説明

色素増感型太陽電池用カソード電極

【課題】色素増感型太陽電池、特に電解質にヨウ素又はヨウ化物イオンを含まないイオン性液体を使用した色素増感型太陽電池において、好適に使用されるカソード電極を提供することを目的とする。
【解決手段】アルミニウム基板の表面に、金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種が積層されていることを特徴とする、色素増感型太陽電池用カソード電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用カソード電極に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池としては、シリコン系と称される単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池及び球状シリコン太陽電池、化合物系と称されるCIS、CIGS及びCdTe、並びに、有機化合物系と称される有機薄膜太陽電池及び色素増感型太陽電池が代表的である。
【0003】
近年の実用上における太陽電池の高変換効率の報告事例は主にシリコン系、化合物系でなされているが、製造コストが依然高く、更なる普及に向けて一層の製造工程の簡略化が要求されている。他方、有機化合物系太陽電池においては、使用原材料及び製造工程の簡略化による低コスト化が期待されている。
【0004】
色素増感型太陽電池は、透明な導電基板上に色素を吸着させた半導体層を集積させる。透明な導電基板側から太陽光を吸収した際、色素から励起した電子は、半導体層を経由して導電基板から外部負荷を通じてカソード電極(対極)に移動し、カソード電極から電解質中に注入されて酸化/還元反応を経て色素へ戻る。
【0005】
現在使用されている色素増感型太陽電池では、電解質にヨウ素又はヨウ化物イオンを含むものが大半であり、比較的、安定した高い変換効率を発揮し易い。しかし、電解質にヨウ素又はヨウ化物イオンを用いているため、長期の使用中に電解質の漏洩、揮発が起こった場合、太陽電池が機能しなくなる。また、ヨウ素又はヨウ化物イオンなどを原因とした周辺部材の腐食などが懸念される。電解質の漏洩、揮発の対策として、電解質のゲル化や固体化が検討されている(例えば、特許文献1)が、ヨウ素又はヨウ化物イオンを含んだ構成体であることに変わりはない。従って、例えば、カソード電極基板としてアルミニウム等の安価な材料があるが、実際にはヨウ素、又はヨウ化物イオンと接触したときに腐食に耐えられる銀、白金、チタン等の金属、導電性酸化物、白金をスパッタしたFTO電極等の高価な材料を使わざるを得ない。
【0006】
また、ヨウ素又はヨウ化物イオンに対する耐腐食性導電層を形成した上で、アルミニウムをカソード電極として使用する方法が開示されている(例えば、特許文献2)が、長期の使用中に耐腐食性導電層に欠損が生じた場合、基板の腐食が起こり、太陽電池が機能しなくなる虞がある。
【0007】
近年、電解質にヨウ素又はヨウ化物イオンを含まず、液体を使用しない固体構成型の色素増感型太陽電池(例えば、特許文献3、4)や、イオン性液体を使用してさらに高変換率の色素増感型太陽電池(例えば、特許文献5)の検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−71605号公報
【特許文献2】特開2008−53164号公報
【特許文献3】特開2008−270042号公報
【特許文献4】特開2008−251419号公報
【特許文献5】特願2010−13404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、色素増感型太陽電池、特に電解質にヨウ素又はヨウ化物イオンを含まない、イオン性液体を使用した色素増感型太陽電池において、好適に使用されるカソード電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム基板表面に金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種が積層されたカソード電極を用いる場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のカソード電極及びそれを用いた色素増感型太陽電池に関する。
1. アルミニウム基板の表面に、金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種が積層されていることを特徴とする、色素増感型太陽電池用カソード電極。
【0012】
2. 前記カソード電極の仕事関数が4.0〜5.0eVであって、
かつ励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが40以上である、上記項1に記載の色素増感型太陽電池用カソード電極。
3. 金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも一種が、スパッタリング法によって積層された、上記項1又は2に記載の色素増感型太陽電池用カソード電極。
4. アルミニウム基板の厚みが、7〜200μmである、上記項1〜3のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用カソード電極。
5. アルミニウム基板の表面に積層された金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも一種の厚みが、1〜50nmである、上記項1〜4のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用カソード電極。
6. 上記項1〜5のいずれかに記載のカソード電極を有する、色素増感型太陽電池。
7. ヨウ素を含有しない非ヨウ素系の電解質を備えた、上記項6に記載の色素増感型太陽電池。
【0013】
以下、本発明のカソード電極及び色素増感型太陽電池について詳細に説明する。
【0014】
本発明の色素増感型太陽電池は、カソード電極として後記のカソード電極を用いる以外は公知の構成を利用できる。色素増感型太陽電池の構成としては、例えば光入射側より1)透明性基板、2)透明導電層、3)色素吸着金属酸化物半導体層、4)電解質層及び5)カソード電極(対極)が順に積層されている構成が挙げられる。
【0015】
以下、この層構成を例に挙げて各層を説明する。
≪カソード電極(対極)≫
カソード電極(対極)には、導電性が高く、軽量化が可能なアルミニウム基板を使用し、さらに前記アルミニウム基板の表面には、金(Au)、銀(Ag)及び白金(Pt)からなる群から選ばれた少なくとも1種を積層させる。カソード電極が上記した構成であることによって、前記金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種の表面と、後述するホール伝導物質が電子の享受を行う。その結果、アルミニウム基板表面から電子が放出され易くなる。アルミニウム基板の表面に前記金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種が積層されない場合、アルミニウム基板の表面には絶縁層となる1nm程度の自然酸化皮膜(Al)が形成されているため、自然酸化皮膜とホール伝導物質における電子の享受が行われない。そのため、当該アルミニウム基板のみからなるカソード電極は、対極として機能しない。
【0016】
アルミニウム基板表面に金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種を積層させる方法としては、無電解めっき法、電解めっき法、蒸着法、スパッタリング法等が挙げられるが、アルミニウム基板の自然酸化皮膜の影響を最も低減させる方法としてスパッタリング法による積層が好ましい。
【0017】
スパッタリング法によると、金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種をアルミニウム基板に積層することにより、自然酸化皮膜中に注入された前記積層された金属を介してアルミニウム基板とホール伝導物質との電子の享受が実現できる上、アルミニウム基板上の自然酸化皮膜中も残存しているため、耐食性に優れている。
【0018】
金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種の積層(換算)厚みは1nm〜50nmあれば良い。1nm未満であるとアルミニウム基板とホール伝導物質との電子の享受が十分でないおそれがあり、50nm以上であるとその効果は飽和する。以上の観点から、5〜30nm程度が好ましく、10〜20nmがより好ましい。
【0019】
カソード電極は、仕事関数が4.0〜5.0eVであることが好ましい。なお、仕事関数とは、物質表面において表面から1個の電子を無限遠まで取り出すのに必要な最小エネルギー[単位 eV]であって、その物質表面における電子の放出のし易さを表す指標である。仕事関数は、各物質に固有の値であり、物質の仕事関数が小さいほど電子を放出しやすく、反対に、仕事関数が大きいほど電子を放出しにくいことを示す。
【0020】
カソード電極は、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾き[Yield^n/eV]が40以上であることが好ましい。より好ましくは、50〜85である。前記規格化光電子収率とは、単位光量当たりの光電子収率のn乗であって、電子の放出量を表す指標である。物質の励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きの値が大きいほど、物質表面からより多くの電子を放出しやすいことを示す。なお、一般的に金属の場合、前記nの値は0.5である。本発明において、nの値は0.5である。
【0021】
カソード電極の仕事関数、及び励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きは、以下のようにして求めることができる。
【0022】
試料に対して、入射光のエネルギーを4.0eVから0.1eVごとにスキャンしながら照射して、試料の表面から放出される光電子をカウンターにより計測し、励起エネルギーに対する規格化光電子収率を求める。
【0023】
前記測定より得られた測定値から、次の方法により、カソード電極の仕事関数、及び励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きを決定する。励起エネルギーが4.0eVから0.1eVおきの3〜5点の規格化光電子収率の値の平均値を求め、ベースラインとする。
【0024】
規格化光電子収率の傾きYの測定において、規格化光電子収率が、ベースラインの平均値より連続3点以上増加した仕事関数値[eV]を基点とする。基点から5.4eVまでの範囲で最小二乗法により一次直線を求め、その傾きを励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きと決定する。また、上記の一次直線とベースラインとの交点における励起エネルギーを仕事関数と決定する。
【0025】
前記測定は、入射光による励起エネルギーを低い方からスキャンすると、励起エネルギーが低レベルの領域では、規格化光電子収率が変化せず(平坦部が続き)、励起エネルギーがある一定のレベルに達したときに、規格化光電子収率が急激に増加し始める。この規格化光電子収率が増加し始める変化点が仕事関数[eV]である。
【0026】
カソード電極の励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きは、前記仕事関数の測定において、励起エネルギー[eV]を横軸とし、前記規格化光電子収率[Yield^n(Yieldのn乗)]を縦軸とするグラフに、前記励起エネルギーに対する前記規格化光電子収率の測定値をプロットして算出する。励起エネルギーが仕事関数の値以上の領域において、グラフの変化率が安定した領域の傾きが、励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きである。なお、励起エネルギーが低レベル領域での規格化光電子収率が変化しない平坦部分は、前記傾きの値に影響を及ぼさない。
【0027】
前記仕事関数、及び励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きについては、公知の測定装置を使用して求めることができる。例えば、大気中光電子分光装置AC−2(理研計器(株)製)を使用することができる。
【0028】
アルミニウム基板の厚みは、特に限定されず、適度な機械的強度が保持される程度の厚みを有していればよい。アルミニウム基板がアルミニウム単体である場合、7〜200μmが好ましい。また、前記アルミニウム基板の金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも一種を設けた面とは反対の面に、樹脂フィルムなどを貼り合せてもよい。アルミニウム基板に対して上記樹脂フィルムなどを貼り合わせると、外部衝撃を保護することが可能となり、さらに外部要因からの基板腐食を防止することも可能となる。
【0029】
アルミニウム基板の組成は、特に限定されないが、電気抵抗の観点から、高純度のアルミニウムが好ましい。また、機械的強度を得る等の目的で各種アルミニウム合金を使用することもできる。
【0030】
アルミニウム基板の調質は、特に限定されず、硬質箔または軟質箔のいずれも使用することができるが、熱酸化皮膜がなく、機械的強度に優れているという観点から、硬質箔が好ましい。
【0031】
本発明のカソード電極は、各種色素増感型太陽電池で使用することができるが、特に、電解質にヨウ素を含有しない非ヨウ素系の色素増感型太陽電池用カソード電極として使用する場合、ヨウ素又はヨウ化物イオンなどを原因とした腐食を考慮する必要がないため、好ましい。
≪透明性基板≫
透明性基板としては、光透過性の高いガラス板やプラスチックシートが挙げられる。プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルホン(PES)等のシートが挙げられる。このようなプラスチックシートを用いる場合には、色素増感型太陽電池のフレキシブル化を図ることができる。
【0032】
透明性基板の厚さは限定されないが、プラスチックシートを用いる場合、12〜200μm程度が好ましく、75〜188μm程度がより好ましい。
≪透明導電層≫
透明導電層としては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等の透明な導電材料を単独又は複数種類を複合化して用いることができる。なお、透明導電層の材料はこれらに限定されず、光透過率及び導電性の観点から使用目的に合った材料を適宜使用できる。
【0033】
本発明では、後記する色素吸着金属酸化物半導体層及び電解質層からの集電効率を向上させるために、透明導電層の光透過率を損なわない範囲の面積率で金、銀、白金、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属配線層を併設してもよい。金属配線層を併設する場合、格子状、縞状、櫛状等のパターンにして透明導電層に均一に光が透過するように配設するとよい。金属配線層は、透明導電層と色素吸着金属酸化物半導体層との間に設ける。
【0034】
透明導電層は、例えば、スパッタ法、CVD法、SPD法(スプレー熱分解堆積法)、蒸着法等の薄膜形成法により透明性基板上に形成する。光透過性と導電性を考慮し、透明導電層の厚さは、通常0.05〜2.0μm程度が好ましい。
≪ブロッキング層≫
本発明では、透明導電層と色素吸着金属酸化物半導体層との間にブロッキング層(いわゆる逆電子移動防止層)を設けてもよい。
【0035】
色素から励起された電子は金属酸化物半導体粒子を経由して透明導電層に集電されるが、一部の電子が金属酸化物半導体粒子を迂回したり、カソード電極に漏れたりしてロスが生じる場合がある。ブロッキング層はこのようなロスを抑制するために設ける。
【0036】
ブロッキング層は、数十nmレベルの絶縁被膜であるため、トンネル効果によって金属酸化物半導体粒子から透明導電層へは電子は流れるが、電位差により金属酸化物半導体層からカソード電極側には電子が流れない。
【0037】
ブロッキング層としては、公知の材質を使用することができる。
≪色素吸着金属酸化物半導体層≫
色素吸着金属酸化物半導体層は、金属酸化物半導体層を形成後、当該層に後述の色素を吸着させることにより形成する。
【0038】
金属酸化物半導体層は、二酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb2O5)等の1種以上の金属酸化物半導体粒子からなる多孔質の薄膜である。金属酸化物半導体粒子の平均粒子径は、1〜1000nm程度である。また、金属酸化物半導体層は、厚さが通常1〜5μm程度、好ましくは2〜4μm程度である。
【0039】
金属酸化物半導体層の厚さが1μm未満では、後述の色素吸着量が十分確保できず高い変換効率を達成できない場合がある。また、5μmを超える場合には、焼成後の金属酸化物半導体粒子間の密着性が悪くなり、金属酸化物半導体層にクラックが生じたり、透明導電層から脱落したりする不具合が生じるおそれがある。
【0040】
金属酸化物半導体層は、上記金属酸化物半導体粒子を所望の分散媒に分散させた分散液又はゾル−ゲル法により調製されるコロイド溶液を、必要に応じて添加剤を添加した後、スクリーンプリント法、インクジェットプリント法、ロールコート法、ドクターブレード法、スピンコート法、スプレー塗布法により塗布した後、焼成することにより得られる。その他、上記金属酸化物半導体粒子のコロイド溶液中に透明導電層を浸漬して電気泳動により金属酸化物半導体粒子を付着させた後、焼成することによっても得られる。
【0041】
金属酸化物半導体層に担持する色素(増感色素)は、光照射により電子を励起するものであれば限定されない。例えば、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体や鉄錯体、ポルフィリン系やフタロシアニン系の金属錯体をはじめ、エオシン、ローダミン、メロシアニン、クマリンなどの有機色素などから、用途や金属酸化物半導体の材料に応じて適宜選択して用いることができる。
【0042】
色素吸着させる際は、上記色素を適当な溶媒に溶解した色素溶液に金属酸化物半導体層を浸漬し、乾燥させることにより吸着させることができる。なお、金属酸化物半導体層の細孔内に効率的に色素吸着させるために、浸漬後に遠心力を付与して細孔内部にまで色素溶液が到達するようにしてもよい。
≪電解質層≫
本発明では、電解質は、特に限定されないが、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)及びイオン性液体を含有することが好ましい。
【0043】
従来の色素増感型太陽電池には、ヨウ素又はヨウ化物イオンを含有した電解質が、色素が電子を励起・放出した後のホールをカソード電極へ移行させ、酸化還元反応を経て色素に電子を戻すという、ホール伝導物質の役割を兼ねているが、ヨウ素又はヨウ化物イオンを含まない色素増感型太陽電池では、代替となるホール伝導物質が必要となる。本発明では、色素増感型太陽電池としてヨウ素を含有しない非ヨウ素系の電解質を備える場合、ホール伝導物質として有機半導体のPEDOTを用いることが好ましい。
【0044】
以下、ホール伝導物質として有機半導体のPEDOTを用いた非ヨウ素系電解質について詳細に説明する。
【0045】
本発明では、in-situ光電気化学重合により、PEDOTを色素吸着金属酸化物半導体層の色素界面に形成する。このin-situ光電気化学重合法は、光照射により励起された色素の酸化力により色素界面(細孔内部も含む)でPEDOTを酸化重合により形成する。
【0046】
重合させるモノマーの重合電位は色素のHOMOよりも小さくなければならない。導電性高分子モノマーであるエチレンジオキシチオフェン(EDOT)では重合酸化電位が色素のHOMOよりもポジティブであるため重合が起こらない。よって、in-situ光電気化学重合法でPEDOTを合成するために、モノマーとして色素のHOMOよりもネガティブなエチレンジオキシチオフェン2量体(bis-EDOT)を用いる。
【0047】
in-situ光電気化学重合で使用する導電性高分子電解溶液はbis-EDOTを含む限り限定されないが、例えば、bis-EDOT(C13H12O3S2)=2.8質量%、リチウム塩Li-TFSI(C2F6NLiO4S2)=28.0質量%、アセトニトリル(CH3CN)=69.2質量%を混合した溶液が挙げられる。導電性高分子電解溶液には、Li-TFSI等のリチウム成分を含むことにより、理由は不詳であるが、in-situ光電気化学重合の効率を高めることができる。
【0048】
上記bis-EDOT、Li-TFSI及びアセトニトリルからなる導電性高分子電解溶液の場合には、bis-EDOT及びLi-TFSIの合算量がアセトニトリルの質量に対して10〜50質量%とすることが好ましい。また、bis-EDOTとLi-TFSIの質量比は、bis-EDOT:Li-TFSI=1.0:5.0〜10.0とすることが好ましい。
【0049】
in-situ光電気化学重合は、例えば、次のように行う。透明導電層上にブロッキング層を介して色素吸着金属酸化物半導体層を形成したものをポテンシオスタットのアノード側、FTOガラス上に白金をスパッタリングした透明導電基板をポテンシオスタットのカソード側に接続する。アノードとカソードとの間に導電性高分子電解溶液を注入し、サンドイッチ状態で挟み込んでクリップで固定する。そして、UVカットされた白色光とニュートラル密度25%フィルターを通した光をカソード側から照射し、3.0μAの定電流によるin-situ光電気化学重合30分間行いPEDOTを形成する。
【0050】
in-situ光電気化学重合は、色素吸着金属酸化物半導体層のメソポーラス中に吸着した色素界面へも効率的にPEDOTを充填形成することが可能であり、電解質のホール輸送効率が向上する。
【0051】
本発明では、上記PEDOTに加えてイオン性液体を電解質として用いる。イオン性液体はアニオンとカチオンの組み合わせにより融点が異なることが知られており、本発明では、室温で液体であることが好ましい。
【0052】
イオン性液体に含まれるカチオンとしては、エチルメチルイミダゾリウム(EMI)、ブチルピリジニウム(BP)、トリメチルプロピルアンモニウム(TMPA)、エチルメチルピロリジニウム(P12)等が挙げられる。
【0053】
イオン性液体に含まれるアニオンとしては、AlCl4-、PF6-、BF4-、CF3SO3-(略称TfO)、(CF3SO22N-(略称TFSI)、(CF3SO23C-(略称TFSM)等が挙げられる。
【0054】
本発明では、上記イオン性液体の中でも、特にカチオンとしてエチルメチルイミダゾリウム(EMI)を含有し、アニオンとしてパーフルオロスルホンイミド(TFSI)を含む組み合わせが好ましい。この組み合わせを、以下「EMI-TFSI」とも言う。
【0055】
なお、イオン性液体には、Li成分をLi塩として含むことが好ましい。
【0056】
色素から励起された電子は、金属酸化物半導体粒子に注入されるが、金属酸化物半導体粒子間を迂回したり、粒子外へ放出されるなどのロスが考えられる。電解質にイオン性液体を浸透させることで、金属酸化物半導体粒子から電子が流出するのを抑制する保護皮膜の役割を果たすと考えられ、色素から励起された電子を効率良く集電することができ、色素吸着金属酸化物半導体層の電子輸送の向上に寄与していると考えられる。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、アルミニウム基板表面に金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種が積層されたカソード電極を用いることにより、実用的な変換効率を有する色素増感型太陽電池を提供することができる。特に、電解質がヨウ素成分を含まない非ヨウ素系色素増感型太陽電池である場合、ヨウ素成分を原因とする周辺部材の腐食を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1、及び実施例2で作製した色素増感型太陽電池の模式図である。
【図2】実施例1、実施例2及び比較例1で得られたカソード電極の各励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定結果を示す図である。
【図3】実施例1、実施例2及び比較例1で作製した色素増感型太陽電池のI-V特性を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1:アルミニウム基板
2:金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種
3:カソード電極(対極)
4:イオン性液体
5:PEDOT(ホール伝導物質)
6:色素吸着金属酸化物(TiO2)半導体層
7:ブロッキング層
8:FTO膜
9:ガラス
10:透明導電基板(7〜9)
11:アノード電極(4〜9)
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0061】
実施例1
<透明性基板及び透明導電層>
厚み4mm×長さ90mmの透明導電性FTOガラス(透明性基板であるガラスに透明導電層であるFTO膜を蒸着したもの。FTO膜の膜厚は500nm。表面抵抗値20〜30[Ω]。)を純水及びエタノールで超音波洗浄を行った後、UV-O3(紫外線とオゾンを用いた光洗浄)による表面洗浄を行った。
<ブロッキング層>
エタノール=40ml、純水=1ml、HNO3=8ml及びオルトチタン酸テトライソプロピル(Ti(iProO))=3mlを調合し、約5分間撹拌することにより、ブロッキング層を形成するためのブロッキング溶液を調製した。
【0062】
ブロッキング溶液を、透明導電性FTOガラスのFTO膜上に滴下し、スピンコーティングにより塗布した。その後、塗膜を500℃で1時間焼成してブロッキング層を形成した。
<色素吸着金属酸化物半導体層>
ブロッキング層上に、二酸化チタンペースト(製品名:Solaronix-T)をドクターブレード法にて塗布厚みが3μmとなるよう塗布した。その後、塗膜を500℃で15分焼成して金属酸化物半導体層(厚み3μm)を形成した。
【0063】
色素溶液は次のように調製した。ルテニウム色素(製品名:HRS-1、C48H48N6O4RuS4)=3質量%、ウルソデオキシコール酸(C24H40O4)=5質量%、t-ブタノール:アセトニトリル=1:1の混合物92質量%を順に調合し、約10分間撹拌することにより調製した。
【0064】
色素溶液に金属酸化物半導体層を室温で約20時間浸漬した。その後、余分な色素溶液をアセトニトリルで洗浄し、乾燥して色素吸着金属酸化物半導体層を得た。
<PEDOTのin-situ光電気化学重合>
色素吸着金属酸化物半導体層の色素界面に、ホール伝導物質としてのPEDOTをin-situ光電気化学重合により形成した。PEDOTを形成するためのモノマーとしては、色素のHOMOよりもネガティブである二量体のbis-EDOT(C13H12O3S2)を選択した。
【0065】
in-situ光電気化学重合で使用する導電性高分子電解溶液は次のように調製した。bis-EDOT=2.8質量%、リチウム塩Li-TFSI(C2F6NLiO4S2)=28.0質量%、アセトニトリル(CH3CN)=69.2質量%を順に調合し、約10分間撹拌することにより調製した。
【0066】
透明導電性FTOガラスにブロッキング層を介して色素吸着金属酸化物半導体層を形成したものをポテンシオスタットのアノード側に接続し、別途用意したFTOガラス上に白金をスパッタリングした透明導電基板をポテンシオスタットのカソード側に接続した。次に、アノードとカソードとの間に上記導電性高分子電解溶液を注入し、アノードとカソードをクリップで挟んで固定した。
【0067】
UVカットされた白色光とニュートラル密度25%フィルターを通した光とをカソード側から照射し、3.0μAの定電流によるin-situ光電気化学重合を30分間行い、色素界面にPEDOTを形成した。なお、ポテンシオスタットとしては、北斗電工製HSV-100を使用した。
【0068】
in-situ光電気化学重合後、PEDOTを形成した色素吸着金属酸化物半導体層をアセトニトリル溶液で洗浄・乾燥した。
<イオン性液体>
イオン性液体は次のように調製した。リチウム塩Li-TFSI=5.7質量%、t-ブチルピリジン(C9H13N)=2.7質量%、GSCN(NH2C(:NH)NH2HCNS)=2.3質量%、EMI‐TFSI(製品名:IL-210)=89.3質量%を順に調合し、約10分間撹拌することにより調製した。
【0069】
イオン性液体を、PEDOTを形成した色素吸着金属酸化物半導体層に0.1ml滴下した。
【0070】
本発明では、上記PEDOTとイオン性液体が電解質層である。
<カソード電極>
スパッタリング装置(日本電子製)を用いて、アルミニウム基板(高純度Al99.99%、厚み 20μm)の表面に金を積層(積層厚み 20nm)させて、カソード電極を作製した。
【0071】
得られたカソード電極の各励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定値を、大気中光電子分光装置AC−2(理研計器(株)製)を使用して測定した。測定結果を下記図2に示す。図2の測定結果から算出された実施例1のカソード電極の仕事関数、及び励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きを、下記表1に示す。
【0072】
一連の工程を経ることにより、本発明の色素増感型太陽電池を作製した。
【0073】
得られた色素増感型太陽電池の特性を、シミュレーション光(100mW/cm2、AM1.5 YSS-80山下電装製)を使用して室温で測定した。測定結果を下記表2に示す。
【0074】
なお、Jsc(短絡電流値)、Voc(開放電圧値)、FF(曲線因子)、Eff(変換効率)、Rs(色素増感型太陽電池の内部抵抗)を示す。また、I-V特性を図3に示す。
【0075】
実施例2
カソード電極に関して、金に代えて銀を積層させた以外は、実施例1と同様にしてカソード電極、及び色素増感型太陽電池を作製した。
【0076】
実施例2で得られたカソード電極の各励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定結果を下記図2に示す。図2の測定結果から算出された実施例2のカソード電極の仕事関数、及び励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きを、下記表1に示す。実施例2の色素増感型太陽電池の特性を下記表2に示す。また、I-V特性を図3に示す。なお、上記した測定結果及び特性については、それぞれ実施例1と同様の測定方法によって得られたものである。
【0077】
比較例1
カソード電極に関して、金を積層させない(つまり、カソード電極がアルミニウム基板のみ)以外は、実施例1と同様にしてカソード電極、及び色素増感型太陽電池を作製した。
【0078】
比較例1で得られたカソード電極の各励起エネルギーに対する規格化光電子収率の測定結果を下記図2に示す。図2の測定結果から算出された比較例1のカソード電極の仕事関数、及び励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きを、下記表1に示す。比較例1の色素増感型太陽電池の特性を下記表2に示す。また、I-V特性を図3に示す。なお、上記した測定結果及び特性については、それぞれ実施例1と同様の測定方法によって得られたものである。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基板の表面に、金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも1種が積層されていることを特徴とする、色素増感型太陽電池用カソード電極。
【請求項2】
前記カソード電極の仕事関数が4.0〜5.0eVであって、
かつ励起エネルギーに対する規格化光電子収率の傾きが40以上である、請求項1に記載の色素増感型太陽電池用カソード電極。
【請求項3】
金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも一種が、スパッタリング法によって積層された、請求項1又は2に記載の色素増感型太陽電池用カソード電極。
【請求項4】
アルミニウム基板の厚みが、7〜200μmである、請求項1〜3のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用カソード電極。
【請求項5】
アルミニウム基板の表面に積層された金、銀及び白金からなる群から選ばれた少なくとも一種の厚みが、1〜50nmである、請求項1〜4のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用カソード電極。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のカソード電極を有する、色素増感型太陽電池。
【請求項7】
ヨウ素を含有しない非ヨウ素系の電解質を備えた、請求項6に記載の色素増感型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−171133(P2011−171133A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34410(P2010−34410)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】