説明

芯鞘複合フィラメント糸、それを用いた布帛、異形断面繊維布帛

【課題】吸水性、さらっと感に優れ、さらにはアルカリ溶出時間が早く、シャープな異形断面を有する布帛を、コスト的にも優れた商品として提供する。
【解決手段】芯部がポリアミド、鞘部がポリ乳酸からなる芯鞘複合フィラメント糸であって、芯部の横断面が葉の頂点のなす角αが90°以下である葉を3以上有する形状であり、鞘部がポリ乳酸100g中に対してマグネシウムを0.5〜25ミリモル含有していることを特徴とする芯鞘複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド異形断面繊維を用いたソフトでさらっとした触感、吸水性に優れた布帛に関するものである。さらには、ポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合フィラメント糸を布帛とした後にアルカリ溶出処理することによりシャープな異形断面を有する布帛を、コスト的にも優れた商品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の一つであるポリアミド繊維は、高強度、耐摩耗性、ソフト性、染色鮮明性などの優れた特徴を持っている。そのため、パンティストッキング、タイツ等のレッグウェア、ランジェリー、ファンデーション等のインナーウェア、スポーツウェア、カジュアルウェア等の衣料用途に好まれて用いられてきている。
【0003】
従来からスキーウェア、ゴルフウェアなどのアウトドアスポーツ用途、コートやブルゾンなどのカジュアルウェアでは撥水や制電など後加工による機能性付与および原糸に吸水性を付与させるため異形断面化など種々検討されている。
異形断面化については多葉型の断面についても多くの検討がなされており代表的には、口金孔の形状により多葉断面を持つ糸を直接紡糸する方法があるが、異形口金による直接紡糸方法では、口金吐出直後のポリマーの粘度が低く、表面張力を下げようとする働きのために形状が丸みを帯びたものとなる。そのため、丸みのないシャープな異形断面を形成することを目的としてポリアミドで構成される多葉断面を有する芯部とポリエチレンテレフタレート等のポリエステルで構成される鞘部からなる芯鞘複合繊維を用いて、ポリエステル部分を溶出させることにより、多葉断面を有する異形断面糸を得る方法が特許文献1および特許文献2に開示されている。しかしながら、これら文献に具体的に開示されたポリエチレンテレフタレートではアルカリ溶出速度が遅く、溶出に時間がかかりすぎたり、一部が溶出しきれずにムラとなり製品欠点が生じていた。
【0004】
一方、近年では脂肪族ポリエステル等、様々なプラスチックや繊維の研究・開発が活発化している。その中でも微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。中でも力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。ポリ乳酸は、例えば手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。また、優れた製糸性を有するのみならず、アルカリ減量速度が速いなどの特徴を持っているため、繊維としての商品開発も活発化してきている。
【0005】
また、ポリ乳酸繊維の特性を向上させる手法として、汎用プラスチックとの複合紡糸もいくつか提案されている。例えば特許文献3には、ポリアミド系重合体と脂肪族ポリエステルとから構成され、アルカリ溶出によりハリ、腰などを付与する複合繊維が提案されている。しかしながら、さらっとした触感、吸水性に優れる形態ではなく、例えばインナーウエア等にした場合には着心地に満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開2003−313721号公報
【特許文献2】特開2003−313745号公報
【特許文献3】特開2000−54228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記問題を解決しようとするものであり、さらには、ポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合フィラメント糸を布帛とした後にアルカリ溶出処理することによりシャープな異形断面を有する布帛を、コスト的にも優れた商品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
(1)芯部がポリアミド、鞘部がポリ乳酸からなる芯鞘複合フィラメント糸であって、芯部の横断面が葉の頂点のなす角αが90°以下である葉を3以上有する形状である芯鞘複合フィラメント糸、
(2)芯部がポリアミド、鞘部がポリ乳酸からなる芯鞘複合フィラメント糸であって、鞘部がポリ乳酸100g中に対してマグネシウムを0.5〜25ミリモル含有する前記(1)記載の芯鞘複合フィラメント糸、
(3)前記マグネシウムが酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムに由来するものであることを特徴とする前記(1)または(2)記載の芯鞘複合フィラメント糸、
(4)前記ポリアミドがポリカプラミドであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の芯鞘複合フィラメント糸、
(5)前記(1)〜(4)いずれか記載の芯鞘複合フィラメント糸を用いた布帛、および
(6)前記(4)記載の布帛を、アルカリ金属水酸化物の水溶液で処理し、芯鞘複合フィラメント糸の鞘部を溶出することにより得られる異形断面繊維布帛
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、芯鞘複合フィラメントを生産性よく製造することができ、かつ後加工での溶出性に優れ、ソフトでさらっとした触感、吸水性に優れた布帛を提供することができる。加えて、ポリ乳酸の溶出時間を短縮させることにより低コスト化を可能とさせるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の芯鞘複合フィラメント糸、それからなる布帛、異形断面繊維布帛を実施するための最良の形態について説明する。本発明はこれに限られるものではない。
【0010】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸は、芯部がポリアミド、鞘部がポリ乳酸から構成されることが必要である。このように芯鞘複合フィラメント糸とし、布帛にした後に鞘部のポリ乳酸をアルカリ溶出処理することによりシャープな異形断面繊維布帛を製造することができる。
【0011】
本発明でいうポリアミドとは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、好ましくは、染色性、洗濯堅牢度、機械特性に優れる点から、主としてポリカプラミド、もしくはポリヘキサメチレンアジパミドからなるポリアミドである。芯鞘複合フィラメント糸を製造する上で、ポリ乳酸の融点(約170℃)の点から紡糸温度は低く設定する必要があるため、製糸性の観点から、ポリカプロラミド(ナイロン6)さらに好ましい。ここでいう主としてとは、ポリカプラミドではポリカプラミドを構成するカプラミド単位として、ポリヘキサメチレンアジパミドではポリヘキサメチレンアジパミドを構成するヘキサメチレンアジパミド単位として80モル%以上であることをいい、さらに好ましくは90モル%以上である。その他の成分としては、特に制限されないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。
【0012】
本発明でいうポリアミドの重合度は、ポリマーアロイ繊維あるいはその加工品の要求特性またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、98%硫酸相対粘度で2.0〜3.3の範囲が好ましい。
【0013】
本発明でいうポリ乳酸とは、-(O-CHCH-CO) -を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、ポリ(L−乳酸)およびポリ(D−乳酸)を併用することも可能であり、その場合にはステレオコンプレックスを形成するように紡糸することが好ましい。
【0015】
本発明においてポリL−乳酸とポリD−乳酸を併用する場合のブレンド割合としては重量比で、ポリL−乳酸:ポリD−乳酸が30:70から70:30の間であることが好ましいが、ステレオコンプレックス結晶の生成促進および含有割合向上の観点から、40:60から60:40の間であることがさらに好ましく、50:50であることがより好ましい。
【0016】
ポリL−乳酸およびポリD−乳酸の製造方法には、それぞれL−乳酸、あるいはD−乳酸を原料として一旦環状2量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う2段階のラクチド法と、当該原料を溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法が知られている。本発明で用いるポリ乳酸はいずれの製法によって得られたものであってもよい。ラクチド法によって得られるポリマーの場合にはポリマー中に含有される環状2量体が溶融紡糸時に気化して糸斑の原因となるため、溶融紡糸以前の段階でポリマー中に含有される環状2量体の含有量を0.3重量%以下とすることが望ましい。直接重合法の場合には環状2量体に起因する問題が実質的にないため、製糸性の観点からはより好適である。
【0017】
本発明に用いるポリL−乳酸はL−乳酸を主たるモノマー成分とする重合体であり、L−乳酸のほかにD−乳酸成分を15モル%以下含有する共重合ポリL−乳酸であっても良いが、ステレオコンプレックスを形成させる場合、高次加工での熱工程で耐熱性が高いために熱セット温度を高くできナイロン側の熱セットがしっかりと出来る。又ステレオコンプレックス結晶の形成性を高める観点から、ポリL−乳酸中のD−乳酸成分は少ないほど好ましく、ホモポリL−乳酸を用いることがさらに好ましい。
【0018】
なお、本発明で用いるポリL−乳酸およびポリD−乳酸には本発明の効果を損なわない範囲で主体をなすポリマー以外の成分を含有してもよい。例えば、可塑剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、酸化防止剤、糸摩擦低減剤として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加してもよい。例えば、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、硫黄系、リン系、あるいはこれらを複合したものを好ましく用いることができる。その際、配合量はポリ乳酸に対して0.01〜1重量%が好ましい。特に、ポリ乳酸はポリアミドと比較して耐熱性が低く、両ポリマーを同温度条件で複合紡糸する必要がある場合には、ポリ乳酸の方が熱劣化が進みやすく、生産性の悪化を招きやすい。そこで、ポリ乳酸に酸化防止剤を少量含有させることにより、ポリ乳酸の熱劣化を抑制し、より厳しい温度条件での溶融紡糸に耐えうることを見いだしたのである。0.01重量%未満であると添加量が少なすぎて充分な熱劣化抑制効果が得られない。また、1重量%を超えると、紡糸フィルターの詰まりを引き起こすなど生産性が悪化することがある。好ましくは0.02〜0.5重量%である。
【0019】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸を構成するポリ乳酸は、マグネシウムをポリ乳酸100gに対して0.5〜25ミリモル含有することが好ましい。かかる範囲とすることにより、マグネシウムを含まないポリ乳酸繊維に対し、アルカリ加水分解速度が速くなることを発明者らは見いだした。なお、上記マグネシウムはマグネシウム単体または、酸化マグネシウム等の化合物の形態(以下これらを総称してマグネシウム化合物と称する場合もある)で添加することができる。
【0020】
ポリ乳酸にマグネシウムを含有させることにより、アルカリ金属水酸化物の水溶液中での加水分解速度が速くなる理由としては、詳細は解明されていないが、研究の結果から減量処理を行う時に、ポリ乳酸に含有したマグネシウムと水分が化合し、アルカリ性である水酸化マグネシウムとなるために減量が進むことが推定される。このマグネシウムは陽イオン状態あるいは塩として存在する。マグネシウムがポリ乳酸100gに対して0.5ミリモル未満では、苛性アルカリへの加水分解速度がマグネシウムを含まないポリ乳酸と比べて僅かに速くなるだけで、減量工程時間の短縮となる効果は低い。また、マグネシウムがポリ乳酸100gに対して25ミリモルより多量であっても、効果は同程度であり経済的観点から好ましくないばかりでなく、特に原糸の製造工程において、不溶解異物として残存したマグネシウムが異物除去のため設置したフィルターでの濾過圧力上昇などの問題を引き起こす。
【0021】
ポリ乳酸とポリアミドとの芯鞘複合繊維の場合は、ポリアミドにマグネシウム化合物を添加すると溶融時のゲル化を抑制し、口金面の汚れが付着しにくくなる効果は従来より知られていたが、ポリ乳酸にマグネシウムを添加し、ポリアミドと同一口金から吐出する場合にも相乗効果により口金面汚れが付着しにくくなることを見いだしたのである。そのため、紡糸中の糸切れが減少し製糸性も向上する。
【0022】
ポリ乳酸にマグネシウムを含有せしめる方法としては、ポリ乳酸ペレットへマグネシウム化合物をブレンドし溶融する方法、ポリ乳酸ペレットへ高濃度のマグネシウムを含有するマスタペレットをブレンドし溶融する方法、溶融状態のポリ乳酸へマグネシウム化合物を添加し混練する方法、ポリ乳酸の重合前あるいは重合中の段階で原料あるいは反応系へマグネシウム化合物を添加する方法などが挙げられるが、両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0023】
本発明でいうマグネシウム化合物は、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなど粉末状の無機粒子が挙げられるが、酸化マグネシウムを用いることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸を構成する芯部の横断面は、葉の頂点のなす角αが90°以下である葉を3以上有する形状であることが必要である。好ましくは葉の数は5以上である。
【0025】
ここで葉および角αについて図1、図2を用いて説明する。本発明のポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合フィラメントの繊維横断面形状を模式的に例示する繊維断面図であり、(a)は芯部が8葉、(b)は芯部が6葉の例であり、図2(a)は図1(a)の葉の部分の拡大図であり、図2(b)は図1(a)の葉部分形状を説明する横断面図である。
【0026】
本発明における葉とは、芯鞘複合フィラメント糸の横断面の芯部において、凸状の突起形状部分をさし、例えば図1の(a)、(b)に示すように、ポリ乳酸1からなる鞘部とポリアミド2からなる芯部で構成される横断面の芯部において、凸状の突起となっている部分である葉3をさす。また、図2(a)、(b)に示すように、芯部の葉の頂点をT〜Tとしたとき、その中の一つの葉の頂点Tにおける角αは葉の頂点Ti と各葉が隣の葉と共有する2点Bi (その左隣の葉のCi ー1と共通の点となる)、Ci (その右隣のBi+1 と共通の点となる)によりなす角Bi Ti Ci と定義する。葉の頂点のなす角αが90°以上である葉が2以下の場合には織物、編地にしたときに突起部が十分に表面に突き出た形とならないために、衣料用布帛としては柔らかなタッチが損なわれる。葉の頂点のなす角は糸の横断面を顕微鏡写真にとり、角度を測定することで求めることができる。
【0027】
本発明における芯鞘複合フィラメント糸における芯部の形状は以下のようなものであることが好ましい。すなわち、図2(a)、(b)で示すようにフィラメント横断面の外接円半径をr、フィラメント横断面の各葉が隣の葉と共有する2点Bi (Ci ー1と共通)、Ci (Bi+1 と共通)がそれぞれ各葉の頂点Ti で結ばれる線分のうち最も長いものをamax としたとき、本発明におけるフィラメント糸は、
(1)0.5r≦amax
を満たすことが好ましく、さらに好ましくは0.6r≦amax 、さらに好ましくは0.7r≦amax である。0.5r>amax のときには、葉の長さが小さいために十分な毛細管現象を起こすことができず、吸水性が低下する傾向にある。
【0028】
また、フィラメント横断面の各葉が隣の葉と構成する2点Bi (Ci ー1と共通)、Ci (Bi+1 と共通)を結ぶ線分Bi Ci の長さをKi とし、各葉が線分BiCi で切り取られる部分の面積をSi 、各葉の頂点と線分Bi Ci の距離をLi とし、フィラメント横断面がもつ葉の数をNとしたとき、本発明におけるフィラメント糸は、
(2)Σ2Si /Ki Li N≦1.5
を満たすことが好ましく、さらに好ましくはΣ2Si /Ki Li N≦1.35、さらに好ましくはΣ2Si /Ki Li N≦1.2である。Σ2Si /Ki Li N>1.5のときには、葉が丸みを帯びるため、吸水性が悪化する。
【0029】
また、Si 、Ki 、Li 、Nについては、糸を繊維長方向に垂直に切断し、この切断面をSEMで観察し、写真に撮しとり、写し取られた断面について、面積・長さを実測することにより求めることができる。実測した値から、Si /Ki Li Nをi=1〜Nについて、それぞれ計算し、これを合計することでΣ2Si /Ki Li Nが求められる。例えば、図2の(a)の場合、S1 、K1 、L1 、S2 、K2 、L2 ・・・・S8 、K8 、L8 を実測し、S1 /K1 L1 N、S2 /K2 L2 N・・・・S8 /K8 L8 Nを計算し、それらを合計することでΣ2Si /Ki LiNが求められる。
【0030】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸の製造方法は、特に限定されるものでなく、公知の溶融複合紡糸により製造される。一例を示せば、ポリ乳酸およびポリアミドをそれぞれ別個に溶融した後に同一の紡糸口金に導いて芯鞘構造となるように複合し、吐出させることにより得られる。吐出された糸条は、一旦巻き取ることなく直接紡糸延伸法で製造される。直接紡糸延伸法で製造する際、吐出された糸条を冷却風で冷却した後、給油装置にて給油をおこない、流体交絡装置に糸条を通して交絡を生じさせる。しかる後に1000m/分以上の速度で引き取り、130℃以上に加熱したローラーとの間で延伸、熱固定を行い3000m/分以上の速度で巻取る。また、冷却、給油後、3000m/分以上の速度で紡糸引取りし、一旦巻き取ることなく実質延伸しないで3000m/分以上の速度で巻取る。ここで実質延伸しないでとは、理想的には延伸倍率が1倍であることを意味するが、ローラー間での糸のタルミによる巻き付きを無くすこと等を目的として、糸の物性にほとんど影響しない程度のストレッチをかけることまで妨げる趣旨ではなく、1〜1.2倍程度の延伸倍率で有れば差し支えは無いということを意味する。
【0031】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸の複合割合は、重量比でポリ乳酸:ポリアミドが20:80から80:20の間であることが好ましい。同一口金から吐出する点から割合に偏りがあると製糸性が低下するため、30:70から70:30の間であることが好ましい。
【0032】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸を用いた布帛は、公知の方法で製造される。例えば、布帛としては、パンスト、タイツ、靴下などの丸編み、下着、水着向けのトリコット、さらにはスポーツウェア、外衣向けの織物などが挙げられる。丸編み、トリコットなどの場合には、編成、熱セットを施した後に溶出処理をおこない、中和処理、染色、仕上げセット及び機能加工を行う。また、織物の場合には整経、糊付け、製織を行った後に溶出処理をおこない、中和処理、染色、仕上げセット及び機能加工を行う。また、これらの前工程として仮撚りや流体噴射加工などをおこない繊維に嵩高性を持たせることも可能である。また、布帛を形成する際には芯鞘複合フィラメント糸を少なくとも30%以上の混率であることが好ましい。複数種の繊維よりなる布帛の例として、ストレッチ性を持たせるためにポリウレタン等の弾性繊維と混合したニットや、複合フィラメント糸をタテ糸またはヨコ糸のみに用いた織物、さらには他の合成繊維あるいは綿などの天然繊維と合撚、複合加工する方法などが挙げられる。
【0033】
本発明の芯鞘複合フィラメント糸を用いた布帛は、アルカリ金属水酸化物の水溶液で加熱処理することによって前記鞘成分を溶出することにより異形断面繊維布帛が製造される。
【0034】
ここで、アルカリ溶出に用いるアルカリ金属水酸化物の種類は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど強アルカリが挙げられるが、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。このアルカリ溶出のとりうる条件としては、アルカリ濃度5〜80g/Lの水溶液とすることが好ましい。80g/Lを越えると、生産作業者にとっての取り扱いに危険を伴う。5g/L未満の場合、溶出時間を要するため生産性が低下する。また、その水溶液の温度は、80〜115℃であることが好ましい。115℃を越えると、引裂強力、破裂強力等物理特性が低下する。80℃未満の場合、加水分解が遅くなり溶出時間を要するため生産性が低下する。処理の方法としては、例えば本発明の芯鞘複合フィラメント糸を用いた布帛をアルカリ金属水酸化物の水溶液に浸漬処理する方法が挙げられる。 本発明においては、鞘部にポリ乳酸を用いることにより、上記アルカリ金属水酸化物の水溶液により処理した場合、短時間で溶出が行えるだけでなく、芯部の多葉断面形状を損なうことなく、シャープに維持することができる。一方、鞘部にポリエチレンテレフタレート等を用いると、溶出時間が長くなるのみでなく、芯部の多葉断面形状を損ない、シャープな形状が維持できないので好ましくない。
【実施例】
【0035】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
【0036】
なお、実施例および比較例における各測定値は、次の方法で得たものである。
【0037】
A.製糸性
1t当たりの糸切れ回数について判定した。
◎:0回、○:0〜2回、△:2〜4回、×:5回以上。
【0038】
B.溶出時間
試料を、昇温2℃/分、溶出温度95℃、水酸化ナトリウム苛性ソーダ40g/lで、溶出温度到達時点から15分後、30分後、60分後、90分後、120分後それぞれに試料を取り出し溶出率(重量変化率)を測定した。また、SEM写真を撮影し、鞘部が完全に除去されているかどうか確認し、完全に除去されている時間を溶出時間とした。この溶出時間から、布帛の生産性について、30分以下の場合、溶出時間が短く生産性が良いと判定した。
【0039】
C.吸水性
タテ・ヨコそれぞれJIS L 1096「一般織物試験方法」バイレック法に従って行った。
吸水高さ 110mm以上:◎、70mm以上:○、70mm未満:× とした。
【0040】
D.さらっと感
温度25℃、湿度50%に調整した部屋の中で2時間放置し、さらっと感について、官能評価を10人に対して行った。評価は以下のようにした。
かなりさらっとしている:2点、さらっとしている:1点、ぬめり感がある:0点。
【0041】
実施例1
重量平均分子量18万のポリL乳酸(光学純度99%L乳酸、融点170℃)を鞘部とし、硫酸相対粘度ηr:2.6のナイロン6(融点225℃)を芯部として、それぞれ別々に溶融し、お互いの重量比が30:70、ナイロン6が8葉星状芯部、ポリ乳酸が鞘部になるように複合紡糸口金に導き、溶融吐出した(紡糸温度260℃)。つづいて糸条を冷却風で冷却し、給油、交絡をおこなった後、非加熱ローラーで引き取り、170℃の加熱ローラーとの間で1.5倍に延伸して巻き取り速度4000m/分で巻き取りをおこない、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は18°(α1=19°、α2=18°、α3=18°、α4=17°、α5=18°、α6=19°、α7=19°、α8=18°)であった。
【0042】
得られた芯鞘複合フィラメントをタテ糸およびヨコ糸に用いてタテ密度120本/インチ、ヨコ密度90本/インチのタフタ織物を製織した。得られたタフタ織物を、95℃(昇温2℃/分)、40g/lの水酸化ナトリウム水溶液で溶出した時のそれぞれの溶出時間(15分、30分、60分、90分、120分)における溶出率を測定し、SEM写真にて完全溶出しているかどうか観察した。
【0043】
得られた異形断面繊維布帛の吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0044】
実施例2
ポリL乳酸100gに対し協和化学工業製の“酸化マグネシウムEL”の粉末をマグネシウム含有量が0.5ミリモルとなるようにブレンドしたポリL乳酸とする以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は18°(α1=18°、α2=17°、α3=18°、α4=19°、α5=18°、α6=18°、α7=19°、α8=20°)であった。
【0045】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0046】
得られたタフタ織物について、実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0047】
実施例3
ポリL乳酸100gに対し協和化学工業製の“酸化マグネシウムEL”の粉末をマグネシウム含有量が10ミリモルとなるようにブレンドしたポリL乳酸とする以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は18°(α1=19°、α2=20°、α3=17°、α4=17°、α5=18°、α6=20°、α7=17°、α8=18°)であった。
【0048】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0049】
得られたタフタ織物について、実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0050】
実施例4
ポリL乳酸100gに対し協和化学工業製の“酸化マグネシウムEL”の粉末をマグネシウム含有量が25ミリモルとなるようにブレンドしたポリL乳酸とする以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は18°(α1=19°、α2=17°、α3=17°、α4=19°、α5=18°、α6=20°、α7=18°、α8=19°)であった。
【0051】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0052】
得られたタフタ織物について、実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0053】
実施例5
ポリL乳酸100gに対し水酸化マグネシウム粉末をマグネシウム含有量が0.5ミリモルとなるようにブレンドしたポリL乳酸とする以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は18°(α1=20°、α2=17°、α3=18°、α4=18°、α5=17°、α6=18°、α7=18°、α8=19°)であった。
【0054】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0055】
得られたタフタ織物について、実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0056】
実施例6
ポリL乳酸100gに対し水酸化マグネシウム粉末をマグネシウム含有量が25ミリモルとなるようにブレンドしたポリL乳酸とする以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は18°(α1=19°、α2=19°、α3=19°、α4=17°、α5=17°、α6=19°、α7=18°、α8=18°)であった。
【0057】
得られた芯鞘複合フィラメントについて、実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0058】
得られたタフタ織物を実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0059】
実施例7
酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)粉末を0.1重量%、重量平均分子量18万のポリL乳酸(光学純度99%L乳酸、融点170℃)をブレンドしたポリL乳酸を鞘部とし、硫酸相対粘度ηr:2.6のナイロン66(融点265℃)を芯部として、紡糸温度280℃とする以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は18°(α1=189°、α2=18°、α3=20°、α4=17°、α5=20°、α6=17°、α7=17°、α8=18°)であった。
【0060】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0061】
得られたタフタ織物を実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0062】
実施例8
ナイロン6が6葉星状芯部とする以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は30°(α1=31°、α2=29°、α3=30°、α4=29°、α5=30°、α6=31°)であった。
【0063】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0064】
得られたタフタ織物を実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0065】
実施例9
ポリ乳酸100gに対し協和化学工業製の“酸化マグネシウムEL”の粉末をマグネシウム含有量が10ミリモルブレンドしたポリL乳酸、ポリ乳酸とナイロン6の重量比が50:50、ポリアミドを8葉星状芯部とするが、その葉の角度が異なる口金を用いた以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は78°(α1=78°、α2=77°、α3=78°、α4=79°、α5=79°、α6=78°、α7=77°、α8=78°)であった。
【0066】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0067】
得られたタフタ織物を実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0068】
比較例1
オルトクロロフェノール極限粘度(IV):0.65のポリエチレンテレフタレート(融点265℃)を鞘部とし、紡糸温度290℃とする以外は実施例1と同様に紡糸し、56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は18°であった。
【0069】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0070】
得られたタフタ織物を実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0071】
比較例2
オルトクロロフェノール極限粘度(IV):0.63のスルホキシイソフタル酸をテレフタル酸に対して0.5モル%共重合した共重合ポリエチレンテレフタレート(融点235℃)(以後SSTと呼ぶ。)を鞘部とし、紡糸温度290℃とする以外は実施例1と同様に紡糸した。ところが、非加熱ローラーに引き取る際に糸切れが多発し、製糸できなかった。
【0072】
SSTは、ポリエチレンテレフタレートと比較してアルカリ加水分解性に優れるポリマーであると言われているが、高速製糸性が悪く、原糸の生産性が悪い結果が得られた。
【0073】
比較例3
ポリ乳酸100gに対し協和化学工業製の“酸化マグネシウムEL”の粉末をマグネシウム含有量が10ミリモルブレンドしたポリL乳酸、ポリ乳酸とナイロン6の重量比が50:50、芯部断面形状が5葉とする以外は実施例1と同様に紡糸し、芯部がナイロン6鞘部がポリL乳酸からなり、図3に示す横断面からなる単糸を有する56デシテックス18フィラメントの芯鞘複合フィラメントを得た。芯部の葉の角度αの平均値は110°(α1=109°、α2=111°、α3=110°、α4=110°、α5=109°)であった。
【0074】
得られた芯鞘複合フィラメントを実施例1と同様に製織し、タフタ織物を製織した。
【0075】
得られたタフタ織物を実施例1と同様に溶出時間、吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0076】
比較例4
硫酸相対粘度ηr:2.6のナイロン6(融点225℃)を丸孔の紡糸口金に導き、溶融吐出した(紡糸温度260℃)。つづいて糸条を冷却風で冷却し、給油、交絡をおこなった後、非加熱ローラーで引き取り、150℃の加熱ローラーとの間で1.5倍に延伸して巻き取り速度4000m/分で巻き取りをおこない、56デシテックス18フィラメントのフィラメントを得た。
【0077】
得られた芯鞘複合フィラメントをタテ糸およびヨコ糸に用いてタテ密度120本/インチ、ヨコ密度90本/インチのタフタ織物を製織した。得られた布帛の吸水性、さらっと感を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1より明らかなように本発明における芯鞘複合フィラメント糸は、吸水性、さらっと感に優れ、さらにはアルカリ溶出時間が速く、シャープな異形断面を有する布帛を、コスト的にも優れた商品を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のポリ乳酸とポリアミドからなる芯鞘複合フィラメントの繊維横断面形状を模式的に例示する繊維断面図である。(a)は芯部が8葉、(b)は芯部が6葉
【図2】(a)は図1(a)の葉の部分の拡大図であり、(b)は図1(a)の葉部分形状を説明する横断面図である。
【図3】本発明の比較例3で製造した芯鞘複合フィラメント糸の断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1:ポリ乳酸
2:ポリアミド
3:葉
α:葉のなす角度
amax:線分TB又はTCのうち長い方の線分
r:フィラメントの横断面形状の外接円半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がポリアミド、鞘部がポリ乳酸からなる芯鞘複合フィラメント糸であって、芯部の横断面が葉の頂点のなす角αが90°以下である葉を3以上有する形状である芯鞘複合フィラメント糸。
【請求項2】
芯部がポリアミド、鞘部がポリ乳酸からなる芯鞘複合フィラメント糸であって、鞘部がポリ乳酸100g中に対してマグネシウムを0.5〜25ミリモル含有する請求項1記載の芯鞘複合フィラメント糸。
【請求項3】
前記マグネシウムが酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムに由来するものであることを特徴とする請求項1または2記載の芯鞘複合フィラメント糸。
【請求項4】
前記ポリアミドがポリカプラミドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の芯鞘複合フィラメント糸。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の芯鞘複合フィラメント糸を用いた布帛。
【請求項6】
請求項4記載の布帛を、アルカリ金属水酸化物の水溶液で処理し、芯鞘複合フィラメント糸の鞘部を溶出することにより得られる異形断面繊維布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−283224(P2006−283224A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104210(P2005−104210)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】