説明

茶抽出液の製造方法

【課題】苦渋味が低減された茶抽出液の製造方法を提供すること。
【解決手段】茶葉からヒドロキシカルボン酸又はその塩と炭酸塩を含有する水溶液で抽出することを特徴とする茶抽出液の製造方法であって、好ましくは、ヒドロキシカルボン酸としてアスコルビン酸のナトリウム塩、炭酸塩としては炭酸水素ナトリウムを用いる。抽出に用いる水溶液中のヒドロキシカルボン酸又はその塩の濃度は、0.01〜5質量%、炭酸塩の濃度は、0.001〜5質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶抽出液の製造方法及び該製造法で製造した茶抽出液を使用した容器詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
茶抽出液に含まれるカテキン類の効果としてはコレステロール上昇抑制作用やアミラーゼ活性阻害作用等が報告されている(特許文献1、2)。カテキン類のこのような生理効果を発現させるためには、成人一日あたり4〜5杯のお茶を飲むことが必要であることから、より簡便に大量のカテキン類を摂取するために、飲料にカテキン類を高濃度配合する技術が望まれている。この方法の一つとして、緑茶抽出液の濃縮物(特許文献3〜5)等を利用して、カテキン類を飲料に溶解状態で添加する方法がある。
【0003】
しかしながら、非重合体カテキン類を高濃度に含む飲料は、飲んだときに苦味を強く感じるという欠点がある。苦味を低減する手段として、飲料中にサイクロデキストリンを配合する方法(特許文献6〜11)、酵素処理する方法(特許文献12,13)、2段抽出(特許文献14)等が報告されている。
【特許文献1】特開昭60−156614号公報
【特許文献2】特開平3−133928号公報
【特許文献3】特開2002−142677号公報
【特許文献4】特開平8−298930号公報
【特許文献5】特開平8−109178号公報
【特許文献6】特開平3−168046号公報
【特許文献7】特開平10−4919号公報
【特許文献8】特開2002−238518号公報
【特許文献9】特開2004−129662号公報
【特許文献10】特開2004−159641号公報
【特許文献11】特開2004−254511号公報
【特許文献12】特開2005−130809号公報
【特許文献13】特開2003−210110号公報
【特許文献14】特開平6−303904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、サイクロデキストリンを配合して苦味を低減させるには多量のサイクロデキストリンが必要となり、その結果、サイクロデキストリン自身の風味によって飲料本来の風味が損われてしまうという欠点があった。また、酵素処理では香気成分を含む風味の変化が起こり、飲料本来の風味が損なわれる欠点があった。また、2段抽出法では、2段にわたり抽出を行うため作業性が悪く、かつ、苦味が強くなった。
従って、本発明の目的は、飲料本来の風味を損うことなく、かつ非重合体カテキン類を高濃度に含む容器詰飲料の苦味を低減する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、カテキン類を含有する茶抽出液中の苦渋味原因の一つであるカテキン類ガレート体の比率が低減した茶抽出液の抽出手段について検討したところ、容器詰飲料の製造時にpH調整の目的で添加されていたヒドロキシカルボン酸又はその塩と炭酸塩とを茶葉からの抽出時の抽出水中に添加することにより、ガレート体の含有比が低減し、苦渋味が低減し、かつ風味の良好な茶抽出液が効率良く得られることを見出した。また、かくして得られた茶抽出液を用いれば非重合体カテキン類を高濃度に含み、かつ苦渋味が低減された容器詰飲料が得られることも見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、茶葉からヒドロキシカルボン酸又はその塩と炭酸塩を含有する水溶液で抽出することを特徴とする茶抽出液の製造方法;及び当該方法で製造した茶抽出液を使用した容器詰飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非重合体カテキン類濃度が高く、かつ苦渋味が低減され、かつ風味の良好な茶抽出液が得られる。従って、この茶抽出液を用いれば、苦渋味が低減され、風味が良好で長期間常飲可能な容器詰飲料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で非重合体カテキン類とは、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類及びエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類をあわせての総称であり、非重合体であるカテキン類を指す。非重合体類の濃度は、上記の合計8種の合計量に基いて定義される。
また、本発明でガレート体率とは、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートからなる総称ガレート体の全非重合体カテキン類中の割合(質量%)をいう。
【0009】
本発明に使用される茶葉としては、非発酵茶、半発酵茶及び発酵茶が挙げられる。これらの茶葉の種類としては、Camellia属、例えばC.sinensis、C.assamica、及びやぶきた種又はそれらの雑種などから得られる茶葉から製茶された茶葉が挙げられる。製茶された茶葉には、煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜炒り茶などの緑茶類;烏龍茶及び紅茶がある。これらのうち、緑茶葉を用いるのがより好ましい。
【0010】
本発明においては、茶葉から茶抽出液を得るための抽出液としてヒドロキシカルボン酸又はその塩と炭酸塩を含有する水溶液を用いる。ここでヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、アスコルビン酸又はそれらの混合物が使用できる。苦渋味低減効果及び風味の点からアスコルビン酸が好ましい。ヒドロキシカルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられるが、アルカリ金属塩がより好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。
【0011】
炭酸塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属塩、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属塩が挙げられるが、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。また、苦渋味低減効果及び風味の点から、炭酸水素アルカリ金属塩、特に炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0012】
抽出に用いる水溶液中のヒドロキシカルボン酸又はその塩の濃度は、苦渋味低減効果及び風味の点から0.01〜5質量%で使用できる。好ましくは、0.01〜3質量%、特に0.1〜1質量%である。また、抽出に用いる水溶液中の炭酸塩の濃度は、苦渋味低減効果及び風味の点から、0.001〜5質量%が使用できる。好ましい範囲は、0.001〜3質量%、特に0.01〜0.1質量%である。
【0013】
抽出に用いる水溶液中には、更に低級アルコールを添加してもよい。低級アルコールとしてはエタノールが好ましい。
【0014】
また、抽出に用いる水溶液のpHは、苦渋味低減効果及び風味の点から、5.8〜12である。好ましい範囲は、5.8〜10、特に5.8〜9がよい。pHは、ヒドロキシカルボン酸又はその塩と炭酸塩の濃度を調節することにより調整することができる。
【0015】
茶葉からの抽出方法及び装置は、ニーダ抽出機でもカラム型抽出機が使用できる。抽出効率の点でカラム型抽出機が好ましい。カラム型抽出機を用いた抽出方法としては、所定量の前記水溶液をタンクに入れて循環する回分方法、抽出用の前記水溶液をカラムの一方から他方に通液方向は上昇流又は下降流で1パス通液する連続方法が挙げられる。ここで、水溶液の温度は、風味及び抽出効率の点から0〜90℃で行う。好ましくは、0〜80℃、特に0〜70℃がよい。
【0016】
本発明により得られる茶抽出液中のガレート体率は、30〜70質量%がよい。好ましい範囲としては、非重合体カテキン類の生理効果の有効性及び苦渋味の点から、30〜60質量%、特に30〜50質量%が好ましい。また、当該茶抽出液中の非重合体カテキン類濃度は0.03〜3質量%がよい。好ましい範囲としては、0.05〜1質量%、特に0.1〜0.5質量%がよい。
【0017】
本発明の抽出液の製造方法では、非重合体カテキン類の抽出効率が優れ、非重合体カテキン類が高濃度であり、かつ苦渋味が低減されている。従って、得られた茶抽出液は容器詰飲料として有用であり、緑茶、烏龍茶、ブレンド茶、紅茶、麦茶等の茶系飲料として、更にはスポーツ飲料、アイソトニック飲料等の非茶系飲料として使用できる。
【0018】
本発明で得られる茶抽出液を容器詰飲料に使用するときは、上記製造方法で製造した茶抽出液に加えて、非重合体カテキン類含有量の調整のために、緑茶抽出物の濃縮物又はその精製物を併用してもよい。ここで、緑茶抽出物の濃縮物とは、茶葉から熱水又は水溶性有機溶媒により抽出された抽出物を濃縮したものであり、例えば、特開昭59−219384号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平5−306279号公報等に記載されている方法により調製したものをいう。具体的には、緑茶抽出物として、市販の東京フードテクノ社製「ポリフェノン」、伊藤園社製「テアフラン」、太陽化学社製「サンフェノン」等の粗カテキン製剤を、固体の粗カテキン製剤として用いることもできる。
【0019】
前記の茶抽出液を容器詰飲料に配合するときは、水に溶解状態にある非重合体カテキン類を、0.03〜1.0質量%含有するがよい。多量の非重合カテキン類を容易に取り易く、飲料調製直後の色調の点から、非重合体カテキン類含量が0.04〜0.5質量%、より好ましくは0.06〜0.4質量%、更に好ましくは0.07〜0.4質量%、特に好ましくは0.08〜0.3質量%、殊更好ましくは0.09〜0.3質量%、もっとも好ましくは0.1〜0.3質量%の範囲にあると好ましい。
【0020】
また、蓄積体脂肪燃焼促進、食事性脂肪燃焼促進及び肝臓β酸化遺伝子発現促進の効果を出すため、本発明の容器詰飲料においても成人一日当りの摂取量としては、非重合体カテキン類として300mg以上、更に450mg以上、更に500mg以上が好ましく、一日当りの必要摂取量を確保する意味からも、本発明の容器詰茶飲料1本(500mL)当り300mg以上、更に450mg以上、更に500mg以上の配合量があるものが好ましい。
【0021】
本発明の容器詰飲料のpHは2〜7である。カテキンの安定性上、好ましいpHは4〜6.5、より好ましくは5〜6が良い。pHが低すぎると飲料の酸味、刺激臭が強くなる。また、pHが高すぎると風味の調和が取れなくなり、嗜好性が低下するので好ましくない。
【0022】
本発明の容器詰飲料には、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、ガム、乳化剤、油、アミノ酸、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独、あるいは併用して配合できる。
【0023】
更に必要により、本発明飲料は酸味料を含有していてもよい。酸味料としては、食用酸が使用できる。酸味料は本発明飲料のpHを調整するために用いてもよい。本発明飲料のpHは2〜7であるのが好ましい。pH調整剤としては、有機及び無機の食用酸を用いることができる。酸はそれらの非解離形で、あるいはそれらの各塩、例えばリン酸水素カリウム又はナトリウム、リン酸二水素カリウム又はナトリウム塩のような形態で用いてもよい。好ましい酸は、フマル酸、アジピン酸、リン酸、酢酸、リン酸又はそれらの混合物を含めた食用有機酸が挙がられる。酸味料は飲料成分を安定化させる酸化防止剤としても役立つ。また常用される酸化防止剤の例には、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)及びそれらの塩、植物抽出エキス等が配合できる。
【0024】
本発明飲料には、ビタミンを更に含有させることができる。好ましくは、ビタミンA、ビタミンEが加えられる。ビタミンD及びビタミンBのような他のビタミンを加えてもよい。ミネラルも本発明の飲料に用いることができる。好ましいミネラルはカルシウム、クロム、銅、フッ素、ヨウ素、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、セレン、ケイ素、モリブデン及び亜鉛である。特に好ましいミネラルはマグネシウム、リン及び鉄である。
【0025】
本発明の容器詰飲料に使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の形態で提供することができる。ここでいう容器詰飲料とは希釈せずに飲用できるものをいう。
【0026】
本発明の容器詰飲料は、例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造されるが、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。更に、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻す等の操作も可能である。殺菌処理としては、高温短時間殺菌(UHT殺菌)が好ましい。
【実施例】
【0027】
非重合体カテキン類の測定
非重合体カテキン類組成物を蒸留水で希釈し、フィルター(0.8μm)で濾過後、島津製作所社製、高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP)を用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム L−カラムTM ODS(4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着し、カラム温度35℃で、A液及びB液を用いたグラジエント法によって行った。移動相A液は酢酸を0.1mol/L含有の蒸留水溶液、B液は酢酸を0.1mol/L含有のアセトニトリル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った。
【0028】
苦渋味の評価
苦渋味について、得られた茶抽出液874gにイオン交換水3289gを加えて、専門パネラー3名による飲用試験を実施した。本発明の茶抽出液(実施例1、2、)及び比較の茶抽出液(比較例1、2、3、4、5、6)の評価を行った。評価は飲用したときの苦渋味の強さであり、評価基準は下記基準により行った。比較例2を標準の△とし、個々の評価結果を協議の上まとめた。結果を表1に示す。
評価基準:
○:苦渋味が低減された。
△:標準と同等。
×:標準より苦渋味が強い。
【0029】
風味の評価
風味について、得られた茶抽出液874gにイオン交換水3289gを加えて、専門パネラー3名による飲用試験を実施した。本発明の茶抽出液(実施例1、2、)及び比較の茶抽出液(比較例1、2、3、4、5、6)の評価を行った。比較例2を標準の△とし、個々の評価結果を協議の上まとめた。結果を表1に示す。
評価基準:
○:異味異臭がなく、良好な茶風味が有る。
△:標準と同等。
×:異味異臭があり、緑茶として劣る。
【0030】
実施例1、2及び比較例1〜6
抽出槽に、65℃の水1000gを加え、次いで表1記載の量の炭酸水素ナトリウム及び/又はアスコルビン酸又はアスコルビン酸Naを加え、溶解確認後緑茶葉(煎茶葉) 33.3gを投入し、250r/minで30秒撹拌後、1分30秒間静止し、再度250r/minで10秒撹拌した後、2分50秒間静止した。抽出液をろ別して茶抽出液を得た。得られた茶抽出液の分析結果及び評価結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、従来から容器詰飲料に配合されている炭酸水素ナトリウム、あるいはアスコルビン酸又はその塩を単独で抽出時に使用しても、茶抽出液中のガレート体率を低下させることはできず、苦渋味も低減できなかった。これに対し、炭酸水素ナトリウムとアスコルビン酸又はその塩の両者を抽出水溶液に添加することにより、茶抽出液中のガレート体率を低下させることができ、苦渋味が低減された茶抽出液を得ることができた。
【0033】
上記実施例1及び2で得られた茶抽出液874gに、イオン交換水282gを加えた後適宜pH調整を行い、138℃、30秒間殺菌するUHT殺菌処理を行うことにより、容器詰緑茶飲料を得た。得られた容器詰緑茶飲料中の非重合体カテキン類濃度は0.17%であった。本発明品の抽出液を原料とした非重合体カテキン類を高濃度含有する飲料でも、苦味の低減、風味の改善は優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉からヒドロキシカルボン酸又はその塩と炭酸塩を添加した水溶液で抽出する茶抽出液の製造方法。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸塩と炭酸塩が、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩である請求項1記載の茶抽出液の製造方法。
【請求項3】
抽出液のpHが5.8〜12である請求項1又は2記載の茶抽出液の製造方法。
【請求項4】
ヒドロキシカルボン酸が、アスコルビン酸である請求項1〜3のいずれか1項記載の茶抽出液の製造方法。
【請求項5】
炭酸塩が、炭酸水素ナトリウムである請求項1〜4のいずれか1項記載の茶抽出液の製造方法。
【請求項6】
茶葉が緑茶、烏龍茶又は紅茶である請求項1〜5のいずれか1項記載の茶抽出液の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法で製造した茶抽出液を使用した容器詰飲料。