説明

荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法及び荷電粒子ビーム加速器を用いた粒子ビーム照射システム

【課題】照射線量制御システムのコストを低減し、かつ照射線量誤差を小さくすることができる荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法及びその加速器を用いた粒子ビーム照射システムを提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム加速器200を備え、この荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを被照射体16の設置位置まで輸送し、この輸送された荷電粒子ビームを前記被照射体の特定の照射部位に照射するようにした荷電粒子ビーム照射システムにおいて、少なくとも1の照射部位に対して予め設定された計画線量の照射に対応した1回の照射内で荷電粒子ビーム加速器から出射される荷電粒子ビームの出射ビーム強度を2段階以上に変化させるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、荷電粒子ビーム加速器、特に荷電粒子ビームを高エネルギーに加速して出射する荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法及び前記加速器を用いた荷電粒子ビーム照射システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム加速器を用いたスポットスキャニング照射は、スポット毎の照射線量誤差を1%以下にすることが求められており、照射システムはこれを前提に構築されている。これに対応した照射システムの一例としてサイクロトロンを荷電粒子ビーム加速器としたものがある。このシステムではサイクロトロンから一定強度のビームが供給され、ビーム輸送系において高速キッカでビームがオン/オフされる。照射線量誤差を与える主な要因としては、加速器内を周回する荷電粒子ビームを出射ビームとして取り出すために使用する高速キッカを停止させるために必要な時間と線量モニタの応答時間であり、それらを考慮した反応時間は120μs以下にすべきとされている。(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
また、サイクロトロンからの出射ビームの強度制御方式として、イオン源のアーク電流を制御する方式が提案されている。(例えば非特許文献2参照)。
【0004】
一方、荷電粒子ビーム加速器としてシンクロトロンを用いる場合は、ビーム出射を高速に制御する方式が用いられる。更に、出射ビームのリップルを小さくして強度分布を一様にするための工夫が提案されている。これは、強度分布が一様でない場合、ビーム遮断直前のビーム強度のリップルが照射線量の誤差に影響するためである。即ち、システム全体を考慮したビーム遮断時間は有限であるため、遮断直前のビーム強度が大きいほど誤差が大きくなり、強度分布はランダムに変化するため、全体の強度分布をできるだけ一様にする必要がある。
【0005】
通常、ベータトロン振動数など、加速器内周回荷電粒子ビームを介した加速器パラメータ測定手段として周回荷電粒子ビームを挟む形で高周波を印加するための電極が設置され、この電極に高周波信号を印加するための高周波信号発生装置(以下、高周波ノックアウト機器と呼ぶ)を備えている。この機器を、周回荷電粒子を出射ビームとして取り出すための出射ビーム取り出し手段として使用する出射方式がある。この電極に高周波信号が印加されると、電極間を走行する荷電粒子ビームは振動する力を受けることになり、元々ビームが有している振動の振幅が増大する。そして、この振幅増大により、ビーム中の一部の荷電粒子は周回軌道上を安定に周回できなくなり、これが出射ビームとして取り出される。
高周波ノックアウト機器を使った出射方式では、全体のビーム強度は電極に印加する高周波信号の振幅で主に決まる。上述したようなビーム強度分布の変化が大きくても、全体のビーム強度を下げれば最大強度も下げられるため、出射ビームを停止する際に生じる停止のタイミング誤差に起因する照射量誤差を小さくできるが、照射時間が長くなるという問題が生じる。(例えば非特許文献3参照)。
【0006】
【非特許文献1】"The 200-MeV proton therapy project at the Paul Scherrer Institute: Conceptual design and practical realization", Med. Phys. 22(1), January 1995. pp37-53
【非特許文献2】"IBA PROTON PENCIL BEAM SCANNNING: AN INNOVATIVE SOLUTION FOR CANCER TREATMENT", 欧州加速器会議(EPAC)プロシーディングス(2000年)、Vienna,Austria. pp2539-2541
【非特許文献3】"PROGRESS OF RF-KNOCKOUT EXTRACTION FOR ION THERAPY", 欧州加速器会議(EPAC)プロシーディングス(2002年)、Paris France pp2739-2741
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、照射線量誤差を小さくするためには、非特許文献1のサイクロトロンを用いた方式においては、高速キッカや線量モニタの応答速度を上げなければならず、コストが高くなるという問題点がある。また、非特許文献2のシンクロトロンを用いた方式では、出射ビームのリップルを小さくするための工夫が必要となり、システムの複雑化、高精度化が必要となりコストが高くなるという問題点がある。非特許文献3のシンクロトロンを用いた方式でも出射ビーム停止タイミングの精度改善が必要となるため、やはりシステムの複雑化、高精度化が必要となりコストが高くなるという問題点がある。
【0008】
この発明は、前記のような問題点を解決するためになされたものであって、照射線量制御システムの複雑化、高度化を回避し、簡便な手段により、照射線量誤差を小さくすることを可能とした荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法及びその加速器を用いた荷電粒子ビーム照射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係る荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法は、荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを被照射体設置位置まで輸送し、この輸送された荷電粒子ビームを前記被照射体の特定の照射部位に照射するようにした荷電粒子ビーム照射システムにおいて、少なくとも1の照射部位に対して予め設定された計画線量の照射に対応した1回の照射内で荷電粒子ビーム加速器から出射される荷電粒子ビームの出射ビーム強度を2段階以上に変化させるようにしたものである。
また、第2の発明に係る荷電粒子ビーム照射システムは、荷電粒子ビーム加速器と、この荷電粒子ビーム加速器からの荷電粒子ビームの、強度を含めた出射を制御する出射制御部と、前記出射された荷電粒子ビームを被照射体設置位置まで輸送する輸送部と、前記輸送された荷電粒子ビームを前記被照射体の所定の照射部位に照射するための照射装置とを有する荷電粒子ビーム照射システムにおいて、前記出射制御部は、少なくとも1の前記照射部位に対して予め設定されている計画線量の照射に対応する1回の照射に対して、2段階以上に設定された各出射ビーム強度値と、前記各段階の切り替え条件と、前記各出射ビーム強度値に対応して、この各出射ビーム強度値を実現するために必要な、荷電粒子ビーム加速器の荷電粒子ビーム出射制御に関係する出射関連構成機器のビーム出射時の運転パラメータとを有する出射パラメータを記憶する出射パラメータ記憶部を有し、少なくとも1の照射部位に対して、予め設定されている計画線量の照射に対応する1回の照射に対して、前記出射パラメータに基づき前記荷電粒子ビーム出射強度を2段階以上に変えて照射するよう前記出射関連構成機器を制御するものである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明に係る荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法は前記のように構成されているため、照射線量制御システムの複雑化、高度化を回避し、簡便な方法により、照射線量誤差を小さくすることができる。
第2の発明に係る荷電粒子ビーム照射システムは前記のように構成されているため、照射線量制御システムの複雑化、高度化を回避した簡便な構成により、照射線量誤差を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
実施の形態1に係る発明は、1照射部位への1回の照射あたりの出射ビーム強度を2段階以上に変化させると言うものである。1照射部位への1回の照射とは、1照射部位に対して予め設定されている計画線量を達成するための一連の照射をいうものとする。
ここで典型的な例として2段階に変化させる場合について説明する。この場合は、2段階目のビーム強度を最初のビーム強度に対して、低減させることとする。すなわち、最初は高い線量率で荷電粒子ビームを被照射体に照射し、所定の線量(積算線量)に達した後は、低い線量率に切り替えて、前記所定の線量と計画線量との差である残線量の照射を行うというものである。計画線量に達したことを知らせる線量満了信号の発生から実際にビーム出射が停止されるまでの時間、すなわちビーム出射停止時間の誤差により発生する計画線量に対する実際の照射線量の誤差は、荷電粒子ビーム強度が小さいほど小さくなる。また、荷電粒子ビーム強度が小さければ出射ビームのリップルも小さくなるため、ビーム出射停止直前の荷電粒子ビーム強度が小さければ、リップルに起因する照射線量の誤差も小さくなる。このことは2段階のみでなく、多段階に変化させる場合にも同様であり、一般的には多段階にして、各段階で出射ビーム強度を低減していくほど照射線量の誤差は小さくなる。
【0012】
以下では、荷電粒子ビーム加速器を使用した荷電粒子ビーム照射システムの概要を説明すると共に、荷電粒子ビーム加速器としてシンクロトロンを例に取り、シンクロトロンのビーム出射関連構成機器に対して、上述のような出射ビーム強度を変化させる制御を行うことが可能であることを説明する。
図1は、実施の形態1による荷電粒子ビーム照射システムの構成を示す概略図で、当該システムを粒子線照射医療システムとして使用した場合の例を示している。この例では荷電粒子ビーム加速器としてシンクロトロンを使っている。粒子ビーム照射システムは、入射系100、荷電粒子ビーム加速器200、ビーム輸送系300、照射系400、出射制御部30(図1では省略。図4に記載。)、及び全体制御部34(図1では省略。図4に記載。)で構成されている。そして、入射系100はイオン源1、線形加速器2で、また、荷電粒子ビーム加速器200は入射セプタム3、主偏向電磁石4、主四極電磁石5、高周波加速装置6、六極電磁石7、高周波ノックアウト機器8、出射四極電磁石9、及び出射セプタム10で、ビーム輸送系300は偏向電磁石11、スピルモニタ12、照射路偏向電磁石13で、更に、照射系400は照射装置14、線量モニタ15でそれぞれ構成されている。
【0013】
次に動作について説明する。
入射系100では、まずイオン源1で荷電粒子を発生し、発生した荷電粒子は線形加速器2で所定のエネルギーにまで加速され荷電粒子ビームとなる。この荷電粒子ビームは次にシンクロトロンなどの荷電粒子ビーム加速器200に、入射セプタム3を介して入射される。入射された荷電粒子ビームは主偏向電磁石4によりその進路を曲げられ、主四極電磁石5で収束作用を受けつつ、ビームが広がることなく、荷電粒子ビーム加速器200内を安定に周回する。なお、周回する荷電粒子ビームは、高周波加速装置6で、そこを通過するたびにエネルギーの供給を受け、そのエネルギーを増加させる。六極電磁石7は、周回する荷電粒子ビームのエネルギーの幅による収束作用の相違を修正するための作用を有する。荷電粒子ビームが所定のエネルギーにまで加速された後は、荷電粒子ビーム加速器200の出射セプタム10から出射され、出射ビームとなり、ビーム輸送系300を構成する偏向電磁石11、13等でその進路を変えられて、図示しない医療室に設けられた照射系400の照射装置14によって被照射体、例えば患者16の腹部等に照射される。線量モニタ15は患者16に照射された照射線量値をモニタするものである。
【0014】
なお、ビーム輸送系300のスピルモニタ12は、走行する荷電粒子に起因するビーム電流を測定するためのモニタで、通常、ガスを封入した容器に高電圧を印加した電極を配置したものである。荷電粒子ビームの入出射する容器壁は荷電粒子ビームのエネルギー吸収を小さくするために薄膜が使用されている。荷電粒子ビームがこのモニタを通過するとき、封入されたガスの電離に起因して電極に電流が流れる。なお前記照射路偏向電磁石13は、ビーム輸送系300ではなく照射系400に含まれる場合もある。
【0015】
次に、荷電粒子ビーム加速器200であるシンクロトロンでの荷電粒子ビームの加速と出射について詳述する。
この実施の形態1では、主偏向電磁石4と主四極電磁石5各一台の組み合わせを4組配置した構成としている。通常、ビームを水平・垂直方向に収束させるために極性の異なる2種類の四極電磁石が使われるが、この実施の形態1では、主偏向電磁石4は半径方向に磁場強度が変化するか、エッジ角を有することにより垂直方向にも収束力を与える機能を有する主偏向電磁石4としているため、主四極電磁石5は極性が同じ1種類の四極電磁石を使用している。主偏向電磁石4は、原理的に偏向と同時に水平方向に収束力を与える。
【0016】
入射されたビームは、高周波加速装置6で加速されるが、周回軌道が変動しないように主偏向電磁石4及び主四極電磁石5もビームエネルギー(もしくは運動量)の増加に合わせて磁場が強められる。加速後は、主偏向電磁石4及び主四極電磁石5の磁場強度は一定とし、高周波加速装置6はオフとするか、オンとした状態でも加減速しない位相で運転される。これにより、加速後のビームは一定のエネルギーで周回し続ける。なお、上記説明では高周波加速装置を例にとって説明したが、荷電粒子ビームの加速のための手段は、高周波加速装置に限定されるものではなく、例えば誘導加速装置等も考えられる。
【0017】
次にビーム出射について説明する。主四極電磁石5の磁場を変化させることにより水平方向のベータトロン振動を1/3共鳴に近づけると共に通常六極電磁石7を励磁して、共鳴状態を作り易くする。ベータトロン振動が増幅しないで安定に周回できる領域をアクセプタンスと呼ぶが、六極電磁石の作り出す磁場の非線形性から、アクセプタンスは周回する荷電粒子の周回方向に直交する方向の位置と運動量を座標軸とした位相平面上で三角形(セパラトリクスと呼ばれ、その最外周を共鳴の安定限界或いは安定領域境界と呼んでいる)となり、そこから出た粒子は振幅を増大させ、出射セプタム10の位置を超えた粒子は、出射セプタム10で外側に偏向されて、荷電粒子ビーム加速器200であるシンクロトロンの外部に取り出される。
【0018】
次に、荷電粒子を上記セパラトリクス外に取り出すための方法について説明する。
主四極電磁石5と六極電磁石7は、セパラトリクスが周回ビームのエミッタンスよりも小さくならない値で一定に保たれる。この状態からビームを出射させるためには、出射四極電磁石9を励磁してセパラトリクスを狭める。周回ビームのエミッタンスよりもセパラトリクスが小さくなると、セパラトリクス外のエミッタンスを有する粒子は出射ビームとして取り出されることになる。従って、連続的に一定強度のビームを取り出すためには所定の関係でセパラトリクスを縮小していけばよく、出射ビーム強度を変えたければ、セパラトリクスの縮小速度を変化させればよいことになる。セパラトリクスの縮小速度は出射四極電磁石9の励磁量増加の時間依存性を変化させることで実現できる。
【0019】
必要なビーム量が取り出された後、出射四極電磁石9の励磁を止めセパラトリクスを初期状態に戻す。この後、周回ビームに高周波発生装置( 高周波ノックアウト機器)8による高周波電界を与えて荷電粒子ビームの振動振幅を大きくして拡散させ、ビームが取り出された空間を埋める。即ち、上記出射により周回ビームのエミッタンスは縮小しているので、周回ビームに高周波電界を与えることによりエネルギーを付与し、セパラトリクス境界近傍にまでエミッタンスを増加させるのである。このようにすれば、その後も、出射四極電磁石9を動作させれば、上記と同様にビームが取り出される。
【0020】
出射ビームはビーム輸送系300を通して図示しない治療室に導かれ、照射系400の照射装置14を通して患者16等の被照射体に照射される。照射装置14は、ビームを適切な位置に照射するためにビームの進行方向を変えるスキャナ電磁石や、ビーム位置モニタ、ビームエネルギーを変えるレンジシフタなどから構成されている。照射線量は線量モニタ15により正確に測定される。
【0021】
ここで、照射装置14を用いたスポットスキャニング照射の一例を説明する。図2は照射装置14の内部の構成を示している。2個の偏向電磁石で構成されたビーム位置を平行に移動させる平行スキャナ電磁石21で半径方向の任意の位置にビーム位置を設定することができる。この平行スキャナ電磁石21を一体として、荷電粒子ビームの入射軸の周りに回転させることにより、荷電粒子ビームの照射される平面上所定の範囲内で2次元的に任意の位置にビーム位置を設定することができる。
【0022】
被照射体内部での照射ビームの到達可能な深さはレンジシフタ22の厚みを変えることにより制御される。レンジシフタ22とは荷電粒子ビームのエネルギーを吸収する材料で構成される板で、その材質と厚さに依存して、通過する荷電粒子の平均エネルギーを低減させることができる。電子を除く荷電粒子の場合、到達可能な深さの近傍で被照射体へのエネルギー付与が最大となる特性を有しているため、平行スキャナ電磁石21とレンジシフタ22とを併用することにより、3次元の任意の位置に対して選択的にビームを照射することができる。Yは選択された照射スポット(又は照射部位)の例を示す。照射前の治療計画において、患部を3次元的に分割し、患部全体に一様な線量が与えられるようにそれぞれのスポットに照射する照射線量(粒子数とそのエネルギーに依存する)を計算する。これが前述の1照射スポット(又は照射部位)に対する計画線量である。
【0023】
照射時には、1照射スポットに計画線量を照射した後、ビーム出射を一時停止し、次の照射スポットに照射できるように各機器パラメータを変え、その照射スポットに必要とされるビームを照射する。全ての照射スポットが照射されるまでこれが繰り返される。1照射スポット当たりの照射時間は数msから数十msである。ここで、1照射スポットへの計画線量の照射に際して上述したように出射ビーム強度を2段階もしくは多段階に変化させて照射する。なお、全ての照射スポットがそれぞれ複数回照射される場合もあり、このときは1照射スポットの各回毎の照射において出射ビーム強度を2段階もしくは多段階に変化させて照射することとする。
【0024】
以上に基づく運転パターンの一例を図3に示す。図3において、(a)は被照射体への照射が許容される時間帯を示すための照射可信号で、この間にのみ荷電粒子ビームの出射が許される。(b)は荷電粒子ビーム出射開始信号、(c)は線量満了信号で、出射終了信号のことである。理想的には出射開始信号と線量満了信号との間で荷電粒子ビームが加速器より出射される。(d)は出射四極磁場波形で、出射四極電磁石により発生する四極磁場強度の時間変化を波形として示したものである。出射開始信号を受けて出射四極電磁石のコイルに専用電源から通電されることにより発生し、線量満了信号を受けて前記専用電源からの通電を停止することにより消滅する。コイルへの通電電流の増加速度を変えることによりこの磁場強度の増加の勾配を変えることができる。図3(d)では、磁場強度の増加の勾配を2段階に切り替えた場合を示している。(e)は出射ビーム波形で、照射部位でのビーム波形とも相似であるから、ここでは出射・照射ビーム波形と記載してある。後述する理由により、出射四極磁場波形の増加の勾配が大きいところでは出射ビーム強度は大きく、出射四極磁場波形の増加の勾配が小さいところでは出射ビーム強度も小さくなる。(f)は高周波ノックアウト機器運転タイミングを示すもので、線量満了信号が出された後に高周波ノックアウト機器の運転がなされ、次の出射開始信号が出されるまでに運転が終了していることを示している。
この例は、図3の(e)に示すように、出射ビーム強度を2段階に変化させるものである。まず、これまで説明したように、荷電粒子ビーム加速器200で荷電粒子ビームを所定のエネルギーにまで加速が終了しているものとする。更に、平行スキャナ電磁石21により、所定のスポットに照射できる準備が完了しているものとする。このとき、(a)に示すように、照射可信号が発せられた後、全体制御系70から(b)に示すように、出射開始信号が出力される。それを受けて出射四極電磁石9が磁場を発生させる。磁場波形の例を(d)に示す。(d)の磁場は、時間と共に増加し、かつ、その時間変化の勾配は途中で緩慢な勾配に変化している。
【0025】
このような出射四極電磁石による磁場(出射四極磁場と略称する)の時間変化により、セパラトリクスは時間と共に縮小していくことになり、セパラトリクス範囲外のエミッタンスを有する荷電粒子が継続して発生することとなるため、連続して出射ビームが発生することになる。ここで、出射四極磁場の時間変化が緩やかになるとセパラトリクスの縮小速度は緩慢になる。そうすると、セパラトリクス範囲外のエミッタンスを有する荷電粒子の数の時間変化も小さくなる。即ち、出射四極磁場の時間変化の勾配を低減することにより、出射ビーム強度も低減し、所定の勾配の磁場変化を保持していれば、基本的には出射ビーム強度は一定値に保持される。従って、(d)に示す出射四極磁場波形により出射ビーム強度は(e)に示すように変化することになる。そして、出射されたビームは、線量モニタ15で線量測定が開始される。所定の線量に達した時点で(c)に示すように、線量満了信号が発生される。出射四極電磁石9は、線量満了信号を受けて磁場発生を停止する。これによりセパラトリクスは初期の状態にまで戻るため、ビーム出射も停止する。
【0026】
このとき、セパラトリクス内のビームエミッタスは出射前の状態に比べて縮小している。即ち、出射前はセパラトリクスと同じ程度にビームエミッタンスが広がっていたのが、出射後は、その出射量に応じて、ビームエミッタンスが縮小し、セパラトリクス境界に対して空隙が出来ていることになるため、次の出射をスムーズに行うためには予め初期のセパラトリクスと同程度までビームエミッタンスを増大させておく必要がある。即ち(f)に示すタイミングで高周波ノックアウト機器8を運転して高周波電界を発生させ、周回ビームをセパラトリクス内の境界付近まで広げて高周波電界発生を停止させる。それと並行して、スポットスキャニング照射装置14では、次のスポット照射のための準備が進められ、それが完了した後、前述のように照射装置14からの照射タイミングに合わせて同じ動作が繰り返される。
【0027】
線量満了信号の発生から実際にビーム出射が停止されるまでの時間、すなわちビーム出射停止時間の誤差は次のような要因から決まる。一つはビーム輸送系300のスピルモニタ12の応答時間である。荷電粒子ビームの走行による、いわゆるビーム電流は、ナノアンペアのオーダと微小であるため、スピルモニタ12を使って測定されるが、電極間を加速粒子が通過した際に発生するイオン電流を直接の測定対象としているためイオンが発生してから電極に達するまでの時間がビーム電流測定の遅れ時間となる。ビーム出射停止時間の他の誤差要因としては、出射四極電磁石9の応答時間がある。これらの要因によるビーム出射停止時間の誤差により、計画線量に対して実際の照射線量に誤差が生じる。この誤差は出射ビーム強度が大きいほど大きなものとなる。
【0028】
また、線量満了信号が発生した時点でセパラトリクス境界外にいる粒子及びセパラトリクス境界を出た粒子はセパラトリクス境界を出た瞬間に取り出されるわけではなく、数十μsを要して取り出される。従って、線量満了信号が発生した時点でセパラトリクス境界外にいる粒子の制御は不可能になり、照射線量誤差となる。出射ビーム強度が大きいほどセパラトリクスの縮小速度は大きいので、出射ビーム強度が大きいほど上記要因による照射線量誤差も大きなものとなる。もちろん、出射四極電磁石9の応答を高速にしてそれらの粒子をセパラトリクス内に再度取り込むことができれば、この誤差は小さくできる。
【0029】
更に、出射ビームのリップルによる線量率の揺らぎも照射線量の誤差となる。照射線量値は線量モニタによりモニタされてはいるが、残線量を照射するときの線量率が揺らいでいればその揺らぎの分が上記ビーム出射停止時間の誤差による照射線量の誤差に重畳される。このリップルによる誤差も出射ビーム強度が大きいほど大きなものとなる。但しこのリップルに起因する誤差は、上述した他の誤差に比べると相対的に小さなものである。
【0030】
以上のように、これらの照射線量誤差は、いずれも出射ビーム強度が大きいほど大きくなると言う点で共通している。従って、線量満了信号発生時においては出射ビーム強度をできるだけ小さくし、線量満了信号発生まで未だ時間がかかる状況下では出射ビーム強度をできるだけ大きくすることにより、照射線量の誤差の低減化要請と照射に要する時間の短縮化要請との両立を図ることができる。
【0031】
次に出射ビーム制御について図4を用いて説明する。図4は出射制御システムのブロック図を示すものである。出射制御部30は出射ビーム制御に関連する機器(出射関連機器と呼ぶ)を制御する装置で、出射に関連したパラメータである出射パラメータを記憶した出射パラメータ記憶部35と、線量比較判定部36と、出射関連機器制御部37を有する。出射関連機器とは、荷電粒子ビーム加速器から荷電粒子ビームを出射するとき、もしくはその出射ビーム強度を変えるときに使用される加速器の構成機器のことをいうものとする。特に、この発明の特徴部分に係る構成機器をいうこととする。このシンクロトロンの例では、出射四極電磁石と高周波ノックアウト機器が該当する。出射制御部30は、出射関連機器制御部37を介して、これらの出射関連機器を荷電粒子ビーム出射のために制御するが、直接的に制御するのは高周波ノックアウト機器8のアンプ31と、出射四極電磁石9のコイルへ電流を供給する出射四極用電源32である。即ち、出射関連機器制御部37は、アンプ31を介して、高周波ノックアウト機器8にシンクロトロンでの荷電粒子ビームの加速に適切な周波数帯の高周波信号を、ビームへの周回あたりに付与する設計加速エネルギーの実現に対して適切な振幅で入力し、また、出射四極用電源32を介して、出射四極電磁石9に出射ビーム強度に対応するビーム電流出力を得るために必要な励磁のための信号を入力する。また、出射制御部30は、出射関連機器制御部37を介して、スピルモニタ12から出射ビーム強度の測定結果を読み込み、線量比較判定部36を介して、線量モニタ15の測定結果を線量信号処理部33で積分した積算照射線量値を読み込む。なお、図4ではスピルモニタ12、線量モニタ15の測定結果の読み込みはそれぞれ出射関連機器制御部37、線量比較判定部36で読み込むようにしたが、これに限定する必要はなく、出射制御部30で読み込みさえできればよい。なお、スピルモニタ12は出射ビーム電流を測定するものであり、従って出射ビーム強度の制御に使用され、一方線量モニタは積算照射線量の制御に使用される。
出射パラメータには、段階切り替えに対応する、切り替えパラメータとして予め設定された積算照射線量目標値と、同じく各段階の目標とする出射ビーム強度をスピルモニタ12で測定したときの出力電流値に対応する予め設定された出力目標値(各段階の設定値と略称)とが含まれている。
【0032】
スピルモニタ12からのビーム電流信号は、出射関連機器制御部37に入力された後、出射パラメータ記憶部35に記憶されている出射パラメータ中の上記最初の段階の設定値(以下、設定値Aと呼ぶ)と比較され、その差がゼロとなるように出射四極用電源32への励磁信号が出射関連機器制御部37により出力される。つまりフィードバック制御される。出射ビーム強度は、出射四極電磁石9の磁場の時間変化に比例するため、スピルモニタ12のビーム電流信号が設定値Aよりも低い場合は、出射四極用電源32の出力電流の時間変化が大きくなるような信号が出射関連機器制御部37から出力され、高い場合は小さくなるような信号が出力される。出射四極用電源32の出力電流は出射四極電磁石9の励磁電流となり、その時間変化に応じて出射四極磁場が時間変化する。これにより出射ビーム強度が制御される。
【0033】
全体制御系34から出射開始信号が出力されると、スピルモニタ12からのビーム電流信号が設定値Aとなるように出射関連機器制御部37から出射四極用電源32に制御信号が出力される。初期セパラトリクスは周回ビームエミッタンスよりも大きく設定されていることと、周回ビーム端部はビーム密度が小さいため、ビーム電流値を所定値Aにするためにはセパラトリクスの縮小速度を初期においては速めなければならない。従って、出射四極用電源32からの出力電流は、急に立ち上がり、スピルモニタ12からの信号が設定値Aにほぼ等しくなると出力電流はほぼ一定の増加率で増加し、そのときの出射四極磁場波形は図3(d)に示すようになる。ただし、ビーム密度分布が一定でなければ、一定の増加率とはならない。
【0034】
この後、線量信号処理部33からの信号は積算照射線量として線量比較判定部36に入力され、出射パラメータ記憶部35に記憶されている出射パラメータ中の積算照射線量目標値と比較される。最初の切り替えパラメータとして設定された積算照射線量目標値が例えば計画線量の2/3であったとして、線量比較判定部36では、線量信号処理部33からの積算照射線量と、積算照射線量目標値とが比較され、その結果、積算照射線量が計画線量の2/3に達した時点で、出射ビーム強度を次の段階に切り替えるための制御に移行する。具体的には、出射パラメータ中の次の段階の設定値を設定値Bとすると、この設定値Bが出射関連機器制御部37に読み込まれることにより設定値は設定値Aの例えば1/2である設定値Bに切り替わり、スピルモニタ12からの信号が設定値Bとなるように出射四極用電源32の出力電流の時間変化は低減される。そして、線量信号処理部33からの信号が、計画線量に達した時点で線量満了信号が発生し、出射四極用電源32への信号はゼロにされ、出射は停止される。その後の出射関連機器制御部37による高周波ノックアウト機器8の制御プロセスは既に説明したとおりである。
【0035】
なお、線量モニタによる積算照射線量の測定結果を、各段階全ての切り替え条件として使用するのではなく、計画線量に対応した1回の照射の少なくとも最終段階に、即ち、少なくとも線量満了信号を発生させる条件に使用するということもできる。この場合は、線量モニタによる積算照射線量の測定結果を使わないで段階の切り替えについては、切り替え時間を予め、設定しておくという方法に依ることとなる。この場合の切り替えのタイミングは、このような方法による切り替えでも、線量が計画線量を超過しない条件を予め評価して決定することになる。そして、この場合、最終の段階の照射終了、即ち線量満了信号を、既に述べたように、線量モニタによる積算照射線量の測定結果に基づき決定することで、照射線量誤差の解消を図ることになる。
【0036】
線量満了信号発生から実際にビーム出射が停止するまでには例えば100μs程度の時間が必要となるが、出射停止前の出射ビーム強度を下げることにより、その100μsの間に出射されるビーム量が低減でき、照射線量誤差を低減できる効果がある。逆の言い方をすれば、従来と同等の誤差を許容することができるのであれば100μs以上の時間誤差が許容できることになり、システム設計を容易にし、簡便なシステムで従来と同程度の誤差を達成することができるため、システムコストの低減化を図ることができる。また、照射時間の大半は大強度のビームで照射できるため、照射時間の増大は少なく、むしろ低減できる可能性もある。
なお、線量満了信号発生から実際にビーム出射が停止するまでの時間が予めわかっているときは、計画線量に達したときでなく、その時点を推定して、早い時期に線量満了信号を発生しても良い。上記の例では、100μs早く線量満了信号を発生することにする。そうすると、この100μsの推定値に伴う誤差時間のみが照射線量の誤差となり、誤差の低減に効果がある。そして、このような場合でも、線量満了信号発生時点で出射ビーム強度を低減しておくと、単位誤差時間あたりの照射線量が小さくなっている分、照射線量誤差を一層低減することができる。
なお、一回の照射あたりの出射ビーム強度切り替え回数を多くするほど、即ち、多段階切り替え照射にするほど、照射線量誤差をより低減できるが、切り替えが多いと切り替えに伴うロス時間が増えるので、切り替え段階数はシステムの特性に応じて決める必要がある。
【0037】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2について説明する。荷電粒子ビーム加速器と粒子ビーム照射システムは実施の形態1と同様であるため図示及び説明を省略する。
実施の形態1では、医用照射システムを例に取り、複数の照射スポットに荷電粒子ビームを照射する例を示したが、実施の形態2は、例えば原子核・素粒子物理実験のように、1つの標的にパルス的に照射し、そこで起こるイベントを測定する場合において、1パルス照射内で出射ビーム強度を2段階に変化させるものである。
【0038】
即ち、照射開始から所定の照射線量までは高い線量率で照射し、その後の残線量を低い線量率で照射する。この結果、出射四極磁場波形は図3(d)に示すように、最初の高い線量率に対してはその時間変化率を大きくし、その後の低い線量率に対してはその時間変化率を小さくする。
1パルス照射内での出射ビーム強度変化は2段階に限るものではなく、多段階の変化をさせても良い。このようにすることにより、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
【0039】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3について説明する。荷電粒子ビーム加速器と荷電粒子ビーム照射システムは実施の形態1と同様であるため図示及び説明を省略する。
実施の形態1、2では、出射ビーム強度の設定を2段階以上に変化させ、各段階ごとに出射ビーム強度は小さくなっていくようにしたが、本実施の形態では最初の出射ビーム強度は2段階目の出射ビーム強度よりも小さくすることを特徴とするものである。
【0040】
最初に出射ビーム強度を小さくするのは、照射開始時期はパラメータが大きく変更されることにより、大きなビームスパイクもどきの事象が発生することがあるためで、このスパイクの大きさは出射ビーム強度を大きく設定するほど大きくなることから、このスパイクで積分線量値に大きな誤差が導入されるのを避けるためである。
【0041】
このようにすることによって、パルス毎、もしくは一回の照射ごとの照射粒子数もしくは照射線量の誤差を小さくすることができる。実施の形態2で述べたような実験にこのシステムを使用した場合は測定精度を向上することができる。
なお、上記に加えて、実施の形態1もしくは2と同様に、2段階目以降の出射ビーム強度を低減していけば、上記の効果に加えて実施の形態1又は2で述べた効果も奏することができる。
【0042】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4について説明する。実施の形態4に係るシステムは、加速器がシンクロトロンである場合であって、出射関連機器として、出射四極電磁石9を使用し高周波ノックアウト機器8を用いない。このシステムでは、出射の度にセパラトリクスを縮小していくことにより、セパラトリクスから外れた荷電粒子ビームを出射ビームとして取り出すことになるため、出射開始時の出射四極電磁石9の運転条件は、前回のビーム出射終了時の運転上条件と同じとなる。セパラトリクスの縮小速度を変えることにより出射ビーム強度を変える点は実施の形態1の場合と同じである。
実施の形態1に比べると、高周波ノックアウト機器8が不要になるという利点がある反面、出射前のセパラトリクスの大きさが徐々に縮小していくことになるので、セパラトリクスの変化率の制御は徐々に難しくなり、結果として出射ビーム強度の制御が難しくなっていくという欠点はある。
【0043】
実施の形態5
次に、この発明の実施の形態5について説明する。実施の形態5は、シンクロトロンから出射する方式において、出射四極電磁石9を用いずに、 高周波ノックアウト機器8だけで行うものである。即ち、セパラトリクスは一定に保ったままで、周回する荷電粒子ビームのエミッタンスを大きくすることにより、セパラトリクス境界外のエミッタンスを有する荷電粒子を出射ビームとして取り出すというものである。この方法によれば、高周波ノックアウト機器8の高周波信号振幅を制御することで、荷電粒子ビームのエミッタンスを大きくすることができ、前述した各実施の形態と同様な効果を得ることができる。
この場合の出射関連機器は高周波ノックアウト機器8のみで、制御対象はそのアンプ31となる。
【0044】
実施の形態6.
次に、この発明の実施の形態6について説明する。荷電粒子ビーム加速器と荷電粒子ビーム照射システムは実施の形態1と類似したものとなるので図示及び説明を省略する。
実施の形態6は、加速器としてサイクロトロンを使用し、このサイクロトロンからビームを出射する際に、図4に示すシンクロトロンで採用する 高周波ノックアウト機器8、アンプ31、出射四極電磁石9、出射四極用電源32に代えて、前記サイクロトロンに荷電粒子を入射供給するイオン源と、そのイオン源の電極に電圧を印加し、その電極間で発生するアーク放電により、そこに存在するガスをプラズマ化するアーク電流電源とを使用するものである。このプラズマ化したガスがイオン源からの荷電粒子となる。
【0045】
この実施の形態は、実施の形態1から5で述べてきたビームの取り出し制御方法、即ち、加速器周回ビームのうちの一部を取り出すという出口制御ではなく、加速器に入射するビーム量を制御することにより、結果として取り出しビーム量を制御するという、入口制御とでも言うべきものである。従って、前記アーク電流電源から前記イオン源に供給する電圧を制御することにより前記イオン源の電極間アーク電流を制御することでイオン源からサイクロトロンに入射される荷電粒子量を制御し、サイクロトロンからの出射線量を制御する。サイクロトロン内を周回する荷電粒子ビームの出射には、通常採用されているデフレクターやマグネティック・チャンネル、出射ハーモニックコイル等を使用するが、出射ビーム強度の制御は、イオン源からのサイクロトロンへの荷電粒子の供給量の制御による。そしてその制御は、アーク電流電源からイオン源に供給される電圧によりなされる。その意味で、この場合の出射関連機器にはイオン源が含まれることとなり、直接の制御対象はアーク電流電源となる。
【0046】
この実施の形態によれば、アーク電流電源や線量モニタ15等の応答速度は厳しいスペックが必要なくなり、システムの簡略化が可能となり、低コスト化できると共に運転も容易になる。
【0047】
実施の形態7.
次に、この発明の実施の形態7について説明する。前述した各実施の形態1〜6では出射ビーム電流制御はフィードバック制御を前提としたが、実施の形態7は、出射関連機器の制御パラメータを予め設定した値に固定するものである。例えば、実施の形態1の方式に適用すると、出射四極用電源32の出力電流増大パターンを2つ用意し、照射線量が必要線量の例えば2/3になった時点で2つ目の増大パターンに切り替え、必要線量が照射された時点で停止させる。この場合、各段階毎の出射関連機器の制御パラメータは、出射パラメータとして、出射パラメータ記憶部35に予め記憶され、このデータを使って出射関連機器制御部37を介して出射関連機器を制御することとなる。
【0048】
この実施の形態によれば、フィードバック制御の暴走の可能性を完全に抑えることができ、より信頼性の高いシステムとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
この発明は、癌等の悪性腫瘍の治療に関する医療用荷電粒子照射システムや、荷電粒子ビーム照射による殺菌、消毒や金属材料等の特性改善さらには物理実験等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の実施の形態1〜5及び7における荷電粒子ビーム加速器と粒子ビーム照射システムの構成を示す概略図である。
【図2】平行スキャナ方式の照射装置の一例を示す図である。
【図3】実施の形態1、2、4、5及び7における荷電粒子ビーム加速器の運転パターンを示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1〜5及び7における荷電粒子ビーム加速器の出射制御システムを示すブロック図である。
【符号の説明】
【0051】
1 イオン源、 2 線形加速器、 3 入射セプタム、 4 主偏向電磁石、
5 主四極電磁石、 6 高周波加速装置、 7 六極電磁石、
8 高周波ノックアウト機器、 9 出射四極電磁石、 10 出射セプタム、
11 偏向電磁石、 12 スピルモニタ、 13 照射路偏向電磁石、
14 照射装置、 15 線量モニタ、 16 患者、 21 平行スキャナ電磁石、 22 レンジシフタ、 30 出射制御部、 31 アンプ、
32 出射四極用電源、 33 線量信号処理部、 34 全体制御系、
35 出射パラメータ記憶部、 36 線量比較判定部、
37 出射関連機器制御部、 100 入射系、 200 荷電粒子ビーム加速器、
300 ビーム輸送系、 400 照射系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム加速器を備え、この荷電粒子ビーム加速器から出射された荷電粒子ビームを被照射体設置位置まで輸送し、この輸送された荷電粒子ビームを前記被照射体の特定の照射部位に照射するようにした荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
少なくとも1の照射部位に対して予め設定された計画線量の照射に対応した1回の照射内で荷電粒子ビーム加速器から出射される荷電粒子ビームの出射ビーム強度を2段階以上に変化させるようにしたことを特徴とする荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法。
【請求項2】
荷電粒子ビーム照射システムは照射線量を測定する線量モニタを備え、2段階以上に変化する出射ビーム強度のうち、照射終了時に対応する段階の出射ビーム強度は、前記終了時段階の一段階前の出射ビーム強度による照射の時点までの前記線量モニタによる積算照射線量測定結果から算定された前記計画線量に対する残線量に基づき設定されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法。
【請求項3】
2段階以上に変化させる荷電粒子ビーム強度は、計画線量の照射に対応した1回の照射終了時段階の出射ビーム強度を、その一つ前の段階の出射ビーム強度よりも小さくしたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法。
【請求項4】
2段階以上に変化させる出射ビーム強度は、少なくとも3段階以上であるものとし、1段階目の出射ビーム強度を2段階目の出射ビーム強度より小さくしたものであることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法。
【請求項5】
荷電粒子ビーム加速器はシンクロトロンであり、その加速器内を周回する荷電粒子ビームに対する共鳴の安定限界を変化させる手段を備え、前記共鳴の安定限界を変化させる手段により前記共鳴の安定限界を縮小させることによって、この共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームの一部を共鳴の安定限界外にして出射ビームを形成し、前記共鳴の安定限界を縮小させる速度を変えることにより、出射ビーム強度を変えるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法。
【請求項6】
荷電粒子ビーム加速器はシンクロトロンであり、その加速器内を周回する荷電粒子ビームに対する共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させる手段を備え、前記ベータトロン振動振幅を増加させる手段により、前記共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加せしめ、その一部を共鳴の安定限界外にある荷電粒子ビームとすることによって出射ビームを形成し、かつ前記ベータトロン振動振幅を増加させる手段により、共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させる速度を変えることによって、出射ビーム強度を変えるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法。
【請求項7】
荷電粒子ビーム加速器はシンクロトロンであり、その加速器内を周回する荷電粒子ビームに対する共鳴の安定限界を変化させる手段と、共鳴の安定限界内の荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させる手段とを備え、前記共鳴の安定限界を変化させる手段により前記共鳴の安定限界を縮小させることによって、この共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームの一部を共鳴の安定限界外にして出射ビームを形成し、荷電粒子ビームを出射させた後、前記共鳴の安定限界を変化させる手段により、前記共鳴の安定限界を元に戻し、且つ前記ベータトロン振動振幅を増加させる手段により、前記共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームのビームエミッタンスを前記共鳴の安定限界境界近傍にまで増加させるようにし、かつ前記共鳴の安定限界を変化させる手段により、前記共鳴の安定限界を縮小させる速度を変えることにより、出射ビーム強度を変えるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法。
【請求項8】
荷電粒子ビーム加速器はサイクロトロンであり、粒子ビームを発生するイオン源とそのイオン源に電力を供給するアーク電流電源とを備え、出射ビーム強度制御は前記イオン源の制御により行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム加速器のビーム出射制御方法。
【請求項9】
荷電粒子ビーム加速器と、この荷電粒子ビーム加速器の荷電粒子ビームの出射に関連する出射関連機器を制御する出射制御部と、前記出射された荷電粒子ビームを被照射体設置位置まで輸送する輸送部と、前記輸送された荷電粒子ビームを前記被照射体の所定の照射部位に照射するための照射装置とを有する荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記出射制御部は、少なくとも1の前記照射部位に対して、予め設定されている計画線量の照射に対応する1回の照射に対して、2段階以上に設定された各段階の出射ビーム強度切り替え条件を有する出射パラメータを記憶する出射パラメータ記憶部を有し、少なくとも1の照射部位に対して、予め設定されている計画線量の照射に対応する1回の照射に対して、前記出射ビーム強度切り替え条件に基づき前記出射ビーム強度を2段階以上に変えて照射するよう前記出射関連機器を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項10】
荷電粒子ビーム照射システムは、照射線量を測定する線量モニタを備え、出射パラメータの各段階の切り替え条件は、前記各段階ごとに予め設定された積算線量目標値とし、出射制御部は前記線量モニタによる計画照射線量の照射に対応する1回の照射開始時点からの照射線量測定結果の積算値と前記各積算線量目標値とを比較判定する線量比較判定部、及び出射関連機器制御部を備え、前記線量比較判定部の判定結果に基づき前記各段階を切り替え、前記出射関連機器制御部を介して前記切り替えた各段階に対応した出射関連機器の制御を行うことを特徴とする請求項9に記載の荷電粒子ビーム照射システム
【請求項11】
荷電粒子ビーム照射システムは、照射線量を測定する線量モニタを備え、出射パラメータの切り替え条件は、最終段階に対しては予め設定された積算線量目標値、他の段階に対しては、予め設定された切り替え時間であり、出射制御部は、前記線量モニタによる照射線量測定結果の、計画照射線量の照射に対応する1回の照射開始時点から各段階の積算値と前記積算線量目標値とを比較判定する線量比較判定部、及び出射関連機器制御部を備え、
前記出射制御部は、最終段階に対しては、線量比較判定部の判定に従い、その他の段階に対しては、各段階に対応した前記切り替え時間に前記各段階を切り替え、前記出射関連機器制御部を介して前記切り替えた各段階に対応した出射関連機器の制御を行うことを特徴とする請求項9に記載の荷電粒子ビーム照射システム
【請求項12】
荷電粒子ビーム加速器は、四極電磁石と六極電磁石とを備え、両電磁石により共鳴の安定限界を形成するとともに、出射関連機器として、当該加速器の共鳴の安定限界を変化させる手段を備えたシンクロトロンであり、出射関連機器制御部は、前記共鳴の安定限界を変化させる手段により前記共鳴の安定限界を縮小させることによって、この共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームの一部を共鳴の安定限界外にして出射ビームを形成し、且つ
共鳴の安定限界を縮小させる速度を変えることによって、出射ビーム強度を変えるようにしたことを特徴とする請求項10又は11に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項13】
荷電粒子ビーム加速器は、四極電磁石と六極電磁石とを備え、両電磁石により共鳴の安定限界を形成するとともに、出射関連機器として、高周波ノックアウト機器を備え、その加速器内を周回する前記共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させる手段を備えたシンクロトロンであり、出射関連機器制御部は、前記ベータトロン振動振幅を増加させる手段により、共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームの一部を共鳴の安定限界外にある荷電粒子ビームとすることによって出射ビームを形成し、かつ前記ベータトロン振動振幅を増加させる手段により、共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させる速度を変えることによって、出射ビーム強度を変えるようにしたことを特徴とする請求項10又は11に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項14】
荷電粒子ビーム加速器は、四極電磁石と六極電磁石とを備え、両電磁石により共鳴の安定限界を形成するとともに、出射関連機器として、当該加速器の共鳴の安定限界を変化させる手段と、前記共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームのベータトロン振動振幅を増加させる手段とを備えたシンクロトロンであり、出射関連機器制御部は、前記共鳴の安定限界を変化させる手段により前記共鳴の安定限界を縮小させることによって、この共鳴の安定限界内にある荷電粒子ビームの一部を共鳴の安定限界外にして出射ビームを形成し、荷電粒子ビームを出射させた後、前記共鳴の安定限界を変化させる手段により、前記共鳴の安定限界を元に戻し、且つ前記ベータトロン振動振幅を増加させる手段により、前記共鳴の安定限界内の荷電粒子ビームのビームエミッタンスを前記共鳴の安定限界内で且つ境界近傍にまで増加させるようにすることを1サイクルとし、これを1回の照射あたり、2サイクル以上繰り返すと共に、各サイクルごとの共鳴の安定限界を縮小させる速度を変えることによって、出射ビーム強度を変えるようにしたことを特徴とする請求項10又は11に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項15】
ベータトロン振動振幅を増加させる手段は高周波ノックアウト機器であり、この高周波ノックアウト機器に印加する高周波電界の電圧値、周波数の少なくとも1つを変えることによりベータトロン振動振幅の増加の速度を変えることを特徴とする請求項13又は14に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項16】
共鳴の安定限界を変化させる手段は、出射四極電磁石であり、出射制御部は、この出射四極電磁石による磁場の時間変化を制御することにより共鳴の安定限界を縮小させる速度を変えることを特徴とする12又は14に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項17】
荷電粒子ビーム加速器は、出射関連機器として、荷電粒子ビームを発生するイオン源とそのイオン源に電力を供給するアーク電流電源とを有するサイクロトロンであり、出射制御部はアーク電流電源から前記イオン源への供給電力を制御することにより出射ビーム強度を変えるようにしたことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム照射システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−311125(P2007−311125A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137937(P2006−137937)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】