると共に該書き換えた前記通信状態確認データを他の前記ノードに送信することを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の構成に加え、前記メインリモコン側ECU及び前記サブリモコン側ECUには、それぞれ同様な構成の前記確認データ格納バッファ及び前記断線検知手段を有し、前記メインリモコン側ECU及び前記サブリモコン側ECUのそれぞれの前記断線検知手段は、前記確認データ格納バッファに格納された前記データのうち必要な前記データを用いてそれぞれ前記判定を行うことを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の構成に加え、前記各ノード間を接続する通信線はそれぞれ2本ずつ設けられ、前記断線検知手段により前記2本の通信線のうちの1本が断線されたと判定されたときには、前記船舶推進装置の駆動が可能な状態で警告する警告モードとし、前記2本の通信線が2本とも断線されたと判定されたときに、前記船舶推進装置の推力が発生しない状態であるフェールモードとに制御する、動作状態切替手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の構成に加え、前記動作状態切替手段は、前記断線検知手段が前記メインリモコン側ECU及び前記サブリモコン側ECUを接続する前記通信線が起動時に2本断線しているものと判定した際においても、前記フェールモードへの制御を阻止することを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の構成に加え、前記動作状態切替手段は、前記フェールモード時に前記船舶推進装置のスロットルを強制的に全閉状態に移行させると共に前記船舶推進装置のギアを強制的にニュートラル状態に移行させることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明は、船舶であって、請求項1乃至7の何れか一つに記載の船舶用制御システムを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載の発明によれば、エンジン側ECU及びメインリモコン側ECUには、それぞれノード相互間で交信することでノード相互間の通信の可否を確認するための通信状態確認データが格納された確認データ格納バッファと、通信状態確認データの交信時間を監視すると共に、監視の結果、所定時間内にノード相互間での通信状態確認データの交信が確認できなかった場合に確認できなかったノード相互間を接続する通信線を断線と判定する断線検知手段とが設けられ、また、エンジン側ECUの断線検知手段は船舶用制御システムの起動と同時に判定を開始し、メインリモコン側ECUの断線検知手段は他のノードから通信状態確認データを受信した時から判定を開始することにより、エンジン側ECUにおいてメインリモコン側ECUとの通信状態を確実に検出できる。また、メインリモコン側ECUにおいて、操船席側に設けられた他のリモコン側ECUの有無あるいは他のリモコン側ECUの数に関わらず通信線の断線を支障なく判断できて、メインリモコン側ECUを汎用性の高い構成によって形成することができる。これにより、通信系統の2重系において、製造工程やコストの増大を抑止しつつ、適正に断線状態を検出することが可能になる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、メインリモコン装置とは別にサブリモコン装置が設けられ、サブリモコン装置に設けられたサブリモコン側ECUがメインリモコン側ECUに通信線にて接続されることにより、サブリモコン側ECUがメインリモコン側ECUを介してエンジン側ECUに接続されたことにより、リモコン側ECUを複数設け、そのうちの一のリモコン側ECUがエンジン側ECUと直接通信を行い、他のリモコン側ECUはメインリモコン側ECUを介して間接的にエンジン側ECUと通信を行う構成のシステムにおいて、各ノード間で2重系の通信系統に形成した通信線の断線状態を支障なく判断できる。これにより、通信系統の2重系において、製造工程やコストの増大を確実に抑止しつつ、一層適正に断線状態を検出することが可能になる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、サブリモコン側ECUに設けられた確認データ格納バッファには、初期状態がノード相互間での通信が異常状態であることを示すデータが通信状態確認データとして格納され、サブリモコン側ECUに設けられた断線検知手段は、他の前記ノードから通信状態確認データを受信したときに確認データ格納バッファに格納された通信状態確認データを通信が正常状態であることを示すデータに書き換えると共に該書き換えた通信状態確認データを他のノードに送信することにより、サブリモコン側ECUとメインリモコン側ECUとの間に2重系として形成した通信線の断線状況をデータの送信状況のみによって簡易かつ確実に判断し、断線状態を検出できる。これにより、通信系統の2重系において、製造工程やコストの増大を確実に抑止しつつ、一層適正に断線状態を検出することが可能になる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、メインリモコン側ECU及びサブリモコン側ECUには、それぞれ同様な構成の確認データ格納バッファ及び断線検知手段を有し、メインリモコン側ECU及びサブリモコン側ECUのそれぞれの断線検知手段は、確認データ格納バッファに格納されたデータのうち必要なデータを用いてそれぞれ判定を行うことにより、メインリモコン装置とサブリモコン装置とをハードウェア構成面およびソフトウェア構成面において同じ構成として形成しつつ、メインリモコン側ECUとサブリモコン側ECUとの間において2重系に形成した通信線の断線を支障なく判断でき、断線状態を検出できる。これにより、通信系統の2重系において、製造工程やコストの増大を確実に抑止しつつ、一層適正に断線状態を検出することが可能になる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、各ノード間を接続する通信線はそれぞれ2本ずつ設けられ、断線検知手段により2本の通信線のうちの1本が断線されたと判定されたときには、船舶推進装置の駆動が可能な状態で警告する警告モードとし、2本の通信線が2本とも断線されたと判定されたときに、船舶推進装置の推力が発生しない状態であるフェールモードとに制御する、動作状態切替手段を備えたことにより、2重系に形成した通信線において、断線が起きて航行可能な状態においては操船者に注意喚起を促しつつ航行を続行可能とし、断線が起きて航行不能な状態においては船舶が制御不能な状態で推進してしまう事態を防止できて、適正に断線状態を検出した結果に基づいて適切な注意喚起をすると共に適切な動作が行われるようにすることができる。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、動作状態切替手段は、断線検知手段がメインリモコン側ECU及びサブリモコン側ECUを接続する通信線が起動時に2本断線しているものと判定した際においても、フェールモードへの制御を阻止することにより、メインリモコン側ECUとエンジン側ECUとの間で通信可能であって航行可能な状態においてシステムがフェールモードに移行して航行不能になってしまうことを防止できて、適正に断線状態を検出した結果に基づいて必要以上に航行に支障を来たす事態を防止できる。
【0028】
請求項7に記載の発明によれば、動作状態切替手段は、フェールモード時に船舶推進装置のスロットルを強制的に全閉状態に移行させると共に船舶推進装置のギアを強制的にニュートラル状態に移行させることにより、システムがフェールモードに移行した際に船舶推進装置が推力を発生する事態を確実に防ぎ、適正に断線状態を検出した結果に基づいて適切な動作が行われるようにすることができる。
【0029】
請求項8に記載の発明によれば、上記効果を有する船舶用制御システムが搭載された船舶を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0031】
図1乃至図5には、この発明の実施の形態を示す。
【0032】
まず構成を説明すると、この実施の形態の船舶は、図1に示す通り、船体10の船尾に「船舶推進装置」としての船外機11が取り付けられている。この船外機11はプロペラ(図示せず)を回転させて船体10に推力を付与するエンジン(図示せず)、プロペラ軸(図示せず)の回転状態および方向をフォワード、リバース、ニュートラルに変換するギア(図示せず)を備えている。船外機11は、2箇所の操船席(メインステーション12及びサブステーション13)で操船されるようになっている。
【0033】
そのメインステーション12には、図1に示す通り、メインリモコン装置14,図示省略のキースイッチ装置及びハンドル装置が配設されていると共に、サブステーション13にも同様に、サブリモコン装置15,図示省略のキースイッチ装置及びハンドル装置が配設されている。
【0034】
そのメインステーション12のメインリモコン装置14は、図2に示すように、リモコン本体16内にメインリモコン側ECU17が内蔵されると共に、スロットル、シフト操作を行うリモコンレバー18が設けられ、このリモコンレバー18の位置を検出する図示省略の位置センサが設けられ、この位置センサがメインリモコン側ECU17に信号回路を介して接続されている。また、そのメインリモコン側ECU17には、それぞれPTT(パワートリム&チルト)スイッチが信号回路を介して接続されている。
【0035】
また、そのメインリモコン装置14のメインリモコン側ECU17には、前記キースイッチ装置が接続されている。このキースイッチ装置には、始動スイッチ19,メイン/停止スイッチ20及び1押し始動スイッチ21が設けられ、これら始動スイッチ19,メイン/停止スイッチ20及び1押し始動スイッチ21が、そのメインリモコン側ECU17に信号回路を介して接続されている。
【0036】
また、ハンドル装置には、ハンドル側ECU(図示せず)が内蔵されると共に、操舵を行うハンドルが設けられ、このハンドル位置が位置センサにより検出されるようになっており、この位置センサが信号回路を介してハンドル側ECUに接続されている。
【0037】
さらに、このハンドル装置のハンドル側ECUが、前記メインリモコン装置14のメインリモコン側ECU17に2本の通信線(DBWCANケーブル)を介して接続されている。ここで、DBWとは、Drive-By-Wire、即ち機械的な接続によって行っていた操作(例えば船外機11の操舵)を電気的接続で行う操縦装置を言い、又、CANとは、Controller Area Networkの略である。
【0038】
一方、そのサブステーション13のサブリモコン装置15は、前述のメインステーション12側と同様に、リモコン本体22内にサブリモコン側ECU23が内蔵され、リモコンレバー24の位置を検出する位置センサが設けられ、この位置センサがサブリモコン側ECU23に2本の信号回路を介して接続されている。また、そのサブリモコン側ECU23には、それぞれPTT(パワートリム&チルト)スイッチが信号回路を介して接続されている。
【0039】
また、そのサブリモコン装置15のサブリモコン側ECU23には、前記キースイッチ装置が接続されている。このキースイッチ装置には、1押し始動スイッチ25,停止スイッチ26が設けられ、これら1押し始動スイッチ25及び停止スイッチ26が、サブリモコン側ECU23に信号回路を介して接続されている。
【0040】
さらに、そのサブリモコン装置15にメインステーション12側と同様にハンドル装置が接続されている。
【0041】
なお、メインリモコン側ECU17とサブリモコン側ECU23は、ハードウェア構成およびソフトウェア構成としては同一のものとして形成されており、後述するように、両者はハーネス(図示せず)の取付位置のみが相違している。
【0042】
一方、船外機11には、エンジンを制御するエンジン側ECU27が設けられ、このエンジン側ECU27が、メインステーション12のメインリモコン側ECU17に、2系統の2本の通信線a、bを介して接続されている。
【0043】
また、メインステーション12のメインリモコン側ECU17は、サブステーション13のサブリモコン側ECU23に2系統の2本の通信線c,dを介して接続されている。
【0044】
正確には、2本の通信線a,bは、図4に示すように、それぞれが2本ずつの線a1,a2,b1,b2を有し、計4本の線a1,a2,b1,b2を有しているが、線a1,a2、又は、線b1,b2で、それぞれ一つの信号を送信できるようになっているため、図3では、通信線a,bと表示している。なお図4には通信線a,bのみ図示しているが、通信線c,dも同様にそれぞれが2本ずつ、計4本の線を有し、通信線cを構成する2本の線、及び、通信線dを構成する2本の線で、それぞれ一つの信号を送信できるようになっている。
【0045】
そのエンジン側ECU27には、断線検知部28が設けられ、この断線検知部28は、電源がONされると同時に、エラー検出を行い、2本の通信線a,bが断線しているか否か検出するように構成されている。詳しくは、電源ONと同時に、2本の通信線a,bを介してメインリモコン側ECU17から信号が送られて来たか否か検出し、検出できなければ、エラーの判定を行い、断線していると判断するように構成されている。
【0046】
また、そのメインリモコン側ECU17及びサブリモコン側ECU23は、同様の内部構成となっている。すなわち、これら各リモコン側ECU17,23には、「断線検知手段」としての断線検知部29,30が設けられている。この断線検知部29,30は、後述する通信状態確認データの交信時間を監視すると共に、監視の結果、所定時間内にノード相互間での通信状態確認データの交信が確認できなかった場合に確認できなかったノード相互間を接続する通信線a,b,c,dを断線と判定する。
【0047】
この断線検知部29,30は、他のECU27,23,17から信号を一度受信した後、エラー検出を行い、2本の通信線a,b,c,dが断線しているか否か検出するように構成されている。
【0048】
詳しくは、メインリモコン側ECU17の断線検知部29は、システム起動後、一度他のノード(例えばエンジン側ECU27)から信号を受信した後、所定時間内に他の全てのノードであるエンジン側ECU27,サブリモコン側ECU23から信号が送られてきたか否かを検出し、検出できなければ当該ノードと接続された通信線a,b,c,dについてエラーの判定を行い、当該通信線a,b,c,dは断線していると判断するように構成されている。一方、サブリモコン側ECU23はメインリモコン側ECU17から信号が送られて来たか否か検出し、検出できなければ、当該通信線c,dについてエラーの判定を行い、当該通信線c,dは断線していると判断するように構成されている。
【0049】
そのメインリモコン側ECU17の断線検知部29及びサブリモコン側ECU23の断線検知部30には、それぞれ、図3にイメージ図を示すような「確認データ格納バッファ」としての3つの格納バッファ34,35,36が接続されている。これら格納バッファ34,35,36は、メインリモコンデータ格納バッファ34、サブリモコンデータ格納バッファ35、エンジンデータ格納バッファ36であり、これらの格納34,35,36にはノード相互間で交信することでノード相互間の通信の可否を確認するための通信状態確認データが格納されている。通信状態確認データは、「0」「1」の2種類であり、メインリモコンデータ格納バッファ34には、通信線が異常状態であることを示すデータである「1」が初期値として格納されている。なお、断線検知部29,30は、他のノードから所定時間内(例えば1sec以内)にデータを受信すると、当該「1」のデータを、通信線が正常状態であることを示すデータである「0」に書き換える。即ち、当該「1」のデータは、所定時間内にデータを受信できなかったことを示すタイムアウトエラーフラグとしての機能を奏する(詳しくは後述する)。
【0050】
また、サブリモコンデータ格納バッファ35及びエンジンデータ格納バッファ36には、「0」が初期値として格納されている。なお、このデータは通信線の異常状態のときには「1」に書き換えられる。
【0051】
なお図示しないが、エンジン側ECU27には、「確認データ格納バッファ」としてのメインリモコンデータ格納バッファが設けられており、上記格納バッファと同様に、通信線が正常状態であることを示すデータ「0」又は通信線が異常状態であることを示すデータ「1」が通信状態確認データとして格納される。エンジン側ECU27のメインリモコンデータ格納バッファには、「0」が初期値として格納されており、所定時間内にデータを受信できたか否かによって「0」「1」のいずれかに書き換えられる。
【0052】
そして、各リモコン側ECU17,23は、自分がメインリモコン側ECU17か、あるいはサブリモコン側ECU23であるかを、図示省略のハーネスの接続位置により識別する。メインリモコン側ECU17とサブリモコン側ECU23とでは、異なる位置にハーネスが接続されており、システムの起動時にこれらのハーネスに信号が送られ、送られた信号の受信状態によって、自らがメインリモコン側ECU17なのかサブリモコン側ECU23なのかを識別する。
【0053】
この識別の結果、自らがメインリモコン側ECU17であると判断した場合には、該メインリモコン側ECU17はメインリモコンデータ格納バッファ34を使用せず、サブリモコンデータ格納バッファ35、エンジンデータ格納バッファ36を使用してエラー検出を行う。一方、識別の結果、自らがサブリモコン側ECU23であると判断した場合には、該サブリモコン側ECU23はメインリモコンデータ格納バッファ34とエンジンデータ格納バッファ36を使用してエラー検出を行う(図3参照)。
【0054】
メインリモコン側ECU17及びサブリモコン側ECU23には、それぞれ「動作状態切替手段」としての動作状態切替部38,39が設けられている。この動作状態切替部38,39は、一対の通信線a,b又は一対の通信線c,dのうち1本が断線されたと判定されたときに、船外機11の駆動が可能な状態で警告する警告モード(以下「警告モード」と称する。)に制御する。
【0055】
また、エンジン側ECU27には、「動作状態切替手段」としての動作状態切替部37が設けられている。この動作状態切替部37は、一対の通信線a,b又は一対の通信線c,dが2本とも断線されたと判定されたときに、船外機11の推力が発生しない状態であるフェールモード(以下「フェールモード」と称する。)に制御する。
【0056】
メインステーション12には、メインリモコン側ECU17に接続された警告LED40が設けられ、サブステーション13にはサブリモコン側ECU23に接続された警告LED41が設けられている。この警告LED40,41は、一対の通信線a,b又はc,dが警告モードあるいはフェールモードであると判定されたときに点灯し、当該モードであることを操船者等に確認させるためのものである。
【0057】
次に、この実施の形態における動作としての作用について説明する。
<システムの起動とエンジン側ECUにおける判断手順>
【0058】
上記のようにエンジン側ECU27、メインリモコン側ECU17、サブリモコン側ECU23が、2本の通信線a,b及び通信線c,dで接続された状態で、メイン/停止スイッチ20が押下られてシステムが起動(電源をON)すると、メインリモコン側ECU17、サブリモコン側ECU23はハーネス(図示せず)の接続位置により自らがメインサブリモコン側ECU17なのかサブリモコン側ECU23なのかを識別する。識別結果に基づいて、メインリモコン側ECU17は格納バッファ34,35,36のうちエラー検出(断線の判断)に用いる格納バッファを決定する(図3参照)。
【0059】
一方、システム起動と同時にエンジン側ECU27の断線検知部28が作動して、メインリモコン側ECU17との間の2本の通信線a,bが断線しているか否か判断される。
【0060】
システムが起動してから所定時間(例えば1sec)内にメインリモコン側ECU17から信号が送られてこない場合には、断線検知部28は、メインリモコンデータ格納バッファ(図示せず)のデータを「0」からタイムアウトエラーフラグとしての「1」に書き換える。断線検知部28は、このタイムアウトエラーフラグとしての「1」のデータを1度「1」に書き換えたら、システムを終了(電源をOFF)にしない限り「0」に書き換えることはない。
【0061】
メインリモコン側ECU17から信号が通信線a,bを介して受信されないときは、断線検知部28は通信線a,bが断線しているものと判定する。ここで、断線検知部28が通信線2本の通信線a,bのうちいずれか1本が断線していると判定した時には、断線検知部28にて警告モードと判定される。
【0062】
一方、更に他の1本の通信線a又はbも断線した時には、断線検知部28はフェールモードと判定し、動作状態切替部39はこの判定に基づいて船外機11のエンジン(図示せず)のスロットル(図示せず)を強制的に全閉状態に移行させるとともに、ギア(図示せず)を強制的にニュートラル状態に移行させる。ここで、エンジン側ECU27はシステムの起動時の通信状態に基づいて断線を検出するものであるから、システムの起動前に通信線a,bが両方共断線している場合も、システムの起動前は2本の通信線a,bのうち何れか1本が断線しており、その後もう1本が断線した場合であっても、双方の通信線a,bが断線したことを確実に検出できる。
【0063】
これにより、システムを起動(電源をON)した時に、通信線a,bが断線しているか否か、検出することができ、確実にフェールモードとすることができる。
<メインリモコン側ECUにおける判断手順>
【0064】
また、メインリモコン側ECU17においては、エンジン側ECU27、サブリモコン側ECU23から信号を一度受信した後、断線検知部29がエラー検出を開始する。そして、エンジン側ECU27又はサブリモコン側ECU23から信号が所定時間(例えば1sec)送られてこない場合には、断線検知部29は、信号が送られてこないノードについてのサブリモコンデータ格納バッファ35又はエンジンデータ格納バッファ36のデータを「0」からタイムアウトエラーフラグとしての「1」に書き換える。断線検知部29は、このタイムアウトエラーフラグとしての「1」のデータを1度「1」に書き換えたら、システムを終了(電源をOFF)にしない限り「0」に書き換えることはない。
【0065】
断線検知部29が一対の通信線a,bの何れか一方又は2本の通信線c,dの何れか一方について断線があると判定し、警告モードであると判定した場合、断線検知部29はこの判定結果に基づいてメインステーション12の警告LED40を点灯させる。
【0066】
一方、断線検知部29が、2本の通信線c,dの双方が断線しており、フェールモードであると判定した場合、断線検知部29はこの判定結果(各格納バッファ34,35,36において書き換えたデータ)をエンジン側ECU27に送信する。エンジン側ECU27がこの判定結果を受信したとき、動作状態切替部37は、スロットルやギアの強制的な状態の移行を行わせる。
【0067】
なお、上述したように、メインリモコン側ECU17の断線検知部29において、エンジン側ECU27、サブリモコン側ECU23から信号を一度受信した後、エラー検出を開始するようにしているのは、サブリモコン側ECU23が設けられていない船舶の場合には、サブリモコン側ECU23から信号が送られてくることはなく、システムの起動時(電源をONしたとき)の通信状態に基づいて通信線c,dが断線しているか否か検出するようにすると、常に通信線c,dについてエラー検出(断線状態)として誤検出されてしまうからである。そして、システムの起動時(電源をONしたとき)の通信状態に基づいて断線の検出を行うようにすると、サブリモコン側ECU23が設けられているか否かによって、メインリモコン側ECU17の構成を変えなければならなくなり、システムの製造工程やコストが増大することになる。そこで、本実施の形態では、サブリモコン側ECU23の有無に関わらずメインリモコン側ECU17を同一の構成とし、かつ上述の誤検出を防止することを実現するために、信号を一度受信した後、エラー検出を開始するようにしているものである。
<サブリモコン側ECUにおける判断手順>
【0068】
さらに、サブリモコン側ECU23では、メインリモコン側ECU17から信号を受信すると、断線検知部30がエラー検出を開始する。メインリモコン側ECU17から所定時間(例えば1sec)内に信号が送られてきた場合、断線検知部30は通信状態が正常状態であると判断し、メインリモコンデータ格納バッファ34のデータを「1」から「0」に書き換える。このデータの書き換えが完了した後に通信線c,dの一方又は双方が断線したときには、サブリモコン側ECU23においては、ある周期時間でメインリモコン側ECU17から受信していたデータを受信できなくなる。このとき断線検知部30は、データを受信できなくなってから所定時間(例えば1sec)経過後、タイムアウトエラーとして通信エラーを検出する。断線検知部30は、このタイムアウトエラーフラグとしての「1」のデータを1度「1」に書き換えたら、システムを終了(電源をOFF)にしない限り「0」に書き換えることはない。
【0069】
さらにまた、サブリモコン側ECU23とメインリモコン側ECU17との間の通信線cまたは通信線dのうちいずれか一方がシステムを起動(電源をON)した状態で断線している場合には、サブリモコン側ECU23にはメインリモコン側ECU17からデータが送信されてこないため、メインリモコンデータ格納バッファ34のデータは所定時間経過後も初期値の「1」のままである。従ってこの場合、断線検知部30は通信線cまたは通信線dのうちいずれか一方が断線状態であると判定し、メインリモコンデータ格納バッファ34のデータを「0」からタイムアウトエラーフラグとしての「1」に書き換える。
【0070】
このように、システムの起動(電源をON)前に、メインリモコンデータ格納バッファ34に格納されたデータの初期値を、通信状態が異常状態であることを示すデータである「1」としておくことにより、システム起動時に、サブリモコン側ECU23とメインリモコン側ECU17と間の通信線a,bが既に断線している場合でも、この断線状態を検出できる。
【0071】
ここで、サブリモコン側ECU23とメインリモコン側ECU17と間の2本の通信線c,dが断線している場合でも、断線検知部30は、フェールモードとは判定しない。これは、メインリモコン側ECU17とエンジン側ECU27との間の2本の通信線a,bが断線していなければ航行可能であり、フェールモードとする必要がないからである。そして、断線検知部30が2本の通信線c,dの一方又は双方が断線していると判定した場合、断線検知部30は警告モードと判定し、動作状態切替部39はこの判定結果をメインリモコン側ECU17を介してエンジン側ECU27に送信する。エンジン側ECU27がこの判定結果を受信したとき、動作状態切替部39は、この判定に基づいてメインステーション12の警告LED40、及びサブステーション13の警告LED41を点灯させる。
<一対の信号線の断線状態と断線検知後の操作>
【0072】
因みに、エンジン側ECU27とメインリモコン側ECU17間は、例えば図4に示すように、正確には、2本の通信線a,bのそれぞれが2本ずつの線a1,a2,b1,b2を有し、計4本の線a1,a2,b1,b2を有しており、線a1がHI線,a2がLOW線、又は、線b1がHI線,b2がLOW線となっており、そして、図4に示すように、HI線とLOW線との間の電位差により、「1」と「0」を区別し、ディジタル信号をビット列として交信している。
【0073】
そして、断線検知部28,29が、通信線a又はbの一方のみの、HI線とLOW線との両方又は片側が断線していると判定した場合、他方即ち断線していない側の通信線a又はbにおいてはHI線とLOW線の組み合わせ(例えばHI線a1とLOW線a2の組み合わせ)によってビット列を正しく通信できる。従ってこの場合、断線検知部28,29は警告モードであるものと判定する。
【0074】
一方、通信線aのHI線とLOW線の何れかが断線していると共に、通信線bのHI線とLOW線の何れかが断線している場合(例えばHI線a1とLOW線
b2とが断線している場合、あるいはHI線a2とLOW線b1が断線している場合)、「1」の大きさは通信状態が正常状態であるときの半分の大きさになってしまい、正しいデータ通信ができない。従ってこの場合、断線検知部28,29はフェールモードであるものと判定する。
【0075】
さらに、4本の線a1,a2,b1,b2の全てが断線している場合には、当然どの線を用いてもデータ通信はできないため、断線検知部28,29はフェールモードであるものと判定する。
<バスオフとその対策>
【0076】
また、図5に示すように、一のHI線例えばa1が断線した状態において、「1」の値の電位差が正しく検出されなくなるため、断線検知部28や断線検知部29はビットエラーを検出する。ビットエラーを検出したエンジン側ECU27やメインリモコン側ECU17においては、通信を強制的に終了させるバスオフ(以下単に「バスオフ」と称する。)の状態となる。特定時(t1)にバスオフの状態になったエンジン側ECU27やメインリモコン側ECU17は、図 の(a)に示すようにパルス状の信号であるバスオフ信号s3を連続して出力し、通信線a2等にこのバスオフ信号s3が流れる。ここで、バスオフの状態になったのち、更に特定時(t2)にLOW線が断線すると、通信自体が完全に行われなくなる。このため、エンジン側ECU27やメインリモコン側ECU17においてビットエラー自体も検出しなくなるため、特定時(t2)以降、バスオフ信号s3は発生しなくなる。
【0077】
一方、そのHI線の断線時にはデータが来なくなるため、図5の(c)に示すようにタイムアウトエラーカウンタのカウントが開始し、所定時間(1sec)後、図5の(b)に示すようにタイムアウトエラー(実線部)が発生して1のパルス状の信号であるタイムアウトエラーフラグs1が発生するが、バスオフ信号s3のパルスがリセットされると、直ちにエラーフラグが落ちてしまい、以後はエラー信号(s1)発生前の低レベルの平坦な信号が持続する。
【0078】
そして、HI線だけが断線している時(t1からt2まで)はエラーが生じているので、エラー状態に連動して断線検知部28,29等は警告モードと判定するが、更にLOW線が断線すると、バスオフ信号s3が発生しなくなるため、断線検知部28,29等は警告モード、フェールセーフモード等の判定をすることができず、通常制御をしてしまう。
【0079】
そこで、ここでは、上記のように、タイムアウトエラーフラグは、図5の(b)のs2(点線部)に示すように、1度「1」になったら電源をOFFにしない限り「0」にならないような信号状態として制御することで、HI線が断線した後にLOW線が断線した場合でも、断線検知部28,29等はエラー状態の認識を継続させることができる。
【0080】
以上、この実施の形態においては、メインリモコン側ECU17には、ノード相互間で交信することでノード相互間の通信の可否を確認するための通信状態確認データが格納された格納バッファ34,35,36を設け、エンジン側ECU27にも同様の格納バッファ(図示せず)を設け、それぞれ通信状態確認データの交信時間を監視すると共に、監視の結果、所定時間内にノード相互間での通信状態確認データの交信が確認できなかった場合に確認できなかったノード相互間を接続する通信線を断線と判定する断線検知部28,29が設けられ、また、エンジン側ECU27の断線検知部28は船舶用制御システムの起動と同時に判定を開始し、メインリモコン側ECU17の断線検知部29は他のノードから通信状態確認データを受信した時から判定を開始することにより、エンジン側ECU27においてメインリモコン側ECU17との通信状態を確実に検出できる。また、メインリモコン側ECU17において、操船席側に設けられた他のリモコン側ECUの有無あるいは他のリモコン側ECUの数に関わらず通信線の断線を支障なく判断できて、メインリモコン側ECU17を汎用性の高い構成によって形成することができる。
【0081】
この実施の形態によれば、メインリモコン装置14とは別にサブリモコン装置15が設けられ、サブリモコン装置15に設けられたサブリモコン側ECU23がメインリモコン側ECU17に通信線にて接続されることにより、サブリモコン側ECU23がメインリモコン側ECU17を介してエンジン側ECU27に接続されたことにより、リモコン側ECUを複数設け、そのうちの一のリモコン側ECUであるメインリモコン側ECU17がエンジン側ECU27と直接通信を行い、他のリモコン側ECUであるサブリモコン側ECU23はメインリモコン側ECU17を介して間接的にエンジン側ECU27と通信を行う構成のシステムにおいて、各ノード間で2重系の通信系統に形成した通信線a,b又は通信線c,dの断線状態を支障なく判断できる。
【0082】
この実施の形態によれば、サブリモコン側ECU23に設けられたメインリモコンデータ格納バッファ34には、初期状態がノード相互間での通信が異常状態であることを示すデータ「1」が通信状態確認データとして格納され、サブリモコン側ECU23に設けられた断線検知部30は、他のノードであるメインリモコン側ECU17から通信状態確認データを受信したときに確認データ格納バッファに格納された通信状態確認データを通信が正常状態であることを示すデータ「0」に書き換えると共に該書き換えた通信状態確認データ「0」を他のノードであるメインリモコン側ECU17に送信することにより、サブリモコン側ECU23とメインリモコン側ECU17との間に2重系として形成した通信線c,dの断線状況をデータの送信状況のみによって簡易かつ確実に判断し、断線状態を検出できる。
【0083】
この実施の形態によれば、メインリモコン側ECU17及びサブリモコン側ECU23には、それぞれ同様な構成のメインリモコンデータ格納バッファ34、サブリモコンデータ格納バッファ35、エンジンデータ格納バッファ36及び断線検知部29,30を有し、メインリモコン側ECU17及びサブリモコン側ECU23のそれぞれの断線検知部29,30は、各格納バッファ34,35,36に格納されたデータのうち必要なデータを用いてそれぞれ判定を行うことにより、メインリモコン側ECU17とサブリモコン側ECU23とをハードウェア構成面およびソフトウェア構成面において同じ構成として形成しつつ、メインリモコン側ECU17とサブリモコン側ECU23との間において2重系に形成した通信線の断線を支障なく判断でき、断線状態を検出できる。
【0084】
この実施の形態によれば、各ノード間を接続する通信線a,b及び通信線c,dはそれぞれ2本ずつ設けられ、断線検知手段により2本の通信線のうちの1本が断線されたと判定されたときには、船舶推進装置の駆動が可能な状態で警告する警告モードとし、2本の通信線が2本とも断線されたと判定されたときに、船舶推進装置の推力が発生しない状態であるフェールモードとに制御する、動作状態切替部37,38,39を備えたことにより、2重系に形成した通信線a,b又は通信線c,dにおいて、断線が起きて航行可能な状態においては操船者に注意喚起を促しつつ航行を続行可能とし、断線が起きて航行不能な状態においては船舶が制御不能な状態で推進してしまう事態を防止できる。
【0085】
この実施の形態によれば、動作状態切替部37,38,39は、断線検知部30がメインリモコン側ECU17及びサブリモコン側ECU23を接続する通信線c,dが起動時に2本断線しているものと判定した際においても、フェールモードへの制御を阻止することにより、メインリモコン側ECU17とエンジン側ECU27との間で通信可能であって航行可能な状態においてシステムがフェールモードに移行して航行不能になってしまうことを防止できて、適正に断線状態を検出した結果に基づいて必要以上に航行に支障を来たす事態を防止できる。
【0086】
この実施の形態によれば、動作状態切替部37,38,39は、フェールモード時に船外機11のスロットルを強制的に全閉状態に移行させると共に船外機11のギアを強制的にニュートラル状態に移行させることにより、システムがフェールモードに移行した際に船外機11が推力を発生する事態を確実に防ぐことができる。
【0087】
なお、この実施の形態においては、船舶推進装置は船外機11としたが、船内機、船内外機等であってもよい。
【0088】
上記実施の形態は本発明の例示であり、本発明が上記実施の形態のみに限定されることを意味するものではないことは、いうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】この発明の実施の形態に係る船舶の概略図である。
【図2】同実施の形態に係る船舶のネットワーク構成を示す概略図である。
【図3】同実施の形態に係る船舶のネットワーク構成及びメインリモコン側ECU、サブリモコン側ECUに接続された3つの格納バッファのイメージ図である。
【図4】同実施の形態に係る船舶のエンジン側ECUとメインリモコン側ECUを接続する通信線の詳細を示すイメージ図である。
【図5】同実施の形態に係る船舶における(a)バスオフ時の信号状態を示すイメージ図、(b)従来のタイムアウトエラーフラグのイメージ図と本実施の形態のタイムアウトエラーフラグのイメージ図、(c)タイムアウトエラーカウンタのカウントの信号のイメージ図である。
【図6】一対のノード間で通信を行う通信線を二重化した構成として想定されるもののイメージ図である。
【図7】通信線を二重化したネットワークとして想定されるものにおける(a)システムの起動状態、(b)ネットワークの状態、(c)通信線の断線に伴うシステムの状態として考えられるものを示すタイムチャートである。
【図8】通信線を二重化したネットワークとして想定されるものにおける(a)システムの起動状態、(b)ネットワークの状態、(c)通信線の断線に伴うシステムの状態として考えられるものを示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0090】
10 船体
11 船外機(船舶推進装置)
14 メインリモコン装置
15 サブリモコン装置
17 メインリモコン側ECU
23 サブリモコン側ECU
27 エンジン側ECU
28,29,30 断線検知部(断線検知手段)
34 メインリモコンデータ格納バッファ(確認データ格納バッファ)
35 サブリモコンデータ格納バッファ(確認データ格納バッファ)
36 エンジンデータ格納バッファ(確認データ格納バッファ)
37,38,39 動作状態切替部(動作状態切替手段)
a,a1,a2,b,b1,b2,c,d 信号線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に推力を付与するエンジンを有する船舶推進装置に設けられ、該船舶推進装置の駆動状態を制御するエンジン側ECUと、
前記船体のメインリモコン装置に設けられて、操船者からの操船命令に基づいて形成された命令信号を、前記エンジン側ECUに送信するメインリモコン側ECUと、
前記エンジン側ECU、前記メインリモコン側ECUをそれぞれノードとし、該ノード同士を通信可能に接続する通信線とを備えた船舶用制御システムにおいて、
前記エンジン側ECU及び前記メインリモコン側ECUには、それぞれ前記ノード相互間で交信することで該ノード相互間の通信の可否を確認するための通信状態確認データが格納された確認データ格納バッファと、
前記通信状態確認データの交信時間を監視すると共に、該監視の結果、所定時間内に前記ノード相互間での前記通信状態確認データの交信が確認できなかった場合に該確認できなかった前記ノード相互間を接続する前記通信線を断線と判定する断線検知手段とが設けられ、
前記エンジン側ECUの前記断線検知手段は前記船舶用制御システムの起動と同時に前記判定を開始し、前記メインリモコン側ECUの前記断線検知手段は他の前記ノードから前記通信状態確認データを受信した時から前記判定を開始することを特徴とする船舶用制御システム。
【請求項2】
前記メインリモコン装置とは別にサブリモコン装置が設けられ、該サブリモコン装置に設けられたサブリモコン側ECUが前記メインリモコン側ECUに通信線にて接続されることにより、前記サブリモコン側ECUが前記メインリモコン側ECUを介して前記エンジン側ECUに接続されたことを特徴とする請求項1に記載の船舶用制御システム。
【請求項3】
前記サブリモコン側ECUに設けられた確認データ格納バッファには、初期状態が前記ノード相互間での通信が異常状態であることを示すデータが前記通信状態確認データとして格納され、
前記サブリモコン側ECUに設けられた前記断線検知手段は、他の前記ノードから前記通信状態確認データを受信したときに前記確認データ格納バッファに格納された前記通信状態確認データを通信が正常状態であることを示すデータに書き換えると共に該書き換えた前記通信状態確認データを他の前記ノードに送信することを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶用制御システム。
【請求項4】
前記メインリモコン側ECU及び前記サブリモコン側ECUには、それぞれ同様な構成の前記確認データ格納バッファ及び前記断線検知手段を有し、前記メインリモコン側ECU及び前記サブリモコン側ECUのそれぞれの前記断線検知手段は、前記確認データ格納バッファに格納された前記データのうち必要な前記データを用いてそれぞれ前記判定を行うことを特徴とする請求項3に記載の船舶用制御システム。
【請求項5】
前記各ノード間を接続する通信線はそれぞれ2本ずつ設けられ、
前記断線検知手段により前記2本の通信線のうちの1本が断線されたと判定されたときには、前記船舶推進装置の駆動が可能な状態で警告する警告モードとし、前記2本の通信線が2本とも断線されたと判定されたときに、前記船舶推進装置の推力が発生しない状態であるフェールモードとに制御する、動作状態切替手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の船舶用制御システム。
【請求項6】
前記動作状態切替手段は、前記断線検知手段が前記メインリモコン側ECU及び前記サブリモコン側ECUを接続する前記通信線が起動時に2本断線しているものと判定した際においても、前記フェールモードへの制御を阻止することを特徴とする請求項5に記載の船舶用制御システム。
【請求項7】
前記動作状態切替手段は、前記フェールモード時に前記船舶推進装置のスロットルを強制的に全閉状態に移行させると共に前記船舶推進装置のギアを強制的にニュートラル状態に移行させることを特徴とする請求項5又は6に記載の船舶用制御システム。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一つに記載の船舶用制御システムを備えたことを特徴とする船舶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−273365(P2008−273365A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118521(P2007−118521)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】