説明

荷電粒子ビーム照射システム

【課題】
イオンビームで照射対象を照射し、即発ガンマ線の計測により照射野位置を測定するとき、照射野位置の計測精度を向上したいニーズがある。
【解決手段】
荷電粒子ビームを発生する荷電粒子ビーム発生装置と、荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置と、荷電粒子ビームに基づいて照射対象から発生する即発ガンマ線を検出してガンマ線検出信号を出力するコンプトンカメラと、照射対象とコンプトンカメラの間に配置され、1MeV未満のエネルギーの即発ガンマ線を吸収する吸収体と、コンプトンカメラからのガンマ線検出信号により照射野を求める照射野確認装置を備えることで照射野の位置計測精度を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射システムに係り、特に荷電粒子ビームを腫瘍等の患部に照射して治療する荷電粒子ビーム照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者に陽子線などの荷電粒子ビームを照射する方法が知られている。この照射に用いるシステムは荷電粒子ビーム発生装置,ビーム輸送系及び治療室を備えている。荷電粒子ビーム発生装置で加速された荷電粒子ビームはビーム輸送系を経て治療室の照射装置に達し、照射装置により分布を拡大し、患者の体内で患部形状に適した照射野を形成する。その際、照射野が所望の位置に形成されたことを確認する手段として、照射により体内で生成する陽電子放出核種からの消滅ガンマ線を照射後、ポジトロン断層法(PET)により撮影する方法が用いられている(特許文献1)。
【0003】
また、治療中、照射野に生成される励起された炭素,酸素,窒素などの原子核から発生するガンマ線(即発ガンマ)を観測する方法が提唱されている(非特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平9−189769号公報
【特許文献2】特開2001−305233号公報
【非特許文献1】“Prompt gamma measurements for locating the dose falloff region in the proton therapy”APPLIED PHYSICS LETTERS 89,183517(2006)
【非特許文献2】“Review of Scientific Instruments Vol.64 No.8”(1993年8月)(p.2055〜2122)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、荷電粒子ビーム照射システムにおいて、荷電粒子ビームの照射野を精度良く確認すべく、検討を行った。その結果、ガンマ線検出器としてコンプトンカメラを用い、即発ガンマ線を測定して照射野の位置を確認する方法が有効であることを見出した。
【0006】
ここで、即発ガンマ線を測定することにより照射野を確認する場合、照射野から発生するガンマ線のエネルギーは数100keVから数MeVまで様々である。このうち1MeV未満のガンマ線は、照射野で発生した後ガンマ線検出器に到達するまでに散乱してしまう可能性が高い。一方、1MeV以上のエネルギーを持ったガンマ線は、ガンマ線検出器に到達するまでに散乱する可能性が低いため、1MeV以上のエネルギーのガンマ線を有効な検出信号として扱うことが好ましい。このような場合、照射野で生成される数MeVのエネルギーを持つガンマ線(高エネルギーガンマ線)に対し、数100KeVのガンマ線(低エネルギーガンマ線)がバックグラウンドとなる。コンプトンカメラは単位時間あたりの検出可能なガンマ線の数が決まっているため、低エネルギーガンマ線がガンマ線検出器に多く入射すると、信号となる高エネルギーガンマ線を検出することが相対的に出来なくなり照射野の位置計測精度が低下してしまう。
【0007】
本発明の目的は、荷電粒子ビームを照射した照射野の位置を精度良く測定できる荷電粒子ビーム照射システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成する本発明の特徴は、荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置と、照射対象から発生する即発ガンマ線を検出するコンプトンカメラとを有し、照射対象とコンプトンカメラとの間に、1MeV未満のエネルギーの即発ガンマ線を吸収する吸収体を配置することにある。特許文献2にはガンマ線検出器に入射するガンマ線のエネルギーを選別する方法として吸収体の設置が記されている。本発明の特徴は、前述の通り、ガンマ線検出器として即発ガンマ線用のガンマ線検出器を用い、照射対象とコンプトンカメラとの間に、1MeV未満のエネルギーの即発ガンマ線を吸収する吸収体を配置することにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、数100keVの低エネルギーガンマ線を吸収体により吸収し、1MeV以上の高エネルギーガンマ線は吸収体を透過してガンマ線検出器に入射するため、ガンマ線のバックグラウンドに対する信号の割合を改善することができ、照射野の位置を精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態である荷電粒子ビーム照射システム10について、図1を用いて説明する。
【0011】
本実施例の荷電粒子ビーム照射システム10は、荷電粒子ビーム発生装置1,ビーム輸送系2,放射線治療室17及び制御システム7を備える。
【0012】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず),ライナック3(前段荷電粒子ビーム加速装置)及びシンクロトロン4を有する。シンクロトロン4は、高周波印加装置5,加速装置6を有する。高周波印加装置5は、シンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極(図示せず)及び高周波印加電源(図示せず)を備える。高周波印加電極と高周波印加電源はスイッチ(図示せず)により接続される。加速装置6は、イオンビームの周回軌道に配置された高周波加速空洞(図示せず)及び高周波加速空洞に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。出射用デフレクタ11がシンクロトロン4とビーム輸送系2を接続する。
【0013】
ビーム輸送系2は、ビーム経路12,四極電磁石(図示せず),偏向電磁石14,偏向電磁石15及びU字状偏向電磁石16を有する。ビーム経路12は、ビーム進行方向の上流側から四極電磁石,偏向電磁石14及び偏向電磁石15を備える。ビーム経路12が、治療室17内に設置された照射装置21に接続される。
【0014】
治療室17内の構成について、図2を用いて説明する。治療室17内には略筒状のガントリー18が設置されている。ガントリー18には、ビーム輸送系2の一部であるU字状の偏向電磁石16、及び照射装置21が設置されている。また、第1のX線撮影装置22a,第2のX線撮像装置22b,ガンマ線検出器23が、ガントリー18の回転胴の内側に設置される。ガントリー18の内部にはカウチ24と呼ばれる治療用ベッドが設置されている。
【0015】
第1のX線撮像装置22aは、照射装置21内に設置される第1のX線発生装置35(図3)及び第1のX線検出器(本実施例では、フラットパネルディスプレイ,FPD)26で構成される。第1のX線撮像装置22aは、イオンビームの照射方向(Z軸方向)の透視画像を撮影する。第2のX線撮像装置22bは、第2のX線発生装置27及び第2のX線検出器(本実施例では、フラットパネルディスプレイ,FPD)28で構成される。第2のX線撮像装置22bは、照射装置21から出射されるイオンビームのビーム軸と垂直な方向(X軸方向)の透視画像を撮影する。照射対象物が所望の位置に配置されていることを確認するために、第1のX線撮像装置22a及び第2のX線撮像装置22bを用いて直交する二つの方向から透視画像を撮影する。
【0016】
ガンマ線検出器23は、照射野が所望の位置に形成されたことを確認するためイオンビーム照射時に照射野から発生する即発ガンマ線を検出する。ガンマ線検出器23は、照射装置21から照射対象25に入射したイオンビームが到達した位置を計測するため、ビーム軸とガントリー18の回転軸に垂直な軸上に設置される。
【0017】
ガントリー18は、モーターにより回転可能な構造をしている。ガントリー18の回転と共にU字状偏向電磁石16と照射装置21が回転する。この回転により、照射対象25をガントリー18の回転軸に垂直な平面内のいずれの方向からも照射することができる。ここで座標系を定義する。ガントリー18の動径方向で照射装置21に入射するビームの方向と一致する方向をZ軸、ガントリー18の回転軸の方向をY方向、Z軸とY軸に直交する方向をX軸とする。ガントリー18が回転するときX軸とZ軸もガントリーの回転と共に回転するが、Y軸は回転軸であるため向きを変えることはない。ガントリー18に設置される第1のX線撮像装置22a,第2のX線撮像装置22b及びガンマ線検出器23も、ガントリー18の回転と共に回転する。ガンマ線検出器23,第2のX線発生装置27,FPD26及びFPD28は、ガントリー18が回転している間、カウチ24との衝突を避けるため、ガントリー18内の壁面内に格納できるような構造となっている。
【0018】
図3を用いて、照射装置21の構成について説明する。照射装置21は、走査電磁石31,走査電磁石32,ビーム位置検出器33,線量モニタ34及び第1のX線発生装置35を有する。本実施の荷電粒子ビーム照射システム10は、照射装置21が二台の走査電磁石31,32を備え、ビーム進行方向と垂直な面内の二つの方向(X方向,Y方向)にそれぞれイオンビームを偏向し、照射位置を変更する。ビーム位置検出器33は、イオンビームの位置とイオンビームの広がりを計測する。線量モニタ34は、照射されたイオンビームの量を計測する。ビーム位置検出器33は、X方向,Y方向それぞれ一定間隔毎に平行にワイヤーが張られている。ワイヤーには高電圧がかけられており、イオンビームが通過すると検出器内の空気が電離され、電離された荷電粒子は最も近いワイヤーに集められる。集められた荷電粒子量を測定する。イオンビームの広がりよりも十分に小さい間隔でワイヤーを張ることにより、ビームの分布を得ることができるので、ビーム位置(分布の重心)とビーム幅(分布の標準偏差)を算出することができる。線量モニタ34は、二つの電極が平行平板型構造をしており、電極間に電圧が印加されている。イオンビームが線量モニタ(線量検出器)34を通過すると、イオンビームにより、検出器内の空気が電離され、電離された荷電粒子は検出器内電場により電極に集積し、信号となって読み出される。ここで、イオンビーム量と、電極に集積する電荷が比例するので通過したイオンビーム量を計測することができる。X線発生装置35は、X線発生装置用レール36上を移動することにより、X線撮影時のみビームライン上に配置される。照射対象25内には照射標的37があり、イオンビームを照射することで照射標的を覆うような線量分布を照射対象25内に形成する。ここで癌などの治療の場合は、照射対象は人であり照射標的は腫瘍(患部)である。
【0019】
本実施例の粒子線照射システムが備えている制御システム7について、図1を用いて説明する。制御システム7は、データベース(記憶装置)42,機器制御システム43,位置決めシステム44及び照射野確認システム45を備える。
【0020】
機器制御システム43は、中央制御装置46,加速器制御部47及び照射装置制御部48を備える。中央制御装置46は、加速器制御部47及び照射装置制御部48に接続される。また、中央制御装置46は、データベース42に接続される。中央制御装置46は、データベース42からデータを受け取り、加速器制御部47と照射装置制御部48に必要な情報を送信し制御する。加速器制御部47は、荷電粒子ビーム発生装置1,ビーム輸送系2及びガントリー18に接続され、これらを制御する。照射装置制御部48は、走査電磁石31,32に流れる励磁電流量の制御と照射装置21内の各モニタ信号を処理する。
【0021】
位置決めシステム44は、位置決め装置49,X線装置制御部50及びカウチ制御部51を備える。位置決め装置49は、X線装置制御部50及びカウチ制御部51に接続される。また、位置決め装置49は、データベース42に接続される。X線装置制御部50は、ガントリー18内に設置された第1のX線撮像装置22a及び第2のX線撮像装置22bに接続され、これらを制御する。カウチ制御部51は、カウチ24に接続され、カウチ24を制御する。位置決め装置49は、データベース42からの情報と第1のX線撮像装置22a及び第2のX線撮像装置22bにより取得したデータに基づいてカウチ24の移動量を算出し、カウチ制御部51に移動量を送信する。
【0022】
照射野確認システム45は、照射野確認装置52とガンマ線検出器制御部53を備える。ガンマ線検出器制御部53は、ガンマ線検出器制御部53,照射野確認装置52及び照射装置制御部48に接続される。照射野確認装置52は、データベース42に接続される。照射野確認装置52は、ガンマ線検出器制御部53から送られるガンマ線検出器のデータ(ガンマ線検出信号)を受け取り、ガンマ線検出信号及びデータベース42からの情報に基づいて、照射野位置を確認する。ガンマ線検出器制御部53は、ガンマ線検出器23の移動制御とガンマ線検出器23から出力されるガンマ線検出データを処理する。また、ガンマ線検出器制御部53は、照射装置制御部48から照射スポットの情報と照射開始・終了のタイミングを受け取る。
【0023】
図4を用いて本実施例による粒子線照射システムにおける標的の深さとイオンビームのエネルギーとの関係について説明する。図4は、標的の深さとイオンビームのエネルギーとの関係を説明した図である。
【0024】
図4(a)は、単一エネルギーのイオンビームが照射対象内に形成する線量分布を深さの関数として示している。図4(a)におけるピークをブラッグピークと称する。ブラッグピークの位置はエネルギーに依存するため、照射標的の深さに合わせイオンビームのエネルギーを調整することでブラッグピークの位置で照射標的を照射することができる。照射標的は深さ方向に厚みを持っているが、ブラッグピークは鋭いピークであるので、図4(b)に表すようにいくつかのエネルギーのイオンビームを適切な強度の割合で照射し、ブラッグピークを重ね合わせることで深さ方向に照射標的と同じ厚みを持った一様な高線量領域(SOBP)を形成する。
【0025】
図5を用いて、ビーム軸に垂直な方向(XY平面の方向)の照射標的の横方向の広がりとイオンビームの関係について説明する。ビーム軸に垂直な方向を横方向と呼ぶ。イオンビームは照射装置21に達した後、互いに垂直に設置された二台の走査電磁石31,32により横方向の所望の位置へと到達する。イオンビームの横方向の広がりはガウス分布形状で近似することができる。ガウス分布を等間隔で配置し、その間の距離をガウス分布の標準偏差程度にすることで、足し合わされた分布は一様な領域を有する。このように配置されるガウス分布状の線量分布をスポットと呼ぶ。イオンビームを走査し複数のスポットを等間隔に配置することで横方向に一様な線量領域を形成することができる。
【0026】
以上により、走査電磁石による横方向へのビーム走査と、ビームエネルギー変更による深さ方向へのブラッグピークの移動により均一な照射野を形成することができる。なお、同一のエネルギーで照射され、走査電磁石によるイオンビーム走査により横方向へ広がりを持つ照射野の単位をスライスと呼ぶ。
【0027】
イオンビームを照射標的37に照射する前に、照射計画システム41が照射に必要な各パラメータを決定する。照射計画システム41によるパラメータの決定方法について説明する。
【0028】
予め照射対象25をCT装置40にて撮影する。CT装置40は、取得した撮像データに基づいて照射対象25の画像データを作成し、画像データを照射計画システム41に送信する。照射計画システム41は、受け取った画像データを、表示装置(図示せず)の画面上に表示する。オペレータが画像上で照射したい領域を指定すると、照射計画システム41は照射に必要なデータを作成し、そのデータで照射したときの線量分布を求める。照射計画システム41は、求めた線量分布を表示装置に表示する。照射したい領域は照射標的37を覆うように指定する。照射計画システム41は、指定された領域に線量分布を形成できるような照射対象の設置位置,ガントリー角度,照射パラメータ,ガンマ線検出器23の設置位置を求めて決定する。また、照射計画システム41は、カウチ24の初期位置を決定する。
【0029】
照射計画システム41が求める照射パラメータには、イオンビームのエネルギー,ビーム軸に垂直な平面内の位置情報(X座標,Y座標)、各位置に照射するイオンビームの目標線量が含まれる(図6)。つまり、照射計画システム41は、オペレータが入力した患者情報に基づいて、照射標的(患部)37を深さ方向の複数のスライスに分割し、必要となるスライス数Nを決定する。また、照射計画システム41は、それぞれのスライス(スライス番号i)の深さに応じた照射に適したイオンビームのエネルギーEiを求める。照射計画システム41は、さらに、各スライスの形状に応じて、イオンビームを照射する照射スポットの数Ni,スポット番号j,各スポットの照射位置,各スポットの目標線量(目標照射量)Dijを決定する。スポットの照射位置(Xij,Yij)が、照射対象のビーム進行方向(深さ方向)と垂直な平面における目標照射位置となる。
【0030】
ガンマ線検出器23の設置位置について説明する。図7は、照射対象内にスポットを形成する様子を示している。ガンマ線検出器23は、ビーム軸方向(Z方向)のイオンビームの到達位置を計測する。ガンマ線検出器23は検出器の中央Zcが最も検出感度が高い。そのため、照射計画システム41は、計算したビーム軸上の照射野の深さ終端からビーム軸に垂直に引いた垂線上にガンマ線検出器23の中央Zcが位置するようにガンマ線検出器23の設置位置を決定するのが好ましい。また、可能な限りガンマ線検出器23を照射対象に近づける(図7のLを小さくする)ように、ガンマ線検出器23の設置位置を決定するのが好ましい。
【0031】
照射計画システム41は、決定したこれらの情報をデータベース42に送信する。データベース42は、照射計画システム41から出力されたデータを記憶する。データベース42に登録される各データのうち、照射パラメータのデータ構造を図6に示す。照射パラメータはスライス数Nと各スライスのデータを持つ。各スライスのデータはスライス番号i,エネルギーEi,スポット数Ni,各スポットのデータから構成される。スポットのデータはさらにスポット番号j,照射位置(Xij,Yij),目標線量Dijから構成される。
【0032】
本実施例の荷電粒子ビーム照射システム10の運転方法について説明する。荷電粒子ビーム照射システム10は、データベース42に記憶された情報に基づいて、以下のように照射の準備を行う。
【0033】
照射対象25をカウチ24に載せる。位置決め装置49は、カウチ24の初期位置情報をデータベース42から取得する。位置決め装置49から初期位置情報を受け取ったカウチ制御部51は、カウチ24を初期位置へ移動する。また、位置決め装置49からの指令信号に基づいてX線装置制御部50は、第1のX線発生装置35の移動を開始する。第1のX線発生装置35は、X線発生装置用レール36上を移動してビーム軸上で停止する。第2のX線発生装置27,FPD26,28がガントリー18内の壁面内に格納されている場合、X線装置制御部50は、これらをガントリー18壁面から取り出し、所定の位置に配置させる。所定の位置に配置後、第1のX線撮像装置22a及び第2のX線撮像装置22bにより照射対象25の撮影を開始する。第1のX線発生装置35及び第2のX線発生装置27でX線を生成し、照射対象に出射する。FPD26及びFPD28は、それぞれからのX線を検出し、X線検出信号を出力する。位置決め装置49は、第1のX線撮像装置22a及び第2のX線撮像装置22bにより取得したX線検出信号に基づいて画像データを作成する。位置決め装置49は、X線検出信号から求めた画像データと照射計画システム41が出力した画像データを照合し、二つの情報の差分を計算して照射対象が所望の位置へ移動するためのカウチ24の移動量を算出する。位置決め装置49は、算出した値をカウチ制御部51へ送信し、カウチ制御部51は指定された値分、カウチ24を移動し照射対象25は所望の位置へと移動する。
【0034】
照射野確認装置52は、データベース42から読み出したガンマ線検出器23の設置位置情報をガンマ線検出器制御部53に送信する。ガンマ線検出器制御部53は、受け取った設置位置情報に基づいて、ガンマ線検出器23の移動を制御する。ガンマ線検出器23は、X方向とZ方向へレール(図示せず)上を移動することができ、その移動量はポテンショメータにより検出可能な構造をしている。ガンマ線検出器制御部53がガンマ線検出器23を所望の位置へ移動させることで、イオンビーム照射時に照射野から発生するガンマ線検出が可能な状態となる。
【0035】
中央制御装置46は、データベース42からガントリー角度情報と照射パラメータ情報を受け取る。中央制御装置46は、ガントリー角度情報を加速器制御部47に送信する。加速器制御部47は、受け取ったガントリー角度情報に基づいてガントリー18を所望のガントリー角度へ移動する。また、中央制御装置46は、受け取った照射パラメータに基づいて、各スライスのエネルギーEiに対応したシンクロトロン4とビーム輸送系2の電磁石を励磁する励磁電流量,高周波印加装置5が印加する高周波の値、加速装置6に印加する高周波の値を、中央制御装置46が有するメモリ(図示せず)から参照し、加速器制御部47へ送信する。また、中央制御装置46は、各スポットに対し照射位置とそのエネルギーから走査電磁石31,32を励磁する電流量を算出し、スポットデータと共に照射装置制御部48へ送信する。
【0036】
図8を用いて、荷電粒子ビーム照射システム10によるイオンビームの照射手順を説明する。中央制御装置46は、照射開始信号と共に、スライス番号i,スポット番号j,エネルギー情報Eiを加速器制御部47に出力する。最初の照射開始が合図されると、スライス番号i=1,スポット番号j=1から照射を開始する。照射開始信号を受け取った加速器制御部47はイオン源を起動する。イオン源で発生したイオン(例えば陽子(又は炭素イオン))は、ライナック3に入射される。ライナック3は、イオンを加速して出射する。ライナック3からのイオンビームは、シンクロトロン4へ入射される。ステップ101で、加速器制御部47は、シンクロトロン4の電磁石と加速装置6を制御し、ライナック3から入射されたイオンビームをスライス番号1のエネルギーE1まで加速する。つまり、加速器制御部47が、荷電粒子ビーム発生装置を制御し、イオンビームを所望のエネルギーまで加速する。この加速は、高周波電源から、高周波加速空洞に高周波を印加すること(シンクロトロン4を周回するイオンビームに、高周波電力によってエネルギーを与えること)によって行われる。また、加速器制御部47は、ビーム輸送系2の電磁石の励磁量を制御し、加速したエネルギーのイオンビームを照射装置21へ輸送できる状態とする。
【0037】
ステップ102でイオンビームの加速が完了しビーム輸送系2の準備が整うと、加速器制御部47は、照射装置制御部48へ出射準備完了信号を送信する。
【0038】
ステップ103で、出射準備完了信号を受け取った照射装置制御部48は、スライス1,スポット1に対応する中央制御装置46が計算した励磁電流量で走査電磁石31及び走査電磁石32を励磁する。また、照射装置制御部48は、ガンマ線検出器制御部53へスライス番号とスポット番号を出力する。本実施例では、スライス番号が、照射対象の深さ方向におけるイオンビームの目標照射位置情報である。また、スポット番号が、照射対象の深さ方向と垂直な平面におけるイオンビームの目標照射位置情報である。
【0039】
ステップ104で照射装置制御部48は、走査電磁石31,32に流れる電流が所望の値になったことを確認し、出射信号を加速器制御部47とガンマ線検出器23へ送信する。
【0040】
ステップ105で出射信号を受け取った加速器制御部47は、高周波印加装置を制御してシンクロトロン4からのイオンビームの出射を開始する。つまり、スイッチを繋ぎイオンビームに高周波印加装置5により高周波を印加する。また、出射信号を受け取ったガンマ線検出器23はガンマ線の計測を開始する。安定限界内でシンクロトロン4内を周回していたイオンビームは、安定限界外に移行し、出射用デフレクタ11を通ってシンクロトロン4から出射される。出射されたイオンビームはビーム輸送系2を通過して照射装置21へ入射し走査電磁石31,32で走査された後、ビーム位置検出器33,線量モニタ34を通過して照射対象に到達し線量を付与して停止する。イオンビームが照射された照射対象からは、ガンマ線(即発ガンマ線)が放出される。ガンマ線検出器23は、ガンマ線を検出し、ガンマ線検出データをガンマ線検出器制御部53へ出力する。ガンマ線検出器制御部53は、受け取ったガンマ線検出データを、スライス番号,スポット番号と共に、照射野確認装置52に出力する。つまり、ガンマ線検出器制御部53は、ガンマ線検出データを受け取る毎に、それに対応するスライス番号及びスポット番号を付与し、これらを一組のデータとして照射野確認装置52に出力する。照射野確認装置52は、データを記憶装置(図示せず)に記憶する。なお、ガンマ線検出器制御部53の記憶装置(図示せず)に記録して、一括のデータとして照射野確認装置52に出力しても良い。
【0041】
ステップ106で出射中、照射装置制御部48は、線量モニタ34から受け取ったビーム線量信号をカウントして各スポットでの照射線量を求め、カウントした照射線量がスポットデータの目標線量に達したか否かを判断する。
【0042】
照射装置制御部48は照射線量が目標線量に達したと判断すると、ステップ107で加速器制御部47とガンマ線検出器制御部53へ出射停止信号を出力する。また、イオンビームの照射中、ビーム位置検出器33は位置検出信号を照射装置制御部48に出力する。照射装置制御部48は、位置検出信号に基づいてビーム位置を算出し、算出したビーム位置とスポットデータの照射位置との差が所定の閾値以下であることを確認する。
【0043】
ステップ108で出射停止信号を受信した加速器制御部47は高周波印加装置を制御して出射を停止する。高周波印加電極と高周波印加電源をつなぐスイッチを切り高周波の印加を停止することにより、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止する。また、ガンマ線検出器制御部53は、出射停止信号を受信するとガンマ線の測定を停止する。こうしてスライス番号1,スポット番号1の照射を完了する。
【0044】
ステップ109で照射装置制御部48は、スライス番号1のスポット数N1とスポット番号jを比較する。スポット番号jがスポット数に達しない場合、次のスポット番号j+1のスポットの照射を開始するためステップ103の動作を開始する。スポット番号jがスポット数N1に達した場合、照射装置制御部48は加速器制御部47へ減速信号を出力し、ステップ110で加速器制御部47はシンクロトロン4の電磁石を制御してシンクロトロン4内に残っているイオンビームを減速する。
【0045】
ステップ111でスライス番号iとスライス数Nを比較しスライス番号iがスライス数Nに達しない場合ステップ101に移り次のスライスi+1の照射準備を開始する。スライス番号iがスライス数Nに達すると照射完了となる。
【0046】
以上のようにイオンビームが照射野を形成するとき照射野からガンマ線が発生する。ガンマ線を検出し、ガンマ線の発生位置を特定することで、照射野の位置を確認することができる。イオンビームを照射中、ガンマ線検出器制御部53に対しスライス番号,スポット番号と共に出射信号,出射停止信号を送信し、ガンマ線を検出したとき照射中のスポットと検出したガンマ線を関連付ける。つまり、照射野確認装置52は、スライス番号及びスポット番号のようにイオンビームを識別できる情報と関連付けられたガンマ線検出信号を受け取り、スライス番号及びスポット番号(イオンビームの識別情報)に基づいて、ガンマ線検出信号を識別する。
【0047】
照射野確認装置52は、スライス番号とスポット番号に基づいてビーム進行方向に垂直な方向のイオンビームの照射位置を特定し、この照射位置情報とガンマ線検出信号から即発ガンマ線が発生した位置を特定して照射野を求める。
【0048】
照射野からガンマ線が発生する過程について説明する。ガンマ線は主に二つの過程から生成する。ひとつは制動放射によるもので、もうひとつは核反応によるものである。制動放射過程は荷電粒子が電磁場の影響により軌道を曲げられたことでガンマ線を放出する現象であり、比較的低いエネルギー(<1MeV)のガンマ線が発生する。核反応過程はイオンビームが照射対象を構成する原子核と核反応を起こす。核反応により照射対象の原子は励起状態に遷移し、その後、ガンマ線(即発ガンマ線)を放出して基底状態に遷移する。このとき放出されるガンマ線のエネルギーは1MeV〜10MeV程度と比較的高い。以下、1MeV未満のエネルギーのガンマ線を低エネルギーガンマ線、1MeV以上のエネルギーのガンマ線を高エネルギーガンマ線という。
【0049】
ガンマ線は光電吸収,コンプトン散乱,対生成の3つの過程で物質と反応する。3つの反応はガンマ線のエネルギーにより反応確率が異なり、数MeVのガンマ線が物質と相互作用する場合、コンプトン散乱過程が最も支配的な反応過程である。この理由から照射野から発生したガンマ線を測定するにはガンマ線検出器23としてコンプトン散乱反応を利用するコンプトンカメラが好ましい。
【0050】
本実施例では、ガンマ線検出器23として図9に示すコンプトンカメラを例にとって使用する。図9にコンプトンカメラの概念図を示す。
【0051】
コンプトンカメラ60は、第一検出部61と第二検出部62を備える。また、コンプトンカメラの第一検出部61と照射対象の間には吸収体64が取り付けられている。ガンマ線の検出面63は、第二検出部62から遠い面であり、検出面63からガンマ線が入射することを仮定する。第一検出部61は、キセノンなどの不活性ガスで満たされており、検出面63に高電圧がかけられている。第一検出部61と第二検出部62の境界面付近には格子状に電荷検出器(図示せず)が並べられている。第二検出部62はGSO結晶などの重いシンチレータが格子状に並べられている。吸収体64は、数mmの板状で検出面63に接している。吸収体64は、低エネルギーガンマ線を吸収して第一検出部61に入射するのを防ぐ。吸収体64は、原子番号の大きな材質が好ましく、特に、鉛またはタングステンが好ましい。原子番号が72以上で安定であり、常温で固体の金属が好ましく、特にその中で最も原子番号の大きな鉛が好ましい。また、鉛が使用できないような場合、比較的安価に入手可能なタングステンでも良い。本実施例の特徴はガンマ線検出器(コンプトンカメラ)と照射対象の間にこの吸収体64を備えたことである。なお、吸収体64は照射対象とガンマ線検出器の間に配置されていれば良く、ガンマ線検出器に接している必要はない。
【0052】
コンプトンカメラ60にガンマ線が入射すると、第一検出部61内でコンプトン散乱が起きる。図9の実線はガンマ線の軌跡を表し、点線は反跳電子の軌跡を現す。ガンマ線は、第一検出部61で散乱してエネルギーを損失し、第二検出部62に到達後、全てのエネルギーを損失し検出される。コンプトン散乱により散乱された反跳電子は、第一検出部61内の気体を電離しながら進む。第一検出部61内は電圧がかかっているため、電離した電子は第二検出部62の方向へ向かい、電荷検出器により検出される。
【0053】
第二検出部62でガンマ線が検出されてから電荷検出器で電子が検出されるまでの時間を測定することで、不活性ガスが反跳電子により電離された位置を特定することができる。以上により求められる反跳電子の軌跡からコンプトン散乱が起きた位置、反跳電子の反跳方向がわかり、電荷検出器で検出した総電荷より反跳電子のエネルギーがわかる。また、第二検出部62のデータから散乱ガンマ線の位置とエネルギーがわかる。運動量保存とエネルギー保存の法則を用いて計算することで、入射ガンマ線の入射した方向と位置とエネルギーがわかる。
【0054】
入射したガンマ線は第一検出部61でコンプトン散乱した後、第二検出部62に到達する必要がある。検出面63の端から入射した場合、第二検出部62に到達する前に検出器の外へ抜けてしまう可能性が高く、検出面中心が最も検出効率が良い。また、入射角度についても同様の理由により、検出面63に垂直に入射する場合が最も検出効率が良い。
【0055】
なお、第一検出部61,第二検出部62共にSi,CdTeなどの半導体検出器を使用することもできる。第一検出部61に半導体検出器を用いることで入射ガンマ線の第一検出部61での反応確率を向上することができる。また第二検出部62に半導体検出器を用いることで検出位置精度を向上することができる。
【0056】
照射野から発生したガンマ線は照射対象内と大気中を通過し、吸収体64に到達する。
【0057】
照射野から発生するガンマ線は制動放射による発生と核反応による発生があるため、ガンマ線のエネルギー分布は100keV以下の低いエネルギーから10MeV程度の高いエネルギーまで広がっている。ガンマ線が物質と反応する確率は低エネルギーほど高い。そのため、低エネルギーのガンマ線は、照射野で発生した後、ガンマ線検出器へ到達するまでに照射対象内などでコンプトン散乱反応等を起こし、その軌道を曲げられている可能性が高い。軌道が曲げられたガンマ線をガンマ線検出器により検出したとしても、その検出データからはガンマ線の正しい発生位置の情報を得ることができない。このように、低エネルギーガンマ線は、照射野を確認するにはノイズとなる。よって、高エネルギーのガンマ線を用いて照射野を再構成することが好ましい。
【0058】
ここで、吸収体とガンマ線との反応について説明する。吸収体64を設置することで、低エネルギーのガンマ線の多くは吸収体に吸収されてガンマ線検出器23に到達しなくなる。一方、高エネルギーのガンマ線の多くは吸収体に吸収されずガンマ線検出器に到達する。低エネルギーガンマ線は物質と光電吸収反応を起こす確率が高く、高エネルギーガンマ線はコンプトン散乱を起こす確率が高い。光電吸収反応は原子番号が大きい物質ほど反応を起こし易く、コンプトン散乱は物質の種類に因らず反応確率が一定となる性質がある。以上から、特に原子番号の大きな物質を材質に採用することで、この効果はより大きくなる。
【0059】
本来、高エネルギーガンマ線は吸収体と反応を起こさないことが好ましいが一定の割合で反応を起こす。原子番号の大きい材質を吸収体として用いることでより少ない高エネルギーガンマ線の損失で、より多くの低エネルギーガンマ線を吸収することができる。
【0060】
以上の説明のとおり、吸収体を設置することで、ノイズ成分となる低エネルギーガンマ線の多くがガンマ線検出器に入射することを抑制することができる。このことにより得られる効果を説明する。
【0061】
ガンマ線検出器が前記のコンプトンカメラの場合、入射ガンマ線のエネルギーを計測することができる。データ収集後、低エネルギーガンマ線の情報を排除して照射野の位置を算出することは可能である。しかし、コンプトンカメラ内でコンプトン散乱反応が起きた場合、反跳電子の軌跡上から電離電子が電荷検出器へ向かう。この電離電子が電荷検出器へ移動する間に検出器に入射したガンマ線は検出することができない。例えば低エネルギーガンマ線がガンマ線検出器内で反応を起こし、直後に高エネルギーガンマ線が入射すると高エネルギーガンマ線を検出することができない。このように低エネルギーガンマ線のガンマ線検出器への入射は信号となる高エネルギーガンマ線の計測数を削減してしまう。吸収体を設けて低エネルギーガンマ線がガンマ線検出器へ入射することを防ぐことにより、有効な信号となるガンマ線の検出数減少を防ぐことができる。信号数が多いことで照射野計測精度を高くすることができる。
【0062】
なお、吸収体の厚みはその材質により異なる。また、低エネルギーガンマ線と高エネルギーガンマ線の照射対象から放出される割合は照射野から照射対象表面までの距離に依存する。よって、吸収体の厚みは照射計画を参照し、照射野から照射対象表面までの距離に応じて設定することでより、信号とノイズの比を改善することができ照射野の位置計測精度を改善することができる。このため、吸収体は板状の構造を重ね合わせることで厚みを変更できるような構造とすることが好ましい。また、吸収体64は、ガンマ線検出器23の検出面63(第一検出部61)の全面を覆うように配置することが好ましい。このような構成により、ノイズとなる低エネルギーガンマ線がガンマ線検出器に入射することをより防ぐことができるようになる。
【0063】
また、エネルギーを計測できないようなガンマ線検出器を使用する場合、ガンマ線検出器で収集する信号に対するノイズの割合を削減することができる。ノイズの割合を減らすことで照射野位置の検出精度を高くすることができる。
【0064】
以上の通りガンマ線検出器により検出したガンマ線検出データから照射野を再構成する方法について説明する。
【0065】
イオンビームの照射中、照射装置制御部48は、ガンマ線検出器制御部53にスライス番号i,スポット番号jを送信する。また、照射装置制御部48は、出射信号及び出射停止信号をガンマ線検出器制御部53に送信する。ガンマ線検出器制御部53は、出射信号を受け取るとガンマ線の検出を開始し、ガンマ線検出データを収集する。ここで得られたガンマ線検出データは、スライス番号i,スポット番号jと共に照射野確認装置52に出力される。出射停止信号を受け取ると、データ収集を停止する。
【0066】
照射野確認装置52は、ガンマ線検出データに基づいて、ガンマ線検出器23へのガンマ線の入射位置,入射方向,エネルギーを求める。本実施例では、照射野確認装置52が求めたガンマ線のうち、エネルギーが1MeV〜10MeVのガンマ線検出データを有効なデータとする。照射野確認装置52はデータベース42から、スライス番号i,スポット番号jに対応した照射位置(Xij,Yij)を読み取る。図10に照射対象内にスポットを形成する様子を示す。ガンマ線の入射位置のZ座標をZ1、入射角度のX−Z平面への射影した角度をθ、ガンマ線検出器と照射位置の距離をLとする。Lはガンマ線検出器23の位置とXijから計算する。Zij=Z1+Lcosθを計算することで、ガンマ線の発生位置のZ座標を特定することができる。以上によりガンマ線の発生位置を(Xij,Yij,Zij)とする。
【0067】
ここで、データベース42に記録されている照射位置はスポットの中心位置を示すがスポットは有限の広がりを持っている。ガンマ線発生位置のX方向の位置はスポットの広がりの分だけ特定することはできないが、ガンマ線検出器と照射位置との距離に比べてスポットの広がりは十分に小さいため、スポット中心位置からガンマ線が発生したと仮定して計算できる。このようにして、照射野確認装置52は、取得したガンマ線検出データに基づいて、ガンマ線が発生した照射標的内の発生位置(Xij,Yij,Zij)を求め、その分布を作成することで照射野形状を再構成することができる。照射野確認装置52は、ガンマ線検出器23(コンプトンカメラ)からのガンマ線検出信号に基づいて、照射装置21から出射されたイオンビームによる照射野を求める。
【0068】
照射野確認装置52は、データベース42から照射前にCT装置40により撮影したCT画像と照射計画システム41が計算した線量分布を受信する。その後、ガンマ線検出データから求めた線量分布と照射計画システム41が計算した線量分布を、表示装置(図示せず)のCT画像上に表示する。オペレータ等は、計画した線量分布と実際の照射により形成された線量分布形状の違いを確認することができる。なお、照射野確認装置52が生成するデータは、線量分布形状に限定されず、深さ方向(ビーム進行方向)の最深部での照射位置に関するデータであっても良い。この場合、ガンマ線検出データに基づいて求められた最深部の照射位置と照射計画システム41が計算した照射位置を、表示装置のCT画像上に表示する。これにより、オペレータ等は、事前に計画した線量位置と実際の照射による照射最深部の違いを確認することができる。
【0069】
本実施例によれば、ガンマ線検出器の第一検出部61と照射対象の間に吸収体64を配置したため、1MeV未満の低エネルギーガンマ線がガンマ線検出器23に入射するのを防ぐことができる。また、照射野の確認に有効な1MeV以上の高エネルギーガンマ線は、吸収体を通過してガンマ線検出器23に入射する。このため、照射野の確認に有効な1MeV以上の高エネルギーガンマ線をより多く検出でき、照射野の位置を精度良く求めることができる。また、ガンマ線のバックグラウンド(ノイズ)に対する有効な信号の割合を多くでき、さらに照射野の位置を精度良く測定することができるようになる。
【0070】
本実施例では、吸収体64がガンマ線検出器に接するように配置されているため、吸収体をガンマ線検出器に固定でき、設置するのが容易となる。本実施例によれば、吸収体64の厚みを可変にできるため、各照射対象に適した吸収体を設置でき、有効な信号に対するノイズの割合を更に低くすることができる。これにより、より正確な照射野を測定することができる。
【0071】
なお、本実施例はスポットスキャニング法により照射野を形成した場合について記載したが他の照射野形成方法についても同様に適用することができる。他の照射野形成方法については非特許文献2に記載がある。
【0072】
また、本実施例は荷電粒子ビーム発生装置としてシンクロトロンを用いた場合について説明したが、サイクロトロンでも同様に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の好適な一実施形態である荷電粒子ビーム照射システムの全体概略構成を表す図である。
【図2】図1に示した荷電粒子ビーム照射システムに備えられる治療室の構成を示す概念構成を表す図である。
【図3】図2に示した荷電粒子ビーム照射システムに備えられる照射装置の構成を示す横断図面である。
【図4】図2に示した照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる深さ方向の線量分布を示す図である。
【図5】図2に示した照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる横方向の線量分布を示す図である。
【図6】図1に示したデータベースに記憶される照射パラメータを示す概念図である。
【図7】図2に示した照射対象にイオンビームを照射した場合に得られるスポットの様子を示した概念図である。
【図8】照射する手順を示したブロック構成図である。
【図9】図2に示したガンマ線検出器の構成を示す横断図面である。
【図10】図2に示した照射対象にイオンビームを照射した場合に得られるスポットの様子を示した概念図である。
【符号の説明】
【0074】
1 荷電粒子ビーム発生装置
2 ビーム輸送系
3 ライナック
4 シンクロトロン
5 高周波印加装置
6 加速装置
7 制御システム
11 出射用デフレクタ
12 ビーム経路
14,15 偏向電磁石
16 U字状偏向電磁石
17 治療室
18 ガントリー
21 照射装置、
22a 第1のX線撮像装置
22b 第2のX線撮像装置
23 ガンマ線検出器
24 カウチ
25 照射対象
26,28 FPD
27,35 X線発生装置
31,32 走査電磁石
33 ビーム位置検出器
34 線量モニタ
36 X線発生装置用レール
37 照射標的
40 CT装置
41 照射計画システム
42 データベース
43 機器制御システム
44 位置決めシステム
45 照射野確認システム
46 中央制御装置
47 加速器制御部
48 照射装置制御部
49 位置決め装置
50 X線装置制御部
51 カウチ制御部
52 照射野確認装置
53 ガンマ線検出器制御部
60 コンプトンカメラ
61 第一検出部
62 第二検出部
63 検出面
64 吸収体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビームを照射対象に出射する照射装置と、
前記照射対象から発生する即発ガンマ線を検出するコンプトンカメラと、
前記照射対象と前記コンプトンカメラとの間に配置され、1MeV未満のエネルギーの前記即発ガンマ線を吸収する吸収体と、
前記コンプトンカメラからのガンマ線検出信号に基づいて、前記荷電粒子ビームの照射による照射野形状を求める照射野確認装置とを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
前記吸収体は鉛又はタングステンを材質としたことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
前記吸収体は板状であることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
前記板状の吸収体は、少なくとも前記コンプトンカメラの検出面を覆うことができることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
前記吸収体は、前記コンプトンカメラの検出面に接して配置されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
前記吸収体はその厚みが可変であることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−12056(P2010−12056A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175175(P2008−175175)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】