説明

落花生属の検出用プライマー及びその検出方法

【課題】落花生属の植物を検出するPCR法を行うに当たって、タッチダウンPCR法を採用せず落花生属の植物を感度よく検出可能なプライマーの提供。
【解決手段】特定の塩基配列からなる落花生属の検出用プライマー。また、特定の塩基配列からなる第1のプライマーと特定の塩基配列で表される塩基配列からなる第2のプライマーとを組み合わせた落花生属の検出用プライマーペア。このプライマーペアを用いて、落花生属のITS-1配列の少なくとも一部を含む増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標として落花生属の存在を判定する工程とを含むことにより落花生属を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギーを引き起こす恐れのある落花生属を対象として、落花生属の植物が1種でも食品原料や製品等に含まれていた場合に、その量が微量であっても高感度で検出することを可能とする新しいプライマーおよびその検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
落花生属の検出用プライマー及びその検出方法については、本願出願人が既に開発し、特許出願を行ったものがある(特許文献1)。
当該検出方法では、3種類のプライマーペアのうちいずれか1種類を用いる。すなわち、1つ目は落花生のITS-1配列中に作製したプライマーと5.8S rRNA遺伝子配列中に作製したプライマーのペア、2つ目は5.8S rRNA遺伝子配列中に作製したプライマーとITS-2配列中に作製したプライマーのペア、3つ目はITS-1配列中に作製したプライマーとITS-2配列中に作製したプライマーのペアである。
1つ目のペアは、検出方法においてはタッチダウンPCR法が採用されており、そのためPCR温度条件が複雑になり、特に検出限界付近の低濃度で落花生属植物が含まれている試料を検査する場合には、PCR装置毎の微妙な温度特性の違い等の影響で異なる検査結果を与える可能性がある。
2つ目のペア及び3つ目のペアは、タッチダウンPCR法を採用していないが、落花生属と同じマメ科に属する一部の近縁植物を誤って検出する可能性がある。また、PCR標的増幅産物も比較的長く、2つ目のペアの場合は253〜259bp、3つ目のペアの場合は384〜390bpと長いため、加工されて鋳型DNAが寸断された試料の場合、PCR標的増幅産物が短い方法に比べて検出感度が低くなることが危惧される。
【0003】
【特許文献1】特開2003−199599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
落花生属の植物を検出するPCR法を行うに当たって、タッチダウンPCR法を採用しないこと、これによって、タッチダウンPCR法に起因する上記問題を解決することを目的とする。
また、加工品においても、落花生属の植物を感度よく検出することを目的とする。
また、落花生属と同じマメ科に属する一部の近縁植物が誤って検出されない様にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的に対して、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定の塩基配列を有するプライマーを用いることによって上記目的を効果的に達成することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、配列番号1又は配列番号2で表される塩基配列からなる落花生属の検出用プライマーを提供する。
また、本発明は、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとを組み合わせた落花生属の検出用プライマーペアを提供する。
さらに、本発明は、前記プライマーペアを用いて、落花生属のITS-1配列の少なくとも一部を含む増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標として落花生属の存在を判定する工程とを含む落花生属の検出方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の落花生属の検出用プライマー及びその検出方法によると、PCR法を行うに当たって、タッチダウンPCR法を採用しないことによって、タッチダウンPCR法に起因する、PCR温度条件が複雑になり、特に検出限界付近の低濃度で落花生属植物が含まれている試料を検査する場合には、PCR装置毎の微妙な温度特性の違い等の影響で異なる検査結果を与える可能性を小さくすることができる。また、PCR標的増幅産物を85〜87bpと短くしたことにより、加工品においても、落花生属の植物を感度よく検出することができる。また、本発明のプライマーに変更することによって、落花生属と同じマメ科に属する一部の近縁植物が誤って検出されない様にすることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においては、まず、落花生属の検出用プライマーを設計した。設計されるプライマーは、落花生属のITS-1領域に設計され、落花生属のITS-1配列中の塩基配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るプライマーであって、該核酸分子とハイブリダイズした時に3'末端が落花生属のITS-1配列中の塩基と相補的に結合する特性を有するオリゴヌクレオチドであることが必要であり、当該要件を満足する具体的なプライマーとして、下記の配列番号1又は配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドを見出した。
CAAAACCCCGGCGCGGAAA(配列番号1)
GTCGCCCCGACCGGATGC(配列番号2)
【0008】
なお、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、2つのDNA断片がSambrook Jらによって記載されたような標準的なハイブリダイゼーション条件下で、相互にハイブリダイズすることを意味する(Expression of cloned genes in E. coli(Molecular Cloning:A laboratory manual(1989))Cold Spring harbor Laboratory Press, New York, USA, 9. 47-9. 62及び11.45-11.61)。より具体的には、例えば以下の式で求められるTm値を基準としてハイブリダイゼーション及び洗浄(例えば約2.0×SSC、50℃)を行うことを意味する。
Tm=81.5+16.6(log10[Na+])+0.41(fraction G+C)−(600/N)
また、本明細書でいう属とは、属に含まれる落花生全部を含むもの、又は属に含まれる落花生の中から選んだ幾つかの種を含むものを意味する。
【0009】
次に、前記のプライマーの一方をセンスプライマー、他方をアンチセンスプライマーとして、PCRを行い、落花生属のITS-1配列の少なくとも一部を含むPCR標的増幅産物の存在を指標として落花生属の存在を検出する。具体的には、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとを組み合わせた落花生属の検出用プライマーペアを用いて、落花生属のITS-1配列の少なくとも一部を含む増幅産物を得、該増幅産物の存在を指標として落花生属の存在を判定する。
上記PCRに当たっては、例えば、Saiki RK, et al., Science, 230: 1350-1354(1985)や植物細胞工学別冊、植物のPCR実験プロトコール、島本功・佐々木卓治監修(1995年)等に記載されている通常の方法に基づき、変性、アニーリング、伸張の各ステップの温度と時間、酵素(DNA ポリメラーゼ)の種類と濃度、dNTP濃度、プライマー濃度、塩化マグネシウム濃度、鋳型DNA量等の条件を適宜、変更し最良のものを選択する。ただし、アニーリング温度が全てのサイクルにわたって一定である条件を用いた一般的なPCR法を採用することができ、いわゆるタッチダウンPCR法を採用する必要はない。
【0010】
上記PCR後に、85〜87bpサイズのPCR標的増幅産物が存在することを指標として、落花生属の混入を検出する。この検出に当たっては、PCR後の反応液中に標的とするサイズ(85〜87bp)のPCR増幅産物が存在するか否か、すなわち、落花生属のITS-1配列の少なくとも一部を含む標的とするサイズのPCR増幅産物が存在すれば、被検査対象試料中に落花生属の植物が混入していることになり、反対に、PCR増幅産物が存在しないか、又はPCR増幅産物が存在しても落花生属のITS-1配列の少なくとも一部を含む標的とするサイズのPCR増幅産物が存在しなければ、被検査対象試料中に落花生属の植物が混入していないことになる。そして、85〜87bpサイズのPCR標的増幅産物が存在するかどうかの確認は、食品原料や製品等の被検査対象試料から抽出したDNAのPCR後の反応液を、例えば電気泳動によって解析して、増幅産物サイズ85〜87bpに単一バンドが現れているかどうかによって、落花生属が被検査対象試料中に存在するか否かを検出する。本発明では、この検出を高感度、例えば2ppmレベルでの検出を可能とした。
【実施例】
【0011】
(実施例1)
(試料の調製)
種子を1% SDS溶液中で超音波洗浄後、蒸留水中で超音波洗浄し、50℃で風乾した。2ml容チューブ(eppendorf社製)に種子約0.3gとφ7mm径のジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製)1粒を入れ、Retsch MM 300(QIAGEN社製)により細かく粉砕した。粉砕後のチューブに1mlのバッファー G2(QIAGEN社製)、10μlのProteinase K(20mg/ml)(QIAGEN社製)、1μlのRNase A(100mg/ml)(QIAGEN社製)を加え、混合した後、50℃で1時間保温した。その後、約3,000×gで10分間遠心分離し、その上清液を得た。得られた上清液を、予め1mlのバッファー QBT(QIAGEN社製)で平衡化したGenomic-tip 20/G(QIAGEN社製)に供してDNAをtipに吸着させた。その後、4mlのバッファーQC(QIAGEN社製)でtipを洗浄し、予め50℃に加温してある1mlのバッファーQF(QIAGEN社製)でDNAを溶出させた。溶出液に4容量のバッファーNT2(MACHEREY-NAGEL社製)を加えて混合した後、二本のNucleoSpin Extract Column(MACHEREY-NAGEL社製)に一回に650μlずつ供し、約6,000×gで1分間遠心分離してDNAをColumnに吸着させた。これを全液量処理するまで繰り返した。その後、Columnに600μlのバッファー NT3(MACHEREY-NAGEL社製)を加え、約6,000×gで1分間遠心分離してColumnを洗浄、再度600μlのバッファーNT3を加え、最高速度で1分間遠心分離して、Columnに残っているバッファーNT3を完全に除去した。最終的に、予め70℃に加温してある100μlのバッファーNE(MACHEREY-NAGEL社製)をColumnに加え、室温で1分静置後最高速度で1分間遠心分離してDNAをColumnから溶出し、イソプロパノール沈澱により回収した沈澱物を50μlの滅菌超純水に溶解した。溶液中のDNA濃度を測定し、適宜滅菌超純水で希釈したものをPCRの鋳型DNA試料とした。なお、鋳型DNAは、DNA溶液を分光光度計で測定し、220〜350nmのスペクトルを測定し、260nmに極大値がみられるものを使用した。
【0012】
(PCR反応条件)
PCR反応条件は、表1のとおりである。なお、Taq polymeraseには、QIAGEN社製のHotStarTaq PCR Master Mixを使用した。
【表1】

【0013】
(検出)
得られたPCR反応液をエチジウムブロマイド含有の3%アガロースゲル電気泳動に供して確認した。
PCRサーマルサイクラーは、通常はGeneAmp PCR System 9600(Applied Biosystems社製)を用いるが、他にGeneAmp PCR System 2400(Applied Biosystems社製)、DNA Engine(MJ Research社製)も使用可能であることを確認している。
上記電気泳動による検出結果を図1に示す。
図1の結果から明らかなように、落花生については、約86bpのサイズにはっきりと標的増幅産物が存在しているのに対し、小麦やとうもろこし等の落花生以外の植物の場合は、約86bpのサイズに標的増幅産物が存在していないことがわかる。このことより、プライマーペアは、落花生を特異的に検出することが示された。また、サケ精子DNA50ngに添加した落花生DNA100fg(2ppm重量/重量)から確実に約86bpのサイズの標的増幅産物が存在していることから、2ppmレベルの感度で落花生を検出できることが示された。
【0014】
(実施例2)
落花生近縁種、落花生以外の特定原材料、マメ科植物、主要食品原料植物、ナッツ類のITS-1領域を対象としてAmplify 1.0(Bill Engels)によるPCRシミュレーションを行った。その結果を表2に示す。
【表2】

落花生以外のいずれの配列からも、標的増幅産物は得られないことが予測された。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明のプライマー及び当該プライマーを使用したPCR法を活用することによって、食品や食品原材料等の中に微量の落花生が混入していないかどうかを検出するのに大いに役立たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】得られたPCR反応液をエチジウムブロマイド含有の3%アガロースゲル電気泳動に供した時の検出結果である。(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は配列番号2で表される塩基配列からなる落花生属の検出用プライマー。
【請求項2】
配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとを組み合わせた落花生属の検出用プライマーペア。
【請求項3】
請求項2記載のプライマーペアを用いて、落花生属のITS-1配列の少なくとも一部を含む増幅産物を得る工程と、該増幅産物の存在を指標として落花生属の存在を判定する工程とを含む落花生属の検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−189931(P2007−189931A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10028(P2006−10028)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】