説明

荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム出射方法

【課題】荷電粒子ビームの進行方向において荷電粒子ビームの誤照射を防止できる荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【解決手段】RMWを回転方向において分割して形成される複数の角度領域のうち目標線量に達した角度領域へのイオンビームの供給を停止しその目標線量に到達していない他の角度領域にイオンビームを供給することにある。このため、患部内のイオンビーム進行方向における各位置に対する照射線量を容易に調節することができ、患部内のイオン進行方向における各位置において照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム出射方法に係り、特に、陽子及び炭素イオン等のイオンビームを患部に照射して治療する粒子線治療装置に適用するのに好適な荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム出射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子及び炭素イオン等のイオンビーム(荷電粒子ビーム)を照射する治療方法が知られている。この治療に用いるイオンビーム照射システムは、円形加速器、ビーム輸送系、及び例えば照射野形成装置有する回転式の照射装置を備えている。円形加速器は、周回軌道に沿って周回するイオンビームを目標のエネルギーまで加速させる。目標のエネルギーまで加速されたイオンビームは、ビーム輸送系を経て照射野形成装置に輸送させる。照射野形成装置は、患者の患部形状に形成したイオンビームを出射する。円形加速器としては、例えば、イオンビームを周回軌道に沿って周回させる手段、共鳴の安定限界の外側でイオンビームのベータトロン振動を共鳴状態にする手段、及びイオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクタを備えたシンクロトロンが知られている。
【0003】
イオンビームを用いた治療においては、イオンが停止する直前にエネルギーの大部分が放出してブラッグカーブと呼ばれる線量分布を形成する特性と、そのブラッグカーブのピークであるブラッグピークの、深さ方向での位置は体内に入射するイオンビームのエネルギーの大きさで制御できる特性を利用し、イオンビームのエネルギーを適切に選択し、イオンビームを患部近傍で停止させてエネルギーの大部分を患部のがん細胞に与えるようにしている。
【0004】
ここで、ブラッグピークの、深さ方向(すなわちビームの進行方向)での幅は数mmである。通常、患部は深さ方向にそれ以上の厚みをもっている。このような患部において患部全体の深さ方向に渡ってイオンビームを効果的に照射するには、深さ方向で患部大の広い平坦な線量分布を形成するように、イオンビームのエネルギー(ビームエネルギー)とイオンビーム照射量を制御しなければならない。
【0005】
このような観点から、従来のイオンビーム照射システムは、レンジモジュレーションホイール(Range Modulation Wheel、以下、RMWという。)を照射野形成装置に設置している(例えば、非特許文献1)。RMWは、周方向に段階的に軸方向の厚みが増大し減少する楔型形状となっているエネルギー吸収体(羽根)を複数枚配置した構成を有する。RMWは、照射野形成装置内のビーム経路に配置され、ビーム経路と垂直な面内で回転する。例えば、RMWが回転している状態において、羽根の薄い部分をイオンビームが通過したときはビームエネルギーの減衰が少なく、ブラッグピークが体内深くに生じ、羽根の厚い部分をイオンビームが通過したときは、ビームエネルギーが大きく減衰されてブラッグピークが体表面近くの浅い部分で生じる。また、RMWの回転により、ブラッグピーク位置の変動が周期的に行われる結果、時間積分で見ると、体表面近くから体内深くまで至る広く平坦な線量分布(Spread Out Bragg Peak:SOBP)を得ることができる。
【0006】
【非特許文献1】REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS (1993年8月;図30)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来手法では、以下のような課題が存在する。
【0008】
すなわち、患者により体格、患部の大きさ、患部の体表面からの位置もそれぞれ異なる。さらには、同一患者であっても治療の進捗によりそれらは変化する。このため、治療に最適な線量分布は患者および当該患者の治療回数等によってそれぞれ異なる。しかし、RMWの構成は入射するイオンビームのエネルギーに対応して楔形形状のエネルギー吸収体の形状が最適化されてるため、ひとつのRMWからひとつの線量分布しか得られない。このため、患部の大きさごとに異なるRMWを作成して用意し、患部の大きさが変わるたびにRMWを取り替えて使用する必要があり、多数の患者を円滑に治療するのが困難であった。
【0009】
本発明の目的は、荷電粒子ビームの進行方向において荷電粒子ビームの誤照射の確率を低減できる荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、加速装置から出射された荷電粒子ビームを、回転可能で、軸方向の厚みが回転方向において異なるエネルギー調整装置に供給し、
このエネルギー調整装置の回転角度及びエネルギー調整装置を透過した荷電粒子ビームの線量に基づいて、加速装置からの荷電粒子ビームの出射開始及び出射停止を制御することにある。
【0011】
また、本発明の特徴は、加速装置から出射された荷電粒子ビームを、回転可能で、軸方向の厚みが回転方向において異なるエネルギー調整装置に供給し、
このエネルギー調整装置を回転方向において分割して形成される複数の領域のうち目標線量に達した前記領域への荷電粒子ビームの供給を停止し、前記目標線量に到達していない他の前記領域に荷電粒子ビームを供給することにあるとも言える。
【0012】
本発明は、回転方向において分割して形成される複数の領域のうち目標線量に達した前記領域への荷電粒子ビームの供給を停止し、前記目標線量に到達していない他の前記領域に荷電粒子ビームを供給するので、照射対象内の荷電粒子ビーム進行方向における各位置に対する照射線量を容易に調節することができる。このため、照射対象内の荷電粒子進行方向における各位置において照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減することができる。すなわち、したがって、本発明は、照射対象内の荷電粒子進行方向における線量分布を所望の線量分布に容易に調節することができる。好ましくは、その確率を0にすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、照射対象内の荷電粒子進行方向における各位置において照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減することができる。このため、照射対象内の荷電粒子進行方向における線量分布を所望の線量分布に容易に調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用い詳細に説明する。
(実施形態1)
図1に示すように、本実施形態の粒子線治療装置(イオンビーム照射システム)は、治療ベッド217に固定された患者216の患部216aに対してイオンビーム(例えば陽子線)を照射するものであり、イオンビーム発生装置(陽子線発生装置、粒子線発生装置)1、中央制御装置100、照射野形成装置200、照射制御システム300を備える。
【0015】
中央制御装置100は、治療計画装置102で決められる患者216の患部216aに適切な照射野を形成するための照射条件(ビーム照射方向、SOBP幅、照射線量、最大照射深さ、照射野サイズ等)を読み込み、機器の種類、設置位置、設置角度、ビームエネルギー、ビーム強度パターン、ビーム照射量の目標値等の運転パラメータを選択するものである。中央制御装置100は、メモリ101を備え、図7に示す情報をメモリ101に保存する。メモリ101に記録された情報を基に、各機器は照射野形成装置200に設置され、運転パラメータはイオンビーム発生装置1、照射制御システム300に設定される。
【0016】
イオンビーム発生装置1は、所定のビームエネルギーのイオンビームを発生させるための装置であり、イオン源2、前段加速器3、低エネルギービーム輸送系4及びシンクロトロン5を備える。
【0017】
イオン源2で生成されたイオンビームは、前段加速器3で前段加速され、低エネルギービーム輸送系4を通ってシンクロトロン5に供給される。
【0018】
シンクロトロン5は、図1に示すように、その周回軌道上に加速装置6、出射用の高周波印加装置7、出射用デフレクタ12、4極電磁石(図示せず)及び偏向電磁石17を備える。高周波印加装置7は、出射用の高周波印加電極(図示せず)を備える。高周波印加装置7が出射用の高周波供給装置18に接続される。高周波供給装置18は出射用の高周波電源9、信号合成装置10、ビームON/OFFスイッチ(開閉装置)11、照射完了用スイッチ15及びインターロック用スイッチ16を備える。高周波電源9が、信号合成装置10、ビームON/OFFスイッチ11、照射完了用スイッチ及びインターロック用スイッチをこの順序で介して高周波印加装置7の高周波印加電源に接続される。高周波印加装置7は、閉じられているインターロック用スイッチ、照射完了用スイッチ及びビームON/OFFスイッチ11の各スイッチと、信号合成装置10を介して高周波電源9から高周波電力の供給を受ける。シンクロトロン5の周回軌道を周回するイオンビームは、加速装置6に設けられた高周波加速空胴(図示せず)に高周波を印加することによって加速される。所望のエネルギー(例えば50〜250MeV)までイオンビームが加速された後、高周波電源9からの高周波電力が、高周波印加電極によりシンクロトロン5内を周回しているイオンビームに印加されたとき、イオンビームがシンクロトロン5から出射される。
【0019】
高エネルギービーム輸送系13は、シンクロトロン5と照射野形成装置200を連絡し、回転ガントリー14にも一部設置されている。シンクロトロン5から取り出されたイオンビームは、高エネルギービーム輸送系13を介して回転ガントリー14に設置された照射野形成装置200まで導かれる。回転ガントリー14の回転角度を調整することで、患者216に対して所望の方向からイオンビームを照射することが可能である。
【0020】
図2を用い、照射野形成装置200の詳細を説明する。照射野形成装置200は、イオンビーム発生装置1により生成されたイオンビームを、患者216の患部216aの形状に合わせて整形する装置である。照射野形成装置200は、ケーシング201を備え、ケーシング201内に、RMWレンジモジュレーションホイール保持部材203を介して取り付けられたRMW202、第1散乱体保持部材207を介して取り付けられた第1散乱体206、第2散乱体保持部材209を介して取り付けられた第2散乱体208、レンジシフタ保持部材211を介して取り付けられたレンジシフタ210、線量モニタ保持部材213を介して取り付けられた線量モニタ212、ボーラス214、コリメータ215を備える。
【0021】
RMW装置222は、時間的にブラッグピークを走査して患部216aの深さ方向に広く一様な線量分布を形成するエネルギー調整装置である。RMW装置222は、RMW202、RMW保持部材203およびRMW回転駆動装置204を有する。RMW202は、エネルギー損失に対してビーム散乱各の小さな物質(原子番号の小さな物質、例えば、樹脂)で構成される。RMW保持部材203は、ビーム軸の方向に対向して設けられる一対の保持部203aを有し、ケーシング201の内部に取り付けられる。保持部203aの上部および下部にはそれぞれ回転部材(図示せず)が回転可能に設けられている。RMW202は、それらの回転部材間に挿入され、RMW202の回転軸223(図5)が回転部材に連結されてRMW保持部材203に支持される。RMW202は、RMW保持部材203に着脱可能に取り付けられるため、容易に交換可能となる。RMW保持部材203は、ビーム経路をさえぎらない位置に配置される。RMW回転駆動装置204が、下方の保持部203aに設けられ、RMW202を回転させる。下方の保持部203aに、角度計205が設けられている。角度計205は、照射制御システム300に設けられた領域判定装置301(図3)に接続される。角度計205は、RMW202の回転角度(回転位相)を検出する。
【0022】
RMW202の詳細構成を図5に示す。RMW202は、回転軸223及び回転軸223に取り付けられRMW202の半径方向に伸びた複数の羽根202a(本実施形態では3枚)を有している。また、RMW202の周方向において隣り合う羽根202aの間には、それぞれ開口が形成されている。1つのRMW202には3つの開口が存在している。各羽根202aは、RMW202の周方向において階段状に配置された複数の平面領域を有しており、軸方向におけるRMW202の底面から各平面領域までの各厚みが異なっている。羽根202aは、周方向において羽根202aの両側に位置する開口から、軸方向において最も高い位置にある平面領域に向かって軸方向の厚みが段階的に増加するように形成されている。RMW202は、各平面領域までの厚みの違いに起因したイオンビームの散乱量の違いを補償するため、散乱補償体を取り付けてもよい。RMW202は、イオンビーム出射中に回転するので、回転角度に応じてイオンビームが通過する部分の厚みが変化する。これにより、RMW202通過後のビームエネルギーが変化し、それぞれのビームエネルギーに対応した異なる深さにブラッグピークを形成する。このように、時間的にブラッグピークを走査することで、患部216a内の所望の深さの広い領域に平坦な照射野を形成できる。本実施例では、RMW202は、RMW202の回転方向において階段状に配置された複数の変面領域を有した複数の羽根202aを備える構成となっているが、軸方向の厚みが回転方向において異なる構成であればよい。
【0023】
第1散乱体206は、物質によるイオンの散乱現象によりイオンビームの進行方向と直交する方向(以下、直交方向という)にイオンビームを広げるためのものである。散乱によりほぼガウス分布にビームは広げられる。第1散乱体206は、一般に散乱量に対するエネルギー損失が少ない鉛やタングステン等の原子番号の大きい物質によって構成される。この第1散乱体206は、複数の物質の混合物でもよく、厚みの異なる複数の板部材を重ねて構成し、イオンビーム進行方向の合計厚みを変化させることも可能である。第1散乱体206は、RMW202の下流側に配置されるが、それよりも上流側に配置することも可能である。RMW202と第1散乱体206を一体化してもよい。また、RMW202に、羽根202aの厚みの差によるビーム散乱量を補償するために角度毎に厚みの異なる散乱補償体を取り付けてもよい。
【0024】
第2散乱体208は、第1散乱体206により広げられたイオンビームから、広く一様な線量分布を形成するためのものである。第2散乱体208は、円盤部208aとその外周側に設けられるリング部208bを有する。円盤部208aはイオンビーム通過時のエネルギー損失に対してビーム散乱角の大きい物質(原子番号の大きな物質、例えば鉛、タングステン等)によって構成され、リング部208bはエネルギー損失に対してビーム散乱角の小さい物質(原子番号の小さな物質、例えば樹脂)から構成される。また、両者の厚みは通常イオンビームが入射した際のエネルギー損失量がほぼ等しくなるように構成なっているので、リング部208bのほうが通常は厚くなる。第1散乱体206によって拡大されたイオンビームが円盤部208aとリング部208bに入射すると、円盤部208aに入射したイオンビームはリング部208bに入射したものと比べてより拡大されるので、直交方向に広い領域に渡って一様な分布を形成できる。なお、第2散乱体208は、上記した2重リング構造に代えて、リング数のより多い構造や、径方向に厚み寸法を滑らかに変化する構造等にしても良い。
【0025】
レンジシフタ210は、イオンビームの最大飛程を患部216aの最大深さと一致させるものである。レンジシフタ210はエネルギー損失に対してビーム散乱角の小さい物質(原子番号の小さな物質、例えば樹脂)から構成される。イオンビームがレンジシフタ210を通過するとエネルギーを失うので、イオンビームの最大飛程を減らすことができる。これにより、イオンビームの最大飛程を患部216aと一致させることができる。レンジシフタ210は、厚みの異なる複数の板部材を重ねて構成し、板部材の組み合わせによりイオンビーム進行方向の合計厚みを変化させことも可能である。また、レンジシフタ210を用いず、シンクロトロン5によるイオンビームの加速エネルギーを減らす、あるいは、高エネルギービーム輸送系13でイオンビームのエネルギーを損失させても良い。これにより、イオンビームがレンジシフタ210を通過する際に生成する中性子を削減する効果がある。
【0026】
上記の過程を経て、直交方向と深さ方向に拡大されたイオンビームは線量モニタ212に入射し、その通過量が計測される。線量モニタ212をビーム下流側に配置すると、より患部216aに照射する直前のイオンビーム通過量を計測できる。線量モニタ212をビーム上流側、例えば、RMW202、レンジシフタ210など、イオンビームのエネルギーを変化させる機器の上流に配置すると、エネルギーの違いによる線量モニタ212からの出力信号の補正計算等の手間を省ける。
【0027】
ボーラス214は、例えば樹脂製のブロック体を掘削加工したものであり、横方向のビーム入射位置に応じてビームの樹脂通過厚が変化する。これにより、イオンビームのボーラス214通過後のエネルギーを入射位置ごとに変化させることが可能で、イオンビームの到達深さを患部216aの深さ方向形状と合致させる。
【0028】
コリメータ215は、放射線遮蔽体によって構成され、患部216aに対応する貫通孔を形成している。コリメータ215は、直交方向に拡大されたビームのうち、その貫通孔を通過したイオンビームのみを患部216aに照射する。
【0029】
ボーラス214とコリメータ215は、通常、患部216aの形状に合わせて加工され、患部216a毎に交換される。コリメータ215としてマルチリーフコリメータを用い、リーフを移動して患部216aの横方向形状に合わせることで、加工、交換の手間を省いてもよい。
【0030】
図3を用いて、照射制御システム300の詳細を説明する。
【0031】
照射制御システム300は、所望の照射野を形成するために、RMW202の角度領域毎にビーム通過量を管理する。角度領域は、RMW202を周方向において複数に分割して形成される一つの領域である。すなわち、RMW202は、周方向において複数の角度領域(具体的には、多数の角度領域)を形成している。照射制御システム300は、領域判定装置301、振り分け装置303、開閉信号生成装置307、照射完了信号生成装置309、インターロック信号生成装置310、メモリ(目標値メモリ)305、カウンタ(例えば、マルチチャンネルカウンタ)304、及びメモリ(照射中領域メモリ)311を備える。
【0032】
領域判定装置301はメモリ(領域判定装置メモリ)302を備える。領域判定装置301が、中央制御装置100、角度計205及びメモリ311にそれぞれ接続されている。
【0033】
振り分け装置303は、メモリ311、線量モニタ212及びカウンタ304にそれぞれ接続されている。開閉信号生成装置307は、メモリ311、カウンタ304、メモリ305及びビームON/OFFスイッチ11にそれぞれ接続される。照射完了信号生成装置309は、カウンタ304、メモリ305及び中央制御装置100にそれぞれ接続されている。インターロック信号生成装置310は、カウンタ304、メモリ305及び中央制御装置100にそれぞれ接続されている。カウンタ304は、カウンタ1からカウンタNまでのN個のカウンタ及びカウンタSの合計(N+1)個のカウンタを含んでいる。N個のカウンタ(カウンタ304−1ないしカウンタ304−N)は、それぞれ、振り分け装置303を介して線量モニタ212に接続される。カウンタ304−Sは、振り分け装置303を介さずに線量モニタ212に接続される。
【0034】
図4を用い、照射制御システム300を中心に、本実施形態を構成する個々の装置の役割と、互いの関係について説明する。
【0035】
中央制御装置100によりビーム照射開始信号が生成されると、シンクロトロン5、領域判定装置301、振り分け装置303、開閉信号生成装置307、照射完了信号生成装置309、インターロック信号生成装置310がそれぞれの動作を始め、シンクロトロン5からのイオンビームの出射が開始される。
【0036】
まず、中央制御装置100のメモリ101に記憶されている情報のうち図9に示す情報、すなわち、角度領域毎の、目標ビーム照射量(目標値)、その許容値(許容差)、目標ビーム照射量の比率(Ni/NS)、及びその許容値が、照射制御システム300のメモリ305に取込まれる。メモリ305内のメモリ領域306−1,306−2,306−3,306−N,306−S内に、該当する領域番号に対する関連情報(例えば、目標ビーム照射量(目標値)、その許容値等)がそれぞれ記憶されている。
【0037】
領域判定装置301の役割は、角度計205によって計測された回転角度を照射角度領域に変換することである。まず、領域判定装置メモリ302には、選定されたRMW202の回転角度とこれに対応する角度領域(全角度領域の個数をN個とする)が、互いに関係付けられている角度領域の番号(領域番号という)、その角度領域の開始角度、及びその角度領域の終了角度の各情報(図8)を含むデータテーブルとして登録されている。これらの情報は、領域判定装置301によって中央制御装置100のメモリ101から取り込まれる。
【0038】
中央制御装置100のメモリ101は、図7に示すように、領域番号、開始角度、終了角度、目標値、目標値の許容値、比率、比率の許容値、ビーム強度等を記憶する。開始角度及び終了角度は、RMW202の種類によって決定される値である。つまり、領域番号、開始角度及び終了角度は、各角度領域におけるRMW202の回転角度情報を示す。具体的には、領域番号1の角度領域は、RMW202の回転角度が0°〜θ1の領域であり、領域番号Iが、RMW202の回転角度がθi−1〜θiの角度領域であることを示す。図7は、回転角度が360°をひとまとめとしたデータテーブルの例を示したが、RMW202の厚みの変化が周期的であれば一周期に対応する角度でひとまとめにしてもよい。目標値は、ビーム照射量の目標値を示す。つまり、患者毎に選定されたRMW202の各領域番号でのビーム照射量の目標値である。目標値の許容値は、RMW202の各領域番号におけるビーム照射量の目標値の許容値である。比率は、全ビーム照射量と各領域番号でのビーム照射量との比率を示す。比率の許容値は、この比率の許容値である。
【0039】
メモリ101に記憶されている図7に示す各情報は、ある患者に対する治療計画時に、医師が治療計画装置102を用いて作成する情報である。作成された図7に示す各情報は、一旦、メモリ103に蓄えられ、その患者の治療前に中央制御装置100によってメモリ101に取り込まれる。
【0040】
次に、領域判定装置301は、イオンビームを患部216aに照射している間、角度計205から入力されるRMW202の回転角度を、上記データテーブルを用い、イオンビームが通過している角度領域、具体的にはその角度領域の領域番号に変換する(領域番号iに変換したとする)。この領域番号の角度領域(イオンビームが通過している角度領域)を照射角度領域という。照射角度領域は、メモリ(照射領域メモリ)311に記録される。すると、メモリ311には、照射野形成装置200内でビーム経路に位置している角度領域(照射角度領域)が記憶される。角度計205で計測されたRMW202の回転角度を照射角度領域に変換してメモリ311に記憶させる処理は、イオンビームの出射中に繰り返し行なわれる。このため、メモリ311には、常に、ビーム経路に位置している照射角度領域が記憶されている。
【0041】
患者216の体内でのイオンビームの到達深さはRMW202の軸方向における厚みにより決まるので、角度領域とこの角度領域でのRMW202の軸方向での厚みを一致させると、イオンビームの到達深さ毎のイオンビーム照射量の管理が可能となる。しかし、それらは必ずしも一致させなくてもよい。メモリ(領域判定装置メモリ)302に記憶される情報は、図8に示すように、回転角度が360度でひとまとめにしたデータテーブルとしたが、RMW202の厚み変化が周期的であれば一周期に対応した角度でひとまとめにしてもよい。前述の図8に示す情報は、図7に示す情報の一部である。
【0042】
振り分け装置303の役割は、線量モニタ212で逐次計測されるビーム照射量(イオンビーム量)をRMW202の角度領域に対応するカウンタ304に含まれる各カウンタに振り分けることである。まず、メモリ311に記憶された照射角度領域(領域番号i)を読み込む。これを用い対応するカウンタ304−iに線量モニタ212からのビーム照射量を出力する。つまり、カウンタ304−iには領域番号iの照射角度領域に対して計測されたビーム照射量(線量)を積算して記録される。また、線量モニタ212で計測されたビーム出射量の信号は、振り分け装置303を通さずカウンタ304−Sに出力される。これにより、全ての照射角度領域(領域番号1〜N)におけるそれぞれのビーム照射量を独立にカウントできる。全ビーム照射量はカウンタ304−1からカウンタ304−Nまでのカウント値を合計して得ることが可能で、このようにすればカウンタ304−Sを節約できる。また、ビーム照射量をそれぞれのカウンタに記録する方法として、カウンタ304−1からカウンタ304−Nのカウンタにビーム照射量の信号を常に入力し、照射角度領域iと判定された場合、対応するカウンタ304−iのみを計測オンとし、それ以外のカウンタは計測オフとするように、カウンタ304の計測のオン/オフを切り替えてもよい。
【0043】
開閉信号生成装置307の役割は、照射野形成装置200内でビーム経路に位置している角度領域(照射角度領域)の照射済みビーム照射量と目標ビーム照射量(以下、目標値)を比較し、ビームON/OFFスイッチ11を開閉してシンクロトロン5からのビーム出射のON/OFF制御を行うことである。まず、メモリ305から角度領域ごとの目標値を取込む。次に、開閉信号生成装置307はメモリ311から照射角度領域iを取り込んで、その照射角度領域における取込んだ目標値とビーム照射量を比較する。照射済みビーム量が目標値に到達していれば、開閉信号生成装置307は、ビームOFF信号を生成し、このビームOFF信号をビームON/OFFスイッチ11に転送する。これによってビームON/OFFスイッチ11が開き、照射角度領域iでの高周波印加装置7への出射用高周波信号の印加が停止される。シンクロトロン5からのイオンビームの出射が停止される。また、照射済みビーム量が目標値未満であれば、開閉信号生成装置307は、ビームON信号を生成し、このビームON信号をビームON/OFFスイッチ11に転送する。ビームON信号によってビームON/OFFスイッチ11は閉じられ、高周波印加装置7へ出射用高周波信号が印加される。これにより、イオンビームは目標値未満である角度領域のみに照射される。
【0044】
上記のようにメモリ311を設けずに、領域判定装置301によるビーム照射角度領域の判定結果を直接、振り分け装置303、開閉信号生成装置307に入力してもよい。しかし、ビーム経路に位置している照射角度領域の情報を振り分け装置303及び開閉信号生成装置307に入力するためには、動作タイミングを領域判定装置301と合せる必要があり、制御が複雑になる。
【0045】
イオンビームの照射が進むにつれ、目標値のイオンビーム量が各角度領域を通して患部216aに照射される。すると、ノイズ等の原因により偏ってイオンビームが患部216aに照射されることがある。インターロック信号生成装置310の役割は、万が一に備え、患者216を不要なイオンビームの照射から防ぐことある。まず、インターロック信号生成装置310は、メモリ305から各角度領域ごとの目標値と許容値、全領域の目標値と許容値を取込む。なお、メモリ305には予め中央制御装置100から取り込んだ前述した角度領域毎の目標値に加え、全角度領域のビーム照射量目標値、各角度領域と全角度領域の許容値を取込んでおく。次に、カウンタ304から角度領域ごと、全角度領域の照射済みビーム照射量を取り込む。カウンタ304−Sはイオンビームの照射量の総量をカウントする。ゆえに、カウンタ304−iとカウンタ304−Sの比を取ると、領域番号Iの角度領域に照射されたイオンビームの比率を算出できる。カウンタ304−Sのカウント値(つまり全角度領域の照射済みビーム量)が(目標値S+許容値S)の値以下であることを確認し、万が一、(目標値S+許容値S)の値を超えた場合、それはイオンビームの過照射を意味するのでインターロック信号生成装置310はビーム照射停止信号を生成し、生成したビーム照射停止信号を中央制御装置100に転送する。個々の領域についても同様である。また、カウンタ304から得た各角度領域のビーム照射量の比率が目標比率Ri±ΔRi内であることも確認し、もしもこれから外れた場合は、ビーム照射量の各角度領域間での偏りを意味するので、この場合もインターロック信号生成装置310はビーム照射停止信号を生成し、生成したビーム照射停止信号を中央制御装置100に転送する。ビーム照射停止信号を受け取った中央制御装置100は、ビーム出射中止指令を生成し、このビーム出射中止指令(信号線省略)を前述のインターロック用スイッチに出力する。これによって、インターロック用スイッチは開き、高周波電源9から高周波印加電極への高周波電力の供給が停止されてシンクロトロン5からのイオンビームの出射が停止される。カウンタ304から現在のビーム照射量の取込み、ビーム照射量自身とその比率が許容範囲内である確認を繰り返すことで、万一の想定外のイオンビーム照射を防ぐことができる。
【0046】
照射完了信号生成装置309の役割は、全角度領域で目標量のイオンビームが照射されたか判定し、完了した場合は照射完了信号を生成することである。はじめに照射完了信号生成装置309は目標値メモリ305から角度領域ごとの目標値を取り込んでおく。次にカウンタ304から段毎の照射済みビーム量を取込む。そして、角度領域毎に目標値と照射済みビーム量を比較する。もし、全角度領域で目標値に到達すれば照射完了信号生成装置309は照射完了信号を中央制御装置100に出力する。照射完了信号生成装置309は、ビーム照射量が目標値未満の角度領域が少なくとも1つあれば、カウンタ304から照射済みビーム量を取り込んで比較する上記の処理を再度実施する。開閉信号生成装置307により目標値未満の角度領域に対してのみイオンビームが照射されるので、最終的には全領域で目標値のビーム照射量が照射される。照射完了信号を中央制御装置100が受け取ると、ビーム出射完了信号を生成し、この信号を前述の出射完了用スイッチに伝える。ビーム出射完了信号によって出射完了用スイッチが開くため、高周波印加電極への高周波電力の供給が停止されてシンクロトロン5からのイオンビームの出射が停止される。
【0047】
表示装置308は、RMW202の角度領域ごとのビーム照射量と目標値を表示する。表示装置308は、カウンタ304及び中央制御装置100に接続され、角度領域毎の線量(線量モニタ212で計測)カウンタ値、全角度領域のカウンタ値、領域毎の目標値をビーム照射中に逐次表示することで、ビーム照射の進捗を運転者に知らせる。また、照射パラメータ、使用している機器を表示すると、運転者はビーム照射条件を容易に把握できる。また、領域毎のイオンビーム照射量と全イオンビーム照射量との比を表示しても良い。これにより、照射が偏り無く進行していることを運転者に知らせることができる。
【0048】
本実施形態の粒子線治療装置を用いたがんの患部216aの治療について、説明する。イオン源2で生成されたイオンビームは、前段加速器3で前段加速され、低エネルギービーム輸送系4を通ってシンクロトロン5に供給される。イオンビームは、シンクロトロン5内を周回する間に、高周波加速空胴(図示せず)によって加速される。イオンビームが所望のエネルギーまで加速された後、高周波電源9からの高周波電力が、閉じられているビームON/OFFスイッチ11、照射完了用スイッチ及びインターロック用スイッチを通って高周波印加電極によりシンクロトロン5内を周回しているイオンビームに印加される。これにより、安定限界内を周回しているイオンビームが、安定限界外に移行してシンクロトロン5から出射される。このイオンビームは、出射用デフレクタ12及びビーム輸送系13を通って照射野形成装置200に導かれる。イオンビームは、照射野形成装置200内において、ビーム経路上に配置されたRMW202、第1散乱体206、第2散乱体208、レンジシフタ210、線量モニタ212、ボーラス214及びコリメータ215を通過して、治療用ベッド217上に横たわっている患者216の患部216aに照射される。このとき、RMW202は回転している。
【0049】
照射野形成装置200内を通過するイオンビームのビーム照射量(線量)が、線量モニタ212によって計測される。線量モニタ212で計測された線量が目標線量値に達すると、出射完了用スイッチが開くので、シンクロトロン5からのイオンビームの出射が停止され、患者216に対するイオンビームの照射が終了する。
【0050】
本実施形態では、患部216a内のイオンビームの進行方向(深さ方向)の線量分布の一様性を調整するために、シンクロトロン5から出射するイオンビームの出射量を、イオンビームの出射中において、RMW202の回転角度を用いて変化させるように所望の変調信号パターンで制御する。図10を用い、シンクロトロン5から所望の強度パターンで、イオンビームを出射する制御方法の詳細について述べる。
【0051】
照射制御システム300は、ビーム出射量制御装置(図示せず)を備えている。このビーム出射量制御装置は、2つの機能を有する。第1の機能は、患部216aに対応したSOBP幅を形成することである。すなわち、ビーム出射量制御装置は、角度計205で計測されたRMW202の回転角度がイオンビームの出射を開始する回転角度になったときにビームON/OFFスイッチ11を閉じ、その回転角度がイオンビームの出射を停止する回転角度になったときにビームON/OFFスイッチ11を開くビームON/OFF信号(d)を生成する。ビームON/OFF信号(d)によって、イオンビームの照射により体内に生じるSOBP幅が調節される。ビーム出射量制御装置の第2の機能は、加速器(例えば、シンクロトロン5)から出射されるイオンビームの量を調節することである。具体的には、ビーム出射量制御装置は、角度計205で計測されたRMW202の回転角度、及び予め設定された強度パターンデータを用いて、角度領域毎に目標値の大小と対応させた振幅変調信号(b)を生成し、この振幅変調信号(b)よって加速器から出射されるイオンビームの量を調節する。高周波電源9は、生成した出射用の高周波信号(a)を信号合成装置10に出力する。信号合成装置10は、高周波信号(a)と振幅変調信号(b)を合成し、出射用高周波信号(c)を生成する。生成された出射用高周波信号(c)はビームON/OFFスイッチ11に出力される。ビームON/OFFスイッチ11は、照射制御システム300のビーム出射量制御装置に接続されており、ビーム出射量制御装置で生成されたビームON/OFF信号(d)に基づいて開閉される。この開閉によって、出射用高周波信号(e)が、ビームON/OFFスイッチ11から高周波印加装置7の高周波印加電極に供給され、シンクロトロン5内を周回するイオンビームに印加される。ビームON/OFFスイッチ11が閉じられたときにシンクロトロン5からイオンビームが出射され、ビームON/OFFスイッチ11が開いたきにそこからのイオンビームの出射が停止される。インターロック用スイッチ及び照射完了用スイッチは閉じている。ビームON/OFFスイッチ11が閉じている間、すなわち、シンクロトロン5からイオンビームが出射されている間、出射用高周波信号(e)に基づいて、シンクロトロン5から出射されるイオンビームの出射量が調節される。振幅変調信号(b)の振幅が大きくなるとシンクロトロン5から出射されるイオンビームの出射量が増加し、振幅変調信号(b)の振幅が小さくなるとそのイオンビームの出射量が減少する。
【0052】
上記した第1の機能により、一個のRMW202で複数のSOBP幅を形成することができるため、準備すべきRMW202の個数を低減できる。上記した第2の機能により、一個のRMW202でより広いエネルギー領域に含まれる各イオンビームに対応できるため、更に、準備すべきRMW202の個数を低減できる。また、第2の機能は、イオンビーム出射量を調整できるため、患部216aのイオンビーム進行方向において所望の線量分布を容易に形成することができる。第2の機能によって得られる効果を具体的に説明する。あるエネルギーに対して好適なRMW202を用いた場合において患部内のイオンビームの進行方向における所望の線量分布が、図11に実線で示される状態であったとする。前述したビーム出射量制御装置を用いない状態で、そのRMW202に導かれるイオンビームのエネルギーを高めてこのイオンビームを前述しRMW202に供給した場合には、図11に示す点線の不適切な線量分布を得たとする。しかしながら、本実施例におけるビーム出射量制御装置によるイオンビーム出射量の調整を行うことによって、図11に実線で示される所望の線量分布を得ることができる。また、逆に、図11に示す点線の線量分布が所望の線量分布である場合で、異なるビームエネルギーのイオンビームを患部に照射する場合には、ビーム出射量制御装置によるイオンビーム出射量の調整を行うことによって、その所望の線量分布を得ることができる。
【0053】
開閉信号生成装置307の作用を、図6を用いて具体的に説明する。領域判定装置301は、前述したように、角度計205で計測されたRMW202の回転角度を、前述のデータテーブルを用いて、ビーム経路に位置している角度領域の領域番号を求める。振り分け装置303は、線量モニタ212で逐次計測されたビーム照射量(イオンビーム量、線量)を、領域番号(照射角度領域)に基づいて、この照射角度領域に対応する、カウンタ304に含まれ、その照射角度領域に対応するカウンタ(カウンタ304−1〜304−Nのうちの1つのカウンタ)に振り分ける。このような振り分け装置303の作用により、カウンタ304−1〜304−Nにそれぞれ照射済のビーム照射量が積算される(図6の下部のグラフ参照)。それぞれの角度領域に対してビーム照射量の目標値(線量の目標値)及びその許容値が前述のように設定されている。領域番号Nの角度領域でのRMW202の軸方向の厚みは、イオンビームの出射が開始されてからその出射が停止されるまでの間において、ビーム経路を通過する、RMW202の周方向の領域内で、最も薄い部分である。領域番号Nの角度領域に対するビーム照射量の目標値は、最も大きくなる。また、領域番号1の角度領域でのRMW202の軸方向の厚みは、イオンビームの出射が開始されてからその出射が停止されるまでの間において、その周方向の領域内で、最も厚い部分である。目標値は最も大きくなる。領域番号1の角度領域に対するその目標値は、最も小さくなる。領域番号Nの角度領域を通過するイオンビームは、患部216a内でイオンビームの進行方向において最も深い位置まで到達する。領域番号が小さくなる角度領域を通過するイオンビームほど、その進行方向においてより浅い位置にしか到達しなくなる。患部216aにおいて、深い位置を照射しているイオンビームの影響によってそれよりも浅い位置でもあるていど線量が高められる。このため、患部216a内で浅い位置にイオンビームを照射する場合には、その深い位置にイオンビームを照射する場合に比べて、ビーム照射量の目標値(線量の目標値)が小さくなっている。すなわち、領域番号の小さな角度領域ほど、その目標値は小さい。
【0054】
開閉信号生成装置307は、各領域番号に対応する角度領域ごとに、線量モニタ212で測定されたビーム照射量の積算値(線量の積算値)が目標値に到達しているか否かを判定する。開閉信号生成装置307は、その積算値が目標値に到達している角度領域に対しては、ビームOFF信号を生成する。このため、前述したようにビームON/OFFスイッチ11が開き、その角度領域に対するイオンビームの供給が停止される。また、その積算値が目標値に到達していない角度領域に対しては、ビームON信号を生成する。このため、前述したようにビームON/OFFスイッチ11が閉じた状態であり、その角度領域に対してイオンビームが供給される。
【0055】
次に、図11を用いて、一例である、小照射野用に設計したRMWを用いて大照射野を形成した場合、その手順と深さ方向の線量分布に与える影響を説明する。
【0056】
小照射野用のRMW202の照射野を広げるためには、まず、入射イオンビームの直交方向の広がりを増加させる。例えば、第1散乱体206を厚くすれば直交方向の散乱量の増加が可能でイオンビームが広がる。しかしながら、これにより、イオンビームのエネルギー損失も増加するのでイオンビームの飛程は減少する。第1散乱体206もしくは、RMW202をイオンビーム上流側に移動させ、イオンビームが散乱後に飛ぶ距離を増加することでビームを拡大してもよい。RMW202をイオンビーム上流側に配置させることによって、イオンビームの飛程は不変であるが、より長いイオンビーム飛行長を確保する必要があり、照射野形成装置200が巨大化する。これにより、第2散乱体208に入射するイオンビームが拡大する。それに併せて第2散乱体208を変更することで、直交方向の一様性を確保する。このように、イオンビームが通過する物質が変化するため、その飛程、さらには、ブラッグカーブの形状も変化する。その結果、深さ方向の線量分布が図11の点線のように変化する。
【0057】
本実施形態は、複数の角度領域のうち目標値に達した角度領域へのイオンビームの供給を停止し、その目標値に到達していない他の角度領域にイオンビームを供給するため、小照射野用のRMW202を用いた場合において、その深さ方向の線量分布が変化しても、図12で一点差線で示す所望の線量分布(例えば、一様な線量分布)を形成できる。すなわち、前述したように、RMW202の角度領域ごとに目標値を設定すれば、深さ方向ごとの目標値設定が可能である。線量の変化は計算可能なので、所望の線量分布、例えば一様な線量分布になるよう目標値を定めればよい。イオンビームの入射エネルギー、照射野サイズ、設置機器等に応じて変化する最適な深さ方向の線量分布を目標値306として設定することで、RMW202の1つ当りに形成可能な照射野種類数が増加する。
【0058】
以上のように構成した粒子線治療装置であれば、1個のRMW202によって、角度領域ごとのビーム照射量を変化させることが可能なので、多様な照射野を形成すること可能である。
【0059】
本実施形態によれば、イオンビームの複数のエネルギー、複数の照射範囲などに対し、複数の線量分布を1個のRMWで形成可能であるため、治療に用いるRMWの総数を低減することができる。このため、ビームエネルギー及び照射野サイズの違いによってRMW202を交換する回数が著しく減少し、年間当りに治療できる患者数が増大する。
【0060】
本実施形態は、イオンビームの出射開始及び出射停止(ON/OFF)を制御することで、RMW202の目標値に到達した角度領域にイオンビームを供給せず、目標値に到達していない角度領域にイオンビームを供給するので、患部216a内のイオンビーム進行方向における各位置に対する照射線量を容易に調節することができる。このため、患部216a内のイオンビーム進行方向における各位置において照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減することができる。患部216a内のイオンビーム進行方向における線量分布を、容易に、治療計画で定めた所望の線量分布にすることができる。本実施形態では、上記誤照射の確率を0にすることができる。
【0061】
本実施形態は、RMW202の目標値に到達した角度領域にイオンビームを供給せず、目標値に到達していない角度領域にイオンビームを供給するので、前述したビーム出射量制御装置の第1の機能により削減できるRMWの個数よりも、更にその個数を低減できる。
【0062】
本実施形態では、RMW202の回転角度に基づいてシンクロトロン5から出射するイオンビームのビーム出射量(ビーム出射強度)を制御している。これにより、角度領域ごとの目標照射量の多少に応じてイオンビーム強度を制御することができ、効率よく照射を進行させることができる。RMW202の回転角度に基づいてシンクロトロン5から出射するイオンビームのビーム出射量を制御しているので、さらに、患者が代わって必要とするビームエネルギーが変わっても、前の患者に用いたRMW202によって、患部216aのイオンビーム進行方向において所望の線量分布を形成することができる。
【0063】
本実施形態は、イオンビームの照射中、RMWの複数の角度領域のうち、少なくとも1つを含む角度領域群において、照射済み積算イオンビーム量と目標積算イオンビーム量とを比較し、いずれかの角度領域において、当該角度領域における目標値を超過した量のイオンビームが照射されたときに、イオンビームの照射を中止させる手段、すなわちインターロック信号生成装置310を備える。これにより、イオンビームを照射中に、照射済み積算イオンビーム量と目標イオンビーム量とを逐次比較し、万一、目標値を超過する等、想定外のイオンビーム照射が行われた場合、直ちにイオンビームの照射を中止することができ、より信頼性を高くできる。
【0064】
本実施形態は、RMWの複数の角度領域のうち、少なくとも1つを含む第1の角度領域群への照射済みイオンビーム量と、前記第1の角度領域群に含まれない角度領域を少なくとも1つ含む第2の角度領域群への照射済みイオンビーム量の比が、あらかじめ設定した値の範囲を超えた場合に、イオンビームの照射を中止する手段を備える。これにより、イオンビーム照射中に、第1の角度領域群と第2の角度領域群における照射済み積算イオンビーム量と目標イオンビーム量とをそれぞれの割合を逐次比較し、あらかじめ設定した許容値を超えてイオンビーム照射が行われた場合に、直ちにイオンビームの照射を中止することができ、より信頼性を高くできる。
【0065】
本実施形態では、円形加速器としてシンクロトロン5を例にとって説明したが、シンクロトロン5の替わりにサイクロトロンを用いた場合にも実施することができる。すなわち、サイクロトロンの場合は、サイクロトロンにイオンビームを供給するイオン源の電源のON/OFFによって、サイクロトロンから照射野形成装置へのイオンビームの出射開始及び出射停止を制御することができる。このような加速装置としてサイクロトロンを用いた粒子線治療装置は、図1に示す粒子線治療装置においてシンクロトロンをサイクロトロンに替えた構成を有し、高周波供給装置18が設けられていない。このようなサイクロトロンを用いた粒子線治療装置では、開閉信号生成装置307から出力されるビームON信号及びビームOFF信号は、電源とイオン源とを接続する配線に設けられた開閉装置の開閉制御に用いられる。このような開閉装置の制御によって、図1の実施例と同様に、RMW202の目標値に到達した角度領域にイオンビームを供給せず、目標値に到達していない角度領域にイオンビームを供給することができる。このため、患部216a内のイオンビーム進行方向における各位置に対する照射線量を容易に調節することができ、患部216a内のイオンビーム進行方向における各位置において照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の好適な一実施形態である粒子線治療装置の全体構成を表す概念図である。
【図2】本発明の好適な一実施形態である粒子線治療装置に備えられる照射野形成装置の詳細をあらわす概念図である。
【図3】本発明の好適な一実施形態である粒子線治療装置に備えられる照射制御システムの構成をあらわす概念図である。
【図4】本発明の好適な一実施形態である粒子線治療装置における照射野形成のためのビーム照射にかかわる制御内容をあらわすフローチャートである。
【図5】レンジモジュレーションホイールの全体構造を示す斜視図である。
【図6】照射制御装置で行われるレンジモジュレーションホイールの羽ごとの線量管理をあらわあす模式図である。
【図7】本発明の構成要素である中央制御装置メモリに格納されるデータテーブルの概念図である。
【図8】本発明の構成要素である領域判定装置メモリに格納されるデータテーブルの概念図である。
【図9】本発明の構成要素である目標値メモリに格納されるデータテーブルの概念図である。
【図10】本発明の好適な一実施形態である粒子線治療装置を表す構成図、及び出射用高周波信号を示す外力図である。
【図11】ビーム進行方向(深部方向)の線量分布を示す図である。
【図12】ビーム進行方向(深部方向)の線量分布を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1…イオンビーム発生装置、2…イオン源、3…前段加速器、4…低エネルギービーム輸送系、5…シンクロトロン、6…加速装置、7…高周波印加装置、9…出射用高周波電源、10…信号合成装置、11…ビームON/OFFスイッチ、13…高エネルギービーム輸送系、14…回転ガントリー、100…中央制御装置、101,302…メモリ、200…照射野形成装置、201…ケーシング、202…レンジモジュレーションホイール、202a…羽根、203…RMW保持部材、204…RMW回転駆動装置、205…角度計、206…第1散乱体、208…第2散乱体、210…レンジシフタ、212…線量モニタ、214…ボーラス、215…コリメータ、300…照射制御システム、301…領域判定装置、303…振り分け装置、304…カウンタ、305…目標値メモリ、307…開閉信号生成装置、308…表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速して出射する加速装置と、
前記加速装置から出射された前記荷電粒子ビームが透過するエネルギー調整装置を有し、前記エネルギー調整装置を透過した前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備え、
前記エネルギー調整装置は、回転可能で、軸方向の厚みが回転方向において異なり、
前記エネルギー調整装置の回転角度及び前記エネルギー調整装置を透過した前記荷電粒子ビームの線量に基づいて、前記加速装置からの前記荷電粒子ビームの出射開始及び出射停止を制御する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記回転角度及び前記線量に基づいて、前記回転方向における前記エネルギー調整装置の複数領域のそれぞれを透過した前記荷電粒子ビームの前記線量の積算値を求め、前記領域ごとの前記積算値に基づいて、前記加速装置からの前記荷電粒子ビームの出射開始及び出射停止を制御することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
前記エネルギー調整装置の回転角度を検出する角度検出器と、
前記エネルギー調整装置を透過した前記荷電粒子ビームの線量を計測する計測装置とを備え、
前記制御装置は、前記回転角度及び前記線量に基づいて、前記加速装置からの前記荷電粒子ビームの出射開始及び出射停止を制御することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記積算値が目標線量に達した前記領域がビーム経路に位置するときは前記加速装置からの前記荷電粒子ビームの出射を停止し、前記積算値が前記目標線量に達していない前記角度領域が前記ビーム経路に位置するときには前記荷電粒子ビームを前記加速装置から出射することを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
いずれかの前記領域における前記荷電粒子ビームの前記積算値が、当該領域において設定された許容値以上になったときに、前記加速装置からの前記荷電粒子ビームの出射を中止する安全装置を備えることを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
前記エネルギー調整装置の前記回転方向における第1の角度領域を通過した前記荷電粒子ビームの前記積算値と前記第1角度領域以外の角度領域である第2の角度領域を通過した前記荷電粒子ビームの積算値との比が、設定した許容値を越えたときに、前記加速装置からの前記荷電粒子ビームの出射を中止する安全装置を備えることを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
前記領域ごとの前記荷電粒子ビームの積算値を表示する表示装置を備えることを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項8】
出射用の高周波印加装置を有し、荷電粒子ビームを加速して出射する加速装置と、
前記加速装置から出射された前記荷電粒子ビームが透過するエネルギー調整装置を有し、前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備え、
前記エネルギー調整装置は、回転可能で、軸方向の厚みが回転方向において異なり、
前記エネルギー調整装置の回転角度及び前記エネルギー調整装置を透過した前記荷電粒子ビームの線量に基づいて、前記高周波印加装置への高周波信号の供給及び供給停止を制御する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項9】
荷電粒子ビームを生成するイオン源と、
前記イオン源から出射する前記荷電粒子ビームを加速する加速装置と、
前記加速装置から出射する前記荷電粒子ビームが透過するエネルギー調整装置を有し、前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備え、
前記エネルギー調整装置は、回転可能で、軸方向の厚みが回転方向において異なり、
前記エネルギー調整装置の回転角度及び前記エネルギー調整装置を透過した前記荷電粒子ビームの線量に基づいて、前記イオン源からの前記荷電粒子ビームの出射開始及び出射停止を制御する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項10】
荷電粒子ビームを加速して出射する加速装置と、
前記加速装置から出射する前記荷電粒子ビームが透過するエネルギー調整装置を有し、前記エネルギー調整装置を透過した前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備え、
前記エネルギー調整装置は、回転可能で、軸方向の厚みが回転方向において異なり、
前記エネルギー調整装置を前記回転方向において分割して形成される複数の領域のうち目標線量に達した前記領域への前記荷電粒子ビームの供給を停止し、前記目標線量に到達していない他の前記領域に前記荷電粒子ビームを供給する制御装置を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項11】
前記制御装置は、前記領域を透過した前記荷電粒子ビームの線量の積算値が前記目標線量に達した前記領域への前記荷電粒子ビームの供給を停止し、前記積算値が前記目標線量に達していない他の領域に前記荷電粒子ビームを供給することを特徴とする請求項10に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項12】
前記エネルギー調整装置の回転角度を検出する角度検出器を備え、
前記制御装置は、前記回転角度に基づいて前記荷電粒子ビームの供給及び供給停止することを特徴とする請求項10に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項13】
前記加速装置から出射された荷電粒子ビームを、回転可能で、軸方向の厚みが回転方向において異なるエネルギー調整装置に供給し、
前記エネルギー調整装置の回転角度及び前記エネルギー調整装置を透過した前記荷電粒子ビームの線量に基づいて、前記加速装置からの前記荷電粒子ビームの出射開始及び出射停止を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項14】
前記加速装置から出射された荷電粒子ビームを、回転可能で、軸方向の厚みが回転方向において異なるエネルギー調整装置に供給し、
前記エネルギー調整装置を前記回転方向において分割して形成される複数の領域のうち目標線量に達した前記領域への前記荷電粒子ビームの供給を停止し、前記目標線量に到達していない他の前記領域に前記荷電粒子ビームを供給することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−222433(P2007−222433A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47676(P2006−47676)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】