説明

蒸気タービン発電システムの起動方法、蒸気タービン発電システム

【課題】起動に必要な構成及び制御が簡素化された蒸気タービン発電システムを提供する。
【解決手段】起動弁のみを開弁させ(ステップS201)、起動弁から供給された熱媒体により、発電機の回転数を電力変換装置と同調させるのに必要な回転数であり、かつ蒸気タービンの定格回転数よりも低い所定回転数にまで蒸気タービンの回転数を昇速させ(ステップS202〜S207)、蒸気タービンの回転数が電力変換装置の指定回転数と同調したときに(ステップS207:YES)主蒸気止め弁を開弁させ(ステップS208)、起動弁及び主蒸気止め弁から供給された熱媒体により蒸気タービンの回転数を定格回転数にまで昇速させる(ステップS209、S210)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン発電システムの起動方法、蒸気タービン発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電システムの起動方法に関して、例えば次の特許文献1、2に開示された起動方法が知られている。
【0003】
図5は特許文献1に開示された蒸気タービン起動制御システムの起動方法を説明するための図である。図5を参照すると、特許文献1には、蒸気タービンを起動する場合、蒸気加減弁(GV)を全開し、かつ主蒸気止め弁(MSV)を全閉する等の起動条件が完了したとき、主蒸気止め弁(MSV)の開度を制御して、蒸気タービンを一定の昇速率で規定回転数に達するまで回転駆動することが開示されている。また、特許文献1には、蒸気タービンの定格運転では、負荷に応じてガバナ(調速機)によって蒸気加減弁(GV)の開度が制御され、蒸気タービンへの蒸気流入量が自動的に制御され、蒸気タービンの回転数が負荷の変動に係らず一定の範囲内に維持されることが開示されている。
【0004】
図6は特許文献2に開示されたタービン発電装置の起動方法を説明するためのフローチャートである。図6を参照すると、特許文献2には、ガスタービン起動用のインバータを設置せずに、発電時に用いられるインバータをガスタービン起動時にも用いることで、発電機を起動用モータとして運転させて、当該発電機の回転数をガスタービンが自立加速可能な回転数まで上昇させること(ステップS1〜S4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−47104号公報(特に図4)
【特許文献2】特開2002−89286号公報(特に図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蒸気タービンと発電機とが同軸上に設けられている蒸気タービン発電設備を有した蒸気タービン発電システムに関して、蒸気タービン発電設備の起動時に電力変換装置によって蒸気タービンの回転数制御を実施する起動方法が考えられる。但し、この起動方法を採用するためには、予め、発電機を定格回転数よりも低い回転数で回転させて、電力変換装置のコンバータと同調させておく必要がある。そこで、特許文献1の起動方法のように蒸気を投入して蒸気タービン及び発電機を回転させる方法と、特許文献2の起動方法のように発電機を電動機として駆動させ(モータリングさせ)、電力変換装置による回転数制御が可能となる回転数にまで昇速させる方法と、が考えられる。
【0007】
しかし、特許文献1の起動方法では、蒸気タービンの回転数制御を実施する主蒸気止め弁(MSV)と、タービン発電機の出力制御を実施する蒸気加減弁(GV)とが設けられており、それぞれの弁として開度調整可能な弁が採用されている。また、蒸気タービンの回転数が定格回転数に到達した後、主蒸気止め弁(MSV)による回転数制御と蒸気加減弁による出力制御との切替を行っている。従って、特許文献1の起動方法を採用すれば、蒸気タービン発電システムの構成及び制御が複雑化するという課題が生じる。
【0008】
また、特許文献2の起動方法では、蒸気タービンと発電機とが同軸上に設けられている場合、発電機をモータリングさせるとロータの加熱が懸念される。また、起動する毎に発電機をモータリングさせると、ロータの寿命に影響する。
【0009】
本発明は、上記のような従来の課題を解決するためになされたものであり、起動に必要な構成及び制御が簡素化された蒸気タービン発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る蒸気タービン発電システムの起動方法は、蒸気タービンと発電機とが同軸上に連結している蒸気タービン発電機と、液相の熱媒体を気化させる蒸発器と、前記蒸発器により気相の熱媒体を前記蒸発器から前記蒸気タービンへと導く主蒸気管上に設けられた主蒸気止め弁と、前記気相の熱媒体を前記主蒸気止め弁の前記蒸発器側から前記主蒸気止め弁を迂回させて前記蒸気タービンへと導くバイパス管上に設けられた起動弁と、前記蒸気タービンから排気された前記気相の熱媒体を凝縮させて得られる前記液相の熱媒体を前記蒸発器へと導く凝縮器と、前記発電機の回転数を制御するとともに、前記発電機で発電された電力を当該電力の周波数を変換してから電力系統に出力する電力変換装置と、を備えた蒸気タービン発電システムの起動方法であって、前記主蒸気止め弁及び前記起動弁が閉弁した状態から前記起動弁のみを開弁させるステップと、前記起動弁の開弁により前記バイパス管から供給された前記気相の熱媒体によって、前記発電機の回転数を前記電力変換装置と同調させるのに必要な回転数であり、かつ前記蒸気タービンの定格回転数よりも低い所定回転数にまで、前記蒸気タービンの回転数を昇速させるステップと、前記蒸気タービンの回転数と前記電力変換装置の指令回転数とを同調させるステップと、前記同調したときに前記主蒸気止め弁を開弁させ、前記電力変換装置により前記発電機の回転数を制御しながら前記起動弁及び前記主蒸気止め弁から供給された前記気相の熱媒体により前記蒸気タービンの回転数を前記定格回転数にまで昇速させるステップと、を備えるものである。
【0011】
この方法によれば、起動弁の設置により発電機を電動機として駆動させる(モータリングさせる)必要がないので別置きの起動用モータが不要となり、あるいは電力変換装置の設置により蒸気加減弁等のガバナ機構が不要となるので、蒸気タービン発電システムにおいて起動に必要な構成及び制御を簡素化できる。
【0012】
上記の起動方法において、前記主蒸気止め弁はON−OFF弁であり、前記同調したときに前記主蒸気止め弁を全閉から全開に開弁させる、としてもよい。
この方法によれば、例えば、主蒸気止め弁が開度調整可能な調整弁である場合、中間開度の場合に圧損等によりエネルギーロスが発生することになるが、主蒸気止め弁がON−OFF弁であれば、上記のエネルギーロスを軽減することができる。
【0013】
上記目的を達成するため、その他の本発明に係る蒸気タービン発電システムは、蒸気タービンと発電機とが同軸上に連結している蒸気タービン発電機と、液相の熱媒体を気化させる蒸発器と、前記蒸発器により気相の熱媒体を前記蒸発器から前記蒸気タービンへと導く主蒸気管上に設けられた主蒸気止め弁と、前記気相の熱媒体を前記主蒸気止め弁の前記蒸発器側から前記主蒸気止め弁を迂回させて前記蒸気タービンへと導くバイパス管上に設けられた起動弁と、前記蒸気タービンから排気された前記気相の熱媒体を凝縮させて得られる液相の熱媒体を前記蒸発器へと導く凝縮器と、前記発電機の回転数を制御するとともに、前記発電機で発電された電力を当該電力の周波数を変換してから電力系統に出力する電力変換装置と、前記主蒸気止め弁及び前記起動弁が閉弁した状態から前記起動弁のみを開弁させる手段と、前記起動弁の開弁により前記バイパス管から供給された前記気相の熱媒体によって、前記発電機の回転数を前記電力変換装置と同調させるのに必要な回転数であり、かつ前記蒸気タービンの定格回転数よりも低い所定回転数にまで、前記蒸気タービンの回転数を昇速させる手段と、前記蒸気タービンの回転数と前記電力変換装置の指令回転数を同調させる手段と、前記同調したときに前記主蒸気止め弁を開弁させ、前記電力変換装置により前記発電機の回転数を制御しながら前記起動弁及び前記主蒸気止め弁から供給された前記気相の熱媒体により前記蒸気タービンの回転数を前記定格回転数にまで昇速させる手段と、を備えるものである。
【0014】
この構成によれば、起動弁の設置により発電機を電動機として駆動させる(モータリングさせる)必要がないので別置きの起動用モータが不要となり、あるいは電力変換装置の設置により蒸気加減弁等のガバナ機構が不要となるので、蒸気タービン発電システムにおいて起動に必要な構成及び制御を簡素化できる。
【0015】
上記の蒸気タービン発電システムにおいて、前記主蒸気止め弁はON−OFF弁である、としてもよい。
【0016】
この構成によれば、例えば、主蒸気止め弁が開度調整可能な調整弁である場合、中間開度の場合に圧損等によりエネルギーロスが発生することになるが、主蒸気止め弁がON−OFF弁であれば、上記のエネルギーロスを軽減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、起動に必要な構成及び制御が簡素化された蒸気タービン発電システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る蒸気タービン発電システムの全体構成を示した図である。
【図2】図2は図1に示した蒸気タービン発電システムの起動方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】図3は図2に示した起動方法に基づく発電機の回転数及び発電出力の時間的推移の一例を示した図である。
【図4】図4は図1に示した蒸気タービン発電システムをバイナリー発電システムに適用した場合の全体構成を示した図である。
【図5】図5は従来の発電システムの起動方法を説明するための図である。
【図6】図6はその他の従来の発電システムの起動方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0020】
[蒸気タービン発電システムの構成]
図1は、本発明の実施の形態に係る蒸気タービン発電システムの全体構成を示した図である。
【0021】
図1に示す蒸気タービン発電システムは、地熱、工場設備の排熱、及び常用発電設備(例えば、ガスエンジン発電設備、ディーゼルエンジン発電設備、ガスタービン発電設備)等による安定した熱源設備に付帯する蒸気タービン発電設備をもとに構成された発電システムであり、主に、発電設備100と、電力変換装置300と、制御装置310と、電磁接触器320と、漏電遮断器330と、を備えて構成されている。
【0022】
発電設備100は、蒸気タービン122と発電機124とが同軸上に連結している蒸気タービン発電機120と、熱源設備(図示せず)の排熱との熱交換により液相の熱媒体を気化させる蒸発器112と、蒸発器112からの気相の熱媒体を蒸発器112から蒸気タービン122へと導く主蒸気管102上に設けられた主蒸気止め弁114と、蒸発器112からの気相の熱媒体を主蒸気止め弁114の蒸発器112側から主蒸気止め弁114を迂回させて蒸気タービン122へと導くバイパス管104上に設けられた起動弁116と、蒸気タービン122から排気された気相の熱媒体を凝縮させて液相の熱媒体を蒸発器112へと導く凝縮器130と、を備えている。なお、主蒸気止め弁114は、ON−OFF弁とする。また、バイパス管104は、主蒸気管102に比べ配管径が小さく、かつ定流量の蒸気を流すものとする。
【0023】
電力変換装置300は、発電機124の回転数を制御するとともに、発電機124で発電された電力を当該電力の周波数を変換して電力系統に出力する装置である。電力変換装置300は、コンバータ(順変換装置)302と、インバータ(逆変換装置)304とを備えている。
【0024】
コンバータ302は、例えば複数の整流素子をブリッジ状に配置して構成され、交流の電力を直流の電力に変換する装置である。特に、コンバータ302は、所謂ベクトル制御を行うものであり、発電機124から出力される電流値から励磁電流成分とトルク電流成分とを検出して、それらの検出値に基づいて発電機124の回転数及びトルクの制御を行う。ここで、本発明における「同調」とは、発電機124の回転数がコンバータ302から発電機124への指令される回転数と略一致することを意味する。
【0025】
インバータ304は、例えば複数の電力用半導体スイッチング素子をブリッジ状に配置して構成され、直流の電力を交流の電力に変換する装置である。特に、インバータ304は、コンバータ302との間の直流母線の電圧制御と、発電機124の出力電圧及び出力周波数を電力系統の商用電圧及び商用周波数に変換する制御と、を行う。
【0026】
電磁接触器320は、制御装置310からの指令により、電力系統への電力変換装置300の投入及び開放を行う。漏電遮断器330は、常時投入されており、電力変換装置300から電力系統への出力を監視して異常を検知したときに開放する。
【0027】
制御装置310は、蒸気タービン発電システム全体の制御を司るものであり、例えばCPUとメモリとから構成される。特に、制御装置310は、蒸気タービン発電機120の起動時において、主蒸気止め弁114及び起動弁116の開閉を制御する。制御装置310は、電力変換装置300と個別に設けられる以外に、電力変換装置300と一体的に一つの制御盤として実現されてもよい。また、制御装置310は電力変換装置300とともに発電設備100の設置現場に併設される以外に、通信回線を介して電力変換装置300とともに遠方の中央制御室に設置されてもよい。
【0028】
[蒸気タービン発電システムの起動方法]
図2は、図1に示した蒸気タービン発電システムの起動方法を説明するためのフローチャートである。図3は、図2に示した起動方法に基づく蒸気タービン発電機120の回転数及び発電出力の時間的推移の一例を示した図である。
【0029】
主蒸気止め弁114及び起動弁116がともに閉弁した状態にあって、制御装置310は、起動弁116に対して開弁させるための弁開指令を出力する(ステップS201)。これにより、起動弁116のみが開弁し、蒸発器112から送り出された気相の熱媒体は、主蒸気止め弁114を含む主蒸気管102を迂回して、起動弁116を含むバイパス管104を介して蒸気タービン発電機120の蒸気タービン122へと向う。そして、蒸気タービン122及びそれと同軸上に連結された発電機124の回転数は、停止時の0rpmから徐々に昇速する(ステップS202)。これにより、発電機124の起動トルクが得られる。
【0030】
次に、制御装置310からの投入指令によって電磁接触器320が投入され(ステップS203)、電力変換装置300が電力系統と連系された状態となり、電力変換装置300のインバータ304とコンバータ302とがこの順で起動される(ステップS204、S205)。そして、蒸気タービン122の回転数は、発電機124の回転数と電力変換装置300のコンバータ302の指令回転数とを同調させるのに必要な回転数であり、かつ蒸気タービン122の定格回転数N2よりも低い同調用回転数N1(例えば、500〜1000rpm)まで昇速する。この結果、蒸気タービン122及び発電機124の回転数と電力変換装置300のコンバータ302との同調が開始する(ステップS206)。
【0031】
蒸気タービン122及び発電機124の回転数が電力変換装置300のコンバータ302と同調したとの判定が行われるまで、蒸気タービン122及び発電機124は一定の同調用回転数N1で回転し続ける。そして、発電機124の回転数がコンバータ302と同調したことが判定されたとき(ステップS207:YES)、コンバータ302による発電機124の回転数制御が可能な状態となる。また、このとき、制御装置310は主蒸気止め弁114に対して開弁させるための弁開指令を出力する(ステップS208)。これにより、起動弁116及び主蒸気止め弁114がともに開弁した状態となる。なお、電力変換装置300のコンバータ302と同調し、かつ主蒸気止め弁114が開弁した状態で、蒸気タービン発電機120は負荷運転となる。
【0032】
すると、蒸発器112から送り出された熱媒体は、起動弁116を含むバイパス管104の流体経路に加えて、主蒸気止め弁114を含む主蒸気管102の流体経路を介して蒸気タービン発電機120の蒸気タービン122へと向う。この結果、電力変換装置300によって同調が維持されるように発電機124の回転数を制御しながら、蒸気タービン122の回転数は同調用回転数N1から定格回転数N2となるまで昇速する(ステップS209、S210)。そして、蒸気タービン発電機120の定格運転が開始される。なお、出力負荷変動が発生した場合には、電力変換装置300のインバータ304によってその変動分が吸収され、蒸気タービン122の回転数は定格回転数N2に安定化される。
【0033】
なお、蒸気タービン発電機120の定格運転中においても起動弁116は開弁しているので、起動弁116から蒸気タービン発電機120に流入される熱媒体は、蒸気タービン発電機120の起動時及び定格運転中で発電機124のロータの冷却にも利用できる。これにより、蒸気タービン発電システムのエネルギー効率を向上させることができる。
【0034】
以上の起動方法によれば、起動弁116の設置により発電機124を電動機として駆動させる(モータリングさせる)必要がないので別置きの起動用モータが不要となり、あるいは電力変換装置300の回転数制御及び周波数変換によって負荷の変動に関らず発電機124の回転数を定格回転数N2に維持させる蒸気加減弁等のガバナ機構が不要となるので、蒸気タービン発電システムにおいて起動に必要な構成及び制御を簡素化できる。
【0035】
なお、起動弁116を設置せずに、蒸気タービン122の入口部に主蒸気止め弁114からのみ気相の熱媒体が供給される場合には、電力変換装置300の回転数制御が開始されるタイミングを失うので、蒸気タービン122が過回転となる虞がある。よって、以上の起動方法によれば、蒸気タービン122の過回転を未然に防止することができる。
【0036】
また、主蒸気止め弁114が開度調整可能な調整弁である場合、中間開度の場合に圧損等によりエネルギーロスが発生することになるが、主蒸気止め弁114がON−OFF弁であれば、上記のエネルギーロスを軽減することができる。
【0037】
[蒸気タービン発電システムの適用例(バイナリー発電システム)]
近年、省エネルギー発電方式の一つとして、高沸点熱媒体を通じて排熱又は地熱等を回収する熱サイクルと高沸点熱媒体よりも沸点の低い低沸点熱媒体(アンモニア、ペンタン、ハイドロフルオロカーボン等)を通じて発電する熱サイクルとによる主に二系統の熱サイクルを持ったバイナリー(binary)発電方式が注目されている。
【0038】
具体的には、バイナリー発電方式とは、コンバイント゛サイクル発電の一種であり、工場やごみ焼却場等においてこれまで利用されていなかった排温水や排ガス等から高沸点熱媒体を通じて熱エネルギー(排熱)を回収して、その回収した熱エネルギーによって気化された低沸点熱媒体を用いて蒸気タービンを稼働させて発電する方式のことである。なお、バイナリー発電方式は、工場やごみ焼却場等の排温水や排ガスの有効利用を前提とするので、一般的な蒸気タービン発電システムにおける数MW〜数百MW程度の発電出力と比べて、数百kW程度の発電出力が得られる設備で実現すれば十分な場合が多い。
【0039】
図4は、図1に示した蒸気タービン発電システムをバイナリー発電システムに適用した場合の全体構成を示した図である。以下では、図1に示した構成とは相違する構成として、発電設備100、熱源設備200、及び冷却設備150を説明する。
【0040】
発電設備100は、熱源設備200において排熱等を回収するための高沸点熱媒体よりも沸点の低い低沸点熱媒体を介した熱サイクルを形成して発電を行う電気設備である。本実施の形態では、発電設備100は、予熱器110と、蒸発器112と、主蒸気止め弁114と、起動弁116と、蒸気タービン発電機120と、凝縮器130と、熱媒体循環ポンプ132と、を備えている。
【0041】
蒸気タービン発電機120は、小型化のために、発電機124の両軸の各軸端に軸受を介して蒸気タービン122a、122bが接続されて構成されている。つまり、発電機124と蒸気タービン122a、122bは同軸上に配置されており、蒸気タービン発電機120は、蒸気タービン122a、122bが回転し始めると発電機124が界磁巻線(ロータ)への励磁電流なしで発電出力を生成し始める、いわゆる自励式の構造となっている。なお、発電機124は、例えば同期発電機として構成されており、ロータの回転速度に比例した周波数の電力を電機子巻線(ステータ)に発生する。
【0042】
低沸点熱媒体を通じて発電する熱サイクルは次のとおりである。液相の低沸点熱媒体は、熱媒体循環ポンプ132により復水管106bを介して予熱器110へと送られて予熱された後、復水管106dを介して蒸発器112の第1の媒体入口部へと供給される。蒸発器112では、液相の低沸点熱媒体は、熱源設備200からの比較的低温の高沸点熱媒体との間の熱交換により蒸発(気化)して気相の低沸点熱媒体へと変化する。この気相の低沸点熱媒体は、蒸発器112の媒体出口部から主蒸気管102a、102bを介して蒸気タービン発電機120のノズル(静翼)のある蒸気入口部へと送られ、蒸気タービン122a、122bを回転させる仕事に用いられる。なお、低沸点熱媒体の一部は気化せずに液相のままで蒸発器112の底部に貯溜するが、蒸発器内部循環ポンプ134にて蒸発器112の第2の媒体入口部へと還流されて再び熱交換される。
【0043】
蒸気タービン発電機120で仕事を終えた気相の低沸点熱媒体は、蒸気タービン発電機120のインペラ(動翼)にある蒸気出口部から主蒸気管102cを介して凝縮器130へと送られる。凝縮器130では、気相の低沸点熱媒体は冷却設備150から冷却水管156bを介して供給される冷却水との間の熱交換により凝縮(液化)して液相の低沸点熱媒体へと変化する。この液相の低沸点熱媒体は熱媒体循環ポンプ132により昇圧されて復水管106a、106bを介して予熱器110へと送られる。
【0044】
以上が低沸点熱媒体を介した熱サイクルであり、蒸気タービン発電機120が起動してから繰り返し行われる。
【0045】
蒸発器112から蒸気タービン122a、122bへと向う主蒸気管102b上には主蒸気止め弁114が配設されている。主蒸気止め弁114は、タービン起動時あるいは系統事故時に、制御装置310からの弁開閉指令に基づいて開閉するON−OFF弁のことである。主蒸気止め弁114を通過した気相の低沸点熱媒体は、蒸気タービン発電機120のノズルにある蒸気入口部に流れ込み、蒸気タービン発電機120のインペラにある蒸気出口部から流れ出る。
【0046】
主蒸気止め弁114の一次側(蒸発器112側)では、当該一次側と蒸気タービン発電機120の軸受部付近に設けられた蒸気入口部との間を連通させて主蒸気止め弁114を迂回させるバイパス管104が配設されている。また、バイパス管104上には起動弁116が配設されている。起動弁116は、主蒸気止め弁114と同様に、タービン起動時あるいは系統事故時に、制御装置310からの弁開閉指令に基づいて開閉するON−OFF弁のことである。起動弁116を通過した気相の低沸点熱媒体は、蒸気タービン発電機120の軸受部付近にある蒸気入口部に流れ込み、主蒸気止め弁114を通過した低沸点熱媒体の気相とは別の、インペラにある蒸気出口部から流れ出る。
【0047】
冷却設備150は、凝縮器130において気相の低沸点熱媒体を凝縮させるための冷却水を凝縮器130に供給する設備である。本実施の形態では、冷却設備150は、冷却塔152と、冷却水ポンプ154とを備えている。凝縮器130で仕事を終えた冷却水が冷却水管156aを介して冷却塔152に送られると、当該冷却水が外気との接触により温度を下げられ、冷却水ポンプ154によって凝縮器130へと送られる。
【0048】
熱源設備200は、高沸点熱媒体としての温水を介した熱サイクルを形成して発電設備100に対して熱エネルギー(排熱)を供給する設備である。本実施の形態では、熱源設備200は、ガスエンジン発電機210と、熱交換器220と、温水ボイラ230とを備え、ガスエンジンコージェネレーションシステムとして実現されている。
【0049】
高沸点熱媒体を通じて排熱を回収する熱サイクルは次のとおりである。ガス燃料によってガスエンジン発電機210が駆動されている間、ガスエンジン発電機210内部のジャケット冷却器(図示せず)からガスエンジンの冷却の仕事を終えたジャケット冷却水(排熱を含む)が熱交換器220へと送られる。熱交換器220では、ジャケット冷却水が予熱器110から温水管204aを介して送られてきた高沸点熱媒体としての温水との間で熱交換された結果、ジャケット冷却水から排熱が回収され、温水管204bを介して温水ボイラ230の温水入口部へと送られる。
【0050】
また、ガスエンジン発電機210からの排ガス(排熱を含む)が温水ボイラ230のガス入口部へと送られる。温水ボイラ230では、蒸発器112において低沸点熱媒体(液体)を蒸発させる仕事を終えた高沸点熱媒体としての温水が温水管206aを介して温水ボイラ230の温水入口部へと送られており、排ガスとの間で熱交換された結果、排ガスから排熱が回収され、温水管206bを介して蒸発器112へと再び送られる。
【0051】
以上が高沸点熱媒体を介した熱サイクルであり、ガスエンジン発電機210が起動してから繰り返し行われる。
【0052】
なお、熱源設備200は、ガスエンジンコージェネレーションシステムに限られず、例えば、燃料電池発電システムの排熱を回収するコージェネレーションシステムであってもよい。あるいは、熱源設備200は、コージェネレーションシステムの形態ではなく、ごみ焼却場において発生する排熱を回収するための設備や、地熱(温泉蒸気または温泉熱水)を回収するための設備等として実施してもよい。
【0053】
以上のような構成を持つバイナリー発電システムに関しても、図2のフローチャートに示された起動方法を適用することができる。この起動方法によれば、起動弁116の設置により発電機124を電動機として駆動させる(モータリングさせる)必要がないので別置きの起動用モータが不要となり、あるいは電力変換装置300の回転数制御及び周波数変換によって負荷の変動に関らず発電機124の回転数を定格回転数に維持させる蒸気加減弁(GV)等のガバナ機構が不要となるので、バイナリー発電システムにおいて起動に必要な構成及び制御を簡素化できる。従って、バイナリー発電システムのコンパクト化に貢献できる。
【0054】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、蒸気タービン発電システムの起動に必要な構成及び制御を簡素化することができる。
【符号の説明】
【0056】
100…発電設備、
102a、102b、102c…主蒸気管
104…バイパス管
106a、106b、106c、106d…復水管
110…予熱器
112…蒸発器
114…主蒸気止め弁
116…起動弁
120…蒸気タービン発電機
122a、122b…蒸気タービン
124…発電機
130…凝縮器
132…熱媒体循環ポンプ
134…蒸発器内部循環ポンプ
150…冷却設備
152…冷却塔
154…冷却水ポンプ
156a、156b…冷却水管
N1…同調用回転数
N2…定格回転数
200…熱源設備
204a、204b、206a、206b…温水管
210…ガスエンジン発電機
220…熱交換器
230…温水ボイラ
300…電力変換装置
302…コンバータ
304…インバータ
310…制御装置
320…電磁接触器
330…漏電遮断器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気タービンと発電機とが同軸上に連結している蒸気タービン発電機と、
液相の熱媒体を気化させる蒸発器と、
前記蒸発器により気相の熱媒体を前記蒸発器から前記蒸気タービンへと導く主蒸気管上に設けられた主蒸気止め弁と、
前記気相の熱媒体を前記主蒸気止め弁の前記蒸発器側から前記主蒸気止め弁を迂回させて前記蒸気タービンへと導くバイパス管上に設けられた起動弁と、
前記蒸気タービンから排気された前記気相の熱媒体を凝縮させて得られる前記液相の熱媒体を前記蒸発器へと導く凝縮器と、
前記発電機の回転数を制御するとともに、前記発電機で発電された電力を当該電力の周波数を変換してから電力系統に出力する電力変換装置と、
を備えた蒸気タービン発電システムの起動方法であって、
前記主蒸気止め弁及び前記起動弁が閉弁した状態から前記起動弁のみを開弁させるステップと、
前記起動弁の開弁により前記バイパス管から供給された前記気相の熱媒体によって、前記発電機の回転数を前記電力変換装置と同調させるのに必要な回転数であり、かつ前記蒸気タービンの定格回転数よりも低い所定回転数にまで、前記蒸気タービンの回転数を昇速させるステップと、
前記蒸気タービンの回転数と前記電力変換装置の指令回転数を同調させるステップと、
前記同調したときに前記主蒸気止め弁を開弁させ、前記電力変換装置により前記発電機の回転数を制御しながら前記起動弁及び前記主蒸気止め弁から供給された前記気相の熱媒体により前記蒸気タービンの回転数を前記定格回転数にまで昇速させるステップと、
を備える蒸気タービン発電システムの起動方法。
【請求項2】
前記主蒸気止め弁はON−OFF弁であり、前記同調したときに前記主蒸気止め弁を全閉から全開に開弁させる、請求項1に記載の蒸気タービン発電システムの起動方法。
【請求項3】
蒸気タービンと発電機とが同軸上に連結している蒸気タービン発電機と、
液相の熱媒体を気化させる蒸発器と、
前記蒸発器により気相の熱媒体を前記蒸発器から前記蒸気タービンへと導く主蒸気管上に設けられた主蒸気止め弁と、
前記気相の熱媒体を前記主蒸気止め弁の前記蒸発器側から前記主蒸気止め弁を迂回させて前記蒸気タービンへと導くバイパス管上に設けられた起動弁と、
前記蒸気タービンから排気された前記気相の熱媒体を凝縮させて得られる液相の熱媒体を前記蒸発器へと導く凝縮器と、
前記発電機の回転数を制御するとともに、前記発電機で発電された電力を当該電力の周波数を変換してから電力系統に出力する電力変換装置と、
前記主蒸気止め弁及び前記起動弁が閉弁した状態から前記起動弁のみを開弁させる手段と、
前記起動弁の開弁により前記バイパス管から供給された前記気相の熱媒体によって、前記発電機の回転数を前記電力変換装置と同調させるのに必要な回転数であり、かつ前記蒸気タービンの定格回転数よりも低い所定回転数にまで、前記蒸気タービンの回転数を昇速させる手段と、
前記蒸気タービンの回転数と前記電力変換装置の指令回転数を同調させる手段と、
前記同調したときに前記主蒸気止め弁を開弁させ、前記電力変換装置により前記発電機の回転数を制御しながら前記起動弁及び前記主蒸気止め弁から供給された前記気相の熱媒体により前記蒸気タービンの回転数を前記定格回転数にまで昇速させる手段と、
を備える蒸気タービン発電システム。
【請求項4】
前記主蒸気止め弁はON−OFF弁である、請求項3に記載の蒸気タービン発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82805(P2012−82805A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231876(P2010−231876)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【特許番号】特許第4885299号(P4885299)
【特許公報発行日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】