説明

荷電粒子検出方法、これを用いる荷電粒子制御方法

【課題】非接触ないし非破壊の状態を保ちながら、高S/N比にて荷電粒子を検出する。
【解決手段】荷電粒子検出方法において、正方晶系結晶12の内部にレーザ光10を照射する段階と、正方晶系結晶12を通過するレーザ光10を、外部を通過する荷電粒子によって生じる電場により正方晶系結晶12の内部に電気光学的に生じる屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じている光成分とこの光学的位相変化が生じていない光成分とに分離する段階と、分離された光学的位相変化が生じている光成分を検出することによって、前記荷電粒子を検出する段階とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素粒子やイオンを含む荷電粒子の通過、入射などを検出する荷電粒子検出方法とこれを用いる荷電粒子制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基礎物理学から応用工学の分野に至るまで幅広い技術分野において、素粒子やイオンを含む荷電粒子の通過や入射、さらには、その通過位置や軌道、エネルギーを検出する各種の荷電粒子検出方法が求められている。
【0003】
例えば、基礎物理学におけるニュートリノ質量の測定問題において、ニュートリノの質量を直接的に測定する手法として示されたトリチウムベータ崩壊における電子の終点エネルギー測定は重要となる他、残存ニュートリノを直接測定するという観点からも、エネルギー測定の分解能を高めることが重要となる。
【0004】
従来の荷電粒子検出方法としては、荷電粒子が検出器内の媒体に入射したときにその媒体をイオン化させる現象を利用し、そのイオン化の結果生じたイオンや電子の量を電気的に増幅して検出するものが一般的である(特許文献1)。すなわち、従来の荷電粒子検出方法では、荷電粒子が検出器媒体を非弾性的に励起する過程を利用している。このような従来手法によれば、荷電粒子の存在および位置を検出するだけでなく、荷電粒子の移動速度ないし時間やイオン化の結果生じたイオンや電子の量を検出することによって、そのエネルギーを数値化して検出することが可能となっている。
【特許文献1】特開平6−34759号公報(公開日:平成6年2月10日)
【非特許文献1】Y.K.Semertzidis et al.「Electro-optical detection of charged particles」Nucl.Instrum. Meth.A452: 396-400,2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の荷電粒子検出方法においては、その原理上、エネルギー分解能を、検出器内のイオン化に必要な最低エネルギーである1電子ボルト(eV)程度より改善することは困難であった。
【0006】
また、上記従来の荷電粒子検出方法においては、検出器内の媒体をイオン化した後、そのイオン量などを電気的に増幅する過程に時間的な揺らぎが含まれるので、粒子の検出時刻測定における時間分解能にも限界が生じており、例えば、10ps程度が限界程度の時間分解能の限界となっていた。
【0007】
さらには、上記従来の荷電粒子検出方法では、荷電粒子が媒体をイオン化させるときに、そのイオン化過程によって、必然的に荷電粒子のエネルギーや運動量が変化するので、同一の荷電粒子のエネルギーや運動量を繰り返し測定することはできなかった。
【0008】
他方、このようなイオン化過程の利用によって生じる問題を回避する従来技術として、荷電粒子が結晶内に入射するときの電気光学効果を利用することによって、結晶表面を通過するときの荷電粒子のエネルギーを測定する手法が知られている(非特許文献1)。具体的には、ポッケルス効果を有する結晶(LiNbO)に、電子10個程度の短い電子束を入射し、この電子束が発生する電場によって結晶内に瞬間的に生じる屈折率の変化を、この結晶に走査入射するレーザ光の偏光状態の変化として測定することが開示されている。
【0009】
ここで、電気光学効果とは、透明な固体や液体に電場を加えたとき、電場に起因する屈折率変化が生じる効果のことを意味しており、屈折率変化が電場の強さに比例するポッケルス効果の他、屈折率変化が電場の強さの2乗に比例するカー効果などが知られている。ポッケルス効果を表す電気光学テンソルは、圧電効果を表す圧電定数テンソルと同じ構造の3階テンソルであるので、圧電性を示す対称性の結晶に限ってポッケルス効果が現れるのに対して、カー効果はすべての対称性の物質で観測される。
【0010】
非特許文献1では、電子束のエネルギーに影響を与えずに、当該電子束のエネルギーを測定することに成功している。そして、このような電気光学効果を利用した荷電粒子検出方法によれば、イオン化過程のように荷電粒子のエネルギーや運動量をほとんど変化させることがないので、異なる位置の各センサ素子において検出された同一荷電粒子の検出時間差、すなわち、荷電粒子の移動時間(飛行時間=Time of Flight)を測定することによって、荷電粒子の速度ないしエネルギーを精度良く検出することが可能となる。なお、飛行時間測定法では、各センサ素子を荷電粒子が通過する時間を測定するときの時間分解能が、最終的なエネルギー分解能を左右することになる。
【0011】
しかしながら、実際には、結晶内に瞬間的に生じる屈折率の変化をこの結晶に走査入射するレーザ光の偏光状態の変化として測定するにあたっては、S/N(Signal/Noise)比が著しく悪くなることが知られており、例えば、S/N=10−10程度となると考えられている。上記従来の荷電粒子検出方法によっては、例えば、単一の荷電粒子やそのエネルギーを的確に検出することは困難であった。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、荷電粒子のエネルギーや運動量を大きく変化させることなく、高S/N比で荷電粒子を検出することのできる荷電粒子検出方法、これを用いる荷電粒子制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る荷電粒子検出方法は、外部を通過する荷電粒子によって生じる電場により結晶の内部に電気光学的に生じる屈折率変化を検出することによって、荷電粒子を検出する荷電粒子検出方法であって、前記結晶の内部に光を照射する光照射段階と、前記光照射段階に照射されて結晶を通過する光を、前記屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じている光成分と、前記屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じていない光成分とに分離する光成分分離段階と、前記分離段階にて分離された光学的位相変化が生じている光成分を検出することによって、前記荷電粒子を検出する荷電粒子検出段階とを備えることを特徴としている。
【0014】
本明細書における荷電粒子の形態は特に限定されるものではなく、電子やニュートリノなどの素粒子、その原子量や分子量の大小にかかわらず、各種のイオン原子やイオン分子など任意の荷電粒子を意味している。
【0015】
また、上記の構成における光としては、特定のプロファイルを持ち位相のそろった、すなわち可干渉な光を用いることが好ましい。このような光としては、レーザ光が代表的なものであるが、物質内の屈折率変化に応じてその位相が変化するものであれば、各種の光を利用することができる。
【0016】
上記の構成によれば、正方晶系結晶の外部を荷電粒子が通過したときのみ、正方晶系結晶の内部に電気光学的に生じる屈折率変化が生じる一方、光照射段階にて正方晶系結晶の内部に照射された光の一部は、この屈折率変化によってその光学的位相が変化する。
【0017】
そして、光成分分離段階にて、正方晶系結晶を通過する光が光学的位相変化が生じている光成分と光学的位相変化が生じていない光成分とに分離され、荷電粒子検出段階にて、光学的位相変化が生じている光成分が検出される。なお、光成分分離段階における上記光成分の分離は完全なものである必要はなく、分離された少なくとも一つの光成分が分離前の光よりも光学的位相変化が生じている割合を高めるような分離であればよい。
【0018】
上記構成の荷電粒子検出方法によれば、荷電粒子の運動に直接的な影響を与えることなく、正方晶系結晶の内部に生じる屈折率変化を的確にとらえることができるので、非接触ないし非破壊の状態で荷電粒子を検出することが可能になる。したがって、その運動状態を変化させることなく、同一の荷電粒子を繰り返し測定することが可能となる。
【0019】
そして、上記構成の荷電粒子検出方法によれば、正方晶系結晶を通過する光のうち、検出のバックグラウンドノイズとなる光学的位相変化が生じていない光成分を分離して、光学的位相変化が生じている光成分を効果的に検出することができるので、高S/N比で荷電粒子を検出することが可能となる。
【0020】
さらに、上記の構成によれば、上記の作用効果に加えて、正方晶系結晶の内部の電気光学的な変化を検出することに基づいて荷電粒子を検出するので、媒体のイオン化現象に基づいて荷電粒子を検出する従来手法と比較してより高速な荷電粒子の検出を実現することができる。
【0021】
また、本発明に係る荷電粒子検出方法は、上記の構成において、前記光成分分離段階では、回折機能を有するレンズを用いることによって、前記光照射段階に照射されて結晶を通過する光を、前記光学的位相変化が生じている光成分と、前記光学的位相変化が生じていない光成分とに空間的に分離することが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、例えば、長方形回折格子を備えた凸レンズを用いることによって、正方晶系結晶を通過する光が、凸レンズの焦点面において、光学的位相変化が生じている光成分と、光学的位相変化が生じていない光成分とに空間的に分離される。
【0023】
それゆえ、上記の作用効果に加えて、前記荷電粒子検出段階において、光学的位相変化が生じている光成分が検出することが容易となる。例えば、光学的位相変化が生じている光成分が分離された位置にのみに検出器を備えたり、光学的位相変化が生じていない光成分をマスクなどで遮断して検出しないようにしたりすることが容易となる。
【0024】
また、本発明に係る荷電粒子検出方法は、外部を通過する荷電粒子によって生じる電場により結晶の内部に電気光学的に生じる屈折率変化を検出することによって、荷電粒子を検出する荷電粒子検出方法であって、前記結晶は、異なる位置に配置された複数の正方晶系結晶であり、前記複数の結晶の内部に光を照射する光照射段階と、前記光照射段階に照射されて各結晶を通過する光を、前記屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じている光成分と、前記屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じていない光成分とに分離する光成分分離段階と、前記分離段階にて分離された各結晶の屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じている光成分を検出することによって、各結晶における前記荷電粒子が通過するときの時間情報を特定し、これら時間情報に基づいて、前記荷電粒子の速度、運動量、エネルギー、スピン情報の少なくとも一つを検出する荷電粒子検出段階とを備えることを特徴としている。
【0025】
上記の構成における荷電粒子や光の形態、光成分の分離の意義については、前述と同様である。
【0026】
上記の構成によれば、各正方晶系結晶の外部を荷電粒子が通過したときのみ、各正方晶系結晶の内部に電気光学的に生じる屈折率変化が生じる一方、光照射段階にて各正方晶系結晶の内部に照射された光の一部は、この屈折率変化によってその光学的位相が変化する。
【0027】
そして、光成分分離段階にて、各正方晶系結晶を通過する光が光学的位相変化が生じている光成分と光学的位相変化が生じていない光成分とに分離され、荷電粒子検出段階にて、光学的位相変化が生じている光成分が検出され、荷電粒子検出段階にて、分離された光学的位相変化が生じている光成分を検出することによって、各正方晶系結晶における前記荷電粒子が通過するときの時間情報が特定される。さらに、これら時間情報に基づいて、前記荷電粒子の速度、運動量、エネルギーの少なくとも一つが検出される。
【0028】
上記構成の荷電粒子検出方法によれば、上記の作用効果に加えて、荷電粒子の運動に直接的な影響を与えることなく、荷電粒子が複数箇所を通過するときの時間情報に基づいて、荷電粒子の速度、運動量、エネルギーを検出することができるので、これら検出値を、誤差の少ない高精度のものとすることができる。
【0029】
また、本発明に係る荷電粒子検出方法は、上記の構成において、前記結晶は、正方晶系結晶であることが好ましい。さらに、前記正方晶系結晶は、点群4−bar2mに属する一軸性結晶であることが好ましい。
【0030】
4−bar2mに属する一軸性の正方晶系結晶の例としては、KHP(KHPO)、DKDP(KDPO)、EKDPなどが挙げられる。
【0031】
4−bar2mに属する一軸性結晶を採用する第1の利点は、外場がない状態では全く偏光を回転させないx−y面をもつ一方、このx−y面に垂直に作用する外場に対しては屈折率楕円体が45度回る面を有するので、直線偏光子を通した後、位相変化のない部分からの漏れ光を最小にしつつ、位相変化部分のみから漏れてくる光量を大きく取り出せることである。
【0032】
4−bar2mに属する一軸性結晶を採用する第2の利点は、常温に近い構造相転移温度において、電気光学係数が3桁程度向上する結晶が知られており、このような結晶を採用することによって、検出の感度を向上させることができることである。
【0033】
本発明に係る荷電粒子制御方法は、前記の荷電粒子検出方法を用いて前記荷電粒子の運動状態を制御する荷電粒子制御方法であって、前記荷電粒子検出段階にて検出した荷電粒子の速度、運動量、エネルギー、スピン情報の少なくとも一つに基づいて、前記荷電粒子の運動状態の制御量を決定することを特徴としている。
【0034】
上記の構成において、前記荷電粒子の運動状態の制御量を決定するとは、荷電粒子検出方法の検出対象となった荷電粒子そのものの運動状態の制御量を決定することだけではなく、複数の荷電粒子を生成する場合(例えば、荷電粒子ビームの生成)において、そのうちの一つの荷電粒子の速度、運動量、エネルギーの検出結果に基づいて、その他の荷電粒子の運動状態、例えばエネルギーなどの制御量(外部から付与するビームエネルギーの増減値など)を決定することを含むものとする。
【0035】
上記の構成によれば、前記の荷電粒子検出方法を利用した高精度の検出結果に基づいて、前記荷電粒子の運動状態を制御することができるので、荷電粒子の速度、運動量、エネルギーなどの運動状態を高精度で制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る荷電粒子検出方法によれば、非接触ないし非破壊の状態を保ちながら、高S/N比にて荷電粒子を検出することができる。
【0037】
また、本発明に係る荷電粒子制御方法によれば、荷電粒子の速度、運動量、エネルギーの高精度の検出結果に基づいて、荷電粒子の運動状態を高精度で制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態にかかる荷電粒子検出システム1の概略構成を示す概念図である。同図に示すとおり、荷電粒子検出システム1は、前段プリズム11、正方晶系結晶12、後段プリズム13、凸レンズ14、レンズ焦点面15、光ファイバー束16、マスク17、受光素子18を備えている。
【0040】
前段プリズム11と後段プリズム13は、前段プリズム11の偏光方向がy軸方向、後段プリズム13の偏光方向がx軸方向となるよう、両者の偏光方向をほぼ直交させるように配置する。ここでは、両者の偏光方向がなす角度を89度程度に設定し、前段プリズム11および後段プリズム13の消光比が零とならないようにしておく。
【0041】
正方晶系結晶12は、電場センサとしての機能を果たすものであって、電気光学効果を有する一軸性結晶のうち点群4−bar2mの正方晶系結晶、例えば、KHP(KHPO)、DKDP(KDPO)、EKDPなどからなっている。
【0042】
正方晶系結晶12は、x−y面内に均質な屈折率をもつように、点群4−bar2mの正方晶系結晶を配置するものとする。正方晶系結晶12は、後述する光学的位相の変化が大きくなるように、構造相転移点近傍の温度まで冷却して、その電気光学係数を増大させた状態で用いることが好ましい。ここでは、最良の結晶の候補として、DKDP(KDPO)を採用する。DKDP結晶は、構造的な相転移点である−64℃よりすぐ上の温度で、電気光学テンソルが例外的に高く扱いやすいからである。DKDP結晶は、市販品として広く入手可能であって、安価に、大寸法の結晶を入手することができる。
受光素子18としては、フォトダイオード、光電子増倍管、CCDなど、その感度や特性に応じて任意の受光デバイスを採用することができる。
【0043】
図1における荷電粒子検出システム1の荷電粒子検出動作の流れについては、以下のようになる。
【0044】
まず、図1において、断面の光強度が標準分布からなるレーザ光10を、x−y平面内で走査しながらz軸方向に沿って前段プリズム11に入射する。レーザ光10の波長は、正方晶系結晶12として選択した正方晶系結晶における電気光学係数の波長依存性に応じて設定することが好ましい。例えば、正方晶系結晶12としてDKDPを採用する場合には、レーザ光10の波長は546nm程度とすることが好ましい。
【0045】
レーザ光10は、前段プリズム11を通過することによって、レーザ光10はy軸方向に直線偏光となる。y軸方向に直線偏光となったレーザ光10が、正方晶系結晶12に入射される。前述のとおり、正方晶系結晶12は、x−y面内に均質な屈折率をもつように配置しているので、荷電粒子が正方晶系結晶12に入射していない状態においては、正方晶系結晶12から出射するレーザ光10の偏光状態は、レーザ光10の走査位置にかかわらず一様となる。
【0046】
他方、正方晶系結晶12の近傍を荷電粒子が任意の方向から入射すると、その荷電粒子の運動によって生じる結晶内の電場に起因して電気光学効果が生じる。この結果、正方晶系結晶12における常光線の屈折率と異常光線の屈折率からなる2つの主屈折率は部分的に変化して、正方晶系結晶12のx−y面内における屈折率は均一でなくなる。例えば、図2に示すように、x軸に沿って動く荷電粒子によって生じる電場が、正方晶系結晶12のz軸方向にかかると、正方晶系結晶12におけるx軸方向とy軸方向との間に屈折率の差が生じ、さらにz軸の周りに45度回転した屈折率楕円体が埋め込まれた状態となる。
【0047】
このような屈折率変化が生じている正方晶系結晶12において、通過する荷電粒子の近傍に入射されたレーザ光10は、光学的位相差の発生によってその偏光方向が回転する一方、荷電粒子から離れた位置に入射されたレーザ光10は、荷電粒子が発生する電場の影響を受けないので光学的位相差が生じず、その偏光方向は回転しない。なお、荷電粒子の通過によってどの程度の位相差が変化するかについては、本明細書の末尾に説明を記しておく。
【0048】
そうすると、正方晶系結晶12から出射したレーザ光10のうち、後段プリズム13を通過するのは、正方晶系結晶12にて荷電粒子の近傍を通過してその偏光方向が回転されたレーザ光10である。
【0049】
すなわち、正方晶系結晶12における荷電粒子の通過位置近傍から出射するレーザ光10は、偏光方向が回転された光成分と、その周囲の偏光方向が回転していない漏れ光成分とは、後段プリズム13によってほぼ分離される。このように、ほぼ直交する偏光子(前段プリズム11)および検光子(後段プリズム13)によって異なる偏光成分を分離する機構ないし原理は、TN方式などの液晶パネルと同様である。
【0050】
実際には、後段プリズムからは、荷電粒子の軌跡近傍以外からのわずかとは言えない漏れ光が存在する。すなわち、前段プリズム11および後段プリズム13の消光比は零ではないから、正方晶系結晶12にて荷電粒子から離れた位置を通過してその偏光方向が変化していないレーザ光10も僅かながら「漏れ光」として後段プリズム13を通過することになる。
【0051】
荷電粒子検出システム1は、この漏れ光を積極的に利用し、凸レンズ14によって、偏光方向が回転された光成分と偏光方向が回転していない漏れ光成分とを干渉させることによって、これら光成分を空間的に分離するものである。具体的には、荷電粒子検出システム1は、荷電粒子の軌跡近傍以外の漏れ光を分離するために、後段プリズム13の通過光を、図3(a)に示すような長方形状のスリットを透過した光を凸レンズ14で回折させ、その焦点面におけるフーリエ変換機能を利用する。ここで、長方形状のスリットとは、結晶中において電場の影響が残る部分、すなわち位相変化部分の形が、結晶中で近似として長方形で表されるという意味である。その焦点面におけるフーリエ変換機能を利用する。
【0052】
図3(b)は、図3(a)に示すような長方形状の位相変化を含む透過光を凸レンズ14によって回折させた後、レンズ焦点面15に結ばれる像(光の強度分布)の様子をシミュレーションしたものである。すなわち、図3(a)(b)は、定性的に長方形開口のフーリエ変換像の特徴を解析的に示している。
【0053】
凸レンズ14は、入力された光の振幅を所定の焦点距離だけ離れたレンズ焦点面15に伝達する。凸レンズ14の口径は、回折パターン全体の大きさと比較して、十分に大きいものとすることが好ましい。なぜなら、レンズの辺縁自体が開口になっては不都合なので、レーザの径を、レンズ径に比べて十分に小さくすることが好ましいからである。
【0054】
後段プリズム13の通過光のうち、正方晶系結晶12にて荷電粒子の近傍を通過してその偏光方向が回転されたレーザ光10は球面波となっており、図3(a)の長方形状の位相変化部分を透過した光が凸レンズ14で回折するとき、その像はスリット幅に反比例するように光軸中心から離れていくことになる。それゆえ、図3(b)において、レンズ焦点面15において、正方晶系結晶12にて荷電粒子の近傍を通過しその偏光方向が回転されたレーザ光10は、図3(a)の長方形開口スリットを90度回転したような領域に結像している。
【0055】
これに対して、後段プリズム13の通過光のうち、正方晶系結晶12にて荷電粒子の近傍以外を通過しその偏光方向が回転していないレーザ光10は一様な平面波となっており、図3(a)の長方形開口スリットを備えた凸レンズ14を通過すると、レンズ焦点面15にて光軸中心に収束し、その収束幅は焦点距離に比例するものとなる。それゆえ、図3(b)において、レンズ焦点面15において、正方晶系結晶12にて荷電粒子の近傍以外を通過しその偏光方向が回転していないレーザ光10(漏れ光)は、図3(a)の中心付近に局在化して像を結ぶことになる。
【0056】
したがって、レンズ焦点面15において、光軸中心に収束する部分以外の領域に所定レベル以上の強さの結像光が得られた場合を判定することによって、正方晶系結晶12に荷電粒子が入射したことを効果的に検出することが可能となる。
【0057】
そこで、図1において、凸レンズ14の通過光を、レンズ焦点面15に備えた光ファイバー束16およびこれに結ばれた受光素子18にて検出されるが、これら光ファイバー束16と受光素子18との間に、レンズ焦点面15における凸レンズ14の光軸中心付近を遮る形状のマスク17を設けている。
【0058】
なお、凸レンズ14の焦点距離と光ファイバー束16を構成する光ファイバーの直径を適宜設計することによって、光軸中心に収束する遮断すべき光を、光ファイバー束16を構成する一本の光ファイバー内に閉じ込めた上で、この一本の光ファイバーの出力端に設けた金属製のマスク17によって遮断する構成としてもよいし、ファイバーがフレキシブルなものであれば、その高強度光を含むファイバー部分のみを別の空間に逃してもよい。
【0059】
これにより、凸レンズ14を通過して、光ファイバー束16に入射する光のうち、レンズ焦点面15の光軸中心付近の光、すなわち正方晶系結晶12における荷電粒子軌跡の近傍以外を通過した平面波としてのレーザ光10を遮る一方、レンズ焦点面15の光軸から離れたスリット形状の光、すなわち正方晶系結晶12における荷電粒子軌跡の近傍を通過した球面波としてのレーザ光のみを受光素子18に受光させることができる。
【0060】
図4は、レンズ焦点面15に結ばれる像(光の強度分布)の様子をシミュレーションしたものである。図4(A)に示す正方晶系結晶12における荷電粒子軌跡の近傍以外を通過した平面波としてのレーザ光10(漏れ光)と正方晶系結晶12における荷電粒子軌跡の近傍を通過した球面波としてのレーザ光(電子線)との 両者の強度分布から、図4(B)に示す正方晶系結晶12における荷電粒子軌跡の近傍以外を通過した平面波としてのレーザ光10(漏れ光)の強度分布をバックグラウンドノイズとして引くと、図4(C)に示すように荷電粒子軌跡の近傍を通過した球面波としてのレーザ光を効果的に抽出することができる。図4(D)は、光軸中心付近を遮るマスク17によって、S/Nが高い領域のみのシグナルを取り出せる様子を示している。
【0061】
このような構成により、光軸中心に収束する部分以外の領域に所定レベル以上の強さの結像光が得られた場合を判定することによって、正方晶系結晶12の近傍を荷電粒子が通過したことを効果的に検出することが可能となる。
【0062】
すなわち、荷電粒子検出システム1によれば、正方晶系結晶12を通過するレーザ光10のうち、荷電粒子の軌跡とは無関係であって検出のバックグラウンドノイズとなる光を遮りながら、荷電粒子の軌跡に起因する光を効果的に検出することができるので、高S/N比にて、正方晶系結晶12の近傍を通過した荷電粒子を検出できる。荷電粒子検出システム1によれば、既存の要素技術を利用することによって、単一の荷電粒子を高精度で検出することも困難ではない。
【0063】
また、荷電粒子検出システム1は、光ファイバー束16における各光ファイバーからの光の強度分布を2次元的に解析することによって、正方晶系結晶12における荷電粒子軌跡のx−y平面への射影を特定することができる。なぜなら、荷電粒子は、正方晶系結晶12の表面近傍を通過する際、ほとんど軌道を曲げず直進するので、その軌跡はx−y面内で直線を描くと考えられるが、その軌跡に対して直交する方向に、レンズ焦点面15における前述の干渉パターンが生じるからである。
【0064】
さらに、荷電粒子検出システム1は、荷電粒子の検出時刻を記録する構成を備えており、連続的に荷電粒子の存在とその検出時刻を記録することができる。
【0065】
そして、荷電粒子検出システム1は、シュテルンゲルラッハタイプのスピン測定にも利用できる。例えば、電子が物質中で非弾性散乱をしてしまうと、入射電子のスピン情報を測定するには、通常、高エネルギー電子の散乱断面積のスピン依存性を観測するしかない。
【0066】
しかし、仮に電子のスピンと運動量方向を直交させて不均一磁場中を通過させると、荷電粒子軌道がスピンの向きによって空間的に離散化してずれるので、そのずれ量から、スピンの同定が可能になる。このタイプのスピン測定の特徴は、スピン同定率がほぼ100%になることである。すなわち、荷電粒子検出システム1を利用すれば、非破壊測定であるが故に、単一電子の速度を観測しつつ、上記のスピン測定を接続することが可能になり、単一電子の速度とスピンとを同時測定することができる。このスピン測定手法は、速度が非常に遅い電子に対しても有効である。
【0067】
本実施形態における最後の説明として、参考のために、本実施形態の荷電粒子検出システム1における典型的な設計パラメータ例を示しておく。
【0068】
a,レーザ光10の断面における光強度分布の標準偏差:σ=500[μm]
b,レーザ光10の全強度:I=1[mW]程度(1016個程度の光子数に対応)
c,レーザ光10のピーク強度:A=I/(2πσ
d,レーザ光10の1秒当たりのパルス継続時間:τ=1.0(例えばCWレーザ)
e,レーザ光10の波長:λ=0.532[μm]
f,凸レンズ14の焦点距離:f=5[mm]
g,前段プリズム11と後段プリズム13との消光比:ε=10−6
h,正方晶系結晶12の表面と通過電子(荷電粒子)との距離:R=400λ
i,電子(荷電粒子)の運動エネルギー:E=10[eV]
j,相対論的な電子の速度(光速との比):β=0.00625
k,−64℃における正方晶系結晶12(DKDP)の電子光学テンソル:r63=2.4×10[pm/V]
l,電子(荷電粒子)の通過によって生じる正方晶系結晶12におけるレーザ光10の位相遅延:δΓ=5.97×10−4
m,電子(荷電粒子)の通過による電場作用時間(衝撃時間):τ=113[ps]
n,入射以前の凸レンズ14において、電子の速度により実効的に期待される結晶中の位相変化部分を長方形に近似した場合のスリットの寸法:2μ×2ν=2×106[μm]×2×163[μm]。
【0069】
〔実施の形態2〕
次に、実施形態1の荷電粒子検出システム1を、アレイ状に多数配設することによって、荷電粒子の速度ないしエネルギーを高精度に検出するシステム構築例を提案する。図5は、その概念図を示している。
【0070】
図5は、トリチウムなどの核種のベータ崩壊における電子の終点エネルギーを測定するためのシステム構成例である。ベータ崩壊核種から放出された電子は、ソレノイド磁場に拘束されながら、図中右方向に軌道を描く。レーザ光10として連続レーザ光を用いる最初の荷電粒子検出システム1によって、電子が検出されると、この荷電粒子検出システム1から短パルス発生用のトリガー信号が生成される。そして、この短パルス発生用トリガー信号に基づいて、単一短パルスレーザが空間的に多重分岐され、光学的距離により各々異なった時間差をつけられた状態で、検出器要素アレイとして多数配列された荷電粒子検出システム1群に入射される。なお、多重分岐するパルスレーザの時間差は、あらかじめ想定される概算の電子速度に基づいて設定しておく。
【0071】
このような構成によれば、電子の位置や軌跡を検出することが可能となるうえ、各荷電粒子検出システム1間の距離と各荷電粒子検出システム1における電子の検出時刻とに基づいて、電子の移動時間(飛行時間=Time of Flight)を測定し、この荷電粒子の速度ないしエネルギーを精度良く検出することが可能となる。前述のとおり、荷電粒子検出システム1によれば、荷電粒子の運動に影響を与えることなく、その通過時刻や位置に関する情報を取得できるので、荷電粒子の同一物理量を精度よく繰り返し測定することが可能となっているからである。
【0072】
なお、図5の構成例における電子(荷電粒子)の速度測定の時間分解能は、受光素子18(図1参照)の時間分解能ではなく、走査入射されるパルスレーザの時間幅と正方晶系結晶12(図1参照)の電場応答時間によって定まる。なぜなら、各荷電粒子検出システム1は、パルスレーザが入射されており、かつ、入射した電子(荷電粒子)が電場の影響が保持されているときにのみ、電子(荷電粒子)の検出シグナルを得るからである。したがって、パルスレーザのパルス幅を短くしたり、正方晶系結晶12の電場応答時間(立ち上がり時間や緩和時間)を短くしたりすることによって、電子(荷電粒子)の速度測定の時間分解能を向上させることができる。既存の要素技術を利用することによって、時間分解能をフェムト秒のオーダで得ることも困難ではない。例えば、ほぼ光速で飛ぶ荷電粒子に対して、30mm程度のレーザ径で観測した場合、その限界時間分解能として、少なくとも100fs程度が得られると考えられる。
【0073】
本実施形態における最後の説明として、参考のために、本実施形態のシステム構築例における典型的な設計パラメータ例を示しておく。
【0074】
a,パルスレーザの断面における光強度分布の標準偏差:σ=100[μm]
b,パルスレーザの全強度:I=1[mW]程度(1016個程度の光子数に対応)
c,パルスレーザのピーク強度:A=I/(2πσ
d,パルスレーザの1秒当たりのパルス継続時間:τ=10−8(10ns)
e,パルスレーザのレーザ波長:λ=0.532[μm]
f,凸レンズ14の焦点距離:f=5[mm]
g,前段プリズム11と後段プリズム13との消光比:ε=10−6
h,正方晶系結晶12の表面と通過電子(荷電粒子)との距離:R=10λ
i,電子の運動エネルギー:E=10[eV]
j,相対論的な電子の速度(光速との比):β=0.00625
k,−64℃における正方晶系結晶12(DKDP)の電子光学テンソル:r63=2.4×10[pm/V]
l,電子の通過によって生じる正方晶系結晶12におけるパルスレーザの位相遅延:δΓ=0.0239×10−4
m,電子(荷電粒子)の通過による電場作用時間(衝撃時間):τ=2.8[ps]
n,入射以前の凸レンズ14において、電子の速度により実効的に期待される結晶中の位相変化部分を長方形に近似した場合のスリットの寸法:2μ×2ν=2×2.7[μm]×2×4.1[μm]
〔本発明の適用例〕
以下、本発明の荷電粒子検出方法および荷電粒子制御方法の適用ないし応用例を示しておく。
【0075】
図6は、薄膜照射によるイオン発生と同時に、荷電粒子検出システム1によってそのイオンビームのエネルギーをeV未満のエネルギー分解能で検出ないし制御することによって、高精度にエネルギー制御されたイオンビームをDNA上の特定分子鎖に照射、切断するイオンビーム照射装置の概念図を示している。このような構成を採用すれば、DNAの研究、例えば、DNAの修復機能を研究するために特定の分子鎖のみを切断したい場合に、イオンビームのサイズに加えて、そのエネルギー状態を量子エネルギーレベルで精密に指定することが可能になると考えられる。
【0076】
もちろん、図6のイオンビーム照射装置がイオンビームを照射する対象は、DNAに限られるものではない。このようなイオンビーム照射装置は、例えば、半導体デバイスの製造におけるイオンドープ装置として利用することも可能である。本発明の荷電粒子検出方法を用いたイオンドープ装置によれば、照射イオンのエネルギーやその侵入深さを高精度で制御することによって、半導体基板内に3次元構造からなるデバイスを形成することも可能になると考えられる。
【0077】
図7は、実施形態2の応用例を示すものであって、荷電粒子検出システム1の受光素子アレイを利用して、たんぱく質イオンビームのエネルギーを高精度にて測定する、たんぱく質の非破壊的質量分析を実現する質量分析システムの構成例である。この質量分析システムでは、超短パルスレーザにより、たんぱく質を脱離ないしイオン化させた後、その軌跡に基づいて、非破壊的に、たんぱく質イオンビームの運動量と速度を求め、その質量を測定することができる。質量分析システムによれば、質量分析後のたんぱく質を無傷で取り出せるため、質量分析後のたんぱく質をその後の種々の測定に利用することが可能となる。プロテオミクス分野では、たんぱく質同定のために、その質量を高精度にて特定することが重要となっているので、このような質量分析システムの採用は極めて有益であると考えられる。
【0078】
近年、荷電粒子の利用とその検出は、医療(例えば、イオンビームによる癌治療)、物理学(例えば、宇宙・素粒子物理学)、生命科学(DNAの分析、ポストゲノム計画、プロテオミクスないし機能単位としてのたんぱく質群の解析)、半導体の製造(イオンドーピング)等、多岐の分野にわたって重要となっており、本発明の荷電粒子検出方法は、これらの技術分野に広く適用できるものとなっている。
【0079】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔位相差変化の理論的説明〕
最後に、荷電粒子が発生する電場による正方晶系結晶に電気光学効果、すなわち走査光の位相差変化は、本発明の荷電粒子検出方法において本質的な役割を担っているので、その内容を理論的内容を説明しておく。
【0080】
点群4−bar2mの一軸性結晶を用いた場合の荷電粒子の外部電場により生じる走査光の光軸(Z軸方向とする)に垂直な面内で直交する電場の2成分x−y成分間の位相差の変化δΓは次のようになる。
【0081】
外部電場により生じるx−y成分間の屈折率差をδn、屈折率変化が生じている光軸方向の長さをδl、走査光の波長をλとすると、位相差の変化はδΓ=(2π/λ)δnδlと表される。
【0082】
単一電荷eの荷電粒子が、相対論的な速度β=ν/C(Cは光速)およびローレンツ因子γ=1/(1−β0.5で走っているときに、その軌道と垂直な面内における軌道からの距離Rの位置につくる電場をE(R)とすると、結晶の光軸方向の屈折率をnを用いて、E(R)=γe〔4πε(n)0.5〕と表される。
【0083】
荷電粒子が結晶表面を通過する際に、この電場強度で影響を及ぼしうる実効時間δtはR/(γβc)となる。この実効時間の間に、走査光が結晶中を伝播する範囲δlにおいて屈折率変化が生じるので、δl=c(δt)/n=R/(nγβ)と表せる。点群4−bar2mの屈折率楕円体は、外部電場がかかっていない状態では、(x/n)+(y/n)+(z/ne)=1と表される。ここで、nは常光軸の屈折率、neは異常光軸の屈折率である。
【0084】
この結晶に外部電場(E,E,E)が作用すると、屈折率楕円体は、(x/n)+(y/n)+(z/ne)+2r41yz+2r41xz+2r63xy=1のように変化する。ここで、r41およびr63は、電場の大きさを屈折率変化に変換する際の変換係数に相当し、電気光学係数と呼ばれる。
【0085】
このとき、E=E=0およびE=E(R)となるような配置を選べば、屈折率楕円体は、(x/n)+(y/n)+(x/ne)+2r63xy=1となる。この屈折率楕円体は、x−y軸をz軸の周りにπ/4回転させた新たな軸をx‘−y‘軸としたときには、次のように表される。
〔1/(n−r63〕x‘+〔1/(n−r63〕y‘+〔1/(n〕z ‘=1
したがって、外部電場(E,E,E)が及んでいる範囲においては、外部電場のない屈折率楕円体に対して、局所的にz軸を中心にπ/4回転した屈折率楕円体が挿入された状態になると考えられる。
【0086】
このときに、走査光の光軸をz軸にとれば、z軸方向にかかる外部電場により新たに生じるx‘−y‘2成分間の屈折率差は、δn=1/〔1/(n−r630.5−1/〔1/(n+r630.5は、ほぼ(n63となる。
【0087】
したがって、走査光の光軸をz軸にとり、荷電粒子の軌道をx‘−y‘平面に平行となるようにとると、荷電粒子通過に伴って生じる位相差δΓは次のように表される。
【0088】
δΓ=(2π/λ)(n63(R)〔R/(nγβ)〕
=e/(2ε)×(n/(n0.563〔1/(mλβ)〕
ただし、上式では、荷電粒子からの距離Rを、R=mλとして、走査光の波長を単位とした長さで表した。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、医療(例えば、イオンビームによる癌治療)、物理学(例えば、宇宙・素粒子物理学)、生命科学(DNAの分析、ポストゲノム計画、プロテオミクスないし機能単位としてのたんぱく質群の解析)、半導体の製造(イオンドーピング)等、各種技術分野における荷電粒子の検出および運動制御に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の一実施形態にかかる荷電粒子検出システムの概略構成を示す図である。
【図2】荷電粒子によって生じる電場が、正方晶系結晶に屈折率の変化を生じさせる様子を示す図である。
【図3】(a)は長方形開口スリットの形状を示し、(b)は、前記長方形開口スリットを備えた凸レンズによってレンズ焦点面に結ばれる像(光の強度分布)の様子をシミュレーションした結果を示す図である。
【図4】図4は、レンズ焦点面に結ばれる像(光の強度分布)において、バックグラウンドノイズを差し引くことによって、高S/N領域を抽出する様子を示したシミュレーション結果を示す図である。
【図5】荷電粒子検出システムをアレイ状に多数配設することによって、荷電粒子の速度ないしエネルギーを高精度に検出するシステム構築例を示す図である。
【図6】イオンビーム照射装置の構成例を示す図である。
【図7】たんぱく質の質量分析システムの構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
1 荷電粒子検出システム
10 レーザ光
11 前段プリズム
12 正方晶系結晶
13 後段プリズム
14 凸レンズ
15 レンズ焦点面
16 光ファイバー束
17 マスク
18 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部を通過する荷電粒子によって生じる電場により結晶の内部に電気光学的に生じる屈折率変化を検出することによって、荷電粒子を検出する荷電粒子検出方法であって、
前記結晶の内部に光を照射する光照射段階と、
前記光照射段階に照射されて結晶を通過する光を、前記屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じている光成分と、前記屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じていない光成分とに分離する光成分分離段階と、
前記分離段階にて分離された光学的位相変化が生じている光成分を検出することによって、前記荷電粒子を検出する荷電粒子検出段階とを備えることを特徴とする荷電粒子検出方法。
【請求項2】
前記光成分分離段階では、回折機能を有するレンズを用いることによって、前記光照射段階に照射されて結晶を通過する光を、前記光学的位相変化が生じている光成分と、前記光学的位相変化が生じていない光成分とに空間的に分離することを特徴とする請求項2に記載の荷電粒子検出方法。
【請求項3】
外部を通過する荷電粒子によって生じる電場により結晶の内部に電気光学的に生じる屈折率変化を検出することによって、荷電粒子を検出する荷電粒子検出方法であって、
前記結晶は、異なる位置に配置された複数の正方晶系結晶であり、
前記複数の結晶の内部に光を照射する光照射段階と、
前記光照射段階に照射されて各結晶を通過する光を、前記屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じている光成分と、前記屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じていない光成分とに分離する光成分分離段階と、
前記分離段階にて分離された各結晶の屈折率変化に基づく光学的位相変化が生じている光成分を検出することによって、各結晶における前記荷電粒子が通過するときの時間情報を特定し、これら時間情報に基づいて、前記荷電粒子の速度、運動量、エネルギー、スピン情報の少なくとも一つを検出する荷電粒子検出段階とを備えることを特徴とする荷電粒子検出方法。
【請求項4】
前記結晶は、正方晶系結晶であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の荷電粒子検出方法。
【請求項5】
前記正方晶系結晶は、点群4−bar2mに属する一軸性結晶であることを特徴とする請求項4に記載の荷電粒子検出方法。
【請求項6】
請求項3に記載の荷電粒子検出方法を用いて前記荷電粒子の運動状態を制御する荷電粒子制御方法であって、
前記荷電粒子検出段階にて検出した荷電粒子の速度、運動量、エネルギー、スピン情報の少なくとも一つに基づいて、前記荷電粒子の運動状態の制御量を決定することを特徴とする荷電粒子制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−183186(P2007−183186A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1835(P2006−1835)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月5日 社団法人日本物理学会発行の「日本物理学会誌第60巻8月増刊号通巻653号」に発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】