説明

芳香族炭化水素製造方法

【課題】低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を製造する際、高い芳香族炭化水素収率を維持しつつ、長時間安定して芳香族炭化水素を製造する。
【解決手段】低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を得る反応工程と、前記反応工程で使用された触媒を再生する再生工程を備え、前記反応工程と前記再生工程を繰り返すことにより芳香族炭化水素を製造する方法において、前記反応工程では、前記低級炭化水素に該低級炭化水素の体積量の0.33〜1.6%となるように二酸化炭素を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン、エタン、プロパン等の低級炭化水素からベンゼン等の芳香族化合物と水素を効率的に製造する方法に関するものである。特に、触媒を用いて低級炭化水素からベンゼン等の芳香族化合物を効率的に生産する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
従来、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物は主にナフサから製造されている。また、ナフタレン類の製造方法としては石炭などの溶剤抽出法、天然ガスやアセチレンなどのガス熱分解法などの非触媒方法が採られている。
【0003】
しかし、これら従来法ではベンゼン及びナフタレン類は石炭やアセチレンなどの原料に対して数パーセントしか得られず、また副生芳香族化合物や炭化水素、タールや非溶解性の炭素残留物が多く、問題点を有している。また、石炭などの溶剤抽出法では多量の有機溶剤を必要とする難点もある。
【0004】
水素ガスの製造法としては、天然ガスやナフサの水蒸気改質法が主流であるが、900℃程度の高温を必要とし、また改質温度を維持するために多量の原料を燃焼させ、また触媒の活性低下を防ぐために理論必要量の3〜4倍の水蒸気を使用しており、多量のエネルギーを消費する。さらに、改質・燃焼生成物として地球温暖化物質である二酸化炭素が多量に発生する等の問題点がある。
【0005】
一方、低級炭化水素、特にメタンからベンゼン及びナフタレン等の芳香族炭化水素と水素を製造する方法としては、酸素ガスが存在しない系で、触媒上でメタンを直接分解させる方法いわゆるメタンの直接転換法が知られており(例えば、特許文献1〜4)、この場合の触媒としてはHZSM−5ゼオライトに担持されたモリブデン、レニウム等が有効とされている(例えば、非特許文献1、2)。これらの触媒を使用した場合でも、炭素析出による触媒活性の著しい低下やメタン転化率が低いという解決すべき問題を有している。
【0006】
上記問題の解決策として、特許文献1では、メタンやエタン等の低級炭化水素から芳香族化合物と水素を製造する方法において、反応させる気体にCO2又はCOを添加することで副反応の炭素析出を抑制し、反応による触媒活性の低下を低減している。また、特許文献2〜4では、低級炭化水素の接触反応と、触媒再生反応を交互に繰り返すことにより、安定的に芳香族炭化水素と水素を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3745885号公報
【特許文献2】特許第3985038号公報
【特許文献3】特開2008−266244号公報
【特許文献4】特開2008−302291号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】JOURNAL OF CATALYSIS、1999、Volume182、p.92−103
【非特許文献2】JOURNAL OF CATALYSIS、2000、Volume190、p.276−283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1によると、メタンを触媒に接触させて芳香族炭化水素を得る反応を長時間安定的に行わせるためには、高い濃度のCO2やCOの添加が必要である。
【0010】
しかしながら、過剰にCO2やCOを添加すると芳香族化反応が阻害され、芳香族炭化水素の収率が低下するという問題があった。
【0011】
一方、CO2やCOを添加しない場合は、初期においては非常に高いベンゼン転化率となるが、炭素析出反応も激しくおこり、わずかな時間で触媒の活性がなくなってしまう。
【0012】
反応工程で触媒上に析出したコークは再生工程にて取り除くことができるが、反応時間によっては比較的短時間の再生工程では取り除くことが困難となる難除去性コークが発生する。この難除去性コークが蓄積していった場合、反応工程と再生工程を繰り返してもベンゼン収率が初めの水準に回復せず漸次減少していってしまう。このような難除去性コークを取り除くには、例えば特許文献4のように、長時間を要する再生工程が必要となる。
【0013】
したがって、本発明は、低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を製造する方法において、芳香族炭化水素の収率を高く維持し、反応工程と触媒の再生工程を繰り返しても芳香族炭化水素の収率が低下しない方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明の芳香族炭化水素製造方法は、低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を得る反応工程と、前記反応工程で使用された触媒を再生する再生工程を繰り返すことにより芳香族炭化水素を製造する方法において、前記反応工程では、前記低級炭化水素に該低級炭化水素の体積量の0.33〜1.6%となるように二酸化炭素を添加したことを特徴とする。
【0015】
そして、前記反応工程で生成されるベンゼンの収率に基づいて、前記反応工程から前記再生工程に切り替えることができる。また、前記反応工程の反応時間は、5時間以内であればよい。
【0016】
前記再生工程は、前記触媒を水素と接触させることにより行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の発明によれば、低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を製造する際、高い芳香族炭化水素収率を維持しつつ、長時間安定して芳香族炭化水素を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】触媒反応を連続して行った場合のベンゼン収率の時間変化を示す図。
【図2】実施例5に係る条件で、触媒反応工程と再生工程を繰り返した場合のベンゼン収率の時間変化を示す図。
【図3】実施例6に係る条件で、触媒反応工程と再生工程を繰り返した場合のベンゼン収率の時間変化を示す図。
【図4】実施例7に係る条件で、触媒反応工程と再生工程を繰り返した場合のベンゼン収率の時間変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、低級炭化水素を触媒の存在下で反応させて芳香族炭化水素を製造する方法に係る発明であり、反応時に過剰とならない量の炭酸ガスを添加し、一定時間ごとに再生ガスに切り替えて触媒を再生させることを特徴としている。反応時に過剰とならない量の炭酸ガスを添加することにより著しい炭素(コーク)析出の発生を抑えつつ、一定時間ごとに再生ガスに切り替えて触媒反応を行わせることで、難除去性コークが蓄積することなく、高収率を維持したまま長時間反応を行わせるものである。
【0020】
本発明の芳香族炭化水素を製造する方法で使用する反応器は、固定床反応器あるいは流動床反応器などが例示される。
【0021】
反応温度は、600℃〜900℃、好ましくは700℃〜850℃、より好ましくは750℃〜830℃である。
【0022】
反応圧力は、0.1〜0.9MPa、好ましくは0.1〜0.5MPaである。
【0023】
原料投入量は、触媒量に対する重量時間空間速度(WHSV)で、150〜70000[ml/g−MFI/h]、好ましくは500〜30000[ml/g−MFI/h]、より好ましくは1400〜14000[ml/g−MFI/h]である。
【0024】
ゼオライト系触媒は、触媒活性を有するゼオライト触媒であれば特に限定されず、例えば、モルデナイト、エリオナイト、フェリエライト、モービル社から市販されている「ZSM−5」、「ZSM−4」、「ZSM−8」、「ZSM−11」、「ZSM−12」、「ZSM−20」、「ZSM−40」、「ZSM−35」、「ZSM−48」等のゼオライト系触媒が使用できる。また、「MCM−41」、「MCM−48」、「MCM−50」、「FSM−16」、「M41S」等の所謂メソポーラスゼオライト等の結晶性アルミノシリケート、あるいはポロシリケート、ガロシリケート、フェロアルミノシリケート、チタノシリケート等の異元素含有ゼオライト等、公知のゼオライト系触媒が使用できる。これらゼオライト系触媒の中で、オレフィンの水和反応に適しているのは、ペンタシル構造を有する結晶性アルミノシリケート、ガロシリケートである。
【0025】
ゼオライト系触媒は、通常プロトン交換型(H型)のものが用いられる。また、プロトンの一部がNa、K、Li等のアルカリ金属、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類元素、Fe、Co、Ni、Ru、Pd、Pt、Zr、Ti等の遷移金属元素から選ばれた少なくとも一種のカチオンで交換されていてもよい。また、ゼオライト系触媒が、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo、W、Th、Cu、Ag等を適量含有していてもよい。
【0026】
ゼオライト系触媒の形態に格別の制約はなく、粉末状、顆粒状等任意の形状のものを用いればよい。また、担体あるいはバインダーとして、アルミナ、チタニア、シリカ、粘土質化合物等を使用してもよい。
【0027】
ゼオライト系触媒は、シリカ、アルミナ、粘土等のバインダーを添加して、ペレット状若しくは押出品に成型して使用してもよい。
【0028】
なお、本発明において、低級炭化水素とは、少なくとも50%、好ましくは70%以上の重量%のメタンを含有し、その他炭素数が2〜6の飽和及び不飽和炭化水素が含まれているものを意味する。これら炭素数が2〜6の飽和及び不飽和炭化水素の例としては、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、n−ブタン、イソブタン、n−ブテン及びイソブテン等が例示できる。
【0029】
以下、実施例により、さらに詳細に説明する。
【実施例】
【0030】
メタロシリケート担体としてH型ZSM−5ゼオライト(SiO2/Al23=40)を用い、以下の調製方法により低級炭化水素芳香族化触媒(以下、触媒という)を作製した。
【0031】
イオン交換水2000mlに所定量のモリブデン酸アンモニウム及び硝酸亜鉛を溶解させた水溶液に、シラン処理後のHZSM−5を400g加え、室温にて3時間攪拌し、HZSM−5に亜鉛及びモリブデンを含浸担持した。亜鉛とモリブデンは、モル比で0.3:1となるようにHZSM−5上に担持した。
【0032】
得られた亜鉛/モリブデン担持ZSM−5(Zn(1.23wt%)/Mo(6wt%)/HZSM−5)を乾燥後、550℃で8時間焼成し、触媒粉末を得た。さらに、この触媒粉末に無機結合剤を加えてペレット状に押し出し成型、焼成を行い触媒とした。
【0033】
得られた触媒を用いて、低級炭化水素から芳香族炭化水素を製造する試験を行った。触媒の評価は、流通させた低級炭化水素に対するベンゼンの収率で評価した。ベンゼンの収率は以下のように定義する。
ベンゼン収率(%)={(生成したベンゼン量(mol))/(メタン改質反応に供されたメタン量(mol))}×100
以下に、各試験において共通の反応条件を以下に示す。
反応温度:780℃
圧力:0.15MPa
重量時間空間速度(WHSV):3000ml/g−MFI/h
触媒の前処理は、触媒を空気気流下550℃まで昇温し、2時間維持した後、メタン20%:水素80%の前処理ガスに切り替えて、700℃まで昇温し、3時間維持した。その後、反応ガスに切り替えて所定の温度(780℃)まで昇温し触媒の評価を行った。
【0034】
分析は、水素、アルゴン、メタンはTCD−GCで分析し、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素はFID−GCで分析した。
【0035】
図1は、比較例1、2及び実施例1〜4のように反応ガスの条件を変化させた場合において、触媒反応を連続して行った場合のベンゼン収率の時間変化を示す図である。比較例1、2及び実施例1〜4の反応ガスの条件を以下に示す。
【0036】
比較例1では、反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素の添加せずに反応を行い、前記分析結果の経時時間観察をした。
【0037】
実施例1では、反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素を0.33(体積%)添加して反応を行い、前記分析結果の経時時間観察をした。
【0038】
実施例2では、反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素を0.6(体積%)添加して反応を行い、前記分析結果の経時時間観察をした。
【0039】
実施例3では、反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素を1.0(体積%)添加して反応を行い、前記分析結果の経時時間観察をした。
【0040】
実施例4では、反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素を1.6(体積%)添加して反応を行い、前記分析結果の経時時間観察をした。
【0041】
比較例2では、反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素を2.84(体積%)添加反応を行い、前記分析結果の経時時間観察をした。
【0042】
図1より明らかなように、比較例1では、ベンゼン収率が高い。しかし、反応時間が経過することによるベンゼン収率の低下が著しい。
【0043】
実施例1〜4では、ベンゼン収率は比較例1と変わらず、二酸化炭素の添加量が増加するほど触媒安定性が向上している。特に、二酸化炭素の添加量が0.6体積%(実施例2)、1.0体積%(実施例3)で顕著な効果がみられる。高いベンゼン収率が維持される反応時間は5時間程度であるので、この反応時間範囲で芳香族炭化水素製造反応と触媒再生反応を繰り返せばよいことが確認できる。
【0044】
一方、比較例2より明らかなように、二酸化炭素の添加量が増加すると、触媒の安定性は向上するものの、ベンゼン収率が低下している。これは、余剰の二酸化炭素により、芳香族化反応が抑制されたものと考えられる。
【0045】
図2〜4は、それぞれ実施例5〜7に係る条件で、触媒反応工程と再生工程を繰り返した場合のベンゼン収率の時間変化を示す図である。それぞれの条件を以下に示す。
【0046】
実施例5では反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素を0.8(体積%)を添加して2時間反応を行い、その後水素ガスに切り替えて2時間再生を行った。この反応と再生を交互に切り替えて、芳香族炭化水素を連続的に製造し前記分析結果の経時時間観察をした。
【0047】
実施例6では反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素を1.0(体積%)を添加して0.5時間反応を行い、その後水素ガスに切り替えて0.5時間再生を行った。この反応と再生を交互に切り替えて、芳香族炭化水素を連続的に製造し前記分析結果の経時時間観察をした。
【0048】
実施例7では反応時に前記反応ガスとして、メタン100(体積%)に対して二酸化炭素を1.2(体積%)を添加して1時間反応を行い、その後水素ガスに切り替えて1時間再生を行った。この反応と再生を交互に切り替えて、芳香族炭化水素を連続的に製造し前記分析結果の経時時間観察をした。
【0049】
図2〜4に示すように、反応ガスに二酸化炭素をメタン100(体積%)に対して、0.8〜1.2(体積%)添加することにより、高いベンゼン収率を維持したまま何度も繰り返し連続的に芳香族炭化水素製造反応ができることがわかる。つまり、反応と再生のサイクルを繰り返しても、炭素析出の影響を受けずに芳香族炭化水素を製造すること可能であることがわかる。
【0050】
また、反応と再生の切替え時間は、収率が最も安定している時間以内(図1の実施例2、3では5時間程度)が望ましく、特に2時間以内で切り替えて触媒反応を行えば、その切替え時間の間隔を問わず、触媒の再生が可能であることがわかる。
【0051】
以上のように、本発明の低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族化合物と水素を製造する方法によれば、難除去性コークが蓄積することを防止できるので、高いベンゼン収率(触媒活性)を維持しつつ、長時間製造反応を行うことが可能である。
【0052】
したがって、触媒反応工程と触媒再生工程を頻繁に変えずに芳香族炭化水素を製造することが可能となる。さらに、触媒反応工程と触媒再生工程を繰り返しても、ベンゼン収率が低下しない。
【0053】
また、反応ガスに添加される二酸化炭素の量は、メタン100(体積%)に対して、0.33〜1.6(体積%)、望ましくは0.6〜1.2(体積%)、さらに望ましくは0.8〜1.2(体積%)であるとよい。
【0054】
なお、本発明は、実施例に限定されるものではなく、反応条件及び触媒(担持する金属の種類や担持量)等は適宜選択可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低級炭化水素を触媒と接触反応させて芳香族炭化水素を得る反応工程と、前記反応工程で使用された触媒を再生する再生工程を繰り返すことにより芳香族炭化水素を製造する方法において、
前記反応工程では、前記低級炭化水素に該低級炭化水素の体積量の0.33〜1.6%となるように二酸化炭素を添加した
ことを特徴とする芳香族炭化水素製造方法。
【請求項2】
前記反応工程で生成されるベンゼンの収率に基づいて、前記反応工程から前記再生工程に切り替える
ことを特徴とする請求項1に記載の芳香族炭化水素製造方法。
【請求項3】
前記反応工程の反応時間は、5時間以内である
ことを特徴とする請求項2に記載の芳香族炭化水素製造方法。
【請求項4】
前記再生工程は、前記触媒を水素と接触させることにより行う
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の芳香族炭化水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−184894(P2010−184894A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29703(P2009−29703)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】