説明

色相変換方法

【課題】 カラー画像中の調整したい所望の色相を、色相座標上で指示することにより、所望の色相を任意に調整することが出来る色相調整方法を提供すること。
【解決手段】 UV座標系の原点を始点とし任意の方向に向かう複数の軸を設定し、これらの軸は任意に独立に変位を与え得るようにする。そして、複数の軸の内の任意の二軸に挟まれる色信号を、二軸の少なくとも一方の軸を変位させて変化させることにより、変位された軸の両側の領域の色信号の色相を変換する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カラーテレビ受像機、カラー複写機などのカラー画像信号の処理装置における色相変換方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、カラーテレビ受像機、カラー複写機などのカラー画像の色相を調整する場合には、色相を表す色相座標の座標全体を調整したい所定の方向に回転させることにより色相変換を行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】この従来の色相変換方法では、色相座標全体を回転させるから全ての色相が変換されてしまうことになり、カラー画像中の所望の色相、例えば人間の肌色付近の色相のみを調整することが出来ないという問題があった。
【0004】そこで、本発明は、カラー画像中の調整したい所望の色相を、色相座標上で指示することにより、所望の色相を任意に調整することが出来る色相変換方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1の色相変換方法は、第1の色差信号と第2の色差信号との直交軸によって構成された平面座標系に色信号を表現するようにし、この平面座標系の原点を始点とし任意の方向に向かう複数の軸を設定し、これらの軸は任意に独立に変位を与え得るようにし、前記複数の軸の内の任意の二軸に挟まれる色信号を、前記二軸の少なくとも一方の軸を変位させて変化させることにより、変位された軸の両側の領域の色信号の色相を変換することを特徴とする。
【0006】この請求項1の色相変換方法によれば、色信号を表現する色相座標系に、複数の軸を任意の方向に設定し、これらの軸に独立に変位を与えて、その変位した軸の両側の領域の色相を変換するから、所定の色相の調整を任意に行うことが出来る。
【0007】また、軸の変位で座標変換をさせるから、階調処理(グラデーション)も滑らかに変更できる。
【0008】また、変位された軸の両側の領域が色相変換されるから、色欠けの問題も発生しない。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明の色相変換方法の実施の形態について説明する。
【0010】図1、図2は、本発明の色相変換を説明するための図である。カラーテレビ受像機、カラー複写機などのカラー画像信号の色相座標は、図1のように、第1の色差信号Uと第2の色差信号Vとの直交軸によって構成された平面座標系により表現される。ここで、第1の色差信号UはR−Yであり、第2の色差信号VはB−Yである。(なお、R、Bは3原色の赤、青であり、Yは輝度信号である。)
【0011】図1において、第1の色差信号Uと第2の色差信号Vとの直交軸によって構成された平面座標系(以下、UV座標系、という)の任意の点Pは、P(u、v)で表されている。このUV座標系に、点P(u、v)を挟むように、原点0を通る角度θ1の第1軸Aと角度θ2の第2軸Bを設定する。
【0012】この軸A,Bで座標系(以下、AB座標系、という)を構成し、このAB座標系で前記点P(u、v)を表す。
【0013】まず、P(u、v)を、図1を参照して、AB座標系の座標α、βで表すと、
【0014】
【数1】


【0015】となるから、式(1)を変形すると、点P(α、β)は、
【0016】
【数2】


【0017】と表すことができ、点PをUV座標系で表すことができる。
【0018】次に、図2のように、角度θ1の第1軸Aを角度Δθ1だけ変位させ軸A′とし、角度θ2の第2軸Bを角度Δθ2だけ変位させ軸B′とする。この軸A′,B′で構成されるA′B′座標系で座標(α、β)を表すことにより、点P(u、v)は、点P′(u′、v′)に変化する。
【0019】この変化後の点P′(u′、v′)を、A′B′座標系で表すと、
【0020】
【数3】


【0021】となる。
【0022】次に、式(3)のα、βに、式(2)を代入して、整理すると、変化後の点P′(u′、v′)は、UV座標系において、
【0023】
【数4】


【0024】のように表される。
【0025】式(4)のように、任意の点Pの色相変換後の座標P′(u′、v′)を、変換前の座標P(u、v)と、角度θ1,θ2,Δθ1、Δθ2で定まる係数とにより、簡単な2次元の行列式で演算して求められる。なお、式(4)でX11〜X22は、式整理の結果の係数であり、それぞれ角度θ1,θ2,Δθ1、Δθ2で定まる。
【0026】以上の説明では、軸Aと軸Bとに挟まれた領域にある任意の点Pについて説明したが、本発明における色相変換の作用は、変位された軸の両側の領域に及ぶ。
【0027】すなわち、UV座標系には複数の軸が設定されているから、この座標系におけるどの点を取っても、2軸に挟まれた領域となる。そして、1つの軸、例えば図1の軸Bが変位する場合に、軸Aと軸Bとで挟まれる領域の点が色相変換されるとともに、図2中で破線で例示したように軸Cが設けられている場合に軸Bと軸Cとで挟まれる領域の点も同様に色相変換される。このようにして、変位した軸の両側の領域の色相がそれぞれ対応して変換される。なお、軸数としては最低限2軸あれば良く、この2軸の内の少なくとも1軸を変位させることにより、所定の色相変換を行うことができる。
【0028】このように、色信号を表現するUV座標系に、複数の軸(少なくとも2軸A,B)を設定し、これらの軸A,Bに独立に変位を与えて、その変位した軸の両側の領域の色相を変換するから、階調処理(グラデーション)も滑らかに変更できる。また、変位された軸、例えばA軸の両側の領域が色相変換されるから、色欠けの問題も発生しない。
【0029】図3,図4は、本発明の色相変換方法を、8軸の場合に適用した例を示すものであり、図3はUV座標上での軸A1〜軸A8の設定状況を示しており、図4は色相変換のブロック回路を示している。
【0030】図3において、UV座標系上に、軸A1〜軸A8を、軸A1がv軸と一致するように設定し、軸A2以降の各軸はそれぞれ45度づつ順次ずらした角度で設定されている。この結果、図のように奇数軸である軸A1,軸A3,軸A5,軸A7はそれぞれUV座標の軸と対応し、偶数軸である軸A2,軸A4,軸A6,軸A8はUV座標の軸から45度の角度にある。
【0031】これら軸A1と軸A2とで挟まれた領域■が形成され、以下同様に軸A2と軸A3で領域■、軸A3と軸A4で領域■、軸A4と軸A5で領域■、軸A5と軸A6で領域■、軸A6と軸A7で領域■、軸A7と軸A8で領域■、軸A8と軸A1で領域■が、それぞれ形成される。
【0032】そして、これらの軸A1〜軸A8は、それぞれ独立して任意の正負の角度だけ変位させることができる。例えば軸A2を軸A3方向に所定角度Δθ2だけ変位させると、この軸A2の変位は、領域■と領域■との両方の領域の色相を互いに関連して変更することになる。
【0033】図4の色相変換用ブロック回路40は、UV座標系で表現されている画像データを入力信号u,vとして受けて、所望の色相変換処理を受けた変換後の画像データの出力信号u′,v′を出力するものであり、以下の構成要素を有している。
【0034】領域判別及び係数設定装置41は、入力信号u,vが順次入力され、その入力信号が図3の領域■〜■のいずれの領域に属するかの判定を行う領域判定機能と、各軸A1〜A8が変位されるかどうか、変位されるとするとどちらの方向にいくら変位するかの色相変更指定Δθ1〜Δθ8が入力され、入力信号u,vの領域判定に応じて計算された各係数K1〜K4を設定する係数設定機能を有しており、設定された係数K1〜K4を出力するものである。
【0035】乗算器42は、入力信号のu成分と第1係数K1を乗算し、同じく乗算器43は入力信号のv成分と第2係数K2を乗算し、乗算器44は入力信号のu成分と第3係数K3を乗算し、乗算器45は入力信号のv成分と第4係数K4を乗算する。
【0036】加算器46は、第1乗算器42の乗算結果と第2乗算器43の乗算結果とを加算し、その加算結果u′=K1・u+K2・vを出力し、加算器47は、第3乗算器44の乗算結果と第4乗算器45の乗算結果とを加算し、その加算結果v′=K3・u+K4・vを出力する。この出力された加算結果u′、v′が、色相変換処理を受けた変換後の画像データとなる。
【0037】この色相変換ブロック40における変換式は、前述のように、u′=K1・u+K2・v ・・・(5)
v′=K3・u+K4・v ・・・(6)
となる。
【0038】式(5)、式(6)における各係数K1〜K4は次のように定義される。
K1={cos(a)*sin(b)*cos(Δ1)-sin(a)*sin(b)*sin(Δ1)-sin(a)*cos(b)*cos(Δ2)+sin(a)*sin(b)*sin(Δ2)}/sin(b-a) =coef1*cos(Δ1)-coef2*sin(Δ1)-coef3*cos(Δ2)+coef2*sin(Δ2) ・・・(7)
K2={-cos(a)*cos(b)*cos(Δ1)+sin(a)*cos(b)*sin(Δ1)+cos(a)*cos(b)*cos(Δ2)-cos(a)*sin(b)*sin(Δ2)}/sin(b-a) =-coef4*cos(Δ1)+coef3*sin(Δ1)+coef4*cos(Δ2)-coef1*sin(Δ2) ・・・(8)
K3={sin(a)*sin(b)*cos(Δ1)+cos(a)*sin(b)*sin(Δ1)-sin(a)*sin(b)*cos(Δ2)-sin(a)*cos(b)*sin(Δ2)}/sin(b-a) =coef2*cos(Δ1)+coef1*sin(Δ1)-coef2*cos(Δ2)-coef3*sin(Δ2) ・・・(9)
K4={-sin(a)*cos(b)*cos(Δ1)-cos(a)*cos(b)*sin(Δ1)+cos(a)*sin(b)*cos(Δ2)+cos(a)*cos(b)*sin(Δ2)}/sin(b-a) =-coef3*cos(Δ1)-coef4*sin(Δ1)+coef1*cos(Δ2)+coef4*sin(Δ2) ・・・(10)
【0039】なお、式(7)〜式(10)の角度(a)、(b)、(Δ1)、(Δ2)は、図1,図2における角度(θ1)、(θ2)、(Δθ1)、(Δθ2)にそれぞれ相当する。
【0040】係数K1〜K4を表す式(7)〜(10)において、各変数coef1〜coef4は、次のように整理される。
coef1=cos(a)*sin(b)/sin(b-a)coef2=sin(a)*sin(b)/sin(b-a)coef3=sin(a)*cos(b)/sin(b-a)coef4=cos(a)*cos(b)/sin(b-a)
【0041】また、各変数coef1〜coef4と領域■〜■との関係は、次の表のように整理される。


【0042】さて、図4の色相変換用ブロック回路40において、まず、領域判別及び係数設定装置41に各軸A1〜A8が変位されるかどうか、変位されるとするとどちらの方向にいくら変位するかの色相変更指定Δθ1〜Δθ8が入力される。領域判別及び係数設定装置41は、色相変更指定Δθ1〜Δθ8により各軸A1〜A8の変更角が設定されるから、この変更角に基づいて各領域■〜■での係数K1〜K4を式(7)〜式(10)により計算する。この計算された係数K1〜K4は、メモリに記憶しておく。この状態で、UV座標系で表現されている画像データの入力信号u,vが順次入力される。
【0043】そして、順次入力される入力信号u,vが領域■〜■のいずれの領域に属するか判定される。この実施の形態では、8軸をUV座標系上に、軸A1がv軸と一致するように設定し、軸A2以降の各軸はそれぞれ45度づつ順次ずらした角度で設定しているから、入力信号u,vのu成分とv成分との大小及び正負の比較のみで、入力信号u,vが領域■〜■のどの領域に属するかを判別できるから、領域判別回路を簡単な回路で構成することができる。
【0044】この入力信号u,vの領域判定結果に基づいて、予め計算され記憶されている係数K1〜K4がその領域に応じて、領域判別及び係数設定装置41から出力される。
【0045】そして、入力信号u,vのu成分とv成分及び係数K1〜K4とから、乗算器42〜45,加算器46,47で、それぞれ乗算処理と加算処理が行われて、色相変換された出力信号u′(=K1・u+K2・v)、v′(=K3・u+K4・v)が出力される。
【0046】この図3,図4の例では、軸数を8軸としているが、この軸数は任意の数とすることができ、また各軸の設定角度も均一に限らず、任意の角度に設定することができる。
【0047】
【発明の効果】本発明の請求項1の色相変換方法によれば、色信号を表現する色相座標系に、複数の軸を任意の方向に設定し、これらの軸に独立に変位を与えて、その変位した軸の両側の領域の色相を変換するから、所定の色相の調整を任意に行うことが出来る。
【0048】また、軸の変位で座標変換をさせるから、階調処理(グラデーション)も滑らかに変更できる。
【0049】また、変位された軸の両側の領域が色相変換されるから、色欠けの問題も発生しない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の色相変換を説明するための図。
【図2】本発明の色相変換を説明するための図。
【図3】本発明の色相変換方法を8軸の場合に適用した例を示す図。
【図4】本発明の色相変換方法における色相変換のブロック回路。
【符号の説明】
A1〜A8 設定された軸
■〜■ 軸により区分される領域
41 領域判別及び係数設定器
42〜45 乗算器
46,47 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1の色差信号と第2の色差信号との直交軸によって構成された平面座標系に色信号を表現するようにし、この平面座標系の原点を始点とし任意の方向に向かう複数の軸を設定し、これらの軸は任意に独立に変位を与え得るようにし、前記複数の軸の内の任意の二軸に挟まれる色信号を、前記二軸の少なくとも一方の軸を変位させて変化させることにより、変位された軸の両側の領域の色信号の色相を変換することを特徴とする色相変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2002−58042(P2002−58042A)
【公開日】平成14年2月22日(2002.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−244193(P2000−244193)
【出願日】平成12年8月11日(2000.8.11)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】