説明

良好な耐候性および耐亀裂性を有する高耐擦過性コーティング

本発明は、表面付近のコーティング領域(K1)および体積コーティング領域(K2)からなる少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)に関し、このコーティングは少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤から得られ、成分(D1)の少なくとも一部は少なくとも1つの表面活性構造単位を含む。本発明は:i)コーティングが領域(K1)および領域(K2)のどちらにおいても少なくとも部分的に架橋され、(ii)領域(K1)におけるコーティングの架橋密度は領域(K2)におけるコーティングの架橋密度よりも高いことを特徴とする。本発明はさらに、成分(D1)の濃度が表面付近のコーティング領域(K1)において体積コーティング領域(K2)よりも高く、コーティング(K)の微小貫入硬度および/または乾燥耐擦過性が、架橋性成分(D1)を含まないコーティング剤から得られる、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K’)の微小貫入硬度および/または乾燥耐擦過性よりも高いことを特徴とするコーティング(K)にも関する。本発明はさらに、透明コーティングが本発明のコーティングからなる多層ラッカーに関し、また少なくとも部分的に架橋したコーティングの特性を制御する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐擦過性であり、同時に良好な耐候性および耐亀裂性を示す、少なくとも部分的に架橋したコーティング、ならびに架橋したコーティングの特性を制御する方法に関する。
【0002】
背景技術
WO05/028550は、機能性ポリマーを開示し、このポリマーは第1の表面活性セグメントおよび、機能性ポリマーの望ましい特性をもたらす第2の機能性セグメントを有する。これらの機能性ポリマーを未修飾熱可塑性バルクポリマーとブレンドし、結果として得られたブレンドを用いて、成形品もしくは類似の物品を製造するか、またはコーティングを製造して、得られた物品またはコーティングの表面の特性に対して目的の制御を行う。しかし、目的の表面特性を有するコーティングを得るために塗布後にのみ架橋されるコーティング剤の個々のフィルム形成成分の表面活性修飾は、WO05/028550には記載されていない。
【0003】
さらに、WO05/028550に記載されている機能性ポリマーは生物学的または医学的用途、たとえば化粧品用、手袋、衣類、医療機器等の殺菌処理用、またはエアーフィルター等の殺菌仕上げ処理用、ならびに診断チップの製造用(チップの生物活性表面処理による)に用いられる。
【0004】
この説明は、アルコキシシラン官能性表面活性成形品およびコーティングの説明を包含し、ここでは、場合によりアルコキシシラン基を有するポリマー添加剤でバルクポリマーを処理する。これらの場合におけるアルコキシシラン基の硬化は、長時間の水分処理または水性酸での処理による。この処理は、プラスチック成形品の分野では典型的であるが、相当の追加費用および自動車仕上げ処理の分野での不都合を伴い、したがって望ましくない。さらに、自動車仕上げ処理の分野において典型的に用いられるクリアコート材料は一般的に、必要とされる水性酸と不適合性であり、このことはWO05/028550に記載されている機能性コーティングを自動車仕上げ処理の分野に移行させることは不可能であることを意味する。
【0005】
さらに、未公開米国特許(出願番号11/227,867、2005年9月15日)は、二量体脂肪酸ジオールのイソシアナートアルキルトリアルコキシシランとの反応生成物(I)を含むコーティング剤を記載している。
【0006】
これらのコーティング剤を用いて得られるコーティングの独自の特徴は、非常に高い光沢である。コーティング剤中の二量体脂肪酸ジオールのイソシアナートアルキルトリアルコキシシランとの反応生成物(I)の割合が増加するにつれ、メチルエチルケトンで2回こすることにより測定されるような硬度および溶媒耐性は減少する。しかし、自動車仕上げ処理の分野において、改善された硬度および耐性を有し、したがって改善された耐擦過性を有するコーティングの需要が増加している。
【0007】
EP−B−1295914は、さらに、改善された撥油性および撥水性効果を特徴とするコーティング剤を開示し、これらの組成物は、アルコキシシリル官能性アクリル樹脂、アルコキシシリル基および第2ジメチルポリシロキサン鎖を含むアクリル樹脂、ヒドロキシルおよびエポキシ官能性アクリル樹脂、ならびに高い酸価を有するポリエステル樹脂を含む。しかし、アルコキシシラン基を有するポリ(メタ)アクリレートの比較的広い分子量分布のために、クリアコート材料において一般的には50質量%未満の固体含量のみ実現可能である。さらに高い割合では、コーティング材料はそれらの高い粘度のために加工するのが困難である。さらに、硬化に際して、望ましいSi−O−Siノードと競合して、−Si(O−アルキル)3−基の隣接するアルキル(メタ)アクリレートコモノマー単位のエステル単位とのエステル交換の結果として、Si−O−Cノードが形成される可能性があり、このSi−O−Cノードは加水分解に不安定であり、結果として得られるコーティングの一部での耐薬品性の低下につながる。頑強なOEM−クリアコート材料はできるだけ高い耐候性を有する必要があるので、ポリ(メタ)アクリレートネットワークはポリウレタンネットワークと比較して低下した耐候性を示すことが懸念される。
【0008】
しかし、この特許は、表面付近の層とバルクにおけるコーティングの架橋度の差、架橋度の差によるコーティングの特性の制御のどちらも記載していない。
【0009】
EP−B−1204701は、ナノ粒子とともに表面活性物質を含み、これによりコーティングにおいて表面でナノ粒子の蓄積が起こり、コーティングの一部上で改善された耐擦過性が得られるコーティング剤を記載している。このような構造の程度は、表面上のビーズ鎖と同様に、通常低い。
【0010】
しかし、微粒子間の非常に強力な相互作用のために、そして粒子の通常は不完全な安定化のために、粒子が凝集することがたびたびあり、したがって結果として得られるコーティングの平滑化および外観に対する悪影響がある。さらに、広範囲のプロセッシングウインドウを保証し、回路線において起こり得る堆積を回避するために、粒子の非常に有効な安定化が必要である。最後に記載した刊行物も、表面付近の層およびバルクにおけるコーティングの架橋度の差、または架橋度の差によるコーティングの特性の制御のいずれかを記載していない。
【0011】
さらに、DE102004050747A1および未公開のドイツ国特許出願DE P102005045228.0−44は、アルコキシシラン官能基を有する付加物を含むコーティング剤を開示している。この特許に記載されているコーティング剤を、適切であれば少量の水の存在下、好適な触媒を用いて硬化させて、Si−O−Siネットワークを形成する。コーティング剤の用途の1つは、OEMシステムにおけるクリアコートとしての用途である。これらは非常に高い耐擦過性を有するコーティングをもたらすが、風化安定性に関して、そして亀裂に関してさらなる改善を必要とすることが多い。さらなる欠点は、これらのコーティング剤中に明らかに多量に含まれるアルコキシシラン官能基を有する付加物の価格が高いことである。
【0012】
さらに、WO01/98393は、アルミニウム基体に対する改善された接着性を特徴とし、ヒドロキシル含有バインダーおよびイソシアナート含有クロスリンカーだけでなく、少なくとも2つのイソシアネート基を有するシランオリゴマー(B)を必須成分として含むコーティング剤を開示し、前記オリゴマー(B)は、イソシアネート官能性化合物(A)と、少なくとも1つのアルコキシシラン官能基とイソシアネート基に対して反応性である少なくとも1つの基とを含むカップリング剤(X)との反応生成物である。
【0013】
シランオリゴマー(B)の表面活性成分での修飾は、この刊行物には記載されていない。したがって、WO01/98393に記載されているコーティングは架橋度が増加した領域を有し得るが、フィルム形成成分の少なくとも1つの表面修飾がないことは、架橋度が増加したこれらの領域は全体としてコーティングにわたってランダムに分布し、この特許が記載するコーティングの場合は、このような架橋度の差により目的とするコーティングの制御は不可能であることを意味する。
【0014】
さらに、US2006−0217472A1は、ヒドロキシル含有バインダー、イソシアネート基含有クロスリンカーおよびOH/NCO反応の金属触媒を含むコーティング剤を用い、これらにアミノシラン、例えばビス(3−プロピルトリメトキシシリル)アミン、またはイソシアネートとのその反応生成物を添加することにより、ポリウレタン系コーティングの耐擦過性を改善できることを開示している。しかし、アミノシランの表面活性成分での修飾は、US2006−0217472A1に記載されておらず、表面付近の層およびバルクにおけるコーティングの架橋度の差以外のものも記載されていない。
【0015】
最後に、WO01/09260は、少なくとも1つの反応基を有するポリシロキサン(a)、ポリシロキサンの反応基と反応性である少なくとも1つの基を有する化合物(b)、および適切であれば、粒子(C)を含み、さらに別の構成成分も含むコーティング剤を開示している。したがって硬度反応において、ポリシロキサンは化合物(b)とSi−O−Siネットワークを形成しない。
【0016】
この文書も、表面付近の層およびバルクにおけるコーティングの架橋度における差、ならびに架橋度におけるこれらの差によりコーティングの特性を制御することを記載していない。
【0017】
課題
したがって、本発明が取り組む課題は、結果として得られるコーティングの性質を目的とする方法で設定することを可能にするコーティング剤を提供することである。有利には、これらのコーティング剤により、下層の体積要素(バルク)においてコーティングの特性と少なくとも1つの特性がその表面で異なるコーティングを生成させることが可能なはずである。
【0018】
具体的な目的は、高い微小貫入硬度および高い耐擦過性、特に公知のように典型的にはクロックメーター試験により決定される、高い乾燥耐擦過性を有するコーティングをもたらすコーティング剤を得ることである。同時に、これらのコーティングは風化安定性の高いネットワークをもたらすはずである。さらに、コーティング剤は自動車量産塗装の分野において典型的に課せられる要件を満たすはずである。コーティング剤はしたがって良好なヘイズを特に示し、すなわちヘイズがなく、良好な平滑化を示し、非常に良好な全体的外観を示すはずである。最後に、望ましい特性は可能な限り安価に得られるべきである。
【0019】
課題の解決
この課題は意外にも
1.表面付近のコーティング領域(K1)および
2.体積コーティング領域(K2)
からなる少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)により解決される。ここで、コーティング(K)は少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤(B)から得ることができ、成分(D1)の少なくとも一部は1以上の表面活性な構造単位(O)を有し、ここで
(i)領域(K1)および領域(K2)の両方におけるコーティングは少なくとも部分的に架橋し、
(ii)表面付近のコーティング領域(K1)におけるコーティングの架橋密度は
体積コーティング領域(K2)におけるコーティングの架橋密度よりも高い。
【0020】
本発明はさらに、
1.表面付近のコーティング領域(K1)および
2.体積コーティング領域(K2)
からなる、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)に関し、ここで
(I)少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤(B)から得ることができ、成分(D1)の少なくとも一部は1以上の表面活性な構造単位(O)を有し、
(II)表面付近コーティング領域(K1)における成分(D1)の濃度は、体積コーティング領域(K2)よりも高く、
少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)の微小貫入硬度および/または乾燥耐擦過性は、架橋性成分(D1)を含まないコーティング剤(B)から得られる少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)の微小貫入硬度および/または乾燥耐擦過性よりも高い。
【0021】
本発明はまた、透明コーティングが本発明のコーティングである、効果付与及び/又は色付与性の多層塗装系、ならびにこれらの多層塗装系の製造法も提供する。
【0022】
最後に、本発明はまた、少なくとも部分的に架橋したコーティングの特性を制御する方法に関し、ここで、コーティング(K)は表面付近コーティング領域(K1)および体積コーティング領域(K2)からなり、コーティング(K)を、少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤(B)から製造し、成分(D1)の少なくとも一部は1以上の表面活性な構造単位(O)を有し、ここで
(i)成分(D1)から形成されるネットワーク(N1)の架橋密度は、成分(D2)から形成されるネットワーク(N2)の架橋密度よりも高く、
(ii)コーティングの特性を、成分(D1)から形成されるネットワーク(N1)の架橋密度の、成分(D2)から形成されるネットワーク(N2)の架橋密度に対する比により制御する。
【0023】
発明の利点
少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含み、成分(D1)の少なくとも一部が1以上の表面活性な構造単位(O)を有するコーティング剤を提供することにより、成分(D1)によって、また表面付近領域(K1)におけるコーティングの架橋密度の体積コーティング領域(K2)におけるコーティングの架橋密度に対する比によって、目的とする方法で、結果として得られるコーティングの特性を制御することが可能になるということは、意外であり、かつ予見できなかった。表面付近のコーティング領域(K1)は、特に少なくとも部分的に架橋した成分(D1)により実質的に形成され、体積コーティング領域(K2)は、少なくとも部分的に架橋した成分(D2)により実質的に形成される。さらに、本発明によると、成分(D1)から形成されるネットワーク(N1)の架橋密度は、成分(D2)から形成されるネットワーク(N2)の架橋密度よりも高い。その結果、耐擦過性、特に乾燥耐擦過性として知られ、典型的にはクロックメーター試験において決定されるものを改善すること、および/またはコーティングの硬度を改善すること、そして同時に高い耐候性および耐亀裂性を改善することが可能である。さらに、結果として得られるコーティングは非常に良好な全体的な外観を示し、ヘイズを示さない。最後に、コーティングは自動車量産塗装の分野において典型的にクリアコートに課せられる要件を満たす。
【0024】
発明の詳細な説明
少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)
少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)は、図1に示すように、表面付近コーティング領域(K1)および体積コーティング領域(K2)から構成される。前記図1において、(KO)は、基体から、またはコーティング(K)の下に位置する着色層(P)から離れた方に向いているコーティング(K)の面を表す。
【0025】
後述の表面付近コーティング領域(K1)は、一般的に基体に対して、またはコーティング剤(B)が塗布される着色層(P)に対して平行であり、コーティングの空気に接している面(すなわち基体から離れた面)を形成する、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)の一部である。
【0026】
後述の体積コーティング領域(K2)は、一般的に表面付近コーティング領域の下に広がり、一般的に基体または着色層(P)に対して同様に平行である、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)の一部である。
【0027】
表面付近コーティング領域(K1)の層厚さは、典型的には1nmから500nmの間、好ましくは10nmから200nmの間、さらに好ましくは10nmから100nmの間、非常に好ましくは10nmから50nmの間であり、および/または表面付近コーティング領域(K1)の乾燥フィルム層厚の、体積コーティング領域(K2)の乾燥フィルム層厚に対する比は、0.1未満、好ましくは0.01未満、さらに好ましくは0.005未満である。
【0028】
コーティング(K)が表面付近コーティング領域(K1)だけでなく体積コーティング領域(K2)においても少なくとも部分的に架橋していることが、本発明にとって必須である。
【0029】
「少なくとも部分的に架橋した」という表現は、コーティング剤(B)の架橋性成分が少なくとも部分的に架橋した形態であることを意味する。本明細書における架橋度は、コーティングの最終用途および選択された架橋性成分に応じて変化し得る。典型的には、架橋度は5から100%の間、好ましくは35から100%の間、さらに好ましくは50〜100%の間であり、100%の架橋度とは完全な架橋を意味する。しかし、85%以下の架橋度が望ましいか、または85%以下しか達成可能でない。
【0030】
本明細書における架橋度は、当業者に公知の様々な方法、たとえばDMTA測定(DMTA=動的機械的熱分析)を用いて決定できる。動的機械的熱分析はコーティングの粘弾性を決定するための広く知られた測定法であり、たとえばMurayama,T.,Dynamic Mechanical Analysis of Polymerie Material,Elsevier,New York,1978およびLoren W. Hill,Journal of Coatings Technology,Vol.64,No.808,May 1992,pages 31 to 33に記載されている。
【0031】
測定は、たとえばRheometrics Scientific DMTA V装置を用いて、周波数1Hz、振幅0.2%、加熱速度2℃/分で実施できる。
【0032】
たとえば、遊離イソシアネート基がもはや存在しないことを示すために、遊離官能基の欠如の分光学的検出、たとえばIR分光法による検出を周知のように用いて、架橋が起こったことを検出できる。
【0033】
架橋反応は、熱および/または放射線および/または水分によって起こり得るが、特に熱(適切であれば水分と併せて)により行う。
【0034】
コーティング(K)は、少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤(B)から得られる。ここで本発明に必須なのは、成分(D1)の少なくとも一部が 1以上の表面活性な構造単位(O)を有することである。
【0035】
以下で、成分(D1)の少なくとも一部が1以上の表面活性な構造単位(O)を有する状態とは、コーティングの最終用途および選択された架橋性成分に応じて、典型的には30〜100%の間、好ましくは50〜100%の間、さらに好ましくは80〜100%の間、非常に好ましくは90〜100%の間の成分(D1)が1以上の表面活性な構造単位(O)を有するということを意味する。
【0036】
架橋性成分(D1)の表面活性な構造単位の結果として、一般的に成分(D1)が表面付近コーティング領域(K1)中に蓄積し、したがって一般的にコーティング剤(B)の硬化後、表面付近のコーティング領域(K1)が少なくとも部分的に架橋した成分(D1)により実質的に形成され、体積コーティング領域(K2)が少なくとも部分的に架橋した成分(D2)により実質的に形成される。これに関連して「実質的に」とは、それぞれの領域(K1)または(K2)の少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも75%質量%、さらに好ましくは少なくとも90%質量%がそれぞれの架橋した成分(D1)または(D2)から形成されることを意味する。
【0037】
成分(D1)が表面付近コーティング領域(K1)中に蓄積するために、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)は一般的に表面(KO)に対して垂直な傾斜の形態での化学的不均一性を示す。
【0038】
化学的不均一性におけるこの傾斜はまた、好ましくは表面に対して垂直な物理的特性における傾斜に至り、好ましくは耐擦過性および/またはストーンチップ耐性および/または耐亀裂性および/または洗浄可能性および/または補修塗料付着性および/または湿潤性および/または視覚的着色および/または外観における傾斜に至る。
【0039】
特に、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)は、表面(KO)に対して垂直なタイプ(Si1)および/またはタイプ(Si2)のケイ素原子の傾斜の形態の化学的不均一性を有する
【化1】

【0040】
式中、
[RS1=有機基、好ましくは1〜20個の炭素原子を有する直鎖および/または分岐アルキレンまたはシクロアルキレン基、特に1〜4個の炭素原子を有するアルキレン基、R"=アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルであり、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって中断されていてもよく、ここでRa=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル、好ましくはR"=アルキル基、特に1〜6個のC原子を有するものである]。
【0041】
これらの傾斜は特に成分(D1)を対応して選択することにより得られ、好ましくは、アルコキシシラン基により少なくとも部分的に架橋した成分(D1)を用いる。非常に好ましくは、傾斜は下記のシラン官能基を有する付加物(A)の使用により得られる。
【0042】
傾斜は好ましくは<1μm、より好ましくは<0.1μm、さらに好ましくは<0.05μmの半値深を有する。この半値深とは、表面(KO)と体積コーティング領域(K2)との間の化学構造および/または物理的特性における差(すなわち傾斜)が半分に低下する、少なくとも部分的に架橋したコーティング深さまたは層厚さである。
【0043】
表面付近領域(K1)における架橋密度は一般的に体積コーティング領域(K2)における架橋密度よりも高い。
【0044】
この結果として、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)は、架橋性成分(D1)を含まないという事実を除いてコーティング剤(B)と同一であるコーティング剤(B)から得られる対応するコーティング(K’)よりも高い硬度、特に微小貫入硬度、および高い耐擦過性、特に高い乾燥耐擦過性を有すると推測される。同時に、改善された耐擦過性としばしば関連する問題、つまり増大した脆性および亀裂しやすさは、このコーティングにおいては回避される。
【0045】
したがって、成分(D1)から形成されるネットワーク(N1)の架橋密度の、成分(D2)から形成されるネットワーク(N2)の架橋密度に対する比により、架橋コーティング(K)に対して目的の制御を及ぼすことが可能である。
【0046】
架橋性成分(D1)
コーティング(K)は、少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤(B)から得られる。
【0047】
成分(D1)の少なくとも一部が1以上の表面活性な構造単位(O)を有することは、本発明にとって必須である。本明細書で後述の表面活性構造単位とは、空気/コーティング界面でコーティング剤(B)から大量に蓄積するこの基を特徴とする成分をもたらす基を意味する。
【0048】
したがって、本発明のコーティング剤(B)において、最初から表面活性な構造単位(O)を有するこれらの成分(D1)の使用が可能である。表面活性構造単位はここでは、このような基を有する化合物がコーティング剤から空気/コーティング界面で大量に蓄積するような基を意味する。
【0049】
特に、本発明にしたがって、成分(D1)の少なくとも一部を1以上の表面活性化合物(OV)で修飾することにより架橋性成分(D1)を製造したコーティング剤を使用し、化合物(OV)は表面活性構造単位(O)を有する。その代わりに、またはそれに加えて、成分(D1)の前駆体の少なくとも一部を1以上の表面活性化合物(OV)で修飾しておくことも可能である。成分(D1)の合成中に化合物(OV)との併発反応(既知のようなin−situ反応)も起こり得る。
【0050】
表面活性構造単位(O)
表面活性な構造単位(O)は、好ましくは炭化水素基およびそれらの誘導体からなる群、特にフッ素化炭化水素基、脂肪酸基および脂肪酸誘導体の基からなる群から選択され、また非置換または置換シロキサン基からなる群、さらに好ましくはシロキサン基から選択される。
【0051】
表面活性な化合物(OV)は、好ましくは少なくとも1つのヒドロキシル、エポキシ、イソシアネート、カーバメート、カルボキシル、アンヒドリド、アミン、および/またはチオール基および/またはエチレン性不飽和二重結合を有する、および/または架橋性成分(D1)および/または架橋性成分(D1)の前駆体は、ヒドロキシル、エポキシ、イソシアネート、カーバメート、カルボキシル、アンヒドリド、アミン−および/またはチオール基からなる群から選択される相補性官能基および/またはエチレン性不飽和二重結合を有する。
【0052】
特に、非修飾成分(D1)よりも低い表面張力を有する、または成分(D1)を製造するために用いられる合成成分よりも低い表面張力を有する化合物(OV)を使用する。化合物(OV)の表面張力は、非修飾成分(D1)の表面張力または成分(D1)を製造するために用いられる合成成分の表面張力よりも、好ましくは少なくとも1mN/m、特に好ましくは少なくとも5mN/m低くなければならない。
【0053】
この表面張力の測定を23℃の温度で行う。表面張力を測定するために使用した方法は、リング法として知られているものであった。この方法は、既知のように、リング張力計を使用して、液体の界面から白金環を引き抜く場合に前記環の周囲に作用する最大の力を測定することを含む。表面張力を測定するために、検査中の液体の表面をゆっくりと上昇させ、この際、系は常に平衡状態である。表面積を増加させるために必要な力を測定し、この測定値を表面張力に換算する。この方法のさらに詳細な説明は、特に"Lackeigenschaften messen und steuern"by G.Meichsner,Th.G. Mezger,J.Schroeder,edited by Ulrich Zorll,published by Vincentz Verlag 2003、page 96 ffに記載されている。
【0054】
好ましくは、結果として得られる、表面活性構造単位(O)を有する成分(D1)がコーティング剤中で表面活性であるように化合物(OV)を選択する。後述の表面活性成分(D1)は、空気/コーティング界面でコーティング剤から大量に蓄積する成分(D1)である。
【0055】
空気/コーティング界面での成分(D1)のこのような蓄積は、典型的には成分(D1)とフィルム形成物質(D2)との間にある不適合性が存在することにより起こる。しかし、この不適合性は、コーティング剤の一部での流れ欠陥を防止するために、それほど高くてはならない。さらに、表面活性な成分(D1)を使用する場合、結果として得られるペイント組成物に対する他の物理的制限、およびコーティングされる基体も考慮する必要がある。適切な適合性以外の1つの特に重要な態様は、特に目的の基体の湿潤性である。この湿潤性は、Zismannにしたがって臨界表面張力を測定することをはじめとする方法により推定できる。この方法の詳細な説明は、書籍"Lackeigenshaften messen und steuern"by G. Meichsner,Th.g. Mezger,J.Schroeder,edited by Ulrich Zorll,published by Vincentz Verlag 2003をはじめとする文献に記載されている。これに関連して、それ自体または他の界面活性添加剤との相互作用において、特定の目的基体の臨界表面張力よりも低い各ペイント組成物の表面張力を設定することを可能にする成分(D1)が特に好適である。
【0056】
特に好適な成分(D1)は、それ自体または他の界面活性添加剤との相互作用において、特定の目的基体の臨界表面張力よりも少なくとも5mN/m低く、各ペイント組成物の表面張力を設定することを可能にするものである。
【0057】
すでに述べたように、表面張力が低い化合物(OV)として好適な化合物は、少なくとも1つの表面活性基を有する化合物である。特に、化合物(O)の表面活性基は、炭化水素基およびそれらの誘導体、たとえばフッ素化炭化水素基、脂肪酸基およびそれらの誘導体からなる群から選択され、またシロキサン基およびそれらの誘導体、たとえばフッ素化シロキサン基からも選択される。
【0058】
表面活性な炭化水素基は、特に、好ましくは少なくとも5個のC原子、さらに好ましくは12〜36個のC原子を有し、適切であれば対応する置換基、たとえばフッ素基も有する直鎖または分岐脂肪族鎖である。さらに高いホモログに関して、分岐構造または官能化の結果として室温で結晶化を示さない構造が好適である。
【0059】
炭化水素基を有する化合物(OV)として用いられる化合物の例は、特にアルカン、アルケンおよびアルキンならびに少なくとも1つの官能基を有するそれらの誘導体である。
【0060】
単官能性構成要素以外に、2以上の官能基を有する化合物(OV)を使用することも可能である。
【0061】
非修飾成分(D1)に対して反応性である、比較的低い表面張力を有する化合物の例は、特に、脂肪族アルコール、脂肪酸および脂肪酸誘導体(それぞれの場合、一般的に少なくとも5個のC原子、好ましくは12〜36個のC原子を有する直鎖または分岐脂肪族鎖を有する)である。12〜36個のC原子を有する直鎖および/または分岐脂肪酸誘導体が特に好適である。
【0062】
ごく一般的には、飽和化合物(OV)が好適である。その理由は、結果として得られるコーティングにより高い風化安定性が保証されるからである。
【0063】
可能性のあるこのような化合物の例としては、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンンデシルアルコール、ドデシルアルコール、および対応するさらに高次のホモログが挙げられる。比較的低い結晶化傾向のために、たとえばイソステアリルアルコール(たとえば、CondeaからIsofolの商標名で入手可能である)の使用が、n−ステアリルアルコールの使用よりも好適である。
【0064】
二官能性出発物質の例としては、ジヒドロキシオクタンの異性体、ジヒドロキシノナンの異性体、ジヒドロキシデカンの異性体、ジヒドロキシウンデカンの異性体および対応する高次のホモログが挙げられる。
【0065】
飽和および/または不飽和脂肪酸の誘導体、特に分子中に5〜30個の炭素原子を有する飽和および/または不飽和脂肪酸の誘導体、たとえば吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、リノール酸、リシネン酸、リシノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、クルパノドン酸、α−エレオステアリン酸、α−リカン酸、α−パリナリン酸、リシノール酸およびイサノール酸およびこれらの脂肪酸の混合物、および/または前記脂肪酸の対応するヒドロキシ酸、および/またはこれらの混合物の基も表面活性構成要素として好適である。したがって、表面活性な化合物(OV)としてヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシラウリン酸、リシノール酸またはこれらの混合物も使用することができる。
【0066】
さらに、二量体および三量体脂肪酸の基ならびにこれらの混合物の対応する基も好適である。ここでは、例として二量体脂肪酸ジオールを挙げる。これらはたとえば、Unichema社からPripol(登録商標)の称号で商業的に入手可能である。これらは、たとえばKarlheinz Hill,"Fats and Oils as Oleochemical Raw Materials,"Pure Appl. Chem.,Vol.72、No.7、pages 1255−1264(2000)、特に1261ページに記載のように対応する二量体脂肪酸を還元することにより製造できる。たとえば、Unichema(North America,Chicago,III.,USA)から商業的に入手可能なPRIPOL 2033が好適である。
【0067】
エポキシ化脂肪酸もアンヒドリド官能性非修飾成分(D1)の反応相手として使用できる。
【0068】
表面活性基として炭化水素基を有する対応する化合物(OV)の他の例は、低い表面張力を有するアミン官能性化合物である。
【0069】
このような化合物の例として、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、および対応するさらに高次のホモログを挙げられる。
【0070】
単官能性構成要素以外に、2以上の官能基を有する化合物(OV)を使用することもできる。二官能性出発物質の例としては、ジアミノオクタンの異性体、ジアミノノナンの異性体、ジアミノデカンの異性体、ジアミノウンデカンの異性体、および対応するさらに高次のホモログが挙げられる。
【0071】
アミン官能性化合物(OV)以外に、対応するメルカプト官能性誘導体を用いることもできる。
【0072】
さらに、特にイソシアネート官能性脂肪酸誘導体を化合物(OV)として用いることもできる。本明細書において言及する一例はステアリルイソシアネートであり、これをたとえば第2アミン官能基を有する非修飾成分(D1)との反応相手として使用できる。
【0073】
修飾成分(D1)の一部に対して特に低い表面張力が必要とされる場合、好ましくはフッ素化側鎖を有する有機物質、特にフッ素化炭化水素も用いられる。このような化合物の例は、アミン官能性非修飾成分(D1)とのマイケル付加反応で反応可能なフッ素化側鎖を有するメタクリレート、またはOH官能性成分としての3−フルオロベンジルアルコールである。さらに、対応するシランに対して反応性である、表面張力が低い他のフッ素化物質を用いることもできる。
【0074】
Si−H基との反応に関して、様々な不飽和オリゴマーおよびポリマーを化合物(OV)として使用することもできる。使用するのに特に好ましいのは、1,2−ポリブタジエンおよび1,2−ポリブタジエンの様々なコポリマーである。加えて、末端二重結合を有するポリイソブチレンを用いることが可能である。さらに、表面活性グラフト化ポリマーまたは側鎖中にエチレン性不飽和二重結合を有するグラフト化ポリマーも使用できる。
【0075】
化合物(OV)として、シロキサンまたはそれらの誘導体を用いることも可能である。
【0076】
原則として、非修飾成分(D1)の相補性官能基と反応性である、平均して少なくとも1つの官能基を有するすべてのポリシロキサンは適合性を有している。特に、少なくとも1つのヒドロキシル、カルボキシル、アミンおよび/またはチオール基、ビニル、イソシアネートおよび/またはエポキシ基、特にグリシジル基、および/またはアンヒドリド基および/またはアクリロイルおよびメタクリロイル基、特に少なくとも1つのヒドロキシル、カルボキシル、アミンおよび/またはチオール基を有するポリシロキサンを使用する。
【0077】
たとえば、式(I)
【化2】

[式中、
1〜R6は同一または異なる基であり、
1=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(ここで、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄もしくはNRa基によって場合によって中断されている)、またはフッ素置換アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、ケイ素原子とフッ素置換有機基との間にエチレン基を有する構造が好適であり、
2=ヒドロキシル、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(ここで、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されている)、
3およびR6=水素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されている)、またはフッ素置換アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基であり、ここで、ケイ素原子とフッ素置換有機基との間にエチレン基を有する構造が好適であり、
4およびR5=水素、ヒドロキシル、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されている)であり、
ここで、基R2、R4およびR5の少なくとも1つは成分(D1)の相補性官能基に対して反応性である官能基をさらに有し、
そして
1=1〜80、好ましくは3〜20および
2=0〜80、好ましくは0〜10]のポリシロキサンは適合性を有する。
【0078】
ここで好ましくは、官能基はそれぞれの場合、ヒドロキシル、カルボキシル、アミンおよび/またはチオール基、ビニル、イソシアネートおよび/またはエポキシ基、特にグリシジル基、およびアンヒドリド基ならびにアクリロイルおよびメタクリロイル基から選択される。
【0079】
各シロキサン鎖の分子量を変えることにより、結果として得られる成分(D1)のコーティング剤との適合性において目的とする変化が可能になる。コーティング剤との高い適合性を得るためには、比較的低分子量のシロキサン(OV)を使用することが特に好適である。これらのシロキサンは、たとえば出願US20040209088、段落[0017]〜[0019]にも記載されており、好適な成分として同様に明確に記載されている。
【0080】
原則として、化合物(OV)として用いられるシロキサンの分子量を、修飾されるコーティング剤との適合性にしたがって適応させることができる。しかし、多くの場合、低分子量は高い適合性を示す傾向にあることが判明している。したがって、このことを考慮して、低分子量が好適であり、低分子量は好適な重合度m1およびm2に反映される。
【0081】
シロキサン鎖内の各ケイ素原子上の非官能性置換基に関して、成分の修飾されるコーティング剤との予想される適合性にしたがって同様に変更を加えることが可能である。表面張力を目的とする方法で低下させ、したがって本発明の成分(D1)を得るために、非官能性基として、メチル、エチルおよびフェニル基および部分的にフッ素で置換されたアルキル基を用いることが好適である。メチル基を非官能性基として使用することが特に好適である。
【0082】
シランを目的とする方法でより適合性にするために、エチレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーまたはプロピレンオキシドのオリゴマーまたはポリマーを側鎖として導入することも可能である。
【0083】
式(II):
【化3】

【0084】
[式中、
1、R4およびR5は前記定義のとおりであり、
m=1〜80、好ましくは3〜20、さらに好ましくは5〜12である]のポリシロキサンが好適である。
【0085】
表面活性な化合物適合性を有するシロキサンの例としては、特許出願US20040209088の段落[0012]〜[0018]で特定されている化合物が挙げられる。
【0086】
特に、前記式(II)のカルビノール官能性シロキサンを使用する。
【0087】
化合物(OV)として好適なヒドロキシル基を有するシロキサンの例としては、カルビノール末端ジメチルシロキサン−カプロラクトン−ブロックコポリマー(ABCR GMBH & CO.KG、Karlsruheから商品番号AB127698で商業的に入手可能)、カルビノール官能性メチルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(ABCR GMBH & CO.KG、Karlsruheから商品番号AB127701およびAB127700で商業的に入手可能)、カルビノール末端ポリジメチルシロキサン(ABCR GMBH & CO.KG、Karlsruheから商品番号AB153380で商業的に入手可能)、モノカルビノール末端ポリジメチルシロキサン(ABCR GMBH & CO.KG、Karlsruheから商品番号AB127710およびAB109345およびAB146681およびAB146683およびAB146682で商業的に入手可能)、特にカルビノール官能性シロキサンが挙げられる。
【0088】
次式(III):
【化4】

【0089】
[式中、
1およびR4は前記定義のとおりであり、メチル、エチルおよびフェニル基、ならびにフッ素および/または官能基により部分的に置換されたアルキル基が好適である。メチル基を非官能性基として使用することが特に好適である、および/または官能基は好ましくはヒドロキシル基である。
【0090】
m=1〜80、好ましくは3〜20、さらに好ましくは5〜12である]の対称構造を有する官能性シロキサンが特に好適である。
【0091】
式(III)[式中、R4はヒドロキシル基を含む]のシロキサンを使用するのが特に好適である。カルビノール官能性ポリシロキサンである、GE Bayer SiliconesのBaysilone(登録商標)OF 502を使用することが好適である。たとえばBaysilone(登録商標)OF 502 6%およびBaysilone(登録商標)OF 502 3%など、物質を様々な分子量で入手できる。これに関連して、物質Baysilone(登録商標)OF 502 6%が好適であり、これは低分子量を有する。
【0092】
さらに、式(II)または(III)の、第1または第2アミン機能を有するシロキサンが特に好適に用いられ、一例は、アミノプロピルメチルシロキサン−ジメチル−シロキサンコポリマーである(ABCR GMBH & CO.KG、Karlsruheから商品番号AB109374およびAB109373およびAB109375で商業的に入手可能)。
【0093】
シラン官能基を有する付加物(A)
架橋性基として、成分(D1)は好ましくは、加水分解可能なシラン基、特にアルコキシシラン基を含む。その理由は、これらの基は、成分(D1)が架橋する場合に、結果として得られるコーティングの顕著な特性を保証する高耐擦過性の緻密なSi−O−Siネットワークを形成するためである。これらの成分(D1)も、表面(KO)に対して垂直な少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)においてタイプ(Si1)および/または(Si2)のケイ素原子の前記傾斜をもたらす。
【0094】
本発明にしたがって、
(a)化合物(OV)の相補性官能基と反応性である少なくとも1つの官能基を有する少なくとも1つのシラン(S1)と、
(b)少なくとも1つの相補性官能基および少なくとも1つの表面活性基を有する少なくとも1つの化合物(OV)との付加反応により製造可能な、シラン官能基を有する付加物(A)の成分(D1)としての使用が特に好適である。
【0095】
本明細書において、付加反応とは、そのメカニズムが他の文献のうちでも有機化学の教科書、特に一例としてOrganikum,"Reactionsmechanismen in der Organischen Chemie" ,Peter Sykes.VCH−Verlagにも詳細に記載されている種類の、求核、求電子、ペリ環状または金属触媒による付加反応を意味する。
【0096】
シラン官能基を有する付加物(A)を製造するためのこれらの付加反応を、特にシラン(S1)の化合物(OV)との反応に用いる。しかし、それに加えてまず対応する付加反応によりシラン(S1)を合成し、そのときに化合物(OV)との反応を行うことも可能である。好適には、シラン(S1)をin situで対応する付加により合成し、同時に化合物(OV)との反応を行う。
【0097】
シラン(S1)の官能基および/または化合物(OV)の官能基は好ましくはヒドロキシル、エポキシ、イソシアネート、カーバメート、カルボキシル、アンヒドリド、アミン、およびチオール基および/またはエチレン性不飽和二重結合からなる群から選択される。
【0098】
さらに、シランの官能基および化合物(OV)の官能基は、両方とも同時にエチレン性不飽和二重結合ではないが、そのかわりに2つの基の1つだけがエチレン性不飽和二重結合であるのが好適である。さらに、本発明のコーティング剤において、平均して50モル%未満の、シラン基、より詳細にはアルコキシシラン基以外の遊離反応基を含む付加物(A)を用いるのが好適である。
【0099】
したがって、シラン官能基を有する付加物(A)を製造するための好適な付加反応の例として、特に
(I)イソシアネート基のヒドロキシル基との反応、イソシアネート基のアミノ基との反応、およびイソシアネート基のチオール基との反応;
(II)エポキシ基のカルボキシル基との反応およびエポキシ基のアンヒドリド基との反応;
(III)エチレン性不飽和二重結合上に活性水素原子を含む化合物の反応(マイケル付加として知られる)、特にエチレン性不飽和二重結合を有するアミノ基の付加;
および
(IV)金属触媒による付加反応
が挙げられる。
【0100】
グループ(I)の反応の例としては、次の反応が挙げられる:
・ イソシアネート官能性化合物のアミノシランとの付加、
・ イソシアネート官能性化合物のチオール官能性シランとの付加、
・ イソシアネートシランのヒドロキシ官能性化合物との付加
・ イソシアネートシランのアミン官能性化合物との付加、および
・ イソシアネートシランのチオール官能性化合物との付加。
【0101】
アミン官能性シランまたはチオール官能性シランのイソシアネート官能性オリゴマーとの求核付加反応が本発明では好適である。
【0102】
本明細書および以下で、オリゴマーとは、一般的に平均して2〜10の基本構造またはモノマー単位を有する化合物である。対照的に、ポリマーは一般的に平均して10より多い基本構造またはモノマー単位を有する化合物である。
【0103】
グループ(II)の反応の例としては、次の反応が挙げられる:
・ エポキシ官能性シランのカルボキシ官能性化合物との付加、
・ エポキシ官能性シランのアンヒドリド官能性化合物との付加、および
・ アンヒドリド官能性シランのエポキシ官能性化合物との付加。
【0104】
アンヒドリド官能性シランのエポキシ官能性化合物との付加反応の包括的な記載はWO2006/097387に見られる。
【0105】
グループ(III)の反応の例としては、次の反応が挙げられる:
・ アミノシランのα、β不飽和化合物、たとえばアクリロイルおよびメタクリロイル官能性化合物、たとえばジ(メタ)アクリレートとの付加等。
【0106】
一例として、本明細書ではグループ(IV)、すなわちヒドロシリル化反応の金属触媒による付加反応について言及する。この種類のヒドロシリル化反応に関連して、たとえばSi−H官能基を有するシランを(ポリ)オレフィンまたはC=C二重結合を含むシロキサン、たとえばジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン−ビニル末端コポリマー(たとえばABCR GmbH & Co.KGから商品番号AB116641で商業的に入手可能である)と反応させることが可能である。
【0107】
しかし、他の金属触媒による付加反応も、特にカップリング反応も使用できる。
【0108】
ごく一般的に、シラン(S1)として、Si−H基を含む化合物を使用することが可能である。これらの化合物をヒドロシル化反応において化合物(OV)と反応させることができる。
【0109】
一例として、Si−H基を含むこの種類のシラン(S1)、トリクロロシラン、メチルジクロロシランおよびジメチルクロロシランについて言及することができる。
【0110】
この種類の化合物を不飽和化合物、たとえば、様々な1,2オリゴブタジエンまたはポリブタジエンと、または二重結合を含むシロキサンと、たとえば白金触媒作用のもとで反応させて、対応するシラン官能性樹脂を得ることができる。適切であれば、Si−H基を含有するこれらのシラン(S1)を好適なアルコール、たとえばメタノールとの反応において反応させて、対応するアルコキシシランを得ることができる。
【0111】
Si−H結合を含むシランと同様に、有機官能性シラン(S1)を使用することが特に好適である。使用できる有機官能性シランは、1の加水分解基、2、または3以上の加水分解可能な基を有するシランである。しかし、シランの適合性および反応性に関して、少なくとも3の加水分解可能な基を有するシランを優先して使用する。
【0112】
ごく一般的に、本発明で好適な有機官能性シラン(S1)を構造式(IV)
Sn−Si−R"x4-(n+x) (IV)
により表すことができる。
【0113】
基Xは同一または異なっていてもよく、加水分解可能な基である。
【0114】
基RSは、少なくとも1つの官能基を有する有機基、特に1〜20個の炭素原子を有し、少なくとも1つの官能基を有する直鎖および/または分岐アルキレンまたはシクロアルキレン基、特に、1〜4個の炭素原子を有し、少なくとも1つの官能基を有するアルキレン基を表し;
R"はアルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル(炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されており、Ra=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルである)、好ましくはR"=アルキル基、特に1〜6個のC原子を有する。
【0115】
構造式において、n=1〜3、好ましくは1〜2、さらに好ましくはn=1、x=0〜2、好ましくは0〜1、さらに好ましくはx=0、および1≦n+x≦3、好ましくは1 ≦n+x≦2、さらに好ましくはn+x=1である。
【0116】
加水分解可能な基Xは、ハロゲンの群、特に塩素および臭素、アルコキシ基の群、アルキルカルボニル基の群およびアシルオキシ基の群から選択できる。アルコキシ基が特に好適である。
【0117】
特に好適に使用されるアルコキシシランは、したがって式(V)
Sn−Si−R"x(OR)4-(n+x) (V)
[式中、n=1〜3、好ましくはn=1〜2、さらに好ましくはn=1、x=0〜2、好ましくは0〜1、さらに好ましくはx=0、そして1≦n+x≦3、好ましくは1≦n+x≦2、さらに好ましくはn+x=1、そしてRSおよびR"は式(IV)について定義した通りである]により表すことができる。
【0118】
基Rは水素、アルキルまたはシクロアルキルであってよく、ここで、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されており、Ra=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル、好ましくはR=アルキル基であり、特に1〜6個のC原子を有する。
【0119】
それぞれの好適なアルコキシ基は類似していても、異なっていてもよい;しかし、基の構造に重要なことは、これらが加水分解可能なシラン基の反応性にどの程度まで影響を及ぼすかである。好ましくは、Rはアルキル基であり、特に1〜6個のC原子を有する。特に好適なのは、シラン基の反応性を増大させる基Rである。すなわち、良好な脱離基を表すものである。したがって、メトキシ基がエトキシ基よりも好適であり、エトキシ基はプロポキシ基よりも好適である。したがって、特に好適には、R=エチルおよび/またはメチル、特にメチルである。しかしごく一般的に、(S1)よりも反応性が低いシランも使用できる。これらの場合、対応するさらに有効な触媒を用いることによって十分な架橋密度を達成する必要がある、または対応するさらに多量の触媒を添加しなければならない。
【0120】
有機官能性シラン(S1)上の非官能性置換基、特に基RS上の置換基もその反応性に影響を及ぼし得る。一例として、たとえばアミン官能性シランの反応性を低下させることができるアミン官能基上の嵩高い置換基により説明することができる。これを背景にして、N−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランがN−シクロ−ヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシランよりも好適である。
【0121】
ごく一般的に、シランの反応性を増大させる基RSが、シランの反応性を低下させる基よりも好適である。
【0122】
有機官能性シランの反応性はさらに、シラン官能基と有機官能基との間のスペーサーまたは基RS1の長さによっても著しく影響を受ける可能性がある。この例として、「α」−シランについて言及することができ、これはWackerから入手可能で、Si原子と官能基との間に、「γ」−シランの場合に存在するプロピレン基の代わりにメチレン基が存在する。これを説明するために、本発明の付加物(A)の合成に、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン(「α」−シラン、例えば、Wackerの商品GENIOSIL(登録商標)XL33)がメタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(「γ」−シラン、例えば、Wackerの商品GENIOSIL(登録商標)GF31)よりも優先的に用いられることが観察される。
【0123】
ごく一般的に、シランの反応性を上昇させるスペーサーが、シランの反応性を低下させるスペーサーよりも好適である。
【0124】
シラン架橋によりできるだけ高い架橋密度を得るために、用いられる付加物の分子量に関してできるだけ多くのシラン基を実現することが有利である。これが保証されたなら、そして特に高いネットワーク密度により固体フィルムが得られたならば、とりわけ耐擦過性について特に良好な特性を得られる。これを背景として、実質的に顕著な分子量の増加のない樹脂において特に高い官能性を実現できる有機官能性シランが非常に好適である。
【0125】
これは、一例として2つのアミン官能性シランを例にとって示すことができる。すなわち、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミンはN−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランよりも好適である。
【0126】
シラン(S1)の反応基は、好ましくはアミン、エポキシ、アンヒドリド、イソシアネート、カーバメートおよび/またはチオール基および/またはエチレン性不飽和二重結合からなる群から選択される。
【0127】
以下に列挙するのは、制限なく、本発明の好適な有機官能性シランであり、これは付加物(A)の製造に特に好適である:
1)アミン−およびチオール官能性シラン。
【0128】
特にマイケル付加反応に関連して、たとえば第1アミノシラン、たとえば3−アミノプロピルトリエトキシシラン(例えば、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)GF93の商標名で入手可能)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(例えば、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)GF96の商標名で入手可能)、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(例えば、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)GF9ならびにGeniosil(登録商標)GF91の商標名で入手可能)、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(例えば、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)GF95の商標名で入手可能)等が用いられる。
【0129】
特にイソシアネート官能性化合物への付加に関連して、たとえば第2アミノシランおよびメルカプト官能性シラン、たとえばビス−(2−トリ−メトキシシリルエチル)アミン、ビス−(2−トリエトキシシリルエチル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)アミン(DegussaからDynasylan(登録商標)1122の商標名で入手可能)、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)アミン(DegussaからDynasylan(登録商標)1124の商標名で入手可能)、ビス−(4−トリエトキシシリルブチル)アミン、N−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(DegussaからDynasylan(登録商標)1189の商標名で入手可能)、N−(n−ブチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)GF92の商標名で入手可能)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリ−エトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(DegussaからDynasylan(登録商標)MTMOの商標名で入手可能)、3−メルカプト−プロピルトリエトキシシラン、N−シクロヘキシルアミノメチルメチルジエトキシシラン(Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL924の商標名で入手可能)、N−シクロヘキシルアミノメチルトリエトキシシラン(Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL926の商標名で入手可能)、N−フェニルアミノメチルトリメトキシシラン(Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL973の商標名で入手可能)等が用いられる。
【0130】
2)エポキシ官能性シラン
エポキシ官能性シランを特にカルボン酸官能性またはアンヒドリド官能性化合物への付加に使用できる。好適なエポキシ官能性シランの例は、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(Degussa からDynasylan(登録商標)GLYMOの商標名で入手可能)、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン(DegussaからDynasylan(登録商標)GLYEOの商標名で入手可能)等である。
【0131】
3)アンヒドリド官能性シラン
アンヒドリド官能性シランを特にエポキシ官能性化合物への付加に使用できる。アンヒドリド官能基を有するシランについて言及できる例は、3−(トリエトキシシリル)プロピルコハク酸無水物(Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)GF20の商標名で入手可能)である。
【0132】
4)エチレン性不飽和二重結合を有するシラン
マイケル反応に関連して、または金属触媒による反応に関連して、この種類のシランを使用できる。例示されるのは、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(たとえばDegussaからDynasylan(登録商標)MEMOの商標名で入手可能である、またはWacker ChemieからGeniosil(登録商標)GF31の商標名で入手可能)、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン(特に、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL10の商標名で入手可能)、ビニルジメトキシメチルシラン(特に、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL12の商標名で入手可能)、ビニルトリエトキシシラン(特に、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)GF56の商標名で入手可能)、(メタクリロイルオキシメチル)メチルジメトキシシラン(特に、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL32の商標名で入手可能)、メタクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン(特に、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL33の商標名で入手可能)、(メタクリロイルオキシメチル)メチルジエトキシシラン(特に、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL34の商標名で入手可能)、およびメタクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン(特に、Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL36の商標名で入手可能)である。
【0133】
5)イソシアネート官能基またはカーバメート官能基を有するシラン
イソシアネート官能基またはカーバメート官能基を有するシランを、特にヒドロキシル官能性化合物との反応に関連して使用する。イソシアネート官能基を有するシランの例は、たとえば未公開の米国特許出願番号11/227,867に記載されている。
【0134】
好適なイソシアナートアルキルトリアルコキシシランの例は、イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、イソシアナートプロピルメチルジメトキシシラン、イソシアナートプロピルメチルジエトキシシラン、イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、イソシアナートプロピルトリイソプロポキシシラン、イソシアナートプロピルメチルジイソプロポキシ−シラン;イソシアナートネオヘキシルトリメトキシシラン、イソシアナートネオヘキシルジメトキシシラン、イソシアナートネオヘキシルジエトキシシラン、イソシアナートネオヘキシルトリエトキシシラン、イソシアナートネオヘキシルトリイソプロポキシシラン、イソシアナートネオヘキシルジイソプロポキシシラン、イソシアナートイソアミルトリメトキシシラン、イソシアナートイソアミルメチルジメトキシシラン、イソシアナートイソアミルメチルジエトキシシラン、イソシアナートイソアミルトリエトキシシラン、イソシアナートイソアミルトリイソプロポキシシランおよびイソシアナートイソアミルメチルジイソプロポキシシランである。多くのイソシアナートアルキルトリアルコキシシランおよびイソシアナートアルキルジアルコキシシランが、たとえばSILQUEST(登録商標)の称号でOSi Specialties、Inc.、Witco Corporation社から商業的に入手可能である。
【0135】
使用されるイソシアナートプロピルアルコキシシランは、好ましくは高純度を有し、特に少なくとも95%の純度を有し、好ましくは望ましくない副反応に至る可能性があるエステル交換触媒などの添加剤を含まない。
【0136】
特に(イソシアナートメチル)メチルジメトキシシラン(Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL42の商標名で入手可能)、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン(Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL40の商標名で入手可能)およびN−ジメトキシ(メチル)シリルメチルO−メチル−カーバメート(Wacker ChemieからGeniosil(登録商標)XL65の商標名で入手可能)を使用する。
【0137】
化合物(OV)との反応のためのシラン成分(S1)として、少なくとも1つの官能基を有するこれらのモノマーシランの代わりに、またはこれらのモノマーシランとともに、少なくとも1つの官能基および少なくとも1つのアルコキシシラン基を有する付加物を使用することも可能である。成分(S1)として適合性を有するこれらの付加物は、少なくとも1つ、特に1より多い官能基を有するシランと、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの、シランの官能基と反応性である相補性官能基(G2)を含む化合物(V2)との付加反応により製造可能である。分子量が実質的に増加することなくアルコキシ官能基を増加させるために、シラン成分(S1)としてこの種類の付加物を特に使用する。したがって、好ましくは、化合物(V2)は1000未満、特に500未満の数平均分子量を有する。
【0138】
対応するin situ付加反応により、シラン(S1)として用いられる付加物を合成し、同時に化合物(OV)を用いて反応を行うことが好適である。好適な付加反応は、前述の付加反応である。
【0139】
しかし、これ以外にも、化合物(OV)を、化合物(OV)の官能基と反応性である少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの相補性官能基を有する化合物(VI)とまず反応させることも想定される。この反応を、シラン(S1)との反応前に行うことができる。しかし、シラン(S1)との反応を同時に行いつつ、in situで行うことが好ましい。化合物(V1)は好ましくは1000未満、特に500未満の数平均分子量を有する。
【0140】
この種類の「in situ」方法の1つの選択肢は、イソシアネート、特にジイソシアネートまたはポリイソシアネートの、第2アミノ基またはヒドロキシル基を含む1以上の化合物(OV)との不完全な反応を包含する。残りのイソシアネート基を次いで好適な有機官能性シランと反応させることができる。この目的のために、第2アミン官能基を有するシランを使用することが好適であるが、イソシアネートに対して反応性であるすべての他のシランも用いることができる。
本発明のコーティング剤において特に好適に使用される成分(D1)は、イソシアネート、特にジイソシアネートまたはポリイソシアネートの、第2アミン基またはヒドロキシル基を含む前記表面活性化合物の1つとの不完全反応を包含する方法により得られる。残りのイソシアネート基を次いで好適な有機官能性シランと反応させることができる。この目的のために、第2アミン官能基を含むシランを使用することが好適であるが、イソシアネートに対して反応性である他のすべての有機官能性シランも使用できる。
【0141】
したがって、式(VI):
−N R’’’−C(O)−N−(L−SiR"x(OR’)3−x)n(L’−SiR"y(OR’)3−y)m (VI)
[式中、
R’’’=水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルであり、ここで、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されており、Ra=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルであり、
R’=水素、アルキルまたはシクロアルキルであり、ここで、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されており、Ra=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルであり、
L、L’=1〜20個の炭素原子を有する直鎖および/または分岐アルキレンまたはシクロアルキレン基、特に1〜4個の炭素原子を有するアルキレン基、特にL、L’=式(Si1)または(Si2)のRS1
R"=アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキルであり、ここで炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されており、
n=0〜2、m=0〜2およびm+n=2、および
x、y=0〜2]の少なくとも1つの反応性基を含む化合物の成分(D1)として使用することが特に好適である。
【0142】
式(VI)の少なくとも1つの反応性基を含む、これらの本発明の好適な成分(D1)を、好ましくは次の反応
−少なくとも1つのジおよび/またはポリイソシアネート(PI)の
−式(VII)
H−N−(L−SiR"x(OR’)3−x)n(L’−SiR"y(OR’)3−y)m(VII)
[式中、置換基R’、L、L’、およびR"ならびに添字n、m、xおよびyは式(VI)について定義のとおりである]の少なくとも1つのアミノシラン、
および
−少なくとも1つの表面活性化合物(OV)との反応により製造した。
【0143】
特に好適なアミノシラン(VII)は、ビス(2−エチルトリメトキシシリル)−アミン、ビス(3−プロピルトリメトキシシリル)アミン、ビス(4−ブチルトリメトキシシリル)アミン、ビス(2−エチルトリエトキシシリル)アミン、ビス(3−プロピルトリエトキシシリル)アミンおよび/またはビス(4−ブチルトリエトキシシリル)アミンである。ビス(3−プロピルトリメトキシシリル)アミンが特に好適である。この種類のアミノシランは、たとえば商標名DYNASYLAN(登録商標)1124でDEGUSSAから入手可能であるか、またはSilquest(登録商標)でOSI Specialities Inc.から入手可能である。
【0144】
この成分(D1)の製造に好適なジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネート(PI)は、それ自体公知の、置換または非置換芳香族、脂肪族、脂環式および/または複素環式ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートである。好適なジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートの例としては:2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニレンジイソシアネート、テトラメチレン1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン1,6−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン1,6−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2−イソシアネートプロピルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン2,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、1,4−または1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−または1,3−または1,2−ジイソシアナートシクロヘキサン、2,4−または2,6−ジイソシアナート−1−メチルシクロヘキサン、商品名DDI1410でHenkelより販売されている種類の二量体脂肪酸由来のジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、1,12−ドデカンジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン1,4−ジイソシアネート、パーヒドロジフェニルメタン2,4’−ジイソシアネート、4,4’−メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート(例えば、Bayer AGのDesmodur(登録商標)W)、テトラメチルキシリルジイソシアネート(例えば、American CyanamideのTMXDI(登録商標))および前記ポリイソシアネートの混合物が挙げられる。さらに、好適なポリイソシアネートは、前記ジイソシアネートのビウレット二量体およびイソシアヌレート三量体である。
【0145】
特に好適なポリイソシアネート(PI)は、ヘキサメチレン1,6−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよび4,4’−メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート、それらのビウレット二量体および/またはイソシアヌレート三量体である。
【0146】
本発明のもう一つ別の実施形態において、ポリイソシアネート(PI)は、ウレタン構造単位を有するポリイソシアネートプレポリマーであり、これは、ポリオールを化学量論的に過剰の前記ポリイソシアネートと反応させることにより得られる。この種類のポリイソシアネートプレポリマーは、たとえばUS−A−4,598,131に記載されている。
【0147】
特に好適な成分(D1)は、ヘキサメチレン1,6−ジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネート、および/またはそれらのイソシアヌレート三量体の、ビス(3−プロピルトリメトキシシリル)アミンおよび表面活性化合物(OV)としての前記式(III)の少なくとも1つのヒドロキシル含有ポリシロキサンとの反応生成物である。
【0148】
ポリイソシアネートのアミノシランとの反応を、好ましくは100℃以下、好ましくは60℃以下の温度で、不活性ガス雰囲気中で行う。
【0149】
ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートのアミノシラン(VII)との反応において、好ましくは少なくとも50モル%、さらに好ましくは少なくとも70モル%、および98モル%以下、特に99モル%以下の、ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネート(PI)のイソシアネート基が反応して構造単位(VI)を形成する。残りのイソシアネート基を次いで好適な表面活性化合物(OV)と反応させる。しかし、まずジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートの一部を好適な表面活性化合物(OV)と反応させ、続いてアミノシランとの反応を行うことも可能である。最後に、すべての化合物の相互の併発反応(in situ方法)も可能である。
【0150】
ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートの量ならびにアミノシラン(VII)および表面活性化合物(OV)の量は、好ましくは成分(D1)が平均で50モル%未満の遊離イソシアネート基を有するように選択される。
【0151】
表面活性な化合物(OV)を典型的には各場合で用いられる成分(D1)の量に対して0.05〜50質量%の量、好ましくは0.1〜10質量%の量で使用する。
【0152】
成分(D1)は典型的には、少なくとも部分的に架橋したコーティングの特性に関して目的の制御を果たすために十分な量で用いられる。本発明のコーティング剤の割合としての成分(D1)の割合は、各場合のコーティング剤の不揮発性物質含有量に対して、好ましくは0.1〜35質量%、さらに好ましくは0.5〜15質量%、非常に好ましくは1〜10質量%である。
【0153】
架橋性成分(D2)
架橋性成分(D2)として、コーティング剤において典型的に用いられるすべてのフィルム形成物質を使用することが可能である。特定の表面活性な成分(D1)の添加の結果として、これらのコーティング剤を、結果として得られるコーティングの表面特性をすでに記載した目的の方法で設定できるような方法で修飾する。
【0154】
成分(D2)として、成分(D1)の架橋性基とおよび/またはそれら自身と適切であれば触媒作用のもとおよび/または架橋剤(VM)を用いてノードを形成できる成分を使用することが可能である。
【0155】
架橋性成分(D2)を選択する場合、コーティング剤が硬化したら、好ましくは、加水分解に不安定なSi−N−Cおよび/またはSi−O−Cノードがごくわずかしか形成されないか、または全く形成されないはずである。
【0156】
したがって、成分(D2)として、1以上の二重結合を含むオリゴおよび/またはポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル−官能性(メタ)アクリルコポリマー、ポリエーテル(メタ)アクリレート、不飽和ポリエステル、アミノ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートおよび/またはシリコーン(メタ)アクリレート、好ましくはポリウレタン(メタ)アクリレートおよび/またはポリエステル(メタ)アクリレートを用いることが可能であり、これらは二重結合に加えて適切であれば、カーバメート、ビウレット、アロファネート、アミド、尿素、ヒドロキシル、カルボキシルおよび/またはエポキシド基も有し得る。
【0157】
ウレタン(メタ)アクリレートを当業者に周知の方法で、ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートから、イソシアネート基に対して反応性である基を含む少なくとも1つの化合物から、そしてイソシアネート基に対して反応基である基を含み、さらに少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む少なくとも1つの化合物から製造でき、製造は成分を任意の順序で、適切であれば高温で混合することにより行う。
【0158】
特に、まずジイソシアネートまたはポリイソシアネートを導入し、次いで少なくとも1つのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたは他のエチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルを添加することによりウレタン(メタ)アクリレートを得、その結果としてイソシアネート基の一部をまず反応させる。続いて、ジオール/ポリオールおよび/またはジアミン/ポリアミンおよび/またはジチオール/ポリチオールおよび/またはアルカノールアミンの群からの鎖延長剤を添加し、このようにして残りのイソシアネート基を鎖延長剤と反応させる。
【0159】
ウレタン(メタ)アクリレートに加えて好適なポリエステル(メタ)アクリレートは原則として当業者に既知である。これらは様々な方法により製造できる。たとえばポリエステルを合成する場合、アクリル酸および/またはメタクリル酸を酸成分として直接使用できる。別の可能性は、ポリエステルを合成する場合、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルをアルコール成分として直接使用することである。しかし、好ましくはポリエステル(メタ)アクリレートをポリエステルのアクリル化により製造する。一例として、ヒドロキシル基含有ポリエステルをまず合成することができ、これを次にアクリル酸またはメタクリル酸と反応させる。カルボキシル基含有ポリエステルをまず合成し、これを次いでアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステルと反応させる。未反応(メタ)アクリル酸を、たとえば洗浄、蒸留、または好ましくはトリフェニルホスフィンなどの好適な触媒を用いて等量のモノエポキシドまたはジエポキシド化合物と反応させることにより、反応混合物から除去できる。ポリエステルアクリレートの製造のさらなる詳細については、DE−A3316593およびDE−A3836370ならびにEP−A−54105、DE−B2003579、およびEP−B−2866を特に参照できる。
【0160】
これもまた好適であるポリエーテル(メタ)アクリレートも同様に原則として当業者に既知である。これらは様々な方法により製造できる。たとえば、アクリル酸および/またはメタクリル酸でエステル化されるヒドロキシル基含有ポリエーテルと、二価および/または多価アルコールを様々な量のエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドとを周知の方法(例えば、Houben−Weyl,volume XIV,2,Makromolekulare Stoffe[Macromolecular compounds]II、(1963)を参照)にしたがって反応させることにより得られる。テトラヒドロフランまたはブチレンオキシドの重合生成物を使用することも可能である。
【0161】
さらに、エポキシ(メタ)アクリレートも当業者に周知であり、したがって詳細な説明は必要ない。これらは典型的には、アクリル酸のエポキシ樹脂との付加反応、たとえばビスフェノールAベースのエポキシ樹脂、または他の商業的に一般的なエポキシ樹脂との付加反応により製造される。
【0162】
特に、架橋性成分(D2)は、1以上のバインダー(BM)および適切であれば1以上の架橋剤(VM)から構成される。
【0163】
バインダー(BM)は好ましくは放射線架橋性基、特にエチレン性不飽和基、たとえばアクリレートおよび/またはメタクリレート基、および/または熱架橋性基、たとえばヒドロキシル基、カーバメート基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシルおよび/またはアンヒドリド基、好ましくはヒドロキシル基および/またはカーバメート基および/またはアクリレートおよび/またはメタクリレート基を含むオリゴマーおよび/またはポリマー化合物から選択される、および/または架橋剤(VM)はアミノ樹脂、非ブロック化ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネート、ブロック化ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネート、ポリエポキシド、ポリカルボン酸、ポリアンヒドリドおよびポリオールからなる群から選択される。
【0164】
熱硬化性基、より詳細にはヒドロキシルおよび/またはカーバメート基を含むポリウレタンおよび/またはポリ(メタ)アクリレートおよび/またはポリエステルをベースとするバインダー(BM)を特に使用する。
【0165】
バインダーは、典型的にはポリスチレン標準に対してゲル透過クロマトグラフィーにより測定すると、500〜20000、特に500〜4000の数平均分子量を有する。
【0166】
OH基含有バインダーのOH価は、それぞれの場合でDIN EN ISO 4629,07.1998 editionにしたがって測定すると、好ましくは50〜500mgKOH/gの間、特に70〜250mgKOH/gの間である。
【0167】
カーバメート基を含むバインダーは、典型的には250〜700g/当量、特に250〜500g/当量の算術的カーバメート当量(CEW)を有する。
【0168】
バインダー(BM)として、たとえば以下の共重合により得られる(メタ)アクリレートコポリマーを使用する:
(a1)10〜80質量%、好ましくは20〜60質量%の3−ヒドロキシプロピルアクリレートまたは3−ヒドロキシプロピルメタクリレートまたは2−ヒドロキシプロピルアクリレートまたは2−ヒドロキシプロピルメタクリレートまたは2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートまたは4−ヒドロキシ−n−ブチルアクリレートまたは4−ヒドロキシ−n−ブチルメタクリレートまたはこれらのモノマーの混合物、
(b1)0〜30質量%、好ましくは0〜15質量%のアクリル酸の非(a1)ヒドロキシル含有エステルまたはメタクリル酸のヒドロキシル含有エステルまたはこのようなモノマーの混合物、
(c1)0〜90質量%、好ましくは10〜70質量%の、アルコール残基中に少なくとも4個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸の非(a1)および非(b1)脂肪族もしくは脂環式エステルまたはこのようなモノマーの混合物、
(d1)0〜3質量%、好ましくは0〜2質量%のエチレン性不飽和カルボン酸またはエチレン性不飽和カルボン酸の混合物、および
(e1)0〜50質量%、好ましくは0〜35質量%のビニル芳香族化合物および/または非(a1)、非(b1)、非(c1)、および非(d1)エチレン性不飽和モノマーまたはこれらのモノマーの混合物
(ただし、成分(a1)、(b1)、(c1)、(d1)および(e1)の質量分率の合計は常に100質量%になる)。
【0169】
架橋剤(VM)は特に、アミノ樹脂、非ブロック化ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、ポリエポキシド、ポリカルボン酸、ポリアンヒドリドおよびポリオールからなる群から選択される。
【0170】
好適なアミノ樹脂は、典型的な既知のアミノ樹脂であり、そのメチロールおよび/またはメトキシメチル基の一部がカーバメートまたはアロファネート基により脱官能化されうるものである。この種類の架橋剤は、特許US−A−4710542およびEP−B−0245700、ならびにB.Singh and coworkers,"Carbamylmethylated Melamines,Novel Crosslinkers for the Coatings Industry"in Advanced Organic Coatings Science and Technology Series,1991,volume 13,pages 193 to 207に記載されている。
【0171】
他の好適な架橋剤(VM)は、好ましくは成分(C)の触媒作用のもとでそれら自身と反応するエポキシ樹脂であり、高い風化安定性を有する脂肪族エポキシ樹脂が特に好適である。この種類のエポキシ樹脂は、たとえばB.Ellis著のモノグラフ"Chemistry and Technology of Epoxy Resins"(Blackie Academic & Professional,1993,Pages 1 to 35)に記載されている。
【0172】
架橋剤(VM)として、ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートを使用することが好適である。好適なジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートの例は、成分(D1)に関して前述したジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートである。脂肪族および/または脂環式ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネートを使用することが好ましい。
【0173】
イソシアネートを1K(一成分)コーティング材料に使用する場合、イソシアネートを当業者に既知の方法でブロッキング剤と反応させ、当業者にはわかるように、ブロッキング剤の選択は特に所望の硬化温度により誘導される。
【0174】
一般的に言えば、成分(D2)を、コーティング剤の不揮発性物質に対して、50〜99.8質量%、好ましくは80〜99.4質量%、さらに好ましくは85〜98.5質量%の割合で用いる。
【0175】
バインダー(BM)を、典型的にはコーティング剤の不揮発性物質に対して1〜70質量%、好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは20〜45質量%の割合で用いる。
【0176】
架橋剤(VM)を、典型的にはコーティング剤の不揮発性物質に対して1〜70質量%、好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは25〜55質量%の割合で用いる。
【0177】
コーティング剤(B)のさらなる構成成分
コーティング剤(B)は好ましくは成分(D1)の反応基の架橋のため、特にシラン基の架橋のための1以上の触媒(C)をさらに含む。
【0178】
シラン基またはアルコキシシラン基の架橋のための触媒(C)として、原則としてそれ自体既知の化合物を用いることが可能である。例として、ルイス酸(電子欠損化合物)、たとえばナフタレン酸スズ、安息香酸スズ、オクタン酸スズ、酪酸スズ、ジラウリン酸ジブチルスズ、二酢酸ジブチルスズ、酸化ジブチルスズおよびオクタン酸鉛等が挙げられる。しかし、これらの化合物は毒性に関して問題がある。特に、シラン架橋について有効な量を使用する場合、この種の触媒は、特にオーバーベークすると、すなわち比較的高い温度、例えば160℃での架橋で黄変の傾向を示す。しかし、このようなオーバーベークに対する安定性は、ライン生産におけるOEMクリアコート材料の使用についての必要条件である。他の毒物学的問題が少ない触媒は、アルミニウムまたは亜鉛系キレートリガンドとの金属錯体であり、その例は、WO−A−2006/042585、10ページ、4〜21行に記載されている触媒である。これらの触媒もオーバーベークに際して黄変の傾向を示し、したがって可能な限り本発明の処方において使用するべきではない。
【0179】
毒物学的特性およびオーバーベーク試験における黄変に関しては、本発明ではリン酸誘導体系触媒が好ましい。
【0180】
したがって、触媒(C)として非環状ホスホン酸ジエステル、環状ホスホン酸ジエステル、非環状ジホスホン酸ジエステル、および環状ジホスホン酸ジエステル、ならびに置換リン酸モノエステルおよびリン酸ジエステルからなる群から、好ましくは非環状リン酸ジエステルおよび環状リン酸ジエステル、または対応するアミンブロック化エステルからなる群からの置換ホスホン酸ジエステルおよびジホスホン酸ジエステルを特に使用する。好適なリン触媒は、たとえば未公開のドイツ国特許出願DE P102005045228.0−44に記載されている。
【0181】
対応する置換リン酸モノエステルおよびリン酸ジエステル、好ましくは非環状リン酸ジエステルおよび環状リン酸ジエステルからなる群からのものを使用するのが好適である。
【0182】
本発明における非環状ホスホン酸ジエステル(C)は、特に一般式(VIII):
【化5】

【0183】
[式中、基R10およびR11は互いに類似しているか、または異なり、好ましくは類似している]の非環状ホスホン酸ジエステル(C)からなる群から選択される。
【0184】
基R10およびR11は:
1〜20、好ましくは2〜16、特に2〜10個の炭素原子を有する置換および非置換アルキル、3〜20、好ましくは3〜16および特に3〜10個の炭素原子を有するシクロアルキル、ならびに5〜20、好ましくは6〜14および特に6〜10個の炭素原子を有するアリール、
置換および非置換アルキルアリール、アリールアルキル、アルキルシクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アリールシクロアルキル、シクロアルキルアリール、アルキルシクロアルキルアリール、アルキルアリールシクロアルキル、アリールシクロアルキルアルキル、アリールアルキルシクロアルキル、シクロアルキルアルキルアリール、およびシクロアルキルアリールアルキル(これらが含むアルキル、シクロアルキルおよびアリール基はそれぞれ前記の数の炭素原子を含む)、および
少なくとも1個、特に1個の、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子およびケイ素原子、特に酸素原子、硫黄原子および窒素原子からなる群から選択されるヘテロ原子を含む前記種類の置換および非置換基
からなる群から選択される。
【0185】
一般式(VIII)の非環状ホスホン酸ジエステル(C)、特に一般式(VIII)の基R10およびR11は、フェニル、メチルおよびエチルからなる群から選択されるものを使用することが好適である。非常に好適な一般式(VIII)のホスホン酸ジエステル(C)の一例はホスホン酸ジフェニルであり、これは場合によっては当業者により(完全に正しくはないが)亜リン酸ジフェニルとも呼ばれる。
【0186】
触媒(C)として特に好適に使用されるのは、対応する置換リン酸モノエステルおよびリン酸ジエステル、好ましくは非環状リン酸ジエステルおよび環状リン酸ジエステルからなる群からのものである。
【0187】
これらの非環状リン酸モノエステルおよびジエステル(C)は、特に一般式(IX):
【化6】

【0188】
[式中、R10およびR11は前記定義のとおりであり、加えて水素を表すこともある(部分エステル化)]の非環状リン酸モノエステルおよびジエステル(C)からなる群から選択される。
【0189】
特に好適なリン酸エステル(C)の例は、アミンブロック化リン酸エステル、特にアミンブロック化リン酸エチルヘキシルおよびアミンブロック化リン酸フェニルである。
【0190】
リン酸エステルをブロックするために使用されるアミンに関する限り、トリエチルアミンが特に好適である。あるアミンブロック化リン酸触媒も商業的に入手可能である。一例として、リン酸のアミンブロック化部分エステルの特に好適な触媒として、King IndustriesによりNacure 4167の称号で販売されている物質について言及する。
【0191】
触媒(C)を、典型的にはコーティング剤の不揮発性物質に対して0.1〜15質量%、好ましくは0.5〜5質量%の割合で使用する。
【0192】
コーティング剤は、典型的には溶媒(L)をさらに含む。特に好適な溶媒は、コーティング剤内で他の成分に対して化学的に不活性であり、コーティング剤が硬化する場合にも反応しない非プロトン性溶媒である。この種類の溶媒の例は、脂肪族および/または芳香族炭化水素、たとえばトルエン、キシレン、Solventnaphtha(登録商標)、Solvesso100またはHydrosol(登録商標)(ARAL)、ケトン、たとえばアセトン、メチルエチルケトンまたはメチルアミルケトン、エステル、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチルまたはエトキシプロピオン酸エチル、エーテルまたは前記溶媒の混合物である。非プロトン性溶媒または溶媒混合物は、溶媒に対して好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下の水分量を有する。
【0193】
本発明のコーティング剤は、典型的な助剤および添加剤、たとえば成分(D1)および(D2)を架橋するための触媒、消泡剤、接着促進剤、基体湿潤性を向上させるための添加剤、表面平滑性を向上させるための添加剤、つや消し剤、光安定剤、好ましくはUV吸収剤および/またはHALS、腐食防止剤、殺生物剤、難燃剤または重合阻害剤、たとえば"Lackadditive(コーティングの添加剤)"by Johan Bielemann,Wiley−VCH,Weinheim,New York,1998に詳細に記載されているものを典型的な量、特にコーティング剤の合計質量に対して最高5質量%までの量でさらに含むことができる。
【0194】
特に好適なコーティング剤は、他の非架橋表面活性物質の量、すなわち成分(D1)を除く表面活性物質の量ができるだけ低く保たれている場合に得られる。特に、これらの他の非架橋表面活性物質の量は、それぞれの場合のコーティング剤の合計質量に対して0.5質量%未満、さらに好ましくは0.1質量%未満である。このような他の非架橋表面活性物質の例として、特に典型的な均展添加剤等が挙げられる。
【0195】
効果付与及び/又は色付与性の多層塗装系
本発明のコーティング剤は、装飾用、保護用および/または効果付与、高擦過耐性コーティングおよび塗装系として、特に、OEMおよび補修セグメントにおいて輸送手段の本体またはその部分(特に動力車、例えばバイク、バスまたは自動車、商用車、例えば農機具およびトラック、さらには航空機建造および造船、ならびに内部および外部車体部品);建物(内装および外装の両方);家具、窓、および扉;プラスチック成形品、特にCDおよび窓;小さな工業用部品、コイル、容器、およびパッケージング;白色物品;フィルム;光学、電気、および機械部品;ならびに中空ガラス製品および日用品上の効果付与及び/又は色付与性の多層塗装系の透明コーティングとして非常に好適である。
【0196】
本発明のコーティング剤および塗装系、特にクリアコートは、特に自動車量産塗装の技術的および美観的に特に要求が厳しい分野において用いられる。本発明のコーティング剤は、多段コーティング法において、特に少なくとも1つの顔料着色コーティング剤をプレコーティングされた基体またはプレコーティングされていない基体に塗布し、その後、結果として得られた顔料着色コーティングの少なくとも一部に透明コーティング剤を塗布し、硬化させる方法(透明コーティングは本発明のコーティング剤から製造される)において特に好適に使用される。
【0197】
これらの方法は特に自動車量産塗装および/または商用車塗装および/または補修塗装において、内部もしくは外部車体部品または造船もしくは航空機建造用部品、または家庭用品および電気器具の部品、あるいはプラスチック成形品またはフィルムのコーティングに用いられる。
【0198】
したがって、少なくとも1つの顔料着色コーティングおよび、その上の透明コーティングから構成される多層塗装系も好適であり、透明コーティングは本発明のコーティング剤から製造される。
【0199】
この場合に用いられる顔料着色コーティングは、一般的に物理的または熱的および/または化学線を用いて硬化させることができる水性または溶媒性顔料着色コーティング剤のいずれかを用いて製造する。
【0200】
顔料着色コーティング剤は典型的には
(I)1以上の溶媒および/または水
(II)1以上のバインダー、好ましくは1以上のポリウレタン樹脂および/またはアクリレート樹脂および/またはポリエステル樹脂、さらに好ましくは少なくとも1つのポリウレタン樹脂、
(III)適切であれば少なくとも1つの架橋剤、
(IV)1以上の顔料、特に効果顔料および/または着色顔料、および
(V)必要であれば1以上の典型的な助剤および添加剤
を含む。
【0201】
本発明において好適なバインダーは、自動車産業部門でベースコートにおいて典型的に用いられるポリウレタン樹脂、アクリレート樹脂およびポリエステル樹脂であり、本発明の方法のバインダーの特性、ひいては適合性は、当業者に既知の方法で、これらのバインダーの製造に用いられる合成成分の性質および量の選択により管理される。
【0202】
ポリウレタン樹脂を、適切であれば1以上のポリアクリレート樹脂および/または1以上のポリエステル樹脂と組み合わせて用いることが好適である。
【0203】
好適な顔料着色コーティング剤(ベースコート材料)は、たとえばEP−A−0 692 007に記載されており、この文献の3段、50行以下を参照されたい。
【0204】
本発明のコーティング剤は、通常の塗布法、たとえば噴霧、ナイフコーティング、展着、注入、浸漬、含浸、滴下またはローリングにより塗布できる。コーティングされる基体それ自体は静止していてもよく、塗布装置またはユニットを移動させる。別法として、コーティングされる基体、特にコイルを移動させることができ、塗布ユニットを基体に対して固定するか、または適切な方法で移動させる。噴霧塗布法、たとえば圧縮空気噴霧、無気噴霧、高速回転、静電噴霧塗装(ESTA)が選択され、適切であればホットスプレー塗布、たとえばホットエアスプレーと併用する。
【0205】
本発明の塗布されたコーティング剤の硬化は、ある一定の静止時間後に起こり得る。この静止時間はたとえばコーティングフィルムの平滑化および脱気のため、または揮発性構成成分、たとえば溶媒の蒸発化に役立つ。コーティングフィルムにおける損傷または変化、たとえば早期の完全な架橋を伴わないならば、高温および/または低湿度の塗布により静止時間を短縮および/または促進できる。
【0206】
放射線硬化性フィルム形成物質の場合、硬化は当業者に既知の方法で、放射線により、特にUV放射線により起こる。100〜6000、好ましくは200〜3000、さらに好ましくは300〜2500、特に好適には500〜2000mJcm-2の放射線量を使用するのが好適である。照射は、低酸素雰囲気下で行うことができる。「低酸素」とは、雰囲気中の酸素含有量が、空気中の酸素含有量(20.95容量%)よりも低いことを意味する。原則として、雰囲気は無酸素であってもよく、すなわち不活性気体を含んでもよい。しかし、酸素の抑制効果がないために、結果として放射線硬化が急に促進される可能性があり、場合によって不均等性およびストレスに至る。したがって、雰囲気の酸素含有量を0容量%まで低下させないことが有利である。
【0207】
コーティング剤の熱硬化の方法に関して特別なことはなく、むしろ、たとえば強制空気オーブン中またはIRランプを用いた照射などの典型的な既知方法にしたがって行う。この熱硬化はまた、段階的に起こり得る。もう1つ別の好適な硬化法は、近赤外(NIR)放射線を用いた硬化法である。熱硬化は有利には50〜200℃、さらに好ましくは60〜190℃、特に80〜180℃の温度で、1分から最高5時間まで、さらに好ましくは2分から最高2時間まで、特に3分から90分まで行う。
【0208】
本発明のコーティング剤は、新規硬化コーティング、特に表面コーティング、特にクリアコート、成形品、特に光学成形品、および自立性フィルムを生成させ、これらはすべて高擦過耐性であり、特に化学物質および風化に対して安定である。特に、本発明のコーティングおよび表面コーティング、特にクリアコートを、>40μmの層厚でも、応力亀裂が起こることなく製造できる。
【0209】
コーティングの特性の制御方法
さらに本発明にしたがって、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)の特性を制御する方法を提供し、ここでコーティング(K)は、表面付近コーティング領域(K1)および体積コーティング領域(K2)から構成され、コーティング(K)は、少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤から製造され、成分(D1)の少なくとも一部は、1以上の表面活性な構造単位(O)を有する;ここで
(i)成分(D1)から形成されるネットワーク(N1)の架橋密度は、成分(D2)から形成されるネットワーク(N2)の架橋密度よりも高く、また
(ii)成分(D1)から形成されるネットワーク(N1)の架橋密度の、成分(D2)から形成されるネットワーク(N2)の架橋密度に対する比により、コーティングの特性を制御する。
【0210】
すでに観察されたように、表面付近のコーティング領域(K1)は、少なくとも部分的に架橋した成分(D1)により実質的に形成され、体積コーティング領域(K2)は少なくとも部分的に架橋した成分(D2)により形成される。
【0211】
コーティング(K)の特性の決定
本発明の硬化したコーティング、特に表面コーティング、特にクリアコートは、高擦過耐性であり、特に、化学物質および風化に対して安定である。特に、本発明のコーティングおよび表面コーティング、特にクリアコートを、>40μmの膜厚さでも応力亀裂が起こることなく製造することができる。
【0212】
このように、本発明の硬化コーティング、好ましくは色付与および/または効果付与性の多層塗装系の対応する透明コーティングは、非常に良好な微小貫入硬度について注目すべきである。これらの硬化コーティングは、好ましくは90N/mm2、特に少なくとも100N/mm2、非常に好ましくは少なくとも110N/mm2の微小貫入硬度を有する。この微小貫入硬度は、40μmの乾燥フィルム層厚を有し、微小貫入硬度を測定する前に140℃で22分間乾燥させ、25℃で5日間貯蔵したコーティングに関して測定する。微小貫入硬度はDIN EN ISO 14577にしたがって、Fischerから入手したFisherscope装置を用いて、最大力25.6mNで測定した。
【0213】
本発明の硬化したコーティングは特に改善された乾燥耐擦過性に注目すべきである。乾燥耐擦過性は、クロックメーター試験(9μmペーパーグレード)を用いて測定した。これはEN ISO 105−X 12の線に沿って操作し、10往復こすった後に20°で光沢の損失を評価することにより行った。本発明のコーティング剤は塗装された自動車車体上の露出部分の擦過耐性処理にも好適である。
【0214】
化学的表面特性、特に化学的不均一性の傾斜は、光電子分光法(XPS)により(傾斜の検出のための情報深さは出口角変動またはスパッタ深さ分析により変動する)、透過電子顕微鏡法をEDX(エネルギー分散X線分光分析)と併用し決定する。
【0215】
すべてのXPS測定は、Physical Electronicsから入手したスモールスポット分光計(モデル同定PHI5600LS)で行った。X線は常にMg管を用いて生成させた(1253.6keV)。光電子の検出(23.5eVのパスエネルギー)は、原子濃度を測定するために次のボンドレベルを使用した:Siについては2pレベル、Oについては1sレベル、Cについても1sレベル。光電子の検出角、すなわち試料表面と電子分光計の前面の電子レンズの軸との間の角度を変えることにより、測定シグナルが発生する深さ(情報深さ)は変化した:5°で情報深さは約1.2nm(XPS(Si)1.2nm)、45°で約10nm(XPS(Si)10nm)。45°の検出角で、測定部分は800μmの直径を有し、5°で対応した楕円拡大があった。表面に対して平行に、表面下約10μmで、ミクロトームを用いて薄片を製造した後、物質中の比較深さで基準値を得ることができる(XPS(Si)10μm)。
【0216】
光電子分光法の結果をさらに特徴付けるために、以下の用語体系を使用する:
XPS(Si)1.2nmは、コーティング物質の表面から1.2nmの情報深さから測定された、検出された原子(この場合はケイ素)の割合を表す。記載された情報深さでXPSにより検出可能な原子種の総計を100%と記載する。当業者にはわかるように、例えば、水素はXPSにより検出できない。
【0217】
対応する完全体系を有する鋼製パネルから出発して薄片を製造した。市販の電動回転式ミクロトームRM2155型(Leica Mikrosysteme(Bensheim)から入手可能)を用いてミクロトーム片を製造した。切断前に、所望の厚さをまず設定した。次に、各金属パネルを固定した。実際の操作段階においては、回転式ミクロトームを各金属パネル全体にわたって作動させた。結果として得られた薄片をさらなる調査のために使用した。
【0218】
たとえばHysitron Inc.から入手したTribolndenter(登録商標)ナノインデンテーション装置を用いたナノインデンテーションにより局所および深さ分解能に関して物理的機械的特性を決定することもできる。この試験の実験実装は次のようにして行う:使用した圧子は、非常に鋭い先端(半径<100nm)を有するBerkovich形状のダイアモンド三角錐(開口角142.3°)である。この物体を次にコーティングの表面中に10秒間、力を直線的に最大5mNまで増加させつつ、1μmから1.5μmの間の侵入深さで押し込み、その位置でさらに30秒間最大力のもとで保持し、次の10秒以内に直線的に力を減少させつつ表面から引き抜く。結果として得られる力対侵入深さのデータセットから、OliverおよびPharrの既知アルゴリズム(W.C.Oliver,G.M.Pharr,Journal of Materials Research. 7(1992),1565,G.M.Pharr,Materials Science and Engineering A 253(1998)、151を参照)を用いて分析物質の機械的データを局所的分解能に関して決定する。
【図面の簡単な説明】
【0219】
【図1】図1は、表面付近コーティング領域(K1)および体積コーティング領域(K2)から構成される少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)を示す。
【図2】図2は、実施例1および比較例V2およびV3のコーティングについてのSi/C原子比を示す。
【0220】
実施例
1.1.付加物(AV1)の製造
スターラー、環流冷却器、油加熱器および窒素注入チューブを備えた反応容器に、456.38質量部の工業用ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート(Bayer AGのDesmodurN3600)を入れた。このイソシアヌレートの初期溶液に、撹拌しながら815.62質量部のN,N−ビス(3−トリメトキシシリルプロパン−1−イル)アミン(DegussaのDynasylan(登録商標)1124)を添加した。続いて撹拌を55℃でさらに2時間行った。その後、 遊離イソシアネート基はもはやIR分光法により検出できなかった。結果として得られた化合物(AV1)の固形分は79%であった。
【0221】
1.2.表面修飾付加物(A1)の製造
スターラー、環流冷却器、油加熱器および窒素注入チューブを備えた反応容器に、100質量部の工業用ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート(Bayer AGのDesmodur N3600)を添加した。このイソシアヌレートの初期溶液に、撹拌しながら、15質量部のカルビノール官能性シロキサン(GE−Bayer SiliconesのBaysilone(登録商標)OF 502 6%)の、3.75質量部の工業用芳香族溶媒Solventnaphta(登録商標)中溶液をゆっくりと添加した。添加後、反応混合物を55℃に加熱し、55℃でさらに2時間撹拌した。次に、172.5質量部のN,N−ビス(3−トリメトキシシリルプロパン−1−イル)アミン(DegussaのDynasylan(登録商標)1124)を混合物にゆっくりと撹拌しながら添加した。撹拌を55℃でさらに2時間行った。その後、遊離イソシアネート基はIR分光法でもはや検出されなかった。結果として得られた化合物(A1)の固形分は80.8%であった。用いられる反応物質の表面張力および付加物A1の表面張力をリング法により決定した。得られた結果を下記の表にまとめる:
【表1】

【0222】
1.3.アミンブロック化リン酸エステル系触媒(C1)の製造
滴下漏斗および環流冷却器を備えたリアクターに、43.2質量部のリン酸フェニルおよび39.2質量部のメトキシプロピルアセテートを添加し、この初期チャージを均質化した。続いて、冷却し、撹拌しながら、17.6質量部のトリエチルアミンを、温度が60℃を超えないような速度で滴下した。トリエチルアミンの添加後、反応混合物をさらに2時間室温で撹拌した。結果として得られる反応生成物の固形分は50.0%であった。
【0223】
1.4.ヒドロキシル含有ポリアクリレート(PAC1)の製造
窒素でフラッシュし、冷却器を取り付けたリアクターに、30.4質量部のSolventnaphta(登録商標)を添加し、この初期チャージを撹拌しながら140℃まで加熱した。これと平行して、2つの別個のフィード流れを製造した。フィード流れ1は、13.9質量部のスチレン、26.7質量部のブチルアクリレート、15.0質量部のヒドロキシエチルアクリレート、および1.4質量部のアクリル酸からなっていた。フィード流れ2は、5.9質量部のSolventnaphta(登録商標)および1.30質量部のペルオキシドDTBP(=ジ−tert−ブチルペルオキシド)からなっていた。140℃の温度に達したら、フィード流れ2をゆっくりかつ均一に285分にわたって計り入れた。フィード流れ2の開始から15分後に、フィード流れ1をゆっくりかつ均一に240分にわたってリアクター中に計り入れた。フィード流れ2の計量終了後、反応混合物を後重合のために140℃でさらに120分間撹拌した。結果として得られた生成物の固形分は60%、酸価は、19mgKOH/g、OH価は128mgKOH/g(それぞれの場合固体基準)および粘度は23℃で9.5dPa・sであることが判明した。
【0224】
1.5.アクリレート系レオロジー助剤の製造
32.02質量部のSolventnaphta(登録商標)中、25.67質量部のスチレン、22.30質量部のn−ブチルアクリレート、13.87質量部の2−ヒドロキシエチルアクリレート、1.41質量部のエタクリル酸、0.870質量部のラウリルメタクリレート(MA−13、Degussaから入手可能)から、メタクリレートコポリマーを製造する。
【0225】
84.7質量部の結果として得られるメタクリレートコポリマー、5.88質量部の酢酸ブチル、2.24質量部のベンジルアミン、および1.76質量部のヘキサメチレンジイソシアネートを、3.42質量部の酢酸ブチル中溶液に使用し、尿素修飾アクリレート系レオロジー助剤を製造し、これは59%の固体を有していた。
【0226】
2.一成分(1K)クリアコート材料1〜6の製造
1Kクリアコート材料を製造するために、第1表に記載した原材料を表示した量で順番に組み合わせ、均質化した。
【0227】
第1表:比較例V1、V2、V3、およびV4ならびに本発明の実施例1および2の1Kクリアコート材料の組成
【表2】

【0228】
第1表の脚注
1):Luwipal 018 BX=BASF AGの工業用の部分的にブタノール−エーテル化されたメラミン−ホルムアルデヒド樹脂、n−ブタノール/キシレン(2:1)中64〜68%
2):Desmodur PL350=Bayerの工業用脂肪族ブロック化イソシアネート、1−メトキシプロプ−2−イルアセテート/Solventnaphta(登録商標)(11/14)中75%
3):1−メトキシプロプ−2−イルアセテート−2およびSolventnaphta(登録商標)(11:14比)からなる溶媒混合物
4):Byk(登録商標)310=Byk−Chemie GmbH、Weselのポリエステル修飾ポリジメチルシロキサンのキシレン中25%強度溶液ベースの工業用均展添加剤
5):Baysilon OL17=Borchers GmbHの工業用均展添加剤
6):Tinuvin(登録商標)5941−R=Ciba Speciality Chemicals Inc.の異なる光安定剤の工業用混合物
7):Tinuvin(登録商標)292=Ciba Speciality Chemicals Inc.の立体的に遮蔽されたアミン(HALS)系工業用光安定剤
8):Solvesso150=工業用溶媒混合物
9):Nacure4167=King Industriesのリン酸のアミン−ブロック化部分エステルベース系工業用触媒
10):固形分65%、酸価3mgKOH/g(固体ベース)および23℃での粘度3dPa・sのアクリレート系均展剤
3.コーティングの製造
典型的な既知カソード蒸着・熱硬化エレクトロコート、典型的な既知熱硬化サーフェーサーコート、およびBASF Coatings AGの工業用従来型黒色ベースコート材料のフィルムでそれぞれコーティングし、80℃で10分間の初期乾燥に付しておいた金属試験パネルに、第1表の各1Kクリアコート材料を塗布した。ベースコートフィルムおよびクリアコートフィルムを一緒に140℃で22分間硬化させた。結果として得られるベースコートは層厚が7.5μmであり、クリアコートは層厚が40μmであった。
【0229】
4.結果として得られるコーティングの特性の調査
表面はすべて、高光沢およびきわめて優れた外観を有するものであった。結果として得られる表面の乾燥耐擦過性をクロックメーター試験(9μmペーパーグレード)により決定した。これは、EN ISO 105−X12の線に沿って操作し、10往復こすった後に20°で光沢の損失を評価することにより行った。さらに、Erichsen GmbH & Co.KG,Hemer−Sundwigの299/300モデルを用いて、Koenig振り子減衰を調べた。記載した数字は揺れの数である。Helmut Fischer GmbH & Co.のフィッシャースコープ装置(最大力25.6mN)を用いてDIN55676にしたがって微小貫入硬度を決定した。結果を第2表に記載する。
【0230】
第2表:クロックメーター試験結果、微小貫入硬度、およびKoenig振り子減衰(揺れの数)
【表3】

【0231】
結果は、表面修飾付加物(A1)を触媒(C)と併せて添加した(実施例1)結果として、乾燥耐擦過性が特に著しく増加することを示す。対照的に非表面修飾付加物(AV1)を使用する場合(実施例V2)、特に乾燥耐擦過性における改善はあまりはっきりしない。実施例V3は、他の表面活性物質、例えば、工業用均展剤も、表面修飾付加物(A1)が添加された場合よりも実質的にあまり顕著でないものを除いて、特性の改善をもたらすことを示す。付加物(A)が表面活性構造(O)を有する場合に限り、緻密な高耐擦過性Si−O−Si−ネットワークを有する傾斜構造を表面で形成させることが可能であり、このネットワークは表面上で優れた特性を発現する。この種類の傾斜構造は、たとえばX線光電子分光法により、透過電子顕微鏡法をEDX(エネルギー分散X線分光分析)と併用して、検出することができる。
【0232】
物理的機械的特性は、たとえばHysitron Inc.のTribolndenter(登録商標)ナノインデンテーション装置を用いて、ナノインデンテーションにより局所および深さ分解能に関して決定することもできる。この種類の実験実装は次のようにして行う:使用した圧子は、非常に鋭い先端(半径<100nm)を有するBerkovich形状のダイアモンド三角錐(開口角142.3°)である。次にこの物体をコーティングの表面中に10秒間、力を直線的に最大5mNまで増加させつつ、1μmから1.5μmの間の侵入深さで押し込み、その位置でさらに30秒間最大力のもとで保持し、次の10秒以内に直線的に力を減少させつつ表面から引き抜く。結果として得られる力対侵入深さのデータセットから、Oliver and Pharr(W.C.Oliver,G.M.Pharr,Journal of Materials Research.7(1992),1565,G.M.Pharr,Materials Science and Engineering A 253(1998),151を参照)の既知のアルゴリズムを用いて分析物質の機械的データを局所的分解能に関して決定する。
【0233】
触媒(C)の影響を説明するために、実施例1(=比較例V5)および比較例V2(=比較例6)のクリアコート材料を、触媒(C1)を省略し、実施例1またはV2と同じ方法で繰り返し、コーティングV5およびV6を製造し、微小貫入硬度および乾燥耐擦過性をクロックメーター試験において測定した。結果を第3表に記載する。結果は、触媒(C)なしでは、コーティングの微小貫入硬度および耐擦過性が、触媒を含む対応する実施例よりもはるかに低いことを示す。
【0234】
第3表:比較例V5およびV6の結果
【表4】

【0235】
加えて、ARXPS(=角度依存光電子分光法)を用いて、実施例1および2ならびに比較例V1〜V4のコーティングを調べた。結果を第4表に記載する。傾斜を検出するための情報深さは、出口角変動またはスパッタ深さ特性分析によりさまざまであった。
【0236】
すべてのXPS測定は、Physical Electronicsから入手したスモールスポット分光計(モデル同定PHI5600LS)で行った。X線は常にMg管を用いて生成させた(1253.6keV)。光電子の検出(23.5eVのパスエネルギー)は、原子濃度を測定するために次のボンドレベルを使用した:Siについては2pレベル、Oについては1sレベル、Cについても1sレベル。光電子の検出角、すなわち試料表面と電子分光計の前面の電子レンズの軸との間の角度を変えることにより、測定シグナルが発生する深さ(情報深さ)は変化した:5°で情報深さは約1.2nm(XPS(Si)1.2nm)、45°で約10nm(XPS(Si)10nm)。45°の検出角で、測定部分は800μmの直径を有し、5°で対応した楕円拡大があった。表面に対して平行に、表面下約10μmで、ミクロトームを用いて薄片を製造した後、物質中の比較深さで基準値を得ることができる(XPS(Si)10μm)。
【0237】
第4表:ARXPS(=角度依存光電子分光法)測定の結果
【表5】

【0238】
光電子分光法をさらに特徴付けるために、以下の用語体系を使用する:
XPS(Si)1.2nmは、コーティング物質の表面から1.2nmの情報深さから測定された、検出された原子(この場合はケイ素)の割合を表す。記載された情報深さでXPSにより検出可能な原子種の総計を100%と記載する。当業者にはわかるように、例えば、水素はXPSにより検出できない。
【0239】
最後に、実施例1および比較例V2およびV3のコーティングを、透過電子顕微鏡法をEDX(エネルギー分散X線分光分析)と併用することにより調べた。結果を図2に示す。図2は、実施例1および比較例V2およびV3のコーティングについてのSi/C原子比を与える。図2は、表面修飾付加物(A1)の蓄積を示し、一方、非表面修飾付加物(AV1)は表面付近領域においてごくわずかしか蓄積を示さない。
【0240】
5.1.表面修飾付加物(A2)の製造
スターラー、環流冷却器、油加熱器、および窒素注入チューブを備えた反応容器に、100質量部の工業用ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート(Bayer AGのDesmodur(登録商標)N3600)を添加した。このイソシアヌレートの初期溶液に、撹拌しながら、2.5質量部のカルビノール官能性シロキサン(GE−Bayer SiliconesのBaysilone(登録商標)OF502 6%)の、0.625質量部の工業用芳香族溶媒Solventnaphta(登録商標)中溶液をゆっくりと添加した。添加後、反応混合物を55℃まで加熱し、55℃でさらに2時間撹拌した。次に、ゆっくりと撹拌しながら、184質量部のN,N−ビス(3−トリメトキシシリルプロパン−1−イル)アミン(DegussaのDynasylan(登録商標)1124)を混合物に添加した。次いで撹拌を55℃でさらに2時間行った。その後、遊離イソシアネート基はIR分光法でもはや検出されなかった。結果として得られた化合物(A2)は固形分が89%であった。結果として得られた化合物(A2)の表面張力はリング法により27.0mN/mであることが判明した。
【0241】
5.2.表面修飾付加物(A3)の製造
スターラー、環流冷却器、油加熱器および窒素注入チューブを備えた反応容器に、100質量部の工業用ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート(Bayer AGのDesmodur(登録商標)N3600)を添加した。このイソシアヌレートの初期溶液に、撹拌しながら、5質量部のカルビノール官能性シロキサン(GE−Bayer SiliconesのBaysilone(登録商標)OF502 6%)の1.25質量部の工業用芳香族溶媒Solventnaphta(登録商標)中溶液をゆっくりと添加した。添加後、反応混合物を55℃まで加熱し、55℃でさらに2時間撹拌した。次に、ゆっくりと撹拌しながら、181質量部 N,N−ビス(3−トリメトキシシリルプロパン−1−イル)アミン(DegussaのDynasylan(登録商標)1124)を混合物に添加した。次いで撹拌を55℃でさらに2時間行った。その後、遊離イソシアネート基はIR分光法でもはや検出されなかった。結果として得られた化合物(A3)は固形分が90%であった。結果として得られた化合物(A3)の表面張力はリング法により26.5mN/mであることが判明した。
【0242】
5.3.表面修飾付加物(A4)の製造
スターラー、環流冷却器、油加熱器および窒素注入チューブを備えた反応容器に、100質量部の工業用ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート(Bayer AGのDesmodur(登録商標)N3600)を添加した。このイソシアヌレートの初期溶液に、ゆっくりと撹拌しながら、10質量部のカルビノール官能性シロキサン(GE−Bayer SiliconesのBaysilone(登録商標)OF 502 6%)の、2.5質量部の工業用芳香族溶媒Solventnaphta(登録商標)中溶液を添加した。添加後、反応混合物を55℃まで加熱し、55℃でさらに2時間撹拌した。その後、ゆっくりと撹拌しながら、175質量部のN,N−ビス(3−トリメトキシシリルプロパン−1−イル)アミン(DegussaのDynasylan(登録商標)1124)を混合物に添加した。次いで撹拌を55℃でさらに2時間行った。その後、遊離イソシアネート基はIR分光法でもはや検出されなかった。結果として得られた化合物(A4)は固形分が91%であった。結果として得られた化合物(A4)の表面張力はリング法により26.5mN/mであることが判明した。
【0243】
5.4.ヒドロキシル含有ポリアクリレート(PAC2)の製造
窒素でフラッシュし、冷却器を取り付けたリアクターに、17.5質量部の酢酸ペンチルを添加し、この初期チャージを撹拌しながら140℃まで加熱した。これと平行して、2つの別個のフィード流れを製造した。フィード流れ1は、28.58質量部の2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、11.93質量部のシクロヘキシルメタクリレート、14.44質量部のエチルヘキシルメタクリレート、6.88質量部のエチルヘキシルアクリレートおよび0.15質量部のアクリル酸からなっていた。フィード流れ2は、2.945質量部のSolventnaphta(登録商標)および8.06質量部のペルオキシドTBPEH(=tert−ブチルヒドロペルオキシド)からなっていた。温度が140℃に達したら、フィード流れ2をゆっくりかつ均一に285分にわたって計り入れた。フィード流れ2の開始から15分後に、フィード流れ1をゆっくりかつ均一に、240分にわたってリアクター中に計り入れた。フィード流2の計量終結後、反応混合物を後重合のために140℃でさらに120分間撹拌した。結果として得られる生成物の固形分は65%、酸価は5〜7mgKOH/g、OH価は180mgKOH/g(それぞれ固体ベース)、23℃での粘度は19.5dPa・sであることが判明した。
【0244】
5.5.アミンブロック化リン酸エステル系触媒の製造
滴下漏斗および環流冷却器を備えたリアクターに、32.4質量部のリン酸エチルヘキシルおよび50質量部のメトキシプロピルアセテートを添加し、この初期チャージを均質化した。続いて、冷却し、撹拌しながら、17.6質量部のトリエチルアミンを温度が60℃を超えないような速度で滴下した。トリエチルアミンの添加後、反応混合物をさらに2時間室温で撹拌した。結果として得られた反応生成物は、50.0%の固形分を有していた。
【0245】
6.二成分(2K)クリアコート材料の製造
第5表に記載する原材料を表示された量で連続して組み合わせ、均質化して、ミルベースクリアコート材料を製造した。
【0246】
第5表の注記:
Tinuvin(登録商標)5941−R=Ciba Speciality Chemicals Inc.の異なる光安定剤の工業用混合物
Tinuvin(登録商標)292=Ciba Speciality Chemicals Inc.の立体的に遮蔽されたアミン(HALS)系工業用光安定剤
Byk(登録商標)320=Byk−Chemie GmbH,Weselの、ポリエーテル修飾ポリジメチルシロキサンの52%強度溶液系工業用均展添加剤
Byk(登録商標)306=Byk−Chemie GmbH,Weselの、ポリエーテル修飾ポリメチルアルキルシロキサンのキシレン/モノフェニルグリコール(7/2)中12.5%強度溶液系工業用均展添加剤
第5表:実施例3〜5および比較例V7の二成分クリアコート材料の組成
【表6】

【0247】
塗布の直前に、33質量部の硬化剤を100質量部のミルベースに添加し、結果として得られた混合物を均質化した。使用した硬化剤は、第6表に記載する成分を組み合わせ、均質化することにより製造した。
【0248】
第6表:
【表7】

【0249】
第6表の脚注:
Basonat(登録商標)Hl 190=BASF AGの工業用ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、Solventnaphta(登録商標)および酢酸ブチルの混合物中90%
Desmodur(登録商標)Z4470=Bayer Material Science AGの工業用イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート、Solventnaphta(登録商標)中70%
7.コーティングの製造
それぞれ典型的な既知のカソード蒸着・熱硬化エレクトロコート、典型的な既知の熱硬化サーフェーサーコートおよびBASF Coatings AGの工業用通常型黒色ベースコートのフィルムでコーティングし、80℃で10分間の初期乾燥に付した金属試験パネルに、個々の2Kクリアコート材料を塗布した。ベースコートフィルムおよびクリアコートフィルムを一緒に140℃で22分間硬化させた。結果として得られるベースコートは7.5μmの層厚を有し、クリアコートは40μmの層厚を有していた。
【0250】
8.結果として得られるコーティングの特性の調査
すべての表面は高光沢および優れた外観を有するものであった。結果として得られる表面の乾燥耐擦過性をクロックメーター試験(9μmペーパーグレード)により決定した。これは、EN ISO 105−X 12の線に沿って動作させ、10往復こすった後に20°で光沢の損失を評価することにより行った。
【0251】
第7表:クロックメーター試験
【表8】

【0252】
結果は、付加物(A2)乃至(A4)を触媒とともに添加することにより、製造物の乾燥耐擦過性が著しく増加し得ることを示す。実験からさらに、用いる表面活性付加物(A)の量が多いほど、効果がより強力であることも示す。
【0253】
実施例4、5およびV7のクリアコートフィルムをその風化に関して6000時間にわたり、VDA[ドイツ国自動車メーカー組合]試験シート(E)621−430 Apr 97および/またはSAE J1960 JUN89(以下、略してCAM 180試験と称する)にしたがった、いわゆるWOM−CAM 180Q/B試験で調査した。CAM180試験において、調査した試料はすべて6000時間後でも亀裂を示さなかったことが判明した。6000時間後の実施例4および5の光沢は、測定精度の範囲内で、実施例V7から得られる対応する光沢と同じであった。このことは、修飾2Kクリアコート材料の良好な風化耐性を証明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.表面付近のコーティング領域(K1)および
2.体積コーティング領域(K2)
から構成される、少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤(B)から得られ、成分(D1)の少なくとも一部が1以上の表面活性な構造単位(O)を有する、少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)であって、
(i)領域(K1)および領域(K2)の両方におけるコーティングは少なくとも部分的に架橋し、
(ii)領域(K1)におけるコーティングの架橋密度は、領域(K2)におけるコーティングの架橋密度よりも高いことを特徴とするコーティング。
【請求項2】
少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)が、表面(KO)に対して垂直な傾斜形態における化学不均一性を示すことを特徴とする、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)が、表面(KO)に対して垂直なタイプ(Si1)および/またはタイプ(Si2)
【化1】

[式中、
S1=有機基、好ましくは1〜20個の炭素原子を有する直鎖および/または分岐アルキレンまたはシクロアルキレン基、特に1〜4個の炭素原子を有するアルキレン基、
R"=アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル(炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基により場合よって中断されていてもよく、ここでRa=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキルである)、好ましくはR"=アルキル基、特に1〜6個のC原子を有するものである]のケイ素原子の傾斜形態における化学的不均一性を示すことを特徴とする、請求項2に記載のコーティング。
【請求項4】
化学的不均一性における傾斜が、表面に対して垂直な物理的特性における傾斜、好ましくは耐擦過性および/またはストーンチップ耐性および/または耐亀裂性および/または洗浄可能性および/または補修塗料付着性および/または湿潤性および/または視覚的着色および/または外観における傾斜にもつながることを特徴とする、請求項2または3に記載のコーティング。
【請求項5】
傾斜が<1μm、好ましくは<0.1μm、さらに好ましくは<0.05μmの半値深を有することを特徴とする、請求項2から4までのいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項6】
1.表面付近のコーティング領域(K1)および
2.体積コーティング領域(K2)
から構成され、
(I)少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤(B)から得られ、成分(D1)の少なくとも一部が1以上の表面活性な構造単位(O)を有し;
(II)表面付近のコーティング領域(K1)中の成分(D1)の濃度は、体積コーティング領域(K2)中の濃度よりも高い、
少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)であって、
少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)の微小貫入硬度および/または乾燥耐擦過性は、架橋性成分(D1)を含まないコーティング剤(B’)から得られる少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)の微小貫入硬度および/または乾燥耐擦過性よりも高いことを特徴とするコーティング。
【請求項7】
表面付近のコーティング領域(K1)の層厚が1nmから500nmの間、好ましくは10nmから200nmの間、さらに好ましくは10nmから100nmの間、非常に好ましくは10nmから50nmの間であり、および/または表面付近のコーティング領域(K1)の乾燥フィルム層厚の、体積コーティング領域(K2)の乾燥フィルム層厚に対する比が0.1未満、好ましくは0.01未満、さらに好ましくは0.005未満であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項8】
架橋性成分(D1)が架橋性基としてシラン基、特にアルコキシシラン基を有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項9】
表面活性な構造要素(O)が、炭化水素基およびこれらの誘導体、特にフッ素化炭化水素基、脂肪酸基、および脂肪酸誘導体の基からなる群から選択され、さらには非置換または置換シロキサン基からなる群からも選択され、さらに好ましくはシロキサン基から選択されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項10】
成分(D1)の前駆体の少なくとも一部および/または成分(D1)の少なくとも一部を、1以上の表面活性化合物(OV)で修飾することにより架橋性成分(D1)が製造されていることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項11】
(i)表面活性化合物(OV)が少なくとも1つのヒドロキシル、エポキシ、イソシアネート、カーバメート、カルボキシル、アンヒドリド、アミン、および/またはチオール基および/またはエチレン性不飽和二重結合を有する、および/または
(ii)架橋性成分(D1)および/または架橋性成分(D1)の前駆体が、ヒドロキシル、エポキシ、イソシアネート、カーバメート、カルボキシル、アンヒドリド、アミンおよび/またはチオール基および/またはエチレン性不飽和二重結合からなる群から選択される少なくとも1つの相補性官能基を有することを特徴とする、請求項10に記載のコーティング。
【請求項12】
化合物(OV)が式(I)
【化2】

[式中、
1〜R6は同一または異なる基であり、
1=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されている)、またはフッ素置換アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(ここで、ケイ素原子とフッ素置換有機基との間にエチレン基を有する構造が好適である)、
2=ヒドロキシル、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(ここで、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合により中断されている)、
3およびR6=水素、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(ここで、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されている)、またはフッ素置換アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(ここで、ケイ素原子とフッ素置換有機基との間にエチレン基を有する構造が好適である)、
4およびR5=水素、ヒドロキシル、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル基(ここで、炭素鎖は、隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されている)、
基R2、R4およびR5の少なくとも1つは、成分(D1)の相補性官能基に対して反応性である官能基をさらに有し、
1=1〜80、好ましくは3〜20、
2=0〜80、好ましくは0〜10]のシロキサンであることを特徴とする、請求項10または11に記載のコーティング。
【請求項13】
化合物(OV)が式(III)
【化3】

[式中、
1およびR4は前記定義のとおりであり、メチル、エチルおよびフェニル基が好適であり、またフッ素および/または官能基で部分的に置換されたアルキル基も好適であり、R1はさらに好ましくはメチル基であり、および/または官能基は好ましくはヒドロキシル基であり、
m=1〜80、好ましくは3〜20およびさらに好ましくは5〜12]のシロキサンであることを特徴とする、請求項10または11に記載のコーティング。
【請求項14】
架橋性成分(D1)が式(VI)
−N R’’’−C(O)−N−(L−SiR"x(OR’)3−x)n(L’−SiR"y(OR’)3−y)m (VI)
[式中、
R’’’=水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル(ここで、炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されており、Ra=アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアラルキル)
R’=水素、アルキルまたはシクロアルキル(炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されている)、
L、L’=1〜20個の炭素原子を有する直鎖および/または分岐アルキレンまたはシクロアルキレン基、特に1〜4個の炭素原子を有するアルキレン基、
R"=アルキル、シクロアルキル、アリール、またはアラルキル(炭素鎖は隣接しない酸素、硫黄またはNRa基によって場合によって中断されている)、
n=0〜2、
m=0〜2、
m+n=2、そして
x、y=0〜2]の少なくとも1つの反応性基を有することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項15】
コーティング剤(B)が、それぞれの場合において、コーティング剤(B)の不揮発性物質に対して、成分(D1)を0.1〜35質量%、特に0.5〜15質量%の量で、および/または触媒(C)を0.1〜15質量%、特に0.5〜5質量%の量で、および/または成分(D2)を50〜99.8質量%、特に80〜99.4質量%の量で含むことを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項16】
架橋性成分(D2)が、1以上のバインダー(BM)および適切であれば1以上の架橋剤(VM)から構成されることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載のコーティング。
【請求項17】
バインダー(BM)が、アクリレート基、メタクリレート基、ヒドロキシル基、カーバメート基、エポキシ基、イソシアネート基およびカルボキシル基、好ましくはヒドロキシル基および/またはカーバメート基を有するオリゴマーおよび/またはポリマー化合物からなる群から選択される、および/または架橋剤(VM)が、アミノ樹脂、非ブロック化ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネート、ブロック化ジイソシアネートおよび/またはポリイソシアネート、ポリエポキシド、ポリカルボン酸、ポリアンヒドリドおよびポリオールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項16に記載のコーティング。
【請求項18】
少なくとも1つの顔料着色コーティングおよび、その上に配置された透明コーティングを含み、前記透明コーティングが請求項1から17までのいずれか1項に記載のコーティングであることを特徴とする、効果付与および/または色付与性の多層塗装系。
【請求項19】
プレコートされていないか、またはプレコートされた基体を少なくとも1つの顔料着色コーティング剤でコーティングし、結果として得られた顔料着色コーティングの少なくとも一部を少なくとも1つの透明コーティング剤(B)でコーティングし、硬化を行うことを特徴とする、請求項18に記載の多層塗装系を製造するための方法。
【請求項20】
自動車量産塗装および/または商用車塗装および/または補修塗装において、車体の内部もしくは外部部品のコーティングまたは造船および航空機建造の部品のコーティングまたは家庭用品および電気器具の部品のコーティングまたはプラスチック成形品もしくはフィルムのコーティングに用いられることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも部分的に架橋したコーティング(K)の特性を制御する方法であって、コーティング(K)が表面付近のコーティング領域(K1)および体積コーティング領域(K2)から構成され、コーティング(K)が、少なくとも2つの異なる架橋性成分(D1)および(D2)を含むコーティング剤(B)から製造され、成分(D1)の少なくとも一部は1以上の表面活性な構造単位(O)を有する方法において、
(i)成分(D1)から形成されるネットワーク(N1)の架橋密度は、成分(D2)から形成されるネットワーク(N2)の架橋密度よりも高く、
(ii)成分(D1)から形成されるネットワーク(N1)の架橋密度の、成分(D2)から形成されるネットワーク(N2)の架橋密度に対する比により、コーティングの特性を制御することを特徴とする方法。
【請求項22】
表面付近のコーティング領域(K1)が少なくとも部分的に架橋した成分(D1)により実質的に形成され、体積コーティング領域(K2)が少なくとも部分的に架橋した成分(D2)により実質的に形成される、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−521543(P2010−521543A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553022(P2009−553022)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000487
【国際公開番号】WO2008/110230
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(390008981)ビーエーエスエフ コーティングス アクチェンゲゼルシャフト (155)
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings AG
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D−48165 Muenster,Germany
【Fターム(参考)】