説明

芳香族化合物の製造方法

【課題】毒性が強い化合物を使用せずに、ルブレン合成の中間体となる化合物を合成するための方法を提供する。
【解決手段】遷移金属錯体の存在下で、式(3)のAr基がアルコキシ基である化合物と、Ar−Y〔Arはアリール基を表す。Yはホウ酸残基又はホウ酸エステル残基を表す。〕で表される化合物とを交差カップリング反応させる反応工程を含む、式(3):


〔R3は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。m及びnは、0〜3の整数を表す。R5は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す〕で表される芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルブレンは、有機トランジスタの材料として高い移動度を示すことが知られている。このルブレンの合成方法として、1,3−ジアリールイソベンゾフランとナフタセンキノンとを三臭化ホウ素の存在下で反応させて、中間体である6,11−ジアリール−5,12−テトラセンキノンを得、それにアリールリチウムを反応させて得られるジヒドロキシル化合物を還元する合成方法が提案されている(非特許文献1)。

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry, 1990, Vol.55, 4190.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記合成方法において、ルブレン合成の中間体となる化合物の合成で用いられる三臭化ホウ素は、毒性が強いという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、毒性が強い化合物を使用せずに、ルブレン合成の中間体となる化合物を合成するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、遷移金属錯体の存在下で、下記式(1):

〔式中、R1は、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。m及びnはそれぞれ独立に、0〜3の整数を表す。2個存在するR1は、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するR2は、同一であっても異なっていてもよい。複数存在するR3は、同一であっても異なっていてもよい。〕
で表される化合物と、下記式(2):
Ar−Y (2)
〔式中、Arはアリール基を表す。Yはホウ酸残基又はホウ酸エステル残基を表す。〕
で表される化合物とを交差カップリング反応させる反応工程を含む、下記式(3):

〔式中、R3、m及びnは前記と同じ意味を有する。R4はAr又は−OR1で表される基を表す。Ar及びR1は前記と同じ意味を有する。R5は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。2個存在するR5は、同一であっても異なっていてもよい。〕
で表される芳香族化合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法を用いることにより、毒性が強い化合物を使用せずに、ルブレン合成の中間体となる化合物を合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を説明する。
なお、本明細書において、Meはメチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0009】
<第一の製造方法>
本発明の第一の製造方法は、遷移金属錯体の存在下で、前記式(1)で表される化合物と、前記式(2)で表される化合物とを交差カップリング反応させる反応工程を含む、前記式(3)で表される芳香族化合物の製造方法である。
【0010】
・式(1)で表される化合物
前記式(1)中、R1で表されるアルキル基は、直鎖、分岐又は環状であり、炭素数が通常1〜20である。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。アルキル基は、直鎖アルキル基が好ましく、炭素数1〜12の直鎖アルキル基がより好ましく、炭素数1〜6の直鎖アルキル基が特に好ましい。R1で表されるアルキル基は、シリル基等の置換基を有していてもよい。
【0011】
前記式(1)中、R1で表されるアリール基は、炭素数が通常6〜60であり、好ましくは6〜14であり、より好ましくは6〜10である。前記アリール基としては、フェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基(「C1〜C12アルキル」は、アルキル部分の炭素数が1〜12であることを意味する。以下、同様である。)、C1〜C12アルコキシフェニル基(「C1〜C12アルコキシ」は、アルコキシ部分の炭素数が1〜12であることを意味する。以下、同様である。)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基等が挙げられる。R1で表されるアリール基は、置換基を有していてもよい。
【0012】
前記式(1)中、R1としては、反応速度が速い観点から、アルキル基が好ましい。
【0013】
前記式(1)中、R2、R3で表されるアルキル基、アリール基は、R1で表されるアルキル基、アリール基として説明し例示したものと同じである。
【0014】
前記式(1)中、R2、R3で表されるアルコキシ基は、直鎖、分岐又は環状であり、炭素数が通常1〜20である。前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。アルコキシ基は、直鎖アルコキシ基が好ましく、炭素数1〜12の直鎖のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜6の直鎖のアルコキシ基が特に好ましい。R2、R3で表されるアルコキシ基は、置換基を有していてもよい。
【0015】
前記式(1)中、R2、R3としては、合成の容易さの観点から、水素原子が好ましい。
【0016】
前記式(1)中、m及びnは、有機トランジスタ材料として用いたときの移動度の観点から、好ましくは0又は1であるが、m=1、かつ、n=0であることがより好ましい。
【0017】
前記式(1)で表される化合物としては、以下の化合物が挙げられる。

【0018】
なお、前記式(1)で表される化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0019】
・式(2)で表される化合物
前記式(2)中、Arで表されるアリール基は、炭素数が通常6〜60であり、好ましくは6〜14であり、より好ましくは6〜10である。前記アリール基としては、フェニル基、C1〜C12アルキルフェニル基、C1〜C12アルコキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基等が挙げられ、反応速度の観点から、フェニル基が好ましい。Arで表されるアリール基は、置換基を有していてもよい。
【0020】
前記式(2)中、Yで表されるホウ酸残基は、−B(OH)2で表される基である。
【0021】
前記式(2)中、Yで表されるホウ酸エステル残基としては、ジアルキルエステル残基、ジアリールエステル残基、ジアリールアルキルエステル残基、下記式で表される基が挙げられる。

【0022】
前記式(2)で表される化合物としては、以下の化合物が挙げられる。

【0023】
前記式(2)で表される化合物の使用量は、前記式(1)で表される化合物1モルに対して、通常、2〜100モルであり、好ましくは2〜40モルである。
【0024】
なお、前記式(2)で表される化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0025】
・式(3)で表される化合物
前記式(3)中、R3で表されるアリール基、m及びnは、前記式(1)の項で、R1で表されるアリール基、m及びnとして説明し例示したものと同じである。
【0026】
前記式(3)中、R4としては、前記式(3)で表される化合物の対称性の観点から、Arが好ましい。
【0027】
前記式(3)中、R5で表されるアルキル基、アルコキシ基、アリール基は、前記式(1)の項で、R3で表されるアルキル基、アルコキシ基、アリール基として説明し例示したものと同じである。
【0028】
前記式(3)中、Arで表されるアリール基は、前記式(2)の項で、Arで表されるアリール基として説明し例示したものと同じである。
【0029】
前記式(3)で表される化合物としては、以下の化合物が挙げられる。

【0030】
・遷移金属錯体
前記遷移金属錯体は、炭素−酸素結合への酸化的付加反応に対する活性の高さの観点から、8〜10族の遷移金属錯体が好ましく、ルテニウム錯体、ロジウム錯体がより好ましく、ルテニウム錯体がさらに好ましい。
【0031】
前記ルテニウム錯体としては、RuH2(PPh3)4、RuH2(CO)(PRa3)3(Raは、アルキル基又はアリール基を表す。)、RuHX(CO)(PPh3)3(Xは、ハロゲン原子を表す。)、Ru(CH2=CH2)(PPh3)3(エチレントリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム)、RuH2(H2)2(PRb3)2(Rbは、アルキル基を表す。)、[Ru(η6−C6C6)Cl2]2とPRd3とHCO2Naの三成分触媒系(Rcは、水素原子又はアルキル基を表す。Rdは、アルキル基又はアリール基を表す。)等が挙げられ、炭素−酸素結合への酸化的付加反応に対する活性の高さの観点から、RuH2(CO)(PPh3)3(ジヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム)が好ましい。
【0032】
前記ロジウム錯体としては、(η5−C5Me5)Rh(C23SiRe3)2(Reは、アルキル基を表す。)等が挙げられる。
【0033】
遷移金属錯体の使用量は、前記式(1)で表される化合物1モルに対して、通常、0.001〜0.5モルであり、好ましくは0.01〜0.2モルである。
【0034】
なお、遷移金属錯体は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0035】
・その他の成分
第一の製造方法において、前記反応工程では、その他の成分として、下記式(4):

〔式中、R6a、R6b及びR6cはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基若しくは置換シリル基を表すか、又は、R6a及びR6bは互いに結合して環を形成していてもよい。〕
で表される化合物を併用してもよく、前記式(1)で表される化合物にone-potの反応で同時に複数の置換基を導入できるので、前記式(4)で表される化合物を併用する(即ち、前記式(1)で表される化合物、前記式(2)で表される化合物、及び前記式(4)で表される化合物を反応させる)ことが好ましい。
【0036】
前記式(1)で表される化合物、前記式(2)で表される化合物、及び前記式(4)で表される化合物を反応させる場合、前記式(1)中の2個のR2が水素原子であり、かつ、前記式(3)中の2個のR5は、一方が水素原子又は−CHR6aCHR6b6cで表される基(式中、R6a、R6b及びR6cは、前記と同じ意味を有する。)であり、他方が−CHR6aCHR6b6cで表される基であることが必要であるが、得られる芳香族化合物を有機トランジスタの製造に用いた場合の移動度の観点から、2個のR5が−CHR6aCHR6b6cで表される基であることが好ましい。
【0037】
前記式(4)中、R6a、R6b、R6cで表されるアルキル基、アリール基は、前記式(1)の項において、R1で表されるアルキル基、アリール基として説明し例示したものと同じである。
【0038】
6a、R6b、R6cで表される置換シリル基は、炭素数が、好ましくは1〜60であり、より好ましくは3〜48である。前記置換シリル基としては、アルキル基、アルコキシ基及びアリール基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基で置換されたシリル基が挙げられ、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリ−i−プロピルシリル基、フェニルジメチルシリル基、トリエトキシシリル基、トリフェニルシリル基が好ましい。
【0039】
前記式(4)で表される化合物としては、以下の化合物が挙げられる。

【0040】
前記式(4)で表される化合物の使用量は、前記式(1)で表される化合物1モルに対して、通常、2〜100モルであり、好ましくは2〜40モルである。
【0041】
なお、前記式(4)で表される化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0042】
反応温度は、通常、20〜200℃であり、好ましくは50℃〜160℃であるが、前記式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物に加えて、前記式(4)で表される化合物を反応させる場合には、40℃〜還流温度付近が好ましく、還流温度付近がより好ましい。この場合、加熱の手段として、マイクロウェーブ照射を用いることが、反応速度、収率の観点から好ましい。マイクロウェーブ照射では、出力を1〜500Wとすることが好ましく、10〜200Wとすることがより好ましい。なお、マイクロウェーブ照射は、前記式(1)で表される化合物、前記式(2)で表される化合物及び前記式(4)で表される化合物をマイクロウェーブ用反応容器に入れて密封した後、該反応容器をマイクロウェーブ反応装置に入れて行うことができる。
【0043】
反応時間は、通常、0.5分〜200時間であり、好ましくは3分〜50時間である。
【0044】
前記反応は、無溶媒で行っても溶媒の存在下で行ってもよいが、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒を使用する場合、その溶媒は反応不活性であればよく、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられ、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒が好ましい。
【0045】
前記反応は、空気中で行っても、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、窒素、アルゴン等不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、用いる反応容器も、予め乾燥させておくことが好ましい。
【0046】
次に、具体的な反応操作を説明する。
まず、不活性ガスで反応容器全体のガスを置換した後、この容器に遷移金属錯体、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、及び溶媒を添加し、攪拌しながら、混合する。得られた混合物を加熱、還流しながら、攪拌して反応させる。反応が終了したら、得られた反応生成物をそのまま濃縮することにより、或いは、反応生成物を水中に入れ、トルエン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン等の有機溶媒を用いて抽出した後、得られた有機層を濃縮することにより、所望である式(3)で表される芳香族化合物が得られる。更に、この芳香族化合物を、カラムクロマトグラフィー、抽出、再結晶又は蒸留により精製してもよい。
【0047】
<第二の製造方法>
本発明の第二の製造方法は、本発明の第一の製造方法における反応工程の後に、該反応工程で得られた化合物と前記式(4)で表される化合物とを反応させる後反応工程を含む、前記式(3)で表される芳香族化合物の製造方法である。後反応工程では、先の反応工程で得られた化合物をそのまま用いてもよいし、先の工程で得られた化合物を精製してから用いてもよい。なお、反応条件等は、第一の製造方法と同じ条件を適用することができるが、前記反応工程及び前記後反応工程の少なくとも一工程がマイクロウェーブ加熱方式で行われることが好ましい。
【0048】
<ルブレン類の製造>
本発明の製造方法により得られた前記式(3)で表される芳香族化合物を用いることにより、Journal of Organic Chemistry, 1990, Vol.55, 4190.等の公知の方法にて、所望とする置換基を有したルブレン類を容易に製造することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0050】
<実施例1>(6,11−ジ−p−トリルテトラセン−5,12−ジオンの合成)

温熱乾燥機中で十分乾燥させた二口フラスコにテフロン(登録商標)コーティングした磁気撹拌子を入れ、吹き込み管と還流冷却管とを取り付けた。反応装置を真空/窒素ラインに繋ぎ、反応装置全体を窒素置換した。反応装置を窒素雰囲気下で室温まで冷却した後、RuH2(CO)(PPh3)3 (91.7 mg、 0.1 mmol)、6,11-ジメトキシテトラセン-5,12-ジオン(0.159 g、 0.5 mmol)、脱水トルエン1.5 mLを加えた。次いで、還流条件下で24時間反応させた。得られた反応溶液を室温まで放冷後、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、収率86% (0.118 g、 0.43 mmol)で6,11-ジ-p-トリルテトラセン-5,12-ジオンを得た。
【0051】
<参考例1>(5,12−ジフェニル−6,11−ジ−p−トリル−5,12−ジヒドロテトラセン−5,12−ジオールの合成)

温熱乾燥機中で十分乾燥させた二口フラスコにテフロン(登録商標)コーティングした磁気撹拌子を入れ、吹き込み管を取り付けた。反応装置を真空/窒素ラインに繋ぎ、反応装置全体を窒素置換した。反応装置を窒素雰囲気下で室温まで冷却した後、6,11-ジ-p-トリルテトラセン-5,12-ジオン(0.0438 g、 0.1 mmol)、脱水THF(1 mL)を加えた。得られた反応溶液を-78 ℃に冷却した後、反応溶液中にフェニルリチウムのn-ヘキサン溶液(1.6 M、 0.63 mL、 1 mmol)を加えた。次いで、反応溶液を室温まで昇温させ、反応させた。その後、反応溶液に1 Mの塩酸1 mLを0 ℃で加えた。分液操作を行うことにより5,12−ジフェニル−6,11−ジ−p−トリル−5,12−ジヒドロテトラセン−5,12−ジオールを得た。
【0052】
<参考例2>(5,12−ジフェニル−6,11−ジ−p−トリル−5,12−ジヒドロテトラセン−5,12−ジオールの合成)
温熱乾燥機中で十分乾燥させた二口フラスコにテフロン(登録商標)コーティングした磁気撹拌子を入れ、吹き込み管を取り付けた。反応装置を真空/窒素ラインに繋ぎ、反応装置全体を窒素置換した。反応装置を窒素雰囲気下で室温まで冷却した後、脱水THF(1 mL)、フェニルリチウムのn-ヘキサン溶液(1.03 M、 0.97 mL、 1 mmol)を加えた。得られた反応溶液を-78℃に冷却した後、6,11-ジ-p-トリルテトラセン-5,12-ジオン(0.0438 g、 0.1 mmol)を加えた。次いで、反応溶液を室温まで昇温させ、反応させた。その後、反応溶液に1 Mの塩酸1 mLを0 ℃で加えた。分液操作行うことにより5,12−ジフェニル−6,11−ジ−p−トリル−5,12−ジヒドロテトラセン−5,12−ジオールを得た。
【0053】
<参考例3>(5,12-ジフェニル-6,11-ジ-p-トリルテトラセンの合成)

温熱乾燥機中で十分乾燥させた二口フラスコにテフロン(登録商標)コーティングした磁気撹拌子を入れ、吹き込み管を取り付けた。反応装置を真空/窒素ラインに繋ぎ、反応装置全体を窒素置換した。反応装置を窒素雰囲気下で室温まで冷却した後、5,12-ジフェニル-6,11-ジ-p-トリル-5,12-ジヒドロテトラセン-5,12-ジオール、NaI、NaH2PO2、酢酸を加えた。得られた反応溶液を還流させながら、1時間反応させた。室温まで放冷後、低沸点物を減圧下で濃縮した。次いで、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、5,12-ジフェニル-6,11-ジ-p-トリルテトラセンが得られた。5,12-ジフェニル-6,11-ジ-p-トリルテトラセンの生成は、マススペクトルで確認した。
【0054】
<実施例2>(6,11-ジフェニル-1,4-ビス(2-(トリエチルシリル)エチル)テトラセン-5,12-ジオンの合成)

5 mL二つ口フラスコ、テフロン(登録商標)コーティングした磁気撹拌子、還流冷却管、吹き込み管を定温乾燥機に入れ、加熱した。その後、定温乾燥機から取り出したフラスコに磁気撹拌子を入れ、還流冷却管、吹き込み管を取り付けた。吹き込み管を減圧/窒素ラインに繋ぎ反応装置全体を窒素置換した。反応装置を窒素雰囲気下で室温まで冷却した後、6,11-ジメトキシテトラセン-5,12-ジオン(159.2 mg、 0.50 mmol)、フェニルボロン酸エステル(475.2 mg、 2.5 mmol)、RuH2(CO)(PPh3)3錯体(91.8 mg、 0.10 mmol)を加えた。反応装置全体を窒素置換した後、トルエン(1.5 mL)、トリエチルビニルシラン(0.50 mL、 2.5 mmol)を加えた。次いで、二つ口フラスコをオイルバスで加熱し、還流させながら、24時間反応させた。得られた生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(内径:30 mm、カラム長:160 mm、溶離液:ヘキサン/ジクロロメタン=5/1)で単離したところ、収率82%で6,11-ジフェニル-1,4-ビス(2-(トリエチルシリル)エチル)テトラセン-5,12-ジオンを得た。
1H NMR (CDCl3) δ 0.41-0.55 (q, J = 7.8 Hz, 12H, -Si(CH2CH3)3), 0.74-0.84 (m, 4H, -CH2CH2Si(CH2CH3)3), 0.87-0.96 (t, J = 7.8 Hz, 18H, -Si(CH2CH3)3), 2.60-2.71 (m, 4H, -SiCH2CH2Ar), 7.32 (s, 2H, ArH), 7.34-7.40 (m, 4H, ArH), 7.42-7.48 (m, 2H, ArH), 7.48-7.57 (m, 6H, ArH), 7.58-7.66 (m, 2H, ArH) ppm
13C NMR (CDCl3) δ 3.2, 7.5, 14.4, 27.9, 127.2, 128.0, 128.3, 129.8, 130.9, 134.1, 134.5, 135.2, 138.5, 140.0, 143.9, 189.4 ppm
HRMS (ESI): m/z calcd for [M+Na]+ (C46H54NaO2Si2): 717.3560. Found: 717.3558.
【0055】
<参考例4>(5,6,11,12-テトラフェニル-1,4-ビス(2-(トリエチルシリル)エチル)-5,12-ジヒドロテトラセン-5,12-ジオールの合成)

5 mL二つ口フラスコ、テフロン(登録商標)コーティングした磁気撹拌子、吹き込み管を定温乾燥機に入れ、加熱した。その後、定温乾燥機から取り出したフラスコに磁気撹拌子を入れ、吹き込み管を取り付けた。吹き込み管を減圧/窒素ラインに繋ぎ、反応装置全体を窒素置換した。反応装置を窒素雰囲気下で室温まで冷却した後、脱水THF(1.0 mL)、フェニルリチウムのシクロヘキサン溶液、ジエチルエーテル溶液(1.03 M、 0.97 mL、 1.0 mmol)を加えた。反応装置を-78℃に冷却した後、6,11-ジフェニル-1,4-ビス(2-(トリエチルシリル)エチル)テトラセン-5,12-ジオン(69.5 mg、 0.10 mmol)を加えた。得られた反応溶液を室温まで昇温させ、一晩反応させた。その後、得られた反応溶液に希塩酸水溶液を0℃で加え、溶液を酸性にした。この溶液をジクロロメタンで抽出することにより、5,6,11,12-テトラフェニル-1,4-ビス(2-(トリエチルシリル)エチル)-5,12-ジヒドロテトラセン-5,12-ジオールを得た。
【0056】
<参考例5>(5,6,11,12-テトラフェニル-1,4-ビス(2-(トリエチルシリル)エチル)-テトラセンの合成)

50 mLシュレンク管に磁気撹拌子、5,6,11,12-テトラフェニル-1,4-ビス(2-(トリエチルシリル)エチル)-5,12-ジヒドロテトラセン-5,12-ジオール、THF(10 mL)、HI水溶液(55重量%、 1.0 mL)を加えた。このシュレンク管にガラス栓を取り付けて密封した後、75℃で3時間反応を行った。その後、得られた溶液を室温まで冷却し、チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えた。こうして得られた溶液をジクロロメタンで抽出することにより、5,6,11,12-テトラフェニル-1,4-ビス(2-(トリエチルシリル)エチル)-テトラセンを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属錯体の存在下で、下記式(1):

〔式中、R1は、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。R2及びR3はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。m及びnはそれぞれ独立に、0〜3の整数を表す。2個存在するR1は、同一であっても異なっていてもよい。2個存在するR2は、同一であっても異なっていてもよい。複数存在するR3は、同一であっても異なっていてもよい。〕
で表される化合物と、下記式(2):
Ar−Y (2)
〔式中、Arはアリール基を表す。Yはホウ酸残基又はホウ酸エステル残基を表す。〕
で表される化合物とを交差カップリング反応させる反応工程を含む、下記式(3):

〔式中、R3、m及びnは前記と同じ意味を有する。R4はAr又は−OR1で表される基を表す。Ar及びR1は前記と同じ意味を有する。R5は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表す。2個存在するR5は、同一であっても異なっていてもよい。〕
で表される芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記式(1)中の2個のR2が水素原子であり、かつ、前記式(3)中の2個のR5は、一方が水素原子又は−CHR6aCHR6b6cで表される基(式中、R6a、R6b及びR6cはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基若しくは置換シリル基を表すか、又は、R6a及びR6bは互いに結合して環を形成していてもよい。)であり、他方が−CHR6aCHR6b6cで表される基である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
2個のR5が−CHR6aCHR6b6cで表される基である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程において、更に、下記式(4):

〔式中、R6a、R6b、R6cは、前記と同じ意味を有する。〕
で表される化合物を付加反応させる請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程が、還流温度付近で行われる請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応工程の後に、該反応工程で得られた化合物と前記式(4)で表される化合物とを反応させる後反応工程を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応工程及び前記後反応工程の少なくとも一工程がマイクロウェーブ加熱方式で行われる請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
4がArで表される基である請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
m=1、n=0である請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記遷移金属錯体が8〜10族の遷移金属錯体である請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記8〜10族の遷移金属錯体がルテニウム錯体である請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ルテニウム錯体がRuH2(CO)(PPh3)3である請求項11に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−173995(P2010−173995A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21271(P2009−21271)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】