説明

荷電ビーム装置、及びその鏡体

【課題】ガス処理を行ってもビーム分解能の低下を抑制することができる荷電ビーム装置を提供する。
【解決手段】
電子ビーム19を生成する電子源3、及びこの電子源3からの電子ビーム19を試料30上に集束させる電子レンズを形成する対物レンズ磁路23を有する鏡体150を備える荷電ビーム装置において、試料30上の電子ビーム19の照射部分に向かって反応性ガスを噴出する噴出孔130を有し、鏡体150内に取り付けられたガス銃28を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電ビームを照射して試料の観察・分析、又は加工等を行う荷電ビーム装置、及びその鏡体に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電ビーム(イオンビーム、電子ビーム)を照射して試料の観察・分析、又は加工等を行う荷電ビーム装置において、試料表面に反応性ガスを供給しながら荷電ビームを照射すると、試料へのデポジション(ビーム誘起堆積)やエッチングを局所的に高速化することができる。前者の方法は、ガスアシストデポジション(Gas Assisted Deposition:以下、GADと略す)と呼ばれており、半導体集積回路(LSI)等における半導体の配線接続や、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:以下、FIBと略す)による試料断面の加工、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:以下、TEMと略す)の試料作製時に試料へのダメージを低減させる表面保護膜の形成、又は不良箇所へのマーキング形成等に利用されている。一方、後者の方法は、ガスアシストエッチング(Gas Assisted Etching:以下、GAEと略す)と呼ばれており、LSI等の半導体の配線の高速除去のほか、良好な走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、SEMと略す)画像を得るためにFIBによる加工面の段差を顕著化する際等に利用されている。
【0003】
これらGADやGAE等のガス処理を利用できる荷電ビーム装置には、ガス源に接続されたガスノズルを備え、このガスノズルにより反応性ガスを試料に供給可能としたものがある。そして、そのような荷電ビーム装置にはガスノズルを対物レンズ(終段フォーカスレンズ)と試料の間に配置したものがある(特許文献1等参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−342583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記技術のように、対物レンズ(又はリターディング電極等)と試料との間にガスノズル等のガス供給部を配置すると、配置の関係上、対物レンズの磁極端面(試料側の端面)と試料表面との距離であるワーキングディスタンス(作動距離)がガス供給部が無い場合と比較して大きくなり、試料への荷電ビームの開き角が変化してしまう。ビーム開き角が変化してその最適条件から外れると、ビーム径が大きくなってビーム分解能が低下し、微小な異物や欠陥等を検出することが難しくなる。更に、こうした事態は不良原因の追及及び対策の遅れに繋がり、製品の歩留まり低下の原因にもなり得る。
【0006】
本発明の目的はガス処理を行ってもビーム分解能の低下を抑制することができる荷電ビーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、荷電ビームを生成する荷電ビーム発生源と、この荷電ビーム発生源からの荷電ビームを試料上に集束させる電子レンズを形成する対物レンズ磁路を有する鏡体とを備える荷電ビーム装置において、試料上の荷電ビーム照射部分に向かって反応性ガスを噴出する噴出孔を有し、前記鏡体に取り付けられたガス供給部を備えるものとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガス処理を行う際にもワーキングディスタンスを小さくできるので、ビーム分解能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の荷電ビーム装置の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0010】
図1は本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図である。
【0011】
図に示す荷電ビーム装置は、その鏡体(カラム)150(対物レンズ32(後述)部分のみ図示)内に設けられた各機器の制御を行う制御部1と、電子ビームを生成する電子源(荷電ビーム発生源)3と、電子源3から所定のエミッション電流の電子ビーム19を引き出す引き出し電極4と、引き出した電子ビーム19を集束する第1集束コイル6と、第1集束コイル6で集束された電子ビーム19の必要な部分だけを取り出す絞り7と、絞り7によって絞られた電子ビーム19を集束する第2集束コイル9と、第2集束コイル9で集束された電子ビーム19を集束し微小スポットとして試料30に照射する電子レンズを形成する対物レンズ32と、試料30上の電子ビーム19の照射部分(スポット)に反応性ガスを噴出するガス銃(ガス供給部)28と、電子ビーム19の照射により試料表面から放出される2次電子34を検出する2次電子検出器16と、2次電子34に偏向作用を与えるE×B偏光器(直交電磁界偏光器)12と、電子ビーム19を試料30上で走査する偏向コイル11を主に備えている。
【0012】
制御部1は、図示は省略するが、各種処理作業を行う処理部(マイクロプロセッサ等)、処理用プログラムや処理結果等を記憶する記憶部(HDD,ROM,RAM等)、処理部への命令を入力する入力部(キーボード等)、及び各種処理結果等を表示する表示部(モニタ等)等を備えている。また、制御部1は、電子源3及び引き出し電極4に接続された高電圧制御電源2、第1集束コイル6に接続された第1集束コイル制御電源5、第2集束コイル9に接続された第2集束コイル制御電源8、偏向コイル11に接続された偏向コイル制御電源10、E×B偏光器12に接続されたE×B偏光器制御電源13、2次電子検出器16に接続された2次電子検出器制御電源15、反射電子検出器20(後述)に接続された反射電子検出器制御電源17、ブースター電極18(後述)に接続されたブースター電極電圧制御電源21、対物レンズコイル22(後述)に接続された対物レンズコイル電圧制御電源25、ガス銃28に接続されたガス銃コントローラ26、及びリターディング電極24に接続されたリターディング電極制御電源29と接続されており、これら各電源等を処理部等を利用して適宜制御している。
【0013】
電子源3にはプローブ電流の安定性に優れた電子源を用いることが好ましく、本実施の形態では電子源3としてショットエミッション電子源を利用している。
【0014】
対物レンズ32は、対物レンズコイル電圧制御電源25に印加される電圧によって磁場を発生する対物レンズコイル22と、対物レンズコイル22を内包するように設けられ試料30側の電極(下極)33を構成する対物レンズ磁路23と、下極33の上方に位置するように対物レンズ磁路23に絶縁部37を介して取り付けられたブースター電極(上極)18を備え、試料30に対面するように鏡体150の下端に設けられている。
【0015】
ブースター電極18及び下極33は、それぞれ、環状構造から成っており、電子ビーム19が通過する鏡体150の中心部分に円形の開口部を形成している。これらの電極18,33の間には鏡体150の外周側に奥まった凹部50が形成されている。対物レンズ磁路23の凹部50側には孔151が設けられており、この孔151にはガス銃28が取り付けられている。なお、対物レンズ32付近の磁場分布の一様性を極力確保するために、孔151の径はできるだけ小さくすることが好ましい。
【0016】
また、孔151を設けることによって対物レンズ32付近の磁場分布の対称性が乱れないように、孔151は鏡体150の軸心に対して周方向に均等になるように複数設けることが好ましい。即ち、孔151が2つの場合には他の孔は鏡体150の中心軸を挟んで対向するように反対側に設け、3つ以上の場合には鏡体150の中心軸を中心とする正多角形の頂点位置に各孔を配置すると良い。なお、この場合、複数の孔の内少なくとも1つの孔にガス銃28を取り付ければ良く、他の孔はガス銃28を取り付けないダミーの孔で良い。ダミーの孔とする場合には、その孔は非磁性材(例えば、SUS材やアルミ材等)で密閉して鏡体150内を真空に保持すると良い。また、もちろん、各孔にガス銃28を取り付けるように構成しても良い。
【0017】
ブースター電極18は、ブースター電極電圧制御電源21によって正または負の電圧を印加される。これにより、試料30上における電子ビーム19のビーム径を小さくして分解能を向上させたり、2次電子検出器16及び反射電子検出器20(後述)による2次電子及び反射電子の収率を向上させたりすることができる。
【0018】
対物レンズ磁路23は、荷電ビーム装置の鏡体150の一部を構成しており、その材質は純鉄が好ましい。このように純鉄で製造すると、必要な磁束密度を得るために対物レンズコイル電圧制御電源25で対物レンズコイル22に継続的に負荷をかけても磁気飽和が発生しない。
【0019】
E×B偏向器12は2次電子等に対して1次電子と異なる電界及び磁場を作用させるように調整されている。より具体的には、1次電子である電子ビーム19には、電界と磁場が相殺して結果的に偏向作用を与えないように強度調整されており、入射方向がこれと逆になる2次電子34には偏向作用を与え、2次電子検出器16に入射するように調整されている。
【0020】
2次電子検出器16は2次電子像を形成する際に利用される。2次電子像は、偏向コイル11を利用して電子ビーム19を試料30の表面上で走査し、2次電子検出器16が検出した2次電子34の強度を走査信号と同期させて輝点列とすることで得られ、例えば、制御部1の表示部に表示される。
【0021】
本実施の形態の荷電ビーム装置は、上記構成要素の他にも、電子によって2次電子が発生しやすい材料(例えば、金、銀、白金等)がコーティングされている反射板14と、電子ビーム19の照射により試料30の表面から放出される反射電子を検出する反射電子検出器20と、電子ビーム19に電位を付与して減速させるリターディング電極24等を備えている。反射電子検出器20は、鏡体150の中心軸を取り囲むように設けられており、2次電子検出器16による2次電子像と同様、反射電子像を形成する際に利用される。反射電子像は試料観察面の凹凸等を検出することができる。
【0022】
図2は図1におけるガス銃28付近を拡大して示す断面図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。
【0023】
図示するように、ガス銃28は、反応性ガスを噴出する噴出孔130が先端に設けられたガスノズル31と、ガスノズル31と連結された本体131と、大気圧となる鏡体150外部において本体131を外周から覆う本体カバー132と、真空に保持された鏡体150内部において本体131を外周から覆う真空ベロー40と、孔151に取り付けられガス銃28を保持するフランジ133と、ガスボンベ(ガス源)45と接続されガスノズル31に反応性ガスを供給するガス管39を備えている。ガス銃28を構成する各部材は、対物レンズ32での磁場分布を極力乱さないようにする点に配慮して、非磁性材料(例えば、SUS材やアルミ材)で製作することが好ましい。
【0024】
本体131は、ガスノズル31側と反対側の端部においてジョイント部材36を介してエアシリンダ(駆動装置)35と接続されており、外周面に沿って複数配置されたローラベアリング37を介して本体カバー132内に収納されている。
【0025】
エアシリンダ35は、空気供給源(図示せず)と接続されており、ガス銃コントローラ26の指令によって噴出孔130を試料30に対して軸方向に沿って進退させる。GAD及びGAEを行う際にはこの進退機能を利用することにより噴出孔130を試料30上の荷電ビーム照射部分に接近させることができ、その他の時には凹部50内に待避させることができる。ガス銃28には、ガスノズル31を一定距離以上試料30に近づかせないようにするためのストッパー(図示せず)が設けられており、誤操作等によって試料又はノズル先端が損傷することを防止している。ローラベアリング37は本体131が進退する際の軸ブレの発生を抑制する。なお、ガスノズル31の進退の微調整は微調整機構(図示せず)によって行なう。
【0026】
ガス銃28の姿勢(仰角及び俯角、首振り角度)を変更する際には、フランジ133に設けられカバー本体132の姿勢を保持している調整ネジ38を利用する。調整ネジ38は、フランジ133を介してカバー本体132の上下方向及び水平方向から2本ずつ取り付けられており、これら4本のネジをネジ孔に対して適宜進退させるによってガス銃28を所望の姿勢に保持する。また、本体131はモーター等の回転駆動装置とギア等の動力伝達装置(ともに図示せず)と連結されており、ガスノズル31をその軸心周りに回転させる場合には、回転駆動装置を駆動させることにより回転させることができる。
【0027】
真空ベロー40は、本体131の進退に応じて伸縮できるように蛇腹状に形成されており、その内部(本体131側)は大気圧に保持されている。また、フランジ133と対物レンズ磁路23との間には孔151を取り囲むようにOリング42が設けられており、鏡体150の内部を真空に保持している。
【0028】
ガス管39は、上流側においては複数のガスボンベ45と調整弁44を介して接続され、下流側においては真空ベロー40を外周から取り囲むようにコイル状に配された後にガスノズル31と結合されている。このようにガス管39をコイル状に配することにより、本体131が進退してもそれに追随して伸縮することができる。
【0029】
各ガスボンベ45には、GAD用のデポジションガス、及びGAE用のエッチングガスが適宜貯留されており、調整弁44を開閉することで使用する反応ガスを作業内容に応じて切り換えることができる。デポジションガスの例としては、タングステンカルボニル(W(CO)6)、酸化シリコン膜を生成するテトラエチルオキシシラン(Si(OC2H5)4,別称:テオス)、モリブデンカルボニル(M(CO)6)、及びカーボン系のガス等が挙げられ、エッチングガスの例としては、2フッ化キセノン(×eF2)や、フッ素系ガス(CF4等)、塩素系ガス等が挙げられる。
【0030】
なお、図に示したガス銃28は、鏡体150の外部(大気側)に配置されたガスボンベ45によりガスが供給されるものであるが、ガスボンベ45の位置はこれに限らず真空側(例えば、鏡体150の内側)に設けても良い。また、ガスノズル31の軸方向に平行又は垂直に複数のガスタンクを本体131に環状に取り付けても良い。さらに、ガス源が常温で固体又は液体の場合には、ガス源を適宜加熱して飽和蒸気圧を上昇させ、気化させてからガス管を介して供給すれば良い。
【0031】
ここで図1に戻り、鏡体150内の対物レンズ32の上方には流路抵抗を大きくするオリフィス(絞り部)160が設けられている。反応性ガスの供給箇所付近ではガスによって圧力が上昇して持続的な放電が発生し、圧力勾配が生じて反応性ガスが鏡体150の上流側(電子源3側)に逆流する場合がある。この逆流した反応性ガスは、鏡体150内部の機器(例えば、偏向コイル11や引き出し電極4等)に付着して汚れとなり機器の性能を劣化させたり、絶縁物に付着して帯電しビームドリフトの発生原因になったりする場合がある。しかし、上記のように設けたオリフィス160によって蒸発物の逆流を抑制することができるので、反応性ガスが鏡体150の上流に侵入して汚れとして蓄積されることを抑制することができる。
【0032】
なお、このオリフィス160は、鏡体150内のできるだけ下流側、かつ電子ビーム19の径ができるだけ小さくなる箇所に設けることが好ましく、本実施の形態では、第2集束コイル9の下流側かつ偏向コイル11の下流側に設けている。このような箇所に配置すれば、オリフィスの径をできるだけ小さくすることができるので、反応性ガスの逆流を一層効果的に防止することができる。また、上記の放電等の不具合の発生を防止するには、ブースター電極18やリターディング電極24へできるだけ小さい電圧が印加されるように制御することも有効である。
【0033】
また、上記の第1集束コイル6、絞り7、第2集束コイル9、及び偏向コイル11等は、荷電ビーム源(電子源3)から引き出した荷電ビーム(電子ビーム19)を試料上の所望の位置に照射する荷電ビーム光学系200を構成する。
【0034】
ところで、上記において説明した荷電ビーム装置は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以下、SEMと略す)の1種であり、半導体等の生産現場で欠陥や異物等の観察に用いられる欠陥観察用走査型電子顕微鏡(以下、レビューSEMと略す)である。このレビューSEMは、検査装置(光学式検査装置やSEM式検査装置等)によって得た検査結果(欠陥の座標データ等)に基づいて各欠陥を視野に含む画像(欠陥画像)と欠陥を含まない良品パターンの画像(参照画像)を自動的に取得する機能(自動レビュー(Automatic Defect Review):以下、ADRと略す)、及びこのADRによって取得した欠陥画像及び参照画像を基に各欠陥の特徴量を定量的に算出し、こうして得た特徴量と予め設定しておいた欠陥分類の基準となるデータ(教示データ)とを比較して欠陥を自動的に分類する機能(自動分類(Automatic Defect Classification):以下、ADCと略す)を有している。
【0035】
上記の制御部1の処理部は、欠陥画像及び参照画像を検査結果に基づいて撮像する処理、画像に基づいて特徴量を算出する処理、及び教示データに基づいて欠陥を分類する処理等を行い、記憶部には、欠陥画像及び参照画像、特徴量データ、教示データ、並びに各処理を行う際に利用するプログラム等が格納されており、制御部1はこれらを利用して上記のADR及びADCを行っている。
【0036】
ここで、レビューSEMを用いた代表的なウェーハ検査作業の主な流れを説明する。
【0037】
まず、ADRを行う際には、搬送手段(例えば、FOUP(Front Opening Unified Pod)や大気搬送ユニット等)によって試料室内に検査ウェーハを搬入する。そして、この搬入したウェーハに対して低分解能観察(レビューモード)でADRを行い、これに続いてADCを行なう。これにより、例えば、欠陥を、「剥離」、「異物」、「傷」、「塵」等の発生原因に応じて大まかに分類し、更にこれらを、「短絡」、「オープン」、「凸欠陥」、「凹欠陥」、「VC(ボルテージコントラスト)欠陥」等に細かく分類することができる。このように分類された異物、欠陥部等の形状などを更に詳細に観察する必要がある場合には、適宜、高分解能観察を行う。また、更に欠陥部等の発生原因を追及する必要がある場合には、FIB等によってウェーハの断面加工を行う場合もある。FIBによって断面加工する際には、それに先だって、電子ビームデポを利用してウェーハ上に加工箇所を示す目印(マーカー)を付ける必要がある。
【0038】
これらの一連の作業によって、配線のボイド、コンタクト不良などの不良原因を特定することができ、製造プロセスへのフィードバックが可能となり、製品の歩留まりを向上することができる。
【0039】
次に、レビューSEMにおいて、低分解能観察、高分解能観察、及び電子ビームデポを行う場合について図を用いて詳述する。
【0040】
図3は低分解能観察を行う際のガスノズル31の位置、及び各電極18,24への電圧の印加状態を示す図である。
【0041】
低分解能観察を行う場合には、図に示すように、噴出孔130が凹部50内に収まるようにエアシリンダ35によってガスノズル31を試料30から待避させた位置(例えば、ガス処理を行う位置から噴出孔130を20mm待避させた位置)で保持しながら、ブースター電極電圧制御電源21によってブースター電極18にアース電圧を、リターディング電極制御電源29によってリターディング電極24に負の電圧(例えば、−1kV)を印加する。これにより、電子プローブ電流値が大きくなってビーム径が大きくなるので、異物及び欠陥等を高速で探すことができる。
【0042】
また、ガスノズル31がブースター電極18近傍にあると、下極33とブースター電極18との間に軸対称に形成される電界が乱れてビーム分解能が低下する場合があるので、ガスノズル31は上記のように凹部50内に待避させている。このようにガスノズル31を待避させれば、ガスノズル31による電界の乱れや、分解能の低下を抑制することができる。さらに、リターディング電極24によって正に帯電している試料に2次電子を戻す事により、残留電荷を中和し、帯電による像コントラスト低下などの不具合を回避する事が可能となる。
【0043】
図4は高分解能観察を行う際のガスノズル31の位置、及び各電極18,24への電圧の印加状態を示す図である。
【0044】
高分解能観察を行う場合には、低分解能観察のときと同様に、試料30から待避させた位置でガスノズル31を保持しながら、ブースター電極電圧制御電源21によってブースター電極18に正の電圧(例えば、3kV)を、リターディング電極制御電源29によってリターディング電極24に負の電圧(例えば、−1kV)を印加する。これにより対物レンズ32によって電子レンズが形成され、このレンズによって試料30上に照射される電子ビーム径が小さくなるので、ビーム分解能を向上させことができる。また、電子レンズを形成すると、2次電子、反射電子が各検出器16,20で検出される割合(収率)も向上するので、SN比の高い高画質な電子像を得ることができる。
【0045】
図5は電子ビームデポを行う際のガスノズル31の位置、及び各電極18,24への電圧の印加状態を示す図である。
【0046】
ガス処理を伴う電子ビームデポ(GAD)を行う場合には、図に示すように、噴出孔130が試料30上のビーム照射部分に臨む位置(例えば、加工点上空の200μm程度)にエアシリンダ35でガスノズル31を伸長させて反応性ガスを噴出しながら、低分解能観察時と同様に、ブースター電極電圧制御電源21によってブースター電極18にアース電圧を、リターディング電極制御電源29によってリターディング電極24に負の電圧(例えば、−1kV)を印加する。本実施の形態によれば、ガス銃28が対物レンズ磁路23に取り付けられているので、ガス処理を行わない場合と同じワーキングディスタンス(下極33の試料30側の端面から試料30表面までの距離)でガス処理を行うことができる。
【0047】
次に本実施の形態の荷電ビーム装置の効果を説明する。
【0048】
GADやGAE等のガス処理が利用可能な荷電ビーム装置としては、ガスノズル等のガス供給部を対物レンズと試料の間に配置する技術が知られている。この技術を本実施の形態の比較例として図を用いて説明する。
【0049】
図6は本実施の形態の比較例である荷電ビーム装置の対物レンズ周辺の構成を示す図である。この図において、試料30に反応性ガスを供給するガス銃228は、荷電ビーム装置の鏡体250とは独立した部材であり、対物レンズ232と試料30の間にガスノズル231が配置されるように設けられている。
【0050】
このようにガス銃228を配置すると、配置の関係上、ガス供給部が無い場合と比較してワーキングディスタンスが大きくなり、試料30に照射されるビーム径が大きくなってビーム分解能が低下してしまう。このようにビームの分解能が低下すると、ガス処理を行わない場合に検出できた異物や欠陥が検出できなくなる場合があり、不良原因の追究及び対策が遅延して歩留まりの低下を招く場合がある。また、対物レンズ232(又はリターディング電極224等)と試料の間にガスノズル231等が存在することにより、均一な電界・磁場が乱れ、非点収差を補正する非点補正コイル等を用いても補正が不充分となり、ビームの非点収差が発生してビーム分解能が一層低下する場合もある。
【0051】
これに対して、本実施の形態の荷電ビーム装置は、試料30上の荷電ビーム照射部分に向かって反応性ガスを噴出する噴出孔130を有し、鏡体150に取り付けられたガス銃28を備えている。このようにガス銃28を鏡体150内に取り付けると、対物レンズ32の下極33が形成する円形開口部を介して噴出孔130を試料30に臨ませることができるので、ワーキングディスタンスを大きくすることなく試料30に反応ガスを供給することができる。即ち、本実施の形態によれば、ガス処理を行う際にもワーキングディスタンスを小さくできるので、ビーム分解能の低下を抑制しながらガス処理を行うことができる。
【0052】
また、ガス銃28は、上記のようにSUS材等の非磁性材で構成した場合には、対物レンズ32周辺の電界・磁場を乱すことが少ないので、ビーム分解能の低下を抑制することができる。さらに、ガス銃28の取り付け部分である孔151を鏡体150の中心軸に対して周方向に均等に配置すると、電界・磁場の対称性を保持することができ、ビーム分解能の低下を一層抑制することができる。
【0053】
なお、上記では、ガス銃28を対物レンズ磁路23に取り付ける構成を例に挙げて説明してきたが、ガス銃28を取り付ける箇所はこれに限られず、噴出孔130を、試料30上の荷電ビーム照射部分に近接させられるように、ガス銃28を鏡体150に取り付ければ良い。これには、例えば、対物レンズ32の上方側の鏡体150にガス銃28を取り付け、ブースター電極18の開口部にガスノズル31を上方から通し、噴出孔130が試料30上の荷電ビーム照射部分に近接するように構成するものがある。
【0054】
また、上記の説明ではレビューSEMに適用した場合について触れたが、この他にも、SEMやTEM、イオンビーム(FIB)等を利用する場合にも勿論適用可能である。イオンビームを利用する場合には、本実施の形態における電子源3の代わりに、ガリウム等の液体金属イオン源を利用すればイオンビームを発生することができる。この他のイオンビーム源としては、例えば、非汚染イオンビームを発生するシリコン、ゲルマニウム等のIV属液体金属イオン源、ヘリウム、アルゴン等のガスフェーズ電界電離イオン源、及び酸素、アルゴン等のガスプラズマイオン源などがある。
【0055】
次に、本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置について説明する。本実施の形態の荷電ビーム装置の主たる特徴は2つの鏡体(ツインカラム)を備えている点にある。
【0056】
図7は本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図である。
【0057】
図に示す荷電ビーム装置は、第1の実施の形態で説明した荷電ビーム装置と同様の構成からなりガス銃28を鏡体内に有するSEM110と、イオンビームを生成するイオン源51(後述する図8参照)を内包するイオンビーム鏡体118と、試料30からマイクロサンプル80(例えば、10μm程度のサイズ;図13参照)を摘出するマイクロサンプリングユニット(摘出手段)117と、試料室119内に設けられステージ114と、ステージ114の上部に取り付けられ、載置された試料30を固定手段(例えば、ピン)で固定する試料ホルダー113と、イオンビーム鏡体118側に設けられ、イオンビーム鏡体118と別に配置されたガス銃228と、SEM110側に設けられ、試料30のアライメントを行う際に利用する光学顕微鏡111と、SEM110側及びイオンビーム鏡体118側にそれぞれ設けられ、各荷電ビーム装置のワーキングディスタンスを一定に保持するZセンサー115を備えている。
【0058】
また、本実施の形態の荷電ビーム装置も第1の実施の形態同様、上記した各機器の制御等を行う制御部(図示せず)を備えている。なお、説明のため、本実施の形態における試料30は直径300mmのシリコンウェーハとする。
【0059】
ステージ114は、X,Y,Zの3方向の移動に加え、回転(R)及び傾斜(T)する5軸ステージであり、試料30を載せた試料ホルダー113をSEM110側、又はイオンビーム鏡体118側に適宜移動させる。
【0060】
試料室119は、ターボ分子ポンプ、ドライポンプ、バルブ等で構成される排気系(図示せず)と接続されており、反応性ガスを流さない状態で、10−5Pa程度の高真空度に保持されている。また、特に図示していないが、試料室119には、大気搬送ユニットとの間に介在するかたちでロードロック室が隣接し、例えば試料30搬入の際には、大気搬送ユニット内の大気搬送ロボット(図示せず)により試料30がFOUP等からロードロック室内に待機したステージ114上に搬送され、ロードロック室の大気を排出した後、ステージ114が試料室119内に移動する。なお、試料30を搬出する場合は上記と逆の手順で行えば良い。
【0061】
光学顕微鏡111は、試料30上のアライメント用のマークを数点検出し、試料30のアライメントを行う。Zセンサー115は、試料30上の加工点までの距離を計測し、試料30表面の高さが反り等によって変化しても、その変化量をキャンセルするようにステージ114を鉛直方向(Z軸方向)に移動させて、ワーキングディスタンスを一定に保持している。これによりウェーハ反り等に起因する荷電ビームのフォーカスズレの発生が防止される。
【0062】
また、荷電ビーム(電子ビーム、イオンビーム)が照射された試料30から発生する2次電子は、2次電子検出器16内で正電位(10kV程度)に印加されたシンチレータ(図示せず)の電界に引き寄せられ、加速されてシンチレータを光らせる。発光した光はライトガイドで光電子倍増管(ともに図示せず)に入射し、電気信号に変換される。光電子倍増管の出力は更に増幅されて、出力部のブラウン管の輝度を変化させる。そして、これを偏向コイル63の走査信号と同期させることで加工点における2次電子像を生成している。
【0063】
図8は図7中のイオンビーム鏡体118の内部構造を示す図である。
【0064】
図8において、イオンビーム鏡体118は、イオンビームを生成するイオン源51と、イオン源51からイオンビーム66を引き出す引き出し電極(図示せず)と、イオンビーム66の径を決定するアノードアパーチャ53と、偏光器56、絞り58、照射レンズ59、及び投射レンズ64等から構成され、イオンビーム66を試料30上の所望の位置に所望の径で照射する加工光学系300を備えている。
【0065】
イオン源51としては、試料(ウェーハ)30を金属汚染しない種類のイオンビーム(非汚染イオンビーム)を放出するものが好ましく、例えば、アルゴンイオンビームを放出するデュオプラズマトロンイオン源が適する。また、その他のものとしては、不活性ガスイオン源、酸素若しくは窒素ガスイオン源、電子サイクロトロン共鳴プラズマ源、誘導結合プラズマ源、又はヘリコン波プラズマ源等がある。イオン源51はガイシ52を用いて電位的に30kV程度浮かせた。イオン源51は、イオン源カバー54に覆われており、このイオン源カバー54によって空気絶縁されている。
【0066】
加工光学系300は、イオン源51から引き出したイオンビームから必要なもの(アルゴンイオンビーム)を選択する質量分離器55と、中性粒子(金属スパッタ等)を取り除くためにイオンビームを偏向する偏光器56と、イオンビーム66の必要な部分だけを取り出す絞り58と、絞り58で絞られたイオンビーム66を集束する照射レンズ59と、イオンビーム66の必要な部分だけを取り出す絞り投射マスク60と、非点収差を補正する非点補正コイル61と、イオンビーム66の位置ズレを補正するアライメントコイル62と、イオンビーム66を試料30上で走査する偏向コイル63と、投射マスク60を通過したイオンビーム66を集束する投射レンズ64等を備えている。
【0067】
イオン源51内から発生する金属スパッタ物などの中性粒子が直接試料30に到達しないようにする為、イオン源51は鏡体118の下流側の中心軸に対して例えば数度傾斜されている(図8参照)。中性粒子はイオン源51から直進してダンパー(図示せず)に照射される。なお、この図示しないダンパーはスパッタ粒子による金属汚染を防止する為に、シリコン、カーボン等で製作すると良い。
【0068】
質量分離器55の電極印加電圧及び磁束密度強度は、質量分離器55がイオン源51から引きだされたイオンビームからアルゴンイオンビームのみを選択するように調整されており、偏向器56の電極印加電圧は、偏向器56が曲げるイオンビームが絞り58を介して試料30に照射されるように調整されている。
【0069】
試料室119とイオンビーム118の間には、これらを分離するガンバルブ(図示せず)が設けられている。この図示しないガンバルブは、メンテナンス時等に試料室119のみをリークしたい場合等に使用される。偏向コイル63は、投射マスク60を通過した観察用の円形イオンビームを試料30上に走査するものである。次に投射マスク60について詳述する。
【0070】
図9は投射マスク60の上面図であり、図10はその部分拡大図である。
【0071】
図9において、投射マスク60には、試料30からマイクロサンプルを摘出する際に利用するスリット孔71と、試料を薄膜加工する際に利用する縦・横のアスペクト比が比較的大きなスリット孔72と、デポ用のスリット孔73と、観察ビーム用の丸型孔74が開けられており、これら各孔を通過したイオンビームのみが投射レンズ64によって集光され試料30上に照射される。マイクロサンプルを摘出するためのスリット孔71は、コの字型のスリット71aと、一文字型のスリット71bを有しており、これらはマイクロサンプルを摘出する際に適宜使い分けられる。また、これと同様に、丸型孔74も径の異なる大小2種類の孔74a及び74bを有している。
【0072】
投射マスク60は、駆動ユニット(図示せず)によってイオンビーム軸とほぼ垂直に交わる方向(即ち、水平方向)に移動させる事が可能で、上記の種々の孔を介してビーム形状を変更して試料30に投射することができる。なお、この図では、スリット孔は各種1個ずつ設けられているが、同種のものを複数個設けて適宜使い分けることにより投射マスク60の寿命を長くする工夫をしても良い。また、投射マスク60は金属汚染を防止する為にシリコン製にするのが好ましい。
【0073】
図10は、投射マスク60に非汚染イオンビーム66が照射されている様子を示している。マイクロサンプリング摘出用のスリット孔71aの寸法は、図中に示すように、例えば、0.4×0.5mm程度であり、このスリット孔71aの全面を覆うようにイオンビーム66が照射されている。これによりイオンビーム66の形状をスリット孔71aと同じコの字型にすることができる。
【0074】
上記のように構成されるイオンビーム鏡体118は、主に試料の断面加工に用いる投射モードと、主に試料の電子像を得る際に用いる観察モードの2種類のビームモードを有している。次にこれら各モードにおける加工光学系300の構成を説明する。
【0075】
図11はイオンビーム鏡体118内の加工光学系300による2つのビームモードを示す図であり、図中の(a)が投射モードを示し、(b)が観察モードを示す。
【0076】
図11(a)に示した投射モードでは、照射レンズ59はアノードアパーチャ53からの像を投射レンズ64の主点で結像するように調整されている。この調整は、3枚組のバトラーレンズで構成される照射レンズ59のうち、中央のレンズに高電圧を印加することによって行う。投射レンズ64は投射マスク60からの像を試料30上に結像している。この投射レンズ64も同じく3枚組みのバトラーレンズで形成されており、中央の電極にのみ高電圧を印加させて利用する。
【0077】
一方、図11(b)に示した観察モードでは、照射レンズ59はアノードアパーチャ53からの像を投射マスク60の上流側で一度結像させ、その結像させたものを投射レンズ64によって試料30上に再度結像させている。これにより、像の縮小率を投射モードの約1/30にすることができ、最小径が0.1〜0.2μm程度のビームを得ることができる。このビームを偏向コイル63によって試料30上をスキャン(走査)させることで、投射モードと比較して分解能が高い2次電子像を得ることができる。
【0078】
上記のように構成される荷電ビーム装置において試料30面上を観察する場合には、ステージ114によって試料30をSEM110側に移動させ、SEM110によって電子ビーム19を試料30に照射し、ボルテージコントラスト(VC)によって欠陥部を見つける。例えば、コンタクト部を観察する場合にコンタクト不良があるとその欠陥部は暗く観察される。これは、コンタクト不良によって、照射した電荷がアースに流れにくくなることで欠陥部が正に帯電し、2次電子がこれにトラップされることにより2次電子検出器16に検出される2次電子量が低下する為である。
【0079】
このようにVCによって検出した欠陥部(例えば、コンタクトホール)の大きさは数十nmと小さく、更に詳細な観察をするためには、イオンビーム鏡体118で試料30を加工してから、TEM等で観察する必要がある。イオンビーム鏡体118によって加工するには、SEM110によるGADで試料30に加工点の目印(マーク)をつける必要がある。GADを実施する際には、第1の実施の形態同様、SEM110の鏡体に取り付けられたガス銃(図示せず)を利用する。ガス処理の方法等については、第1の実施の形態で説明したものと同様であるので省略するが、本実施の形態においても、ガス処理を行う際のワーキングディスタンスを小さくできるので、ビーム分解能の低下を抑制しながらガス処理を行うことができる。
【0080】
図12はGADによってマーク形成した後の試料30の電子像94を示す図である。
【0081】
図示した電子像94は、周りの正常なコンタクトホールと比較して暗く観察される欠陥部96と、欠陥部96の両側に所定の間隔(例えば、数μm程度)を介して形成されている2つのマーク97を有している。このマーク97は、デポ速度を最大にする為、電子ビーム加速電圧を比較的低加速電圧(例えば、1kV程度)とし、数十pAの電子ビームを照射して数μm角のマークを数分間の電子ビーム照射で形成した。
【0082】
次に、ステージ114によって、欠陥部を非汚染イオンビーム鏡体118直下に移動させる。このとき、ステージ114の位置精度で位置合わせできない場合には、試料30上のマーク97のSIM像との位置関係を基に欠陥部96を探す。
【0083】
続いて、投射モード(図11(a)参照)で投射マスク60のスリット孔71等を介してイオンビーム66を試料30に照射し、試料30から欠陥部96及びマーク97を含むマイクロサンプル(例えば、10μm程度のサイズ)を形成し、これをマイクロサンプリングユニット117のマイクロサンプリングプローブ48(図13参照)で試料30から摘出してメッシュ82(図13参照)に接着する。
【0084】
図13は試料ホルダー113(図7参照)上に配置されたカートリッジ機構部75を示す図である。
【0085】
図示したカートリッジ機構部75は、試料30から摘出したマイクロサンプル80が接着されているメッシュ82を有するカートリッジ81と、カートリッジ81を軸方向(図中の矢印A方向)に進退可能に保持するカートリッジホルダ83と、カートリッジホルダ83に回転動力を伝達する歯車84を備えている。
【0086】
マイクロサンプル80は、カートリッジ81のメッシュ82にデポによって接着されている。試料30から摘出したマイクロサンプル80をこのようにメッシュ82上に搭載するには、プローブ48のマイクロサンプル80との接触部を非汚染イオンビームによって切断すれば良い。
【0087】
カートリッジ81はカートリッジホルダ83と脱着可能に取り付けられており、装置外にカートリッジ81のみを取り出すことができる。
【0088】
カートリッジホルダ83は、試料ホルダー113に設けられた駆動装置(図示せず:例えば、モータ)によって回転される歯車84によって、図中の矢印Bが示すように、正及び負の方向へ180度回転駆動される。この回転機構で適宜カートリッジホルダ83を回転させることによって、マイクロサンプル80の加工に適した角度にカートリッジ81を保持することができる。例えば、マイクロサンプル80に薄膜加工を施す場合には、イオンビームの出射軸方向と薄膜化する方向とが合うように調整することができる。
【0089】
マイクロサンプルプローブ(プローブ)48はシリコンで製作することが好ましく、シリコンで製作すればタングステン製のもの等と比較して金属汚染の心配が少ない。なお、プローブ48は、シリコンの他にも、例えば、カーボンや、ゲルマニウム等で製作しても良い。
【0090】
図14はメッシュ82に搭載したマイクロサンプル80をTEM試料用に薄膜化する様子を示す図である。
【0091】
薄膜化加工は図11(a)に示した投射モードで行う。投射モードでは、前述のように、薄膜化加工を行う領域を指定するために充分な分解能が得られ難いので、まず、図11(b)に示した観察モードで薄膜化位置を決定する。なお、観察モードでのビームと投射モードでのビームとでは、上記のようにそれぞれ光学条件が異なっており、軸ズレによるビーム位置ズレが発生する場合がある。このような場合には、観察モードでの加工位置指定で予めこのズレ量を実測で求めておき、そのズレを補正して薄膜化する加工領域を指定する事で薄膜化加工を行うと良い。
【0092】
マイクロサンプル80を薄膜化する際には、イオンビームを投射マスク60の薄膜化用のスリット孔72(図9参照)に通過させ、偏向コイル63によってスキャンさせることなく、投射レンズ64でマイクロサンプル80上に直接結像させる。薄膜化する断面をシャープな加工面とするには、図13で示したように、スリット孔72の長軸方向(図14中のY方向)をマイクロサンプル80の長軸方向(Y方向)に一致させると良い。このようにすれば、ビーム中心近傍ほど、球面収差などの収差を小さくでき、加工面をよりシャープにすることができる。こうした薄膜化加工を繰り返し、薄膜化が完了したマイクロサンプル90を得る。
【0093】
こうして得たマイクロサンプル90を利用して、より高分解能の透過電子像を得ることができる。この場合には、例えば、図13に示したカートリッジホルダ83の回転機構によってカートリッジ81を90度回転させ、ここに高電圧(200kV程度)を印加して加速された電子ビームを照射し、透過したビームを検出器により検出することによって電子像を得ることができる。
【0094】
以上、説明してきたように、本実施の形態である鏡体を2つ有する荷電ビーム装置においてもSEM110内にガス銃を取り付けることにより、第1の実施の形態同様の効果を得ることができる。なお、上記の説明では、イオンビーム鏡体118側のガス銃228は鏡体118と別に配置される構成としたが、ガス銃228をSEM110同様に鏡体118内に設ける構成としても勿論良い。このように構成すれば、イオンビームを利用して試料の薄膜化加工等を行う際にも、ワーキングディスタンスを保持しながらガス処理を行うことができる。
【0095】
次に、本発明の第3の実施の形態である荷電ビーム装置について説明する。本実施の形態の荷電ビーム装置の主たる特徴は、試料30上で2つの鏡体の中心軸が交差する点にある。
【0096】
図15は本発明の第3の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図である。
【0097】
図に示す荷電ビーム装置は、SEM110の中心軸の延長とイオンビーム鏡体118の中心軸の延長とが試料ホルダー113に固定された試料30上で交差するように構成されている。即ち、本実施の形態は第2の実施の形態のようにステージ114を移動させなくてもSEM110、イオンビーム鏡体118から荷電ビームを照射することができるものであり、例えば、イオンビームによる加工面を電子ビームでそのまま観察する事が可能となる。
【0098】
このように構成される荷電ビーム装置は、第2の実施の形態のものと比較して、荷電ビーム鏡体、ガス銃、マイクロサンプリングユニット等を集約して配置することができ、コンパクトな装置を構成できる点が優れているが、配置の関係上、ワーキングディスタンスが大きく成らざるを得ず、ガス処理を利用すると必要な分解能が得難くなる場合があった。しかし、上記の各実施の形態同様、本実施の形態においてもガス銃(図示せず)を各鏡体110,118内に設けることにより、ガス銃が侵食するワーキングディスタンスを低減することができるので、ビーム分解能の低下を抑制しながらガス処理を行うことができる。
【0099】
次に、本発明の第4の実施の形態である荷電ビーム装置について説明する。本実施の形態の荷電ビーム装置は走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:以下、STEMと略す)に適用したものである。
【0100】
図16は本発明の第4の実施の形態である荷電ビーム装置(STEM)の対物レンズ周辺の構成を示す図である。
【0101】
この図において、STEMは、鏡体(図示せず)に取り付けられたガス銃28(図示せず)のガスノズル31と、カートリッジ81と、マイクロサンプル90内で散乱・回折を受けずに直進したブライトフィールド−STEM(BF-STEM)信号125を検出するBF−STEM検出器126と、マイクロサンプル90内で散乱・回折したダークフィールド−STEM(DF-STEM)信号127を検出するDF-STEM検出器128と、2次電子検出器16を備えている。
【0102】
メッシュ82には第2の実施の形態と同じ要領で作成されたマイクロサンプル90が接着されており、カートリッジ81はマイクロサンプル90の薄膜化した面に対して概ね垂直に電子ビーム19が照射されるように保持されている。
【0103】
このように構成されるSTEMでは、電子ビーム19の加速電圧を数十kVと比較的高電圧に設定してマイクロサンプル90の透過電子像を得ることができる。BF-STEM検出器126によって得られるBF-STEM像では、通常のTEM像と同様、マイクロサンプル90の内部構造を示す透過像の観察ができ、DF-STEM検出器128によって得られるDF-STEM像ではマイクロサンプル90の組成を反映したコントラストが得られる組成像の観察ができる。また、電子ビーム19の加速電圧を低下させて2次電子検出器16により2次電子像を得ることもできる。以上のように構成したSTEMにおいて、ガス銃28のガスノズル31から反応性ガスを放出し、電子ビーム19を照射することによって、マイクロサンプル90にGADによるマーク付けを行い、次行程で行う再薄膜化やより高分解能な観察、分析を行うような場合のマークとする。
【0104】
本実施の形態においても、ガス銃28のノズル31から反応性ガスを噴出しながら電子ビームを照射することによって、ワーキングディスタンスを保持しながらGADによるマーク付けを行うことができる。
【0105】
また、上記の各実施の形態において、対物レンズ磁路23にガス銃28を取り付ければ、インレンズ型の対物レンズを有する荷電ビーム装置でガス処理を行うことができる。以下、この場合について説明する。
【0106】
図17はインレンズ型の対物レンズを有する荷電ビーム装置の対物レンズ32A付近の拡大図である。この図において、ガス銃28は、第1の実施の形態同様、フランジ133(図示せず)を介して対物レンズ磁路23に取り付けられており、試料30Aは対物レンズ内に配置できる程度の大きさに形成されており、対物レンズ32A内に配置されている。
【0107】
荷電ビーム装置の鏡体と試料の間にガス銃を配置する従来の技術では、インレンズ型の対物レンズを有する荷電ビーム装置でガス処理を行うことは不可能だった。しかし、図に示したように、対物レンズ磁路23にガス銃28を取り付けると、インレンズ型の対物レンズの場合にも反応性ガスを試料30Aに供給することができる。これにより、高分解能の観察が可能なインレンズ型の荷電ビーム装置でもガス処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図。
【図2】本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置のガス銃28付近を拡大して示す断面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置において、低分解能観察を行う際のガスノズル31の位置、及び各電極18,24への電圧の印加状態を示す図。
【図4】本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置において、高分解能観察を行う際のガスノズル31の位置、及び各電極18,24への電圧の印加状態を示す図。
【図5】本発明の第1の実施の形態である荷電ビーム装置において、電子ビームデポを行う際のガスノズル31の位置、及び各電極18,24への電圧の印加状態を示す図。
【図6】本実施の第1の形態の比較例である荷電ビーム装置の対物レンズ周辺の構成を示す図。
【図7】本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図。
【図8】本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置のイオンビーム鏡体118の内部構造を示す図。
【図9】本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置の投射マスク60の上面図。
【図10】本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置の投射マスク60の部分拡大図。
【図11】本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置において、イオンビーム鏡体118内の加工光学系300によるビームモードを示す図。
【図12】本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置において、GADによってマーク形成した後の試料30の電子像94を示す図。
【図13】本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置のカートリッジ機構部75を示す図。
【図14】本発明の第2の実施の形態である荷電ビーム装置において、マイクロサンプル80をTEM試料用に薄膜化する様子を示す図。
【図15】本発明の第3の実施の形態である荷電ビーム装置の全体構成を示す図。
【図16】本発明の第4の実施の形態である荷電ビーム装置の対物レンズ周辺の構成を示す図。
【図17】インレンズ型の対物レンズを有する荷電ビーム装置の対物レンズ付近の拡大図。
【符号の説明】
【0109】
1 制御部(制御装置)
3 電子源(荷電ビーム発生源)
18 ブースター電極
19 電子ビーム(荷電ビーム)
23 対物レンズ磁路
24 リターディング電極
26 ガス銃コントローラ
28 ガス銃
30 試料
31 ガスノズル
32 対物レンズ
33 下極
35 エアシリンダ(駆動装置)
38 調整ネジ
50 凹部
51 イオン源(荷電ビーム発生源)
66 イオンビーム(荷電ビーム)
75 カートリッジ機構部
110 ガス銃内蔵型SEM
117 マイクロサンプリングユニット(摘出手段)
118 イオンビーム鏡体
130 噴出孔
150 鏡体
151 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電ビームを生成する荷電ビーム発生源と、この荷電ビーム発生源からの荷電ビームを試料上に集束させる電子レンズを形成する対物レンズ磁路を有する鏡体とを備える荷電ビーム装置において、
試料上の荷電ビーム照射部分に向かって反応性ガスを噴出する噴出孔を有し、前記鏡体内に取り付けられたガス供給部を備えることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項2】
荷電ビームを生成する荷電ビーム発生源と、この荷電ビーム発生源からの荷電ビームを試料上に集束させる電子レンズを形成する対物レンズ磁路を有する鏡体とを備える荷電ビーム装置において、
試料上の荷電ビーム照射部分に向かって反応性ガスを噴出する噴出孔を有し、前記対物レンズ磁路又はその上方に取り付けられたガス供給部を備えることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項3】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
前記ガス供給部は前記鏡体に設けられた孔を介して取り付けられていることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項4】
請求項3記載の荷電ビーム装置において、
前記鏡体に設けられた孔に対して前記鏡体の中心軸を挟んで反対側に設けられた他の孔を有していることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項5】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
前記ガス供給部の材質は非磁性体であることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項6】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
前記噴出孔を試料に対して進退させる駆動装置を備えることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項7】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
試料における欠陥の自動レビュー及び自動分類を行う制御装置を備えることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項8】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
試料からマイクロサンプルを摘出する摘出手段を備えることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項9】
請求項8記載の荷電ビーム装置において、
前記摘出手段の材質は、シリコン、カーボン、ゲルマニウムの内いずれかであることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項10】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
前記荷電ビーム発生源は、不活性ガスイオン源、酸素若しくは窒素ガスイオン源、デュオプラズマトロンイオン源、電子サイクロトロン共鳴プラズマ源、誘導結合プラズマ源、又はヘリコン波プラズマ源の内いずれかであることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項11】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
前記荷電ビーム発生源は、シリコン、ゲルマニウム等のIV属液体金属イオン源であることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項12】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
前記荷電ビーム発生源は、ヘリウム、アルゴン等のガスフェーズ電界電離イオン源であることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項13】
荷電ビームを生成する2つの荷電ビーム発生源と、
この2つの荷電ビーム発生源からの荷電ビームを試料上にそれぞれ集束させる電子レンズを形成する対物レンズ磁路をそれぞれ有し、前記2つの荷電ビーム発生源をそれぞれ内包する2つの鏡体と、
試料上の荷電ビーム照射部分に向かって反応性ガスを噴出する噴出孔を有し、前記2つの鏡体の内少なくとも一方の鏡体における前記対物レンズ磁路、又はその上方に取り付けられたガス供給部とを備えることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項14】
請求項14記載の荷電ビーム装置において、
前記2つの荷電ビーム発生源は、一方が電子ビーム発生源であり、他方がイオンビーム発生源であることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項15】
荷電ビーム発生源が生成する荷電ビームを試料に照射する荷電ビーム装置の鏡体において、
前記荷電ビーム発生源からの荷電ビームを試料上に集束させる電子レンズを形成する対物レンズ磁路と、
前記対物レンズ磁路、又はその上方に取り付けられ試料上の荷電ビーム照射部分に向かって反応性ガスを噴出するガス供給部を取り付けるための孔とを備えることを特徴とする荷電ビーム装置の鏡体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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