説明

芳香族化合物転換プロセスに有効な触媒処理

トランスアルキル化触媒を調製する方法、その触媒自体、及び上記触媒を使用するためのトランスアルキル化プロセスが、ここで開示される。上記触媒には、350℃よりも高い温度を含んだ実質的乾燥還元条件下で、硫黄系基剤及び/または還元剤によって処理された、モルデナイトなどの固体酸担体上のレニウム金属が含まれる。上記処理は、トランスアルキル化プロセスにおいて金属水素化分解によって生成されたメタンの量を減少させ、ここでA9+などの重質芳香族化合物をトルエンと反応させてキシレンを生成する。軽質端部ガス生成量全体に対してメタンの生成量が減れば、結果的に水素の消費は低下し、そして反応器の発熱も低下する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素の接触転換に関し、より具体的には、C9+化合物などの重質芳香族化合物とトルエンを用いてキシレンを生成するためのトランスアルキル化のための金属安定化固体酸触媒の使用に関するものである。レニウムを含有するゼオライト系触媒を硫黄で前処理することによって、望ましくないメタンの生成が減少した。
【背景技術】
【0002】
キシレン異性体であるパラキシレン、メタキシレン及びオルトキシレンは、化学合成において広範かつ多様な用途に使用できる重要な中間体である。パラキシレンは酸化によって、合成紡織繊維及び樹脂の製造に使用されるテレフタル酸を生成する。メタキシレンは可塑剤、アゾ染料、木材保存剤等の製造に使用される。オルトキシレンは、無水フタル酸製造のための原料である。
【0003】
接触改質または他の供給源に由来するキシレン異性体は、通常化学中間体としての需要率に適合せず、さらにキシレン異性体には、分離または転換が困難なエチルベンゼンが含まれる。パラキシレンは、特に需要が急速に高まっている主要な化学中間体であるが、総計で、標準的C8芳香族化合物ストリームのわずか20〜25%にしかならない。上記芳香族炭化水素の内、キシレンの全体的重要性は、工業化学原料としてのベンゼンのそれと競合する。ナフサの改質による石油からの生成では、需要を満たすのに十分なだけの量のキシレンまたはベンゼンは生成されず、キシレン及びベンゼンの生成量を増加させるために他の炭化水素の転換が必要となる。しばしばトルエン(C7)を脱アルキル化してベンゼン(C6)を生成、または選択的に不均衡化させてベンゼン及びC8芳香族化合物を生成し、そこから個々のキシレン異性体が回収される。
【0004】
多くの芳香族化合物複合体の現在の課題は、キシレンの生成量を増大させ、ベンゼンの生成にあまり重きを置かないということである。キシレン誘導体に対する需要は、ベンゼン誘導体に対しての需要よりも急速に高まっている。先進工業国においては、精製装置を改良することでガソリンのベンゼン含有量の減少に効果を生み出しており、これによって需要に合うようにベンゼンの供給が増加するだろう。従ってベンゼンの生成量を低下させてキシレンの生成量を増加させることは都合のよい課題であって、キシレンの生成量を増加させるために、ベンゼン及びトルエンを用いてC9及び重質芳香族化合物をトランスアルキル化する方法が商業化されている。
【0005】
米国特許第4,365,104号明細書には、硫黄系処理剤を用いてZSM−5型ゼオライト触媒を改質することによって、モレキュラーシーブに基づいてパラ選択触媒特性を向上させる方法が開示されている。
【0006】
米国特許第4,857,666号明細書には、モルデナイト上でのトランスアルキル化プロセスが開示されており、そしてスチーム非活性化処理によってモルデナイトを改質する方法または金属改質剤を触媒中に組み込む方法が提案されている。
【0007】
米国特許第5,763,720号明細書には、C9+を、無定形シリカ−アルミナ、MCM−22、ZSM−12及びゼオライトベータを含むリストに示されるゼオライトを含んだ触媒上で、キシレン及びC10+芳香族化合物の混合物に転換するためのトランスアルキル化プロセスが開示されており、ここで上記触媒はさらに白金などの第VIII族金属を含んでいる。上記触媒上での環の水素化によって芳香族化合物の損失を減少させる処理には、硫黄暴露処理が含まれる。
【0008】
米国特許第6,060,417号明細書には、特定のゼオライト粒径のモルデナイトに基づいた触媒を用い、そして、一定量のエチルを含む重質芳香族化合物に限定した供給ストリームを有するトランスアルキル化プロセスが開示されている。上記触媒には、ニッケルまたはレニウム金属が含まれる。
【0009】
米国特許第6,486,372号明細書には、少なくとも1種の金属成分を含む高シリカ対アルミナ比を有する脱アルミニウム化モルデナイトに基づいた触媒を用いてのトランスアルキル化プロセスが開示されている。
【0010】
米国特許第6,613,709号明細書には、ゼオライト構造型NES及びレニウム、インジウム、または錫などの金属を含んだ、トランスアルキル化のための触媒が開示されている。硫黄の使用が開示されているが、実施例4はニッケルを含んだ触媒C2を用いてのみ実施される硫化工程(硫化『sulphurization』と称される)を示していて、これは“本発明に基づいていない”と記載されている。また、メタン収率に対しての硫黄の効果について何ら記載されていない。
【発明の開示】
【発明の概要】
【0011】
多くの種類の担体及び元素が、種々の芳香族化合物のキシレンへのトランスアルキル化のプロセスにおける触媒として開示されてきた。しかし、レニウム含有触媒に伴う高メタン生成によって示される問題は、当業界において認識されないまま過ぎ去ってしまっているかのように見える。本発明者等は、固体酸触媒上に担持されるレニウムの特定の硫化処理での溶液を発見した。それによって、キシレンの収率を増加させ、また高金属水素化分解活性が関連する、望ましくないメタンの収率を減少させることができる。高金属水素化分解活性を回避することは、水素分圧が総じて低い条件下では特に重要となる。
【0012】
本発明の主な目的は、触媒を調製するためのプロセス、触媒それ自体、及びアルキル芳香族炭化水素のキシレンへのトランスアルキル化のためのプロセスを提供することである。より具体的には、本発明は、メタンの収率を低く抑えた芳香族炭化水素の転換を対象としている。本発明は、レニウム金属成分と共に、固体酸物質をベースとして硫化された触媒は、トランスアルキル化条件下で接触させると、メタン生成の減少傾向を示すという発見に基づいている。
【0013】
従って、本発明の広い意味での実施の形態は、硫黄成分、レニウム成分、及び固体酸成分を有する触媒を調製するプロセスである。もう1つの実施の形態としては、本発明は、触媒を用い、メタン生成を低減させて芳香族化合物をキシレンに転換するためのトランスアルキル化プロセスである。さらにもう1つの実施の形態としては、本発明は、モルデナイト、マザイト、ゼオライトベータ、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、MFIトポロジーゼオライト、NESトポロジーゼオライト、EU−1、MAPO−36、MAPSO−31、SAPO−5、SAPO−11、SAPO−41、及びシリカ−アルミナなどの固体酸成分を有する触媒それ自体である。また上記触媒は、必須レニウム金属成分及び硫黄成分も有している。
【0014】
これらの、またその他の目的及び実施の形態は、以下の本発明の詳細な説明によって明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本プロセスに対する供給ストリームは、通常一般式C6(6-n)nのアルキル芳香族炭化水素を含み、ここでnは0〜6の整数、そしてRはCH3、C25、C37、またはC49のいずれかの組み合わせである。好適なアルキル芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、エチルトルエン、プロピルベンゼン、テトラメチルベンゼン、エチルジメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メチルプロピルベンゼン、エチルプロピルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、及びそれらの混合物等が挙げられる。ただこれらは例であって、本発明に過度の制限を加えるものではない。上記供給ストリームは、本プロセスの所望の生成物である、低レベルのオルトキシレン、メタキシレン、及びパラキシレンを含んでいてもよい。
【0016】
また上記供給ストリームは、ナフタリン並びにその他のC10及びC11芳香族化合物を含んでいてもよく、1つまたは種々のソースに由来するのが好適である。ナフタリン、メチルナフタリンを含んだ二環式成分などの多環芳香族化合物は、本発明の供給ストリームに用いることができる。インダン(indan)またはインデン(indene)とも称される、インダン(indane)とは、1つの炭素6員環を有し、またもう1つの炭素5員環を有し、ここで2つの炭素原子が共有されている炭素数9芳香族種を定義するために用いられる。ナフタリンとは、2つの炭素原子が共有されている、2つの炭素6員環を有する炭素数10の芳香族種を定義するために用いられる。また多環芳香族化合物も、先行技術においては許容されていた僅かな量を上回る分量が存在しており、ここでこれらの分量は、上記供給ストリームの約0.5重量%よりも大きい数値などのように、実質的な量として定義される。
【0017】
供給成分例えばナフサから接触改質または熱分解によって、続いて水素化処理をして芳香族化合物に富んだ生成物が合成的に生成される。供給ストリームは、芳香族と非芳香族炭化水素との混合物からの芳香族炭化水素の抽出によって及び上記抽出物の分別による適切な純度の生成物に由来してもよい。例えば、芳香族化合物は改質物から回収される。改質物は、従来技術のいずれかのプロセスを用いて生成される。続いて上記芳香族化合物は、液−液抽出帯においてスルホラン型の1つなどのような選択溶媒を用いて、改質物から回収される。次に回収した上記芳香族化合物を分別して、所望の炭素数範囲を有するストリームに分離する。改質または熱分解の度合いが十分に高い場合、抽出は不要であって、そして分別も供給ストリームの調製のためには十分である。こうした分別処理には、通常供給終端点を制御するための少なくとも1つの分離カラムが含まれる。
【0018】
9+芳香族化合物(またはA9+)によって特徴付けられる供給重質芳香族化合物ストリームは、重質C9+芳香族化合物を用いてベンゼンやトルエンなどの軽質芳香族化合物を効果的にトランスアルキル化し、望ましくはキシレンであるC8芳香族化合物をさらにつくりだすことを可能にする。上記重質芳香族化合物ストリームは、望ましくは、少なくとも約90重量%の全芳香族化合物分を含み、そして、ベンゼン、トルエンとして、同一または異なる既知の精製装置及び石油化学プロセスに由来するものであってもよく、そして/又はトランスアルキル化によって生成される生成物の分離によって再循環されるものであってもよい。
【0019】
供給ストリームは、気相中及び水素の存在下でトランスアルキル化することが望ましい。液相中でトランスアルキル化する場合、水素の存在は任意となる。もし存在する場合、遊離水素は、アルキル芳香族1モルに対して約0.1から最大10モルまでの量で、上記供給ストリーム及び再生炭化水素と結合する。水素のアルキル芳香族に対する比率は、水素対炭化水素比とも呼ばれる。上記トランスアルキル化反応においては、キシレン含有量の増大した生成物が生成されるのが好ましい。メタンの収率が高まると、通常、水素の消費量が高くなり、反応器に対する発熱も高まり、そしてキシレンの総収率をも減少させるので好ましくない。触媒に含まれるレニウムの金属水素化分解活性が高い場合、軽質エンドガスがさらに軽質なガス種に転換する。具体的にはエタン、プロパン、ブタン及びペンタンが低下してメタンが増加する。こうしたメタンの増加は水素を消費し、反応器における発熱作用を増大させる。これらは、熱及び水素供給のために必要となる設備を増加させるという点で経済的な問題を引き起こす。また、水素分圧の総計が水素の高いレベルに対して減少する場合、キシレンが増加し、このように全水素のレベルが相対的に低くなることは、もしそれが全く存在しないとしても、水素飽和による芳香環の損失を低減させるために有効に作用する。
【0020】
トランスアルキル化反応帯への供給流は、通常まず上記反応帯の流出液に対しての間接熱交換によって加熱され、続いて暖かいストリーム、スチームまたは加熱炉による熱交換によって反応温度まで加熱される。続いて供給流は、1つまたは複数の別個の反応器によって構成される反応帯を通過する。触媒の筒形固定床を有する単一反応容器を用いることが好ましいが、必要に応じて、触媒の移動床を利用するその他の反応形態またはラジアルフロー反応器を用いることも可能である。組み合わせた供給流の反応帯の通過は、非転換供給流及び生成炭化水素から成る流出液ストリームの生成に影響を及ぼす。この流出液は、通常上記反応帯に流入するストリームに対しての間接熱交換によって冷却され、続いて空気または冷却水の使用によってさらに冷却される。上記流出液は回収カラムへと通され、ここで上記流出液中に存在するほぼ全てのC5及び軽炭化水素は濃縮され塔頂ストリームへ入り、そしてプロセスから除去される。芳香族性に富んだストリームは純回収床物として回収される。これを、ここではトランスアルキル化流出物と称する。
【0021】
トランスアルキル化反応に効果をもたらすために、本発明では少なくとも1つの帯域にトランスアルキル化触媒を組み込んでいるが、固体酸成分及びレニウム金属成分を有するこれらの触媒以外の特定の触媒に対しても特に制限はない。トランスアルキル化帯において設定される条件には、通常200〜540℃の温度が含まれる。上記トランスアルキル化帯は、100kPa〜6MPa絶対圧の幅広い範囲の圧力下で、且つ緩やかに上昇する圧力下で運転される。トランスアルキル化反応が幅広い空間速度で生じることができる。重量空間速度(WHSV)は、通常0.1〜20hr-1の範囲内である。
【0022】
トランスアルキル化流出物は、軽質再生ストリーム、混合C8芳香族生成物及び重質再生ストリームに分離される。上記混合C8芳香族生成物は、パラキシレン及びその他の有用な異性体の回収のために用いられる。上記軽質再生ストリームは、ベンゼン及びトルエンの回収などの他の用途に転用され、しかし一部はトランスアルキル化帯へと再循環される。上記重質再生ストリームは、C9及び重質芳香族の実質上全てを含んでおり、そして部分的に、またはその全体が上記トランスアルキル化反応帯へと再循環される。
【0023】
本発明で用いられる複数のタイプのトランスアルキル化触媒は、金属成分と結合した固体酸物質に基づいている。好適な固体酸物質としては、モルデナイト、マザイト(オメガゼオライト)、ベータゼオライト、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、MFI型ゼオライト、NES型ゼオライト、EU−1、MAPO−36、MAPSO−31、SAPO−5、SAPO−11、SAPO−41、及び上記固体酸のシリカ−アルミナまたはイオン交換種、の全ての形態及びタイプが挙げられる。例えば米国特許第3,849,340号明細書には、触媒複合体が、30:1未満の初期SiO2/Al23モル比で調製されたモルデナイトからAl23を酸抽出することによって調製された少なくとも40:1のSiO2/Al23モル比を有するモルデナイト成分と、銅、銀及びジルコニウムから選択される金属成分とを含むことが記述されている。耐火性無機酸化物が、上述のまた既知の触媒物質と結合させることで、トランスアルキル化処理において有効であることが発見された。例えば、シリカ−アルミナが米国特許第5,763,720号明細書に記載されている。また結晶質アルミノシリケートも、トランスアルキル化触媒として、当該技術において使用されている。ZSM−12は、米国特許第3,832,449号明細書に、より詳細に記述されている。ゼオライトベータは、Re.第28,341号(原本は米国特許第3,308,069号である)に、より詳細に記述されている。ゼオライトベータの好適な形態が、ここで参照として組み込まれている米国特許第5,723,710号明細書に記載されている。またMFIトポロジーゼオライトの調製についても、当該技術においてよく知られている。1つの方法において、ゼオライトは、アルミナ源、シリカ源、アルカリ金属源、水及びアルキルアンモニウム化合物またはその前駆物質を含んだ混合物を結晶化することによって調製される。さらなる記載が、米国特許第4,159,282号明細書、第4,163,018号明細書及び第4,278,565号明細書においてなされている。
【0024】
その他の好適な固体酸物質としては、マザイト、ZSM−11、ZSM−22、ZSM−23、NES型ゼオライト、EU−1、MAPO−36、MAPSO−31、SAPO−5、SAPO−11、及びSAPO−41が挙げられる。好適なマザイトゼオライトには、ゼオライトオメガが含まれる。ゼオライトオメガの合成については、米国特許第4,241,036号明細書に記述されている。本発明において有用なZSM中間孔径ゼオライトには、ZSM−5(米国特許第3,702,886号)、ZSM−11(米国特許第3,709,979号)、ZSM−12(米国特許第3,832,449号)、ZSM−22(米国特許第4,556,477号)、ZSM−23(米国特許第4,076,842号)が含まれる。欧州特許EP第0378916号明細書には、NES型ゼオライト及びNU−87を調製するための方法が記述されている。EUO構造型EU−1ゼオライトは米国特許第4,537,754号明細書に、MAPO−36は米国特許第4,567,029号明細書に記述されている。MAPSO−31は米国特許第5,296,208号明細書に、標準SAPO組成物はSAPO−5、SAPO−11、及びSAPO−41と共に米国特許第4,440,871号明細書に記述されている。
【0025】
触媒の生成を容易にし、強度を与え、そして製造コストを削減するために、耐熱物結合剤またはマトリクスが必要に応じて用いられる。上記結合剤は組成が均一であるべきであり、上記プロセスにおいて利用される条件に対して比較的耐熱性であるべきである。好適な結合剤としては、1つまたは複数のアルミナ、マグネシア、ジルコニア、クロミア、チタニア、ボリア、トリア、リン酸塩、酸化亜鉛及びシリカなどの無機酸化物が挙げられる。アルミナは好適な結合剤である。
【0026】
また上記触媒には、必須レニウム金属成分も含まれる。この成分は最終触媒複合体中に存在しており、酸化物、硫化物、ハロゲン化物、またはオキシハロゲン化物などの化合物として、上記複合体中の1つ以上のその他の成分と化学結合して最終触媒複合体中に存在している。上記レニウム金属成分は、共沈、イオン交換、共混合撹拌、または含浸などのいずれかの好適な態様で、触媒に組み込まれる。触媒を調製する好適な方法には、レニウム金属の溶解性、分解性化合物を用いて担体物質を比較的均一な態様で含浸させる方法も含まれる。使用される標準的レニウム化合物には、過レニウム酸アンモニウム、過レニウム酸ナトリウム、過レニウム酸カリウム、オキシ塩化レニウム酸カリウム、ヘキサクロロレニウム(IV)酸カリウム、塩化レニウム、七酸化レニウム、過レニウム酸及び同類の化合物が含まれる。上記化合物としては、共混入種除去のための追加工程が必要なくなるので、過レニウム酸アンモニウムまたは過レニウム酸であるのが望ましい。この成分は、上記最終触媒複合体中に触媒として有効であるいずれかの分量分存在しており、通常元素ベースで計算した最終触媒の0.01〜2重量%を構成している。
【0027】
触媒は、必要に応じて追加改質剤金属成分を含む。上記触媒の好適な金属改質剤成分には、例えば錫、ゲルマニウム、鉛、インジウム、白金、パラジウム及びそれらの混合物が含まれる。上記金属改質剤の触媒的に有効な分量が、当技術において既知のいずれかの手段によって上記触媒中に組み込まれる。好適な分量は、元素ベースで0.01〜2.0重量%の範囲である。
【0028】
本発明の触媒の形状の1つは、円筒形である。このような円筒形は、当技術においては既知の押出法を用いて形成される。上記触媒の形状のもう1つは、押出法によって形成される三裂または三つ葉のクローバ型の断面を有する。もう1つの形状は、油滴下法または当技術において既知の他の形成方法を用いて形成される球形である。
【0029】
触媒の調製において、少なくとも1つの酸化工程が用いられる。上記酸化工程を有効に行うための条件は、触媒複合体中の実質的に全ての金属成分が、それらに対応する酸化物形態に転換するように選択される。上記酸化工程は通常、370〜650℃の温度下で行われる。酸素雰囲気が用いられ、通常空気が含まれる。一般に、酸化工程は0.5〜10時間か、またはそれ以上の時間実施される。その正確な時間は、金属成分の実質上全てをそれらに対応する酸化物形態に転換するのに必要とされるだけの時間である。もちろんこの時間は、設定される酸化温度及び設定される雰囲気中の酸素含有量に伴って変化する。
【0030】
触媒の調製において、必要に応じて還元工程が用いられる。上記還元工程は、実質的に全ての金属成分が、その対応する元素金属状態に還元されるように、そしてこの成分が上記触媒中に比較的均一に、且つ微細に分散されるように計画される。上記還元工程は、実質的に無水環境で行われるのが望ましい。また、還元気体は、実質的に純粋、乾燥した水素(つまり水分が20重量ppm未満)であるのが望ましい。しかし、一酸化炭素、窒素等、その他の気体が存在してもよい。通常、上記還元気体を一定の条件下で酸化触媒複合体と接触させる。上記条件には、上記レニウム金属成分の少なくとも80重量%、より望ましくは実質的に全てを元素金属状態まで還元させるのに有効な、315〜650℃の還元温度で0.5〜10時間またはそれ以上の時間、といった要素が含まれる。上記好適な還元条件には、400℃より高い温度で2.5時間よりも長い時間、といった要素も含まれる。上記還元工程は、大気圧力下または高圧力下で実施される。上記還元工程は、触媒複合体を炭化水素転換帯へローディングする手順に先立って実施され、あるいは炭化水素転換プロセス起動手順の一部として原位置のままで実施される。しかし、この後者の手法が用いられる場合、転換装置を実質上無水状態になるまで前もって乾燥させるために、適切な事前措置を講ぜねばならず、そして実質上無水の還元気体を使用しなければならない。
【0031】
最後に、本発明の1つの形態として、上記触媒複合体を必須硫黄処理または前硫化工程にかける。硫黄処理工程は、触媒複合体がここで述べた還元工程を経過していない場合は必須である。硫黄成分を既知のいずれかの技術を用いて触媒中に組み込んでもよい。原位置で及び/または原位置外での硫黄処理方法のいずれか1つまたは組み合わせが望ましい。生成した触媒の硫黄対レニウムのモル比は0.1〜1.5未満であるのが望ましく、また0.3〜0.8の範囲内であればさらに望ましい。
【0032】
原位置外での触媒の前処理は、触媒組成物を硫黄に曝露することによって、メタン生成を最小化する1つの方法である。効果的な処理は、上記触媒を0〜500℃の範囲の温度で硫黄源と接触させることによって達成され、また室温によっても満足のいく結果が得られる。上記硫黄源は、直接、または搬送気体、通常水素あるいは窒素などの不活性気体を経由して触媒と接触させられる。この実施の形態において、上記硫黄源は通常、硫化水素である。
【0033】
触媒組成物を原位置で処理することも可能であって、この場合硫黄源を、硫黄分の濃度が1〜10,000ppmwとなるように炭化水素供給ストリームに加え、上記触媒組成物と接触させる。硫黄ソースを炭化水素供給ストリームに加える必要性は、既に炭化水素ストリーム中に幾分か存在する硫黄の実際の含有量次第で、低減するか、あるいは全く無くすこことができる。分解してH2Sを生成するいずれかの硫黄化合物及び、必要に応じて、500℃以下での軽質炭化水素で十分である。硫黄の好適なソースの通常の例として、二硫化炭素と、硫化メチル、硫化ジメチル、二硫化ジメチル、硫化ジエチル及び硫化ジブチルなどのアルキル硫化物とが挙げられる。硫黄処理は通常、硫黄源を供給流内に組み込み、そのまま硫黄処理を数日、通常最大10日間まで、より具体的には1〜5日間継続することによって開始される。上記硫黄処理は、気体からの生成物中の硫黄濃度を計測することによって監視される。硫黄処理のための時間は、供給流中の硫黄の実際の濃度、そして触媒上に収容される所望の硫黄のローディングに基づいて計算される。
【0034】
反応器に流入する水素ストリームまたは炭化水素原料を経由して色々な分量の硫黄を反応器に共供給することによって、供給中に、上記触媒を硫黄と接触させることができる。上記硫黄を、プロセスの工程を通じて継続的に供給原料に追加することも可能であり、あるいは硫黄を断続的に続けて追加することも可能である。この場合、この硫黄は一定の時間継続して共供給され、そして供給停止され、続いて再び共供給される。
【0035】
以下の実施例は、本発明のある特定の実施の形態の説明のみを目的として示されるものであって、添付請求項に示される本発明の広範な範囲に制限を設けることを意図して示されるものではない。本発明の範囲内で、当分野における通常の技能を有する者が認識できる程度の、他の多くの変形が可能である。
【実施例1】
【0036】
モルデナイトを含んだ触媒の試料を、比較実験プラント試験のために、押出成形と称される生成プロセスによって調製した。25重量%のアルミナ(CatapalTMB及び/またはVersalTM250の商標名で市場に流通している)及び75重量%のモルデナイト(ZeolystTMCBV−21Aの商標名で市場に流通している)から成る混合粉末2500gを、標準的に混合器に加えた。硝酸(67.5重量%HNO3)10gを脱イオン水220gと共に用いて溶液を調製し、溶液を撹拌した。上記溶液を混合器内の混合粉末に加え、混合撹拌して押出成形に適した混練物をつくりだした。上記混練物を、ダイプレートを通じて押し出し、円筒状(直径0.16cm)押出粒子を生成した。押出粒子を、15重量%のスチームで、565℃で2時間焼成した。
【0037】
上記押出粒子を用いて、また過レニウム酸アンモニウム(NH4ReO4)の水溶液を使用してレニウム金属を蒸発含浸させることで、4つの異なる触媒をつくりだした。含浸基剤を、空気中で、540℃で2時間焼成し、結果として金属レベル0.4重量%のレニウム含有量となった。次に、触媒を水素中で、500℃で12時間かけて還元した。続いて、上記触媒粒子上にさらに硫黄を分配するため、回転容器内で硫化水素ガス(H2S)を混合試料に注入することによって、上記触媒を硫化した。触媒Aは、硫黄対レニウムが、0.5mol硫黄/molレニウムのモル比であった。触媒Bは、硫黄対レニウムが、0.8mol硫黄/molレニウムのモル比であった。触媒Dは硫化処理を経由しておらず、従って先行技術の触媒に相当していた。触媒Cは、硫化処理も12時間の上記最終還元工程のどちらも経由しておらず、その代わり約3時間だけ水素中で還元された。
【実施例2】
【0038】
芳香族トランスアルキル化能を計測するために、触媒A、B、C及びDを、C7、C9、及びC10芳香族化合物の芳香族供給混合物を用いて実験プラント内で試験し、C8芳香族化合物を生成する際のメタン生成量の制御における触媒予備硫化の有効性を明らかにした。上記試験は、縦型反応器への触媒のローディング、上記供給物の2860kPa abs(400psig)の圧力での、2hr-1の空間速度(WHSV)での接触処理、そして水素対炭化水素比(H2/HC)が4での処理によって構成されていた。供給芳香族化合物の50重量%の転換レベルが達成された。図1は、触媒活性を加重平均床温度によって測定した際の結果を示しており、そして図2は、C1〜C5化合物を含んだ軽質端部体の加重比率としての触媒によるメタン生成の結果を示している。
【0039】
試験結果によって、レニウムを含む触媒の硫化は、芳香族トランスアルキル化反応の際にメタンの生成を低減させる役割を果たすことが示された。従って、メタン生成が低減されると、軽炭素数物質の金属水素化分解が減少することと関連して、水素の消費量が低下し、発熱も低下し、そしてそれに相応して全体的に低い水素分圧下での稼動の際にトランスアルキル化プロセスから生成される所望のキシレン種の収率が改善されることが理解される。
【実施例3】
【0040】
さらに、モルデナイトを含んだ触媒の試料を、さらに比較実験プラント試験を行うために、押出法と称される生成プロセスによって調製した。上記試料は、混練物をダイプレートを通じて押し出し、円筒状(直径0.08cm)押出粒子を生成し、上記押出粒子から結果として金属レベル0.15重量%のレニウム含有量となる2つの異なる触媒をつくりだした、という点を除いては上述の態様と同じ態様で調製された。次に上記触媒を実質的に乾燥した水素中で12時間かけて還元し、触媒Eを350℃で、触媒Fを500℃でそれぞれ生成した。よく知られた昇温プログラム還元法(TPR法)を使用して行われた特性試験は、触媒Eが約54重量%還元レニウムを有しており、一方触媒Fが約82重量%還元レニウムを有していることを示した。
【実施例4】
【0041】
芳香族トランスアルキル化能を計測するために、触媒E及びFを、C7、C9、及びC10芳香族化合物の芳香族供給混合物を用いて実験プラント内で試験し、C8芳香族化合物を生成する際のメタン生成量の制御における触媒予備硫化の有効性を明らかにした。上記試験は、縦型反応器への触媒のローディング並びに2860kPa abs(400psig)の圧力で、2hr-1の空間速度(WHSV)及び水素対炭化水素比(H2/HC)が4での、供給物の接触処理によって構成されていた。供給芳香族化合物の50重量%の転換レベルが達成された。図3は、加重平均床温度によって測定した際の触媒活性に関する結果を示しており、そして図4は、C1〜C5化合物を含んだ軽質端部体の加重比率としての触媒メタン生成の結果を示している。
【0042】
データは、レニウムを含む触媒の実質的に乾燥した高温での還元処理は、芳香族トランスアルキル化反応の間にメタンの生成を低減させる役割を果たすことを示した。従って、メタン生成が低減されると、軽炭素数物質の金属水素化分解が減少することと関連して、水素の消費量が低下し、発熱も低下し、そしてそれに相応して全体的に低い水素分圧下での稼動の際にトランスアルキル化プロセスから生成される所望のキシレン種の収率が改善されることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】C8芳香族化合物を生成しつつ、約50重量%転換のレベルでC7、C9、及びC10芳香族化合物をトランスアルキル化する際の活性に対しての、レニウム触媒の硫化の効果を示す図である。
【図2】図1におけるプロセスによって生成されるC1〜C5の重量%として表される、メタン(C1)選択性に対するレニウム触媒の硫化の効果を示す図である。
【図3】C8芳香族化合物を生成しつつ、約50重量%転換のレベルでC7、C9、及びC10芳香族化合物をトランスアルキル化する際の触媒活性に対しての、還元処理の効果を示す図である。
【図4】図3におけるプロセスによって生成されるC1〜C5の重量%として表される、メタン(C1)に対するレニウム触媒還元処理の効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニウム成分、固体酸成分、及び硫黄成分を含有する芳香族化合物のトランスアルキル化のための触媒。
【請求項2】
トランスアルキル化条件下でのメタンの収率の低減に有効な硫黄系処理剤を用いた、レニウム成分及び固体酸成分を含有する触媒のプロセスによって調製された請求項1記載の触媒。
【請求項3】
上記硫黄系処理剤が、硫化水素、二硫化炭素、硫化メチル、硫化ジメチル、ジ硫化ジメチル、硫化メチルエチル、硫化ジエチル、硫化ジブチル、及びそれらの混合物から成る群より選択されることを特徴とする請求項2記載の触媒。
【請求項4】
上記硫黄系処理剤が、上記処理剤を25〜100重量%含んだ処理媒質で提供されることを特徴とする請求項3記載の触媒。
【請求項5】
上記硫黄系処理剤が、硫黄レベルが1重量ppmよりも高いレベルで、炭化水素供給ストリーム媒質で提供されることを特徴とする請求項2記載の触媒。
【請求項6】
上記触媒の硫黄対レニウムのモル比が0.1〜1.5未満、好ましくは0.3〜0.8の範囲内であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の触媒。
【請求項7】
上記固体酸成分が、モルデナイト、マザイト、ゼオライトベータ、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、MFIトポロジーゼオライト、NESトポロジーゼオライト、EU−1、MAPO−36、MAPSO−31、SAPO−5、SAPO−11、SAPO−41、シリカ−アルミナ及びそれらの混合物から成る群より選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の触媒。
【請求項8】
さらに、上記触媒を350℃よりも高い温度で還元するステップを含んだ請求項2記載の触媒。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の触媒を用いて、C9+芳香族化合物及びトルエン化合物を含有する炭化水素供給物を転換するための方法。
【請求項10】
さらに、キシレンを含んだ生成物を回収するステップを含んだ請求項9記載の方法。
【請求項11】
トランスアルキル化条件が、200〜540℃の温度、100kPa〜6MPa絶対圧力、そして0.1〜20hr-1の空間速度、といった条件を含んでいることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
レニウム成分及び固体酸成分を含む芳香族化合物のトランスアルキル化のための触媒であって、触媒が、350℃よりも高い温度を含んだ還元条件下で少なくとも1つの実質的乾燥還元工程を経由したものであることを特徴とする触媒。
【請求項13】
上記触媒が、触媒を実質的乾燥還元条件下で還元剤に接触させることによって調製されることを特徴とする請求項12記載の触媒。
【請求項14】
さらに、元素金属状態の少なくとも80重量%のレニウムを有する触媒を回収するステップを含む請求項13記載の触媒。
【請求項15】
上記固体酸成分が、モルデナイト、マザイト、ゼオライトベータ、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、MFIトポロジーゼオライト、NESトポロジーゼオライト、EU−1、MAPO−36、MAPSO−31、SAPO−5、SAPO−11、SAPO−41、シリカ−アルミナ及びそれらの混合物から成る群より選択されることを特徴とする請求項12〜14記載のいずれかの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−500168(P2008−500168A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515187(P2007−515187)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2005/017600
【国際公開番号】WO2005/118136
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】