説明

芳香成分としてのオキサチアン誘導体

本発明は、芳香成分としての2−(3−メチルブチル)−4−プロピル−1,3−オキサチアンおよびその使用に関する。本発明は、香料産業における前記の化合物の使用、並びに前記の化合物を含有する組成物あるいは物品にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は香料の分野に関する。より詳細には、それは有用な芳香成分である2−(3−メチルブチル)−4−プロピル−1,3−オキサチアンに関する。本発明は香料産業における前記化合物の使用、並びに前記化合物を含有する組成物あるいは物品にも関する。
【0002】
先行技術
我々の知る限りでは、本発明の化合物は新規である。
【0003】
最も近い先行技術は、US4220561号に記載される化合物2−ペンチル−4−プロピル−1,3−オキサチアン、即ち本発明の化合物の構造異性体である。しかしながらこの先行技術の化合物は、本発明の香気とは全く異なる香気を有し、従って化学式(I)の化合物の感覚刺激特性、あるいは香料分野における前記化合物の使用を示唆していない。
【0004】
本発明の記載
我々はここで、驚くべきことに化学式
【化1】

の化合物が、任意の1つのその立体異性体あるいはそれらの混合物の形態で、芳香成分、例えば硫黄、カシスタイプの香気のノートを付与する芳香成分として使用できることを発見した。
【0005】
特に、2−(3−メチルブチル)−4−プロピル−1,3−オキサチアンの香気はフルーティでハーブのようなタイプのノートを有する。そのフルーティノートは本発明の化合物にその特徴を与えるものであり、且つ前記のノートはカシス、グレープフルーツタイプであり、且つ非常に清浄な硫黄のような内包によって特徴付けられ、他の類似構造の成分のようにネギ臭/タマネギ臭/蒸散の内包を有さない。
【0006】
本発明の化合物の感覚刺激特性を、先行技術の化合物の2−メチル−4−プロピル−1,3−オキサチアン(US4220561)のものと比較する場合、そこで化合物(I)の香気は先行技術の化合物に特徴的なネギ臭/蒸散の内包がないことによって特徴付けられる。
【0007】
本発明の化合物の感覚刺激特性を、先行技術の化合物の2−ペンチル−4−プロピル−1,3−オキサチアン(US4220561)のものと比較する場合、そこで化合物(I)の香気は先行技術の化合物に特徴的なバイオレットリーフの内包がないことによって特徴付けられる。
【0008】
実際に本発明の化合物の香気は驚くべきことに、構造的には逆であるにもかかわらず、2−ペンチル−4−プロピル−1,3−オキサチアンの香気よりもやや2−メチル−4−プロピル−1,3−オキサチアンの香気に非常に近い。
【0009】
上述のように、本発明は芳香成分としての化学式(I)の化合物の使用に関する。言い換えれば、本発明は芳香組成物あるいは着香物品の香気特性の付与、強化、改善あるいは修正のための方法において、化学式(I)の少なくとも1つの化合物の有効量を前記の組成物あるいは物品に添加することを含む方法に関する。特に前記の方法は、上述のように本発明の化合物に香気のノートを付与する方法である。
【0010】
"化学式(I)の化合物の使用"は、本願では化合物(I)を含有する任意の組成物の使用としても理解されるべきであり、且つそれは活性成分として香料産業で好ましく用いることができる。
【0011】
前記の組成物は実際に芳香成分として好ましく用いられ、本発明の対象でもある。
【0012】
従って、本発明の他の対象は、
i)芳香成分として、上に定義されたように少なくとも1つの本発明の化合物と、
ii)香料担体および香料ベースから成る群から選択される少なくとも1つの成分と、
iii)随意に少なくとも1つの香料補助剤と
を含む芳香組成物である。
【0013】
"香料担体" は、本願では香料の観点から実質的に中性、即ち芳香成分の感覚刺激特性を著しく変えない材料を意味する。前記の担体は液体であってよい。
【0014】
液体担体として、限定されない例として、乳化性の系、即ち溶剤および界面活性剤の系、あるいは香料で一般的に使用される溶剤を挙げることができる。一般に香料で用いられる溶剤の性質及びタイプの詳細な記載は出し尽くせない。しかしながら、限定されない溶剤の実施例として、例えばジプロピレングリコール、ジエチルフタレート、イソプロピルミリステート、安息香酸ベンジル、2−(2−エトキシエトキシ)−1−エタノールあるいはエチルシトレートを挙げることができ、それらは最も一般的に用いられている。
【0015】
固体担体として、限定されない例として、吸収性ゴムあるいはポリマー、あるいはさらにカプセル化材料を挙げることができる。前記材料の例は、壁形成および可塑化材料、例えば単糖類、二糖類あるいは三糖類、天然あるいは化工デンプン、親水コロイド、セルロース誘導体、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、蛋白質あるいはペクチン、あるいはさらに参考文献、例えばH.Shertz、Hydrokolloids:Stabilisatoren,Dickungs−und Gehermittel in Lebensmittel,Band 2 der Schriftenreihe Lebensmittelchemie,Lebensmittelqualitaut,Behr’s VerlagGmbH&Co,ハンブルグ,1996内に挙げられる材料を含んでよい。カプセル化は、当業者にはよく知られた方法であり、例えば噴霧乾燥、凝集、あるいはさらに押出、あるいはコアセルベーションおよび複合コアセルベーション技術を含む被覆カプセル化で成る技術を用いて実施されてよい。
【0016】
"香料ベース"は、本願では少なくとも1つの芳香補助成分を含む組成物を意味する。
【0017】
前記の香料補助成分は化学式(I)のものではない。さらには、"香料補助成分"は本願では芳香の製造あるいは組成物において感情的効果を付与するために使用される化合物を意味する。言い換えれば、前記の芳香補助成分は芳香物であるとみなされ、組成物の香気を、良い方向であるいは快く、付与あるいは修正することができ、且つ単に香気を有しているだけではないものとして、当業者によって認識されるはずである。
【0018】
前記ベース中に存在する芳香補助成分の性質およびタイプは、ここでより詳細な記載を保証せず、それはいずれにせよ出し尽くせず、当業者はその一般的な知見に基づいて、および意図している使用あるいは用途、および所望の感覚刺激効果によってそれらを選択できる。一般的な用語において、それらの芳香補助成分は、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アセテート、ニトリル、テルペン炭化水素、窒素あるいは硫黄の複素環式化合物およびエッセンシャルオイルにわたる化学種に属し、前記の芳香補助成分は天然あるいは合成由来であり得る。いずれにせよそれらの補助成分の多くが、参考文献、例えばS.Arctanderによる本、Perfume and Flavor Chemicals,1969, Montclair,ニュージャージー,USA、あるいはそのより最近のバージョン、あるいは同種の他の著作、並びに香料分野の豊富な特許文献内に示される。前記の補助成分は、制御された方法において様々なタイプの芳香化合物を放出するとして知られる化合物であり得るとも理解される。
【0019】
香料担体および香料ベースの両方を含む組成物について、先に規定したものとは別の、適した香料担体は、エタノール、水/エタノールの混合物、リモネンあるいは他のテルペン、イソパラフィン、例えば商標Isopar(登録商標)(製造元:Exxon Chemical)として知られるもの、あるいはグリコールエーテルおよびグリコールエーテルエステル、例えば商標Dowanol(登録商標)(製造元:Dow Chemical Company)として知られるものであってもよい。
【0020】
一般的に言って、"香料補助剤"は、本願では追加的に加えられた利益、例えば色、特に光耐性、化学的安定性などを付与することのできる成分を意味する。芳香ベースにおいて一般に用いられる補助剤の性質およびタイプの詳細な記載は出し尽くせないが、しかし前記の成分が当業者にはよく知られていることは言及されるべきである。
【0021】
化学式(I)の少なくとも1つの化合物および少なくとも1つの香料担体から成る本発明の組成物は、化学式(I)の少なくとも1つの化合物、少なくとも1つの香料担体、少なくとも1つの香料ベースおよび随意に少なくとも1つの香料補助剤を含む香料組成物と同様に、本発明の特定の実施態様である。
【0022】
ここで、上述の組成物において、化学式(I)の1つより多くの化合物を有する可能性が重要であることをここで言及するのは有用であり、なぜなら、調香師が調和物、本発明の様々な化合物の香気の調性を有した香料を製造するのを可能にし、従って彼らの業務に新規のツールをもたらすからである。
【0023】
好ましくは、化学合成から直接、例えば適切な精製なしで、得られる任意の混合物であって、本発明の化合物を、出発生成物、中間生成物あるいは最終生成物として含むものは、本発明による芳香組成物としてみなされない。
【0024】
さらには、本発明の化合物は、現代の香料の全ての分野において、前記の化合物(I)が添加される消費者製品の香気を良い方向で付与あるいは修正するために好ましく使用することができる。その結果、
i)芳香成分として、上に定義された、化学式(I)の少なくとも1つの化合物あるいは本発明の芳香組成物、および
ii)消費者製品ベース
を含む着香物品も、本発明の対象である。
【0025】
明確化のために、"消費者製品ベース"は、本願では芳香成分と適合性がある消費者製品を意味することに言及しなければならない。言い換えれば、本発明による着香物品は、機能的な調合物、並びに随意に追加の効果剤(benefit agent)を含み、消費者製品、例えば洗浄剤あるいは空気清浄剤、および嗅覚的に効果のある量の少なくとも1つの本発明の化合物に相当する。
【0026】
消費者製品の成分の性質およびタイプは、ここでより詳細な記載を保証せず、それはいずれにせよ出し尽くせず、当業者はその一般的な知見に基づき、且つ前記生成物の性質および所望の効果によってそれらを選択できる。
【0027】
適した消費者製品ベースの実施例は、固体または液体洗浄剤および繊維柔軟剤、並びに香料おいて一般的な他の物品、特に香水、コロンあるいはアフターシェーブローション、香り付き石けん、シャワーあるいはバスソルト、ムース、オイルあるいはジェル、衛生用品あるいはヘアケア用品、例えばシャンプー、ボディケア用品、消臭剤あるいは制汗剤、空気清浄剤および化粧品も含む。洗浄剤として意図されている用途があり、例えば、様々な表面の洗浄あるいは洗濯のための洗浄剤組成物あるいは洗濯用品であり、例えばテキスタイル、皿、あるいは硬質表面の処理が意図されており、それらは家庭用あるいは業務用途が意図されている。他の着香物品は、繊維除菌消臭剤(fabric refreshers)、アイロン掛け用の水、紙、ワイプあるいは漂白剤である。
【0028】
いくつかの上述の消費者製品ベースは、本発明の化合物のための攻撃的な媒体を表してもよく、そのため後者を尚早な分解から、例えばカプセル化などによって保護する必要がある。
【0029】
本発明による化合物を様々な前述の物品あるいは組成物内に組み込むことができ、その比率は広範囲の値にわたる。それらの値は、着香されるべき物品の性質、および所望の感覚刺激効果、並びに、本発明による化合物が芳香補助成分、当該技術分野で一般に用いられる溶剤あるいは添加剤と混合される場合、所定のベースにおける補助成分の性質に依存する。
【0030】
例えば、芳香組成物の場合、典型的な濃度は、それらが組み込まれる組成物の質量に対して、本発明の化合物の0.01質量%〜3質量%あるいはそれ以上のオーダーである。好ましくは、0.12%〜2.5%、あるいは0.15%〜2.5%のオーダーの濃度が使用される。本発明の化合物は従って、比較的高濃度で使用され、それは使用がより簡単なので有利である。
【0031】
それらよりは低い濃度、例えば0.01質量%〜1質量%のオーダーで、それらの化合物を着香物品内に組み込むときに使用でき、パーセンテージは物品の質量に対してである。
【0032】
実施例
本発明をここで以下の実施例によってさらに詳細に記載し、ここで省略形は当分野での通常の意味を有し、温度は摂氏度(℃)で示し、NMRスペクトルのデータはCDCl3中(特段規定されない限り)1Hあるいは13Cに対して360あるいは400MHz機で記録し、ケミカルシフトδは標準としてのTMSに対してppmで示し、結合定数JはHzで表現する。
【0033】
実施例1:
出発材料としてα−ダマスコンのアルドール誘導体を使用する化学式(I)の化合物の合成
3−メルカプト−1−ヘキサノール(10.0g)およびAmberlyst(登録商標)15(5.0g)をジクロロメタン(90ml)に溶かした溶液に、10分間にわたり4−メチルペンタナール(7.6g)(J.Woon Yang et al., Angew.Chem.Int. Edition,43,2004,6660−6662によって得られた)を添加し、その後、4A分子ふるい(2g)を添加した。該反応混合物を、変換が観測されなくなるまで(GC)室温で攪拌した。
【0034】
その後、該固体を濾過して取り出した。該溶剤を留去し、そして短いVigreuxカラムを用いた真空蒸留の後、87%の収率(14.0g、シス/トランス=80/20)で、所望の2−(3−メチルブチル)−4−プロピル−1,3−オキサチアンを得た。
1H−NMR(主異性体):0.87−0.98(m,9H、トランス異性体との重なり)、1.2−2.3(m,11H、トランス異性体との重なり)、3.02(m,1H)、3.53(m,1H)、4.18(m,1H)、4.67(t,J=6Hz,1H)
13C−NMR(主異性体):13.9(q)、19.3(t)、22.5(q)、27.9(d)、33.7(t)、34.1(t)、34.5(t)、38.5(t)、42.2(d)、70.0(t)、83.8(d)
【0035】
実施例2
芳香組成物の製造
カシスタイプの芳香組成物を以下の成分を混合することによって製造した:
【表1】

*ジプロピレングリコール中
1)メチルジヒドロジャスモネート;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
2)1−(5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン−1−イル)−4−ペンテン−1−オン;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
3)3’,4−ジメチル−トリクロロ[6.2.1.0(2,7)]ウンデカ−4−エン−9−スピロ−2’−オキシラン;製造元:Firmenich SA、ジュネーブ、スイス
【0036】
25質量部の2−(3−メチルブチル)−4−プロピル−1,3−オキサチアンの上述の組成物への添加は、該組成物のフルーティ−カシス特性を高め、ジューシーな側面を増加した。本発明の化合物によって付与された硫黄ノートは、非常に清浄であり、且つネギ臭あるいは"エキゾチックフルーツ"の内包は全くなかった。
【0037】
25質量部の50%(エチルシトレート中)の2−メチル−4−プロピル−1,3−オキサチアンの上述の組成物への添加は、実質的に該組成物の嗅覚的特性を修正した。フルーティノートは強化されたが、しかしカシスよりも"エキゾチックフルーツ"寄りであり、硫黄ノートは明らかにネギ臭であり、且つ不快であった。
【0038】
25質量部の2−ペンチル−4−プロピル−1,3−オキサチアンの上述の組成物への添加は、完全に異なる嗅覚的効果を付与し、且つ脂肪質でグリーン−キュウリのノート並びにバイオレットリーフの特性を付与した。従って前記の香水はフルーティ−カシスの特性を失い、脂肪質で不快になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式
【化1】

の化合物において、任意の1つのその立体異性体あるいはそれらの混合物の形態である化合物。
【請求項2】
請求項1に定義された、化学式(I)の化合物の芳香成分としての使用。
【請求項3】
化合物を、フルーティノートを付与するために使用することを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
芳香組成物において、
i)芳香成分として、請求項1で定義された化学式(I)の化合物と、
ii)香料担体および香料ベースからなる群から選択される少なくとも1つの成分と、
iii)随意に少なくとも1つの補助剤と
を含む組成物。
【請求項5】
着香物品において、
i)芳香成分として、請求項1で定義された化学式(I)の化合物と、
ii)消費者製品ベースと
を含む物品。
【請求項6】
消費者製品ベースが、固体あるいは液体洗浄剤、繊維柔軟剤、香水、コロンあるいはアフターシェーブローション、香り付き石けん、シャワーあるいはバスソルト、ムース、オイルあるいはジェル、衛生用品、ヘアケア用品、シャンプー、ボディケア用品、消臭剤あるいは制汗剤、空気清浄剤、化粧品、繊維除菌消臭剤、アイロン掛け用の水、紙、ワイプあるいは漂白剤であることを特徴とする、請求項5に記載の着香物品。

【公表番号】特表2009−542619(P2009−542619A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517500(P2009−517500)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際出願番号】PCT/IB2007/052263
【国際公開番号】WO2008/004145
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(390009287)フイルメニツヒ ソシエテ アノニム (146)
【氏名又は名称原語表記】FIRMENICH SA
【住所又は居所原語表記】1,route des Jeunes, CH−1211 Geneve 8, Switzerland
【Fターム(参考)】