説明

菌類及び植物に有用な変異を高効率で誘導する方法

【課題】 菌類及び植物に有用な変異を高効率で誘導する方法を提供すること。
【解決手段】 活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発する方法。菌類又は植物の変異株ライブラリーの作製方法、菌類又は植物の光伝達系に変異を導入する方法、植物に父性遺伝を誘発する方法、植物の自家不和合性を解除する方法なども提供される。また、活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することにより作製された菌類若しくは植物の変異株又はその子孫も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌類及び植物に有用な変異を高効率で誘導する方法に関し、より詳細には、活性酸素を変異原として用いて、菌類及び植物に変異を誘導する方法並びに該方法により得られた菌類及び植物の変異株に関する。
【背景技術】
【0002】
アカパンカビは光応答反応が確立された遺伝解析が明確に行なえる系である。アカパンカビの光応答は以下のように要約される。1)菌糸におけるカロテノイドの光誘導,2)有性生殖の入り口である原子嚢殻形成の光誘導,3)分生子形成の概日性(およそ1日)リズムの光による位相応答,4)気菌糸からの分生子の形成,5)子嚢殻の極性の光誘導(ビーク(子嚢胞子の放出口)が子嚢殻の上方にできる),6) ビークの正の屈光性。
【0003】
アカパンカビでは光受容体はWC-1/WC-2複合体が知られている。それを負に制御する因子として,VVD(VIVID)が存在する。光受容体WC-1/WC-2複合体は光照射により,電子供与性ラジカルを生じ,それを溶存酸素に与え,活性酸素,.O2-(スーパーオキシドアニオンラジカル)を生じると本発明者は考えている。 .O2-はスーパーオキシドジスムターゼ (SOD)により,H2O2(過酸化水素)を生じる。アカパンカビはサイトゾルにCu/Zn SODが存在し,ミトコンドリアにMn SODが存在する。H2O2はカタラーゼにより,H2O とO2となる。カタラーゼはCat1, Cat2, Cat3が存在する。本発明者はこれらの活性酸素分子種が光伝達の通路を準備することを想定した。その通路にしたがい,信号伝達タンパク質がリン酸化等をとうして,信号伝達をすると想定した。
【0004】
アカパンカビの菌糸を光照射するとオレンジ色のカロテノイドを生成する。Cu/Zn SOD変異株,sod-1は活性酸素分子種の細胞内分布が野生株とは異なると考えられる。sod-1は光照射により,カロテノイドの生成速度が野生株の2倍に上昇した。菌糸の培地にアンチオキシダント(活性酸素消去剤)を加えると,カロテノイドの生成速度は抑制された。sod-1は同時に子嚢殻極性の光誘導が欠失していた。このようにして,光伝達に活性酸素分子種が必要とされることを確定した(非特許文献1、2)(吉田,李,蓮沼,日本遺伝学会2004年, 年会,ベストペーパー賞受賞)。
【0005】
【非特許文献1】2004; Yusuke Yoshida, and Kohji Hasunuma, 2004, Reactive oxygen species affect photomorphogenesis in Neurospora crassa J. Biol. Chem. 279, 6986-6993.
【非特許文献2】日本経済新聞,2003年12月22日,朝刊の全国版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ndk-1P72H 及びsod-1は同程度に.O2-発生剤,メチルビオローゲンおよびH2O2に対して,感受性が高い。NDK-1は活性酸素分子種の代謝に関わる可能性が示唆された。研究の結果NDK-1はアカパンカビに存在する過酸化水素を消去する3種類のカタラーゼ、Cat1, Cat2, Cat3と相互作用をすることが判明した。その内、光応答性についてはCat1a(還元型)の生成が関与し,温度感受性および酸化ストレス耐性はCat3とNDK-1の複合体が関与することが判明した。活性酸素分子種の細胞内の機能とNDK-1は深く関わることを確立した(吉田ら,投稿中)。
【0007】
ndk-1 の変異株、ndk-1P72H(72番目のプロリンがヒスチジンに変換)は野生株に比較し、子嚢殻の極性の光による誘導(光照射下に子嚢胞子の放出口であるビークを子嚢殻の上方に形成する。)が欠失していた(小倉ら2001; Ogura, Y., Yoshida, Y., Yabe, N. and Hasunuma, K. 2001. A point mutation in nucleoside diphosphate kinase results in a deficient light response for perithecial polarity in Neurospora crassa. J. Biol. Chem. 276; 21228-21234.)。野生株は通常の生育温度、25度Cでは、グリセロール完全寒天培地上をその菌糸および気菌糸が2.5 cm/24時間で生育し、37, 42度Cでもあまり変化をしないが、 ndk-1P72Hで37度Cで1/10 以下に低下していた。ndk-1P72H は野生株に比べて、過酸化水素、およびメチルビオローゲンに感受性であった。活性酸素に対する感受性はスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)変異株、sod-1と同程度の感受性を示した。sod-1はndk-1P72Hに比べ弱いながら温度感受性を示した(吉田ら,投稿中)。
【0008】
以上がndk-1P72Hの形質であるが、NDK-1およびNDK-1P72Hタンパク質の性質を比較した。NDK-1はi) ATP+GDP をGTP+ADP にするヌクレオシド二リン酸キナーゼ活性、ii) 自己リン酸化活性、 iii) タンパク質キナーゼ活性、が存在したが、NDK-1P72Hではii) および iii) の活性が欠失するとともに、タンパク質量が野生株の1/5であった(小倉ら2001)。菌糸を光照射すると,野生株ではCat1aが30分くらいで,上昇し,2時間で5倍にたっした。1時間で ndk-1P72H変異株と比較すると,変異株ではCat1aが野生株のおよそ40% であった(吉田ら,投稿中)。
【0009】
37度Cおよび 1 mMメチルビオローゲン処理で、野生株はCat3の活性がこれらの処理で、ともに10倍に上昇するが、NDK-1P72Hでは5倍程度となり、50%の上昇しか示さなかった。NDK-1はCat3と共精製され、NDK-1抗体での免疫沈降で共沈する。NDK-1P72Hでは共沈の量は野生株の場合に比べて,20%で、NDK-1の存在量と平行関係がみられた。以上の知見は光応答,および温度ストレス、酸化ストレス、はそれぞれ,Cat1a、およびNDK-1/Cat3複合体で制御され、その複合体は活性酸素の消去に大きな機能を持つことを示し,温度ストレス、酸化ストレスに耐性にする技術を堤供する(吉田ら,投稿中)。
【0010】
更にsod-1は走行管を生育させることにより,明確な分生子形成の概日性リズムを示した。このリズムは分生子形成の周期を制御する,FRQ(ショウジョウバエのPERと相同の働きをする)タンパク質の存在を必要としない。また光受容体WC-1/WC-2複合体の機能の存在をも必要としない,別のリズムの系を構築することを明かとした(吉田ら,投稿中)。これらの結果は概日性リズムの主要な構成要素として,活性酸素が含まれていることを示している。また活性酸素分子種を制御することにより,概日性リズムひいては花芽形成の時期(花の咲く季節)をかえる技術を提供する。
【0011】
以上の結果から本発明者は光照射が行なわれた直後に,光による通路が活性酸素分子種によって形成される(光により活性酸素分子種ができ,それにより,酸化還元電位を制御し,通路が形成される)想定が正しいことを明らかにした。その通路のなかを信号伝達タンパク質がリン酸化等をとうして,信号伝達を起こす,という仮説をたてた。本特許はその通路仮説が植物でも正しいことを証明し,通路の構築に関する変異株をとり,新しい通路を遺伝的に再構築することにより,信号伝達を自在に制御する技術を提供するものである。
【0012】
その仮説をもとに,1)アカパンカビ,2)ペチュニア,3)ブロッコリー,4)アラスカエンドウ,5)ダイズ,6)ナタネ,7)コムギ,8)トウモロコシ,9)オートムギ,10)イネ,11)オオムギ 等)を用いて以下の様に変異株を単離した。光照射下に活性酸素を発生するメチルビオローゲンを培地にいれる。活性酸素分子種の変異原活性(ヒドロキシラジカル等によるヌクレオチドの修飾により,A:T pair がA;Cのミスを誘起する等)をもとにして,変異をおこし,活性酸素耐性となった変異株を単離した。活性酸素をすみやかに消去するべく,変異をおこしたものは,活性酸素耐性株として単離される。同時にその耐性株は光照射による信号伝達通路に異常がおこる。信号は通路に従って伝達されるため,最後に出てくる形質はかなり異なる結果を生ずる。従って種々の光形態形成の変異株が高効率で単離される技術を提供する。更にこれらの多数の変異をうまく組み合わせることにより,新しい任意の通路を遺伝的に構築する方法を提供する。従来の組換え植物の技術はこの通路を通過する伝達タンパク質に大むね限られている。本技術は通路の構築にたいする組換え遺伝子技術を用いない技術を提供するものである。
【0013】
本発明は、菌類及び植物に有用な変異を高効率で誘導する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、活性酸素発生剤であるメチルビオローゲンを用い、活性酸素を突然変異原として菌類及び植物に作用させると遺伝子変異を誘起でき、活性酸素は大半の細胞を死滅させるが、活性酸素に耐性になった変異細胞は生き残ることを見出した。本研究により得られた知見を以下に列挙する。
【0015】
1)活性酸素で突然変異を起こし、活性酸素耐性になった細胞が1つ存在すると、その細胞は優先的に成長し、コロニーを形成する。
【0016】
2)菌類の活性酸素耐性変異株の多くは雄親として受精し、有性胞子をつくることができた。
【0017】
3)得られた活性酸素耐性変異株の多くはその変異株を雄株として交配し、その子孫を解析すると、その子孫の全てが親株の一部の形質を示す。雌親として用いた標準野生株の形質は現れない。この結果は、雄親に依存した細胞質遺伝と解釈される。雄株の変異を起したミトコンドリアが子孫に伝えられていると考えられる。従って、この突然変異の単離法はミトコンドリアに突然変異を誘起する方法を与える。
【0018】
4)活性酸素耐性株は雄親の形質をもとにマップすると、染色体上の遺伝子変異を含む。従って、細胞核とミトコンドリア核に変異を同時に引き起こす方法を与える。
【0019】
5)植物では細胞核とミトコンドリア核のミスマッチにより細胞質雄性不念が誘起されると考えられている。この方法は植物に細胞質雄性不念を誘起する方法を与える。
【0020】
6)ミトコンドリアは呼吸の結果電子伝達系から電子を遊離し、その電子は活性酸素を発生する。活性酸素耐性株はこの活性酸素の発生能が低下した変異を与える技術を提供する。
【0021】
7)活性酸素は光信号伝達に関与するばかりでなく、概日性リズムの主要な因子であると証明しつつある。活性酸素耐性変異株は分生子形成の概日性リズムが異常となり、多くのもののリズムが消失する。従って、生物リズムの変異株を得る技術を提供する。植物に応用すると、花の咲く時期、塔立の時期を遺伝的に制御する技術を与える。
【0022】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0023】
(1) 活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発する方法。
【0024】
(2) 活性酸素発生剤に菌類又は植物を暴露する工程を含む、(1)記載の方法。
【0025】
(3) 活性酸素発生剤が、メチルビオローゲン、過酸化水素及びNaニトロプルシッドからなる群より選択される少なくとも1種類の化合物である(2)記載の方法。
【0026】
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の方法で作製した菌類若しくは植物の変異株又はその子孫。
【0027】
(5) 菌類がニューロスポラ属に属するものである(4)記載の菌類の変異株又はその子孫。
【0028】
(6) 植物が単子葉植物又は双子葉植物である(4)記載の植物の変異株又はその子孫。
【0029】
(7) 単子葉植物が、オートムギ及びトウモロコシからなる群より選択される(6)記載の植物の変異株又はその子孫。
【0030】
(8) 双子葉植物が、アラスカエンドウ、ブロッコリー、ペチュニア、アブラナ及びダイズからなる群より選択される(6)記載の植物の変異株又はその子孫。
【0031】
(9) 野生株と比較して、活性酸素に対する耐性が向上している(4)〜(8)のいずれかに記載の菌類若しくは植物の変異株又はその子孫。
【0032】
(10) 低温障害に対する耐性、高温障害に対する耐性、酸化ストレス障害に対する耐性、活性酸素消去能、活性酸素発生能、概日性リズム、温度及び/又は光周性に関わる特性、蕾を形成する時期および蕾を付する節、花を咲かせる時期、花の付く節、さやの厚さ、実の数、実の大きさ、実の形、花柄の長さ、植物の器官(托葉および茎)の大きさおよび節間の長さ、腋芽の数、茎の太さ、蕾の塊の大きさ、蕾の形成の時期、葉の大きさ、成長の早さ、緑の濃さ、草丈、油脂の酸化度、抗酸化物質含量及びデンプン含量からなる群より選択される少なくとも1つの性質又は形質が野生株と異なる(4)〜(9)のいずれかに記載の菌類若しくは植物の変異株又はその子孫。
【0033】
(11) 細胞核のDNA、ミトコンドリア核のDNA及び葉緑体核のDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAに変異が誘起されている(4)〜(10)のいずれかに記載の植物の変異株又はその子孫。
【0034】
(12) 細胞核のDNAに変異が誘起されているが、ミトコンドリア核のDNA及び葉緑体核のDNAには変異が誘起されていない(11)記載の植物の変異株又はその子孫。
【0035】
(13) ヌクレオシド2リン酸キナーゼ(NDK)遺伝子が変異している(4)〜(12)のいずれかに記載の菌類若しくは植物の変異株又はその子孫,さらにNDK遺伝子のヌクレオチド配列
(14) (4)〜(13)のいずれかに記載の植物の変異株又はその子孫の細胞又は組織。
【0036】
(15) (4)〜(13)のいずれかに記載の植物の変異株又はその子孫の種子。
【0037】
(16) (1)〜(3)のいずれかに記載の方法で作製した植物の変異株又はその子孫同士をかけ合わせて、所望の性質及び/又は形質を示す株を作製する方法。
【0038】
(17) (16)記載の方法で作製した植物株又はその子孫。
【0039】
(18) (17)記載の植物株又はその子孫の細胞又は組織。
【0040】
(19) (17)記載の植物株又はその子孫の種子。
【0041】
(20) 活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することを特徴とする、菌類又は植物の変異株ライブラリーの作製方法。
【0042】
(21) (20)記載の方法により作製された菌類又は植物の変異株ライブラリー。
【0043】
(22) 活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物の光伝達系に変異を導入する方法。
【0044】
(23) 活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することを特徴とする、植物に父性遺伝を誘発する方法。
【0045】
(24) 活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することを特徴とする、植物の自家不和合性を解除する方法。
【0046】
(25) 活性酸素発生剤を含む、菌類又は植物に変異を誘発するための組成物。
【0047】
(26) 活性酸素発生剤を含む、菌類又は植物の変異株ライブラリーを作製するための組成物。
【0048】
(27) 活性酸素発生剤を含む、菌類又は植物の光伝達系に変異を導入するための組成物。
【0049】
(28) 活性酸素発生剤を含む、植物に父性遺伝を誘発するための組成物。
【0050】
(29) 活性酸素発生剤を含む、植物の自家不和合性を解除するための組成物。
【0051】
(30) (4)記載の植物変異株若しくはその子孫又は(17)記載の植物株若しくはその子孫から油脂を抽出することを含む、酸化度の低い油脂を製造する方法。
【0052】
(31) (4)記載の植物変異株若しくはその子孫又は(17)記載の植物株若しくはその子孫から得られた油脂。
【0053】
本発明は、細胞核DNA, 葉緑体DNA, ミトコンドリア核DNAに変異をいれる方法を提供する。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,活性酸素の消去能を上昇させる。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,また葉緑体DNAまたはミトコンドリア核DNAに変異をいれ,活性酸素の放出能を低下させる。この結果植物の葉は緑が濃くなり,植物の成長が早くなった。したがって,活性酸素に関わる光合成能率を改良し,葉の緑を維持し,成長を早くさせる技術を提供する。
【0054】
本明細書において、「活性酸素」とは、分子状酸素,O2 は基底状態では,3重項酸素である。フラビン等の存在下に光照射すると,O2 は励起され,1重項酸素となる。1重項酸素は電子供与体であるNADPHより,電子を受け取り, O2-(スーパーオキシドアニオンラジカル;略して,スーパーオキシド)という。さらにこのスーパーオキシドは,スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)により,過酸化水素,H2O2とO2になる。メチルビオローゲンは生体の中で,光照射下に触媒的に O2-(スーパーオキシド)を生ずる。過酸化水素,H2O2はカタラーゼにより,H2O とO2になる。 O2-はNOと反応して,ONOO-,パーオキシナイトライトを生ずる。これは強い酸化活性を持ち,DNA中のC, 5-Methyl-Cを酸化し,脱アミノ化し,U,および Tに塩基転位する。NaニトロプルッシドはNO発生剤である。NOも活性酸素の1種で,これらの活性酸素分子種をReactive Oxygen Species(ROS)として,総称する。O2-,H2O2はヒドロキシラジカルOH・-を生ずる。これは酸化活性が強く,DNAの塩基転位および塩基変換を誘起する。
【発明の効果】
【0055】
本発明により、菌類及び植物に有用な変異を高効率で誘導する方法が提供された。
【0056】
また、本発明により、野生株よりも優れた性質や形質を持つ菌類及び植物の変異株が提供された。
【0057】
さらに、本発明の方法により、有用な変異を誘導された菌類及び植物の変異株ライブラリーを作製することができる。このライブラリーをスクリーニングにかけることにより、所望の性質や形質を持つ変異株を取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0059】
本発明は、活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発する方法を提供する。活性酸素発生剤としては、メチルビオローゲン、過酸化水素、Naニトロプルシッド、等を例示することができるが、これらに限定されることはない。
【0060】
本発明の菌類又は植物に変異を誘発する方法において、活性酸素発生剤に菌類又は植物を暴露する工程を含むとよい。例えば、後述の実施例に記載のように、活性酸素発生剤を含有する培地に菌類の分生子(菌糸を取り除いたもの)又は植物の種子を蒔き、菌体及び植物の体内で活性酸素が発生する条件下で培養し、耐性株の生育を待つとよい。メチルビオローゲンは、光照射下で菌体及び植物の体内で活性酸素を発生させることができる。過酸化水素は、細胞の形質膜を透過しうる。そのためかなり直接的に細胞内に入り,比較的安定に,2次情報の機能を持つと言われている。
【0061】
Naニトロプルシッドは、水に良く解け,溶液としては不安定で,培地に入れ,NOを生ずる。NO はNO・(NOラジカル)となり,細胞の中で,チトクロムオキシダーゼを阻害し,呼吸を低下させ,またミトコンドリアからのCa++の放出を促進する。またNO・はグア二ール酸シクラーゼに結合して,それを活性化し,cGMPレベルを上昇させる。
【0062】
本発明の方法により変異を誘発させる菌類及び植物は、特に限定されるものではないが、ニューロスポラ属に属する菌類以外では,低温で誘導のかかる担子菌類のキノコ(例えばシイタケ,マツタケ,エノキダケ,シメジ,ナメコ等)の形成においてはその誘導促進に充分この技術を応用することができる。また子嚢菌類では発酵に用いられる,コージカビ(Aspergillus oryzae)はアカパンカビに類似するところが多く,その発酵への応用が期待できる。以上の子嚢菌類および担子菌類、オートムギ、トウモロコシ、コムギ,オオムギ,イネ(水稲,および陸稲)などの単子葉植物、アラスカエンドウ、ブロッコリー、ペチュニア、アブラナ、ダイズなどの双子葉植物を例示することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0063】
本発明の菌類又は植物に変異を誘発する方法により、野生株と比較して、活性酸素に対する耐性が向上している変異株を得ることができる。
【0064】
アカパンカビのNDK-1のノックアウト株は、カタラーゼが3種類過剰発現され、その菌糸の成長が活性酸素耐性になっている。このことから、ヌクレオシド2リン酸キナーゼ、NDK-1がその遺伝子である可能性は非常に高い。アカパンカビ及び植物のNDKが活性酸素耐性を誘起する遺伝子の一つであると言える。
【0065】
本発明の方法により得られた菌類及び植物の変異株は、低温障害に対する耐性、高温障害に対する耐性、酸化ストレス障害に対する耐性、活性酸素消去能、活性酸素発生能、概日性リズム、温度及び/又は光周性に関わる特性、蕾を形成する時期また蕾を付する節、花を咲かせる時期、花の付く節、さやの厚さ、実の数、実の大きさ、実の形、花柄の長さ、植物の器官(托葉および茎)の大きさ、節間の長さ,腋芽の数およびその付する節、茎の太さ、蕾の塊の大きさ、蕾の形成の時期、葉の大きさ、成長の早さ、緑の濃さ、草丈、油脂の酸化度、抗酸化物質含量及びデンプン含量からなる群より選択される少なくとも1つの性質又は形質が野生株と異なりうる。
【0066】
また、本発明の方法により、細胞核のDNA、ミトコンドリア核のDNA及び葉緑体核のDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAに変異を誘起することができる。葉緑体又はミトコンドリアの遺伝子DNAに変異がある植物は父性遺伝をする可能性があり、生態系に影響を及ぼすかもしれない。細胞核DNAに変異のある植物で、葉緑体及びミトコンドリアの活性酸素発生能を低下させる2重変異株があった場合は、細胞質遺伝とはならない。この方が数も多いと思われる。これは、例え父性遺伝をしても,葉緑体及びミトコンドリアDNAは野生型であるから,問題を起こしにくいと考えられる。従って、細胞核のDNAに変異が誘起されているが、ミトコンドリア核のDNA及び葉緑体核のDNAには変異が誘起されていない植物の変異株又はその子孫は、生態系に関連する問題を起しにくいと考えられるので、有用である。
【0067】
本発明は、上記の方法で作製した菌類若しくは植物の変異株及びその子孫、それらの細胞、組織及び種子を提供する。
【0068】
また、本発明は、上記の方法で作製した植物の変異株又はその子孫同士をかけ合わせて、所望の性質及び/又は形質を示す株を作製する方法、該方法で作製した植物株及びその子孫、それらの細胞、組織及び種子を提供する。
【0069】
所望の性質及び形質としては、低温障害に対する耐性の向上、高温障害に対する耐性の向上、酸化ストレス障害に対する耐性の向上、活性酸素消去能の上昇、活性酸素発生能の低下、概日性リズムの変化、温度及び/又は光周性に関わる特性の変化、蕾を形成する時期の変化、花を咲かせる時期の変化(早咲き、遅咲き)、花の付く節の変化、さやの厚さの変化、実の数の変化、実の大きさの変化、実の形の変化、花柄の長さの変化、植物の器官(托葉および茎)の大きさの変化、節間の長さ,腋芽の数の変化およびその付する節、茎の太さの変化、蕾の塊の大きさの変化、蕾の形成の時期の変化、葉の大きさの変化、成長の早さの変化、緑の濃さの変化、草丈の変化、油脂の酸化度の低下、抗酸化物質含量の増加、デンプン含量の増加などが例示されるが、これらに限定されることはない。
【0070】
さらに、本発明は、上記の方法を利用して、菌類又は植物の変異株ライブラリーを作製する方法及びその方法により得られた菌類又は植物の変異株ライブラリーを提供する。
【0071】
さらにまた、本発明は、活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物の光伝達系に変異を導入する方法を提供する。
【0072】
活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することにより、植物に父性遺伝を誘発することができる。
【0073】
また、活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することにより、植物の自家不和合性を解除することができる。
【0074】
本発明は、活性酸素発生剤を含む組成物を提供する。活性酸素発生剤としては、メチルビオローゲン、過酸化水素、Naニトロプルシッドなどを例示することができるが、これらに限定されることはない。
【0075】
本発明の組成物を用いることにより、菌類又は植物へ変異を誘発すること、菌類又は植物の変異株ライブラリーを作製すること、菌類又は植物の光伝達系へ変異を導入すること、植物へ父性遺伝を誘発すること、植物の自家不和合性を解除することなどが可能となる。
【0076】
本発明の組成物は、さらに、溶媒、培地成分、ヒドロキシラジカルを生ずるための金属イオンなどを含んでもよい。
【0077】
また、本発明は、酸化度の低い油脂を製造する方法を提供するが、この方法は、上記の植物変異株若しくはその子孫又はそれらをかけ合わせて作製した植物株若しくはその子孫から油脂を抽出することを含む。この方法に用いる植物としては、アブラナ、ヒマワリ、綿、ダイズ、ピーナッツ、ココナツ、ヤシ、トウモロコシなどを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0078】
本発明は、上記の植物変異株若しくはその子孫又はそれらをかけ合わせて作製した植物株若しくはその子孫から得られた油脂も提供する。
【0079】
本発明は細胞核DNA, 葉緑体DNA, ミトコンドリア核DNAに変異をいれる方法を提供する。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,活性酸素の消去能を上昇させる。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,また葉緑体DNAまたはミトコンドリア核DNAに変異をいれ,活性酸素の放出能を低下させる。この結果植物の葉は緑が濃くなり,植物の成長が早くなった。したがって,活性酸素に関わる光合成能率を改良し,葉の緑を維持し,成長を早くさせる技術を提供する。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明の範囲はこれらの実施例により限定されることはない。
【0081】
[実施例1]
アカパンカビ(Neurospora crassa)の活性酸素耐性変異株
アカパンカビは糸状菌で,コウジカビ(Aspergillus oryzae)に近縁である。その生活環の中での,種々の形態形成は光で誘導される過程が多い。その代表的な6過程を記述する。1)光による菌糸のカロテノイド誘導,2)菌糸から気菌糸,分生子(無性胞子,コニディア)の誘導,3)分生子形成の概日性リズム(生物リズム;およそ1日のリズム)の光による位相応答,4)有性生殖の入口である原子嚢殻形成の光誘導,5)子嚢殻(キノコに相当)の極性の光誘導(光により子嚢殻からの子嚢胞子の放出口,ビークが上方に形成される),6)ビークの正の屈光性,などである。
【0082】
本発明者はアカパンカビおよびアラスカエンドウの粗抽出液を用いて,光が植物にあたった直後に,リン酸化の進む 15 kDa タンパク質を見い出した。15 kDa タンパク質は精製され,ヌクレオシド2リン酸キナーゼ(NDK)であることが判明し,アカパンカビではNDK-1,アラスカエンドウではPNDK-1と命名された。これらの遺伝子,およびcDNAはクローニングされた。アカパンカビではさらにndk-1Pro72His変異株が単離され,子嚢殻の極性の光誘導が欠失していた。NDK-1Pro72Hisタンパク質は野生型タンパク質に比べ,タンパク質の自己リン酸化活性,タンパク質キナーゼ活性が低下しているが,ATP+GDP → ADP+GTPを触媒するNDK活性は野生型と変化が無かった。
【0083】
ndk-1Pro72His変異株はその菌糸に光を当てると,カロテノイドの誘導が野生株の50%程度の速度で起こり,野生株より低い。一方酸素(3重項酸素)が電子を吸収して生ずる,スーパーオキシド,O2.−はスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)により,過酸化水素,H2O2に変換される。細胞質に局在するCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の変異株,sod-1は菌糸に光を照射すると,野生株のおよそ2倍の速度で,カロテノイドを合成した。菌糸の光照射下の細胞内H2O2の濃度,細胞内分布により,カロテノイドの合成速度が制御されていると考えられる。更にNDK-1はH2O2をH2OとO2にかえる,カタラーゼと複合体を形成し,カタラーゼの活性制御に関わることが強く示唆された。カタラーゼはCat-1, Cat-2, Cat-3 の3種類が存在する。ndk-1Pro72His変異株では光照射下の還元型Cat-1,Cat-1aの存在が野生株の40%であった。従って光照射下に活性を保有する還元型Cat-1,Cat-1aの存在量がndk-1Pro72His変異株では低下していることが判明した。なおndk-1Pro72His変異株およびsod-1は子嚢殻の極性の光誘導が共に欠失していた。
【0084】
(アカパンカビのndk-1遺伝子のノックアウトとその変異株の特性)
更にその分子機構を特定するために,ndk-1遺伝子をノックアウトした。ndk-1遺伝子を遺伝子導入により,2重に持つ株を作成した。アカパンカビはその生活環のなかで,ほとんど半数体,nで,n=7, また42.5 Mbpが遺伝子のゲノムサイズである。ndk-1遺伝子を2重に持つ株を,野生株と交配すると,その減数分裂時に相同染色体が対合する時に,2重に存在する部分はレトロヴァイラスとみなされ,そのDNA領域にメチル化が進む。5-Methyl-Cは脱アミノ化され,Tへ塩基転位し,突然変異を多発する。この方法はRIP(Repeat induced point mutation)法といわれ,子孫の15%が遺伝子の不活化を示す。その結果,NDK-1のリン酸化が全く無い2株の変異株, ndk-1 RIP-1, ndk-1 RIP-2が単離された。これらの変異株は,前者はmRNAを生成せず,後者は切断されたタンパク質を生成した。両変異株ともに,光照射下で,菌糸のカロテノイドの形成速度が野生株の1/2以下であった。従ってNDK-1が光信号を伝える酵素であることが確定した。更に、ndk-1 RIP-1, ndk-1 RIP-2はCat-1, Cat-2, Cat-3の3つの酵素活性が過剰発現していた。さらにこれらの株は1mM メチルビオローゲンを含む培地に,成育可能で活性酸素耐性の形質をしめした(李ら投稿準備中)。従って下記に述べる活性酸素耐性株は,その変異のなかにndk-1遺伝子を含むことが判明した。
【0085】
同様にシロイヌナズナを用いて5種類のNDK, AtNDK-1, AtNDK-2, AtNDK-3, AtNDK-4, AtNDK-5のT-DNA挿入によるノックアウトが試みられた。今まで得られた結果は全てT-DNAはイントロンに挿入されるか,またはエクソンの外側で,遺伝子破壊株は得られていない(未発表データ)。
【0086】
Choiら,1999 (Choi, G., et al. 1999 Phytochrome signaling is mediated through nucleoside diphosphate kinase 2. Nature 401, 610-613)はNDPK2のノックアウトを発表したが,T-DNAは第3イントロンに挿入されており,NDPK2タンパク質の欠失,またmRNAを調査するノーザン解析も存在しない。従って,ノックアウトした客観的な証明は存在しない。以上の結果から,植物ではNDK遺伝子のノックアウトはその生活環のなかで致死である可能性が高い。
【0087】
このように光信号伝達体,NDK-1は,カタラーゼの活性制御,遺伝子発現制御と深く関係し,活性酸素代謝に深く関与することが示された。特に以下に述べる植物の活性酸素耐性株の中心的役割を果たすと考えられる。植物および糸状菌において,光により制御される光信号伝達の過程は,活性酸素の代謝と深く関わり,その反応を制御している。従って,光信号伝達系の全体的統御を活性酸素の反応を制御することにより,変更することができる技術を提供する。その中で,NDK-1およびその植物でのホモログは,活性酸素耐性株において,重要な酵素として機能している。NDK-1のアミノ酸配列,およびヌクレオチド配列情報は,植物の活性酸素耐性株の中で,中心的機能を担っており,その機能を変更する技術を提供する。なお本発明者は植物およびカビのNDK-1は光信号伝達の担い手であるとして,既に特許出願をしている(特開平9−252781号公報)。
【0088】
ndk-1Pro72His変異株はその気菌糸および菌糸の伸長成長が25 ℃では野生株と変わらないが,37 ℃では急速に停止する。温度耐性に対して,活性酸素が関与することが強く示唆された。また低温にした場合,更に高温にした場合に,Cat-3の活性が野生株では上昇するが,ndk-1Pro72His変異株ではその上昇は野生株の50%程度であった。また過酸化水素,H2O2の存在による酸化ストレスでも同様にCat-3の活性が野生株では上昇するが,ndk-1Pro72His変異株ではその上昇は野生株の50%程度であった。以上の結果は低温耐性,高温耐性,更に酸化ストレスに活性酸素がかかわることを示している。低温障害,高温障害,酸化ストレス障害に対して,遺伝的に活性酸素の代謝制御を変更することにより,植物にそれらの障害に対する耐性を付与する技術を提供する。
【0089】
(アカパンカビの活性酸素耐性株の単離とその特徴)
野生株(FGSC#987, Fungal Genetics Stock Centerより入手)およびndk-1Pro72His変異株(発明者が単離)を親株として,活性酸素発生剤であるメチルビオローゲン(シグマ)また過酸化水素,H2O2(和光純薬)を用い,活性酸素耐性株を取得した。
【0090】
方法;野生株及びndk-1Pro72His変異株の分生子を2回グリセロール完全斜面培地で前培養した。得られた分生子を滅菌ガーゼでフィルターし,菌糸を除いた。それぞれ104細胞,メチルビオローゲンを最終濃度,50 μM, 100 μM, 200 μM, となるようにして,30 mlのコロニー形成培地(Sorbose medium)を9 cmの硝子製ペトリ皿に注ぐ,通常の方法でまいた。ペトリ皿は実験台の上で,室温(25 ℃)で,0.6μmole/sec/m2の白色光下で耐性株の生育を待った。活性酸素は突然変異原として作用する。5 - 7日で,1 - 2コロニー/ペトリ皿でコロニーをえた。これらをFries minimal 液体培地で7 日間,室温(25 ℃)で生育し,分生子を形成させた。野生株は室内光の中で,菌糸および分生子がオレンジ色に成るのに対して,活性酸素耐性株の菌糸はほとんどの株がカロテノイドを集積せず,白色であった。この分生子をメチルビオローゲンを含まない30 mlのコロニー形成培地(Sorbose medium)に播き,コロニーを形成させた。20コロニーをFries minimal 液体培地に単離し,菌糸の室内光下での白色の度合い(カロテノイドの集積の度合い)をみた。白色度の高い,カロテノイドの集積の低い株を2株選び,更にこの操作をもう1度,都合2回くり返した。アカパンカビの分生子は多核で,1 -10核を含むので,活性酸素耐性変異を持つ核を他の変異を起こしていない核から単離する操作としてこの操作を行なった。活性酸素耐性株を野生株から25株,ndk-1Pro72His変異株から40株を確立した。標準野生株を雌株として原子嚢殻を作らせ,活性酸素耐性株を雄親として交配した。交配の結果多数の子嚢胞子を放出している20株(野生株由来,5株,ndk-1Pro72His変異株由来,15株)に付いて, その子嚢胞子を通常のヒートショックを行ない,30 mlのコロニー形成培地(Sorbose medium)に上記のように播いた。双眼実体顕微鏡下で,発芽した胞子をくまなく単離した。発芽率はおおむね80 - 90%であった。
【0091】
各株の交配により得られた子嚢胞子より,形成されたコロニー,200〜300をFries minimal液体培地下で生育させた。ほとんどの交配で、その子孫の菌糸の色は雄株として交配した活性酸素耐性株の白色の菌糸であるか、または黄色であった。雌株として用いた標準野生株の形質を示す子孫は存在しなかった。白色の菌糸を持つ株の形質は雄親として交配した活性酸素耐性株の示す形質と一致した。その形質をもちいて,3株の変異が第1染色体の左腕に存在する交配型(mt; mating type)遺伝子に連鎖することを証明した。従って菌糸を白色にするカロテノイド合成が欠失する遺伝子変異は細胞核上の変異であることが判明した。一方菌糸が黄色であるのはカロテノイドの合成が不完全であることを示す。雄親の示す形質の一部が白色の菌糸の子孫(雄親の形質)以外の子孫ですべての子孫に見られた。
【0092】
第1回目の交配により得られた活性酸素耐性株を用いて、さらに標準野生株を雌親として第二回目の交配を行い、同様の解析を行った。結果は第1回目の子孫の解析結果と同じで、白色の菌糸の形質を示す雄親の形質は3株において,交配型と連鎖した。これらの交配型に連鎖する3株の活性酸素耐性株を第3回目の交配を行った。この交配結果も全く同じで、白色の菌糸の雄親の形質は交配型に連鎖した。
【0093】
3度標準野生株と交配して得られた活性酸素耐性株の内、野生株から得られた1株およびndk-1Pro72His変異株より得られた1株,計2株、と変異株の親株,合わせて4株の粗抽出液を調製し,Cu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD-1)および3種のカタラーゼ,Cat-1, Cat-2, Cat-3を非変生ゲル電気泳動で分離し,その活性を測定した。その結果,Cu/Zn SOD-1の活性は野生株,ndk-1Pro72His変異株と2株の活性酸素耐性株に変化はなかった。しかし,3種のカタラーゼ,Cat-1, Cat-2, Cat-3は活性酸素耐性株では,2株ともに過剰に活性があった。以上の結果は菌糸の白い活性酸素耐性株は細胞核に変異を持ち,少なくとも3種のカタラーゼを,過剰に活性のある状態とし,細胞内の活性酸素の消去を促進していると考えられる。細胞内の活性酸素の低下により,光によるカロテノイドの誘導に欠失が起きたと考えられる。
【0094】
一方菌糸が白色の活性酸素耐性株を除く,それ以外の株は全て黄色となり,カロテノイドの合成が不完全であることを示す。この現象は細胞質遺伝で説明される。ミトコンドリアは活性酸素の発生原である。突然変異により,ミトコンドリアの活性酸素発生能が低下し,なんらかの関係でミトコンドリアが自身の発生する活性酸素で自殺(アポト−シス)できなくなり,交配の過程で消去(アポト−シス)されるはずの雄株のミトコンドリアが子孫に伝達されてしまうと考えれれる。従って全ての野生型の細胞核を持つ細胞に活性酸素発生能の低下したミトコンドリアが共存することになる。光が照射された時の活性酸素発生量がカロテノイドの生成を充分に促進出来ずに,黄色の菌糸と成ると考えられる。この現象は本来母性遺伝と成るはずのミトコンドリアが,それとは逆にミトコンドリアの父性遺伝を示す現象となっている。
【0095】
以上の現象から,活性酸素発生剤を用いて,アカパンカビに突然変異を誘起すると,活性酸素を消去する酵素の活性が過剰上昇する細胞核の変異と活性酸素の発生を抑制するミトコンドリア核の変異を同時に誘起していることを示す。従って活性酸素発生剤を用いて,活性酸素耐性株を単離することにより,細胞核遺伝子に活性酸素消去能の異常上昇,または活性酸素発生能の低下を生起する突然変異と,ミトコンドリアに活性酸素発生能の低下を生起する突然変異を誘起する技術を提供する。
【0096】
上記の20種類の活性酸素耐性株で,2回標準野生株に交配した株はそのほとんどが分生子形成の概日性リズムが異常となっている。このことは活性酸素を消去する酵素の活性が過剰上昇する細胞核の変異と活性酸素の発生を抑制するミトコンドリア核の変異を同時に持つ変異株は菌糸のカロテノイドの光誘導ができないこと,すなわちカロテノイドの光誘導には活性酸素が必要であることを示している。さらに光信号は分生子形成の概日性リズムの分子機構の中心に入って行き,更に概日性リズムの分子機構の構成要素になっていることを示す。
【0097】
既に本発明者は菌糸内cAMP, cGMP濃度が概日性リズムを示して変動すること,また菌糸の光照射により,菌糸内のcAMP, cGMPの濃度が低下することを報告している (Hasunuma, K., Funadera, K., Shinohara, Y., Furukawa, K. and Watanabe, M. 1987. Circadian oscillation and light-induced changes in the concentration of cyclic nucleotides in Neurospora. Curr. Genet. 12; 127-133.)。 細胞内のサイトゾルCa2+濃度,[Ca2+]iはcAMP濃度と逆の位相で変動することを示した (蓮沼仰嗣, 篠原恭恵 1987. アカパンカビの概日性リズム (1) 遺伝 41 (1); 81-88. 沼仰嗣, 篠原恭恵 1987. アカパンカビの概日性リズム (2) 遺伝 41 (2); 48-57.)。 菌糸内cAMP, cGMP濃度の低下は細胞内のサイトゾルCa2+濃度,[Ca2+]iを上昇させる。[Ca2+]iの上昇はミトコンドリアの呼吸活性を上昇させるため,ATPばかりでなく,多量の活性酸素がミトコンドリアから放出される。その活性酸素の放出量がミトコンドリア核の突然変異で低下していると,分生子形成の概日性リズムが同調されず,異常(アリズミック)と成ると考えられる。産生されたATPは細胞内のサイトゾルCa2+濃度,[Ca2+]iを低下させる機能があり,ミトコンドリアの呼吸活性を低下させるので,フィードバックループが成立する。ここで実効ATP濃度は概日性リズムを示して変動することが S. Brody のグループにより示されている。cAMP, cGMP濃度の低下はイノシト−ルフォスフォリピドの生成を促進し,イノシト−ルフォスフォリピドは細胞内のサイトゾルCa2+濃度,[Ca2+]iを上昇させる。従ってこのルートでも,フィードバックが成立する。このように上記の種々の2次情報は相互にフィードバックループを形成して,概日性リズムの分子機構を形成していると考えられる(蓮沼,1987 (Hasunuma, K. 1987. Circadian oscillation of the concentration of cyclic 3', 5'-AMP and -GMP and the mechanism of light acceptance in Neurospora and Lemna. Symposium on Radioisotope and Radiation Technique in Agriculture, Cheju Applied Radioisotope Research Institute., Cheju, Korea. pp. 25-61.)。ここで活性酸素,過酸化水素,H2O2は2次情報の機能を持つと考えられている。以上の説はかなり動物で確立された,2次情報の相互制御を整理統合化して,概日性リズムの分子機構として,提出されている。植物では細胞内H2O2の濃度の変化はミトコンドリアをとうして行なわれていると考えられる。植物では光照射により,呼吸活性が急上昇することが知られており,多量の活性酸素が放出される。またシロイヌナズナでは細胞内のサイトゾルCa2+濃度,[Ca2+]iが概日性リズムで変動することが知られている。
【0098】
以上の現象から,活性酸素は概日性リズムの分子機構を構成する主要な要素であり,本方法による活性酸素耐性株の単離により,細胞核およびミトコンドリア核に細胞内の活性酸素の低下,または変化を生起する変異を同時に誘起することができる。この方法を植物に応用することにより植物の概日性リズムに異常を生じさせることができると考えられる。本方法により活性酸素耐性株を植物から単離した場合,概日性リズムを変えることにより,花の咲く時期を変える技術を提供する。
【0099】
〔実施例2〕
アラスカエンドウ (Pisum sativum Alaska) の活性酸素耐性変異株単離とその特性
植物は光を受容して,その形態形成を制御する。その過程は光形態形成といわれ,1)光合成の色素タンパク質,クロロフィルa/b結合タンパク質の生成,2)クロロフィル発色団,テトラピロールの合成制御,3)カロテノイドの合成制御,4)アントシアン,フラボノイドの青色光,また紫外線による誘導,5)胚軸の光による伸長抑制,6)黄化幼葉の緑化,7)胚軸の光に対する正の屈光性,8)日長と温度による花芽形成制御,9)概日性リズムに対する光による位相応答,等である。
【0100】
光は光受容体に受容され,その信号を細胞質に伝える。この光信号は光受容体,フィトクロムで受容され,その下流にヌクレオシド2リン酸キナーゼ(PeaNDK-1)があり,そのリン酸化の促進がなされることを本発明者は明らかにした(Hamada and Hasunuma, 1994 ( Hamada, T. and Hasunuma, K. 1994. Phytochrome mediated light signal transmission to the phosphorylation of proteins in the plasma membrane of etiolated pea stem sections. J. Photochem. Photobiol. B:Biol. 24; 163-16)。PeaNDK-1 (PeaNDKα)およびPeaNDK-2 (PeaNDKβ)は膜分画およびサイトゾルに存在し,赤色光によりそのリン酸化が進行した(Tanaka et al., 1997(Tanaka, N., Ogura, T., Noguchi, T., Hirano, H., Yabe, N. and Hasunuma, K. 1998 Phytochrome-mediated light signals are transduced to nucleoside diphosphate kinase in Pisum sativum L cv. Alaska. J. Photochem. Photobiol. B:Biol. 45; 113-121)。更に本発明者はシロイヌナズナを用いて,ArabidopsisNDK-1 (AtNDK-1)は細胞質の3種類のカタラーゼ,AtCat-1, AtCat-2, AtCat-3と複合体を形成し,酸化ストレス(メチルビオローゲン, H2O2)に応答することを証明した(Fukamatsu et al., 2003; Fukamatsu Y, Yabe N, Hasunuma K. 2003 Arabidopsis NDK-1 is a component of ROS signaling by interacting with three catalases. Plant & Cell Physiol 44: 982-989)。
【0101】
植物はその茎頂にツニカ(外衣)という二層の細胞層と,コ−パス(内体)という一群の細胞群が存在する。これらの細胞群はどの一つでも植物1個体に成長し得る潜在能力(トチポテンシー)を有する。動物で言えばES(Embryonic stem)細胞に相当する。この細胞群の数は植物にもよるが,1,000-50,000細胞に達する。これらの細胞を活性酸素発生剤であるメチルビオローゲン,または過酸化水素 (H2O2)にさらすことにより,突然変異を誘起することができる。これらの活性酸素発生剤はメチルビオローゲンの場合は植物体内で光照射下に,スーパーオキシドアニオンラジカル(O2・―)を生じ,それはさらにペルオキシナイトライト(ONOO―),更にヒドロキシルラジカル(OH・―)を生ずる。また過酸化水素 (H2O2)はヒドロキシルラジカル(OH・―)を生ずる。これらのラジカルはDNAに塩基転換(トランスヴァ−ジョン)および塩基転位(トランシジョン)を誘起する。突然変異により,活性酸素耐性となった細胞は他の細胞より早い生育を示し,活性酸素耐性の植物を形成する。このような活性酸素耐性株は,先にもアカパンカビの項で述べたように,活性酸素を発生する,ミトコンドリアおよびクロロプラスト(葉緑体)の活性酸素発生の減少した変異および細胞核の変異を含み,活性酸素の消去能の増大に関与する変異の二重変異を含むと考えられる。この方法は植物の発芽種子のみならず,茎頂を含む植物体,例えば枝などならばどのような植物にも応用可能である。また組換え植物では無いのでいわゆるGM問題を回避することができる。
【0102】
(アラスカエンドウの活性酸素耐性株の単離とその特徴)
方法:活性酸素発生剤,メチルビオローゲンを液体培地(Murashige and Skoog Basal Salt Mixture,SIGMA)に加え,その濃度を,0, 4, 8, 40, 80 μMと変化させた。ステンレスバットにろ紙を引き,さらにアルミフォイルをして滅菌をした容器にその液体培地を200 ml加えた。さらに滅菌水で1/4容に希釈したアンチフォルミンを25 ml, 種子(渡辺採種場より購入)を50粒ずつ含む滅菌硝子シャーレに入れた。これを計20調製し,計1000粒の種子を滅菌処理した。20分後にシャーレの液を除き,無菌水25 mlを加え,20分おいた。この操作を5回くり返した後に,上記のバットに滅菌種子を播種した。クリーンベンチで30分光照射した後,4 ℃で3日間置き,その後 23 ℃で7日間おいた。発芽種子を直接肥料を含む黒土を入れたプランタ−に移植した。発芽種子の頻度は図1に示す通りである。移植した植物はおよそ500系統で,このような実験を二回くり返した。過酸化水素 (H2O2)でも突然変異を誘起することができ,これを用いても同様の結果を得た。
【0103】
植物は4月の後半より,プランターに植えた状態で,露地栽培とした。メチルビオローゲンの濃度が4μM (R4と表記), 8μM (R8と表記)までは移植した植物は比較的良く生育した。花を咲かせ,自殖をさせた。40, 80 μMを含む培地に生育した植物は多くが勢いが悪くなり,枯死する場合が多い。コントロール(0μM;R0と表記)を野生株とし,野生株からとれた種子を変異株の解析の野生型のコントロールとして用いた。変異株の可能性のある8株について次世代(雑種第1代,F1の交雑に相当)の解析を行なった。雑種第2代に相当する種子は20粒を基本とし,その遺伝的分布より,細胞核の変異,細胞質遺伝(ミトコンドリア核,葉緑体核)をする変異を推論した。なお活性酸素発生剤により処理した株はROS R(ROS耐性変異遺伝子)を一方の染色体が有し,優勢変異として挙動すると考えて,遺伝的推論を行なった。雑種第二代に相当する種子の発芽から成長は10月中旬から11日間8 ℃, 8時間白色光照射の条件で,人工気象機の中で,バ−ミキユライトの上で生育させた。その後プランターに5株ずつ移植し,温室で23 ℃で生育させた。日長条件は秋分の日を含む3カ月である。
【0104】
アラスカエンドウは図2の写真の通りで,茎の各節に托葉が二枚つき,托葉の付け根の下部から複葉の葉柄が付く。複葉は小葉が対になって4―6枚つき,葉の軸は更にのびて,つると成り,途中で2―4本の対のつるをだす。計3―5本のつるを出す。つるは近くの支柱に絡み,植物を支える。花がつく節は何番目の節かその数が遺伝的に決定されていた。托葉の付根の上部から花の花柄が付く。野生株(R0)では12節,13節, 14節から花がつき始める。花柄の長さも遺伝的に決定されており,野生株では代表的な3株をもちいて,標準誤差表示で13節で45±8 mm, 14節で46±5 mmであった。
【0105】
図3に示すように花の付きはじめる節の数はNo 7, R8,変異株4-5-7で,10節,11節で,野生株より約2週間早く花が付いた。それ以外は全て花の付く節がより遅く,1ケ月遅く花が咲き始めた系統も存在した。1節で5日程度の差が生じていた。このようにほとんど全ての株に花芽形成の時期の変動が見られた。さらに突然変異株であることを確認する必要があり,節間の長さ,花柄の長さ,草丈(150cm;野生株),さやの厚さ,実の入る数,さやの形の良さ,等農業上の商品としての特性も調査した。その結果を表1にまとめる。
【0106】
【表1】

【0107】
以上の結果より,雑種第2代の子孫の示す特性に特徴的な性質がでてくる。解析した全ての子孫の形質はメンデルの遺伝の法則に従わない場合がおおい。No 4’ R8 (4-3-5’), No 6 R8 (4-5-6), No 8 R8 (4-5-14) では変異の特性が全ての子孫にでている。この特性は細胞質遺伝を考虜しないと説明のできない変異の遺伝様式である。つまり活性酸素耐性変異株を得る過程のなかで,ミトコンドリア核また葉緑体核のDNAに変異を誘起し,ミトコンドリアまた葉緑体の光照射下での活性酸素の発生に低下が生じたと考えられる。活性酸素の低下によって光により誘導される形態形成に変化が生じたと考えることができる。また活性酸素は概日性リズムの主要な要素であることが判明している。従って花をつける節の変化が見られる。
【0108】
植物に高効率で活性酸素代謝の変異を誘起する技術を提供する。その処理過程に活性酸素発生剤である,メチルビオローゲンまた過酸化水素(H2O2)を含む。発芽種子のみならず樹木の枝,等でも変異を誘起することができる。
【0109】
活性酸素発生剤を用いたその耐性変異は核遺伝子のみで無く,ミトコンドリア核また葉緑体核のDNAにも変異を誘起する。そのためその雑種第2代の子孫の示す特性に特徴的な性質がでてくる。つまり全ての子孫が変異をした親の特性を示し,細胞質遺伝の特徴を示す。従って活性酸素発生剤を用いた耐性変異の取得により,核遺伝子のみで無く,ミトコンドリア核また葉緑体核のDNAに変異を誘起する技術を提供する。
【0110】
活性酸素は概日性リズムの主要な要素であることを突き止めている。活性酸素発生またはその代謝系の変異の取得により,花の付く節(時期)の異なる変異株を取得する技術を提供する。
【0111】
植物は光を形態形成の主要無な因子として用いている。従って,この方法はさやの厚さ,実の数などに改良のはいった変異を導入する技術を提供する。
【0112】
本方法による活性酸素耐性株の多くは細胞内の活性酸素濃度が低いと考えられる。植物油脂の多くは活性酸素の標的分子で,活性酸素により酸化される。活性酸素耐性株は細胞内の活性酸素発生が抑制されているか,または活性酸素を消去,または無害化する物質(抗酸化物質)を多量に有する。従って,活性酸素耐性株は酸化度の低い良質の油脂を含む場合,また抗酸化物質を多量に蓄積する場合がおおい。従って良質の植物油脂を生産する技術を提供する。また抗酸化物質を高濃度に含む健康食品を提供する技術を提供する。
【0113】
活性酸素耐性株の中には異常に大きく育つ植物が存在する。No 5 R8 (4-4-12) ((180 cm)等はその典型で,全てが大きくなる。この変異と,整った多くの実をつけるNo 4’ R8 (4-3-5’) 花柄が短く(0.7±0.8 mm) さやの厚さがあり,実も多く付く,変異を掛け合わせ,より農業上優れた形質を有する植物を作成する技術を提供する。
【0114】
本方法により単離された変異株は解析の進んだ25株を含め,まだ解析されていない未知の特性を有する。更に解析を待つ100株をこえる変異株は変異株ライブラリーとして,農業上のみならず,研究の対象と成る。これらの変異株ライブラリーを提供する技術を提供する。
【0115】
表1の変異株の特性に付いて実験データとして,図4〜図10を付する。
【0116】
〔実施例3〕
ブロッコリー(Broccoli; Brassica oleracea botritis)の活性酸素耐性変異株
ブロッコリーはアブラナ科の植物で,その蕾は塊をなし,野生株では4万個ほどの蕾をつけると言われている。本ブロッコリーは自家不和合性を示す。野生株では横浜で冬期(11月-12月)に蕾をつけ始め,1月に黄色の花を咲かせ始める。しかし子房は黄色となり,小さなサヤは1週間程度で脱落する。アブラナ科の自家不和合性は同型花型で,更にナス科等の配偶体型と,アブラナ科等の胞子体型に分類される。胞子体型の場合,自家不和合性遺伝子,S2S3の植物に由来する花粉は,減数分裂の結果S3遺伝子を持つ花粉でも,表現型はS2S3となり,親株の遺伝子型と同一となる。そのためSS2 個体の雌蕊に対して,不和合性となる。胞子体型の自家不和合性は雌蕊に関して少なくとも2遺伝子が関与する。 SLSG (S -locus - specific glycoprotein)という親水性分泌型タンパク質を決定しているSLG遺伝子と,もう一つはSRK遺伝子で,膜貫通型プロテインキナーゼ (S receptor kinase, SRK)をコードしている。柱頭乳頭細胞で SLSGとSRKは発現されている。花粉より放出される上記のSタンパク質(SS2とSS2等の表現型を持つ)と柱頭乳頭細胞で発現されている SLSGとSRKは相互に反応して,膜貫通型プロテインキナーゼを活性化する。タンパク質のリン酸化をとうして,不和合性の反応が成立する。
【0117】
(ブロッコリーの活性酸素耐性変異株の単離とその特徴)
方法:ブロッコリーの種子(サカタのタネより提供)1, 000粒を100粒ずつ分取し,滅菌水で1/4容に希釈した次亜塩素酸にて,20分処理し,滅菌水で5回洗浄した。滅菌処理をした種子を,0, 4, 8, 40, 80, 160μMのメチルビオローゲンを含む,Murashige-Skoog寒天培地 (15 cm)上に播いた。4μMまたは160 μM のメチルビオローゲンを含む,Murashige-Skoog寒天培地を用いた。30分光照射後,4 ℃で暗黒下に4日間おいた。23 ℃で,蛍光灯下,10日間発芽させ,発芽をしたものを,プランターの黒土に移植した。その移植したプランターは,更に1月,23 ℃で恒明下に生育させた。その後は植物の状態を見ながら,温室で,23 ℃で生育させた。温室の太陽光には弱く,紙をのせ,光を減弱させた。また乾燥し過ぎないように,気をつけ,霧吹きなどを使用して,順化させた。寒天培地上での発芽種子を計数し,図11とした。図11では4μMの代わりに,160μMのメチルビオローゲン培地を使用した。植物の順化の段階で,多くの植物が枯死した。メチルビオローゲンにさらす日数が長くなると,順化させるのに時間がかり,枯死するものも多かった。
【0118】
図12に野生株,R0, および図13に変異株,R4 (No 5)(略して,R4(5))とも表記する)の生育状態を示す。変異株,R4 (No 5)は野生株の平均から比べると,1.5-2.0倍大きい。後にブロッコリーの食用と成る蕾の塊の大きさを比較する目安として,その茎の太さを野生株(R0)と比較した。茎の太さは最も太い部分,その1節(葉柄の付く部位を節とする)上部,1節下部の直径を測定した。野生株は20株を測定し,その平均値を示した。図14に示す様に,R4 (No.5)の茎の太さは各測定点で約2倍であり,明らかにおおきい。その他,図15,R8 (No.11), 図16, R8 (No.20-2), 図17,R80 (No.2), 図18,R80 (No.12), 図19,R80 (No.22-3) では1.2-1.5倍の太さが見られた。これらは変異株とみなしてよい。
【0119】
本変異株取得法により得られた変異株の解析の結果,ブロッコリーに明らかに巨大化を示す植物があらわれた。植物体全体が大きく,葉等も大きく,光合成も植物当たり大きいと考えられる。取り分け,蕾をつける部分と成る茎の膨らむ部位の直径が,大きい植物では2倍になることは,本変異株の取得法が有効に効いていることを示す。従って植物の各器官(葉,茎)を大きくする技術を提供する。
【0120】
更に解析の必要性が有ると認められた株については,葉を3-4枚含む頂芽を切除し,それを1/500容のハイポネックスを入れたオアシス固形培地に移植した。23 ℃恒明下で生育させた。更に葉を1枚含む茎を5枚切除した。全て同様に移植した。頂芽,および切除葉の1,2番目はこの条件で良く生育した。適当に根が張った時点で,黒土の入ったプランターに移植した。これらの移植した植物は1個体として,生育した。このように植物体はその栄養増殖が可能であり,多数の株をこの方法で栄養繁殖させた。栄養繁殖させた系統に付いて,図20-1, -2, -3にまとめる。この中で,R4(5)は23 ℃の温室の条件で生育させた植物が蕾をつけ,更に花を咲かせた(図21)。サヤも緑の状態で,大きくなり,ある程度生育した。更に他の変異株,R8(24-1)は蕾をつけた(図22)。野生株,R0については,同様に処理した5株ついて全て蕾みをつけていない(図23)。使用したブロッコリーは,低温にさらさないと蕾をつけない系統であるので,これらの2株は変異株と同定してよい。更にアカパンカビでは,温度で活性酸素の制御がおこなわれる。更にその活性酸素は概日性リズムと深い関係にあることが判明している。従って,活性酸素代謝が温度の変化を感受して変わり,23 ℃の温室の条件,12月-1月の光周期で,蕾をつけたと結論した。
【0121】
本変異株取得法により得られた変異株の解析の結果,R4(5)およびR8(24-1)は変異株で,蕾を形成する温度が23 ℃の温室の光周期条件でも,可能であるように,その応答に変化があらわれた。従って,本変異株の取得法は温度および光周性に関わる特性を変更し,蕾を形成させ,花を咲かせる技術を提供する。
【0122】
本変異株取得法により得られた変異株の解析の結果,R4(5)では蕾を形成する温度が23 ℃の温室の光周期条件でも,可能で更に花を咲かせた。更にその実(サヤ)の発達もある程度みられ,自家不和合性を解除する変異株を確立する可能性をあたえる。更に得られた変異株で露地栽培された植物のうち,20 %程度がサヤが5 cm程度まで大きくなり,結実も確認された。胚培養を用いれば,植物個体まで成育すると考えられる。従って,自家不和合性を解除する技術を提供する。
【0123】
本変異株取得法により得られた変異株の解析の結果,多くの株で側芽の形成頻度に変異がみられた。野生株(22株)で腋芽の見られた各節(葉柄を節とする)を計数し,図24にまとめた。 R4は11株(図25),R8は12株(図26), R40は3株(図27),R80は6株(図28)である。一般的に根元に近い部分での腋芽の発生率は各変異誘起処理により,あまり変化が無かったが,10節以上の節での腋芽の発生が見られない変異株が多数存在した。この中で,R4(37-2)は頂芽を切除してもほとんど腋芽の発達が無く,下部の腋芽は3月下旬に蕾をつけた。明らかな変異株と認定できる。腋芽の無い変異株は一般に茎が太く,蕾の塊の径が大きく成ることが期待される。図20-1, -2, -3にまとめるように,各系統の株の頂芽を切除して(Cで示す),その後腋芽が発達し,蕾の塊を付した場合,その頂芽についた蕾の直径(2004/12/21)をcmで提示した。さらに赤色ペンで,(2005/2/21)に蕾のうち,花の咲いた%を示した。一般に花の咲く時期は遅くなるものが多かった。
【0124】
本変異株取得法により得られた変異株の葉(節)に腋芽をつける頻度を解析した結果,おおくの変異株で,10節以上に成ると,腋芽をつけない株が得られた。特にR4(37-2)は頂芽を切除してもほとんど腋芽の発達が無く,下部の腋芽遅く蕾を付けた。変異株として同定した。従って本方法は,腋芽を形成する数を制御し,茎の太さ,また蕾の塊の大きさを制御する技術を提供する。
【0125】
蕾をつけるまでの葉の数はその蕾形成が遅い,またいつまでも蕾の状態がつずく,等植物の野菜としての鮮度の良さを変化させる。図20-2, -3にまとめられた部分を主体に,頂芽を切除しなかった植物の蕾をつけたところまでの葉の枚数,蕾の発達の状況(直径)を図29に示した。R0,野生株は10株の平均を示した。R4(38-1)は蕾の塊の直径が大きく,変異株と認定した。その他の株は葉の枚数が野生株,30に対して,34,35,36と多く,花が小さい。これら,R8(41-1), R8(41-2), R4(42-2), R4(42-2), R8(43-1), R4(53-1), R4(54-2), は全て蕾の塊の直径が小さく,生育途上であると判定した。これらは蕾の塊の形成が遅い変異株と同定した。一方葉の数,26で蕾の塊をつける株は蕾の形成が早いと思われるが,蕾の塊もちいさかった。R4(42-1), R40(44-1)も変異株と同定した。
【0126】
本変異株取得法により得られた変異株の葉(節)の数と蕾の塊の形成を解析した結果,R4(38-1)は蕾の塊の直径が大きい変異株,R8(41-1), R8(41-2), R4(42-2), R4(42-2), R8(43-1), R4(53-1), R4(54-2), は蕾の塊の直径が小さく,生育途上で蕾の塊の形成の遅い変異株,R4(42-1), R40(44-1)も蕾の塊の形成の早い変異株と同定した。従って,蕾の塊の形成が早い変異株,遅い変異株,また蕾の塊が大きくなる変異株を生ずる技術を提供する。
【0127】
〔実施例4〕
ペチユ二ア(Petunia; Petunia inflata)の活性酸素耐性変異株
ペチユ二ア(Petunia; Petunia inflata)は中南米原産のナス科の植物で,用いた品種は強い自家不和合性を示した。花は紫色で3-4 cmの大輪の花をさかせる。花が開花する前に花弁を切り開き,柱頭を出す。既に咲いている1節下の花の花粉を,その柱頭につけることにより,自家受粉による交配が可能である。これはまだ咲いていない花の柱頭における自家不和合性がまだ確立していないため,と言われている。自家不和合性は同型花型で,配偶体型である。その中に,ナス科および,イネ科が入る。ナス科の場合,柱頭のRNaseにより,その自家不和合性が支配されていると考えられている。イネ科のライ麦(カラスムギ;Oat; Avena sativa)では,チオレドキシンが自家不和合性に関与すると,考えられているが,確立されるには至っていない。従って,イネ科では活性酸素が自家不和合性に関与する可能性が考えられる。
【0128】
(ペチユ二アの活性酸素耐性変異株とその特徴)
方法:種子(サカタのタネより提供)を滅菌後,0, 4, 8, 40, 80 μM メチルビオローゲンを含む,MS培地,2%寒天に播種した。発芽種子の状況を図30に示す。過酸化水素を用いた場合も同様な結果を得た。およそ1ケ月後,生育した幼植物をさらに濃度の高い メチルビオローゲンを含む培地に移植した。約一ケ月後に,植物をプランターの黒土に移植した。植物は多くが順化の時期に枯死した。そのうちの一部である32株がペチュニアの親株として,生育した。ペチュニアは幼植物とその親植物の間にかなりの形態的な相違がある。そのうち4株は葉が大きく,野生株の葉に比べ,およそ2倍の大きさがあった。また重量でもおよそ2倍の重量があった。それを図31に示す。更に重量が2倍になるのみならず,葉の緑が濃い。それを図32,図33,図34に示す。植物の葉の大きさが重量で2倍になることにより,また葉緑素の濃度が高いことにより,植物当りの光合成の増大を可能とする。葉の緑が濃く,また葉が大きい理由をのべる。太陽の強光で照射され,葉が活性酸素を出す。そのため野生株は強光阻害を示し,活性酸素による葉緑素のブリーチングを示す。しかし,活性酸素を速やかに除去する変異株は強光阻害が起こりにくく,緑が濃い状況で,更に成育もよくなる。これらの活性酸素発生剤により誘起された変異植物の中に,高頻度で,巨大化する,さらに,緑の濃い植物を見い出した。従って,植物の巨大化を可能とさせる技術,および植物の緑を高い状況で維持し,植物の光合成の速度を増大させる技術を提供する。
【0129】
本方法により取得される変異株は細胞核突然変異により,またミトコンドリア核,また葉緑体核の変異を含んでいる。変異株の細胞内に発生した活性酸素の消去能力が高いと考えられる。またミトコンドリアおよび葉緑体のなかに発生した活性酸素を消去する速度が早い,またはミトコンドリアおよび葉緑体の活性酸素発生能が低いと考えられる。活性酸素の消去が早い為に,活性酸素による光合成装置等への害作用が少なく,効率よく太陽からの光エネルギーを炭酸同化作用に回すことができる。このようにして植物体が巨大化することができる可能性がある。太陽光を捕集して,電子のエネルギーレベルを光化学系II (PSII)で打ち上げる。光化学系II (PSII)でエネルギーレベルの上昇した電子は,光化学系I (PSI)へ移動する間(電子伝達系でエネルギーを放出する)に強い還元力を持つNADPHをつくり,またそのエネルギーをH+のチラコイド膜内への蓄積に使用する。H+のチラコイド膜内への蓄積により生じたエネルギーは,ATP合成酵素により,ATPに変換される。NADPHとATPはカルビンーベンソン回路の酵素系を動かし,CO2の(CH2O)への還元を行なう。このようにして,炭水化物が生成される。この反応系で,例えば光強度が強過ぎると,光エネルギーはうまく処理できず,光飽和の状態になる。電子は電子伝達系からもれ,O2に吸収され,スーパーオキシドを生成する。これらの活性酸素は光合成装置を破壊しはじめる。光障害が生ずることとなる。
【0130】
本方法は細胞核DNA, 葉緑体DNA, ミトコンドリア核DNAに変異をいれる方法を提供する。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,活性酸素の消去能を上昇させる。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,また葉緑体DNAまたはミトコンドリア核DNAに変異をいれ,活性酸素の放出能を低下させる。この結果植物の葉は緑が濃くなり,葉は大きく成長した。したがって,活性酸素に関わる光合成能率を改良し,葉の緑を維持し,葉の成長を早くさせる技術を提供する。
【0131】
地球温暖化の要因である,CO2の上昇は化石燃料等の多大な使用による。地球上の光合成によるCO2の固定は,年間地球上大気のCO2の10 %に及ぶといわれている。従って,本変異株は作物植物の光合成能力を上昇させ,地球上のCO2の削減に寄与する技術を提供する。
【0132】
本方法により得られた変異株は光合成器官,葉緑体に生じた種々の活性酸素の消去能力が高い。これらの活性酸素発生剤に耐性を示す植物の中に,光合成で生じた活性酸素を野生株より早く消去する株が存在する。強光下で光化学系II (PSII), 光化学系I (PSI)でエネルギーレベルの高い電子が過密になれば,電子はもれだし,活性酸素を発生しやすい。従ってパルス光を野生株,変異株に照射し,パルスで暗期を入れる光照射機を開発すると,最良の生育を示すために,その光パルスおよび暗期のパルスの間隔に違いが出るはずである。従ってこれらの変異株はこのような至適パルス光,パルス暗期,を制御できる照射機を開発する技術を提供する。
【0133】
また、これらの活性酸素発生剤に耐性を示す植物には,光合成で生じた活性酸素を野生株より早く消去する株が存在する。強光下で光化学系II (PSII), 光化学系I (PSI)でエネルギーレベルの高い電子が過密になれば,電子伝達系で電子がもれ,活性酸素を発生する。活性酸素は光合成装置を破壊し,光障害によるいわゆる強光阻害が生ずる。これらの変異株は強光下にも光合成能力が落ちず,CO2の固定反応は高いレベルを維持する。作物植物の光合成能力を上昇させると共に,地球温暖化の主要因である,CO2の削減に寄与する。従って,作物植物の光合成能力を上昇させ,地球上のCO2の削減に寄与する技術を提供する。
【0134】
本活性酸素耐性変異株のなかに,明らかに緑が濃い葉を持つ変異株が3株存在した。光合成系の色素の生合成が光および,活性酸素に依存して,誘導された可能性と,活性酸素による葉緑素のブリーチング効果を減速させた故に緑が濃くなったと考えられる。これらは観葉植物によりよい品質を与えるとともに,光合成能力も上昇していると考えられる。
【0135】
これらの活性酸素発生剤に耐性を示す植物には,光合成で生じた活性酸素を野生株とは異なる方法で光合成色素の誘導をする株または,活性酸素による葉緑素のブリーチング効果を減速させた故に緑が濃くなったと考えられる株が存在する。強光下で光化学系II (PSII), 光化学系I (PSI)でエネルギーレベルの高い電子が過密になれば,活性酸素を発生し,光合成装置の光障害によるいわゆる強光阻害が生ずる。これらの変異株は強光下に破壊が進む光合成系色素の防護能力が高いとも考えられる。また光合成系色素の合成速度が早く,緑が濃い葉を持つ変異株となっている可能性がある。これらの変異株は光合成能力が落ちず,CO2の固定反応は高いレベルを維持する。作物植物の光合成能力を上昇させると共に,地球温暖化要因である,CO2の削減に寄与する。従って,作物植物の光合成能力を上昇させ,地球上のCO2の削減に寄与する技術を提供する。
【0136】
これらの活性酸素発生剤に耐性を示す植物には,光合成で生じた活性酸素を野生株とは異なる方法で光合成系色素の誘導をする株が存在する。強光下で光化学系II (PSII), 光化学系I (PSI)でエネルギーレベルの高い電子が過密になれば,活性酸素を発生し,光合成装置の光障害によるいわゆる強光阻害が生じ,光合成系色素の破壊(ブリーチング)がすすむ。これらの変異株は強光下に破壊が進む光合成系色素の防護能力が高いか,活性酸素をすみやかに消去する故にブリーチングが遅い,または光合成系色素の合成速度が早く,緑が濃い葉を持つ変異株となっている可能性がある。従って,光合成能力の高い,観葉植物を創出する技術を提供する。
【0137】
既に述べたが,ペチユ二ア(Petunia; Petunia inflata)はナス科の植物で,用いた品種は強い自家不和合性を示す。花は紫色で3-4 cmの大輪の花をさかせる。花が開花する前に花弁を切り開き,柱頭を出す。既に咲いている1節下の花の花粉を,その柱頭につけることにより,自家受粉による交配が可能である。これはまだ咲いていない花の柱頭における自家不和合性がまだ確立していないため,と言われている。自家不和合性は同型花型で,配偶体型である。その中に,ナス科および,イネ科が入る。ナス科の場合,柱頭のRNaseにより,その自家不和合性が支配されていると考えられている。本変異株の中に,交配無しでも,低頻度で,実を生ずる変異株,4株を見い出した。従って,なんらかの酵素反応が,活性酸素に依存して制御されている可能性をしめす。以上の事柄から,以下の結論が導かれる。これらの活性酸素発生剤に耐性を示す植物には,低頻度で自家不和合成が解除され,実を結ぶ変異株が存在した。従って,低頻度で自家不和合成を解除させる技術を提供する。
【0138】
〔実施例5〕
アブラナ(Brassica campestris)の活性酸素耐性変異株
アブラナ科の植物はその種子より,植物油脂をとる為に,大規模の栽培がなされる。アブラナの光合成を改良し,成長を早くさせる変異,また良質の油脂を生産する変異植物を得る方法を述べる。
【0139】
(アブラナの活性酸素耐性変異株の単離とその特徴)
方法:アブラナの種子(渡辺採種場より購入)を常法に従って,50粒/シャーレで計,20シャーレ滅菌した。4シャーレずつ,0, 4, 8, 40, 80 μM メチルビオローゲンを含む,MS salt 液体培地25 ml に播種した。8 ℃,8 hr光照射/16 hr暗黒,8日間種子を発芽させ,バーミキユライト,1,000 mlに1/500 ハイポネックス800 mlを加えた。その上に発芽種子を50個播き,恒明下,23 ℃で6日間生育させた。その結果を図35,図36,図37,図38,図39に示す。発芽は0μM メチルビオローゲン,R0では116個体/200粒(58.0 %),4μM メチルビオローゲン, R4では,137個体/200粒 (68.5 %),R8では77個体/200 粒(38.5 %),R40では22個体/200粒 (11.0 %),R80では17個体/200粒(8.5 %)であった。過酸化水素を用いた場合も同様な結果を得た。6日後に苗床に生えた植物を目視し,下胚軸が異常にのびた植物,hy (hypocotyl elongation)を単離し,プランターの黒土に移植した。およそ1.5ケ月後,その野生株,R0の生育を示す(図40)。hy変異株の生育の状況を図41に示す。R4およびR8 より,明らかに巨大化した,と思われる植物がおよそ10株得られた。これらの株の多くは明らかに野生型より緑が濃かった。更に比較的多数見られた,下胚軸が白い,光に対して変化が生じたと思われる株,white hypocotyl (wh)変異株を移植より10日後に目視で見い出し,プランターの黒土に移植した。野生株を図42,R4からの変異株を図42に示す。単離された56株の中から,6株が巨大に成り,緑も濃い変異植物が存在した(図43)。
【0140】
以上の結果より以下のような結論を導き出すことができる。活性酸素発生剤である,メチルビオローゲン,および過酸化水素を用いて,アブラナを発芽させると,巨大化した変異植物を多量に単離することができる。そしてその多くが緑が濃い植物であった。その大きさは幼植物の間に,下胚軸の長さにでてくる。従って巨大化植物で,緑の濃い変異植物を高効率に単離する技術を提供する。
【0141】
本方法は細胞核DNA, 葉緑体DNA, ミトコンドリア核DNAに変異をいれる方法を提供する。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,活性酸素の消去能を上昇させる。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,また葉緑体DNAまたはミトコンドリア核DNAに変異をいれ,活性酸素の放出能を低下させる。この結果植物の葉は緑が濃くなり,植物の成長が早くなった。したがって,活性酸素に関わる光合成能率を改良し,葉の緑を維持し,成長を早くさせる技術を提供する。
【0142】
これらの巨大化植物は,活性酸素の消去能率が高い,また活性酸素の発生効率が低い,と考えられる。その種子の油脂の組成に,野生株とは異なる組成が生ずる。油脂は活性酸素が多量に有る野生株の状態では,過酸化状態となリ易い。しかし活性酸素のレベルの低い変異植物では,酸化度の低い油脂が大勢を占め,変異植物は健康食品としての付加価値を有することと成る。従って,活性酸素のレベルの低い変異植物では,菜種油も酸化度の低い植物油を有することと成る。
【0143】
以上から以下のような結論が誘導される。巨大化し,特に緑の濃い変異植物は活性酸素の発生効率が低いこと,また活性酸素の消去能率が高いことより,良質の低い酸化度の植物油脂を与える技術を提供する。
【0144】
〔実施例6〕
オートムギ(Avena sativa/fatua;マカラスムギ,ライムギ)の活性酸素耐性変異株
オートムギ(Avena sativa/fatua)はマカラスムギ,ライムギとも呼ばれ,オートミールの原材料である。また牧草としても使用されている。オートムギはイネ科で自家不和合性を示すことでも知られ,自家不和合性の研究材料として用いられている。同型花型で,配偶体型であり,その過程にチオレドキシンが関与することが提唱されたが,確立されるには至っていない。
【0145】
また古くから,アべナテストとして,植物生理学の重要な研究材料としても用いられている。更にオートムギ(Avena sativa/fatua)は光生物学の主要な研究材料で,その光受容体として,フィトクロムの研究はそのレベルは高い。従ってその方面からの植物学としての一般的な研究材料として,データの集積はかなり有るものと考えてよい。しかし,光生物学,また植物生理学の研究材料として,膨大な集積が有るにも関わらず,その変異株の解析は皆無と言ってよい程,研究はなされていない。地球環境の観点から言えば,牧草は,大気中CO2削減対象として,人に匹敵,またはそれ以上の量を必要とする家畜の飼料として,その存在価値は実に大きい。
【0146】
(オートムギの活性酸素耐性変異株の単離とその特徴)
方法:既に述べられた方法にしたがって,種子(渡辺採種場より購入)を滅菌し,0, 4, 8, 40, 80 μM メチルビオローゲンを含むMurashige-Skoog salt 培地に播いた。7日後に発芽種子を1 000 ml のバーミキユライト/700 mlハイポネックスに50粒ずつ,4皿,計1,000粒を播種した。生育のよい発芽種子をプランターの黒土に,5株/プランターに成るように移植した。野生株R0は40株を移植し,その一般的性質をしらべた(図44,図45,図46)。4μM メチルビオローゲンを含むMurashige-Skoog salt 培地に生育した植物は,4株で,8μM メチルビオローゲンを含む培地では,108株であった。40μM メチルビオローゲン処理では1株であった。薬剤無処理では,バーミキユライト/ハイポネックス苗床に99株が成育した。8μM メチルビオローゲンを含む培地での108株は変異を含む可能性が高い。4μM メチルビオローゲンを含む培地に生育した植物は4株で,薬剤による枯死の効果がはっきりでていると考えられる。8μM メチルビオローゲンを含む培地での108株は活性酸素に誘導された変異により,活性酸素耐性を獲得し,生育が可能となった可能性が高い。40μM メチルビオローゲン処理では1株で,それ以上の濃度では植物は全く生育しなかった。過酸化水素を用いても同様の生育パターンが見られた。
【0147】
以上の結果より,以下のような結論を引き出すことが可能となる。8μM メチルビオローゲンを含む培地では54.0 %の高効率で変異株が108株単離された。従って8μM メチルビオローゲンを含む培地を用いると言う,新しい技術をあたえる。
【0148】
冬期2ケ月半で,植物は露地で生育したが,オートムギの場合も,植物が巨大化する状況が高頻度で見られた。対照として,薬剤無処理株を40株調査した。茎と葉を含む野生型植物の草丈は平均で38.7 cmであった。35株の植物が,野生株の平均よりも,遥かに大きく, 45 cm以上で,葉の緑の濃さ,葉の厚さ,等他の形質からも,変異株と認められた。また63株が野生株より緑が濃く,そのうち38株は緑が特に濃かった。これらの全データのうち野生株のデータを表2にまとめる。これらの植物は,太陽光による光合成の過程で生じた活性酸素の発生に対し,その消去能力が充分に高く,高度の炭酸同化作用を維持し続けることができるためと,考えられる。これらの植物は炭酸同化作用の速度,効率が野生株より良く,活性酸素による葉緑素のブリーチングを回避するために,より緑が濃いと考えられる(図47,図48,図49)。より多くの食料,家畜の飼料を提供し,またひいては地球温暖化の原因となる地球上の炭酸ガス濃度の低下に寄与することができる。
【0149】
本方法は細胞核DNA, 葉緑体DNA, ミトコンドリア核DNAに変異をいれる方法を提供する。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,活性酸素の消去能を上昇させる。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,また葉緑体DNAまたはミトコンドリア核DNAに変異をいれ,活性酸素の放出能を低下させる。この結果植物の葉は緑が濃くなり,植物の成長が早くなった。したがって,活性酸素に関わる光合成能率を改良し,葉の緑を維持し,成長を早くさせる技術を提供する。
【0150】
以上の結果より以下の結論を導くことができる。8μM メチルビオローゲンを含むMS培地では54.0 %の高効率で変異株が108株単離された。この中より,太陽光下で,高効率で炭酸同化作用をおこない,生育が早くなった植物が存在する。成育が早く,緑が濃い変異植物は計56株が単離された。従って,高効率で炭酸同化作用をおこない,成育が早く,地球上の炭酸ガスの固定の加速を可能とする植物品種をうる技術を提供する。
【0151】
さらに野生株については,40株を調査したが,出穂したものは2ケ月半でみられ無かった。しかし,成育が早く,緑が濃い変異植物は計56株が同定され,そのうち8株が出穂していた(図50,図51,図52)。つまり早咲きの植物がすくなくとも,8株得られた。したがって,以下のような結論を導くことができる。8μM メチルビオローゲンを含むMS培地では54.0 %の高効率で変異株が108株単離された。この中より,成育が早く,緑が濃い変異植物は計56株が単離された。その中で8株が早咲きとなっていた。従って,植物に花を早く咲かせる変異を誘起する技術を提供する。
【0152】
【表2】

【0153】
〔実施例7〕
トウモロコシ(Zea mays L.)の活性酸素耐性変異株
トウモロコシは古くから,農作物として,また遺伝学の研究材料として用いられてきた。トウモロコシはその実が食料と成るばかりで無く,その茎は家畜の飼料としての利用価値も高い。近年トウモロコシはその茎,葉を発酵させ,化石燃料の代替えとして,燃料アルコールを得るための原材料ともなっている。さらに植物を素材としたプラスチックの原材料を提供している。従ってトウモロコシの品種改良を行ない,光合成能率を高め,炭酸同化作用を高効率で可能とすることにより,食料,良質のコーン油,家畜の飼料,また燃料アルコール,植物プラスチックの原材料を提供することができる。
【0154】
(トウモロコシの活性酸素耐性変異株の単離とその特徴)
方法:第1回目の実験では常法に従いトウモロコシの種子(渡辺採種場より購入),25粒をガラスシャーレに入れ,計500粒を4ガラスシャーレずつ,セットとして,次亜塩素酸で滅菌処理をした。滅菌水で5回すすぎ,次ぎの薬剤処理に回した。0, 4, 8, 40, 80 μM メチルビオローゲンを含むMS salt培地を25 ml/シャーレで入れ,8 ℃, 8 hr 光照射/16 hr 暗黒で成育させた。7日後,各25株を700 ml 1/500ハイポネックスに1 000 mlバ−ミキユライトを入れた皿に移植した。13日後に,野生株を22株黒土の入ったプランターに移植し,温室,23 ℃で冬期の日長で成育させた。過酸化水素による実験も同様の結果を得た。
【0155】
この実験の第2回目は,50粒をガラスシャーレに入れ,同様に処理を進めた。薬剤処理は17日となった。バーミキュライトへの植え込み後,直後に更にバーミキュライトを1 000 ml種子の上にかぶせ,1/500ハイポネックスを1 000 ml上からかけた。13日後に,野生株,R0の発芽数は94/200(発芽率,47.0 %)(図53), R4の発芽数は76/200(発芽率,38.0 %)(図54), R8の発芽数は57/200(発芽率,28.5 %)(図55), R40の発芽数は7/200(発芽率,3.5 %)(図56), R80の発芽数は1/200(発芽率,0.5 %)(図57)であった。薬剤処理後に成育した植物は141株であった。この植物をプランターに入れた黒土に移植した。
【0156】
第1回目の実験で得られた植物は約2ケ月で,野生株は2株が雄花を出穂し,花粉も出した(図58)。しかし,得られた変異株では,10株のうち,1株だけが同様に雄花を出穂した。R8 の3株は野生株にくらべ巨大化した。約1.5倍の巨大化した植物は葉の色も緑が濃く,葉も大きかった(図59,図60,図61)。また2株の約 1.2倍に巨大化した植物が得られ,そのうち1株は雄花が出穂した。雄花がまだでていない変異株は,葉の色が濃く,葉緑体の色素形成の安定度がよい可能性がある。太陽光照射により,葉に活性酸素が多量に発生し,葉緑体のブリーチングを行ない,葉の葉緑素を破壊し,緑が薄くなる可能性がある。活性酸素の除去能力が強ければ,必然的に緑の濃い状態となる。このような変異植物は光合成の能率も高く,成長も早い。しかし得られた変異株は雄花の出穂はおくれており,花成遅延となっていた。
【0157】
以上の結果より,以下のような結論を導くことができる。トウモロコシを用いて,活性酸素の除去能力が高い変異株を効率良く単離する技術を提供する。このような植物は,緑が濃く,更にその成長が早い。巨大化し,明らかに多収性がある。植物体は多量の食料のみ成らず,家畜の飼料をも提供する。
【0158】
本方法は細胞核DNA, 葉緑体DNA, ミトコンドリア核DNAに変異をいれる方法を提供する。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,活性酸素の消去能を上昇させる。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,また葉緑体DNAまたはミトコンドリア核DNAに変異をいれ,活性酸素の放出能を低下させる。この結果植物の葉は緑が濃くなり,植物の成長が早くなった。したがって,活性酸素に関わる光合成能率を改良し,葉の緑を維持し,成長を早くさせる技術を提供する。
【0159】
トウモロコシはコーン油の原材料を与える。そのコーン油の酸化度は活性酸素の除去能力の高い植物からは,健康食品としての高品質の酸化度の低いコーン油を提供することができる。またトウモロコシの実の多産性も得られるので,高品質のコーン油を多量に提供する技術を提供する。
【0160】
トウモロコシを用いて,活性酸素の除去能力が高い変異株を効率良く単離する技術を提供する。このような植物は,緑が濃く,更にその成長が早い。巨大化し,明らかに多収性がある。植物体は地球温暖化の本となる炭酸ガスを多量に吸収し,固定し,化石燃料の代替え動力燃料として,燃料アルコールを安価に提供する技術を提供する。更に植物プラスチックの原材料を提供する技術を提供する。
【0161】
〔実施例8〕
ダイズ (Glycine max Merrill)の活性酸素耐性変異株
ダイズは味噌,豆腐,納豆,ダイズ油等,多くの加工食品の,原材料であり,主要穀類の一つである。その栄養価の高さはマメ類の中でも特筆に値する。このダイズを用いて,常法に従い,突然変異を誘起する処理を行なった。
【0162】
(ダイズの活性酸素耐性変異株の単離とその特徴)
方法:ガラスシャーレにダイズ(渡辺採種場より購入)を50粒/シャーレ入れ,1/4容に希釈した次亜塩素酸25 mlで20分処理した。30 mlの滅菌水で,5回,すすいで,次亜塩素酸を除去した。大型(21 cm, 26 cm, 5 cm)のステンレスバットに良質のペーパータオルを入れ,フォイルをして滅菌した。そのなかに,200 mlのMS salt培地で,メチルビオローゲン を 0, 4, 8, 40, 80 μM含む培地を投入し,ペーパータオルによく吸収させ,馴染ませた。その各々に滅菌した種子を,200粒均一に播いた。空気の流通を良好にすることに気をつけ,8 ℃, 8 hr 光照射/16 hr 暗黒で,7日間発芽させた。その後,700 mlハイポネックス,1,000 ml バーミキュライトの苗床に,25粒/プラスチックバットで移植し,23 ℃,恒明下で成育させた。発芽の頻度はR0, 125 (62.5 %), R4, 84 (42.0 %), R8, 35 (17.5 %), R40, 12 (3.0 %), R80, 0 (0.0 %)であった。その成育の状況を図62,図63,図64,図65,図66に示す。14日後,発芽幼植物を黒土を入れたプランターに3本/プランターで移植した。植物は冬期の温室の強光下で成育させたが,薬剤処理した植物の中には,枯死するものもある。更に1ケ月半後,植物の成育状態を評価した。野生型は13個体の平均で,草丈46 cm,3枚から成る複葉の中央の小葉の縦幅は平均で,7.2 cmであった。R4からは53株が成育した。R8からは7株であった。R40からは4株,計64株が成育した。そのうち,R4からは3株,R4-1-3, R4-5-1, R4-6-10が草丈が80, 90, 110 cmで,複葉の中央の小葉の縦幅は 7.8, 9.2, 11.3 cmで,野生型の複葉の中央の小葉の縦幅を遥かに上まわった。これらは有用変異とみなしてよい。その他,複葉の中央の小葉の縦幅が10 cmを上まわる株,R4-3-1, R4-4-1, R4-4-2, R40-1-1,が4株見出された。これらの株は草丈がそれぞれ,50, 36, 33, 45 cmであり,これらは有用変異とみなしてよい。ダイズの場合,草丈が高すぎない方が植物が安定し,サヤが密に存在し,その方がよいとされている。そのような観点からもこれらの植物は巨大化が葉に起こったと考えられ,収穫が上がることが期待できる。これら7株は若い葉の緑が野生株より濃い。これらを,図67,図68,図69,図70,図71,図72, 図73, 図74であらわす。
【0163】
以上の結果から以下のような結論を導き出すことができる。ダイズを用いて高頻度に有用変異を誘起する方法を提供する。本方法により,植物は草丈の巨大化,および葉の巨大化を示す。また草丈はあまり変化しないが,葉が巨大化した植物が得られた。従って活性酸素の除去能力が上がり,光合成能率が上昇し,成育の早い,生産性の高い植物を提供する技術を提供する。
【0164】
本方法は細胞核DNA, 葉緑体DNA, ミトコンドリア核DNAに変異をいれる方法を提供する。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,活性酸素の消去能を上昇させる。細胞核DNAにコードされる遺伝子に変異をいれ,また葉緑体DNAまたはミトコンドリア核DNAに変異をいれ,活性酸素の放出能を低下させる。この結果植物の葉は緑が濃くなり,植物の成長が早くなった。したがって,活性酸素に関わる光合成能率を改良し,葉の緑を維持し,成長を早くさせる技術を提供する。
【0165】
本方法により得られた植物は,活性酸素の消去が早いため,葉の葉緑素が活性酸素により,ブリーチングを受ける等の破壊のレベルが低く,葉緑素を高いレベルで保持する。従って,全体として若い葉の緑が濃く見える。このような場合,光合成能率も上がり,植物が巨大化することを良く説明する。その実がまた多産であることが充分に見込める。またダイズは1重項酸素の消去等に関わる,イソフラボンなどフラボノイドの含量が多い。これらのフラボノイドの蓄積量が増加しても,葉の葉緑素のブリーチングを阻止することができる。
【0166】
従って以上のことから,以下のような結論を導き出すことができる。ダイズを用いて有用変異を誘起する方法により得られた植物は葉の緑が濃い。本方法による変異植物はフラボノイド等の抗酸化物質を多量に生産し,活性酸素をすみやかに消去し,従って成育の早い,生産性の高い植物を提供する技術を提供する。またその実は抗酸化物質を多量に含み,食物としての栄養価は高い。従って,高生産性のみならず,栄養価の高い実を結実させる植物を作る技術を提供する。
【0167】
さらに本技術で得られる植物は植物油脂の原材料を提供する。活性酸素消去能が高い為に,本植物から得られたダイズは酸化度の低い良質の植物油の原材料をあたえる。従って,本技術は酸化度の低い良質の植物油の原材料をあたえる技術を提供する。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明により、菌類及び植物に有用な変異を高効率で誘導することができるようになった。その結果、有用な変異を有する菌類及び植物を作製することができるようになった。
【0169】
本研究は今地球が置かれている状況を少しでも良くする可能性を含む技術であると考える。例えばトヨタ自動車工業(株)は植物プラスッチックの開発を行ない,またブラジルではトウモロコシから植物アルコールを生産し,石油に依存しない国家体制をひいている。資源の少ない化石燃料に依存度の高い日本では,このような研究を必要としている。
【0170】
本研究により,農業(穀類,野菜類)へ充分貢献すると考える。更に健康食品,植物油脂工業,また化石燃料資源の代替えエネルギー原として,燃料エタノール,また植物プラスチックの原材料を多量に提供する。また牧畜における牧草の成育を改良し,家畜の飼料を多量に提供する。
【0171】
多数の変異植物のライブラリーを構築することにより,また自家不和合性を制御することにより,新しい品種改良の基盤が構築されつつある。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】メチルビオローゲンを4μM(R4と表記), 8μM, 40μM, 80μMの濃度で含む培地にアラスカエンドウを生育させた。充分に発芽したものを計数した。コントロール(0μM;R0と表記)を野生株とし,野生株の自殖からとれた種子を変異株の解析の野生型のコントロールとして用いた。
【図2】雑種第2代に相当するアラスカエンドウの種子を播種し,それをプランターに移植し,生育させた。
【図3】アラスカエンドウの花をつけた節の数の分布を野生株,および8種の変異株で示した。下部にそのデータを示す。
【図4】代表的な2株のアラスカエンドウ変異株,系列1(No.3-1, R8), 系列2(No.7, R8), 系列3(No.1, R0; 野生株)。
【図5】節間の短縮が所々に見られるアラスカエンドウ変異株。
【図6】花の咲く時期がもっとも早いアラスカエンドウ変異株。枯死する時期も野生株より1月はやい。
【図7】節間の短縮が花が付く節の1つ前でおこる。全ての子孫が同じ性質を示す。
【図8】アラスカエンドウ野生株における節間の分布と実の付きかた。花柄の長さは長く,さやの肉は薄い。
【図9】No.8, R8 4-5-14変異株における節間の短縮を黄色の矢印で示す。さやの肉は厚く,花柄の長さは短い。
【図10】No.8, R8 4-5-14変異株における節間の短縮を黄色の矢印で示す。さやの肉は厚く,花柄の長さは短い。
【図11】ブロッコリーの種子の各濃度のメチルビオローゲンでの発芽率。3回の実験の平均値と標準偏差
【図12】R0野生株の生育状態。
【図13】R4(5)の生育状態。
【図14】野生株20株の平均,およびR4(5)の茎の太さ。
【図15】野生株20株の平均,およびR8(11)の茎の太さ。
【図16】野生株20株の平均,およびR8(20-2)の茎の太さ。
【図17】野生株20株の平均,およびR80(2)の茎の太さ。
【図18】野生株20株の平均,およびR80(12)の茎の太さ。
【図19】野生株20株の平均,およびR80(22-3)の茎の太さ。
【図20−1】ブロッコリーの種子を各濃度のメチルビオローゲンでの処理し,得られた植物,94株の特性。頂芽を切除した植物(C),その頂芽が植物体として生育したもの(H),更にその腋芽が大きくなり蕾の塊をつけた場合のその直径(cm)。更にその葉と茎を切除して移植し,その腋芽が植物体を形成したもの,3-11はNo.3植物の11番目の葉の葉柄からでた腋芽,を示す。
【図20−2】ブロッコリーの種子を各濃度のメチルビオローゲンでの処理し,得られた植物,94株の特性。頂芽を切除した植物(C),その頂芽が植物体として生育したもの(H),更にその腋芽が大きくなり蕾の塊をつけた場合のその直径(cm)。更にその葉と茎を切除して移植し,その腋芽が植物体を形成したもの,3-11はNo.3植物の11番目の葉の葉柄からでた腋芽,を示す。
【図20−3】ブロッコリーの種子を各濃度のメチルビオローゲンでの処理し,得られた植物,94株の特性。頂芽を切除した植物(C),その頂芽が植物体として生育したもの(H),更にその腋芽が大きくなり蕾の塊をつけた場合のその直径(cm)。更にその葉と茎を切除して移植し,その腋芽が植物体を形成したもの,3-11はNo.3植物の11番目の葉の葉柄からでた腋芽,を示す。
【図21】R4(5)の茎頂を切除し,土に移植した植物の生育状況。蕾の塊を形成し,花をさかせ,さらにサヤをつけた。
【図22】R8(24-1, 24-2)の茎頂を切除し,土に移植した植物の生育状況。R8(24-1)は後に蕾の塊を形成した。
【図23】R0野生株の茎頂を切除し,土に移植した植物の生育状況。
【図24】R0野生株,22株の葉柄に腋芽の付いた葉の分布と,その植物の葉の枚数。
【図25】R4変異株,11株の葉柄に腋芽の付いた葉の分布と,その植物の葉の枚数。
【図26】R8変異株,13株の葉柄に腋芽の付いた葉の分布と,その植物の葉の枚数。
【図27】R40変異株, 5株の葉柄に腋芽の付いた葉の分布と,その植物の葉の枚数。
【図28】R80変異株,7株の葉柄に腋芽の付いた葉の分布と,その植物の葉の枚数。
【図29】頂芽を切除しなかった場合の花(蕾の塊)の位置と葉の枚数の関係。
【図30】500粒の種子を20セット準備し,滅菌後,4セットずつそれぞれ0, 4, 8, 40, 80 μM メチルビオローゲンを含む,MS培地,2%寒天に播種した。その発芽種子の状況を示す。発芽数およびその平均値と標準偏差をバーで示す。
【図31】野生株とR80-6B変異株(図中6B80)。R80-6B変異株は葉が大きく,野生株の葉に比べ,およそ2倍の大きさがあった。また重量でもおよそ2倍の重量があった。
【図32】野生株とR80-2e変異株(図中2e 80)。R80-2e変異株は葉が大きく,野生株の葉に比べ,およそ2倍の大きさがあった。また重量でもおよそ2倍の重量があった。更に葉の緑が明らかに濃い。
【図33】野生株とR80-2f変異株(図中2f 80)。R80-2f変異株は葉が大きく,野生株の葉に比べ,およそ1.5倍の大きさがあった。また重量でもおよそ1.5倍の重量があった。更に葉の緑が明らかに濃く,厚い。
【図34】野生株とR80-6A-1変異株(図中6A 80-1)。R80-6A-1変異株は葉が大きく,野生株の葉に比べ,およそ3倍の大きさがあった。また重量でもおよそ3倍の重量があった。更に葉の緑が明らかに濃く,厚い。
【図35】無処理植物,野生株の成育状況。0μM メチルビオローゲンを含む,MS salt 液体培地25 ml に播種し,8 ℃,8 hr光照射/16 hr暗黒,8日間種子を発芽させ,バーミキユライト,1,000 mlに1/500 ハイポネックス800 mlを加えた苗床に50種子播種した。
【図36】R4薬剤処理植物の成育状況。4μM メチルビオローゲンを含む,MS salt 液体培地25 ml に播種し,8 ℃,8 hr光照射/16 hr暗黒,8日間種子を発芽させ,バーミキユライト,1,000 mlに1/500 ハイポネックス800 mlを加えた苗床に50種子播種した。
【図37】R8 薬剤処理植物の成育状況。8μM メチルビオローゲンを含む,MS salt 液体培地25 ml に播種し,8 ℃,8 hr光照射/16 hr暗黒,8日間種子を発芽させ,バーミキユライト,1,000 mlに1/500 ハイポネックス800 mlを加えた苗床に50種子播種した。
【図38】R40薬剤処理植物の成育状況。40 μM メチルビオローゲンを含む,MS salt 液体培地25 ml に播種し,8 ℃,8 hr光照射/16 hr暗黒,8日間種子を発芽させ,バーミキユライト,1,000 mlに1/500 ハイポネックス800 mlを加えた苗床に50種子播種した。
【図39】R80薬剤処理植物の成育状況。80 μM メチルビオローゲンを含む,MS salt 液体培地25 ml に播種し,8 ℃,8 hr光照射/16 hr暗黒,8日間種子を発芽させ,バーミキユライト,1,000 mlに1/500 ハイポネックス800 mlを加えた苗床に50種子播種した。
【図40】薬剤無処理植物,野生株のプランターで1.5ケ月の成育状況。
【図41】R4 hypocotyl elongation植物のプランターで1.5ケ月の成育状況。
【図42】薬剤無処理植物,野生株のプランターで1.5ケ月の成育状況。
【図43】R4 white hypocotyl植物のプランターで1.5ケ月の成育状況。
【図44】滅菌種子を0μM メチルビオローゲンを含むMurashige-Skoog salt 培地に播いた。7日後に発芽種子を1 000 ml のバァーミキユライト/700 mlハイポネックスに50粒ずつ,4皿,計200粒を播種した。生育のよい発芽種子をプランターの黒土に,5株/プランターに成るように移植した。野生株R0は40株を移植し,その一般的性質をしらべた。
【図45】図44と同じ,野生株の成育状況。
【図46】図44と同じ,野生株の成育状況。
【図47】滅菌種子を8μM メチルビオローゲンを含むMurashige-Skoog salt 培地に播いた。7日後に発芽種子を1 000 ml のバァーミキユライト/700 mlハイポネックスに50粒ずつ,4皿,計200粒を播種した。生育のよい発芽種子をプランターの黒土に,5株/プランターに成るように移植した。変異株の成育状況。
【図48】図46と同じ。変異株の成育状況。
【図49】図46と同じ。変異株の成育状況。
【図50】図47と同じ。変異株の中で出穂した株の成育状況。
【図51】図47と同じ。変異株の中で出穂した株の成育状況。
【図52】図47と同じ。変異株の中で出穂した株の成育状況。
【図53】トウモロコシの種子,50粒をガラスシャーレにいれ,計1 000粒を4ガラスシャーレずつ,セットとして,次亜塩素酸で滅菌処理をした。滅菌水で5回すすぎ,次ぎの薬剤処理に回した。0μM メチルビオローゲンを含むMS salt培地を25 ml/シャーレで入れ,8 ℃, 8 hr 光照射/16 hr 暗黒で成育させた。17日後,各50株を700 ml 1/500ハイポネックスに1 000 mlバ−ミキユライトを入れた苗床に移植した。バーミキュライトへの植え込み後,直後に更にバーミキュライトを1 000 ml種子の上にかぶせ,1/500ハイポネックスを1 000 ml上からかけた。13日後の成育状況を示す。
【図54】トウモロコシの種子,50粒をガラスシャーレにいれ,計1 000粒を4ガラスシャーレずつ,セットとして,次亜塩素酸で滅菌処理をした。滅菌水で5回すすぎ,次ぎの薬剤処理に回した。4μM メチルビオローゲンを含むMS salt培地を25 ml/シャーレで入れ,8 ℃, 8 hr 光照射/16 hr 暗黒で成育させた。17日後,各50株を700 ml 1/500ハイポネックスに1 000 mlバ−ミキユライトを入れた苗床に移植した。バーミキュライトへの植え込み後,直後に更にバーミキュライトを1 000 ml種子の上にかぶせ,1/500ハイポネックスを1 000 ml上からかけた。13日後の成育状況を示す。
【図55】トウモロコシの種子,50粒をガラスシャーレにいれ,計1 000粒を4ガラスシャーレずつ,セットとして,次亜塩素酸で滅菌処理をした。滅菌水で5回すすぎ,次ぎの薬剤処理に回した。8μM メチルビオローゲンを含むMS salt培地を25 ml/シャーレで入れ,8 ℃, 8 hr 光照射/16 hr 暗黒で成育させた。17日後,各50株を700 ml 1/500ハイポネックスに1 000 mlバ−ミキユライトを入れた苗床に移植した。バーミキュライトへの植え込み後,直後に更にバーミキュライトを1 000 ml種子の上にかぶせ,1/500ハイポネックスを1 000 ml上からかけた。13日後の成育状況を示す。
【図56】トウモロコシの種子,50粒をガラスシャーレにいれ,計1 000粒を4ガラスシャーレずつ,セットとして,次亜塩素酸で滅菌処理をした。滅菌水で5回すすぎ,次ぎの薬剤処理に回した。40μM メチルビオローゲンを含むMS salt培地を25 ml/シャーレで入れ,8 ℃, 8 hr 光照射/16 hr 暗黒で成育させた。17日後,各50株を700 ml 1/500ハイポネックスに1 000 mlバ−ミキユライトを入れた苗床に移植した。バーミキュライトへの植え込み後,直後に更にバーミキュライトを1 000 ml種子の上にかぶせ,1/500ハイポネックスを1 000 ml上からかけた。13日後の成育状況を示す。
【図57】トウモロコシの種子,50粒をガラスシャーレにいれ,計1 000粒を4ガラスシャーレずつ,セットとして,次亜塩素酸で滅菌処理をした。滅菌水で5回すすぎ,次ぎの薬剤処理に回した。80μM メチルビオローゲンを含むMS salt培地を25 ml/シャーレで入れ,8 ℃, 8 hr 光照射/16 hr 暗黒で成育させた。17日後,各50株を700 ml 1/500ハイポネックスに1 000 mlバ−ミキユライトを入れた苗床に移植した。バーミキュライトへの植え込み後,直後に更にバーミキュライトを1 000 ml種子の上にかぶせ,1/500ハイポネックスを1 000 ml上からかけた。13日後の成育状況を示す。
【図58】R0 野生株の2月後の植物の成育状況。
【図59】R8 変異株の2月後の植物の成育状況。
【図60】R8 変異株の2月後の植物の成育状況。
【図61】R8 変異株の2月後の植物の成育状況。
【図62】薬剤を含まないMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。
【図63】4 μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。
【図64】8 μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。
【図65】40 μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。
【図66】80 μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。
【図67】野生株;薬剤を含まないMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。その後1.5ケ月プランターで成育した。
【図68】R4-1-3 株; 4μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。その後1.5ケ月プランターで成育した。
【図69】R4-5-1 株; 4μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。その後1.5ケ月プランターで成育した。
【図70】R4-6-10 株; 4μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。その後1.5ケ月プランターで成育した。
【図71】R4-3-1 株; 4μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。その後1.5ケ月プランターで成育した。
【図72】R4-4-1 株,R4-4-2 株; 4μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。その後1.5ケ月プランターで成育した。
【図73】R40-1-1株; 40μM Methyl viologen を含むMS salt培地で7日間処理した種子をバーミキュライト苗床に25粒植えた。23 ℃, 12日間恒明気で成育した。その後1.5ケ月プランターで成育した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発する方法。
【請求項2】
活性酸素発生剤に菌類又は植物を暴露する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
活性酸素発生剤が、メチルビオローゲン、過酸化水素及びNaニトロプルシッドからなる群より選択される少なくとも1種類の化合物である請求項2記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で作製した菌類若しくは植物の変異株又はその子孫。
【請求項5】
菌類がニューロスポラ属に属するものである請求項4記載の菌類の変異株又はその子孫。
【請求項6】
植物が単子葉植物又は双子葉植物である請求項4記載の植物の変異株又はその子孫。
【請求項7】
単子葉植物が、オートムギ及びトウモロコシからなる群より選択される請求項6記載の植物の変異株又はその子孫。
【請求項8】
双子葉植物が、アラスカエンドウ、ブロッコリー、ペチュニア、アブラナ及びダイズからなる群より選択される請求項6記載の植物の変異株又はその子孫。
【請求項9】
野生株と比較して、活性酸素に対する耐性が向上している請求項4〜8のいずれかに記載の菌類若しくは植物の変異株又はその子孫。
【請求項10】
低温障害に対する耐性、高温障害に対する耐性、酸化ストレス障害に対する耐性、活性酸素消去能、活性酸素発生能、概日性リズム、温度及び/又は光周性に関わる特性、蕾を形成する時期、花を咲かせる時期、花の付く節、さやの厚さ、実の数、実の大きさ、実の形、花柄の長さ、植物の器官(托葉および茎)の大きさおよび長さ、腋芽の数およびその付く節、茎の太さ、蕾の塊の大きさ、蕾の形成の時期(つぼみの付く節)、葉の大きさ、成長の早さ、緑の濃さ、草丈、油脂の酸化度、抗酸化物質含量及びデンプン含量からなる群より選択される少なくとも1つの性質又は形質が野生株と異なる請求項4〜9のいずれかに記載の菌類若しくは植物の変異株又はその子孫。
【請求項11】
細胞核のDNA、ミトコンドリア核のDNA及び葉緑体核のDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNAに変異が誘起されている請求項4〜10のいずれかに記載の植物の変異株又はその子孫。
【請求項12】
細胞核のDNAに変異が誘起されているが、ミトコンドリア核のDNA及び葉緑体核のDNAには変異が誘起されていない請求項11記載の植物の変異株又はその子孫。
【請求項13】
ヌクレオシド2リン酸キナーゼ(NDK) 遺伝子が変異している請求項4〜12のいずれかに記載の菌類若しくは植物の変異株又はその子孫,さらにNDK遺伝子のヌクレオチド配列。
【請求項14】
請求項4〜13のいずれかに記載の植物の変異株又はその子孫の細胞又は組織。
【請求項15】
請求項4〜13のいずれかに記載の植物の変異株又はその子孫の種子。
【請求項16】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で作製した植物の変異株又はその子孫同士をかけ合わせて、所望の性質及び/又は形質を示す株を作製する方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法で作製した植物株又はその子孫。
【請求項18】
請求項17記載の植物株又はその子孫の細胞又は組織。
【請求項19】
請求項17記載の植物株又はその子孫の種子。
【請求項20】
活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することを特徴とする、菌類又は植物の変異株ライブラリーの作製方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法により作製された菌類又は植物の変異株ライブラリー。
【請求項22】
活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物の光伝達系に変異を導入する方法。
【請求項23】
活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することを特徴とする、植物に父性遺伝を誘発する方法。
【請求項24】
活性酸素を変異原として用いて、菌類又は植物に変異を誘発することを特徴とする、植物の自家不和合性を解除する方法。
【請求項25】
活性酸素発生剤を含む、菌類又は植物に変異を誘発するための組成物。
【請求項26】
活性酸素発生剤を含む、菌類又は植物の変異株ライブラリーを作製するための組成物。
【請求項27】
活性酸素発生剤を含む、菌類又は植物の光伝達系に変異を導入するための組成物。
【請求項28】
活性酸素発生剤を含む、植物に父性遺伝を誘発するための組成物。
【請求項29】
活性酸素発生剤を含む、植物の自家不和合性を解除するための組成物。
【請求項30】
請求項4記載の植物変異株若しくはその子孫又は請求項17記載の植物株若しくはその子孫から油脂を抽出することを含む、酸化度の低い油脂を製造する方法。
【請求項31】
請求項4記載の植物変異株若しくはその子孫又は請求項17記載の植物株若しくはその子孫から得られた油脂。

【図1】
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【図20−1】
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【図20−2】
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【図20−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【公開番号】特開2006−296359(P2006−296359A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125981(P2005−125981)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】