説明

色素増感型太陽電池の製造方法、色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュール

【課題】色素増感型太陽電池の変換効率の低下を抑制すると共に耐久性をより向上する。
【解決手段】色素増感型太陽電池モジュール10は、光が透過し透明導電膜12が形成されている透明基板11と、透明基板11に下地層22を介して設けられた電子輸送層としての多孔質半導体層24と、多孔質半導体層24に隣接して設けられCu化合物とイオン性液体とを含む固体p型半導体層26と、固体p型半導体層26に隣接した対極30とを備えた色素増感型太陽電池40を複数備えている。この固体p型半導体層26は、Cu化合物の濃度に対する添加剤としてのイオン性液体の濃度の割合を0.6%以上12.5%以下とした溶液を用いCu化合物及びイオン性液体を含んで作製されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池の製造方法、色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色素増感型太陽電池としては、光電極の基板を構成する導電性ガラスと、色素により増感された酸化チタン多孔質層と、固体からなるP型半導体層と、対向電極とを、この順に接合し、酸化チタン多孔質層を構成する酸化チタン微粒子間に、該酸化チタン微粒子同士を結合する酸化亜鉛ネッキング結合子を介在させ、かつ、P型半導体層を構成する素材の結晶を、溶融塩から形成された導電性のソフトシェルで包み込んだことを特徴とするものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この色素増感型太陽電池では、光電変換効率の向上、長い連続作動時間の達成、電池の耐久性の向上を図り、比較的大型の電池の実用化可能な技術を提供するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−273381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の色素増感型太陽電池では、耐久性を高めてはいるものの、まだ十分ではなく、更なる耐久性の向上が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、変換効率の低下を抑制すると共に、耐久性をより向上することができる色素増感型太陽電池の製造方法、色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、添加剤としてのイオン性液体の量をCu化合物の濃度に対して0.6%以上12.5%以下とすると、変換効率の低下を抑制すると共に、耐久性をより向上することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の色素増感型太陽電池の製造方法は、色素を含む光吸収層で被覆された電子輸送層を透明導電性基板上に備えた光電極とこの光電極に向かい合うように配置された対極との間に正孔輸送層が介在する色素増感型太陽電池を製造する方法であって、Cu化合物の濃度に対する添加剤としてのイオン性液体の濃度の割合を0.6%以上12.5%以下とした溶液を用い前記正孔輸送層を作製する正孔輸送層作製工程、を含むものである。
【0008】
本発明の色素増感型太陽電池は、色素を含む光吸収層で被覆された電子輸送層を透明導電性基板上に備えた光電極とこの光電極に向かい合うように配置された対極との間に正孔輸送層が介在する色素増感型太陽電池であって、前記正孔輸送層は、Cu化合物の濃度に対する添加剤としてのイオン性液体の濃度の割合を0.6%以上12.5%以下とした溶液を用いCu化合物及び該イオン性液体を含んで作製されているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、変換効率の低下を抑制すると共に、耐久性をより向上することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、添加剤は、透明導電性基板とCu化合物、又は、電子輸送層とCu化合物との間のリーク電流の防止層として機能すると考えられる。この添加剤が0.6%以上では、リーク電流を十分防止することができ、発電効率がより高まる。一方、添加剤が12.5%以下では、発電しているときに添加剤の消失や拡散がより抑制され、リーク電流を十分防止することができ、電池の耐久性がより高まる。また、正孔輸送層に含まれる添加剤が発電しているときに消失や拡散がより抑制され、正孔輸送層の安定性が高まる、などによって太陽電池の耐久性がより向上する。したがって、添加剤濃度を、リーク電流防止層を十分に形成できる濃度に調整することで、発電効率、耐久性が向上するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】色素増感型太陽電池モジュール10の構成の概略の一例を示す断面図。
【図2】有機色素分子の一例である色素1及び色素2の説明図。
【図3】添加剤の一例を示す説明図。
【図4】耐久時間と変換効率の保持率との関係図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の色素増感型太陽電池モジュールの一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、色素増感型太陽電池モジュール10の構成の概略の一例を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る色素増感型太陽電池モジュール10は、透明導電性基板14上に複数の色素増感型太陽電池40(以下セルとも称する)が順次配列した構成となっている。これらのセルは直列に接続されている。この色素増感型太陽電池モジュール10では、各セルの間を埋めるように、シール材32が形成されており、透明導電性基板14とは反対側のシール材32の面に平板状の保護部材34が形成されている。本実施形態に係る色素増感型太陽電池40は、光が透過する透明基板11の表面に透明導電膜12が形成されている透明導電性基板14と、下地層22を介して透明導電膜12に形成されている電子輸送層としての多孔質半導体層24と、多孔質半導体層24に隣接して設けられた正孔輸送層としての固体p型半導体層26と、固体p型半導体層26及びセパレータ29を介して設けられた対極30と、を備えている。光電極20は、透明導電性基板14と、透明基板11の受光面13の反対側の面に分離形成された透明導電膜12に配設された下地層22と、下地層22に配設され受光に伴い電子を放出する多孔質半導体層24とを備えている。この色素増感型太陽電池40では、光電極20と対極30とが固体p型半導体層26を介して接続されているいわゆる全固体型の色素増感型太陽電池として構成されている。このように、色素増感型太陽電池40では、有機溶媒等の電解液を介さずに発電可能な構成となっている。
【0012】
透明導電性基板14は、透明基板11と透明導電膜12とにより構成され、光透過性及び導電性を有するものであり、シリコン太陽電池や液晶表示パネルに用いられているものを使用することができる。具体的には、フッ素ドープSnO2コートガラス、ITOコートガラス、ZnO:Alコートガラス、アンチモンドープ酸化スズ(SnO2−Sb)、等が挙げられる。また、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープした透明電極、メッシュ状、ストライプ状など光が透過できる構造にした金属電極をガラス基板等の基板上に設けたものも使用できる。この透明導電性基板14の透明導電膜12側の両端には、集電電極16,17が設けられており、この集電電極16,17を介して色素増感型太陽電池40で発電した電力を利用することができる。
【0013】
透明基板11としては、例えば、透明ガラス、透明プラスチック板、透明プラスチック膜、無機物透明結晶体などが挙げられ、このうち、透明ガラスが好ましい。この透明基板11は、透明なガラス基板、ガラス基板表面を適当に荒らすなどして光の反射を防止したもの、すりガラス状の半透明のガラス基板など光を透過するものなどとしてもよい。透明導電膜12は、例えば、透明基板11上に酸化スズを付着させることにより形成することができる。特に、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)等の金属酸化物を用いれば、好適な透明導電膜12を形成することができる。透明導電膜12は、所定の間隔に溝18が形成されており、この溝18の幅に相当する間隔を隔てて複数の透明導電膜12の領域が分離形成されている。
【0014】
下地層22は、透明導電性基板14から固体p型半導体層26へのリーク電流(逆電子移動)を抑制もしくは防止する層であり、例えば、透光性及び導電性のある材料が好ましく、例えば、酸化チタンや酸化亜鉛、酸化スズなどのn型半導体などが挙げられ、このうち酸化チタンがより好ましい。酸化チタンは、リーク電流を抑制・防止し、且つ多孔質半導体層24から透明導電性基板14へ電子を流しやすいからである。下地層22では、多孔質半導体層24に比してより緻密な材料とすることが好ましい。なお、この下地層22を形成しないものとしても色素増感型太陽電池40として十分機能することから、この下地層22を省略しても構わない。
【0015】
多孔質半導体層24は、有機色素分子が吸着しているn型半導体層により形成されているものとしてもよい。有機色素分子は、受光に伴い電子を放出する色素である。n型半導体としては、金属酸化物半導体や金属硫化物半導体などが適しており、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)、硫化亜鉛(ZnS)のうち少なくとも1以上であることが好ましく、このうち多孔質の酸化チタンがより好ましい。これらの半導体材料を微結晶又は多結晶状態にして薄膜化することにより、良好な多孔質のn型半導体層を形成することができる。特に、多孔質の酸化チタン層は、光電極20が有するn型半導体層として好適である。有機色素は、多孔質のn型半導体の表面に吸着させるものとしてもよい。この吸着は、化学吸着や物理吸着等によって行うことができる。具体的には、多孔質のn型半導体層を透明導電性基板14上に形成したのち、このn型半導体層へ有機色素を含む溶液を滴下して乾燥する方法や、色素溶液に浸漬し乾燥する方法などにより作製することができる。
【0016】
有機色素分子は、可視光領域および赤外光領域のうち少なくとも一方に吸収を持つ増感特性を有していれば特に限定されるものではない。有機色素分子は、より好ましくは、少なくとも200nm〜10μmの波長の光により励起されて電子を放出するものであればよい。例えば、有機色素分子は、金属錯体であってもよい。図2は、有機色素分子の一例である色素1及び色素2の説明図である。有機色素としては、ロダニン構造を有する有機色素分子(図2の色素1)や、更に、カルバゾール系色素やスクワリリウム系色素、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素等を用いることができる。また、金属錯体としては、例えば、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン、クロロフィルまたはその誘導体、ヘミン、ルテニウム、オスミウム、鉄及び亜鉛の錯体等が挙げられる。ルテニウムの錯体としては、例えば、図2の色素2など、シス−ジシアネート−N,N’−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)などが挙げられる。
【0017】
固体p型半導体層26は、正孔輸送層として構成されており、Cu化合物の濃度に対する添加剤としてのイオン性液体の濃度の割合を0.6%以上12.5%以下とした溶液を用い、Cu化合物及びイオン性液体を含んで作製されている。この濃度割合が0.6%以上では、透明導電性基板14と固体p型半導体層26、又は多孔質半導体層24と固体p型半導体層26との間のリーク電流の防止層として機能し、変換効率の低下をより抑制することができる。また、この濃度割合が12.5%以下では、発電しているときに添加剤の消失や拡散がより抑制され、リーク電流を十分防止することができ、電池の耐久性がより高まる。この溶液は、Cu化合物の濃度に対するイオン性液体の濃度の割合を3.0%以上10.0%以下とすることがより好ましい。こうすれば、更に変換効率の低下を抑制すると共に、耐久性の向上を図ることができる。この固体p型半導体層26は、Cu化合物を含む半導体により形成された層としてもよい。このCu化合物としては、例えば、CuI、CuSCN、CuO、Cu2Oのうちいずれか1以上が挙げられ、このうちCuIがより好ましい。また、固体p型半導体層26は、添加剤として、イミダゾリウム系カチオン、ピリジウム系カチオン、脂環式アミン系カチオン及び脂肪族アミン系カチオンのうちいずれか1以上のカチオンと、チオシアネート(SCN-)及びアイオダイド(I-)のうちいずれか1以上のアニオンとを含むイオン性液体を含むことが好ましい。例えば、図3に示すように、トリエチルアミンヒドロチオシアネート(THT)や、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムチオシアネート(EMISCN)、1−ブチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド(PMII)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート(BMISCN)などの液体が挙げられる。このうち、イミダゾリウム系カチオンとチオシアネートのアニオンを含むイオン性液体が好ましい。
【0018】
この色素増感型太陽電池40において、多孔質半導体層24から固体p型半導体層26には、Cu化合物及び添加剤としてのイオン性液体が含まれていることが好ましい。即ち、多孔質半導体層24に、Cu化合物及びイオン性液体が充填されているものとしてもよい。こうすれば、添加剤が防止層としてより機能しやすい。
【0019】
セパレータ29は、下地層22、多孔質半導体層24及び固体p型半導体層26が積層された光電極20の1つの側面に隣接するように断面I字状に形成されている。セパレータ29の一端は透明導電性基板14上の溝18と接触している。これにより、光電極20と対極30との直接接触が回避される。セパレータ29は、絶縁性の材料からなり、例えば、ガラスビーズ、二酸化ケイ素(シリカ)及びルチル型の酸化チタンなどで形成されていてもよい。このセパレータ29としては、シリカ粒子を焼結した絶縁体が好ましい。シリカ粒子は、屈折率が低く光散乱が小さく、良好な透明性を有するため、セパレータに好ましい。
【0020】
対極30は、セパレータ29の外面と固体p型半導体層26の裏面27とに接触するよう、断面L字状に形成されている。この対極30は、一端が固体p型半導体層26の裏面に接続されていると共に、他端が接続部21を介して隣側の透明導電膜12に接続されている。この対極30の裏面27と接触する面は、光電極20に対して所定の間隔を隔てて対向している。対極30としては、導電性及び固体p型半導体層26との接合性を有するものであれば特に限定されず、例えば、Pt,Au,カーボンなどが挙げられ、このうちカーボンが好ましい。なお、対極30やセパレータ29などは、色素増感型太陽電池40の構成に合わせたものとすれば、どのような形状としてもよい。
【0021】
シール材32は、絶縁性の部材であれば特に限定されずに用いることができる。このシール材32としては、例えば、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂フィルム、あるいはエポキシ系接着剤を使用することができる。
【0022】
保護部材34は、色素増感型太陽電池40の保護を図る部材であり、例えば、防湿フィルムや保護ガラスなどとすることができる。この保護部材34は、省略してもよい。
【0023】
この色素増感型太陽電池40に対して、透明基板11の受光面13側から光を照射すると、透明導電膜12の受光面15及び下地層22の受光面23を介して光が多孔質半導体層24へ到達し、有機色素が光を吸収して電子と正孔が発生する。正孔は多孔質半導体層24から固体p型半導体層26へ移動する。一方、電子は光電極20から透明導電膜12、接続部21を経由して隣の対極30へ移動する。色素増感型太陽電池40では、この電子と正孔の移動により起電力が発生し、電池の発電作用が得られる。この色素増感型太陽電池モジュール10では、多孔質半導体層24から固体p型半導体層26にかけて、Cu化合物と添加剤としてのイオン性液体とを含んで構成されており、変換効率の低下抑制、及び耐久性の向上が図られている。
【0024】
この色素増感型太陽電池モジュール10は、製造方法として、基板作製工程、多孔質半導体層形成工程、p型半導体層形成工程(正孔輸送層作製工程)、セパレータ形成工程、対極形成工程及び保護部材形成工程を経て製造することができる。基板作製工程では、複数の透明導電膜12の間に溝18を形成しつつ透明導電膜12を透明基板11上に形成する。多孔質半導体層形成工程では、透明導電膜12上に下地層22を介してn型半導体層を形成し、有機色素をn型半導体層へ吸着させ、多孔質半導体層24を形成する。ここでは、n型半導体層として、多孔質の酸化チタンを用いるものとした。
【0025】
次に、p型半導体層形成工程により、固体p型半導体層26を多孔質半導体層24上に形成する。この工程では、多孔質半導体層24上にCu化合物とイオン性液体とを含む溶液を供給し、乾燥させる工程を複数回行い、多孔質半導体層24にCu化合物及びイオン性液体を充填すると共に、多孔質半導体層24上に固体p型半導体層26を形成する。この溶液は、有機溶媒にCu化合物とイオン性液体とを混合して作製してもよい。このとき、Cu化合物の濃度に対するイオン性液体の濃度の割合を0.6%以上12.5%以下とした溶液、より好ましくは3.0%以上10.0%以下とした溶液を用いる。この濃度割合が0.6%以上では、透明導電性基板14と固体p型半導体層26、又は多孔質半導体層24と固体p型半導体層26との間のリーク電流の防止層として機能し、変換効率の低下をより抑制することができる。また、この濃度割合が12.5%以下では、発電しているときに添加剤の消失や拡散がより抑制され、リーク電流を十分防止することができ、電池の耐久性がより高まる。この溶液は、Cu化合物の濃度に対するイオン性液体の濃度の割合を3.0%以上10.0%以下とすることがより好ましい。こうすれば、更に変換効率の低下を抑制すると共に、耐久性の向上を図ることができる。また、添加剤としては、イミダゾリウム系カチオン、ピリジウム系カチオン、脂環式アミン系カチオン及び脂肪族アミン系カチオンのうちいずれか1以上のカチオンと、チオシアネート(SCN-)及びアイオダイド(I-)のうちいずれか1以上のアニオンとを含むイオン性液体を用いるものとしてもよい。このうち、イミダゾリウム系カチオンとチオシアネートのアニオンを含むイオン性液体を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、メトキシプロピオニトリルやアセトニトリルのようなニトリル化合物、γ−ブチロラクトンやバレロラクトンのようなラクトン化合物、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートのようなカーボネート化合物が挙げられる。また、この工程では、Cu化合物として、CuI、CuSCN、CuO、Cu2O、Cuのうちいずれか1以上用いるものとしてもよく、例えばCuIを用いるのが好ましい。Cu化合物を溶媒に溶解させる際に、この溶液のCu濃度は適宜設定することができるが、Cu化合物の飽和溶液とするのが好ましい。こうすれば、多孔質半導体層24上にCu化合物を固体化しやすい。固体p型半導体層26の形成は、例えば、透明基板11を加熱し乾燥しながら上記溶液を供給してもよい。この加熱温度は、有機溶媒の揮発を促進すると共に、イオン性液体が十分安定である温度範囲とすることが好ましく、例えば、40℃以上120℃以下の範囲が好ましい。なお、固体p型半導体層26には、イオン性液体が揮発せずに残留するが、色素増感型太陽電池40は、ほぼ全固体型の色素増感型太陽電池として作動する。
【0026】
続いて、セパレータ形成工程では、溝18に合わせて光電極20の側面にセパレータ29を形成する。対極形成工程では、セパレータ29と固体p型半導体層26とに接するように対極30を形成する。対極30は、例えばカーボンとしてもよい。保護部材形成工程では、各セルを覆うようにシール材32を形成すると共にシール材32に保護部材34を形成する。このようにして、発電特性が向上した色素増感型太陽電池40及び色素増感型太陽電池モジュール10を作製することができる。
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0028】
例えば上述した実施形態では、色素増感型太陽電池モジュール10としたが、特にこれに限定されず、色素増感型太陽電池40としてもよいし、受光に伴い電子を放出する有機色素とn型半導体層とCu化合物と添加剤としてのイオン性液体とを含んで構成される光電極20としてもよい。色素増感型太陽電池40を単体とする場合は、対極30の断面をL字状ではなく、平板状に形成するものとしてもよい。
【実施例】
【0029】
以下には本発明の色素増感型太陽電池を具体的に作製した例を実験例として説明する。
【0030】
[太陽電池性能に対する添加剤種別の依存性の検討]
種々の添加剤を用いて色素増感型太陽電池を作製し、変換効率について検討した。ここでは、固体p型半導体層(正孔輸送層)としてCuIを用い、有機色素分子として色素1(図2参照)を用いた。まず、TCOガラス基板上に、多孔質半導体層24のn型半導体層(電子輸送層)として多孔質酸化チタン膜をスクリーン印刷法で塗布し、150℃で乾燥したのち、電気炉内で450℃に加熱して、酸化チタン膜基板を作製した。次に、上述した色素1を0.4mM溶解したアセトニトリルとtert−ブチルアルコールとを混合した色素溶液を調製した。次に、上記作製した色素1を含む色素溶液に上記酸化チタン膜基板をそれぞれ浸漬し、25℃の温度条件の下で15時間放置した。このように、酸化チタン膜基板に色素1を吸着させた基板を作製した。続いて、アセトニトリルにCuIを飽和させ、添加剤を添加してCuI溶液を調製した。ここでは、CuIの飽和濃度(0.16M)に対する添加剤の濃度の割合を9.4%とした溶液を調製した。続いて、40℃〜120℃のホットプレート上に、上記得られた色素吸着酸化チタン膜基板を酸化チタン膜が上になるように静置した。調製したCuI溶液を色素吸着酸化チタン膜上に10μL滴下し、CuI溶液に含まれる溶媒を蒸発させることによりCuI及び添加剤を色素吸着した酸化チタン膜内へ充填させた。このようにして、光電極を作製した。続いて、CuI溶液の滴下及び溶媒の蒸発を繰り返し、色素吸着酸化チタン膜の上部にCuI層(正孔輸送層)を形成した。そして、このCuI層の上に、対極としてのPt薄膜を配置し、図1に示す色素増感型太陽電池を作製した。
【0031】
(実験例1〜4)
色素増感型太陽電池の作製において、添加剤をイオン性液体の1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド(PMII)として作製したものを実験例1とした。また、添加剤をイオン性液体の1−メチル−3−エチルイミダゾリウムチオシアネート(EMISCN)として作製したものを実験例2とした。また、添加剤をイオン性液体のトリエチルアミンヒドロチオシアネート(THT)として作製したものを実験例3とした。また、添加剤をイオン性液体の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート(BMISCN)として作製したものを実験例4とした。
【0032】
(実験例5)
色素増感型太陽電池の作製において、添加剤を固体のグアニジンチオシアネート(GuSCN、図3参照)として作製したものを実験例5とした。
【0033】
[添加剤種別の依存性の検討結果]
実験例1〜5の色素増感型太陽電池について、ソーラーシミュレータ(ワコム電創社製WXS−85−H型)を用い、500WのキセノンランプからAMフィルター(AM−1.5)を通して100mW/cm2の疑似太陽光を照射したときの電流−電圧特性(IV特性)をI−Vテスター(ワコム電創社製IV−9701)を用いて測定し、起動開始直後における光起電圧(V)及び変換効率η(%)を求めた。ここで、変換効率ηは、η(%)=100×(Voc×Isc×F.F.)/P0…式(1)を用いて算出した。ただし、式(1)中、P0は入射光強度(mW/cm2)、Vocは開放電圧(V)、Iscは短絡電流密度(mA/cm2)、F.F.は曲線因子(Fill Factor)を示す。比較例1を「1」とし各測定結果を規格化した結果を表1にまとめて示す。この結果、添加剤を液体、特にイオン性液体で構成すると、添加剤が固体であるものに比して太陽電池のキャリヤ輸送特性、色素が吸着した酸化チタン膜内へのCuIの充填性が向上し、極めて高い太陽電池特性が得られることがわかった。
【0034】
【表1】

【0035】
[光起電圧に対する添加剤添加率の依存性の検討]
次に、添加剤の添加率による光起電圧への影響を検討した。添加剤としてEMISCNを用い、色素1(図2参照)を用いて色素増感型太陽電池を作製した。なお、光起電圧の測定は、上記変換効率と同条件で行った。色素増感型太陽電池の作製において、CuIの飽和濃度(0.16M)に対する添加剤EMISCNの濃度の割合を、0.6%,1.9%,3.1%,6.3%,9.4%,12.5%とした溶液を用いて作製したものをそれぞれ実験例6〜11とした。また、添加剤EMISCNを添加しないものを実験例12とした。この実験例12を「1」とし各測定結果を規格化した結果を表2にまとめて示す。この結果、太陽電池の性能を得るためには、少なくとも、添加剤を0.6%以上添加することを要し、3.0%以上の添加がより好ましいことがわかった。また、この結果、添加剤を使用すると、酸化チタン又はTCOからCuIへのリーク電流が防止されることにより、太陽電池特性が向上するものと推察された。
【0036】
【表2】

【0037】
[太陽電池性能の耐久性に対する添加剤添加率の依存性の検討]
次に、添加剤の添加率による太陽電池性能の耐久性への影響を検討した。変換効率の測定は、負荷抵抗10(Ω)をつないだ色素増感型太陽電池を60℃の恒温化におき、上記測定装置を用いて、キセノンランプによる連続光(100mW/cm2;1sun)を照射して、加速耐久試験を行った。照射時間は、1056時間とした。添加剤としてEMISCNを用い、色素2(図2参照)を用いて色素増感型太陽電池を作製した。なお、色素1,2による太陽電池性能は同様の傾向を示すと考えられ、色素の影響はほとんどないものと推察される。色素増感型太陽電池の作製において、CuIの飽和濃度(0.16M)に対する添加剤EMISCNの濃度の割合を、3.1%,9.4%とした溶液を用いて作製したものをそれぞれ実験例13,14とした。また、添加剤EMISCNの濃度の割合を、12.5%とした溶液を用いて作製したものを実験例15とした。図4は、耐久時間と太陽電池の変換効率の保持率との関係図である。この実験例15を「1」とし1000時間耐久後の変換効率を規格化した相対変換効率を表3にまとめて示す。また、初期の変換効率を100としたときの、1000時間耐久後の変換効率の割合を保持率(%)として求めた結果も表3に示す。この結果、太陽電池性能の高い耐久性(耐久後の変換効率、保持率)を得るには、イオン性液体の添加剤の添加率は12.5%以下であることを要することがわかり、10.0%以下であることがより好ましいものと推察された。これは、添加剤が多すぎると、添加剤の消失や拡散が起こり、色素が吸着した酸化チタンと、CuI層の界面、CuI層が不安定化することで太陽電池性能の耐久性が低下するためであると推察された。
【0038】
【表3】

【0039】
以上の実験結果より、CuI濃度に対するイオン性液体の濃度の割合は、0.6%以上12.5%以下がよく、3.0%以上10.0%以下であることがより好ましいことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の色素増感型太陽電池は、例えば家庭用、オフィス用、工場用の各種電化製品の電源や電気自動車、ハイブリッド自動車、電動自転車などのバッテリのほか、ソーラーパネルなどに利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 色素増感型太陽電池モジュール、11 透明基板、12 透明導電膜、13 受光面、14 透明導電性基板、15 受光面、16,17 集電電極、18 溝、20 光電極、21 接続部、22 下地層、23 受光面、24 多孔質半導体層、25 裏面、26 固体p型半導体層、27 裏面、29 セパレータ、30 対極、32 シール材、34 保護部材、40 色素増感型太陽電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素を含む光吸収層で被覆された電子輸送層を透明導電性基板上に備えた光電極とこの光電極に向かい合うように配置された対極との間に正孔輸送層が介在する色素増感型太陽電池を製造する方法であって、
Cu化合物の濃度に対する添加剤としてのイオン性液体の濃度の割合を0.6%以上12.5%以下とした溶液を用い前記正孔輸送層を作製する正孔輸送層作製工程、を含む色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記正孔輸送層作製工程では、前記Cu化合物の濃度に対するイオン性液体の濃度の割合を3.0%以上10.0%以下とした溶液を用いる、請求項1に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記正孔輸送層作製工程では、前記添加剤として、イミダゾリウム系カチオン、ピリジウム系カチオン、脂環式アミン系カチオン及び脂肪族アミン系カチオンのうちいずれか1以上のカチオンと、チオシアネート(SCN-)及びアイオダイド(I-)のうちいずれか1以上のアニオンとを含むイオン性液体を用いる、請求項1又は2に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記正孔輸送層作製工程では、前記Cu化合物として、CuI、CuSCN、CuO、Cu2O、Cuのうちいずれか1以上を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項5】
色素を含む光吸収層で被覆された電子輸送層を透明導電性基板上に備えた光電極とこの光電極に向かい合うように配置された対極との間に正孔輸送層が介在する色素増感型太陽電池であって、
前記正孔輸送層は、Cu化合物の濃度に対する添加剤としてのイオン性液体の濃度の割合を0.6%以上12.5%以下とした溶液を用いCu化合物及び該イオン性液体を含んで作製されている、色素増感型太陽電池。
【請求項6】
前記正孔輸送層は、前記Cu化合物の濃度に対するイオン性液体の濃度の割合を3.0%以上10.0%以下とした溶液を用いて作製されている、請求項5に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項7】
前記正孔輸送層は、前記添加剤として、イミダゾリウム系カチオン、ピリジウム系カチオン、脂環式アミン系カチオン及び脂肪族アミン系カチオンのうちいずれか1以上のカチオンと、チオシアネート(SCN-)及びアイオダイド(I-)のうちいずれか1以上のアニオンとを含むイオン性液体を含む、請求項5又は6に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池を複数備えている、色素増感型太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−204276(P2012−204276A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70022(P2011−70022)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】