説明

荷電粒子ビーム加速器およびその加速器を用いた粒子線照射医療システム

【課題】シンクロトロン等の荷電粒子ビーム加速器において、荷電粒子ビーム軌道に偏向電磁石と真空容器のアライメント回数を少なくすることが可能な電磁石構造を提供する。
【解決手段】偏向電磁石4の磁極ギャップ間に設置の真空ダクト20を偏向電磁石4の端面4Eで、真空ダクト20と一体化された支持板22を位置決め部材23で所定位置に固定保持することにより、真空ダクト20が偏向電磁石4にアライメントされることにより、サイトにおける荷電粒子ビーム加速器のアライメント回数が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、荷電粒子ビーム加速器およびその加速器を用いた粒子線照射医療システムに関するものであり、特に真空ダクトを固着した偏向電磁石を備えた荷電粒子ビーム加速器およびその加速器を用いた粒子線医療システムに係るものである。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム加速器は物理研究実験用や癌などの悪性腫瘍の治療や診断、さらにはシンクロトロン放射光装置(SOR装置)等に利用されている。前記SOR装置として、ライナックで加速された電子を蓄積リングに入射し、この入射された電子ビームを、閉ループ状の真空ダクト内で偏向電磁石により随時曲げながら繰り返し周回させる技術が示されている。そして、前記真空ダクトの位置を調整する真空ダクトのサポート構造として、架台上に第1の位置調整機構を介して第1のステージが設け、この第1のステージ上にさらに第2のステージを載せ、第2の位置機構により前後、左右に真空ダクトを位置調整する構造が示され、この構造は閉ループ状の真空ダクトに適用してもよいことが記載されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平07−211499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記特許文献1に示された構造によって、真空ダクトを偏向電磁石の磁極中心の所定の位置に精度良く設置するアライメント作業は、偏向電磁石のアライメントと、真空ダクトのアライメントを別個に実施、行わねばならない構造であり、アライメント作業が2度手間を要するという問題点がある。またこのアライメント作業は、複雑な機構の操作、すなわち上下位置調整機構のボルト4本、前後、左右調整機構のボルト6本、計10本のボルトの締め、または緩め作業が必要であり、また所定位置の設定には、ボルトの締め、緩め作業後に位置確認(光学機器等使用の)作業が必要で、熟練した作業者による高度な技術を必要とし、現地サイトにおける加速器システムの据付調整作業に長時間を要し、その結果、コスト高の要因となるという問題点も有している。
【0005】
この発明は前記のような課題を解決するためになされたものであって、真空ダクトを工場内製造過程において所定位置に固定、装着した偏向電磁石を備えることにより、現地サイトにおいて偏向電磁石のアライメントを実施することのみで、真空ダクトは自動的に所定の位置にアライメントされ、アライメント作業が容易かつアライメント回数の低減化した荷電粒子ビーム加速器と、その加速器を用いた粒子線照射医療システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る荷電粒子ビーム加速器は、偏向電磁石と該偏向電磁石の磁極ギャップ間に配置された真空ダクトが設けられており、荷電粒子ビームを入射、出射する偏向電磁石の端面で、該偏向電磁石が真空ダクトの支持板を位置決め部材を介して、真空ダクトを所定の位置に固定、保持しているものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る荷電粒子ビーム加速器には、偏向電磁石と該偏向電磁石の磁極ギャップ間に配置された真空ダクトが設けられており、荷電粒子ビームを入射、出射する偏向電磁石の端面で、該偏向電磁石が真空ダクトの支持板を位置決め部材を介して、真空ダクトを所定の位置に固定、保持しているので、現地サイトにおける荷電粒子ビーム加速器の据付調整工事において、偏向電磁石のアライメントを行うことのみによって真空ダクトのアライメントが自動的に完了するので、アライメント作業回数が減り、据付調整工事期間の短縮、ひいてはコスト低減が可能となるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。
図1は、荷電粒子ビーム加速器200と、この荷電粒子ビーム加速器200を用いた場合の粒子線照射医療システム500とを示す図である。この粒子線照射医療システム500は、入射系100、荷電粒子ビーム加速器200、ビーム輸送系300、照射系400によって構成される。荷電粒子ビーム加速器200は、入射セプタム3、偏向電磁石4、四極電磁石5、高周波加速装置6、六極電磁石7および高周波発生装置であるRFKO機器8、出射四極電磁石9、出射セプタム10、真空ダクト20によって構成されており、RFKO機器8や出射四極電磁石9は出射制御部30で制御される。この荷電粒子ビーム加速器200は、その前段には低エネルギビームの入射系100が設けられている。この入射系100はイオン源1、線形加速器2によって構成されている。また、荷電粒子ビーム加速器200の出射セプタム10から出射された出射ビームは、ビーム輸送系300を通り、医療室に設けられた照射系400の照射装置14および線量モニタ15を通って照射対象体16、例えば患者の腹部に照射される。前記ビーム輸送系300は、偏向電磁石11、スピルモニタ12、照射路偏向電磁石13が設けられており、照射系400は照射装置14、線量モニタ15と照射対象体16とよりなる。
これら入射系100、荷電粒子ビーム加速器200、ビーム輸送系300、照射系400は、それぞれの系内において、各構成要素の機器が、例えば±0.5mm以下の精度でアライメントされている。
【0009】
次に、荷電粒子ビーム加速器200を構成する偏向電磁石4および真空ダクト20の詳細構造を図2、図3に基づいて説明する。
この実施の形態1では、偏向電磁石4は代表的なH型電磁石であり、上、下2分割のヨーク構造のものを示し、図3は上部ヨーク部分を分解して、下部ヨーク部4Lとした場合を上部から見た図を示し、図2のA−A矢視断面図を示す。図において、偏向電磁石4はケイ素鋼板で積層されており、荷電粒子ビーム偏向軌道25に対する外側ヨーク4A、内側ヨーク4B、これらを継ぐ下側ヨーク4Cを有し、この下側ヨーク4Cには磁極面4Fを備える磁極4Dを有している。また、コイル24が磁極4Fを囲むよう設けられている。上、下ヨークの磁極4Dによって形成される磁極ギャップ間には、荷電粒子ビーム偏向軌道25を沿って囲む真空ダクト20が配置されており、偏向電磁石4の生成するパルス磁場による渦電流発生を抑制するため非磁性材の薄板構造であり、適宜個所に設けた複数の補強リブ21によって剛性を高めている。
偏向電磁石4に荷電粒子ビームが入射および出射する端面4Eには、真空ダクト20と一体化構成された真空ダクト支持板22が図示省略のボルト等で取り付けられるとともに、位置決め部材であるノックピン23で、所定の位置つまり真空ダクト20の開口断面における横軸中心線X−Xと、開口断面における縦軸中心線Y−Yとが、偏向電磁石4の磁極ギャップの中心線X−Xと、磁極4Dの中心線Y−Yとが一致するように固定される。
このように真空ダクト20は、工場内製造過程において、偏向電磁石4に所定の位置にアライメント配置後に、ノックピン23でその位置を固定されている。その状態を図3に示す。
【0010】
なお、図2、図3の偏向電磁石4はH型電磁石で、外側ヨーク4A、内側ヨーク4Bの端面4Cで真空ダクト支持板22をノックピン23で固定する例を示したが、偏向電磁石4が必ずしもH型に限定されることなく、C型であってもよい。また、外側ヨーク4A、内側ヨーク4Bの両端面4Cで真空ダクト支持板22を固定する例を示したが、外、内側ヨーク4A、4Bのいずれか一方の両端面4Eであってもよい。また、真空ダクト20の断面形状をレーストラック型を図示したが、角型、楕円形、または円形であってもよく、また、非磁性薄板構造とは限らず、非磁性ベローズ製であってもよい。
【0011】
このように偏向電磁石4の磁極ギャップ間に真空ダクト20が設置されるとともに、真空ダクト20と一体化構成された真空ダクト支持板22が偏向電磁石4の端面4Eにてノックピン23で位置固定されていることで真空ダクト20が偏向電磁石4の所定位置に精度良くアライメントされており、現地サイトにおける荷電粒子ビーム加速器200としてのアライメント作業が、従来では偏向電磁石4のアライメント後に真空ダクト20のアライメントと2度にわたって必要とするものが、この実施の形態1では偏向電磁石4のアライメントを行うことのみで真空ダクト20のアライメントは自動的に、かつ精度良く行われることになり、現地サイトにおける荷電粒子ビーム加速器200の据付調整が容易になるとともにその調整期間が短縮できる効果がある。
【0012】
なお、この実施の形態1では、荷電粒子ビーム加速器200を構成する偏向電磁石4とその真空ダクト20の例で示したが、図1に示した粒子線照射医療システム500に用いられている他の偏向電磁石、例えば、ビーム輸送系の偏向電磁石11や照射系400の照射偏向電磁石13に用いてもよく、この実施の形態1のような真空ダクトを所定位置に固着した偏向電磁石を採用することにより、前記のような効果を奏する。
【0013】
実施の形態2.
次に実施の形態2を図4〜図6に基づいて説明する。
図4は、図2と同様に、下部ヨーク4Lを上部から見た図を示し、図5は図4のA−A断面を示す。この実施の形態2による真空ダクト20の偏向電磁石4への取付は、実施の形態1による図2に示した真空ダクト支持板22とノックピン23に代替して、真空ダクト20に一体化して真空ダクト20の開口断面における縦横軸中心線Y−Y、X−X軸に取り付けた支持棒26が、偏向電磁石4の磁極4Fの荷電粒子ビーム周回軌道中心すなわち磁極4Fの幅の中心に設けられたリーマ穴4Hに挿入されていることによって所定の位置にアライメントされて取り付けられる。なお、図4ではリーマ穴4Hは2カ所の例を示したが、3カ所以上であってもよい。また、偏向電磁石4への真空ダクト20の支持が、前記支持棒26で強度、剛性上充分でない場合には、別途真空ダクト20を支持する部材を用いて偏向電磁石4の端面4Eにボルトで締め付け保持してもよい。この場合にも、真空ダクト20の所定の位置へのアライメントは、支持棒26によってなされる。図6に支持棒26がリーマ穴4Hに挿入された断面図を示す。支持棒26の真空ダクト20側は非磁性材26Aで、リーマ穴4Hに挿入される側は磁性材26Bが用いられ、これら非磁性材26Aと磁性材26Bはろう付けや溶接によって一体化され、非磁性材26A側が真空ダクト20側に一体化されているものである。磁性材26Bを用いているのは、磁極4F表面にリーマ穴4Hが開口されることによる磁極4Fの表面における磁性体を補填することにより、磁場の一様性を損なうことのないような構造としているからである。なお、この磁場一様性を損なうことのない場合には、非磁性材のみの支持棒26であってもよい。
このようにこの実施の形態2による偏向電磁石4と真空ダクト20の構成は、前記実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0014】
実施の形態3.
次に実施の形態3を図7〜図8に基づいて説明する。
図7は図2と同様に、下部ヨーク4Lを上部から見た図を示し、図8は図7のA−A断面を示す。この実施の形態3による真空ダクト20の偏向電磁石4への取り付けは、真空ダクト20に一体化して取り付けられた最も外側の補強リブ21Aが、偏向電磁石4の下部ヨーク4Lの外側ヨーク4A、内側ヨーク4Bに設けられた溝4S内に挿入されることによって、偏向電磁石4に真空ダクト20がアライメントされて取り付けられている。なお、真空ダクト20の補強リブ21Aが下部ヨーク4Lの外側ヨーク4A、内側ヨーク4Bの溝4Sに挿入される例を示したが、外、内側ヨーク4A、4Bのいずれか一方であってもよく、さらには下部ヨーク4Lに加えて図示省略した上部ヨークの外側ヨーク4A、4Bの溝あるいはその一方の溝にも挿入する構成であってもよい。
さらには、最も外側の補強リブ21Aが溝4Sに挿入されているが、複数の補強リブ21の内の任意のものであってもよい。このような実施の形態3による偏向電磁石4と真空ダクト20の構成は、前記実施の形態1と同様の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0015】
この発明は、シンクロトロン等の荷電粒子ビーム加速器システムや粒子線照射医療システム等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1の粒子線照射医療システムを示す図である。
【図2】実施の形態1の偏向電磁石に真空ダクトを取り付けた状態を示す図である。
【図3】図2のA−A矢視断面を示す図である。
【図4】実施の形態2の偏向電磁石に真空ダクトを取り付けた状態を示す図である。
【図5】図4のA−A矢視断面を示す図である。
【図6】実施の形態2の真空ダクト支持棒を拡大した図である。
【図7】実施の形態3の偏向電磁石に真空ダクトを取り付けた状態を示す図である。
【図8】図7のA−A矢視断面を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
4 偏向電磁石、4A 外側ヨーク、4B 内側ヨーク、4D 磁極、4E 端面、
4F 磁極面、4H リーマ穴、4S 溝、20 真空ダクト、
21,21A 補強リブ、22 真空ダクト支持板、23 ノックピン、26 支持棒、
200 荷電粒子ビーム加速器、500 粒子線照射医療システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速する荷電粒子ビーム加速器において、該荷電粒子ビーム加速器には、偏向電磁石と該偏向電磁石の磁極ギャップ間に配置された真空ダクトが設けられており、前記荷電粒子ビームを入射、出射する前記偏向電磁石の端面で、該偏向電磁石が前記真空ダクトの支持板を位置決め部材を介して、前記真空ダクトを所定の位置に固定、保持していることを特徴とする荷電粒子ビーム加速器。
【請求項2】
前記偏向電磁石の磁極面に設けられた穴に、前記真空ダクトに設けられた支持棒が挿入されて、前記偏向電磁石が前記真空ダクトを所定の位置に固定保持していることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項3】
前記偏向電磁石の側ヨークに設けられた溝内に、前記真空ダクトに設けられた補強リブが挿入されて、前記偏向電磁石が前記真空ダクトを所定の位置に固定保持していることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項4】
前記真空ダクトは非磁性材のベローズ製あるいは非磁性材薄板構造であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項5】
前記真空ダクトの支持棒は、長手方向で磁性部材と非磁性部材とが接続されたものであり、前記磁性部材が前記磁極面に設けられた穴に挿入されていることを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム加速器。
【請求項6】
前記請求項1〜請求項5のいずれか1項の荷電粒子ビーム加速器を用いたことを特徴とする粒子線照射医療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−49965(P2010−49965A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213793(P2008−213793)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】