説明

芳香族炭化水素の製造方法および芳香族炭化水素の製造プラント

【課題】BTX等の芳香族炭化水素の製造コストや、プラントの運転コストを低く抑えることのできる、芳香族炭化水素の製造方法および製造プラントを提供する。
【解決手段】原料油を触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る芳香族製造装置12と、反応生成物を、蒸留塔によって塔頂留分と塔底留分とに分離する第1分離手段16と、塔頂留分を溶剤に接触させ、LPG留分を含む粗芳香族留分を溶剤に吸収させることにより、塔頂留分を、粗芳香族留分とオフガスとに分離する溶剤吸収手段18と、粗芳香族留分を、LPG留分と粗芳香族留分とに分離する第2分離手段20と、粗芳香族留分を、単環芳香族炭化水素と重質留分とに分離する第3分離手段24と、第3分離手段24で得られた重質留分を、溶剤吸収手段18における溶剤として溶剤吸収手段18に供する溶剤循環手段25と、を有する芳香族炭化水素の製造プラント10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素の製造方法および芳香族炭化水素の製造プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
流動接触分解(以下、FCCと記す。)装置から得られる分解軽油(ライトサイクルオイル。以下、LCOと記す。)、原油蒸留装置から得られる軽質ナフサ、重質ナフサ等の原料油から、芳香族製造触媒を用いた接触芳香族製造反応により、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン等)等の芳香族炭化水素を製造する方法はよく知られている。一般に、これらの製造方式としては、固定床による方式(特許文献1)、移動床による方式(特許文献2)、または流動床による方式(特許文献3)が採用されている。
【0003】
ところで、前記の製造方法において、接触芳香族製造反応によって製造した反応生成物中のLPG留分を含む粗芳香族留分を、水素やオフガスから分離する工程では、例えば溶剤を用いて該溶剤中に粗芳香族留分を選択的に吸収させる、溶剤吸収法を採用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−277692号公報
【特許文献2】特開昭48−85605号公報
【特許文献3】特表平3−503656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記溶剤吸収法を採用した場合、この工程においてどのような溶剤を用いるかは、最終的に得られるBTX等の芳香族炭化水素の回収率を大きく左右するとともに、溶剤自体の使用量をも大きく左右する。したがって、溶剤吸収法で用いる溶剤は、BTX等の芳香族炭化水素の製造コストや、プラントの運転コストを決定する大きな要因となる。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、BTX等の芳香族炭化水素の製造コストや、プラントの運転コストを低く抑えることのできる、芳香族炭化水素の製造方法および芳香族炭化水素の製造プラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねて結果、以下の知見を得た。
接触芳香族製造反応によって製造した粗芳香族留分を水素やオフガスから分離する工程として、溶剤吸収法を採用した場合、溶剤としては、例えばこの工程で分離した粗芳香族留分から、さらにLPGを分離した留分を用いることが考えられる。ところが、このような留分を溶剤として用い、前記工程において溶剤吸収法を行っても、最終的に得られるBTX等の芳香族炭化水素の回収率を充分に高くすることができず、また、溶剤自体の使用量を充分低く抑えるのも難しいことが分かった。
そこで、このような知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明者は本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、(a)流動接触分解装置から得られる分解軽油、該分解軽油を水素化処理したもの、ならびに原油蒸留装置から得られるナフサおよび直留軽油からなる群から選ばれる1種以上の原料油を、芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る反応工程と、(b)前記反応生成物を、蒸留塔によって塔頂留分と塔底留分とに分離する第1分離工程と、(c)前記塔頂留分を溶剤に接触させ、LPG留分を含む粗芳香族留分を前記溶剤に選択的に吸収させることにより、前記塔頂留分を、LPG留分を含む粗芳香族留分と水素を含むオフガスとに分離する溶剤吸収工程と、(d)前記LPG留分を含む粗芳香族留分を、LPG留分と粗芳香族留分とに分離する第2分離工程と、(e)前記粗芳香族留分を、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と重質留分とに分離する第3分離工程と、(f)前記第3分離工程で得られた重質留分を、前記溶剤吸収工程における前記溶剤として該溶剤吸収工程に供する溶剤循環工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
前記芳香族炭化水素の製造方法においては、前記溶剤吸収工程を単一の吸収塔で行うことが好ましい。
また、前記工程(a)においては、前記原料油を、流動床反応器内にて流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得ると同時に、外部から供給された熱付け用燃料を酸素含有ガスの存在下に燃焼させることによって、前記流動床反応器内から抜き出された前記芳香族製造触媒に熱付けを行うことが好ましい。
【0010】
本発明の芳香族炭化水素の製造プラントは、流動接触分解装置から得られる分解軽油、該分解軽油を水素化処理したもの、ならびに原油蒸留装置から得られるナフサおよび直留軽油からなる群から選ばれる1種以上の原料油を、芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る芳香族製造装置と、前記反応生成物を、蒸留塔によって塔頂留分と塔底留分とに分離する第1分離手段と、前記塔頂留分を溶剤に接触させ、LPG留分を含む粗芳香族留分を前記溶剤に選択的に吸収させることにより、前記塔頂留分を、LPG留分を含む粗芳香族留分と水素を含むオフガスとに分離する溶剤吸収手段と、前記LPG留分を含む粗芳香族留分を、LPG留分と粗芳香族留分とに分離する第2分離手段と、前記粗芳香族留分を、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と重質留分とに分離する第3分離手段と、前記第3分離手段で得られた重質留分を、前記溶剤吸収手段における前記溶剤として該溶剤吸収手段に供する溶剤循環手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
前記芳香族炭化水素の製造プラントにおいては、前記溶剤吸収手段が、単一の吸収塔によって構成されていることが好ましい。
また、前記芳香族製造装置は、前記原料油を、流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る流動床反応器と、外部から供給された熱付け用燃料を酸素含有ガスの存在下に燃焼させることによって、前記流動床反応器内から抜き出された前記芳香族製造触媒に熱付けを行う熱付け槽と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の芳香族炭化水素の製造方法および製造プラントによれば、BTX等の芳香族炭化水素の製造コストや、プラントの運転コストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の芳香族炭化水素の製造プラントの一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の芳香族炭化水素の製造プラントの他の実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の芳香族炭化水素の製造方法および芳香族炭化水素の製造プラントを詳しく説明する。
図1は、本発明の芳香族炭化水素の製造プラントの一実施形態を示す概略構成図である。
【0015】
製造プラント10は、流動床反応器12(芳香族製造装置)と、熱付け槽14(芳香族製造装置)と、蒸留装置16(第1分離手段)と、吸収分離装置18(溶剤吸収手段)と、デブタナイザー20(第2分離手段)と、芳香族回収装置24(第3分離手段)とを備え、さらに芳香族回収装置24で得られた重質留分を前記吸収分離装置18に供する溶剤循環パイプ25(溶剤循環手段)を有して構成されている。
【0016】
また、この製造プラント10には、国際公開第2010/109899号パンフレット(以下、単に「公開公報」という。)に開示されているように流動床反応器12に接続された触媒ライザ26と、流動床反応器12と熱付け槽14とを繋ぐ傾斜パイプ28と、熱付け槽14と触媒ライザ26とを結ぶ傾斜パイプ30と、触媒ライザ26に接続されたフィードパイプ32と、流動床反応器12と蒸留装置16とを結ぶ反応生成物パイプ34と、が設けられている。
さらに、この製造プラント10には、末端が熱付け槽14に接続されたエアパイプ38と、基端が熱付け槽14に接続された排気パイプ40と、が設けられている。
【0017】
また、この製造プラント10には、基端が蒸留装置16の蒸留塔の塔頂に接続され、末端が吸収分離装置18に接続された塔頂油パイプ42と、基端が吸収分離装置18に接続され、末端がデブタナイザー20に接続されたLPG留分含有粗芳香族留分パイプ44と、末端がデブタナイザー20の塔頂に接続されたLPG留分パイプ46と、基端が吸収分離装置18に接続された水素含有オフパイプ48と、この水素含有オフパイプ48の末端に接続されたPSA装置22と、基端がPSA装置22に接続されたオフガスパイプ50と、基端がデブタナイザー20の塔底に接続され、末端が芳香族回収装置24に接続された粗芳香族留分パイプ52と、基端がPSA装置22に接続された水素パイプ54と、基端が蒸留装置16の蒸留塔の塔底に接続された塔底油パイプ60と、基端が芳香族回収装置24に接続され、末端が塔底油パイプ60に合流する導出パイプ27と、が設けられている。
【0018】
芳香族製造装置は、原料油を、芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得るものであり、本実施形態では流動床反応器12と、熱付け槽14と、触媒ライザ26とを備えて構成されている。なお、芳香族製造装置として、固定床反応器を備えた装置または移動床反応器を備えた装置を用いても構わない。ただし、温度制御や触媒再生の点から、本発明においては、流動床反応器を備えた芳香族製造装置が好ましい。
【0019】
流動床反応器12は、原料油を流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させて、BTXを多く含む反応生成物を得るためのものである。この流動床反応器12には、触媒ライザ26を通って移送された原料油の蒸気および芳香族製造触媒を内部に導入する供給口と、芳香族製造触媒を第1の傾斜パイプ28へ抜き出す抜出口と、反応生成物の蒸気と芳香族製造触媒とを分離するサイクロン(図示略)と、サイクロンで分離された反応生成物の蒸気を反応生成物パイプ34へ排出する排出口とが設けられている。
【0020】
熱付け槽14は、芳香族製造触媒に付着したコークの燃焼による熱だけではなく、外部から供給されたエネルギーによって芳香族製造触媒に積極的に熱付けするためのもの、すなわちこれ自体が大きな加熱装置そのものである。この熱付け槽14には、第1の傾斜パイプ28を通って移送されてきた芳香族製造触媒を内部に導入する供給口と、芳香族製造触媒を第2の傾斜パイプ30へ抜き出す抜出口と、燃料パイプ36を通って蒸留装置16から供給された塔底油(熱付け用燃料)を内部に導入する供給口と、エアブロアからエアパイプ38を通って供給された空気(酸素含有ガス)を内部に導入する供給口と、燃焼によって発生した燃焼ガスを排気パイプ40へ排気する排気口と、が設けられている。
なお、熱付け槽については、複数段、例えば二段とすることができる。すなわち、熱付け槽を二段にし、熱付け槽内の個々の熱付け温度を段階的に高めることによって、芳香族製造触媒の劣化を抑えるような措置を講ずることができる。
【0021】
触媒ライザ26は、垂直方向に延びるパイプ状のもので、第2の傾斜パイプ30を通って移送された芳香族製造触媒を内部に導入する供給口と、フィードパイプ32を通って供給された原料油を内部に導入する供給口と、を備えて構成されている。
【0022】
蒸留装置16(第1分離手段)は、流動床反応器12で得られた反応生成物を、BTXを多く含む塔頂留分と、C10+A(炭素数10以上の芳香族炭化水素を中心とする留分)を含む塔底留分とに分離するものである。蒸留装置16としては、例えば、蒸留塔と、蒸留塔の塔頂から排出される塔頂留分を冷却するコンデンサとを備えるものが挙げられる。また、蒸留塔の塔底から排出される塔底留分の熱によって、フィードパイプ32を通って流動床反応器12に供給される原料油を加熱する予熱器を別途設けてもよい。
【0023】
吸収分離装置18は、前記蒸留装置16の塔頂留分を溶剤に接触させ、該塔頂留分に含まれるLPG留分および粗芳香族留分を溶剤に吸収させ、LPG留分を含む粗芳香族留分と、水素を含むオフガスとに分離するものである。ここで、この吸収分離装置18に用いられる溶剤としては、後述する芳香族回収装置24で分離された重質留分が、溶剤循環パイプ25(溶剤循環手段)によって返送されて、用いられる。
【0024】
また、この吸収分離装置18は、本実施形態では単一(単段)の吸収塔によって構成される。前記溶剤を用いることで、該溶剤中にLPG留分を含む粗芳香族留分がより効率良く吸収されるようになり、したがって水素を含むオフガスとの分離効率が高まるため、複数段で構成することなく、単段、すなわち単一の吸収塔によって吸収分離装置18を構成することができる。このように吸収分離装置18を単一の吸収塔で構成することにより、装置構成を簡略化して設備コストや運転コストの低減化を図ることができる。
【0025】
デブタナイザー20(第2分離手段)は、LPG留分を含む粗芳香族留分を、ブタン等を含むLPG留分と、BTXを多く含む粗芳香族留分とに分離するものである。デブタナイザー20としては、例えば、蒸留塔と、蒸留塔の塔頂から排出されるLPG留分を冷却するコンデンサとを備えるものが挙げられる。また、蒸留塔の塔底から排出される粗芳香族留分の熱エネルギーを回収する廃熱ボイラを別途設けてもよい。
【0026】
芳香族回収装置24は、デブタナイザー20で得られたBTXを多く含む粗芳香族留分を、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素(ベンゼン/トルエン/キシレン)と、重質留分、すなわち主に炭素数9以上の重質留分からなる留分とに分離するものである。粗芳香族留分から分離した炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素については、ベンゼン/トルエン/キシレンに分離するとともに、これらをそれぞれ精製、回収する。
【0027】
この芳香族回収装置24としては、例えばベンゼン回収用の蒸留塔と、この蒸留塔の後段に配置されたトルエン回収用の蒸留塔と、この蒸留塔の後段に配置されたキシレン回収用の蒸留塔とを備え、さらにベンゼン回収用の蒸留塔の塔頂から排出される留分を冷却するコンデンサ等を備えるものが挙げられる。この芳香族回収装置24には、例えばキシレン回収用の蒸留塔の塔底に、溶剤循環パイプ25が設けられている。
【0028】
溶剤循環パイプ25は、芳香族回収装置24で得られた重質留分、すなわち前記粗芳香族留分から炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素(ベンゼン/トルエン/キシレン)が分離除去された残りの、主に炭素数9以上の重質留分からなる留分を、ポンプ等の送液手段(図示せず)によって前記吸収分離装置18に供するようになっている。このように芳香族回収装置24で得られた重質留分を吸収分離装置18に供することで、この重質留分は吸収分離装置18での溶剤として使用される。
【0029】
ここで、このように溶剤として使用される重質留分の成分の一例を示すと、ベンゼンやトルエン、キシレンはほぼゼロ(1%未満)であり、そのほとんどが、1,2,3−トリメチルベンゼンやデカリン(t−デカリン、c−デカリン)、テトラリン、ナフタレン、メチルナフタレン(1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン)や2,6−ジメチルナフタレン等の炭素数9以上の炭化水素からなっている。
【0030】
PSA装置22は、常温、常圧にて、水素を含むオフガスを、吸着剤(ゼオライト、活性炭、シリカゲル等)に接触させて、水素以外のオフガスを吸着剤に吸着させ、水素を高純度で回収した後、常温下で圧力を下げて吸着剤からオフガスをパージして吸着剤を再生させることによって、水素とオフガスとに分離するものである。PSA装置22としては、例えば、吸着剤が充填された吸着塔を並列に複数設置したものが挙げられる。PSAとは、Pressure Swing Absorptionの略称であり、圧力差吸着プロセスまたは無加熱吸着プロセスとも呼ばれる。
【0031】
次に、図1の製造プラント10を用いた芳香族炭化水素の製造方法に基づき、本発明の芳香族炭化水素の製造方法の一実施形態を説明する。
【0032】
[(a)反応工程]
フィードパイプ32の途中に設けられた予熱器によってあらかじめ加熱された原料油を、フィードパイプ32から触媒ライザ26に連続的に導入する。これと同時に、熱付け槽14にて熱付けされた芳香族製造触媒を、第2の傾斜パイプ30から触媒ライザ26に連続的に導入し、触媒ライザ26を上昇する原料油の蒸気を移送媒体として、流動床反応器12へ移送する。
【0033】
触媒ライザ26から流動床反応器12に原料油の蒸気とともに連続的に導入された芳香族製造触媒は、原料油の蒸気によって流動床状態となる。流動床状態にて原料油の蒸気と芳香族製造触媒とが接触し、BTXを多く含む反応生成物の蒸気が得られる。反応生成物の蒸気と芳香族製造触媒とを、サイクロンによって分離し、反応生成物の蒸気を反応生成物パイプ34へ連続的に排出する。原料油の蒸気との接触によってコークが付着し、部分的に不活性化した芳香族製造触媒の一部を、流動床反応器12から第1の傾斜パイプ28へ連続的に抜き出す。
【0034】
燃料パイプ36を通って外部から供給された熱付け用燃料を、エアパイプ38を通ってエアブロアから供給された空気(酸素含有ガス)の存在下に燃焼させることにより、第1の傾斜パイプ28から熱付け槽14に連続的に導入された芳香族製造触媒に、流動床反応器12内の反応温度以上に連続的に熱付けする。また、熱付け時には、芳香族製造触媒に付着したコークも燃焼するため、芳香族製造触媒の再生も行われる。燃焼によって発生した燃焼ガスを、第1の排気パイプ40へ連続的に排気する。熱付けされた芳香族製造触媒を、熱付け槽14から第2の傾斜パイプ30へ連続的に抜き出し、第2の傾斜パイプ30から触媒ライザ26に再び導入する。このようにして、芳香族製造触媒は流動床反応器12と熱付け槽14との間を絶えず循環する。
【0035】
原料油としては、FCC装置から得られるLCO、該LCOを水素化処理したものならびに原油蒸留装置からのナフサおよび直留軽油等からなる群から選ばれる1種以上を用いる。これら原料油を用いた場合、該原料油と芳香族製造触媒とが接触した際に芳香族製造触媒に付着するコーク量は流動床反応器に必要な熱量を当該コーク燃焼によって供給する量としては必ずしも十分ではない。よって、これら原料油から芳香族炭化水素を含む反応生成物を効率的に、かつ安定して製造するためには、熱付け槽14を備えた芳香族製造装置が有効となる。
【0036】
芳香族製造触媒は、結晶性アルミノシリケートを含有する。
[結晶性アルミノシリケート]
結晶アルミノシリケートは、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトであることが好ましい。
中細孔ゼオライトは、10員環の骨格構造を有するゼオライトであり、中細孔ゼオライトとしては、例えば、AEL型、EUO型、FER型、HEU型、MEL型、MFI型、NES型、TON型、WEI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、MFI型が好ましい。
大細孔ゼオライトは、12員環の骨格構造を有するゼオライトであり、大細孔ゼオライトとしては、例えば、AFI型、ATO型、BEA型、CON型、FAU型、GME型、LTL型、MOR型、MTW型、OFF型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、工業的に使用できる点では、BEA型、FAU型、MOR型が好ましく、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、BEA型が好ましい。
【0037】
結晶性アルミノシリケートは、中細孔ゼオライトおよび大細孔ゼオライト以外に、10員環以下の骨格構造を有する小細孔ゼオライト、14員環以上の骨格構造を有する超大細孔ゼオライトを含有してもよい。
ここで、小細孔ゼオライトとしては、例えば、ANA型、CHA型、ERI型、GIS型、KFI型、LTA型、NAT型、PAU型、YUG型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
超大細孔ゼオライトとしては、例えば、CLO型、VPI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
【0038】
本実施形態では、分解改質反応工程を流動床の反応としているため、芳香族製造触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、芳香族製造触媒全体を100質量%とした際の20〜60質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましく、35〜60質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が20質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を充分に高くできる。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%を超えると、触媒に配合できるバインダーの含有量が少なくなり、流動床用として適さないものになることがある。
なお、後述する実施形態で示すように、分解改質反応工程を固定床の反応とする場合、芳香族製造触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、芳香族製造触媒全体を100質量%とした際の60〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を充分に高くできる。
【0039】
[リン、ホウ素]
芳香族製造触媒においては、リンおよび/またはホウ素を含有することが好ましい。芳香族製造触媒がリンおよび/またはホウ素を含有すれば、単環芳香族炭化水素の収率の経時的な低下を防止でき、また、触媒表面のコーク生成を抑制できる。
【0040】
芳香族製造触媒にリンを含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにリンを担持する方法、ゼオライト合成時にリン化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をリンと置き換える方法、ゼオライト合成時にリンを含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。その際に用いるリン酸イオン含有水溶液は特に限定されないが、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムおよびその他の水溶性リン酸塩などを任意の濃度で水に溶解させて調製したものを好ましく使用できる。
芳香族製造触媒にホウ素を含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにホウ素を担持する方法、ゼオライト合成時にホウ素化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をホウ素と置き換える方法、ゼオライト合成時にホウ素を含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。
【0041】
芳香族製造触媒におけるリンおよびホウ素の含有量は、触媒全重量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、さらには、下限は0.5質量%以上がより好ましく、上限は9質量%以下であることがより好ましく、8質量%以下が特に好ましい。触媒全重量に対するリンの含有量が0.1質量%以上であることで、経時的な単環芳香族炭化水素の収率低下を防止でき、10質量%以下であることで、単環芳香族炭化水素の収率を高くできる。
【0042】
[ガリウム、亜鉛]
芳香族製造触媒には、必要に応じて、ガリウムおよび/または亜鉛を含有させることができる。ガリウムおよび/または亜鉛を含有させれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くできる。
【0043】
芳香族製造触媒におけるガリウム含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウムが組み込まれたもの(結晶性アルミノガロシリケート)、結晶性アルミノシリケートにガリウムが担持されたもの(ガリウム担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
芳香族製造触媒における亜鉛含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内に亜鉛が組み込まれたもの(結晶性アルミノジンコシリケート)、結晶性アルミノシリケートに亜鉛が担持されたもの(亜鉛担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
【0044】
結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、SiO、AlOおよびGaO構造が骨格中に存在する構造を有する。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、例えば、水熱合成によるゲル結晶化、結晶性アルミノシリケートの格子骨格中にガリウムまたは亜鉛を挿入する方法、または結晶性ガロシリケートまたは結晶性ジンコシリケートの格子骨格中にアルミニウムを挿入する方法により得られる。
【0045】
ガリウム担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いるガリウム源としては、特に限定されないが、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩、酸化ガリウム等が挙げられる。
亜鉛担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートに亜鉛をイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いる亜鉛源としては、特に限定されないが、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0046】
芳香族製造触媒がガリウムおよび/または亜鉛を含有する場合、芳香族製造触媒におけるガリウムおよび亜鉛の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.05〜2.0質量%であることがより好ましい。ガリウムおよび亜鉛の含有量が0.01質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くでき、5.0質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0047】
[形状]
芳香族製造触媒は、反応形式に応じて、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等にされる。例えば、本実施形態のように流動床の場合には粉末状にされ、別の実施形態のように固定床の場合には粒状またはペレット状にされる。流動床で用いる触媒の平均粒子径は30〜180μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。また、流動床で用いる触媒のかさ密度は0.4〜1.8g/ccが好ましく、0.5〜1.0g/ccがより好ましい。
なお、平均粒子径はふるいによる分級によって得た粒径分布において50質量%となる粒径を表し、かさ密度はJIS規格R9301−2−3の方法により測定した値である。
粒状またはペレット状の触媒を得る場合には、必要に応じて、バインダーとして触媒に不活性な酸化物を配合した後、各種成形機を用いて成形すればよい。
芳香族製造触媒がバインダー等の無機酸化物を含有する場合、バインダーとしてリンを含むものを用いても構わない。
【0048】
熱付け用燃料としては、芳香族製造触媒に付着したコーク以外の燃料であって、外部から供給された燃料(いわゆるトーチオイル)、例えば、蒸留装置16からの塔底油等が挙げられ、特に芳香族製造触媒の水蒸気による劣化の問題を回避するという点から、水素原子に対する炭素原子の比率(C/H)が比較的大きい塔底油が好ましい。
酸素含有ガスとしては、空気、純酸素等が挙げられ、経済的な点から、空気が好ましい。
【0049】
予熱器による原料油の加熱温度は、流動床反応器12内での芳香族製造反応に必要な熱は熱付けされた芳香族製造触媒によって供給される点から、流動床反応器12内の反応温度未満であればよく、150〜350℃が好ましい。
【0050】
流動床反応器12内の圧力は、目標とする反応収率にもよるが、0.1MPaG〜1.5MPaGが好ましく、0.2MPaG〜1.0MPaGがより好ましい。圧力が0.1MPaG以上であれば、BTXを効率的に製造できる。圧力が1.5MPaG以下であれば、分解によって副生する軽質ガスの量を抑制できる。
【0051】
流動床反応器12内の反応温度は、下限としては350℃が好ましく、450℃がより好ましい。一方、上限としては700℃が好ましく、600℃がより好ましい。反応温度が350℃以上であれば、芳香族製造触媒の活性が十分となる。反応温度が700℃以下であれば、過度の分解反応が抑制される。
【0052】
流動床反応器12内における原料油と芳香族製造触媒との接触時間は、下限としては1秒が好ましく、5秒がより好ましい。一方、上限としては300秒が好ましく、150秒がより好ましく、100秒がさらに好ましい。接触時間が1秒以上であれば、芳香族製造反応が十分に進行する。接触時間が300秒以下であれば、分解によって副生する軽質ガスの量を抑制できる。
【0053】
流動床反応器12内から抜き出される芳香族製造触媒の量(循環量)は、流動床反応器12に供給される原料油1トンあたり5〜30トンが好ましく、これは全体の熱バランスとも関連し決められるものである。
【0054】
熱付け槽14内の圧力は、熱付けされた芳香族製造触媒を流動床反応器12へ移送する点から、流動床反応器12内の圧力よりも高いことが好ましい。
二段による熱付けの場合、第1の熱付け槽の圧力は、第1の熱付け槽が、第2の熱付け槽より低い位置に置かれる場合、熱付けされた芳香族製造触媒を第2の熱付け槽へ移送する必要上、第2の熱付け槽の圧力よりも高くする。第1の熱付け槽14内の圧力は、第2の熱付け槽の圧力より0.1MPa程度高いことが好ましく、0.2MPa以上であることがより好ましく、0.9MPa以上であることがさらに好ましい。
次に、第2の熱付け槽の圧力は、下限としては0.1MPaGが好ましく、0.2MPaGがより好ましく、0.3MPaGがさらに好ましい。一方、上限としては0.8MPaGが好ましく、0.7MPaGがより好ましく、0.6MPaGがさらに好ましい。
【0055】
熱付け槽14内の温度は、流動床反応器12内での芳香族製造反応に必要な熱は熱付けされた芳香族製造触媒によって供給される点から、流動床反応器12内の反応温度以上であり、500〜800℃が好ましく、600〜700℃がより好ましい。
二段による熱付けの場合、第1の熱付け槽の温度は、流動床反応器12内での芳香族製造反応に必要な熱は熱付けされた芳香族製造触媒によって供給される必要上、流動床反応器12内の反応温度以上にするのが好ましい。また、第1の熱付け槽内の温度は、熱付け用燃料の燃焼によって発生する高温の水蒸気による芳香族製造触媒の水熱劣化を抑えるため、第2の熱付け槽内の温度より低くする。具体的には、650℃以下が好ましく、630℃以下がより好ましい。
次に、第2の熱付け槽内の温度は、流動床反応器12での芳香族製造反応に必要な熱は熱付けされた芳香族製造触媒によって供給されるため、下限としては流動床反応器12内の反応温度が好ましく、500℃がより好ましく、600℃がさらに好ましい。一方、上限としては800℃が好ましく、700℃がより好ましい。
【0056】
熱付け槽14への熱付け用燃料(塔底油の場合)の供給量は、流動床反応器12に供給される原料油1トンあたり0.005〜0.08トンが好ましく、これはコーク生成量と全体の熱バランスから決まる。
なお、二段による熱付けの場合、熱付け用燃料は、原則、第1の熱付け槽に全量供給するのが好ましい。
【0057】
[(b)第1分離工程]
流動床反応器12から排出された反応生成物を、反応生成物パイプ34を通して蒸留装置16へ移送する。蒸留装置16に導入された反応生成物を、蒸留装置16内の蒸留塔にて蒸留することによって、BTXを多く含む塔頂留分と、C10+Aを含む塔底留分とに分離する。
【0058】
[(c)溶剤吸収工程]
蒸留装置16の蒸留塔の塔頂から排出され、コンデンサによって冷却された塔頂留分を、塔頂油パイプ42を通して吸収分離装置18に移送する。吸収分離装置18に導入された塔頂留分を、吸収分離装置18の吸収塔内にて溶剤に接触させることによって、塔頂留分に含まれるLPG留分および粗芳香族留分を溶剤に吸収させ、LPG留分を含む粗芳香族留分と、水素を含むオフガスとに分離する。分離された水素を含むオフガスは、水素含有オフパイプ48に導出される。一方、溶剤に吸収されたLPG留分を含む粗芳香族留分は、粗芳香族留分パイプ52に導出される。
【0059】
ここで、この吸収分離装置18での粗芳香族留分の溶剤吸収においては、溶剤として、前述したように芳香族回収装置24で分離された重質留分を用いている。すなわち、ベンゼンやトルエン、キシレンがほぼゼロ(1%未満)であり、ほとんどが炭素数9以上の炭化水素からなる重質留分を溶剤として用いている。このような炭化水素の沸点、およびベンゼン、トルエン、キシレン等の沸点を以下に示す。
【0060】
ベンゼン(80.1℃)、トルエン(110.6℃)、エチルベンゼン(136.2℃)、m−キシレン(139.1℃)、o−キシレン(144.1℃)、1,2,3−トリメチルベンゼン(176.2℃)、デカリン(194.6℃)、テトラリン(206.5〜207.5℃)、ナフタレン(218.0℃)、メチルナフタレン(244.8℃)、2,6−ジメチルナフタレン(262.0℃)。
【0061】
前記沸点から明らかなように、本実施形態で用いる溶剤は、前記塔頂留分中のLPG留分やBTXに比べて沸点が高くなっており、沸点差が大きくなっている。したがって、このような大きな沸点差により、LPG留分やBTXを多く含む粗芳香族留分は溶剤に効率良く吸収される。
例えば、溶剤として、この吸収分離装置18で分離した粗芳香族留分から、さらにデブタナイザー20でLPGを分離して得られる留分を用いた場合、この留分中には炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素が多く含まれるため、前記塔頂留分中のLPG留分やBTXに比べて沸点が近くなり、沸点差は小さくなる。したがって、このような溶剤では、LPG留分やBTXを多く含む粗芳香族留分を効率良く吸収するには、未だ不充分であった。
【0062】
これに対して本実施形態では、溶剤として芳香族回収装置24で分離された重質留分を用いているので、前記の大きな沸点差により、LPG留分やBTXを多く含む粗芳香族留分を充分に効率良く吸収することができる。また、このように吸収効率を高くすることができることから、後述するように溶剤の循環量(使用量)についても充分低く抑えることができる。
【0063】
[(d)第2分離工程]
吸収分離装置18から排出されたLPG留分を含む粗芳香族留分を、LPG留分含有粗芳香族留分パイプ44を通してデブタナイザー20に移送する。そして、デブタナイザー20に導入されたLPG留分を含む粗芳香族留分を、デブタナイザー20内の蒸留塔にて蒸留することにより、ブタン等を含むLPG留分と、BTXを多く含む粗芳香族留分とに分離する。蒸留塔の塔頂から排出され、コンデンサによって冷却されたLPG留分を、LPG留分パイプ46に通して製造プラント10外に移送する。蒸留塔の塔底から排出される粗芳香族留分は、粗芳香族留分パイプ52に導出する。
【0064】
[(e)第3分離工程]
デブタナイザー20の蒸留塔の塔底から排出され、粗芳香族留分パイプ52に導出された粗芳香族留分を、芳香族回収装置24に移送する。この芳香族回収装置24では、BTXを多く含む粗芳香族留分から、ベンゼン、トルエン、キシレンを順次分離するとともに、これらをそれぞれ精製、回収する。これにより、キシレンを分離回収した後の、主に炭素数9以上の重質留分からなる留分を、ベンゼン、トルエン、キシレン(炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素)から分離する。
【0065】
[(f)溶剤循環工程]
芳香族回収装置24においてBTXから分離された重質留分を溶剤循環パイプ25に導出する。この溶剤循環パイプ25には、例えば三方弁からなる切換弁(図示せず)が設けられており、芳香族回収装置24から導出された前記重質留分の一部が、該溶剤循環パイプ25によって前記吸収分離装置18に返送・循環され、溶剤として供される。また、重質留分の残部は、導出パイプ27を通って塔底油パイプ60に導出される。
【0066】
溶剤循環パイプ25によって吸収分離装置18に返送・循環される重質留分、すなわち溶剤の量については、特に限定されないものの、例えば芳香族回収装置24で回収されるBTXの回収率、又はデブタナイザー20の蒸留塔の塔頂から導出されるLPG留分の回収率が、飽和したときの量とされる。
【0067】
詳しくは、吸収分離装置18に返送・循環する重質留分(溶剤)の量を少しずつ増やしていくとともに、変化させた重質留分量(溶剤量)に対応するBTXの回収率、またはLPG留分の回収率を検出する。重質留分量を増やしていくと、吸収分離装置18での溶剤(重質留分)への粗芳香族留分の吸収量が増加することから、BTXの回収率やLPG留分の回収率も高まる。しかし、蒸留装置16の塔頂成分の、吸収分離装置18への単位時間当たりの供給量が一定である場合、溶剤量(重質留分量)がある程度増えると、溶剤(重質留分)への粗芳香族留分の吸収量が飽和してほぼ一定になり、これによってBTXの回収率やLPG留分の回収率も飽和してほぼ一定になる。したがって、このようにBTXの回収率やLPG留分の回収率が飽和したときの重質留分量を、吸収分離装置18に返送・循環する重質留分の量とする。
【0068】
なお、重質留分量(溶剤量)を決定するための指標として、BTXの回収率を用いるか、又はLPG留分の回収率を用いるかは、プラントの運転条件や、製造する製品の用途等応じて適宜に決定される。当該溶剤量としては、通常吸収分離装置に送られる塔頂留分中の、LPG及びBTX量の合計量の0.02〜0.45容量比の範囲とするのが望ましい。0.02以下であるとLPG等の回収率が不十分であり、0.45以上となると経済的に望ましくない。
【0069】
[他の工程]
また、吸収分離装置18から排出された水素を含むオフガスを、水素含有オフガスパイプ48を通してPSA装置22に移送する。PSA装置22に導入された水素を含むオフガスを、PSA装置22の吸着塔内の吸着剤に接触させて、水素以外のオフガスを吸着剤に吸着させ、水素を高純度で回収した後、常温下で圧力を下げて吸着剤からオフガスをパージして吸着剤を再生させることによって、水素とオフガスとに分離する。PSA装置22から排出されたオフガスを、オフガスパイプ50を通して製造プラント10外に移送する。また、PSA装置22から排出され、水素パイプ54を通して製造プラント10外に移送される水素は、回収容器に回収され、または図示しない水素化処理装置に移送されて水素化に供される。
【0070】
また、蒸留装置16の蒸留塔の塔底から排出された塔底留分は、塔底油パイプ60を通ってC10+A留分として製造プラント10外に移送する。なお、該パイプ60を通る前記塔底留分の一部を、芳香族製造装置12に循環することも可能である。
【0071】
以上説明したように、本発明の芳香族炭化水素の製造方法および製造プラント10にあっては、接触芳香族製造反応によって製造した粗芳香族留分を水素やオフガスから分離する溶剤吸収工程(吸収分離装置18)において、溶剤として、粗芳香族留分を炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と重質留分とに分離する芳香族回収装置24(第3分離工程)で得られた重質留分を用いているので、前記した大きな沸点差により、LPG留分やBTXを多く含む粗芳香族留分を充分に効率良く吸収することができる。したがって、粗芳香族留分を水素やオフガスから効率良く分離することができる。また、このように吸収効率を高くすることができることから、溶剤の循環量(使用量)についても充分低く抑えることができる。よって、本実施形態によれば、BTX等の芳香族炭化水素の製造コストや、プラントの運転コストを低く抑えることができる。
また、吸収分離装置18を単一(単段)の吸収塔で構成しているため、装置構成を簡略化して設備コストや運転コストの低減化を図ることができる。
【0072】
図2は、本発明の芳香族炭化水素の製造プラントの、他の実施形態の要部を示す概略構成図である。図2に示した製造プラントが図1に示した製造プラント10と異なるところは、吸収分離装置18の構成にある。すなわち、図1に示した製造プラント10の吸収分離装置18は、単一(単段)の吸収塔によって構成されているのに対し、図2に示した吸収分離装置18は、吸収塔を二段(複数段)備えて構成されている。
【0073】
図2に示す吸収分離装置18は、塔頂油パイプ42を介して蒸留装置16に接続する第1吸収塔70と、該第1吸収塔70の後段に配置された第2吸収塔71とを備えて構成されている。第1吸収塔70の塔頂部には、接続パイプ72が接続されており、この接続パイプ73には第2吸収塔71が接続されている。また、第1吸収塔70、第2吸収塔71の塔底部にはそれぞれ導出パイプ73が設けられており、これら第1導出パイプ73には貯留タンク74が接続されている。さらに、貯留タンク74には第2導出パイプ75が接続されており、この第2導出パイプ75にはストリッパ76が接続されている。
【0074】
貯留タンク74は、第1吸収塔70や第2吸収塔71の塔底から導出された、LPG留分を含む粗芳香族留分を一旦貯留する。第1吸収塔70には、貯留タンク74で貯留された前記粗芳香族留分が、溶剤として、返送パイプ77によって返送・循環されるようになっている。これによって第1吸収塔70は、該溶剤を蒸留装置16の塔頂留分と接触させることにより、LPG留分を含む粗芳香族留分を該溶剤に吸収させる。
【0075】
第2吸収塔71には、第1吸収塔70で吸収されなかったLPG留分を含む粗芳香族留分が、接続パイプ72を通って導入される。また、溶剤としては、図1に示した実施形態と同様に、粗芳香族留分を炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と重質留分とに分離する芳香族回収装置24(第3分離工程)で得られた重質留分が、溶剤循環パイプ25を通って供せられる。
【0076】
このような構成によって第2吸収塔71では、図1に示した吸収分離装置18における吸収塔と同様に、LPG留分やBTXを多く含む粗芳香族留分を充分に効率良く吸収することができる。また、このように吸収効率を高くすることができることから、溶剤の循環量(使用量)についても充分低く抑えることができる。さらに、第1吸収塔70で前記塔頂留分中の粗芳香族留分の一部を溶剤中に吸収して除去し、第2吸収塔71で残りの粗芳香族留分を再度吸収処理するので、第1吸収塔70と第2吸収塔71との二段構成からなる吸収分離装置18での吸収効率は、図1に示した吸収分離装置18での吸収効率よりさらに高くなる。
【0077】
また、ストリッパ76は、貯留タンク74から送り出されたLPG留分を含む粗芳香族留分から、これに吸収されていたガスを分離し、得られた塔底留分(LPG留分を含む粗芳香族留分)を、LPG留分含有粗芳香族留分パイプ78を通してデブタナイザー20に供給する。
【0078】
このような二段の吸収塔を備えた吸収分離装置18を有する製造プラントおよび製造方法にあっても、図1に示した実施形態と同様に、溶剤吸収工程(吸収分離装置18)での溶剤として芳香族回収装置24(第3分離工程)で得られた重質留分を用いているので、LPG留分やBTXを多く含む粗芳香族留分を充分に効率良く吸収することができ、したがって粗芳香族留分を水素やオフガスから効率良く分離することができる。また、このように吸収効率を高くすることができることから、溶剤の循環量(使用量)についても充分低く抑えることができる。よって、本実施形態によれば、BTX等の芳香族炭化水素の製造コストや、プラントの運転コストを低く抑えることができる。
また、吸収分離装置18を二段(複数段)の吸収塔で構成しているため、吸収分離装置18での吸収効率をより一層高めることができる。
【実施例】
【0079】
図1に示す構成の芳香族炭化水素の製造プラント10を用い、下記の運転条件にて芳香族製造装置にてBTXの製造を行い、後段の各工程を経て回収されたBTXの回収率およびLPGの回収率を求めた。また、比較のため、図2に示す製造プラントにおいて、第2吸収塔71に循環・供給する溶剤として、図2中に破線で示す供給パイプ79によってデブタナイザー20の塔底留分、すなわち吸収分離装置18(溶剤吸収工程)で分離した粗芳香族留分から、さらにLPGを分離した留分を用いて運転し、BTXの製造を行い、BTXの回収率およびLPGの回収率を求めた。なお、この比較例での運転条件は、製造プラント10を用いた実施例での下記運転条件と同じとした。
また、それぞれの例において、溶剤循環パイプ25または供給パイプ79によって吸収分離装置18に返送・循環する単位時間当たりの溶剤(重質留分)の量については、LPGの回収率が飽和したときの量とした。
【0080】
(運転条件)
予熱器による原料油の加熱温度:200℃、
触媒ライザ26への原料油(蒸気)の供給量:1トン/hr、
流動床反応器12内の圧力:0.3MPaG、
流動床反応器12内の反応温度:560℃、
流動床反応器12内における原料油と芳香族製造触媒と接触時間:18秒、
熱付け槽14内の圧力:0.35MPaG、
熱付け槽14内の温度:650℃、
熱付け槽14への熱付け用燃料の供給量:0.015トン/原料油1トン、
熱付け槽14への空気の供給量:17.2トン/原料油1トン。
【0081】
なお、原料油としては、未水素化処理のLCOを用いた。
熱付け用燃料(トーチオイル)としては、蒸留装置16で得られた塔底油を用いた。
芳香族製造触媒としては、格子骨格内にガリウムが組み込まれたMFIタイプのゼオライト(粒子寸法:約0.3μm)を含む芳香族製造触媒を用いた。
【0082】
後段の各分離工程を経て回収される粗芳香族留分の量は、0.35トン/hrであり、水素の量は、206Nm/hrであり、粗芳香族留分の水素化処理および塔底油の水素化処理に必要十分な水素を回収できることが確認された。
実施例でのBTXの回収率は96.6%、LPGの回収率は18%であるのに対し、比較例でのBTXの回収率は91.9%、LPGの回収率は12%であった。したがって、図1に示した製造プラント10による実施例では、比較例に比べてBTXの回収率が充分に高くなっており、さらにLPGの回収率も充分に高くなっていることが分かった。
なお、これらBTXの回収率やLPGの回収率は、図1に示す流動床反応器12から導出されて反応生成物パイプ34を流れる反応物中の、BTX、LPGの量をそれぞれ100%として、算出した。
【0083】
また、実施例において、溶剤循環パイプ25によって吸収分離装置18に返送・循環する単位時間当たりの溶剤(重質留分)の量は、20kl/Hrであるのに対し、比較例において、供給パイプ79によって吸収分離装置18に返送・循環する単位時間当たりの溶剤(重質留分)の量は、120kl/Hrであった。
したがって、図1に示した製造プラント10による実施例では、比較例に比べて溶剤の使用量(循環量)を格段に少なくできることが分かった。
なお、この実施例での溶剤量は、吸収分離装置に送られる塔頂留分中のLPG及びBTX量の合計量に対して、0.21に相当する量であった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、FCC装置から得られるLCOおよび原油蒸留装置から得られるナフサ等を原料にした芳香族炭化水素の製造に有用である。
【符号の説明】
【0085】
10…製造プラント、12…流動床反応器(芳香族製造装置)、14…熱付け槽(芳香族製造装置)、16…蒸留装置(第1分離手段)、18…吸収分離装置(溶剤吸収手段)、20…デブタナイザー(第2分離手段)、24…芳香族回収装置(第3分離手段)、25…溶剤循環パイプ(溶剤循環手段)、70…第1吸収塔、71…第2吸収塔、74…貯留タンク、76…ストリッパ、79…供給パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)流動接触分解装置から得られる分解軽油、該分解軽油を水素化処理したもの、ならびに原油蒸留装置から得られるナフサおよび直留軽油からなる群から選ばれる1種以上の原料油を、芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る反応工程と、
(b)前記反応生成物を、蒸留塔によって塔頂留分と塔底留分とに分離する第1分離工程と、
(c)前記塔頂留分を溶剤に接触させ、LPG留分を含む粗芳香族留分を前記溶剤に選択的に吸収させることにより、前記塔頂留分を、LPG留分を含む粗芳香族留分と水素を含むオフガスとに分離する溶剤吸収工程と、
(d)前記LPG留分を含む粗芳香族留分を、LPG留分と粗芳香族留分とに分離する第2分離工程と、
(e)前記粗芳香族留分を、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と重質留分とに分離する第3分離工程と、
(f)前記第3分離工程で得られた重質留分を、前記溶剤吸収工程における前記溶剤として該溶剤吸収工程に供する溶剤循環工程と、
を有する芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記溶剤吸収工程を単一の吸収塔で行う、請求項1に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)においては、前記原料油を、流動床反応器内にて流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得ると同時に、外部から供給された熱付け用燃料を酸素含有ガスの存在下に燃焼させることによって、前記流動床反応器内から抜き出された前記芳香族製造触媒に熱付けを行う、請求項1又は2に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項4】
流動接触分解装置から得られる分解軽油、該分解軽油を水素化処理したもの、ならびに原油蒸留装置から得られるナフサおよび直留軽油からなる群から選ばれる1種以上の原料油を、芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る芳香族製造装置と、
前記反応生成物を、蒸留塔によって塔頂留分と塔底留分とに分離する第1分離手段と、
前記塔頂留分を溶剤に接触させ、LPG留分を含む粗芳香族留分を前記溶剤に選択的に吸収させることにより、前記塔頂留分を、LPG留分を含む粗芳香族留分と水素を含むオフガスとに分離する溶剤吸収手段と、
前記LPG留分を含む粗芳香族留分を、LPG留分と粗芳香族留分とに分離する第2分離手段と、
前記粗芳香族留分を、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と重質留分とに分離する第3分離手段と、
前記第3分離手段で得られた重質留分を、前記溶剤吸収手段における前記溶剤として該溶剤吸収手段に供する溶剤循環手段と、
を有する芳香族炭化水素の製造プラント。
【請求項5】
前記溶剤吸収手段は、単一の吸収塔によって構成されている、請求項4に記載の芳香族炭化水素の製造プラント。
【請求項6】
前記芳香族製造装置が、
前記原料油を、流動床状態にある芳香族製造触媒と接触させて芳香族炭化水素を含む反応生成物を得る流動床反応器と、
外部から供給された熱付け用燃料を酸素含有ガスの存在下に燃焼させることによって、前記流動床反応器内から抜き出された前記芳香族製造触媒に熱付けを行う熱付け槽と、
を有する、請求項4又は5に記載の芳香族炭化水素の製造プラント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−206955(P2012−206955A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72307(P2011−72307)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】