説明

色変換フィルタおよびそれを用いた有機ELディスプレイ

【課題】 ガスの透過を防止することができる色変換フィルタ、および該色変換フィルタを用いて形成される、長期にわたって安定した発光特性を維持する多色表示の有機ELディスプレイの提供。
【解決手段】 透明基板と、透明基板上に設けられた1つまたは複数種の色変換フィルタ層と、色変換層を覆って形成される平坦化層と、平坦化層上に形成されるガスバリア層とを備えた色変換フィルタであって、ガスバリア層は、少なくとも2対の無機膜および高分子膜の積層体と、該積層体の上に設けられた無機絶縁膜とから構成されていることを特徴とする色変換フィルタ、およびそれを用いて作製される有機ELディスプレイ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精細で、耐環境性および生産性に優れた多色表示を可能とする色変換フィルタおよび該色変換フィルタを具備する多色表示の有機ELディスプレイに関する。詳細には、イメージセンサー、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサー、テレビ、ファクシミリ、オーディオ、ビデオ、カーナビゲーション、電気卓上計算機、電話機、携帯端末機ならびに産業用計測器等の表示用の色変換フィルタ、および該色変換フィルタを具備する多色表示の有機ELディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子等に対して視野角依存性および高速応答性などに優れた、下記の特徴を有する、有機分子の薄膜積層構造を有し、印加電圧10Vで、1000cd/m2以上の高輝度で発光する積層型有機エレクトロルミネセンス(以下、有機ELと称する)素子が、Tangらによって報告されて以来、有機EL素子は実用化に向けての研究が活発に行われている(非特許文献1参照)。また、有機高分子材料を用いた同様の素子も活発に開発が進められている。
【0003】
有機EL素子は低電圧で高い電流密度が実現できるため、無機EL素子またはLEDと比較して高い発光輝度および発光効率が期待できる。また、表示素子としては、(1)高輝度および高コントラスト、(2)低電圧駆動と高い発光効率、(3)高解像度、(4)広視野角、(5)高応答速度、(6)微細化およびカラー化、(7)軽さおよび薄さ等の優れた特徴を有している。以上の点から、「美・軽・薄・優」なフラットパネルディスプレイへの応用が期待されている。
【0004】
パイオニア社によって、車搭載用の緑色モノクロ有機ELディスプレイが1997年11月にすでに製品化されて以来、多様化する社会のニーズに応えるべく、長期安定性および高速応答性を有し、多色表示または高精細なフルカラー表示が可能な有機ELディスプレイの実用化が急がれている。
【0005】
有機ELディスプレイのマルチカラー化またはフルカラー化の方法の1例は、、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色の発光体をマトリクス状に分離配置し、それぞれ発光させる方法である(特許文献1〜3参照)。有機EL素子を用いてカラー化する場合、RGBの3種の発光材料をマトリクス上に高精細に配置しなくてはならないため、技術的に困難であり、および安価で製造することができない。加えて、3種の発光材料の寿命(輝度変化特性)がそれぞれ異なるために、長期間にわたる使用により色度がずれてしまうなどの欠点を有する。
【0006】
また、白色で発光するバックライトにカラーフィルタを用い、3原色を透過させる方法(たとえば、特許文献4〜6参照)が知られているが、高輝度のRGB光を得るために必要な長寿命かつ高輝度の白色発光の有機EL素子は、未だ得られていない。
【0007】
あるいはまた、発光体の発光を平面的に分離配置した蛍光体に吸収させ、それぞれの蛍光体から多色の蛍光を発光させる方法も知られている(特許文献7参照)。ここで、蛍光体を用いて、ある発光体から多色の蛍光を発光させる方法は、CRT、プラズマディスプレイらの応用に実績を有している。
【0008】
また、近年では有機EL素子の発光域の光を吸収し、可視光域の蛍光を発光する蛍光材料をフィルタに用いる色変換方式が検討されてきている(たとえば、特許文献7および8参照)。有機EL素子の発光色は白色に限定されないため、より輝度の高い有機EL素子を光源に適用することができ、青色発光の有機EL素子を用いた色変換方式においては、青色光を緑色光および赤色光に波長変換している(たとえば、特許文献7、ならびに特許文献9および10参照)。このような蛍光色素を含む色変換層を高精細にパターニングすれば、発光体の近紫外光ないし可視光のような弱いエネルギー線を用いても、フルカラーの発光型ディスプレイを構築できる。
【0009】
色変換層のパターニングの方法としては、(1)無機蛍光体の場合と同様に、蛍光色素を液状のレジスト(光反応性ポリマー)中に分散させ、該分散物をスピンコート法などを用いて成膜し他の値に、フォトリソグラフィ法にてパターニングする方法(特許文献8および11参照)、あるいは(2)塩基性のマトリクス中に蛍光色素を分散させ、酸性水溶液を用いて該分散物をエッチングする方法(特許文献10参照)などがある。
【0010】
カラーディスプレイとしての実用上の重要課題は、精細なカラー表示機能を有すると共に、色再現性を含め長期的な安定性を有することである(非特許文献2参照)。しかしながら、有機EL素子には、一定期間の駆動により電流−輝度特性が低下するという課題を有している。
【0011】
この発光特性の低下原因の代表的なものは、ダークスポットの成長である。このダークスポットとは、発光欠陥点のことである。駆動時および保存中に酸化が進むとダークスポットの成長が進み、発光面全体に広がる。このダークスポットは、素子中の酸素または水分により、素子を構成する積層材料の酸化または凝集によるものと考えられている。その成長は、通電中はもちろん、保存中にも進行し、特に(1)素子の周囲に存在する酸素または水分により加速され、(2)有機積層膜中に吸着物として存在する酸素または水分に影響され、および(3)素子作製時の部品に吸着している水分あるいは製造時等における水分の侵入にも影響されると考えられている。
【0012】
従来の色変換方式の有機ELディスプレイの一般的断面構造を図1に示す。色変換フィルタ40は、透明基板41上に3種(赤色、緑色、青色)の色変換フィルタ層42(R,G,B)が一組となって分散配置され、色変換フィルタ層42を覆ってその上面を平坦化する平坦化層43が設けられている。色変換フィルタ40上に、透明電極51、有機EL層52、反射電極53から構成される有機EL素子50が形成されている。前述のように色変換フィルタ層42は、樹脂中に色変換用の色素を分散したものである。ここで、混合する色素の熱安定性の問題から200℃を超える温度における乾燥を行えないことから、色変換フィルタ層42中に、塗布液中に含有される水分またはパターン形成工程中に混入した水分が含有される可能性が高い。色変換フィルタ層42中に含有された水分が保存または駆動中に平坦化層43を通過して有機EL素子50(詳細には有機EL層52)に到達して、ダークスポットの成長を促進する要因となると考えられる。
【0013】
この水分の有機EL素子への侵入を妨げる手法として、色変換フィルタ40と有機EL素子50との間に、厚さ0.01〜200μmの絶縁性の無機酸化物膜を配設する技術が知られている(特許文献12参照)。有機EL層の寿命を維持するために、配設される無機酸化物膜は高いガスバリア性能が要求され、具体的には、水蒸気および酸素に対して10−13cc・cm/cm・s・cmHg以下のガス透過係数(JIS K7126:1987の気体透過度試験方法による)を有することが望ましいとされている。
【0014】
そのような無機酸化物膜の形成方法として、色変換フィルタ40の平坦化層43上に、DCスパッタ法によってSiO、SiNを形成する方法が知られている(特許文献13および14参照)。この方法で形成されたSiO、SiNは、その上に形成される透明電極51の密着性を向上させる効果も知られている。また、低融点ガラスを焼結する方法も知られている(特許文献15参照)。上記の他にも、無機酸化物膜の形成方法として、ゾル−ゲル法、プラズマ化学気相堆積(PECVD)法が知られている。
【0015】
【特許文献1】特開昭57−157487号公報
【特許文献2】特開昭58−147989号公報
【特許文献3】特開平3−214593号公報
【特許文献4】特開平1−315988号公報
【特許文献5】特開平2−273496号公報
【特許文献6】特開平3−194885号公報
【特許文献7】特開平3−152897号公報
【特許文献8】特開平5−258860号公報
【特許文献9】特開平8−286033号公報
【特許文献10】特開平9−208944号公報
【特許文献11】特開平5−198921号公報
【特許文献12】特開平8−279394号公報
【特許文献13】特開平7−146480号公報
【特許文献14】特開平10−10518号公報
【特許文献15】特開2000−214318号公報
【特許文献16】特開平5−134112号公報
【特許文献17】特開平7−218717号公報
【特許文献18】特開平7−306311号公報
【特許文献19】特開平5−119306号公報
【特許文献20】特開平7−104114号公報
【特許文献21】特開平6−300910号公報
【特許文献22】特開平7−128519号公報
【特許文献23】特開平9−330793号公報
【特許文献24】特開平5−36475号公報
【非特許文献1】C. W. Tang, S. A. VanSlike, Appl. Phys. Lett. 51, 913 (1987)
【非特許文献2】機能材料、第18巻第2号、96頁(1998年)
【非特許文献3】月刊ディスプレイ、第3巻第7号、119頁(1997年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、色変換フィルタ層32中に含有される有機物の色素の色変換能を劣化させない程度の温度(最高200℃程度)で成膜された無機酸化物膜中にはピンホールが発生しやすく、有機EL素子40の寿命を維持または向上させるのに充分なガスバリア性能を有する無機酸化物膜を形成することは困難である。一方、より低温で実施可能なゾル−ゲル法で形成された無機酸化物膜は、水分および/または揮発性有機成分を含有しており、その上に形成される有機EL素子40が直ちに劣化してしまうことが予想される。
【0017】
したがって、色変換フィルタ層32中に保持される水分(水蒸気)および/または酸素などのガスが、保存または駆動中に有機EL素子40に到達してダークスポットの成長を促進することを有効に防止することが可能な構造に対する強い要求が存在する。
【0018】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、ガスの透過を防止することができる色変換フィルタ、および該色変換フィルタを用いて形成される、長期にわたって安定した発光特性を維持する多色表示の有機ELディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の実施形態である色変換フィルタは、透明基板と、前記透明基板上に設けられた1つまたは複数種の色変換フィルタ層と、前記色変換層を覆って形成される平坦化層と、前記平坦化層上に形成されるガスバリア層とを備え、前記ガスバリア層は、少なくとも2対の無機膜および高分子膜の積層体と、該積層体の上に設けられた無機絶縁膜とから構成されていることを特徴とする。ここで、前記無機膜のそれぞれは、それぞれ独立的に、導電性透明金属酸化物、絶縁性酸化物、絶縁性窒化物、絶縁性炭化物、または絶縁性酸化窒化物から形成されていてもよい。また、前記高分子膜のそれぞれは、それぞれ独立的に、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはポリオレフィン樹脂から形成されていてもよい。さらに、前記無機絶縁膜が、絶縁性酸化物、絶縁性窒化物、絶縁性炭化物、または絶縁性酸化窒化物、好ましくはSiO、AlO、SiN,AlN、SiO、AlO、TiO、BN、またはSiCから形成されていてもよい。
【0020】
本発明の第2の実施形態の有機ELディスプレイは、第1の実施形態の色変換フィルタを用いて形成されることを特徴とする。ここで、色変換フィルタ上に、少なくとも透明電極、有機EL層および反射電極が順次積層されている有機EL素子が形成されていてもよい。あるいは、色変換フィルタと、支持基板上に少なくとも反射電極、有機EL層および透明電極が順次積層されている有機EL素子とを貼り合わせて形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0021】
上記の積層体からなるガスバリア層を有する構成を採ることによって、有機EL素子の発光特性低下の原因となる色変換フィルタ層から有機EL素子への水分および酸素の移動を抑制して、長期にわたって安定した発光特性を維持することができるカラー有機ELディスプレイの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の色変換フィルタ10の構成の一例を、図2に示す。図2において、透明基板11上に、所定のパターンを有する3種(赤色、緑色および青色)の色変換フィルタ層12(R,G,B)が形成され、それら3種の色変換フィルタ層12が一組となってマトリクス状に配置されている。色変換フィルタ層12を覆って、その上面を平坦化する平坦化層13が形成され、平坦化層13の上にガスバリア層14が形成されている。ガスバリア層14は、少なくとも2対の無機膜(61a,b)および高分子膜(62a,b)の積層体の上に、無機絶縁膜63を有する構造を有する。以下、各層について詳細に述べる。
【0023】
透明基板11は、可視光(波長400〜700nm)に対して透明であり、積層される層の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、および寸法安定性に優れていることが好ましい。好ましい透明基板11は、ガラス基板、およびポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートを含む)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリカーボネート樹脂、またはポリイミド樹脂などの樹脂で形成された剛直性の樹脂基板を含む。あるいはまた、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートを含む)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリカーボネート樹脂、またはポリイミド樹脂などから形成される可撓性フィルムを、透明基板11として用いてもよい。
【0024】
色変換フィルタ層12は、カラーフィルタ層、色変換層、またはカラーフィルタ層と色変換層との積層体から構成される。カラーフィルタ層は、色変換の機能を持たず、選択される範囲の波長の光を透過させて、出力される光の色純度を向上させる層である。カラーフィルタ層と色変換層との積層体を使用する場合、通常は透明基板と色変換層との間にカラーフィルタ層が配置される。カラーフィルタ層は、液晶ディスプレイなどにおいて用いられている材料など当該技術において知られている任意の材料を用いて形成することができる。
【0025】
色変換層は、色変換色素とマトリクス樹脂からなる層である。色変換色素は、入射光の波長分布変換を行って、異なる波長域の光を放射する色素であり、好ましくは有機発光層からの近紫外光または青色〜青緑色の光の波長分布変換を行って、所望の波長域の光(たとえば、青色、緑色または赤色)を放射する色素である。
【0026】
本発明における色変換色素は、発光体から発せられる近紫外領域ないし可視領域の光、特に青色ないし青緑色領域の光を吸収して異なる波長の可視光を蛍光として発光するものである。好ましくは、少なくとも赤色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上を用い、さらに緑色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上と組み合わせてもよい。
【0027】
すなわち、光源として青色ないし青緑色領域の光を発光する有機EL素子を用いる場合、該素子からの光を単なる赤色フィルタに通して赤色領域の光を得ようとすると、元々赤色領域の波長の光が少ないために極めて暗い出力光になってしまう。これに対して、該素子からの青色ないし青緑色領域の光を、赤色変換層中の色変換色素によって赤色領域の光に変換することにより、十分な強度を有する赤色領域の光の出力が可能となる。したがって、本発明において、赤色変換フィルタ層12Rは、好ましくは色変換層から構成され、さらに好ましくはカラーフィルタ層と色変換層との積層体から構成される。
【0028】
一方、緑色領域の光は、赤色領域の光と同様に、該素子からの光を別の色変換色素によって緑色領域の光に変換させて出力してもよい。あるいはまた、該素子の発光が緑色領域の光を十分に含むならば、該素子からの光を単に緑色フィルタを通して出力してもよい。さらに、青色領域の光に関しては、有機EL素子の光を単なる青色フィルタに通して出力させることが可能である。
【0029】
発光体から発せられる青色から青緑色領域の光を吸収して、赤色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2などのローダミン系色素、シアニン系色素、1−エチル−2−[4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル]−ピリジニウムパークロレート(ピリジン1)などのピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0030】
発光体から発せられる青色ないし青緑色領域の光を吸収して、緑色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えば3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン6)、3−(2’−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン7)、3−(2’−N−メチルベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン30)、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1−gh)クマリン(クマリン153)などのクマリン系色素、あるいはクマリン色素系染料であるベーシックイエロー51、さらにはソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116などのナフタルイミド系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0031】
なお、本発明に用いる色変換色素を、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アルキッド樹脂、芳香族スルホンアミド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂およびこれらの樹脂混合物などに予め練り込んで顔料化して、有機色変換顔料としてもよい。また、これらの色変換色素や有機色変換顔料(本明細書中で、前記2つを合わせて色変換色素と総称する)は単独で用いてもよく、蛍光の色相を調整するために2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明に用いる色変換色素は、色変換層に対して、該色変換層の重量を基準として0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%含有される。もし色変換色素の含有量が0.01質量%未満ならば、十分な波長変換を行うことができず、あるいは含有量が5%を越えるならば、濃度消光等の効果により色変換効率の低下をもたらす。
【0033】
本発明の色変換層に用いられるマトリクス樹脂は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂(レジスト)を光および/または熱処理して、ラジカル種またはイオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものである。また、色変換層のパターニングを行うために、該光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、未露光の状態において有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが望ましい。
【0034】
具体的には、マトリクス樹脂は、(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤とからなる組成物膜を光または熱処理して、光ラジカルまたは熱ラジカルを発生させて重合させたもの、(2)ボリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物を光または熱処理により二量化させて架橋したもの、(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物膜を光または熱処理してナイトレンを発生させ、オレフィンと架橋させたもの、および(4)エポキシ基を有するモノマーと酸発生剤とからなる組成物膜を光または熱処理により、酸(カチオン)を発生させて重合させたものなどを含む。特に、(1)のアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと光または熱重合開始剤とからなる組成物を重合させたものが好ましい。なぜなら、該組成物は高精細なパターニングが可能であり、および重合した後は耐溶剤性、耐熱性等の信頼性が高いからである。
【0035】
本発明で用いることができる光重合開始剤、増感剤および酸発生剤は、含まれる蛍光変換色素が吸収しない波長の光によって重合を開始させるものであることが好ましい。本発明の蛍光変換フィルタ層において、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂中の樹脂自身が光または熱により重合することが可能である場合には、光重合開始剤および熱重合開始剤を添加しないことも可能である。
【0036】
マトリクス樹脂(色変換層)は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂、色変換色素および添加剤を含有する溶液または分散液を、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法などを用いて透明基板11上に塗布して樹脂の層を形成し、そして所望される部分の光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を露光することにより重合させて形成される。所望される部分に露光を行って光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を不溶化させた後に、パターニングを行う。該パターニングは、未露光部分の樹脂を溶解または分散させる有機溶媒またはアルカリ溶液を用いて、未露光部分の樹脂を除去するなどの慣用の方法によって実施することができる。色変換層は、通常5μm以上、好ましくは8〜15μmの膜厚を有する。
【0037】
平坦化層13は、色変換フィルタ層12の機能を損なうことなく形成することができ、かつ適度な弾力性を有する材料から形成することができる。好ましい材料は、可視域における透明性が高く(400〜800nmの範囲で透過率50%以上)、表面硬度が鉛筆硬度2H以上であり、100℃以上のTgを有し、色変換フィルタ層12上に平滑な塗膜を形成することができ、色変換層の機能を低下させないポリマー材料である。より好ましくは、
【0038】
そのようなポリマー材料の例は、イミド変性シリコーン樹脂(特許文献16〜18参照)、無機金属化合物(TiO、Al、SiO等)をアクリル、ポリイミド、シリコーン樹脂等の中に分散した材料(特許文献19、20参照)、アクリレートモノマー/オリゴマー/ポリマーの反応性ビニル基を有した樹脂、レジスト樹脂(特許文献12、ならびに特許文献21〜23参照)、フッ素系樹脂(特許文献23、24参照)などの光硬化性樹脂/または熱硬化性樹脂を挙げることができる。あるいはまた、ゾル−ゲル法により形成される無機化合物を用いて平坦化層13を形成してもよい(非特許文献3、特許文献12参照)。また、高い熱伝導率を有するメソゲン構造を有するエポキシ樹脂などの光硬化性樹脂を用いて、有機EL素子から透明基板11方向への熱の放散をはかることもできる。
【0039】
平坦化層13を形成する方法には、特に制限はない。たとえば、乾式法(スパッタ法、蒸着法、CVD法など)、あるいは湿式法(スピンコート法、ロールコート法、キャスト法など)のような慣用の手法により形成することができる。
【0040】
平坦化層13の上に形成されるガスバリア層14は、優れた水分・酸素遮断性を有し、したがって色変換フィルタ層12からの水分および酸素の透過を防止するための層である。有機EL素子からの光を色変換フィルタ層12へと透過させるため、ガスバリア層14は、可視域における透明性が高く(400〜800nmの範囲で透過率50%以上)を有することが好ましい。またガスバリア層上に電気的に独立した複数の部分からなる透明電極を形成する必要があるため、ガスバリア層14は少なくともその上面において電気絶縁性を有することが要求される。また、好ましくは、ガスバリア層14は、鉛筆硬度2H以上の膜硬度を有する。本発明のガスバリア層14は、図3に示すように、少なくとも2対の無機膜(61a,b)および高分子膜(62a,b)の積層体の上に、無機絶縁膜63を有する構造を有する。3対以上の無機膜61/高分子膜62の積層体を用いてもよい。
【0041】
本発明の無機膜61(a,b)は、ITO(In−Sn酸化物)、NESA膜、Sn酸化物、In酸化物、IZO(In−Zn酸化物)、Zn酸化物、Zn−Al酸化物、Zn−Ga酸化物、またはこれらの酸化物に対してF、Sbなどのドーパントを添加した導電性透明金属酸化物を用いて形成することができる。これらの導電性透明金属酸化物を用いる場合、その伝熱性の高さにより、有機EL素子にて発生した熱を、効率よく透明基板11側およびディスプレイ周囲方向へと放散するのに有効である。あるいはまた、本発明の無機膜61(a,b)は、SiO、AlO、TiOのような絶縁性酸化物、SiN,AlN、BNのような絶縁性窒化物、SiO、AlOのような絶縁性酸化窒化物、またはSiCのような絶縁性炭化物を用いて形成することができる。本発明において、無機膜61aと無機膜61bとは、同一の材料で形成されていてもよいし、あるいは異種の材料で形成されていてもよい。3層以上の無機膜を用いる場合にも同様である。
【0042】
無機膜61(a,b)は、蒸着法、スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)、化学気相堆積(CVD)法を用いて形成することができる。特に酸化物の膜を形成する場合、密着性、膜厚の均質性および生産性の観点から、スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)を用いることが好ましい。
【0043】
無機膜61(a,b)の膜厚は、前述の可視域における透明性を有する限り厚くすることができるが、通常50〜300nmの範囲内である。このような範囲の膜厚を有する膜を形成することによって、可視域における透明性を含む前述の要求特性を満たすと同時に、ピンホールのような欠陥の発生を抑制して、良好なガス(水分および酸素)遮断性を提供することが可能となる。
【0044】
本発明の高分子膜62(a,b)は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)のようなポリエステル樹脂、または、ポリエチレンおよびポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂から形成することができる。高分子膜62(a,b)は、これらの樹脂を溶媒に溶解させた溶液を用いるスピンコート法、ロールコート法、ディップコート法、ナイフコート法、キャスト法などによって形成することができる。しかしながら、好ましくは、水分濃度の低い環境で行うことが可能な、真空加熱蒸着法、プラズマ重合法、イオン化蒸着法、スパッタ法、化学気相堆積(CVD)法などの気相中の方法を用いて、高分子膜62(a、b)を形成する。あるいはまた、前述の気相方法を用いてモノマーを無機膜61(a,b)上に付着させ、その後に加熱、UV照射などを行ってインサイチューで重合させて高分子膜62(a、b)を形成してもよい。
【0045】
本発明の高分子膜62(a,b)は、無機膜61にピンホールのような欠陥が発生した場合に、その欠陥を充填する機能を有する。2つ以上の無機膜61(または無機絶縁膜63)の同一の位置にピンホールのような欠陥が発生する可能性は低いので、無機膜61と高分子膜62との積層構造を採ることによって、より良好なガス遮断性を提供することが可能となる。
【0046】
本発明の高分子膜62(a,b)は、ディスプレイの視野角特性が低下しないようにガスバリア層14全体の膜厚が30μm以下となるような任意の膜厚であることができるが、好ましくは、それぞれの高分子膜62(a,b)は0.5〜2μmの膜厚を有する。
【0047】
本発明の無機絶縁膜63は、SiO、AlOのような絶縁性酸化物、SiN,AlNのような絶縁性窒化物、SiO、AlOのような絶縁性酸化窒化物を用いて形成することができる。このような材料を用いることによって、その上に形成される複数の部分からなる透明電極の電気的独立性を確保すると同時に、透明電極の密着性を向上させることができる。あるいはまた、TiOのような絶縁性酸化物、BNのような絶縁性窒化物、またはSiCのような絶縁性炭化物を用いて無機絶縁膜63を形成することができる。
【0048】
さらに、図4に示すように、無機絶縁膜63を、色変換フィルタ層12、平坦化層13、無機膜61および高分子膜62を完全に覆うように形成することが好ましい。このような構成を採ることによって、ガスバリア層14の形成後に、平坦化層13および/または高分子膜62が大気と接触して、大気中に含まれる酸素および水分を吸着することを防止して、ディスプレイ形成後にそれら酸素および水分が有機EL素子を劣化させることを防止することができる。
【0049】
無機絶縁膜63は、蒸着法、スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)、化学気相堆積(CVD)法を用いて形成することができる。特に酸化物の膜を形成する場合、密着性、膜厚の均質性および生産性の観点から、スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)を用いることが好ましい。
【0050】
無機絶縁膜63の膜厚は、無機膜61(a,b)と同様に、前述の可視域における透明性を有する限り厚くすることができるが、通常50〜300nmの範囲内である。このような範囲の膜厚を有する無機絶縁膜63を形成することによって、可視域における透明性を含む前述の要求特性を満たすと同時に、ピンホールのような欠陥の発生を抑制して、良好なガス(水分、酸素および低分子成分)遮断性を提供することが可能となる。
【0051】
本発明の色変換フィルタ10を用いて多色表示ディスプレイを作製する場合には、図2に示したように、赤色変換フィルタ層12R、緑色変換フィルタ層12Gおよび青色変換フィルタ層12Bの3種の色変換フィルタ層を形成することが望ましい。各色の色変換フィルタ層12(R,G,B)のパターンは、使用される用途に依存する。矩形または円形の赤色変換フィルタ層12R、緑色変換フィルタ層12Gおよび青色変換フィルタ層12Bを1組として、それらを透明基板11全面にマトリクス状に配置してもよい。あるいは、ストライプ形状(所望される幅を有し、透明基板11の一方向の寸法に相当する長さを有する)の赤色変換フィルタ層12R、緑色変換フィルタ層12Gおよび青色変換フィルタ層12Bを1組とし、それらを透明基板11全面に平行に配列してもよい。あるいはまた、所望される場合には、特定色の色変換フィルタ層12を、他色の色変換フィルタ層12よりも多く(数的に、または面積的に)配置することも可能である。
【0052】
本発明の色変換フィルタ10の上に有機EL素子20を形成することによって得られる、本発明の有機ELディスプレイを図5に示す。有機EL素子20は、透明電極21および反射電極23に挟持された有機EL層22を含む。
【0053】
透明電極21は、波長400〜800nmの光に対して好ましくは50%以上、より好ましくは85%以上の透過率を有することが好ましい。透明電極21は、ITO(In−Sn酸化物)、NESA膜、Sn酸化物、In酸化物、IZO(In−Zn酸化物)、Zn酸化物、Zn−Al酸化物、Zn−Ga酸化物、またはこれらの酸化物に対してF、Sbなどのドーパントを添加した導電性透明金属酸化物を用いて形成することができる。透明電極21は、蒸着法、スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)または化学気相堆積(CVD)法を用いて形成され、好ましくはスパッタ法(反応性スパッタ法を含む)を用いて形成される。透明電極21は、通常50nm以上、好ましくは50nm〜1μm、より好ましくは100〜300nmの範囲内の厚さを有することが望ましい。後述するように複数の部分電極からなる透明電極21が必要になる場合には、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる透明電極21を形成してもよいし、あるいは、逆テーパー状の断面形状を有する分離隔壁を用いて複数の部分電極からなる透明電極21を形成してもよい。
【0054】
透明電極21を陽極または陰極のいずれとしても用いることも可能である。透明電極21を陰極として用いる場合、有機EL層22との界面にバッファ層を設けて、電子注入効率を向上させることが望ましい。バッファ層の材料としては、Li、Na、K、またはCsなどのアルカリ金属、Ba、Srなどのアルカリ土類金属またはそれらを含む合金、希土類金属、あるいはそれら金属のフッ化物などの用いることができるが、それらに限定されるものではない。バッファ層の膜厚は、駆動電圧および透明性等を考慮して適宜選択することができるが、通常の場合には10nm以下であることが好ましい。
【0055】
有機EL層22は、有機発光層を少なくとも含み、必要に応じて正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層および/または電子注入層を含む。これらの各層は、それぞれにおいて所望される特性を実現するのに充分な膜厚を有して形成される。たとえば、下記のような層構成からなるものが採用される。
【0056】
(1)有機発光層
(2)正孔注入層/有機発光層
(3)有機発光層/電子注入層
(4)正孔注入層/有機発光層/電子注入層
(5)正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
(6)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
(7)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
(上記の構成において、陽極として機能する電極が左側に接続され、陰極として機能する電極が右側に接続される)
【0057】
有機発光層の材料としては、任意の公知の材料を用いることができる。たとえば、青色から青緑色の発光を得るためには、例えば縮合芳香環化合物、環集合化合物、金属錯体(Alqのようなアルミニウム錯体など)、スチリルベンゼン系化合物(4,4’−ビス(ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)など)、ポルフィリン系化合物、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、べンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、芳香族ジメチリディン系化合物などの材料が好ましく使用される(非特許文献2および非特許文献3参照)。あるいはまた、ホスト化合物にドーパントを添加することによって、種々の波長域の光を発する有機発光層を形成してもよい。ホスト化合物としては、ジスチリルアリーレン系化合物(たとえば出光興産製IDE−120など)、N,N’−ジトリル−N,N’−ジフェニルビフェニルアミン(TPD)、アルミニウムトリス(8−キノリノラート)(Alq)等を用いることができる。ドーパントとしては、ペリレン(青紫色)、クマリン6(青色)、キナクリドン系化合物(青緑色〜緑色)、ルブレン(黄色)、4−ジシアノメチレン−2−(p−ジメチルアミノスチリル)−6−メチル−4H−ピラン(DCM、赤色)、白金オクタエチルポルフィリン錯体(PtOEP、赤色)などを用いることができる。
【0058】
正孔注入層の材料としては、Pc類(CuPcなどを含む)またはインダンスレン系化合物などを用いることができる。正孔輸送層は、トリアリールアミン部分構造、カルバゾール部分構造、オキサジアゾール部分構造を有する材料を用いて形成することができる。用いることができる材料は、好ましくは、TPD、α−NPD、MTDAPB(o−,m−,p−)、m−MTDATAなどを含む。
【0059】
電子輸送層の材料としては、Alqのようなアルミニウム錯体;PBD、TPOBのようなオキサジアゾール誘導体;TAZのようなトリアゾール誘導体;以下に示す構造を有するもののようなトリアジン誘導体;フェニルキノキサリン類;BMB−2Tのようなチオフェン誘導体などを用いることができる。電子注入層の材料としては、Alqのようなアルミニウム錯体、あるいはアルカリ金属ないしアルカリ土類金属をドープしたアルミニウムのキノリノール錯体などを用いることができる。
【0060】
有機EL層22を構成するそれぞれの層は、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)などの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。
【0061】
反射電極23は、高反射率の金属、アモルファス合金、微結晶性合金を用いて形成されることが好ましい。高反射率の金属は、Al、Ag、Mo、W、Ni、Crなどを含む。高反射率のアモルファス合金は、NiP、NiB、CrPおよびCrBなどを含む。高反射率の微結晶性合金は、NiAlなどを含む。反射電極23を、陰極として用いてもよいし、陽極として用いてもよい。反射電極23を陰極として用いる場合には、反射電極23と有機EL層22との界面に、前述のバッファ層を設けて有機EL層22に対する電子注入の効率を向上させてもよい。あるいはまた、反射電極23を陰極として用いる場合、前述の高反射率金属、アモルファス合金または微結晶性合金に対して、仕事関数が小さい材料であるリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属を添加して合金化し、電子注入効率を向上させることができる。反射電極23を陽極として用いる場合には、反射電極23と有機EL層22との界面に、前述の導電性透明金属酸化物の層を設けて有機EL層22に対する正孔注入の効率を向上させてもよい。
【0062】
反射電極23は、用いる材料に依存して、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)、スパッタ、イオンプレーティング、レーザーアブレーションなどの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。後述するように複数の部分電極からなる反射電極23が必要になる場合には、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる反射電極23を形成してもよいし、あるいは、逆テーパー状の断面形状を有する分離隔壁を用いて複数の部分電極からなる反射電極23を形成してもよい。
【0063】
ディスプレイを作製する場合、マトリクス駆動可能な構成で透明電極21および反射電極23を作製することが望ましい。たとえば、透明電極21および反射電極23のそれぞれを複数のストライプ形状の部分電極から形成し、透明電極21のストライプと反射電極23のストライプとが交差する方向(好ましくは直交する方向)に延びるように構成する。このような構成をとれば、透明電極21の部分電極の1つと反射電極23の部分電極の1つとを選択して電圧を印加すれば、それらの交差する点に位置する有機EL層が発光するというパッシブマトリクス駆動が可能となる。
【0064】
あるいはまた、透明電極21または反射電極23のいずれかを一体として形成される共通電極とし、他方の電極を複数の部分電極から作製し、該複数の部分電極のそれぞれに対してスイッチング素子(TFTなど)を1対1で接続する構成を採ることができる。このような構成では、所望する位置に相当するスイッチング素子をオン状態にすることによって該当位置の有機EL層を発光させる、アクティブマトリクス駆動が可能となる。
【0065】
前述の説明においては、色変換フィルタ10の上に有機EL素子20を形成する例について説明したが、図6に示すように別個の支持基板34上に反射電極33、有機EL層32および透明電極31を形成した有機EL素子30を、透明電極31とガスバリア層14とを対向させた状態で色変換フィルタ10と貼り合わせることによって有機ELディスプレイを形成してもよい。
【0066】
透明電極31、有機EL層32および反射電極33のそれぞれは、前述の透明電極21、有機EL層22および反射電極23に記載したような材料を用いて形成することができる。ただし、複数の部分電極からなる透明電極31が必要になる場合には、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる透明電極31を形成することが望ましい。また、複数の部分電極からなる反射電極33が必要になる場合には、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる反射電極33を形成してもよいし、あるいはフォトリソグラフ法によるパターニングを用いて複数の部分電極からなる反射電極33を形成してもよい。
【0067】
支持基板34は、透明であっても不透明であってもよく、積層される層の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、および寸法安定性に優れていることが好ましい。好ましい材料は、金属、セラミック、ガラス、シリコンなど半導体、ならびにポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート等の樹脂を含む。あるいはまた、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはポリイミド樹脂などから形成される可撓性フィルムを基板として用いてもよい。また、アクティブマトリクス駆動型の有機ELディスプレイを形成する場合には、支持基板34上に複数のスイッチング素子を設け、複数の部分電極からなる反射電極33のそれぞれの部分電極と1対1で接続し、透明電極31を一体の部分からなる共通電極として用いることが望ましい。
【0068】
色変換フィルタ10と有機EL素子30との貼り合わせは、紫外線硬化型接着剤など当該技術において知られている任意の手段を用いて行うことができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の積層体からなるガスバリア層を適用したカラー有機ELディスプレイの作製を、図3および図5を参照しながら説明する。なお、以下の実施例および比較例では、60×80画素(各画素はRGBの副画素を含む)、画素ピッチ0.33mmのカラー有機ELディスプレイを作製した。
【0070】
(実施例1)
透明基板11としてのコーニングガラス(50×50×1.0mm)上に、青色カラーフィルタ材料(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ株式会社製:カラーモザイクCB−7001)をスピンコート法によって塗布した。次いでフォトリソグラフ法によるパターニングを実施し、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、および膜厚10μmの複数のストライプからなる青色変換フィルタ層12Bを形成した。
【0071】
次に、蛍光色素として、クマリン6(0.7質量部)を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PEGMA、120質量部)中に溶解させた。次に100質量部の光重合性樹脂VPA100/P5(新日鐵化学株式会社製)を添加して溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を上記の透明基板11上にスピンコート法にて塗布し、フォトリソグラフ法によるパターニングを実施し、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、および膜厚10μmの複数のストライプからなる緑色変換フィルタ層12Gを形成した。
【0072】
次に、蛍光色素として、クマリン6(0.6質量部)、ローダミン6G(0.3質量部)、ベーシックバイオレット11(0.3質量部)を、120質量部のPEGMA中に溶解させた。次に100質量部の光重合性樹脂VPA100/P5を添加して溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を上記の透明基板11上にスピンコート法にて塗布し、フォトリソグラフ法によるパターニングを実施し、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、および膜厚6μmの複数のストライプからなる赤色変換フィルタ層12Rを形成した。
【0073】
RGBの色変換フィルタ層12が形成された基板の上に、UV硬化型樹脂(エポキシ変性アクリレート)をスピンコート法にて塗布し、高圧水銀灯に暴露して平坦化層13を形成した。この際に、各色の色変換フィルタ層12のパターンの変形はなかった。ここで、平坦化層13は、色変換フィルタ層が形成されている領域(表示領域)をカバーし、それより広い領域にパターンを形成するが、そのパターン端部で基板からの膜厚を測定して8μmとなるように平坦化膜13を形成した。さらに、表示領域では、平坦化層13の基板からの高さは10μm以上となり、色変換フィルタ層間の段差およびその間隙における段差をある程度トレースするものの、十分に平坦化(段差はPeak-to-Valleyで、0.5μm程度)することができた。
【0074】
次に、2対の無機膜61(a,b)および高分子膜62(a,b)の積層体、ならびに無機絶縁膜63からなるガスバリア層14を形成した。無機膜61aおよび61bは、室温におけるRFマグネトロンスパッタ法によって形成された膜厚300nmのSiO膜であった。この際にスパッタターゲットとしてSiを用い、スパッタガスとしてArと酸素との混合ガスを用い、反応性スパッタによってSiOを生成した。高分子膜62aおよび62bは、アクリルモノマーを真空加熱蒸着によって無機膜61aまたは61bの上に付着し、その後180℃で30分間にわたって加熱してアクリルモノマーを重合させてアクリル樹脂を形成することによって形成した。高分子膜62aおよび62bの膜厚は、それぞれ1μmであった。最後に高分子膜62bの上に、無機膜61aおよび61bと同様の方法によって膜厚300nmのSiO膜を形成し、無機絶縁膜63を得た。
【0075】
次に、ガスバリア層14の上面に、スパッタ法によってIDIXO(出光興産株式会社製、インジウムおよび亜鉛の酸化物と酸化インジウムとの混合物)を全面成膜した。次に、レジストとしてOFRP−800(東京応化工業株式会社製)を用いるフォトリソグラフ法にてパターニングを行い、幅0.094mm、ピッチ0.11mm、および膜厚100nmの複数のストライプ状部分電極からなる透明電極21を形成した。
【0076】
次いで、透明電極21以下の構造を形成した基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層の4層からなる有機EL層22を、真空を破らずに順次成膜した。成膜に際して、真空槽内圧を1×10-4Paまで減圧した。正孔注入層として、膜厚100nmの銅フタロシアニン(CuPc)を、正孔輸送層として、膜厚20nmの4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を、有機発光層として、膜厚30nmの4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を、そして電子注入層として、膜厚20nmのトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム錯体(Alq)を積層した。
【0077】
引き続いて、真空を破ることなしに、透明電極21のストライプパターンと直交する方向に延びる幅0.3mおよびピッチ0.330mmのストライプパターンが得られるマスクを用いて、膜厚200nmのMg/Ag(質量比10/1)を堆積させて複数のストライプ状部分電極からなる反射電極23を形成して、図5に示した構造を有する色変換フィルタ10/有機EL素子20の積層体を得た。
【0078】
こうして得られた積層体をグローブボックス内乾燥窒素雰囲気下(酸素および水分濃度ともに10ppm以下)において、封止ガラス(図示せず)とUV硬化接着剤を用いて封止して、有機ELディスプレイを得たた。
【0079】
(比較例1)
ガスバリア層14として、単層のSiO膜(膜厚300nm)を用いたことを除いて実施例1を繰り返して、カラー有機ELディスプレイを作製した。本比較例における単層のSiO膜は、実施例1における無機膜61aと同様の条件で作製した。
【0080】
(比較例2)
ガスバリア層14を形成しなかったことを除いて実施例1を繰り返して、カラー有機ELディスプレイを作製した。したがって、本比較例のカラー有機ELディスプレイは、図1に示したような従来技術の構造を有するものである。
【0081】
(評価)
実施例1および比較例1〜2にしたがって、それぞれ3個のカラー有機ELディスプレイを作製し、加速条件における連続駆動試験を行った。駆動条件として、駆動周波数60Hz、デューティ比1/60で、1画素当たりの電流量を100μAに設定した。連続駆動試験開始時(初期)の非発光面積を特定し、および発光輝度を測定した。その後、温度85℃の加速条件において500時間にわたる連続駆動試験を行い、連続駆動試験終了時(加速試験後)の非発光面積を特定し、および発光輝度を測定した。結果を第1表に示す。なお、加速試験後の非発光面積の増加率および輝度保持率は、各実施例および比較例における初期の値を1とする比で示した。加速試験後の非発光面積の増加率比は、比較例1の増加率を1とする、実施例1および比較例2における非発光面積の増加率の比である。第1表に示した結果は、各実施例および比較例に関して、3個のカラー有機ELディスプレイの平均値である。
【0082】
【表1】

【0083】
第1表から分かるように、単層のSiOx層をガスバリア層として用いて比較例1およびガスバリア層14を用いなかった比較例2のディスプレイにおいては、加速試験後に非発光部分の面積が2倍以上に増大し、その結果として輝度の保持率は50%を下回った。これに対して、本発明の積層体からなるガスバリア層14のディスプレイにおいては、非発光面積の増加が大幅に抑制され、同時に高い輝度保持率を示した。
【0084】
以上のことから、本発明の積層体からなるガスバリア層14が有機EL素子の特性低下の抑制に有効であり、これを用いることによって、長期にわたって安定した発光特性を維持する有機ELディスプレイを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】従来技術の有機ELディスプレイの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の色変換フィルタの1つの実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の色変換フィルタのガスバリア層の1つの実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の色変換フィルタのガスバリア層の別の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の有機ELディスプレイの1つの実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明の有機ELディスプレイの別の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0086】
10、40 色変換フィルタ
11、41 透明基板
12、42(R,G,B) 色変換フィルタ層
13、43 平坦化層
14 ガスバリア層
20、30、50 有機EL素子
21、31、51 透明電極
22、32、52 有機EL層
23、33、53 反射電極
34 支持基板
61(a、b) 無機膜
62(a、b) 高分子膜
63 無機絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板上に設けられた1つまたは複数種の色変換フィルタ層と、前記色変換層を覆って形成される平坦化層と、前記平坦化層上に形成されるガスバリア層とを備えた色変換フィルタであって、
前記ガスバリア層は、少なくとも2対の無機膜および高分子膜の積層体と、該積層体の上に設けられた無機絶縁膜とから構成されていることを特徴とする色変換フィルタ。
【請求項2】
前記無機膜のそれぞれは、それぞれ独立的に、導電性透明金属酸化物、絶縁性酸化物、絶縁性窒化物、絶縁性炭化物、または絶縁性酸化窒化物から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の色変換フィルタ。
【請求項3】
前記高分子膜のそれぞれは、それぞれ独立的に、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはポリオレフィン樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の色変換フィルタ。
【請求項4】
前記無機絶縁膜が、絶縁性酸化物、絶縁性窒化物、絶縁性炭化物、または絶縁性酸化窒化物から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の色変換フィルタ。
【請求項5】
前記無機絶縁膜が、SiO、AlO、SiN,AlN、SiO、AlO、TiO、BN、またはSiCから形成されていることを特徴とする請求項4に記載の色変換フィルタ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の色変換フィルタ上に、少なくとも透明電極、有機EL層および反射電極が順次積層されている有機EL素子が形成されていることを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の色変換フィルタと、支持基板上に少なくとも反射電極、有機EL層および透明電極が順次積層されている有機EL素子とを貼り合わせて形成されている有機ELディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−302656(P2006−302656A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122596(P2005−122596)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】