説明

芝生構造体及び芝生構造体を植栽する方法

【課題】撒き芝工法における作業工程では、主に目土散布に時間と手間を費やすことになる。当然、目土には膨大な土砂が必要になるため、他の場所から目土となる土砂を運搬するコストを考慮しなければならず多大なコストが問題となる。
【解決手段】本発明による撒き芝工法での植栽工程は、植栽工程でのストロンへの目土散布段階において、目土の散布に代えて綿シートを敷設することを特徴とする。前記綿シートは床土に竹串等で固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動場(グラウンド)等にある芝生造成可能なスペースに芝生を植栽する分野に関し、特に、直立した茎の地際から出た枝が地面に水平に伸び匍匐し、途中の節から根を出して生長した芝を、3〜5cmに切断しほぐした芝の枝及び茎(以下、ストロンと記す)を用いた撒き芝による芝生植栽における芝生構造体の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運動場(グラウンド)等に芝生を植栽する工法として、ストロンを撒く撒き芝による工法、マット状に裁断された0.1〜10.0m程度の芝を運動場に敷き並べる張り芝による工法、育苗ポットに芝苗をつくり、芝苗ごと運動場等に移植するポット苗による工法がある。この中で撒き芝による工法には、床土全面にストロンをばら撒き、その上から目土(めつち:いわゆる砂や土)散布により押さえつける方法、ストロンをばら撒いた後にトラクターで表土に混入する方法、溝を切りそこにストロンを筋状に植え付ける条植え法等が知られている。目土にはストロンの枯死を避け発芽や発根を促進する役割と、運動場等の凸凹面を修正する役割がある。通常、栄養繁殖型の芝は、生育期が春から夏であるため、芝生を植栽するのは春から夏の時期になる。
【0003】
上記方法はいずれも、最終的には目土を散布する作業を必要としている。目土作業の主たる目的は乾燥によるストロンの枯死を避けることにある。乾燥によるストロンの枯死を避けるために、目土作業ではストロンの一端を地中に埋め込み、他端を地上に出すことが必要である。ストロン全体が目土の中に埋め込まれているとストロンは地中で腐敗し、ストロン全体が地表に出ていると乾燥によりストロンは枯死するからである。このような目土の重要性からも明らかなように、撒き芝による植栽工程において、目土作業を省略するとストロンの枯死リスクを避けることができなくなる。その結果、通常要する100日程度の養生期間では均一に緑化された芝生地の造成は不可能になる。
【0004】
現状の撒き芝による芝生植栽は、ストロンを植栽すべき整地面の表面に均一にばら撒く工程、ばら撒いたストロンを床土に混入するために床土の表面を軽く耕耘する工程、その上に目土で被覆する工程、被覆した目土の表面をローラーなどで転圧する工程、その上から散水する工程とからなっている。目土で被覆する工程においては、10t車級のトラックにより多量の目土を他の場所から運搬し被覆する必要があること、かつ、ストロンの腐敗及び枯死を避けるため、目土作業ではストロンの一端を地中に埋め込み、他端は地上に出ているように目土を散布する等のストロンの枯死を防止するための配慮を要する細かな作業が必要であり、そのための手間及びコストがかかっていた。
【0005】
従来において、栄養繁殖型のストロンをばら撒いた上に、ばら撒かれて分散したストロンが移動しないように軽く上から押さえつけるための、ネット又は通気性シートで覆う技術はあった。しかしながら、この工法であっても従来と同様に最終的には目土を散布し覆土する必要があった(特許文献1、特許文献2)。
【0006】
また、従来において芝生育成のため、人工繊維を絡ませてなる厚さ10〜100mmのマット支持体を基盤材、すなわち後で別の場所で芝生を生育させるための土壌(床土)として用いることに関する発明が知られていた(特許文献3)。しかしながらこの技術は芝生基盤材に関する技術であり、要するに、後で運動場等に芝生を移植して植栽するための芝生を育成する土壌の構造に関する技術であり、本願発明とは異なる技術である。
【0007】
緑化・農業・土木分野で使用するシートといえば不織布が一般的であった。不織布はその厚みや空隙を容易に変更できるという物性的特徴を生かした排水シート、防草シート、植生シートとして利用されていた。植物育成への被覆シートの利用としては、雑草に対する物理的生育阻害としての防草シートがあった(特許文献4)。また、シートを被覆することによる保温効果を活かした発芽促進としても利用されているが、発芽後直ちに被覆シートを除去することを前提としており、一時的な生育補助資材であった(特許文献5)。さらに植生シートとしての利用では、種子がシート内で移動し一端に固まるのを防止し、シート内で均等に発芽させることを目的としていたものもあった(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2887707号
【特許文献2】特許第2572652号
【特許文献3】特開平11−46581
【特許文献4】特開2000−300087
【特許文献5】特開2008−148681
【特許文献6】特開2008−253244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ストロンへの目土散布は、芝生を植栽する面積が小面積の場合は、川砂又は山砂を人力で散布し、芝生を植栽する面積が大面積の場合は目土を専用の散布機で散布することになる。基本的に目土を均一に散布しようとする場合には、人力で行うと多大な労力を要すため、面積の大小に関わらず専用機を使用して散布することとなる。撒き芝工法における作業工程では、主に目土散布に時間と手間を費やすことになる。当然、目土には膨大な土砂が必要になるため、他の場所から目土となる土砂を運搬するコストを考慮しなければならず多大なコストが問題となる。
【0010】
学校や幼稚園等の運動場で芝生を植栽しようとする場合に、生徒や園児等が芝生植栽作業に参加しやすく、比較的低コストでの芝生の植栽が可能であることから撒き芝工法を採用しようとすることがよくある。しかしながら現実問題として、目土を搬入できるような10t車級の大きなトラックの通路を確保できないといったような現場条件であることが往々にしてある。このために、目土を小分けして搬入する等の特別な対処方法を採らざるを得なくなり、当初予定よりも大幅な手間及び、コスト増が避けられないこととなる。要するに、撒き芝工法にかかるコストの内、ストロン自体のコストは微々たるものであり、大部分が目土の運搬費や目土散布作業等の目土に関するコストである。
【0011】
撒き芝工法では目土の散布により、乾燥によるストロンの枯死リスクを避けることが最低限できるが、地中でストロンの各節から発根して完全に床土に定着するまでは、散水が必要になる。ストロンからの発根には3〜4週間程度が必要とされる。ストロンが発根するまでは、散水は床土の表面が乾かないように2〜3回/日行う必要がある。散水の際にはストロンの地中にある部分にも水が行き渡るようにする必要がある。このために撒き芝の施工後の初期養生としての散水に費やす労力及びコストがかかり問題となる。
【0012】
ストロンは発根や分枝可能な節を持っているが、ストロンが発根できる環境や分枝できるような環境を満たすことが必要である。乾燥によるストロンの枯死リスクは、目土の覆土により最低限避けることができるが、ストロンの植え付け環境はストロン自体の形状の違い、目土の量や覆土方法により異なるため不安定になる。要するに植え付けの状況と初期養生によりその後の生育が大きく左右される。そこで、目土本来の、乾燥によるストロンの枯死リスクを避ける役割を果たしつつ、ストロンの発芽性及び定着性を容易に安定化できる植え付け環境を提供し、かつ、初期養生の手間を省略することができる資材が望まれていた。
【0013】
出願人は、従来の川砂や山砂とは全く異なる資材で、目土同様もしくはそれ以上の機能を有し、芝生の良好な生育を可能にする資材であり、かつ、物理的及び形状的に扱いが容易である資材を求めて鋭意研究した。植物育成への永続的な被覆資材の利用は、育成すべき植物以外の植物、即ち雑草の発生を制御する防草シートとしては認知されていたが育成すべき植物に対してシートを覆うという発想は無かった。つまり植物に対して発芽するまでの種子以外に、育成すべき植物を被覆することでその植物自体を育成させるという概念は無かったため、その技術は全く知られていなかった。
【0014】
さらに出願人は、最近の循環型システム構築の観点から注目されている天然資源由来の材料から生産される生分解性繊維シートに着目した。ここで生分解性繊維とは、自然界に存在する微生物が分泌する酵素によって分解される繊維のことである。例えば、天然繊維そのものや、植物の繊維素(セルロース)を化学的に取り出し、繊維に再生した再生セルロース繊維(セルロース系繊維と総称される)、更にはセルロースに含まれないトウモロコシのデンプンを原料としたトウモロコシ繊維等がそれに含まれる。
【0015】
本明細書においては、セルロース系繊維とは、再生セルロース繊維を主成分とした繊維であるとともに、植物繊維全般もセルロース系繊維に含まれる。生分解性の繊維シートを不要物としてではなく、物性等を鋭意調査・研究した結果、機能を有した材料として再認識することで、生分解性繊維シートの植物育成への利用という発想に至った。
【0016】
本発明は、従来の撒き芝工法による芝生植栽の上記問題点を改善し、目土の代用品としてのみならず、これまでに無いようなストロンの高い発芽率と定着率を可能にし、良好な芝生地を造成するもので、かつ、作業の効率化を図ることができる芝生構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による撒き芝工法での植栽工程は、植栽工程でのストロンへの目土散布段階において、目土の散布に代えて生分解性繊維シートを敷設することを特徴とする。前記生分解性繊維シートは床土に生分解性固定部材等で固定される。
【0018】
本発明は、栄養繁殖型の芝の切芝をほぐした撒き芝用のストロンを備えた芝生構造体において、複数のストロンからなる層と、生分解性繊維シート層と、前記複数のストロンからなる層と前記生分解繊維シート層とを床土に固定するための生分解性固定部材とを備えたことを特徴とするストロンを備えた芝生構造体とした。
【0019】
本発明は、前記生分解性繊維シート層は綿シート層であり、前記生分解性固定部材は竹串であることを特徴とするストロンを備えた芝生構造体とした。
【0020】
本発明は、前記生分解性繊維シート及び綿シートは気孔率が90〜99%であることを特徴とするストロンを備えた芝生構造体とした。尚、本明細書において気孔率(%)は以下の式により計算した。
気孔率(%)=(1−嵩比重/真比重)×100
尚、この式を用いて気孔率を求める場合において、真比重は文献値(例えば、綿シートであれば1.54)を適用し、嵩比重はシート重量とシート体積を実測し、シート重量をシート体積にて除した値を適用した。シート体積を求める際に必要なシート厚さについてはJIS L 1096に準じた方法により0.7kPa加重時におけるシート厚さを測定した。
【0021】
本発明は、前記生分解性繊維シート、及び綿シートはシート厚が0.3mm〜3.5mmであることを特徴とするストロンを備えた芝生構造体とした。
【0022】
本発明は、栄養繁殖型の芝の切芝をほぐした撒き芝用のストロンを備えた芝生構造体を植栽する方法において、
複数のストロンからなる層を敷設する工程と、
前記複数のストロンからなる層の上に生分解性繊維シート層をする形成する工程と
前記複数のストロンからなる層と前記生分解性繊維シート層とを生分解性部材にて床土に固定する工程とからなることを特徴とするストロンを備えた芝生構造体を植栽する方法とした。
【0023】
本発明は、前記生分解性繊維シート層は綿シート層であり、前記生分解性固定部材は竹串であることを特徴とするストロンを備えた芝生構造体を植栽する方法とした。
【0024】
本発明は、前記生分解性繊維シート及び綿シートは気孔率が90〜99%であることを特徴とするストロンを備えた芝生構造体を植栽する方法とした。
【0025】
本発明は、前記生分解性繊維シート、及び綿シートはシート厚が0.3mm〜3.5mmであることを特徴とするストロンを備えた芝生構造体を植栽する方法とした。
【0026】
尚、本明細書で言う綿シートとは、綿100%の天然繊維もしくは、その脱脂綿をシート状に加工したものである。綿シートの物理的特徴は、植物として成長する段階で養水分の通路となったものが、内部導管として縦横に走っているため、全体として多孔質体であり、シート内の繊維配列が立体的にランダムで保水性を有する。また天然セルロースであり且つ天然捲縮を有するため、結晶が人造繊維と比較して堅固である。
【発明の効果】
【0027】
従来のように目土の散布を行った場合、目土を通常の2cm厚で散布すると、例えば、実際に少年サッカーができる程度の面積である5000mの面積を持つ小学校のグラウンドに芝生を植栽する際には100mの目土が必要になる。川砂の嵩比重を1.5g/cmで計算すれば、150t/5000mとなる。生分解性繊維シート素材自体の真比重は1.2〜1.5g/cm程度であるが、当然のことながら生分解性繊維シートは多くの空間を有するので、全体としての嵩比重はさらに小さくなる。このため生分解性繊維シートの嵩比重は目土の嵩比重と比較すると遙かに小さい。従って生分解性繊維シート使用による芝生の植栽における作業性の向上は明らかである。
【0028】
しかも、生分解性繊維シートの敷設は、ロール状シートの伸展と床土への生分解性部材での固定という専門性を有しない工程である。即ち、目土散布のような大量の川砂の運搬、専用の散布機または労力を要する人力作業を必要としない点で有利であり、ストロンが生育するための環境である土壌の安定性においても、目土を散布する際のような目土の分布バラツキが全く無いため、明らかに向上し芝生植栽作業の効率化を実現することができる。
【0029】
さらに、生分解性繊維シートの現場への搬入及び生分解性繊維シートの敷設は、目土を搬入できるような10t車級の大きなトラックの通路を確保できないといったような現場条件の影響を受けないため、目土散布の場合のような現場条件によるコスト増が起こらない。従って、撒き芝による芝生植栽にかかるコストを算出しやすく、予算が組みやすくなり、芝生植栽の更なる普及を見込むことができる。
【0030】
上記以外にも、ストロン層への生分解性繊維シート敷設は、繊維の持つ保水性及び吸湿性(20℃、相対湿度65%:水分率(吸湿率)7%以上)によって、乾燥によるストロンの枯死リスクを避ける役割を目土の散布以上に果たすことができる。すなわち、生分解性繊維シートの繊維構造が立体ランダムな多孔質体であるため、毛細管現象による吸水性を有し、保水した後に水分を失うと撚りを持つ性質からストロンと床土に絡み合い密着性を大きくする。さらに繊維自体が弾力性に富んでおり十分な通気性と適度な光透過を有することで、ストロン一つ一つの個体に対しても安定した植え付け状況を容易に提供でき、植え付け後の発芽、発根、緑化を促進し従来工法で問題となるストロンの無駄はほとんど無くなる。
【0031】
また、初期養生においても、前述の保水性、吸湿性を有することに加え、生分解性繊維シートを敷設した状態での保温性を有する。また繊維が微細であることにより非常に吸湿性が高い。このためシートの内側と外側に温度差が生じた場合、生分解性繊維シートは内側の水分を吸い取って、これを外側へ発散しようとする性質がある。その際、生分解性繊維シートから気化熱が奪われるため、生分解性繊維シート全体の温度が下がり、夏季においては地温上昇抑制効果がある。夏季における気化熱による地温上昇抑制効果から、地温を常に適温に保つことが可能となる。これらの結果、初期養生において従来の散水頻度に比べ、散水頻度を50%程度少なくすることができるため、散水に関わる労力及び、使用する水の節減にもつながる。
【0032】
さらに、生分解性繊維シートを敷設することによって、初期段階においてはストロンの発根や分枝の条件を満たすことと、時間の経過とともに繊維シート自体が生分解し有機物として土に還っていき基材が良質の培地となることとで、ストロンの良好な生育を可能にする。また、ストロンが成長する過程において、直射日光の30〜50%が生分解性繊維シートにより反射し、この反射光が下から成長したストロンに照射されるため、ストロンの生育に対して反射光を活用でき、光合成が活発になることで、ストロンによる緑化が促進される。撒き芝による芝生植栽工程での生分解性繊維シートの分解速度は、通常の春〜夏の施工時期では3カ月程度である。
【0033】
従来の目土施用の場合に比べて、生分解性繊維シートを敷設することで、広葉雑草のような一部の雑草に対して芝生が地表を覆うまでの間の防草効果がある。生分解性繊維シート敷設によってストロンにとって安定した植え付け環境を提供でき、良好な生育を可能とすることで、養生期間そのものを従来の撒き芝による工法と比較して20%程度短縮することも可能である。また、従来の撒き芝による工法では防げなかった、ストロンがグラウンド面全体を緑化するまでの間の目土による砂塵の問題についても生分解繊維シートを敷設することによって解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】芝生構造体の斜視図及びストロン拡大図
【図2】芝生構造体の上面図及び竹串拡大図
【符号の説明】
【0035】
10 綿シート層
20 ストロン層
30 ストロン
40 竹串
100 芝生構造体
【発明を実施するための形態】
【0036】
撒き芝による芝生植栽工程において、本発明が使用するシートの基準特性としては、生分解性を有すること、床土への密着性を有すること、保水性及び吸湿性を有すること、土壌中のストロン30が光合成し良好な生長を可能にする適度な光透過を有すること、通気性及び保温性を有しストロン30の生長が良好となる一定幅の適温に地温を保つこと、防草効果を有すること等がある。
【0037】
生分解性繊維シートであれば上記基準特性を満たすことが可能であり、その代表となるものが綿繊維をシート状にした、いわゆる綿シート10である。綿繊維は綿毛ともいい、種子の表皮細胞が成長したもので、1本の繊維は単細胞からなり、内部導管として機能している。繊維全体としては縦横に走っているため、多孔質体であり、通気性を有する。綿繊維は、長さ方向に対して天然の撚りを持っているのが特徴で強度を増加させる役割を、中空構造は吸水性、保温性などを与える役割を果たしている。また、きわめて微細な繊維である綿繊維は非常に吸湿性が高く、そのため、シートの内側と外側に温度差が生じると、内側の水分を吸い取って、これを外側へ発散しようとする性質がある。その際、気化熱を奪うため、全体の温度が下がり、夏季においても地温上昇抑制効果がある。
【0038】
綿シート10を目土の代用として使用することは、物性的特性以外にも、綿繊維自体が世間一般に多量に供給されており、コットン製品製造過程で廃棄される落綿をリサイクルした綿シート10を利用することで、価格的にも安定しているため普及しやすいという非常に大きなメリットがある。
【0039】
生分解性繊維シートにおける構成繊維の気孔率が90〜99%とする。構成繊維の気孔率が99%を上回ると、構成繊維比率が少なくなりすぎる。その結果、保水性及び、吸湿性の低下を招き、乾燥によるストロン30の枯死リスクを避ける役割を十分に果たせなくなる。同じく、光透過が大きくなり過ぎることはストロンの乾燥を助長することにもなる。また、シート自体の強度が低下することにより防草効果が著しく低下する。さらに、シート自体の強度低下は作業上の操作性を極端に悪くする。逆に、構成繊維の気孔率が90%を下回ると、構成繊維比率が多くなりすぎて、ストロン30に対する光量不足による光合成能力低下及び、生分解性繊維シート自体の強度上昇によりストロン30自体の成長が抑制される。
【0040】
生分解性繊維シート自体の厚みを0.3〜3.5mmとする。上記気孔率が90〜99%と規定した場合、厚みが0.3mmを下回ると、結果的に構成繊維量が少なくなりすぎ、乾燥によるストロンの枯死リスクを避ける役割を十分に果たせなくなる。同様に、シート自体の強度低下を招くことにもなる。逆に、シート自体の厚みが3.5mmを上回ると、構成繊維量が多くなりすぎる。結果同様に、ストロン30に対する光量不足による光合成能力低下及び、生分解性繊維シート自体の強度上昇によりストロン30自体の成長が抑制される。
【0041】
本発明である撒き芝による芝生植栽工程での、目土散布に代わる綿シート10敷設方法について記す。ストロン30を植栽すべき整地面の表面に均一にばら撒いた後、ロール状の綿シート10を芝生植栽面に伸展し、床土に対して目串といわれる15〜18cm程度の竹串40を、10本/m程度の本数を使用し、図2のように綿シート10の周囲(接合面)に沿って綿シートと床土とを木槌等で打ちつけて固定する。竹串40自体は、天然の竹を使用しているため、生分解し土に還っていくこととなる。綿シート10を使用した撒き芝による芝生植栽工程を以下に記す。本発明は、上記基準特性を満たすものであれば、これらに限定されるものではない。
【0042】
以下、実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、生分解性繊維シートの利用が、従来の撒き芝工法による芝生植栽の問題点を改善し、作業工程を効率化することでストロン30の高い発芽率と定着率とを可能にし、良好な芝生地を造成するものである。本発明は、綿繊維についての知見を基にして、撒き芝による芝生植栽工程での綿シート10利用による植栽工程効率化を実現したものであると解釈されるべきである。
【実施例1】
【0043】
生分解性繊維シートとして、綿100%の原綿をシート状に加工した気孔率が96%の綿シート10を使用した。最初にストロン30を植栽すべき床土を整地し、整地面にストロン30を均一になるようにばら撒き、ストロン層20を形成する。次にばら撒いたストロン30を床土に混入するために、床土の表面を軽く耕耘し、さらに軽く耕転した表面をローラーなどで転圧し、その上を厚さ1.65mmの綿シート10で被覆し綿シート層を形成する。その後、床土に対して目串といわれる15〜18cm程度の竹串40を、10本/m程度の本数を使用し、図2のように綿シート10の周囲(接合面)に沿って綿シート10と床土とを木槌等で打ちつけて固定し、その上から散水する。この方法により、目土作業を必要とせず、しかも従来よりも生育養生期間を20%程度短縮することができた。
【実施例2】
【0044】
生分解性繊維シートとして、綿100%の原綿をシート状に加工した気孔率が98%の綿シート10を使用した。最初にストロン30を植栽すべき床土を整地し、整地面にストロン30を均一になるようにばら撒き、ストロン層20を形成する。次に、ばら撒いたストロン30と床土の密着性を高めるため、ストロン層20表面をローラーなどで転圧し、その上を厚さ3.25mmの綿シート10で被覆し綿シート層を形成する。その後、床土に対してポリ乳酸を成分とする生分解性プラスチック素材から成る長さ15cm程度の固定ピンを、10本/m2程度の本数を使用し、図2のように綿シート10の周囲(接合面)に沿って綿シート10と床土を木槌等で打ちつけて固定し、その上から散水する。この方法により、目土作業を不要とすることができたが、生育養生期間は従来とほぼ同等であった。
【実施例3】
【0045】
生分解性繊維シートとして、再生セルロース繊維であるレーヨン繊維をシート状に加工した気孔率97%のレーヨン繊維シートを使用した。最初にストロン30を植栽すべき床土を整地し、整地面にストロン30を均一になるようにばら撒き、ストロン層20を形成する。次に、ばら撒いたストロン30を床土に混入するために、床土の表面を軽く耕耘し、さらに軽く耕耘した表面をローラーなどで転圧し、その上を厚さ1.35mmのレーヨン繊維シートで被覆しレーヨン繊維シート層を形成する。その後、床土に対して目串といわれる15〜18cm程度の竹串40を、10本/m2程度の本数を使用し、図2のようにレーヨン繊維シートの周囲(接合面)に沿ってレーヨン繊維シートと床土を木槌等で打ちつけて固定し、その上から散水する。この方法により、目土作業を必要とせず、しかも従来よりも生育養生期間を20%程度短縮することができた。
【実施例4】
【0046】
生分解性繊維シートとして、綿100%の脱脂綿をシート状に加工した気孔率91%の脱脂綿シートを使用した。最初にストロン30を植栽すべき床土を整地し、整地面にストロン30を均一になるようにばら撒き、ストロン層20を形成する。次に、ばら撒いたストロン30と床土の密着性を高めるため、ストロン層20表面をローラーなどで転圧し、その上を厚さ0.32mmの脱脂綿シートで被覆し脱脂綿シート層を形成する。その後、床土に対してポリ乳酸を成分とする生分解性プラスチック素材から成る長さ15cm程度の固定ピンを、10本/m2程度の本数を使用し、図2のように脱脂綿シート周囲(接合面)に沿って脱脂綿シートと床土を木槌等で打ちつけて固定し、その上から散水する。この方法により、目土作業を不要とすることができたが、生育養生期間は従来とほぼ同等であった。
【実施例5】
【0047】
生分解性繊維シートとして、綿100%の脱脂綿をシート状に加工した気孔率94%の脱脂綿シートを使用した。最初にストロン30を植栽すべき床土を整地し、整地面にストロン30を均一になるようにばら撒き、ストロン層20を形成する。次に、ばら撒いたストロン30と床土の密着性を高めるため、ストロン層20表面をローラーなどで転圧し、その上を厚さ0.54mmの脱脂綿シートで被覆し脱脂綿シート層を形成する。その後、床土に対して目串といわれる15〜18cm程度の竹串40を、10本/m2程度の本数を使用し、図2のように脱脂綿シートの周囲(接合面)に沿って脱脂綿シートと床土を木槌等で打ちつけて固定し、その上から散水する。この方法により、目土作業を必要とせず、しかも従来よりも生育養生期間を20%程度短縮することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養繁殖型の芝の切芝をほぐした撒き芝用のストロンを備えた芝生構造体において、
複数のストロンからなるストロン層と、
前記ストロン層を覆う生分解性繊維シート層と、
前記複数のストロンからなる層と前記生分解繊維シート層とを床土に固定するための生分解性固定部材とを備えたことを特徴とするストロンを備えた芝生構造体。
【請求項2】
前記生分解性繊維シート層は綿シート層であり、前記生分解性部材は竹串であることを特徴とする請求項1に記載のストロンを備えた芝生構造体。
【請求項3】
前記生分解性繊維シート及び綿シートは気孔率が90〜99%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のストロンを備えた芝生構造体。
【請求項4】
前記生分解性繊維シート及び綿シートはシート厚が0.3mm〜3.5mmであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のストロンを備えた芝生構造体。
【請求項5】
栄養繁殖型の芝の切芝をほぐした撒き芝用のストロンを備えた芝生構造体を植栽する方法において、
複数のストロンからなる層を敷設する工程と、
前記複数のストロンからなる層の上に生分解性繊維シート層を形成する工程と
前記複数のストロンからなる層と前記生分解性繊維シート層とを生分解性部材にて床土に固定する工程とからなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のストロンを備えた芝生構造体を植栽する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−210175(P2012−210175A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77219(P2011−77219)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(593107498)東海物産株式会社 (4)
【Fターム(参考)】