説明

色変換膜

【課題】穏和な条件で簡便に製造でき、発光波長の微細制御が可能で、発光性能の安定性に優れた蛍光体を含み、寿命の向上と正規分布型で狭帯域な発光スペクトルを実現する色変換膜を提供する。
【解決手段】一次光を発する光源の少なくとも一部を吸収して、一次光のピーク波長よりも長いピーク波長を有する二次光を発する色変換膜。この色変換膜は蛍光体として下記(I)式で表される組成比を満たす超微粒子を含む。
(In1−xGa)P …(I)
(式中、0<x<1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次光を発する光源の少なくとも一部を吸収して、この一次光より長波長の二次光を提供する色変換膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、蛍光体を用いた色変換技術とその応用については、膨大な研究成果がある。一例として、有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」と称する)発光装置のフルカラー化方法が挙げられる。有機ELは、完全固体素子であり、軽量、薄型で、低電圧駆動のディスプレイを作製できるため、現在各方面で盛んに研究されている。その中で有機EL素子をディスプレイにするための最大の技術課題は、フルカラー化方法の開発である。このようなフルカラーディスプレイの作製のためには、青・緑・赤色の発光を微細に配列しなければならないが、現在、その方法として、三色塗り分け法、カラーフィルタ法、色変換法の三つの方法が考えられている。
【0003】
このうち、色変換法とは、青色光を発する素子から発せられる青色光を、緑色光に変換する緑色変換膜と赤色光に変換する赤色変換膜を用いて三色を得る方法であり、三色塗り分け法に比べて大画面化が容易であり、またカラーフィルタ法に比べて輝度の損失が少ないという利点がある。
【0004】
この色変換法を用いてフルカラーディスプレイを製造する場合、青色発光を緑色や赤色に変換するために用いる色変換膜は、有機系の蛍光色素又は蛍光性顔料とそれを分散する樹脂から構成される。
【0005】
例えば、有機EL素子を用いた多色発光素子として、有機ELに対し、蛍光色素を含む蛍光体(以下、「色変換膜」と称する)が提案されている(特許文献1〜3)。
【0006】
しかしながら、蛍光色素は、周囲の環境に影響を受けやすく、例えば溶媒や樹脂などの媒体の種類などによっては、その蛍光波長が変化したり、消光を起こすことがよく知られている。特に、液状のレジスト中に蛍光色素を分散させた場合、レジスト中に光重合開始剤や反応性多官能モノマーが存在するため、フォトリソグラフィープロセスにおける露光工程や熱処理(ポストベーク)工程において、該光重合開始剤や反応性多官能モノマーから発生するラジカル種やイオン種によって、蛍光色素が脱色したり、消光することがしばしば起こるという問題が生じる。
【0007】
一方で、色変換膜の蛍光発光特性を向上させるべく、蛍光体の発光スペクトルを正規分布型かつ狭帯域化したいとの要望があった。更に、色変換膜用の蛍光体については、色変換膜の光散乱度を低下させるためには、蛍光体結晶粒子の粒径が小さいほうが望ましく、また、解像度は画素の大きさで決まるため、解像度を高くする際にも、蛍光体結晶粒子の粒径が小さいほうが望ましく、また、塗布プロセスに適用可能であることが望ましい。
【0008】
これまでに、III−V族半導体のうち、リン化インジウム(InP)を用いた超微粒子について、その合成と発光スペクトルについての報告がなされている(非特許文献1,2)。この超微粒子は、発光波長が超微粒子の粒径によって制御可能であり、また、既存の有機蛍光分子と比して正規分布型で狭帯域な発光スペクトルを示し、更に溶媒で分散可能であるとの特徴を有する。これらの特徴を有する超微粒子は、半導体超微粒子、ナノ結晶(Nanocrystal)、ナノ粒子(Nanoparticle)、量子ドット(Quantum dot)とも称される。
【0009】
しかしながら、ここで報告されているInP系超微粒子は、超微粒子の製造に高温加熱条件で数時間から数日を要するため製造コストが高い上に、反応の再現性が悪く、また発光波長の微細制御が難しいなどの問題があった。
【特許文献1】特開平3−152897号公報
【特許文献2】特開平8−286033号公報
【特許文献3】特開2003−64135号公報
【非特許文献1】「Appl. Phys. Lett. 68,3150(1996)」
【非特許文献2】「Nano Lett 2, 1027(2002)」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来のInP系超微粒子の問題点を解決することを課題としてなされたものであり、穏和な条件で簡便に製造することができ、発光波長の微細制御が可能で、発光性能の安定性に優れた蛍光体を含み、寿命の向上と、正規分布型で狭帯域な発光スペクトルを実現する色変換膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討の結果、色変換膜に用いる蛍光体として、特定の組成を有するIII−V族系化合物半導体の超微粒子を用いることを検討したところ、その合成時に好ましくはマイクロ波照射による加熱を行ったIII−V族半導体であって、特定の組成よりなる超微粒子が、簡便に製造でき、発光波長の微細制御が可能な安定性に優れた色変換膜用蛍光体となり、これを用いて得られる色変換膜が、従来にない寿命と正規分布型で狭帯域な発光スペクトルを示すことを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、一次光を発する光源の少なくとも一部を吸収して、該一次光のピーク波長よりも長いピーク波長を有する二次光を発する色変換膜において、下記(I)式で表される組成比を満たす蛍光体超微粒子を含むことを特徴とする色変換膜、に存する。
(In1−xGa)P …(I)
(式中、0<x<1)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長寿命、低環境負荷で、正規分布型かつ狭帯域な発光スペクトルを有する色変換膜であって、安定した発光性能を得られる色変換膜を安価に提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0015】
[蛍光体超微粒子]
まず、本発明の特徴的構成要件である蛍光体超微粒子について説明する。
【0016】
〈組成、構造及び粒径〉
本発明においては、色変換膜に含まれる蛍光体の少なくとも1種として、インジウムとガリウムとリンとから構成され、下記(I)式で表される組成比を満たす蛍光体超微粒子を含むことを特徴とする。
(In1−xGa)P …(I)
(式中、0<x<1)
【0017】
ここで、本発明に係る蛍光体超微粒子とは、半導体結晶を、数ナノメートル程度の結晶粒径とした物質である。即ち、本発明に係る蛍光体超微粒子は、「少なくとも単一で固有の結晶構造を有する物質」のことである。結晶構造とは、例えば尖亜鉛鉱構造(Zinc Blend型構造)やウルツ鉱構造等の、周期的な原子配列をもった構造のことである。
【0018】
上記(I)式において、xが上記の範囲にあることは、この蛍光体超微粒子が、InPの結晶格子中のInの一部がGaに置換されているか、あるいは、GaPの結晶格子中のGaの一部がInに置換されてなる三元系半導体からなるという技術的な意義を有する。ここで、発光特性の観点から、xの範囲は好ましくは0<x<0.1である。ただし、In、Ga及びPの少なくとも何れかのサイトの一部が更に他の元素によって置換されて含有されていてもよい。本発明に係る蛍光体超微粒子に含有されてもよい元素としてはH,F,O,Alなどの1又は2以上の元素が挙げられる。
【0019】
本発明に係る蛍光体超微粒子は、In、Ga及びPの3元素を含み、上記組成比率を有しつつ、結晶構造は,尖亜鉛鉱構造(Zinc Blend型構造)であることが好ましい。このような超微粒子を、以下「InGaP系超微粒子」と称する。
【0020】
また、本発明に係る蛍光体超微粒子は、その特性を損なわない範囲で他の不純物元素がサイト間に貫入していても良く、また、結晶欠陥や転位があっても良く、更に、その特性を損なわない範囲で位置的組成比のずれがあってもよい。また、上記超微粒子は、単結晶、多結晶のいずれであってもよい。
【0021】
本発明に係る蛍光体超微粒子は、III−V族物質からなるシェルを有するコアシェル構造或いは、他の物質からなるシェルを有するコアシェル構造を取ってもよい。コアシェル構造とは、内核(コア)と外殻(シェル)の構造を持った粒子のことであり、内核の超微粒子の周囲に外殻の物質が形成される。コアシェル構造を取ることにより粒子の物理的、化学的特性を好ましく変化させることができる。コアシェル構造の外殻は、複数個あってもよい。外殻に用いる物質としては、内核を構成する物質とは異なるIII−V族化合物半導体、II−VI族化合物半導体、あるいは酸化物の1種又は2種以上が好ましく、中でも、InP、BN、BaS、GaN、ZnO、ZnS、ZnSe、CdS、MgS、MgSe、SiOの1種又は2種以上がより好ましい。
【0022】
本発明に係る蛍光体超微粒子の平均粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは1.5nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは1μ以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは20nm以下、中でも12nm以下、最も好ましくは8nm以下である。この蛍光体超微粒子の平均粒径が小さすぎると、結晶性低下などにより無輻射失活が起こり、内部量子効率が低下するおそれがあり、結果として発光効率が低下する。また、平均粒径が大きすぎると、量子効果による状態密度の増加の効果が小さくなり、吸収効率が十分得られず、発光効率が低下する。
【0023】
ここで、蛍光体超微粒子の粒径、平均粒径及び標準偏差は、透過型電子顕微鏡(TEM)の画像の形態解析によって計算される。TEMによる画像が十分得られない場合は、原子間力顕微鏡(AFM)、dynamic light scattering、中性子散乱法等により定義される。本発明に係る蛍光体超微粒子については、これらの粒径定義法の少なくとも1つ以上によって定義される平均粒径が前述の条件を満たしていることが好ましい。
【0024】
本発明に係る蛍光体超微粒子は、その粒径分布を狭くすることにより、発光スペクトルを狭帯域化する事ができる。ここで、発光スペクトルの狭帯域化とは、即ち、半値幅の狭い発光スペクトルと言い換えることができる。本発明に係る蛍光体超微粒子の粒径分布は、標準偏差として好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。粒径分布の下限は特にないが、標準偏差として通常0.001%以上である。蛍光体超微粒子の粒径分布がこの標準偏差の範囲を超過する場合は、発光スペクトルの狭帯化という目的を十分に達成できず、結果として色純度が悪くなるという不都合がある。
【0025】
ここで、標準偏差(σ)とは、TEMの観察写真より測定した各々の超微粒子の粒径(di)から数平均粒径(d)を引いたものの2乗の総和を粒子数(n)で割った値の平方根をいい、半値幅とは、ピーク波長での吸光度を1に規格化したときに、吸光度0.5の値を取るピークより長波長側の波長の値からピーク波長の値を減じ、その値を2倍にした値と定義する。
なお、前記の数平均粒径及び標準偏差は、TEMの観察写真より実測にて求めることができるが、画像解析処理装置等を用いて求めてもよい。
【0026】
また、本発明に係る蛍光体超微粒子は、その粒径を制御することで色変換膜に組み込んだ際に得られる二次光の発光スペクトルのピーク波長を制御することが可能となる。例えば、発光波長が590nmから650nmの赤色光を取り出す場合には、該超微粒子の個々の粒径dを4nm<d<6nmの範囲に収めればよく、発光波長が520nmから570nmの緑色光を取り出す場合には、該超微粒子の個々の粒径dを1.5nm<d<2.8nmの範囲に収めればよい。
【0027】
本発明に係る蛍光体超微粒子は、その表面に有機化合物を伴っていてもよい。蛍光体超微粒子がその表面に有機化合物を伴うとは、超微粒子表面に有機化合物が結合して保持される状態を指す。かかる超微粒子表面の有機化合物と超微粒子との結合様式に制限はないが、例えば配位結合、共有結合、イオン結合等の比較的強い化学結合、あるいはファンデルワールス力、水素結合、疎水−疎水相互作用、分子鎖の絡み合い効果等の比較的弱い可逆的な引力相互作用等が例示される。表面に伴われた有機化合物は1種でもよく、また、複数種でもよい。その有機物に関して制限はないが、具体例としては、トリアルキルホスフィン類、トリアルキルホスフィンオキシド類、アルカンスルホン酸類、アルカンホスホン酸類、アルキルアミン類、ジアルキルスルホキシド類、ジアルキルエーテル、脂肪酸類、アルケン類、アルキン類等が挙げられる。
【0028】
蛍光体超微粒子がその表面に有機化合物を伴うことにより、有機溶媒、あるいは、バインダー樹脂等への分散性が向上する効果がある。
【0029】
〈合成法〉
本発明に係る蛍光体超微粒子は、加熱反応容器を用いて合成することが好ましい。加熱反応容器は、容器内を室温より高温に保つことができ、また、閉鎖系の場合、外部と物質の授受を抑制することができる。反応容器内には、通常、複数種の原料物質(超微粒子の前駆体)及び溶媒が入れられるが、場合により、原料物質のみであってもよい。原料物質としては、公知の原料化合物(超微粒子を構成する金属元素の化合物)を使用する。
【0030】
原料化合物と溶媒、或いは原料化合物同士の混合時の温度は、通常−30℃以上100℃以下であるが、温度制御が容易であることから、外環境と同じ温度(室温)であることが好ましい。一般に、外環境と同じ場合、その温度は0℃以上40℃以下である。加熱反応容器の温度は、温度計、パイロメータ、熱電対等によって測定され、制御に供する。
【0031】
加熱反応容器での前記式(I)を満足する組成の蛍光体の蛍光体製造工程は、通常、(1)加熱、(2)保温、(3)冷却、の少なくとも1以上よりなる。
ここで、保温とは、加熱反応容器内の温度を一定に保つことであり、通常、外環境温度(室温)より高温である。
【0032】
加熱反応容器内での加熱は、油浴、マントルヒーター、火炎バーナーなどの熱源、あるいはマイクロ波などを用いて行うことができる。中でも電磁波、特にマイクロ波照射による加熱を採用することで、前記(I)式を満足する組成の高品質な超微粒子を合成できる傾向にある。ただし、電磁波の照射以外に、油浴、マントルヒータ、バーナ等の1以上の方法を適宜併用してもよい。
【0033】
本発明に係る蛍光体超微粒子の合成に用いられる電磁波の周波数は、好ましくは1GHz以上、より好ましくは2GHz以上、最も好ましくは2.4GHz以上である。また、好ましくは、10GHz以下、より好ましくは3GHz以下、最も好ましくは2.5GHz以下である。また、この電磁波の波長スペクトルは急峻であることが好ましく、特に単一モードの電磁波を用いることが好ましい。また、電磁波の電力強度は過度に高いと微粒子合成反応の制御が困難になることがあり、低いと合成反応が十分に進行しないことがあることから、100W〜30kW程度であることが望ましい。
【0034】
加熱温度は、通常50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上であり、また通常1000℃以下、好ましくは500℃以下、より好ましくは350℃以下である。
【0035】
このような蛍光体超微粒子の合成において、得られる超微粒子の粒径分布の値は、微粒子合成における反応容器の加熱速度と冷却速度を適切に調節することで制御することができる。例えば、加熱反応容器内で、加熱を急峻に行うと共に、冷却を急峻に行う。具体的には、加熱速度が20℃/分以上、及び冷却速度が50℃/分以上の条件が好ましい。
【0036】
また、得られる超微粒子の粒径制御は、例えば反応液の蛍光体超微粒子前躯体の濃度の大小によって制御することができ、より大きな粒子を生成させたい場合には、多重合成法(multi injection)を用いて行えば良い。多重合成法とは、前記の超微粒子合成法に従って反応容器内で超微粒子を合成した後に、更に反応容器内に超微粒子の前躯体を追加し、前記の蛍光体製造工程に従って超微粒子の合成を行い、必要に応じてこれを繰り返すものである。例えば、第二回目の合成反応により、第一回目の合成反応で得られた超微粒子よりも粒径の大きな超微粒子を製造することができる。この多重合成法を用いることにより、粒径の制御を行うことができる。
【0037】
[色変換膜]
次に、上述のような蛍光体超微粒子を用いる本発明の色変換膜の構成について図面を参照して説明する。
【0038】
図1は本発明の色変換膜の実施の形態の一例を示す模式的な断面図である。図中、1は緑色蛍光体、1’は赤色蛍光体、2は緑色蛍光体含有色変換膜、2’は赤色蛍光体含有色変換膜、3は透明基板である。
【0039】
〈色変換膜の構成及び製造方法〉
図1に示されるように、色変換膜2,2’は、色変換材料組成物を用いて基板3上に作製される。
【0040】
色変換膜の形成に使用される色変換材料組成物は、1種又は複数種の蛍光体と、それを分散させる樹脂から主として構成される。樹脂としては、公知のバインダー樹脂を用いることができる。公知のバインダー樹脂としては、熱可塑性でかつ透明な各種ポリマーを用いることができる。例えば、ポリビニルピロリジノン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセテート、ポリ塩化ビニル、ポリブテン、ポリエチレングリコール及びこれらの共重合体などが挙げられる。また、フォトレジスト等の感光性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂も挙げられる。その他、例えば色変換膜におけるピクセル形成のため、該蛍光体超微粒子を光重合性モノマー中に高分散させた後に、光によって重合して得られる樹脂を挙げることができる。
【0041】
この色変換材料組成物には、更に必要に応じて硬化促進剤、熱重合禁止剤、可塑剤、充填剤、溶剤、消泡剤、レベリング剤などの添加剤を配合することができる。
【0042】
硬化促進剤としては、例えば、過安息香酸誘導体,過酢酸,ベンゾフェノン類等があり、熱重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン,ハイドロキノンモノメチルエーテル,ピロガロール,t−ブチルカテコール,フェノチアジン等があり、可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート,ジオクチルフタレート,トリクレジル等があり、充填剤としては、例えば、グラスファイバー,シリカ,マイカ,アルミナ等があり、また、消泡剤やレベリング剤として、例えば、シリコン系,フッ素系,アクリル系の化合物等が好適に使用される。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0043】
更に、色変換材料組成物への前記各種添加成分は、色変換膜の製造方法に応じて、溶剤に溶解させることがある。この場合の溶剤としては、例えば、ケトン類、セロソルブ類又はラクトン類等が使用され、具体的には、ケトン類としてはメチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等が挙げられ、セロソルブ類としてはメチルセロソルブ,エチルセロソルブ,ブチルセロソルブ及びセロソルブアセテート等が挙げられ、ラクトン類としてはγ−ブチロラクトン等が挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても良い。
【0044】
本発明の色変換膜は、光源からの一次光を吸収し、より長波長の二次光を発光するものであり、上述のような色変換材料組成物であって、前述の本発明に係る蛍光体超微粒子を含む色変換材料組成物を基板上に印刷後硬化させたり、或いはフォトリソグラフィー法などにより形成され、特にフォトリソグラフィー法により形成されることが好ましい。
【0045】
フォトリソグラフィー法により本発明の色変換膜を製造するには、常法によればよく、まず上記感光性の色変換材料組成物を溶液にして基板表面に塗布し、次にプレキュアにより溶媒を乾燥させ(プリベーク)た後、得られる被膜の上にフォトマスクをあて、活性光線を照射して露光部を硬化させ、更に弱アルカリ水溶液を用いて未露光部を溶出させる現像を行うことによりパターンを形成し、更に後乾燥としてポストベークを行なう。
【0046】
色変換材料組成物の溶液を塗布する基板としては、波長400〜700nmの可視領域の光の透過率が50%以上であり、表面平滑な基板が好ましい。具体的には、ガラス基板やポリマー板が使用される。ガラス基板としては、特にソーダ石灰ガラス,バリウム・ストロンチウム含有ガラス,鉛ガラス,アルミノケイ酸ガラス,ホウケイ酸ガラス,バリウムホウケイ酸ガラス,石英等よりなるものが挙げられる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート,アクリル,ポリエチレンテレフタレート,ポリエーテルサルファイド及びポリスルフォン等よりなるものが挙げられる。
【0047】
色変換料組成物の溶液を基板に塗布する方法としては、公知の溶液浸漬法、スプレー法の他、ローラーコーター機、ランドコーター機やスピナー機を用いる方法など何れの方法も使用できる。これらの方法により、所望の厚さに塗布した後、溶剤を除去する(プリベーク)ことにより、被膜が形成される。
【0048】
このプリベークはオーブン、ホットプレート等によって加熱することにより行なわれる。プリベークにおける加熱温度及び加熱時間は、使用する溶剤に応じて適宜選択され、例えば、80〜150℃の温度で1〜30分間行なわれる。また、プリベーク後に行なわれる露光は、露光機により行なわれ、フォトマスクを介して露光することによりパターンに対応した部分のレジストのみを感光させる。露光機及び露光照射条件は適宜選択することができるが、照射する光は、例えば、可視光線、紫外線、X線及び電子線などが使用できる。照射量は、特に制限されないが、例えば、1〜3000mJ/cmの範囲で選択される。
【0049】
露光後のアルカリ現像は、露光されない部分のレジストを除去する目的で行なわれ、この現像によって所望のパターンが形成される。このアルカリ現像に適した現像液としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩の水溶液などが使用できる。特に、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩を1〜3重量%含有する弱アルカリ水溶液を用いて10〜50℃、好ましくは20〜40℃の温度で現像するのがよく、市販の現像機や超音波洗浄機などを用いて微細な画像を精密に形成することができる。
【0050】
このようにして現像した後、通常は、80〜220℃、10〜120分の条件で熱処理(ポストベーク)が行なわれる。このポストベークは、パターニングされた色変換膜と基板との密着性を高めるために行なわれる。これはプリベークと同様に、オーブン、ホットプレート等により加熱することにより行なわれる。本発明のパターニングされた色変換膜は、以上の各工程を経て、所謂フォトリソグラフィー法により形成される。
【0051】
このようにして得られる本発明の色変換膜中の前記特定組成の蛍光体超微粒子の含有量は、特に制限はないが、過度に多いと製膜性が悪く、機械的に脆い膜となってしまう。一方、過度に少ないと、所望の発光強度が得られるのに必要な蛍光体濃度が不足するので、色変換膜の膜厚を極端に厚く(100μm以上)しなければならず、均一な膜を得ることが困難になる。よって、色変換膜中の蛍光体超微粒子の含有量は、通常、0.001重量%以上、好ましくは0.005重量%以上、通常、50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。
【0052】
なお、本発明の色変換膜には、蛍光体として本発明に係る前記特定組成の蛍光体超微粒子の1種が単独で含まれていても良く、組成及び/又は粒径分布等の異なるものが任意の組み合わせ、任意の割合で含まれていてもよい。また、本発明の色変換膜には、本発明に係る前記特定組成の蛍光体超微粒子以外の他の蛍光体超微粒子の1種又は2種以上が含まれていてもよい。更には、公知の有機系の蛍光色素や蛍光性顔料の1種又は2種以上が含まれていてもよい。他の蛍光体超微粒子を含む場合、色変換膜中の蛍光体超微粒子含有量はその合計で前記範囲となるようにすることが好ましい。
【0053】
上述の本発明の色変換膜の製造方法は、本発明の色変換膜を製造する方法の一例であって、本発明の色変換膜は、何ら前記方法により製造されたものに限定されない。
【0054】
本発明の色変換膜の膜厚は、入射光を所望の波長に変換するのに必要な膜厚を適宜選ぶ必要があるが、通常は1〜100μmの範囲で選ばれる。特に1〜20μmの膜厚が好適である。
【0055】
〈一次光を発する光源〉
なお、このような本発明の色変換膜に適用される、一次光を発する光源としては、公知の発光体が利用できる。例えば、有機EL素子,LED素子,冷陰極管,無機EL素子,蛍光灯及び白熱灯などが挙げられるが、蛍光色素を劣化させる紫外光の発生が少ない有機ELあるいは無機EL素子、及びLED素子が特に好ましい。
一次光を発する光源は市販品を用いることができる。また、公知の方法を利用して作製することもできる。
【0056】
〈カラーフィルター〉
なお、本発明の色変換膜には、所望の波長を得るためにカラーフィルターを併設して、色純度を調整することができる。この場合、カラーフィルターとしては、例えばペリレン系顔料,レーキ顔料,アゾ系顔料,キナクリドン系顔料,アントラキノン系顔料,アントラセン系顔料,イソインドリン系顔料,イソインドリノン系顔料,フタロシアニン系顔料,トリフェニルメタン系塩基性染料,インダンスロン系顔料,インドフェノール系顔料,シアニン系顔料,ジオキサジン系顔料等の単独或いはこれらの2種以上の混合物からなる色素、又はこれらの色素をバインダー樹脂中に溶解又は分解させた固体状態のものを好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何等限定されるものではない。
なお、以下の例に、InGaP系超微粒子の合成例を示すが、特に断らない限り、原材料には、市販品の薬品を、精製等を行わずそのまま使用した。
【0058】
また、実験には下記の装置を用いた。
(実験装置)
マイクロ波を用いた合成装置:
CEM Corporation社製「DISCOVER system」
定電力及びパルス電力源:
Milestone Corporation社製「MILESTONE ETH
OS system」
プラズマ発光分光分析装置:
JOBIN YVON社製 誘導結合プラズマ−発光分光分析装置「JY38S」
フォトルミネセンススペクトル測定装置:
CARY ECLIPSE Fluorescence Spectromete

透過型電子顕微鏡(TEM):
JEOL 2010 Transmission Electron Micro
scope
【0059】
なお、DISCOVER systemには、テフロン(登録商標)隔膜付きの高圧用アルミキャップが付いた5mlの小さな反応容器が設置されている。
全てのガラス器具は、使用前に乾燥してから用いた。また、原材料となる薬品は、空気を遮断した状態で扱った。
【0060】
[実施例1]
〈InGaP系超微粒子の合成〉
酢酸インジウム(In(OAc))、ガリウムアセチルアセトナト錯体(Ga(acac))及びパルミチン酸を、100℃に保ったヘキサデセン溶媒中に溶かし15.6mMの陽イオン溶液を調製した。ここで陽イオンの数は、Gaイオン数とInイオンの数の和で定義される。この時、次の(1)及び(2)を満たすように混合量を調節した。
(1)Ga原子数/(In原子数+Ga原子数)=0.095
(2)ヘキサデカン酸の分子数/(Ga原子数+In原子数)=3
【0061】
この溶液をこの温度に保ったまま1時間減圧し、Arガスで3回パージを行い、反応の際の前駆体物質として用いられるパルミチン酸のインジウム塩とガリウム塩(CH(CH14COO(In,Ga))を合成した。
別に、ヘキサデセンを溶媒として86.1mMのP(SiMe溶液を調製した。
なお、上記の合成方法は、Nano Lett 2, 1027(2002)を参照することができる。
【0062】
次に、パルミチン酸インジウム塩とガリウム塩の溶液とP(SiMe溶液とを、陽イオンの合計数(インジウムイオン数とガリウムイオン数の和)と陰イオン数(リンイオン数)が2:1になるように混合した。溶液の全体量は、約5mLであった。また、溶液全体を50℃に保った。
【0063】
次に、該溶液が280℃に達するまで、反応容器中で溶液に300Wの電力強度でマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射した。280℃に達した後、マイクロ波照射の電力強度を280Wに下げ、そのまま電力強度を維持した。このまま15分間溶液の温度及び電磁波の電力強度を一定に保った後、急冷した。これにより、2.3nmの平均粒径のInGaP系超微粒子の粒子を得た。
生成されたInGaP系超微粒子の結晶は尖亜鉛鉱型構造を有し、粒径分布の標準偏差は5%であった。
また、このInGaP系超微粒子の組成は、プラズマ発光分光分析で分析したところ、(In0.95Ga0.05)Pであることを確認した。
【0064】
〈発光スペクトルの測定〉
このInGaP系超微粒子に関して、フォトルミネセンススペクトル測定装置により発光スペクトルを測定したところ、図2の結果(「溶媒:ヘキサデセン」のデータ)が得られた。発光スペクトルは正規分布型でそのピーク波長は560nm、発光スペクトルの半値幅は40nmであった。
【0065】
〈発光スペクトルの安定性〉
同様の合成実験を5回繰り返し、それぞれの発光スペクトルを測定したところ、発光スペクトルのピーク波長のばらつきは、560nm±3nmの範囲内にあり、再現性のよい実験結果が得られた。
【0066】
上記実施例から明らかなように、本発明で開示する特定組成を有する蛍光体超微粒子は、反応の再現性に優れており、公知手段を利用すれば、得られたInGaP系超微粒子を蛍光体として用いて緑色蛍光体含有色変換膜を作製することができる。
【0067】
[実施例2]
〈InGaP系超微粒子の合成〉
パルミチン酸インジウム塩とガリウム塩、P(SiMeを混合する際の溶媒をヘキサデセンからオクタデセンにしたこと以外は実施例1と同様にして、4.3nmの平均粒径のInGaP系超微粒子の粒子を合成した。
このInGaP系超微粒子の結晶は尖亜鉛鉱型構造を有し、粒径分布の標準偏差は5%であった。
また、このInGaP系超微粒子の組成は、プラズマ発光分光分析で分析したところ、(In0.94Ga0.06)Pであることを確認した。
【0068】
〈発光スペクトルの測定〉
このInGaP系超微粒子に関して、フォトルミネセンススペクトル測定装置により、発光スペクトルを測定したところ、図2の結果(「溶媒:オクタデセン」のデータ)が得られた。発光スペクトルは正規分布型でそのピーク波長は600nm、発光スペクトルの半値幅は50nmであった。
【0069】
〈発光スペクトルの安定性〉
同様の合成実験を5回繰り返し、それぞれの発光スペクトルを測定したところ、発光スペクトルのピーク波長は、600nm±4nmの範囲内にあり、再現性のよい実験結果が得られた。
【0070】
上記実施例から明らかなように、本発明で開示する特定組成を有する蛍光体超微粒子は、反応の再現性に優れており、公知手段を利用すれば、得られたInGaP系超微粒子を蛍光体として用いて赤色蛍光体含有色変換膜を作製することができる。
【0071】
[比較例1]
特許文献1(特開平3−152897号公報)に色変換膜の緑色蛍光体として開示されているクマリン153をエタノール溶媒に溶解させ、発光スペクトルを測定したところ、図3の結果が得られた。発光スペクトルは非正規分布型で、そのピーク波長は527nm、発光スペクトルの半値幅は100nmで、半値幅はかなり劣るものであった。
【0072】
[比較例2]
非特許文献2(Nano Lett 2, 1027(2002))を参照し、以下の手順で、InP系ナノ粒子の合成を行った。
三口フラスコに酢酸インジウム(In(OAc))0.1mmol(0.029g)及びヘキサデカン酸0.3mmol(0.076g)、オクタデセン4.895gを入れ、100〜120℃に加熱し、透明な溶液を得た。このフラスコを真空ポンプで2時間減圧した後に、アルゴンで3回パージし、更にアルゴン気流下で300℃に加熱した。
【0073】
P(SiMe 0.05mmol(0.012g)とオクタデセン1.988gをグローブボックス中で混合し、上記の加熱されたフラスコに一気に注入した。この後フラスコの温度を270℃にし、InPナノ粒子を成長させた。3時間加熱後にフラスコを室温まで放冷し、反応を終了させた。
【0074】
〈発光スペクトルの測定〉
このInP系ナノ粒子に関して、フォトルミネセンススペクトル測定装置により、発光スペクトルを測定したところ、発光スペクトルは正規分布型でそのピーク波長は580nm、発光スペクトルの半値幅は60nmであり、この半値幅は、実施例1,2のものに比べ劣っていた。
【0075】
〈発光スペクトルの安定性〉
同様の合成実験を5回繰り返し、それぞれの発光スペクトルを測定したところ、発光スペクトルのピーク波長は、580nm±7nmの範囲内にあり、実施例1,2のものと比べ、再現性の悪い結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の色変換膜の実施の形態を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1,2で合成されたInGaP系超微粒子の発光スペクトルを示す図である。
【図3】比較例1におけるクマリン153の発光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1 緑色蛍光体
1’ 赤色蛍光体
2 緑色蛍光体含有色変換膜
2’ 赤色蛍光体含有色変換膜
3 透明基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次光を発する光源の少なくとも一部を吸収して、該一次光のピーク波長よりも長いピーク波長を有する二次光を発する色変換膜において、下記(I)式で表される組成比を満たす蛍光体超微粒子を含むことを特徴とする色変換膜。
(In1−xGa)P …(I)
(式中、0<x<1)
【請求項2】
前記超微粒子が電磁波照射による加熱を含む工程により得られたものである請求項1に記載の色変換膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−310131(P2006−310131A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132217(P2005−132217)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】