説明

色素増感型太陽電池

【課題】透明基材が光透過性、耐薬品性、耐候性といった耐久性能を十分に備えると共に、透明基材の形成に係わる作業が簡便且つ容易となり得る色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】光入射側αの外面の耐候合成樹脂層1により耐候性が備えられ、また光電極層側β外面の耐薬品合成樹脂層2により耐薬品性が備えられることで、透明基材10が光透過性、耐薬品性、耐候性といった耐久性能を十分に備えることができ、更には透明基材10全体を合成樹脂により形成できることで、透明基材10の形成に係わる作業が簡便且つ容易となり得ると共に、線膨張係数の差による層間での不具合の発生を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性能に優れ、形成に係わる手間が簡便となされた色素増感型太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池は、透明基材の上に形成された透明電極上に半導体材料を用いて多孔質の半導体層を形成し、該半導体層に増感色素を吸着させてなる光電極層と、電解質を含む液体又は擬液体状等の電解質層と、前記電解液層を介して前記光電極層と対向して対向電極が設けられる裏面基材とを備え、前記光電極層に光が照射されることで半導体が励起されて電子の移動が起こることで電力が生起されるものである。
【0003】
裏面基材は、対向電極が設けることができるものであれば、特に透明性等の他の機能は必要とされずまた多少の変色は許容されることから材質の自由度が高く、電解質層を構成する薬品に侵されることなく耐候性の高い材料を選択することが容易であるが、透明基材については高い光透過性が必要であると共に、多孔質の光電極層及び薄膜の透明電極を透過してくる電解質層を構成する薬品に曝され、更に紫外線や風雨に曝されることで表面の白化や黄変等の変色により発電効率が著しく低下する恐れがあることから、高い光透過性、耐薬品性、耐候性といった耐久性能を兼ね備えることが必要とされている。
【0004】
かかる耐久性能は、透明基材にガラスを用いることで得ることができるが、ガラスは重量の増加や破損時の破片の飛散の恐れ等があり、またコスト高にも繋がることで、その対策として、光透過性をもつ基板と、前記基板に積層された透明導電層と、前記透明導電層に積層された半導体層と、前記半導体層に担持された色素とを有する光極を用いて形成され、前記基板のうち光入射側の表面には、透明樹脂層が積層されることで光極の破損を抑えて軽量で且つ安全性の高められた色素増感型太陽電池が開示されている(例えば特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−68373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の色素増感型太陽電池では、光極の基板には結局透明ガラスを用いるものであり、上述の耐久性能を得るにはガラスに透明樹脂層を積層する必要があり、その作業時にガラスである基板の取り扱いが極めて繁雑となり、また軽量化を図るにはガラスを薄くする必要があり、大型の太陽電池を一体で形成するのに著しく困難を伴うものとなっていた。
【0007】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、透明基材が光透過性、耐薬品性、耐候性といった耐久性能を十分に備えると共に、透明基材の形成に係わる作業が簡便且つ容易となり得る色素増感型太陽電池を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる色素増感型太陽電池は、透明基材と、透明基材の上に設けられた透明電極と、該透明電極上に半導体材料を用いて形成された多孔質の半導体層に増感色素を吸着させてなる光電極層と、電解質を含む液体又は擬液体状等の電解質層と、裏面基材と、該裏面基材の上に設けられた対向電極とを備え、前記電解質層を介して前記対向電極が前記光電極層と対向して設けられた色素増感型太陽電池であって、前記透明基材は、光入射側の外面に耐候性に優れる耐候合成樹脂層と、光電極層側の外面に前記電解質層を構成する薬品に対する耐薬品性に優れる耐薬品合成樹脂層とが配設されていることを特徴とするものである。
【0009】
また本発明に係わる色素増感型太陽電池は、透明基材と、透明基材の上に設けられた透明電極と、該透明電極上に半導体材料を用いて形成された多孔質の半導体層に増感色素を吸着させてなる光電極層と、電解質を含む液体又は擬液体状等の電解質層と、裏面基材と、該裏面基材の上に設けられた対向電極とを備え、前記電解質層を介して前記対向電極が前記光電極層と対向して設けられた色素増感型太陽電池であって、前記透明基材は、光入射側の外面に耐候性に優れる耐候合成樹脂層と、光電極層側の外面に前記電解質層を構成する薬品に対する耐薬品性に優れる耐薬品性被膜とが配設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の、本発明に係わる色素増感型太陽電池によれば、光入射側の外面の耐候合成樹脂層により耐候性が備えられ、また光電極層側外面の耐薬品合成樹脂層により耐薬品性が備えられることで、透明基材が光透過性、耐薬品性、耐候性といった耐久性能を十分に備えることができ、更には透明基材全体を合成樹脂により形成できることで、透明基材の形成に係わる作業が簡便且つ容易となり得ると共に、線膨張係数の差による層間での不具合の発生を防止できる。
【0011】
また請求項2に記載の、本発明に係わる色素増感型太陽電池によれば、光入射側の外面の耐候合成樹脂層により耐候性が備えられ、また光電極層側の外面の耐薬品性被膜により耐薬品性が備えられることで、透明基材が光透過性、耐薬品性、耐候性といった耐久性能を十分に備えることができ、更には透明基材全体を合成樹脂及び被膜により形成できることから、透明基材の形成に係わる作業が簡便且つ容易となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係わる色素増感型太陽電池に適用される透明基材の、実施の一形態を示す断面図である。透明基材10は、光入射側αの外面にポリカーボネート樹脂板からなる透明で耐候性の高い耐候合成樹脂層1が配設され、また光電極層側βの外面に電解質層を構成する薬品への耐久性に優れる透明なポリエチレンテレフタレート樹脂板からなる耐薬品合成樹脂層2が配設されて、耐候合成樹脂層1と耐薬品合成樹脂層2とが光透過性を妨げない接着手段Aにより接着されて積層されることで形成されている。
【0014】
光入射側αからは太陽光が照射され、主として風雨に曝されることと太陽光に含まれる紫外線により、透明基材10の光入射側αには表面の白化及び黄変等の変色が起こる恐れがあるが、光入射側αに耐候合成樹脂層1が配置されることで表面の白化が防止され、且つ紫外線が耐候合成樹脂層1にある程度吸収されることで、耐候合成樹脂層1とその他の透明基材10の構成材料の劣化を防止することで、透明基材10は高い耐候性を備えることができる。更に耐候合成樹脂層1の光入射側αの外面には、自浄性を具備させる光触媒含有層等のコーティングを適宜施しておいてもよい。
【0015】
また透明基材10の光電極層側βには、透明電極及び光電極層が形成され、更に電解質層が配設されるが、透明電極は透明性を保持するために極めて薄膜であり且つ光電極層は多孔質であることから電解質層を構成する薬品がそれらに容易に透過され、透明基材10の光電極側βは電解質層を構成する薬品の影響を避けがたく、侵食による白化や光電極側β表面の膨潤による透明電極や光電極層の剥離等に繋がる恐れがあるが、耐薬品合成樹脂層2が光電極側βに配置されていることでかかる悪影響の発生を防止し、透明基材10は高い耐薬品性を備えることができる。
【0016】
耐候合成樹脂層1は、風雨の暴露や紫外線の照射による白化や黄変等の度合いが小さいものを用いることができ、例えば上述のポリカーボネート樹脂や、アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル等で、光透過性の高い材料を用いて形成することができる。また透明基板10を用いて形成される色素増感型太陽電池が主として可視光線以上の波長を用いて発電されるものであれば、耐候合成樹脂層1に紫外線吸収剤を配合する等、紫外線遮へい手段を用いて耐薬品合成樹脂層2の紫外線による劣化を抑制するようにしてもよい。
【0017】
また電解質層は、例えばアセトニトリルとエチレンカーボネートの混合溶液や、メトキシプロピオニトリル等の溶媒に、ヨウ化リチウム、金属ヨウ素等の電解質を加えたもの等がよく用いられており、耐薬品合成樹脂層2はこれらの薬品類による侵食の恐れが少なく且つ光透過性の高い材料を用いて形成することができ、例えば上述のポリエチレンテレフタレート樹脂に加え、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂といったポリエステル合成樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン樹脂といったポリオレフィン系合成樹脂等を好適に用いることができる。
【0018】
また光透過性を妨げない接着手段Aとしては、光の透過を妨げない程度に薄膜のものか、若しくはそれ自体が透明なものを用いるのが好ましく、例えばEVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)、PVB(ポリビニルブチラール)、無水マレイン酸等で変性した変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤等を好適に用いることができる。また、接着手段Aに替えて、熱融着や溶媒により表面近傍を溶解させて溶着させる方法も用いることができる。
【0019】
また耐候合成樹脂層1及び耐薬品合成樹脂層2は、インサート射出成形法や2層射出成形法により形成してもよい。インサート射出成形法の具体的な方法としては、予めフィルム状に形成しておいた耐候合成樹脂層1又は耐薬品合成樹脂層2の一方を金型内にインサートしておき、他方を溶融状態として押出機により金型内に射出して一体とするものである。また2層射出成形法は、複数の射出成形押出機を用いて溶融状態の耐候合成樹脂層1及び耐薬品合成樹脂層2を形成する合成樹脂を同時に金型内に射出して成形するものである。いずれの方法についても耐候合成樹脂層1と耐薬品合成樹脂層2との接着又は溶着が必要でなく確実な一体化がなされると共に、電解質層の溶出を防止する縁等の複雑な形状を容易に形成でき、形成に係わる作業を簡便なものとすることができる。
【0020】
図2は、本発明に係わる色素増感型太陽電池に適用される透明基材の、他の実施形態を示す断面図である。イ)は板状の耐薬品合成樹脂層2の光入射側αに薄層の耐候合成樹脂層1を形成したものであり、ロ)は板状の耐候合成樹脂層1の光電極層側βに薄層の耐薬品合成樹脂層2を形成したものである。イ)は耐薬品合成樹脂層2、ロ)は耐候合成樹脂層1によって透明基材10としての強度が確保される。
【0021】
図2のイ)において、耐候合成樹脂層1はシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂等の高い光透過性及び耐候性を備えた合成樹脂を含む塗膜形成用組成物を用い、ディッピング、スプレー、スピンコート、ロールコート、フローコート、ディスペンス等のコーティング手段を用いてコーティングし、適宜養生や焼き付けを行って薄膜を形成することができる。耐候合成樹脂層1の層厚は、1〜50μmが好適である。
【0022】
図2のロ)において、耐薬品合成樹脂層2はシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂等の高い光透過性及び耐薬品性を備えた合成樹脂を含む塗膜形成用組成物を用い、ディッピング、スプレー、スピンコート、ロールコート、フローコート、ディスペンス等のコーティング手段を用いてコーティングし、適宜養生や焼き付けを行って薄膜を形成することができる。耐薬品合成樹脂層2の層厚は、10〜500μmが好適で、500μmを超えても得られる効果は変わりがなく材料が無駄となり、10μmを下回ると上記薬品類の遮へい効果が不十分となる恐れがある。
【0023】
また図2のロ)の、耐薬品合成樹脂層2を耐薬品性被膜に替えることもできる。耐薬品性被膜は、SiO、Al、TiO等の金属酸化物、SiN、SiON、AlN、TiN等の金属窒化物、黒鉛、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等の炭素類を、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等の適宜の方法により形成することができ、これらの方法を複数回行って被膜の厚みの増加及び残存ピンホールの閉塞等を行うようにしてもよい。耐薬品性被膜の被膜厚としては、0.01〜5μmが好適で、被膜厚が5μmを超えると上述の形成方法では均一な被膜厚での形成が困難となり、0.01μmを下回ると上記薬品類の遮へい効果が不十分となる恐れがある。
【0024】
上述の実施形態に挙げた如き透明基材10を用い、色素増感型太陽電池を形成するが、透明基材10の他に用いられる光電極層、電解質層、対向電極及び裏面基材については特に限定されるものではなく公知のものを用いて形成することで、透明基材10自体及び透明基材10上に設けられた透明電極や光電極層の劣化が軽減され、発電能力を長期に亘って備えられる色素増感型太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係わる色素増感型太陽電池の、透明基材の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係わる色素増感型太陽電池の、透明基材の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 耐候合成樹脂層
2 耐薬品合成樹脂層
10 透明基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、透明基材の上に設けられた透明電極と、該透明電極上に半導体材料を用いて形成された多孔質の半導体層に増感色素を吸着させてなる光電極層と、電解質を含む液体又は擬液体状等の電解質層と、裏面基材と、該裏面基材の上に設けられた対向電極とを備え、前記電解質層を介して前記対向電極が前記光電極層と対向して設けられた色素増感型太陽電池であって、前記透明基材は、光入射側の外面に耐候性に優れる耐候合成樹脂層と、光電極層側の外面に前記電解質層を構成する薬品に対する耐薬品性に優れる耐薬品合成樹脂層とが配設されていることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項2】
透明基材と、透明基材の上に設けられた透明電極と、該透明電極上に半導体材料を用いて形成された多孔質の半導体層に増感色素を吸着させてなる光電極層と、電解質を含む液体又は擬液体状等の電解質層と、裏面基材と、該裏面基材の上に設けられた対向電極とを備え、前記電解質層を介して前記対向電極が前記光電極層と対向して設けられた色素増感型太陽電池であって、前記透明基材は、光入射側の外面に耐候性に優れる耐候合成樹脂層と、光電極層側の外面に前記電解質層を構成する薬品に対する耐薬品性に優れる耐薬品性被膜とが配設されていることを特徴とする色素増感型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−164657(P2006−164657A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−352223(P2004−352223)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】