説明

落石防止用ワイヤロープ交差部保持金具

【課題】部品点数を削減し、製作容易で施工性を向上させるクロスクリップを提供する。
【解決手段】クロスクリップ100は、ワープドボルト10と押さえ板材20と球面ナット30とから構成されている。ワープドボルト10は、ネジ部14が形成されたレ字状部11および屈曲端部15が形成されたレ字状部12と、これを連結する連結部13とを具備し、レ字状部11、12には懐範囲11c、12cが、連結部13には懐範囲13cが形成されている。押さえ板材20は、ネジ用切欠部24および屈曲端部用孔25が形成されたアーチ部21を具備する。交差する下ワイヤロープを懐範囲11c、12cに載置し、交差する上ワイヤロープを懐範囲13cに抱えこみ、ワープドボルト10の屈曲端部15を押さえ板材20の屈曲端部用孔25に挿入し、ネジ部14に螺合する球面ナット30の回転によって、押さえ板材20を押さえる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は落石防止用ワイヤロープ交差部保持金具、特に、法面(斜面)に設置される落石対策施設のワイヤロープ構造物において、ワイヤロープ交差部を保持(把持)するための落石防止用ワイヤロープ交差部保持金具に関する。
【背景技術】
【0002】
落石対策施設として、法面にワイヤロープや金網を設置して、落石の要因となる浮石や軽石の滑動を抑制するものがある。そして、ワイヤロープ(主ロープ、補助ロープ)の交差部を保持(把持)する、落石防止用ワイヤロープ交差部保持金具(本発明において「クロスクリップ」と称す)が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】実開昭62−200835号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術は、十字状に交差する第1ワイヤロープと第2ワイヤロープとを、その交差部において把持するためのものであって、屈曲棒材と、押さえ板材と、押さえナットと、から構成されている。そして、屈曲棒材は、一対のレ字状部と、その傾斜範囲の端同士を連結する連結部と、一対のレ字状部の鉛直範囲にそれぞれ形成された一対のネジ部と、を具備する。また、押さえ板材には、一対のネジ部が貫通自在な一対の貫通孔が形成されている。そして、一対のレ字状部と連結部とによって形成される凹部に、第2ワイヤロープを配置し(正確には、凹部を移動し)、一対のレ字状部の懐内に第1ワイヤロープを取り込み、そして、前記一対の貫通孔にそれぞれレ字状部の鉛直範囲が貫通するように押さえ板材を配置し、ネジ部に螺合する押さえナットを締め込むことによって、第1ワイヤロープと第2ワイヤロープとを把持するものである。
【0005】
このため、以下の問題があった。
(あ)ネジ部を2カ所において形成する必要があるため、クロスクリップの製造コストが高くなる。
(い)2個のナットを必要とするため、クロスクリップを構成する部品点数が増加し、製造コストが高くなる。また、2カ所において螺合作業が必要になるため、施工性が悪化する。
(う)特に、一対の押さえナットをそれぞれ締め込むため、ネジ部(レ字状部の鉛直範囲に同じ)と押さえ板材との直角度を維持することが困難なため、締め込み作業が困難になり、十分な把持ができないことがある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、部品点数を削減し、且つ十分な把持が可能で、製作容易で施工性を向上させることができるクロスクリップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るクロスクリップは、十字状に交差する一対のワイヤロープを、その交差部において把持するためのクロスクリップであって、
一対のレ字状部と、該一対のレ字状部の傾斜範囲の端同士を連結する連結部と、前記一対のレ字状部のうちの一方のレ字状部の鉛直範囲に形成されたネジ部と、前記一対のレ字状部のうちの他方のレ字状部の鉛直範囲に形成された屈曲端部と、を具備する屈曲棒材と、
前記ネジ部が貫通自在なネジ用孔またはネジ用切欠部と、前記屈曲端部が貫通自在な屈曲端部用孔と、を具備する押さえ板材と、
前記ネジ部に螺合する押さえナットと、を有することを特徴とする。
【0008】
(2)また、前記(1)において、前記押さえ板材が、前記屈曲端部用孔に替えて、前記屈曲端部に係止自在な屈曲端部用切欠部を具備することを特徴とする。
(3)また、前記(1)において、前記屈曲端部が、前記連結部と平行で、前記ネジ部から遠ざかる方向に曲げられていることを特徴とする。
【0009】
(4)また、前記(1)乃至(3)の何れかにおいて、前記押さえ板材が、平坦な板または円弧状に湾曲した板であることを特徴とする。
(5)また、前記(1)乃至(4)の何れかにおいて、前記押さえ板材の側縁に沿ってフランジが形成されていることを特徴とする。
【0010】
(6)また、前記(1)乃至(5)の何れかにおいて、前記押さえナットの一方の端面が球面であることを特徴とする。
(7)また、前記(1)乃至(6)の何れかにおいて、前記ネジ部が貫通し、前記押さえナットによって押さえられる座金を有し、該座金の一方の面が球面または円筒面であることを特徴とする。
【0011】
(8)さらに、十字状に交差する一対のワイヤロープを、その交差部において把持するためのクロスクリップであって、
一対のレ字状部と、該一対のレ字状部の傾斜範囲の端同士を連結する連結部と、前記一対のレ字状部のうちの一方のレ字状部の鉛直範囲に形成された係止部と、前記一対のレ字状部のうちの他方のレ字状部の鉛直範囲に形成された屈曲端部と、を具備する屈曲棒材と、
前記係止部に係止自在な係止手段と、前記屈曲端部が貫通自在な屈曲端部用孔と、を具備する押さえ板材と、を有することを特徴とする。
【0012】
(9)前記(8)において、前記係止手段が所定幅のスリットであって、該スリットの縁部が前記押さえ板の一方の面側に曲げられ、前記スリットの縁部が前記押さえ板の一方の面側に弾性変形した際、前記係止部が前記スリットを貫通自在であって、前記スリットの縁部が前記押さえ板の他方の面側に向かって弾性復元した際、前記係止部が前記スリットの縁部に移動不能に把持されることを特徴とする。
(10)前記(9)において、前記係止部が、螺旋状溝、環状溝、または対抗する側面に形成された凹部の何れかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るクロスクリップは以上の構成であるから、以下の効果を奏する。
(i)本発明に係るクロスクリップは、1カ所のネジ部と、該ネジ部に螺合する1個のナットを有するから、部品点数が最小に押さえられ、かつ、製造が容易であるから、製造コストが安価になり、また、施工性が向上する。
【0014】
(ii)また、押さえ板材が屈曲端部用切欠部を具備するから、設置が容易になると共に、屈曲端部用切欠部とネジ用切欠部とを同一形状にすることができるため、押さえ板材は対称形となり、製造が簡素になるから、製造コストが低減する。
【0015】
(iii)また、屈曲棒材の屈曲端部が、連結部と平行でネジ部から遠ざかる方向に曲げられているため、製作が容易で、かつ、屈曲棒材に押さえ板材を容易に設置することができると共に、設置された押さえ板材が外れることがない。
【0016】
(iv)また、押さえ板材が平坦は板であるから、安価に製造することができる、また、円弧状に湾曲した板(アーチ状板)にしておけば、押さえ板材の剛性が大きくなると共に、押さえナットの締め込みによって、押さえ板材がネジ部に対して傾斜しても、押さえナットの締め込みが容易になる。
【0017】
(v)また、押さえ板材の側縁に沿ってフランジ部が形成されているため、押さえ板材の剛性が大きくなると共に、フランジ部の先端においてワイヤロープを局所的に押さえ付けることができるから、把持が確実になる。
【0018】
(vi)また、押さえナットの一方の端面が球面であるため、押さえナットの締め込みによって、押さえ板材が屈曲棒材のネジ部に対して傾斜しても、押さえナットの締め込みを続行することができるから、把持が確実になる。
【0019】
(vii)また、一方の面が球面または円筒面である座金を有するため、端面が平坦な押さえナットの締め込みによって、押さえ板材が屈曲棒材のネジ部に対して傾斜しても、端面が平坦な押さえナットの締め込みを続行することができるから、把持が確実になる。
【0020】
(viii)さらに、押さえ板が、係止部に係止自在な係止手段を具備するため、押さえナットが不要になる。よって、部品点数が減少し、施工現場への持ち込みやワイヤロープの把持作業自体が容易になるから、施工コストおよび部材コストが安価になる。
【0021】
(ix)係止手段が一方向に曲げられた縁部を具備するスリットであるため、製造が容易であると共に、係止部への設置が容易かつネジ部の把持が確実である。
【0022】
(x)係止部が、螺旋状溝(含む、ネジ)、環状溝、または対抗する側面に形成された凹部(たとえば、ラック状)の何れかであるから、製造コストの低減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[実施形態1:クロスクリップ]
図1は本発明の実施形態1に係るクロスクリップを構成する各構成部材を示す斜視図である。図1において、クロスクリップ100は、屈曲棒材10と、押さえ板材20と、押さえナット30と、から構成されている。
図2は屈曲棒材を示す、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は右側面図である。図3は押さえ板材を示す、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は下面図、(d)は左側面図、(e)は右側面図、(f)は正面視の断面図((a)のA−A断面)である。図4は押さえナットを示す正面図(側面図に同じ)である。なお、以下の各図において同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0024】
(屈曲棒材)
図1の(a)および図2において、屈曲棒材(以下、「ワープドボルト」と称す)10は、一対のレ字状部11、12と、レ字状部11、12の傾斜範囲11a、12aの端同士を連結する連結部13と、レ字状部11の鉛直範囲11bに形成されたネジ部14と、レ字状部12の鉛直範囲12bに形成された屈曲端部15と、を具備している。
【0025】
レ字状部11、12は、傾斜範囲11a、12aと鉛直範囲11b、12bとが所定の開き角度を形成し、両者の間には、それぞれ図2において上に凹の円弧状の第1懐範囲11c、第2懐範囲12cが形成されている。なお、かかる範囲は明りょうに区分けされるものではなく、その境界位置は特定されるものではない。
なお、「レ字状」とは記載上の便宜であって、「U字状」あるいは「円弧状の折れ曲がりを有するV字状」とも表現されるものである。また、「鉛直範囲」とは、レ字状の折れ曲がりを挟んだ「一方の範囲(書き始め側)」を指し、「傾斜範囲」とは、レ字状の折れ曲がりを挟んだ「他方の範囲(書き終わり側)」を指す記載上の便宜であって、ワープドボルト10の鉛直範囲11b、12bが、鉛直の姿勢でもって使用等されるものではない。また、レ字状部11、12は互いに平行なものを図示しているが、本発明はこれに限定するものではなく、たとえば、傾斜範囲11aと傾斜範囲12aがハ字状に配置され、鉛直範囲11bと鉛直範囲12bとの距離が連結部13の幅よりも広くなる「末広がり状」を呈してもよい。
【0026】
連結部13は円弧状であって、図2において下に凹の第3懐範囲13cが形成されている。このとき、連結部13とレ字状部11、12(正確には、傾斜範囲11a、12a)との境界は明りょうでなく、両者は滑らか曲線(たとえば、円弧)によって繋がっている。
また、屈曲端部15はレ字状部12の傾斜範囲12aと滑らか曲線(たとえば、円弧)によって繋がっている(以下、該繋がり部を「曲がり部15c」と称す)。
すなわち、ワープドボルト10は、棒材をかかる形状に曲げ加工(正確には、ネジ加工を含む)したものである。したがって、屈曲端部15を形成するための曲げ加工が追加されるものの、ネジ加工に要する作業が半減するため、製造コストが低減する。
【0027】
(押さえ板材)
図1の(b)および図3において、押さえ板材20は、アーチ部21と、アーチ部21の両側縁に形成されたフランジ部22、23と、を具備している。
アーチ部21には、ワープドボルト10のネジ部14が貫通(侵入)自在なネジ用切欠部24と、ワープドボルト10の屈曲端部15が貫通自在な屈曲端部用孔25と、が形成されている。
したがって、押さえ板材20が傾動して、押さえ板材20がワープドボルト10のネジ部14の軸心に対して直角でなくなった場合でも、押さえナット30を座金なしで直接ネジ部14に螺合することが容易になる(これについては、別途詳細に説明する)。
【0028】
フランジ部22には、頂点22b、22dの間に円弧状の凹部22cが形成され、一方の端部22aから頂点22bに向かって張り出し量がテーパ状に増大し、他方の端部22eから頂点22dに向かって張り出し量がテーパ状に増大している。同様に、フランジ部23には、頂点23b、23dの間に円弧状の凹部23cが形成され、一方の端部23aから頂点23bに向かって張り出し量がテーパ状に増大し、他方の端部23eから頂点23dに向かって張り出し量がテーパ状に増大している。
すなわち、後記するように、ワイヤロープは長手方向では、フランジ部22、23の厚さの範囲に限って局所的に押さえ付けられ、しかも、周方向では、凹部22c、23cの懐内に安定的に収まって当接範囲が拡大するから、「馴染みのよい」形態でワイヤロープは把持されることになる。
【0029】
なお、図中、フランジ部22、23は、板材をプレス加工して形成したものであるが、本発明はこれに限定するものではなく、別途製作したフランジ部22、23をアーチ部21の側縁に接合してもよい。また、ネジ用切欠部24および屈曲端部用孔25をそれぞれ、楕円孔や長穴にしてもよい。
さらに、アーチ部21を平板に変更したり、フランジ部22、23を凹部22c、23cが形成されていない矩形にしたり、あるいはフランジ部22、23を具備しないアーチ状板や平板にしたりしても、本発明の基本的な課題は解決されるものである。
【0030】
(押さえナット)
図1の(c)および図4において、押さえナット(以下、「球面ナット」と称す)30は、六角柱部31と、六角柱部31の一方の端面に形成された、六角柱部31の中心軸上に球心を有する球面部32と、六角柱部31の中心軸と一致する中心軸を有する雌ネジ33と、を具備している。
したがって、後記するように、押さえ板材20がワープドボルト10のネジ部14に対して傾斜しても、これに当接する球面ナット30は容易に回転するから、押さえ板材20を確実に押さえることができる(これについては、別途詳細に説明する)。
【0031】
(把持方法)
図5は本発明の実施形態1に係るクロスクリップを用いてワイヤロープを把持する方法を模式的に説明する斜視図である。図5において、説明の便宜上、第1ワイヤロープ1が下側で、第2ワイヤロープ2が上側で、それぞれ水平に配置されているとする。なお、図1〜図4と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
【0032】
(ワープドボルトの配置)
図5の(a)、(b)において、第1ワイヤロープ1と第2ワイヤロープ2との交差部に、ワープドボルト10を配置する。
すなわち、レ字状部11の鉛直範囲11bとレ字状部12の鉛直範囲12bとを略鉛直下向き(第1懐範囲11c、第2懐範囲12cが上側)にして、その間に第2ワイヤロープ2が侵入した状態で、連結部13を第2ワイヤロープ2に当接させる(図示しない)。そして、連結部13と第2ワイヤロープ2との当接を維持したまま、該当接位置を支点にして、レ字状部11とレ字状部12(レ字状部11と一体化している)とを第1ワイヤロープ1側に回転させ、レ字状部11の第1懐範囲11c内とレ字状部12の第2懐範囲12c内とに第1ワイヤロープ1を取り込み、鉛直範囲11bと鉛直範囲12bとを略鉛直上向き(第1懐範囲11c、第2懐範囲12cが下側)にする(図5の(a)、(b)参照)。
【0033】
(押さえ板材の設置)
次に、ワープドボルト10の屈曲端部15を、押さえ板材20の屈曲端部用孔25に貫通させ(図5の(c)参照)、さらに、屈曲端部用孔25が曲がり部15cを通過して鉛直範囲12bに到達するまで、押さえ板材20をワープドボルト10に押し込む。
このとき、押さえ板材20が曲がり部15cを通過するのに伴って、押さえ板材20はネジ部14側に転倒することになる。そして、押さえ板材20にはネジ用切欠部24が形成されているから、かかる転倒によって、ネジ部14はネジ用切欠部24内に侵入することになる(図5の(d)参照)。
なお、ネジ用切欠部24に替えて、楕円孔や長穴を形成してもよい。このとき、屈曲端部用孔25を楕円孔や長穴にしておけば、ネジ用切欠部24に替わる楕円孔や長穴の長さを小さくすること(楕円度を小さく、扁平度を大きくに同じ)ができる。
【0034】
(球面ナットの設置)
最後に、ワープドボルト10のネジ部14に球面ナット30を螺合し(図5の(d)参照)、これでもって押さえ板材20を第2ワイヤロープ2に押し付ける(これについては、別途詳細に説明する)。
【0035】
(把持状態)
図6は本発明の実施形態1に係るクロスクリップを用いてワイヤロープを把持した状態を模式的に説明する、(a)は正面図、(b)は一部断面の側面図、(c)は正面図である。
図6の(a)は、第1ワイヤロープ1および第2ワイヤロープ2の外径が大きい(たとえば、14mm)場合を示している。このとき、押さえ板材20は、屈曲端部用孔25がワープドボルト10の曲がり部15cに係止し、該係止位置が支点になって、ネジ部14側が高くなるように傾斜している。なお、第1ワイヤロープ1と第2ワイヤロープ2とは当接によってそれぞれが「捩れる」たり、それぞれ自体が扁平に変形したりするため、球面ナット30を締め込む程、押さえ板材20は前記傾斜が緩和される方向(水平に近くなる方向)に傾動する。
【0036】
なお、図6の(a)は、屈曲端部用孔25の内径が曲がり部15cの外径よりも僅かに大きい場合であるが、屈曲端部用孔25の内径が曲がり部15cの外径よりも十分大きい場合には、ワープドボルト10の屈曲端部15の下面に、押さえ板材20のアーチ部21の上面が直接当接することになるから、屈曲端部15側が高くなり、前記傾斜は緩和される(水平に近くなる)。このとき、第2ワイヤロープ2は、押さえ板材20のフランジ部22に形成された円弧状の凹部22c(フランジ部23に形成された円弧状の凹部23cも同じ)に当接しているから、接触面積は図中、左右方向で広く、また、押さえ板材20が傾斜しても一方向側に移動することがない。すなわち、「座りの良い」形で当接している。
【0037】
図6の(b)は、図6の(a)に示す把持状況に同じである。すなわち、第2ワイヤロープ2は凹部22c(凹部23cも同じ)に当接しているため、軸方向では、フランジ部22(フランジ部23も同様)の厚さに限って当接しているから、該当接部は第2ワイヤロープ2を局所的に変形させ、僅かに食い込んでいる。このため、第2ワイヤロープ2は確実に把持されることになる。
さらに、第1ワイヤロープ1および第2ワイヤロープ2の外径が大きいため、、第2ワイヤロープ2と凹部22c(凹部23cも同じ)との当接位置が、ワープドボルト10の連結部13よりも高い位置になっている。このため、第2ワイヤロープ2の前記把持部の左側の中心線2aと、前記把持部の右側の中心線2bとは、所定の角度を持って交差しているから、第2ワイヤロープ2は曲げられていることになる。
すなわち、押さえ板材20には、凹部22c(凹部23cも同じ)を押し付ける力に加え、前記曲げを付与するモーメントのための力が、作用していることになる。
【0038】
図6の(c)は、第1ワイヤロープ1および第2ワイヤロープ2の外径が小さい(たとえば、12mm)場合を示している。このとき、押さえ板材20は、屈曲端部用孔25がワープドボルト10の曲がり部15cに係止し、該係止位置が支点になって、ネジ部14側が低くなるように傾斜している。なお、屈曲端部用孔25の内径が曲がり部15cの外径よりも十分大きい場合には、ワープドボルト10の屈曲端部15の下面に、押さえ板材20のアーチ部21の上面が直接当接することになるから、ネジ部14側がさらに低くなり、傾斜の度合いが増すことになる。
【0039】
(球面ナットの効果)
図7は本発明の実施形態1に係るクロスクリップにおける球面ナットおよびアーチ部の作用効果を模式的に説明する側面図である。前記のように、押さえ板材20は、第1ワイヤロープ1および第2ワイヤロープ2を把持する際、ワープドボルト10のネジ部14に軸心と直角に維持されることがなく、傾動する。しかも、押さえ板材20にはネジ用切欠部24が形成されているため、押さえナットとして通常の六角ボルトを使用したのでは、六角ボルトの側面に張り出した6個所の稜線が、ネジ用切欠部24の側縁に衝突して六角ナットは回転が困難になる。
一方、球面ナット30は、球面部32がネジ用切欠部24の側縁に点接触するだけで、該点接触部において摺動自在であるから、球面ナット30を座金なしで設置することができ、部品点数の低減を図ることができる。
【0040】
[実施形態2:クロスクリップ]
図7〜図9は本発明の実施形態2に係るクロスクリップを説明するものであって、図7は使用状況を示す正面図、図8は押さえ板材示す下面図、図9は球面座金を示す側面図である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。図7において、クロスクリップ200は、ワープドボルト10と、押さえ板材40と、球面座金50と、六角ナット60と、から構成されている。
【0041】
図8において、押さえ板材40は略矩形平板を断面コ字状に曲げ加工したものであって、平面41と、その両側縁に形成されたフランジ部42、43とを有し、平面41には、ワープドボルト10のネジ部14が貫通自在なネジ部用長孔44と、ワープドボルト10の屈曲端部15が貫通自在な屈曲端部用長孔45とが形成されている。
さらに、略矩形状のフランジ部42、43には、円弧状の凹部42c、43cが形成されている。したがって、押さえ板材40は簡素な構造であるから、製造コストは安価になる。
【0042】
図9において、球面座金50は、平坦な上面51と、球面の一部である下面52と、下面52を形成する球面の中心と中心軸が一致し、ワープドボルト10のネジ部14が貫通自在な貫通孔53と、を具備している。
したがって、球面座金50をワープドボルト10のネジ部14に設置して(貫通孔33にネジ部14を貫通させて)、球面座金50を介して、六角ナット60でもって押さえ板材40を押し付ければ、押さえ板材40の傾斜に関わらず、球面座金50の上面51は、ネジ部14に対して直角になろうとする。よって、六角ナット60に作用する偏荷重は緩和され、施工性が向上すると共に、いわゆる「片効き」が防止されることになる。
【0043】
なお、球面の一部に替えて、下面52を円筒面の一部にしたり、下面52を二等辺三角形にしたりしてもよい。特に、後者のとき、押さえ板材40の傾斜に関わらず、二等辺三角形の頂点はネジ部14の軸心と一致するから、六角ナット60に作用する偏荷重はなくなり、施工性がさらに向上すると共に、いわゆる「片効き」が完全に防止されることになる。
【0044】
[実施形態3:クロスクリップ]
図10は本発明の実施形態3に係るクロスクリップの構成部材を説明する上面図であって、(a)〜(c)は屈曲棒材、(d)は押さえ板材である。なお、実施の形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。図10の(a)〜(c)において、ワープドボルト70a、70b、70cは、それぞれ実施形態1、2に示すワープドボルト10のバリエーションである。
【0045】
(ワープドボルト−バリエーション1)
図10の(a)において、ワープドボルト70aは、一対のレ字状部11、72aと、レ字状部11、72aの傾斜範囲11a、12aの端同士を連結する連結部13と、レ字状部11の鉛直範囲11bに形成されたネジ部14と、レ字状部72aの鉛直範囲12bに形成された屈曲端部16と、を具備している。このとき、平面視において、屈曲端部16は傾斜範囲12aに平行であって、傾斜範囲12aとは反対の方向(図中、下方)に曲げられている。
なお、レ字状部11、72aは互いに平行なものを図示しているが、本発明はこれに限定するものではない。したがって、屈曲端部16と傾斜範囲11aがハ字状に配置され、屈曲端部16が先端になる程、傾斜範囲11aに対して広がる「末広がり状」を呈してもよい。
【0046】
(ワープドボルト−バリエーション2)
図10の(b)において、ワープドボルト70bは、一対のレ字状部11、72bと、レ字状部11、72bの傾斜範囲11a、12aの端同士を連結する連結部13と、レ字状部11の鉛直範囲11bに形成されたネジ部14と、レ字状部72bの鉛直範囲12bに形成された屈曲端部17と、を具備している。このとき、平面視において、屈曲端部17は傾斜範囲12aに垂直であって、レ字状部11側(図中、右方)に曲げられている。
したがって、屈曲端部17の先端とネジ部14との隙間G17を、第2ワイヤロープ2が通過自在であるように、屈曲端部17の長さL17を調整する必要がある。
なお、図中、屈曲端部17が傾斜範囲12aに垂直なものを示しているが、屈曲端部17がレ字状部11側(図中、右方)に曲げられている限り、その角度を限定するものではない。また、レ字状部11、72bは互いに平行なものを図示しているが、本発明はこれに限定するものではない。
【0047】
(ワープドボルト−バリエーション3)
図10の(c)において、ワープドボルト70cは、一対のレ字状部11、72cと、レ字状部11、72cの傾斜範囲11a、12aの端同士を連結する連結部13と、レ字状部11の鉛直範囲11bに形成されたネジ部14と、レ字状部72cの鉛直範囲12bに形成された屈曲端部18と、を具備している。このとき、平面視において、屈曲端部18は傾斜範囲12aに平行であって、傾斜範囲12a側に(図中、上方)に曲げられている。
したがって、屈曲端部18と連結部13との隙間G18を、第1ワイヤロープ2が通過自在であるように、鉛直範囲12bの長さおよび屈曲端部17の長さL17、あるいは、連結部13の曲率半径を調整する必要がある。
なお、レ字状部11、72cは互いに平行なものを図示しているが、本発明はこれに限定するものではない。したがって、屈曲端部18と傾斜範囲11aがハ字状に配置され、屈曲端部18が先端になる程、傾斜範囲11aに対して近づく広がる「先窄まり状」を呈してもよい。
【0048】
(押さえ板−バリエーション)
図10の(d)において、押さえ板材80は、アーチ部21と、アーチ部21の両側縁22、23に形成されたフランジ部(図示しない)とを具備している。
アーチ部21には、ワープドボルト70aのネジ部14が貫通(侵入)自在なネジ用切欠部24と、ワープドボルト70aの屈曲端部16に係止自在な屈曲端部用切欠部26と、が形成されている。このとき、ネジ用切欠部24と屈曲端部用切欠部26とは同一形状であるから、アーチ部21は左右対称で、製造が簡単になる。
また、押さえ板材80は、ワープドボルト70c70a、70b、70cの何れにも設置可能であって、配置方向を取り違えることがない分、施工が容易になる。
【0049】
[実施形態4:クロスクリップ]
図11〜図13は本発明の実施形態4に係るクロスクリップを説明する、図11は各構成部材を示す斜視図、図12は押さえ板を示す、(a)は上面図、(b)は正面図、図13は、屈曲棒材10に押さえ板材90が設置される様子を説明する側面図である。なお、実施形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図11において、クロスクリップは、屈曲棒材10と、押さえ板材90と、から構成されている。
【0050】
図11および図12において、押さえ板材90は、アーチ部21と、アーチ部21の両側縁に形成されたフランジ部22、23と、を具備している。アーチ部21には、ワープドボルト10のネジ部14に係止自在なネジ係止スリット91と、ワープドボルト10の屈曲端部15が貫通自在な屈曲端部用孔25と、が形成されている。ネジ係止スリット91は、スリット加工用孔92に向かって形成された溝状の切欠部であって、対峙する縁部93a、93bはアーチ部21の外面側(フランジ部22、23とは反対の方向)に向かって曲げ加工されている。
なお、本発明は押さえ板材90がアーチ部21を具備するものに限定するものではなく、アーチ部21(所定の曲率半径を具備)に替えて、平面部(無限大の曲率半径を具備)を具備してもよい(図8参照)。
【0051】
図13の(a)において、縁部93aの先端と縁部93bの先端との隙間G93は、ネジ部14の山径(D14)より狭くなっている。そして、縁部93a、93bは所定量の弾性変形をする(アーチ部21が弾性変形自在な素材によって形成されている)から、縁部93a、93bがアーチ部21の外面側に向かって弾性変形することによって隙間G93は拡大する。
【0052】
したがって、押さえ板90を設置する要領は、まず、ワープドボルト10の屈曲端部15を、押さえ板材90の屈曲端部用孔25に貫通させ、さらに、屈曲端部用孔25が曲がり部15cを通過して鉛直範囲12bに到達するまで、押さえ板材90をワープドボルト10に押し込む(図示しない)。このとき、押さえ板材90が曲がり部15cを通過するのに伴って、押さえ板材90はネジ部14側に転倒することになる。そして、押さえ板材90にはネジ係止スリット91が形成されているから、かかる転倒によって、ネジ部14はネジ係止スリット91の縁部93a、93bに当接する。
【0053】
そこで、押さえ板材90を押し込むと、縁部93a、93bは弾性変形してネジ部14のネジ山14yを乗り越えながら、ネジ部14の奥(連結部13に近づくに同じ)に移動する(図13の(c)参照)。そして、押さえ板材90を押し込む作業を停止すると、縁部93a、93bは弾性復元してネジ部14のネジ谷14tに侵入するから、押さえ板材90がネジ部14から抜け出すことがない。この状態で、押さえ板材90は第1ワイヤロープ1および第2ワイヤロープ2を把持することになる(図13の(d)参照)。
【0054】
なお、本発明は押さえ板材90の把持手段としてネジ部に限定するものではなく、たとえば、ネジ部に替えて、前記一対のレ字状部のうちの一方のレ字状部の鉛直範囲に形成された環状溝、あるいは、該鉛直範囲の対抗する側面に形成された凹部(ラック状)であってもよい。すなわち、かかる環状溝や凹部であっても、前記弾性復元したスリットの縁部を移動不能に把持するからである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は以上の構成であるから、部品点数が削減され、且つ、製作容易で施工性が向上するから、ワイヤロープを始め各種棒材や各種線材を、その交差部において把持するクロスクリップとして広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態1に係るクロスクリップの各構成部材を示す斜視図。
【図2】図1に示すクロスクリップを構成する屈曲棒材を示す正面図等。
【図3】図1に示すクロスクリップを構成する押さえ板材を示す上面図等。
【図4】図1に示すクロスクリップを構成する押さえナットを示す正面図。
【図5】図1に示すクロスクリップを用いてワイヤロープを把持する方法を模式的に説明する斜視図。
【図6】図1に示すクロスクリップを用いてワイヤロープを把持した状態を模式的に説明する正面図等。
【図7】本発明の実施形態2に係るクロスクリップを説明する正面図。
【図8】本発明の実施形態2に係る押さえ板材を示す下面図。
【図9】本発明の実施形態2に係る球面座金を示す側面図。
【図10】本発明の実施形態3に係るクロスクリップの構成部材を説明する上面図。
【図11】本発明の実施形態4に係るクロスクリップの各構成部材を示す斜視図。
【図12】本発明の実施形態4に係るクロスクリップの押さえ板を示す上面図等。
【図13】本発明の実施形態4に係るクロスクリップの設置の様子を示す側面図。
【符号の説明】
【0057】
1 第1ワイヤロープ
2 第2ワイヤロープ
10 ワープドボルト(屈曲棒材)
11 レ字状部
11a 傾斜範囲
11b 鉛直範囲
11c 第1懐範囲
12 レ字状部
12a 傾斜範囲
12b 鉛直範囲
12c 第2懐範囲
13 連結部
13c 第3懐範囲
14 ネジ部
15 屈曲端部
15c 曲がり部
20 押さえ板材(実施形態1)
21 アーチ部
22 フランジ部
22a 端部
22b 頂点
22c 凹部
22d 頂点
22e 端部
23 フランジ部
23a 端部
23b 頂点
23c 凹部
23d 頂点
23e 端部
24 ネジ用切欠部
25 屈曲端部用孔
30 球面ナット(押さえナット)
31 六角柱部
32 球面部
33 雌ネジ
40 押さえ板材(実施形態2)
41 平面
42 フランジ部
42c 凹部
44 ネジ部用長孔
45 屈曲端部用長孔
50 球面座金
51 上面(平面)
52 下面(球面)
53 貫通孔
60 六角ナット
90 押さえ板材(実施形態4)
91 ネジ係止スリット
92 スリット加工用孔
93a 縁部
93b 縁部
100 クロスクリップ(実施形態1)
200 クロスクリップ(実施形態2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
十字状に交差する一対のワイヤロープを、その交差部において把持するためのクロスクリップであって、
一対のレ字状部と、該一対のレ字状部の傾斜範囲の端同士を連結する連結部と、前記一対のレ字状部のうちの一方のレ字状部の鉛直範囲に形成されたネジ部と、前記一対のレ字状部のうちの他方のレ字状部の鉛直範囲に形成された屈曲端部と、を具備する屈曲棒材と、
前記ネジ部が貫通自在なネジ用孔またはネジ用切欠部と、前記屈曲端部が貫通自在な屈曲端部用孔と、を具備する押さえ板材と、
前記ネジ部に螺合する押さえナットと、
を有することを特徴とするクロスクリップ。
【請求項2】
前記押さえ板材が、前記屈曲端部用孔に替えて、前記屈曲端部に係止自在な屈曲端部用切欠部を具備することを特徴とする請求項1記載のクロスクリップ。
【請求項3】
前記屈曲端部が、前記連結部と平行で、前記ネジ部から遠ざかる方向に曲げられていることを特徴とする請求項1記載のクロスクリップ。
【請求項4】
前記押さえ板材が、平坦な板または円弧状に湾曲した板であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のクロスクリップ。
【請求項5】
前記押さえ板材の側縁に沿ってフランジが形成されていることを特徴とする請求項4記載のクロスクリップ。
【請求項6】
前記押さえナットの一方の端面が球面であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のクロスクリップ。
【請求項7】
前記ネジ部が貫通し、前記押さえナットによって押さえられる座金を有し、該座金の一方の面が球面または円筒面であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のクロスクリップ。
【請求項8】
十字状に交差する一対のワイヤロープを、その交差部において把持するためのクロスクリップであって、
一対のレ字状部と、該一対のレ字状部の傾斜範囲の端同士を連結する連結部と、前記一対のレ字状部のうちの一方のレ字状部の鉛直範囲に形成された係止部と、前記一対のレ字状部のうちの他方のレ字状部の鉛直範囲に形成された屈曲端部と、を具備する屈曲棒材と、
前記係止部に係止自在な係止手段と、前記屈曲端部が貫通自在な屈曲端部用孔と、を具備する押さえ板材と、
を有することを特徴とするクロスクリップ。
【請求項9】
前記係止手段が所定幅のスリットであって、該スリットの縁部が前記押さえ板の一方の面側に曲げられ、前記スリットの縁部が前記押さえ板の一方の面側に弾性変形した際、前記係止部が前記スリットを貫通自在であって、前記スリットの縁部が前記押さえ板の他方の面側に向かって弾性復元した際、前記係止部が前記スリットの縁部に移動不能に把持されることを特徴とする請求項8記載のクロスクリップ。
【請求項10】
前記係止部が、螺旋状溝、環状溝、または対抗する側面に形成された凹部の何れかであることを特徴とする請求項9記載のクロスクリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−156871(P2008−156871A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345679(P2006−345679)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【Fターム(参考)】