説明

芳香族化合物の水素化

芳香族化合物を水素化させて、水素化された環状化合物を製造するためのプロセスであって、芳香族化合物を水素と反応させるための圧力および温度の条件下で、約40〜180m/gのBET表面積および約0.3〜約0.8cc/gの細孔容積を有する遷移アルミナ担体の上に析出させた4〜14重量%のNiおよび0.0から約0.9重量%までのCuを含む触媒の存在下に、好ましくは芳香族化合物および水素化された環状化合物よりも、少なくとも10°F高い沸点を有する溶媒の存在下に、芳香族化合物を水素と接触させることによるプロセスであり、例えば、ベンゼンを水素化してシクロヘキサンを製造するプロセスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物の水素化、たとえばシクロヘキサンへのベンゼンの水素化のためのプロセス、およびそのための0.9重量%までのCuを用いて変性された保持ニッケル触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサンはナイロン製品を製造するための主要な前駆体であって、そのために、それに対する需要は依然として大きい。シクロヘキサンは、最初の頃は、適当な粗製の石油精製ストリームを直接分別蒸留することによって得られていた。今日ではシクロヘキサンの大部分は、ベンゼンを直接水素化することで得られている。通常その反応は、固定床反応を用いた気相または混合相で実施されている。その反応器温度は、350〜500゜F(約176.7〜260℃)の間で調節される。温度をもっと高くすると、ベンゼンの転化率、熱分解、および副生物の増加の面で、熱力学的な限界に達する。一般的には、水素化反応器からの流出ストリーム中の副生物の量は、水素化温度またはベンゼンの転化率またはその両方が上がると共に増加する。
【0003】
ピーターソン(Peterson)は米国特許第2,373,501号において、ベンゼンをシクロヘキサンへ水素化させるための液相プロセスを開示しているが、そこでは、ベンゼンがフィードされる触媒床の頂部と実質的に純粋なシクロヘキサンが抜き出される出口との間の温度差を保持している。その温度差がつく理由は、ベンゼンの濃度が低下するにつれて、転化されるベンゼンがしだいに少なくなって、反応の発熱が変化するためである。明らかに、触媒床の頂部は、触媒床の低い部分よりも温度が高い。水素は、ベンゼン/シクロヘキサンの流れに対して、向流で供給される。反応器の内部には温度調節コイルが配されていて、反応の発熱が不十分な場合にはその温度差を保ったり、あるいは熱の放出が多すぎる場合には触媒床を冷却したりしている。ピーターソンの認識しているところでは、反応の大部分は液相で起きるが、ベンゼンおよびシクロヘキサンの一部が、特に反応器の頂部の近くで蒸発し、そこでベンゼン濃度が最大となり、転化率も最大になる。還流凝縮器が設けられていて、それが凝縮可能な物質を凝縮させて、それを反応器に戻している。そのために、反応熱のほとんどは、反応によって蒸発した反応剤の凝縮によって除去される。ピーターソンは、最頂部の触媒床よりも上に液レベルを維持しているが、反応熱を除去する凝縮器へ蒸気を逃がすだけの余地を残している。
【0004】
ラーキン(Larkin)らは、米国特許第5,189,233号において、ベンゼンをシクロヘキサンへ水素化させるための別の液相プロセスを開示している。しかしながら、ラーキンらは、反応剤を液相に維持するために高圧(2500psig、ゲージ圧で2500重量ポンド毎平方インチ)を用いている。さらに、ラーキンらは、温度および望ましくない副反応を調節するために、ベンゼンの濃度が低下するのに合わせて、次第に活性のより高い触媒を使用することを開示している。
【0005】
フイ(Hui)らは、米国特許第4,731,496号において、特定の触媒の上でベンゼンをシクロヘキサンへ水素化させるための気相プロセスを開示している。そこに報告されている触媒は、二酸化チタンおよび二酸化ジルコニウムの混合物の上に保持されたニッケルである。
【0006】
米国特許第6,750,374号には、約15〜35重量%のNiおよび約1〜15重量%のCuを含むアルミナ保持触媒を用い、最大で約15モル%までの不純物、たとえば一酸化炭素および軽質炭化水素を含む水素を使用して、ベンゼンを水素化するためのプロセスが開示されている。その触媒には、Mo、Zn、Co、Feのようなさらなる元素が含まれていてもよい。
【0007】
【特許文献1】米国特許第2,373,501号明細書
【特許文献2】米国特許第5,189,233号明細書
【特許文献3】米国特許第4,731,496号明細書
【特許文献4】米国特許第6,750,374号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、約40〜180m/gのBET表面積および約0.3〜約0.8cc/gの細孔容積を有する遷移アルミナ担体の上に析出させた、4〜14重量%のNi、好ましくは9〜10重量%のNi、ならびに最高約0.9重量%までのCu、好ましくは約0.2〜0.4重量%のCuを含む触媒の存在下に、その芳香族化合物を水素化させることによって芳香族化合物、たとえばベンゼン、アニリン、ナフタレン、フェノール、およびベンゼンポリカルボキシレートを水素化させるためのプロセスおよびそのプロセスにおいて使用される触媒である。芳香族化合物の水素化は、高沸点溶媒の存在下に実施するのが有利である。好適な溶媒は、水素化されるべき芳香族化合物および水素化された環状化合物の沸点よりも少なくとも10゜F(華氏度で10度、約5.56℃)は高い沸点を有する。高沸点溶媒を使用することのメリットは、シクロヘキサンの生産性を向上させ、触媒反応ゾーンの温度を所望の範囲に維持できることである。高沸点溶媒によって、そのニッケル触媒が銅を用いて変性されているかどうかにかかわらず、その反応系の生産性が改良される。
【0009】
シクロヘキサンの製造においては、ベンゼンを反応ストリーム中に、1〜60重量%、好ましくは3〜40重量%の量で存在させる。その水素ストリームは純水素であってもよいし、あるいは最高で5モル%までの一酸化炭素などの不純物を含んでいてもよい。その反応ストリームの中の残りの成分は、シクロヘキサン、高沸点溶媒、またはシクロヘキサンと高沸点溶媒との混合物とすることができる。高沸点溶媒を使用する場合、その溶媒が反応ストリームの10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%を占めていてもよい。その高沸点溶媒が、流出リサイクルストリームから回収されて、水素化反応器にリサイクルされてもよい。リサイクル溶媒ストリーム中のシクロヘキサン含量は、0.0〜80重量%、好ましくは0.5〜30重量%とすることができる。
【0010】
本発明にはさらに、水素化された環状化合物を製造するための芳香族化合物の水素化において使用される銅変性されたニッケル触媒が含まれるが、そのものは、約40〜180m/gのBET表面積および約0.3〜約0.8cc/gの細孔容積を有する遷移アルミナ担体の上に析出された、4〜14重量%のNiおよび約0.2〜0.4重量%のCuを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、多孔質担体の上に保持された、改良された銅変性ニッケル系触媒の存在下に、たとえばベンゼン、アニリン、ナフタレン、およびフェノールのような芳香族化合物を接触水素化するプロセスに関する。ベンゼンを水素化させることによって、シクロヘキサンが得られる。しかしながら、触媒反応器からの水素化反応生成物ストリームには、他の望ましくない副生物たとえばペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、およびメチルシクロヘキサンが含まれる。その反応生成物ストリームには通常、重量基準で最高約200ppmまでの、痕跡量のベンゼンが含まれる。高純度シクロヘキサンを製造するためには、ベンゼンを10ppm未満とするのが、極めて望ましい。一般的には、水素化反応器からの流出ストリーム中の副生物の量は、水素化温度またはベンゼンの転化率またはその両方が上がると共に増加する。特に、水素化温度が約340゜F(約171℃)を超えると、副生物の量が急激に増加する。アニリンが水素化されると、シクロヘキシルアミンが生成する。しかしながら、その望ましくない副反応が脱アミノ反応であって、ジフェニルアミンおよびトリフェニルアミンならびに各種の重質反応生成物が形成される。本発明の利点は、副生物が少ないことであって、そのために、水素化反応生成物ストリームを単蒸留するだけで、高純度のシクロヘキサン反応生成物が製造される。そのシクロヘキサン反応生成物が、フィードのベンゼンとともに入ってくる不純物は別にして、未転化のベンゼンを含む不純物を、約50ppm以下、好ましくは30重量ppm以下で含んでいるのが好ましい。水素化反応器の出口流には少量のシクロヘキセンが含まれる。シクロヘキセンは、反応器の出口流をリサイクルさせるか、あるいは顕著な量の副生物が生成しない小型の別途の反応器を使用することによって、容易に水素化をしてシクロヘキサンとすることができるので、望ましくない副生物とはみなされない。本発明によって、シクロヘキサンの生産性が顕著に改良され、その上、ベンゼンの水素化を重質溶媒(ヘビーソルベント)たとえばデカリンおよびデカンの存在下に実施した場合に、触媒反応ゾーンからの反応生成物のシクロヘキサンのストリーム中の合計した不純物の量が10ppm未満に低下する。重質溶媒を使用することのさらなるメリットは、水素のリサイクルが実質的に少なくなることである。
【0012】
この水素化反応は、各種の物理的機器、たとえば触媒蒸留カラム、固定床反応器、沸点反応器、撹拌槽反応器、液膜床反応器(トリクルベッドリアクタ)、またはそれらの各種組合せで実施することができる。ベンゼンの水素化反応は発熱反応であるので、慣用されている固定床操作のための水素化反応を、反応器の流出ストリームをリサイクルさせてフレッシュベンゼンフィードを希釈して、反応熱を希釈するようにして実施するのが好ましい。触媒蒸留反応器では反応器の出口流をリサイクルさせる必要は無いので、そのようにすることを選択してもよい。
【0013】
本発明の触媒には、好ましくは、NiおよびCu、ならびにAg、Ru、Re、Zn、MoおよびPdからなる群より選択される1種または複数の元素を含み、それらを、遷移アルミナ、たとえばガンマ、カッパ、デルタ、シータおよびアルファ形の結晶質アルミナ、またはそれらから選択される2種もしくは3種を含む混合物を含む担体の上に析出させる。その触媒の好適なニッケル含量は、約9〜10重量%であり、好適な銅含量は、約0.2〜0.4重量%である。本発明において使用される触媒は、多孔質担体の上にニッケルおよび銅を析出させることによって調製される。銅は、触媒の活性と選択性を改良するのに役立つ。その触媒には、第二の任意変性剤として、Ag、Ru、Re、Zn、Mo、およびPdから選択される1種または複数の元素が含まれていてもよい。活性金属成分の析出は、初期含浸(incipient impregnation)、スプレーコーティング含浸など、各種の方法で実施することができる。好適な担体は、約0.5mm〜約3mm、好ましくは約1mm〜約2.5mmの平均粒径を有する。
【0014】
遷移アルミナは、約850〜約1200℃で焼成することによって得られ、850〜1200℃で焼成した後に次のような物理的性質を有しているのが好ましい:約40〜約180m/g、好ましくは50〜120m/gのBET表面積、および約0.3〜約0.8cc/gの細孔容積。遷移アルミナは、デルタ、シータ、カッパ、またはガンマ、カッパ、デルタ、シータ、およびアルファの2種もしくは3種からなる混合物の結晶質アルミナである。
【0015】
本発明において好適なアルミナの物理的形状は、たとえば球状物、押出成形物、ペレット成形物、および粒状物など各種の形状であってよく、約1/4インチ(6.35mm)未満、好ましくは1/8インチ(3.175mm)未満の直径、押出成形物またはペレット成形物の場合には、約1/2インチ(12.7mm)未満の長さ、好ましくは1/4インチ(6.35mm)未満の長さであるのが好ましい。
【0016】
担体の上にニッケルを析出させることは、1回または複数回の含浸をさせることによって実施することができる。有機溶媒または水の中に、ニッケル化合物または有機ニッケル化合物を溶解させることによって、ニッケル化合物の溶液を調製する。ニッケル化合物の例としては、硝酸ニッケルなどのニッケル塩、または酢酸ニッケル、ギ酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトネート、およびニッケルアルコキシドなどの有機金属ニッケル化合物、が挙げられる。含浸生成物を乾燥させ、200℃〜600℃、好ましくは250℃〜500℃の範囲の温度で焼成する。
【0017】
ベンゼンの水素化を、沸点モードで操作される固定床反応器の中、または触媒蒸留反応器の中で実施する場合、水素化反応の熱を利用して、反応生成物のシクロヘキサンを蒸発させる。蒸発させた結果として、水素化反応ゾーンが内部冷却される。高沸点溶媒の存在下または不存在下で運転される触媒蒸留反応器からの塔頂気相ストリームには、シクロヘキサンおよび水素が含まれる。
【実施例】
【0018】
[対照例1]
市販の28重量%Ni触媒(直径1.2mmの三葉形押出成形物)で、ベンゼンを水素化する試験をした。この触媒のアルミナ担体の結晶形は、ガンマ−アルミナである。この触媒の物理的性質は、BETが113m/g、全窒素細孔容積が0.43cc/g、および平均細孔径が15nmであった。その触媒50グラムを、垂直に設置された、上向き流れのステンレス鋼製固定床反応器(直径1インチ(2.54cm)×長さ20インチ(50.8cm))の中に充填した。触媒ゾーンのそれぞれの端に2本の熱電対を取り付けて、反応器の温度を調節した。その触媒は、メーカーから活性化させた形および不動態化された形で供給され、水素ガス流れの中482゜F(250℃)での再活性化が推奨されている。その触媒の再活性化は、窒素中33容量%水素ガスの300cc/分のガス流量で、250゜F(約121℃))で1.5時間、次いで純水素ガスの350cc/分の流量で、575゜F(約301℃)で5時間かけて実施した。各種の条件下で、ベンゼンの水素化を実施した。それらの結果を表1に列記する。
【0019】
【表1】

【0020】
[実施例2]
球状ガンマ−アルミナ(直径1.68mm)担体を、1100℃で3時間かけて焼成した。焼成前のそのアルミナ球状物は、145m/gのBET表面積、0.925cc/gの全窒素容積、および21.6nmの平均細孔径を有していた。焼成後では、アルミナ球状物の直径が変化して1.45mmとなり、56m/gのBET、0.701cc/gの全窒素細孔容積、および36.2nmの平均細孔径を有していた。そのX線回折から、ほとんどがシータ−アルミナであって、少量のデルタが存在していることが判った。
【0021】
25.95グラムの水中に86.5グラムのNi(NO・2.5HOを溶解させて、硝酸ニッケルと硝酸銅の混合溶液を調製した。300グラムの焼成アルミナを回転含浸機の中に入れた。液体スプレー機を用い約15分かけて、その混合溶液を回転含浸機の中で回転しているアルミナ球状物の上にスプレーした。約200℃の熱風を吹き付けて、回転含浸機の内容物を乾燥させた。その乾燥させた生成物を、350℃で2時間かけて焼成した。
【0022】
19.5グラムの水の中に、65グラムのNi(NO・6HOおよび1.8グラムのCu(NO・2.5HOを溶解させて、第二の混合溶液を調製した。第一の含浸の場合と同様にして、第一の含浸生成物の上に、第二の含浸を実施した。その乾燥させた含浸生成物を、380℃で2時間かけて焼成した。
【0023】
使用した原料の重量を基準にすると、その仕上がった触媒には、9.22重量%のNiと0.35重量%のCuが含まれている筈である。顕微鏡でその触媒球状物を調べると、球状物の外側層に、活性な金属成分が析出していることが判った。その層の平均厚みは、約0.33mmであった。この触媒の物理的性質は、60m/gのBET、0.56cc/gの全窒素細孔容積、および39nmの平均細孔径であった。この触媒50グラムを、対照例1において使用したのと同じ反応器に充填した。その触媒を、窒素中33容量%水素ガスの300cc/分のガス流量で、250゜F(約121℃)で1.5時間、次いで純水素ガスの350cc/分の流量で通して、それぞれ670゜F(約354℃)および770゜F(410℃)で3時間かけて、活性化させた。各種の条件下で、ベンゼンの水素化を実施した。それらの結果を表2に列記する。表2に見られるように、反応器からの水素化反応生成物ストリームには、検出可能な量の副生物は一切含まれていない。この触媒の性能は、慣用されるニッケル触媒よりも優れている。
【0024】
【表2】

【0025】
[実施例3]
米国特許出願公開第2005−0033099−A1号明細書に従って、ニッケル触媒を調製した。ガンマ−アルミナ(直径1.3mm、三葉形押出成形物)を空気中約1000℃で3時間かけて焼成した。そのガンマ−アルミナは、252m/gのBET、0.571cc/gの全窒素細孔容積、および8.85nmの平均細孔径を有していた。295グラムの水中に183.6gのNi(NO・6HOを溶解させて、硝酸ニッケルの水溶液を調製した。300gの焼成アルミナ担体を回転含浸機に入れてから、硝酸ニッケルの溶液を、回転含浸機中で回転しているアルミナ押出成形物の上に注いだ。15分間冷たいままで回転させてから、回転乾燥機の中へ熱風を吹き込んで約200℃で回転含浸機中の内容物を乾燥させた。その乾燥させた生成物を、380℃で2時間かけて焼成した。この触媒を調製するために使用した硝酸ニッケルの量を基準にすると、仕上がった触媒は、アルミナ担体上に11重量%のNiを有していた。その仕上がった触媒の物理的性質を測定すると、133m/gのBET表面積、0.622cc/gの全窒素細孔容積、および18.6nmの平均細孔径を有していた。
【0026】
この触媒50グラムを、対照例1において使用したものと同じ反応器に充填した。その触媒を、実施例2と同様にして活性化させた。各種の条件下で、ベンゼンの水素化を実施した。それらの結果を表3に列記する。表3におけるこの触媒の性能データを、対照例1の表1におけるそれらと比較すると、慣用されているニッケル触媒に比較してこの触媒の性能が優れていることが判るが、ただし、実施例2における触媒ほどには良好ではなかった。
【0027】
【表3】

【0028】
[実施例4]
この例では、重質溶媒を使用せずに、反応器の出口流のリサイクルを用いてベンゼンを水素化する場合を示す。ただし、反応器へのフィードには、フレッシュなベンゼンフィードと、反応器流出ストリーム(これはシクロヘキサンである)が含まれる。この実験では、水素化のための混合フィードストリームを水素化することを示すが、ここで、その混合フィードは、1重量部のフレッシュベンゼンと3重量部の反応器の出口流リサイクルストリームとを混合して得られるストリームを表している。
【0029】
実施例2におけるものと同じ触媒(50グラム)を、対照例1において使用したのと同じ反応器に入れた。その触媒を、実施例2と同様にして活性化させた。ベンゼンとシクロヘキサンとのフィード混合物を調製した。そのフィードの組成は、0.11重量%の軽質物、25.41重量%のベンゼン、および74.48重量%のシクロヘキサンであった。各種の条件下で、ベンゼンの水素化を実施した。フィード中および反応生成物ストリーム中の不純物は、微量GC分析法を用いて分析した。結果を表4に列記する。反応生成物ストリーム中の不純物は、ほとんどは、フィード中の不純物から生じたものであった。本発明に従ったベンゼンの水素化の間に生成する各種の不純物(表4に列記)のすべて合わせた合計の量は、10ppm未満である。ベンゼンの転化率を極めて高いものとすることができたので、反応器流出ストリーム中のベンゼン含量を35重量ppm未満にまで低下させることができた。この例は、シクロヘキサンの選択率を約99.999モル%相当としながら、ベンゼンの極端に高い転化率(>99.99%)を得ることが可能であることを示している。表4の右側の2列の二つの条件におけるシクロヘキサンの生産性は、触媒1kg当たり29.2および31.8m/fur(m/fur per kg catalyst)であった。このことは、対照例1によって示された従来技術に比較して、優れた触媒性能であることを示している。
【0030】
【表4】

【0031】
[実施例5]
この実施例では、高沸点溶媒としてのデカリンの存在下においてベンゼンを水素化する場合を示すが、ここでのベンゼンからシクロヘキサンへの転化率はほぼ100%である。
【0032】
実施例2で調製した触媒50グラムを、対照例1で使用したのと同じ反応器に充填した。その触媒を、実施例2と同様にして活性化させた。フィードは、0.44重量%の軽質物、25.26重量%のベンゼン、および74.30重量%のデカリンの混合物であった。シクロヘキサンに近い温度で沸騰する、フィード中の不純物を合わせた合計量の平均値は、約14.8ppmであった。各種の条件下で、ベンゼンの水素化を実施した。フィードおよび反応生成物ストリーム中のそれらの不純物は、通常のGC分析法および微量GC分析法を用いて分析した。それらの結果を表5に列記する。各種の条件下での反応生成物中の不純物は、ほとんどは、フィード中の不純物から生じたものであった。本発明に従ったベンゼンの水素化の間に生成した各種の不純物の合計量は、100%シクロヘキサンを基準にして4重量ppm(4 ppm by weight)未満である。所定のベンゼンのフィード速度に対して、水素化反応器への水素の流量を調節することによって、反応生成物ストリーム中のトレース量のベンゼンを、反応生成物のシクロヘキサンの中では2ppm未満にまで抑制することが可能である。
【0033】
驚くべきことには、すべての反応生成物ストリームにおいて、トレース量のシクロヘキセンでさえも見いだせなかった。シクロヘキサンの生産性は、実施例4において高沸点溶媒を存在させずに水素化を実施した場合よりは、少なくとも40%は高かった。
【0034】
【表5】

【0035】
[実施例6]
この実施例では、高沸点溶媒としてのデカンの存在下における、ベンゼンの水素化を示す。ベンゼンの転化率が高く、そのために、反応生成物ストリーム中のベンゼン含量は、検出不能に近かった。
【0036】
実施例2で調製した触媒50グラムを、対照例1で使用したのと同じ反応器に充填した。その触媒を、実施例2と同様にして活性化させた。そのフィードは、0.10重量%の軽質物、30.26重量%のベンゼン、および69.64重量%のデカンの混合物であった。シクロヘキサンに近い温度で沸騰する、フィード中の不純物(ベンゼンを除く)を合わせた合計量の平均値は、約5.77ppmであった。各種の条件下で、ベンゼンの水素化を実施した。フィードおよび反応生成物ストリーム中のそれらの不純物は、通常のGC分析法および微量GC分析法を用いて分析した。結果を表6に列記する。各種の条件下での反応生成物中の不純物は、ほとんどは、フィード中の不純物から生じたものであった。本発明に従ったベンゼンの水素化の間に生成した各種の不純物の合計量は、100%シクロヘキサンを基準にして約11ppmである。シクロヘキサンの生産性は、実施例4において高沸点溶媒を存在させずに水素化を実施した場合と同等か、またはそれよりも良好であった。
【0037】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化された環状化合物を製造するために、反応ストリーム中で芳香族化合物を水素化させるためのプロセスであって、水素と芳香族化合物とを反応させるための圧力および温度の条件下で、約40〜180m/gのBET表面積および約0.3〜約0.8cc/gの細孔容積を有する遷移アルミナ担体の上に析出させた4〜14重量%のNiおよび0.0から約0.9重量%までのCuを含む触媒の存在下に、前記反応ストリームを水素と接触させる工程を含む、プロセス。
【請求項2】
前記Cu含量が約0.2〜0.4重量%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記触媒のNi含量が、約9〜10重量%である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記触媒が、Ag、Ru、Re、Zn、Mo、およびPdからなる群より選択される1種または複数の変性剤を含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記反応ストリーム中にベンゼンが1〜60重量%の量で存在し、水素化された環状化合物がシクロヘキサンを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
水素化される芳香族化合物および水素化された環状化合物よりも少なくとも10゜F高い沸点を有する溶媒の存在下に実施される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記Cu含量が約0.2〜0.4重量%である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記触媒のNi含量が、約9〜10重量%である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記触媒が、Ag、Ru、Re、Zn、Mo、およびPdからなる群より選択される1種または複数の変性剤を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
前記反応ストリーム中にベンゼンが1〜60重量%の量で存在し、水素化された環状化合物がシクロヘキサンを含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項11】
前記溶媒が、10〜90重量%の前記反応ストリームを含む、請求項6に記載のプロセス。
【請求項12】
水素化された環状化合物を製造するための、芳香族化合物の水素化において使用される銅変性されたニッケル触媒であって、約40〜180m/gのBET表面積および約0.3〜約0.8cc/gの細孔容積を有する遷移アルミナ担体の上に析出された、4〜14重量%のNiおよび約0.2〜0.4重量%のCuを含む、触媒。

【公表番号】特表2009−531426(P2009−531426A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502761(P2009−502761)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/045173
【国際公開番号】WO2007/126421
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(599003073)キャタリティック・ディスティレイション・テクノロジーズ (28)
【Fターム(参考)】