説明

荷電粒子ビーム描画方法及び装置

【課題】本発明は荷電粒子ビーム描画方法及び装置に関し、より高精度に近接効果補正が実施できる電子ビーム描画方法及び装置を提供することを目的としている。
【解決手段】近接効果補正を実施する荷電粒子ビーム描画装置において、描画領域を分割した領域に含まれる描画パターンをショート単位に分割し、該ショット単位の描画パターンについて、ショット単位の描画パターン(ビーム図形)のサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理し、該リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づき近接効果補正量を算出する近接効果補正量算出工程と、該近接効果補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間を制御すると共に、前記リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて荷電粒子ビームのサイズ及び位置を制御して、所望のパターンを描画する描画工程とを備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被描画材料に照射される電子ビームを偏向して所望のパターンの描画を行なうようにした荷電粒子ビーム描画方法及び装置に関し、更に詳しくは近接効果補正で実施される蓄積エネルギー比率の算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は可変面積型電子ビーム描画装置の一例を示す図である。電子銃1から発生した電子ビームは、照射レンズ3を介して第1成形アパーチャ4上に照射される。2aは電子ビーム2をオン/オフするブランカーである。第1成形アパーチャ開口像は、成形レンズ5により第2成形アパーチャ6上に結像されるが、その結像の位置は成形偏向器7により制御され、ビーム形状と寸法を変えることができる。そして、第2成形アパーチャ6により成形された像は、縮小レンズ8、対物レンズ9を経て被描画材料10上に照射される。描画材料10への照射位置は、位置決め偏向器11により変えることができる。
【0003】
半導体回路パターンはCADで作成され、大量の内容を効率的に表現するためデジタル数値からなる特別な形態(フォーマット)で記述されているので、そのままでは描画装置に入力することはできない。そこで、装置が扱えるフォーマットに予め変換したり、圧縮処理したりしたものを描画パターンデータとして入力する。
【0004】
入力する描画パターンデータは、データ転送回路20でビーム図形に分割(ショット単位毎に描画パターンを分割)、ソーティングなどの処理がなされ、成形偏向器制御回路13及び位置決め偏向器制御回路14に供給される。同時に電子ビーム照射のオン/オフを制御するブランキング制御回路15には、照射時間データが供給される。照射時間データは、照射時間演算回路21にて、設定した照射量に近接効果補正など各種補正を考慮して演算される。ブランキング制御回路15は、前記ブランカー2aのオン/オフを制御する。
【0005】
12は描画材料10を載置するステージ、16は該ステージ12を駆動するステージ駆動回路、17は該ステージ駆動回路16を制御するステージ駆動制御回路である。18は描画パターンが記憶されたパターンデータディスク、30は装置の全体の動作を制御する制御CPUである。該制御CPU30としては、例えばコンピュータが用いられる。
【0006】
22は近接効果補正以外の補正データを照射時間演算回路21に与えるその他の補正回路である。23は制御CPU30からのパターンデータをビーム図形に分割処理(ショット単位毎に描画ターンを分割)するビーム図形分割処理回路、24は該ビーム図形分割処理回路23からの出力を受けて、描画データの並び替え等を行ない、位置決め偏向器制御回路14、成形偏向器制御回路13及び照射時間演算回路21に制御信号を送るソーティング処理回路である。
【0007】
40は近接効果補正回路であり、蓄積エネルギー比率演算回路41とこのエネルギー比率演算回路41の出力を受けて近接効果補正の補正値を演算する補正値演算回路であり、その出力は前記照射時間演算回路21に送られる。
【0008】
従来のこの種の装置としては、同一寸法の複数の矩形パターンを用意し、そのうち少なくとも1つは単一のショットで矩形パターンを描画し、残りは矩形パターンの一方の辺に平行な直線でパターンを分割して2つのショットで描画し、これらを現像して得られた実際のパターンに対し、SEMを用いて分割線と垂直方向のパターン寸法を測定し、測定されたパターン寸法と分割の有無或いは分割位置との関係を調査することによって可変成形ビームの寸法精度を評価する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0009】
また、データ変換時に近接効果補正処理に加えて、エッチング補正処理を行ない、露光量補正やリサイズを行なう装置が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−186070号公報(段落0015〜0025、図2)
【特許文献2】特開平11−154635号公報(段落0032〜0037、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
加速電圧50kVの電子ビームを用いる可変面積型電子ビーム描画装置においては、後方散乱による蓄積エネルギーの影響によって生じるパターン寸法誤差を、照射量(照射時間)を調整することによって補正している。この補正は近接効果補正と呼ばれている。近接効果は、レジスト膜を透過して基板表面で散乱された後方散乱電子によりレジストが感光することによってパターン寸法誤差が生じる現象であり、加速電圧50kVの電子ビームを用いた場合には、影響範囲は約50μm四方程度となる。
【0012】
近接効果補正による補正量Smodを(1)式に示す。
【0013】
【数1】

【0014】
ここで、ηは後方散乱係数、C2は入射エネルギーと解像しきい値の関係を表す係数、
Orgは基準とする蓄積エネルギー比率、Ebpは蓄積エネルギー比率を表している。
【0015】
描画パターンの疎密に応じて変化する後方散乱による蓄積エネルギー比率Ebpは、図9に示すような矩形状の大小のパターンを均一な大きさの格子状のセルに分割し、セル(区画)毎に後方散乱による蓄積エネルギー比率を算出する。セル毎の後方散乱による蓄積エネルギー比率Ebpm,nは(2)式で表される。ここで、Eim,nは分割されたセル内における描画パターンが占める割合を表し、EIDi,jは後方散乱による蓄積エネルギー強度分布を、rは後方散乱による蓄積エネルギー比率の計算領域を表している。
【0016】
なお、後方散乱による蓄積エネルギー強度分布EIDi,jは、(3)式に示すようにβbの範囲を持つガウシアン分布で表されており、βbは後方散乱径と呼ばれている。また、分割されたセル内における描画パターンが占める割合Eim,nは、描画パターンデータに基づいて算出されている。
【0017】
【数2】

【0018】
一方、可変面積型電子ビーム描画装置では、描画前に、描画に用いる電子ビームのサイズや、電子ビームのフォーカス状態を測定し、その測定結果に基づいて電子ビームの調整を行なっている。図10はこのような電子ビームの測定に用いられる装置の構成例を示す図である。
【0019】
図中50は、測定される電子ビームである。電子ビーム50は図示していないが、2枚の矩形スリットと、2枚の矩形スリットの間に設けられた偏向器によって断面が矩形に形成されている。電子ビーム50は、最終段レンズ51によって集束され、更に静電偏向器52によって偏向される。偏向器52の下部には、ナイフエッジ部材53が配置されているが、ナイフエッジ部材53は矩形の開口が設けられており、その各内側は薄く直線状に形成されている。
【0020】
ナイフエッジ53の下部には、散乱された電子ビームをカットするアパーチャ54が設けられ、更にその下部には、電子ビームの電流量を検出するファラデーカップ55が配置されている。
【0021】
このような構成において、矩形の電子ビーム50を偏向器52で走査すると、電子ビーム50は、徐々にナイフエッジ部材53によって遮断され、ファラデーカップ55に入射する電子ビームの量は減少する。電子ビーム50がナイフエッジ部材53によって完全に遮断されると、ファラデーカップ55の検出電流はゼロとなる。
【0022】
図11(a)はファラデーカップ55の検出電流を示しており、この検出電流を1回微分すると、図11(b)の信号が得られる。この1次微分信号のn個のデータAi(iは走査位置,i=1,2,…,n)と、aがビームサイズの1/2、bがビーム位置、c1が第1スリットのフォーカス情報、c2が第2スリットのフォーカス情報である次の評価関数
Fi=(a,b,c1,c2)
=Tanh{(i+a−b)/c1}−Tanh{(i−a−b)/c2}とを用いて、データAiと評価関数Fiとの差分の2乗和が最小となるパラメータa,b,c1,c2を決定することで、ビームサイズとフォーカス情報とを求めている。
【0023】
しかしながら、上述したように、描画に用いる電子ビームのサイズを調整しているにも関わらず、目標設計値に合わせるために描画で用いる電子ビームのサイズを変えて描画する場合がある。例えば、フォトマスク製造工程においては、描画材料10上に形成されたレジスト膜に対して所定のパターンを電子ビームにより描画する。そして、その描画材料は、ベーク(加熱のこと)、現像、エッチング等のプロセス処理を経る。
【0024】
このように、電子ビームにより描画されたパターンは、プロセス処理を経ることで形成されるため、プロセス処理の影響を受け、実際に仕上がったパターンサイズと目標設計値とにずれが生じる場合があり、このパターン寸法のずれを補正する。
【0025】
この場合、成形偏向器7(図8参照)の強度を調整して、電子ビームのサイズを意図的に変えて描画する。上述した近接効果補正では、描画パターンの疎密に応じて変化する後方散乱による蓄積エネルギー比率を、描画パターンデータを基に算出し、近接効果補正演算を行なう。
【0026】
しかしながら、電子ビームのサイズを意図的に変えて描画しているため、描画パターンデータを基に後方散乱による蓄積エネルギー比率を算出してしまうと、算出される後方散乱による蓄積エネルギー比率に電子ビームのサイズの変化量が含まれていないため、算出される後方散乱による蓄積エネルギー比率が正しくなく、誤差を含んでいる。
【0027】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、電子ビームのサイズの変化量を含めた後方散乱による蓄積エネルギー比率を算出することができるので、より高精度に近接効果補正が実施できる電子ビーム描画方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
加速電圧50kVの電子ビームを用いる可変面積型電子ビーム描画装置においては、後方散乱による蓄積エネルギーの影響によって生じるパターン寸法誤差を、照射量(照射時間)を調整することによって補正している。この補正は近接効果補正と呼ばれる。近接効果補正では、後方散乱による蓄積エネルギーの影響を見積もるために、描画するパターン上を均一な大きさの格子状に分割し、分割されたセル(区画)毎に蓄積エネルギー比率を算出している。
【0029】
上記課題を解決するため本発明は以下のような構成をとっている。
【0030】
(1)請求項1記載の発明は、荷電粒子ビームを用いて被描画材料に所定のパターンを描画すると共に、描画領域を分割し、分割された領域に含まれる描画パターンの占める割合から当該領域内における近接効果補正量を算出し、該補正量を考慮した荷電粒子ビームをショットし、所望のパターンを描画するようにした荷電粒子ビーム描画方法において、前記分割された領域に含まれる描画パターンをショット単位に分割し、該ショット単位の描画パターンについてショット単位の描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理し、該リサイズ処理したショット単位毎の描画パターンに基づき近接効果補正量を算出する近接効果補正量算出工程と、前記近接効果補正量算出工程からの補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間を制御すると共に、前記リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて荷電粒子ビームのサイズ及び位置を制御して、所望のパターンを描画する描画工程とを備えたことを特徴とする。
【0031】
(2)請求項2記載の発明は、前記描画工程は、前記近接効果補正量算出工程からの補正値に基づいて荷電粒子ビームのショット時間を制御すると共に、前記近接効果補正量算出工程内のショット単位の描画パターンに基づいてショット単位の描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて荷電粒子ビームのサイズ及び位置を制御して、所望のパターンを描画することを特徴とする。
【0032】
(3)請求項3記載の発明は、前記リサイズ値は、荷電粒子ビームを用いて所望のパターンを描画した被描画材料を、ベーク又は現像又はエッチングをすることにより、実際に仕上がったパターンサイズと設計上のパターンサイズとの差であることを特徴とする。
【0033】
(4)請求項4記載の発明は、前記リサイズ値は、X方向のリサイズ値とY方向のリサイズ値を持ち、描画されるパターンのX方向及びY方向のサイズに応じた値であることを特徴とする。
【0034】
(5)請求項5記載の発明は、前記リサイズ値は、予めメモリに記憶されることを特徴とする。
【0035】
(6)請求項6記載の発明は、荷電粒子ビームを用いて被描画材料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、荷電粒子ビームを発生する荷電粒子ビーム発生手段と、該荷電粒子ビーム発生手段からの荷電粒子ビームの照射をオン/オフするためのブランキング手段と、該荷電粒子ビームを成形ビームに形成するビーム成形偏向手段と、該成形ビームを被描画材料上の所望の位置に調整するビーム位置決め偏向手段と、描画領域を分割し、分割された領域に含まれる描画パターンの占める割合から当該領域内における近接効果補正量を算出する近接効果補正量算出手段とを具備した荷電粒子ビーム描画装置において、該近接効果補正量算出手段は、分割された領域に含まれる描画パターンをショット単位の描画パターンに分割する描画パターン分割手段と、該ショット単位の描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理するリサイズ処理手段を含み、該リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づき近接効果補正量算出手段で算出した補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間をブランキング手段で制御し、前記リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて、前記成形偏向手段で荷電粒子ビームのサイズを制御し、前記ビーム位置決め偏向器手段で荷電粒子ビームの位置を制御することを特徴とする。
【0036】
(7)請求項7記載の発明は、前記近接効果補正量算出手段の描画パターン分割手段からのショット単位の描画パターンに基づいて、該描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理するリサイズ処理手段を前記成形偏向手段側に備え、前記近接効果補正量算出手段で算出した補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間をブランキング手段で制御し、該リサイズ処理手段からの出力に基づいて前記成形偏向手段で荷電粒子ビームのサイズを制御し、かつ前記ビーム位置決め偏向手段で荷電粒子ビームの位置を制御することを特徴とする。
【0037】
(8)請求項8記載の発明は、前記リサイズ処理手段は、メモリに接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明は以下に示すような効果を有する。
【0039】
(1)請求項1記載の発明によれば、リサイズ処理したショット単位毎の描画パターンに基づき近接効果補正量を算出する近接効果補正量算出工程と、前記近接効果補正量算出工程からの補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間を制御すると共に、前記リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて荷電粒子ビームのサイズ及び位置を制御して、所望のパターンを描画する描画工程とを備えることにより、近接効果補正を正確に行ったビーム描画を行なうことができる。
【0040】
(2)請求項2記載の発明によれば、近接効果補正量算出工程内のショット単位の描画パターンに基づいてショット単位の描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて荷電粒子ビームのサイズ及び位置を制御することで、正確な描画を行なうことができる。
【0041】
(3)請求項3記載の発明によれば、前記リサイズ値として、荷電粒子ビームを用いて所望のパターンを描画した被描画材料を、ベーク又は現像又はエッチングをすることにより、実際に仕上がったパターンサイズと設計上のパターンサイズとの差を用いることで、正確なビーム描画を行なうことができる。
【0042】
(4)請求項4記載の発明によれば、リサイズ値としてXY2次元方向の値を用いることで、2次元方向の描画を正確に行なうことができる。
【0043】
(5)請求項5記載の発明によれば、リサイズ値を予めメモリに記憶させておくことにより、近接効果補正を求める時に効率的なリサイズ処理を行なうことができる。
【0044】
(6)請求項6記載の発明によれば、リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づき近接効果補正量算出手段で算出した補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間をブランキング手段で制御し、前記リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて、前記成形偏向手段で荷電粒子ビームのサイズを制御し、前記ビーム位置決め偏向器手段で荷電粒子ビームの位置を制御することことで、近接効果補正を正確に行ったビーム描画を行なうことができる。
【0045】
(7)請求項7記載の発明によれば、近接効果補正量算出手段で算出した補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間をブランキング手段で制御し、該リサイズ処理手段からの出力に基づいて前記成形偏向手段で荷電粒子ビームのサイズを制御し、かつ前記ビーム位置決め偏向手段で荷電粒子ビームの位置を制御することで、正確なビーム描画を行なうことができる。
【0046】
(8)請求項8記載の発明によれば、リサイズ処理手段がメモリに接続されていることにより、メモリに記憶されているリサイズ値を速やかに読み出し、近接効果補正を求める時に効率的なリサイズ処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】図形パターンの線幅寸法の変化量を求める基本パターンの一例を示す図である。
【図3】ビーム寸法Xのリサイズ量とビーム寸法Yのリサイズ量からなるデータテーブルを示す図である。
【図4】分割描画パターンを示す図である。
【図5】分割描画パターンを示す図である。
【図6】描画の例を示す図である。
【図7】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図8】可変面積型電子ビーム描画装置の一例を示す図である。
【図9】描画パターンを示す図である。
【図10】電子ビームの測定に用いられる装置の構成例を示す図である。
【図11】ファラデーカップの検出電流とその微分波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。本発明は手て近接効果補正回路内にショット単位に分割された描画パターンのサイズを予め決められたリサイズ値でリサイズ処理する手段を設けた荷電粒子ビーム描画方法及び装置である。図1は本発明の一実施例を示す構成図であり、可変面積型電子ビーム描画装置を示している。図8に示す電子ビーム描画装置の構成と同一のものは、同一の符号を付して示す。図1において、図8と異なる部分は、データ転送回路20からビーム図形分割処理回路23を無くし、近接効果補正回路40内にビーム図形分割処理回路23aとリサイズ処理回路60とメモリ61を設けた点である。
【0049】
近接効果補正回路40内のビーム図形分割処理回路23aは、制御CPU30からのパターンデータを受けて描画パターンをショート単位毎(以下ビーム図形と称する)に分割処理し、リサイズ処理回路60に出力する。該リサイズ処理回路60は、前記ビーム図形分割処理回路23aからの出力を受けて、メモリ61からビーム図形毎の寸法に応じてリサイズ値を読み込んで、このリサイズ値に基づいてリサイズ処理して、蓄積エネルギー比率演算回路41とソーティング処理回路24に出力する。前記メモリ61には、測定で得られたビーム図形のビーム寸法Xとビーム寸法Yに対応した各々のリサイズ値が記憶されている。
【0050】
このように構成された可変面積型電子ビーム描画装置において、先ず描画後のベーク、現像、エッチング等のプロセス処理によって変化する図形パターンの線幅寸法の変化量を求める。図2に図形パターンの線幅寸法の変化量を求める基本パターンPの一例を示す。この基本パターンは、X方向とY方向の寸法が異なる矩形パターンが並んで配置され、図中の基本パターンPは、例えばX方向とY方向の寸法が各々200nm、600nm、1000nmと異なる9個の矩形パターンから構成されている。
【0051】
このような基本パターンPを可変面積型電子ビーム描画装置の成形偏向器7の制御信号と位置決め偏向器11の制御信号を可変させてマトリクス状に描画させた描画材料10をベーク、現像処理などのプロセス処理して評価パターンを作製する。該評価パターン内のそれぞれの矩形パターンのX方向とY方向の線幅寸法をCD−SEMなどの測長装置で計測する。
【0052】
そして、この矩形パターンを計測した寸法X,Yと各パターンの設計寸法との差分が各ビーム図形のリサイズ値Rx,Ryとなる。このリサイズ値Rx,Ryは計測した寸法が設計寸法より大きい場合にはリサイズ値の符号は負となり、計測した寸法が設計寸法よりも小さい場合にはリサイズ値の符号は正となる。
【0053】
ここで、ビーム図形の寸法Xと寸法Yに対応したビーム寸法Xのリサイズ量とビーム寸法Yのリサイズ量からなるデータテーブルを図3に示す。なお、図中に示されたRx11,Ry11,…,Rx33,Ry33には、nm単位のリサイズ値が18個入るが、これ以上多いデータテーブルであってもよい。このようなデータテーブルは、近接効果補正回路40内のリサイズ処理回路60のメモリ61に描画前に事前に格納されているものとする。
【0054】
さて、制御CPU30は、パターンデータディスク18から描画パターンデータを読み出し、近接効果補正回路40内のビーム図形分割処理回路23aに送る。該ビーム図形分割処理回路23aは、送られてきた描画パターンデータを大小の矩形状のビーム図形毎に分割する。なお、可変面積型電子ビーム描画装置では、成形偏向器7によって形成される最大ビーム寸法に制限があるので、最大ビーム寸法以下の成形電子ビームになるように描画パターンを分割する。
【0055】
次にビーム図形分割処理回路23aは、ビーム図形毎に分割された描画分割パターンデータをリサイズ処理回路60に送る。該リサイズ処理回路60は、ビーム図形分割処理回路23aからのビーム図形毎のX,Y寸法に基づいてメモリ61から各リサイズ値をそれぞれ読み込み、該各リサイズ値をビーム図形毎にリサイズ処理する。
【0056】
ここで、ビーム図形毎に分割された描画分割パターンデータをリサイズ処理する一例を示す。図4のP1は大きな矩形描画パターン、P2は小さな矩形描画パターンで、大きな矩形描画パターンをX寸法1000nm及びY寸法1000nmのビーム図形と、矩形パターンP2は、X寸法が600nm、Y寸法が1000nmのビーム図形に分割された分割描画パターンデータである。
【0057】
このような分割描画パターンデータがリサイズ処理回路60に送られると、該リサイズ処理回路60は、分割描画パターン中のビーム図形毎の寸法Xと寸法Yに基づいてメモリ61からそれぞれのリサイズ値を読み込む。例えば1000nm(X)×1000nm(Y)のビーム図形の場合、1000nmのビーム寸法Xに対応したリサイズ量Rx33と、1000nmのビーム寸法Yに対応したリサイズ量Ry33を、600nm(X)×1000nm(Y)のビーム図形の場合、600nmのビーム寸法Xに対応したリサイズ量Rx23と1000nmのビーム寸法Yに対応したリサイズ量Ry23を、メモリ23aからそれぞれ読み込み、1000nm(X)×1000nm(Y)のビーム図形のX寸法とY寸法にリサイズ値Rx33,Ry33を加算し、600nm(X)×1000nm(Y)のビーム図形のX寸法とY寸法にリサイズ値Rx23,Ry23を加算し、図5に示すような分割描画パターンデータのビーム図形を作製する。なお、本実施例の場合、図3中のビーム図形毎のX寸法とY寸法の各々のリサイズ値Rx33,Ry33,Rx23,Ry23の符号は負とする。
【0058】
また、メモリ61内にリサイズ処理回路60からの要求に合ったビーム図形の寸法Xと寸法Yに対応するリサイズ値が記憶されていない場合には、リサイズ処理回路60内の補間演算回路(図示せず)が働き、該補間演算回路は、要求に合ったビーム図形の寸法Xと寸法Yに近い寸法値とリサイズ値を数点読み込み、内挿補間演算や外挿補間演算を行なって、要求に合ったビーム図形の寸法Xと寸法Yに対応するリサイズ値を求め、このリサイズ値を求め、このリサイズ値をリサイズ処理回路60に送るので、このような場合でも分割描画パターンデータのリサイズ処理が行われる。
【0059】
次に、前記リサイズ処理回路60は、前記リサイズ処理された分割描画パターンデータを蓄積エネルギー比率演算回路41とソーティング処理回路24に送る。前記蓄積エネルギー比率演算回路41は、図5に示すビーム図形毎にリサイズされたパターンP1、P2は、図6に示すように均一な大きさの格子状に分割され、セル(区画)毎に後方散乱による蓄積エネルギー比率が算出され、補正演算回路42に送られる。
【0060】
なお、上述したセル毎の後方散乱による蓄積エネルギー比率Ebpm,nの算出は、(2)式で表され、Eim,nは(2)式中の分割されたセル内における描画パターンが占める割合を、rは後方散乱による蓄積エネルギー比率の計算領域を、後方散乱による蓄積エネルギー強度分布EIDi,jは、(3)式で表されている。
【0061】
前記補正演算回路42は、算出された蓄積エネルギー比率を(1)式に代入し、近接効果補正による補正値を算出し、データ転送回路20内の照射時間演算回路21に送る。一方、前記ソーティング処理回路24では、リサイズ処理された描画分割パターンデータに基づいてソーティング処理が行われ、このデータが成形偏向器制御回路13と偏向器制御回路14と、照射時間演算回路21に送られる。
【0062】
すると、前記ソーティング処理回路24の出力データに基づいて成形偏向器制御回路13は、成形偏向器7を制御し、前記ソーティング処理回路24の出力データに基づいて位置決め偏向器制御回路14は位置決め偏向器11を制御し、前記ソーティング処理回路24からの出力データと補正値演算回路42からの出力データに基づいて照射時間演算回路21は照射時間を演算し、この演算結果の照射時間に基づいてブランキング制御回路15はブランカー2aを制御する。
【0063】
このような制御により、電子ビームのサイズの変化量を含めた後方散乱による蓄積エネルギー比率を算出することができるので、より高精度に近接効果補正を行なうことができる。
[実施例2]
図7は本発明の他の実施例を示す構成図である。本発明は、近接効果補正回路内の他に成形偏向器制御回路及び位置決め偏向器制御回路側にリサイズ処理する手段を設けた荷電粒子ビーム描画方法及び装置である。図1,図8と同一のものは、同一の符号を付して示す。図7において、図8の電子ビーム描画装置と異なる点は、データ転送回路20内にビーム図形分割処理回路23bを設け、近接効果補正回路40内のリサイズ処理回路60の接続経路を変え、該リサイズ処理回路60は、ビーム図形分割処理回路23aから入力データを受け、蓄積エネルギー比率演算回路41に出力データを送る接続経路にし、成形偏向器制御回路13及び位置決め偏向器制御回路14とソーティング処理回路24との間にリサイズ処理回路60’を設け、該リサイズ処理回路60’にメモリ61’を接続させた構成にした。
【0064】
そして、メモリ61’内には、メモリ61内のデータ、即ちビーム図形の寸法Xと寸法Yに対応したビーム寸法Xのリサイズ量とビーム寸法Yのリサイズ量からなるデータテーブルが記憶されている。
【0065】
このような構成の可変面積型電子ビーム描画装置において、制御CPU30はパターンデータディスク18から描画パターンデータを読み出し、近接効果補正回路40内のビーム図形分割処理回路23aとデータ転送回路20内のビーム図形分割回路23bに送る。前記近接効果補正回路40内の該ビーム図形分割処理回路23aは、送られてきた描画パターンデータのパターンをビーム図形毎に分割し、リサイズ処理回路60に送る。
【0066】
該リサイズ処理回路60は、ビーム図形毎のビーム寸法Xとビーム寸法Yとに基づいてメモリ61からそれぞれのリサイズ値を読み込み、該各リサイズ値をビーム図形毎のX寸法とY寸法に加算するリサイズ処理し、蓄積エネルギー比率演算回路41に送る。前記蓄積エネルギー比率演算回路41は、ビーム図形毎にリサイズ処理されたパターンを均一な大きさの格子状に分割し、セル(区画)毎に後方散乱による蓄積エネルギー比率を算出し、補正値演算回路42に送る。前記補正値演算回路42は、演算された蓄積エネルギー比率を(1)式に代入して近接効果補正による補正値を求め、データ転送回路20内の照射時間演算回路21に送る。
【0067】
一方、ビーム図形分割処理回路23bでは、制御CPU30から送られてきた描画パターンデータのパターンをビーム図形毎に分割したデータをソーティング処理回路24に送る。該ソーティング処理回路24では、分割されたデータをソーティング処理し、このソーティングデータが照射時間演算回路21とリサイズ処理回路60’に送られる。
【0068】
すると、分割されたショット単位の描画パターンに基づいてリサイズ処理回路60’は、メモリ61’からビーム図形のサイズに応じて予め決められているリサイズ値を読み込み、ビーム図形毎にリサイズ処理し、成形偏向器制御回路13と位置決め偏向器制御回路14に送る。前記ショット単位の描画パターンに基づいて該成形偏向器制御回路13は、成形偏向器7を制御し、該位置決め偏向器制御回路14は、位置決め偏向器11を制御する。
【0069】
また、前記ソーティング処理回路24からの出力データに基づいて位置決め偏向器制御回路14は位置決め偏向器11を制御し、前記ソーティング処理回路24からの出力データと補正値演算回路42からの出力データに基づいて照射時間演算回路21は照射時間を演算し、この演算結果の照射時間に基づいてブランキング制御回路15はブランカー2aを制御する。このような制御により、電子ビームのサイズの変化量を含めた後方散乱による蓄積エネルギー比率を算出することができるので、より高精度に近接効果補正を行なうことができる。
【0070】
なお、前記実施例2の位置決め偏向器制御回路14は、1ショットの描画パターンの中心をビームの位置決めの原点として設定してもよい。この場合、位置決め偏向器制御回路14の入力データは、リサイズ処理回路60’からの出力データではなく、ソーティング処理回路24からの出力データを受ける接続経路にしなければならない。
【0071】
また、前記実施例2は、制御CPU30の出力を近接効果補正回路40のビーム図形分割処理回路23aとデータ転送回路20のビーム図形処理回路23bに送る接続経路で説明したが、制御CPU30の出力を近接効果補正回路40のビーム図形分割処理回路23aに送り、該ビーム図形分割処理回路23aの出力をリサイズ処理回路60とデータ転送回路20のソーティング処理回路24に送る接続経路にしてもよい。
【0072】
本発明の効果は以下の通りである。描画に用いられる電子ビームのサイズが意図的に変更された場合においても、電子ビームのサイズの変化量を含めた後方散乱による蓄積エネルギー比率を演算することで、より高精度に近接効果補正を適用することができる電子ビーム描画装置を実現することができ、より高精度の描画が可能となる。
【0073】
また、本発明により、描画に用いられる電子ビームのサイズを意図的に大きくずらすことも可能となり、ベーク,現像,エッチング等のプロセス処理を経たパターン寸法を制御することが容易となる。
【符号の説明】
【0074】
1 電子銃
2 電子ビーム
3 照射レンズ
4 第1成形アパーチャ
5 成形レンズ
6 第2成形アパーチャ
7 成形偏向器
8 縮小レンズ
9 対物レンズ
10 被描画材料
11 位置決め偏向器
12 ステージ
13 成形偏向器制御回路
14 位置決め偏向器制御回路
15 ブランキング制御回路
16 ステージ駆動回路
17 ステージ駆動制御回路
18 パターンデータディスク
20 データ転送回路
21 照射時間演算回路
22 その他補正回路
23a ビーム図形分割処理回路
24 ソーティング処理回路
40 近接効果補正回路
41 蓄積エネルギー比率演算回路
42 補正値演算回路
60 リサイズ処理回路
61 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを用いて被描画材料に所定のパターンを描画すると共に、描画領域を分割し、分割された領域に含まれる描画パターンの占める割合から当該領域内における近接効果補正量を算出し、該補正量を考慮した荷電粒子ビームをショットし、所望のパターンを描画するようにした荷電粒子ビーム描画方法において、
前記分割された領域に含まれる描画パターンをショット単位に分割し、
該ショット単位の描画パターンについて
ショット単位の描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理し、
該リサイズ処理したショット単位毎の描画パターンに基づき近接効果補正量を算出する近接効果補正量算出工程と、
前記近接効果補正量算出工程からの補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間を制御すると共に、
前記リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて荷電粒子ビームのサイズ及び位置を制御して、所望のパターンを描画する描画工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記描画工程は、
前記近接効果補正量算出工程からの補正値に基づいて荷電粒子ビームのショット時間を制御すると共に、
前記近接効果補正量算出工程内のショット単位の描画パターンに基づいてショット単位の描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて荷電粒子ビームのサイズ及び位置を制御して、所望のパターンを描画することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記リサイズ値は、荷電粒子ビームを用いて所望のパターンを描画した被描画材料を、ベーク又は現像又はエッチングをすることにより、実際に仕上がったパターンサイズと設計上のパターンサイズとの差であることを特徴とする請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記リサイズ値は、X方向のリサイズ値とY方向のリサイズ値を持ち、描画されるパターンのX方向及びY方向のサイズに応じた値であることを特徴とする請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記リサイズ値は、予めメモリに記憶されることを特徴とする請求項1又は2記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項6】
荷電粒子ビームを用いて被描画材料に所定のパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、
荷電粒子ビームを発生する荷電粒子ビーム発生手段と、
該荷電粒子ビーム発生手段からの荷電粒子ビームの照射をオン/オフするためのブランキング手段と、
該荷電粒子ビームを成形ビームに形成するビーム成形偏向手段と、
該成形ビームを被描画材料上の所望の位置に調整するビーム位置決め偏向手段と、
描画領域を分割し、
分割された領域に含まれる描画パターンの占める割合から当該領域内における近接効果補正量を算出する近接効果補正量算出手段とを具備した荷電粒子ビーム描画装置において、
該近接効果補正量算出手段は、
分割された領域に含まれる描画パターンをショット単位の描画パターンに分割する描画パターン分割手段と、
該ショット単位の描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理するリサイズ処理手段を含み、
該リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づき近接効果補正量算出手段で算出した補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間をブランキング手段で制御し、前記リサイズ処理したショット単位の描画パターンに基づいて、前記成形偏向手段で荷電粒子ビームのサイズを制御し、前記ビーム位置決め偏向器手段で荷電粒子ビームの位置を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項7】
前記近接効果補正量算出手段の描画パターン分割手段からのショット単位の描画パターンに基づいて、該描画パターンのサイズに応じて予め決められているリサイズ値でリサイズ処理するリサイズ処理手段を前記成形偏向手段側に備え、
前記近接効果補正量算出手段で算出した補正量に基づいて荷電粒子ビームのショット時間をブランキング手段で制御し、
該リサイズ処理手段からの出力に基づいて前記成形偏向手段で荷電粒子ビームのサイズを制御し、かつ前記ビーム位置決め偏向手段で荷電粒子ビームの位置を制御することを特徴とする請求項6記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項8】
前記リサイズ処理手段は、メモリに接続されていることを特徴とする請求項6又は7記載の荷電粒子ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−19066(P2012−19066A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155528(P2010−155528)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】