説明

蒸気タービンのタービンロータおよび蒸気タービン

【課題】タービンロータ構成部材どうしを接合する溶接部およびその近傍に生じる熱応力を低減することができる蒸気タービンのタービンロータ、およびこのタービンロータを備えた蒸気タービンを提供する。
【解決手段】
タービンロータ10は、高温側タービンロータ構成部材20と低温側タービンロータ構成部材30をタービンロータ軸方向に接合して構成される。これらのタービンロータ構成部材20、30は、ロータ胴部21、31と、ロータ胴部21、31から半径方向外側に突出するように周方向に設けられ、動翼70が植設されるホイール部22、32と、ホイール部22、32で構成された接合端部と、接合端部の接合面23、33よりも中心側に形成された凹部24、34とを備える。接合面23、33どうしが溶接されて、高温側タービンロータ構成部材20と低温側タービンロータ構成部材30とが一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蒸気タービンに備えられるタービンロータおよび蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンのタービンロータとして、複数のタービンロータ構成部材を軸方向に溶接により接合して構成されたものが使用されている。複数のタービンロータ構成部材を溶接して構成された溶接タービンロータを使用することによって、起動停止時の熱応力の低減や、上流段落と下流段落で強度特性が異なるタービンロータを実現することができる。これによって、蒸気タービンの性能向上や製造コストの低減を図ることができる。
【0003】
図12は、従来の蒸気タービンのタービンロータ200の一部を子午断面で示した図である。図12に示すように、タービンロータ200では、高温側となる高温側タービンロータ構成部材201と低温側となる低温側タービンロータ構成部材202とが、隣接するホイール部203間のロータ胴部204に形成された接合部205において接合されている。接合部205の半径方向の厚さ(接合部の半径方向の長さ)は、タービンロータ200に必要な剛性、すなわちトルク伝達に対して必要となるねじり断面係数や回転同期に伴うロータ曲げに対して必要となる断面係数によって決められる。これらの断面係数は、中実断面と中空断面での差が小さいことから、溶接施工と機械加工の工数を考慮し、溶接を外表面から一定の深さまでの範囲とし、それよりも中心側には中空部206が形成されている。また、タービンロータ200の中心軸に沿って中心孔207が形成されている。
【0004】
図13は、図12に示したタービンロータ200における起動停止時などの非定常熱応力の発生メカニズムを示すための、タービンロータ200の子午断面を示す図である。蒸気Sは、タービンロータ200の外表面に沿って、上流側から下流側へ流れる。蒸気タービンの起動時において、外表面を流れる蒸気の温度は、時間とともに上昇するが、大きな熱容量を有するタービンロータ200の温度上昇は、蒸気Sの温度上昇に対して遅れる。そのため、タービンロータ200の外表面と内部との間で温度差が生じ、熱応力が発生する。一方、蒸気タービンの停止時は、蒸気Sの温度低下に対してタービンロータ200の温度低下が遅れる。そのため、タービンロータ200の外表面と内部との間で温度差が生じ、熱応力が発生する。すなわち、蒸気タービンの起動時には、タービンロータ200の外表面の温度がタービンロータ200の内部に比べて高くなり、タービンロータ200の表面には圧縮熱応力が生じる。一方、蒸気タービンの停止時には、タービンロータ200の外表面の温度がタービンロータ200の内部に比べて低くなり、タービンロータ200の表面には引張り熱応力が生じる。
【0005】
ここで、接合部205近傍の平均熱応力を検討するため、接合部205の外表面を点P1、接合部205の内周面(接合部205の初層部の内周面)を点P2とする。非定常熱応力は、タービンロータ200の外表面と内部との間の熱伝導による温度差に起因するため、熱伝達条件が同じなら点P1と点P2との間の距離Laが長くなると大きくなる。この距離Laは、上記した接合部205の半径方向の厚さに相当し、タービンロータ200におけるトルク伝達に対して必要となるねじり断面係数や回転同期に伴うロータ曲げに対して必要となる断面係数によって決められるものである。なお、距離Laは、ロータ胴部204の外径(Da)から中空部206の外径(Db)を減じて「2」で除すことで求められる。
【0006】
また、タービンロータは、異材からなるタービンロータ構成部材どうしを接合して構成されることがある。図14は、図12に示したタービンロータ200が異材からなるタービンロータ構成部材から構成された場合の熱応力について説明するための、タービンロータ200の子午断面を示す図である。
【0007】
高温側タービンロータ構成部材201と低温側タービンロータ構成部材202とを構成する材料の組み合わせとして、例えば、高Cr鋼と低合金鋼、Ni基超合金と高Cr鋼、Ni基超合金と低合金鋼などが考えられる。これらの材料の組合せでは、両材料の線膨張係数の差により熱応力が発生する。図14では、線膨張係数が、高温側タービンロータ構成部材201よりも低温側タービンロータ構成部材202の方が大きい場合の熱応力分布が示されている。ここで、σ+は、引張り応力、σ−は、圧縮応力を示す。また、点P1および点P2は、図13で示した点P1および点P2と同じである。
【0008】
線膨張係数が大きい低温側タービンロータ構成部材202の方が高温側タービンロータ構成部材201よりも熱伸びは大きくなり、それぞれの伸び差によって熱応力が生じる。例えば、ホイール部の根部などでは剛性が大きく変わるため、応力集中により、熱応力は高くなる。そして、接合部205の周辺の高い熱応力により、接合部205の熱応力は高くなる。
【0009】
蒸気タービンの起動時と停止時の熱応力のピークは定格時の応力に比べて高く、非定常熱応力は、タービンロータ200の熱疲労の原因となる。接合部205近傍の熱応力は、温度差によって生じる平均熱応力と、端部や接合界面などの応力集中によって支配される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−50007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように、大型で厚肉構造物であるタービンロータでは、起動時や停止時にタービンロータの表面と内部との間に生じる温度差によって、非定常熱応力が高くなることある。また、異材からなるタービンロータ構成部材どうしを接合して構成されたタービンロータでは、材料の線膨張係数、熱伝導率、比熱など熱特性の違いによる熱応力も発生する。特に、高Cr鋼からなるタービンロータ構成部材と、低合金鋼からなるタービンロータ構成部材とを接合して構成されたタービンロータ、あるいは、高Cr鋼からなるタービンロータ構成部材と、Ni基超合金からなるタービンロータ構成部材とを接合して構成されたタービンロータでは、上記したように、両材料の線膨張係数の違いにより、溶接部およびその近傍に高い熱応力が生じ、非定常熱応力を増加させる。
【0012】
また、タービンロータ構成部材どうしを接合して構成されたタービンロータでは、高い熱応力が溶接部近傍に生じることで、タービンロータ全体としての強度や信頼性が問題となる。特に、中、高温域で使用される高圧タービンや中圧タービンのタービンロータとして使用するときには、これらの問題の解決が重要となり、溶接部における熱応力の低減が重要な課題となる。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、タービンロータ構成部材どうしをタービンロータ軸方向に接合する溶接部およびその近傍に生じる熱応力を低減することができる蒸気タービンのタービンロータ、およびこのタービンロータを備えた蒸気タービンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態の蒸気タービンのタービンロータは、タービンロータ構成部材どうしをタービンロータ軸方向に接合して構成されている。前記タービンロータ構成部材は、円柱状のロータ胴部と、前記ロータ胴部の周方向に半径方向外側に突出するように形成され、かつタービンロータ軸方向に少なくとも一段形成され、動翼が植設されるホイール部と、前記ホイール部で構成された、前記タービンロータ構成部材どうしを接合するための接合端部と、前記接合端部の接合面よりも中心側に形成された、前記接合面よりも窪んだ凹部とを備えている。また、前記タービンロータ構成部材の接合端部の接合面どうしが溶接により接合されて一体化され、前記接合面よりも中心側に前記凹部による中空部が形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の、蒸気タービンにおけるタービンロータの一部を子午断面で示した図である。
【図2】図1に示したタービンロータにおける起動停止時などの非定常熱応力の発生メカニズムを示すための、タービンロータの子午断面を示す図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態のタービンロータの熱応力について説明するための、タービンロータの子午断面を示す図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータの接合部を有するホイール部に動翼を植設する様子を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータの接合部を有するホイール部に植設される動翼の他の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る第2の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータの接合部を有するホイール部が周方向挿入型であるときの、ホイール部の断面を示す図である。
【図7】本発明に係る第3の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータの接合端部の他の構成を説明するための、蒸気タービンのタービンロータの一部を子午断面で示した図である。
【図8】本発明に係る第4の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータの、接合部の検査用孔を説明するための、蒸気タービンのタービンロータの一部を子午断面で示した図である。
【図9】本発明に係る第4の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータの、接合部の検査用孔を説明するための、蒸気タービンのタービンロータの一部を子午断面で示した図である。
【図10】本発明に係る第5の実施の形態の、蒸気タービンにおけるタービンロータの一部を子午断面で示した図である。
【図11】本発明に係る第5の実施の形態のタービンロータの他の構成を説明するための、タービンロータの一部を子午断面で示した図である。
【図12】従来の蒸気タービンのタービンロータの一部を子午断面で示した図である。
【図13】図12に示したタービンロータにおける起動停止時などの非定常熱応力の発生メカニズムを示すための、タービンロータの子午断面を示す図である。
【図14】図12に示したタービンロータが異材からなるタービンロータ構成部材から構成された場合の熱応力について説明するための、タービンロータの子午断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の、蒸気タービンにおけるタービンロータ10の一部を子午断面で示した図である。
【0018】
図1に示すように、タービンロータ10は、高温側となる高温側タービンロータ構成部材20と低温側となる低温側タービンロータ構成部材30とをタービンロータ軸方向に接合して一体化することで構成されている。
【0019】
高温側タービンロータ構成部材20および低温側タービンロータ構成部材30は、円柱状のロータ胴部21、31と、このロータ胴部21、31から半径方向外側に突出するように、ロータ胴部21、31の周方向に形成されたホイール部22、32とを備えている。このホイール部22、32は、タービンロータ軸方向に複数段設けられ、これらのホイール部22、32には、動翼が植設される。なお、ホイール部22、32は、タービンロータ軸方向に少なくとも一段設けられていればよい。
【0020】
高温側タービンロータ構成部材20および低温側タービンロータ構成部材30の接合端部は、それぞれホイール部22、32で構成されている。なお、接合端部を構成するホイール部22、32のタービンロータ軸方向の幅は、他の位置のホイール部22、32のタービンロータ軸方向の幅よりも薄く形成されている。そして、双方の接合端部の幅および接合部40のタービンロータ軸方向の幅を合計した幅が、他の位置のホイール部22、32のタービンロータ軸方向の幅とほぼ等しくなるように構成されている。
【0021】
また、高温側タービンロータ構成部材20および低温側タービンロータ構成部材30の接合端部の外側面に構成される接合面23、33よりも中心側には、接合面23、33よりもタービンロータ軸方向に窪んだ凹部24、34が形成されている。この凹部24、34の深さは、遠心力による凹部の曲げ応力の増加を抑える理由から、高温側タービンロータ構成部材20および低温側タービンロータ構成部材30の接合端部のタービンロータ軸方向の厚さとほぼ同程度またはそれ以下とすることが好ましい。
【0022】
そして、このような構成の、高温側タービンロータ構成部材20および低温側タービンロータ構成部材30の接合端部の接合面23、33どうしを、それぞれの中心軸が同軸となるように、溶接により接合して、タービンロータ軸方向に一体化することでタービンロータ10が構成される。接合面23、33よりも中心側には、凹部24と凹部34とから構成される中空部50が形成される。なお、タービンロータ10の中心軸に沿って中心孔60が形成されており、中空部50は、この中心孔60に直交するように連通している。
【0023】
なお、溶接は、高温側タービンロータ構成部材20および低温側タービンロータ構成部材30を回転させながら、接合面23、33の内周側から外周側に向かって行われる。
【0024】
ここで、高温側タービンロータ構成部材20および低温側タービンロータ構成部材30は、それぞれ異なる材料で構成することができる。高温側タービンロータ構成部材20と低温側タービンロータ構成部材30とを構成する材料の組み合わせとして、例えば、高Cr鋼と低合金鋼、Ni基超合金と高Cr鋼、Ni基超合金と低合金鋼などが例示できる。
【0025】
図2は、図1に示したタービンロータ10における起動停止時などの非定常熱応力の発生メカニズムを示すための、タービンロータ10の子午断面を示す図である。図2では、接合部40の外表面を点P3、接合部40の内周面(接合部40の初層部の内周面)を点P4、ロータ胴部21、31の外径に対応する位置を点P5とする。
【0026】
蒸気Sは、図2に示すように、タービンロータ10の外表面に沿って、上流側から下流側へ流れる。前述したように、蒸気タービンの起動時には、タービンロータ10の外表面の温度がタービンロータ10の内部に比べて高くなり、タービンロータ10の表面には圧縮熱応力が生じる。一方、蒸気タービンの停止時には、タービンロータ10の外表面の温度がタービンロータ10の内部に比べて低くなり、タービンロータ10の表面には引張り熱応力が生じる。
【0027】
ここで、ロータ胴部21、31の外径D1およびホイール部22、32の外径D2は、タービンロータ10の設計仕様によって決まる。また、接合部40のトルク伝達、ねじり、曲げに必要な剛性は、点P3および点P4の位置によって決まる。例えば、点P3と点P4との間の距離(ホイール部22、32の外径D2から中空部50の外径D3を減じて「2」で除したもの)は、ロータ胴部、溶接部の強度、植込部の加工などにより影響を受けるが、最もタービンロータ構造への影響が高いねじりについては、断面二次極モーメントが外径の4乗と内径の4乗の差に比例することから、前述した従来のタービンロータ200における点P1と点P2との間の距離La(図13参照)とほぼ等しくすることで、同等以上のねじり剛性が確保できることになる。
【0028】
一方、図2に示すように、接合端部を構成するホイール部22、32の周囲には蒸気Sが流れ、ホイール部22、32の周囲において蒸気Sとの熱伝達が行われる。そのため、点P3と点P5との間においては、ほぼ均等な温度となり、温度差が大きくなるのは、点P5と点P4との間(距離L1)のみとなる。なお、この距離L1は、従来のタービンロータ200の温度差が大きくなる距離Laに比べて小さい。
【0029】
このように第1の実施の形態のタービンロータ10では、温度差が大きくなる領域をP5と点P4との間(距離L1)に縮小することができるため、温度差が小さくなり、熱応力を低減することができる。
【0030】
図3は、本発明に係る第1の実施の形態のタービンロータ10の熱応力について説明するための、タービンロータ10の子午断面を示す図である。図3には、線膨張係数が、高温側タービンロータ構成部材20よりも低温側タービンロータ構成部材30の方が大きい場合の熱応力分布が示されている。ここで、σ+は、引張り応力、σ−は、圧縮応力を示す。また、点P3および点P4は、図2で示した点P3および点P4と同じである。
【0031】
前述した従来のタービンロータの場合と同様に、線膨張係数が大きい低温側タービンロータ構成部材30の方が高温側タービンロータ構成部材20よりも熱伸びは大きくなり、それぞれの伸び差によって熱応力が生じる。しかしながら、第1の実施の形態のタービンロータ10においては、ホイール部22、32どうしを接合するため、剛性の不連続により熱応力が緩和される。そのため、特に、点P3およびその近傍に生じる引張り応力および圧縮応力を低減することができる。
【0032】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明に係る第2の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータ10の接合部40を有するホイール部22、32に動翼70を植設する様子を示す斜視図である。図5は、本発明に係る第2の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータ10の接合部40を有するホイール部22、32に植設される動翼70の他の構成を示す斜視図である。図6は、本発明に係る第2の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータ10の接合部40を有するホイール部22、32が周方向挿入型であるときの、ホイール部22、32の断面を示す図である。
【0033】
図4には、ホイール部22とホイール部32との間に接合部40を有する軸方向挿入型のホイール部22、32が示されている。このホイール部22、32を構成する接合部40には、ホイール部22およびホイール部32と同様に、固定溝が形成されている。
【0034】
動翼70の植込部71には、ホイール部22、32の固定溝に対応した溝が形成されているが、図4に示すように、植設後、接合部40に対向する位置となる部分には、接合部40の固定溝と嵌合する溝は形成されていない。このように、動翼70の植込部71を構成することで、ホイール部22やホイール部32に比べて強度の小さな接合部40に、動翼70からの荷重が直接作用しないようにすることができる。これによって、接合部40の損傷を防止することができる。
【0035】
また、図5に示すように、動翼70の植込部71を挿入方向に対して前方側と後方側に2分割した構成とし、植設後、接合部40に対向する位置となる部分に植込部71を有しない(植込部71が切り欠かれた)構成としてもよい。
【0036】
なお、図6に示すように、接合端部を構成するホイール部22、32は、軸方向挿入型に形成されてもよい。このホイール部22、32に植設される動翼72は、アウトサイド型の植込部73を有している。この植込部73は、蒸気入口側と蒸気出口側に分岐されているため、接合部40の熱応力を低減することができる。また、動翼72の植込部73が嵌合されたときでも、接合部40の損傷を防止することができる。
【0037】
上記したように、第1または第2の実施の形態のタービンロータ10によれば、高温側タービンロータ構成部材20と低温側タービンロータ構成部材30とが、それぞれ異なる材料で構成され、例えば、それぞれを構成する材料の線膨張係数が異なる場合においても、ホイール部を溶接して接合することで、接合部40およびその近傍の熱応力を低減することができる。
【0038】
(第3の実施の形態)
図7は、本発明に係る第3の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータ10の接合端部の他の構成を説明するための、蒸気タービンのタービンロータ10の一部を子午断面で示した図である。
【0039】
図7に示すように、接合端部を構成するホイール部22、32の、接合面23、33を構成する側とは異なる側の根部が、直線的にロータ胴部21、31に向かってタービンロータ軸方向に広がる傾斜面25、35を備えるように構成されてもよい。例えば、超音波探傷試験などにより初層40aなどの接合部40の状態を外部側から検査する際、接合端部を構成するホイール部22、32の根部に、曲面ではなく、上記した平面状の傾斜面25、35を備えることで、高い検出能で溶接欠陥の検査を行うことができる。さらに、例えば、超音波探傷試験などにより初層40aなどの接合部40の状態を外部側から検査する際、接合部40の初層40a(接合部40の最も内周に存在するビード層)と、ロータ胴部21、31との距離は、前述した従来のようにロータ胴部どうしを接合する場合に比べて短くなるため、高い検出能で溶接欠陥の検査を行うことができる。
【0040】
(第4の実施の形態)
図8および図9は、本発明に係る第4の実施の形態を示し、第1の実施の形態のタービンロータ10の、接合部40の検査用孔を説明するための、蒸気タービンのタービンロータ10の一部を子午断面で示した子午断面を示す図である。
【0041】
図8に示すように、接合端部を構成するホイール部32に隣接するロータ胴部31から中心孔60に連通する検査用連通孔80を設けてもよい。検査用連通孔80のロータ胴部31側の端部は、検査を行う以外のときには、封止部材81によって封止されている。この検査用連通孔80は、中心孔60を介して間接的に中空部50に連通している。例えば、ファイバースコープなどの先端を、検査用連通孔80、中心孔60および中空部50を介して接合部40の初層40aの近傍に挿入することで、初層40aの状態を観察することができる。なお、ここでは、ロータ胴部31に検査用連通孔80を設けた一例を示したが、検査用連通孔80は、ロータ胴部21に設けられてもよい。
【0042】
また、図9に示すように、低温側タービンロータ構成部材30の凹部34の外縁部に、さらに円環状に凹部90を設け、この凹部90に連通するように、接合端部を構成するホイール部32に隣接するロータ胴部31から検査用連通孔85を設けてもよい。凹部90は、中空部50を構成する一空間を構成している。検査用連通孔85のロータ胴部31側の端部は、検査を行う以外のときには、封止部材86によって封止されている。この検査用連通孔85は、直接的に中空部50に連通している。この場合、ロータ胴部31と凹部90までの距離が短いため、容易に検査用連通孔85を形成することができる。
【0043】
なお、凹部90を設けずに、接合端部を構成するホイール部32に隣接するロータ胴部31から中空部50に連通する検査用連通孔85を設けてもよい。また、検査用連通孔85は、ロータ胴部21に設けられてもよい。
【0044】
(第5の実施の形態)
図10は、本発明に係る第5の実施の形態の、蒸気タービンにおけるタービンロータ11の一部を子午断面で示した図である。図11は、本発明に係る第5の実施の形態のタービンロータ11の他の構成を説明するための、タービンロータ11の一部を子午断面で示した図である。なお、前述した実施の形態のタービンロータ10と同一の構成部分には同一の符号を付して重複する説明を省略または簡略する。
【0045】
図10に示すように、タービンロータ11は、高温側となる高温側タービンロータ構成部材100と低温側となる低温側タービンロータ構成部材110とをタービンロータ軸方向に接合して一体化することで構成されている。
【0046】
高温側タービンロータ構成部材100および低温側タービンロータ構成部材110は、円柱状のロータ胴部101、111と、このロータ胴部101、111から半径方向外側に突出するようにロータ胴部101、111の周方向に形成されたホイール部102、112とを備えている。このホイール部102、112は、タービンロータ軸方向に複数段設けられ、これらのホイール部102、112には、動翼が植設される。なお、ホイール部102、112は、タービンロータ軸方向に少なくとも一段設けられていればよい。
【0047】
高温側タービンロータ構成部材100および低温側タービンロータ構成部材110の接合端部は、それぞれロータ胴部101、111で構成されている。
【0048】
また、図10に示すように、接合端部の近傍のロータ胴部101a、111aの外径D4が、他の位置のロータ胴部101、111の外径D5よりも小さくなるように、接合端部の近傍のロータ胴部101a、111aの周方向に亘って周方向凹部103、113が形成されている。すなわち、接合端部は、他の位置のロータ胴部101、111の外径D5と同じ外径を有し、この接合端部の近傍から隣接するホイール部102、112まので間に周方向凹部103、113が形成されている。そのため、周方向凹部103、113が形成されている部分のロータ胴部101a、111aの外径D4は、他の位置のロータ胴部101、111の外径D5よりも小さくなる。
【0049】
なお、周方向凹部103、113は、図11に示すように、隣接するホイール部102、112の根部に至らないように構成されてもよい。
【0050】
また、高温側タービンロータ構成部材100および低温側タービンロータ構成部材110の接合端部の外側面に構成される接合面104、114よりも中心側には、接合面104、114よりもタービンロータ軸方向に窪んだ凹部105、115が形成されている。この凹部105、115の深さは、遠心力による凹部の曲げ応力の増加を抑える理由から、高温側タービンロータ構成部材100および低温側タービンロータ構成部材110の接合端部のタービンロータ軸方向の厚さとほぼ同程度またはそれ以下とすることが好ましい。
【0051】
そして、このような構成の、高温側タービンロータ構成部材100および低温側タービンロータ構成部材110の接合端部の接合面104、114どうしを、それぞれの中心軸が同軸となるように、溶接により接合して、タービンロータ軸方向に一体化することでタービンロータ11が構成される。接合面104、114よりも中心側には、凹部105と凹部115とから構成される中空部120が形成される。なお、中空部120は、中心孔60に直交するように連通している。また、接合部130の半径方向の長さ(ロータ胴部101、111の外径D5から中空部120の外径を減じて「2」で除したもの)は、ロータ胴部101、111、接合部130の強度、植込部の加工などにより影響を受けるが、第1の実施の形態と同等以上のねじり剛性を確保する理由から、第1の実施の形態のタービンロータ10における接合部40の半径方向の長さ(ホイール部22、32の外径D2から中空部50の外径D3を減じて「2」で除したもの)(図2参照)とほぼ等しくなる。
【0052】
高温側タービンロータ構成部材100および低温側タービンロータ構成部材110は、前述した第1の実施の形態の高温側タービンロータ構成部材20および低温側タービンロータ構成部材30と同様の材料で構成され、その組み合わせも第1の実施の形態の場合と同様である。
【0053】
第5の実施の形態のタービンロータ11によれば、接合端部の周縁部がその周囲のロータ胴部101a、111aよりも半径方向外側に突出した形状を有することで、第1の実施の形態のタービンロータ10の接合端部を設けたときと同様の作用効果が得られる。具体的には、半径方向外側に突出した接合端部の周縁部の周囲には蒸気が流れ、周縁部の周囲において蒸気との熱伝達が行われる。そのため、周縁部においては、ほぼ均等な温度となり、温度差が大きくなるのは、周縁部よりも内部側(接合端部の近傍のロータ胴部101a、111aの外径D4よりも内側)の接合部130およびその近傍のみとなる。なお、この温度差が大きくなる内部側の半径方向の長さは、前述した従来のタービンロータ200の温度差が大きくなる距離Laに比べて短い。
【0054】
このように、第5の実施の形態のタービンロータ11では、温度差が大きくなる領域を縮小することができるため、熱応力を低減することができる。
【0055】
上記した第1〜第5の実施の形態のタービンロータ10、11は、例えば、高圧タービン、中圧タービンまたは低圧タービンなどに適用される。この際、タービンロータ10、11は、高温側タービンロータ構成部材20、100が高温側、低温側タービンロータ構成部材30、110が低温側となるように構成される。また、高温側タービンロータ構成部材20、100と低温側タービンロータ構成部材30、110の組み合わせは、適用される蒸気タービンの運転条件などに基づいて決定される。
【0056】
以上説明したこれらの実施の形態によれば、異材からなるタービンロータどうしを溶接した場合においても、タービンロータに発生する熱応力を低減することができる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
10、11…タービンロータ、20、100…高温側タービンロータ構成部材、21、31、101、101a、111、111a…ロータ胴部、22、32、102、112…ホイール部、23、33、104、114…接合面、24、34、90、105、115…凹部、25…傾斜面、30、110…低温側タービンロータ構成部材、40、130…接合部、40a…初層、50、120…中空部、60…中心孔、70、72…動翼、71、73…植込部、80、85…検査用連通孔、81、86…封止部材、103…周方向凹部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのタービンロータ構成部材をタービンロータ軸方向に接合して構成されたタービンロータにおいて、
前記タービンロータ構成部材が、
円柱状のロータ胴部と、
前記ロータ胴部の周方向に半径方向外側に突出するように形成され、かつタービンロータ軸方向に少なくとも一段形成され、動翼が植設されるホイール部と、
前記ホイール部で構成された、前記タービンロータ構成部材どうしを接合するための接合端部と、
前記接合端部の接合面よりも中心側に形成された、前記接合面よりも窪んだ凹部と
を備え、
前記タービンロータ構成部材の接合端部の接合面どうしが溶接により接合されて一体化され、前記接合面よりも中心側に前記凹部による中空部が形成されていることを特徴とする蒸気タービンのタービンロータ。
【請求項2】
少なくとも2つのタービンロータ構成部材をタービンロータ軸方向に接合して構成されたタービンロータにおいて、
前記タービンロータ構成部材が、
円柱状のロータ胴部と、
前記ロータ胴部の周方向に半径方向外側に突出するように形成され、かつタービンロータ軸方向に少なくとも一段形成され、動翼が植設されるホイール部と、
前記ロータ胴部で構成された、前記タービンロータ構成部材どうしを接合するための接合端部と、
前記接合端部の近傍のロータ胴部の外径が、他の位置のロータ胴部の外径よりも小さくなるように、前記接合端部の近傍のロータ胴部の周方向に亘って形成された周方向凹部と、
前記接合端部の接合面よりも中心側に形成された、前記接合面よりも窪んだ凹部と
を備え、
前記タービンロータ構成部材の接合端部の接合面どうしが溶接により接合されて一体化され、前記接合面よりも中心側に前記凹部による中空部が形成されていることを特徴とする蒸気タービンのタービンロータ。
【請求項3】
接合される前記タービンロータ構成部材が、それぞれ異なる材料で構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の蒸気タービンのタービンロータ。
【請求項4】
接合される前記タービンロータ構成部材のうち、高温側に配置される前記タービンロータ構成部材が高Cr鋼で構成され、低温側に配置される前記タービンロータ構成部材が低合金鋼で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の蒸気タービンのタービンロータ。
【請求項5】
接合される前記タービンロータ構成部材のうち、高温側に配置される前記タービンロータ構成部材がNi基超合金で構成され、低温側に配置される前記タービンロータ構成部材が高Cr鋼または低合金鋼で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の蒸気タービンのタービンロータ。
【請求項6】
前記接合端部を構成するホイール部の、前記接合面を構成する側とは異なる側の根部が、直線的に前記ロータ胴部に向かってタービンロータ軸方向に広がる傾斜面を備えていることを特徴とする請求項1記載の蒸気タービンのタービンロータ。
【請求項7】
前記接合端部を構成するホイール部に隣接するロータ胴部に、直接的または間接的に前記中空部に連通する連通孔が形成されていることを特徴とする請求項1または6記載の蒸気タービンのタービンロータ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の蒸気タービンのタービンロータを備えたことを特徴とする蒸気タービン。
【請求項9】
前記蒸気タービンが、請求項1、6または7のいずれか1項記載のタービンロータを備える場合において、前記接合端部どうしを接合する接合部に動翼の植込部が係合することなく、前記動翼が植設されていることを特徴とする請求項8記載の蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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