説明

芳香族化合物の製造方法

【課題】 本発明の課題は、温和な条件下、簡便な方法にて、ハロゲン化芳香族化合物から芳香族化合物を製造する方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、金属触媒の存在下、一般式(1)
【化1】


(式中、Arは置換基を有していても良い、アリール基又はヘテロアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で示されるハロゲン化芳香族化合物と金属水素化物とを反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】


(式中、Arは前記と同義である。)
で示される芳香族化合物の製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化芳香族化合物から他の官能基に影響を及ぼすことなく、選択的に芳香族化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハロゲン化芳香族化合物を脱ハロゲン化して芳香族化合物を製造する方法としては、例えば、パラジウム/炭素の存在下、ハロゲン化芳香族化合物と水素ガスとをアルコール溶媒中にて反応させる方法(例えば、非特許文献1参照)、無機固体酸にアミンを介して担持させた塩化パラジウムの存在下、ハロゲン化芳香族化合物と水素とを反応させる方法(例えば、非特許文献2参照)、ハロゲン化芳香族化合物、ナノサイズに調整した高活性水素化ナトリウム、酢酸ニッケル及びアルコラートを反応させる方法(例えば、非特許文献3参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Tetrahedron.62,7926(2006)
【非特許文献2】Tetrahedron Lett.,30(2),251(1989)
【非特許文献3】Chinese Science Bulletin,42(11),966(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法では、脱ハロゲン化反応としては非常に過酷であり、芳香族化合物の環上に他の官能基が存在する場合には、それらが脱離する恐れがあるため、温和な条件下で脱ハロゲン化して芳香族化合物を得る工業的に有利な製造方法が望まれていた。
【0005】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、温和な条件下、簡便な方法にて、ハロゲン化芳香族化合物から芳香族化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、金属触媒の存在下、金属触媒の存在下、一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Arは置換基を有していても良い、アリール基又はヘテロアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で示されるハロゲン化芳香族化合物と金属水素化物とを反応させることを特徴とする、一般式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Arは前記と同義である。)
で示される芳香族化合物の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ハロゲン化芳香族化合物から他の官能基に影響を及ぼすことなく、選択的に芳香族化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の反応において使用するハロゲン化合物は、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Arは置換基を有していても良い、アリール基又はヘテロアリール基を示すが、アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられ、ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、ピロール基、チオフェニル基、フリル基、ピラゾリル基等のヘテロアリール基が挙げられる。又、Xはハロゲン原子であるが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0013】
なお、Ar(芳香族環)上の任意の水素原子は置換されていても良く、その置換基としては、炭素原子を介して出来る置換基、酸素原子を介して出来る置換基、窒素原子を介して出来る置換基、硫黄原子を介して出来る置換基が挙げられる。
【0014】
前記炭素原子を介して出来る置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロブチル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基等のアルケニル基;ピロリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等の複素環基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等のアリール基;ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、アクリロイル基、ピバロイル基、シクロヘキシルカルボニル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、トルオイル基等のアシル基(アセタール化されていても良い);カルボキシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;フェノキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基;トリフルオロメチル基等のハロゲン化アルキル基;シアノ基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0015】
前記酸素原子を介して出来る置換基としては、例えば、ヒドロキシル基;メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基、ペンチルオキシル基、ヘキシルオキシル基、ヘプチルオキシル基、ベンジルオキシル基等のアルコキシル基;フェノキシル基、トルイルオキシル基、ナフチルオキシル基等のアリールオキシル基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0016】
前記窒素原子を介して出来る置換基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロへキシルアミノ基、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基等の第一アミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の第二アミノ基;モルホリノ基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、ピラゾリジニル基、ピロリジノ基、インドリル基等の複素環式アミノ基;イミノ基が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0017】
前記硫黄原子を介して出来る置換基としては、例えば、メルカプト基;チオメトキシル基、チオエトキシル基、チオプロポキシル基等のチオアルコキシル基;チオフェノキシル基、チオトルイルオキシル基、チオナフチルオキシル基等のチオアリールオキシル基等が挙げられる。なお、これらの基は、各種異性体を含む。
【0018】
本発明の反応において使用する金属触媒としては、パラジウム、白金及びニッケルからなる群より選ばれる少なくともひとつの金属原子を含むものであり、具体的には、例えば、パラジウム/炭素、パラジウム/硫酸バリウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム、酸化パラジウム/白金、白金/炭素、硫化白金/炭素、パラジウム−白金/炭素、酸化白金、ラネーニッケル、塩化ニッケルビストリフェニルホスフィン等が挙げられる。なお、これらの金属触媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0019】
前記金属触媒の使用量は、金属原子換算で、ハロゲン化合物に1モル対して、好ましくは0.0005〜0.5モル、更に好ましくは0.001〜0.1モルである。
【0020】
本発明の反応において使用する金属水素化物量の量は、ハロゲン化合物に1モル対して、好ましくは0.9〜10モル、更に好ましくは1.0〜3.0モルである。
【0021】
本発明の反応は、例えば、不活性ガス雰囲気にて、ハロゲン化物、金属触媒、金属水素化物および溶媒を混合し、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは0〜200℃、更に好ましくは1〜150℃であり、反応圧力は制限されない。
【0022】
前記溶媒としては、反応を阻害しないものなら特に限定されないが、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはエーテル類が使用される。なお、これらの有機溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0023】
前記有機溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、ハロゲン化合物1gに対して、好ましくは0〜50g使用される。
【0024】
本発明の反応おいて得られる芳香族化合物は、反応終了後、例えば、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。
【実施例】
【0025】
次に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0026】
実施例1(ベラトロールの合成)
攪拌器を備えた30mlナスフラスコに、4−ブロモベラトロール1.0g(4.6mmol)を加えた後、1,4−ジオキサン10ml、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウムを42mg(0.046mmol)、60%水素化ナトリウム0.40g(9.2mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、4時間還流させた。反応終了後、水またはメタノールでクエンチし、セライト濾過した。高速液体クロマトグラフィー(絶対定量)で分析したところ、ベラトロールが0.587g生成していた(反応収率;92.2%)。
【0027】
実施例2(ベラトロールの合成)
実施例1において、水素化ナトリウムの量を0.60g(13.8mmol)に変更したこと以外は同様に実験したところ、ベラトロールが0.601g生成した(反応収率;94.4%)。
【0028】
実施例3(ベラトロールの合成)
実施例1において、水素化ナトリウムの量を0.60g(13.8mmol)に、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウムの代わりに塩化パラジウムを41mg(0.23mmol)に変更した以外は同様に実験したところ、ベラトロールが0.363g生成した(反応収率;57.1%)。
【0029】
実施例4(ベラトロールの合成)
実施例1において、水素化ナトリウムの量を0.60g(13.8mmol)に、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウムの代わりに4.7重量%パラジウム/炭素を104mg(0.046mmol)に変更した以外は同様に実験したところ、ベラトロールが0.556g生成した(反応収率;87.3%)。
【0030】
実施例5(ベラトロールの合成)
実施例1において、水素化ナトリウムの量を0.60g(13.8mmol)に、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウムの代わりに酢酸パラジウムを52mg(0.23mmol)に変更した以外は同様に実験したところ、ベラトロールが0.621g生成した(反応収率;97.6%)。
【0031】
実施例6(ベラトロールの合成)
実施例1において、水素化ナトリウムの量を0.60g(13.8mmol)に、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウムの代わりに塩化ニッケルを30mg(0.23mmol)に変更した以外は同様に実験したところ、ベラトロールが0.859g生成した(反応収率;16.7%)。
【0032】
実施例7(ベラトロールの合成)
実施例1において、水素化ナトリウムの量を0.60g(13.8mmol)に、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウムの代わりにジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルを151mg(0.23mmol)に変更した以外は同様に実験したところ、ベラトロールが0.109g生成した(反応収率;17.1%)。
【0033】
実施例8(ベラトロールの合成)
実施例1において、水素化ナトリウムを水素化ホウ素ナトリウム0.57g(13.8mmol)に、トリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウムの代わりに4.7質量%パラジウム/炭素を104mg(0.046mmol)に変更した以外は同様に実験したところ、ベラトロールが0.152g生成した(反応収率;23.9%)
【0034】
実施例9(アニソールの合成)
攪拌器を備えた30mlナスフラスコに4−ブロモアニソール1.0g(5.35mmol),1,4−ジオキサン10ml、酢酸パラジウムを60mg(0.27mmol)、水素化ナトリウム0.47g(10.7mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、5時間還流させた。反応終了後、水またはメタノールでクエンチし、セライト濾過した。高速液体クロマトグラフィー(絶対定量)で分析したところ、アニソールが0.569g生成していた(反応収率;98.4%)。
【0035】
実施例10(アニソールの合成)
攪拌器を備えた30mlナスフラスコに、4−クロロアニソール1.0g(7.0mmol)を加えた後、1,4−ジオキサン10ml、酢酸パラジウムを79mg(0.35mmol)、水素化ナトリウム0.61g(14mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、5時間還流させた。反応終了後、水またはメタノールでクエンチし、セライト濾過した。高速液体クロマトグラフィー(絶対定量)で分析したところ、アニソールが0.371g生成していた(反応収率;48.9%)
【0036】
実施例11(ベンジルフェニルエーテルの合成)
攪拌器を備えた30mlナスフラスコに、4−ブロモフェニルベンジルエーテル1.0g(3.8mmol)、1,4−ジオキサン10ml、4.7質量%パラジウム/炭素を172mg(7.6×10−3mmol)、水素化ナトリウム0.33g(7.6mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、4時間還流させた。反応終了後、水またはメタノールでクエンチし、セライト濾過した。高速液体クロマトグラフィー(絶対定量)で分析したところ、ベンジルフェニルエーテルが0.277g生成していた(反応収率;39.6%)。
【0037】
実施例12(ベンジルフェニルエーテルの合成)
攪拌器を備えた30mlナスフラスコに、4−ブロモフェニルベンジルエーテル1.0g(3.8mmol)、1,4−ジオキサン10ml、4.7質量%パラジウム/炭素を172mg(7.6×10−3mmol)、水素化ナトリウム0.27g(6.1mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、50℃、8時間反応させた。反応終了後、水またはメタノールでクエンチし、セライト濾過した。高速液体クロマトグラフィー(絶対定量)で分析したところ、ベンジルフェニルエーテルが0.529g生成していた(反応収率;75.5%)。
【0038】
実施例13(ベンジルフェニルエーテルの合成)
攪拌器を備えた30mlナスフラスコに、4−ブロモフェニルベンジルエーテル1.0g(3.8mmol)、1,4−ジオキサン10ml、4.7質量%パラジウム/炭素を172mg(7.6×10−3mmol)、水素化ナトリウム0.25g(5.7mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温4.5時間反応させた。反応終了後、水またはメタノールでクエンチし、セライト濾過した。高速液体クロマトグラフィー(絶対定量)で分析したところ、ベンジルフェニルエーテルが0.535g生成していた(反応収率;76.4%)。
【0039】
実施例14(スチレンの合成)
攪拌器を備えた30mlナスフラスコに、4−ブロモスチレン1.0g(5.46mmol)、1,4−ジオキサン15ml、4.7質量%パラジウム/炭素を247mg(1.1×10−3mmol)、水素化ナトリウム0.48(10.9mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、18時間還流させた。反応終了後、アセトニトリルでセライト濾過した。高速液体クロマトグラフィー(絶対定量)で分析したところ、スチレンが0.232g生成していた(反応収率;40.8%)。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、ハロゲン化芳香族化合物から他の官能基に影響を及ぼすことなく、選択的に芳香族化合物を製造する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒の存在下、一般式(1)
【化1】

(式中、Arは置換基を有していても良い、アリール基又はヘテロアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で示されるハロゲン化芳香族化合物と金属水素化物とを反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】

(式中、Arは前記と同義である。)
で示される芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
金属触媒の金属が、パラジウム及び白金からなる群より選ばれる少なくともひとつの金属原子を含むものである請求項1記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
金属水素化物が、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、水素化マグネシウム、ジボラン、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウム及び水素化ジイソブチルアルミニウムからなる群より選ばれる少なくともひとつを含むものである請求項1記載の芳香族化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−222291(P2010−222291A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70662(P2009−70662)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】