説明

色素増感太陽電池

【課題】高温環境下で使用されても優れた耐久性を有する色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】導電性基板17と、導電性基板17の表面17aに設けられる酸化物半導体層13と、導電性基板17の表面17a上であって酸化物半導体層13の周囲に設けられる集電配線15及び集電配線15を覆って保護する絶縁性の配線保護層16とを有する配線部14とを有する第1電極10と、第1電極10に対向する第2電極20と封止部40と電解質30とを備え、導電性基板17の表面17aからの配線部14の厚さが酸化物半導体層13の厚さよりも大きく、第2電極20が、可撓性を有する可撓性電極であり、可撓性電極20よりも高い剛性を有する剛性部材50が、可撓性電極のうち電解質30と反対側の表面20aに固定され、剛性部材50が配線部14と少なくとも一部において可撓性電極20を介して重なるように設けられている色素増感太陽電池100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、安価で、高い光電変換効率が得られることから色素増感型太陽電池が注目されており、色素増感型太陽電池に関して種々の開発が行われている。
【0003】
このような色素増感太陽電池として、例えば下記特許文献1に記載のものが知られている。下記特許文献1には、透明基板と光透過性のある導電性金属酸化物からなる窓電極と、窓電極上に形成された金属配線と、金属配線を被覆する保護膜と、金属配線が形成されていない窓電極上に形成された色素吸着半導体薄膜と、対極基板とを有する色素増感太陽電池であって、金属配線と対向する対極基板に短絡防止層が設置してある色素増感太陽電池が開示されている。このような構成の色素増感太陽電池により、対極と窓極との短絡防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−9866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、色素増感太陽電池においては、性能向上の観点からは極間距離を小さくすることが重要である。
【0006】
しかし、特許文献1記載の色素増感太陽電池では、対極を作製するにあたって、エッチング又はプレスによる成形加工がされており、加工に時間がかかることから、生産効率の点で改善の余地があった。
【0007】
生産効率を改善するためには、対極に可撓性を付与し、対極を、作用極の凹凸形状に追従できるようにすることが考えられる。これは、対極に可撓性を付与することで、対極を加工することなく、対極と作用極との極間距離を容易に縮小することができるためである。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の色素増感太陽電池は、対極が可撓性を有する場合に以下の課題を有していた。
【0009】
すなわち、色素増感太陽電池が、高温環境下で使用されると、光電変換特性が経時的に低下する場合があった。
【0010】
したがって、高温環境下で使用されても優れた耐久性を有する色素増感太陽電池が求められていた。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温環境下で使用されても優れた耐久性を有する色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、特許文献1に記載の色素増感太陽電池において、対極が可撓性を有する場合に光電変換特性が経時的に低下する原因について検討した。その結果、色素増感太陽電池が高温環境下に置かれると、電解質が膨張し、それに伴って対極が窓極から離れ、対極と窓極との間の距離が増大する。その結果、光電変換特性が低下するのではないかと本発明者は考えた。そこで、本発明者はさらに鋭意研究を重ねた結果、対極に対して窓極と反対側に、対極よりも高い剛性を有し、対極と窓極との間の距離の増大を十分に抑制できる部材を設けることで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、導電性基板と、前記導電性基板の表面に設けられる酸化物半導体層と、前記導電性基板の表面上であって前記酸化物半導体層の周囲に設けられる集電配線及び前記集電配線を覆って保護する絶縁性の配線保護層を有する配線部とを有する第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1及び第2電極を連結する封止部と、前記第1電極、前記第2電極及び前記封止部によって包囲されるセル空間に充填される電解質とを備え、前記導電性基板の表面からの前記配線部の高さが前記導電性基板の表面からの前記酸化物半導体層の高さよりも大きく、前記2電極が、可撓性を有する可撓性電極であり、前記可撓性電極よりも高い剛性を有する剛性部材が、前記可撓性電極のうち前記電解質と反対側の表面に固定され、前記剛性部材が、前記配線部と少なくとも一部において前記可撓性電極を介して重なるように設けられている、色素増感太陽電池である。
【0014】
電解質を用いる色素増感太陽電池においては、周囲の環境温度が上昇すると、電解質が膨張してセル空間の内圧が上昇する。このとき、可撓性電極には、可撓性電極よりも高い剛性を有する剛性部材が固定されている。このため、第1及び第2電極間の距離が増大しようとしても、可撓性電極の動きが剛性部材によって規制される。従って、剛性部材が可撓性電極に固定されていない場合に比べて、第1及び第2電極間の距離の増大を十分に抑制することができる。よって、本発明の色素増感太陽電池によれば、高温環境下で使用されても、光電変換特性の経時的な低下を十分に抑制できる。すなわち、本発明の色素増感太陽電池によれば、高温環境下で使用されても優れた耐久性を有することが可能となる。
【0015】
また本発明の色素増感太陽電池においては、配線部が、導電性基板の表面上に設けられる集電配線と、集電配線を覆って保護する絶縁性の配線保護層とを有する。このため、色素増感太陽電池の周囲の環境温度が低下すると、封止部と第1電極と第2電極とによって囲まれるセル空間の内圧が低下し、第1電極と第2電極との間の距離が減少する。この場合、剛性部材がその少なくとも一部において配線部と重なるように設けられているため、配線部と剛性部材とによって可撓性電極が挟まれた構造を実現することが可能となる。ここで、配線保護層は絶縁性であるため、可撓性電極が配線保護層に接触してもそのこと自体による短絡の問題は生じない。さらに可撓性電極が配線部と剛性部材とによって挟まれた構造を実現することが可能となるため、可撓性電極のうち配線部に接触していない部分が、対向する第1電極側に撓むことが十分に抑制され、可撓性電極が、対向する第1電極に接触して短絡することが十分に抑制される。
【0016】
さらに本発明の色素増感太陽電池においては、第1電極が、導電性基板の表面上であって配線部の周囲に設けられる酸化物半導体層を有し、導電性基板の表面からの配線部の高さが前記導電性基板の表面からの酸化物半導体層の高さよりも大きい。
【0017】
このため、配線部の導電性基板の表面からの高さが酸化物半導体層の導電性基板の表面からの高さ以下である場合に比べて、可撓性電極が第1電極に含まれる酸化物半導体層に接触することがより十分に抑制され、短絡がより十分に防止される。
【0018】
上記色素増感太陽電池においては、前記剛性部材よりも低い剛性を有する低剛性部が、前記可撓性電極のうち前記電解質と反対側であって、前記酸化物半導体層と少なくとも一部において前記可撓性電極を介して重なるように配置されていることが好ましい。
【0019】
この場合、剛性部材で可撓性電極の撓みを抑制しつつも、剛性部材よりも剛性が低い低剛性部では可撓性電極が一定量撓むことが可能となるので、セル空間の膨張や収縮により可撓性電極に加えられる応力を吸収でき、封止部と可撓性電極との界面に加わる応力が低減される。このため、電解質の漏洩がより十分に抑制され、耐久性がより向上する。
【0020】
上記色素増感太陽電池においては、前記第1電極が非可撓性電極であることが好ましい。
【0021】
この場合、第1電極が可撓性電極である場合に比べて、酸化物半導体層にクラックが生じにくくなる。このため、色素増感太陽電池の性能低下がより十分に抑制される。
【0022】
上記色素増感太陽電池においては、前記配線部が前記可撓性電極と接触していることが好ましい。
【0023】
この場合、配線部と可撓性電極とが接触していない場合に比べて、極間距離がより短縮されるため、光電変換効率がより向上する。また、配線部が可撓性電極と接触しているため、配線部と可撓性電極とが接触していない場合に比べて、前記可撓性電極のうち配線部と接触している部分が、対向する第1電極に向かって撓むことが防止される。このため、第1及び第2電極間の距離の変動をより小さくすることができる。その結果、光電変換特性の安定性を向上させることができる。
【0024】
ここで、前記配線保護層はガラスを含むことが好ましい。
【0025】
この場合、配線保護層は、例えば樹脂で構成される場合と比べてより硬くなる。このため、可撓性電極が配線部を押圧する場合でも、可撓性電極が配線保護層を押し潰して配線部の集電配線に接触することがより十分に防止され、可撓性電極と第1電極との短絡をより十分に防止することができる。
【0026】
上記色素増感太陽電池は、前記剛性部材を覆い、前記剛性部材を前記可撓性電極に押し付ける押付部材をさらに備えることが好ましい。
【0027】
この場合、電解質が膨張して可撓性電極が、対向する第1電極から離れる方向に張り出し、これに伴い、剛性部材が、第1電極から離れる方向に張り出そうとしても、その可撓性電極および剛性部材の張出しが、押付部材によって抑制される。
【0028】
なお、本発明において、「可撓性電極」とは、20℃の環境下で50mm×200mmのシート状電極の長辺側の両縁部(それぞれ幅5mm)を張力1Nで水平に固定し、電極の中央に20g重の荷重をかけた際の電極の撓みの最大変形率が20%を超える電極を言うものとする。ここで、最大変形率とは、下記式:
最大変形率(%)=100×(最大変位量/シート状電極の厚さ)
に基づいて算出される値を言う。従って、例えば厚さ0.04mmのシート状電極が上記のようにして荷重をかけることにより撓み、最大変形量が0.01mmとなった場合、最大変形率は25%となり、このシート状電極は可撓性電極となる。
【0029】
「非可撓性電極」とは、上記最大変形率が20%以下である電極を言うものとする。
【0030】
「可撓性電極よりも高い剛性を有する剛性部材」とは、20℃の環境下で50mm×200mmのシート状の剛性部材及び電極のそれぞれについて、長辺側の両縁部(それぞれ幅5mm)を固定し、中央に20g重の荷重をかけ、最大変形率を算出した場合に、可撓性電極よりも小さい最大変形率を有する剛性部材を言うものとする。従って、例えば厚さ4mmの板状の剛性部材(例えばガラス板)に荷重をかけ、剛性部材の最大変位量が0.01mmとなった場合、剛性部材の最大変形率は2.5%となる。これに対し、シート状電極の最大変形率が上記のように25%であるとする。この場合、剛性部材の最大変形率は、シート状電極の最大変形率よりも小さい。従って、剛性部材は、可撓性電極よりも高い剛性を有することになる。
【0031】
「剛性部材よりも低い剛性を有する低剛性部」とは、20℃の環境下で50mm×200mmのシート状の剛性部材及び低剛性部のそれぞれについて、長辺側の両縁部(それぞれ幅5mm)を固定し、中央に20g重の荷重をかけ、最大変形率を算出した場合に、剛性部材よりも大きい最大変形率を有するもの、又は、空気等の気体を言うものとする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高温環境下で使用されても優れた耐久性を有する色素増感太陽電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の色素増感太陽電池の第2実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の色素増感太陽電池の第3実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の色素増感太陽電池の第4実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0035】
<第1実施形態>
まず本発明に係る色素増感太陽電池の第1実施形態について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る色素増感太陽電池の第1実施形態を示す断面図である。
【0036】
図1に示す色素増感太陽電池100は色素増感太陽電池を示している。図1に示すように、色素増感太陽電池100は、作用極10と、作用極10に対向するように配置される対極20とを備えている。作用極10には光増感色素が担持されている。作用極10と対極20との間には、作用極10及び対極20を連結する封止部40が設けられている。そして、作用極10と対極20と封止部40とによって包囲されるセル空間内には電解質30が充填されている。
【0037】
作用極10は、透明基板11及び透明基板11の対極20側に設けられる透明導電膜12を有する透明な導電性基板17と、導電性基板17の表面17a上に設けられる多孔質酸化物半導体層13と、導電性基板17の表面17a上で多孔質酸化物半導体層13の周囲に設けられる配線部14とを備えている。光増感色素は作用極10のうちの多孔質酸化物半導体層13に担持されている。
【0038】
配線部14は、導電性基板17の表面17a上に設けられる集電配線15と、集電配線15を覆って保護する絶縁性の配線保護層16とを有している。ここで、導電性基板17の表面17aからの配線部14の高さは、多孔質酸化物半導体層13の厚さ、すなわち、導電性基板17の表面17aからの多孔質酸化物半導体層13の高さよりも大きくなっている。また、配線部14は、対極20と接触している。
【0039】
対極20は、対極基板21と、対極基板21のうち作用極10側に設けられて対極20の表面における還元反応を促進する導電性の触媒層22とを備えている。対極20の周縁部は封止部40に固定され、対極20の周縁部の内側部分には作用極10側に向かって窪む凹部23が形成されている。
【0040】
そして、対極20のうち電解質30と反対側の表面20aの凹部23には、対極20よりも高い剛性を有する剛性部材50が固定されている。ここで、剛性部材50と配線部14とは、その少なくとも一部において、対極20を介して重なるように設けられている。また対極20のうち電解質30と反対側の表面20aには、剛性部材50を覆い、対極20に押し付ける押付部材60が設けられている。ここで、押付部材60の周縁部60aは対極20の周縁部に固定されている。
【0041】
また押付部材60と対極20との間には、多孔質酸化物半導体層13に対し、対極20を介して重なるように空間部70が設けられている。この空間部70は、剛性部材50よりも低い剛性を有するものであり、本発明の低剛性部として機能するものである。 さらに、色素増感太陽電池100において、作用極10は可撓性を有していない非可撓性電極となっている。これに対し、対極20は可撓性を有する可撓性電極となっている。
【0042】
上述した色素増感太陽電池100によれば、周囲の環境温度が上昇すると、電解質30が膨張してセル空間の内圧が上昇する。すると、これに伴って、作用極10及び対極20間の距離が増大しようとする。このとき、可撓性電極である対極20には、対極20よりも高い剛性を有する剛性部材50が固定されている。このため、作用極10及び対極20間の距離が増大しようとしても、可撓性電極である対極20の動きが剛性部材50によって規制される。従って、作用極10及び対極20間の距離が増大しようとしても、剛性部材50が対極20に固定されていない場合に比べて、作用極10及び対極20間の距離の増大を十分に抑制することができる。よって、色素増感太陽電池100によれば、高温環境下で使用されても、光電変換特性の経時的な低下を十分に抑制でき、優れた耐久性を有することが可能となる。
【0043】
一方、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度が低下すると、封止部40と作用極10と対極20とによって囲まれるセル空間が収縮し、作用極10及び対極20間の距離が縮小する。この場合、剛性部材50と配線部14とはその少なくとも一部において対極20を介して重なるように設けられている。ここで、対極20と配線部14とは接触している。このため、配線部14と剛性部材50とによって対極20が挟まれた構造を実現することが可能となる。ここで、配線保護層16は絶縁性であるため、可撓性電極である対極20が配線保護層16に接触していてもそのこと自体による短絡の問題は生じない。さらに可配線部14と剛性部材50とによって、撓性電極である対極20が挟まれ固定された構造を実現することが可能となるため、対極20のうち配線部14と接触していない部分が、対向する作用極10側に撓むことが十分に抑制され、可撓性電極である対極20が、対向する作用極10に接触して短絡することが十分に抑制される。
【0044】
また色素増感太陽電池100では、導電性基板17の表面17aからの配線部14の高さが多孔質酸化物半導体層13の厚さよりも大きくなっている。このため、導電性基板17の表面17aからの配線部14の高さが多孔質酸化物半導体層13の厚さ以下である場合に比べて、対極20のうち配線部14と接触していない部分が、対向する作用極10側に撓んでも、多孔質酸化物半導体層13に接触することがより十分に抑制され、短絡がより十分に防止される。
【0045】
また色素増感太陽電池100では、多孔質酸化物半導体層13に対し、対極20を介して重なるように空間部70が設けられている。この空間部70は、剛性部材50よりも低い剛性を有するものである。このため、剛性部材60で可撓性電極である対極20の撓みを抑制しつつも、剛性部材60よりも剛性が低い低剛性部501では可撓性電極である対極20が一定量撓むことが可能となるので、セル空間の膨張や収縮により対極20に加えられる応力を空間部70で吸収でき、封止部40と対極20との界面に加わる応力が低減される。このため、電解質30の漏洩がより十分に抑制され、耐久性がより向上する。
【0046】
さらに色素増感太陽電池100では、配線部14が対極20と接触している。この場合、配線部14と可撓性電極である対極20とが接触していない場合に比べて、極間距離がより短縮されるため、光電変換効率がより向上する。また、配線部14が対極20と接触しているので、可撓性電極である対極20が、対向する作用極10に向かって撓むことが防止される。このため、作用極10及び対極20間の距離の変動をより小さくすることができる。その結果、光電変換特性の安定性を向上させることができる。
【0047】
さらにまた色素増感太陽電池100では、作用極10が非可撓性電極となっている。このため、作用極10が可撓性電極である場合に比べて作用極10の多孔質酸化物半導体層13にクラックが生じにくくなる。このため、色素増感太陽電池100の性能低下がより十分に抑制される。
【0048】
また色素増感太陽電池100では、押付部材60の周縁部60aが対極20の周縁部に固定されている。このため、セル空間が膨張し、対極20のうち周縁部よりも内側の部分及び剛性部材50が作用極10から離れる方向に張り出そうとしても、その張出しが規制される。このため、作用極10と対極20との間の距離の増大をより十分に抑制することができる。
【0049】
次に、作用極10、光増感色素、対極20、電解質30、封止部40、剛性部材50及び押付部材60について詳細に説明する。
【0050】
(作用極)
透明基板11を構成する材料は、例えば透明な材料であればよく、このような透明な材料としては、例えばホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラス、石英ガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルフォン(PES)などが挙げられる。透明基板11の厚さは、作用極10が可撓性を有しない程度の厚さであり、例えば50〜10000μmの範囲にすればよい。
【0051】
透明導電膜12を構成する材料としては、例えばスズ添加酸化インジウム(Indium−Tin−Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO)、フッ素添加酸化スズ(Fluorine−doped−Tin−Oxide:FTO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。透明導電膜12は、単層でも、異なる導電性金属酸化物で構成される複数の層の積層体で構成されてもよい。透明導電膜12が単層で構成される場合、透明導電膜12は、高い耐熱性及び耐薬品性を有することから、FTOで構成されることが好ましい。また透明導電膜12として、複数の層で構成される積層体を用いると、各層の特性を反映させることが可能となることから好ましい。中でも、ITOで構成される層と、FTOで構成される層との積層体を用いることが好ましい。この場合、高い導電性、耐熱性及び耐薬品性を持つ透明導電膜12が実現できる。透明導電膜12の厚さは例えば0.01〜2μmの範囲にすればよい。
【0052】
多孔質酸化物半導体層13は、多孔質酸化物半導体で構成される。多孔質酸化物半導体は、例えば酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、酸化ニオブ(Nb)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化スズ(SnO)、酸化インジウム(In)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タリウム(Ta)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化ホルミウム(Ho)、酸化ビスマス(Bi)、酸化セリウム(CeO)、酸化アルミニウム(Al)又はこれらの2種以上で構成される酸化物半導体粒子で構成される。これら酸化物半導体粒子の平均粒径は1〜1000nmであることが、色素で覆われた酸化物半導体の表面積が大きくなり、より多くの電子を生成することができることから好ましい。
【0053】
集電配線15を構成する材料は、透明導電膜12より低い抵抗を有する金属を含むものであればよい。このような金属としては、例えば銀が用いられる。
【0054】
配線保護層16は、集電配線15を覆って電解質30から集電配線15を保護するものである。配線保護層16は、電解質30から集電配線15を保護する絶縁性の材料で構成されればよく、配線保護層16は、無機物や樹脂を含むものや無機物と樹脂の積層体などが用いられる。
【0055】
無機物としては、低融点ガラスフリットなどのガラス、アルミナなどの無機絶縁材料が挙げられる。中でも、無機物はガラスであることが好ましい。
【0056】
この場合、配線保護層16が例えば樹脂を含んで構成される場合と比べてより硬くなる。このため、可撓性電極である対極20が配線部14を押圧する場合でも、可撓性電極である対極20が配線保護層16を押し潰して配線部14の集電配線15に接触することがより十分に防止され、可撓性電極である対極20と作用極10との短絡をより十分に防止することができる。
【0057】
樹脂としては、例えばアイオノマー、エチレン−ビニル酢酸無水物共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体などの熱可塑性樹脂、及び、紫外線硬化樹脂が挙げられる。
【0058】
色素増感太陽電池100では、配線部14と対極20とが接触しているが、配線部14と対極20とは、接着剤等で互いに固定されている必要はない。例えば配線部14と対極20とは互いに単に物理的に接触しているだけであってもよい。
【0059】
(光増感色素)
光増感色素としては、例えばビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体や、ポルフィリン、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素が挙げられる。
【0060】
(対極)
対極基板21は、チタン、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン等の耐食性の金属材料又はこれらの2種以上の合金から構成される。なお、対極基板21としては、PETやPENなどの樹脂に導電膜を形成したものを用いることもできる。
【0061】
触媒層22は、白金、炭素系材料又は導電性高分子などから構成される。
【0062】
対極20に可撓性を付与するためには、対極基板21を上記金属材料で構成する場合にはその厚さを例えば5〜100μm、好ましくは5〜50μmとし、対極基板21として上記樹脂に導電膜を形成したものを用いる場合には、樹脂の材質によって異なるため一概には言えないが、その厚さを例えば5〜500μmとすればよい。
【0063】
(電解質)
電解質30は通常、電解液で構成され、この電解液は例えばI/Iなどの酸化還元対と有機溶媒とを含んでいる。有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを用いることができる。酸化還元対としては、例えばI/Iのほか、臭素/臭化物イオンなどの対が挙げられる。色素増感太陽電池100は、酸化還元対としてI/Iのような揮発性溶質及び、高温下で揮発しやすいアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルのような有機溶媒を含む電解液を電解質として用いた場合に特に有効である。この場合、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度の変化によりセル空間の内圧の変化が特に大きくなり、封止部40と対極20との界面、および封止部40と作用極10との界面から電解質30が漏洩しやすくなるからである。また電解質30は、有機溶媒に変えて、イオン液体を用いて良い。また、イオン液体と有機溶媒との混合物からなる電解質でもよい。この場合も、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度の変化によりセル空間の内圧の変化が大きくなるためである。イオン液体としては、例えばピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩であって、室温付近で溶融状態にある常温溶融塩が用いられる。このような常温溶融塩としては、例えば1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイドが好適に用いられる。上記電解質には添加剤を加えてもよい。添加剤としては、LiI、4−t−ブチルピリジン、N−メチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。さらに電解質30としては、上記電解質にSiO、TiO、カーボンナノチューブなどのナノ粒子を混練してゲル様となった擬固体電解質であるナノコンポジットゲル電解質を用いてもよく、また、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などの有機系ゲル化剤を用いてゲル化した電解質を用いてもよい。
【0064】
(封止部)
封止部40は、例えば樹脂を含む。このような樹脂としては、例えばアイオノマー、エチレン−ビニル酢酸無水物共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、紫外線硬化樹脂、及び、ビニルアルコール重合体などの樹脂が挙げられる。なお、封止部40は上記樹脂のみで構成されてもよいし、上記樹脂と無機フィラーとで構成されていてもよい。
【0065】
(剛性部材)
剛性部材50は、対極20よりも高い剛性を有していればよく、このような剛性部材50としては、例えばアルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、錫及びこれらの金属を含有する合金などからなる金属板のほか、ABS樹脂、PET、アクリル板などの樹脂板を用いることができる。剛性部材50の厚さは、剛性部材50の材質によって異なるため一概には言えないが、剛性部材50が金属板で構成される場合には、例えば20〜5000μmとし、剛性部材50が樹脂板で構成される場合には、100〜5000μmとすればよい。
【0066】
剛性部材50と配線部14とは、その少なくとも一部において、対極20を介して重なるように設けられていればよい。このため、剛性部材14と配線部14とは、全く同一のパターン形状を有し、完全に重なるように設けられていてもよいし、互いに異なる形状を有し、一部のみが重なるように設けられていてもよい。剛性部材50が配線部14と異なる形状を有する場合、剛性部材50の形状としては、例えば板状、格子状、螺旋状等が挙げられる。
【0067】
剛性部材50の対極20への固定方法としては、例えば接着剤で固定する方法や、接着剤を用いず、押付部材60で物理的に固定する方法が挙げられる。
【0068】
(押付部材)
押付部材60は、剛性部材50よりも高い剛性を有することが好ましい。この場合、作用極10と対極20との間の距離の増大を効果的に抑制することができる。押付部材60は、例えばガラス、金属、樹脂などの材料で構成することができる。あるいは押付部材60は、例えば金属層とポリエステル層とを含む積層体で構成されてもよい。ここで、金属層としては、例えばアルミニウムなどが挙げられ、ポリエステル層を構成するポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。
【0069】
次に、色素増感太陽電池100の製造方法について説明する。
【0070】
まず作用極10及び対極20を準備する。
【0071】
作用極10は、例えば以下のようにして作製される。まず透明基板11上に透明導電膜12を形成した後、透明導電膜12の上に多孔質酸化物半導体層13を形成する。次いで、導電性基板17の表面17a上であって多孔質酸化物半導体層13の周囲に配線部14を形成する。配線部14は、導電性基板17の表面17a上に集電配線15を形成した後、集電配線15を配線保護層16で覆えばよい。こうして作用極10が得られる。
【0072】
透明導電膜12を透明基板11上に形成する方法としては、例えばスパッタ法、蒸着法、スプレー熱分解法(SPD:Spray Pyrolysis Deposition)及びCVD法などが挙げられる。
【0073】
多孔質酸化物半導体層13は、例えば上述した酸化物半導体粒子を焼結させることにより得ることができる。
【0074】
集電配線11は、例えば、金属粒子とポリエチレングルコールなどの増粘剤とを配合してペーストとし、そのペーストを、スクリーン印刷法などを用いて多孔質酸化物半導体層13の周囲に塗膜し、加熱して焼成することによって得ることができる。また、導電性基板17が導電ガラスなどの場合には、上述のペーストに低融点ガラスフリットを混合させることで、集電配線11は導電性基板17と強固に接着される。
【0075】
配線保護層12は、例えば、上述した低融点ガラスフリットなどの無機絶縁材料に、必要に応じて増粘剤、結合剤、分散剤、溶剤などを配合してなるペーストを、スクリーン印刷法などにより集電配線11の全体を被覆するように塗布し、加熱し焼成することによって得ることができる。
【0076】
次に、光増感色素を作用極10の多孔質酸化物半導体層13に担持させるために、通常は、透明導電膜12上に多孔質酸化物半導体層13を形成した作用極10を、光増感色素を含有する溶液の中に浸漬させ、その色素を多孔質酸化物半導体層13に吸着させた後に上記溶液の溶媒成分で余分な色素を洗い流し、乾燥させることで、光増感色素を多孔質酸化物半導体層13に吸着させる。但し、光増感色素を含有する溶液を多孔質酸化物半導体層13に塗布した後、乾燥させることによって光増感色素を多孔質酸化物半導体層13に吸着させても、光増感色素を多孔質酸化物半導体層13に担持させることが可能である。
【0077】
一方、対極20は次のようにして準備する。例えば、チタン、白金、ニッケル又はこれらの2種以上の合金からなる厚さ5〜100μmの可撓性を有する対極基板21を準備する。あるいは、対極基板21として樹脂に導電膜を形成したものを用いる場合には、厚さ5〜500μmのものを準備する。そして、対極基板21の上に触媒層22を形成する。触媒層22の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法などが用いられる。これらのうちスパッタ法が膜の均一性の点から好ましい。こうして、可撓性を有する対極20を準備する。
【0078】
次に、例えば作用極30及び対極40の各々の上に、例えば環状のホットメルト接着剤を配置し、作用極30及び対極40にそれぞれ溶融圧着させる。
【0079】
次に、減圧用容器内に、接着剤を固定した作用極10を収容する。
【0080】
続いて、例えば作用極30上であって接着剤の内側に電解質30を配置する。電解質30は、作用極10上であって環状の接着剤の内側に注入したり、印刷したりすることによって配置することができる。
【0081】
次に、減圧用容器内に、接着剤を固定した対極20を収容し、減圧用容器内で作用極10と対極20とを対向させて、接着剤同士を重ね合わせる。
【0082】
次に、減圧用容器の開口を例えばPETなどの樹脂からなる可撓性シートで塞ぎ、減圧用容器内に密閉空間を形成する。そして、密閉空間を、減圧用容器に形成された排気孔(図示せず)を通して、例えば真空ポンプにより減圧する。こうして減圧空間が形成される。
【0083】
次に、接着剤を加熱溶融させながら加圧する。すると、作用極10と対極20との間に、これらを連結する封止部40が得られる。こうして構造体が形成される。
【0084】
そして、減圧用容器から構造体を取り出すと、対極20のうち電解質30と反対側の表面20aにおける周縁部より内側の部分が大気圧により押圧され、凹部23が形成される。
【0085】
他方、剛性部材50を準備する。剛性部材50としては、配線部14に少なくとも一部において重なる形状を有し、かつ対極20よりも高い剛性を有するものを準備する。そして、剛性部材50を対極20の凹部23に収容する。
【0086】
そして、フィルム状の押付部材60を用意し、押付部材60の周縁部60aを対極20の周縁部に固定する。
【0087】
以上のようにして、色素増感太陽電池100が得られ、色素増感太陽電池100の製造が完了する。
【0088】
<第2実施形態>
次に、本発明の色素増感太陽電池の第2実施形態について図2を参照して詳細に説明する。図2は、本発明の色素増感太陽電池の第2実施形態を示す断面図である。なお、図2において、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0089】
図2に示すように、本実施形態の色素増感太陽電池200は、押付部材の点で第1実施形態の色素増感太陽電池100と相違する。
【0090】
すなわち、本実施形態の押付部材260は、その周縁部260aが、対極20の周縁部ではなく、作用極10の導電性基板17の表面17aのうち封止部40の外側の領域に固定されている。このため、押付部材260は、対極20の周縁部を介して封止部40を導電性基板17側に押し付けていることになる。このため、本実施形態の色素増感太陽電池200が高温環境下に置かれ、封止部40が作用極10と対極20との間の距離を増大させるように膨張しようとしても、封止部40のそのような膨張は押付部材260によって十分に抑制され、作用極10と対極20との間の距離の増大を十分に抑制することができる。
【0091】
押付部材260としては、第1実施形態の押付部材60と同様の材料を用いることができる。また押付部材260は、第1実施形態の押付部材60と同様、例えば金属層とポリエステル層とを含む積層体で構成されてもよい。
【0092】
<第3実施形態>
次に、本発明の色素増感太陽電池の第3実施形態について図3を参照して詳細に説明する。図3は、本発明の色素増感太陽電池の第3実施形態を示す部分断面図である。なお、図3において、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0093】
図3に示すように、本実施形態の色素増感太陽電池300は、配線部14と対極20との間に、絶縁性材料で構成される短絡防止層370をさらに有し、配線保護層316として樹脂が用いられ、押付部材60を有しない点で第1実施形態の色素増感太陽電池100と相違する。
【0094】
この場合、絶縁性材料で構成される短絡防止層370が、配線部14のうち樹脂で構成される配線保護層316と対極20との間に設けられている。このため、対極20と作用極10との短絡が十分に防止される。
【0095】
短絡防止層370は絶縁性材料で構成されていればよい。このような絶縁性材料としては、例えば少なくとも一部において配線保護層16を構成する樹脂よりも高い融点を有する樹脂や、アルミナ、酸化マグネシウムなどを用いることができる。中でも、柔軟性に優れることから、少なくとも一部において配線保護層16を構成する樹脂よりも高い融点を有する樹脂が好ましい。
【0096】
なお、配線保護層316を構成する樹脂としては、例えば配線保護層16を構成する樹脂と同じ樹脂が用いられる。
【0097】
<第4実施形態>
次に、本発明の色素増感太陽電池の第4実施形態について図4を参照して詳細に説明する。図4は、本発明の色素増感太陽電池の第4実施形態を示す部分断面図である。なお、図4において、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0098】
図4に示すように、本実施形態の色素増感太陽電池400は、作用極410が可撓性電極となっており、作用極410よりも高い剛性を有する剛性部材450が導電性基板417のうち電解質30と反対側の表面417bに固定され、剛性部材450が少なくとも一部において配線部14と重なるように設けられ、押付部材60を有しない点で第1実施形態の色素増感太陽電池100と相違する。
【0099】
この場合、周囲の環境温度の上昇により、電解質30が膨張してセル空間の内圧が上昇する。このとき、対極20にも作用極10にも、これらの電極より高い剛性を有する剛性部材50,450がそれぞれ固定されている。このため、作用極410と対極20間の距離が増大しようとしても、可撓性電極である対極20の動きは剛性部材50によって規制され、可撓性電極である作用極410の動きは剛性部材450によって規制される。従って、剛性部材450が可撓性電極である作用極410に固定されていない場合に比べて、作用極410及び対極20間の距離の増大を十分に抑制することができる。よって、色素増感太陽電池400によれば、高温環境下で使用されても、光電変換特性の経時的な低下を十分に抑制できる。
【0100】
剛性部材450は、作用極410よりも高い剛性を有するものであればよく、このような剛性材料としては、例えば剛性部材50と同様の材料などを用いることができる。その中でも、ガラス、及び、アクリル等の透明な材料を用いることが、光を遮断しないので好ましい。また作用極410は、透明導電膜12と積層される透明基板として透明基板411を有している。透明基板411としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルフォン(PES)などが挙げられる。透明基板411の厚さは、作用極410が可撓性を有する程度の厚さであり、例えば100〜500μmの範囲にすればよい。
【0101】
<第5実施形態>
次に、本発明の色素増感太陽電池の第5実施形態について図5を参照して詳細に説明する。図5は、本発明の色素増感太陽電池の第5実施形態を示す部分断面図である。なお、図5において、第1及び第2実施形態と同一又は同等の構成要素については同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0102】
図5に示すように、本実施形態の色素増感太陽電池500は、対極20に対し電解質30と反対側であって、多孔質酸化物半導体層13と対極20を介して重なるように配置され、剛性部材260よりも低い剛性を有する樹脂部501と、押付部材260に対し、電解質30側に積層され、樹脂部501に接着される樹脂層502とをさらに有する点で第2実施形態の色素増感太陽電池200と相違する。
【0103】
この場合、剛性部材50で可撓性電極である対極20の撓みを抑制しつつも、剛性部材50よりも剛性が低い樹脂部501では可撓性電極である対極20が一定量撓むことが可能となるので、セル空間の膨張や収縮により対極20に加えられる応力を吸収でき、封止部40と対極20との界面に加わる応力が低減される。このため、電解質30の漏洩がより十分に抑制され、耐久性がより向上する。また、押付部材260は、樹脂層502及び樹脂部501を介して対極20に接着されているため、押付部材260が剛性部材50から離れることをより十分に抑制することができる。
【0104】
なお、樹脂部501は、剛性部材260よりも低い剛性を有する樹脂で構成されればよく、例えばブチルゴム、封止部40を構成する樹脂と同様の樹脂などで構成される。
【0105】
また樹脂層502は、押付部材260を剛性部材50、対極20や作用極10に接着させるものであり、樹脂層502を構成する樹脂としては、樹脂部501と同様の樹脂を用いることができる。
【0106】
本発明は、上述した第1〜第5実施形態に限定されるものではない。例えば上記第1〜第5実施形態では、配線部14が、可撓性電極である対極20と接触しているが、接触していなくてもよい。すなわち配線部14と対極20とは互いに離間していてもよい。
【0107】
また上記第1〜第5実施形態では、対極20が対極基板21と触媒層22とで構成されているが、対極20は、さらに対極基板21に対して電解質30と反対側に樹脂層を有していてもよい。この場合、樹脂層としては、例えばブチルゴムや、封止部40を構成する樹脂と同様の樹脂を用いることができる。ここで、対極20が樹脂層を有する場合、対極20を可撓性電極とするためには、対極20の厚さは1mm以下となるようにすればよい。
【実施例】
【0108】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
まず厚さ4mm×35cm×35cmのガラスからなる透明基板を用意した。そして、この透明基板の上に30cm×30cmのFTO膜を形成し、FTO基板を用意した。このとき、FTO膜の寸法は、800nm×6cm×20cmとした。そして、FTO膜の表面上に、スクリーン印刷法により酸化チタンナノ粒子のペースト(Solaronix社製、Ti nanoxide T/sp)を塗布し、FTO基板を熱循環オーブンに収容し、500℃で3時間焼成し、FTO膜上に厚さ10μm×1cm×28cmの多孔質酸化物半導体層を25本形成した。続いて、FTO膜上に、各多孔質酸化物半導体層を包囲するように、銀ペースト(福田金属社製)をスクリーン印刷法にて塗布し、520℃で1時間焼成を行い、銀配線を形成した。そして、銀配線の上に、低融点ガラスを含むガラスペーストを塗布し、520℃で1時間焼成を行い、配線保護層を形成し、0.1cm×29cmの配線部を26本形成した。このとき、FTO膜からの配線保護層の高さは35μmとなるようにした。こうして作用極を得た。こうして得られた作用極は非可撓性電極であった。
【0110】
次に、この作用極を、光増感色素であるN719色素を0.2mM溶かした脱水エタノール液中に一昼夜浸漬し、作用極の多孔質酸化物半導体層に光増感色素を担持させた。
【0111】
そして、作用極の多孔質酸化物半導体層全体を包囲するように、ホットメルト接着剤として、幅2mm、厚さ50μmのアイオノマーであるハイミラン(商品名、三井デュポンポリケミカル社製)からなる環状の接着剤を配置して180℃で35分間溶融圧着した。こうして作用極に、多孔質酸化物半導体層を包囲するように環状の接着剤を固定した。
【0112】
次に、対極基板として、30cm×30cm×35μmのTi箔を用意した。そして、Ti箔の上にスパッタリング法により厚さ5nmの白金層を形成した。こうして対極を得た。こうして得られた対極は可撓性電極であった。
【0113】
続いて、白金層の上に、幅2mm、厚さ50μmのアイオノマーであるハイミラン(三井デュポンポリケミカル社製)からなる環状の接着剤を配置して180℃で35分間溶融圧着した。こうして対極の周縁部に環状の接着剤を固定した。
【0114】
次に、接着剤を固定した作用極を減圧用容器内に収容した。そして、減圧用容器内で、作用極に固定した環状の接着剤の内側に、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、4−tert−ブチルピリジン0.5Mをアセトニトリル中に溶解させたアセトニトリル系電解質を配置した。
【0115】
次に、接着剤を固定した対極を減圧用容器内に収容し、作用極と対極の接着剤同士を互いに対向させた。そして、減圧用容器を1000Paまで減圧した状態で、作用極に固定された接着剤、及び、対極に固定された接着剤を、3MPa、150℃の条件で溶融圧着させた。こうして厚さ70μmの封止部を有する構造体を得た。
【0116】
次に、構造体を減圧用容器から取り出し、対極のうち電解質と反対側の表面に凹部を形成した。このとき、対極と配線保護層とを互いに接触させた。
【0117】
次に、銀配線と同一のパターン形状となるように形成されたガラスからなる剛性部材を対極のうち電解質と反対側の表面に当て、剛性部材の縁部をクリップで挟んだ。こうして色素増感太陽電池を得た。
【0118】
(実施例2)
電解質中の溶媒を、アセトニトリルからメトキシアセトニトリルに変更することにより、電解質をアセトニトリル系電解質からメトキシアセトニトリル系電解質に変更したこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0119】
(実施例3)
電解質中の溶媒を、アセトニトリルからメトキシプロピオニトリルに変更することにより、電解質をアセトニトリル系電解質からメトキシプロピオニトリル系電解質に変更したこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0120】
(実施例4)
透明基板を、厚さ4mm×30cm×30cmのガラスから、厚さ0.3mm×35cm×35cmのポリエチレンナフタレートに変更することで、作用極を可撓性電極とし、作用極のうち電解質と反対側の表面に、銀配線と同一のパターン形状となるように形成されたガラスからなる剛性部材を接着剤で固定したこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0121】
(実施例5)
封止部の厚さを、70μmから100μmに増大させることで、配線部と対極とが接触しないようにしたこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0122】
(実施例6)
3mm×35cm×35cmの寸法を有するアルミニウム層とブチルゴム層との積層体からなるシートを用意し、このシートで剛性部材を覆うと共にシートを対極に押し付け、シートの縁部を作用極のFTO基板上に接着して固定したこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0123】
(比較例1)
剛性部材を対極に固定しなかったこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0124】
(比較例2)
剛性部材を対極に固定しなかったこと以外は実施例2と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0125】
(比較例3)
剛性部材を対極に固定しなかったこと以外は実施例3と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0126】
(比較例4)
剛性部材を配線部に重ならないように対極に固定したこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0127】
(比較例5)
FTO膜からの配線部の高さを5μmとし、多孔質酸化物半導体層のFTO膜からの高さよりも小さくすることで、多孔質酸化物半導体層のFTO膜からの高さに対するFTO膜からの配線部の高さの比を0.5としたこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。
【0128】
[特性評価]
実施例1〜6及び比較例1〜5で得られた色素増感太陽電池を、85℃の恒温槽に1000時間入れた。そして、恒温槽に入れる前の色素増感太陽電池の光電変換効率と、恒温槽に入れて1000時間後に取り出した色素増感太陽電池の光電変換効率とから、下記式:
光電変換効率の減少率(%)=(η−η)/η)×100
(上記式中、ηは恒温槽に入れる前の色素増感太陽電池の光電変換効率を表し、ηは、恒温槽に入れて1000時間後に取り出した色素増感太陽電池の光電変換効率を表す)
に基づいて光電変換効率の減少率を算出した。結果を表1に示す。なお、表1において、「−」は、色素増感太陽電池において、作用極と対極とが短絡し、光電変換効率を測ることができなかったことを意味する。
【表1】

【0129】
表1に示す結果より、実施例1〜6の色素増感太陽電池は、比較例1〜3の色素増感太陽電池に比べて、光電変換効率の減少率が極めて小さいことが分かった。また比較例4及び5は、作用極と対極との間で短絡が生じてしまい、光電変換効率の減少率を測定することができなかった。
【0130】
このことから、本発明の色素増感太陽電池は、高温環境下で使用されても優れた耐久性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0131】
10…作用極(第1電極)
13…多孔質酸化物半導体層
14…配線部
15…集電配線
16,316…配線保護層
17,417…導電性基板
17a,417a…表面
20…対極(第2電極)
30…電解質
40…封止部
50,450…剛性部材
60,260…押付部材
70…空間部(低剛性部)
501…樹脂部(低剛性部)
100,200,300,400,500…色素増感太陽電池
370…短絡防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板と、前記導電性基板の表面に設けられる酸化物半導体層と、前記導電性基板の表面上であって前記酸化物半導体層の周囲に設けられる集電配線及び前記集電配線を覆って保護する絶縁性の配線保護層を有する配線部とを有する第1電極と、
前記第1電極に対向する第2電極と、
前記第1及び第2電極を連結する封止部と、
前記第1電極、前記第2電極及び前記封止部によって包囲されるセル空間に充填される電解質と、
を備え、
前記導電性基板の表面からの前記配線部の厚さが前記酸化物半導体層の厚さよりも大きく、
前記2電極が、可撓性を有する可撓性電極であり、
前記可撓性電極よりも高い剛性を有する剛性部材が、前記可撓性電極のうち前記電解質と反対側の表面に固定され、前記剛性部材が、前記配線部と少なくとも一部において前記可撓性電極を介して重なるように設けられている、色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記剛性部材よりも低い剛性を有する低剛性部が、前記可撓性電極のうち前記電解質と反対側であって、前記酸化物半導体層と少なくとも一部において前記可撓性電極を介して重なるように設けられている、色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記第1電極が非可撓性電極である、請求項1又は2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記配線部が前記可撓性電極と接触している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記配線保護層がガラスを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
前記剛性部材を覆い、前記剛性部材を前記可撓性電極に押し付ける押付部材をさらに備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−80568(P2013−80568A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218795(P2011−218795)
【出願日】平成23年10月1日(2011.10.1)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】