説明

芳香安定化方法

本発明は、高芳香食品及びその製品の芳香を、該食品及び製品中に含まれるポリフェノールの分解から誘導されるフェノール量を低減することによって安定化する方法を提供する。本発明では、芳香安定化食品、並びに所望の香味を有するその製品についても記述する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、高芳香食品、特にコーヒー及びその製品の芳香を安定化し、着香、風味、又はその他の所望の官能特性を改善する方法に関する。本発明はまた、芳香安定化食品、並びに所望の香味を有するその製品に関する。
【発明の背景】
【0002】
芳香が多くの製品の重要な部分となっているのは、消費者が特定の芳香から特定の製品を連想するからである。製品がそれに付随する芳香を欠いていると、その製品に対する消費者の知覚は、悪影響を受ける。この連想はコーヒー製品の分野では非常に強いが、その他の食品部門でも同様である。このことは、可溶性コーヒーパウダーの分野では特に問題であるが、その他の分野においても、この問題は存在する。
【0003】
例えば、繊細なコーヒーアロマは、インスタントコーヒー及びインスタント飲料製造方法で見られるように、しばしば加工中に分解するか又は部分的に失われる。さらに、コーヒーアロマは、非常に不安定なことが知られている。コーヒーアロマが分解すると、該芳香は弱まり、望ましくない、不快な非コーヒー様臭気が生成する。この分解は、実質的に製品の知覚品質を低下させる。この理由により、コーヒーアロマなど着香成分の調製と保存には、所望の芳香成分を強化するか、又は望ましくない成分を低減若しくは除去するように、特別な注意を払わなければならない。
【0004】
EP0861596A1には、より長期間貯蔵安定な製品を与える、液体コーヒーの安定化方法が記載されている。該方法は、抽出物のアルカリ処理、それに続く中和及びコーヒーのpH値を所望の最終値に調整することを含む。
【0005】
従来より、高芳香食品又は飲料製品に香味保護剤を添加して、これら製品の香味特性を保持、維持又は改善できる。JP2002−119210は、加熱中又は保存中のコーヒー抽出物の芳香又は香味の低下を、該抽出物にペプチド及び/又はアミノ酸、トコフェロール、並びにポリフェノールを添加することによって予防することに関する。また同様に、JP03−108446号は、抽出工程中にコーヒー飲料の劣化を予防し、香味を保持するための、抗酸化物質、例えば1%未満のトコフェロール、L−アスコルビン酸、又はポリフェノール化合物の添加について、開示している。また、国際公開第2006/022764号パンフレットには、コーヒー製品をフラボノイド、ポリフェノール及び/又はフェノール酸から選択される抗酸化物質と組み合わせることによる、コーヒーの安定性及び風味/芳香の増加が開示されている。先行技術には、硫黄含有化合物も香味保護剤と説明されている。
【0006】
さらに、先行技術では、可溶性コーヒーを加工する間の数時点、最も一般的には焙煎豆を挽いている間及び挽いた後にコーヒーアロマを回収する方法、並びに濃縮及び乾燥に先立つコーヒー抽出物の水蒸気蒸留によってコーヒーアロマを回収する方法が提案されている。例えば、EP1355536A1には、挽いたコーヒー飲料基材の、加工後のポリフェノール量を改善する方法が開示されている。
【0007】
国際公開第2005/072531号パンフレット及び国際公開第2005/072533号パンフレットに記載されているように、コーヒー抽出物中のコーヒー加工の副産物も、健康目的で低減されてきた。
【0008】
しかしながら、先行技術の方法及び手法は、所望の芳香成分を強化し、望ましくない成分を低減し、揮発性着香成分を保持することに関して、完全には満足のゆくものではないことが示された。従来の芳香処理食品の多くは、未だに所望の香味、風味、及びその他の官能特性を有するには至っていない。
【0009】
本発明の目的は、高芳香食品の芳香をさらに安定化し、鮮度と持続的芳香に関して、改善された高度な芳香品質を提供する技術を提供することにある。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、高芳香食品とその製品の芳香を、これら食品及び製品に含まれるポリフェノールの分解から誘導されるフェノール量を低減することによって安定化する方法を提供する。
【0011】
驚くべきことに、本発明の方法は特定のフェノールを有意に低減し、したがって、コーヒー、紅茶及びココアのような高芳香食品の加工中に通常は失われてしまう芳香成分を、有意により多量に提供することを可能にすることが見出された。主な有益性は、水で戻して消費するときの鮮度、持続的な芳香など、並びに有意に延長される貯蔵期限などに関する、高芳香食品の改善された品質である。
【0012】
高芳香食品に含まれているフェノールの量を低減すると、コーヒーのような高芳香食品を焙煎する際に生じるフェノールである、ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)が主として有意に低減する。HHQは非揮発性のフェノールであり、チオールを捕捉して過酸化水素を生成し、コーヒーの香味成分の分解を招き、したがって全体的なコーヒーの香味の変性を招く。
【0013】
チオールは、コーヒーアロマの中心的な着臭剤であることが知られている。コーヒーアロマに寄与している最も重要なチオールの1種は、2−フルフリルチオール(FFT)である。驚くべきことに、HHQ量を有意に低減すると、FFTのようなコーヒーチオールの消失が回避されることが見出された。焙煎コーヒーの溶液(例えば焙煎コーヒーの抽出物)中のHHQの低減が、HHQの分解又は除去を起こす処理によって達成される結果、チオールが高芳香コーヒー中に残存して全範囲の芳香を放つ。したがって、チオール量の増加は、該芳香の完全な鮮度を保持するための一助となる。
【0014】
さらに本発明は、フェノール、特にヒドロキシヒドロキノン(HHQ)含有量が低減し、FFTのようなチオールの含有量がより高い、芳香安定化食品を提供する。本発明の芳香安定化食品は、水で戻し消費するときの鮮度、持続的な芳香など、並びに有意に延長される貯蔵期限から見て改善された芳香品質を有する。
【0015】
本発明はまた、本発明の方法によって得ることができる芳香安定化食品を提供する。
【0016】
本発明は、添付の図1によって、さらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、コーヒー飲料貯蔵中の、2−フルフリルチオール(FFT)、ジヒドロキシベンゼン/トリヒドロキシベンゼン及びフェノール/FFT複合体の濃度を例示する表である。
【発明の好ましい実施形態の詳細な説明】
【0018】
コーヒーアロマが最も好ましい芳香と言われる好ましい実施形態について、本発明の原理を今説明する。コーヒーアロマは、着香剤として多様な食品又は飲料に使用され、特に可溶性コーヒー、濃縮コーヒー及びインスタントコーヒーの各飲料中に使用され、該飲料の香味、風味、及びその他の官能特性を改善する。しかしながら、一般的に、本発明の改善された芳香とは、さらにチョコレート又はココアの芳香、紅茶の芳香及びその他の多くの芳香を含め、高芳香食品中に見出すことができる全種の芳香の一般的な定義であることを意図している。
【0019】
本発明の方法は、完全な高芳香食品に、又はこの食品から芳香を除去した後に適用可能である。好ましくは、該食品は、芳香を除去した後に処理される。
【0020】
好ましくは、該高芳香食品はコーヒー、紅茶及びココア、並びにこれらの製品である。より好ましくは、本発明の方法により、コーヒーの芳香は最終製品中で安定化する。また芳香はさらに強化される。
【0021】
本発明の芳香安定化方法は、高芳香食品に含まれるポリフェノールの分解から誘導されるフェノール、すなわちコーヒー豆、紅茶葉及びココア豆などの天然食品材料を焙煎するときに通常生じるフェノール量を、低減することを含む。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、フェノール量は、30からほぼ100%の間の範囲まで低減される。特に好ましい実施形態では、フェノール量は、少なくとも50%低減し、最も好ましくは、ほぼ100%の程度まで低減される。
【0023】
コーヒー中のフェノールは、一般的には、コーヒー中に見出される主要なフェノール化合物である5−O−カフェオイルキナ酸のような、クロロゲン酸の分解産物である。これらは、炭水化物とアミノ酸の反応(メイラード反応)からも誘導できる。紅茶とココアは、その他の種類のポリフェノールを含有する。焙煎工程の間に、5−O−カフェオイルキナ酸が熱分解してヒドロキシヒドロキノン(HHQ)、並びにその他のジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンを生成する。ジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンの例は、ピロガロール、カテコール、4−エチルカテコール、4−メチルカテコール及び3−メチルカテコールである。
【0024】
ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)は、コーヒーアロマの中心的な着臭剤であることが知られているチオールの分解において、重要な役割を演じていることが示された。HHQは複合体を形成することによって該チオールを捕捉し、コーヒーの香味化合物の分解につながる過酸化水素を生成し、このようにして全体的なコーヒーの香味を変性させる。極めて重要なチオールの1種は、例えば、コーヒー中に存在する2−フルフリルチオール(FFT)である。この中心的なチオールがコーヒーの望ましい新鮮な芳香に寄与することが、実際に示された。
【0025】
図1は、コーヒー飲料の保存期間中の2−フルフリルチオール(FFT)、ジヒドロキシベンゼン/トリヒドロキシベンゼン、及びフェノール/FFT複合体の濃度[μmol/L]の相関関係を示し、図1に示すように、コーヒー飲料を例えば30℃で保存したときに自然に起こるHHQの減少は、FFT濃度の減少、並びに対応するHHQ/FFT複合体の増加とよい相関関係にある。その他のジヒドロキシベンゼン/トリヒドロキシベンゼンは、立てたコーヒー中にはHHQよりもはるかに少ない量しか存在せず、HHQと比較して、濃度もそれほど変化しない。このことは、チオールの分解におけるHHQの重要性を示している。
【0026】
図1において、試験したフェノールは1=ピロガロール、2=ヒドロキシヒドロキノン、3=カテコール、4=4−エチルカテコール、5=4−メチルカテコール及び6=3−メチルカテコールである。インキュベーション時間は分であり、複合体12bはHHQ/FFT複合体に対応する(また、その他の複合体が何であるか明らかにすることが好ましい)。
【0027】
FFTと比較するとHHQは大過剰に存在しているので、本発明の方法によれば、ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の量を低減することが好ましいが、その他のジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンを同時に除去することが、有利である。結果として、原初のFFTはよりよく維持される。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の量は少なくとも30%低減され、より好ましくは少なくとも50%低減され、特に好ましくは最大ほぼ100%の程度まで低減される。
【0029】
フェノールの量は、該フェノールを除去又は失活させる化学的及び/又は物理的手段によって、低減される。
【0030】
FFTのようなコーヒーチオールの消失を回避するためのフェノール量、特にHHQ量を有意に低減させる多様な選択肢を、以下に一覧表として示す。表示された方法は、HHQの分解又は除去につながると意図される。
i)濾過によるフェノールの物理的除去。適切な濾過手段は、例えば膜、分子インプリント(MIP)、及び透析膜;
ii)陰イオン交換樹脂、金属カチオンキレート樹脂などのイオン交換樹脂による、フェノールの分離;
iii)加熱(20〜100℃の間の温度を使用する)、pH3〜10の間、好ましくは5〜8の間の範囲のpH変化、例えば酸素への強制曝露(例えば使用するコーヒー飲料又はコーヒー抽出物の1〜50倍容積に相当する量の酸素気泡を該コーヒー飲料又はコーヒー抽出物に通すことによる)による酸化、及び酵素処理、又はこれらの組合せによって誘導されるフェノールの分解;
iv)求核試薬を使用したフェノールの化学的捕捉。適切な求核試薬の例は、SO、亜硫酸塩、及びチオールのような硫黄含有化合物、又はサルファイト、チオール、アミン若しくはシステインなどのアミノ酸を含有若しくは生成する物質より選択される;
v)HHQ付加物の形成を低減するために、コーヒー(又はその他の高芳香食品)の加工中に発生させた酸素の低減;及び
vi)超臨界COによる、フェノールの選択的抽出。
【0031】
i)〜vi)に記載の方法は、単独で使用するか、又は組み合わせて使用してもよい。該方法は、従来の食品加工の任意の段階に組み込むことが可能であり、そのことは当業者であれば容易に理解できる。
【0032】
特定の実施形態では、本発明は加熱処理、pH変化、酸化処理、求核試薬の使用、又はこれらの任意の組合せによって、高芳香食品中のHHQ量を低減する方法を提案する。
【0033】
最も好ましい実施形態では、コーヒー抽出物を、同時進行の酸化処理と共に、60℃で90分間加熱する。このようにして、原初HHQ含有量の50%超の低減が、達成される。
【0034】
本発明の方法は、任意の由来の高芳香食品に適用可能である。特に好ましいのは、コーヒー、紅茶、ココアなどの高芳香食品並びにその製品である。特に好ましいのは、本発明の方法により芳香が完全に安定化するコーヒーである。
【0035】
例として、焙煎し挽いたコーヒー粉を水で抽出して溶液を得る。必要な場合には、揮発性物質を水蒸気で該溶液から分離し、芳香濃縮物を得る。次にフェノールを含んだ該抽出溶液を、上述の化学的/物理的手段で処理する。
【0036】
もう1つの実施形態では、焙煎し挽いたコーヒーから最初に該芳香を分離し、次いでコーヒー粉を水抽出する。両方の場合とも、化学的/物理的手段によって処理し、フェノールが本質的にない該溶液を、次いで、該芳香濃縮物と組み合わせる。
【0037】
好ましくは、化学的/物理的手段によって処理され、本質的にフェノール、特にHHQを含まない該溶液を、該芳香濃縮物と組み合わせる。所望される場合には、該芳香液体中の芳香成分を、該濃縮抽出物に添加する前に、濃縮してもよい。濃縮は、部分凝縮、精留、膜濃縮、凍結濃縮などの従来の手順で実施できる。さらに、低温芳香回収機から得られたフロストを、該濃縮抽出物に添加してもよい。
【0038】
次いで、芳香付けした該抽出物を、通常どおり、例えばスプレードライやフリーズドライによって乾燥し、芳香付けした可溶性のコーヒーパウダーを提供する。言うまでもなく、該芳香液体及び芳香含有フロストはその他の芳香化目的で使用できる。
【0039】
本発明の方法は、可溶性コーヒー、濃縮コーヒー及びインスタントコーヒーから選択される飲料のコーヒーアロマの安定化に、特に適切である。
【0040】
芳香付けした可溶性コーヒーパウダーを、通常のごとく水で戻してコーヒー飲料を提供してもよい。
【0041】
本発明はまた、ポリフェノールの分解から誘導されるフェノールの含有量が低減した、芳香安定化食品を提供する。好ましくは、該芳香安定化食品は本質的に前記フェノールを含有せず、フェノール含有量は、30%からほぼ100%まで低減されている。最も好ましくは、本発明の該芳香安定化食品は、フェノール含有量がほぼ100%まで低減されたものである。
【0042】
特定の実施形態では、コーヒー組成物は、100〜500ppm(コーヒー固形分に基づく)のHHQ、及び0.5〜10ppm(コーヒー固形分に基づく)の2−フルフリルチオールを含む。
【0043】
好ましくは、該コーヒー組成物は、可溶性コーヒー、濃縮コーヒー及びインスタントコーヒーより選択される。
【0044】
本発明の、処理されたコーヒーサンプルにおけるヒドロキシヒドロキノン(HHQ)量の相対的な減少は、C.Mullerら、2006年、J.Agric.Food Chem.、第54巻、10086〜10091頁に記載の方法により、未処理サンプルと比較して、簡易及び正確に決定することができる。
【0045】
ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の除去が、未処理サンプルと比較した場合、処理コーヒーサンプルにおけるFFTのような中心的な芳香効果化合物の存在量増加に及ぼす効果は、直接ヘッドスペースサンプリングGC−MS検出を使用して決定される。この方法は、FFT水溶液(例えば、0.1mol/Lリン酸緩衝液、pH5.7中の1ml当たり500μg)をそれぞれ未処理及び処理コーヒー飲料に添加することを必要とする。或いは、該コーヒー飲料の天然のFFT含有量を目的とする(処理に先立つ芳香除去はしない)ならば、FFTの添加を適用できないと思われる。次いで該コーヒー飲料を、温度制御し、セプタム密封したバイアル又は容器中、例えば30℃で10〜60分の間、インキュベート/処理する。気密シリンジを使用し、セプタムを通して、該飲料上部のヘッドスペースの一定分量(1〜2.5mL)を密閉したバイアルから採取した。次いで該ヘッドスペースサンプルを、HRGC−MSによって分析した。相対含有量は、対照(例えばpH5.7の0.1mol/Lリン酸緩衝液中のFFT)と比較して、未処理及び処理コーヒー飲料のマスフラグメントm/z114又は81のピーク面積を積分することによって決定した。
【0046】
本発明の芳香安定化食品は、好ましくは、ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)、並びに場合によりその他のジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンを本質的に含まないコーヒーである。ジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンの例は、上述されている。
【0047】
幾種もの特定の飲料形成成分が、フェノール、特にヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の含有量を激減させることによって、提供される。製品の1つは、液体状の濃縮コーヒーである。もう1つの製品は、インスタントコーヒーである。濃縮コーヒーをフリーズドライ又はスプレードライして得られる可溶性コーヒーもまた、含まれる。芳香付けした可溶性コーヒーパウダーを、通常のように水で戻して、コーヒー飲料を提供してもよい。
【0048】
本発明のその他の芳香安定化製品は、例えば、紅茶、ココア及びこれらの製品に基づいた製品である。
【0049】
本発明はまた、上記に説明した方法によって得ることができる芳香安定化食品を提供する。
【0050】
本発明をさらに例証するために、本発明の特定の例をここに説明する。
【実施例】
【0051】
実施例1
54gの焙煎し挽いた(「R&G」)コーヒーを水で抽出し(温度約95℃、1L)、コーヒー抽出物を得る。そのコーヒー抽出物を、HHQなどのジヒドロキシベンゼン/トリヒドロキシベンゼン及び遊離FFT含有量、並びに対応するHHQ/FFT複合体について、上述した方法を使用して分析した。
【0052】
表1は、コーヒー飲料を30℃で最長60分まで加熱処理している間の、2−フルフリルチオール(FFT)、ジヒドロキシベンゼン/トリヒドロキシベンゼン、及びフェノール/FFT複合体の濃度変化を説明する表である。
【0053】
試験されたフェノールは、1=ピロガロール、2=ヒドロキシヒドロキノン、3=カテコール、4=4−エチルカテコール、5=4−メチルカテコール、及び6=3−メチルカテコールである。
【0054】
コーヒーを立てた直後の該コーヒー飲料中のヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の濃度は、238.4μmol/Lである。HHQ量は、60分間で約97%減少する。立てた該コーヒー中には、その他のジヒドロキシベンゼン/トリヒドロキシベンゼンはHHQよりもはるかに少量しか存在せず、HHQと比較して濃度はそれほど変化しない。
【0055】
【表1】


ピロガロール(1)、ヒドロキシヒドロキノン(2)、カテコール(3)、4−エチルカテコール(4)、4−メチルカテコール(5)及び3−メチルカテコール(6)濃度は、標準コーヒー飲料(54g/L)で、インキュベーション/貯蔵時間の関数として決定した(T=30℃)。
n.d. 検出不能
以下のFFT−フェノール複合体の濃度は、標準コーヒー飲料(54g/L)で、インキュベーション/貯蔵時間の関数として決定した(T=30℃):3−((2−フルフリルメチル)スルファニル)カテコール(7a)、3,5−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)カテコール(7b)、4,5−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)カテコール(7c)、3,4,6−トリス((2−フルフリルメチル)スルファニル)カテコール(7d)、3−((2−フルフリルメチル)スルファニル)−4−((2−(3−(2−フルフリルメチル)スルファニル)−フリルメチル)スルファニル)カテコール(7e)、4−((2−フルフリルメチル)スルファニル)−3−メチルカテコール(8a)、3−((2−フルフリルメチル)スルファニル)−6−メチルカテコール(8b)、3,4−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)−6−メチルカテコール(8c)、3,5−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)−6−メチルカテコール(8d)、3,4,5−トリス((2−フルフリルメチル)スルファニル)−6−メチルカテコール(8e)、3−((2−フルフリルメチル)スルファニル)−5−メチルカテコール(9a)、3,4−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)−5−メチルカテコール(9b)、3,6−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)−4−メチルカテコール(9c)、3−((2−フルフリルメチル)スルファニル)−5−エチルカテコール(10a)、3,6−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)−4−エチルカテコール(10b)、4−((2−フルフリルメチル)スルファニル)ピロガロール(11a)、4,5−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)ピロガロール(11b)、3−((2−フルフリルメチル)スルファニル)ヒドロキシヒドロキン(12a)、4−((2−フルフリルメチル)スルファニル)ヒドロキシヒドロキン(12b;HHQ−FFT複合体:本発明の中心的反応産物)、3,4−ビス((2−フルフリルメチル)スルファニル)ヒドロキシヒドロキノン(12c)
【0056】
フェノール/FFT複合体の濃度(μmol/L)は、HHQ/FFT−複合体の高い値をはっきりと示している(カラム12b)。該複合体濃度は、保存後10分で0.121μmol/Lに増加する(67%)。コーヒー飲料をさらに処理すると、該複合体の相対的な減少を招き、これは追加の反応(重合)によって説明できる。同時に、0.17μmol/Lから0.10μmol/Lへと(41%)、天然のFFTの有意な量が消失した。その他のフェノール複合体(試験したフェノール1及びフェノール3〜6とFFTの複合体)は、微量しか存在せず、部分的にはもはや検出不能な量である。このことは、チオールの分解におけるHHQの重要性を示している。
【0057】
実施例2
焙煎し挽いた(「R&G」)コロンビア100%のコーヒーを水で抽出し、コーヒー抽出物を得る。その抽出物を水蒸気蒸留カラムに通し、そのカラム内で、揮発性の香味/芳香成分を分離し、凝縮させ、芳香留出物として回収する。
【0058】
その抽出物中のHHQ濃度を測定すると、21.6mg/lHHQであった。
【0059】
次いで、この抽出物を、その溶液(700ml)に酸素気泡を一定流速、約20ml/分で通すことにより、強制的な酸素曝露に供する。好ましくはこの処理を、高温、例えば60℃で最長2時間実施する。
【0060】
上記のごとく処理した抽出物のHHQ濃度を測定すると、9.8mg/lHHQであった。これは該コーヒー抽出物におけるHHQの約50%減少に相当し、未処理抽出物と比較してHHQの有意な減少を示している。
【0061】
該抽出物を、当業者には周知の標準的な加工条件を使用し、蒸発濃縮し、芳香を添加し、次いで乾燥し、可溶性のコーヒーパウダーとした。熱湯でこのパウダーを戻すと、生じた飲料は、酸素処理をしていない抽出物と比較して、より長持ちし、より強い、鮮度が増加した芳香を有していると知覚された。
【0062】
実施例3
焙煎し挽いた(「R&G」)コーヒーから揮発性の香味/芳香成分を分離し、凝縮させ、芳香留出物として回収する。次いで、その脱芳香コーヒーを水で抽出し、コーヒー抽出物を得る。
【0063】
コーヒー抽出物のpHを、無機塩基、好ましくは水酸化カリウムでpH8に調整し、閉鎖系で90分間、高温(例えば60℃)で加熱した。pHを初期値のpH5.2に再調整した。処理抽出物のHHQ濃度は、未処理サンプルと比較して40%まで低減した。
【0064】
該芳香を入れ戻した後では、得られた飲料は、アルカリ処理していない抽出物と比較して、より長持ちする、鮮度が増加した芳香を有すると知覚された。
【0065】
実施例4
焙煎し挽いた(「R&G」)コーヒーから揮発性の香味/芳香成分を分離し、凝縮させ、芳香留出物として回収する。次いで、その脱芳香コーヒーを水で抽出しコーヒー抽出物を得る。
【0066】
コーヒー抽出物のpHを無機塩基、好ましくは水酸化カリウムでpH8に調整し、酸素の気泡を3×コーヒー容積/時間の速度で該溶液に通しながら、90分間高温(例えば60℃)で加熱する。pHを初期値のpH5.2に再調整した。処理抽出物のHHQ濃度は、未処理サンプルと比較して、約7%まで低減した。
【0067】
該芳香を入れ戻した後では、得られた飲料は、アルカリ処理及び酸素処理していない抽出物と比較して、より長持ちし、鮮度が増加した芳香を有すると知覚された。
【0068】
実施例5
これまでのサンプルで述べた脱芳香コーヒー抽出物を、好ましくはサンプルに酸素添加した後に、HHQと反応することが知られている求核試薬で代替的に処理できる。このようにして、固形物含有量約10〜14%のコーヒー抽出物に、3×コーヒー容積/時間の速度で酸素気泡を通した後(90分間、60℃)、該抽出物にナトリウム塩形態のサルファト200ppmを添加し、室温で90分間反応させた。
【0069】
芳香を入れ戻した後では、得られた飲料は、この処理をしていない抽出物と比較して、より長持ちし、鮮度が増加した芳香を有すると知覚された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理、pH変化、酸化処理、求核試薬の使用、又はこれらの任意の組合せによって、高芳香食品中のヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の量を低減する方法。
【請求項2】
前記高芳香食品がコーヒーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱処理が、前記食品を20〜90℃の間、好ましくは60℃の温度に、最長2時間、好ましくは最長90分間曝すことを含む、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記pH変化が、前記食品のpHをpH値7〜9、好ましくは8に上昇させ、場合により、前記食品をさらなる処理に曝し、さらに前記pHを下降させ前記食品の初期値に戻すことを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記酸化処理が、前記食品を酸素に強制曝露することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記求核試薬の使用が、前記食品をSO、亜硫酸塩、チオールなどの硫黄含有化合物、又はサルファイト、チオール、アミン若しくはシステインなどのアミノ酸を含有若しくは生成する物質で処理することを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
100〜500ppm(コーヒー固形分に基づく)のHHQ及び0.5〜10ppm(コーヒー固形分に基づく)の2−フルフリルチオールを含む、コーヒー組成物。
【請求項8】
可溶性コーヒー、濃縮コーヒー及びインスタントコーヒーから選択される、請求項7に記載のコーヒー組成物。
【請求項9】
高芳香食品及びその製品の芳香を安定化する方法であって、前記食品及び製品中に含まれるポリフェノールの分解から誘導されるフェノール量を低減することによる方法。
【請求項10】
フェノール量が、30からほぼ100%低減される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
フェノール量がほぼ100%の程度まで低減される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
フェノール量が、フェノールを除去又は失活させる化学的及び/又は物理的手段により低減される、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
フェノール量が、濾過、イオン交換樹脂による分離、熱分解、pH変化、酸化及び酵素処理、求核試薬の使用、酸素の低減、並びに/又は超臨界COによる選択的抽出によって低減される、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記フェノールが、膜、分子インプリント又は透析膜によって濾過除去される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記求核試薬が、SO、サルファイト、又はアミン若しくはアミノ酸を含有若しくは生成する物質から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記高芳香食品が、コーヒー、紅茶、ココア及びその製品である、請求項9〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記コーヒーの芳香が安定化される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記フェノールがクロロゲン酸の分解産物であり、ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)並びにその他のジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)量が低減されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
焙煎し挽いたコーヒー粉を水で抽出して溶液を得、前記溶液より水蒸気によって揮発性物質を分離して芳香濃縮物を得、さらに前記溶液を化学的/物理的な手段で処理する、請求項16〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記化学的/物理的手段で処理された前記溶液が、前記芳香濃縮物と組み合わされる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
コーヒーの芳香が、可溶性コーヒー、濃縮コーヒー及びインスタントコーヒーから選択される飲料用に安定化される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
請求項9〜22のいずれか一項に規定した方法によって得ることができる、芳香安定化食品。
【請求項24】
ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)、並びにその他のジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンの含有量が低減した、芳香安定化コーヒー。
【請求項25】
ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)、並びにその他のジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンの含有量が、30からほぼ100%まで低減された、請求項24に記載の芳香安定化食品。
【請求項26】
ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)、並びにその他のジヒドロキシベンゼン及びトリヒドロキシベンゼンの含有量がほぼ100%まで低減された、請求項25に記載の芳香安定化食品。
【請求項27】
前記コーヒーが、可溶性コーヒー、濃縮コーヒー及びインスタントコーヒーから選択される、請求項24〜26のいずれか一項に記載の芳香安定化コーヒー。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−503392(P2010−503392A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527818(P2009−527818)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059588
【国際公開番号】WO2008/031848
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】